JP4076026B2 - リポソームディフェンシン - Google Patents
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Description
本出願は、リポソームディフェンシン(defensin)製剤及びその治療用途に関するものである。ディフェンシンは、動物の宿主防御系の蛋白質成分である。それらは、動物において、異常又は老化細胞の他に侵入微生物及び寄生菌を破壊することに関与する特殊細胞中に見出されている。グラム陽性及びグラム陰性菌の両方、真菌並びに寄生菌は、ディフェンシンの作用を受ける(例えば、T. Ganz等、Med. Microbiol Immunol. 181,99(1992)参照)。また、ディフェンシンは、ウイルスを不活性化する。この点について、Daher等(J. Virol. 60(3),1068(1986))は、ヒトディフェンシンが、1型及び2型単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、水疱性口内炎ウイルス、インフルエンザウイルスなどの外被ウイルスを不活性化したと報告した。Ganz等(Eur. J. Haematol. 44,1(1990))は、いくつかのディフェンシンが、培養中の哺乳動物細胞を殺したとを報告している。Lichtenstein等(Blood 68(6),1407(1986))は、ヒトディフェンシンが、マウス及びヒトのリンパ腫細胞を溶解することができたと報告した。ウサギディフェンシンも、マウスリンパ腫に対して細胞毒性を示した。更に、Charp等(Biochem. Pharmacol. 37(5),951(1988))は、ヒトディフェンシン(HNP−1、HNP−2及びHNP−3)が、蛋白キナーゼC活性を抑制したと報告した。
ディフェンシンは、ヒト、ウシ、ウサギ、モルモット、ラットなどの哺乳動物で見出されている。代表的な哺乳動物ディフェンシンは、アミノ酸数が約29〜34で、6個のシステイン残基の保存(conseved)パターンを有する陽イオン両親媒性蛋白質である。しかし、哺乳動物の細胞質顆粒で見出されているディフェンシンが、全てこの基本パターンに合致しているわけではない。例えば、インドリシジン(Indolicidin)は、細胞毒性があり、トリプトファンを多く含み、アミノ酸数が13の、ウシ好中球由来のディフェンシンである(M. Selsted等、J. Biol. Chem. 267(7),4292(1992)参照)。同グループ(M. Selsted等、J. Biol. Chem. 268(9),6641(1993)は、6個の保存システイン残基を有し、サイズ及び構造は若干異なるが、基本型の哺乳動物ディフェンシンと同様の細胞毒活性を有する陽イオン両親媒性蛋白質系のβ−ディフェンシンを単離したことを報告した。当初カエルから得られた蛋白質であるマゲイニン(Magainin)も、哺乳動物のディフェンシンと同様である(例えば、米国特許第4,962,277号及び米国特許第5,045,531号参照)。ディフェンシンは、昆虫でも見出されている(J. Hoffman及びC. Hetru、Immunology Today 13(10),411(1987)参照)。
好中球、好酸球、マクロファージ、キラーリンパ球などの食細胞は、ディフェンシン含有細胞質顆粒を有しており、好中球は、特に豊富なディフェンシン源である。細胞質顆粒は、食作用小胞体(endocytic vesicle)と融合して、ディフェンシンを、侵入微生物などのような細胞内に取り込まれる物質と接触させる(J. Gabay等、J. Exp. Med. 164,1407(1986);W. Rice等、Blood 70(3),757(1987)参照)。
ディフェンシンは、それらの標的の外部リン脂質膜と結合し、浸透可能にすることにより、細胞の浸透圧バランスを乱す(例えば、Ganz等、Med. Microbiol. Immunol. 181,99(1992);Ganz等、Eur. J. Haematol. 44,1(1990);Kagan等、PNAS 87,210(1990);Lichtenstein等、J. Immunol. 140,2686(1988);Lichtenstein等、Blood 68(6),1407(1986)参照)。この浸透可能化(Permeabilization)は、本来、自然に、細胞死を引き起こすのに十分であっても、十分でなくてもよい。標的細胞代謝活性、さらにはディフェンシン作用も、必要とされ得る。
動物において、ディフェンシンの十分な治療能を達成するには、これらの蛋白質が活性な形でそれらの標的に到達するが、動物の正常な細胞に対する付随損傷を避けるようにして、これらの蛋白質を投与しなければならない。これは、ディフェンシンをリポソーム内に取り込むことにより、達成することができる。
リポソームは、内部水性容積(internal aqueous volume)を取り囲む両親媒性脂質分子の一つ又はそれ以上の二分子膜(bilayer)からなる自己集合構造体である。脂質二分子膜を構成する両親媒性脂質分子は、一つ又は二つの非極性(疎水性)アシル鎖と共有結合で結合している極性(親水性)ヘッドグループ領域を含んでいる。疎水性アシル鎖と水性媒体との間のエネルギー的に好ましくない接触によって、極性ヘッドグループが水性媒体に向かって配向し、一方、アシル鎖が二分子膜の内部に向かって再配向するように、脂質分子が再配列される。最終結果は、アシル鎖が、水性媒体と接触することから有効に遮蔽されている、エネルギー的に安定な構造体である。リポソームは、種々の方法により製造することができる(検討のためには、例えば、M. J. Ostro編、「リポソーム、生物物理学から治療まで」、39−72頁、Marcel Dekker(1987)のCullis等を参照のこと)。Banghamの方法(J. Mol. Biol. 13,238−252(1965))によれば、通常のマルチラメラ小胞(multilamellar vesicle、MLV)が作られる。Lenk等(米国特許第4,522,803号(PCT公開番号WO83/03383(10/13/83))、米国特許第5,030,453号、米国特許第5,169,637号)、Fountain等(米国特許第4,588,578号(PCT公開番号WO85/00751(02/28/85))及びCullis等(米国特許第4,975,282号(PCT公開番号WO87/00043(01/15/87))には、実質的に同じ層間溶質分布を有するマルチラメラリポソームの製造方法が開示されている。
ユニラメラ小胞(unilamellar vesicle)は、音波破砕(PaPhadjopoulos等、Biochem. Biophys. Acta. 135,624(1968)参照)又は押出(Cullis等、米国特許第5,008,050号(PCT公開番号WO86/00238(01/16/86)及びLoughrey等、米国特許第5,059,421号(PCT公開番号WO91/00289(01/10/89)参照)によりMLVから製造することができる。Janoff等(米国特許第4,721,612号(PCT公開番号85/04578(10/24/85))及びBolcsak等(米国特許第5,100,662号)には、安定性の高いリポソームを製造するのに、ステロールを使用することが記載されている。これらの開示は、リポソーム製造に関する技術の状態を示すために、ここに参照のために記載した。
リポソームには、受動的に、即ち、水溶性生理活性剤の場合は、リポソームを形成する媒体内にその分子を可溶化することにより、あるいはリポソームを作るリポソーム溶液に脂質溶解性生理活性剤を添加することにより、生理活性剤を装填することができる。イオン化し得る生理活性剤は、積極的に、例えば、リポソーム膜を横切る方向に電気化学ポテンシャル勾配を形成し、その後、リポソームの外側の媒体にその生理活性剤を添加することにより、リポソームに装填することもできる(Bally等、米国特許第5,077,056号参照、その内容は、ここに参照のために記載した。)。
リポソーム内に取り込まれた薬剤は、毒性を低くするか、効能を高めるか、あるいはその両方によって、治療指数を高めることができる。更に、リポソームは、循環における他の微粒子物質と同様に、洞様毛細血管を有する組織内の細網内皮系の食細胞によって取り込まれ、それにより、細胞内感染の部位に向けられることが多い。
出願人は、ディフェンシン及び放出抑制脂質を含み、そのディフェンシンが中和されたディフェンシン、即ちリポソームからの放出が抑制されたディフェンシンであるリポソームを、ここに提供する。米国特許第5,032,574号には、配列が変更されているが、保存哺乳動物ディフェンシン配列に基づいている抗菌性蛋白質を含むリポソームが開示されている。
発明の要旨
この出願は、脂質二分子膜、水性区画(aqueous compartment)及びディフェンシンを含み、そのディフェンシンが中和されたディフェンシンであるリポソームを提供する。リポソームは、ユニラメラでも、マルチラメラでもよいが、マルチラメラであることが好ましい。より好ましくは、リポソームは、その水性区画内に溶質が取り込まれており、各水性区画内の溶質の濃度が実質的に同じであるマルチラメラリポソーム、即ち、実質的に同じ層間溶質分布を有しているマルチラメラ小胞である。ディフェンシンは、リポソームの脂質二分子膜内及び/又はリポソームの水性区画内に含まれることができる。ディフェンシンは、任意の殺菌性及び/又は殺腫瘍性動物宿主防御系蛋白質、例えば、基本型の哺乳動物ディフェンシン、β−ディフェンシン、インドリシジン、マゲイニン又は昆虫ディフェンシンであることができる。現在、好ましいディフェンシンは、インドリシジンである。
この発明のリポソームは、放出抑制脂質を含むことができる。現在、好ましい放出抑制脂質は、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン(POPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)及びジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)にコレステロールを加えたものがあり、コレステロールに対するDSPCの比(モル/モル)は、約3:2であることが好ましい。従って、本発明の現在好ましい実施態様では、ディフェンシンがインドリシジンであり、リポソームは、POPC、DOPC又はDSPCとコレステロールを含む放出抑制脂質を含む。インドリシジン/POPCリポソームは、代表的には少なくとも約0.5モルパーセントのインドリシジンと、高々約99.5モルパーセントのPOPC、好ましくは約5モルパーセントのインドリシジンと約95モルパーセントのPOPCを含む。インドリシジン/(PSPC+コレステロール)リポソームは、代表的には少なくとも約0.5モルパーセントのインドリシジンと、高々約99.5モルパーセントのPSPC+コレステロール、好ましくは約20モルパーセントのインドリシジンと約80モルパーセントのPSPC+コレステロールを含む。インドリシジン/DOPCリポソームは、代表的には少なくとも約5モルパーセントのインドリシジンと、高々約95モルパーセントのDOPCを含む。
