JP4933159B2 - アルツハイマー病の診断方法 - Google Patents

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本発明は、アルツハイマー病の診断方法、診断薬、又は診断用キットに関する。
国、地域の境をこえて、全世界で考えていかなくてはならない問題の一つにアルツハイマー病を含む痴呆性疾患の問題がある。各国の高齢化に伴いアルツハイマー病を含む痴呆性疾患の方は年々増え続けており、現在その数は、世界でおよそ1800万人、日本でもおよそ160万人にのぼる。以前は脳の循環障害(脳梗塞、脳出血などの血管性痴呆)が代表的な痴呆の原因であったが、最近の疫学調査ではアルツハイマー病の割合が増加する傾向にある。現在、はっきり認定されているアルツハイマー病の危険因子の中で、唯一確実な危険因子が加齢である以上、高齢化社会になるにつれ、痴呆性疾患のなかでのアルツハマー病の占める割合は年々増加の一途をたどる事は間違いのないことと思われる。
日本は歴史上例のない高齢化社会を迎えており、高齢者の2〜3%はアルツハイマー病になると推定されている。2000年で患者数は45万〜55万となり、2020年にはその倍近い70〜80万人にのぼり、さらに増加するものと推測されている。今後このような問題が日本だけでなく、世界に広がることから我々は逃れることは出来ない状況にある。
現在、アルツハイマー病の確定診断は神経病理学的検索をおいて他にはない。従って、在命中に真の意味で確定診断をつける事は現実的には非常に難しいのが現状である。しかし、臨床の現場においては、臨床症状と病歴経過によって診断がなされ、補助的検査として、CT、MRIさらにはPET/SPECTといった画像診断、また脳波、血液・髄液生化学的検査等が行われる。
数年前まではアルツハイマー病の病理学的な確定診断は治療法がなかったゆえに重要視されていなかった。しかし最近の研究、すなわち家族性アルツハイマー病における原因遺伝子の解明によって、老人斑の根幹をなすアミロイドβ蛋白の形成過程やタウ蛋白質のリン酸化の機序などが明らかにされるとともに、アポリポ蛋白E4が危険因子である点からコレステロール代謝等がアルツハイマー病の病態に大きく関与していること、などが判明してきている。これらの知見に基づき、新しい治療法の開発がすすみつつあり、アルツハイマー病の病態解析、ケアは大きく進歩しつつある。特に今日ではコリンエステラーゼ阻害薬が実際に臨床の場で使用されそれなりの成果をあげ、発病初期であれば症状の進行をある程度抑えることも可能になっている。またワクチン療法の開発は、現在は臨床治験段階でストップしているが、近い将来必ずや再開されアルツハイマー病の予防や治療に大きく貢献できるものと思われる。さらに、昨今の目覚ましい技術の進歩に伴うCT、MRI、PET/SPECTなどの画像診断はアルツハイマー病の早期診断、予後予測診断に重点がおかれるようになりつつある。特にPET プローブの開発により老人斑の描出までをも可能にしつつある状況である。
病気の治療の第一歩は、病態と原因疾患の正確な診断から始まる。アルツハイマー病においても例外ではない。日本ではそれほど一般的とは言えないが、欧米ではアルツハイマー病、種々の変性疾患、脳腫瘍、脳炎、脳の感染症を含めて、原因疾患の検索、治療方針の決定の際に、脳組織生検による病理診断の果たす重要性が増している。脳組織生検の技術もCT、MRIをガイドとして使用、定位装置を使用したステレオバイオプシー(定位生検術)が一般的となり極小箇所を正確に生検する事が可能となっている。アルツハイマー病の場合、Braakのstagingによれば、海馬領域(海馬、海馬支脚、海馬傍回)の中で、海馬傍回(側頭葉内側面)が最もはじめに病変が出るとされるが、海馬(アンモン角、Cornu Ammonis、CA1-CA4を含む部分)に病変が及んではじめて病理学的な確定診断が可能となる。
日本においては、アルツハイマー病で在命中の確定診断に生検による病理診断法が用いられる事は現在のところ無い。倫理面での問題、安全性の問題、など種々の理由から、海馬あるいはその近傍が実際に生検の標的とされることは無い。しかしながら、海馬がてんかん発作の原因部位である場合を含め、実際に海馬を標的とした電極挿入、あるいは片側海馬の切離術、などの実施例は多数ある。従って同部位のピンポイントで正確な生検は、現在技術的には殆ど問題はない。欧米における生検によるアルツハイマー病の診断状況を考えると、将来的にその必要性が徐々に増してくる事に疑いは無いと思われる。
