JP4064569B2 - 小胞輸送蛋白ミントの測定法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、体液又は組織中のミントを検出、同定又は定量することからなる神経性疾患、好ましくは痴呆症、アルツハイマー病などの診断剤、診断マーカーとしてのミント又はそれに対する抗体の使用、及び、検体中のミントを検出、同定又は定量する方法に関する。
本発明はアルツハイマー病をはじめとする痴呆性疾患の診断に利用できる診断剤、検査法に関するもので、この検査法により測定される神経伝達に必須のシナプス小胞輸送蛋白(Mints)の濃度および活性は神経活動の指標として広く利用できる。
【0002】
【従来の技術】
アルツハイマー病は神経変性を伴う痴呆性疾患である。家族性アルツハイマー病(FAD)以外はその原因が不明であるため診断治療法は確立していない。アルツハイマー脳の病理学的検討から、アルツハイマー病にみられる活性物質の変化があるが、現在ではこれらを指標として診断の一助としているに過ぎない。その例として、痴呆脳・老化脳にみられる神経伝達物質の変化や、老人班(senile plaque;SP)やアルツハイマー原線維変化(neurofibrillary tangle;NFT)形成に関わる活性物質の測定がなされている。
【0003】
痴呆脳・老化脳にみられる神経伝達物質の変化としては、例えば、アセチルコリン(Acetylcholine(Ach))量の減少、コリンアセチル転移酵素(choline acetyltransferase(CAT))活性の減少、アセチルコリンエステラーゼ(acetylcholine esterase(AchE))活性の減少、アセチルコリン合成酵素(Ach synthetase)量の減少、アセチルコリン受容体(Ach receptor)量の減少などが知られている。また、ソマトスタチン(Somatostatin)や神経ペプチドY(Neuropeptide Y)などの神経ペプチド、ノルアドレナリン(Noradrenaline)、ドーパミン(Dopamine)、セレトニン(Serotonin(5HT))、5−ヒドロキシインドールアミノ酸(5-hydrooxyindoraminoacid(5HIAA))などの神経伝達物質の量の変化を調べることも知られている。
【0004】
これら神経伝達物質はおもに脳脊髄液(cerebrospinal fluid;CSF)で測定されるが、その変化は正常脳や他の痴呆性疾患の脳でも見られアルツハイマー型痴呆との関連性については未だ確立されておらず、アルツハイマー型痴呆であることを特定するための診断法としての診断的価値は少ないと思われる。
【0005】
アルツハイマー病の神経病理学的変化の主なものとしては、神経原線維変化(Neurofibrillary tangle;NFT)と老人班(Senile plaque;SP)が挙げられる。
アルツハイマー神経原線維変化(Neurofibrillary tangle;NFT)は特異なねじれを有するフィラメント(Paired Helical Filament(PHF))が主成分であり、このPHFは微小管結合蛋白質(microtuble associate proteins(MAPs))の一種であるタウ蛋白(τ蛋白質)の異常リン酸化で生成される。
老人班(SP)は、アミロイド物質が細胞外に蓄積したものであり、その主な構成成分としてβアミロイド前駆体蛋白質(β−Amyloid Precursor protein(βAPP))から生成されるAβ/A4Amyloid(Aβ)などがある。
【0006】
一方、アルツハイマー病の神経病理学的変化で注目されているβアミロイド(Aβ)生成沈着機構の解明により、これに関わる多くの活性分子が明らかとなってきた。これらには、Aβの前駆体であるβアミロイド前駆タンパク(β−amyloid precursor protein;βAPP)や、その切断酵素であるセクレターゼ(secretase)、その選別蛋白質(sorting protein)の可能性があるプレセニリン(presenirin;PS)があげられる。これらの異常は遺伝的アルツハイマー病の原因であることはすでに報告されているが、これら遺伝的アルツハイマー病の頻度は全アルツハイマー病の5%以下であり、その大部分を占める孤発性アルツハイマー病の原因は未だ不明である。Aβがアルツハイマー病の主因を説明する最も重要な分子である限り、この生成沈着に関わる新たな分子の存在確認とその制御機構の解明は是非必要な作業であるといわざるを得ない。