ここで提供されるリポソームは、更に、放出抑制緩衝水溶液、ヘッドグループ変性脂質及びその他の生理活性剤を含んでもよい。リポソームの最外層脂質二分子膜に存在するイオン化し得る脂質の約50%よりも多くが、最外層脂質二分子膜の内側の単分子膜(monolayer)に存在していることが好ましい。代表的には、イオン化し得る脂質は、その脂質の少なくとも約5モルパーセントを脂質二分子膜内に含んでおり、望ましくは約10モルパーセントである。本発明の現在好ましい実施態様では、イオン化し得る脂質は、DPDAP(1,2−ジパルミトイル−3−(N,N−ジメチルアミノ)プロパン)を含んでいる。
また、本発明によれば、ディフェンシンを含み、そのディフェンシンが中和されたディフェンシンである脱水リポソームも提供される。更に、薬理学的に許容され得る担体並びに脂質二分子膜、水性区画及びディフェンシンを含み、そのディフェンシンが中和されたディフェンシンであるリポソームを含む医薬組成物が提供される。
ディフェンシン、例えばインドリシジンに敏感に反応する生物による感染を治療又は予防するために、抗感染有効量のこの医薬組成物を動物に投与してもよい。好ましい治療被験体は哺乳動物であり、特にヒト、例えばHIVなどのウイルスにより、又は化学療法により、あるいは臓器移植のために、免疫系が易感染性となっているヒトである。クリプトコッカス又はアスペルギルス真菌による感染などのような、ディフェンシンに敏感に反応する真菌による感染は、本発明のリポソームによって治療することができる。従って、本発明の現在好ましい実施態様は、治療される動物は、免疫の低下したヒトであり、感染は、クリプトコッカス属又はアスペルギルス属による真菌感染を含むものである。
ディフェンシンに反応する癌、例えば白血病やリンパ腫を治療するために、ここに提供される抗癌有効量の医薬組成物を動物に投与することができる。
更に、細胞質顆粒における蛋白質媒介殺菌性及び/又は殺腫瘍性細胞毒活性の欠乏を特徴とする特異顆粒欠乏症候群(Specific Granule Deficiency Syndrome)などの疾患の動物を治療する方法において、ここに提供される細胞毒有効量の医薬組成物を動物に投与することからなる方法がここに提供される。この方法は、このような症候群に苦しみ、微生物にも感染している動物を治療するのに、特に有用であろう。
【図面の簡単な説明】
第1図 インドリシジン水溶液の直角光散乱
10mM HEPES及び150mM NaClを含む、pH7.5の緩衝液に、インドリシジンを種々の濃度で溶解した。サンプルを蛍光キュベットに入れ、500nmの波長(励起波長)での光の散乱を、90度の角度で、蛍光光度計にて測定した。緩衝液のみ(インドリシジンなし)では、相対光散乱は0.4×106であった。縦軸は、相対散乱強度の尺度であり、横軸は、インドリシジン濃度(μg/ml)を示す。
第2図 インドリシジン水溶液の蛍光
インドリシジンを、150mMのNaClを含む、pHが7.5の10mM HEPES緩衝液に溶解した。励起波長を285nmに設定し、発光波長を325nmから450nmまで走査した。発光曲線の下側の面積(縦軸)を、インドリシジン濃度(μg/ml)(横軸)に対してプロットした。図中、挿入図は、インドリシジン濃度が約0.5μg/mlよりも低いところでの傾向を示す。その勾配を示す点線は、大きい方の図にも示されている。3つの勾配が異なっていることは、明白である。低濃度と高濃度との間で、スリット幅を変更した。中間濃度は、適当な正規化を確かめるために、両方のスリット幅で試験した。
第3図 POPC及びDPPC含有リポソームにおけるインドリシジンの保持
POPC(1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン)、POPC/Chol(コレステロール)、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン)及びDPPC/Cholリポソームを、後述のようにして形成し、それらの中にインドリシジンを取り込んだ。初めにリポソームに取り込まれ、48時間後にその中に残っていたインドリシジンのパーセンテージを求め(後述の方法により)、それぞれのリポソーム生成物について示した。
第4図 DOPE含有リポソームにおけるインドリシジンの保持
インドリシジン含有リポソームを、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)と共に、後述のようにして形成した。最初及び連続洗浄後の両方について、リポソーム内のインドリシジン濃度が説明されている。
第5図 DSPC/Chol含有リポソームにおけるインドリシジンの保持
インドリシジン含有リポソームを、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)+コレステロールと共に、後述のようにして形成した。上澄みのインドリシジン濃度、従って当初取り込まれ、その後、リポソームから漏洩したインドリシジンの濃度を、後述の方法に従って求めた。上澄みのインドリシジン濃度(mM)を、第1、第2、第3、第4、第5及び第6洗浄後について示す。
第6図 遊離及びリポソームインドリシジンの蛍光
POPC、DOPC及びDSPC/Chol(3:2)マルチラメラ小胞(MLV)を、細孔サイズが0.1ミクロンの2枚重ね合わせフィルターから50℃で押し出した。得られたリポソームサンプルの一部を、最終脂質濃度が0.1mg/mlとなるように希釈し、0.5μgのインドリシジンが存在する場合と存在しない場合について、蛍光発光プロファイルをとった。発光波長は、325nmから450nmまで走査され、励起波長は、285nmに設定された。A:緩衝溶液中のインドリシジン;B:インドリシジン/DPPC/Cholリポソーム;C:インドリシジン/DOPCリポソーム;D:インドリシジン/POPC/Cholリポソーム;E:インドリシジン/POPCリポソーム
第7図 リポソームインドリシジン系のオーダーパラメーター(order Parameter)
縦軸は、1モルパーセントの濃度でスピンラベル(spin label)、1−パルミトイル−2(12ドキシルステアロイル)ホスファチジルコリンを用い、インドリシジン濃度(モルパーセント、横軸)を高めた際の種々のリポソーム系のオーダーパラメーターに及ぼすインドリシジン添加の影響を示す。白四角:DPPCリポソーム;白三角:DSPCリポソーム;白丸:DSPC/Chol(3:2)リポソーム;星印:DHPCリポソーム;黒四角:POPCリポソーム;黒三角:POPC/Chol/DOTAP(ジオレオイルトリメチルアミノプロパン)(5:4:1)リポソーム;黒丸:POPC/DOTAP(9:1)リポソーム;黒棒:DSPC/Chol/DDAB(ジメチルアミノジオクタデシルアンモニウムブロマイド)リポソーム
第8図 POPC及びDPPC含有リポソーム内のインドリシジンの溶血活性
遊離(取り込まれていない)の形及びリポソーム製剤の一部としての両方のインドリシジンを、赤血球(RBC)でインキュベートした。溶解した赤血球のパーセンテージを後述のようにして測定し、インドリシジン濃度の関数として示す(白四角:遊離インドリシジン;白三角:インドリシジン/POPCリポソーム;白丸:インドリシジン/DPPCリポソーム;黒四角:インドリシジン/DPPC嵌合−融合リポソーム)。
第9図 溶血活性に及ぼすPOPC含有リポソーム内のインドリシジン濃度変更の影響
インドリシジン/POPCリポソームを、後述のようにして調製した。インドリシジン含有小胞(遊離インドリシジンと共に)を、RBCでインキュベートし、溶解した数を求めた(下記の方法に従って)。
インドリシジンによって生じたRBC溶血のパーセンテージを、RBCサンプル中のインドリシジン濃度(mg/ml)の関数として示す(黒四角:遊離インドリシジン;黒三角:POPCリポソーム内に3.8モルパーセントのインドリシジン;星印:2.5モルパーセントのインドリシジン;黒丸:1.8モルパーセントのインドリシジン;黒四角:1.0モルパーセントのインドリシジン;黒三角:0.4モルパーセントのインドリシジン)。
第10図 DSPC/Cholリポソーム内のインドリシジンの溶血活性
後述のようにして、4.8モルパーセントのインドリシジンを有するインドリシジン含有DSPC/Cholリポソームを調製した。このリポソームを、RBCでインキュベートした。溶解した数を後述のようにして求め、RBCサンプル内のインドリシジン濃度を変えて測定したRBC溶血のパーセントとして示す(黒丸:DSPC/Cholリポソーム内に4.8モルパーセントのインドリシジン;黒四角:遊離インドリシジン)。
第11図 赤血球溶血に及ぼす他の脂質の影響
DSPC/Chol及びDSPC/Chol/DDABリポソームを調製し、溶血測定に使用して、RBC溶血に及ぼす上記脂質の影響を測定した。その結果を、RBCサンプルの脂質濃度を種々変更して生ずる溶血パーセント(0及び100パーセント溶血コントロールに対して相対的な)として示す。
第12図 インドリシジン/DOPEリポソームの溶血活性
インドリシジン/DOPEリポソームを調製し、溶血測定に使用した。その結果を、脂質濃度を種々変更して生ずる溶血パーセント(0及び100パーセント溶血コントロールに対して相対的な)として示す。
第14図 リポソームインドリシジン対遊離インドリシジン細胞毒性
濃度(μg/ml)を高めた際の遊離インドリシジン、インドリシジンを含まないリポソーム、及びインドリシジン濃度(μg/ml)(横軸)を高めた際のリポソームインドリシジンによるCHO/K1細胞の生体外成長の特異的抑制を、標準チミジン取り込み測定法により測定した(cpm×103、縦軸)。
第13図 マウスのアスペルギルス感染に対する遊離及びリポソームインドリシジンの治療効力
各Balb/cマウスに2×107個のアスペルギルスフミガタス(A.fumigatus)胞子を感染させ、次いで、PBS緩衝液、遊離インドリシジン、リポソームインドリシジンのいずれかを注射した。15日間にわたって、この動物の生存を監視した。生存率(縦軸)を、日数(横軸)に対してプロットした。
発明の詳細な説明
この発明は、脂質二分子膜、水性区画及びディフェンシンを含み、そのディフェンシンが中和されたディフェンシンであるリポソームを提供する。ディフェンシンは、特殊化された(specialized)動物宿主防御系細胞で見出されるか、あるいはそれによって分泌される殺菌性及び/又は殺腫瘍性の細胞毒性蛋白質、ポリペプチド又はペプチドである。これらの蛋白質は、癌性などの異常又は老化宿主細胞の他に、細菌、真菌及び寄生菌などの感染性生体に対して細胞毒性であることができ、外被ウイルスを不活性化することが分かっている。これらの蛋白質は、ヒト、ウシ、モルモット、ウサギ、ラットなどの哺乳動物で見出されている。それらは、カエル、昆虫、鮫などの非哺乳動物からも得られている。
