本実施例では、印刷時に背景部と潜像部の濃度が等しくなるような、背景部と潜像部を構成するパターン(2値画像)である背景閾値パターン、潜像閾値パターンの組み合わせを予め決定しておき、背景閾値パターン、潜像閾値パターン、潜像部と背景部を指定する2値画像である潜像背景領域指定画像、及びカモフラージュ領域を指定する2値画像であるカモフラージュ領域指定画像を用いて論理演算を実行することにより、高速、かつ、省メモリで地紋画像を生成するものである。
尚、背景閾値パターン、潜像閾値パターンは地紋画像の背景部と潜像部の印刷時の濃度を決定するパラメータであり、「地紋濃度パラメータ」の具体的な構成要素とする。
また、1画素単位で地紋画像に対するドットのOn/Offの論理演算を実行し、地紋画像の生成を行うことにより、地紋画像を生成する際に必要となるメモリ量を大幅に削減するものである。
図1は、実施例1における地紋合成印刷装置の内部処理を示すブロック図である。この地紋合成印刷装置は、地紋画像生成部101、合成部102、印刷データ処理部103、印刷部104から構成されている。
まず、地紋画像生成部101には、入力背景画像111、色情報112、処理領域情報113、潜像閾値パターン114、背景閾値パターン115、潜像背景領域指定画像116、カモフラージュ領域指定画像117が入力され、地紋画像118を生成して出力する。地紋画像生成部101は、所定の規則に従って入力背景画像111に画像処理を行い、地紋画像118を生成する。尚、入力背景画像111は多値画像でも2値画像でも良い。また、処理領域情報113は入力画像情報中で地紋の埋め込み処理を行う領域を示す情報である。
潜像背景領域指定画像115は、潜像部と背景部を指定するための画像であり、1画素1ビットで構成される。潜像背景領域指定画像115の一方のビット(例えば1)は潜像部を表し、他方のビット(例えば0)は背景部を表す。カモフラージュ領域指定画像117は、カモフラージュ効果を持たせるために、濃度を薄くする領域を指定するための画像であり、潜像背景領域指定画像115と同様に1画素1ビットで構成される。カモフラージュ領域指定画像117の一方のビット(例えば1)はカモフラージュ領域でないことを示し、他方のビット(例えば0)は周囲に比べて濃度を薄くするカモフラージュ領域であることを示す。
図10は、潜像背景領域指定画像115及びカモフラージュ領域指定画像117の一例を示す図である。図10において、1001は潜像背景領域指定画像115の一例である。1002はカモフラージュ領域指定画像117の一例である。
既に述べたように、背景閾値パターン116と潜像閾値パターン114は、印刷出力時に等しい濃度として出力されるように、適当な画像信号をそれぞれ背景ディザマトリクスと潜像ディザマトリクスの閾値で閾値処理して生成されている。
図11は、潜像閾値パターン114及び背景閾値パターン116の一例を示す図である。図11において、1101は潜像閾値パターンを示し、1102は背景閾値パターンを示す。
次に、地紋画像生成部101で生成された地紋画像118は合成部102に出力される。地紋画像118の生成方法については後に詳しく述べる。
合成部102では、入力原稿画像119と生成された地紋画像118とを合成し、地紋合成出力原稿画像を生成する。尚、入力原稿画像119の内容に関わらず、地紋画像118をそのまま地紋合成出力原稿画像とする場合には、合成部102で入力原稿画像119を参照する必要はない。このとき、地紋画像118や入力原稿画像119を構成するオブジェクト毎にカラーマッチング処理を実行し、その後、入力原稿画像119を構成するオブジェクトと地紋画像118を合成して地紋合成出力原稿画像を生成しても良いし、或いは後段の印刷データ処理部103において、地紋合成出力原稿画像に対してカラーマッチング処理を実行しても良い。
次に、印刷データ処理部103では、OS(Operating System)の描画インターフェース(例えば、Microsoft社のOSであるWindows(登録商標)シリーズのGraphic Device Interface(GDI)やApple Computer社のOSであるMacOSシリーズのQuickDraw等が良く知られている)を介して合成部102で合成された地紋合成出力原稿画像を描画情報として受け取り、逐次印刷コマンドへと変換していく。このとき、必要に応じてカラーマッチング処理やRGB−CMYK変換、ハーフトーン処理などの画像処理を実行する。そして、印刷データ処理部103は、地紋合成出力原稿画像データとして、印刷部104で解釈可能なデータ形式(例えば、ページ記述言語で記述されたデータ形式や印刷ビットマップに展開されたデータ形式)を後段の印刷部104に送る。
印刷部104では、入力された地紋合成出力原稿画像データの情報に従って、地紋合成出力原稿を印刷出力する。ここでレーザビームプリンタの場合を例として説明を行うと、印刷部104は不図示のプリンタコントローラとプリンタエンジンとで構成される。このプリンタコントローラは印刷情報制御部、ページメモリ、出力制御部などで構成される。印刷情報制御部では印刷データ処理部103から送られてくるページ記述言語(PDL)を解析し、描画及び印字に関するコマンドについては、対応するパターンをページメモリに展開する。
ここで必要に応じて、RGB−CMYK変換やハーフトーン処理などの画像処理も実行する。尚、ページ記述言語で記述されたデータ形式ではなく、印刷ビットマップであると判定した場合、イメージデータをそのままページメモリに展開する。
出力制御部はページメモリの内容をビデオ信号に変換し、プリンタエンジンへ出力する。このプリンタエンジンは、例えば記録媒体の搬送機構、半導体レーザーユニット、感光ドラム、現像ユニット、定着ユニット、ドラムクローニングユニット、分離ユニットなどから構成され、公知の電子写真プロセスで印刷を行う。
尚、地紋画像生成部101において、各画素がプリンタの1次色(シアン、イエロー、マゼンダ、ブラック)だけで印刷出力されることを意図して地紋画像を作成している場合、プリンタの1次色(シアン、イエロー、マゼンダ、ブラック)で出力することを想定して表現された各画素が複数の異なる色のインクやトナーで印刷されることは望ましくない。従って、印刷データ処理部103や印刷部104では、地紋合成出力原稿画像中の地紋画像に相当する画素値(例えば、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック)に対しては、1画素の画素値が印刷時に異なる色の複数のインクやトナーで同時に表現され、混色とならないように設定することが望ましい。
具体的には、カラーマッチング等の色変換処理をパスし、ハーフトーン処理を実行した後にも、常に単色のインク又はトナーで各画素が印刷される設定を導入すると良い。但し、インクジェットプリンタで地紋画像の1画素を同じ色の淡インク、濃インク、又は大インクドット、小インクドットで表現する場合はこの限りではない。また、地紋画像の色のバリエーションとして、シアンの画素とイエローの画素をバランスよく配置させて、一見緑色に見える地紋画像を生成することも可能であるが、この場合も、地紋画像の1画素はプリンタの1次色(シアン、イエロー、マゼンダ、ブラック)で構成されているならば、地紋画像の1画素は対応するシアンやイエローのトナー又はインクだけで正確に出力することが望ましい。
しかしながら、地紋画像の1画素をプリンタの1次色(シアン、イエロー、マゼンダ、ブラック)だけで印刷出力しなくとも、地紋の効果を実現する画像を生成することは可能である。地紋画像の1画素が複数の異なる色のインクやトナーで表現されていたとしても、複写後に潜像が残るならば、偽造防止地紋として用いることは可能である。
尚、実施例では、地紋画像、入力原稿画像、地紋合成出力原稿画像、地紋合成出力原稿画像データは全てデジタルデータであり、地紋合成出力原稿は紙に印刷された画像を表すものとする。
次に、図2を用いて、偽造抑止地紋生成装置の内部処理について説明する。
図2は、実施例1における地紋画像生成部101の内部処理手順を示すフローチャートである。初めにユーザインターフェース等を通じてステップS201で、地紋画像生成処理が開始される。次に、ステップS202で、入力背景画像111、背景閾値パターン116、潜像閾値パターン114、潜像背景領域指定画像115、カモフラージュ領域指定画像117を読み込む。
次に、ステップS203で、地紋画像を生成する際の初期画素を決定する。例えば、入力画像全体に対して左上から右下までラスター走査順に画像処理を行い、地紋画像に変更する場合、左上を初期位置とする。
次に、ステップS204では、背景閾値パターン116、潜像閾値パターン114、潜像背景領域指定画像115、カモフラージュ画像117は入力背景画像111の左上からタイル上に配置するとし、処理対象となっている入力背景画像111の画素に対して、以下の式(1)を計算し、印刷時のドットに対応する画素値を書き込むか否かを判定する。このとき画素値は入力された色情報112に対応する。
ここで、式(1)の構成要素の定義を以下に示す。
