JP4086543B2 - 無機材料の選択的なエッチング処理方法および該方法により選択エッチング処理された無機材料並びに光学素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、無機材料の選択的なエッチング処理方法および該方法により選択エッチング処理された無機材料並びに光学素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
ガラスなどの透明材料に、ナノ秒(10-9秒)のオーダーから、ピコ秒(10-12秒)オーダー、さらにはフェムト秒(10-15秒)のオーダーのパルス幅を有する超短パルスレーザー光を集光して照射し、多光子吸収を利用してガラス内部に屈折率が変調した誘起構造を書き込む技術が注目を浴びており、例えば、特開2000−56112号公報に開示されている。このような超短パルスレーザーの発展に伴い、多光子吸収過程を利用した加工への展開がなされている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これまでに、超短パルスレーザーによる加工において少ないエネルギーで加工する、言い換えると加工閾値を下げる試みは充分でない。加工閾値を下げることにより、同じエネルギー量で、加工面積の増大や、加工速度の向上を図ることができる。このように、無機材料の加工閾値を下げて、より一層効率的に無機材料の所定部位のみを選択的にエッチングすることができる方法が求められている。
【0004】
従って、本発明の目的は、無機材料の加工閾値を下げて、より一層効率的に無機材料の所定部位のみを選択的にエッチングして、より一層微細な加工を無機材料に施すことができる無機材料の選択的なエッチング処理方法及び該方法により選択エッチング処理された無機材料を提供することにある。
本発明の他の目的は、高屈折率を有しており、しかもより一層微細な加工が施された、無機材料により作製された光学素子を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、無機材料上に特定の第2成分による被膜を形成した後、集光されたレーザーを照射すると、多光子吸収により、低エネルギーで、且つ極めて微細に優れた制御性で、その照射部分に誘起構造を形成することができ、全体をエッチング処理すると、第2成分及び、第2成分を介して照射された無機材料の照射部分のみが選択的に溶解して、無機材料に極めて微細なパターニング加工を行うことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、無機材料の選択的なエッチング処理方法であって、下記の工程(A)〜(C)を具備することを特徴とする無機材料の選択的なエッチング処理方法である。
工程(A):無機材料上に、無機材料の加工閾値を低下可能な第2成分の膜を形成する工程
工程(B):第2成分膜側からの集光されたレーザーの照射により、無機材料に構造が変化した構造変化部を形成する工程
工程(C):第2成分膜を除去するとともに、無機材料の構造変化部をエッチング液により選択的に溶解させる工程
【0007】
前記無機材料としてはガラスを好適に用いることができる。第2成分としては、金属系材料またはプラスチック系材料を好適に用いることができ、前記金属系材料としては、インジウムを金属原子の主成分として含有する金属酸化物を含有していることが好ましく、また、前記プラスチック系材料としては、下記式(1)で表される構造単位を有するポリシラン系ポリマーを含有していることが好ましい。
【化2】
(式(1)において、R1、R2は、同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシ基、炭化水素基、ハロゲン原子、ポリシラン骨格を示す。)
【0008】
前記レーザーとしてはパルス幅が10-12秒以下のレーザーであってもよい。また、レーザーとしては多光束干渉によるコヒーレント光を好適に用いることができる。
【0009】
また、本発明は、無機材料を、前記無機材料の選択的なエッチング処理方法により選択エッチング処理して作製することを特徴とする選択エッチング処理された無機材料の製造方法を提供する。さらにまた、本発明は、前記選択エッチング処理された無機材料の製造方法により選択エッチング処理された無機材料を製造し、この選択エッチング処理された無機材料を構成要素として用いて光学素子を作製することを特徴とする光学素子の製造方法を提供する。
【0010】
【発明の実施の態様】
以下に、本発明を必要に応じて図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の部材については、同一の符号を付している場合がある。
[無機材料の選択的なエッチング処理方法]
本発明の無機材料の選択的なエッチング処理方法は、無機材料上に、無機材料の加工閾値を低下可能な第2成分の膜を形成し、該第2成分膜側からレーザーを照射して、無機材料に構造変化部を形成し、さらに、エッチング処理することを特徴としている。具体的には、下記の工程(A)〜(C)を具備している。
工程(A):無機材料上に、無機材料の加工閾値を低下可能な第2成分の膜を形成する工程
工程(B):第2成分膜側からの集光されたレーザーの照射により、無機材料に構造が変化した構造変化部を形成する工程
工程(C):第2成分膜を除去するとともに、無機材料の構造変化部をエッチング液により選択的に溶解させる工程
【0011】
(工程(A))
工程(A)では、無機材料上に、無機材料の加工閾値を低下可能な第2成分の膜(第2成分膜)を形成している。該第2成分膜を形成する無機材料の面は、無機材料の1つの面であってもよく、複数の面であってもよい。また、無機材料の1つの面に対して、第2成分膜は、少なくとも部分的に形成することができ、したがって、全面的に形成してもよく、または、必要部位のみに部分的に形成してもよい。
【0012】
(無機材料)
無機材料としては、特に制限されないが、ガラス系材料(ガラス基板またはガラス製基板)を好適に用いることができる。ガラス系材料としては、その素材は特に制限されず、公知乃至慣用のガラス系材料を用いることができる。ガラス系材料には、例えば、シリカガラス、ソーダガラス、ホウ酸ガラスなどが含まれる。ガラス系材料は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0013】
(第2成分)
無機材料の加工閾値を低下可能な第2成分としては、無機材料の加工閾値を低下させて、集光されたレーザーを照射することにより、無機材料に構造が変化した構造変化部を形成することができる成分であれば、特に制限されないが、例えば、金属系材料、プラスチック系材料を好適に用いることができる。第2成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0014】
