JP4070576B2 - 液晶表示素子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示素子の製造方法に関し、特に、強誘電性液晶材料などの自発分極を有する液晶物質を用いた単安定型の液晶表示素子を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年のいわゆる情報化社会の進展に伴って、パーソナルコンピュータ,PDA(Personal Digital Assistants)等に代表される電子機器が広く使用されるようになっている。更にこのような電子機器の普及によって、オフィスでも屋外でも使用可能な携帯型の需要が発生しており、それらの小型・軽量化が要望されるようになっている。そのような目的を達成するための手段の一つとして液晶表示装置が広く使用されるようになっている。液晶表示装置は、単に小型・軽量化のみならず、バッテリ駆動される携帯型の電子機器の低消費電力化のためには必要不可欠な技術である。
【0003】
ところで、液晶表示装置は大別すると反射型と透過型とに分類される。反射型の液晶表示装置は、液晶パネルの前面から入射した光線を液晶パネルの背面で反射させてその反射光で画像を視認させる構成であり、透過型の液晶表示装置は、液晶パネルの背面に備えられた光源(バックライト)からの透過光で画像を視認させる構成である。反射型の液晶表示装置は環境条件によって反射光量が一定しないため視認性に劣るので、特に、マルチカラーまたはフルカラー表示を行うパーソナルコンピュータ等の表示装置としては一般的に透過型の液晶表示装置が使用されている。
【0004】
一方、現在のカラー液晶表示装置は、使用される液晶物質の面からSTN(Super Twisted Nematic)タイプとTFT−TN(Thin Film Transistor-Twisted Nematic)タイプとに一般的に分類される。STNタイプは製造コストは比較的安価であるが、クロストークが発生し易く、また応答速度が比較的遅いため、動画の表示には適さないという問題がある。一方、TFT−TNタイプは、STNタイプに比して表示品質は高いが、液晶パネルの光透過率が現状では4%程度しかないため高輝度のバックライトが必要になる。このため、TFT−TNタイプではバックライトによる消費電力が大きくなってバッテリ電源を携帯する場合の使用には問題がある。また、カラーフィルタによるカラー表示であるため、1画素を3つの副画素で構成しなければならず、高精細化が困難であって、その表示色純度も十分ではないという問題もある。
【0005】
このような問題を解決するために、本発明者等はフィールド・シーケンシャル方式の液晶表示装置を開発している(例えば非特許文献1,2参照)。このフィールド・シーケンシャル方式の液晶表示装置は、カラーフィルタ方式の液晶表示装置と比べて、副画素を必要としないため、より精度が高い表示が容易に実現可能であり、また、カラーフィルタを使わずに光源の発光色をそのまま表示に利用できるため、表示色純度にも優れる。更に光利用効率も高いので、消費電力が少なくて済むという利点も有している。しかしながら、フィールド・シーケンシャル方式の液晶表示装置を実現するためには、液晶の高速応答性が必須である。そこで、本発明者等は、上述したような優れた利点を有するフィールド・シーケンシャル方式の液晶表示装置、または、カラーフィルタ方式の液晶表示装置の高速応答化を図るべく、従来に比べて100〜1000倍の高速応答を期待できる自発分極を有する強誘電性液晶等の液晶のTFT等のスイッチング素子による駆動を研究開発している。
【0006】
強誘電性液晶は、図18に示すように、電圧印加によってその液晶分子の長軸方向がチルト角θだけ変化する。強誘電性液晶を挟持した液晶パネルを偏光軸が直交した2枚の偏光板で挾み、液晶分子の長軸方向の変化による複屈折を利用して、透過光強度を変化させる。
【0007】
TFT等のスイッチング素子による強誘電性液晶の駆動は、双安定型または単安定型の何れの強誘電性液晶材料を用いても可能であるが、液晶分子ダイレクタの平均分子軸が一方向にのみ存在する単安定型の場合には、図19に示すように、電圧無印加時に、一様な液晶配向を示す単安定状態を得ることが特に重要である。自発分極を有する強誘電性液晶物質では、電圧を印加しない場合に液晶分子ダイレクタの平均分子軸が一方向に存在する(言い換えると液晶分子の長軸方向が一方向である)単安定化された状態を示し(図19(a))、第1の極性の電圧を印加した場合にその平均分子軸が印加電圧の大きさに応じた角度で単安定化した位置から一方の側にチルトし(図19(b))、第1の極性と逆特性の第2の極性の電圧を印加した場合にその平均分子軸が単安定化した位置を維持するかまたは単安定化した位置から他方の側にチルトする(図19(c))。なお、液晶分子ダイレクタの平均分子軸が一方向に存在するとは、全ての液晶分子における長軸方向が完全に同一である場合だけでなく、僅かな液晶分子の長軸方向が残りの液晶分子の長軸方向と異なっている場合も含んでいる。