“基本型哺乳動物ディフェンシン”は、哺乳動物食細胞の細胞質顆粒で見出されている可変的に陽イオン性の蛋白質である。これらのディフェンシンは、代表的には、アミノ酸数が約29〜34で、6個のシステイン残基の保存パターンを有し、両親媒性である。基本型哺乳動物ディフェンシンは、ウサギ、ラット及びモルモットの好中球蛋白質の他に、ヒトの好中球蛋白質1、2及び3(HNP−1、HNP−2及びHNP−3)を含むものである。
非哺乳動物由来のものの他に、他の哺乳動物ディフェンシンを初めとして、その他のディフェンシンも、この基本型パターンとは配列及び/又は構造が異なるが、同様な細胞毒活性を有している。例えば、β−ディフェンシンは、基本型哺乳動物ディフェンシンと同様の一連の細胞毒活性を持つことができ、ウシ好中球から得ることもできるが、コンセンサスアミノ酸配列及び三次元構造が異なる。インドリシジンは、ウシ好中球からも単離することができる、アミノ酸数が13で、殺菌性、殺腫瘍性の細胞毒性蛋白質である。インドリシジンは、基本型哺乳動物ディフェンシンに匹敵する細胞毒活性を有しているが、それらよりも小さく、それらの6個の保存システインを欠いている。昆虫ディフェンシンは、基本型哺乳動物ディフェンシンとはサイズ及び三次元構造が異なるが、陽イオン性でもあり、6個の保存システインのパターンを持っており、高度に両親媒性であって、細胞毒性がある。マゲイニンは、当初、カエルから得られた、陽イオン性で、両親媒性の殺菌性宿主防御系蛋白質である。更に、ディフェンシンは、鮫でも見出されている。
従って、ここで用いられる“ディフェンシン”という用語は、感染、異常又は老化細胞に対する動物の宿主防御系の一成分であり、動物の宿主防御系の細胞で見出されることができるか、あるいはそれによって分泌されることができる殺菌性及び/又は殺腫瘍性の蛋白質、ペプチド又はポリペプチドを意味する。“ディフェンシン”としては、“基本型哺乳動物ディフェンシン”、β−ディフェンシン、インドリシジン、マゲイニン、昆虫ディフェンシン及びその他の動物宿主防御系蛋白質、例えば鮫由来のものなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。“ディフェンシン”という用語は、動物細胞から単離されるか、あるいは合成的に製造された蛋白質を含み、親蛋白質の細胞毒活性を実質的に保持しているが、一つ又はそれ以上のアミノ酸を挿入又は置換することによってその配列が変更されている変異体をも含むものである。現在、本発明のリポソーム製剤で使用する好ましいディフェンシンは、インドリシジンである。
“中和された”ディフェンシンとは、リポソームと結合し、一つ又はそれ以上の小胞成分によってリポソームの二分子膜構造を破壊することが抑制されているディフェンシンである。“中和された”という用語は、リポソームの水性区画内に含まれているディフェンシン、あるいはリポソームの脂質二分子膜に含まれているディフェンシンを意味する。一般に、中和されたディフェンシンは、実質的にリポソームから漏洩せず、その細胞毒活性を保持する。即ち、標的にさらされたとき、標的の二分子膜構造を破壊することができる。ディフェンシンは、脂質二分子膜との相互作用を抑制することによって中和されていることが好ましい。例えば、二分子膜を硬くしててディフェンシンが入り込むのを抑制することにより、あるいはディフェンシンが一般に二分子膜内に入り込まないように、水性区画内でディフェンシンを凝集させることにより、ディフェンシン−二分子膜相互作用を抑制する小胞成分が、ディフェンシンを中和することができる。一方、脂質二分子膜にディフェンシンを安定に挿入することによって、ディフェンシンを中和することができる。小胞成分は、例えば、蛋白質の疎水性部分と好ましいファンデルワールス型相互作用を形成することにより、二分子膜内部に蛋白質のためのスペースを作ることにより、あるいはディフェンシンと好ましい静電気相互作用を形成することにより、ディフェンシンを安定に挿入させることができる。好ましいディフェンシン−二分子膜相互作用により、二分子膜の構造に対する乱れが最小になる。例えば、二分子膜へディフェンシンを添加することによって、二分子膜を乱しながら、二分子膜のオーダーパラメーターの変化を測定して、二分子膜構造の変化を測定することができる。オーダーパラメーターは、当業者に周知の方法で測定できるものであり、二分子膜を構成する脂質の炭素−炭素結合の配向が、二分子膜−水性環境界面に対する垂線に関してどの程度であるかを測定するものである(例えば、「生体膜の構造」(P. Yeagle編)、CRC Press, Inc., Boca Raton(1992)、222〜223頁のS. Gruner、「非ラメラ脂質相」参照、その内容は、ここに参照のために記載した。)。二分子膜構造に対する乱れは、この関係を低下させると期待することができる。ディフェンシンとの好ましい相互作用をもたらす好ましい放出抑制脂質は、オーダーパラメーターの変化が最も少なく、二分子膜構造に対する乱れが最も少ないものである。
リポソームは、内部水性容積を取り囲む一つ又はそれ以上の二分子膜からなる自己集合構造体である。脂質二分子膜は、それぞれが、内部又は外部水性相に隣接した極性(親水性)ヘッドグループを有する両親媒性脂質分子の二つの向かい合った単分子膜と、二分子膜内部に配列された非極性(疎水性)アシル鎖とからなる。ヘッドグループは、リン酸塩、硫酸塩、アミノ又はその他の適当な極性部分であることができるが、リン酸塩基が好ましい。アシル鎖は、代表的には、14〜24炭素原子の長さであり、一つ又はそれ以上の二重結合を有していてもよい。即ち、アシル鎖は、飽和でも不飽和でもよい。安定な脂質二分子膜を形成すると、アシル鎖と周囲の水性環境との相互作用から生ずる疎水性効果、アシル鎖の立体パッキング制限(steric packing constraint)、二分子膜と水性環境との界面における吸引、反発相互作用、二分子膜の曲げ弾性等が、エネルギー的にバランスする。
リポソームは、一つの脂質二分子膜を持つことができる。即ち、リポソームは、ユニラメラ二分子膜でもマルチ二分子膜でもよい。即ち、リポソームは、マルチラメラ(MLV)であることができる。ユニラメラ小胞は、スモールユニラメラ小胞(small unilamellar vesicle、SUV)でも、リポソームの平均直径が約50nmよりも大きいラージユニラメラ小胞(large unilamellar vesicle、LUV)でもよい。
MLVは、脂質を有機溶剤に溶解し、溶剤を蒸発させ、次いで、得られた脂質フィルムに水性媒体を加えることによって、調製することができる(Bangham、J. Mol. Biol. 13,238(1965)参照)。Cullis等(米国特許第4,975,282号)、Lenk等(米国特許第4,522,803号、米国特許第5,030,453号、米国特許第5,169,637号)及びFountain等(米国特許第4,588,578号)は、リポソームが、その水性区画内に取り込まれた溶質を含み、各区画内の溶質濃度が実質的に等しい、即ち、リポソームが、実質的に等しい層間溶質分布を有しているマルチラメラリポソームの製造方法を開示している。
ユニラメラ小胞は、音波破砕(Paphadjopoulos等、Biochem. Biophys. Acta. 135,624(1968)参照)又は加圧下でのフィルターからの押出(Cullis等、米国特許第5,008,050号及びLoughrey等、米国特許第5,059,421号参照)によりMLVから製造することができる。これらの開示は、リポソーム製造に関する技術の状態を示すために、ここに参照のために記載した。
本発明のリポソームは、ユニラメラであっても、マルチラメラであってもよいが、マルチラメラであることが好ましい。多重脂質二分子膜は、リポソームからのディフェンシン放出に対して、より多数の障壁を提供する。マルチラメラリポソームは、通常のMLV、即ち、Bangham等(J. Mol. Biol. 13,238(1965))の方法(両親媒性脂質を有機溶剤に溶解し、溶剤を蒸発させ、次いで、乾燥脂質を水性媒体で再水和する)と同様の方法で製造されたMLVであることができる。このようなMLVは、更に処理されることができる。例えば、一つ又はそれ以上の有機溶剤(例えば、エタノール、メタノール及びクロロホルム)中で、インドリシジンとPOPCの混合物を調製し、有機溶剤を蒸発させ、次いで、乾燥脂質を水性緩衝液で水和することにより、POPC、インドリシジン含有リポソームを調製することができる。得られたリポソームは、通常のMLVであり、Cullis等(米国特許第5,008,050号)及びLoughrey等(米国特許第5,059,421号)の方法により、所定の細孔サイズ(例えば、5ミクロン)のフィルターから押し出して、そのラメラリティー(lamellarity)を低下させ、そのサイズを均一化することができる。しかし、本発明のマルチラメラリポソームは、その水性区画内に取り込まれた溶質を含み、各水性区画内の溶質濃度が実質的に等しい、即ち、マルチラメラリポソームが、実質的に等しい層間溶質分布を有していることが好ましい。例えば、DSPC及びコレステロールと共にリポソームを調製し、通常のMLVよりも浸透圧的に安定にすることができる。
本発明のリポソームは、更に、放出抑制脂質、即ち、リポソームからのディフェンシンの放出を抑制する脂質を含むことができる。“放出抑制脂質”は、一般に、脂質二分子膜内に入り込むことができず、それによって、一般に、二分子膜構造を破壊しないようにして、ディフェンシン−二分子膜相互作用を抑制する脂質であることができる。このような脂質は、例えば、ディフェンシンの帯電した基と静電反発を起こすヘッドグループへの帯電により、また、膜を硬くすることにより、あるいは、二分子膜内部の疎水性アシル鎖と好ましく相互に作用する疎水性ディフェンシン領域の能力を制限することにより、ディフェンシン−二分子膜相互作用を抑制することができる。本発明の放出抑制脂質は、ディフェンシン−二分子膜相互作用を抑制する脂質であることが好ましい。現在、好ましいこのような放出抑制脂質は、DSPC+コレステロールを含み、コレステロールに対するDSPCのモル比が3:2であることが望ましい。一方、放出抑制脂質は、二分子膜内のディフェンシンと好ましく相互に作用することができる脂質でもよい。放出抑制脂質は、疎水性アシル鎖とディフェンシンの疎水性領域との間の好ましいファンデルワールス型相互作用により、ディフェンシンと相互に作用することもできる。放出抑制脂質は、ディフェンシンと共有結合を形成することもできる。ディフェンシンの疎水性部分が二分子膜内に残っている状態で、帯電した脂質ヘッドグループと帯電したディフェンシンの間に、静電相互作用を形成することができる。このような“好ましい”相互作用によって、二分子膜構造の乱れが最少となり、ディフェンシン放出のポテンシャルを最小にする。放出抑制脂質は、ディフェンシンの疎水性領域を二分子膜内部に挿入するための好ましい立体状態を設定することもできる。更に、放出抑制脂質は、ディフェンシンが二分子膜内で細孔を形成しないように、ディフェンシンの疎水性領域を二分子膜に挿入することができる。ディフェンシンと好ましく相互作用する現在好ましい放出抑制脂質は、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン(POPC)又はジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)である。
