JP4065937B2 - 固体の共振モード検出方法および装置、並びに固体の弾性定数測定方法および装置 - Google Patents

固体の共振モード検出方法および装置、並びに固体の弾性定数測定方法および装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体の共振モード検出方法に係り、特に共振周波数で振動している固体の共振モードを特定でき、さらに特定した共振モードに基づいて固体弾性定数を求める固体の共振モード検出方法および装置並びに弾性定数の測定方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種金属材料、アモルファス、複合材料、圧電材料、超伝導体など、めまぐるしく開発が進められている新材料においては、その機械的性質の把握が実用上極めて重要である。特に、弾性定数は、材料が開発されるとすぐに必要とされる物性値であり、弾性定数を求めるための測定を欠かすことができない。
【0003】
弾性定数の測定法には、古くから棒状の試料を共振させ、その共振周波数(固有振動数)から弾性定数を決定する共振法や、超音波を試料中に伝播させてその反射波を検出し、反射波が戻ってくるまでの時間から音速を求め、この音速に基づいて弾性定数を決定するパルスエコー法がある。しかし、これらの方法は、固体の弾性対称性(結晶形状の対称性)が低い場合に問題を生じる。
【0004】
例えば、斜方晶系の結晶の場合、独立な弾性定数は9つ存在する。これらのすべてを決定するためには、棒の共振法の場合、方位の異なる9つの試料が必要であり、パルスエコー法では少なくとも4つの試料が必要である。つまり、棒の共振法またはパルスエコー法は、もともとのサイズが大きな材料にしか適用できない(少なくとも数センチメートル角の試料が必要である)。このため、薄膜やワイヤー、薄板、小さなサイズしか作れない単結晶などに対しては、方位の異なる試料を切り出すことが難しく、測定できるとしても、特定の弾性定数だけにすぎない。弾性定数は、一般に、このような形状を持つ材料ほど異方性が強く、独立な弾性定数の数も増す。
【0005】
近年、この問題を解決するために超音波共振法(Resonance Ultrasound Spectroscopy:RUS)が考案された。その原理は、次のとおりである。球、円柱、直方体といった規則形状を有する固体の自由振動の共振周波数(固有振動数)は、寸法、密度、そしてすべての独立な弾性定数によって決まる。実際、これらを用いて共振周波数を計算することができる。そして、試料の寸法と密度は、容易に計測できる。
【0006】
そこで、超音波共振法においては、試料に与える超音波の周波数を連続的に変化させて共振周波数を測定する。さらに、適当に仮定した弾性定数を用いて共振周波数を計算し、これを測定した共振周波数と比較する。そして、両者が一致するように仮定する弾性定数の値を変えてゆき、十分な精度で一致が達成されたときの弾性定数を真値として決定する。つまり、逆計算を行う。これにより、原理的には、一つの小さな試料からすべての独立な弾性定数を決定することができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記した超音波共振法には重大な欠点がある。上記の逆計算によって正確な弾性定数を決定するためには、計算した共振周波数と測定した共振周波数を比較する場合、同一の共振モード(振動モードと共振の次数)に対してなされなければならない。すなわち、例えば、斜方晶系(等方体、立方晶系、六方晶系、正方晶系を含む)の直方体の場合、自由振動は、変位の対称性により8つの振動モードのグループに分けられ、呼吸振動と呼ばれるAg モード、ねじり振動であるAu モード、直方体の直交する3辺に沿ったx、y、z軸まわりのせん断振動であるB3gモード、B2gモード、B1gモード、そして、x、y、z軸まわりの曲げ振動であるB3uモード、B2uモード、B1uモードに分類されている。
【0008】
ところが、従来の超音波共振法により測定した共振周波数からは、振動モードに関する情報が一切得られない。このため、超音波共振法においては、予め真値に近い弾性定数を初期値として採用しなければ、計算した共振周波数と測定した共振周波数とを誤って対応させてしまうことになり、その結果、物理的に意味を持たない弾性定数が真値として得られてしまう。特に、周波数の高い領域においては、各振動モードの高次の共振周波数が近接して現れるため、振動モードと共振周波数とを対応させることが困難となり、実質的に弾性定数の真値を求めることができない。もちろん、解析者には、振動モードの対応の正否は分からないため、得られた弾性定数を真値と信じてしまう。
【0009】
