JP4066795B2 - 金属部材の表層部の検査方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、SH波を用いた金属部材の表層部の検査方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、金属部材の表層部の検査方法としては、電子線マイクロアナライザー(Electron Prove Micro Analyzer : EPMA)を用いた方法がある。この電子線マイクロアナライザーを用いた方法では、金属部材を破壊することによって金属部材から金属部材の一部を取出して、この金属部材の一部を研磨して試料を作成した後、この試料に電子線を照射してこの試料から炭素の特性X線を発生させて、この炭素の特性X線の測定を行っている。そして、この炭素の特性X線の測定に基づいて金属部材中の炭素の含有率を検出して、金属部材の表層部の状態を検査している。
【0003】
また、他の金属部材の表層部の検査方法としては、X線照射装置を用いた方法もある。このX線照射装置を用いた方法では、金属部材にX線を照射することによって、この金属部材の残留応力、X線回折強度に対する回折角の半価幅および残留オーステナイト量を測定している。そして、この測定結果に基づいて金属部材の表層部の状態を検査している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開2000−304710
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記電子線マイクロアナライザーを用いた検査方法では、金属部材の破壊が必要になるので、検査した金属部材を使用できないという問題がある。
【0006】
また、金属部材の破壊や、金属部材から取出した金属部材の一部の研磨等を必要とするので、金属部材の表層部を検査するときの工数が多くなって、金属部材の表層部の検査に要する時間が長くコストと労力が大きくなるという問題がある。
【0007】
一方、上記X線照射装置を用いた検査方法では、金属部材の表層部の検査に大掛りなX線照射装置を用いるので、このX線照射装置を自由に検査現場に持ち運びできず、金属部材の表層部の検査を行う場所が限定されるという問題がある。
【0008】
また、人体に危険な放射線のX線を用いるので、X線照射装置の操作に熟練を必要とし、金属部材の表層部の検査を安全かつ簡単にできないという問題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、金属部材の表層部の検査を行う場所が限定されず、かつ、金属部材の破壊検査をせずに金属部材の表層部を簡単安価かつ安全に検査できる金属部材の表層部の検査方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の発明の金属部材の表層部の検査方法は、SH波送信機とSH波受信機とを金属部材の表面上に互いに離間して配置して、上記SH波送信機から送信されて上記金属部材の表層部を伝播して上記SH波受信機で受信されたSH波(horizontal polalized shear wave)の波形を基にSH波の伝播速度を測定し、このSH波の伝播速度に基づいて金属部材の表層部を検査する金属部材の表層部の検査方法であって、
上記受信されたSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅が、最大ピークの振幅の20%以上であるか否かを判断するステップを備え、
上記ステップにおける上記最大ピークの一つ前のピークの振幅が、最大ピークの振幅の20%以上であるとき、上記SH波送信機および上記SH波受信機と、上記金属部材との密着性が良好であることを判断することを特徴としている。
【0011】
尚、上記SH波とは、主振動方向が伝播方向に垂直でかつ部材の表面に略平行な方向で、かつ、部材の表面に沿って伝播する超音波である。
【0012】
また、この明細書で記載される金属部材の表層部の検査方法は、金属部材の表層部の疲労や研磨焼、脱炭等の状態によって変化するSH波の金属部材の表層部の伝播速度と、金属部材の材質や被検査状態等で決まるSH波の疲労や研磨焼、脱炭等を生じていない状態の金属部材の表層部の所定の基準速度とを比較して、金属部材の表層部の疲労や研磨焼、脱炭等の状態を検査する検査方法である。
【0013】
本発明者は、金属部材内を伝播するSH波の伝播速度の測定誤差が、金属部材を伝播するSH波の波形の最大ピークの振幅に対する最大ピークの一つ前のピークの振幅の比に大きく依存していることを発見した。詳細には、本発明者は、金属部材内を伝播するSH波の波形の最大ピークの振幅に対する最大ピークの一つ前のピークの振幅の比が20%以上のとき、上記SH波送信機およびSH波受信機と、上記金属部材との密着性が良好になり、金属部材内を伝播するSH波の伝播速度の測定誤差が小さくて金属部材内を伝播するSH波の伝播速度を正確に測定できることを発見した。
【0014】