従って、この発明の一実施態様では、ディフェンシンは、インドリシジンを含み、放出抑制脂質は、POPCを含む。代表的には、インドリシジン/POPCリポソームは、少なくとも約0.5モルパーセントのインドリシジンと、高々約99.5モルパーセントのPOPCを含む。リポソームは、約5モルパーセントのインドリシジンと、約95モルパーセントのPOPCを含むのが望ましい。この発明の他の実施態様では、ディフェンシンは、インドリシジンを含み、放出抑制脂質は、DOPCを含む。代表的には、リポソームは、少なくとも約0.5モルパーセントのインドリシジンと、高々約99.5モルパーセントのDOPCを含む。ここで用いられる場合、脂質又は蛋白質の“モルパーセント”は、存在する合計モル数で脂質又は蛋白質のモル数を割ったもの意味する(即ち、Aのモル数=(A)/(A+B))。
この発明の現在好ましい実施態様では、ディフェンシンは、インドリシジンを含み、放出抑制脂質は、DSPC+コレステロールを含む。DSPCとコレステロールは、DSPC:コレステロールモル比が約3:2となるように存在することが好ましい。代表的には、リポソームは、少なくとも約0.5モルパーセントのインドリシジンと、高々約99.5モルパーセントのDSPCとコレステロールを含み、約20モルパーセントのインドリシジンと、約80モルパーセントのDSPC+コレステロールを含むのが望ましい。
ここに提供されるリポソームは、更に、放出抑制緩衝液を含むことができる。ここで用いられる場合、“放出抑制緩衝液”とは、リポソームに取り込まれたディフェンシンの放出を抑制するか防止する水溶液のことである。このような緩衝液は、蛋白質が脂質二分子膜を破壊するのを抑制することによって、好ましくは、二分子膜とのディフェンシンの相互作用を抑制することによって、ディフェンシンの放出を抑制する。得られた凝集物が一般に脂質二分子膜に入り込まないように、ディフェンシン分子を互いに相互作用させるか、あるいは架橋させることにより、ディフェンシン−二分子膜相互作用を抑制してもよい。種々のディフェンシン分子と陰イオンが静電相互作用を形成するように、ディフェンシンを陰イオン、好ましくはポリアニオン水溶液に入れることにより、ディフェンシンに錯体を作らせることができる。例えば、インドリシジンを50mMクエン酸溶液に入れることにより、インドリシジンを錯体として沈殿させることができる。インドリシジン上の正電荷(分子当たり合計5つ)とクエン酸塩上の負電荷(pH7において、分子当たり合計3つ)との間の静電対生成により、沈殿を促進することができ、蛋白質分子の架橋を示す。架橋し、沈殿したディフェンシンは、小胞を調製する脂質に錯体の水性懸濁液を添加することにより、取り込むことができる。ディフェンシン又はポリアニオンを含むが、両方は含まず、取り込まれなかった物質に対しては透過することができるが、取り込まれた物質に対しては透過できないように、小胞を形成することにより、リポソームにディフェンシン錯体を取り込むこともできる。取り込まれなかった透過し得る物質が、リポソームを取り囲む外部環境に入ると、透過し得る物質が小胞の内部に移動し、静電相互作用によってディフェンシン凝集が生ずるにつれて、小胞内で沈殿ができる。
ここに提供されるリポソームディフェンシンは、更に第二の生理活性剤、即ちディフェンシンに追加して生理活性剤を含んでもよい。ここで用いる“生理活性剤”とは、動物、例えばヒトにおいて、生理活性を有する任意の化合物又は組成物を示す。生理活性剤としては、抗ウイルス性化合物、抗菌性化合物、抗真菌性化合物、抗寄生菌性化合物、代謝拮抗性化合物、抗緑内症性化合物、抗炎症性化合物、抗腫瘍性化合物、ステロール、炭水化物、アミノ酸、ペプチド、蛋白質、免疫グロブリン、免疫調節剤、染料、トキシン、酵素、ホルモン、神経伝達物質、糖ペプチド、放射性標識、放射線不透性化合物、蛍光化合物、細胞受容体蛋白質、細胞受容体リガンド、散瞳性化合物、気管支拡張剤、局所麻酔薬、成長促進剤、再生剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。この第二の生理活性剤は、追加のディフェンシンであってもよい。
ここで提供されるリポソームは、更にヘッドグループ修飾脂質を含むことができる。リポソームは、固定及び循環マクロファージからなる細網内皮系(RES)によって、動物の体から排除される。RES排除を回避することによって、より長時間、リポソームを循環させたままにしておくことができ、このことは、目的とする血清濃度を達成するのに、より少ない薬剤を投与すればよいことを意味する。循環時間が長くなれば、リポソームが、RESを含まない組織を標的にすることもできる。動物に投与した場合、リポソームの表面は、血清蛋白質で被覆されるようになる。RESによる排除速度は、このような蛋白質被覆の程度及びレベルに関係することができる。従って、血清蛋白質の結合が一般に抑制されるように、リポソームの外表面を修飾することによって、排除を抑制することができる。これは、蛋白質結合を促進することができる負の表面電荷を最少にするか、遮蔽することにより、あるいは、そうでなければ、血清蛋白質の結合に対して立体障害を与えることにより、達成することができる。
有効な表面修飾、即ち、RES取り込みを抑制することになるリポソーム外表面に対する変更は、ヘッドグループ修飾脂質をリポソーム二分子膜へ入れることにより、達成することができる。ここで用いられる“ヘッドグループ修飾脂質”とは、動物の循環系における小胞の薬物動力学的挙動を変えるように、リポソームへの血清蛋白質の結合を抑制することができる化学部分、例えばポリエチレングリコール、ポリアルキルエーテル、ガングリオシド、有機ジカルボン酸などをヘッドグループへ結合することにより、その極性ヘッドグループを誘導体化した(derivatize)両親媒性脂質のことである(例えば、Blume等、Biochim. Biophys. Acta. 1149,180(1993);Gabizon等、Pharm. Res. 10(5),703(1993);Park等、Biochim. Biophys. Acta. 1108,257(1992);Woodle等、米国特許第5,013,556号、Allen等、米国特許第4,837,028号及び米国特許第4,920,016号(PCT公開番号WO88/04924(07/14/88))参照、それらの開示の内容は、ここに参照のために記載した。)。本発明によって提供されるリポソームは、更にこのようなヘッドグループ修飾脂質を含むことができる。リポソームに取り込まれるヘッドグループ修飾脂質の量は、当業者によく知られているか、あるいは必要以上の実験を行わなくても当業者が決めることのできる範囲内の多数の要因によって決まる。これらの要因としては、脂質の種類及びヘッドグループ修飾の種類、リポソームの種類及びサイズ並びにリポソームディフェンシン製剤の目的とする治療用途などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。代表的には、リポソーム内のヘッドグループ修飾脂質の濃度は、少なくとも約5モルパーセントであり、約10モルパーセントが望ましい。
本発明のリポソームの脂質二分子膜は、イオン化し得る脂質を含むことができる。イオン化し得る脂質を適当なpHの環境に入れると、一つ又はそれ以上の正又は負の電荷を帯びるであろう。リポソームに取り込まれた蛋白質と、同じ種類の電荷を帯びたリポソームの脂質成分との間の相互作用により、その蛋白質と脂質との間に、静電反発を引き起こす結果となる。このような静電反発は、リポソームからの蛋白質の放出を抑制することができる。ディフェンシンは、一般に陽イオン蛋白質である。従って、イオン化し得る陽イオン脂質が、リポソーム二分子膜に含まれると、ディフェンシンとの間に静電反発を引き起こすことができ、それによって、リポソームからのディフェンシンの放出を抑制することができる。脂質二分子膜に取り込まれるイオン化し得る脂質の量は、ディフェンシン−二分子膜相互作用を防ぎ、それによってディフェンシン放出を抑制することができ、他の点では、リポソーム製剤、安定性及び用途と両立する量であれば、任意の量でよい。この量は、当業者によく知られているか、あるいは必要以上の実験を行わなくても当業者が決めることのできる範囲内の、本発明に与えられた多数の要因によって決まる。これらの要因としては、脂質の種類及び1分子当たりの電荷量、使用されるディフェンシン及びリポソームの種類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。代表的には、リポソーム二分子膜に取り込まれるイオン化し得る脂質の量は、二分子膜内の脂質の約5モルパーセントであり、約10モルパーセントが望ましい。
リポソームの最も外側の脂質二分子膜に存在するイオン化し得る脂質の約50パーセントよりも多くが、最も外側の脂質二分子膜の内側の単分子膜に存在していることが好ましい。脂質二分子膜は、両親媒性脂質分子の二つの向かい合った単分子膜、内側及び外側の単分子膜からなる。リポソームの最も外側の脂質二分子膜は、その外側の単分子膜がリポソームを取り囲む外部環境に接している脂質二分子膜である。イオン化し得る脂質が、脂質二分子膜の内側の単分子膜に蓄積すると、二分子膜で囲まれる水性区画に取り込まれたイオン化し得る蛋白質との間の静電反発力が最大となり、一方、帯電脂質が外部環境にさらされることが最少となるであろう。イオン化し得る脂質は、Hope等(米国特許第5,204,112号(PCT公開番号WO87/07530(12/17/87))及び米国特許第5,252,263号)の方法に従って、二分子膜を横切る方向に電気化学ポテンシャル勾配、例えばプロトン勾配を与えることにより、脂質二分子膜の内側の単分子膜に蓄積させることができる。現在、本発明のリポソームに取り込まれるイオン化し得る脂質は、DPDAP(1,2−ジパルミトイル−3−(N,N−ジメチルアミノ)プロパンであることが好ましい。