nCamouflage:カモフラージュ領域指定画像で画素がカモフラージュ領域であれば0、そうでなければ1
nSmallDotOn:背景閾値パターンの画素値が黒であれば1、白であれば0
nLargeDotOn:潜像閾値パターンの画素値が黒であれば1、白であれば0
nHiddenMark:潜像背景領域指定画像で潜像部に相当する画素であれば1、背景部に相当する画素であれば0
/nHiddenMark:nHiddenMarkの否定。潜像部で0、背景部で1となる。
尚、このとき入力背景画像の画素値を参照しながら、印刷時のドットに対応する画素値を書き込むか否かを判定しても良い。この場合、式(1)の右辺に入力背景画像を参照して得られる項目(nBackground)を乗算すると良い。このnBackgroundは、入力背景画像が特定の画素値を持つ領域(白地領域)ならば1、そうでないなら0とする。
また、各処理対象画素で、式(1)の全ての要素を用いて計算する必要はない。以下のように、不必要な計算を省くことで処理の高速化を図れる。
例えば、nHiddenMark=1ならば、/nHiddenMark=0、nHiddenMark=0ならば/nHiddenMark=1となる。従って、nHiddenMark=1ならば、式(2)の値をnLargeDotOnの値とし、nHiddenMark=0ならば、式(2)の値をnSmallDotOnの値とすると良い。
また、nCamouflageの値は全体にかかる積算であり、nCamouflage=0であれば、nWriteDotOn=0となる。従って、nCamouflage=0の場合はnCamouflage以降の式(2)の計算を省略すると良い。
また、生成される地紋画像では、背景閾値パターン116、潜像閾値パターン114、潜像背景領域指定画像115、カモフラージュ領域指定画像117の縦横の長さの最小公倍数の大きさの画像が繰り返しの最小単位となるため、地紋画像生成部101では、繰り返しの最小単位である地紋画像の一部分のみを生成し、その地紋画像の一部分を入力背景画像の大きさにタイル状に繰り返し並べると、地紋画像118の生成にかかる処理時間を短縮できる。
次に、ステップS205では、ステップS204での計算結果(nWriteDotOnの値)を判定する。ここで、nWriteDotOn=1ならばステップS206へ進み、nWriteDotOn=0ならばステップS207へ進む。
このステップS206では、印刷時のドットに対応する画素値を書き込む処理を行う。画素値の値は、地紋画像118の色により変えることができる。黒色の地紋を作成したい場合、入力背景画像111の処理対象画素を黒に設定する。その他、プリンタのトナー又はインクの色に合わせてシアン、マゼンダ、イエローに設定すれば、カラーの地紋画像118を作成することもできる。
入力背景画像111が1画素当たり1〜数ビットの画像データである場合には、インデックスカラーを用いて画素値を表現すれば良い。インデックスカラーとは、画像データの表現方法で、対象とするカラー画像で頻繁に出現する色情報を目次に設定し(例えばインデックス0は白、インデックス1はシアンなど)、各画素の値は色情報を記載した目次の番号で表現する(例えば、1番目の画素値はインデックス1の値、2番目の画素値はインデックス2の値、…と表現する。)
ステップS207では、入力背景画像111の処理対象領域の全画素が処理されたかを判定する。入力背景画像111の処理対象領域の全画素が処理されていない場合はステップS208へ進み、未処理の画素を選択し、再びステップS204〜ステップS206の処理を実行する。また、入力背景画像111の処理対象領域の全画素に対する処理が完了していれば、ステップS209へ進み、地紋画像生成部101における画像処理を終了する。上述の処理により、入力背景画像111に対して画像処理を加えた地紋画像118が生成できる。
次に、実施例での潜像部と背景部におけるドットの配置方法について説明する。実施例では、潜像部をドット集中型ディザマトリクス、背景部をドット分散型ディザマトリクスに基づいて生成する場合について説明する。また潜像部を生成する際に用いるドット集中型ディザマトリクスの代表としては、渦巻き型ディザマトリクスが挙げられる。
図3は、4×4の渦巻き型ディザマトリクスの一例を示す図である。4×4の渦巻き型ディザマトリクスの閾値は渦巻状に中心から数値が増加する形で配置されている。
図4は、図3の4×4の渦巻き型ディザマトリクスを用いて所定の入力画像信号を閾値処理して得られる閾値パターン(ドット配置)を表す図である。図4において、401、402、403は入力画像信号3、6、9を図3のディザマトリクスでそれぞれ閾値処理して得られる閾値パターンを示している。ここで得られる閾値パターン(ドット配置)は、各々のドットが集中して配置されるパターンとなっている。
一方、背景部を構成するドット分散型ディザマトリクスの代表としては、Bayer型ディザマトリクスが挙げられる。Bayer型のN×Nディザマトリクスは次式で表される。
但し、Nは2のべき乗、UNは各要素が1のN×Nマトリックスである。
図5は、4×4のBayer型ディザマトリクスの一例を示す図である。任意の入力画像信号をBayer型ディザマトリクスでディザ処理を行って生成される閾値パターンは、各々のドットが分散して配置されるように設計されている。
図6は、図5の4×4のBayer型ディザマトリクスを用いて所定の入力画像信号を閾値処理して得られる閾値パターン(ドット配置)を表す図である。図6において、601、602、603は入力画像信号2、4、5を図5のディザマトリクスでそれぞれ閾値処理して得られる閾値パターンを示している。ここで得られる閾値パターン(ドット配置)は、各々のドットがお互いに分散して配置されるパターンとなっている。Bayer型ディザマトリクスでは、閾値マトリクスの各要素は相互になるべく接触しない位置に順に配置され、その閾値パターンは孤立した格子状のドット配置を取る。Bayer型ディザでは、ディザマトリクスのサイズが大きくなるとマトリクスによる周期的なテクスチャが目立つ場合も存在するが、特定の階調では、周期的で美しいパターンが得られるメリットがある。
本実施例では、背景に用いるディザマトリクスとして以降、Bayer型ディザマトリクスを用いる場合を中心に説明するが、Bayer型ディザマトリクスに限定するものではない。その他のドット分散型ディザマトリクスを用いても良い。
例えば、ブルーノイズマスクも、背景に用いるドット分散型ディザマトリクスの一例である。このブルーノイズマスクは、任意の階調での閾値パターンが全てブルーノイズ特性を有し、閾値パターンを形成する黒画素の分布がランダムではあるが一様性が高く、粒状性が目立ちにくい。また、ブルーノイズ特性とは、任意の階調に設定した場合の点の出力パターンが局所的に非周期的(locally aperiodic)、かつ等方的(isotropic)で低周波成分が少ないことを意味する。ブルーノイズマスクから得られる閾値パターンはモアレの発生を防止し、紙送りムラを目立ちにくくするなど、視覚的に好ましい出力パターンが得られる長所がある。
また、ブルーノイズマスクでなくとも、特定又は任意の階調での閾値パターンが周期的(又は擬似周期的)、かつ非等方的で低周波成分が少ないドット分散型ディザマトリクスを用いても良い。また閾値パターンを用いる方法ではないが、本実施例では誤差拡散法を用いた背景部の構成も可能である。既に述べたベイヤー型ディザマトリクスやブルーノイズマスクを用いて背景閾値パターンを生成した場合、式(1)における nSmallDotOnの値は背景閾値パターンを参照することで読み出すことが出来る。一方、誤差拡散法を用いる場合は、1画素ごとに背景の濃さに対応する階調と周囲の画素から伝播された誤差分の和を所定の閾値と比較し、処理対象画素におけるドットのOn/Offを決定し、nSmallDotOnの値として用いると良い。このとき、ドットのOn/Offで生じた誤差は重みをつけて近傍画素に分配される。未処理の画素の画素値は背景の濃さに対応する元の入力画素値と分配された誤差の和となっている。なお、背景閾値パターンと同様、背景の濃さに対応する階調は予め準備されているとする。誤差拡散法は処理時間がかかるデメリットがあるが、ドットが均一に分散した視覚特性の良い画像が得られるメリットがある。誤差拡散法については既によく知られているため、本実施例では詳しい説明は省略する。同様に、誤差拡散法を改良した方法も適用可能である。
また、各階調における閾値パターンは、ディザマトリクスに基づき生成しなくてもよい。階調毎に独自に背景閾値パターン、潜像閾値パターンを生成してもよい。この場合、各階調毎に画質のよい閾値パターンを集めることが出来るメリットもある。
図7は、背景閾値パターンと潜像閾値パターンの黒画素の面積比率を比較するための図である。図7に示すように、背景ディザマトリクスの縦と横の大きさをX_S、Y_Sとし、入力画像信号の階調をT_Sとし、潜像ディザマトリクスの縦と横の大きさをX_L、Y_Lとし、入力画像信号の階調をT_Lとする。
そのとき、背景閾値パターン内の黒画素が占める割合はP_S=T_S/(X_S*Y_S)となり、潜像閾値パターン内の黒画素が占める割合はP_L=T_L/(X_L*Y_L)となる。