そして、これまでに、この問題を克服するため、電磁気力によって振動源の発生位置を制御し、発生する振動モードをある程度限定する手法や、試料の形状を少しずつ変化させて、特定の形状変化に敏感な振動モードを見出すなどの手法が考えられてきたが、いずれも根本的な解決には至っていない。
【0010】
本発明は、上記従来技術の欠点を解消するためになされたもので、得られた共振周波数の共振モードである振動モードと共振の次数とを求めることができるようにすることを目的としている。
また、本発明は、固体の弾性定数を正確に求めることができるようにすることを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記した直方体に対する振動モード(斜方晶系の場合は、8つ存在する)についての共振周波数と共振モード(振動モードと共振の次数)、直方体表面における表面と直交した方向(法線方向)の振動振幅の分布との計算方法は既に確立している。これらは、固体の変位をルジャンドル関数の線形結合によって近似して、ラグランジェアンの停留点を求める手法によって得られる。ところが、従来、ある振動モードにおける共振周波数による固体表面の振動振幅の分布(振動パターン)は、固体の弾性対称性と弾性定数とに依存するものと考えられていた。このため、固体表面の振動パターンを検出して共振周波数の振動モードを求め、求めた振動モードと共振周波数とを用いて弾性定数を演算(逆算)するような発想はまったく存在しなかった。しかし、発明者等は、種々の解析と実験とを行なった結果、固体の弾性対称性および弾性定数に依存しない振動パターンが存在することを見出した。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0012】
すなわち、本発明に係る固体の振動モード検出方法は、所定形状の固体を共振周波数によって振動させ、固体表面における法線方向の振動振幅の分布を測定するとともに、前記固体の寸法、密度と、仮定した弾性定数とに基づいて、前記固体の各振動モードについての共振周波数と、この共振周波数による前記固体表面における法線方向の振動振幅の分布とを演算し、演算した振動振幅の分布と前記測定した振動振幅の分布とを比較して、前記固体を振動させた共振周波数の共振モードを求める、ことを特徴としている。
【0013】
そして、上記固体の共振モード検出方法を実施するための本発明に係る固体の共振モード検出装置は、周波数を連続的に変化させつつ固体を超音波振動させる送信手段と、前記固体の振動を検出する受信手段と、この受信手段の検出信号に基づいて、前記固体の共振周波数を検出する共振検出手段と、検出した前記共振周波数により前記固体を振動させる振動手段と、前記共振周波数によって振動させた固体の表面における法線方向の変位を検出する表面振動検出手段と、この表面振動検出手段の検出信号に基づいて、前記固体表面における法線方向の振動振幅の分布を検出する振幅分布検出手段と、与えられた前記固体の寸法、密度と、弾性定数とに基づいて、前記固体の各振動モードについての共振周波数と、この共振周波数による前記固体表面における法線方向の振動振幅の分布とを演算する共振モード演算手段と、この共振モード演算手段が求めた前記振動振幅の分布と、前記振動させた固体について求めた前記振動振幅の分布とを比較し、前記固体を振動させた前記共振周波数の共振モードを演算した共振モードから選択する共振モード判定手段と、を有することを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る固体の弾性定数測定方法は、上記した固体の共振モード検出方法により検出した共振モードに基づいて固体の振動モードを求めたのち、求めた振動モードと、前記固体の寸法、密度とに基づいて、前記固体を振動させた前記共振周波数が得られる弾性定数を演算する、ことを特徴としている。
【0015】
さらに、本発明に係る固体の弾性定数測定方法は、周波数を連続的に変化させつつ所定形状の固体を超音波振動させ、前記固体の複数の共振周波数を求める工程と、求めた共振周波数のいずれかによって前記固体を振動させて請求項1に記載の固体の共振モード検出方法により固体の共振モードを検出して前記固体の振動モードを求める工程と、求めた振動モードと、前記固体の寸法、密度とに基づいて、前記固体を振動させた共振周波数が得られる弾性定数を演算する工程と、演算した弾性定数と、前記固体の寸法、密度とに基づいて、前記固体の前記振動モードについての共振周波数と、前記共振モードを検出していない共振周波数に対応した前記固体表面における法線方向の振動振幅の分布を演算する工程と、前記固体を前記各共振周波数によって振動させて各共振周波数による固体表面における法線方向の振動振幅の分布を測定し、演算した前記振動振幅の分布と比較して各共振周波数のそれぞれの共振モードを演算した共振モードから特定し、この特定した共振モードに基づいて前記振動モードを求める工程と、この求めた各振動モードと、前記固体の寸法、密度とに基づいて、各振動モードに対応した前記共振周波数が得られる弾性定数を演算する工程と、とを有することを特徴としている。