【0008】
単安定性を示す強誘電性液晶材料にあっては、空のパネルに液晶を単に注入しただけでは、一般的に、表示に利用するカイラルスメクチックC相において一様な液晶配向状態を得ることができない。これは、カイラルスメクチックC相において、液晶の平均分子軸方向が異なる二つの状態を取り得るからである。このため、一旦等方性液体相まで昇温させ、その後カイラルスメクチックC相まで降温させて、コレステリック相からカイラルスメクチックC相への転移点を挟んで数V/μmの直流電圧を印加し、自発分極の向きを電界で揃え、液晶の平均分子軸方向を揃えることにより、一様な液晶配向状態を実現することが一般的に行われている(例えば特許文献1参照)。なお、本明細書においては、単安定状態を得ることを目的として、液晶に電圧を印加する処理を配向処理と呼ぶ。
【0009】
【非特許文献1】
T.Yoshihara, et. al.:AM-LCD'99 Digest of Technical Papers,
185 (1999)
【非特許文献2】
T.Yoshihara, et. al.:SID'00 Digest of Technical Papers,
1176 (2000)
【特許文献1】
特開2001−249364号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら.直流電圧を印加しているにも拘わらず、配向処理の条件によっては、単安定化状態は実現できても一様な液晶配向を得ることができず、高いコントラスト比が得られないことがあるという問題がある。
【0011】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、単安定型の液晶材料を用いる液晶表示素子において一様な液晶配向を実現できて、高いコントラスト比を得ることができる液晶表示素子の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
第1発明に係る液晶表示素子の製造方法は、対向する2枚の基板の各対向面に電極と、ラビング方向が略平行のパラレルラビング処理を施され、プレチルト角が2°以下となるように前記電極上に設けられた配向膜とを有するとともに両電極間に自発分極を有する液晶物質を有し、前記液晶物質は、前記電極に電圧を印加しない場合にその分子ダイレクタの平均分子軸が一方向に存在する単安定化された状態を示し、第1の極性の電圧を印加した場合にその平均分子軸が印加電圧の大きさに応じた角度で単安定化した位置から一方の側にチルトし、前記第1の極性と逆特性の第2の極性の電圧を印加した場合にその平均分子軸が単安定化した位置を維持するかまたは単安定化した位置から前記第1の極性の電圧印加時とは逆側にチルトする液晶表示素子を製造する方法において、前記液晶物質は、高温側より等方性液体相−コレステリック相−カイラルスメクチックC相の相転移系列を示す液晶物質であり、カイラルスメクチックC相からコレステリック相までの昇温過程に続くコレステリック相からカイラルスメクチックC相までの降温過程時に、前記液晶物質に電圧を印加し、カイラルスメクチックC相からコレステリック相までの前記昇温過程、または、コレステリック相からカイラルスメクチックC相までの前記降温過程にて温度を一定に保つ保持期間を設け、前記昇温過程または降温過程におけるカイラルスメクチックC相とコレステリック相との転移温度をT c ℃とした場合、(T c +1)℃の温度を、前記保持期間にて1分以上保持し、カイラルスメクチックC相からコレステリック相までの前記昇温過程及びコレステリック相からカイラルスメクチックC相までの前記降温過程における温度勾配を3℃/分以下とし、前記降温過程時に前記液晶物質に電圧を印加する際の温度範囲T℃が、カイラルスメクチックC相とコレステリック相との転移温度をT c ℃、コレステリック相と等方性液体相との転移温度をT i ℃とした場合に、T c −2≦T≦T c +2を満たし、かつ、T<T i を満たすように設定することを要件とする。
【0013】
第1発明にあっては、高温側より等方性液体相−コレステリック相−カイラルスメクチックC相の相転移系列を示す液晶物質において、単安定化された状態を得るために、カイラルスメクチックC相からコレステリック相までの昇温過程に続くコレステリック相からカイラルスメクチックC相までの降温過程時に液晶物質に電圧を印加する。即ち、カイラルスメクチックC相から等方性液体相まで昇温させず、カイラルスメクチックC相からコレステリック相まで昇温させた後に配向処理を行う。等方性液体相まで昇温させた場合には、電界に応答しない配向処理不能な状態、つまり無秩序な状態に一度なってしまう。これに対して、第1発明では、電界に応答するコレステリック相までしか昇温させないので、無秩序な状態を経験しなかった分だけ、一様な液晶配向を得ることができる。
