JP4069592B2 - 形状性および加工性に優れ、異方性の小さい冷延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車、電気製品、缶材、建材等の用途に好適な形状性および加工性に優れ、異方性の小さい冷延鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
加工性を要求される冷延鋼板や表面処理鋼板では、伸び、深絞り性に優れ、かつ、異方性の小さい機械的性質を有する必要がある。また、鋼板の形状、製造時の熱延鋼帯の搬送性も、そのような鋼板を作る上で重要な因子である。
【0003】
従来、極低炭素・窒素系の成分系で、TiやNb等の炭化物形成元素や窒化物形成元素の添加を行うことによって、軟質高延性を目指してきた。その発想の基本は、製鋼段階で、炭素、窒素等の侵入型元素をできる範囲で除去すること、その際に、除去できずに残存するレベルの侵入型元素、もしくは除去することが経済的に見合わないレベルの侵入型元素を、析出物として固定して、鋼中に侵入型元素を存在させないことである。
【0004】
しかし、加工性の要求が厳しくなってくるにつれて、成分調整だけではかかる要求を満足する鋼板を得ることができず、プロセス面からもさらなる材質の向上を図る必要が生じている。すでに、冷却技術を有効に活用することによって、熱延板の粒径を微細化させ、冷延・焼鈍後の機械的性質を向上させることについては概念的に知られている。その方法とは、▲1▼熱間圧延終了後から冷却を開始するまでの時間(以下、冷却開始時間と記す。)を短くすること、および、▲2▼冷却速度をできる限り速くすること、を同時に行うことにより熱延板の微細化を図るというものである。
【0005】
この技術の基本は、上記▲1▼については、熱間圧延完了後には仕上圧延時に導入された歪が回復再結晶するとともにγ(オーステナイト)粒の成長が速やかに生じるため(1)γ粒が微細なうちに冷却を開始し、微細なγ粒界からのα(フェライト)粒の形成を行うことによって微細化を図ること、あるいは、(2)さらに短時間側で冷却を開始して熱間圧延時の加工歪がまだ十分に解放されていない状態にて、γ粒中の変形帯を核としてα粒の形成を行うことによって微細化を図るということにある。
【0006】
上記▲2▼については、冷却速度が遅い場合、冷却時にγ粒の回復再結晶や粒成長、および、変態後にα粒の粒成長が起こるので、冷却速度を大きくしてα粒の微細化を図ることである。さらに、冷却速度を大きくすることにより、γ−α変態点を降下させ、変態後の温度が低い分、変態後の粒成長が抑制される傾向になるという利点もある。
【0007】
実験的には、例えば、材料とプロセス(vol.3,(1990)、p.785:木野ら)には、仕上温度をAr3変態点以上に確保して、▲1▼熱間圧延終了後0.1秒後に冷却を開始し、▲2▼冷却速度を約180℃/secとして冷却することによって熱延板の細粒化を行うと、冷延・焼鈍後の機械的性質、特にr値を向上することができるということが開示されている。
【0008】
また、熱延板細粒化を冷却によって行い、材質向上を図ることに関して、既に様々な製造方法が開示されている。例えば、特開平7−70650号公報には、鋼中C量が15ppm以下の極低炭素鋼板において、r値:2.50以上の材質を達成する製造方法として、Ar3変態点以上で仕上圧延を完了後、冷却開始時間を圧延終了後0.5秒以内に設定し、冷却開始温度から(Ar3変態点−60℃)までの温度域を、50〜400℃/secで冷却する技術が開示されている。ただし、この方法では、さらに熱延の仕上圧延出側3パスの累積圧下率を50%以上に規定している。この方法は、冷却技術による熱延板微細化と熱間圧延での加工歪の大量蓄積により、r値:2.50以上および深絞り性を実現しようというものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述した木野らの開示した技術や、上記公報において開示された技術では、いかなる条件においてもr値をはじめとする機械的性質がすべて向上できるわけではなく、条件によってはr値や伸び等の加工性が向上せず、劣化する場合もある。また、熱間圧延で加工歪を大量蓄積する際に、鋼板の形状が乱れ、鋼板の搬送性に問題が生じることもある。すなわち、鋼板の形状や搬送性に優れ、かつ、従来よりも格段に優れたr値や伸び等の加工性を有する鋼板を安定して製造することができるプロセス条件は未だ得られていない。また、この種の鋼板では鋼板長手方向の均一性も重要であるが、上記従来技術では鋼板長手方向の均一性については何ら考慮されていない。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、極低炭素・窒素系の成分系を有し、搬送性を含めた形状性、加工性および異方性に優れた冷延鋼板を安定して製造することができる製造方法を提供することを目的とする。また、これら特性に加えて、長手方向の材質が均一な冷延鋼板を安定して製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らが検討を行った結果、前述した木野らが提案した技術や、上記公報に記載された技術では、急冷の温度降下量および冷却停止温度が良好な範囲に制御されていないと機械的性質(r値および伸び)を向上できないことが判明した。すなわち、本発明者らがこれらの技術に基づいて実験を行ったところ、急冷の温度降下量または冷却停止温度が良好な範囲を外れている場合には、平均r値は高くても伸びが向上せず、逆に伸びが低下することもあり、さらには、平均r値も劣化することもあることが判明した。つまり、急冷によって冷やしすぎることは機械的性質に悪影響を及ぼし、また、ある指定した温度域を含んだ広範囲の温度域(低温側に拡張した温度域)を急冷によって冷却させるだけでは材質の向上はみられない。さらに、加工歪を大量に蓄積して細粒化を図ろうとすると、鋼板の搬送性、形状性に悪影響を及ぼすことも判明した。
【0012】
そこで、本発明者らは、このような問題を解決するために研究を行った結果、極低炭素鋼を基本とする成分系において、熱延の圧下条件を制御して、その上で、熱延ランナウト冷却条件を制御することによって、形状性に優れ、かつ、従来よりも格段に優れた加工性および異方性を有する冷延鋼板が得られることを見出した。すなわち、鋼組成を極低炭素系の特定組成に調整することに加えて、以下の知見を得た。
【0013】
(1)熱延の際の圧下条件に関しては、仕上圧延の最終パスの圧下率および最終パス前の2パスの圧下率を適切に設定することにより、鋼板の形状性、製造時の熱延鋼板の搬送性を良好にし、かつ、熱間での加工歪を問題ない範囲で多くして微細化を図ることができる。
【0014】
(2)仕上圧延後できるだけ短時間のうちに所定の急速冷却を開始することが、熱延板細粒化および機械的性質の向上のために有効である。ただし、短時間すぎる場合、わずかな冷却開始時間のずれで細粒化の度合いが異なることが多いため、板の長手方向で材質を均一にするには、冷却開始時間には適正範囲がある。
【0015】
(3)上記急速冷却による温度降下量の範囲を適切に設定することにより、急冷による冷やしすぎを抑え、伸び、深絞り性等の加工性および異方性を向上させることができる。
【0016】
(4)上記急速冷却の冷却停止温度を適切に設定することにより、所望の微細組織を得ることができる。
【0017】
(5)急速冷却後の冷却を適切な徐冷却にすることにより、適切なポリゴナルフェライト粒の形成が可能となる。
【0018】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、第1発明は、重量%で、
C :0.0003%以上0.01%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05%以上2.5%以下、
P :0.003%以上0.1%以下、
S :0.0003%以上0.02%以下、
Sol.Al:0.005%以上0.1%以下、
