JP4086164B2 - 光ディスク原盤露光装置 - Google Patents
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Description
上述した従来技術の場合、光ディスク原盤露光装置ではターンテーブルの各回転角の位置に無関係な非同期振れがリアルタイムに出力できることから、露光中でもトラックピッチの精度に重大な悪影響を及ぼす非同期振れを直ちに把握し、露光作業を中止することができる。また、露光光の照射位置を補正することにより、送り機構がターンテーブルの非同期振れによる影響を受けない。
また、特開平10−261245号公報に記載されたマスタリング装置は、レーザ干渉計又はレーザホロスケールを搭載し、送りスライダの微量な送りムラを検出している。検出された送りムラは、それを音響光学光偏向器による記録レーザの光偏向で送りスライダの微量な送りムラを光学的に補正している。また、送りスライダと記録ヘッドとをピエゾアクチュエータを介し一体化し、ピエゾアクチュエータの伸縮により、記録ヘッドを動作させることで送りスライダの微量な送りムラを補正している。
また、特開2002−279700号公報によれば、高精度送りを実現できる光ディスク原盤露光装置を提供するために、光ディスク原盤露光装置の基台に、動吸振器、該動吸振器の共振周波数を自在に設定可能な共振周波数制御部、及び半径位置表示器を設けることにより、原盤の回転による振動周波数と動吸振器の共振周波数とを一致させて、高精度な送りを達成している。
通常、非同期振れの原因は、回転振動の基台伝達による装置構成部品の振動による外乱振動であり、光ディスク原盤上に形成される記録溝のピッチ精度は、ターンテーブルと送り移動台の相対的な非同期振れによって決定されるため、上記のような単独の非同期振れ量から送り補正を行っても補正精度が悪く露光品質上好ましくない。
通常、ディスク原盤は、外径に対して数10μm程度の偏心、言い換えれば、数10μm程度の偏重心にてターンテーブル上に搭載される。そのため回転時に働く遠心力により回転部が振れ回り振動を発生するので、ターンテーブル側面のレーザ照射位置が回転角と共に変わってしまうため、正確な送り方向の差分が計測できない。このような差分に基づく信号により微小移動手段を動作させると正確な補正動作ができず、逆にピッチ変動を発生し露光品質上好ましくない。また、計測手段であるレーザ測長計は非常に高価であるため設備コストが高くなる。
さらに、特開平10−293928号公報、特開平10−261245号公報、及び特開平8−329476号公報に記載された発明は、送り方向の補正機構として、光学ヘッド先端又は光学ヘッド筐体にピエゾアクチュエータを取り付ける構成であるため、構造が複雑で組立調整が困難であり、また機械剛性が低下し、送り系のサーボゲインを高く設定できないので制御上好ましくない。
また、基台に動吸振器を設置しているために、直動ステージ上に回転スピンドルが設置された露光装置、特に電子線露光装置に多いレイアウトでは効果が得にくかった。その結果、露光速度を向上させることが難しく、生産性が悪化していた。さらに、原盤に記録した情報の形状が、所望の形状から逸脱するなど品質の悪化に繋がっていた。そして、基台、多くの場合は石定盤であるが、この基台のベース部分に穴加工が必要であり、設備が大型化するという問題もあった。
〔解決手段1〕
上記課題を解決するために講じた解決手段は、光ディスク原盤にレーザ光又は電子線を照射して所定の情報を記録する露光用光学系と、該露光用光学系から導かれたレーザ光又は電子線を集束する集束手段と、基台上に取り付けられ直線移動可能な直動ステージと、該直動ステージの可動部に取り付けられ回転可能なスピンドルと、上記集束手段に対向して配置された光ディスク原盤を上記スピンドル上に搭載する保持機構と、上記直動ステージに固定された動吸振器と、該動吸振器の共振周波数を自在に制御可能な共振周波数制御部と、を備えていることである。
〔作 用〕
直動ステージに動吸振器を設けて、該動吸振器の共振周波数を共振周波数制御部により自在に制御することにより、光ディスク原盤が偏芯して載置されて回転されるとき、遠心力による回転振動によって起こる直動ステージの振動を減少させることができる。