【0016】
そして、上記固体の弾性定数測定方法を実施するための本発明に係る固体の弾性定数測定装置は、上記した固体の共振モード検出装置により検出した固体の共振モードに基づいて固体の振動モードを求め、この求めた振動モードと、前記固体の寸法、密度とに基づいて、前記振動モードに対応した前記共振周波数が得られる弾性定数を演算する弾性定数算出手段とを有することを特徴としている。
【0017】
【作用】
上記のようになっている本発明は、固体の寸法、密度と、仮定した弾性定数とを用いて振動モードについての固体の共振周波数を求めるとともに、この共振周波数による固体表面における法線方向の振動振幅の分布を演算し、この演算した振動振幅の分布を、固体を共振周波数によって実際に振動させて測定した振動振幅の分布と比較することにより、固体の共振周波数における共振モード、すなわち振動モードと共振の次数とを特定することができる。したがって、共振周波数がどの振動モードによるものであるかを知ることができ、正確な弾性定数の算出が可能となる。
【0018】
そして、固体を斜方晶系として共振周波数と振動振幅の分布とを演算することにより、独立な弾性定数だけでなく、固体の弾性対称性をも確実に求められるようになる。すなわち、斜方晶系は、9つの独立な弾性定数を有しており、これら9つの弾性定数を仮定することにより、固体の弾性対称性(結晶形状の対称性)が未知である場合であっても、確実に共振周波数についての振動モードを特定することができ、正確な弾性定数および弾性対称性の測定が可能となる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明に係る固体の共振モード検出方法および装置並びに弾性定数の測定方法および#装置の好ましい実施の形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る固体の弾性定数測定装置のブロック図である。図1において、弾性定数測定装置10は、入力部14と弾性定数演算部(弾性定数算出手段)20と、共振モード検出部(共振モード検出装置)30とから構成してある。入力部14は、図示しないキーボードやマウスなどから構成していあって、試料12の寸法や密度、さらには試料12の共振周波数や振動モード、弾性定数などが入力可能となっている。また、弾性定数演算部20は、後述するように、予め与えられた式に基づいて、固体の試料12の弾性定数を演算する。
【0020】
共振モード検出部30は、固体の試料12を点状に支持する支持部32を有している。また、共振モード検出部30は、送信手段および振動手段である送信部34と、試料12の振動を検出する受信器(受信手段)36とを備えている。送信部34は、掃引発振器34aと送信器34bとから構成してあって、周波数を連続的に変化させつつ試料12の超音波を与えて振動させることができるようになっているとともに、試料12を任意の周波数で超音波振動させることができるようになっている。そして、掃引発振器34aは、制御部40によって発振する周波数が制御され、発振した周波数を電気信号として送信器34bに与える。また、送信器34bは、掃引発振器34aの出力した信号を超音波に変換して試料12に与え、試料12を超音波振動させる。
【0021】
受信器36は、支持部32および発振器34bとともに試料12を支持している。また、受信器36は、試料12の振動(試料12を伝播してきた超音波)を検出して電気信号に変換して出力する。そして、受信器36には、出力側に共振検出手段である共振周波数検出部42が接続してある。この共振周波数検出部42は、送信部34の掃引発振器34aの出力信号が参照信号として入力するようになっており、この参照信号と受信器36の出力信号とから試料12の共振周波数を検出する。
【0022】
共振モード検出部30は、試料12の表面の振動を検出する表面振動検出手段であるレーザ干渉計46を備えている。レーザ干渉計46は、試料12の上方に配設してあって、試料12の表面(上面)にレーザビーム52を照射し、その射出光と反射光との干渉周波数から、超音波振動している試料表面の変動速度(振動速度)を出力する。また、レーザ干渉計46は、駆動装置48に取り付けてあって、駆動装置48により試料12の表面に沿って走査可能となっている。そして、駆動装置48は、制御部40により駆動制御される。
【0023】
レーザ干渉計46の出力側には、振幅分布検出部(振幅分布検出手段)50が設けてある。この振幅分布検出部50は、レーザ干渉計46の出力する振動速度に基づいて、後述するように、試料表面の法線方向の振動振幅を演算するとともに、駆動装置48から入力する位置信号を用いて振動振幅の試料表面における分布を求める。