また、昇温過程または降温過程において、1分以上、(T c +1)℃の温度を保持し(T c :カイラルスメクチックC相及びコレステリック相の転移温度)、温度勾配を3℃/分以下とする。よって、パネルの温度ムラを吸収して、液晶配向の均一性がより高くなる。
また、電圧を印加する際の温度範囲T℃がT c −2≦T≦T c +2を満たすと共に、T<T i を満たすようにし(T c :カイラルスメクチックC相及びコレステリック相の転移温度、T i :コレステリック相及び等方性液体相の転移温度)、ラビング方向が略平行のパラレルラビング処理を配向膜に施す。よって、液晶配向の高い均一性が得られる。
また、配向膜のプレチルト角を2°以下とする。よって、液晶配向の高い均一性が得られる。
【0014】
第2発明に係る液晶表示素子の製造方法は、前記保持期間の長さを3分以上とすることを要件とする。
【0015】
第2発明にあっては、昇温過程または降温過程において3分以上、(Tc +1)℃の温度を保持する(Tc :カイラルスメクチックC相及びコレステリック相の転移温度)。よって、パネルの温度ムラを吸収して、液晶配向の均一性がより高くなる。
【0016】
第3発明に係る液晶表示素子の製造方法は、カイラルスメクチックC相からコレステリック相までの前記昇温過程及びコレステリック相からカイラルスメクチックC相までの前記降温過程における温度勾配を1℃/分以下とすることを要件とする。
【0017】
第3発明にあっては、昇温過程及び降温過程において、温度勾配を1℃/分以下とする。よって、パネルの温度ムラを吸収して、液晶配向の均一性がより高くなる。
【0018】
第4発明に係る液晶表示素子の製造方法は、前記降温過程時に前記液晶物質に電圧を印加する際の温度範囲T℃が、カイラルスメクチックC相とコレステリック相との転移温度をTc ℃、コレステリック相と等方性液体相との転移温度をTi ℃とした場合に、Tc −5≦T≦Tc +5を満たし、かつ、T<Ti を満たすように設定することを要件とする。
【0019】
第4発明にあっては、電圧を印加する際の温度範囲T℃がTc −5≦T≦Tc+5を満たすと共に、T<Ti を満たすようにする(Tc :カイラルスメクチックC相及びコレステリック相の転移温度、Ti :コレステリック相及び等方性液体相の転移温度)。よって、液晶配向の高い均一性が得られる。
【0022】
第5発明に係る液晶表示素子の製造方法は、前記配向膜のプレチルト角を1°以下とすることを要件とする。
【0023】
第5発明にあっては、配向膜のプレチルト角を1°以下とする。よって、液晶配向の高い均一性が得られる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面を参照して具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0029】
配向処理を評価するための液晶セルを以下のようにして作製した。ITO(Indium Tin Oxide)透明電極(電極面積:1cm2 )を有するガラス基板を洗浄した後、ポリイミドを塗布して200℃で1時間焼成することにより、約200Åの配向膜を形成した。この配向膜としては、ネマチック液晶(ZLI−4792,メルク社製)に対するプレチルト角が1°のポリイミド膜を用いた。次に、配向膜の表面をレーヨン製の布でラビングし、ラビング方向が平行(パラレル)となるように2枚の透明電極付きのガラス基板を重ね合わせ、両者間に平均粒径1.8μmのシリカ製のスペーサでギャップを保持して評価用の空セルを作製した。作製した空セルのギャップは、実測で2.0μmであった。
【0030】
このように作製した評価用の空セルに、高温側より等方性液体相(Iso)−コレステリック相(Ch )−カイラルスメクチックC相(Sc * )の相転移系列を示す液晶物質を注入した。注入した液晶物質は、カイラルスメクチックC相とコレステリック相との転移温度(Tc )がTc =68℃であり、コレステリック相と等方性液体相との転移温度(Ti )がTi =108℃であり、自発分極の大きさは3.7nC/cm2 であった。
【0031】
カイラルスメクチックC相において均一な液晶配向を実現するために、後述するような種々の条件(8種の条件:実施例1〜8)にて配向処理(単安定状態を得るために液晶物質に電圧を印加する処理)を行った。なお、印加する電界は全て2V/μmとした。配向処理後の評価用の液晶セルをクロスニコル状態の2枚の偏光板で挾み、30℃における黒透過率(0V印加時)及び白透過率(10V印加時)を測定し、コントラスト比を算出した。実施例1〜8における配向処理の条件と評価用セルの作製条件と光学特性とを図1の表に示す。