実施態様1は、上記解決手段の光ディスク原盤露光装置において、動吸振器は可動部と固定部を持つスライダから構成され、該スライダの可動部の移動方向と直動ステージの可動部の移動方向を一致させ、該直動ステージの可動部又は直動ステージの可動部に固定された支持板に、該スライダの固定部を固定し、該スライダの固定部と可動部の間に、磁界や電界を加えることによりバネ定数が変化する弾性体を介在し、該スライダの可動部に付加質量を加えることである。
〔作 用〕
直動ステージの可動部に動吸振器を取り付けて、磁界や電界を加えて弾性体のバネ定数を変化させ、動吸振器の共振周波数を変化させることにより、直動ステージの可動部の振動による位置決め誤差を低減することができる。そのため、発明を実施するときメカ組立調整や制御系の設計が容易である。
実施態様2は、上記実施態様1の光ディスク原盤露光装置において、弾性体は機能性流体であることである。
〔作 用〕
弾性体として機能性流体を用いることにより、磁界や電界に反応して粘性減衰係数やバネ定数を変化させことができる。
実施態様3は、上記実施態様2の光ディスク原盤露光装置において、機能性流体は、磁気に反応して粘性又は弾性が変化する磁気粘性流体であることである。
〔作 用〕
機能性流体として磁気粘性流体(MR流体)を用いることによって、バネ定数を大きく変化させることができる。
実施態様4は、上記実施態様1の光ディスク原盤露光装置において、弾性体は機能性シートであることである。
〔作 用〕
弾性体として機能性流体をシート状に固めた機能性シートを用いることによって、異物の混入を防ぐことができ、切断などの加工も容易である。
実施態様5は、上記実施態様1〜実施態様4のいずれかの光ディスク原盤露光装置において、弾性体は、バネ定数が一定の少なくとも1つの弾性体と、バネ定数を自在に変化することができる弾性体の複数の弾性体から構成されることである。
〔作 用〕
弾性体として、バネ定数が一定の弾性体と、バネ定数を自在に変化することができる弾性体を用いるので、バネ定数が一定の弾性体によりスライダの初期位置を決定し、バネ定数を自在に変化することができる弾性体により共振周波数を変更することができる。
実施態様6は、上記実施態様1〜実施態様5のいずれかの光ディスク原盤露光装置において、スライダは、弾性体と付加質量からなる系の共振周波数を、光ディスク原盤を搭載して回転可能なスピンドルの回転周波数と一致させることである。
〔作 用〕
弾性体と付加質量からなる系の共振周波数を、スピンドルの回転周波数と一致させることにより、動吸振器を効率よく作用させて振動を低減させることができる。
実施態様7は、上記実施態様1〜実施態様6のいずれかの光ディスク原盤露光装置において、直動ステージは、その移動位置を検出する位置検出手段を備えていることである。
〔作 用〕
CLV駆動方式による露光の場合は、光ディスク原盤の半径方向位置によって、スピンドルの回転数が変化する。そこで、直動ステージの位置を検出すれば、光ディスク原盤の半径方向位置と、スピンドルの回転数を求めることができる。
実施態様8は、上記実施態様1〜実施態様7のいずれかの光ディスク原盤露光装置において、スピンドルはその回転数を検出する回転数検出手段を備えていることである。
〔作 用〕
CLV駆動方式による露光の場合は、スピンドルの回転数は一定でなく変化するので、回転数検出手段によりリアルタイムでスピンドル回転数を検知している。
実施態様9は、上記実施態様7又は実施態様8の光ディスク原盤露光装置において、直動ステージの移動位置を検出する位置検出手段の出力信号から、その移動位置でのスピンドルの回転数と回転周波数を演算し、又は該スピンドルの回転数検出手段の出力信号から、その移動位置でのスピンドルの回転数と回転周波数を検出し、該スピンドルの回転周波数に動吸振器の共振周波数をリアルタイムで一致させることである。
〔作 用〕
直動ステージの移動位置から、その移動位置でのスピンドルの回転数と回転周波数を算出するか、又はスピンドルの回転数検出手段により、直動ステージの移動位置でのスピンドルの回転数と回転周波数を検出することによって、リアルタイムでスピンドルの回転周波数に動吸振器の共振周波数を一致させることができ、動吸振器を効率よく作用させることができる。
実施態様10は、上記実施態様1〜実施態様9のいずれかの光ディスク原盤露光装置において、直動ステージに加速度センサを設けて、該直動ステージの振動の加速度を検出することである。