上記請求項1の発明の金属部材の表層部の検査方法を、以下のようにして行う。先ず、上記SH波送信機と、上記SH波受信機とを被検査物である上記金属部材の表面上に所定の間隔を隔てて配置して、上記SH波送信機から送信されて上記金属部材を伝播したSH波を、上記SH波受信機で受信してSH波の波形を表示する。次に、上記SH波受信機で受信されて表示されたSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅が、最大ピークの振幅の20%以上であるか否かを判断して、SH波の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%以上である場合には、そのSH波の伝播速度の測定が妥当な条件の下で行われたと判断する。一方、SH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%未満である場合には、SH波の伝播速度の測定が妥当でないものとして、上記SH波送信機およびSH波受信機を金属部材に付け直す。このSH波送信機およびSH波受信機の金属部材への付け直しを、SH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%以上になるまで繰り返して行う。そして、SH波の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%以上になった場合に、SH波の伝播速度の測定は、正しい測定条件の下で行われたものとする。
【0015】
上記請求項1の発明の金属部材の表層部の検査方法によれば、SH波送信機と、SH波受信機とを金属部材の表面上に所定の間隔を隔てて配置するだけで、金属部材の表層部の検査を行うことができるので、上記電子線マイクロアナライザーを用いる検査方法とは異なり、金属部材の表層部の検査を行うのに金属部材を破壊する必要がない。また、金属部材の表層部の検査を行うときの工数を大幅に低減できて、金属部材の表層部の検査に要するコストと労力を大幅に低減できる。
【0016】
また、上記請求項1の発明の金属部材の表層部の検査方法によれば、軽くて小型で持ち運び可能なSH波送信機とSH波受信機とを用い、かつ、人体に安全なSH波の伝播速度に基づいて金属部材の表層部の検査を行うので、大掛りで人体に危険なX線を使用するX線照射装置を用いる検査方法とは異なり、金属部材の表層部の検査を行う場所が限定されず、かつ、金属部材の表層部の検査を安全に行うことができる。
【0017】
また、上記請求項1の発明の金属部材の表層部の検査方法によれば、上記受信されたSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅が、SH波の最大ピークの振幅の20%以上であるか否かを判断するステップを備えるので、上記受信されたSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%以上になった正しい測定状態で、金属部材を伝播したSH波の伝播速度の測定を行うことができる。したがって、上記SH波送信機およびSH波受信機と、上記金属部材との密着性が良い状態で金属部材を伝播したSH波の伝播速度の測定を行うことができるので、上記金属部材を伝播する上記SH波の伝播速度の測定誤差を小さくすることができる。
【0018】
また、請求項2の発明の金属部材の表層部の検査方法は、請求項1に記載の金属部材の表層部の検査方法であって、
上記金属部材は、円筒ころ軸受の軌道輪であり、
この軌道輪の軌道面の表層部における上記SH波の伝播速度を、上記受信されたSH波の波形の変位の最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点を計時基準にして測定することを特徴としている。
【0019】
本発明者は、SH波送信機で送信されて円筒ころ軸受の軌道輪内を伝播してSH波受信機で受信されたSH波の伝播速度を、幾つかのSH波の変位のゼロクロス点の夫々に基づいて測定し、上記幾つかのゼロクロス点の夫々に対して円筒ころ軸受の軌道輪の軌道面の表層部(軌道輪の軌道面および軌道輪の軌道面に連なる表層部)を伝播するSH波の伝播速度の測定誤差を評価した。そして、上記金属部材が円筒ころ軸受の軌道輪である場合、上記受信されたSH波の波形の変位の最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点を計時基準としてSH波を測定すれば、円筒ころ軸受の軌道輪の軌道面の表層部を伝播するSH波の伝播速度を最も正確に測定できることを見い出した。
【0020】
上記請求項2の発明の金属部材の表層部の検査方法によれば、上記金属部材を、円筒ころ軸受の軌道輪にし、かつ、上記SH波受信機で受信されたSH波の波形の変位の最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点をSH波の伝播速度の計時基準にしたので、円筒ころ軸受の軌道輪の軌道面の表層部を伝播するSH波の伝播速度を最も正確に測定できて、円筒ころ軸受の軌道輪の軌道面の表層部の状態を正確に検査できる。
【0021】