N :0.0003%以上0.004%以下
を含み、さらに重量%で、Ti,Nb,V,Zrのうちの1種以上を、合計で0.005%以上0.1%以下含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼スラブを加熱し、熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍して冷延鋼板を製造するにあたり、
前記熱間圧延は、
仕上圧延において、最終パス前の2パスの合計圧下率を25%以上45%以下、かつ最終パスの圧下率を5%以上25%以下とし、さらに、仕上温度をAr3変態点以上(Ar3変態点+50℃)以下として仕上圧延を終了し、
次いで、仕上圧延終了後1秒以内に、200℃/sec以上2000℃/sec以下の冷却速度で急速冷却を開始して、この急速冷却における前記仕上圧延の仕上温度からの温度降下量を50℃以上250℃以下とし、かつこの急速冷却の冷却停止温度を650℃以上850℃以下とし、
引き続いて、100℃/sec以下の徐冷却または空冷を行った後、得られた熱延鋼帯を巻き取ることを特徴とする形状性および加工性に優れ、異方性の小さい冷延鋼板の製造方法を提供する。
【0019】
第2発明は、重量%で、
C :0.0003%以上0.01%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05%以上2.5%以下、
P :0.003%以上0.1%以下、
S :0.0003%以上0.02%以下、
Sol.Al:0.005%以上0.1%以下、
N :0.0003%以上0.004%以下
を含み、さらに重量%で、Ti,Nb,V,Zrのうちの1種以上を、合計で0.005%以上0.1%以下含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼スラブを加熱し、熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍して冷延鋼板を製造するにあたり、
前記熱間圧延は、
仕上圧延において、最終パス前の2パスの合計圧下率を25%以上45%以下、かつ最終パスの圧下率を5%以上25%以下とし、さらに、仕上温度をAr3変態点以上(Ar3変態点+50℃)以下として仕上圧延を終了し、
次いで、仕上圧延終了後0.5秒超1秒以内に、200℃/sec以上2000℃/sec以下の冷却速度で急速冷却を開始して、この急速冷却における前記仕上圧延の仕上温度からの温度降下量を50℃以上250℃以下とし、かつこの急速冷却の冷却停止温度を650℃以上850℃以下とし、
引き続いて、100℃/sec以下の徐冷却または空冷を行った後、得られた熱延鋼帯を巻き取ることを特徴とする形状性および加工性に優れ、異方性の小さい冷延鋼板の製造方法を提供する。
【0020】
第3発明は、重量%で、
C :0.0003%以上0.01%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05%以上2.5%以下、
P :0.003%以上0.1%以下、
S :0.0003%以上0.02%以下、
Sol.Al:0.005%以上0.1%以下、
N :0.0003%以上0.004%以下
を含み、さらに重量%で、Bを0.0001%以上0.001%以下含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼スラブを加熱し、熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍して冷延鋼板を製造するにあたり、
前記熱間圧延は、
仕上圧延において、最終パス前の2パスの合計圧下率を25%以上45%以下、かつ最終パスの圧下率を5%以上25%以下とし、さらに、仕上温度をAr 3 変態点以上(Ar 3 変態点+50℃以下)として仕上圧延を終了し、
次いで、仕上圧延終了後1秒以内に、200℃/sec以上2000℃/sec以下の冷却速度で急速冷却を開始して、この急速冷却における前記仕上圧延の仕上温度からの温度降下量を50℃以上250℃以下とし、かつこの急速冷却の冷却停止温度を650℃以上850℃以下とし、
引き続いて、100℃/sec以下の徐冷却または空冷を行った後、得られた熱延鋼帯を巻き取ることを特徴とする形状性および加工性に優れ、異方性の小さい冷延鋼板の製造方法を提供する。
【0021】
第4発明は、重量%で、
C :0.0003%以上0.01%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05%以上2.5%以下、
P :0.003%以上0.1%以下、
S :0.0003%以上0.02%以下、
Sol.Al:0.005%以上0.1%以下、
N :0.0003%以上0.004%以下
を含み、さらに重量%で、Bを0.0001%以上0.001%以下含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼スラブを加熱し、熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍して冷延鋼板を製造するにあたり、
前記熱間圧延は、
仕上圧延において、最終パス前の2パスの合計圧下率を25%以上45%以下、かつ最終パスの圧下率を5%以上25%以下とし、さらに、仕上温度をAr 3 変態点以上(Ar 3 変態点+50℃以下)として仕上圧延を終了し、
次いで、仕上圧延終了後0.5秒超1秒以内に、200℃/sec以上2000℃/sec以下の冷却速度で急速冷却を開始して、この急速冷却における前記仕上圧延の仕上温度からの温度降下量を50℃以上250℃以下とし、かつこの急速冷却の冷却停止温度を650℃以上850℃以下とし、
引き続いて、100℃/sec以下の徐冷却または空冷を行った後、得られた熱延鋼帯を巻き取ることを特徴とする形状性および加工性に優れ、異方性の小さい冷延鋼板の製造方法を提供する。
【0022】
第5発明は、前記第1発明または第2発明の冷延鋼板の製造方法において、前記鋼は、さらに重量%で、Bを0.0001%以上0.001%以下含有することを特徴とする。
第6発明は、前記第1発明から第5発明のいずれかの冷延鋼板の製造方法において、前記鋼は、さらに重量%で、Cuを0.015%以上0.08%以下含有することを特徴とする。
【0023】
なお、従来の技術では、例えば特開平7−70650号公報、特開平6−212354号公報、特開平6−17141号公報には、Ar3変態点を用いた規定として、「仕上温度:Ar3温度以上」というように温度そのものを表す場合と、「・・・から(Ar3−50℃)を、急速冷却する・・・」というように冷却の際の温度規定に用いる場合の両方が存在するが、急速冷却するほどAr3変態点は降下するので、後者におけるAr3変態点は前者におけるAr3変態点とは同じ温度ではなく、常に前者におけるAr3変態点が低い温度を示す。しかし、従来の技術では多くの場合、後者の文脈での変態点と、前者の文脈での変態点とを同じ温度として解釈しており、これは学術的にも正しくない。さらに、冷却速度が速いほどAr3変態点は下がるので、後者の文脈で一概にAr3変態点と言っても、実際にどのような数値を示すのか理解できない場合が多い。そのため、本発明では、急速冷却する場合の温度規定の際にはAr3変態点という曖昧な表現ではなく、数値により規定している。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明における冷延鋼板の製造方法について、鋼組成と、プロセス条件とに分けて、具体的に説明する。
1.鋼組成