図8は、入力画像信号をディザマトリクスで閾値処理して得られる閾値パターンの黒画素の面積比率と、閾値パターンを印刷した時の濃度との関係を表す図である。尚、ディザ処理では、入力画像信号の階調に従って黒画素の面積比率が変化するため、図8の横軸を入力画像信号の階調と見ても良い。
ここで、背景部のディザマトリクス(背景閾値パターン)と潜像部のディザマトリクス(潜像閾値パターン)とが同一の辺の大きさを持つ必要はなく、異なる大きさであっても良い。例えば、背景ディザマトリクスと潜像ディザマトリクスの階調特性が801に示すような同一の階調特性の場合、背景部のディザマトリクスと潜像部のディザマトリクスの大きさに関わらず、横軸の値(黒画素の面積比率)がほぼ等しいならば、即ち、P_SとP_Lがほぼ等しくなるような入力画像信号の階調T_S、T_Lの値を用いるならば、背景閾値パターンと潜像閾値パターンの濃度はほぼ等しくなり、潜像が目立たない地紋画像を生成することができる。
しかしながら、実際には、プリンタの特性により、背景ディザマトリクスと潜像ディザマトリクスの階調特性が必ずしも同一になるとは限らない。
例えば、潜像ディザマトリクスの階調特性は802に示すような緩やかなS字カーブで、背景ディザマトリクスの階調特性は803に示すような急峻なS字カーブで表されるとする。このような場合、背景閾値パターンと潜像閾値パターンの黒画素の面積比率をほぼ等しく設定しても、印刷時の背景部と潜像部の濃度は同一にはならない。
背景部又は潜像部の一方、又は双方のディザマトリクスに対する入力画像信号を適当に調節することで、できるだけ他方の印刷時の濃度に近づけることができる。
また、背景ディザマトリクス又は潜像ディザマトリクスで表現可能な階調の数が大きければ、入力画像信号の階調の調整により、背景部又は潜像部の濃度を細かく調整することができる。
潜像ディザマトリクスが、図3に示すようなドット集中型ディザマトリクスの場合、入力画像信号の階調が一定以下となると孤立ドットに近くなり、複写時に潜像部が消失し易くなる。一方、入力画像信号の階調が一定以上となるとドットが集中して、潜像を構成する固まりのドット自体が人の目にはっきりと認識され易くなる。
従って、潜像ディザマトリクスにおいては、取り得る入力画像信号の階調は一定の範囲に留めておいたほうが良い。また図3に示すような潜像ディザマトリクスにおいては、ディザマトリクスのサイズが変化しても入力画像信号の階調が同一であれば、ほぼ同一の集中したドット配置が得られる。従って、潜像ディザマトリクスに対する入力画像信号の階調を一定に保ち、ディザマトリクスのサイズを変化させることで、単位面積あたりの濃度を変えることも可能である。
一方、背景ディザマトリクスが図8に示すようなドット分散型ディザマトリクスの場合、入力画像信号の階調を変化させることで全体的に均一にドットを打ちながら濃度を変化させることができる。従って、背景ディザマトリクスの階調が広い(即ち、ディザマトリクスの大きさが大きい)方が背景部の濃度調整に優れていると言える。
尚、プリンタで偽造抑止地紋を出力する場合、プリンタの濃度変動に対して調整を行うための調整機能が必要となってくるが、これについては、後に詳しく述べる。
図9は、図1の地紋合成印刷装置を用いて地紋画像を生成する様子を示す模式図である。図9において、901、902、903はそれぞれ、潜像閾値パターン、背景閾値パターン、潜像背景領域指定画像を示し、904は式(1)に基づいて生成した地紋画像を示す。尚、904の生成段階ではカモフラージュ模様は導入されていない。
図9に示す地紋画像904では、丸で囲んだ領域910に示すように、潜像背景領域指定画像903の潜像と背景の切り替わり部分で潜像閾値パターンと背景閾値パターンが合体したドットの固まりが生成されている。このドットの固まりは、潜像背景領域指定画像903の潜像と背景の切り替わりと潜像閾値パターンの大きさが同期していないときに生じ易い。また、このドットの固まりは、潜像背景領域指定画像の潜像と背景の切り替わる部分にのみ集中して現われるため、潜像の概形が目立ち、偽造抑止地紋の効果が薄れるデメリットを生ずる。
従って、高画質の地紋画像を生成するためには、潜像背景領域指定画像の潜像と背景の切り替わりでドットの固まりが生じないようにする処理がある。
実施例では、以降、潜像背景領域指定画像の潜像と背景の切り替わりでドットの固まりが生じないようにする処理を「バウンダリ処理」と呼ぶことにする。このバウンダリ処理の一例としては、繰り返し配置された潜像閾値パターンの中心(潜像閾値パターンの一辺の半分を切り捨てした画素分だけ左上から移動した画素を中心とする)に対応する、繰り返し配置された潜像背景領域指定画像の画素値のみを読み取ってHiddenMarkLatticeの値とし、同一の潜像閾値パターン内部に属する画素では同一のHiddenMarkLatticeの値を用いて処理する方法がある。この処理方法を数式で表現すると以下となる。
この方法を用いると、画像の端で無い限りは、潜像閾値パターンは周囲に潜像閾値パターンの白地を伴って構成される。従って、潜像閾値パターンの黒画素の周囲に白地が存在する場合、白地が緩衝地帯となって潜像閾値パターンの黒画素と背景閾値パターンの黒画素が接することが無くなり、潜像背景領域指定画像で指定する潜像と背景の切り替わる部分が目立つことが無くなる。
図9に示す905はバウンダリ処理を行った地紋画像である。905では潜像背景領域指定画像で指定する潜像と背景の切り替わり部分で潜像閾値パターンと背景閾値パターンが合体したドットの固まりが生じていないことが分る。
また、別のバウンダリ処理の一例としては、入力される潜像背景領域指定画像における潜像と背景の切り替わりを潜像閾値パターンの大きさに同期するように前処理する方法がある。この方法では、まず、潜像背景領域指定画像内に潜像閾値パターンを繰り返し配置し、潜像閾値パターンの中心に対応する潜像背景領域指定画像の画素値を読み取り、サブサンプリングした潜像背景領域指定画像を生成する。次に、サブサンプリングした潜像背景領域指定画像を新たに1画素が潜像閾値パターンの大きさの整数倍となるように拡大し、修正した潜像背景領域指定画像を作成する。最後に、修正した潜像背景領域指定画像に対し、式(1)に基づいて地紋画像を生成すれば、910に示すようなドットの固まりを生じずに、地紋画像を生成することができる。
地紋生成部101に上述の「バウンダリ処理」を追加すると、潜像背景領域指定画像で指定する潜像と背景の切り替わり部分を潜像閾値パターンの大きさと同期させて潜像背景領域指定画像を作成する必要が無いため、利用者にとっても使い勝手が良い。
図12は、バウンダリ処理により地紋生成部101で生成された地紋画像の一部を示す図である。図12で示す地紋画像を生成する際には、潜像背景領域指定画像、カモフラージュ領域指定画像は、それぞれ図10に示す1001、1002の画像を用い、潜像閾値パターン、背景閾値パターンは、それぞれ図11に示す1101、1102の画像を用いている。尚、1001、1002、1101、1102の画像を囲む破線は画像の境界を示しており、実際の画像には存在しない。図12の地紋画像はバウンダリ処理が施されているため、潜像部と背景部の境界でドット固まる現象が起きておらず、潜像部が判別しにくくなっている。
次に、上述した地紋生成部101で生成された地紋画像と入力原稿画像(例えば、帳票や証明書)を合成する合成部102における処理について説明する。
図13は、入力原稿画像と地紋画像の合成処理を示す模式図である。図13において、1301はテキスト属性のデータ、1302はグラフィック属性のデータ、1303はイメージ属性の地紋画像を表している。
合成部102では、OSの描画インターフェースを用いて,1301〜1303の夫々の画像を配置に関する優先順位(レイヤー構造)に従ってソフトウェア的に重ね合わせ、1304に示すようなテキスト属性のデータ、グラフィック属性のデータ、イメージ属性の地紋画像が合成された画像を生成する。この処理はコンピュータの一般的なアプリケーションであるドローイングソフトにおける画面描画(ディスプレイ描画)とほぼ同様の処理である。尚、合成部102ではOSの描画インターフェース処理に頼ることなく、独自に画像の合成処理を行っても良い。
図13に示す例では、イメージ属性の地紋画像1303は、テキスト属性のデータ1301、グラフィック属性のデータ1302と比べて最下位のレイヤーとして重ね合わせられている。例えば、イメージ属性の地紋画像1303とテキスト属性のデータ1301が重なる位置では、テキスト属性のデータ1301を優先して描画する。従って、地紋画像は入力原稿画像の背景に適切に配置され、テキスト属性のデータやグラフィック属性のデータの視認性を低下させることは無い。
また、図13に示す例では、地紋画像1303は入力画像と同じ大きさの画像となっているが、一部の領域にのみ地紋画像を重ね合わせたい場合には、地紋画像生成部101で一部の領域に相当する大きさの入力背景画像を入力し、入力した画像サイズに一致する地紋画像だけを生成し、合成部102で入力原稿画像と合成すれば良い。生成する地紋画像が小さい分だけ、地紋画像生成部101での処理を高速化できる。