第2成分としての金属系材料としては、各種金属原子を含有する金属系化合物を用いることができる。金属系化合物は、1種又は2種以上の金属原子(金属元素)を含有していてもよい。金属系化合物は、金属元素単体からなっていてもよく、金属元素の酸化物(複合酸化物を含む)、水酸化物、ハロゲン化物(塩化物など)、オキソ酸塩(硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩など)などの無機系金属化合物や、金属元素の有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩など)、錯体などの有機系金属化合物などであってもよい。
【0015】
このような金属系化合物に係る金属原子としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期表2族元素;スカンジウム、イットリウム、ランタノイド元素(ランタン、セリウムなど)、アクチノイド元素(アクチニウムなど)等の周期表3族元素;チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の周期表4族元素;バナジウム、ニオブ、タンタル等の周期表5族元素;クロム、モリブデン、タングステン等の周期表6族元素;マンガン、テクネチウム、レニウム等の周期表7族元素;鉄、ルテニウム、オスミウム等の周期表8族元素;コバルト、ロジウム、イリジウム等の周期表9族元素;ニッケル、パラジウム、白金等の周期表10族元素;銅、銀、金等の周期表11族元素;亜鉛、カドミウム、水銀等の周期表12族元素;アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の周期表13族元素;ゲルマニウム、スズ、鉛等の周期表14族元素;アンチモン、ビスマス等の周期表15族元素などが挙げられる。
【0016】
本発明では、金属系材料としては、インジウムを金属原子の主成分として含有する金属酸化物(「IO系材料」と称する場合がある)を好適に用いることができる。該IO系材料は、アモルファス状態であることが好適である。IO系材料において、金属原子の主成分であるインジウムは、金属原子全量に対して70重量%以上、好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%含まれていることが重要である。具体的には、IO系材料の金属原子において、主成分はインジウムであり、他の含有成分(副成分)としては、錫、ジルコニウム、亜鉛、チタン、セリウム、タンタル、ゲルマニウム、バナジウム、イットリウム、ニオブ等の金属原子を用いることができる。この他の含有成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。金属原子における他の含有成分としては、錫、亜鉛が好ましく、特に錫が最適である。IO系材料は、金属酸化物からなっており、金属原子の主成分としてのインジウムは酸化インジウムの形態で含まれている。また、他の含有成分の金属原子も、金属酸化物の形態で含まれていてもよい。具体的には、IO系材料としては、酸化インジウムと酸化錫とが混合されている金属酸化物(酸化インジウム錫:ITO)を好適に用いることができる。
【0017】
なお、IO系材料は、アモルファス状態(非晶性)を有していることが好ましく、特に、完全なアモルファス状態を有していることが好ましいが、部分的に結晶状態(特に微結晶状態)を有していてもよい。
【0018】
このようなIO系材料に対して、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーを照射すると、金属酸化物の構造の変化(例えば、密度の変化など)が生じて(特に、結晶化が進行して)、構造が変化した構造変化部が形成される。
【0019】
IO系材料等の金属系材料の成膜方法としては、特に制限されず、公知乃至慣用の金属系材料の成膜方法を用いることができる。より具体的には、金属系材料(特に、IO系材料)の成膜方法としては、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等のドライプロセスや、熱分解法やゾル−ゲル法等のウェットプロセスなどが挙げられる。
【0020】
これらの成膜方法では、無機材料上に金属系材料(特に、IO系材料)の膜(特に、薄膜)を形成することができる。
【0021】
一方、第2成分としてのプラスチック系材料としては、有機系高分子や無機系高分子などの各種ポリマー成分により構成されている。ポリマー成分は単独で又は2種以上組み合わせられていてもよい。前記有機系高分子としては、特に制限されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂など種々の有機系の樹脂を用いることができ、熱可塑性樹脂が好ましく、なかでも2つ以上のガラス転移温度(ガラス転移点)を有する熱可塑性樹脂材料が好適である。このような有機系高分子としては、例えば、ポリイソプレンやポリブタジエンなどのポリジエン類;ポリイソブチレンなどのポリアルケン類;ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸エチルなどのポリアクリル酸エステル類;ポリブトオキシメチレンなどのポリビニルエステル類;ポリウレタン類;ポリシロキサン類;ポリサルファイド類;ポリフォスファゼン類;ポリトリアジン類;ポリカーボラン類;ポリカーボネート(PC);ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのメタクリレート系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系樹脂;ポリエーテルスルホン(PES)(ポリエーテルサルホン);ポリノルボルネン;エポキシ系樹脂;ポリアリール;ポリイミド;ポリエーテルイミド(PEI);ポリアミドイミド;ポリエステルイミド;ポリアミド;ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリフェニレンエーテルなどのポリアリーレンエーテル;ポリアリレート;ポリアセタール;ポリフェニレンスルフィド;ポリスルホン(ポリサルホン);ポリエーテルエーテルケトンやポリエーテルケトンケトンなどのポリエーテルケトン類;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;フッ化ビニリデン系樹脂、ヘキサフルオロプロピレン系樹脂、ヘキサフルオロアセトン系樹脂などのフッ素系樹脂などが挙げられる。
