JP4073712B2 - ビーム電流測定装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ビームを遮断せずにイオンビームの電流値を高精度で測定する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ビームを遮断せずにイオンビームの電流値を高精度で測定する方法の主な研究報告がSuperconducting Quantum Interference Devices and Their Applications (Walter de Gruyter, 1977) p.311、Proc.5th European Particle Accelerator Conf., Sitges, 1996(Institute of Physics, 1997) p.1627、日本物理学会誌Vol.54, No.1, 1999に開示されている。これらの方法は、極めて高感度の磁場センサーである超伝導磁束量子干渉計を用いて、ビーム電流がつくる磁場を測定してビーム電流値を決定するものである。装置は、ビーム電流に対応した磁場を検知する検知部と、磁束を測定部に伝達する磁束伝達部と、伝達された磁束に感応する超伝導素子と超伝導素子を貫く磁束の変化を打ち消すように帰還電流を流す帰還コイルを有する測定部と、検知部と磁束伝達部と測定部をイオンビームが流れる空間を含む外部空間から磁気遮蔽する超伝導体からなるギャップを有する磁気遮蔽部によってその主要部が構成されている。検知部は、軟磁性体のコアに超伝導線を巻いたコイルであって、ビーム電流によって発生した磁場を軟磁性体コアで収集してコイルに超伝導電流を誘起する。誘起された超伝導電流は、超伝導磁束量子干渉計の隣に配置したコイルまで伝達される。ビーム電流の変化に対応して、このコイルに流れる超伝導電流が変化することで超伝導磁束量子干渉計を貫く磁束量が変化しようとする。しかし、超伝導磁束量子干渉計を貫く磁束量が変化しないように、変化を打ち消すように帰還コイルに帰還電流を流す仕組みとしている。この帰還電流がビーム電流値の変化に比例しており、帰還電流を測定することでビーム電流値の変化量を決定できる。
【0003】
最近では高温超伝導体を用いたビーム電流値の測定方法が研究されている。IEEE TRANSACTION ON APPLIED SUPERCONDUCTIVITY, VOL.11, NO.1, MARCH 2001 p.635に開示されている方法によると、表面を高温超伝導体でコーティングした円筒を検知部として用いる。ただし、円筒の外周面には一部分だけが高温超伝導体のブリッジ部分を設けておく。円筒の中央を貫いたビーム電流は円筒の表面に表面遮蔽電流を誘起する。ここで、ブリッジ部分には表面遮蔽電流が集中する。そして、集中させた表面遮蔽電流がつくる磁束を超伝導磁束量子干渉計で測定する構成である。
【0004】
このようなビーム電流測定装置をビームの貯蔵リングに設置して、周回するイオンビームがターゲットガスと衝突して軌道がずれて失われるときのビーム電流値の減衰を測定して分子イオンの散乱断面積を調べる物理学の実験が行われている。例えば貯蔵リングに入射したときに数百nAであったビーム電流が数十秒の間に数nAまで減衰する様子が測定されている。日本物理学会誌Vol.54, No.1, 1999によるとビーム電流測定装置の出力の線形性は2.5μA以下まで保たれている。よって数百nAから数nAまで変動するビームを測定するには十分の測定レンジである。具体的にはビームが零のときに超伝導磁束量子干渉計をロックしておき、その後で貯蔵リングにビームを入射させて減衰する様子を測定する。つまりビーム電流が零のときを基準として零の状態からの変化量を測定している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし従来の方法では数μA以上のビーム電流を測定できないという課題があった。例えば半導体製造に用いられているイオン注入装置ではμAから数十mAまでのイオンビームを半導体ウエハに照射する。ドーズ量を制御するために少なくとも1%以下の誤差でビーム電流値を測定することが必要である。このような用途に超伝導磁束量子干渉計を用いた従来のビーム電流測定装置を応用しようとしても、出力の線形性が数μA以下であるために適用できないという課題があった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
ビームの電流値が零でない有限の値で超伝導磁束量子干渉計をロックする。つまりビーム電流が有限の値のときを基準として、その状態からの変化量を測定する。例えばイオン注入装置ではイオン注入するためのビームをほぼ一定に設定した後で超伝導磁束量子干渉計をロックする。そして、その後のビーム電流の変動をビーム電流測定装置で測定する。超伝導磁束量子干渉計をロックしたときの電流値は、後置のファラデーカップで測定しておく。その後、ファラデーカップはビームを遮断しない位置に移動してもよい。または、ロックした後で半導体ウエハなどのターゲットを挿入してビーム照射してもよい。ビーム電流値は超伝導磁束量子干渉計をロックしたときのファラデーカップの測定値と、ビーム電流測定装置での測定値の和を計算して決定する。
【0007】