本発明における鋼組成は、重量%で、C:0.0003%以上0.01%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.05%以上2.5%以下、P:0.003%以上0.1%以下、S:0.0003%以上0.02%以下、Sol.Al:0.005%以上0.1%以下、N:0.0003%以上0.004%以下を含有するものである。また、伸びフランジ性を向上させる観点から、前記鋼組成に加えて、必要に応じてTi,Nb,V,Zrのうちの1種以上を合計で0.005%以上0.1%以下の範囲で添加する。さらに、固溶Sの悪影響を低減する観点から、前記いずれかの鋼組成に加えて、必要に応じてCuを0.015%以上0.08%以下の範囲で添加する。さらにまた、鋼の耐縦割れ性を向上させる観点から、前記いずれかの鋼組成に加えて、必要に応じてBを0.0001%以上0.001%以下の範囲で添加する。
【0025】
C:0.0003%以上0.01%以下
Cは、極低炭素鋼や、固溶した侵入型元素が鋼中に存在しないIF鋼(Interstitial-Free steel)ベースの鋼を実現することができるレベルとする。ここでいうIF鋼には、IF鋼をベースとしたBH鋼(Bake-Hard steel)を含む。C量が少ないほど延性および深絞り性が向上するが、現状の製鋼条件のレベルを考慮してC含有量の下限を0.0003%とした。一方、C含有量が0.01%以下であれば、炭化物形成元素(Ti,Nb等)で固定することにより、IF鋼として延性および深絞り性を向上させることが可能となるので、C含有量を0.01%以下とした。C含有量を0.002%以下とすれば、伸び、深絞り性をより高いレベルにすることができ、炭化物形成元素の添加量を低減することができるため、C含有量は0.002%以下とすることが好ましい。一方、C含有量が0.002%以上0.01%以下の場合であっても、巻取温度を高めに設定したり、炭化物形成元素としてTi,Nb等を添加することにより、伸び、深絞り性をより高いレベルにすることができ、異方性も低く抑えることができる。
【0026】
Si:0.05%以下
Siは、軟質高延性の特性に対して悪影響を及ぼす元素であり、Znめっき等の表面処理に悪影響を及ぼす元素であるが、脱酸元素としても利用される。Si量が0.05%を超えると、材質や表面処理への悪影響が顕著となるため、0.05%以下とする。
【0027】
Mn:0.05%以上2.5%以下
Mnは、鋼の靱性を向上させる元素であり、固溶強化に有効に利用することができる元素であるが、添加しすぎると加工性に悪影響を与える。一方、Mnは、SをMnSとして析出することにも有効に利用することができる。本発明では、伸びや深絞り性を発現することを優先すると同時に、鋼の強化にも利用するためMn含有量を2.5%以下とする。一方、製鋼でのSの除去コストとの兼ね合いからMn含有量の下限を0.05%とする。
【0028】
P:0.003%以上0.1%以下
Pは、固溶強化元素であり、含有量の増加に伴って延性が劣化する。そのため、P含有量を0.1%以下とする。一方、Pは除去するほどに延性が向上するが、製鋼での除去コストと加工性との兼ね合いから、P含有量の下限を0.003%とする。一層良好な加工性を得るためには、0.015%以下とすることが好ましいが、この場合には粒成長が盛んになって熱延板の粒径細粒化が難しくなるので、巻取温度を低めに設定するとよい。
【0029】
S:0.0003%以上0.02%以下
Sは、赤熱脆性を引き起こす元素であるため、一般的にSを固定する機能を有するMn添加量に応じてその上限が規定されるが、S含有量が多いと硫化物の析出が多くなり、伸びや深絞り性が劣化するため、本発明ではその点を考慮してS含有量を0.02%以下とする。一方、S含有量は低いほど加工性には好ましいが、製鋼での除去コストとの兼ね合いからS含有量の下限を0.0003%とする。S含有量を0.012%以下とすれば、伸び、深絞り性をより高いレベルにすることができ、硫化物形成元素の添加量を少なくすることができるため、S含有量を0.012%以下とすることが好ましい。ただし、この場合には粒成長が盛んになって熱延板の粒径細粒化が難しくなるので、熱延後の巻取温度を低めに設定するとよい。一方、Sが0.012%以上0.02%以下の場合であっても、熱延後の巻取温度を高めに設定することにより、伸び、深絞り性をより高いレベルにすることができ、異方性も低く抑えることができる。
【0030】
Sol.Al:0.005%以上0.1%以下
Alは、溶鋼の脱酸元素として有効に作用するが、Alを過剰に添加すると加工性に悪影響を及ぼすので、Sol.Al含有量を0.1%以下とした。一方、Al添加量を脱酸のために必要最低限な量とした場合にも、鋼中には0.005%以上のSol.Alが残存するため、その点を考慮してSol.Al含有量の下限を0.005%とした。
【0031】
N:0.0003%以上0.004%以下
Nは、その量が少ないほど延性および深絞り性が向上するが、現状の製鋼条件のレベルを考慮してその下限を0.0003%とした。一方、N含有量が0.004%以下であれば、窒化物形成元素(Ti,Nb等)で固定することにより、固溶した侵入型元素が鋼中に存在しないIF鋼として延性および深絞り性を向上させることが可能となるので、N含有量を0.004%以下とした。N含有量を0.002%以下とすれば、伸び、深絞り性をより高いレベルにすることができ、窒化物形成元素の添加量を低減することができるため、N含有量は0.002%以下が好ましい。ただし、この場合には粒成長が盛んになって熱延板粒径の細粒化が難しくなるので、巻取温度を低めに設定するとよい。一方、Nが0.002%以上0.004%以下の場合であっても、巻取温度を高めに設定することにより、伸びおよび深絞り性をより高いレベルにすることができ、異方性も低く抑えることができる。
【0032】
Ti,Nb,V,Zr:1種以上を合計で0.005%以上0.1%以下
Ti,Nb,V,Zrは、炭化物、窒化物、硫化物を形成することによって、鋼中に固溶するC,N,Sを析出物として固定し、伸び、深絞り性を向上する元素であり、特にこれらの特性が要求される場合に、これらの1種以上を添加することが好ましい。Ti,Nb,V,Zrの合計量が0.005%未満では伸び、深絞り性の向上効果が得られず、逆に0.1%を超えると、加工性の劣化が起こる。これらのことから、Ti,Nb,V,Zrの合計量を0.005%以上0.1%以下とする。
【0033】
Cu:0.015%以上0.08%以下
Cuは、硫化物形成元素として有効にはたらき、固溶Sが材質に及ぼす悪影響を低減する元素であり、特にこのような作用が要求される場合に添加することが好ましい。このような効果はCuを0.005%以上添加した場合に得られるが、Cuは鋼に不純物レベルとして0.01%未満含まれるので、Cu量を0.015%以上とする。一方、Cu量が0.08%を超えると鋼が硬くなってしまうため、0.08%以下とする。
【0034】
B:0.0001%以上0.001%以下
Bは、鋼の耐縦割れ性を向上する元素であり、特にこのような作用が要求される場合に添加することが好ましい。Bが0.0001%未満では耐縦割れ性向上効果が得られず、0.001%超では効果が飽和するため、Bを添加する場合にはその添加量を0.0001%以上0.001%以下とする。
【0035】
2.プロセス条件
本発明においては、上記組成を有する鋼からなるスラブを加熱し、熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍して冷延鋼板を製造するにあたり、前記熱間圧延は、仕上圧延において、最終パス前の2パスの合計圧下率を25%以上45%以下、かつ最終パスの圧下率を5%以上25%以下とし、さらに、仕上温度をAr3変態点以上(Ar3変態点+50℃)以下として仕上圧延を終了し、次いで、仕上圧延終了後1秒以内に、または、0.5秒超1秒以内に、200℃/sec以上2000℃/sec以下の冷却速度で急速冷却を開始して、この急速冷却における前記仕上圧延の仕上温度からの温度降下量を50℃以上250℃以下とし、かつこの急速冷却の冷却停止温度を650℃以上850℃以下とし、引き続いて、100℃/sec以下の徐冷却または空冷を行った後、得られた熱延鋼帯を巻き取る。以下、これらの条件について説明する。
【0036】
