JP4081795B2 - MgB2超伝導薄膜の作製方法 - Google Patents
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Description
本発明の方法は、化合物成分が混合されて成る薄膜を、化合物の成分のうち融点が高い成分の薄膜で覆った後に、熱処理過程を経て両物質を薄膜内で互いに反応させるものであり、本発明者はこの方法を以下、「キャップメルト法」と称することとする。
バルク体のMgB2 超伝導体は、化合物超伝導体の中では極めて超伝導転位温度が高く、また製造が容易であるため、従来の超伝導電線に代わる超伝導電線として実用化されつつある。また、MgB2 超伝導体はジョセフソン素子等のエレクトロニクス・デバイス材料としても期待されており、エレクトロニクス・デバイスとして使用するためのMgB2 超伝導体薄膜の製造方法が求められている。
一つは、二段階作製法(two−step synthesis)と呼ばれる方法(非特許文献1参照)で、以下のような工程で作製する。まずプレカーサとして基板上にスパッタ、真空蒸着、CVD等の成膜方法によりアモルファスB薄膜を堆積させる。ついで、このB薄膜が堆積した基板を取り出してガラス管中に載置し、さらにMgのバルク体を入れ、高真空に引いてから封をして電気炉中で600〜900℃の高温で熱処理する。すると、蒸気圧の高いMgがガラス管内に蒸気となって満たされ、MgがアモルファスB中に拡散してBと反応し、又は溶融して、MgB2 の金属間化合物超伝導薄膜が作製される。この方法で得られる薄膜は結晶性がよく、単結晶ではないが基板に対してエピタキシャル成長し特定の配向を示す。また、超伝導転移温度は39Kを示し、MgB2 のバルク焼結体と同じ超伝導転移温度が実現できる。しかしながらこの方法は、ガラス管に封入する等の複雑な工程を必要とし、コストが高くなる。
また、成膜後に真空装置から取り出して別の装置で熱処理することを必要とせずにMgB2超伝導薄膜を作製することができるので、複雑な工程を必要としない。また、熱処理によって真空装置が汚染されることがないので、同一真空で、MgB2超伝導薄膜以外の薄膜、例えば、酸化物高温超伝導体薄膜を化合物薄膜上に積層すれば良好な接合が作製でき、従って複合機能超伝導デバイスが作製できる。
また好ましくは、真空は10−7Torr以下の真空である。この真空度におけるMgの酸化は、MgB2超伝導薄膜の特性にほとんど影響を与えない。
初めに、本発明のキャップメルト薄膜作製方法に用いる真空蒸着装置の一例であるパルスレーザー蒸着装置を説明する。なお、実質的に同一の部材には同一の符号を付して説明する。
図1は本発明のキャップメルト薄膜作製方法に用いる真空蒸着装置の一例であるパルスレーザー蒸着装置を説明する図である。パルスレーザー蒸着装置1は、パルスレーザー光2を導入する透明な窓3を有する真空チャンバー4内に、蒸着物質からなる複数のターゲット5,6と、ターゲット5,6を搭載して回転軸7の周りに回転可能なターゲット・ホルダー8と、加熱可能な基板ホルダー9を有している。
図2は、本発明の第一の実施の形態のキャップメルト薄膜作製方法の工程を示す図である。始めに、真空装置内を10-7〜10-8Torrの高真空状態、好ましくは10-9〜10-10 Torrの超高真空状態にする。これは真空度が高いほど、MgB2 の成膜時に不純物の混入(特に酸素によるMgの酸化)を避けられるからである。
ターゲット・ホルダー8を回転し、MgとBから成るターゲット5をパルスレーザー光2の照射位置にあわせ、所定のエネルギーを有するパルスレーザー光2を所定の周波数、時間で照射してターゲット5からプルーム10を生成し、基板ホルダー9に固定された基板11上に、図2(a)に示すように、MgとBから成る所定の膜厚の基礎層12を蒸着する。MgとBから成る基礎層12の成分比は化学量論比であれば好ましいが、化学量論比に近ければよい。次に、ターゲット・ホルダー8を回転し、Bからなるターゲット6をパルスレーザー光2の照射位置にあわせ、所定のエネルギーを有するパルスレーザー光2を所定の周波数、時間で照射してターゲット6からプルーム10を生成し、基板ホルダー9に固定された基板11の基礎層12上に、図2(b)に示すように、Bからなるキャップ層13を所定の膜厚蒸着する。