また、請求項3の発明の金属部材の表層部の検査方法は、請求項1に記載の金属部材の表層部の検査方法であって、
上記金属部材は、円錐ころ軸受の軌道輪であり、
この軌道輪の軌道面の表層部における上記SH波の伝播速度を、上記受信されたSH波の波形の変位の最大ピークの一つ前のピークの立ち下りのゼロクロス点を計時基準にして測定することを特徴としている。
【0022】
本発明者は、SH波送信機で送信されて円錐ころ軸受の軌道輪の軌道面の表層部を伝播してSH波受信機で受信されたSH波の伝播速度を、幾つかのSH波の変位のゼロクロス点の夫々に基づいて測定し、上記幾つかのゼロクロス点の夫々に対して円錐ころ軸受の軌道輪の軌道面の表層部を伝播するSH波の伝播速度の測定誤差を評価した。そして、上記金属部材が円錐ころ軸受の軌道輪である場合、上記受信されたSH波の波形の変位の最大ピークの一つ前のピークの立ち下りのゼロクロス点を計時基準としてSH波を測定すれば、円錐ころ軸受の軌道輪の軌道面の表層部を伝播するSH波の伝播速度を最も正確に測定できることを見い出した。
【0023】
上記請求項3の発明の金属部材の表層部の検査方法によれば、上記金属部材を、円錐ころ軸受の軌道輪にし、かつ、上記SH波受信機で受信されたSH波の波形の変位の最大ピークの一つ前のピークの立ち下りのゼロクロス点をSH波の伝播速度の計時基準にしたので、円錐ころ軸受の軌道輪の軌道面の表層部を伝播するSH波の伝播速度を最も正確に測定できて、円錐ころ軸受の軌道輪の軌道面の表層部の状態を正確に検査できる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0025】
(第1実施形態)
この発明の第1実施形態の金属部材の表層部の検査方法としての円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部(内輪10の軌道面10Aおよび内輪10の軌道面10Aに連なる表層部)の検査方法を図1(A),(B)に基づいて説明する。
【0026】
図1(A)は、上記内輪10の軌道面10Aの平面図であり、図1(B)は、内輪10の正面図である。この実施形態では、図1(A),(B)に示すように、SH波送信機1と内輪10の軌道面10Aとが接触線3で線接触するように、SH波送信機1をエポキシ樹脂等の粘性材料の層を介して内輪10の軌道面10Aの略中央に設置する一方、SH波受信機2と内輪10の軌道面10Aとが接触線5で線接触し、かつ、SH波受信機2をSH波送信機1から周方向に離間した状態で、SH波受信機2をエポキシ樹脂等の粘性材料の層を介して内輪10の軌道面10Aの略中央に設置している。上記SH波送信機1およびSH波受信機2の軸方向の寸法D1は、内輪10の軸方向の寸法D2の3分の1になっている。
【0027】
また、図1(B)に示すように、SH波送信機1の接触線3と内輪10の中心P0とを結ぶ直線Lrと、SH波受信機2の接触線5と上記中心P0とを結ぶ直線Lqとがなす角度2αを40°とした。また、上記SH波送信機1の接触線3を、SH波送信機1の軌道面10Aに対する対向面1AのうちのSH波を発生する有効部分7に位置させると共に、SH波受信機2の接触線5を、SH波受信機2の軌道面10Aに対する対向面2AのうちのSH波を検知可能な有効部分8に位置させる。
【0028】
上記構成において、円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部の検査方法を以下のようにして行う。先ず、SH送信機1が内蔵する圧電素子からなるSH波発振部(図示せず)を駆動することで、図1(B)に示す対向面1Aの有効部分7を振動させて、SH波送信機1からSH波を発信する。そして、上記SH送信機1から発信されて円筒ころ軸受の内輪10の表層付近を伝播したSH波をSH波受信機2で受信して、図2に示すようなSH波を表示する。次に、SH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅が、SH波の最大ピークの振幅の20%以上であるか否かを判断して、図2に示す波形のように、SH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅P2がSH波の最大ピークの振幅P1の20%以上である場合には、SH波の最大波形の変位の立ち上がりのゼロクロス点Z3を計時基準にしてSH波送信機1の接触線3からSH波受信機2の線接触5までのSH波の伝播時間tを求め、以下の式(1)からSH波の伝播速度Vを測定する。
【0029】
(ここで、rは軌道面10Aの半径[m]、πは円周率である。)
【0030】