全アルツハイマー病患者の数%は家族性である。その原因遺伝子としてこれまで同定されているのはβAPP、プレセニリン1および2(PS−1、PS−2)の3種である。
また、Aβのキャリアー蛋白質(carrier蛋白質)であるアポリポ蛋白質E(Apolipoprotein E(APOE))のある種の対立遺伝子産物(APOE4)もアミロイド物質の沈着の危険因子であるとされている。
このような家族性アルツハイマー病の遺伝的背景をまとめると次の表1のようになる。
【0007】
【0008】
家族性アルツハイマー病に関与すると考えられている種々の遺伝子が解明されてきているが、アルツハイマー病患者の90%以上を占める孤発例では遺伝的要因が明らかではないため生前の診断は困難であり、これらは大部分の孤発性アルツハイマー病の診断マーカーとなるものではない。
【0009】
さらにこれらの分子(βAPP、PS、secretase、ApoEなど)は脳神経細胞のみならず非神経細胞すなわち他臓器の体細胞でも産生しているため、これらの異常が神経特有の変性疾患であるアルツハイマー病の病態を完全には説明しえず、当然診断マーカーとしての期待は出来ない。従って、神経特有の分子であり、かつAβとの関わりを持つ新たな分子に診断マーカーとしての可能性を期待しなければならない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は神経に特有でかつAβ生成にからみ、かつ神経伝達機構にも関与する分子マーカーを利用してすべてのアルツハイマー痴呆症の新たな診断法を提供するものである。即ち、本発明は神経性疾患、特にアルツハイマー病の新規な診断マーカーを提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、体液又は組織中のミントを検出、同定又は定量することからなる神経性疾患の診断剤、当該診断剤を含有してなる神経性疾患を診断するためのキットに関する。また、本発明は、神経性疾患を判定するための体液又は組織中のミントの検出、同定又は定量に用いるための判定用組成物、当該組成物を含有してなる神経性疾患を判定、診断するためのキットに関する。
本発明は、神経性疾患、例えば痴呆症、アルツハイマー病などの診断マーカーとしてのミント又はそれに対する抗体の使用に関する。
さらに、本発明は、検体中のミントを検出、同定又は定量する方法に関する。
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々検討した結果、神経に特有でかつ神経伝達機構の根幹をなすシナプス伝達に必須の小胞輸送蛋白に注目した。発明者の一人である岡本らは小胞輸送蛋白であるマンク18(Munc18)に特異的に結合し、シナプス小胞(synaptic vesicle)のエクソサイトーシス(exocytosis)に関与する新規小胞輸送蛋白マンク18関連蛋白質(Munc18-interacting proteins)であるミント(Mints)をクローニングした(M.Okamoto., et al., J. Biol. Chem., 272(50),31459-31464,1997 ; Eur. J. Cell Biol., 77, 161-165, 1998)。
ミント(Mints)は、少なくともミント1(Mint1)からミント3(Mint3)からなるファミリーを形成し、ミント1と2は神経に特異的に発現する小胞輸送蛋白である。その後の研究により、ミントはPTBドメインとふたつのPDZドメイン(PDZaドメイン及びPDZbドメイン)という蛋白間の相互作用に重要な働きを持つ二つの基本機能構造(モジュール)を持つことが判明した。この2種のモジュールを一つの蛋白が持つのは現在の所このミントのみであり、この点からもミントの神経伝達機能における特異性が示唆されている(M.Okamoto., et al., J. Biol. Chem., 272(50),31459-31464,1997)。