【0032】
(実施例1)
30℃から70℃まで3℃/分の温度勾配で昇温させ、その昇温中に69℃の状態を1分間だけ保持した。そして、70℃から30℃まで3℃/分の温度勾配で、特定の温度に保持することなく降温させた。この降温過程において、温度TがTc −2≦T≦Tc +2を満たす範囲で、即ち、70℃から66℃の温度範囲で電界を印加した。このような実施例1における時間と温度との関係を図2に示す。なお、図2において、ハッチングを付した部分が、電界を印加した範囲である。黒透過率が0.25%、白透過率が35.0%であり、140という高いコントラスト比が得られた。
【0033】
(実施例2)
昇温過程において69℃に保持する時間を3分間とした点以外は、実施例1と全く同様の条件とした。実施例2における時間と温度との関係を図2に示す。黒透過率が0.21%、白透過率が34.8%であり、166という高いコントラスト比が得られた。
【0034】
(実施例3)
昇温過程において69℃に保持する時間を5分間とした点以外は、実施例1と全く同様の条件とした。実施例3における時間と温度との関係を図2に示す。黒透過率が0.19%、白透過率が35.1%であり、185という高いコントラスト比が得られた。
【0035】
(実施例4)
30℃から70℃まで3℃/分の温度勾配で、特定の温度に保持することなく昇温させた。そして、70℃から30℃まで3℃/分の温度勾配で降温させ、その降温中に69℃の状態を1分間だけ保持した。この降温過程において、温度TがTc −2≦T≦Tc +2を満たす範囲で、即ち、70℃から66℃の温度範囲で電界を印加した。このような実施例4における時間と温度との関係を図3に示す。なお、図3において、ハッチングを付した部分が、電界を印加した範囲である。黒透過率が0.23%、白透過率が35.0%であり、152という高いコントラスト比が得られた。
【0036】
(実施例5)
降温過程において69℃に保持する時間を3分間とした点以外は、実施例4と全く同様の条件とした。実施例5における時間と温度との関係を図3に示す。黒透過率が0.20%、白透過率が34.8%であり、174という高いコントラスト比が得られた。
【0037】
(実施例6)
降温過程において69℃に保持する時間を5分間とした点以外は、実施例4と全く同様の条件とした。実施例6における時間と温度との関係を図3に示す。黒透過率が0.18%、白透過率が35.2%であり、196という高いコントラスト比が得られた。
【0038】
(実施例7)
昇温過程における温度勾配を1℃/分とした点以外は、実施例1と全く同様の条件とした。実施例7における時間と温度との関係を図4に示す。なお、図4において、ハッチングを付した部分が、電界を印加した範囲である。黒透過率が0.18%、白透過率が35.2%であり、196という高いコントラスト比が得られた。
【0039】
(実施例8)
30℃から73℃まで3℃/分の温度勾配で昇温させ、その昇温中に69℃の状態を1分間だけ保持させた。そして、73℃から30℃まで3℃/分の温度勾配で、特定の温度に保持することなく降温させた。この降温過程において、温度TがTc −5≦T≦Tc +5を満たす範囲で、即ち、73℃から63℃の温度範囲で電界を印加した。このような実施例8における時間と温度との関係を図5に示す。なお、図5において、ハッチングを付した部分が、電界を印加した範囲である。黒透過率が0.22%、白透過率が35.1%であり、160という高いコントラスト比が得られた。
【0040】
次に、配向処理以外の条件は上述した実施例1〜8と同様にした、従来例(カイラルスメクチックC相から等方性液体相まで昇温させて配向処理を行う)と比較例1,2とを作製して、その光学特性を同様に測定した。これらの従来例及び比較例1,2における配向処理の条件と評価用セルの作製条件と光学特性とを図1の表に示す。
【0041】
(従来例)
30℃から120℃まで3℃/分の温度勾配で連続的に昇温させ、120℃から30℃まで3℃/分の温度勾配で連続的に降温させた。そして、この降温過程において、温度TがTc −2≦T≦Tc +2を満たす範囲で、即ち、70℃から66℃の温度範囲で電界を印加した。このような従来例における時間と温度との関係を図6に示す。なお、図6において、ハッチングを付した部分が、電界を印加した範囲である。黒透過率が0.49%、白透過率が35.1%であり、72という低いコントラスト比しか得られなかった。
【0042】
(比較例1)
昇温過程及び降温過程における温度勾配を5℃/分とした点以外は、実施例1と全く同様の条件とした。比較例1における時間と温度との関係を図7に示す。なお、図7において、ハッチングを付した部分が、電界を印加した範囲である。黒透過率が0.71%、白透過率が35.0%であり、49という低いコントラスト比しか得られなかった。