【0022】
本発明では、プラスチック系材料の材料(又は素材)としては、ポリシラン系ポリマーを好適に用いることができる。ポリシラン系ポリマーは、他のポリマー(例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などの前記例示の有機系高分子など)と併用することができる。該他のポリマーを用いることにより、プラスチック系材料の機械的特性などを適宜調整することができる。このように、プラスチック系材料は、少なくともポリシラン系ポリマーを含有していることが好ましく、具体的には、ポリシラン系ポリマーの含有割合は、例えば、ポリマー成分全量に対して10重量%以上(好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上)の範囲から選択することができる。ポリシラン系ポリマーの含有割合が少ないと(例えば、10重量%未満であると)、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーの照射により、無機材料に構造が変化した構造変化部を精密に制御することが困難になる。
【0023】
なお、ポリシラン系ポリマーの含有割合の上限は、特に制限されず、すべてのポリマー成分がポリシラン系ポリマー(含有割合が100%)であってもよく、また、例えば、ポリマー成分全量に対して90重量%以下(好ましくは85重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下)の範囲から選択することもできる。ポリシラン系ポリマーの含有割合が多いと(例えば、90重量%を越えると)、プラスチック系材料が脆くなり、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーによる加工時のハンドリング性が低下し、また、プラスチック系材料をフィルム状に加工することができなくなる場合がある。
【0024】
ポリシラン系ポリマーは、ケイ素−ケイ素結合を有する主鎖から構成されているポリマーである。主鎖のケイ素原子に置換している置換基としては、特に制限されず、例えば、水素原子、有機基、ハロゲン原子などが挙げられる。ポリシラン系ポリマーは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
より具体的には、ポリシラン系ポリマーとしては、例えば、下記式(1)で表される構造単位を有するポリマーを用いることができる。
【化3】
(式(1)において、R1、R2は、同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシ基、炭化水素基、ハロゲン原子、ポリシラン骨格を示す。)
【0026】
前記式(1)において、R1、R2は、同一又は異なっていてもよい。R1又はR2のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、s−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基などの炭素数が1〜20程度のアルコキシ基が挙げられる。
【0027】
炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基などが挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基などの炭素数1〜20程度のアルキル基が挙げられる。シクロアルキル基には、シクロヘキシル基などの炭素数5〜10程度のシクロアルキル基が含まれる。また、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基や、ビフェニル基、クメニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基などが挙げられる。炭化水素基は、例えば、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子、炭化水素基などの置換基を有していてもよい。
【0028】
ハロゲン原子には、フッ素、塩素、臭素原子が含まれる。
【0029】
ポリシラン骨格は、前記式(1)で表される構造単位を有するポリシランの骨格を示している。
【0030】
ポリシラン系ポリマーは、ホモポリマーであってもよく、コポリマーであってもよい。なお、ポリシラン系ポリマーがコポリマーの場合、ポリシラン系ポリマーとしては、例えば、前記式(1)で表される複数種(2種以上)の構造単位を有するコポリマーが挙げられる。コポリマーは、ランダム共重合体又はブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0031】
ポリシラン系ポリマーとしては、例えば、ポリシラン;ポリ(ジメチルシラン)、ポリ(メチルエチルシラン)、ポリ(メチルプロピルシラン)、ポリ(メチルブチルシラン)、ポリ(メチルヘキシルシラン)、ポリ(ジヘキシルシラン)、ポリ(ジドデシルシラン)等のポリ(アルキルアルキルシラン);ポリ(メチルシクロヘキシルシラン)等のポリ(アルキルシクロアルキルシラン);ポリ(メチルフェニルシラン)、ポリ(エチルフェニルシラン)、ポリ(プロピルフェニルシラン)、ポリ(イソプロピルフェニルシラン)、ポリ(ブチルフェニルシラン)、ポリ(ヘキシルフェニルシラン)等のポリ(アルキルアリールシラン);ポリ(ジフェニルシラン)等のポリ(アリールアリールシラン);ポリフェニルシリン、ポリメチルシリン等のケイ素原子の3次元構造を有する(ケイ素原子が3次元的に結合された構造を有する)ケイ素原子含有ポリマーなどのホモポリマーや、ポリ(ジメチルシラン−メチルシクロヘキシルシラン)、ポリ(ジメチルシラン−メチルフェニルシラン)などのコポリマーなどが挙げられる。
【0032】
ポリシラン系ポリマーの分子量(重量平均分子量など)は特に制限されない。ポリシラン系ポリマーの分子量(重量平均分子量など)は、目的とするプラスチック光学素子に応じて適宜選択することができ、例えば、1,000〜50,000程度の範囲から選択することができる。
【0033】
このようなポリシラン系ポリマーに対して、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーを照射すると、シロキサン結合やシラノール基(Si−OH)が生成し、構造が変化した構造変化部が形成される。また、他のポリマーに対してパルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーを照射すると、ポリマーの密度が変化したりすることにより、構造が変化した構造変化部が形成される。