一方、上記SH送信機1から発信されて円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層付近を伝播してSH波受信機2で受信されたSH波が、図2に示すような波形でなかった場合、すなわち、SH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%未満である場合には、円筒ころ軸受の内輪10からSH波送信機1およびSH波受信機2を取り外して、円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの一部にエポキシ樹脂等の粘性材料を塗り直した上、このエポキシ樹脂等の粘性材料が塗り直された円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの部分に、SH波送信機1およびSH波受信機2を配置する。この付け直し作業を、SH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%以上になるまで繰り返す。そして、SH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%以上になった場合に、SH波の波形の変位の最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点を計時基準にして式(1)からSH波の伝播速度Vを測定する。
【0031】
このSH波の伝播速度Vは、円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部(内輪10の軌道面10Aおよび内輪10の軌道面10Aに連なる表層部)の疲労や研磨焼、脱炭等の状態により変化するため、内輪10の材質や被検査状態等で決まるSH波の所定の基準速度と、式(1)に基づいて算出された測定値を比較することで、円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部の疲労や研磨焼、脱炭等の状態を検査できる。
【0032】
本発明者は、円筒ころ軸受の内輪10等の金属部材を伝播するSH波の伝播速度の測定誤差が、内輪10等の金属部材を伝播するSH波の波形の最大ピークの振幅に対する最大ピークの一つ前のピークの振幅の比に大きく依存していることを発見した。詳細には、本発明者は、詳細な実験を何度も繰り返すことにより、内輪10等の金属部材を伝播するSH波の波形の最大ピークの振幅に対する最大ピークの一つ前のピークの振幅の比が20%以上のとき、SH波送信センサ1およびSH波受信センサ2が、内輪10等の金属部材に傾いて配置されずに密着して配置された状態になっており、かつ、SH波送信センサ1およびSH波受信センサ2と、内輪10等の金属部材との間に介在しているエポキシ樹脂等の粘着材料の層の厚みも適切な厚さになっていることを発見した。そして、この状態では、SH波の波形くずれが起こりにくいことを発見し、この状態で内輪10等の金属部材のSH波の伝播速度を測定すれば、内輪10等の金属部材内を伝播するSH波の伝播速度の測定誤差が小さくて、内輪10等の金属部材の表層部を伝播するSH波の伝播速度を正確に測定できることを発見した。
【0033】
また、第1実施形態のように金属部材として円筒ころ軸受の内輪10を用いて円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部の検査を行う場合には、内輪10を伝播するSH波の波形の変位の最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点を計時基準にしてSH波の伝播速度の測定を行うことによって、SH波の伝播速度を最も正確に測定できることを発見した。
【0034】
図3に、円筒ころ軸受の内輪の軌道面を伝播するSH波の波形の最大ピークの振幅に対する最大ピークの一つ前のピークの振幅の比が20%以上の状態で、このSH波の伝播速度の測定を10回連続で行ったときの、4つのゼロクロス点と、この4つのゼロクロス点の夫々に対するSH波送信機1の接触線3からSH波受信機2の接触線5までのSH波の伝播時間の平均値からの伝播時間のばらつきを示す標準偏差の3倍の値3σとを示す。
【0035】
図3の横軸のゼロクロス点1は、図2においてはZ1で示されるSH波の波形の変位の最大ピークの一つ前のピークの立ち上がりのゼロクロス点を示し、ゼロクロス点2は、図2においてはZ2で示されるSH波の波形の変位の最大ピークの一つ前のピークの立ち下がりのゼロクロス点を示す。また、図3の横軸のゼロクロス点3は、図2においてはZ3で示される最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点を示し、ゼロクロス点4は、図2においてはZ4で示される最大ピークの立ち下がりのゼロクロス点を示す。
【0036】
図3に示すように、金属部材として円筒ころ軸受の内輪を用いた場合には、ゼロクロス点3すなわちSH波の波形の変位の最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点を計時基準にしてSH波の伝播時間を測定した場合に、ゼロクロス点1,2,4を計時基準にしてSH波の伝播時間を測定した場合よりも、標準偏差の3倍の値3σが大幅に小さくなっている。このことから、金属部材が円筒ころ軸受の内輪である場合には、最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点を計時基準にしてSH波の伝播時間の測定を行えば、SH波の伝播時間のばらつきが最も小さくなって、この伝播時間に基づいて計算されるSH波の伝播速度の誤差も最も小さくなり、SH波の伝播速度を正確に測定できることがわかる。