【0013】
ミントは他に例をみない特徴的なドメイン構造をしている。ミント1及び2のN−末端側半分には二つのプロリンリッチな領域が存在し、マンク18結合ドメイン(MID)が保存されている以外には相同性が極めて低いが、C−末端側半分には共通して1つのPTBドメインと2つのPDZドメインが存在し、相同性は極めて高い。一方ミント1は、前シナプス終末蛋白であるCASK及びベリ(veli)と複合体を形成し、神経細胞膜蛋白であるニューレキシン(neurexin)などと相互作用し、シナプス形成に関与していると考えられている。この機構は生物進化上極めてよく保存されていることが明らかにされている。実際、線虫(C.elegans)ではCASK、ベリ(veli)、ミント1の各ホモログであるリン(LIN)−2,7,10が複合体を形成して細胞分化制御をすることが明らかにされている。これらのことより、ヒトでも同様の蛋白相互作用が行われていると考えられる。
【0014】
さらにミント1はβAPPと結合することが明らかとなった(J P. Borg, et al., Mol. Cell. Biol., 16, 6229-6241, 1996)。ミント1はそのPTBドメインを介してβAPPのC末端のYENPTY配列と特異的に結合する。
ミント1とβAPPの結合は、Aβ生成を制御し、ミント1の異常は神経伝達機能不全を引き起こすと同時にAβ生成を増強する。一方、βAPPのエンドサイトーシス(Endocytosis)には、βAPPのC末端のYENPTY配列が必要であり、Aβはその後β/γセクレターゼによって細胞内で産生される。すなわち、Aβの生成にはYENPTY配列が必要であり、ミント1はこのAβ生成の機構を制御していると考えられる。
【0015】
ミントのもつこのような機能を次のようにして確認した。
まず、抗ミント1ポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学で、マウスの脳のミント1の局在を検討した(図1参照)。電子顕微鏡による微細構造の検討では、ミント1は前シナプス神経終末に存在するシナプス小胞とそのアクティブゾーン(active zone)に限局していることが示された(図2参照)。さらにラットの細胞株PC12細胞を神栄養因子(NGF)により、神経細胞に分化させ、培養ディシュ上でシナプス結合を形成させ、その時の内在性ミント1の局在を蛍光抗体法により観察した結果、ミント1は前シナプス終末に限局していた。以上のことより、ミント1がシナプス小胞輸送蛋白であることが示された。
さらに、ミント分子中の各ドメインの機能を解析するために、種々の欠失変異体を遺伝子工学的手法により作成し、培養細胞に導入発現させた。この結果ミントが細胞内で小胞に結合するためにはPDZドメインが必須であることが明らかとなった(図5参照)。一方、ミントがβAPPに結合するのはPTBドメインを介してである。
【0016】
生体内で実際にミントがβAPPと結合していることを確認するためにヒト細胞株HEK293細胞のミント1/βAPP強制発現細胞においてβAPPとミント1の局在を共焦点レーザー顕微鏡を用いた二重標識間接蛍光抗体法で検討した(図4参照)。その結果、ミント1とβAPPは一致して局在することが明らかとなり、細胞内でミント1はβAPPと結合していることが示された。
従って、ミント1はPDZドメインを介してβAPPを輸送する小胞の動きを制御し、その過程でPTBドメインを介してβAPPと結合し、最終的にAβの産生にいたる蛋白質代謝分解経路をも調節するものと考えられる。
【0017】
つぎに、マウスの脳虚血モデルを用いてミント1の発現を検討した(図3参照)。この結果ミント1の発現は脳虚血により変動することが明らかとなった。このことは神経伝達物質の放出時にミント1がシナプス伝達機能を果たしていることを示す。また、マウスの脳をホモジュネートし、その抽出液からウエスタンブロッティング(Western blotting)によりミント1の同定を試みたところ、ミント1はマウス脳に存在しており、他臓器には存在しないことが明らかとなった。さらに、脳虚血を加えた脳ではミント1蛋白量が虚血負荷後経時的に変動することが明らかとなった(図3及び図6参照)。
【0018】