本発明は、更に、ディフェンシンを含み、そのディフェンシンが中和されたディフェンシンである脱水リポソームを提供する。リポソームを脱水すると、長期間にわたって小胞を貯蔵することが可能となる。これらは、必要に際し、再構成することができる。標準的な凍結乾燥装置又はその同等装置を用いて、凍結することにより、リポソームを脱水することができる。凍結乾燥は、Schneider等(米国特許第4,229,360号)及びJanoff等(米国特許第4,880,635号(PCT公開番号WO86/01103(02/27/86)、それらの内容は、ここに参照のために記載した。)に記載された方法に従って、一種又はそれ以上の保護糖をリポソーム生成物に混合した後、行うのが好ましい。凍結せずに脱水を行い、十分な水がリポソーム生成物に残されたままにして、脱水−再水和工程を通じてのリポソーム二分子膜の実質的な部分の完全性を維持するのであれば、保護糖を省略することができる。
更に、本発明は、薬理学的に許容され得る担体並びに脂質二分子膜、水性区画及びディフェンシンを含み、そのディフェンシンが、中和されたディフェンシンであるリポソームを含む医薬組成物を提供する。ここで用いられる“薬理学的に許容され得る担体”とは、動物への生理活性剤の投与に関連しての使用を意図する標準的な担体、希釈剤、賦形剤などのどれでもを意味する。このような担体は、当該技術分野ではよく知られており、一般に、用いられる特定の薬剤、目的とする投与経路などの多数の要因に関連して選択され、それらは当業者によりよく理解されているものであり、当業者が決めることのできる範囲内のものである。適当な担体としては、生理食塩水、緩衝水溶液などのような塩溶液を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。この医薬組成物は、当業者によく知られている理由で、更に、防腐剤、酸化防止剤などの補助剤を含むことができる。医薬組成物は、抗感染有効量又は抗腫瘍有効量の医薬組成物を含むことができる単位投与量の形で提供されることができる。
ここで提供される医薬組成物は、動物、例えば哺乳動物、好ましくはヒト、最も好ましくは、HIVなどのウイルスにより、又は化学療法により、あるいは臓器移植のために、免疫系が易感染性となっているヒトにおける感染を治療するか、あるいは予防する方法に用いることができる。これらの方法は、抗感染有効量の使用医薬組成物を動物に投与することからなる。感染は、ウイルス、細菌、真菌、寄生菌、あるいはディフェンシンに敏感に反応するその他の種類の微生物感染であってもよい。種々の抗感染剤に対する感染生体の応答性は、当業者によく知られている容易に利用できる方法、例えば微生物感度テストにより求めることができる。
動物におけるクリプトコッカス及びアスペルギルス感染などのような、ディフェンシンに敏感に反応する真菌感染は、現在、本発明の方法による治療の好ましい対象である。従って、本発明の現在好ましい実施態様では、ここに提供されるリポソームディフェンシンで、免疫の低下したヒトのクリプトコッカス感染又はアスペルギルス感染が治療される。
ディフェンシンの作用は、一般に、種特異性でも、細胞種類特異性でもない。即ち、ある動物から得たディフェンシンは、他の動物においても活性であり、他の動物の細胞の細胞溶解を引き起こすことができる。ある特定のディフェンシンは、種々の微生物及び細胞種類に対して活性であることもでき、一般に、特定の細胞に対する作用に限定されない。従って、本発明の実施においては、種々の微生物感染又は癌について、本来、ある種類の動物から得られたディフェンシンを、他の種類の動物に投与することを考えている。例えば、ウシ好中球由来のインドリシジンを、ヒトの治療に用いることができる。
医薬組成物を動物に投与する方法としては、静脈内、動脈内、眼内、腹腔内、筋肉内、鼻腔内、膣内、皮下、直腸内及び局所投与が挙げられる。ある特定の医薬組成物について選ばれる投与の様式は、当業者によく知られているか、あるいは必要以上の実験を行わなくても当業者が決めることのできる範囲内の多数の要因によって決まるであろう。これらの要因としては、治療対象及びその年齢、大きさ、全身状態、投与される活性剤、治療される病気、疾患、状態などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。現在、好ましい投与経路には、静脈内投与が含まれる。“抗感染有効量”の医薬組成物とは、ディフェンシンに敏感に反応する感染の定着、成長若しくは拡散を抑制又は防止するのに有効な任意の量の医薬組成物を意味する。代表的には、ここに提供される医薬組成物の抗感染有効量は、その組成物を投与する動物の体重1kg当たりリポソームディフェンシン1mg〜約1000mgを含む量であり、望ましくは、医薬組成物の抗感染有効量は、体重1kg当たりリポソームディフェンシン約10mg〜約20omgを含む。この範囲内で、特定の動物に投与される医薬組成物の量、即ち投与量は、当業者によく知られているか、あるいは必要以上の実験を行わなくても当業者が決めることのできる範囲内の多数の要因によって決まるであろう。これらの要因としては、微生物感染の種類及びその進行段階、治療対象及びその年齢、大きさ、全身状態、医薬組成物の好ましい投与経路などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。特定の病気、疾患又は示された状態のために投与される医薬組成物の特定の量は、当業者によく知られている方法、例えば、投与量変更試験(dose ranging trial)よって決定してもよい。
ここでは、更に、動物、例えば哺乳動物、好ましくは白血病やリンパ腫などの、ディフェンシンに対して応答性のある癌で苦しんでいるヒトを治療する方法が提供される。この方法は、抗癌有効量のここに提供される医薬組成物を動物に投与することからなる。本発明の目的のためには、“抗癌有効量”の医薬組成物とは、動物における腫瘍の定着、成長若しくは転移を抑制するのに有効な任意の量の医薬組成物を意味する。代表的には、医薬組成物の抗癌有効量は、その組成物を投与する動物の体重1kg当たりリポソームディフェンシン1mg〜約1000mgを含む量であり、望ましくは、医薬組成物の抗癌有効量は、体重1kg当たりリポソームディフェンシン約10mg〜約200mgを含む。この範囲内で、特定の動物に投与される医薬組成物の量、即ち投与量は、当業者によく知られているか、あるいは必要以上の実験を行わなくても当業者が決めることのできる範囲内の多数の要因によって決まるであろう。これらの要因としては、微生物感染の種類及びその進行段階、治療対象及びその年齢、大きさ、全身状態、医薬組成物の好ましい投与経路などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。特定の病気、疾患又は示された状態のために投与される医薬組成物の特定の量は、当業者によく知られている方法、例えば、投与量変更試験よって決定してもよい。
以下、実施例により本発明を説明するが、これらの実施例が、その後に続く請求範囲で規定された本発明を、単に説明するだけのものであることは、当業者が容易に理解できるところであろう。
実施例
実施例1
インドリシジンの光散乱
150mMのNaClを含有する10mMのHEPES緩衝液(pH7.5)に、種々の濃度でインドリシジンを溶解した。サンプルを蛍光キュベットに入れ、500nmの励起波長での光散乱を、90度の角度で、蛍光光度計にて測定した。
これらの結果(第1図参照)から、インドリシジンは、30μg/ml以上の濃度で、溶液内で自己会合することがわかる。このような自己会合は、インドリシジンの非極性領域が水分子にさらされるのを最少にとどめることができるので好ましい。
実施例2
インドリシジン水溶液の蛍光
pH7.5のHEPES緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl)にインドリシジンを溶解した。励起波長を285nmに設定し、発光波長を325nmから450nmまで走査した。発光曲線の下側の面積を、インドリシジン濃度に対してプロットした(第2図参照)。低濃度と高濃度との間で、スリット幅を変更した。中間濃度は、適当な正規化を確かめるために、両方のスリット幅で試験した。
これらの結果から、水溶液中のインドリシジンの蛍光は、0.5μg/mlまでは、インドリシジン濃度と共に直線的に増加したが、0.5μg/mlと50μg/mlの間の濃度では、急な勾配に変わったことがわかる。50μg/mlを越えると、勾配が緩やかになった。これらの偏位は、インドリシジン濃度が変わると、インドリシジン分子の分子間自己会合が変化することを反映している。
実施例3
インドリシジン/POPCユニラメラリポソームの調製
インドリシジン/POPC溶液(1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン;インドリシジン:POPC=0.085:1(w/w))を、回転蒸発器で乾燥し、次いで、マルチラメラリポソームの懸濁液を形成するように、緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4)で再水和した。次いで、100nmの細孔を有するフィルターからリポソームを押し出して、大ユニラメラ小胞(LUV;Cullis等、米国特許第5,008,050号及びLoughrey等、米国特許第5,059,421号参照、それらの内容は、ここに参照のために記載した。)を製造した。
実施例4
DSPC/Cholマルチラメラリポソームの調製
インドリシジン(エタノール中に66mg)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC、クロロホルム中に56mg)及びコレステロール(Chol、クロロホルム中に19mg)を混合し、次いで、3mlの緩衝液(10mMHEPES、150mMNaCl、pH7.4)を添加した。得られた混合物を、丸底フラスコ内で、ほぼ乾燥させた。次いで、マルチラメラリポソーム(MLV)の懸濁液を形成するように、乾燥リポソームをメタノールと1mlの水で再水和した。MLV懸濁液を真空回転蒸発器に載せ、十分な真空状態で45℃で乾燥して、ペーストにした。次いで、サンプルを冷却し、10mlのHEPES緩衝液を添加した。得られた溶液を30mlのチューブに移し、振り混ぜた(vortexed)。この生成物を遠心分離し、12,000gで10分間回転させた。リポソームは、ペレット化した。ペレット上の上澄みを取り除き、新しい緩衝液と置き換えた。遠心分離によるこの洗浄を更に4回繰り返して、実質的に等しい層間溶質分布を有するマルチラメラリポソームからなり、合計容積が1.7mlとなるように再懸濁された最終ペレットが得られた。
実施例5
ホスファチジルコリン含有リポソームにおけるインドリシジンの保持