(1)仕上圧延の最終パス前の2パスの合計圧下率:25%以上45%以下、仕上圧延の最終パスの圧下率:5%以上25%以下
このように規定するのは、熱延鋼帯の形状性および製造時の熱延鋼帯の搬送性を確保した上で、熱延板を細粒化するために十分な量の歪を蓄積させるためである。なお、ここでいう最終パス前の2パスでの圧下率とは、仕上圧延装置の最終パスの2個前のパスに鋼帯が入る前の板厚(L2)と、最終パスの1個前のパスを通過した後の板厚(L1)から、(L2−L1)/L2×100で定義するものとする。
【0037】
熱延板の細粒化のためには、変態点直上近傍で熱間加工により歪を蓄積することが望ましい。しかし、熱間圧延工程では入側から出側へと進むにつれて板温度は下降し、鋼帯は徐々に硬くなって加工抵抗が大きくなるため、最終パスで大圧下を行うことには限界がある。すなわち、最終パスで大圧下を行うと、鋼板の形状が乱れたり、鋼帯の搬送性に問題が生じてしまう。このため、鋼板の形状性や搬送性を確保した上で、加工歪を蓄積して細粒化を行うためには、仕上圧延の最終パスおよび最終パス前の2パスにおける圧下率を上記のように規定して、適切な量の歪を、適切なタイミングで導入する必要がある。
【0038】
具体的には、仕上圧延での最終パス前の2パスでの合計圧下率について、45%以下とするのは鋼板の搬送性および形状を確保するためである。一方、この合計圧下率を25%以上とするのは、25%未満では熱間加工時の歪蓄積が十分でなく、熱延板の細粒化が難しくなるためである。また、最終パス圧下率についても同様に、熱間加工時の歪蓄積を十分に行うために5%以上とし、鋼板の搬送性および形状を確保するために25%以下とする。上述のような熱間圧延の条件を満たしていれば、熱延の粗圧延工程、および、仕上圧延時の最終パスより3パス以前のパスの圧下率は特に問題とならず、従来行われている範囲で十分である。
【0039】
冷延鋼板の伸び、深絞り性等の材質特性をさらに向上するためには、仕上圧延での最終パス前の2パスでの合計圧下率を35%以上45%以下とすること、および、最終パスの圧下率を8%以上25%以下とすることの両方またはいずれか一方を満足することが好ましい。この場合には、熱間圧延時に加工歪を一層蓄積して、細粒化を有利に行うことができる。なお、熱延鋼帯の搬送性や形状の観点からは、最終パスを含んだ出側の3パスの合計圧下率が50%を超えないことが望ましい。
【0040】
また、仕上圧延前の粗バー段階での厚みは20mm以上であることが望ましい。粗バー厚みをこのようにすることにより圧下の絶対量を大きくすることができ、圧延での材質の作り込みが容易になるからである。しかしながら、このような粗バー厚みとすることは必須ではなく、例えば、薄スラブ用の連続鋳造機と熱間圧延装置が直結された熱間圧延装置によっても、仕上圧延の所定のパスが上記の条件を満足すれば、以下の条件を満足するようにプロセスを制御することを条件に、従来の方法で作られた材質(冷延焼鈍後の材質)よりも優れた材質を実現することができる。
【0041】
(2)仕上温度:Ar3変態点以上(Ar3変態点+50℃)以下
仕上温度をこのように規定するのは、仕上圧延をγ域で終了し、γ域での加工歪の蓄積と、細粒γ粒とを利用して熱延板を十分に細粒化するためである。仕上温度をAr3変態点未満とするとα域圧延となって、結晶粒の粗大化が起こってしまう。一方、仕上温度が(Ar3変態点+50℃)を超えると圧延終了後にγ粒成長が起こり、熱延板の細粒化に不利になるため、仕上温度を(Ar3変態点+50℃)以下とする。
【0042】
(3)冷却速度:200℃/sec以上2000℃/sec以下
仕上圧延終了後の冷却速度を200℃/sec以上とするのは、熱延板の細粒化、および、得られた冷延鋼板の機械的性質向上のためである。本発明では、主に、ラミナー方式による冷却で見られるような水蒸気を上げながら冷却する方法(膜沸騰モードでの冷却)ではなく、冷却時に鋼板表面に形成される蒸気膜を破壊しながら冷却する方法(核沸騰モードでの冷却)を主体とした冷却を意図しており、そのような冷却方式では、必然的に冷却速度は200℃/sec以上となる。また、核沸騰モードの冷却における、おおよその理論限界値から、冷却速度の上限を2000℃/secとする。このような冷却速度を実現可能な装置としては、多孔噴流方式、超近接ノズル+高圧+大量水量方式をはじめとして、核沸騰モードの冷却を実施することのできるものであれば、どのような方式のものを利用してもよい。
【0043】
冷却速度は板厚に応じて異なるため、より正確に冷却速度を規定するためには、例えば「板厚2.5mm以上3.5mm以下の鋼板を200℃/sec以上2000℃/sec以下の速度で冷却する」というように規定することが考えられるが、本発明では板厚にかかわらずこのような冷却速度を有していればよく、そのために、通常の熱延鋼板であれば板厚を問わずこのような冷却速度で冷却可能な冷却能力を有する装置を用いることが好ましい。冷却速度のさらに好ましい範囲は400℃/sec以上2000℃/sec以下である。この範囲で冷却することにより冷延焼鈍板の伸び、深絞り性がより向上し、異方性をより低く抑制することができる。
【0044】
なお、本発明において、仕上圧延後の冷却速度は、900℃から700℃までの200℃を冷却する際に要する時間(Δt)を使って、200/Δtと定義する。本発明における急速冷却は、「Ar3変態点以上(Ar3変態点+50℃)以下で仕上圧延完了後1秒以内」に開始されるものであり、スラブの鋼組成によっては実際に冷却を開始する温度が900℃未満の場合もあるが、この場合にも冷却速度はこの定義に従うものとする。つまり、冷却速度は、その鋼帯を仮に900℃から700℃まで冷却した場合に決定される値である。実際に冷却が開始される温度が900℃以下になっていてもよく、また、急冷を停止する温度が700℃以下であっても一向に構わない。
【0045】
(4)冷却開始時間:仕上圧延終了後1秒以内または0.5秒超1秒以内
冷却開始時間をこのように規定するのは、上記のように冷却速度を大きくした上で、冷却開始時間を短くすることにより、熱延板粒径が十分に微細化するためである。これによって、伸び、深絞り性を高め、異方性も小さくする効果が得られる。冷却開始時間が1秒を超えると通常のラミナー冷却や、ラボ実験での空冷における熱延板粒径とほとんど変わらず、熱延板粒径を十分に微細化することができない。
【0046】
本発明では冷却開始時間の下限については、特に規定しないが、圧延速度を上げて、かつ、仕上圧延の出側直近で冷却を開始しようとしても、冷却装置のハウジングや圧延ロール半径分の出っ張りなどを考慮すると、0.01秒が実質的にを冷却開始時間の下限となる。
【0047】
冷却開始時間1秒以内であっても、冷却開始時間によって発現する特性は異なっており、冷却開始時間を0.5秒以内とした場合には特に深絞り性および異方性が優先的に向上し、冷却開始時間を0.5秒以上1秒以内とした場合には特に伸びが優先的に向上する。このように発現する特性に差がある理由は、冷延焼鈍板段階でのわずかなフェライト粒径が異なるためと考えられるが、そのメカニズムは明らかではない。
【0048】
また、鋼板長手方向における材質の均一化を図るためには、冷却開始時間は0.5秒超1秒以内とすることが好ましい。冷却開始時間を0.5秒以下とした場合にも、熱延板の細粒化による材質向上は期待できるが、冷却開始時間のわずかなずれによって材質が大きく変化するため鋼板長手方向で材質の不均一が生じるおそれがある。
【0049】
冷却開始時間を1秒以内にするためには、例えば、圧延速度(圧延時の熱延鋼帯の搬送速度)が1300m/min以下の場合には、冷却装置(例えば前述した核沸騰モードでの冷却を行うことが可能な冷却装置)を、圧延速度に応じて、仕上圧延装置の最終パス出側の直近から15m以内の近傍に設置する。すなわち、圧延速度が速い場合には、この範囲の後側に設置しても構わないし、圧延速度が遅い場合には、この範囲の前側に設置して1秒以内の冷却開始時間を実現する。また、圧延速度が1300m/minを超える高速圧延が可能になった場合には、冷却装置の設置位置は、最終パス出側からさらに遠い位置になることが予測できる。