アルツハイマー病を1906年に最初の報告したのは、ドイツの精神科医で神経病理学者のアルツハイマーである。健忘と見当識障害を初発症状として、やがて抑うつ、幻覚を示し4年半の経過で著しい痴呆を呈して死亡した51歳女性における、特異的な神経病理学的変化が報告された。特徴の一つは、神経細胞の周囲間質に鍍銀染色で染まる多数の斑状構造物(老人斑、senile plaque; SP)が認められること、第2には神経細胞内に鍍銀染色で染まる線維状の構造物(神経原線維変化、neurofibrillary tangle; NFT)が多数出現することである。現在までの研究で、SPは神経細胞外組織へのアミロイドβ蛋白の凝集、蓄積とこれに伴う組織反応(変性した神経突起や反応性グリア細胞)からなり、アルツハイマー病での疾患特異性が比較的高いとされる。またNFTは神経細胞内に形成され、細胞骨格蛋白であるtau(タウ)が異常にリン酸化を受け凝集、蓄積したもので、他の疾患での出現も知られ疾患特異性はさほど高くないとされている。そのような背景のもと、現在、確定診断の際に使用されている、主要病理所見は3つある。すなわち、(A)アミロイドβ蛋白沈着によるSP、(B)tauの異常凝集によるNFT形成、(C)単純萎縮による神経細胞死、である。その3つの所見がどのように出現し、進展していくかを総合的にみて判断していくかにより確定診断がなされる。上記所見中の細胞死に関して補足すると、神経細胞死には形態学的に2つのタイプがある。一つはNFT形成に伴う細胞死で、もう一つは細胞が萎縮して消滅してゆく死に方であり、この過程は「単純萎縮」と呼ばれている。アルツハイマー病では神経細胞が変性して脱落、すなわち、神経細胞死が起こることが病態の基本となる。特に海馬領域(海馬、海馬支脚、海馬傍回)はアルツハイマー病の脳で最も高度に侵される部位で、最初期少量の記憶障害に対応していることはよく知られた事実である。
さて、実際の神経病理学的診断の際に、上記(A)アミロイドβ蛋白沈着によるSP、(B)tauの異常凝集によるNFT形成、は鍍銀、Galyas Braak 染色を施した後の顕微鏡観察で決定する事が出来る。また(C)単純萎縮による神経細胞死も、剖検例の脳のごとく、脳全体のサイズ縮小の検討が可能な場合は、顕微鏡観察を加え判断することができる。しかしながら、海馬の脳組織が少量生検された場合を想定すると、萎縮を明確に出来ないだけに「単純萎縮による神経細胞死」の決定は難しく、診断に難渋する事が予測される。上記(A)(B)の病理所見が同時に存在すればほぼアルツハイマー病の診断を下すことができる。しかし、それぞれはアルツハイマー病特異的な所見ではなく、個別には他の痴呆性疾患にも存在する。このため、他疾患との誤診を避け、少量の脳組織で(C)単純萎縮による神経細胞死を決定して確定診断を確実に行うための簡便な「細胞死判定法」が望まれているところである。
少量生検された海馬の脳神経組織において「単純萎縮による神経細胞死」を正確に判定出来ることは、将来的にアルツハイマー病の確定診断、治療方針の決定上、極めて重要である。一方、その判定は、正確であることは勿論のこと、迅速性、簡便性も要求される。海馬領域が記憶に関係する大切な部位であることを考慮すれば、生検により多量の脳神経組織を得ることは不可能である。従って、正確で且つ簡便、再現性のある「神経細胞死」の決定が行えてはじめて正確な診断、さらには出来るだけ早期の治療開始による治療効果を期待できる。従って、正確であることに加えて、過度の負担を患者にかけることなく「神経細胞死」を判定できる手法が開発されれば、アルツハイマー病診断に対する貢献は計り知れない。
これまでにアルツハイマー病の診断手法に関して種々の発明がなされている。例えば特許文献1及び2には、βアミロイドの生成及び代謝に関与すると考えられている酵素の活性を検出することによりアルツハイマー病を診断する手法が開示されている。しかしながら、これらはいずれも、脳組織の神経細胞の状態を間接的に評価する手法であることから、神経組織の状態を正確に評価する目的には適していないと考えられる。
一方、膜結合型の後期糖化反応生成物受容体 (Receptor for advanced glycation endproducts, 本明細書において「RAGE」と略記することがある)は、Sternらのグループにより、AGE (advanced glycation endproducts, 後期糖化反応生成物)の細胞表面特異受容体として分離されその一次構造が決定された(非特許文献1)。膜結合型RAGEは,イムノグロブリンスーパーファミリーに属する1回膜貫通型の受容体で、V,C1,C2の3つのイムノグロブリン様ドメインからなる細胞外領域と短い細胞内領域とを有する。そして最もN末端にある免疫グロブリン可変領域様ドメイン部分の内部にAGEリガンド結合部位がある。AGEとはグルコースなどの還元糖とタンパク質のアミノ基との非酵素的な反応、グリケーションによって生ずる構造体の総称であり、糖尿病合併症、動脈硬化、神経変性疾患さらには老化にも関与すると注目されているものである。さらに近年、RAGEはマルチリガンドレセプターとして認識されるに至り、RAGEが様々な病態に関与している可能性が考えられている。膜結合型RAGEにAGEをはじめとするリガンドが結合すると、活性酸素種の産生を経て転写因子NFκBの活性化を引き起こし、様々な遺伝子群の発現誘導を引き起こすと考えられている。