〔作 用〕
直動ステージに加速度センサを設けることにより、安価に直動ステージの振動外乱を検出することができる。
実施態様11は、上記実施態様1〜実施態様10のいずれかの光ディスク原盤露光装置において、直動ステージに速度センサ又は変位センサを設けて、該直動ステージの可動部の速度又は変位を検出することである。
〔作 用〕
直動ステージに速度センサ又は変位センサを設けることにより、低周波数領域の振動を高精度に検出することができる。
実施態様12は、上記実施態様10又は実施態様11の光ディスク原盤露光装置において、加速度センサの加速度信号、速度センサの速度信号、又は変位センサの変位信号のいずれかを周波数解析してピーク周波数を検出することである。
〔作 用〕
加速度信号、速度信号、又は変位信号のいずれかを周波数解析して、直動ステージのピーク振動の周波数を検出して、外乱や経時変化による振動状況の変化をリアルタイムで把握することができる。
実施態様13は、上記実施態様12の光ディスク原盤露光装置において、付加質量の送り方向の振動を検出する振動検出手段と、該振動検出手段の出力信号から振動周波数を解析する振動周波数検出手段とを設け、該振動周波数検出手段の出力信号とピーク周波数を比較演算し、該比較演算結果により動吸振器の設定出力を補正して、該動吸振器の共振周波数を該ピーク周波数にリアルタイムで一致させることである。
〔作 用〕
付加質量の送り方向の振動から解析される振動周波数とピーク周波数を比較演算することによって、振動状況をフィードバックして制御出力を補正することにより、外乱や経時変化があった場合でも、動吸振器の共振周波数をピーク周波数にリアルタイムで一致させる。
実施態様14は、上記実施態様2又は実施態様3の光ディスク原盤露光装置において、機能性流体に対する流体漏れ止めシールが施されていることである。
〔作 用〕
流体漏れ止めシールを施すことにより、機能性流体の流失を防ぐと同時に、異物の混入も防止する。
実施態様15は、上記実施態様1〜実施態様14の光ディスク原盤露光装置において、動吸振器は磁気シールされていることである。
〔作 用〕
動吸振器を磁気シールすることにより、動吸振器から磁界が漏れるのを防止することができる。
(1) 請求項1に係る発明
光ディスク原盤が偏芯して載置されて回転されるとき、遠心力による回転振動によって起こる直動ステージの振動を減少させることができる。これにより、送り精度を高くすることができ、露光品質の向上を図ることができる。
また、直動ステージの可動部に動吸振器を取り付けて、磁界や電界を加えて弾性体のバネ定数を変化させ、動吸振器の共振周波数を変化させることにより、直動ステージの可動部の振動による位置決め誤差を低減することができる。そのため、発明を実施するときメカ組立調整や制御系の設計が容易であり、送り系の集光手段部周辺等にメカ的に関与せず、集光手段部周辺等を簡素化、及び軽量化することができる。また、機械剛性の向上を図ることができ、送り系のサーボゲインを高く設定することができる。さらに、送り制御精度の向上を図ることができると共に、組立性が良好で装置コストを安価にできる。
弾性体として機能性流体を用いることにより、磁界や電界に反応して粘性減衰係数やバネ定数を変化させことができるので、動吸振器において所望の共振周波数を得ることができる。
(3) 請求項3に係る発明
機能性流体として磁気粘性流体(MR流体)を用いるので、バネ定数の大きな変化が期待でき、動吸振器の共振周波数の制御帯域を広げることができる。
(4) 請求項4に係る発明
弾性体として機能性シートを用いるので、異物の混入による影響を防ぐことができる。また、切断などの加工が容易であり実装し易くなる。
バネ定数が一定の弾性体によりスライダの初期位置を決定することができる。また、バネ定数を自在に変化することができる弾性体を組み合わせることにより、所望の共振周波数を設定することができる。
(6) 請求項6に係る発明
弾性体と付加質量からなる系の共振周波数を、スピンドルの回転周波数と一致させることにより、動吸振器を効率よく作用させて振動を低減させることができる。その結果、光ディスク原盤が偏芯して設置されて回転するとき、遠心力による回転振動によって起こる直動ステージの振動を減少させることができる。さらに、送り精度を高くすることができ、露光品質を向上することができる。
