JP4067914B2 - 超音波診断装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は超音波診断装置に関し、特にドプラ情報に含まれるクラッタ成分の除去に関する。
【0002】
【従来の技術】
超音波診断装置においては、超音波ドプラ法に従って、生体内運動体である血流の運動情報が計測される。その計測結果は、例えば二次元断層画像上にマッピングされ、これによりいわゆるカラードプラ画像あるいはカラーフローマッピング(CFM)画像が生成される。
【0003】
超音波の送受波により得られた受信信号には、血流による周波数偏移成分であるドプラ情報が含まれる。但し、実際には、静止の組織に起因するクラッタ成分以外にも組織の動き、呼吸による変動、プローブの動きなどに起因するクラッタ成分(つまり、血流以外のドプラ情報)も受診信号中に含まれる。典型的には、低速運動体である心臓壁からの強大な成分がドプラ情報において支配的な存在となる。
【0004】
従来においては、以上のクラッタ成分を除去するために、ドプラ情報をウォールモーションフィルタとして機能するMTIフィルタなどのハイパスフィルタ(HPF)(あるいはローカットフィルタ)に通過させている。そして、そのようなフィルタリングの後に、例えば自己相関器を利用して、ドプラ情報に対する周波数解析などの処理を行っている。しかし、クラッタ成分の周波数特性は固定的ではなく、諸条件によって変動する。
【0005】
上記に対して、MTIフィルタの周波数特性をクラッタ成分の中心周波数に応じて適応的に変動させることも可能であるが、その場合にはフィルタ自体の構成が複雑になる。そこで、フィルタリング対象であるドプラ情報自体の周波数を便宜的にいったんシフトさせ、その上でフィルタリングを実行することが行われている。例えば、その手法が1)特開平4−256740号公報、2)特表平7−503551号公報、3)特開平6−254095号公報、4)特開平8−243103号公報などに開示されている。
【0006】
ドプラ情報においては、上記のように一般的にはクラッタ成分が支配的であるが、心腔内や太い血管などから得られたドプラ情報の場合には、クラッタ成分が必ずしも支配的とはならない。その場合に、ドプラ情報から単純にクラッタ成分の中心周波数を特定すると、そのクラッタ成分の中心周波数の特定に当たって血流成分も考慮されてしまい、クラッタ成分の中心周波数が過大評価されてしまう。その結果、ドプラ情報の周波数シフト量が過大となり、MTIフィルタにおいて、クラッタ成分を十分に抑圧できないばかりか、血流成分を不必要に抑圧してしまうおそれがある。
【0007】
そこで、第1の従来技術においては、ドプラ情報のパワーを考慮し、パワーと閾値とを比較し、パワーが閾値以下の場合には血流成分が多く含まれるとみなして周波数シフトを実行しない制御を実行している(上記1)参照)。また、第2の従来技術においては、クラッタ成分の中心周波数を特定する前に、ドプラ情報を一旦LPFに入力させ、そのLPFにおいて血流成分を除去した上で、ドプラ情報に含まれるクラッタ成分の中心周波数を推定している(上記4)参照)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、第1の従来技術によると、次のような問題がある。すなわち、受信信号(ドプラ情報)のパワーは、生体組織の減衰特性の影響を受けて、深さ方向に徐々に減少する。この場合に、閾値が固定されていると、クラッタ成分の判別精度が低下する。仮に、閾値を深さの関数として変動させたとしても、パワーが局所組織の減衰特性に影響を受けることから、閾値を実際の局所組織との関係で適切に設定することは難しい。
【0009】
また、第2の従来技術によると、ドプラ情報があらかじめLPFを通過するために、その周波数特性の影響を受けて、クラッタ成分の中心周波数が過小に評価され易い。それを防止するため、急峻な周波数特性を有するLPFを用いると、LPFの構成が大規模となり、また、そのタップ数が多くなることから、LPFを通過したドプラ信号のデータ数が相対的に少なくなり、クラッタ成分の中心周波数を精度良く特定することが困難となる。
【0010】
本発明の目的は、クラッタ成分を効果的に排除できるようにすることにある。
【0011】
本発明の他の目的は、諸条件に応じて適応的にクラッタ成分を除去できるようにすることにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