【0037】
上記第1実施形態の金属部材の表層部の検査方法によれば、SH波送信機1と、SH波受信機2とを円筒ころ軸受の内輪10の表面上に所定の間隔を隔てて配置するだけで、円筒ころ軸受の内輪10の検査を行うことができるので、上記電子線マイクロアナライザーを用いる検査方法とは異なり、円筒ころ軸受の内輪10の検査を行うのに円筒ころ軸受の内輪10を破壊する必要がない。また、円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部の検査を行うときの工数を大幅に低減できて、円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部の検査に要するコストと労力を大幅に低減できる。
【0038】
また、上記第1実施形態の金属部材の表層部の検査方法によれば、軽くて小型で持ち運び可能なSH波送信機1とSH波受信機2とを用い、かつ、人体に安全なSH波の伝播速度に基づいて円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部の検査を行うので、大掛りで人体に危険なX線を使用するX線照射装置を用いる検査方法とは異なり、円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部の検査を行う場所が限定されず、かつ、円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部の検査を安全に行うことができる。
【0039】
また、上記第1実施形態の金属部材の表層部の検査方法によれば、内輪10を伝播したSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅が、SH波の最大ピークの振幅の20%以上であるか否かを判断するステップを備えるので、内輪10を伝播したSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅が、SH波の最大ピークの振幅の20%以上になった状態で、金属部材を伝播したSH波の伝播速度の測定を行うことができる。したがって、SH波送信機1およびSH波受信機2と、内輪10との密着性が良い状態で内輪10を伝播したSH波の伝播速度の測定を行うことができるので、内輪10の軌道面10Aの表層部を伝播するSH波の伝播速度の測定誤差を小さくすることができる。
【0040】
また、上記第1実施形態の金属部材の表層部の検査方法によれば、上記金属部材を、円筒ころ軸受の内輪10にし、かつ、SH波受信機2で受信されたSH波の波形の変位の最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点をSH波の伝播速度の計時基準にしたので、円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部を伝播するSH波の伝播速度を最も正確に測定できて、円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部の状態を正確に検査できる。
【0041】
尚、上記第1実施形態の金属部材の表層部の検査方法では、金属部材を円筒ころ軸受の内輪10にして、内輪10を伝播したSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%以上である場合に、SH波の伝播速度を測定したが、この発明の金属部材の表層部の検査方法では、例えば、金属部材を円筒ころ軸受の外輪、円筒ころ軸受の円筒ころ、玉軸受の軌道輪、玉軸受の玉、円錐ころ軸受の軌道輪または円錐ころ軸受の円錐ころ等の鋼製部品にして、鋼製部品を伝播したSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%以上の場合に、SH波の伝播速度の測定を行っても良く、このようにすると鋼製部品を伝播するSH波の伝播速度を正確に測定できる。
【0042】
また、上記第1実施形態の金属部材の表層部の検査方法では、円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部を伝播したSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%以上である場合に、SH波の波形の変位の最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点を計時基準にしてSH波の伝播速度を測定したが、円筒ころ軸受の内輪10の軌道面10Aの表層部を伝播したSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%以上である場合に、SH波の波形の変位の最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点以外のゼロクロス点を計時基準にしてSH波の伝播速度を測定しても良く、SH波の波形の変位におけるある閾値の値を超えた部分を計時基準にしてSH波の伝播速度を測定しても良い。