【0034】
プラスチック系材料の成膜方法としては、特に制限されず、公知乃至慣用のプラスチック系材料の成膜方法を用いることができる。より具体的には、プラスチック系材料(特に、ポリシラン系ポリマーを含有するプラスチック系材料)の成膜方法としては、例えば、溶媒にポリシラン系ポリマーを含むプラスチック系材料を溶解又は分散させて、キャスト、スピンコート等を行う方法などが挙げられる。
【0035】
なお、金属系材料やプラスチック系材料からなる第2成分膜(又は第2成分層)は、その上面は平面であることが好ましいが、凹凸形状であってもよい。また、上面の大きさ(面積)も特に制限されない。
【0036】
さらにまた、第2成分膜の膜厚(又は層厚)としては、例えば、0.01〜50μm(好ましくは0.05〜30μm、さらに好ましくは0.1〜10μm)程度の範囲から選択することができる。第2成分膜は、薄膜であることが好ましい。第2成分膜の膜厚が、0.01μm未満であると、平面的に連続した膜が得られにくくなり、50μmを越えると、膜にクラックが発生するなどの問題が生じる場合がある。
【0037】
また、第2成分膜は、単層および多層のいずれの構造を有していてもよい。さらにまた、第2成分膜には、必要に応じて他の材料や添加剤などが含まれていてもよい。
【0038】
また、第2成分膜は、可視光波長領域(例えば、400nm〜800nm)において全光線透過率が10%以上(好ましくは50%以上、さらに好ましくは85%以上)であることが望ましい。このように、10%以上の光透過性を有していると、波長が可視光波長領域にあるレーザーの照射により、レーザー加工が容易に出来るようになる。
【0039】
(工程(B))
工程(B)では、ガラス基板等の無機材料上に設けられた第2成分膜側(第2成分膜上面)から、所定部位に集光されたレーザーを照射して、集光されたレーザーの照射部の構造を変化させる光加工を行って、前記照射部の構造が変化した構造変化部を形成している。
【0040】
(集光されたレーザー)
本発明では、集光されたレーザー(「集光レーザー」と称する場合がある)を用いていることが重要である。集光レーザーを無機材料上の第2成分膜の外部から照射することにより、無機材料の集光レーザーが照射された照射部及びその周辺部の構造を変化させることができ、微細な構造変化部(誘起構造部)を形成することができる。例えば、照射するレーザーの波長を800nmとすると、集光していないレーザーを照射した際には、無機材料にも、第2成分膜にも何の変化も生じないが、集光レーザーを照射すると、多光子の吸収(例えば、2光子の吸収、3光子の吸収、4光子の吸収、5光子の吸収など)が生じて、無機材料および第2成分膜に誘起構造を形成することが可能となる。なお、このような多光子吸収の起こる確率は、光の強度に比例して増加し、また、強度が強くなる程、多光子の吸収が起こりやすくなる。また、第2成分膜(特に、第2成分薄膜)を有する無機材料(特に、ガラス基板)は、その加工閾値が低下しており、より低い強度の光で、構造変化部の形成等の加工を行うことが可能になる。その理由は、まだ明確でないが、第2成分膜による光の収束作用、第2成分膜の光触媒的作用、第2成分膜による反応場の閉じ込め作用などが考察される。
【0041】
特に本発明では、レーザー光の強度やその集光の程度を適宜調整することにより、第2成分膜が形成されていない無機材料(特に、ガラス製基板)には何ら影響を与えずに(すなわち、何ら誘起構造を生じさせずに)、第2成分膜が形成されている部位の無機材料のみに誘起構造を形成することができる。例えば、第2成分膜が金属酸化物膜である場合、そのエネルギーバンドギャップは、素材や添加物などに応じて、およそ3.5eV程度である。一方、無機材料のエネルギーバンドギャップとしては、例えば、ガラス製基板である場合、ガラスの種類や添加剤などに応じて、およそ8.9eV程度であり、第2成分膜としての金属酸化物膜のエネルギーバンドギャップよりも約5.4eV程度大きい。そのため、例えば、無機材料がガラス製基板である場合、該ガラス製基板に多光子吸収を生じさせるには、およそ6光子以上の多光子吸収が生じる必要があり、極めて高強度のレーザー照射が必要となる。しかし、金属酸化物膜などの第2成分膜を存在させることで、低いエネルギーで基板の加工が可能になる。
【0042】
従って、本発明では、集光レーザーの照射により、必要に応じてレーザー光の強度やその集光の程度を適宜調整して、低エネルギーで効率よく、しかも極めて微細に優れた制御性で集光レーザーが照射された部位に誘起構造を形成することができる。
【0043】
このようなレーザーとしては、1×10-12秒以下(1×10-12秒〜1×10−15秒)のレーザー(「超短パルスレーザー」と称する場合がある)が特に好ましい。パルス幅が小さいものほど、容易に高い光強度が得られる点で好ましい。また、より一層微細な誘起構造部を形成することも可能となる。このような超短パルスレーザーは、例えば、チタン・サファイア結晶を媒質とするレーザーや色素レーザーを再生・増幅して得ることができる。
【0044】
レーザー(特に、超短パルスレーザー)において、その波長としては、例えば、可視光の波長領域(例えば、400〜800nm)であることが好ましい。また、その繰り返しとしては、例えば、1Hz〜80MHzの範囲から選択することができ、通常、10Hz〜500kHz程度である。
【0045】
なお、レーザー(特に、超短パルスレーザー)の平均出力又は照射エネルギーとしては、特に制限されず、目的とする構造変化部の大きさや構造の変化の程度等に応じて適宜選択することができ、例えば、500mW以下(例えば、1〜500mW)、好ましくは5〜300mW、さらに好ましくは10〜100mW程度の範囲から選択することができる。このように、本発明では、レーザー(特に、超短パルスレーザー)の照射エネルギーは低くてもよい。
【0046】
本発明では、レーザーは多光束干渉(例えば、2光束干渉や、3以上の光束による干渉など)によるコヒーレント光を用いることも可能である。レーザーとして2光束干渉等の多光束干渉によるコヒーレント光を用いることにより、レーザー光の波長オーダーの周期構造を目的とする周期構造に容易にコントロールして形成することができる。例えば、2光束干渉による照射の場合、その光束間の角度を制御することにより、周期構造の間隔を制御することもできる。さらに、照射時に第2成分膜や無機材料を適宜スキャンさせたり、さらに複数の光束を用いたりすることで自在に複雑な周期構造を形成することができ、これらの方法についても特に制限されるものではない。
【0047】