(1)本発明は、超音波を送受波し、受信信号を出力する送受波手段と、前記受信信号からドプラ情報を検出するドプラ情報検出手段と、前記ドプラ情報について中心周波数及び分散を求め、それらの中心周波数及び分散に基づいて周波数シフト量を演算するシフト量演算手段と、前記周波数シフト量に基づいて前記ドプラ情報に対する周波数シフトを実行する周波数シフト手段と、前記周波数シフトが実行された後のドプラ情報が入力され、そのドプラ情報に含まれるクラッタ成分を除去するクラッタ成分除去フィルタと、前記クラッタ成分除去フィルタから出力されたドプラ情報に基づいて血流の運動情報を演算する運動情報演算手段と、を含むことを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、ドプラ情報について中心周波数が演算され、また、その広がり(分散)についても演算される。ここで、分散が小さい場合には、ドプラ情報におけるクラッタ成分が支配的であると認識でき、よって、演算された中心周波数がクラッタ成分の中心周波数に等しいあるいはそれに近いものと評価できる。一方、分散が大きい場合には、クラッタ成分が小さく、相対的にドプラ情報において血流成分の存在が顕著となっているものと認識でき、よって、演算された中心周波数がクラッタ成分の中心周波数からずれているものと評価できる。このように分散の大小によって、ドプラ情報中におけるクラッタ成分の支配度合いを定量化することができ、つまり、演算された中心周波数がクラッタ成分の中心周波数にどの程度近いのかを推定できる。シフト量決定手段は、以上の考え方を基本として、中心周波数及び分散から周波数シフト量(シフト周波数)を決定する。そして、その周波数シフト量に基づいてドプラ情報に対する周波数シフトが実行された上で、ドプラ情報がクラッタ成分除去フィルタに入力される。よって、そのクラッタ成分除去フィルタから出力されるドプラ情報中に含有される残留クラッタ成分をゼロあるいは非常に低減でき、血流の運動情報を正確に演算することが可能となる。また、そのような運動情報を画像化した場合には、その画質を高めることができる。
【0014】
上記の分散は、ドプラ情報の大きさに基本的に依存しないために、つまり、深さや組織性状の違いなどによらないため、周波数シフト量を適切に決定することができる。
【0015】
上記の構成において、ドプラ情報検出手段は複素信号変換器であってもよく、例えば直交検波あるいはそれに相当する処理を行うものであってもよい。その場合に、送受信の各チャンネルごとにドプラ情報検出手段を設けるようにしてもよい。中心周波数及び分散は例えば自己相関器を用いて演算することができる。クラッタ成分除去フィルタは望ましくは周波数特性が固定されたMTIフィルタによって構成される。それはDC近傍成分を除去するフィルタである。その場合に、周波数シフト手段の前段にDCフィルタを設けて、本来的なDC成分を周波数シフトに先立って除去しておくのが望ましい。運動情報演算手段は自己相関器を用いて血流について平均速度や分散を求めるものであってもよい。
【0016】
望ましくは、前記シフト量演算手段は、前記中心周波数が大きくなるに従って前記周波数シフト量を大きくする基本条件と、前記分散が大きくなるに従って前記周波数シフト量を少なくする修正条件とに従って、前記周波数シフト量を決定する。基本条件は全体傾向を限定し、修正条件はその全体傾向に対する修正量を規定する。例えば、修正条件は、分散の大きさに対して、基本条件に従って決定される周波数シフト量を単調減少させるものであってもよい。
【0017】
望ましくは、前記シフト量演算手段は、更に、前記周波数シフト量がリミット範囲を越える場合にその周波数シフト量をリミット値にクリップするクリップ条件に従って、前記周波数シフト量を決定する。
【0018】
望ましくは、前記シフト量演算手段は、前記ドプラ情報に基づいて中心周波数を演算する中心周波数演算器と、前記ドプラ情報に基づいて分散を演算する分散演算器と、前記分散に基づいて重み付け係数を演算する係数演算器と、前記中心周波数に前記重み付け係数を乗算して前記周波数シフト量を演算するシフト量演算器と、前記周波数シフト量がリミット範囲を超える場合にその周波数シフト量をリミット値にクリップするクリップ回路と、を含む。この構成によれば、過剰の周波数シフトを防止することができる。
【0019】
望ましくは、前記シフト量演算手段は、前記ドプラ情報に基づいて中心周波数を演算する中心周波数演算器と、前記ドプラ情報に基づいて分散を演算する分散演算器と、前記中心周波数及び前記分散の組み合わせに応じて前記周波数シフト量を決定するシフト量決定テーブルと、を含む。テーブルを利用して周波数シフト量を決定すれば、その決定が迅速となり、また多様な変換を容易に実現できる。