CLV駆動方式による露光の場合は、光ディスク原盤の半径方向位置によってスピンドルの回転数が変化するので、直動ステージの位置を検出することによって、光ディスク原盤の半径方向位置と、スピンドルの回転数を求めることができる。
(8) 請求項8に係る発明
CLV駆動方式による露光の場合は、スピンドルの回転数は一定でなく変化するが、回転数検出手段によりリアルタイムでスピンドル回転数を検知することができる。
(9) 請求項9に係る発明
直動ステージの移動位置でのスピンドルの回転数と回転周波数を、算出するか又は検出することによって、リアルタイムでスピンドルの回転周波数に動吸振器の共振周波数を一致させることができるので、動吸振器を効率よく作用させて振動を低減することができる。
直動ステージに加速度センサを設けることにより、安価に直動ステージの振動外乱を検出することができる。
(11) 請求項11に係る発明
直動ステージに速度センサ又は変位センサを設けることにより、低周波数領域の振動を高精度に検出することができる。
(12) 請求項12に係る発明
直動ステージのピーク振動の周波数を検出することにより、外乱や経時変化による振動状況の変化をリアルタイムで把握することができる。
振動状況をフィードバックして制御出力を補正することにより、外乱や経時変化があった場合でも、動吸振器の共振周波数をピーク周波数にリアルタイムで一致させるので、より正確でかつ効率よく振動を除去することができる。
(14) 請求項14に係る発明
流体漏れ止めシールを施すことにより、機能性流体の流失を防ぐと同時に、異物の混入も防止するので、長期間安定した特性を維持することができる。
(15) 請求項15に係る発明
動吸振器から磁界が漏れるのを防止するので、安定した電子線による露光が可能になる。
本発明の光ディスク原盤の露光装置は、ターンテーブルと送り移動台の相対的な非同期振れを補正するものではなく、非同期振れの原因が、スピンドルの回転振動が直動ステージに伝達することにより発生する外乱振動であることに着目して、直動ステージにおける振動を極力小さくするものである。
除振機構、例えば空気圧によるサーボマウンタ上に設けられた基台(11)には、外部より供給される圧縮空気により静圧浮上する直動ステージの固定部(12)が固定されている。直動ステージの可動部(13)にはスピンドル(14)が設けられ、該スピンドル(14)のターンテーブル(15)上にガラス原盤(16)が保持されている。この直動ステージの可動部(13)には、直動ステージの移動方向と同一方向になるように動吸振器(17)の振動方向を合わせて、動吸振器(17)の固定部が固定されている。
このような構成のステージ装置において、光ディスク原盤に露光するためには、レーザ光源、露光用光学系、及び導かれたレーザ光を集光する集光手段によって、レーザ光を所望の状態にして、原盤の上方又は下方から照射する。
また、電子線による露光の場合には、電子線源、電子線偏向手段を経て、所望の状態にした電子線を用いて原盤の上方又は下方から露光する。
上記ガラス原盤(16)を回転する回転機構は、ターンテーブル(15)と、外部より供給される圧縮空気によりスラスト及びラジアル方向に静圧浮上して回転自在なエアスピンドル(14)と、AC同期モータと、回転角度を検出する、例えば光学式ロータリーエンコーダ等の角度検出手段とから構成されている。
また、上記回転角度を検出する角度検出手段は、一周を数千等分割したA相及びB相パルスと、一周に1回発生するZ相パルスから構成され、スピンドルコントローラに接続されており、このスピンドルコントローラの出力は上記AC同期モータに接続されている。そして、上記スピンドルコントローラに取り込まれた角度検出手段の一周に1回発生するZ相出力は、送り動作と回転動作の協調を図るためにスライダコントローラに接続されている。さらに、該スライダコントローラと上記スピンドルコントローラは、装置全体を制御するコントローラに接続されている。
スライダの可動部(24)には、最適な振動減衰特性を得るために付加質量(25)が固着されている。この付加質量(25)は、振動を減衰させたい対象の質量との関係によって最適な条件が決定される。