本発明者らは、RAGEには一つの遺伝子から選択的スプライシングによって作り出される新しい分子種が存在することを見出した。以前から知られている完全長膜結合型RAGEに比べ、新たに見出されたアイソフォームの一つはC端側の膜貫通領域を欠き分泌型となるRAGEである。この分泌型RAGEタンパクは血管内皮培養細胞から実際に分泌され、ヒトの血中や様々な組織にも存在することより、内在性分泌型RAGE(endogenous secretory RAGE, 本明細書において「esRAGE」と略記する)と命名した(特許文献3)。esRAGEはリガンド結合部位を持つため、細胞外でリガンドを捕捉することによりリガンドと細胞表面の膜型RAGEとの結合を阻害する働きを持つと考えられる。
これまでにRAGEポリペプチドの機能に関しては種々の報告がある(非特許文献2および3)。しかしながら、esRAGEポリペプチドとアルツハイマー病との関係については、これまで具体的な検討はなされていない。特許文献4には、体液中の可溶型RAGE (esRAGEと同じ) の発現量の変化に起因した疾患の診断に使用することができる、可溶型RAGEに対する抗体を含有していることを特徴とする免疫学的測定試薬又は疾患診断剤が記載されている。そして特許文献4では、診断されうる疾患としてアルツハイマー病が挙げられている。しかしながら特許文献4では、アルツハイマー病患者においてesRAGEの発現量が健常者と比較して相違するか否か、相違するとすればどのように相違するのか、という点について具体的な開示がされていない。
特開2005-145837号公報 特開平9-196912号公報 特開2003-12586号公報 特開2003-128700号公報 J. Biol. Chem. 267: 14998-15004 (1992) J. Clin. Invest. 113: 1641-1650 (2004) J. Clin. Invest. 115: 1267-1274 (2005)
本発明は正確で、簡便で、再現性の高いアルツハイマー病の診断手段を提供することを目的とする。
本発明は以下の発明を包含する。
(1) 被検体から単離された神経細胞を含有する試料中の、内在性分泌型後期糖化反応生成物受容体 (esRAGE) の量を指標としてアルツハイマー病を診断することを特徴とする、アルツハイマー病の診断方法。
(2) 前記試料が海馬に由来する試料である、(1) 記載の方法。
(3) 指標として用いられるesRAGEの量が、神経細胞の細胞質におけるesRAGEの量である、(1)又は(2)記載の方法。
(4) 被検体から単離された前記試料中のesRAGEの量と、対照検体から単離された神経細胞を含有する試料中のesRAGEの量とを対比する工程と、
被検体から単離された前記試料中のesRAGEの量が、対照検体から単離された神経細胞を含有する試料中のesRAGEの量と対比して少ないときに、被検体がアルツハイマー病に罹患している、あるいは対照検体と比較してより重度のアルツハイマー病患者であると判断する工程とを含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 被検体から単離された前記試料が神経細胞とグリア細胞とを含有するものであり、
前記試料中の神経細胞におけるesRAGEの量と、グリア細胞におけるesRAGEの量とを対比する工程と、
神経細胞におけるesRAGEの量が、グリア細胞におけるesRAGEの量と対比して少ないときに、被検体がアルツハイマー病に罹患していると判断する工程とを含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(6) esRAGEの量の評価が、esRAGEに特異的に結合し得る抗体を用いて行われる、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(7) esRAGEに特異的に結合し得る抗体を用いた免疫染色法により、被検体から単離された前記試料中のesRAGEを染色する工程と、
esRAGEに特異的に結合し得る抗体を用いた免疫染色法により、対照検体から単離された神経細胞を含有する試料中のesRAGEを染色する工程と、
被検体から単離された前記試料中の神経細胞の染色強度と、対照検体から単離された前記試料中の神経細胞の染色強度とを対比する工程と、
被検体から単離された前記試料中の神経細胞の染色強度が、対照検体から単離された前記試料中の神経細胞の染色強度と対比して弱いときに、被検体がアルツハイマー病に罹患している、あるいは対照検体と比較してより重度のアルツハイマー病患者であると判断する工程とを含む、(6)記載の方法。
(8) 被検体から単離された前記試料が神経細胞とグリア細胞とを含有するものであり、
esRAGEに特異的に結合し得る抗体を用いた免疫染色法により、前記試料中のesRAGEを染色する工程と、
前記試料中の神経細胞の染色強度と、グリア細胞の染色強度とを対比する工程と、
神経細胞の染色強度が、グリア細胞の染色強度と対比して弱いときに、被検体がアルツハイマー病に罹患していると判断する工程とを含む、(6)記載の方法。