【0020】
望ましくは、前記クラッタ除去フィルタの後段に設けられ、前記ドプラ情報あるいは前記血流の運動情報に対して、前記周波数シフトとは逆の周波数シフトに相当する処理を実行する逆周波数シフト手段を含む。この構成によれば、正しい運動情報を演算できる。
【0021】
望ましくは、前記逆周波数シフト手段は、折り返しの有無及び方向を判定し、その判定結果に応じて処理の条件を変更する。ドプラ情報の処理に当たっては折り返しという固有の問題があるが、その折り返しを判定して、それに対処すれば、演算結果の信頼性を向上できる。
【0022】
(2)また、本発明は、超音波を送受波し、受信信号を出力する送受波手段と、前記受信信号からドプラ情報を検出するドプラ情報検出手段と、前記ドプラ情報に対する第1の自己相関演算を実行する第1の自己相関器を含み、その第1の自己相関結果からクラッタ成分について中心周波数及び分散を求め、それらの中心周波数及び分散に基づいて周波数シフト量を演算するシフト量演算手段と、前記周波数シフト量に基づいて前記ドプラ情報に対する周波数シフトを実行する周波数シフト手段と、前記周波数シフト後のドプラ情報が入力され、前記クラッタ成分を除去するためのクラッタ成分除去フィルタと、前記クラッタ成分除去フィルタから出力されたドプラ情報に対して第2の自己相関演算を実行する第2の自己相関器を含み、その第2の自己相関演算結果から血流の運動情報を演算する運動情報演算手段と、を含み、更に、前記クラッタ成分除去フィルタの後段に設けられ、前記ドプラ情報あるいは前記血流の運動情報に対して、前記周波数シフトとは逆の周波数シフトに相当する処理を実行する逆周波数シフト手段を含むことを特徴とする。
【0023】
望ましくは、前記逆周波数シフト手段は、前記クラッタ成分除去フィルタと前記第2の自己相関演算器との間に設けられる。望ましくは、前記逆周波数シフト手段は、前記第2の自己相関器とその後段に設けられる速度演算器との間に設けられる。望ましくは、前記逆周波数シフト手段は、前記第2の自己相関器の後段に設けられる速度演算器の更に後段に設けられる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示すブロック図である。
【0026】
探触子10は、超音波の送受波を行う送受波器であって、その探触子10内には複数の振動素子からなるアレイ振動子が設けられている。そのアレイ振動子によって超音波ビームが形成され、その超音波ビームを電子走査することにより走査面が形成される。ここで、その電子走査方式としては電子リニア走査、電子セクタ走査などをあげることができる。探触子10は、本実施形態において生体の体表面上に当接して用いられるものであるが、探触子10としては体腔内挿入型の超音波探触子であってもよい。
【0027】
一般に、走査面を構成する各ビームアドレスごとに複数回の超音波パルスの送波が実行される。これは従来の超音波ドプラ診断装置における送信制御と同様である。
【0028】
送受信回路12は、送信ビームフォーマー及び受信ビームフォーマーとして機能する。送受信回路12は、複数の振動素子に対して所定の遅延関係をもって複数の送信駆動信号を供給する。また、複数の振動素子から出力される複数の受信信号は送受信回路12に入力され、それらの複数の受信信号に対して整相加算処理が実行される。これにより整相加算後の受信信号が得られる。
【0029】
その整相加算後の受信信号は直交検波回路14に入力される。この直交検波回路14は受信信号からドプラ情報を検出する回路として機能し、具体的には受信信号を複素信号に変換する。ここで、複素信号における実数部がIによって表され、虚数部がQによって表されている。ちなみに、図1に示す構成では、整相加算後の受信信号に対して直交検波処理が行われていたが、各振動素子からの受信信号ごとに直交検波処理を行うようにしてもよい。また、直交検波方式によらずに各種の方式を利用して複素信号を得るようにしてもよい。
【0030】
直交検波回路14から出力される複素信号(ドプラ情報)はDCフィルタ16,18に出力され、また、その複素信号はシフト周波数算出部34に出力される。シフト周波数算出部34は、後に図2及び図5などを用いて説明するように、ドプラ情報について中心周波数及び分散を求め、それらの中心周波数及び分散に基づいて周波数シフト量(シフト周波数)を演算する回路である。このシフト周波数算出部34の具体的な機能については後に詳述することにする。
【0031】