このスライダの可動部(24)とスライダの固定部(23)との間、又は該スライダの可動部(24)と直動ステージの可動部(21)との間には、機能性流体による弾性体(27)が設けられている。この機能性流体に磁界や電界を加えてそのバネ定数を変化させることにより、動吸振器(17)の共振周波数を変化させることができる。このとき必ずしも機能性流体でなくても、機能性シートでも構わない。
また、機能性流体又は機能性シートによる弾性体(27)とは別に、バネ定数が一定の弾性体(26)を追加して組み合わせて用いることもある。機能性流体による弾性体(27)だけでは、スライダの可動部(24)がスライダのストロークの一方に偏ることがあるが、バネ定数が一定の弾性体(26)を組み合わせることによってセンタリング効果が生じ、初期位置を確保することができ、動吸振器(17)の再現性が向上する。
また、これらの機能性流体をシート状に加工して、はさみで切ることができたり、シールで貼り付けられるようにして、取り扱い性を向上させた機能性シートと呼ばれるものもある。
上記MR流体を用いた振動の減衰やバネ定数の変化についての詳細は、後述する参考説明1及び参考説明2において説明する。
この動吸振器(17)は、スピンドル(14)の回転によって発生した直動ステージの可動部(13)の振動を減少させるために設置するものである。直動ステージのピーク振動に動吸振器(17)の共振周波数を一致させれば、該動吸振器(17)におけるマス、この場合はスライダの可動部(24)が大きく振動することにより、直動ステージの可動部(13)の振動は弱まる。磁界や電界を制御するには可変直流電源を用いて、電源電圧又は電流を制御することにより、機能性流体又は機能性シートの弾性を変化させて、上記動吸振器(17)のバネ定数、即ち共振周波数を変化させることができる。
ここで、スライダの可動部(24)の質量と付加質量(25)の質量の合計をMとし、バネ定数一定の弾性体(26)と機能性流体による弾性体(27)の合成バネ定数をKとして、動吸振器(17)の共振周波数をfとすれば、
f=1/(2・π)*(K/M)1/2
となる。これにより、質量Mを変化させなくても、合成バネ定数Kを変化させれば、動吸振器(17)の共振周波数を制御できることが分かる。
先ず、露光動作を行う前に、CLV駆動用として予め半径位置rに対する回転周波数ftの関係を下記の式を満足するように計算しておき、また動吸振器(17)の共振周波数特性を計測しておく。
ft=v/(2・π・r)
vs=ft・pt
ここで、v:露光線速度
ft:回転周波数
r:露光半径位置
vs:送り速度
pt:露光トラックピッチ
コントローラから回転送り動作開始指令が送出され、ターンテーブル(15)上に偏重芯が数μm〜数10μm程度で吸着固定された光ディスク原盤(16)が回転を開始すると、回転部全体が振れ回り振動を発生して、送り方向の正弦波状の振動伝達力が直動ステージの可動部(13)に加わる。この時、例えばCAV送り駆動であれば一定回転であり、露光半径位置によらずその一定周波数の正弦波状の振動伝達力が加わる。また、CLV駆動の場合は、前記の式で示したように露光される半径位置が外周に向かうに従って、回転周波数が下がっていく正弦波状の振動伝達力が加わる。
これまでの説明では、いずれも可変直流電源の出力電圧又は出力電流と、動吸振器(17)の共振周波数との間に厳密な関係が必要であり、例えば、供給されている電圧又は電流の変動や機能性流体の経年変化等によって、前もって取得した特性がずれてしまった場合には、前述した原理からはずれてしまう。そのため、本来、動吸振器で想定していた共振周波数と実際の共振周波数が異なってしまうので、振動抑制効果が小さくなり、露光品質上好ましくないという問題がある。これまでは動吸振器に着目して述べたが、ステージやスピンドルに経時変化が起きた場合にも、同様に周波数がずれてしまうので、露光品質に影響があることは言うまでもない。
そこで、直動ステージに振動状態を検出するセンサ、例えば、加速度を検出する加速度センサ、速度を検出するレーザドップラー計測器、及び変位を検出する静電容量式センサやレーザ干渉計などを用いて、発生している振動の状況をリアルタイムに検出して対処することで露光品質を向上させる。