(9) 前記抗体が、配列表の配列番号1のC末端の16個のアミノ酸の配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体である、(6)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10) esRAGEに特異的に結合し得る抗体を含有し、該抗体が(6)〜(8)のいずれかに記載の方法に使用されるものであることを特徴とする、アルツハイマー病の診断薬。
(11) 前記抗体が、配列表の配列番号1のC末端の16個のアミノ酸の配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体である、(10)記載の診断薬。
(12) esRAGEに特異的に結合し得る抗体を含有し、該抗体が(6)〜(8)のいずれかに記載の方法に使用されるものであることを特徴とする、アルツハイマー病の診断用キット。
(13) 前記抗体が、配列表の配列番号1のC末端の16個のアミノ酸の配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体である、(12)記載の診断用キット。
本発明により、正確で、簡便で、再現性の高いアルツハイマー病の診断手段が提供される。
1. 被検体
本発明において「被検体」とはアルツハイマー病を発症しうる動物であれば限定されないが、ヒトが特に好ましい。ヒト以外の被検体としては、例えば、サル、チンパンジー等の非ヒト霊長類、マウス、ラット、モルモット等の齧歯類、ニワトリ、ウズラ等の鳥類等が挙げられる。ヒト以外の動物を被検体とした場合に得られる情報(判定結果)は、当該非ヒト動物のアルツハイマー病の診断にも利用され得るが、むしろそれをヒトのアルツハイマー病の診断法の確立に利用できる点で有用である。
ヒトが被検体である場合は通常、他の診断法によってアルツハイマー病が疑われる者(患者)が被検体となる。ここでの他の診断法としては例えば、臨床症状および病歴、CT検査、MRI検査、PET/SPECT検査、脳波検査、生化学的検査を用いた診断法などが該当する。通常は、これらの一つ以上によってアルツハイマー病が疑われるヒトから被検試料が採取される。
2. 試料
本発明の方法で使用される、被検体から単離された試料は、神経細胞を含有する試料である限り特に限定されない。このような試料としては、脳、ガングリオン、実質臓器の神経節などに由来する試料が好ましく、なかでも脳に由来する試料が好ましい。脳のなかでも海馬が特に好ましいが、これには限定されず、海馬以外の部位もまた試料として使用できる。海馬に由来する試料としては、海馬錐体細胞を含有する試料が好ましい。
試料は、摘出臓器から位置を確認して切り離したものを使用することができる。試料が生検であれば、被験者の所望の部位から採取したものを使用することができる。
試料の形態としては、特に限定されないが、上記の各部位に由来する試料をホルマリン固定した形態や、AMEX法やPFA固定により凍結材料にした形態のものが挙げられる。
以下に、被検試料としてヒトの海馬錐体細胞を含有する試料を用いる場合について詳述する。この場合、被検体であるヒトの生体脳組織から海馬錐体細胞が採取される。海馬錐体細胞は、被検体の脳、海馬領域より採取される。具体的には、生体の場合は被検体の脳海馬組織の一部をバイオプシー(生検)で採取し、採取された組織片を、海馬錐体細胞を含む試料として使用する。剖検例(死体)の場合は、剖検時に採取された海馬領域全体又は一部を、海馬錐体組織を含む試料として使用することができる。このように、生体又は死体より分離された状態の海馬錐体細胞が用意される。ここで「生体(又は死体)より分離された」とは、海馬錐体細胞が存在する生体(又は死体)脳組織の海馬の一部を摘出することによって、その由来の生体(又は死体)と完全に隔離されている状態をいう。海馬錐体細胞は通常、生体(又は死体)で存在していた状態、即ち周囲の各種の細胞や間質結合組織と結合した状態(即ち組織片として)で採取され、本発明の方法に使用される。生体(剖検症例の場合は死体)より採取した組織はホルマリンやパラフォルムアルデヒド等によって固定する。その後パラフィン包埋する。
3. esRAGE
本発明においてアルツハイマー病診断の指標として測定されるesRAGEのアミノ酸配列は被検体により若干異なるが、ヒト由来esRAGEのアミノ酸は配列表の配列番号1記載の通りである。なお参考のために、ヒト由来膜型RAGE (完全長RAGE)のアミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。本発明において指標として用いられるesRAGEは糖鎖修飾などの種々の修飾を受けたものであってもよい。
4. 抗esRAGE抗体
esRAGEの測定は、esRAGEに特異的に結合し得る抗体を用いて行われることが好ましい。このような抗体は、esRAGE又はその部分配列を含むポリペプチドを抗原として用い、常法により作成された抗体を好適に使用できる。なかでも、配列番号1のC末端の16個のアミノ酸の配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体を好適に使用できる。
抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。また抗体はesRAGEに特異的に結合し得る限り断片として使用することもできる。抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)’断片、単鎖抗体(scFv)等が挙げられる。
モノクローナル抗体は例えば次の手順で作成することができる。
上記の抗原を、動物に対して、抗原の投与により抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与する。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。用いられる動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギなどの哺乳動物が挙げられる。抗血清中の抗体価の測定は常法により行うことができる。
抗原を免疫された動物から抗体価の認められた個体を選択し最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。融合操作は既知の方法、例えば、Nature 256: 495 (1975)記載の方法に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)などが挙げられる。骨髄腫細胞としては、例えば、NS−1、P3U1、SP2/0などが挙げられる。
モノクローナル抗体の選別は、公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができるが、通常はHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地などで行なうことができる。選別および育種用培地としては、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いても良い。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
モノクローナル抗体の分離精製は、通常のポリクローナル抗体の分離精製と同様の、例えば塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相またはプロテインAあるいはプロテインGなどを用いた特異的精製法による免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
一方、ポリクローナル抗体は例えば次の手順で作成することができる。
ポリクローナル抗体は、例えば、抗原とキャリアーとの複合体をつくり、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に哺乳動物に免疫を行ない、該免疫動物から活性型ハプトグロビン対する抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造できる。ポリクローナル抗体の作成に使用する抗原はモノクローナル抗体の作成におけるのと同様である。抗原とキャリアーとの複合体を形成する際に、キャリアーの種類および抗原とキャリアーとの混合比は、キャリアーに架橋させた抗原に対して抗体が効率良くできれば、どの様なものをどの様な比率で架橋させてもよい。キャリアーとしては、例えば、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン、キーホール・リンペット・ヘモシアニン等が用いられる。また、抗原とキャリアーのカップリングには、種々の縮合剤を用いることができるが、グルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。
抗原とキャリアーとの複合体は、免疫される動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行なうことができる。用いられる動物としては、モノクローナル抗体作成の場合と同様の哺乳動物が挙げられる。ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の手順で行なうことができる。
5. esRAGEの量の評価方法
本発明の方法は、被検体から単離された神経細胞含有試料中のesRAGEの存在量を評価する工程を含むが、esRAGEの絶対的な量を測定する必要はなく、対照となる試料、あるいは神経細胞の周囲にあるグリア細胞中のesRAGEの存在量との相対的な関係を明らかにできれば評価としては十分である。対比の基準として用いられる、神経細胞の周囲にあるグリア細胞としては、アストロサイト、オリゴデンドログリアなどが挙げられる。