【0043】
また、上記第1実施形態の金属部材の表層部の検査方法では、金属部材を円筒ころ軸受の内輪10にして、内輪10の軌道面10Aの表層部を伝播したSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%以上である場合に、SH波の波形の変位の最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点を計時基準にしてSH波の伝播速度を測定したが、この検査方法を円筒ころ軸受の外輪に適用しても良く、この場合、金属部材を円筒ころ軸受の内輪にした場合と同様に、円筒ころ軸受の外輪の軌道面の表層部を伝播するSH波の伝播速度を正確に測定できる。
【0044】
(第2実施形態)
以下、この発明の第2実施形態の金属部材の表層部の検査方法としての円錐ころ軸受の内輪の軌道面の表層部(内輪の軌道面および内輪の軌道面に連なる表層部)の検査方法を説明する。
【0045】
第2実施形態の円錐ころ軸受の内輪の軌道面の表層部の検査方法では、第1実施形態の円筒ころ軸受の内輪の軌道面の表層部の検査方法と同様の構成作用効果については記載を省略し、第1実施形態の円筒ころ軸受の内輪の軌道面の表層部の検査方法と異なる構成作用効果のみを記載することにする。
【0046】
この円錐ころ軸受の内輪の軌道面の表層部の検査方法を、図1(A),(B)における円筒ころ軸受の内輪10を、円錐ころ軸受の内輪に置き換えて第1図(A),(B)を第2実施形態に援用して、第1実施形態の金属部材の表層部の検査方法とまったく同様に行う。
【0047】
図4に、円錐ころ軸受の内輪の軌道面を伝播するSH波の波形の最大ピークの振幅に対する最大ピークの一つ前のピークの振幅の比が20%以上の状態で、このSH波の伝播速度の測定を10回連続で行ったときの、4つのゼロクロス点と、この4つのゼロクロス点の夫々に対するSH波送信機1の接触線3からSH波受信機2の接触線5までのSH波の伝播時間の平均値からの伝播時間のばらつきを示す標準偏差の3倍の値3σとを示す。
【0048】
図4の横軸のゼロクロス点1は、円錐ころ軸受の内輪を伝播したSH波の波形の変位の最大ピークの一つ前のピークの立ち上がりのゼロクロス点を示し、ゼロクロス点2は、上記SH波の波形の変位の最大ピークの一つ前のピークの立ち下がりのゼロクロス点を示す。また、図4の横軸のゼロクロス点3は、上記SH波の最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点を示し、ゼロクロス点4は、上記SH波の最大ピークの立ち下がりのゼロクロス点を示す。
【0049】
図4に示すように、金属部材が円錐ころ軸受の内輪であるこの実施形態の場合には、ゼロクロス点2すなわち円錐ころ軸受の内輪の軌道面の表層部を伝播したSH波の最大波形の変位の一つ前のピークの立ち下がりのゼロクロス点を計時基準にしてSH波の伝播時間を測定した場合に、ゼロクロス点1,3,4を計時基準にしてSH波の伝播時間を測定した場合よりも、標準偏差の3倍の値3σが大幅に小さくなっている。このことから、金属部材が円錐ころ軸受の内輪である場合には、最大ピークの一つ前のピークの立ち下がりのゼロクロス点を計時基準にして軌道面の表層部のSH波の伝播時間の測定を行えば、SH波の伝播時間のばらつきが最も小さくなって、この伝播時間に基づいて計算されるSH波の伝播速度の誤差も最も小さくなり、SH波の伝播速度を正確に測定できることがわかる。
【0050】
上記第2実施形態の金属部材の表層部の検査方法によれば、円錐ころ軸受の内輪の軌道面の表層部を伝播したSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%以上である場合に、SH波の最大ピークの一つ前のピークの立ち下がりのゼロクロス点を計時基準にしてSH波の伝播速度の測定を行ったので、円錐ころ軸受の内輪の軌道面の表層部を伝播するSH波の伝播速度を最も正確に測定できて、円錐ころ軸受の内輪の軌道面の表層部の状態を正確に検査できる。
【0051】
尚、上記第2実施形態の金属部材の表層部の検査方法では、金属部材を円錐ころ軸受の内輪にして、円錐ころ軸受の内輪の軌道面の表層部を伝播したSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅がSH波の最大ピークの振幅の20%以上である場合に、SH波の波形の変位の最大ピークの一つ前のピークの立下りのゼロクロス点を計時基準にしてSH波の伝播速度を測定したが、この検査方法を円錐ころ軸受の外輪に適用しても良く、この場合、金属部材を円錐ころ軸受の内輪にした場合と同様に、円錐ころ軸受の外輪の軌道面の表層部を伝播するSH波の伝播速度を正確に測定できる。
【0052】
【発明の効果】