DCフィルタ16,18は、複素信号に含まれるDC(直流)成分を除去するためのフィルタであり、例えばローカットフィルタなどによって構成される。このDCフィルタ16,18により、静止物体の信号成分すなわち中心周波数が0あるいは0近傍のクラッタ成分について、周波数シフトに先立って除去処理が行われることになる。DCフィルタ16,18は、例えば、現在入力される信号から既に入力された信号の平均値を引く操作を行うフィルタによって構成されてもよい。いずれにしても、実数部及び虚数部のそれぞれについてDC近傍の帯域に存在する信号成分が除去される。
【0032】
周波数シフト回路20は、複素信号に対して、シフト周波数算出部34によって算出されたシフト周波数fc’にしたがった周波数シフト処理を実行する回路である。その作用について図8及び図9を用いて説明する。図8には後に説明するMTIフィルタ22,24の周波数特性100が示されている。ここで、その特性100はローカットフィルタ特性を示している。一方、符号102はクラッタ成分を示しており、符号104は血流成分を示している。ここで、クラッタ成分102の中心周波数を仮にfcとする。周波数シフト回路20は、ドプラ情報すなわちクラッタ成分102及び血流成分104の全体に対してDC側への周波数シフトを実行する回路であり、その周波数シフトの結果として図9に示すような周波数関係が得られる。すなわち、シフト後のクラッタ成分102’はDCの近傍に存在し、一方、血流成分104’についても周波数シフトがなされている。ここで、特性100によってローカット処理を行うと、結果として血流成分104’のみを抽出することが可能となる。ただし、以上のような処理は周波数シフトが適正に行われた場合のものであり、クラッタ成分の中心周波数の特定精度が低いような場合に上述のような処理を行ってしまうと、クラッタ成分の除去を十分に行えず、また血流成分についても不必要に除去してしまう可能性がある。そこで、本実施形態においては上述したようにドプラ情報の中心周波数に加えてその分散も考慮し、それらによってシフト周波数の算出を行っている。
【0033】
すなわち、図8及び図9に示したように、クラッタ成分102が支配的な場合には、ドプラ情報から演算される中心周波数はクラッタ成分102の中心周波数に近似し、ドプラ情報から演算される分散もクラッタ成分102の分散に近似することになる。一方、図8及び図9において、例えば、クラッタ成分102がかなり小さくなって、クラッタ成分102と血流成分104とが両者拮抗してくると、演算される中心周波数はクラッタ成分102の本来の中心周波数よりも大きくなり、また、演算される分散もクラッタ成分102の分散よりも大きくなる(クラッタ成分102と血流成分104を含めたトータルの分散になる)。そこで、分散の大小を利用して、中心周波数の推定誤差を補償し、ひいては、シフト周波数を最適化するのが本実施形態の原理である。
【0034】
図1に示されるMTIフィルタ22,24は、例えば図8及び図9に示したような周波数特性100を有するものであり、具体的にはDC近傍成分を除去するフィルタである。本実施形態においては、後述するようにシフト周波数について適切な演算が行われるため、MTIフィルタ22,24から出力される信号(ドプラ情報)に含まれる残留クラッタ成分は極めて低いものとなる。
【0035】
自己相関演算部26は、自己相関器及びその後段に設けられた速度演算器を含む公知の構成であり、自己相関演算を実行することにより、入力される複素信号から自己相関結果を求めるものである。本実施形態においては、自己相関演算部26から速度情報V、分散B、パワーの情報Pが出力されている。その内で、速度情報Vについては流速補正回路28に出力されており、その流速補正回路28によって補正された後の速度情報V’が画像形成回路30へ出力されている。またその画像形成回路30には自己相関演算部26から出力された分散B及びパワーの情報Pも出力されている。
【0036】
ちなみに、図1においてはいわゆる二次元断層画像(Bモード画像)を形成するための回路構成については図示省略されている。そのような断層画像の情報も画像形成回路30に入力されている。すなわち、画像形成回路30はいわゆるカラーフローマッピング画像を形成する回路であり、そのように形成された画像のデータが表示器32へ出力され、表示器32上にはカラーフローマッピング画像すなわちBモード画像とカラーフロー画像とを合成した画像が表示されることになる。
【0037】
上記に示した流速補正回路28は、周波数シフトとは逆の周波数シフトを実行し、これによって速度の値を適正な値に補正する回路である。本実施形態においては流速補正回路28が折り返し判定機能を有しており、それについては後に図7などを用いて説明することにする。