レーザーを集光させる方法としては、特に制限されず、例えば、集光レンズを用いる方法を好適に採用することができる。このような集光レンズとしては、特に制限されず、無機材料の材質、第2成分の材質、目的とする構造変化部の大きさや構造の変化の程度などに応じて適宜選択することができる。
【0048】
集光レーザーの照射スポット径としては、特に制限されず、目的とする構造変化部の大きさや構造の変化の程度、集光レンズの大きさや開口数又は倍率などに応じて適宜選択することができ、例えば、1.0〜50μm(好ましくは10〜30μm)程度の範囲から選択することができる。
【0049】
(照射方法)
集光レーザーの照射方法としては、特に制限されず、例えば、任意の部位(又は箇所)の一点のみに又は一点毎に照射したり、焦点の位置を移動させながらライン状に照射したりする方法を採用することができる。集光レーザーの焦点位置を移動させながら、集光レーザーを照射する際のライン状としては、特に制限されず、任意のライン状であってもよく、例えば、直線状や曲線状などが挙げられる。また、集光レーザーの焦点位置は、連続的又は間欠的に移動させることもできる。なお、集光レーザーをコンピュータ制御して照射することにより、どんな複雑なライン状であっても、集光レーザーの焦点位置を移動させながら照射することが可能である。
【0050】
図1は本発明の集光レーザーの照射方法の一例を示す概略鳥瞰図である。図1において、1は構造変化部が形成された第2成分膜付き無機材料(「構造変化部形成被膜付基板」と称する場合がある)、2は第2成分の膜(第2成分膜)、21は第2成分膜2中の照射部(構造変化部)、22は第2成分膜2中の未照射部、3は無機材料(「基板」と称する場合がある)、41は無機材料3中の構造変化部、42は無機材料3中の構造未変化部である。また、51はパルス幅が10-12秒以下である超短パルスレーザー(単に「レーザー」と称する場合がある)、52は集光レンズであり、5は集光レーザーである。構造変化部形成被膜付基板1は、上面に成膜により第2成分膜2が形成された無機材料3から作製されている。第2成分膜中の照射部(構造変化部)21や、無機材料3中の構造変化部41は、集光レーザー5の照射による影響を受けて構造が変化した部位(構造変化部)であり、また、第2成分膜中の未照射部22や、無機材料3中の構造未変化部42は、集光レーザー5の照射による影響を受けておらず、元の膜の状態を保持している部位(構造未変化部)である。
【0051】
第2成分膜2は、無機材料(基板)3上に形成されており、該第2成分膜2の上面は、平面であり、X−Y平面に対して平行、又はZ軸に対して垂直となっている。
【0052】
この第2成分膜2の所定部位に、集光レーザー5を焦点を合わせて照射している。なお、集光レーザー5は、集光レンズ52によりレーザー51が集光されたレーザーである。
【0053】
6aは集光レーザー5の照射をし始めたときの焦点を合わせた最初の位置又はその中心位置(「照射開始位置」と称する場合がある)、6bは集光レーザー5の照射を終えたときの焦点を合わせた最終の位置又はその中心位置(「照射終了位置」と称する場合がある)、6cは集光レーザー5の照射の焦点又はその中心位置(単に「焦点位置」と称する場合がある)が照射開始位置6aから照射終了位置6bに移動する移動方向である。6は集光レーザー5の照射の焦点位置又は焦点の中心位置が移動した軌跡(「焦点位置軌跡」と称する場合がある)である。すなわち、図1では、集光レーザー5の焦点位置を、照射開始位置6aから照射終了位置6bにかけて、焦点位置の移動方向6cの方向で、連続的に直線的に移動させており、該移動した焦点位置の軌跡が焦点位置軌跡6である。
【0054】
具体的には、第2成分膜2に集光レーザー5を照射すると、前記集光レーザー5の焦点位置軌跡6上の各焦点位置及びその周辺部(近辺部)における構造が変化し、この部分的な構造の変化により、構造変化部形成被膜付基板1は、ライン状の構造変化部(21,41)と、元の状態の未照射部22および構造未変化部42とを有している。すなわち、第2成分膜2に集光レーザー5を照射することにより、無機材料3中に構造変化部41を形成することができるとともに、第2成分膜2中にも構造変化部21が形成されている。なお、構造変化部41は、構造変化部21の真下に且つ構造変化部21と接触した形態で形成されている。また、構造変化部41と、構造変化部21とは、同一の種類に属する構造の変化であってもよく、異なる種類に属する構造の変化であってもよい。
【0055】
また、集光レーザー5の照射に際して、その焦点の位置を連続的に移動させているので、第2成分膜2や基板3に、構造が変化している部位も焦点位置の移動に応じて連続的に移動して、移動方向に延びて変化した部位からなる構造変化部(21,41)が形成されている。図1に示すように、集光レーザー5の焦点位置を、移動方向6の方向に、照射開始位置6aから照射終了位置6bに移動させた場合、移動方向6cの方向に沿って形成された構造変化部(21,41)を形成することができる。従って、構造変化部(21,41)の長手方向は、移動方向6cの方向である。
【0056】
集光レーザー5の焦点位置を移動させる速度(移動速度)は、特に制限されず、第2成分膜2や基板3の材質、集光レーザー5の照射エネルギーの大きさ等に応じて適宜選択することができる。なお、前記移動速度をコントロールすることにより、構造変化部(21,41)の大きさ等をコントロールすることも可能である。
【0057】
なお、集光レーザー5の焦点位置の移動は、レーザー51及び集光レンズ52と、第2成分膜2及び基板3との相対位置を動かせることにより、例えば、レーザー51及び集光レンズ52、及び/又は第2成分膜2及び基板3を移動させることにより、行うことができる。具体的には、例えば、2次元又は3次元の方向に精密に動かすことができるステージ上に、第2成分膜2が形成されている基板3(照射サンプル)を設置し、レーザー発生装置及び集光レンズを前記第2成分膜2に対して焦点が合うよう(任意の部位でよい)に固定し、前記ステージを動かせて焦点位置を移動させることにより、第2成分膜2や基板3の任意の部位に構造変化部を作製することができる。
【0058】
このように、構造変化部形成被膜付基板1は、集光レーザー(特に、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーが集光されたレーザー)を照射して、必要に応じて前記焦点位置を移動させるという簡単な操作により、任意の部位に構造が変化した部位(構造変化部)を形成して作製することができる。
【0059】