【0024】
共振モード検出部30は、共振モード演算部56と比較判定部58とを有している。共振モード演算部56は、入力部14から試料12の寸法や密度、振動モード、弾性定数などが入力するようになっている。そして、共振モード演算部56は、予め与えられた式と、入力部54から入力した試料12の寸法、密度、弾性定数、振動モードなどに基づいて、試料12の共振周波数および、この共振周波数による試料表面における法線方向の振動振幅の分布(振動パターン)とを演算し、共振モード判定部である比較判定部58に出力する。
【0025】
なお、入力部14は、さらに弾性定数演算部20、共振モード検出部30の制御部40、振幅分布検出部50に接続してある。また、弾性定数演算部20は、出力側が共振モード検出部30の共振モード演算部56に接続してあって、演算した弾性定数を共振モード演算部56に出力できるようになっている。
【0026】
比較判定部58は、共振モード演算部56が接続してあるとともに、振幅分布演算部60が接続してある。そして、比較判定部58は、共振モード演算部56が演算して求めた試料12の表面における振動パターン(演算振動パターン)と、共振周波数によって振動させた試料12から検出した振動パターン(測定振動パターン)とを比較し、測定振動パターンと一致または極めて似ている演算振動パターンを選択する。
【0027】
このようになっている実施形態の弾性定数測定装置10による共振モードの検出および弾性定数の測定は、次のごとくして行なう。なお、この実施形態における弾性性定数の測定は、従来と同様に、試料12の変位をルジャンドル関数の線形結合によって近似し、ラグランジュアンの停留点を求める手法によって行なっている。
【0028】
固体材料の共振モード、弾性定数を求める場合、まず、その材料からなる直方体の試料12を作成する。そして、図2のステップ100に示したように、試料12の寸法および密度を測定する。次に、その試料12の弾性定数を仮定し、仮定した弾性定数を用いて試料12の共振周波数と共振モード(振動モードと共振の次数)と、試料12の表面におけるを法線方向の振動振幅の分布(振動パターン)を演算する(ステップ102)。すなわち、弾性定数測定装置10の入力部54に試料12の寸法、密度、振動モード、仮定した弾性定数を入力し、共振モード検出部30を構成している共振モード演算部56に与える。
【0029】
振動モードは、斜方晶系の直方体の場合、呼吸振動と呼ばれるAg モード、ねじり振動であるAu モード、直方体の直交する3辺に沿ったx、y、z軸まわりのせん断振動であるB3gモード、B2gモード、B1gモード、そして、x、y、z軸まわりの曲げ振動であるB3uモード、B2uモード、B1uモードの8つに分類される。図3にその一部を示す。同図(1)はAg モードであり、同図(2)はAu モード、同図(3)はB3gモード、同図(4)はB3uモ−ドである。
【0030】
共振モード演算部56は、まず、数式1によって定義されるラグランジェ関数Lの停留点を求めることによって、試料12の与えられた振動モードにおける共振周波数を演算する。
【数1】
Figure 0004065937
ここに、ρは試料12の密度、ωは試料12の共振周波数、ui 、uj は試料12の変位、CIJ は弾性定数(弾性率テンソルの要素)、SI 、SJ は、試料12内の工学ひずみであり、Vは試料12の体積である。
【0031】
さらに、共振モード演算部56は、数式1により求めた試料12の共振周波数における試料12の振動パターン(試料12の表面における法線方向の振動振幅の分布)を演算して求める。この振動パターンは、試料12の直交する3辺に沿った方向をx、y、zとし(図3参照)、x→x1 、y→x2 、z→x3 とすると、xi 方向(i=1、2、3)に沿った変位ui を、次の数式2のように基底関数Ψの線形結合で近似する。
【数2】
Figure 0004065937
ここに、kは基底関数の番号であり、ak (i)は変位ui を表現するためのk番目の基底関数に係る係数である。
【0032】
基底関数Ψとして、数式3の正規化したルジャンドル関数Pλ(λ=l、m、n)の積を用いることによって、比較的少ない項数で、精度の高い試料12の表面における振動パターンの近似を行なうことができる。
【数3】
Figure 0004065937
ただし、数式3においてPλはλ次のルジャンドル関数であり、Li は直方体試料12のxi 方向に平行な辺の長さである。なお、この振動振幅分布の計算の詳細は、I.Ohno,J.Phys.Earth,1976,24,335−379に述べられている。
【0033】