esRAGEの量の評価方法としては、上記の抗esRAGE抗体を用いた種々の方法が挙げられる。なかでも免疫染色法が好ましい。免疫染色法ではesRAGEと抗esRAGE抗体との結合量が染色強度として表される。免疫染色法としては、具体的には一般的に行われている酵素抗体法を用いることができるがこれには限定されず、蛍光抗体法、金属標識抗体法等も使用できる。酵素抗体法は例えば次のような手順で行うことができる。まず、ホルマリン固定パラフィン包埋標本から、キシレン、アルコールでパラフィンを取り除き、適正な非特異反応ブロッキングを行う。この作業は5%ヤギ血清、あるいは5%BSAに5分間反応させることにより行われる。抗原賦活液(DAKOの市販薬、あるいはクエン酸バッファー)に標本を浸し、熱処理を加えて抗原賦活化を行う。その後、一次抗体として抗esRAGE抗体と反応後、二次抗体と反応させる。ここでの二次抗体とは、抗esRAGE抗体等に特異的結合性を有する抗体であって例えばウサギ抗体として抗esRAGE抗体等を調製した場合には抗ウサギIgG抗体が使用される。ウサギやヤギ、マウスなど様々な種の抗体に対して使用可能な標識二次抗体が市販されており(例えばDAKO, フナコシ株式会社やコスモ・バイオ株式会社など)、本発明で使用する抗esRAGE抗体に応じて適切なものを適宜選択して使用することができる。標識物質には、ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)、アルカリホスファターゼ、ビオチン、及び放射性物質の中から任意に選択されるものが好適に用いられる。さらに、ビオチンを標識物質として用いてアビジンペルオキシダーゼを反応させる方法によれば、より高感度の検出が可能である。また、二次抗体としてはペロキシダーゼ、あるいはアルカリフォスファターゼといった酵素を添付したポリマーにしたもの(市販名:Envision, Histofine等)を用いることもできる。最終的に、必要な場合は基質を反応させて、上記標識物質を茶色や赤、 青色等に発色し、各種顕微鏡観察に供する。下記実施例においても基本的に上記手順を採用した。
6. 診断方法
本発明では被検試料中のesRAGEの量の減少を指標としてアルツハイマー病を診断する。本発明者らは驚くべきことに、アルツハイマー病患者では、アストロサイト、オリゴデンドログリアなどのグリア細胞においてはesRAGEが健常者と同程度に存在しているにも関わらず、神経細胞(特に神経細胞の細胞質)においてはesRAGEが健常者と比較して顕著に少ないことを見出した。従って、神経細胞(特に神経細胞の細胞質)におけるesRAGEの量の減少は、アルツハイマー病の診断指標として特に好適である。また、本発明の方法では神経細胞の状態を直接評価することから、間接的に評価する特許文献1,2等に記載の技術と比較して、アルツハイマー病の正確な診断が可能となる。
本発明において「診断」とは、被検体がアルツハイマー病に羅患しているか否かの判定、アルツハイマー病の重症度の判定、治療の効果の判定、および治療後にアルツハイマー病を再発する危険性が存在するか否かの判定を包含する概念である。
被検体がアルツハイマー病に羅患しているか否かの判定の際には、健常検体の試料中におけるesRAGEの量を基準とすることができる。治療の効果の判定の際には、治療前の被検体から採取された試料中のesRAGEの量を基準値とすることもできるであろう。本発明では、対比対象となるこれらの検体を「対照検体」と称する。
本発明の方法では、典型的には、被検体からの試料中のesRAGEの量と、対照検体からの試料中のesRAGEの量とを対比し、前者が後者より少ないときに、被検体がアルツハイマー病に罹患している、あるいは対照検体と比較してより重度のアルツハイマー病患者であると判断する。例えば、esRAGEの量の評価を、抗esRAGE抗体を用いてesRAGEを染色する免疫染色法により行う場合には、本発明の方法は、被検体から単離された神経細胞を含有する試料中のesRAGEを染色する工程と、対照検体から単離された神経細胞を含有する試料中のesRAGEを染色する工程と、被検体から単離された前記試料中の神経細胞(特にその細胞質)の染色強度と、対照検体から単離された前記試料中の神経細胞(特にその細胞質)の染色強度とを対比する工程と、被検体から単離された前記試料中の神経細胞の染色強度が、対照検体から単離された前記試料中の神経細胞の染色強度と対比して弱いときに、被検体がアルツハイマー病に罹患している、あるいは対照検体と比較してより重度のアルツハイマー病患者であると判断する工程とを含む。
本発明の方法の他の実施形態では、神経細胞とグリア細胞とを含有する試料を使用し、神経細胞におけるesRAGEの量と、グリア細胞におけるesRAGEの量とを対比して、神経細胞におけるesRAGEの量が、グリア細胞におけるesRAGEの量と対比して少ないときに、被検体がアルツハイマー病に罹患していると判断する。例えば、esRAGEの量の評価を、抗esRAGE抗体を用いてesRAGEを染色する免疫染色法により行う場合には、本発明の方法は、免疫染色法により試料中のesRAGEを染色する工程と、試料中の神経細胞の染色強度と、グリア細胞の染色強度とを対比する工程と、神経細胞の染色強度が、グリア細胞の染色強度と対比して弱いときに、被検体がアルツハイマー病に罹患していると判断する工程とを含む。