【0038】
なお、本実施形態においてはMTIフィルタ22,24の周波数特性が基本的に固定されているが、必要に応じてそのような周波数特性を可変するようにしてもよい。また、流速補正回路28(あるいはそれに代わるドプラ情報補正回路)については、MTIフィルタ22,24の後段であれば任意の箇所に挿入することができ、例えばMTIフィルタ22,24と自己相関演算部26との間にそのような補正回路を挿入することもできる。また、自己相関演算部26が自己相関器と速度演算器とによって構成される場合、それらの間に補正回路を設けることも可能である。ただし、以上の2つの回路構成によると、複素の信号に対して流速補正を行う必要があり、このため回路構成が複雑化する可能性がある。図1に示す構成では、スカラーの情報すなわち流速情報Vに対してその流速座標上において補正を行うことができるため簡便であり、また回路規模も小さくすることが可能となる。
【0039】
図2には、図1に示したシフト周波数算出部34の構成例が示されている。
【0040】
図2において、自己相関回路36は図1に示した自己相関演算部26内の自己相関器と同一の構成をもった回路であり、その自己相関回路36には複素信号が入力される。つまり、この自己相関回路36は通常の超音波診断装置において用いられている自己相関器と同じ回路構成を有し、その自己相関回路36はその自己相関結果としての複数の情報(X,Y)を出力しており、またラグ0すなわちR(0)を出力している。
【0041】
局所平均回路38は以上のように出力されたX,Y、R(0)のそれぞれについて局所平均処理を実行する回路であり、その処理結果としてそれぞれの平均値が得られることになる。Xの平均値及びYの平均値は演算器40に入力される。この演算器40は中心周波数fcを演算する機能と、ラグTすなわちR(T)とを演算する機能を有している。ここでTは1/PRFである。PRFはパルスくり返し周波数である。
【0042】
fc及び|R(T)|はそれぞれ以下の計算式によって算出される。
【0043】
fc=tan-1(Y/X) ・・・(1)
|R(T)|=(X2+Y2)1/2 ・・・(2)
また、分散演算器42は、R(0)の平均値と|R(T)|とを入力して分散σ2を演算する回路であり、以下の計算式を実行する。
【0044】
σ2=k{1−|R(T)|/R(0)} ・・・(3)
なお、上記(3)式においてはR(0)の平均値を表すバーの記号については省略した。また、kは比例定数であり、上記のR(0)はドプラ情報のパワーに相当する。つまり、σ2はドプラ情報のパワースペクトルの分散を表している。
【0045】
図2に示す構成では、分散σ2がテーブル44に入力されている。このテーブル44は、例えば図3に示すような特性を有しており、σ2が大きくなるに従って、その結果値F(σ2)を徐々に小さくする関数200を有している。したがって、ある分散の値が入力されると、テーブル44によりその結果値すなわち重み付け値F(σ2)が求まることになる。
【0046】
そして、乗算器46においては、上述のように演算された中心周波数fcに対して上記のF(σ2)が乗算されることになる。
【0047】
図3に示されたように、特性200は単調減少関数であり、その値は0から1の間をとる。例えば、ドプラ情報におけるクラッタ成分が支配的であればσ2が小さくなるためF(σ2)が1に近くなり、乗算器46の出力fc・F(σ2)はほぼfcに近くなる。一方、ドプラ情報において相対的にクラッタが小さく、すなわち血流成分が比較的に大きく支配的となると、σ2が大きくなってF(σ2)が0に近くなるため乗算器46の出力値は0に近くなることになる。ここで、パワースペクトルの分散σ2はドプラ情報の強さには基本的に依存しないためにF(σ2)はサンプル点の深さあるいは生体組織の減衰特性の影響を受けない。
【0048】
本実施形態においては図2に示すクリップ回路48が設けられている。これは過剰な周波数シフトを防止するための回路であり、乗算器46はfc・F(σ2)を所定値±fpでクリップするための回路である。|fc・F(σ2)|の上限、つまりシフト周波数の上限はここでfpと表される。図4には、その特性202が示されている。
【0049】
したがって、以上のように決定されたシフト周波数fc’にしたがって周波数シフトを実行することにより、状況に応じた適切な周波数シフトを実施でき、その結果、ドプラ情報に対するMTIフィルタ22,24によるフィルタリングすなわちクラッタ成分の除去を適切に行うことが可能となる。
【0050】