これらのセンサから得られた信号、例えば、加速度、速度、変位を周波数解析することで、ピーク振動の周波数を明らかにすることができる。原盤の露光中に常にピーク振動の周波数を周波数解析によって求め、所定の周波数振動からずれている場合には、電源の出力電圧又は出力電流を補正することにより、動吸振器(17)の共振周波数を直動ステージ(13)での振動周波数にリアルタイムで一致させることができる。これにより、外乱がある場合でも常に好適な露光をすることができる。
さらに、電子線による露光の場合には、磁界によって電子の進行方向に変化があると、情報記録の品質が悪化するので、機能性流体又は機能性シートを用いた動吸振器から磁界が漏れないように、非磁性帯のカバーのより動吸振器を覆うことによって磁気シールをしている。
〔参考説明1〕
先ず、機能性流体の動作について、図3を参照しながら参考説明1として説明する。ここでは、機能性流体としてMR流体を用いた場合の振動減衰及び剛性制御(バネ定数制御)の例によって説明する。
温湿度が一定になるようにコントロールされた環境下に除振台(図示せず)を設置し、この除振台の上に、面精度が確保され振動減衰性の良いグラナイト(花崗岩:図示せず)で作られベース(37)を設置し、このベースの中心にエアステージ(31)を設置する。このエアステージ(31)はアクチエータとしてリニアモータ(図示せず)を内蔵しており、該エアステージ(31)とアクチエータは非接触で動作できるので、摩擦要素の影響を極力小さくすることができる。また、分解能と精度の良い位置決めセンサ(図示せず)、例えば分解能0.05nmの光学式変位センサが、上記エアステージの可動部(32)の変位を計測し、その位置情報をエアステージ(31)の制御装置(図示せず)にフィードバックすることにより、エアステージ(31)の移動範囲を±5mmで任意の位置に位置決めすることができる。
上記リニアモータを駆動するドライバはリニアアンプ(図示せず)によって構成されており、該ドライバからのノイズは極力小さくなるようになっている。このように微小振動の発生は、極力小くなるように設計されている。しかしながら、様々な外乱要因、例えば配線や配管経由、大気伝搬、又は除振台上に設置された加振源からの外乱によって、振幅で数〜数10nmの微小振動の混入を避けることは困難である。
従来、機能性流体を用いたダンパでは粘性減衰係数を変化させ、いわゆるダンパのような構成で振動を減衰させていた。しかし、この方法では、比較的振幅の大きな振動、例えば数μm〜数mmオーダの振動には効果があるが、非常に小さな振幅、例えばナノメータレベルの微小振動を減衰させる効果は乏しかった。そこで、MR流体の粘性減衰係数の変化ではなく、バネ定数を変化させることによって、機構(エアステージ(31))の剛性を向上させて該機構の共振点を制御することにより、微小振動を減衰させる。ここで使用している電磁石は一つの例であって、電磁石でも永久磁石でも構わない。また、永久磁石と電磁石を組み合わせることにより、電磁石による発生磁界を弱くすることもできる。
MR流体と構造が似ているものに磁性流体があるが、この磁性流体の磁性体は粒子径が数〜数10nmであるに対して、該MR流体の磁性体は粒子径が数〜数10μmと大きさが異なっている。この構造の違いにより、磁性流体では磁界を印加しても、液体のままで減衰力はほとんど変化しないが、MR流体では磁界を印加することにより、液体から固体に近い状態に変化して、減衰力が大きく変化する。MR流体としては、米国のLORD社のMRF−122−2ED、MRF−132AD、MRF−241ES、MRF−336AG等がある。磁性流体としは、日本のフェローテック社のAPG810、APG820、REN1020、REN1600等がある。
次に、MR流体の動作原理について、図4〜図6を参照しながら参考説明2として詳細に説明する。図4はMR流体槽について拡大した模式図であり、図5はエアステージを数nm〜数10nmの微小振動で加振したときの周波数特性を示す図であり、図6は位置決め装置の基本的な動作を説明する動作フロー図である。