【0043】
(比較例2)
30℃から69℃まで昇温させた後に再び30℃まで降温させ、降温過程において、温度TがTc −1≦T≦Tc +1を満たす範囲で、即ち、69℃から67℃の温度範囲で電界を印加した。なお、これ以外の条件は実施例1と同じとした。比較例2における時間と温度との関係を図8に示す。なお、図8において、ハッチングを付した部分が、電界を印加した範囲である。黒透過率が0.58%、白透過率が34.8%であり、60という低いコントラスト比しか得られなかった。
【0044】
図9は、昇温過程または降温過程において(Tc +1)℃(69℃)に保持する時間と光学特性との関係を示すグラフである。図9において、横軸は(Tc +1)℃の保持時間(分)、縦軸は黒透過率(%)及びコントラスト比であり、実線が黒透過率、点線がコントラスト比を示している。図9には、昇温過程での保持時間のみを異ならせた上述した実施例1,2及び3(○,●印)と、降温過程での保持時間のみを異ならせた上述した実施例4,5及び6(◇,◆印))との測定結果を記載している。
【0045】
図9の結果から、(Tc +1)℃の保持時間が1分以上であれば、表示に最低限必要なコントラスト比100を実現できている。これは、パネルの温度ムラを吸収して配向の高い均一性が得られているためである。また、(Tc +1)℃の保持時間が長いほど、黒透過率が低下してコントラスト比が向上するので、その保持時間は3分以上が更に好ましい。また、実施例1と4、2と5、3と6を比較すれば、(Tc +1)℃に保持することは、昇温過程よりも降温過程で行った方が有効であることが分かる。
【0046】
図10は、昇温過程及び降温過程における温度勾配と光学特性との関係を示すグラフである。図10において、横軸は温度勾配(℃/分)、縦軸は黒透過率(%)及びコントラスト比であり、実線が黒透過率、点線がコントラスト比を示している。図10には、温度勾配のみを異ならせた上述した実施例1,実施例7及び比較例1での測定結果を記載している。
【0047】
昇温過程及び降温過程での温度勾配が低いほど、黒透過率は低下する。これは、温度勾配が低いほど配向の均一性が高くなっていることを示している。表示に最低限必要なコントラスト比100を実現するためには、温度勾配を3℃/分以下にする必要がある。
【0048】
図11は、電界を印加する温度範囲と光学特性との関係を示すグラフである。図11において、横軸は電界印加時の温度範囲(Tc との差)(℃)、縦軸は黒透過率(%)及びコントラスト比であり、実線が黒透過率、点線がコントラスト比を示している。図11には、温度範囲のみを異ならせた上述した実施例1,実施例8及び比較例2での測定結果を記載している。
【0049】
電界を印加する温度範囲が広いほど、黒透過率は低下する。これは、温度範囲が広いほど、パネルの温度ムラを吸収して配向の均一性が高くなっていることを示している。表示に最低限必要なコントラスト比100を実現するためには、(Tc −2)℃以上、(Tc +2)℃以下より広い範囲で電界を印加する必要があり、更に、(Tc −5)℃以上、(Tc +5)℃以下より広い範囲で電界を印加することがより好ましい。但し、等方性液体相にならないように、その温度範囲はTi より低い温度でなければならない。
【0050】
(実施例9)
プレチルト角が2°のポリイミド配向膜を用いた点以外は、実施例1と全く同様の条件として評価用のセルを作製し、その光学特性(黒透過率,白透過率及びコントラスト比)を求めた。実施例9における配向処理の条件と評価用セルの作製条件と光学特性とを図1の表に示す。黒透過率が0.34%、白透過率が35.2%であり、104というコントラスト比が得られた。実施例1よりコントラスト比は低下しているが、表示に最低限必要なコントラスト比100は確保できている。
【0051】
(比較例3)
プレチルト角が4°のポリイミド配向膜を用いた点以外は、実施例1と全く同様の条件として評価用のセルを作製し、その光学特性(黒透過率,白透過率及びコントラスト比)を求めた。比較例3における配向処理の条件と評価用セルの作製条件と光学特性とを図1の表に示す。黒透過率が0.74%、白透過率が34.9%であり、47という低いコントラスト比しか得られなかった。
【0052】
図12は、ポリイミド配向膜のプレチルト角と光学特性との関係を示すグラフである。図12において、横軸はプレチルト角(°)、縦軸は黒透過率(%)及びコントラスト比であり、実線が黒透過率、点線がコントラスト比を示している。図12には、プレチルト角のみを異ならせた上述した実施例1,実施例9及び比較例3での測定結果を記載している。
【0053】