ちなみに、上述したように流速補正回路28において上記の周波数シフトとは逆の周波数シフトが行われ、例えばVからfc’を引く演算を実行することにより補正が実施される。
【0051】
上記の実施形態において、局所平均回路38における平均処理は、例えば腹部診断の場合には局所平均化の領域を広くし、例えば循環器の診断においては局所平均化の領域を狭くするようにしてもよい。また、F(σ2)の代わりにF(|R(T)|/R(0))を用いるようにしてもよい。その場合においては図3に示した単調減少関数に代えて単調増加関数が用いられることになる。この場合においても上記のクリップ処理を設けるのが望ましい。
【0052】
図5には、図1に示したシフト周波数算出部34の他の構成例が示されている。なお、図2に示した構成と同様の構成には同一符号を付しその説明を省略する。
【0053】
図5に示す構成では、2次元テーブル50が用いられている。この2次元テーブル50は、図2に示したテーブル44,乗算器46及びクリップ回路48のそれぞれの機能を併せもったものであり、すなわち入力されるfc及びσ2によって一意的にシフト周波数fc’を決定するテーブルである。そのテーブル50の内容が図6に示されている。ここにおいて縦軸はプラス方向及びマイナス方向の両方向についてのシフト周波数fc’を表している。また2つの水平軸はそれぞれσ2及び±fcを表している。図示されるように、図2に示した構成と同様の結果が得られており、すなわちfcに応じてfc’を大きくする基本条件と、σ2が大きくなるにしたがってシフト周波数を小さくする修正条件と、上記のクリップ条件の3つの条件が併せて考慮された2次元テーブル50となっている。
【0054】
なお、必要に応じて図2あるいは図5に示した回路構成の全部又は一部を1つのモジュールあるいはチップとして構成することも可能である。すなわち、実際の超音波診断装置の構成にあたっては、装置設計上の要請に応じて複数の回路を1つのモジュールにまとめることも可能であり、また全部あるいは一部の機能についてソフトウエア処理に委ねるようにしてもよい。
【0055】
図7には、図1に示した流速補正回路28の動作内容がフローチャートとして概念的に示されている。ここで、Vは入力される速度情報、すなわち入力速度データを表しており、Vrは補正後の速度情報すなわち速度データを表しており、V’は実際に出力される速度の情報すなわち出力速度データを表している。
【0056】
S101では、Vr=V−fc’の演算を実行することにより、基本的な流速補正処理を実行する。しかし、折り返しの有無に応じてその演算された補正速度データVrを更に補正する必要がある。そこで、工程S102においては条件に応じてその後の処理が分岐されている。具体的には、Vrが−πより大きくπより小さい場合には、S103において折り返しが生じていないものとして出力速度データV’がそのまま補正速度データVrとされる。一方、Vrがπよりも大きければ、S104において、V’=Vr−2πの演算が実行され、これによって折り返しの補正がなされた出力補正データが得られる。一方、Vrが−πよりも小さければ折り返しが生じているものとしてS105においてV’=Vr+2πの演算が実行され、これによって折り返しが補正される。
【0057】
上記実施形態においては分散σ2を演算したが、パワースペクトルの広がりを表す情報であれば各種の情報を当該分散として用いることが可能である。
【0058】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、クラッタ成分を効果的に排除することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】 図1に示すシフト周波数算出部の構成例を示す図である。
【図3】 図2に示すテーブルの特性を示す図である。
【図4】 図2に示すクリップ回路の特性を示す図である。
【図5】 図1に示すシフト周波数算出部の他の構成例を示すブロックである。
【図6】 図5に示す2次元テーブルの特性を示す図である。
【図7】 図1に示す流速補正回路の動作内容を説明するためのフローチャートである。
【図8】 周波数シフト前のドプラ情報とフィルタ特性との関係を示す図である。
【図9】 周波数シフト後のドプラ情報とフィルタ特性との関係を示す図である。
【符号の説明】
10 探触子、12 送受信回路、14 直交検波回路、16,18 DCフィルタ、20 周波数シフト回路、22,24 MTIフィルタ、26 自己相関演算部、28 流速補正回路、30 画像形成回路、34 シフト周波数算出部。
Claims (11)
- 超音波を送受波し、受信信号を出力する送受波手段と、