図4は、図3に示された位置決め装置(30)に用いられているMR流体槽の拡大図である。磁石(43)が設置された固定部(41)と、磁石(44)が設置された可動部(42)との間に流路(48)が設けてあり、この流路(48)には紛体又は液体が封入されている。この紛体又は液体は磁界に反応する物質であり、いわゆる磁性体としての性質を持つものである。例えば、紛体であれば砂鉄や磁性紛などであり、液体であれば磁性流体、MR流体又は磁気粘性流体などである。特にMR流体は、通常は液体としての挙動を示すが、磁界の強さに比例して粘性減衰係数やバネ定数が変化して、強磁界下では固体のような挙動を示す物質である。同様の特性を持つものに、電界に反応して粘性が変化するER流体又は電気粘性流体と呼ばれるものも存在するが、MR流体は電気粘性流体に比べて、減衰力の変化量が20〜50倍程度大きいという特徴を持っている。なお、図4に示された符号(46)はMR流体である。
近年、半導体の露光装置、光ディスクの露光装置、及び光素子の測定装置などの分野では、位置決めや位置保持の高精度化が求められており、これらの微小振動は無視することができない。そこで、これらの位置決め装置を、例えばステージに取り付けることによって、位置決めした後でその位置を保持・固定し、保持・固定後は微小振動を減衰することが可能となる。
磁界強度0の一次共振点(51)のグラフは、MR流体(35)をMR流体槽(34)に注入した後、磁石の磁界を0にした場合の特性を表すものである。このグラフに表されているように、一次共振点(51)のゲインは高く、この一次共振点より低い周波数領域、いわゆる低周波領域のゲインも大きくなっている。
次に、磁石から大きな磁界を発生させると、磁界強度大の一次共振点(54)のグラフになる。先の結果と同じように、低い周波数領域のゲインは低下しているが、逆に高い周波数領域のゲインは上がっていることが分かる。この結果より、微小振動を減衰させるには、減衰させたい微小振動の周波数領域や振幅から、磁界の強度を最適な値に制御する必要があることが分かる。
しかし、必ずしもスイッチングが必要というわけではない。磁性流体やMR流体は、せん断速度によって粘性が変わる傾向がある。そこで、可動部(42)を位置決めする際には、ある程度の速度で動かすことにより粘性抵抗を減らし、また任意の位置決め位置では、速度を低下させることによって粘性抵抗を大きくし、位置決め位置では速度が0なので粘性抵抗は最大になる。このような手法を用いれば、磁界のONとOFFのスイッチングをさせることなく、保持力を利用することができる。この場合は、電磁石を用いる必要はなく、また永久磁石とメカ的なスイッチング機構を用いる必要もなく、位置決め装置を構成することができる。
(1) 固定部に対して可動部をアクチエータで移動させ、任意の位置で位置決めする。
(2) 磁石からの磁界が磁気回路を経由してMR流体槽にかかる。
(3) MR流体槽に注入してあるMR流体に磁界がかかる。
(4) MR流体のバネ定数又は粘性減衰係数のどちらか一方、あるいは両方が変化する。
(5) MR流体が液体から固体に近い状態に変化し、機構の可動部が固定される。
(6) 固定された位置で、機構の剛性が高くなり、共振点が高くなる。
(7) 減衰したい微小振動の振幅及び周波数帯に合わせて、磁界の強度を制御する。
(8) 機構が固定され、剛性が高くなって共振点が高くなることで、微小振動が減衰又は除去される。
(9) 磁石の磁界を解除すると、機構の固定は解除される。
13:直動ステージの可動部 14:スピンドル
15:ターンテーブル 16:ガラス原盤(光ディスク原盤)
17:動吸振器
21:直動ステージの可動部 22:スペーサ
23:スライダーの固定部 24:スライダーの可動部
25:付加質量 26:弾性体
27:機能性流体による弾性体 28:支持板
30:位置決め装置 31:エアステージ
32:エアステージの可動部 33:アーム
34:MR流体槽 35:MR流体
36:電磁石 37:ベース
41:固定部 42:可動部
43,44:磁石 45:強磁界部
46:MR流体 47:磁力線
48:流路
51:磁界強度0の一次共振点 52:磁界強度小の一次共振点
53:磁界強度中の一次共振点 54:磁界強度大の一次共振点
Claims (15)
- 光ディスク原盤にレーザ光又は電子線を照射して所定の情報を記録する露光用光学系と、
該露光用光学系から導かれたレーザ光又は電子線を集束する集束手段と、
基台上に取り付けられ直線移動可能な直動ステージと、
該直動ステージの可動部に取り付けられ回転可能なスピンドルと、
上記集束手段に対向して配置された光ディスク原盤を上記スピンドル上に搭載する保持機構と、
上記直動ステージに固定された動吸振器と、