従来であれば出力の線形性が保たれる範囲外であるために測定できなかった電流値のビームを測定できる。半導体製造のイオン注入に用いられているビームのようにほぼ一定であるがわずかに変動するビームを高精度で測定できる。半導体ウエハなどのターゲットにビームを照射しながら同時にビーム電流の測定ができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の実施例を以下で説明する。
(実験方法)
イオンビームの替わりに巻いた1ターンコイルに模擬電流を流して実験を行った。図1は本発明によるビーム電流測定装置の性能を調べるために用いた回路のブロック図である。模擬電流はビーム電流測定装置ビーム通過孔の軸上付近を通過するように巻いた1ターンコイルに電流を流して作成した。ビーム電流測定装置の出力はオシロスコープの2チャンネル側で測定した。出力は図1のフィードバック抵抗の両端に発生する電位差のことで、これがイオンビームの電流変動に比例する。フィードバック抵抗は4.7kΩとした。必要に応じてオシロスコープの画面をデジタルカメラで撮影した。模擬電流の電圧源はレクロイ社製の任意波形発生器LW420を用いた。電圧を100kΩの抵抗で電流に変換して模擬電流とした。電圧源から10mVの電圧を出力したときは100 nAの模擬電流を流したことになる。電圧源が発生した電圧はオシロスコープの1チャンネル側でモニターした。オシロスコープはTektronix社製のTDS 520Dを用いた。電圧源の設定を変えて三角波、イオン注入装置のビーム電流の変動に似せた波形の模擬電流をそれぞれ流した。
【0009】
(本発明による測定例)
図2は1 Hz三角波の模擬電流に対する出力をプロットしたもので、約±1.3μAの範囲で優れた線形性が得られている。電流感度は6.8mV/nAであった。ビーム通過孔の軸上に張った電線の位置を移動させた場合にも同様の結果が得られ、出力が電流の位置によらないことを確認できた。
【0010】
図3はイオン注入装置のビーム電流変動に似せて設定した模擬電流の電圧源波形である。はじめに零であった電流がある時点で15μAに立ち上がる。立ち上がり時間は1μ秒である。その後、15〜15.24μAの間を約25秒かけて変動し、25秒周期で繰り返す。変動幅は0.24μAであり、すなわち15μAに対して1.6%変動する。このような模擬電流に対する出力を測定した。
【0011】
15μAに立ち上がった後に超伝導磁束量子干渉計をロックして、その後の電流変動を測定した。図4は出力の測定結果である。電流変動の様子を良く再現している。模擬電流の0.24μAの変動に対して出力は0.247μA変動した。すなわち誤差は7nAであった。つまり15μAの模擬電流に対して0.05%の誤差で測定できていることが了解できる。出力変動の時間遅れも認められなかった。
【0012】
なお、±1.3μAの範囲でしか出力の線形性を保てないにも係わらず、15〜15.24μAの模擬電流を測定できたのは以下の工夫による。図5を参照して説明する。最初に模擬電流は零であるが、このとき超伝導磁束量子干渉計は動作させない。15μAの模擬電流が流れ始めた後で超伝導磁束量子干渉計をロックした。こうすることでロックしたときの電流値を中心とする±1.3μAの範囲を測定できる。つまり15±1.3μAの範囲を測定できるようになった。15μAの±8.7%の範囲に相当する。
【0013】
この方法は、本装置センサー部の超伝導磁束量子干渉計はロックした時点からの磁束の変化を測定できるという特徴を利用した方法である。ほぼ一定であるがわずかに変動するようなビームを高精度で測定したいときに広く応用できる。今回は15μAの模擬電流を測定したが、現在の設計から感度を低下させることで誤差と測定範囲を同等にして大電流のビームを測定可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるビーム電流測定装置の性能を調べるために用いた回路のブロック図
【図2】 1Hz三角波の模擬電流に対する出力図
【図3】イオン注入装置のビーム電流変動に似せて設定した模擬電流の電圧源波形図
【図4】 15〜15.24μA模擬電流に対する出力図
【図5】 15〜15.24μA模擬電流を測定するための操作説明図

Claims (5)

  1. ビーム電流に対応した磁場を検知または収集する検知部と、磁束に感応する超伝導磁束量子干渉計と超伝導磁束量子干渉計を貫く磁束の変化を打ち消すように帰還電流を流す帰還コイルを有する測定部を少なくとも有し、零でない有限のビーム電流が検知部を貫いている状態で超伝導磁束量子干渉計をロックすることを特徴とするビーム電流測定装置。
  2. 検知部で検知または収集した磁束を測定部に伝達する磁束伝達部を有することを特徴とする請求項1記載のビーム電流測定装置。
  3. ビーム電流測定装置が設置されたビームラインの後段にファラデーカップを有することを特徴とする請求項1記載のビーム電流測定装置。
  4. 超伝導磁束量子干渉計をロックしたときのビーム電流値をファラデーカップで測定し、ロックした後のビーム電流値の変化量をビーム電流測定装置で測定して両者の和をとることを特徴とする請求項記載のビーム電流測定装置。
  5. 請求項1記載のイオンビーム電流測定装置を備えたイオン注入装置。
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