なお、図1では、集光レーザー5の焦点位置を移動させることにより、構造変化部(21,41)が移動方向に連続的に形成されており、焦点位置の移動方向が長手方向となっている。従って、長手方向における構造変化部(21,41)の長さは、例えば、集光レーザー5の焦点位置を移動させた移動距離に対応させて、調整することができる。例えば、集光レーザー5の焦点位置を直線的に移動させた場合、構造変化部(21,41)の焦点移動方向における長さとしては、集光レーザー5の焦点位置を移動させた移動距離と同等又はほぼ同等にすることができる。
【0060】
構造変化部(21,41)の大きさとしては、特に制限されず、それぞれ、直径又は1辺の長さが1mm以下(好ましくは500μm以下)の極めて小さなものであっても、精密に制御して形成することができる。特に、レーザーとして超短パルスレーザーを用いることにより、構造変化部をより一層精密に制御することが可能となる。
【0061】
本発明では、1つの構造変化部形成被膜付基板1において、構造変化部の数は、特に制限されず、単数であってもよく、複数であってもよい。構造変化部が複数設けられている場合、適度な間隔を隔てて形成することができる。この構造変化部間の間隔は、任意に選択することができる。前記構造変化部間の間隔は、例えば、3μm以上であることが好ましい。構造変化部間の間隔が3μm未満であると、構造変化部の作製時に構造変化部同士が融合して、独立した複数の構造変化部とすることができない場合がある。
【0062】
なお、構造変化部の大きさ、形状、構造の変化の程度などは、集光レーザーの照射時間、集光レーザーの焦点位置の移動方向やその速度、無機材料の材質の種類、第2成分の材質の種類、レーザーのパルス幅の大きさや照射エネルギーの大きさ、集光レンズの開口数や倍率などにより適宜調整することができる。
【0063】
なお、基板3中の構造変化部41は、構造が変化しておらず元の構造を保持している部位(構造未変化部42)と構造が異なっていればよく、該異なる構造としては、例えば、密度が変化したり(例えば、密度が高くなったり又は高密度化したり)、酸素原子が脱離したりすることによる異なった構造であってもよい。本発明では、集光レーザーの照射により形成された基板3中の構造変化部41は、エッチング液に対して、構造未変化部42の溶解性よりも高く、選択エッチングが可能な程度に構造が変化していることが重要である。なお、前記構造未変化部42は、レーザー照射による影響を受けていない部位であり、レーザーが照射されていない部位(未照射部)や、第2成分膜が上面に形成されていない部位(レーザーは照射されていてもよく、照射されていなくてもよい)が含まれる。
【0064】
(工程(C))
工程(C)では、第2成分膜を溶解等により無機材料から除去するとともに、無機材料の構造変化部をエッチング液により選択的に溶解させている。このように、第2成分膜を除去した後又は第2成分膜の除去時に、無機材料の構造変化部を選択的に溶解させることにより、選択エッチング処理された無機材料(特に、ガラス基板)が作製される。
【0065】
前述のように、無機材料中の構造変化部と構造未変化部とは、溶解性が異なっているので、エッチング液(例えば、ガラスを溶解することが可能なエッチング液)により、構造変化部のみを選択的に溶解させて、構造未変化部を残存させることができる。
【0066】
この選択的に溶解させる方法としては、構造変化部を有する無機材料とエッチング液とを接触させることができる方法であれば特に制限されないが、エッチング液中に構造変化部を有する無機材料を浸漬する方法が好適に採用される。なお、構造変化部を有する無機材料を、エッチング液と接触させる際には、予め第2成分膜をエッチング液又は他の溶液等を用いて除去していてもよく、除去していなくてもよい。具体的には、第2成分膜が、エッチング液により除去可能な場合は、第2成分膜を有し且つ構造変化部を有する無機材料を、エッチング液中に浸漬してもよく、予め第2成分膜を他の溶液により除去した後、第2成分膜が除去され且つ構造変化部を有する無機材料を、エッチング液中に浸漬してもよい。一方、第2成分膜が、エッチング液により除去が困難又は不可能な場合は、予め第2成分膜を他の溶液により除去した後、第2成分膜が除去され且つ構造変化部を有する無機材料を、エッチング液中に浸漬することができる。
【0067】
前記エッチング液としては、無機材料中の構造変化部と構造未変化部との選択エッチング性が十分に得られるものであれば特に制限されることなく用いることができる。すなわち、無機材料中の構造変化部の溶解性が高く、無機材料中の構造未変化部の溶解性が低いものを用いることができる。エッチング液は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。具体的には、エッチング液としては、例えば、塩酸水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液、シュウ酸水溶液、フッ化水素酸などの無機酸の水溶液を好適に用いることができる。これらの無機酸の水溶液は低濃度であることが好ましい。エッチング液が、例えば、塩酸水溶液の場合、塩酸の濃度としては、0.5〜30重量%(好ましくは1〜10重量%)程度の範囲から選択することができる。なお、エッチング液の使用量は特に制限されない。
【0068】
なお、エッチング液に浸漬する時間は特に制限されず、エッチング液の種類や濃度等に応じて適宜選択することができるが、構造変化部のみを溶解させ、構造未変化部は全く又はほとんど溶解しない程度の時間であることが重要である。
【0069】
また、第2成分膜を溶解等により除去する際の溶液(「第2成分溶解溶液」と称する場合がある)としては、無機材料又はその構造変化部を溶解させず、第2成分膜のみを溶解させることが可能な溶液であれば特に制限されない。例えば、第2成分がポリシラン系ポリマーである場合、第2成分溶解溶液としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル等のカルボン酸エステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;トルエン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化物;N−メチル−2−ビニルピロリドン等の含窒素化合物などを用いることができる。第2成分溶解溶液は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0070】
また、第2成分膜を第2成分溶解溶液により除去する方法としても特に制限されず、例えば、第2成分溶解溶液中に第2成分膜を有する無機材料の全体又は第2成分膜のみを浸漬する方法などが挙げられる。
【0071】
[選択エッチング処理された無機材料]