発明者等の研究によると、固体(試料)が直方体の場合、Ag モード、Au モード、B3gモード、B2gモード、B1gモード、B3uモード、B2uモード、B1uモードの8つの振動モードによる共振のうち、特定の共振モードにおいて直方体表面における表面と直交した方向(法線方向)の振動パターンは、弾性対称性(結晶形状の対称性)および弾性定数に依存しないことがわかった。すなわち、特定の振動パターン(振動振幅の分布)は、弾性対称性と弾性定数とが異なる場合であっても、ほぼ同じ振動パターンを示す。この弾性対称性および弾性定数に依存しない振動パターンを示す振動モードは、Ag −1、Ag −3、Au −1、Au −3、B3g−1、B3g−2、B3g−3、B2g−1、B2g−2、B2g−3、B2u−1、B2u−2、B1u−1の13通りである。なお、これらの振動モードを示す記号のあとにダッシュ(−)をもって示した数字は、共振の次数を示している。
【0034】
そこで、この実施形態の場合、共振モード演算部56は、周波数の低い方から20〜50程度の共振周波数を演算して求め、上記の13の共振モードについて試料12の表面における法線方向の振動振幅の分布である振動パターンを演算する。
【0035】
一方、試料12は、共振モード検出部30によって共振周波数が測定される(ステップ104)。すなわち、共振モード検出部30の制御部40は、送信部34の掃引発振器34aの発振周波数を連続的に変化させる。そして、送信部34は、送信器34bが掃引発振器34aの発振周波数を超音波に変換し、試料12に与えて超音波振動させる。そして、受信器36は、試料12を伝播した超音波を受信して電気信号に変換し、振動検出信号として共振周波数検出部42に入力する。共振周波数検出部42は、掃引発振器34aの出力する発振周波数を参照して試料12の共振周波数を検出する。
【0036】
このようにして試料12の共振周波数の検出を行なったならば、次にステップ106のように試料12を共振周波数で振動させ、試料12の表面における面に対して垂直方向(法線方向)の振動振幅の検出を行なう。すなわち、まず、入力部14を介して制御部40に共振周波数を与え、制御部40によって掃引発振器34aの発振周波数を、検出した試料12の共振周波数に制御し、送信器34bを介して試料12を共振周波数によって振動させる。また、レーザ干渉計46を駆動して試料12の表面にレーザビーム52を照射し、試料12の表面法線方向における振動速度検出する。さらに、制御部40によって駆動装置48を制御し、レーザ干渉計46を試料12の表面に沿って走査する。そして、レーザ干渉計46が検出した試料表面の振動速度は、レーザ干渉計46の出力側に接続した振幅分布検出部50にされる。振幅分布検出部50は、レーザ干渉計46が検出した振動速度を、入力部14から与えられた試料12を振動させている共振周波数によって除して振動振幅を得るとともに、この振動振幅を駆動装置48の出力する位置信号に対応させて記憶し、試料12の表面における振動振幅の分布(振動パターン)を検出する。
【0037】
この測定された振動パターンは、共振モード演算部56によって計算して求めた振動パターンとともに比較判定部58に入力され、比較される(ステップ108)。比較判定部58は、共振モード演算部56により計算した複数の振動パターン(演算振動パターン)と、測定された振動パターン(測定振動パターン)とを比較し、演算振動パターンの中から測定振動パターンと一致または極めて似ているパターンが存在するか否かを判定し、一致または極めてみ似ている演算振動パターンが存在する場合、それを選択する。これにより、共振周波数で振動している試料12の共振モード(振動モードと共振の次数)が特定される(ステップ108)。この測定振動パターンと演算振動パターンとの比較は、測定振動パターンがいずれかの演算振動パターンと一致、または極めて似ているものが得られるまで行なう。
【0038】
その後、上記のようにして得た振動モードと共振周波数とを入力部14に入力し、試料12の寸法、密度とともに弾性定数演算部20に与える。弾性定数演算部20は、与えられたデータを用いて、入力された共振周波数が得られるような弾性定数を演算する(ステップ110)。さらに、弾性定数演算部20によって求めた弾性定数を共振モード演算部56に与え、試料12の共振周波数を演算するとともに、共振モードが特定されていない各共振周波数について、試料12の表面における振動パターンを演算する(ステップ112)。
【0039】
次に、共振モードを特定できなかった共振周波数で試料12を前記と同様にして振動させ、表面の振動パターンを測定する(ステップ114)。そして、測定した振動パターン(測定振動パターン)を共振モード演算部56によって演算した各振動パターン(演算振動パターン)と比較し、測定振動パターンに一致または極めて似ている演算振動パターンを選択して各共振周波数の共振モードを特定する(ステップ116)。さらに、新たに特定できた共振モードの振動モードを用いて、この振動モードを特定できた共振周波数が得られるように弾性定数を演算する(ステップ118)。