インドリシジンと、POPC、POPC/Chol、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン)、DPPC/Cholのいずれかを含むリポソームを、インドリシジン1ml当たり13〜28μg有するインドリシジン/緩衝液及び1.5〜2.5mMの濃度の脂質溶液を用いて調製した。脂質溶液を回転蒸発器で乾燥し、マルチラメラ小胞(MLV)の分散液を形成するように、インドリシジン溶液をこの乾燥脂質に添加した。次いで、実質的に等しい層間溶質分布を有するマルチラメラリポソームを製造するように、これらのMLVを凍結融解サイクル(Cullis等、米国特許第4,975,282号参照、その内容は、ここに参照のために記載した。)に7回かけた。取り込まれなかったインドリシジンをリポソーム生成物から取り除き、サンプルをエタノールに溶解し、UV分光計で280nmにおける吸光度を読みとることにより、最初及び最後のインドリシジン濃度を測定した。
これらのデータ(第3図参照)から、POPC含有リポソームが、48時間後に最高のパーセンテージのインドリシジンを保持し(初めに取り込まれた量の約95%)、DPPC含有リポソームは、それよりも少ない(約75%)量を、POPC/Cholは約55%、DPPC/Cholは約20〜30%を保持したことがわかる。
実施例6
DOPE含有リポソームにおけるインドリシジンの保持
インドリシジン(6mg)を1mlのエタノールに溶解した。これを、20mg/mlのDOPE原液と混合して次の4つのサンプルを作成した。I:2mgDOPE/1mgインドリシジン;II:2mgDOPE/3mgインドリシジン;III:2mgDOPE/6mgインドリシジン;IV:2mgDOPE/0mgインドリシジン。これらのサンプルを、30℃で回転蒸発により乾燥し、次いで、マルチラメラリポソームを形成するように、1mlのHEPES緩衝液で再水和した。石英キュベット内で、一部(25μl)を25μlのHEPES緩衝液及び950μlのエタノールと混合した。リポソームサンプルをエタノールに溶解し、280nmにおける吸光度を読みとることにより、最初のインドリシジン濃度及び連続洗浄後に残っている濃度を測定した。標準リン酸塩測定法(Chen等、Anal. Chem. 28、1956(1956)参照)により、脂質濃度を求めた。
これらのデータ(第4図参照)から、DOPE含有リポソーム中のインドリシジンのモルパーセントが、洗浄によって増加し、最終生成物では約50モルパーセントに達したことがわかる。
実施例7
DSPC/Cholリポソームの漏洩に及ぼすインドリシジンの影響
DSPC(60mg)及びコレステロール(20mg)の溶液を、回転蒸発により乾燥し、次いで、0.5mMのプローブCAT1(ヨウ化4−トリメチルアンモニウム−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)を含む緩衝液(10mMHEPES、150mMNaCl)2mlで、そのプローブを含むマルチラメラリポソームの懸濁液を作成するように、乾燥脂質を再水和した。次いで、これらの小胞の懸濁液を、65℃で110分間加熱した。サンプルを、HEPES緩衝液で4回洗浄し、最終容積が2mlとなるように、緩衝液に再懸濁した。インドリシジン(20mg/ml)の原液も、HEPES緩衝液で調製した。種々の量のこの溶液(下記表1参照)を、リポソーム生成物の一部(100μl)と混合し、次いで、緩衝液を加えて最終容積を0.2mlまでとした。サンプルをマイクロ遠心分離機にかけ遠心脱水し、上澄み液をESRチューブに移した。室温(23℃)でスペクトルをとり、上澄み液サンプル中のプローブの濃度を求めた(Perkins等、Biochim. Biophys. Acta. 943、103(1988)参照)。
データ(下記表1参照)は、上澄み液中に認められるプローブのパーセント、及びそれにより、DSPC/Cholリポソームからの漏洩パーセントを示す。これらの結果から、DSPC/Cholリポソーム中のインドリシジンの濃度が高くなっても、プローブの漏洩は著しく増大しなかった。
実施例8
DSPC/Chol/DDABリポソームからの漏洩に及ぼすインドリシジンの影響
DSPC(51.6mg)、コレステロール(20.2mg)及びジメチルジオクタデシルアンモニウムブロマイド(DDAB、8.23mg)の溶液を、丸底フラスコ内で乾燥した。マルチラメラリポソームの懸濁液を作成するように、0.5mMのプローブCAT1を含む緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl)で、脂質を再水和した。懸濁液を、65℃で10分間加熱し、次いで、10mlのHEPES緩衝液で2回洗浄し、CAT1を含むDSPC/Chol/DDABマルチラメラリポソームからなる最終ペレットを得て、最終容積が2mlとなるように、緩衝液に再懸濁した。標準リン酸塩測定法(Chen等、Anal. Chem. 28、1956(1956)参照)を実施して、残留脂質の量(34.12mg)を求めた。HEPES緩衝液の20mg/mlインドリシジン原液も調製した。
種々の量のこの溶液(下記表2参照)を、リポソーム懸濁液の一部(100μl)と混合し、HEPES緩衝液でサンプルの最終容積を0.2mlまでとした。これらのサンプルを遠心分離し、上澄み液の一部をESRスペクトル測定(23℃)用に採取して、プローブ漏洩を測定した。最もインドリシジン濃度が高い2つのサンプルには、少量のブロードニング剤(broadening agent)を加えた。その結果を表2に示す。
実施例9
DSPC/Chol含有又はPOPC/Chol含有リポソームへのインドリシジンの取り込み
DSPCとコレステロールか、あるいはPOPCとコレステロールのどちらかと、インドリシジンとを、0.1、0.2、0.4及び0.6のインドリシジン:脂質(w/w)比で混合し、その混合物を有機溶剤に溶解し、その溶剤を蒸発させた後、マルチラメラリポソームを形成するように、10mM HEPES緩衝液で乾燥脂質を水和することにより、リポソームを作成した。リポソーム生成物をカラムに通して、取り込まれなかったインドリシジンを除去した。リポソーム生成物をエタノールに溶解し、280nmでの吸光度を読みとり、インドリシジン濃度を求めた。標準リン酸塩測定法(Chen等、Anal. Chem. 28、1956(1956)参照)により、脂質濃度を求めた。そのデータを下記の表3に示す。
実施例10
遊離及びリポソームインドリシジンの蛍光
POPC、POPC/コレステロール(3:2)及びDPPC/コレステロール(3:2)(それぞれ脂質40mg)の乾燥生成物を、マルチラメラリポソームを形成するように、8mM HEPES緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl、pH7.5)で水和して、リポソームを調製した。次いで、これらのMLVを、0.1μmの細孔を有する2枚重ねのポリカーボネートフィルターから50℃で押し出した。各サンプルの一部を、0.1mg/mlの脂質濃度に希釈し、蛍光スペクトルをとった。最終インドリシジン濃度が0.5μg/mlとなるように、リポソームサンプルにインドリシジンを加えた後でも、蛍光プロファイルをとった。散乱を補正するために、インドリシジンを加えないリポソームについて得たスペクトル値を、
インドリシジンを加えた後で得たスペクトルから引いた。緩衝液中の遊離インドリシジンの蛍光図形も得た。励起波長を285nmに設定し、発光図形を325nmから450nmまで走査した。
これらの結果(第6図参照)から、インドリシジンは、DPPC(飽和)二分子膜(C)よりもPOPC(不飽和)二分子膜(E)に対する親和性の方が大きい(遊離及びDPPC会合インドリシジンの相対蛍光間の差よりも、遊離(A)及びPOPC会合インドリシジンの相対蛍光間の差の方が大きい)ことがわかる。コレステロール(膜を硬くする)をPOPC(D)とDPPC(B)の両方に添加すると、インドリシジンのこれらの系に対する親和性が低下する。蛍光の増加及び発光図形のブルーシフト(blue-shift)は、インドリシジンが、検討した他のどの系の場合よりも、二分子膜に深く結合していることを示している。
実施例11
オーダーパラメーター
二分子膜の配列(ordering)に及ぼすインドリシジンの影響を調べるために、オーダーパラメーターの検討を行った。種々のモルパーセントのインドリシジン及び1モルパーセントのスピンラベル、1−パルミトイル−2(12ドキシルステアロイル)ホスファチジルコリンを含むインドリシジン含有DPPC、DSPC、DSPC/Chol(3:2)、DHPC(ジヘキサデシルホスファチジルコリン)、POPC、POPC/Chol/DOTAP(ジオレオイルトリメチルアミノプロパン)(5:4:1)、POPC/DOTAP及びDSPC/Chol/DDAB(ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロマイド)リポソームを調製した。インドリシジン(20mg/ml)の原液を、HEPES緩衝液で調製した。インドリシジンとリポソームとを、インドリシジンに対する脂質のモル比を種々変更して混合した。DPPC(99mg)、DSPC(99mg)、DSPC/Chol(74mg/24mg)、POPC/DOTAP(90mg/10mg)、POPC(99mg)、POPC/DOTAP/Chol(62mg/11mg/25mg)及びDHPC(99mg)を、溶液を形成するように、有機溶剤中で1mgのスピンラベルと混合した。得られた溶液を、丸底フラスコ内で乾燥し、乾燥脂質を、リポソーム(MLV)を形成するように、2.5mlのHEPES緩衝液で再水和した。得られたリポソームサンプルを、クリオ(cryo)チューブに移し、凍結融解サイクル(Cullis等、米国特許第4,975,282号参照)を5回行った。リポソームを、インドリシジン原液の一部と混合して、種々のモルパーセントのインドリシジンを有するリポソームを得た。次いで、得られたリポソームインドリシジン製剤を、それらの相転移温度よりも高い温度で加熱した。ESRスペクトルを、23℃(室温)でとった。これらのデータを、種々のリポソームインドリシジン系のオーダーパラメーターを求めるのに使用した(第7図参照)。
実施例12
リポソーム二分子膜の内側の単分子膜への正帯電脂質の取り込み
HEPES緩衝液(500mM HEPES、pH7.4)及び500mMクエン酸緩衝液を調製した。これらの緩衝液を用いて、290mOsM HEPES(pH7.4)及び290mOsMクエン酸(pH5.3)緩衝液を調製した。