プレチルト角が小さいほど、黒透過率は低下し、配向の均一性が高くなっていることが分かる。表示に最低限必要なコントラスト比100を実現するためには、プレチルト角の大きさを2°以下にする必要があり、更に、1°以下にすることがより好ましい。
【0054】
(比較例4)
ラビング方向が反平行(アンチパラレル)となるように2枚のガラス基板を重ね合わせる点以外は、実施例1と全く同様の条件として評価用のセルを作製し、その光学特性(黒透過率,白透過率及びコントラスト比)を求めた。比較例4における配向処理の条件と評価用セルの作製条件と光学特性とを図1の表に示す。黒透過率が0.69%、白透過率が35.2%であり、51という低いコントラスト比しか得られなかった。
【0055】
次に、このようにして製造された液晶表示素子を使用する本発明の液晶表示装置について説明する。図13は液晶パネル及びバックライトの模式的断面図、図14は液晶表示装置の全体の構成例を示す模式図である。
【0056】
図13及び図14に示されているように、液晶パネル21は上層(前面)側から下層(背面)側に、偏光フィルム1,ガラス基板2,共通電極3,ガラス基板4,偏光フィルム5をこの順に積層して構成されており、ガラス基板4の共通電極3側の面にはマトリクス状に配列された画素電極(ピクセル電極)40,40…が形成されている。
【0057】
これら共通電極3及び画素電極40,40…間にはデータドライバ及びスキャンドライバ(図示せず)等よりなる駆動部50が接続されている。データドライバは、信号線42を介してTFT41と接続されており、スキャンドライバは、走査線43を介してTFT41と接続されている。TFT41はスキャンドライバによりオン/オフ制御される。また個々の画素電極40,40…は、TFT41によりオン/オフ制御される。そのため、信号線42及びTFT41を介して与えられるデータドライバからの信号により、個々の画素の透過光強度が制御される。
【0058】
ガラス基板4上の画素電極40,40…の上面には配向膜12が、共通電極3の下面には配向膜11が夫々配置され、これらの配向膜11,12間に液晶物質が充填されて液晶層13が形成される。なお、14は液晶層13の層厚を保持するためのスペーサである。
【0059】
液晶パネル21は、具体的には以下のようにして作製する。画素電極40,40…(画素数:640×480,電極面積:6×10-5cm2 ,対角:3.2インチ)を有するTFT基板と共通電極3を有するガラス基板2とを洗浄した後、プレチルト角が1°であるポリイミドを塗布して200℃で1時間焼成することにより、約200Åのポリイミド膜を配向膜11,12として成膜する。
【0060】
更に、これらの配向膜11,12をレーヨン製の布でラビングし、ラビング方向が平行(パラレル)となるように2枚の基板を重ね合わせ、両者間に平均粒径1.8μmのシリカ製のスペーサ14でギャップ(実測で2.0μm)を保持した空パネルを作製する。この空パネルの配向膜11,12間に、高温側より等方性液体相(Iso)−コレステリック相(Ch )−カイラルスメクチックC相(Sc * )の相転移系列を示す液晶物質を注入する。注入する液晶物質は、Tc =68℃であり、Ti =108℃であり、自発分極の大きさは3.7nC/cm2 である。
【0061】
カイラルスメクチックC相において均一な液晶配向を実現するために、次のような配向処理を行う。30℃から1℃/分の温度勾配で昇温させ、73℃(=Tc +5)まで達した後、1℃/分の温度勾配で降温させる。そして、その降温過程で69℃(=Tc +1)で5分間保持し、73℃(=Tc +5)から63℃(=Tc −5)までの温度範囲内で、注入した液晶物質に直流の10Vを印加する。
【0062】
作製したパネルをクロスニコル状態の2枚の偏光フィルム1,5で、電圧無印加時の液晶分子ダイレクタの平均分子軸と一方の偏光フィルムの偏光軸とが略一致して暗状態になるように、挟んで液晶パネル21とする。
【0063】
このようにして作製した液晶パネル21の各画素にTFT41のスイッチングを介して電圧を印加した場合の電圧−透過光強度の特性を図15のグラフに表す。この特性は、第1の極性(+)の電圧を印加した際に大きな光透過率が得られるようにして測定したものである。
【0064】
バックライト22は、液晶パネル21の下層(背面)側に位置し、発光領域を構成する導光及び光拡散板6の端面に臨ませた状態でLEDアレイ7が備えられている。このLEDアレイ7は、導光及び光拡散板6と対向する面に3原色、即ち赤(R),緑(G),青(B)の各色を発光するLEDが順次的且つ反復して配列されている。そして、後述するフィールド・シーケンシャル方式における赤,緑,青の各サブフレームにおいて、赤,緑,青のLEDを夫々発光させる。導光及び光拡散板6はこのLEDアレイ7の各LEDから発光される光を自身の表面全体に導光すると共に上面へ拡散することにより、発光領域として機能する。バックライト制御回路35は、このような赤,緑,青の各色のLEDの時分割発光を制御する。