また、合成部102で出力する地紋合成出力原稿画像はOSの描画インターフェースで表現されたデータであっても良いし、合成された結果のビットマップ画像であっても良い。そして、この合成部102で生成された地紋合成出力原稿画像は後段の印刷データ処理部103に送られる。
印刷データ処理部103では、OSの描画インターフェースを介して、合成部102で合成された地紋合成出力原稿画像を描画情報として受け取り、逐次印刷コマンドへと変換していく。このとき、必要に応じてカラーマッチング処理やRGB−CMYK変換、ハーフトーン処理などの画像処理を実行する。そして、印刷データ処理部103は、地紋合成出力原稿画像データとして、印刷部104で解釈可能なデータ形式(例えば、ページ記述言語で記述されたデータ形式や印刷ビットマップに展開されたデータ形式)を後段の印刷部104に送る。
印刷部104では、入力された地紋合成出力原稿画像データの情報に従って、地紋合成出力原稿を印刷出力する。
図14は、様々な画像が既に合成されたレイヤー構造をもたない入力原稿画像に対して地紋画像を合成する方法を示す模式図である。図14において、1401は様々な画像が既に合成されたレイヤー構造をもたない入力原稿画像であり、1402は特定の画素値を持つ領域(例えば白地領域)で地紋画像を配置したい領域を示している。
尚、入力原稿画像1401のその他の領域は特定の画素値を持たない(例えば白地領域でない)とする。
図15は、様々な画像が既に合成されたレイヤー構造をもたない入力原稿画像に対して地紋画像を合成するための地紋合成印刷装置の内部構成を示すブロック図である。図15に示す地紋合成印刷装置は、様々な画像が既に合成されたレイヤー構造をもたない画像(例えば1401)に対して地紋画像を合成する場合に適している。
図15に示すように、この地紋合成印刷装置は、地紋画像合成出力原稿生成部1501と印刷データ処理部1502、印刷部1503から構成されている。まず、地紋画像合成出力原稿生成部1501には、入力原稿画像、色情報、処理領域情報、潜像閾値パターン、背景閾値パターン、潜像背景領域指定画像、カモフラージュ領域指定画像、が入力され、地紋画像合成入力原稿を生成出力する。
また、地紋画像合成出力原稿生成部1501では、入力原稿画像の特定の画素値を持つ領域(例えば白地領域)を検出し、その領域にのみ地紋画像を合成し、地紋画像合成入力原稿画像を出力する。具体的には、式(3)に対して入力原稿画像を参照する項目(nBackground)を積算した以下の式を用いて、入力原稿画像中の画素に地紋画像に相当する画素値を書き込むか否かを判定する。
ここでnBackgroundは入力原稿画像が特定の画素値を持つ領域(白地領域)ならば1、そうでないなら0とする。
図1に示した地紋画像生成部101と同様に、地紋画像合成出力原稿生成部1501においても不要な計算を省くことで高速化を実現できる。nBackgroundは全体に対する積算であるため、nBackground=1となる画素に対してのみ、式(3)を計算し、地紋画像に相当する画素値を書き込むか否かを判定する。
入力原稿画像の画素値を参照する以外は、図1に示した地紋生成部101とほぼ同様の処理を行うため、詳しい説明は省略する。
地紋画像合成出力原稿生成部1501で生成した地紋合成出力原稿画像は、印刷データ処理部1502に出力される。印刷データ処理部1502では、図1の印刷データ処理部103とほぼ同じ処理を行う。このとき、地紋画像が合成された領域は1画素の画素値が印刷時に異なる複数のインクやトナーで表現されて混色のドットと成らないように、カラーマッチング等の色変換処理をパスした画像処理を行うと良い。
印刷データ処理部1502は更に、印刷部1504で解釈可能なデータ形式(例えば、ページ記述言語で記述されたデータ形式や印刷ビットマップに展開されたデータ形式)に変換し、地紋合成出力原稿画像データとして後段の印刷部1503に送る。
次に、印刷部1503では、入力された地紋合成出力原稿画像データの情報に従って、地紋合成出力原稿を印刷出力する。これにより、入力原稿画像の特定の画素値を持つ領域(例えば白地領域)に地紋画像を合成し、出力することができる。
上述の実施例によれば、既に2値化されたパターンである背景閾値パターンと潜像閾値パターン、潜像部と背景部を指定する2値画像である潜像背景領域指定画像、カモフラージュ領域を指定する2値画像であるカモフラージュ領域画像、入力画像の画素値が所定の画素であるか否かを表すビット情報を用いて論理演算を実行することにより、入力画像の所定の領域に効率的に地紋画像を配置・合成することができる。
また、2値画像である背景閾値パターンと潜像閾値パターン、潜像部と背景部を指定する2値画像である潜像背景領域指定画像、カモフラージュ領域を指定する2値画像であるカモフラージュ領域画像を用いて論理演算に基づき地紋画像を生成することにより、高速、かつ省メモリで地紋画像を生成することができる。
また、必要に応じて入力画像の画素値を参照し、入力画像の画素値が所定の画素であるか否かを表すビット情報を用いた論理演算により、入力画像中に地紋画像を合成するか否かを判定すれば、入力画像の所定の領域(例えば白地領域)に効率的に地紋画像を配置することもできる。
ここまで地紋画像の生成方法と地紋画像を入力原稿画像の合成方法について詳しく説明してきたが、プリンタを用いて実際に地紋画像を出力する場合、様々な原因により、必ずしも潜像部と背景部が意図した通りの濃度で出力されるとは限らない。
理由としては、プリンタのエンジン特性や閾値パターンを出力するディザマトリクスの違い、プリンタの個体差、湿度や気温などの印刷環境、エンジンの耐久性、用紙(メディア)の違い、プリンタのインクやトナーの違い等の様々な条件に依存した濃度不安定性を挙げることができる。即ち、背景部と潜像部のディザマトリクスのそれぞれに対する最適な入力階調は、プリンタの機種、ディザマトリクス、プリンタの個体、印刷環境、用紙、インクやトナー等に依存して異なる可能性がある。
従って、プリンタのエンジン特性や印刷環境が異なる場合においても、印刷時にほぼ等しい濃度となる背景閾値パターン、潜像閾値パターンを得た上で地紋画像を生成する必要がある。しかしながら、印刷環境による変動を含む全ての変動要因を考慮し、最適な背景閾値パターン、潜像閾値パターンを自動的に計算することは現実的には難しい。
従って、地紋合成印刷装置を実行する前に、プリンタ毎に背景部と潜像部の濃度がほぼ同一になる背景閾値パターンと潜像閾値パターンを得る機能、即ち、地紋濃度キャリブレーション機能の実装が必要となる。
この地紋濃度キャリブレーション機能を実装する方法としては、背景ディザマトリクス、潜像ディザマトリクスの一方又は双方に対する入力画像信号の階調を変化させて、濃度がほぼ等しくなるように調整する方法が考えられる。
図16は、潜像閾値パターン及び複数の入力画像信号の階調に対してディザマトリクスで閾値処理して得られる背景閾値パターンを示す図である。図16において、1601は一辺10画素の潜像ディザマトリクスに対して階調6を入力して得られる潜像閾値パターンであり、黒画素の面積比率は6%となっている。
一方、1602〜1604は一辺16画素の背景ディザマトリクスに対してそれぞれ階調12、16、20を入力して得られる背景閾値パターンであり、それぞれ黒画素の面積比率は4.69%、6.25%、7.81%となっている。仮に背景ディザマトリクスが4×4画素であり、4×4画素の背景ディザマトリクスに対して入力画像信号の階調を変化させて濃度調整を行ったとすると、黒画素の面積比率は4×4+1=17段階のレンジしか持たず、約6%ステップの階調変化しか与えられないため、微妙な濃度調整ができない。
しかしながら、1602〜1604に示すように、表現可能な階調数が多いディザマトリクスから出力される背景閾値パターンは、入力画像信号の階調の選択によって細かく濃度が調節可能であり、濃度キャリブレーションに適していることが分かる。
以下に、地紋濃度キャリブレーション機能を実現するための地紋濃度試し刷りの概要について説明する。地紋濃度試し刷りは、コンピュータ上のアプリケーション又はプリンタドライバにおいて実装することが可能である。
図22は、地紋濃度試し刷りを実行する装置の内部構成を示すブロック図である。図22に示すように、地紋濃度試し刷りを実行する装置は、設定情報入力部2201、パターン生成部2202、試し刷り地紋画像生成部2203、印刷データ処理部2204、印刷部2205から構成されている。
尚、装置の構成はこれに限らず、本発明における課題を解決可能な構成を有していれば良い。また、地紋濃度試し刷り専用の装置である必要も無い。
まず、設定情報入力部2201では、設定情報が保存されている初期設定ファイルから設定情報を読み取る処理を行うか、ユーザインターフェースを通じて入力される設定情報の受け付ける処理を行う。次に、パターン生成部2202では、設定情報入力部2201から入力される設定情報に基づき、地紋を生成するために必要なパターンを生成し、後段の試し刷り地紋画像生成部に出力する。本実施例の場合、入力される設定情報から生成されるパターンは背景閾値パターンと潜像閾値パターンとなる。また、地紋濃度試し刷り処理においては、パターン生成部2202は複数の背景閾値パターンと潜像閾値パターンを生成する。