家族性、孤発性を問わずアルツハイマー病にいたる異常はβAPPの代謝分解異常である。βAPPと強固に結合しその機能を制御するミントは同時にシナプス伝達をも制御すると考えられる。以上のことから、Aβの蓄積がみられるアルツハイマー病の初期にはミントの異常による神経障害がみられると考えられる。このことはミント1の測定が神経変性疾患としてまた痴呆性疾患としてのアルツハイマー病の診断に適していることを示している。特に、これらの疾患の初期症状の診断に適したものということができる。
従来からアルツハイマー病の診断をめざして多数の神経物質が用いられてきたが、いずれもアルツハイマー病にのみ関連するものではなく、各器官に点在する神経物質の量の増減を測定し、この結果からアルツハイマー病である可能性をみるというものであった。しかしながら、本発明のミントの測定は、Aβの生成に直接関連し、かつ脳に局在する蛋白質を測定するものであることから、アルツハイマー病などの神経性疾患の発病の状況を直接知ることができるものである。
【0019】
本発明は、小胞輸送蛋白ミント、好ましくはミント1及び/又はミント2を検出、同定又は定量することにより神経性疾患、例えば痴呆症、アルツハイマー病などを診断することができることを見い出したものである。
本発明の小胞輸送蛋白ミントを検出、同定又は定量する方法としては、例えば抗ミント抗体を使用することができる。抗ミント抗体はミント又はミントの部分配列からなる蛋白質で感作させた動物から得ることができる。例えば、ラットのミントをウサギに感作させることにより、ウサギ抗ラットミント抗体を得ることができる。
抗原として使用されるミントの部分配列としては、ミント1又はミント2のN−末端部分、C−末端部分、PTBドメイン、PDZドメイン、およびβ−アミロイド前駆体蛋白質(βAPP)の側からはミントとの結合部分であるYENPTY配列などを用いることができる。
【0020】
使用される抗体としては、抗ヒト抗体が好ましいが、ミント1をはじめとするこれらの蛋白の免疫原性は種間で極めて交差性が高く、異種生物の抗体を使用してもヒトミントの測定をすることができる。また、異種生物の抗体を必要に応じてキメラ型やヒト型などに変性させて使用することもできる。
抗体はポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であってもよい。本発明者らは、ラットミントに対するウサギポリクローナル抗体を製造し、これを本発明の方法とした。
【0021】
本発明の診断剤における小胞輸送蛋白ミントの検出、同定又は定量のための手段としては、抗原−抗体反応による通常の手段を使用することができる。例えば、ELISA(enzyme-linked immunosolubent assay)法などを用いることができる。また、βAPP抗体を用いた免疫沈降法との組み合わせて、ミント蛋白の定量とβAPP結合能の両者を測定することもできる。
【0022】
また、本発明における検体としては、各種の体液や組織を用いることができるが、痴呆症などの診断において通常使用されている脳脊髄液(CSF)を使用するのが好ましい。
本発明のミント蛋白測定ELISAシステムは生体試料の正常及び異常ミント蛋白量、活性、PTB、PDZドメイン活性、βAPP結合能などが測定でき、シナプス機能の分子マーカーとして使用することが出来る。特に、βAPP結合能の測定からはアルツハイマー病発症の予知診断を下すことが出来る。
【0023】
【実施例】
次に具体例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1(ミントの存在部位)
ラットの各器官からノーザンブロット解析によりミント1の発現分布を検討した。
ミント1、2、3にそれぞれ特異的なN−末端側領域を含むDNA断片をプローブとして使用するために、ラジオアイソトープで標識し、脳、心臓、肺、脾臓、肝臓、腎臓、筋、精巣の各臓器より抽出したmRNAをプロットしたフィルターに対してハイブリダイゼーションを行った。
この結果からミント1はラット脳に存在しており、他臓器には存在しないことが明らかとなった。
【0025】
実施例2(ミント1の脳内での局在)
抗ミント1ポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学でマウス脳のミント1の局在を検討した。