【0065】
この液晶表示装置における表示制御は、図16に示すフィールド・シーケンシャル方式のタイムチャートに従って行う。図16(a)はバックライト22の各色のLEDの発光タイミング、図16(b)は液晶パネル21の各ラインの走査タイミング、図16(c)は液晶パネル21の発色状態を夫々示す。この例では、1秒間に60フレームの表示を行う。従って、1フレームの期間は1/60秒になり、この1フレームの期間を1/180秒ずつの3サブフレームに分割する。
【0066】
そして、第1番目から第3番目までの夫々のサブフレームにおいて、図16(a)に示すように赤,緑,青のLEDを夫々順次発光させる。このような各色の順次発光に同期して液晶パネル21の各画素をライン単位でスイッチングすることによりカラー表示を行う。なおこの例では、第1番目のサブフレームにおいて赤を、第2番目のサブフレームにおいて緑を、第3番目のサブフレームにおいて青を夫々発光させるようにしているが、この各色の順序はこの赤,緑,青の順に限らず、他の順序であっても良い。
【0067】
一方、図16(b)に示すとおり、液晶パネル21に対しては赤,緑,青の各色のサブフレーム中にデータ走査を2度行う。但し、1回目の走査(データ書込み走査)の開始タイミング(第1ラインへのタイミング)が各サブフレームの開始タイミングと一致するように、また2回目の走査(データ消去走査)の終了タイミング(最終ラインへのタイミング)が各サブフレームの終了タイミングと一致するようにタイミングを調整する。
【0068】
データ書込み走査にあっては、液晶パネル21の各画素には画素データに応じた電圧(0〜7V)が供給され、光透過率の調整が行われる。これによって、フルカラー表示が可能となる。またデータ消去走査にあっては、データ書込み走査時と同電圧で逆極性の電圧(−7〜0V)が液晶パネル21の各画素に供給され、液晶パネル21の各画素の表示が消去され、液晶への直流成分の印加が防止される。
【0069】
以上のようにして、本発明の液晶表示装置はフィールド・シーケンシャル方式のフルカラー表示を行う。液晶配向の均一性が高いので、行ったカラー表示は、一様性に優れ、高いコントラスト比、高い輝度及び高い色純度を達成できており、高品質の表示を実現できる。
【0070】
なお、上述した例ではフィールド・シーケンシャル方式のフルカラー表示を行う場合について説明したが、マイクロカラーフィルタを用いてフルカラー表示を行うようにしても良い。
【0071】
図17は、マイクロカラーフィルタを用いる液晶表示装置における液晶パネル及びバックライトの模式的断面図である。図17において、図13と同一部分には、同一番号を付してそれらの説明を省略する。各画素電極(ピクセル電極)40,40…には、3原色(R,G,B)のカラーフィルタ60,60…が設けられている。また、バックライト22は、白色光を出射する白色光源70と導光及び光拡散板6とから構成されている。
【0072】
【発明の効果】
以上のように、本発明では、カイラルスメクチックC相からコレステリック相までの昇温過程と、コレステリック相からカイラルスメクチックC相までの降温過程との順序で液晶物質に電圧を印加するようにしたので、均一な単安定状態の液晶配向を実現した、高いコントラスト比を有する液晶表示素子を製造することができる。
【0073】
昇温過程または降温過程において、1分以上、より好ましくは3分以上、(Tc +1)℃の温度を保持する、昇温過程及び降温過程において、温度勾配を、3℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下とする、電圧を印加する際の温度範囲T℃が、Tc −2≦T≦Tc +2、より好ましくはTc −5≦T≦Tc +5を満たすと共に、T<Ti を満たすようにする、ラビング方向が略平行のパラレルラビング処理を配向膜に施す、または、配向膜のプレチルト角を、2°以下、より好ましくは1°以下とするようにしたので、液晶配向のより一層の均一化を図ることができる。なお、空パネルに液晶物質を注入する際に、Tc <T<Ti を満たす温度Tにて液晶物質を注入し、その後、冷却しながら上記温度条件に基づいた配向処理を行うようにしても、同様の効果を奏する。
【0074】
また、均一性が高い液晶配向状態が実現されている液晶表示素子を用いるので、高いコントラスト比、高い輝度及び高い色純度を達成した高品質の表示を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】配向処理条件、評価用セルの作製条件及び光学特性を示す図表である。
【図2】実施例1,2及び3の配向処理における時間と温度との関係を示す図である。
【図3】実施例4,5及び6の配向処理における時間と温度との関係を示す図である。