次の脂質を用いて、6つの脂質系を調製した。I:POPC−90モル%/ステアリルアミン(SA)−10モル%(pH5.3)、POPC96.23mg、SA3.79mg;II:POPC−90モル%/ステアリルアミン(SA)−10モル%(pH7.3)、III:DSPC−50モル%/Chol−40モル%/SA−10モル%(pH5.3)、DSPC68.55mg、Chol26.84mg、SA4.68mg;IV:DSPC−50モル%/Chol−40モル%/SA−10モル%(pH7.3);V:DSPC−60モル%/コレステロール−40モル%(pH7.3);VI:POPC(pH7.3)。これらの脂質を含む溶液を乾燥し、乾燥脂質を、示されているようにして、マルチラメラリポソームを形成するように、290mOsM緩衝液の一つに再懸濁する。次いで、これらのリポソームを、フィルターを通し、次のようにして押し出す(Cullis等、米国特許第5,008,050号及びLoughrey等、米国特許第5,059,421号参照、それらの内容は、ここに参照のために記載した。)。POPC:室温で5回、フィルター細孔サイズ=200nm;DSPC/Chol:800nmフィルターを通して3回(65℃)、次いで、200nmフィルターを通して5回(65℃)。
等容積(250μl)のpH5.3のリポソーム生成物(pH5.3のクエン酸緩衝液中で乾燥脂質を水和することにより形成されたリポソーム)とpH11.92のHEPES緩衝液を、最終pHが約7.3となるように混合した。これらのリポソームは、外部水性環境に対して相対的に酸性の内部水性区画を含んでおり、それらの二分子膜を横切る方向にpH勾配を有している。pH7.3の緩衝液中で形成されたリポソーム生成物を、等容積(250μl)の同じpH7.3の緩衝液と混合したが、膜内外pH勾配はなかった。
一般に、帯電脂質は、二分子膜を横切る方向に設けられたpH勾配に応じて、二分子膜の単分子膜の一方に蓄積することができる。従って、帯電脂質は、内側の単分子膜と外側の単分子膜との間で、不均一に分布することができる。即ち、二分子膜内に不整分布を持つことができる(Hope等、米国特許第5,204,112号及び米国特許第5,252,263号参照、それらの内容は、ここに参照のために記載した。)。内部水性区画が外部水性環境に対して相対的に酸性であり、二分子膜内の脂質のpKaよりも低いpHを有している場合、ステアリルアミン(SA)などの脂質は、一般に、二分子膜を横切る方向に設けられたpH勾配に応じて、二分子膜の内側の単分子膜に蓄積することができる。
pH5.3及びpH7.3のリポソームサンプルを振り混ぜ、次いで、室温でインキュベートした(POPC含有リポソーム:10分;DSPC/Chol含有リポソーム:1時間)。各サンプルの一部を少量取り除いて、脂質濃度を測定するために標準リン酸塩測定法(Chen等、Anal. Chem. 28、1956(1956)参照)で使用するのに別にしておいた。次に、200μlの1%ポリアスパラギン酸溶液を各チューブに加え、10分間放置した後、550nmにおける吸光度を記録した。
これらの結果を表4(下記参照)に示す。対照値に対する相対的な吸光度の低下は、帯電脂質(ステアリルアミン)が二分子膜の内側の単分子膜に蓄積することを示す。これらの結果から、POPCリポソームについては、リポソーム内部が外部に対して相対的に酸性である二分子膜を横切る方向のpH勾配に応じて、ステアリルアミンが、内側の単分子膜に蓄積することを示す。ステアリルアミンが、外側の単分子膜から内側の単分子膜へ、DSPC/Chol二分子膜を通って移行するには、DSPC/Chol二分子膜が硬いため、より長い時間がかかる。
実施例13
正帯電リポソームへのインドリシジンの取り込み
DSPC3.59mg、コレステロール1.54mg及びDDAB0.631mgを、100mlの丸底フラスコ内で有機溶剤に溶解することにより、DSPC/Chol/DDAB(DSPC50モルパーセント、コレステロール40モルパーセント,DDAB10モルパーセント)を調製した。このフラスコにHEPES緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl)を加え、サンプルを回転乾燥して、有機溶剤を除去した。更に、5mlのHEPES緩衝液をフラスコに加え、次いで、それを65℃で加熱した。4mlのHEPES緩衝液を更に加えて、サンプルを20,000rpmで20分間遠心分離した。上澄み液をデカントして、保存した。ペレットは、更に4回再洗浄した。最終ペレットを、最終容積が1mlとなるように、HEPES緩衝液中に再懸濁した。インドリシジン濃度は、280nmにおける吸光度分光写真法により求めた。
実施例14
インドリシジン/ホスファチジルコリン含有リポソームの溶血活性
凍結融解サイクルを用いずに、上記の方法に従って、また嵌合−融合(interdigitation-fusion)(IF)小胞の場合は、Janoff等(米国特許出願番号07/961,277及び08/066,539、それぞれ、1992年10月14日及び1993年3月24日出願、それらの内容は、ここに参照のために記載した。)に記載されている方法で、インドリシジン含有POPC及びDPPCリポソームを調製した。赤血球(RBC)サンプルをこれらのリポソームと混合し、生じた溶血の程度を測定した。
用いた溶血測定法は、RBCサンプルの上澄み液中のヘモグロビン濃度を測定するものであり、上澄み液に放出されたヘモグロビンの濃度は、リポソームディフェンシンによって引き起こされた赤血球膜の損傷を示すものである。溶血測定法では、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ヒトの赤血球、ポリスチレンチューブ及びUV分光計で使用するように設計された使い捨てのキュベットを使用した。約3mlの濃縮赤血球を15mlのチューブに入れ、それに10mlのPBSを添加した。RBCを懸濁させ、その懸濁液を4,000rpmで10分間遠心分離した。ペレット上の上澄み液を捨て、更にPBSを加えた。この洗浄工程を、上澄み液がほぼ透明になるまで繰り返した。2mlの最終RBCペレットを、48mlのPBSに懸濁させた。得られたRBC懸濁液を、一組の試験管に分け(試験管当たりRBC懸濁液0.5ml)、それに、追加の緩衝液及びPOPC/インドリシジン又はDPPC/インドリシジンリポソームを加えた。試験管に蓋をして、振り混ぜた後、37℃の培養器内の撹拌器上で20時間インキュベートした。このインキュベーション後、試験管を、低速(<3000rpm)で10分間遠心分離した。各試験管からの上澄み液の一部(0.2ml)を、1.0mlの水を加えたキュベットに入れた。550nmにおける吸光度を測定することにより、上澄み液中のヘモグロビン濃度を求めた。ヘモグロビン濃度は、対照に対する相対的な溶血パーセントとして与えられる。0パーセント溶血対照は、RBCとHEPES緩衝液(インドリシジン含有リポソームを懸濁させた懸濁液と同じ組成)からなり、100パーセント溶血対照は、RBCと蒸留水からなるものであった。
第8図は、遊離インドリシジン(白四角)、POPC/インドリシジンリポソーム(白三角)、DPPC/インドリシジンリポソーム(白丸)、DPPC/インドリシジン嵌合−融合(IF)リポソーム(黒四角)によって引き起こされる溶血のパーセントを示す。これらのデータから、リポソームに取り込まれると、インドリシジンの溶血活性が低下すること、即ち、遊離の形のディフェンシンに比較して、溶血のパーセントが低下することがわかる。
実施例15
インドリシジン濃度の変更によるPOPC/インドリシジンリポソームの溶血活性
POPC/有機溶剤溶液を乾燥し、マルチラメラリポソームを形成するように、インドリシジン含有緩衝液でその溶液を再水和することにより、種々のインドリシジン濃度(モルパーセント)のPOPC/インドリシジンリポソームを調製した。次いで、リポソームサンプルをクリオチューブに移し、凍結融解(Cullis等、米国特許第4,975,282号参照、その内容は、ここに参照のために記載した。)を5回行い、実質的に等しい層間溶質分布を有するマルチラメラ小胞を製造した。
標準リン酸塩測定法(Chen等、Anal. Chem. 28、1956(1956)参照)により、最初及び最終の脂質濃度を求めた。第9図は、遊離インドリシジン(黒四角)及び試験した種々のインドリシジン/POPCリポソーム製剤(インドリシジン3.8モル%:黒三角;2.5モル%:星印;1.8モル%:黒丸;1.0モル%:黒四角;及び0.4モル%:黒三角)によって引き起こされたRBC溶血のパーセンテージを示す。
実施例16
インドリシジン/DPPC(インドリシジン8.27モルパーセント)の溶血活性
500μlのDPPC小ユニラメラ小胞(SUV)に、ゲルを形成するように60mg/mlの脂質濃度で、エタノール(361μl)を加えた。次いで、インドリシジンと共に、1.2mlのDPPCSUV生成物を、振り混ぜながら更に添加した。混合物を加熱、冷却した後、5回洗浄した。最初及び最後のサンプルにおける脂質濃度を、標準リン酸塩測定法(上記参照)により求めた。最初及び最後のサンプルにおけるインドリシジン濃度は、280nmにおける吸光度により求めた。
溶血測定は、前述のようにして行った(実施例14参照)。これらの結果(表5参照)から、RBCサンプルにおけるインドリシジン(DPPC含有リポソーム内に8.27モル%)濃度(mg/ml)が高くなると、溶血の程度が大きくなることがわかる。
実施例17
DSPC/Chol/インドリシジンリポソームの溶血活性
DSPC11.85mg、コレステロール3.87mg及びインドリシジン20mgを丸底フラスコ内で有機溶剤に溶解し、次いで、その溶液を回転蒸発で乾燥することにより、DSPC/Chol/インドリシジンリポソーム(最終インドリシジン濃度=4.8モルパーセントインドリシジン)を調製した。4mlのHEPES緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4)で脂質を再水和し、得られたリポソーム懸濁液を遠心分離チューブに移した。フラスコを緩衝液で洗浄し、次いで、緩衝液を遠心分離チューブに加えた。これらのリポソームを、HEPES緩衝液で5回洗浄し、最終ペレットを、3mlのHEPES緩衝液に懸濁させた。2mgのインドリシジンを1mlのHEPESに溶解して、遊離(取り込まれなかった)インドリシジン対照を調製した。
最初及び最後のインドリシジン濃度を、280nmにおける吸光度により測定した。最初及び最終の脂質濃度は、標準リン酸塩測定法(Chen等、Anal. Chem. 28、1956(1956)参照)により求めた。溶血測定にはリポソームを用い、測定は、前述の方法(実施例14参照)に従って行った。データ(第10図及び表6参照)は、遊離インドリシジン(黒四角)により引き起こされた溶血のパーセンテージ及びRBCサンプルにおける種々のインドリシジン濃度で、DSPC/Chol/インドリシジンリポソーム製剤により引き起こされた(黒丸)溶血パーセントとして示される。
実施例18
DSPC/Cholリポソーム(インドリシジンを含まず)の溶血活性