マウスを経心的に4%パラフォルムアルデヒドを含む固定液で潅流固定後、脳を摘出し、ビブラトームを用いて脳切片を作成した。その後脳切片をミント1に対する免疫組織化学に供した。即ち、脳切片をラビットポリクローナル抗ラットミント1抗体を含むリン酸緩衝液(2000倍希釈)にて12時間反応させ(第一反応)、洗浄後ビオチン標識ヤギ抗ラビットIgG(第二反応)、次いでアビヂン/ビオチン/ペルオキシダーゼ複合体と反応させた。ミント1の可視化はDAB反応により行い、光学顕微鏡観察に供した。一部の脳切片はその後オスミウム固定、ウラン染色、脱水、エポン包埋を経て超薄切片とし、電子顕微鏡観察に供した。結果を図面に代る写真により図1(a)及び(b)に示す。
また、さらに他の脳切片においては第一反応後に金コロイド標識のヤギ抗ラビットIgGを用いて第二反応を施行し、その後銀染色(silver enhancement)をして可視化した後に電子顕微鏡観察に供した。結果を図面に代る写真により図2A、B、C、及びDとして示す。
光学顕微鏡による検討結果では、ミント1は海馬への興奮性伝導路と苔状線維に多量に局在していた。以上のことより、ミント1が側頭葉海馬という記憶中枢に豊富に含まれていることが示された(図1参照)。
電子顕微鏡による微細構造の検討結果では、ミント1は前シナプスボタンのシナプス小胞とアクティブゾーン(active zone)に限局していた。以上のことより、ミント1がシナプス小胞輸送蛋白であることが示された。(図2参照)
【0026】
実施例3(抗ミント1ポリクローナル抗体の製造)
ラットミント1のN−末端側に存在するマンク18結合ドメインを含むミント1に特異的な領域とGSTの融合蛋白質を大腸菌内で製造し、これをアフィニティーカラムにて精製して抗原として用いた。
この抗原蛋白質をウサギに投与することにより感作し、抗体を含む血清を得た。この抗体のミント1に対する特異性はリコンビナントミント1、GST融合蛋白質、GSTのウエスタンブロットで確認した。
【0027】
実施例4(脳虚血によるミント1の発現の変動)
マウスの脳虚血モデルを用いた検討ではミント1の発現は脳虚血により変動することが明かになった。
マウスの両側総頚動脈の15分間結紮による一過性前脳虚血を作成した。血流再開後1,3,5日目にマウスを経心的に4%パラフォルムアルデヒドを含む固定液で潅流固定後、脳を摘出した。その後、実施例2と同様にしてビブラトームを用いて脳切片を作成し、ミント1に対する免疫組織化学に供した。光学顕微鏡による結果を、図面に代る写真として図3a〜fに示す。図3のa〜cはミント1の1日目、3日目及び5日目をそれぞれ示し、図3のd〜fはマンク18の1日目、3日目及び5日目をそれぞれ示す。
ミント1は虚血負荷後1日目では苔状線維で免疫反応性が低下し、3日目では逆にコントロールよりも増強していた(図3a〜c参照)。
このことによりミント1蛋白量が虚血負荷後経時的に変動することが明かとなり、また神経伝達物質の放出時にミント1が機能していることを示す。
【0028】
実施例5(ミント1のβAPPとの結合能)
HEK293細胞のミント1/βAPP強制発現細胞においてミント1とβAPPの局在を共焦点レーザー顕微鏡を用いた二重標識間接蛍光抗体法で行った。結果を図4に図面に代る写真として示す。図4の左上はFITC標識され緑色に蛍光を発色するミント1の局在を、右上はCy3標識され赤色に蛍光を発色するβAPPの局在を、左下は両者の蛍光が一致した時に黄色に発色するミント1/βAPPの局在を示す。即ち図4の左上はミント1単独、右上はβAPP単独、左下はミント1とβAPPの結合体を示す。
その結果、Mint1とβAPPは細胞内局在が一致することが明らかとなり、細胞内でMint1はβAPPと結合していることが示された(図4参照)。
【0029】
実施例6(ミント1の各ドメインの小胞輸送機構に対する役割)
PCR法と標準的な遺伝子工学組みかえDNA作製手法により、ミントの各ドメインとEGFP(enhanced green fluorescence protein)の融合蛋白質を作製し、ヒト細胞株A431細胞の中で発現させた。その結果を図面に代る写真として図5に示す。図5の上段はEGFP単独の場合を、中段はEGFPとミント3のPTBドメインとの融合蛋白質の場合を、下段はEGFPとミント3のPDZドメインを含む融合蛋白質の場合をそれぞれ示す。この結果、PDZドメインを含む融合蛋白質のみがゴルジ装置と小胞上に分布した。