該動吸振器の共振周波数を自在に制御可能な共振周波数制御部とを備えて成る光ディスク原盤露光装置において、
上記動吸振器は可動部と固定部を持つスライダから構成され、
該スライダの可動部の移動方向と上記直動ステージの可動部の移動方向を一致させ、
該直動ステージの可動部又は直動ステージの可動部に固定された支持板に、上記スライダの固定部を固定し、
該スライダの固定部と可動部の間に、磁界や電界を加えることによりバネ定数が変化する弾性体を介在し、
該スライダの可動部に付加質量を加える、
ことを特徴とする光ディスク原盤露光装置。 - 上記弾性体は、機能性流体であることを特徴とする請求項1に記載の光ディスク原盤露光装置。
- 上記機能性流体は、磁気に反応して粘性又は弾性が変化する磁気粘性流体であることを特徴とする請求項2に記載の光ディスク原盤露光装置。
- 上記弾性体は、機能性シートであることを特徴とする請求項1に記載の光ディスク原盤露光装置。
- 上記弾性体は、バネ定数が一定の少なくとも1つの弾性体と、バネ定数を自在に変化することができる弾性体の複数の弾性体から構成されることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の光ディスク原盤露光装置。
- 上記スライダは、上記弾性体と付加質量からなる系の共振周波数を、光ディスク原盤を搭載して回転可能な上記スピンドルの回転周波数と一致させることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の光ディスク原盤露光装置。
- 上記直動ステージは、その移動位置を検出する位置検出手段を備えていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の光ディスク原盤露光装置。
- 上記スピンドルは、その回転数を検出する回転数検出手段を備えていることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の光ディスク原盤露光装置。
- 上記直動ステージの移動位置を検出する位置検出手段の出力信号から、その移動位置でのスピンドルの回転数と回転周波数を演算し、又は上記スピンドルの回転数検出手段の出力信号から、その移動位置でのスピンドルの回転数と回転周波数を検出し、
該スピンドルの回転周波数に上記動吸振器の共振周波数をリアルタイムで一致させることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の光ディスク原盤露光装置。 - 上記直動ステージに加速度センサを設けて、該直動ステージの振動の加速度を検出することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかに記載の光ディスク原盤露光装置。
- 上記直動ステージに速度センサ又は変位センサを設けて、該直動ステージの可動部の速度又は変位を検出することを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれかに記載の光ディスク原盤露光装置。
- 上記加速度センサの加速度信号、上記速度センサの速度信号、又は前記変位センサの変位信号のいずれかを周波数解析してピーク周波数を検出することを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の光ディスク原盤露光装置。
- 上記付加質量の送り方向の振動を検出する振動検出手段と、
該振動検出手段の出力信号からピーク周波数を解析する振動周波数検出手段とを設け、
該振動周波数検出手段の出力信号と上記動吸振器に設定されている共振周波数を比較演算し、
該比較演算結果により上記動吸振器の設定出力を補正して、
該動吸振器の共振周波数を該ピーク周波数にリアルタイムで一致させることを特徴とする請求項12に記載の光ディスク原盤露光装置。 - 上記機能性流体に対する流体漏れ止めシールが施されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の光ディスク原盤露光装置。
- 上記動吸振器は磁気シールされていることを特徴とする請求項1〜請求項14のいずれかに記載の光ディスク原盤露光装置。
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