【0050】
また、鋼板長手方向の材質を均一化する観点からは、コイル長手方向で冷却開始時間は一定値である方がより望ましいが、現状の熱間圧延機において急冷を行う冷却装置を一つの制御単位とすると、コイル長手方向で冷却開始時間が変化してしまうおそれがある。その理由として、熱間圧延は常に一定の速度で行われるわけではないことが挙げられる。すなわち、鋼帯の先頭部分がコイラーに巻き付くまでには低い圧延速度で圧延が行われ、その後鋼帯がコイラーに巻き付き、鋼帯に張力がかかった後に、段々と圧延速度を一定速度まで上げていき、その状態のままコイル後端まで圧延が行われるため、この圧延速度の変動により冷却開始時間が変化してしまうのである。
【0051】
これを回避するためには、冷却装置を小さな単位に分割し、それぞれの単位を圧延速度と連動させてON/OFF制御を行うとよい。この場合には、圧延速度が遅めであるコイル先端部では最終パス側の単位を用いて冷却を行い、その後、段々と加速される圧延速度に応じて、冷却を行う単位をコイラー側に設置されている単位へとずらしていくことにより、コイル長手方向での冷却開始時間を均一化し、細粒化および材質を均質化することができる。
【0052】
(5)急速冷却の温度降下量:50℃以上250℃以下
このように急速冷却を行うのは、熱延板の細粒化を最適に行って、冷延焼鈍板の伸び、深絞り性を向上し、異方性を低く抑えるためである。上述したように、「冷却速度を200℃/sec以上2000℃/sec以下とする」、「冷却開始時間を1秒以内とする」という2つの条件を満足する場合、最終パス後の温度降下はわずかであり、冷却開始温度と仕上温度とをほぼ同じ温度と見なせるため、このように「仕上温度からの温度降下量」を規定する。
【0053】
熱延板細粒化を最適に行うためには、単に指定した温度領域を、上述のように急速冷却すればよいというわけではなく、特に、急速冷却による温度降下量を適正な範囲とすることが必要である。この急冷による温度降下量が適正な範囲を超えると、ポリゴナルなフェライト粒を実現できず、圧延方向に伸びた粒や、焼き入れ組織状の粒となってしまい、優れた加工性および異方性が得られなくなる。このため、本発明においては、上述したように急速冷却による温度降下量を規定した。
【0054】
急速冷却による温度降下量を50℃以上としたのは、前述した冷却速度でγ−α変態点を横切って冷却するためには、最低でも50℃の温度降下量が必要なためである。また、温度降下量を250℃以下としたのは、温度降下量が250℃を超えると冷やしすぎによる悪影響が顕著となるためである。特に、冷延焼鈍板の伸びを向上させたい場合には、温度降下量を150℃以下とすることが好ましい。
【0055】
急速冷却による温度降下量を上記の範囲に制御するためには、核沸騰モードで急冷を行う前記冷却装置を、圧延方向に小さな単位に分割し、圧延速度と連動してそれぞれの単位における冷却をON/OFF制御することが有効である。急冷による温度降下量は、急冷を行う冷却装置の冷却速度と、冷却装置の急冷を行う部分の長さと、圧延速度(鋼帯の搬送速度)とによって決まるため、このようにして制御しなければ、急冷による温度降下量を上記の範囲に収めることは難しく、また、コイルの長手方向全長にわたって温度降下量を一定にすることができずに冷延焼鈍板の特性にばらつきが生じてしまう。
【0056】
より具体的に説明すると、核沸騰モードによる急冷の冷却速度は、板厚に応じて変化し、厚い板では遅くなり、薄い板では速くなる。また、圧延速度がコイル全長にわたって一定であることは少なく、鋼帯がコイラーに巻き付くまでの速度は遅めにし、その後、鋼帯に張力がかかった状態で加速して一定速度となるように、圧延速度をとる場合が多い。そのため、冷却装置を小さな単位に分割し、上記のように変動する圧延速度に応じて、冷却を行う単位の数と、その単位の位置を決めて、それぞれの単位のON/OFF制御を行うことにより、急速冷却による温度降下量を適正に制御することができる。
【0057】
さらに加えて重要なことは、急速冷却に使用した水を、すばやく除去することである。例えば、水が冷却装置の出側以降に流れ出したりした場合には、残存した水量に応じて鋼板の冷却が継続してしまう。冷却装置の出側で鋼板上に水が必要以上に残った場合、そのエリアにおける冷却モードは、鋼板にあたる水圧および圧延速度等によっても異なるが、核沸騰モードと膜沸騰モードとが混じり合ったモードか、膜沸騰モードの冷却へ移行していく過程のモードとなる。いずれのモードにせよ、単なる膜沸騰モードよりも冷却速度の大きい冷却が継続することになる。このことは、急速冷却によって発現する鋼板の特性向上効果のばらつきに直結し、また、冷やしすぎた場合にはポリゴナルなフェライト粒を実現できないため、材質劣化に結びつく。これを防止するためには、冷却装置の出側に、水切り装置、水切りロール、エアカーテン等を設置するとよい。
【0058】
(6)急速冷却の冷却停止温度:650℃以上850℃以下
急速冷却の冷却停止温度をこのように規定するのは、上述した「冷却速度」、「冷却開始時間」、および「急冷による温度降下量」の条件と相俟って、熱延板の細粒化を適切に行うためである。冷却停止温度が850℃を超えると、冷却停止後の粒成長が無視できない場合があり、熱延板の細粒化の観点から好ましくない。一方、冷却停止温度が650℃未満になると、上述した「冷却速度」、「冷却開始時間」、および「急冷による温度降下量」の条件を満たしていても、焼き入れ組織状になってしまう場合があり、その場合には冷延焼鈍板の特性を向上することができない。なお、急冷停止温度は急速冷却装置を出てきたときの板温度であり、(仕上温度)−(急速冷却による温度降下量)で与えられる。また、急冷停止温度は、当然、巻取温度以上に設定しなければならない。なお、急冷停止温度とは、実質的には急速冷却装置を出てきた時の板温度であるが、例えば、冷却装置を多バンク構成とした場合には、冷却に使用したバンクを鋼帯が通過した時の温度を上記の適正範囲に制御してもよい。冷却停止温度を上記の範囲に制御するためには、冷却装置の出側に水切り装置、水切りロール、エアーカーテンなどを設置し、これらにより冷却停止温度を制御するとよい。
【0059】
(7)急速冷却後の冷却:100℃/sec以下の徐冷却または空冷
以上のようにして行われた熱延ランナウトでの急速冷却の後、巻取温度まで100℃/sec以下の徐冷却または空冷を行うのは、上述したようにポリゴナルで、かつ、微細化したフェライト粒を作り込んで冷延焼鈍板の特性を向上するためである。急速冷却のみで巻取温度まで冷却すると冷やしすぎによる悪影響が見られ、所望の組織が得られないため、100℃/sec以下の徐冷却または空冷は必須である。冷却速度が100℃/secを超えるとポリゴナルなフェライト粒の作り込みが難しくなる。
【0060】
(8)巻取温度
巻取温度は特に限定されないが、550℃以上750℃以下とすることが望ましい。巻取温度が550℃未満では鋼が硬化する。また、前述したように急冷を行う場合には必然的に巻取温度は750℃以下とならざるを得ず、かつ、巻取温度を750℃超としても特性の向上がみられない。
【0061】
また、鋼中C,S,N量が多い場合、すなわち、C:0.002%以上0.01%以下、S:0.012%以上0.02%以下、または、N:0.002%以上0.004%以下である場合には、巻取温度を630℃以上750℃以下とすることが好ましい。この範囲とすることにより、析出物の形成・成長を促し、冷延焼鈍板のフェライト粒成長を阻害するような因子(微細析出物)を除去することができる。
【0062】
一方、鋼中C,S,P,N量が少ない場合、すなわち、C:0.0003%以上0.002%以下、S:0.0003%以上0.012%以下、P:0.003以上0.015%以下、または、N:0.0003%以上0.002%以下である場合には、巻取温度を550℃以上680℃以下とすることが好ましい。この範囲とすることにより、これらの元素が少ないために極めて盛んな粒成長を抑制し、熱延板粒径の細粒化を有効に行うことができる。