【0040】
その後、共振モード演算部56において演算した複数の共振周波数(例えば、周波数の低い順に20〜50個)のすべてについて、共振モードを特定できた可否かを判断する(ステップ120)。まだ共振モードを特定できていない共振周波数が存在する場合、ステップ114〜ステップ120を繰り返してすべての共振周波数について共振モードを特定する。ステップ120においてすべての共振周波数について共振モードを特定できたと判断した場合、弾性定数の測定を終了する。
【0041】
【実施例】
《実施例1:弾性定数の測定》
長さ11.92mm、幅10.93mm、厚さ9.86mmの直方体のジュラルミンを用意し、弾性定数の測定を行なった。このジュラルミンの密度は、2788kg/m3 であった。ジュラルミンは多結晶なので等方体を仮定し、2つの弾性定数C11とC44とについて測定を行なった。なお、ジュラルミンの試料は、厚さ方向(9.86mmの辺に平行な方向)をz方向としている。
【0042】
まず、共振周波数の測定を行なったところ、図4のような共振スペクトルが得られた。図4に示されているように、多数の共振ピークが観測されており、この測定だけからでは共振モードを特定することはできない。特に、いくつかのピークは重なり合っており、これが独立な2つの共振ピークなのか、あるいは一本のピークが何らかの原因によって割れたものなのかを判断することができない。例えば、周波数が250〜253kHzの部分を拡大すると図5のようになり、複数のピークが存在していることがわかる。
【0043】
そこで、この状態で、弾性定数の初期値をC11=100GPa、C44=22GPa(これらはそれぞれ、後述する真値から約10%、約20%ずれた値である)として、測定した共振周波数が得られるように弾性定数について従来どおりの逆計算を行った。つまり、共振周波数の数値だけを比較して、計算値と測定値の対応を行った。その結果、収束解を得ることができなかった。このように、従来法においては、弾性定数の初期値が真値と近くなければ、正しい結果を得ることができない。
【0044】
次に、同じ初期値を用いて振動パターンを計算し、測定した振動パターンと比較した。図6は、ジュラルミン試料のz方向と直交する面におけるz方向の変位振幅(振動振幅)の分布を比較したものである。この図6は、左側の列がジュラルミン試料の実際に測定した振動振幅の分布であり、中央の列がC11=100GPa、C44=22GPaとして計算により求めた振動振幅の分布である。そして、同図の右側の列は、C11=200GPa、C44=50GPaとして演算した振動振幅の分布である。また、1番上の列がAg −4の振動モードにおける振動振幅の分布、2番目の列がAu −3、3番目の列がB1g−5、4番目の列がB2g−5、一番下の列がB1u−7の振動モードにおける振動振幅の分布を示している。
【0045】
図6に示したように、実際に測定した振動振幅の分布と、弾性定数を仮定して演算により求めた振動振幅の分布とは、非常によく一致している。特に、Ag −4とAu −3との2つの振動モードは、図5に示したように共振周波数の差はわずかに0.1%であり、図4の共振スペクトルではピークが重なっている。それにもかかわらず、両者の振動パターン(振動振幅の分布)は、全く異なる。このように、振動パターンを比較することにより、正確な共振モードと共振周波数との対応を見出すことが容易にできる。
【0046】
そこで、上記のようにして振動パターンの対応を行なって共振モードを特定したのち、この共振モードの振動モードを用いて特定した共振モードに対応した共振周波数が得られるように弾性定数を逆計算し、さらに逆計算した弾性定数に基づいて各共振周波数における振動パターンを測定した振動パターンと比較し、共振モードの特定を行なった。このようにして測定した全ての共振モードに対して振動パターンを測定し、共振周波数に対する正確な共振モードの特定を行ってから弾性定数を逆計算し、さらに共振周波数の演算を行なって測定した共振周波数と比較した結果を図7に示す。弾性定数の収束解は、C11=109.26GPa、C44=26.72GPaであった。これが弾性定数の真値である。そして、共振周波数の実際に測定して得た値と、上記のようにして弾性定数を測定し、その弾性定数に基づいて計算した共振周波数との平均の偏差は、図7に示されているように約0.2%であり、正確な弾性定数を得ることができる。
【0047】