次に、試し刷り地紋画像生成部2203では、パターン生成部2202から入力されたパターンに基づき、試し刷り地紋画像を生成する。この試し刷り地紋画像生成部2203で生成される試し刷り地紋画像の詳細については後に詳しく述べる。
次に、印刷データ処理部2204では、試し刷り地紋画像生成部2203で生成された試し刷り地紋画像に対し、必要な画像処理を実行する。但し、印刷データ処理部では地紋画像の画素値(シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック)に対しては、印刷時に複数のインクやトナーが混じった混色とならないように考慮して地紋合成出力原稿画像に画像処理を行う。必要な画像処理が施された試し刷り地紋画像はプリンタが解釈可能なデータ形式(例えば、ページ記述言語で記述されたデータ形式や印刷ビットマップに展開されたデータ形式)に変換され、後段の印刷部2204へ送られる。そして、印刷部2204では、入力されたデータに従って、試し刷り地紋画像を印刷出力する。
次に、試し刷り地紋画像生成部2203で生成される、背景部と潜像部の双方の濃度を変化させた複数の地紋画像(パッチ)を2次元的に配置した試し刷りシートについて説明する。背景部と潜像部の濃度を2次元的に変化させた試し刷りシートには、薄い濃度の地紋から濃い濃度の地紋も印刷されており、1枚のシート内に背景部と潜像部の濃度がほぼ同じになる複数のパッチが存在する。従って、地紋の濃度も選択可能な入力値としてユーザに提示することができる。
ここまでプリンタによるオンデマンド地紋出力法では、潜像背景領域指定画像、カモフラージュ領域指定画像、色情報はユーザが自由に選択できることを述べてきたが、地紋の濃度もユーザが選択可能な入力値とすることができ、地紋の濃度を選択する手段を提供できるなら、ユーザにとっても選択肢が増えるメリットがある。そこで、ユーザの使い勝手を高めるため、最適な地紋画像の濃度に素早く見つけることのできる工夫が必要となってくる。1枚のシート内に、背景部と潜像部の双方の濃度を変化させて2次元的に配置した試し刷りシートを用いると、潜像部が好ましい濃さで、潜像部と背景部の濃度がほぼ等しく、複写時に潜像がはっきり現れる地紋画像を生成する為の地紋濃度パラメータ(即ち、潜像閾値パターンと背景閾値パターン)を素早く見つけることができる。背景部と潜像部の双方の濃度を変化させて2次元的に配置した試し刷りシートは1枚から得られる情報が多いだけでなく、一覧性に優れ、利便性が高い。また、ユーザが最適な地紋の濃さを探す際に出力する試し刷りシートの枚数を削減することができるため、用紙コストの削減に繋がる効果が得られる。
図17は、背景部と潜像部の濃度を変えたパッチを2次元的に配置した試し刷りシートの一例を示す図である。各々のパッチは、潜像部と背景部を必ず含む構成になっており、カモフラージュを含んでいても良い。図17における各々のパッチは、中心部が潜像部、周辺部が背景部を示す。図17に示す例では、潜像部と背景部を指定する潜像背景領域指定画像は四角の矩形となっているが、必ずしも四角に限定するものではなく、「無効」等の文字であってもよいし、例えば潜像部と背景部を別のパッチとして隣合わせて並べる等、視覚的に判定し易いように配置されていれば良い。
図17に示す試し刷りシートでは、用紙の横方向に対して潜像部の濃度を変化させて、縦方向に対して背景部の濃度を変化させている。予め、プリンタのエンジン特性やディザマトリクスの階調性等を考慮し、縦方向に配置されたパッチ列の中心に存在するパッチが潜像部と背景部の濃度ほぼ等しくなるように設定しておくと、環境やエンジン性能の劣化による濃度変動が存在した場合でも、潜像部と背景部の濃度がほぼ等しいパッチを見つけ易くなる。
しかしながら、実際にはプリンタの特性や印刷環境によって濃度変動が存在するため、試し刷りシート内の縦方向に配置されたパッチ列の中心のパッチで潜像部と背景部の濃度がほぼ等しくなるわけではない。
試し刷りシートでは、縦方向の一方の方向(図17では紙の上方向)では背景部の濃度が濃くなるように、他方の方向(図17では紙の下方向)では背景部の濃度が薄くなるように設定されている。
また、図17に示す例では、縦方向に対して地紋の背景部の濃度を変化させているが、背景部の濃度を変化させる方法としては、既に述べたように背景部ディザマトリクスに対する入力画像信号の階調を変化させる方法がある。
例えば、背景ディザマトリクスのサイズが16×16画素の場合、図16の1602〜1604の背景閾値パターンのように、背景ディザマトリクスに対する入力画像信号の階調を4づつ変化させることで閾値パターンの黒画素の面積比率は約1.5%変化する。
本実施例では、以降、試し刷り印刷で背景部の濃度を変化させる場合の、背景ディザマトリクスに対する入力画像信号の階調の変化量を「コントラストステップ」と呼び、背景部の濃度調整単位の大きさを表す指標とする。
一方、図17に示す例では、横方向に対して潜像部の濃度を変化させているが、潜像部の濃度を変化させる方法として、一つには、潜像ディザマトリクスに対する入力画像信号の階調を固定とし、潜像ディザマトリクスの縦横のサイズを小さくする方法がある。
例えば、潜像ディザマトリクスの大きさを10×10とし、入力画像信号の階調を9として閾値パターンを生成すると、黒画素の面積比率は9%となり、潜像ディザマトリクスの大きさを12×12とし、入力画像信号の階調を9として閾値パターンを生成すると、黒画素の面積比率は6.25%となり、潜像ディザマトリクスの大きさを14×14とし、入力画像信号の階調を9として閾値パターンを生成すると、黒画素の面積比率は約4.6%となる。
従って、潜像ディザマトリクスの大きさを変化させることで潜像部の濃度を変化させることができる。尚、潜像ディザマトリクスの大きさが10×10、12×12、14×14のとき、それぞれ表現可能な階調は理論上10×10+1=101レベル、12×12+1=145レベル、14×14+1=197レベルである。
また、潜像部の濃度を変化させる別の方法としては、潜像ディザマトリクスの大きさを固定とし、潜像ディザマトリクスに対する入力画像信号の階調を変化させる方法がある。例えば、潜像ディザマトリクスの大きさを10×10で固定とし、入力画像信号の階調を6、9、12と変化させれば、出力閾値パターンの黒画素の面積比率はそれぞれ6%、9%、12%となる。但し、複写後に潜像部のドットが消えてしまう程度にドットが小さいと、複写してもドットが残るという潜像部に対する必要条件を満たさない。従って、潜像ディザマトリクスに対する入力画像信号の階調は一定以上とする必要がある。
また別の方法としては、潜像ディザマトリクスの大きさと潜像ディザマトリクスに対する入力画像信号の階調の双方を変化させて、潜像閾値パターンを生成し、濃度を変化させても良い。
図23は、地紋濃度キャリブレーション機能を備えた地紋合成印刷装置を示す図である。図1に示した地紋合成印刷装置(図23の2303)の前段に選択情報入力部2301及びパターン生成部2302を配置した構成となっている。まず、地紋濃度キャリブレーション機能を備えた地紋合成印刷装置の内部構成について説明する。
まず、選択情報入力部2301では、最適と判断したパッチに関する情報(例えば、パッチの近傍に印刷された番号等)を選択情報として、ユーザインターフェースを通じて入力する。このとき、最適な地紋画像のパッチとは、利用者が望む濃さであり、かつ、背景部と潜像部がほぼ同一の濃度となっており、ターゲットとする複写機で試し刷りシートを複写した際に潜像部が残り、背景部が消失するパッチである。ターゲットとなる複写機が無い場合は、利用可能な複写機で複写して潜像部が残り背景部が消失するか否かを調査しても良い。
次に、パターン生成部2302は、選択情報入力部2301から入力される選択情報に基づき、地紋を生成するために必要なパターンを生成し、後段の地紋合成印刷装置2303に入力する。本実施例の場合、入力される選択情報から生成されるパターンは背景閾値パターンと潜像閾値パターンとなる。
次に、地紋合成印刷装置2303は、前段のパターン生成部2302から入力される背景閾値パターンと潜像閾値パターンに基づいて地紋画像を生成し、地紋画像と入力原稿画像を合成し、出力原稿を印刷出力する。地紋合成印刷装置2303における処理については既に詳しく述べたので、説明は省略する。
本実施例によれば、地紋濃度キャリブレーション機能を備えた地紋合成印刷装置を提供することができる。
尚、印刷時に背景部と潜像部の濃度が等しいが、ターゲットとなる複写機で試し刷りシートを複写した際に潜像部は残るが、背景部が完全に消失しない場合もある。
しかしながら、このとき、潜像部の複写後の濃度と比べて大きく濃度が異なるパッチは最適なパッチと判断しても良い。複写後に潜像が現われるならば、偽造抑止地紋としての効果を発揮させることができるためである。本実施例では、複写後に潜像部が残り背景部が消えるパッチだけでなく、複写後の背景部の濃さが潜像部の濃さに比べて十分低いパッチも最適なパッチとして選択して良い。