【0063】
(9)冷間圧延
冷間圧延の条件は特に限定されないが、その際の圧下率(冷圧率)を50%以上90%以下とすることが好ましい。冷圧率をこの範囲とすることにより、上述のようにして得られた細粒化された熱延板からの特性向上効果が大きい。
【0064】
(10)焼鈍
冷延板を焼鈍する際の条件は特に限定されないが、特性向上および肌荒れ防止の観点から、700℃以上850℃以下の温度で焼鈍することが好ましい。焼鈍は、連続焼鈍やバッチ焼鈍等の、どういった方法で行ってもよい。
【0065】
本発明においては、連続鋳造したスラブを加熱炉にて加熱することなく熱間圧延する方法、連続鋳造したスラブの温度が室温まで下がりきらない状態で、加熱炉にて所定の温度に加熱してから熱間圧延する方法、スラブの温度が室温まで下がってから加熱炉にて所定の温度に加熱してから熱間圧延する方法、薄スラブ連続鋳造装置と熱間圧延装置が連結した装置で熱間圧延する方法、インゴット製造したスラブを、手入れ後、加熱炉にて加熱して熱間圧延する方法等の、いずれの方法を用いた場合であっても、前記組成の鋼に上記のプロセス条件を適用することにより、好ましい材質を作り込むことができる。
【0066】
本発明における冷延鋼板は、自動車用鋼板、電気製品用鋼板、缶用鋼板、建材用鋼板等の、特に加工性を要求される用途に好適に用いることができるが、その他の用途に用いた場合にも十分にその特性を発揮することができる。また、本発明における冷延鋼板は、さらにZnめっきや合金化Znめっき等の表面処理を施したものを含む。
【0067】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
表1に示した成分を有する鋼を連続鋳造により200〜300mm厚さのスラブとし、表2に示した冷却条件をはじめとする熱延条件の熱間圧延により板厚2.8mmの熱延板とし、板厚0.8mmに冷間圧延した後、昇温速度6℃/sec以上20℃/sec以下で昇温し、表2に示す焼鈍温度で90秒間連続焼鈍してNo.1〜18の冷延鋼板を得た。この際、表2に「従来のラミナー冷却」と示したものでは、仕上圧延の最終パスを通過した熱延鋼帯に、水蒸気を上げながら冷却するラミナー冷却を行った。一方、仕上圧延後に200℃/sec以上の急冷を行ったものにおいては、膜沸騰モードの冷却では冷却の際に蒸気が発生し、蒸気膜が鋼板を包み込んで急冷を行うことができないので、多孔噴流方式の冷却装置を用いて、冷却の際に蒸気の出ない核沸騰モードの冷却を実現し、その水量や水圧等を変化させて表2に示した種々の冷却速度により急冷を行った。
【0068】
これらの鋼板について、冷延鋼板の0.8mm材にて全伸びを測定し、また、L方向(圧延方向に対し0°方向)のr値であるr0、D方向(圧延方向に対し45°方向)のr値であるr45、およびC方向(圧延方向に対し90°方向)のr値であるr90をそれぞれ測定した。表2には、鋼板の加工性を評価するための指標として全伸びおよび平均r値を示し、また、異方性を評価するための指標として、r0,r45,r90のうちr45が一番低い傾向を示す鋼板ではΔrを示し、r45がr0およびr90の中間の値をとる鋼板ではr値の最大値−最小値の値を示す。ここで、平均r値は、平均r値=(r0+2×r45+r90)/4により規定される値である。また、Δrは、Δr=(r0+r90−2×r45)/2により規定される値である。
【0069】
また、表2には、鋼板の形状性および搬送性について、良好と不良の2段階で評価した結果を併せて示す。鋼板の形状性や搬送性に問題が生じるのは、中伸び現象が生じて鋼帯の幅方向中央付近が伸びて凹凸が生じていた場合、または、コイラーに巻き付く際のコイルの形状がずれていた場合である。このことをコイルをガムテープに例えて説明すると、新品のガムテープの形状が良好なコイル形状に相当し、長年使用されたガムテープにみられるような外周側と内周側とがずれた形状や、一旦巻きほどいたガムテープを再度巻きつけた場合のような乱れた形状が、不良なコイル形状に相当する。ここでは中伸びが目視で確認できた場合、または、コイル端部の凹凸が50mmを超えていた場合を不良と評価し、中伸びが確認できず、かつ、コイル端部の凹凸が50mm以内の場合を良好と評価した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示すように、本発明のプロセス条件により急速冷却を行って製造されたNo.2,4,6,8,10,12,14,16,18の鋼板は、いずれも形状性および搬送性が良好であって、しかも、伸びおよび平均r値が極めて高く、かつ、Δrまたはr値の最大値−最小値が極めて低く抑えられており、加工性および異方性が極めて優れていた。これに対して、最終パス後のランナウトテーブルにて鋼板の上下からラミナー冷却を行ったNo.1,3,5,7,9,11,13,15,17の鋼板は、いずれかの特性が劣っていた。
【0073】
以上のように、本発明で規定された範囲の組成を有する鋼を用いて、本発明で規定されたプロセス条件により冷延鋼板を製造すれば、形状性や搬送性に優れ、かつ、従来よりも格段に優れた加工性および異方性を有する冷延鋼板を製造することができることが確認された。
【0074】
[実施例2]
表3に示す成分を有する鋼を連続鋳造により250mm厚さのスラブとし、このスラブに手入れを行った後、1200℃に加熱し、表4に示した条件で熱間圧延し、冷間圧延した後に、昇温速度10℃/sec以上20℃/sec以下で、840℃の焼鈍温度で90秒間連続焼鈍してNo.19〜44の冷延鋼板を得た。この際、No.30については熱延板板厚を1.5mm、冷延焼鈍板の板厚を0.75mmとしたが、その他のNo.19〜29,31〜44については、いずれの場合も熱延板板厚を2.8±0.2mm、冷延焼鈍板の板厚を0.8mmとした。また、表4に示したNo.30の冷却速度は熱延板の板厚が1.5mmの場合の値であり、2.8〜3.5mmの板厚材で冷却速度を確認したところ270±70℃/secであった。以上のようにして得られた冷延鋼板の特性を、実施例1と同様に評価した結果を表4に示す。なお、表4中、No.30の全伸びについては、厚さ0.75mmの冷延鋼板で測定された値を、Oliver則によって0.8mm材の伸びに変換した値を示す。
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
表4に示すように、本発明のプロセス条件により製造されたNo.20,25〜30,33〜36,38〜40,44の鋼板は、いずれも形状性、搬送性が良好であって、しかも、伸びおよび平均r値が極めて高く、かつ、Δrが極めて低く抑えられており、加工性および異方性が極めて優れていた。これに対して、いずれかの条件が本発明の範囲外であるNo.19,21〜24,31,32,37,41〜43の鋼板では、いずれかの特性が劣っていた。具体的には、No.19では最終パス前2パスの合計圧下率が本発明範囲を超えて高かったため、No.21では最終パスの圧下率が本発明の範囲を超えて高かったため、いずれの場合も鋼板の形状性および搬送性が不良であった。また、No.22では仕上温度が本発明範囲よりも低くα域圧延になってしまったため、特に全伸びの劣化が顕著であった。一方、No.23では仕上温度が本発明範囲を超えて高かったため、急冷を行うまでにγ粒の成長が進行したものと考えられ、熱延板での細粒化が十分でなく、特性が劣化した。
【0078】