本発明の方法は既存のアルツハイマー病の診断方法と組み合わせて使用することが好ましい。既存のアルツハイマー病の診断指標としては、図6に示すように、海馬の容量の減少、正常では平行に規則正しく配列する海馬錐体細胞の配列、方向性の乱れ、老人斑の出現・増加、神経原線維変化の出現・増加などが挙げられる。これらの既存の指標に加えて、図7に示すように、アルツハイマー病脳では既に海馬錐体細胞数自体の減少に加え、現存する海馬錐体細胞でのesRAGEの染色性は対照検体に比べアルツハイマー病では著しく低下している点が指摘できる。このesRAGEの染色性の減少を新たな指標として用いることにより、より正確な診断が可能となる。
7. 診断薬又は診断用キット
本発明はまた、esRAGEに特異的に結合し得る抗体を含む、アルツハイマー病の診断薬に関する。
本発明の診断薬は、必要な試薬とともにキット化することもできる。例えば免疫染色用のキットには抗esRAGE抗体に加えて、発色試薬等の種々の試薬が含まれ得る。
キットには更に、緩衝液、洗浄液、使用説明書等が含まれていてもよい。
これらの診断薬又は診断用キット中の抗体は、本明細書に開示する、神経細胞を含有する試料中のesRAGE量を指標としたアルツハイマー病の診断方法において、前記試料中のesRAGE量を評価するために使用される。診断薬又は診断用キットの他の構成成分は、本明細書で開示した方法を用いて前記試料中のesRAGE量を評価するためのものであることが好ましい。
参考例:海馬の容量の比較
剖検例を使用し、健常コントロールとアルツハイマー病患者の脳の海馬を比較した写真を図1に示す。黒で囲った部分は特に記憶に関係する部分である。
図1に示されるように、アルツハイマー病患者では側頭葉下部に位置する海馬領域の高度の萎縮が認められる。
実施例1:esRAGE特異抗体による染色1
アルツハイマー病患者と健常コントロールの脳の海馬を、esRAGE特異抗体を用いて染色し、比較した。
アルツハイマー病患者の脳サンプルは死亡時78歳の女性からのものである。66歳ころから記憶障害が発生し76歳時より医療法人さわらび会福祉村病院に入院中であった。洞不全症候群もあり、77歳から徐脈傾向。78歳ころから肺炎の軽快・増悪を繰り返し呼吸不全にて死亡した。神経病理学的には典型的なアルツハイマー病であった。一方、健常コントロールの脳サンプルは死亡時91歳の女性からのものである。87歳より数回の脳梗塞を併発している。X年7月に右後頭葉に脳梗塞を認め医療法人さわらび会福祉村病院に入院した。8月に胃ろうを増設し経管栄養管理となった。X+1年2月に大量に嘔吐し、誤嚥性の呼吸不全、右肺大葉性肺炎に陥り死亡した。神経病理学的には脳梗塞を右後大脳動脈領域にみとめ、他にも多発性の脳梗塞を認めたが、アルツハイマー病変化は皆無であった。
使用したesRAGE特異抗体は、ヒトesRAGEのC末端の16アミノ酸部分に対するウサギポリクローナル抗体である。具体的には、抗原となるペプチドとして、配列表の配列番号1のC末端の16個のアミノ酸の配列 (第332番〜第347番) からなるポリペプチドを化学合成し、その際にキャリア蛋白との結合に使用するためにC末にCysを加えておいた。キャリア蛋白としてはKLH (Keyhole Limpet Hemocyanin)を使用し 、KLH-Peptideで、それらをFreund's Complete Adjuvantと混合、エマルジョンを作製し、ウサギに免疫を開始した。2回目以降の免疫はFreund's Incomplete Adjuvantを用いた。抗体価の上昇を確認し抗血清を得、その後免疫に使用した合成ぺプチドでカラムクロマトグラフィーを行うことでアフィニティー精製した。これを抗esRAGE抗体として使用した。
こうして得られた抗esRAGE抗体を用いて免疫染色を行った。免疫染色は、一般的なプロトコールにしたがってEnvision法による酵素抗体法を施行した。
結果を図2に示す。図2において、上段は健常コントロールの脳の海馬の染色結果(低倍率x40倍,高倍率x400倍)を示し、下段はアルツハイマー病患者の脳の海馬の染色結果(低倍率x40倍,高倍率x400倍)を示す。上下各段の右図は左図の枠内の拡大図である。アルツハイマー病の脳においては、コントロールに比べて神経細胞(錐体ニューロン)の数の減少が認められた。また、残存している神経細胞のesRAGEの染色性が欠落していることが認められた。図2中の矢印は海馬錐体細胞(神経細胞)を示している。アルツハイマー病患者では神経細胞は存在するがesRAGEの染色性はないことが分かる。一方、コントロールの脳では神経細胞の細胞質が濃く染色されたことから、esRAGEが細胞質に多く含まれることが確認された。