図18は、最も単純な試し刷りの手順を表すフローチャートである。初めにユーザインターフェース等からの入力に従い、ステップS1801で試し刷りが開始される。次に、ステップS1802では、設定情報が保存されている初期設定ファイルから設定情報を読み取る処理又はユーザインターフェースを通じて入力される設定情報を受け付ける処理を行う。次に、ステップS1803では、上述のステップS1802で入力された設定情報に基づき、地紋画像を生成する際に潜像部と背景部の印刷濃度を決定する地紋濃度パラメータを生成する。本実施例の場合は、入力される設定情報から生成される地紋濃度パターンは背景閾値パターンと潜像閾値パターンとなる。次に、ステップS1804で、ステップS1803から入力される地紋濃度パラメータに基づき、図17に示すような試し刷りシートを生成し、プリンタで印刷出力する。
次に、ステップS1805で試し刷りシートの各々のパッチにおける潜像部と背景部の濃度を視覚的に比較する。視覚的な評価では、試し刷りシートの中から潜像部と背景部の濃度がほぼ等しくなっており、ターゲットとする複写機で試し刷りシートを複写した際に潜像部が残り、背景部が消失する(又は潜像部と比べて十分なコントラストがある)最適なパッチをパッチと関連付けられた番号で選択する。例えば、図17に示す例では、用紙の横方向にA列、B列、C列と濃さを変化させたパッチが並べられており、用紙の縦方向に背景部の濃さを変化させたパッチが並べており、各々のパッチの横に背景部の濃さを表す値が記載されている。ここで、地紋画像として好ましいの濃度のパッチが存在し、最適な濃さのパッチは最適な濃さはA列であり、背景部の濃さを表す値は16であるとする。その場合には、そのパッチをA−16として選択すると良い。
図17に示すように、一回の試し刷りで最適なパッチを見つける試し刷り機能を実現する場合、試し刷りシート内に背景部と潜像部の濃さがほぼ等しく、視覚的に潜像が目立たないパッチが試し刷りシート内に存在する必要がある。そのような場合、プリンタの特性を考慮し、背景部と潜像部の濃度がほぼ等しくなる閾値パターンの範囲を初期デバイス濃度パラメータ(デバイスプロファイルデータ)として把握しておく必要がある。
初期デバイス濃度パラメータの具体例としては、潜像部が試し刷りシートのA列、B列、C列の濃度となる地紋画像を生成するための各潜像閾値パターンと背景部がA列、B列、C列の濃度とほぼ等しい印刷濃度となる各背景閾値パターン(各列におけるコントラストゼロパラメータ)と、試し刷りシートの縦方向において変化させる背景部の濃度変化幅(各列におけるコントラストステップパラメータ)などが挙げられる。背景部の濃度変化範囲(各列における背景閾値パターンを変化させる範囲。図17ではA列は12〜20)も初期パラメータとして利用可能である。
次に、ステップS1806では、ステップS1805で選択したパッチに関する番号(例えばA−16)を選択情報としてユーザインターフェース等を通じて入力する。次に、ステップS1807では、ステップS1806で入力された情報に基づき、地紋画像の潜像部と背景部の印刷濃度を決定する地紋濃度パラメータを生成する。具体的には、地紋濃度パラメータは背景部と潜像部の濃度がほぼ等しくなり、複写時に背景部が消失するような潜像閾値パターンと背景閾値パターンに相当する。次に、ステップS1808では、ステップS1807で生成された地紋濃度パラメータに基づき、地紋画像を生成し、入力原稿画像と合成して印刷出力する。このステップにおける処理は図1で説明した地紋合成印刷装置における処理と同じである。
図18に示す試し刷りの手順では、1回の試し刷りで、試し刷りシート内に、背景部と潜像部の濃度がほぼ等しくなる最適なパッチを発見できなければ濃度キャリブレーションが実現できない。しかしながら、プリンタの濃度変動が大きい場合やプリンタの階調再現特性が機種や個体に対して大きな依存性を持つ場合、コントラストステップとして大きな値を用いると、背景部と潜像部の濃さがほぼ同じになるような最適な位置が1度では見つからない場合も存在しえる。
図19は、図18に示す試し刷りのフローチャートよりも更に濃度調整機能を強化した試し刷りのフローチャートである。図18との大きな違いは、粗い試し刷りと細かな試し刷りの2つを備える点である。
図19に示すステップS1930は粗い試し刷りを実行するステップであり、ステップS1940は細かな試し刷りを実行するステップである。以降、一次のテスト印刷である粗い試し刷りを「コースチューニング」、二次のテスト印刷である細かな試し刷りを「ファインチューニング」と呼ぶ。
ステップS1930とステップS1940の内部では、図18に示した簡単な試し刷りにおけるステップS1804〜ステップS1806とほぼ同一の処理を実行する。
図20は、図19に処理手順を示す試し刷りで用いる二種類のシートを示す図である。図20において、2001はステップS1904で出力されるコースチューニング用試し刷りシートの例であり、2002はステップS1908で出力されるファインチューニング用試し刷りシートの例である。
以下、図19と図20を用い、2段階の試し刷り処理について順に説明していく。まず図19に示す一次試し刷り(コースチューニング)では、初めにユーザインターフェース等からの入力に従いステップS1901で試し刷りが開始される。次に、ステップS1902では、設定情報が保存されている初期設定ファイルから設定情報を読み取る処理を行うか、ユーザインターフェースを通じて入力される設定情報を受け付ける処理を行う。
次に、ステップS1903では、ステップS1902から入力された設定情報に基づき、地紋画像の潜像部と背景部の印刷濃度を決定する地紋パラメータを生成する。本実施例の場合、入力される設定情報から生成される地紋濃度パラメータは背景閾値パターンと潜像閾値パターンとなる。次に、ステップS1904で2001に示すようなコースチューニング用試し刷りシートを生成し、プリンタで印刷出力する。
コースチューニング用試し刷りシート2001では、図19と同様に、用紙の横方向に並ぶパッチでは潜像部の濃度が変化し、縦方向に並ぶパッチでは背景部の濃度が変化する。また、コースチューニング用試し刷りシート2001では、縦方向に配置されるパッチ内の背景閾値パターンは、それぞれディザに対する入力画像信号の階調を8ステップづつ変化させて生成されている(即ちコントラストステップは8である)。
尚、背景ディザマトリクスに対する入力階調が0の場合、背景部にはドットが打たれないため、地紋画像としては適当でない。従って、0に近い階調には非ゼロの別の値(例えば8)を設定しても良い。しかし、背景ディザマトリクスに対する入力階調が0である場合を出力すると、背景部が完全に消失した場合、即ち複写により潜像が浮き上がった理想的な状態における、潜像の見え方(潜像部と白地のコントラスト)を確認できるというメリットもある。
また、コースチューニング用試し刷りシート2001では、縦方向のパッチ間で背景部の濃度変化が大きいため、背景部と潜像部の濃度を精密に調整することは難しい。しかしながら、背景部と潜像部の濃度がほぼ同じになる地紋画像を生成する地紋濃度パラメータの範囲を素早く絞り込むことができる。
Bayer型ディザを用いて閾値パターンを作る場合、入力階調が半分の階調128を越えると、生成される閾値パターンは、ドットが互いに接し孤立ドットでは無くなり、複写時に背景部が消失する効果が得られにくい。従って、最適な地紋画像を探す目的であれば、背景部の階調は0〜128をカバーすれば十分である。
尚、図20のコースチューニング用試し刷りシート2001では、図を見やすくするために、背景部の階調を0〜32までの範囲のみ示しているが、16×16の背景閾値パターンで表現される全階調(0〜256)、もしくは背景部として利用可能な階調(0〜128)をカバーすることが望ましい。
ここでは、コースチューニング用試し刷りシート2001では、潜像部とほぼ同じ濃さが得られると予想される背景部の階調(例えば、コースチューニング用試し刷りシート2001の場合、0〜32)を実質的にカバーしているとして説明を続ける。
階調再現特性が未知のプリンタや環境による背景部の濃度変動が大きなプリンタで、潜像部と背景部の印刷濃度が近似する地紋画像を生成するために最適な地紋濃度パラメータを見つける場合、背景部が取り得る全値域または実質的に取り得る値域をカバーするように、まず粗いコントラストステップで背景閾値パターンを生成し、試し刷りシートを出力すると良い。そうすることで、背景部と潜像部の階調再現特性が未知のプリンタや印刷環境や耐久よる濃度変動が大きなプリンタでも、事前の知識無しに、背景部と潜像部の濃度がほぼ同じになる地紋濃度パラメータの範囲を絞ることができる。このようなコースチューニング用試し刷りシートは多数のプリンタに汎用的に適用できるよう設計されており、デバイスによる個別の設定を必要としない点で価値が高い。