なお、振動パターンは、図6に示したように、弾性定数にほとんど影響されない。すなわち、同図の右側の列に示したように、C11=200GPa、C44=50GPa(これらは、真値からそれぞれ約83%、約85%ずれた値である)という、真値と大きく異なる値を用いて振動パターンを演算した場合にも、測定された振動パターンとほとんど変化がない。実際、C11=500GPa、C44=10GPaという異常な値を使用しても、振動パターンの計算結果は変化しなかった。つまり、真値と全く異なる初期値の弾性定数を用いても、振動モードを特定して弾性定数の逆計算をすることにより、結果的に弾性定数の真値を得ることができる。実際、C11=200GPa、C44=50GPaという初期値を使用し振動モードの特定を行って逆計算を遂行することで、弾性定数の真値を得ることができた。そして、等方体であれば、いかなる弾性定数であっても、振動振幅の分布は変化することがなかった。
【0048】
《実施例2:振動パターンの弾性対称性に対する非依存性》
発明者等は、弾性対称性が異なっても直方体試料の表面における法線方向の振動振幅の分布が大きく変化しない共振モードが存在することを見出した。図8は、異なる弾性対称性(等方体と斜方晶)、そして異なる弾性定数を有するものとして、同一形状の直方体のz面(z軸と直交した面)におけるz方向変位の振動パターンである。使用した試料は、実施例1と同じ寸法と密度とを有するジュラルミンである。
【0049】
図8において上の段は、等方体を仮定し、C11=109.26GPa、C44=26.72GPaとして演算により求めた振動パターンである。また、下の段は、斜方晶系を仮定し、C11=100GPa、C22=150GPa、C33=200GPa、C12=70GPa、C13=60GPa、C23=50GPa、C44=20GPa、C55=30GPa、C66=40GPaとして演算により求めた振動パターンである。
【0050】
図から明らかなように、上段の等方体と下段の斜方晶とでは、共振周波数が異なるが、同じ振動パターンとなる。すなわち、これらの共振モードにおいては、弾性対称性に依存しない振動パターンを示す。そして、このような弾性対称性と弾性定数とが異なる場合であっても、ほぼ同じ振動パターンとなるのは、直方体の場合、Ag −1、Ag −3、Au −1、Au −3、B3g−1、B3g−2、B3g−3、B2g−1、B2g−2、B2g−3、B2u−1、B2u−2、B1u−1の13通りであった。
【0051】
したがって、弾性定数だけでなく弾性対称性さえも未知である固体に対しては、まず斜方晶系を仮定して9の弾性定数を初期値として適当に決め、上に挙げた共振モードだけを用いて振動パターンの演算を行ない、試料の測定した振動パターンと比較して共振周波数の共振モードを特定する。その後、この特定した共振モードを用いて対応する共振周波数が得られるように弾性定数の逆計算を行い、およその弾性定数を決定する。さらに、その後、再びその弾性定数を用いて全ての共振周波数について共振モードを完全に特定し、さらに弾性定数の逆計算を行なうことによって弾性定数の真値を得ることができる。
【0052】
なお、前記実施例においては、試料12が直方体の場合について説明したが、有限要素法などを用いることによって丸棒状の試料や球形の試料、任意の多面体の試料などにも適用することができる。また、前記実施形態は、本発明の一態様の説明であって、これに限定されるものではない。例えば、前記実施形態においては、入力部14から振幅分布検出部50に共振周波数を与える場合について説明したが、掃引発振器34aの発振周波数を振幅分布検出部50に与えてもよい。さらに、共振周波数検出部42と比較判定部58との出力信号を弾性定数演算部20に与えて弾性定数を演算するようにしてもよい。
【0053】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、固体の寸法、密度と、仮定した弾性定数とを用いて振動モードについての固体の共振周波数を求めるとともに、この共振周波数による固体表面における法線方向の振動振幅の分布を演算し、この演算した振動振幅の分布を、固体を共振周波数によって実際に振動させて測定した振動振幅の分布と比較することにより、固体の共振周波数における共振モード、すなわち振動モードと共振の次数とを特定することができる。したがって、共振周波数がどの振動モードによるものであるかを知ることができ、正確な弾性定数の算出が可能となる。
そして、固体を斜方晶系として共振周波数と振動振幅の分布とを演算することにより、多くの独立な弾性定数を仮定するため、固体の弾性定数を確実に求められるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態に係る弾性定数測定装置のブロック図である。
【図2】 本発明の実施の形態に係る固体の弾性定数を測定する方法のフローチャートである。
【図3】 直方体状固体の振動モードの一例を示す斜視図である。
【図4】 直方体ジュラルミンの共振スペクトルである。