No.24では、冷却速度が本発明範囲よりも低かったため、急冷が十分でなく、熱延板の細粒化ができず、γ値の向上効果が十分に得られなかった。No.31およびNo.32では、冷却開始時間が本発明範囲を超えて長かったために、粒成長してしまったものと考えられ、熱延板の微細化が十分でなく、加工性および異方性の向上効果が十分に得られなかった。No.37では、急冷の温度降下量が本発明範囲よりも小さく、急冷停止温度が本発明範囲よりも高かったため、熱延板の細粒化が十分でなく、r値の向上効果が十分に得られなかった。No.41では、急冷の温度降下量が本発明範囲を超えて大きく、急冷停止温度が本発明範囲よりも低く、かつ、巻取温度も本発明の好ましい範囲よりも低かったため、熱延板組織が焼き入れ組織状の粒になってしまい、特性値の劣化が顕著であった。No.42では、急冷停止温度が本発明範囲よりも低かったため、熱延板の組織がポリゴナルな細粒とならず、特性値が劣化してしまった。No.43では、急冷後の冷却速度が本発明範囲を超えて高かったため、熱延板の段階でポリゴナルな微細粒が得られず、いずれの特性値も劣っていた。
【0079】
以上のように、本発明で規定された条件を全て満たした製造方法によってはじめて、形状性や搬送性に優れ、かつ、従来よりも格段に優れた加工性および異方性を有する冷延鋼板を製造することができることが確認された。
【0080】
[実施例3]
冷却開始時間の効果を調べるため、表5に示した成分を有する鋼を連続鋳造により200〜300mm厚さのスラブとし、表6に示した範囲の最終パス前2パスの合計圧下率、最終パス圧下率、仕上温度、冷却条件および巻取温度にて熱間圧延を行い、板厚2.8mmの熱延板とし、板厚0.8mmに冷間圧延した後、昇温速度6℃/sec以上20℃/sec以下で昇温し、焼鈍温度850℃で90秒間連続焼鈍して種々の冷延鋼板を得た。この際、表6に「従来のラミナー冷却」と示したものでは、仕上圧延の最終パスを通過した熱延鋼帯に、水蒸気を上げながら冷却するラミナー冷却を行った。一方、仕上圧延後に200℃/sec以上の急冷を行ったものにおいては、膜沸騰モードの冷却では冷却の際に蒸気が発生し、蒸気膜が鋼板を包むため、急冷を行うことができないので、多孔噴流方式の冷却装置を用いて、冷却の際に蒸気の出ない核沸騰モードの冷却を実現した。
【0081】
これらの鋼板について、実施例1と同様に、冷延鋼板の0.8mm材にて全伸びを測定し、また、各方向のr値であるr0、r45、r90をそれぞれ測定した。測定された全伸びの値と冷却開始時間との関係を図1に示し、測定されたr値から得られた平均r値と冷却開始時間との関係を図2に示す。また、異方性を評価するための指標としてΔrを用いた。
【0082】
図1および図2に示すように、冷却開始時間を0.5秒以下とした場合には、全伸びの挙動が一様でなく大きく変動し、かつ、平均r値は冷却開始時間が短くなるほど高い増加率で上昇している。このため、冷却開始時間が0.5秒以下では冷却開始時間がわずかにずれるだけで材質が大きく変化してしまい、長手方向の材質が均一な鋼板を工業的に製造することは難しい。
【0083】
これに対して、冷却開始時間が0.5秒超1秒以下の範囲とした場合には、全伸び、r値ともにほぼ一定である。このため、冷却開始時間が多少ずれても長手方向の材質が均一な鋼板を製造することができる。また、膜沸騰モードのラミナー冷却を行った場合と比較して全伸びは向上しており、平均r値は0.15程度向上している。
【0084】
一方、逆に冷却開始時間が1秒を超えると、全伸び、r値ともに単調減少して材質レベルが膜沸騰モードのラミナー冷却を行った場合と大差なくなる。
【0085】
なお、Δrについては示していないが、冷却によりr値が向上したものはΔrが小さくなるので、r値が同レベルの条件ならばΔrもほぼ同じレベルと考えてよい。
【0086】
以上より、冷却開始時間を0.5秒超1秒以下の範囲とした場合に、加工性に優れ、異方性が小さく、長手方向の材質が均一な冷延鋼板が製造できることが確認された。
【0087】
【表5】
【0088】
【表6】
【0089】
[実施例4]
表7に示した成分を有する鋼を連続鋳造により200〜300mm厚さのスラブとし、表8に示した冷却条件をはじめとする熱延条件の熱間圧延により板厚2.8mmの熱延板とし、板厚0.8mmに冷間圧延した後、昇温速度6℃/sec以上20℃/sec以下で昇温し、表8に示す焼鈍温度で90秒間連続焼鈍してNo.45〜64の冷延鋼板を得た。この際、表8に「従来のラミナー冷却」と示したものでは、仕上圧延の最終パスを通過した熱延鋼帯に、水蒸気を上げながら冷却するラミナー冷却を行った。一方、仕上圧延後に200℃/sec以上の急冷を行ったものにおいては、膜沸騰モードの冷却では冷却の際に蒸気が発生し、蒸気膜が鋼板を包み込んで急冷を行うことができないので、多孔噴流方式の冷却装置を用いて、冷却の際に蒸気の出ない核沸騰モードの冷却を実現し、その水量や水圧等を変化させて表8に示した種々の冷却速度により急冷を行った。以上のようにして得られた冷延鋼板の特性を、実施例1と同様に評価した。その結果を表8に示す。
【0090】
【表7】
【0091】
【表8】
【0092】
表8に示すように、本発明のプロセス条件により急速冷却を行って製造されたNo.46,48,50,52,54,56,58,62,64の鋼板は、いずれも形状性および搬送性が良好であって、しかも、伸びおよび平均r値が極めて高く、かつ、Δrまたはr値の最大値−最小値が極めて低く抑えられており、加工性および異方性が極めて優れていた。これに対して、最終パス後のランナウトテーブルにて鋼板の上下からラミナー冷却を行ったNo.45,47,49,51,53,55,57,59,61,63の鋼板は、いずれかの特性が劣っていた。
【0093】
以上のように、本発明で規定された範囲の組成を有する鋼を用いて、本発明で規定されたプロセス条件により冷延鋼板を製造すれば、形状性や搬送性に優れ、かつ、従来よりも格段に優れた加工性および異方性を有する冷延鋼板を製造することができることが確認された。
【0094】
[実施例5]
表9に示す成分を有する鋼を連続鋳造により250mm厚さのスラブとし、このスラブに手入れを行った後、1200℃に加熱し、表10に示した条件で熱間圧延し、冷間圧延した後に、昇温速度10℃/sec以上20℃/sec以下で、840℃の焼鈍温度で90秒間連続焼鈍してNo.65〜82の冷延鋼板を得た。この際、No.74については熱延板板厚を1.5mm、冷延焼鈍板の板厚を0.75mmとしたが、その他のNo.65〜73,75〜82については、いずれの場合も熱延板板厚を2.8±0.2mm、冷延焼鈍板の板厚を0.8mmとした。また、表10に示したNo.74の冷却速度は熱延板の板厚が1.5mmの場合の値であり、2.8〜3.5mmの板厚材で冷却速度を確認したところ270±70℃/secであった。以上のようにして得られた冷延鋼板の特性を、実施例1と同様に評価した結果を表10に示す。なお、表10中、No.74の全伸びについては、厚さ0.75mmの冷延鋼板で測定された値を、Oliver則によって0.8mm材の伸びに変換した値を示す。
【0095】
【表9】
【0096】
【表10】
【0097】
表10に示すように、本発明のプロセス条件により製造されたNo.66,69〜74,76〜78,82の鋼板は、いずれも形状性、搬送性が良好であって、しかも、伸びおよび平均r値が極めて高く、かつ、Δrが極めて低く抑えられており、加工性および異方性が極めて優れていた。これに対して、いずれかの条件が本発明の範囲外であるNo.65,67,68,75,79〜81の鋼板では、いずれかの特性が劣っていた。具体的には、No.65では最終パス前2パスの合計圧下率が本発明範囲を超えて高かったため、No.67では最終パスの圧下率が本発明の範囲を超えて高かったため、いずれの場合も鋼板の形状性および搬送性が不良であった。
【0098】
No.68では、冷却速度が本発明範囲よりも低かったため、急冷が十分でなく、熱延板の細粒化ができず、γ値の向上効果が十分に得られなかった。No.75では、急冷の温度降下量が本発明範囲よりも小さく、急冷停止温度が本発明範囲よりも高かったため、熱延板の細粒化が十分でなく、r値の向上効果が十分に得られなかった。No.79では、急冷の温度降下量が本発明範囲を超えて大きく、急冷停止温度が本発明範囲よりも低く、かつ、巻取温度も本発明の好ましい範囲よりも低かったため、熱延板組織が焼き入れ組織状の粒になってしまい、特性値の劣化が顕著であった。No.80では、急冷停止温度が本発明範囲よりも低かったため、熱延板の組織がポリゴナルな細粒とならず、特性値が劣化してしまった。No.81では、急冷後の冷却速度が本発明範囲を超えて高かったため、熱延板の段階でポリゴナルな微細粒が得られず、いずれの特性値も劣っていた。