【0030】
実施例7(脳におけるミント1蛋白の半定量的測定)
マウス脳(全脳又は海馬)をホモジュネートし、その抽出液から免疫ブロッティング法(Immunoblotting)によりミント1の同定を試みた。
正常および虚血脳(一過性虚血後1、3、7日後)から抽出した蛋白質をSDS−PAGE法により泳動したあとニトロセルロース膜に転写し、抗ミント1抗体を用いて同定した。結果を図面に代る写真として、図6A及びBに示す。図6Aのレーン1は正常脳の海馬を示し、レーン2は虚血後1日目の海馬を示し、レーン3は虚血後3日目の海馬を示し、レーン4は虚血後5日目の海馬を示し、レーン5はレーン1と同じである。図6Bのレーン1は正常脳の大脳皮質を示し、レーン2は虚血後1日目の大脳皮質を示し、レーン3は虚血後3日目の大脳皮質を示し、レーン4は虚血後5日目の大脳皮質を示し、レーン5はレーン1と同じである。
各レーンの上段のブロットは約140kDaの全長のミント1蛋白を、下段の約70kDaのブロットはそのミント1蛋白が切断された一断片蛋白質を示している。この結果より、ミント1は海馬(A)大脳皮質(B)に豊富に存在していることがわかる。また、海馬では虚血後3日目にミント蛋白およびその断片蛋白の発現産生量が増加しているが、断片蛋白の増加が正常蛋白の増加より顕著であることから、ミント1の産生代謝量が虚血により亢進することが示された。一方、大脳皮質ではミント1の産生量は虚血後も大きくは変化しない。以上のことから、虚血後の神経障害が大きい海馬での神経伝達物質放出時にミント1産生量が変動すると考られた。
【0031】
【発明の効果】
本発明はアルツハイマー病をはじめとする痴呆性疾患の診断に利用できる診断剤、検査法に関するもので、この検査法により測定される神経伝達に必須のシナプス小胞輸送蛋白ミント(Mints)の濃度および活性は神経活動の指標として広く利用できる。本発明の方法は、ヒト由来の微量試料を用いて簡便に利用でき、且つ神経機能を特異的に測定できる痴呆の診断法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、マウスにおけるミント1の脳内局在を示す免疫組織化学の結果を示す図面に代る写真である。
【図2】図2は、ミント1の微細局在を示す図面に代る電子顕微鏡写真である。
【図3】図3は、脳虚血後のミント1の変動を示す免疫組織化学の結果を示す図面に代る写真である。
【図4】図4は、HEK293細胞におけるミント1とβAPPの局在の一致を示す図面に代る共焦点レーザー顕微鏡写真である。
【図5】図5は、ミントのPDZドメインがミントが小胞に結合するために必須であることを示す図面に代る写真である。
【図6】図6は、正常および虚血後のミント1の半定量的測定結果を示す免疫ブロットの結果を示す図面に代る写真である。
Claims (9)
- 脳又は脳脊髄液に由来する検体中のミントを、脳卒中、脳梗塞、及びアルツハイマー病から選択された何れかの神経変性疾患の診断のために、検出、同定又は定量する、ミントの70kDa断片に対する抗体を含んでなるミント検出剤。
- ミントが、ミント1又は2である請求項1に記載のミント検出剤。
- 神経変性疾患が、アルツハイマー病である請求項1又は2に記載のミント検出剤。
- 抗体が、モノクローナル抗体である請求項1〜3の何れかに記載のミント検出剤。
- 請求項1〜4の何れかに記載の検出剤を含んでなる、ミント測定用ELISAシステム。
- ミントの70kDa断片に対する抗体を用いて、脳又は脳脊髄液に由来する検体中のミントの、検出、同定又は定量を行って、脳卒中、脳梗塞、及びアルツハイマー病から選択された何れかの神経変性疾患の検出をする方法。
- ミントが、ミント1又は2である請求項6に記載の方法。
- 抗体が、モノクローナル抗体である請求項6〜7の何れかに記載の方法。
- ELISA法による請求項6〜8の何れかに記載の方法。
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