図3は、本発明の第二の実施形態のMgB2 超伝導薄膜の作製方法の工程を示す図である。真空装置内を10-7〜10-8Torrの高真空状態、好ましくは10-9〜10-10 Torrの超高真空状態にする。
(1)(Mg+B)ターゲット(MgB2 の化学量論比組成よりもMgの割合が多いターゲット)を用いてMg+Bからなる(Mg+B)成分補償層15を成膜する。
(2)MgB2 の化学量論比組成のターゲットを用いて化学量論比組成のMgB2 基礎層16を積層する。尚、この状態ではMgとBは金属間化合物を形成していない。
(3)B単体ターゲットを用いてBから成るB成分補償層17を積層する。
(4)Mg単体ターゲットを用いてMgから成るMg成分補償層18を積層する。
(5)B単体ターゲットを用いてBから成るBキャップ層19を積層する。
なお、上記(3)の工程を省略しても良い。
本発明の第三の実施の形態は、上記第一又は第二の実施の形態において、キャップメルト工程直前まで進めた基板を真空装置より取り出し、この基板の体積とほぼ同じ容積の容器に密封し、真空中、非酸化性雰囲気又は酸化性雰囲気でキャップメルト工程を行うものである。非酸化性雰囲気は、20Torr程度のN2 又はAr雰囲気であれば好ましい。また酸化性雰囲気は、20Torr程度のO2 雰囲気であれば好ましく、この場合には、酸化物超伝導体を酸素雰囲気中で積層すると同時にMgB2 のキャップメルト工程を行うことができる。さらに酸化性雰囲気は、空気中でも良く、通常の電気炉でキャップメルト工程を行えば、低コストで作製できる。
開口部45に基板44を配置して、第一又は第二の実施の形態に示した方法で基礎層とキャップ層、あるいは成分補償層を有する基礎層とキャップ層を作製する。
その後真空装置より取り出し、(b)に示すように、基板ホルダー40の表面に密閉板46をネジ42で固定して密封する。基板44の表面と密閉板46の間に作製される空間はできるだけ小さい方が良く、基板44の表面が密閉板46の面に接触しない程度に上蓋43の厚さを薄くする。この基板44を密閉した基板ホルダー47を真空中、非酸化性雰囲気又は酸化性雰囲気でキャップメルトして化合物薄膜を作製する。
また、基板の体積とほぼ同じ容積の容器に密封するのは、キャップメルト時に基板から散逸されたMgを、できるだけ小さな空間に閉じこめることによって高圧力に保持するためであり、高圧力に保持することによって、基板からのMg散逸を小さくすることができる。また、密閉容器の密閉の程度は、数〜数10μmの表面粗さを有する金属面同士を接触させた際に形成される密閉度でよい。
基板としてMgO(100)面方位基板を用い、Kr;Fパルスレーザ蒸着装置を用いて成膜した。パルス周波数は10Hzであり、真空度は、10-9Torrである。また、上記(1)の工程で使用したターゲットは、中心角30°の扇形のBと中心角150°の扇形のMgをそれぞれ2片づつ交互に組み合わせて円形にしたものを用いた。また、室温の基板に上記(1)〜(5)工程を連続して行った。(1)〜(5)の成膜時間はそれぞれ10分、10分、1分、10分および10分であった。キャップメルト工程は、基板温度を50℃/minの昇温速度で550℃まで上げ、この温度で2分間保持した後、自然冷却させた。この間高真空状態を保った。
図からわかるように、この薄膜は超伝導特性を示し、超伝導転移温度Tcは20.3Kである。なお、この例のMgB2 薄膜の超伝導転移温度は、MgB2 バルクの超伝導転移温度に比べて低いが、その原因は、(Mg+B)成分補償層15とMgB2 基礎層16の膜厚比が適切でなく、MgとBの組成比がずれているためと推定される。