本発明の選択エッチング処理された無機材料は、前述の無機材料の選択的なエッチング処理方法により、すなわち、無機材料上に、金属系材料またはプラスチック系材料からなる第2成分膜を形成し、該第2成分膜に又は第2成分膜を介して無機材料に集光レーザーを照射して、無機材料に構造変化部を形成し、さらに、第2成分を除去するとともに、無機材料の構造変化部をエッチング液により選択的に溶解させることにより作製することができる。
【0072】
無機材料上の第2成分膜に、集光レーザーの照射を行うと、集光レーザーの照射部において、第2成分膜の構造の変化により、第2成分膜に構造変化部(誘起構造部)が形成されるとともに、無機材料中にも、該第2成分膜中の構造変化部の真下に、構造変化部(誘起構造部)が形成されて、図2に示されるように、構造変化部が形成された第2成分膜付き無機材料(構造変化部形成被膜付基板)が作製される。図2は、構造変化部形成被膜付基板の一例を示す概略断面図である。図2において、1、2、21、22、3、41、42は前記と同様に、それぞれ、構造変化部形成被膜付基板、第2成分膜、第2成分膜中の構造変化部、第2成分膜中の未照射部、無機材料(基板)、無機材料中の構造変化部、無機材料中の構造未変化部である。構造変化部形成被膜付基板1は、構造変化部21及び未照射部22により構成された第2成分膜2と、構造変化部41及び構造未変化部42により構成された無機材料3とを有しており、且つ、構造変化部21の真下に接触して構造変化部41が形成されている。すなわち、構造変化部41は、無機材料3と第2成分膜2との界面から無機材料3内部にかけて形成されており、構造変化部41が形成されている深さ(無機材料の界面からの深さ)は、特に制限されない。また、図2では、構造変化部41の方が、構造変化部21よりもその幅が小さくなっており、極めて微細な誘起構造部となっている。
【0073】
この構造変化部形成被膜付基板1について、エッチング処理を施すことにより、具体的には、第2成分膜2全体の除去と無機材料3の構造変化部41とを選択的に溶解除去して、無機材料3の構造未変化部42のみを残存させて、選択エッチング処理された無機材料が得られる。このような選択エッチング処理された無機材料は、図3に示されるように、空隙部又は空気部を有している。図3は、本発明の選択エッチング処理された無機材料の一例を示す概略断面図である。図3において、7は選択エッチング処理された無機材料、8は空隙部、9は無機材料部である。選択エッチング処理された無機材料7は、空隙部8と、無機材料部9とから構成されている。なお、無機材料部9は、無機材料3の構造未変化部42に相当している。空隙部8の屈折率は通常約1であり、一方、無機材料部9の屈折率は、無機材料がガラス基板である場合、約1.6である。従って、空隙部8と無機材料部9との屈折率差は約0.6と大きく、選択エッチング処理された無機材料7は従来にない大きな屈折率差による光学応答を得ることができる。
【0074】
本発明の選択エッチング処理された無機材料(特に、ガラス基板)は、求められる機能や要求特性に応じて、適宜集光レーザーによるレーザー加工が施されている。また、そのままガラス基板等の無機材料として用いてもよく、他の部材と組み合わせて用いてもよい。さらにまた、選択エッチング処理された無機材料膜には、任意の加工や処理(各種の後処理など)を施すことが可能である。選択エッチング処理された無機材料は、互いに屈折率が異なっている無機材料部および空隙部を有しているので、例えば、文献“菊田他、光学、27巻、第1号、p12、1998年”で解説されているような回折格子、偏光素子、位相差板、偏光ビームスプリッター、波長選択フィルタ、光導波路などの光学素子や、これらに導電性が付与された光学素子、導電膜(特に、透明導電膜)などとして好適に用いることができる。特に、無機材料部と空隙部との大きな屈折率差を利用して、フォトニック結晶などにも応用することが可能である。
【0075】
【発明の効果】
本発明の選択的なエッチング処理方法によれば、無機材料表面に特定の成分による第2成分膜を形成した後、レーザーを照射するという簡単な方法により、無機材料の加工閾値を下げることができる。そのため、無機材料の所定部位のみをより一層効率的に選択的にエッチングして、より一層微細な加工を無機材料に施すことができる。また、この選択エッチング処理された無機材料は、高屈折率を有している。従って、優れた機能を有している光学素子を容易に且つ効率よく作製することができる。
【0076】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
市販の青板ガラス基板、および直径が15インチのITOターゲット[酸化インジウムと酸化錫とが97重量部(酸化インジウム):3重量部(酸化錫)の割合で混合された金属酸化物]が取り付けられたスパッタリング装置(商品名「高周波スパッタリング装置」日本真空社製)に装着した。真空チャンバー内を4×10-4Paまで真空排気した後、アルゴンガスを30SCCM、酸素ガスを0.5SCCM導入し、高真空ポンプのメインバルブ開閉度を調整することで、圧力を0.4Paに調整した。但し、アルゴンガスは洗浄用ビンに入れた蒸留水にバブリングさせたものを導入した。その結果、真空チャンバー内の水蒸気分圧が3×10-3Paに保持された。その後、直流電源にてITOターゲットに300Wの電力を印加し、ガラス製基板上に厚さ20nmの酸化インジウム錫膜(ITO膜)を成膜し、ITO膜がガラス製基板上に成膜されたサンプル(照射サンプルA)を得た。
【0077】
この照射サンプルAのガラス製基板上に成膜されたITO膜の上面から、該ITO膜の表面(上面)又はその付近に焦点を合わせて、チタン・サファイア・フェムト秒パルスレーザー装置及び対物レンズ(倍率:10倍)を使用して、超短パルスレーザー(照射波長:800nm、パルス幅:150×10-15秒、繰り返し:200kHz)を、照射エネルギー(平均出力):110mW、焦点位置:ITO膜表面、照射スポット径:約20μmの条件で、照射サンプルAを照射方向に垂直な方向に移動速度:約500μm/秒でライン状に移動させながら照射した。さらに、そのラインに平行に幅20μm、長さ8mmのラインを15μmの間隔で15本形成した。その結果、照射サンプルAのITO膜部分と青板ガラス基板とに、超短パルスレーザーの照射を開始した焦点位置(照射開始位置)から、照射を止めた焦点位置(照射終了位置)にかけて、それぞれ、図2で示されるように、元のITO膜や青板ガラス基板とは異なる構造を有する構造変化部(誘起構造部)が形成されていた。なお、光干渉顕微鏡で観察したところ、ITO膜中の構造変化部の幅は、7.6μmであった。
【0078】