【0099】
以上のように、本発明で規定された条件を全て満たした製造方法によってはじめて、形状性や搬送性に優れ、かつ、従来よりも格段に優れた加工性および異方性を有する冷延鋼板を製造することができることが確認された。
【0100】
【発明の効果】
本発明によれば、従来の方法で作られた同じ成分系のものと比較して、格段に優れた加工性および異方性を有する冷延鋼板を製造することが可能となる。また、このような材質の向上にも関わらず、鋼板の形状性や搬送性は十分に優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例3における全伸びの値と冷却開始時間との関係を示すグラフ。
【図2】実施例3における平均r値と冷却開始時間との関係を示すグラフ。
Claims (6)
- 重量%で、
C :0.0003%以上0.01%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05%以上2.5%以下、
P :0.003%以上0.1%以下、
S :0.0003%以上0.02%以下、
Sol.Al:0.005%以上0.1%以下、
N :0.0003%以上0.004%以下
を含み、さらに重量%で、Ti,Nb,V,Zrのうちの1種以上を、合計で0.005%以上0.1%以下含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼スラブを加熱し、熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍して冷延鋼板を製造するにあたり、
前記熱間圧延は、
仕上圧延において、最終パス前の2パスの合計圧下率を25%以上45%以下、かつ最終パスの圧下率を5%以上25%以下とし、さらに、仕上温度をAr3変態点以上(Ar3変態点+50℃以下)として仕上圧延を終了し、
次いで、仕上圧延終了後1秒以内に、200℃/sec以上2000℃/sec以下の冷却速度で急速冷却を開始して、この急速冷却における前記仕上圧延の仕上温度からの温度降下量を50℃以上250℃以下とし、かつこの急速冷却の冷却停止温度を650℃以上850℃以下とし、
引き続いて、100℃/sec以下の徐冷却または空冷を行った後、得られた熱延鋼帯を巻き取ることを特徴とする形状性および加工性に優れ、異方性の小さい冷延鋼板の製造方法。 - 重量%で、
C :0.0003%以上0.01%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05%以上2.5%以下、
P :0.003%以上0.1%以下、
S :0.0003%以上0.02%以下、
Sol.Al:0.005%以上0.1%以下、
N :0.0003%以上0.004%以下
を含み、さらに重量%で、Ti,Nb,V,Zrのうちの1種以上を、合計で0.005%以上0.1%以下含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼スラブを加熱し、熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍して冷延鋼板を製造するにあたり、
前記熱間圧延は、
仕上圧延において、最終パス前の2パスの合計圧下率を25%以上45%以下、かつ最終パスの圧下率を5%以上25%以下とし、さらに、仕上温度をAr3変態点以上(Ar3変態点+50℃以下)として仕上圧延を終了し、
次いで、仕上圧延終了後0.5秒超1秒以内に、200℃/sec以上2000℃/sec以下の冷却速度で急速冷却を開始して、この急速冷却における前記仕上圧延の仕上温度からの温度降下量を50℃以上250℃以下とし、かつこの急速冷却の冷却停止温度を650℃以上850℃以下とし、
引き続いて、100℃/sec以下の徐冷却または空冷を行った後、得られた熱延鋼帯を巻き取ることを特徴とする形状性および加工性に優れ、異方性の小さい冷延鋼板の製造方法。 - 重量%で、
C :0.0003%以上0.01%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05%以上2.5%以下、
P :0.003%以上0.1%以下、
S :0.0003%以上0.02%以下、
Sol.Al:0.005%以上0.1%以下、
N :0.0003%以上0.004%以下
を含み、さらに重量%で、Bを0.0001%以上0.001%以下含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼スラブを加熱し、熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍して冷延鋼板を製造するにあたり、
前記熱間圧延は、
仕上圧延において、最終パス前の2パスの合計圧下率を25%以上45%以下、かつ最終パスの圧下率を5%以上25%以下とし、さらに、仕上温度をAr 3 変態点以上(Ar 3 変態点+50℃以下)として仕上圧延を終了し、
次いで、仕上圧延終了後1秒以内に、200℃/sec以上2000℃/sec以下の冷却速度で急速冷却を開始して、この急速冷却における前記仕上圧延の仕上温度からの温度降下量を50℃以上250℃以下とし、かつこの急速冷却の冷却停止温度を650℃以上850℃以下とし、
引き続いて、100℃/sec以下の徐冷却または空冷を行った後、得られた熱延鋼帯を巻き取ることを特徴とする形状性および加工性に優れ、異方性の小さい冷延鋼板の製造方法。 - 重量%で、
C :0.0003%以上0.01%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05%以上2.5%以下、
P :0.003%以上0.1%以下、
S :0.0003%以上0.02%以下、
Sol.Al:0.005%以上0.1%以下、
N :0.0003%以上0.004%以下
を含み、さらに重量%で、Bを0.0001%以上0.001%以下含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼スラブを加熱し、熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍して冷延鋼板を製造するにあたり、
前記熱間圧延は、
仕上圧延において、最終パス前の2パスの合計圧下率を25%以上45%以下、かつ最終パスの圧下率を5%以上25%以下とし、さらに、仕上温度をAr 3 変態点以上(Ar 3 変態点+50℃以下)として仕上圧延を終了し、
次いで、仕上圧延終了後0.5秒超1秒以内に、200℃/sec以上2000℃/sec以下の冷却速度で急速冷却を開始して、この急速冷却における前記仕上圧延の仕上温度からの温度降下量を50℃以上250℃以下とし、かつこの急速冷却の冷却停止温度を650℃以上850℃以下とし、
引き続いて、100℃/sec以下の徐冷却または空冷を行った後、得られた熱延鋼帯を巻き取ることを特徴とする形状性および加工性に優れ、異方性の小さい冷延鋼板の製造方法。 - 前記鋼は、さらに重量%で、Bを0.0001%以上0.001%以下含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の形状性および加工性に優れ、異方性の小さい冷延鋼板の製造方法。
- 前記鋼は、さらに重量%で、Cuを0.015%以上0.08%以下含有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の形状性および加工性に優れ、異方性の小さい冷延鋼板の製造方法。
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