図6は超伝導転位温度のキャップメルト条件依存性を示す図であり、横軸は熱処理温度(Annealing temperature)を示し、縦軸は超伝導転位温度(Critical temperature)を示す。図中の左側のグラフは、熱処理時間(annealing time)を120分に固定して熱処理温度を変化させたグラフであり、右側のグラフは、熱処理時間を2分に固定し、550℃近辺で熱処理温度を変化させたグラフである。なお、グラフのバー記号の上端は、電気抵抗のたち下がりにおける超伝導転位温度(Tc onset )を示し、下端は電気抵抗が完全にゼロになる超伝導転位温度(Tc 0 )を示す。
図から、キャップメルト条件には、熱処理時間に依存した熱処理温度の最適値が存在することがわかる。なお、熱処理時間120分における最適熱処理温度480℃、及び熱処理時間2分における最適熱処理温度550℃から、Mgの拡散の活性化エネルギーは3.1eVと見積もられる。
基板に、MgB2 との格子整合性が最もよいAl2 O3 (0001)面方位基板を使用した。実施例1と同様のパルスレーザー真空蒸着装置及びターゲットを用い、また、成膜条件とキャップメルト条件も同一にして作製した。
本発明のキャップメルト法では、表面に非超伝導相であるBからなるキャップ層が形成されているが、基礎層とキャップ層との結合力が極めて弱いために、窒素ガス吹き付け等の表面を傷つけない手段でキャップ層を除去できる。このためキャップ層は酸化性雰囲気から基礎層を保護すると共に、必要なときに容易に除去できる。
図から、MgB2 超伝導薄膜の表面は極めて平坦であることがわかる。平均二乗粗さ(rms)を測定したところ、1.17nmであった。この値はMgB2 単位胞(a軸長が0.3086nm、c軸長が0.3542nmの六方格子構造)の大きさの3〜4倍に相当し、これまで報告されている中で最も平坦である。このように本発明の方法によれば、表面が極めて平坦なMgB2 超伝導薄膜が得られ、MgB2 超伝導薄膜をエレクトロニクス・デバイスに使用する上で、極めて有用である。
この実施例3は、実施例1の方法でキャップメルト工程直前まで進めた基板を真空装置より取り出し、この基板の体積とほぼ同じ容積の容器に密封し、真空中でキャップメルト工程を行ったものである。
使用した基板ホルダーはインコネル材で作製した。上蓋は厚さが1.0mmであり、中央に5mm×5mmの開口部を有している。開口部に0.5mm×5mm×5mmの基板を配置し、実施例1の方法でMgB2 基礎層、Mgの成分補償層、及びBのキャップ層を成膜した。この基板を真空装置から取り出し、密閉板を取り付けて密封した。この場合、上蓋の厚さが1.0mmであるので、基板表面の前面に約0.5mm×5mm×5mmの空間が形成されるが、この空間はできるだけ小さいことが望ましい。このホルダーを真空装置に戻し、キャップメルト工程を行った。
この実施例4は、実施例1の方法でキャップメルト工程直前まで進めた基板を真空装置より取り出し、この基板の体積とほぼ同じ容積の容器に密封し、20TorrのAr雰囲気中でキャップメルト工程を行ったものであり、キャップメルト工程は650℃、10分であり、使用した密閉容器は実施例3と同一である。
図10は作製したMgB2 超伝導薄膜の超伝導特性を示す図であり、(a)は0Kから280Kまでの抵抗を示しており、(b)は超伝導転位温度を見やすくするため温度範囲を拡大して示した図である。縦軸は抵抗を示し、横軸は測定温度を示している。図から、超伝導転位温度が約27Kに達していることがわかる。この値は、実施例1の約20Kと較べて大幅に改善されている。
この実施例5は、実施例1の方法でキャップメルト工程直前まで進めた基板を真空装置より取り出し、この基板の体積とほぼ同じ容積の容器に密封し、20TorrのN2 雰囲気中でキャップメルト工程を行ったものであり、キャップメルト工程は630℃、30分であり、使用した密閉容器は実施例3と同一である。
図11は作製したMgB2 超伝導薄膜の超伝導特性を示す図であり、(a)は0Kから280Kまでの抵抗を示しており、(b)は超伝導転位温度を見やすくするため温度範囲を拡大して示した図である。縦軸は抵抗を、横軸は測定温度を示している。図から、超伝導転位温度が約28Kに達していることがわかる。この値は、実施例1の約20Kと較べて大幅に改善されている。