この構造変化部を有するサンプルを、1.8重量%のフッ化水素酸水溶液に10秒間浸漬した後、取り出して蒸留水で洗浄したところ、ITO膜はすべて溶解除去され、かつ青板ガラス基板中の構造変化部(誘起構造部)のみが溶解除去され、青板ガラス基板上にレーザー痕(空隙部)が残存し、図3で示されるような回折格子(回折格子A)が得られた。この回折格子Aを光干渉顕微鏡で観察したところ、空隙部は、幅6μm且つ深さ20nmであり、ITO膜の構造変化部よりも細い幅であり、より微細に加工されていることが確認された。従って、より一層微細加工に適している。
【0079】
また、この回折格子Aに、波長が632.8nmのHe−Ne(ヘリウム−ネオン)レーザーを照射したところ、透過回折のスポットの出現を確認した。
【0080】
(比較例1)
実施例1と同様の市販のガラス製基板(厚さ:1.5mm)に、実施例1と同様の条件で、超短パルスレーザーを照射したところ、ガラス基板にはなんら構造変化は発生しなかった。すなわち、該比較例1では、表面にITO膜を形成させずに、ガラス製基板に超短パルスレーザーの照射を行っている。
【0081】
(比較例2)
超短パルスレーザーの強度(照射エネルギー)を500mWに増加させたこと以外は比較例1と同様の条件で、超短パルスレーザーを照射したところ、ガラス基板の表面から内部に沿って、横幅20μm、縦幅100μmの範囲にわたって構造変化が生じていた。すなわち、形成された誘起構造は、超短パルスレーザーの照射部において縦方向に長い構造となった。
【0082】
従って、実施例1と、比較例1〜2とにより、実施例1の方法により、ガラス製基板などの無機材料の表面に、ITO膜などの第2成分膜を形成することにより、無機材料の加工閾値を低下させることができ、しかも、無機材料に一層微細に誘起構造を形成することができる。また、無機材料から誘起構造部を選択的に除去することが可能である。
【0083】
(実施例2)
ポリシラン系ポリマーとしてのポリ(メチルフェニルシラン)を、テトラヒドロフラン(THF)に溶解させて、濃度が約20重量%の溶液(溶液A)を調製した。市販の青板ガラス基板上に、溶液Aをスピンコートし、青板ガラス基板上に厚さ2μmのポリシラン薄膜を形成し、ポリシラン薄膜が青板ガラス基板上に成膜されたサンプル(照射サンプルB)を得た。
【0084】
照射サンプルBに、実施例1と同様の条件で、超短パルスレーザーを照射し、さらに、THFによりポリシラン薄膜を青板ガラス基板から除去した後、1.8重量%のフッ化水素酸水溶液に10秒間浸漬し、取り出して蒸留水で洗浄したところ、青板ガラス基板上にレーザー痕(空隙部)が形成されており、図3で示されるような回折格子(回折格子B)が得られた。この回折格子Bを光干渉顕微鏡で観察したところ、空隙部は、幅6.2μm且つ深さ20nmであり、細い幅でエッチングされていることが確認できた。
【0085】
(実施例3)
市販のガラス製基板(厚さ:1.5mm)上に実施例1と同様の方法で、厚さ50nmのITO膜を成膜したサンプル(照射サンプルC)を得た。この照射サンプルCに、図4に示す光学系を用いて、2光束照射によるレーザー照射を行った。用いたレーザー発生装置は、実施例1と同様のチタン・サファイア・フェムト秒パルスレーザー装置であり、照射エネルギー(平均出力)を100mW、照射時間を10秒間、2光束のなす角度(θ)を15°として、レーザー光の干渉を用いて、ITO膜上に周期的な構造変化を書き込んだ。その結果、直径約60μmの円形領域にその光干渉に応じた周期構造が形成され、その周期は約3μmであった。
【0086】
その後、この周期構造を有するサンプルを、1.8重量%のフッ化水素酸水溶液に10秒間浸漬した後、取り出して蒸留水で洗浄したところ、照射部のみの周期構造を有するガラス製基板が得られた。すなわち、選択エッチング処理により、極めて微細な照射部のみが残存している周期構造を有するガラス製基板が得られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の集光レーザーの照射方法の一例を示す概略鳥瞰図である。
【図2】構造変化部形成被膜付基板の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の選択エッチング処理された無機材料の一例を示す概略断面図である。
【図4】2光束干渉の光学系を示す概略図である。
【符号の説明】
1 構造変化部が形成された第2成分膜付き無機材料(構造変化部形成被膜付基板)
2 第2成分の膜(第2成分膜)
21 第2成分膜2中の照射部(構造変化部)
22 第2成分膜2中の未照射部
3 無機材料(基板)
41 無機材料3中の構造変化部
42 無機材料3中の構造未変化部
5 集光されたレーザー
51 パルス幅が10-12秒以下である超短パルスレーザー
52 集光レンズ
6 集光レーザー5の焦点位置軌跡
6a 集光レーザー5の照射開始位置
6b 集光レーザー5の照射終了位置
6c 集光レーザー5の焦点位置の移動方向
7 選択エッチング処理された無機材料
8 空隙部
9 無機材料部
Claims (9)
- 無機材料の選択的なエッチング処理方法であって、下記の工程(A)〜(C)を具備することを特徴とする無機材料の選択的なエッチング処理方法。
工程(A):無機材料上に、無機材料の加工閾値を低下可能な第2成分の膜を形成する工程
工程(B):第2成分膜側からの集光されたレーザーの照射により、無機材料に構造が変化した構造変化部を形成する工程
工程(C):第2成分膜を除去するとともに、無機材料の構造変化部をエッチング液により選択的に溶解させる工程 - 無機材料がガラスである請求項1記載の無機材料の選択的なエッチング処理方法。
- 第2成分が、金属系材料またはプラスチック系材料である請求項1又は2記載の無機材料の選択的なエッチング処理方法。
- 金属系材料がインジウムを金属原子の主成分として含有する金属酸化物を含有している請求項3記載の無機材料の選択的なエッチング処理方法。
- レーザーがパルス幅が10-12秒以下のレーザーである請求項1〜5の何れかの項に記載の無機材料の選択的なエッチング処理方法。
- レーザーが多光束干渉によるコヒーレント光である請求項1〜6の何れかの項に記載の無機材料の選択的なエッチング処理方法。
- 無機材料を、請求項1〜7の何れかの項に記載の無機材料の選択的なエッチング処理方法により選択エッチング処理して作製することを特徴とする選択エッチング処理された無機材料の製造方法。
- 請求項8記載の選択エッチング処理された無機材料の製造方法により選択エッチング処理された無機材料を製造し、この選択エッチング処理された無機材料を構成要素として用いて光学素子を作製することを特徴とする光学素子の製造方法。
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