前記受信信号からドプラ情報を検出するドプラ情報検出手段と、
前記ドプラ情報について中心周波数及び分散を求め、それらの中心周波数及び分散に基づいて周波数シフト量を演算するシフト量演算手段と、
前記周波数シフト量に基づいて前記ドプラ情報に対する周波数シフトを実行する周波数シフト手段と、
前記周波数シフトが実行された後のドプラ情報が入力され、そのドプラ情報に含まれるクラッタ成分を除去するクラッタ成分除去フィルタと、
前記クラッタ成分除去フィルタから出力されたドプラ情報に基づいて血流の運動情報を演算する運動情報演算手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。 - 請求項1記載の装置において、
前記シフト量演算手段は、前記中心周波数が大きくなるに従って前記周波数シフト量を大きくする基本条件と、前記分散が大きくなるに従って前記周波数シフト量を少なくする修正条件とに従って、前記周波数シフト量を決定することを特徴とする超音波診断装置。 - 請求項2記載の装置において、
前記シフト量演算手段は、更に、前記周波数シフト量がリミット範囲を越える場合にその周波数シフト量をリミット値にクリップするクリップ条件に従って、前記周波数シフト量を決定することを特徴とする超音波診断装置。 - 請求項1記載の装置において、
前記シフト量演算手段は、
前記ドプラ情報に基づいて中心周波数を演算する中心周波数演算器と、
前記ドプラ情報に基づいて分散を演算する分散演算器と、
前記分散に基づいて重み付け係数を演算する係数演算器と、
前記中心周波数に前記重み付け係数を乗算して前記周波数シフト量を演算するシフト量演算器と、
前記周波数シフト量がリミット範囲を超える場合にその周波数シフト量をリミット値にクリップするクリップ回路と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。 - 請求項1記載の装置において、
前記シフト量演算手段は、
前記ドプラ情報に基づいて中心周波数を演算する中心周波数演算器と、
前記ドプラ情報に基づいて分散を演算する分散演算器と、
前記中心周波数及び前記分散の組み合わせに応じて前記周波数シフト量を決定するシフト量決定テーブルと、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。 - 請求項1記載の装置において、
前記クラッタ除去フィルタの後段に設けられ、前記ドプラ情報あるいは前記血流の運動情報に対して、前記周波数シフトとは逆の周波数シフトに相当する処理を実行する逆周波数シフト手段を含むことを特徴とする超音波診断装置。 - 請求項6記載の装置において、
前記逆周波数シフト手段は、折り返しの有無及び方向を判定し、その判定結果に応じて処理の条件を変更することを特徴とする超音波診断装置。 - 超音波を送受波し、受信信号を出力する送受波手段と、
前記受信信号からドプラ情報を検出するドプラ情報検出手段と、
前記ドプラ情報に対する第1の自己相関演算を実行する第1の自己相関器を含み、その第1の自己相関結果から中心周波数及び分散を求め、それらの中心周波数及び分散に基づいて周波数シフト量を演算するシフト量演算手段と、
前記周波数シフト量に基づいて前記ドプラ情報に対する周波数シフトを実行する周波数シフト手段と、
前記周波数シフト後のドプラ情報が入力され、そのドプラ情報に含まれるクラッタ成分を除去するためのクラッタ成分除去フィルタと、
前記クラッタ成分除去フィルタから出力されたドプラ情報に対して第2の自己相関演算を実行する第2の自己相関器を含み、その第2の自己相関演算結果から血流の運動情報を演算する運動情報演算手段と、
を含み、
更に、前記クラッタ成分除去フィルタの後段に設けられ、前記ドプラ情報あるいは前記血流の運動情報に対して、前記周波数シフトとは逆の周波数シフトに相当する処理を実行する逆周波数シフト手段を含むことを特徴とする超音波診断装置。 - 請求項8記載の装置において、
前記逆周波数シフト手段は、前記クラッタ成分除去フィルタと前記第2の自己相関演算器との間に設けられたことを特徴とする超音波診断装置。 - 請求項8記載の装置において、
前記逆周波数シフト手段は、前記第2の自己相関器とその後段に設けられる速度演算器との間に設けられたことを特徴とする超音波診断装置。 - 請求項8記載の装置において、
前記逆周波数シフト手段は、前記第2の自己相関器の後段に設けられる速度演算器の更に後段に設けられたことを特徴とする超音波診断装置。
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