次に、ステップS1905では、試し刷りシートの各々のパッチにおける潜像部と背景部の濃度を視覚的に比較する。ここでは、ステップS1805で説明した処理とほぼ同様の処理を行うが、このとき、背景部のコントラストステップが大きいため、最適なパッチの番号は見つからない可能性が高い。従って、そのような場合、最適なパッチが存在すると予測される範囲を選択する。
このコースチューニングにおいて、最適なパッチが存在すると予測される範囲を指定する方法は幾つか考えられる。一つの方法は、最適なパッチが存在すると予測される範囲を中心値で指定する方法である。例えば、コースチューニング用試し刷りシート2001のA列において、上から3番目のパッチ(A−16)が潜像部と背景部の濃度の差が最も少ない場合、A列の上から3番目のパッチ(A−16)を最適なパッチが存在すると予測される中心として指定する。
後述するファインチューニングにおいて、指定されたパッチを中心として背景の濃度をより細かく変化させれば、潜像部と背景部の濃度がほぼ等しい地紋画像を生成するための最適な地紋濃度パラメータが存在する可能性が高い。
また、別の方法は、最適なパッチが存在すると予測される区間を指定する方法である。例えば、コースチューニング用試し刷りシート2001のA列において、上から3番目のパッチ(A−16)は潜像部に比べ背景部が薄く、上から4番目のパッチ(A−24)は潜像部に比べ背景部が濃いとする。この場合、A列の上から3番目のパッチ(A−16)と4番目のパッチ(A−24)との間に最適なパッチが存在する可能性が高い。従って、背景部と潜像部の濃度の大小関係が変化する区間を最適なパッチが存在すると予測される区間として指定する。
この場合、A列の上から3番目のパッチ(A−16)と4番目のパッチ(A−24)の双方の番号を入力すると良い。但し、操作メニューに2つの入力値を入力し、区間を指定する方法は煩雑である可能性があるため、ユーザがA列の上から3番目のパッチ(A−16)と4番目のパッチ(A−24)の中間値を計算し、最適なパッチが存在すると予測される中心として(A−20)という中間値を入力するようにしても良い。
A列のパッチと同様、B列、C列のパッチに対しても、最適なパッチが存在すると予測される近傍又は区間に関する情報を入力し、ファインチューニング用試し刷りシート2002に示すような2次元の試し刷りシートを用いて出力することも可能である。
このファインチューニング用試し刷りシート2002は、A列だけでなくB列、C列においても潜像部と背景部の濃度の差が最も少ないパッチ(B−8)と(C−8)を指定している。この場合、異なる濃度の地紋パラメータを1回の試し刷りで決めることができる効果が実現できる。
但し、A列に存在するパッチに対してのみ、背景部の濃さを変化させて最適なパッチを探す場合は、ファインチューニングにおいて背景部と潜像部の濃度を2次元的に変化させた試し刷りシートを印刷する必要はなく、指定された濃度の潜像部に対し、背景部の濃さだけを変化させた試し刷りシートを出力すれば良い。
次に、ステップS1906では、ステップS1905の視覚的評価に基づき、試し刷り印刷を行う利用者はユーザインターフェースを通じて試し刷りシートから最適なパッチが存在すると予測される中心又は区間に関する情報を入力する。ここで、図19には図示していないが、ファインチューニング1940を実行する際の初期設定情報として、以前にステップS1906で入力された情報を設定用ファイルに保存しておき、そのファイルを読み出して用いても良い。
次に、ステップS1907では、ステップS1906で入力された情報に基づき、背景部と潜像部の濃度がほぼ等しくなるような地紋画像を生成するために必要な地紋濃度パラメータを生成する。本実施例の場合、ステップS1906で入力された範囲の間の濃度として印刷される複数の背景閾値パターンと選択された濃度の潜像閾値パターンを生成する。
次に、ステップS1908では、ステップS1907で生成された地紋濃度パラメータに基づき、ファインチューニング用試し刷りシートを生成して印刷する。例えば、図20に示すファインチューニング用試し刷りシート2002では、ステップS1907のコースチューニングで選択したコースチューニング用試し刷りシート2001のA列の上から3番目のパッチ(A−16)、B列の上から2番目のパッチ(B−8)、C列の上から2番目のパッチ(C−8)を中心に、コントラストステップを2に設定し、更に細かく背景ディザマトリクスに対する入力画像信号の階調を変化させている。従って、コースチューニング用試し刷りシート2001と比べて、背景部の濃度と潜像部の濃度がより近いパッチを検出できる。
このように、ファインチューニングを実行するステップS1940では、コースチューニングを実行するステップS1930に比べて、より精密に背景部と潜像部の濃度が近いパッチを探し出すことができるようなファインチューニング用試し刷りシートを生成する。次に、ステップS1909で試し刷りシートの各々のパッチにおける潜像部と背景部の濃度を視覚的に比較する。視覚的な評価により、潜像部と背景部の濃度がほぼ等しくなっており、ターゲットとする複写機で試し刷りシートを複写した際に潜像部が残り、背景部が消失する(又は潜像部と比べて十分なコントラストがある)パッチを探し、試し刷りシートの中から最適なパッチの番号(例えば、(A−18))を選択する。このとき、潜像部の濃度を変化させた2次元的な試し刷りを行っていれば、A列だけでなく、B列、C列から地紋画像として好ましい濃度のパッチを選択することができる。
次に、ステップS1910では、ステップS1909で選択したパッチに関する番号を選択情報としてユーザインターフェースを通じて入力する。次に、ステップS1911では、ステップS1910で入力された情報に基づき、背景部と潜像部の印刷濃度が近似した地紋画像を生成するために必要な地紋濃度パラメータを生成する。具体的には、本実施例の場合、背景部と潜像部の濃度がほぼ等しくなるような潜像閾値パターンと背景閾値パターンの生成に相当する。次に、ステップS1912では、ステップS1911で生成された地紋濃度パラメータに基づき、地紋画像を生成し、入力原稿画像と合成して印刷出力する。このステップにおける処理は図1で説明した偽造抑止地紋印刷出力装置における処理と同じである。
尚、コースチューニングを実行するステップS1930とファインチューニングを実行するステップS1940の処理は、常に双方行う必要はない。例えば、プリンタの設置時や一定期間毎のメンテナンス時、又は地紋画像が適切に出力されない場合にのみ、コースチューニングのステップS1930を行うとし、日常的に地紋を印刷する場合には、このステップS1930の処理を省き、ファインチューニングのステップS1940の処理のみを行うとしても良い。
通常の利用時にはコースチューニングを省くことで、地紋の濃度キャリブレーションにかかる時間を削減できる。このとき、コースチューニングを実行するステップS1930で得られた地紋として適切なパラメータに関する情報は、設定ファイルに保存しておく。コースチューニングを省きファインチューニングのみを実行する場合に、保存された設定ファイルからファインチューニング用試し刷りシート2002でパッチを出力する範囲を読み出し、ファインチューニング用試し刷りシートを生成すると良い。この場合、印刷環境が変化した場合でも、コースチューニングに戻る回数を減らすように設計することが、使い勝手の観点から望ましい。
例えば、コースチューニング用試し刷りシート2001を印刷し、A列において(A−16)が最も潜像部と背景部の濃度の差が少なく、(A−16)を中心として、ファインチューニングで詳しく調整する設定を行うとする。しかし、実際のプリンタでは(A−20)を中心として環境による濃度変動が起きていると仮定する。
ファインチューニング用試し刷りシート2002において、もし環境による濃度変動が(A−16)を中心に起きている場合、前後のコントラストステップ4の範囲(即ちA−12からA−20まで)を追うことができ、コースチューニングに戻る機会は少ない。しかし、環境による濃度変動が(A−20)を中心として濃度変動が起きる場合、ファインチューニング用試し刷りシート2001では一方向のコントラストステップ8の範囲(即ちA−12からA−20まで)のみしか追うことができず、A−24の方向に濃度が変化した場合、コースチューニングに戻らざるを得ない。
このような場合、例えば、コースチューニング用試し刷りシート2001のパッチからファインチューニングで細かく濃度変化させる中心を選択させる場合、コースチューニング用試し刷りシート2001の前後のコントラストステップをファインチューニング用試し刷りシート2002で必要とされる前後のコントラストステップの2倍に設定すると、コースチューニング用試し刷りシート2001で選択した中心のパッチを中心として隣り合うパッチまでの範囲をファインチューニングでカバーできるため、コースチューニングに戻る機会を減らすことができる。
また別の例では、ファインチューニングでは、コースチューニングで中心として選択したパッチの前後だけでなく、その前後数個のパッチまでの範囲をカバーできるように出力するパッチ数を多めに設定しても良い。その場合も多少の濃度変動が存在してもコースチューニングに戻る機会を減らすことができる。