この実施例6は、実施例1の方法でキャップメルト工程直前まで進めた基板を真空装置より取り出し、この基板の体積とほぼ同じ容積の容器に密封し、20TorrのO2 雰囲気中でキャップメルト工程を行ったものであり、キャップメルト工程は660℃、30分であり、使用した密閉容器は実施例3と同一である。
図12は作製したMgB2 超伝導薄膜の超伝導特性を示す図であり、(a)は0Kから290Kまでの抵抗を示しており、(b)は超伝導転位温度を見やすくするため温度範囲を拡大して示した図である。縦軸は抵抗を、横軸は測定温度を示している。図から、超伝導転位温度が約31Kに達していることがわかる。この値は、実施例1の約20Kと較べて大幅に改善されている。
この実施例7は、実施例1の方法でキャップメルト工程直前まで進めた基板を真空装置より取り出し、この基板の体積とほぼ同じ容積の容器に密封し、通常の電気炉を使用し、空気中でキャップメルト工程を行ったものであり、キャップメルト工程は500℃、45分であり、使用した密閉容器は実施例3と同一である。
図13は作製したMgB2 超伝導薄膜の超伝導特性を示す図であり、(a)は0Kから290Kまでの抵抗を示しており、(b)は超伝導転位温度を見やすくするため温度範囲を拡大して示した図である。縦軸は抵抗を、横軸は測定温度を示している。図から、超伝導転位温度が約30Kに達していることがわかる。この値は、実施例1の約20Kと較べて大幅に改善されている。
このように、本発明の第三の実施の形態の方法を用いれば、周囲のガス雰囲気によらずに超伝導特性に優れたMgB2 超伝導薄膜が得られる。
2 パルスレーザー光線
3 窓
4 真空チャンバー
5 ターゲット
6 ターゲット
7 回転軸
8 ターゲット・ホルダー
9 基板ホルダー
10 プルーム
11 基板
12 基礎層
13 キャップ層
14 化合物薄膜
15 (Mg+B)成分補償層
16 MgB2 基礎層
17 B成分補償層
18 Mg成分補償層
19 Bキャップ層
20 MgB2 超伝導薄膜
40 基板ホルダー
41 基台
42 ネジ
43 上蓋
44 基板
45 開口部
46 密閉板
47 基板を密閉した基板ホルダー
Claims (6)
- MgB2超伝導薄膜を作製する方法において、
真空中で、
MgとBを成分とする基礎層を基板上に成膜し、
この基礎層上に、Bからなるキャップ層を成膜し、
上記基礎層とキャップ層を積層した基板を、B薄膜の融点未満の温度で熱処理し、
MgB2超伝導薄膜を作製することを特徴とする、MgB2超伝導薄膜の作製方法。 - 前記MgとBを成分とする基礎層を基板上に成膜する際に、MgをBより多く含むMgとBを成分とする成分補償層を初めに成膜し、この成分補償層上に上記基礎層を成膜し、この基礎層上にBを成分とする成分補償層を成膜し、さらに、この成分補償層上にMgから成る成分補償層を成膜することを特徴とする、請求項1に記載のMgB2超伝導薄膜の作製方法。
- 前記MgとBを成分とする基礎層を基板上に成膜する際に、MgをBより多く含むMgとBを成分とする成分補償層を初めに成膜し、この成分補償層上に上記基礎層を成膜し、この基礎層上にMgから成る成分補償層を成膜することを特徴とする、請求項1に記載のMgB2超伝導薄膜の作製方法。
- 前記熱処理において、前記基板を容積が小さい容器に密封し、真空中、非酸化性雰囲気中又は酸化性雰囲気中で、B薄膜の融点未満の温度で熱処理することを特徴とする、請求項1に記載のMgB2超伝導薄膜の作製方法。
- 前記成膜はレーザパルス蒸着法によって行うことを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載のMgB2超伝導薄膜の作製方法。
- 前記真空は、10−7Torr以下の真空であることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載のMgB2超伝導薄膜の作製方法。
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