脂質をクロロホルムに溶解し、次いで、単相(monophase)を形成するように、クロロホルム1容量当たりメタノール2容量を用いて、メタノールを添加することにより(Fountain等、米国特許第4,588,578号参照)、DSPC/Chol及びDSPC/Chol/DDABリポソームを調製した。HEPES緩衝液(10mMHEPES、150mMNaCl、pH7.4)を0.5mlずつ別々に2回添加し、各添加後、かき混ぜた。このサンプルを、室温、次いで60℃で回転蒸発させて、溶剤を除去した。実質的に等しい層間溶質分布を有するマルチラメラリポソームを形成するように、乾燥サンプルをHEPES緩衝液で再水和して、最終容積を4mlとした。これらのリポソームをRBC懸濁液と混合し、上記方法(実施例10参照)に従って溶血測定を行い、脂質の溶血性を測定した。これらのデータ(第11図及び下記表7参照)は、生成物中にインドリシジンを含まずに、種々の脂質濃度で引き起こされる溶血のパーセントを示す。
実施例19
インドリシジン/DOPEリポソームの溶血活性
インドリシジン/DOPE有機溶剤溶液を、丸底フラスコ内で、回転蒸発により乾燥して、DOPE/インドリシジンリポソームを調製した。乾燥脂質を、2mlのHEPES緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl)に再懸濁させた。2mgのインドリシジンを1mlのHEPES緩衝液に溶解して、遊離(取り込まれなかった)インドリシジン対照を調製した。脂質濃度を、リン酸塩測定法(Chen等、Anal. Chem. 28、1956(1956)参照)により求め、インドリシジン濃度を、280nmにおける吸光度を測定することにより求めた。これらのデータ(第12図及び下記表8参照)から、一般に、リポソーム及び遊離型インドリシジンの両方とも、インドリシジン濃度が高くなるにつれて、溶血が増加したこと、また、RBCサンプルでのほぼ同じ濃度では、DOPEリポソームに取り込まれたインドリシジンは、取り込まれなかったインドリシジンとほぼ同じパーセントの溶血を引き起こしたことがわかる。
実施例20
生体外リポソームインドリシジン毒性
1mgのインドリシジンをメタノールに溶解し、得られた溶液をPOPC(11.7mg)クロロホルム溶液(インドリシジン:脂質比が0.85:1)と混合して、リポソームを調製した。回転蒸発器を用いて、真空下で有機溶剤を除去した。乾燥脂質/インドリシジン混合物を、HEPES緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4)で水和した。エクストルーダー(ライペックス(Lipex)社、バンクーバー、カナダ)を用い、二枚重ねの0.1μmニュークレオポア(Nucleopore)フィルターを通して10回押し出した。
チミジン取り込み測定法を用いて、遊離インドリシジン、空の(インドリシジンを含まない)リポソーム又はリポソームインドリシジンによるCHO/K1細胞の生体外成長の特異的抑制を測定した。CHO/K1細胞(20,000個/ウエル)を、96ウエルの平底マイクロタイタープレートの10%FBS含有RPMI−1640培地にプレートし、調湿雰囲気で、5%CO2にて、37℃に保った。この細胞を、種々の濃度の空のリポソーム、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、遊離インドリシジン、リポソームインドリシジンのいずれかにさらし、37℃で4時間培養した。種々のインドリシジン製剤で処理された細胞を、0.5μCi/ウエルの[3H]チミジン(比活性50ci/mmol)(ICNバイオメディカル(Biomedical)社、USA)と共に、更に8時間脈動させた。ブランデル(Brandel)M−96ハーベスター(ブランデル(Brandel)社、MD、USA)を用いて、934AHフィルターペーパーに細胞を集菌した。脂質シンチレーション計数により、[3H]チミジン取り込みを測定した。
これらの結果(第14図参照)から、使用した全てのインドリシジン濃度において、リポソームインドリシジンは、遊離のインドリシジンよりも高度に細胞を成長させた。即ち、リポソームインドリシジンは、遊離のインドリシジンよりも毒性が低かった。
実施例21
生体内毒性
5匹の雄Balb/cマウスからなる4グループの各マウス(20〜22g)に、種々の量(0.75〜12mg/kg)の遊離インドリシジン及び種々の量(20〜120mg/kg)のリポソームインドリシジンを含む、発熱物質を含まない0.2mlの食塩水を、尾静脈から注射した。マウスには、食塩水及び空のリポソームも注射した。これらのマウスの急性毒性を観察し、テスト母集団の50%に対しての致死量である、インドリシジンのLD50量を求めた。
これらの結果(下記表9参照)から、遊離インドリシジンのLD50は3mg/kgであったが、リポソームインドリシジンのそれは80mg/kgであったことがわかる。
実施例22
マウスにおけるアスペルギルスフミガタス(Aspergillus fumigatus)感染の治療
雄のBalb/cマウスに、それぞれ2×107個のアスペルギルスフミガタス胞子を尾静脈から注射した。6時間後、マウスをランダムに10匹ずつ5群に分けた。一つのグループは、2mg/kgの遊離インドリシジンで治療し、第二のグループは、2mg/kgのリポソームインドリシジンで治療し、第三のグループには、40mg/kgのリポソームインドリシジンを投与し、第四のグループは、空のリポソームで治療し、第五のグループは、0.2mlの10mM HEPES緩衝液で治療した。15日間にわたって、動物の生存を監視した。
これらの結果(第13図参照)から、アスペルギルスフミガタス胞子に感染し、緩衝液か又は空のリポソームを投与したマウスは、ほぼ同じ生存率を示したことがわかる。遊離インドリシジン(2mg/kg)を投与すると、生存時間がわずかに長くなった。同じインドリシジン濃度では、リポソームインドリシジンの方が、生存時間が更に長くなった。40mg/kgのインドリシジンを投与したマウスの30%は、治療期間の終わりまで生きていた。
Claims (25)
- パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、又はジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)とコレステロールを包含する脂質を含む脂質二分子膜、水性区画及びディフェンシンを含むリポソームであって、該ディフェンシンが、インドリシジンとマゲイニンとHNP−1とHNP−2とHNP−3とからなる一群から選ばれ、上記水性区画内または上記脂質二分子膜に含まれており、リポソームの二分子膜構造を破壊することが抑制されている中和されたディフェンシンであるリポソーム。
- 上記リポソームが、マルチラメラである請求項1に記載のリポソーム。
- その水性区画内に溶質が取り込まれており、各水性区画内の溶質の濃度が同じである請求項2に記載のマルチラメラリポソーム。
- 上記ディフェンシンが、リポソームの脂質二分子膜内に含まれている請求項1に記載のリポソーム。
- 上記ディフェンシンが、リポソームの水性区画内に含まれている請求項1に記載のリポソーム。
- 上記ディフェンシンが、インドリシジンであり、上記脂質が、POPCを含む請求項1に記載のリポソーム。
- 少なくとも0.5モルパーセントのインドリシジンを含む請求項6に記載のリポソーム。
- 上記ディフェンシンが、インドリシジンであり、上記脂質が、DSPCとコレステロールを含む請求項1に記載のリポソーム。
- 少なくとも0.5モルパーセントのインドリシジンを含む請求項8に記載のリポソーム。
- 上記ディフェンシンが、インドリシジンであり、上記脂質が、DOPCを含む請求項1に記載のリポソーム。
- 少なくとも0.5モルパーセントのインドリシジンを含む請求項10に記載のリポソーム。
- 上記リポソームが、クエン酸水溶液である放出抑制緩衝水溶液を含む請求項1に記載のリポソーム。
- 上記リポソームが、ヘッドグループ修飾脂質を含み、該ヘッドグループに、ポリエチレングリコール、ポリアルキルエーテル、ガングリオシド又は有機ジカルボン酸が結合しており、該ヘッドグループが、リン酸基、硫酸基およびアミノ基からなる群から選ばれる、請求項1に記載のリポソーム。
- 上記脂質二分子膜が、1,2−ジパルミトイル−3−(N,N−ジメチルアミノ)プロパンを含む請求項1に記載のリポソーム。
- 上記リポソームの最外層脂質二分子膜に存在する1,2−ジパルミトイル−3−(N,N−ジメチルアミノ)プロパンの50%よりも多くが、該最外層脂質二分子膜の内側の単分子膜に存在する請求項14に記載のリポソーム。
- 上記最外層脂質二分子膜の1,2−ジパルミトイル−3−(N,N−ジメチルアミノ)プロパンの濃度が、少なくとも5モルパーセントである請求項14に記載のリポソーム。
- 更に、別の生理活性剤を含む請求項1に記載のリポソーム。
- パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、又はジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)とコレステロールを包含する脂質を含む脂質二分子膜、及びディフェンシンを含む脱水リポソームであって、該ディフェンシンが、インドリシジンとマゲイニンとHNP−1とHNP−2とHNP−3とからなる一群から選ばれ、上記水性区画内または上記脂質二分子膜に含まれており、リポソームの二分子膜構造を破壊することが抑制されている中和されたディフェンシンである脱水リポソーム。
- パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、又はジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)とコレステロールを包含する脂質を含む脂質二分子膜、水性区画及びディフェンシンを含むリポソーム、並びに薬理学的に許容され得る担体を含む医薬組成物であって、該ディフェンシンが、インドリシジンとマゲイニンとHNP−1とHNP−2とHNP−3とからなる一群から選ばれ、上記水性区画内または上記脂質二分子膜に含まれており、リポソームの二分子膜構造を破壊することが抑制されている中和されたディフェンシンである医薬組成物。
- 請求項19に記載の医薬組成物の抗感染有効量を含む、動物における感染を治療又は予防するための医薬組成物。
- 上記感染が、ディフェンシンに敏感に反応する真菌によるものであり、該真菌が、クリプトコッカス属又はアスペルギルス属である請求項20に記載の医薬組成物。
- 上記動物が、免疫の低下した動物である請求項21に記載の医薬組成物。
- 上記感染が、クリプトコッカス属による真菌感染を含み、上記動物が、免疫の低下したヒトである請求項20に記載の医薬組成物。
- 上記感染が、アスペルギルス属による真菌感染を含み、上記動物が、免疫の低下したヒトである請求項20に記載の医薬組成物。
- ディフェンシンに反応する癌にかかった動物を治療するための組成物であって、請求項19に記載の医薬組成物の抗癌有効量を含み、ディフェンシンに反応する癌が、白血病又はリンパ腫である医薬組成物。
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