このとき、図示しないが、図19に処理手順を示す2段階の試し刷りの機能を実現する装置やソフトウェアは、試し刷りをコースチューニングから開始するか、或いは前回実行したコースチューニングによって得られた情報に基づいてコースチューニングを省きファインチューニングから試し刷りを開始するかを選択させるステップを持ち、コースチューニングからの開始を選択した場合はステップS1902〜1912に示す処理を順に実行し、ファインチューニングからの開始を選択した場合は保存されたコースチューニングに関する情報を読み出し(ステップS1902での処理に該当)、地紋パラメータを生成し(ステップS1903での処理に該当)、ファインチューニング以降の処理(ステップS1908〜1912)を実行する。
また、コースチューニングを実行するステップS1930の機能は、プリンタの設置やメンテナンスを行うサービスマンのみが実行できる詳細機能(メンテナンス機能)とし、一般のユーザは操作できないようにしても良い。例えば、このステップS1930を実行するためには、パスワードを要求する形態のソフトウェアを実装することもできる。
また、図1や図15の地紋合成印刷装置の印刷部(プリンタコントローラ及びプリンタエンジン)を除く部分がコンピュータにおけるソフトウェアとして実装される場合、OSのアクセス制限の機能を用いて、コンピュータの管理者以外はこのステップS1930の機能を実行できないようにアクセス制限を設けても良い。
上述のような設定とすれば、単純な設定ミスや第三者の意図的な変更によって生じる、ファインチューニングを実行するステップS1940だけでは、最適な地紋画像が見つからないトラブルを防ぐことができる。
更に、コースチューニングのステップS1930及びファインチューニングのステップS1940に対しても同様に、パスワードやコンピュータの管理者権限を要求してアクセス制限を設けても良い。一般的な利用者が、単純な設定ミスや第三者の意図的な変更によって最適な地紋画像が見つからないトラブルに陥ることを防ぐことができるだけでなく、地紋の濃度キャリブレーションを意識することなく、手軽に地紋が合成された原稿を印刷出力できるメリットがある。
また、図20のファインチューニング用試し刷りシート2002では、背景部と潜像部の双方の濃度を変化させたサンプルを示しているが、コースチューニングで望ましい潜像部の濃度を決定し、ファインチューニング用試し刷りシートでは、決定された潜像部の濃度に対して背景部の濃度を変化させたパッチのみを出力する試し刷りシートを出力しても良い。
その場合、1枚のシートの内部に出力できるパッチの面積が増えるため、コントラストステップを小さくして1枚の画像に多数のパッチを出力しても良いし、実際の入力原稿に合成して印刷する予定の潜像背景領域指定画像、カモフラージュ領域指定画像を用いてパッチを出力しても良い。
また、図20のコースチューニング用試し刷りシート2001、ファインチューニング用試し刷りシート2002において、背景部の濃度や濃度変化幅は各列共通であっても、各列異なっても良い。また、コースチューニング用試し刷りシート2001とファインチューニング用試し刷りシート2002で全く異なる地紋画像の配置構成をとっても良い。
最後にコースチューニングとファインチューニングの2段階の試し刷り機能をより一般化した、多段階の試し刷りの処理手順について説明する。
図21は、より高度な機能を持つ多段階の試し刷りの処理手順を示すフローチャートである。初めにユーザインターフェース等からの入力に従い、ステップS2101で試し刷りが開始される。次に、ステップS2102で地紋画像を生成するための初期設定情報を読み出す。例えば、初期設定情報はコンピュータ上のHDD又はメモリ内の設定ファイルに記憶し、コンピュータ上のソフトウェアが読み出せす形であるとする。
次に、ステップS2103では、ステップS2102で入力された設定情報に基づき、地紋画像の潜像部と背景部の濃度を決定する地紋濃度パラメータを生成する。具体的には、本実施例の場合、背景部と潜像部の濃度がほぼ等しくなるような潜像閾値パターンと背景閾値パターンの生成に相当する。
次に、ステップS2104では、ステップS2103で生成された地紋濃度パラメータに基づき、試し刷りシートを生成して印刷を行う。試し刷りシートは、図17に示すように、2次元的に背景部と潜像部の濃度を変化させて配置してあっても良いし、背景部の濃さだけが変化していても良い。次に、ステップS2105で試し刷りシートの各々のパッチに対して、背景部と潜像部の濃度がほぼ等しくなっているか、ターゲットとなる複写機で複写した試し刷りシートの各々のパッチは潜像部が残り、背景部が消える(又は潜像部と比べて十分なコントラストがある)か等を視覚的に評価する。
次に、ステップS2106では、もし試し刷りシートの中に背景部と潜像部の濃度がほぼ等しく、そしてターゲットとなる複写機で複写した際に潜像部が残り、背景部が消失する(又は潜像部と比べて十分なコントラストがある)パッチが存在する場合、ステップS2108へ進む。しかし、背景部と潜像部の濃度がほぼ等しく、そしてターゲットとなる複写機で複写した際に潜像部が残り、背景部が消失する(または潜像部と比べて十分なコントラストがある)パッチが存在しない場合は、ステップS2107へ進む。
このステップS2107では、図10で既に説明したように、試し刷りシートから最適なパッチが存在すると予測される中心又は区間に関する情報をパッチに関連付けられた番号等を用い、ユーザインターフェースを通じて入力する。このとき更に、背景部の濃度変化の幅を決定する指標であるコントラストステップも合わせて入力する。
コントラストステップは既に出力された試し刷りシートで用いたコントラストステップよりも小さな値を設定するのが望ましい。尚、コントラストステップの値はソフトウェアが自動的に設定する仕様としても良い。
次に、ステップS2108では、ステップS2107で入力された情報に基づき、地紋画像の潜像部と背景部の印刷濃度を決定する地紋濃度パラメータを生成する。次に、ステップS2104に再び戻り、ステップS2108で生成された地紋濃度パラメータに基づき、試し刷りシートを印刷し、再びステップS2105へ進み視覚的評価を行う。最適なパッチが見つかるまで、最適なパッチが存在すると予測される中心又は区間に関する情報を設定し直し、ループを繰り返す。
次に、ステップS2109では、ユーザインターフェース等を通じてステップS2105で選択した背景部と潜像部の濃度がほぼ等しく、そしてターゲットとなる複写機で複写した際に背景部が消失し、潜像部が残るパッチに関連付けられた番号を入力する。次に、ステップS2110では、ステップS2109で入力された情報に基づき、地紋画像の潜像部と背景部の濃度を決定する地紋濃度パラメータを生成する。具体的には、本実施例の場合、背景部と潜像部の濃度がほぼ等しくなり、複写時に背景部が消失するような潜像閾値パターンと背景閾値パターンの生成に相当する。
次に、ステップS2111では、ステップS2110で生成された地紋濃度パラメータに基づき、地紋画像を生成し、入力原稿画像と合成して印刷出力する。このステップにおける処理は図1で説明した地紋合成印刷装置における処理と同じである。
最後に図17や図20に示した試し刷りシートの変形例について説明する。
図24は、試し刷りシートの変形例を示す図である。図17や図20で示した試し刷りシートでは、1つのパッチの中に背景部と潜像部を配置していた。図24に示す試し刷りシートでは、各列A、B、Cはそれぞれ潜像部の矩形(2401、2403、2405)と背景部の矩形(2402、2404、2406)から成り、潜像部の矩形の内部では濃度は固定であり、各列A、B、C毎に濃度が異なっている。
また、背景部の矩形の内部では濃度は滑らかに変化しており(薄い濃度から濃い濃度へのグラデーションとなっている)、背景部の矩形の内部を構成するグラデーションは背景ディザマトリクスに基づく背景閾値パターンで生成されている。背景部の矩形の横には、背景閾値パターンを識別するための番号が割り振られており、潜像部の濃度と背景部の濃度を視覚的に指定したとき、濃度がほとんど等しくなる位置を、図17や図20の試し刷りシートと同じく、例えば(A−16)など番号で指定することができる。
図24に示す試し刷りシートを用いれば、図17や図20の試し刷りシートと同じく、粗い試し刷りや細かな試し刷りの機能を実現することも可能である。粗い試し刷りでは、潜像部と背景部の濃度がほぼ等しく感じられる背景部のグラデーションの範囲を背景部に割り当てられた番号で指定して、細かな試し刷りでは指定されたグラデーションの範囲をより拡大し、精密に背景部と潜像部の濃度比較を行うことが可能である。
また、図24に示す試し刷りシートを図20のコースチューニング用試し刷りシート2001の変わりに用いても良い。連続的に背景部の濃度が変化するため、粗く背景部の階調を変化させるコースチューニング用試し刷りシート2001と比べて、潜像部と背景部の濃度がほぼ同じになる地点を細かく決め易いメリットがある。また、A列、B列、C列にそれぞれカモフラージュ模様を施し、より最終的に生成する地紋画像に近い地紋画像を用いて背景部と潜像部の濃度を比較することも可能である。