【図4】実施例7の配向処理における時間と温度との関係を示す図である。
【図5】実施例8の配向処理における時間と温度との関係を示す図である。
【図6】従来例の配向処理における時間と温度との関係を示す図である。
【図7】比較例1の配向処理における時間と温度との関係を示す図である。
【図8】比較例2の配向処理における時間と温度との関係を示す図である。
【図9】昇温過程または降温過程において(Tc +1)℃に保持する時間と光学特性との関係を示すグラフである。
【図10】昇温過程及び降温過程における温度勾配と光学特性との関係を示すグラフである。
【図11】電界を印加する温度範囲と光学特性との関係を示すグラフである。
【図12】ポリイミド配向膜のプレチルト角と光学特性との関係を示すグラフである。
【図13】液晶パネル及びバックライトの模式的断面図である。
【図14】液晶表示装置の全体の構成例を示す模式図である。
【図15】液晶パネルに電圧を印加した場合の電圧−透過光強度の特性を示すグラフである。
【図16】液晶表示装置の表示制御を示すタイムチャートである。
【図17】液晶パネル及びバックライトの模式的断面図である。
【図18】強誘電性液晶パネルにおける液晶分子の配列状態を示す図である。
【図19】単安定型の強誘電液晶のチルトを説明するための図である。
【符号の説明】
2,4 ガラス基板
3 共通電極
11,12 配向膜
13 液晶層
22 バックライト
21 液晶パネル
40 画素電極(ピクセル電極)
41 TFT
60 カラーフィルタ
Claims (5)
- 対向する2枚の基板の各対向面に電極と、ラビング方向が略平行のパラレルラビング処理を施され、プレチルト角が2°以下となるように前記電極上に設けられた配向膜とを有するとともに両電極間に自発分極を有する液晶物質を有し、前記液晶物質は、前記電極に電圧を印加しない場合にその分子ダイレクタの平均分子軸が一方向に存在する単安定化された状態を示し、第1の極性の電圧を印加した場合にその平均分子軸が印加電圧の大きさに応じた角度で単安定化した位置から一方の側にチルトし、前記第1の極性と逆特性の第2の極性の電圧を印加した場合にその平均分子軸が単安定化した位置を維持するかまたは単安定化した位置から前記第1の極性の電圧印加時とは逆側にチルトする液晶表示素子を製造する方法において、
前記液晶物質は、高温側より等方性液体相−コレステリック相−カイラルスメクチックC相の相転移系列を示す液晶物質であり、カイラルスメクチックC相からコレステリック相までの昇温過程に続くコレステリック相からカイラルスメクチックC相までの降温過程時に、前記液晶物質に電圧を印加し、
カイラルスメクチックC相からコレステリック相までの前記昇温過程、または、コレステリック相からカイラルスメクチックC相までの前記降温過程にて温度を一定に保つ保持期間を設け、
前記昇温過程または降温過程におけるカイラルスメクチックC相とコレステリック相との転移温度をT c ℃とした場合、(T c +1)℃の温度を、前記保持期間にて1分以上保持し、
カイラルスメクチックC相からコレステリック相までの前記昇温過程及びコレステリック相からカイラルスメクチックC相までの前記降温過程における温度勾配を3℃/分以下とし、
前記降温過程時に前記液晶物質に電圧を印加する際の温度範囲T℃が、カイラルスメクチックC相とコレステリック相との転移温度をT c ℃、コレステリック相と等方性液体相との転移温度をT i ℃とした場合に、T c −2≦T≦T c +2を満たし、かつ、T<T i を満たすように設定することを特徴とする液晶表示素子の製造方法。 - 前記保持期間の長さを3分以上とすることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子の製造方法。
- カイラルスメクチックC相からコレステリック相までの前記昇温過程及びコレステリック相からカイラルスメクチックC相までの前記降温過程における温度勾配を1℃/分以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶表示素子の製造方法。
- 前記降温過程時に前記液晶物質に電圧を印加する際の温度範囲T℃が、カイラルスメクチックC相とコレステリック相との転移温度をTc ℃、コレステリック相と等方性液体相との転移温度をTi ℃とした場合に、Tc −5≦T≦Tc +5を満たし、かつ、T<Ti を満たすように設定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
- 前記配向膜のプレチルト角を1°以下とすることを特徴とする請求項1乃至4の何れに記載の液晶表示素子の製造方法。
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