以上より明らかなように、請求項1の発明の金属部材の表層部の検査方法によれば、SH波送信機とSH波受信機とを金属部材の表面上に所定の間隔を隔てて配置するだけで、金属部材の表層部の検査を行うことができるので、金属部材の表層部の検査を行うのに金属部材を破壊する必要がない。また、金属部材の表層部の検査を行うときの工数を大幅に低減できて、金属部材の表層部の検査に要する時間を短縮しコストと労力を大幅に低減できる。
【0053】
また、請求項1の発明の金属部材の表層部の検査方法によれば、軽くて小型で持ち運び自由なSH波送信機とSH波受信機とを用い、かつ、人体に安全なSH波の伝播速度に基づいて金属部材の表層部の検査を行うので、金属部材の表層部の検査を行う場所が限定されず、かつ、金属部材の表層部の検査を安全に行うことができる。
【0054】
また、請求項1の発明の金属部材の表層部の検査方法によれば、上記受信されたSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅が、SH波の最大ピークの振幅の20%以上であるか否かを判断するステップを備えるので、上記受信されたSH波の最大ピークの一つ前のピークの振幅が、SH波の波形の最大ピークの振幅の20%以上になった正しい測定状態で金属部材内を伝播するSH波の伝播速度を測定できて、上記金属部材を伝播する上記SH波の伝播速度の測定誤差を小さくすることができる。
【0055】
また、請求項2の発明の金属部材の表層部の検査方法によれば、上記金属部材を、円筒ころ軸受の軌道輪にし、かつ、上記SH波受信機で受信されたSH波の波形の変位の最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点をSH波の伝播速度の計時基準にしたので、円筒ころ軸受の軌道輪の軌道面の表層部を伝播するSH波の伝播速度を最も正確に測定できて、円筒ころ軸受の軌道輪の軌道面の表層部の状態を正確に検査できる。
【0056】
また、請求項3の発明の金属部材の表層部の検査方法によれば、上記金属部材を、円錐ころ軸受の軌道輪にし、かつ、上記SH波受信機で受信されたSH波の波形の変位の最大ピークの一つ前のピークの立ち下りのゼロクロス点をSH波の伝播速度の計時基準にしたので、円錐ころ軸受の軌道輪の軌道面の表層部を伝播するSH波の伝播速度を最も正確に測定できて、円錐ころ軸受の軌道輪の軌道面の表層部の状態を正確に検査できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1(A)は、この発明の第1実施形態の円筒ころ軸受の内輪の軌道面の表層部の検査方法を行うときの内輪の軌道面上のSH波送信機およびSH波受信機の配置を示す図であり、図1(B)は、上記内輪の軸方向の正面図である。
【図2】 円筒ころ軸受の内輪の軌道面の表層部を伝播したSH波の波形の一例を示す図である。
【図3】 円筒ころ軸受の内輪の軌道面の表層部を伝播するSH波の4つのゼロクロス点と、この4つのゼロクロス点の夫々に対するSH波の伝播時間の標準偏差の3倍の値3σとを示すグラフである。
【図4】 円錐ころ軸受の内輪の軌道面の表層部を伝播するSH波の4つのゼロクロス点と、この4つのゼロクロス点の夫々に対するSH波の伝播時間の標準偏差の3倍の値3σとを示すグラフである。
【符号の説明】
1 SH波送信機
2 SH波受信機
10 内輪
10A 軌道面
P1 SH波の最大ピークの振幅
P2 SH波の最大ピークの一つ前のピークの振幅
Z1,Z2,Z3,Z4 SH波の変位のゼロクロス点
Claims (3)
- SH波送信機とSH波受信機とを金属部材の表面上に互いに離間して配置して、上記SH波送信機から送信されて上記金属部材の表層部を伝播して上記SH波受信機で受信されたSH波の波形を基にSH波の伝播速度を測定し、このSH波の伝播速度に基づいて金属部材の表層部を検査する金属部材の表層部の検査方法であって、
上記受信されたSH波の波形の最大ピークの一つ前のピークの振幅が、最大ピークの振幅の20%以上であるか否かを判断するステップを備え、
上記ステップにおける上記最大ピークの一つ前のピークの振幅が、最大ピークの振幅の20%以上であるとき、上記SH波送信機および上記SH波受信機と、上記金属部材との密着性が良好であることを判断することを特徴とする金属部品の表層部の検査方法。 - 請求項1に記載の金属部材の表層部の検査方法であって、
上記金属部材は、円筒ころ軸受の軌道輪であり、
この軌道輪の軌道面の表層部における上記SH波の伝播速度を、上記受信されたSH波の波形の変位の最大ピークの立ち上がりのゼロクロス点を計時基準にして測定することを特徴とする金属部材の表層部の検査方法。 - 請求項1に記載の金属部材の表層部の検査方法であって、
上記金属部材は、円錐ころ軸受の軌道輪であり、
この軌道輪の軌道面の表層部における上記SH波の伝播速度を、上記受信されたSH波の波形の変位の最大ピークの一つ前のピークの立ち下りのゼロクロス点を計時基準にして測定することを特徴とするSH波を用いた金属部材の表層部の検査方法。
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