【図5】 直方体ジュラルミンの共振スペクトルの一部拡大図である。
【図6】 直方体ジュラルミンの測定した振動パターンと、弾性定数を仮定して演算により求めた振動パターンとを比較する図である。
【図7】 直方体ジュラルミンの測定した共振周波数と、測定によって得た弾性定数を用いて演算により求めた共振周波数とを比較する図である。
【図8】 弾性対称性に依存しない振動パターンの一例を示す図である。
【符号の説明】
10………弾性定数測定装置、12………試料(固体)、14………入力部、20………弾性定数算出手段(弾性定数演算部)、30………共振モード検出部、34………送信手段、振動手段(送信部)、34b………送信器、36………受信手段(受信器)、40………制御部、42………共振検出手段(共振周波数検出部)、46………表面振動検出手段(レーザ干渉計)、50………振幅分布検出手段(振幅分布検出部)、56………共振モード演算手段(共振モード演算部)、58………共振モード判定手段(比較判定部)。

Claims (5)

  1. 所定形状の固体を共振周波数によって振動させ、固体表面における法線方向の振動振幅の分布を測定するとともに、
    前記固体の寸法、密度と、仮定した弾性定数とに基づいて、前記固体の各振動モードについての共振周波数と、この共振周波数による前記固体表面における法線方向の振動振幅の分布とを演算し、
    演算した振動振幅の分布と前記測定した振動振幅の分布とを比較して、前記固体を振動させた共振周波数の共振モードを求める、
    ことを特徴とする固体の共振モード検出方法。
  2. 周波数を連続的に変化させつつ固体を超音波振動させる送信手段と、
    前記固体の振動を検出する受信手段と、
    この受信手段の検出信号に基づいて、前記固体の共振周波数を検出する共振検出手段と、
    検出した前記共振周波数により前記固体を振動させる振動手段と、
    前記共振周波数によって振動させた固体の表面における法線方向の変位を検出する表面振動検出手段と、
    この表面振動検出手段の検出信号に基づいて、前記固体表面における法線方向の振動振幅の分布を検出する振幅分布検出手段と、
    与えられた前記固体の寸法、密度と、弾性定数とに基づいて、前記固体の各振動モードについての共振周波数と、この共振周波数による前記固体表面における法線方向の振動振幅の分布とを演算する共振モード演算手段と、
    この共振モード演算手段が求めた前記振動振幅の分布と、前記振動させた固体について求めた前記振動振幅の分布とを比較し、前記固体を振動させた前記共振周波数の共振モードを演算した共振モードから選択する共振モード判定手段と、
    を有することを特徴とする固体の共振モード検出装置。
  3. 請求項1に記載の固体の共振モード検出方法により検出した共振モードに基づいて固体の振動モードを求めたのち、
    求めた振動モードと、前記固体の寸法、密度とに基づいて、前記固体を振動させた前記共振周波数が得られる弾性定数を演算する、
    ことを特徴とする固体の弾性定数測定方法。
  4. 周波数を連続的に変化させつつ所定形状の固体を超音波振動させ、前記固体の複数の共振周波数を求める工程と、
    求めた共振周波数のいずれかによって前記固体を振動させて請求項1に記載の固体の共振モード検出方法により固体の共振モードを検出して前記固体の振動モードを求める工程と、
    求めた振動モードと、前記固体の寸法、密度とに基づいて、前記固体を振動させた共振周波数が得られる弾性定数を演算する工程と、
    演算した弾性定数と、前記固体の寸法、密度とに基づいて、前記固体の前記振動モードについての共振周波数と、前記共振モードを検出していない共振周波数に対応した前記固体表面における法線方向の振動振幅の分布を演算する工程と、
    前記固体を前記各共振周波数によって振動させて各共振周波数による固体表面における法線方向の振動振幅の分布を測定し、演算した前記振動振幅の分布と比較して各共振周波数のそれぞれの共振モードを演算した共振モードから特定し、この特定した共振モードに基づいて前記振動モードを求める工程と、
    この求めた各振動モードと、前記固体の寸法、密度とに基づいて、各振動モードに対応した前記共振周波数が得られる弾性定数を演算する工程と、
    とを有することを特徴とする固体の弾性定数測定方法。
  5. 請求項2に記載の固体の共振モード検出装置により検出した固体の共振モードに基づいて固体の振動モードを求め、この求めた振動モードと、前記固体の寸法、密度とに基づいて、前記振動モードに対応した前記共振周波数が得られる弾性定数を演算する弾性定数算出手段とを有することを特徴とする固体の弾性定数測定装置。
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