図2下段の写真を更に拡大した写真(高倍率x1200倍)を図3に示す。図3中の矢印は海馬錐体細胞(神経細胞)を示している。図3から、アルツハイマー病患者の脳の海馬におけるesRAGE特異抗体による染色性の低下は矢印で示す神経細胞のみに特異的に生じる現象であり、その他のグリア細胞の染色性は保たれていることが確認された。
実施例2: esRAGE特異抗体による染色2
実施例1とは異なるアルツハイマー病患者と健常コントロールの脳の海馬について、実施例1と同様の手順によりesRAGE特異抗体で染色し、比較した。
結果を図4に示す。図4において、上段は健常コントロールの脳の海馬の染色結果(低倍率x40倍,高倍率x400倍)を示し、下段はアルツハイマー病患者の脳の海馬の染色結果(低倍率x40倍,高倍率x400倍)を示す。上下各段の右図は左図の枠内の拡大図である。図4中の矢印は海馬錐体細胞(神経細胞)を示している。
本実験においても実施例1と同様の傾向が認められた。
実施例3: 特異性の異なる3種類の抗体による染色
アルツハイマー型老年痴呆患者の脳に対して、特異性の異なる3種類の抗体を用いて染色を行った。比較のために、脳梗塞患者又は健常コントロールの脳に対しても同様の染色を行った。
本実験で使用した3種類の抗体とは、抗膜型RAGE抗体、抗全RAGE抗体、及び抗esRAGE抗体である。膜型RAGE(完全長RAGE)は、C末端からN末端の方向に順に、細胞内ドメイン、膜貫通ドメイン、Cドメイン、Cドメイン、Vドメインを有する。一方esRAGEは、細胞内ドメイン及び膜貫通ドメインが欠損しており、C末端からN末端の方向に順に、Cドメイン、Cドメイン、Vドメインを有する。従って、細胞内ドメインに特異的に結合する抗体は膜型RAGE特異的抗体(抗膜型RAGE抗体)となり、Vドメインに特異的に結合する抗体は膜型RAGE及びesRAGEの両者に結合する抗体(抗全RAGE抗体)となり、esRAGEのC末端領域に特異的に結合する抗体はesRAGE特異的抗体(抗esRAGE抗体)となる。
抗膜型RAGE抗体は、ヒト膜型RAGEのC末端の20アミノ酸部分に対するヤギポリクローナル抗体(RAGE(C-20)goat polyclonal antibody、Santa Cruz Biotechnology社)である。
抗全RAGE抗体は、ヒトRAGEのVドメインに対するヤギポリクローナル抗体である(RAGE goat polyclonal antibody、Chemicon International社)。
抗esRAGE抗体は実施例1で使用したものと同一である。
免疫染色は、一次抗体として上記の3種類の抗体のいずれかを使用した点と、一次抗体として抗膜型RAGE抗体、抗全RAGE抗体を使用した場合には実施例1における「ウサギポリクローナル抗体に対するペルオキシダーゼ標識ポリマー (EnVision, DAKO,アメリカ合衆国カリフォルニア州カーピンテリア)」に代えて「ヤギポリクローナル抗体に対するペルオキシダーゼ標識ポリマー (Histofine, Simple Stain, NICHIREI, 東京)」を使用した点を除いて、実施例1と同様の手順で行った。
結果を図5に示す。図5において、左列は抗膜型RAGE抗体による染色結果を示し、中列は抗全RAGE抗体による染色結果を示し、右列は抗esRAGE抗体による染色結果を示す。各写真が、どの検体の脳に由来する写真であるかは、各写真中の説明を参照されたい。第1段及び第3段は低倍率(x40倍)での写真であり、第2段及び第4段は高倍率(x400倍)での写真である。
図5から、アルツハイマー型老年痴呆患者の脳においては、神経細胞に膜型RAGEは存在するものの、esRAGEの量は少なくなっていることが認められた。一方、脳梗塞患者又は健常コントロールの脳の神経細胞には膜型RAGE、esRAGEともに存在していることが認められた。
健常コントロールとアルツハイマー病患者の脳の海馬を比較した写真である。 esRAGE特異抗体を用いて染色された、アルツハイマー病患者と健常コントロールの脳の海馬の写真である。 esRAGE特異抗体を用いて染色された、アルツハイマー病患者の脳の海馬の写真である。 esRAGE特異抗体を用いて染色された、アルツハイマー病患者と健常コントロールの脳の海馬の写真である。 3種類の抗体を用いて染色された、アルツハイマー型老年痴呆患者、脳梗塞患者、健常コントロールの脳試料の写真である。 アルツハイマー病に対する既存の診断指標を示す図である。 本発明により提供される、アルツハイマー病に対する診断指標を示す図である。

Claims (11)

  1. 被検体から単離された神経細胞を含有する海馬に由来する試料中の、神経細胞の細胞質における内在性分泌型後期糖化反応生成物受容体 (esRAGE) の量をアルツハイマー病の指標とする方法。
  2. 被検体から単離された前記試料中のesRAGEの量と、対照検体から単離された神経細胞を含有する試料中のesRAGEの量とを対比する工程と、
    被検体から単離された前記試料中のesRAGEの量が、対照検体から単離された神経細胞を含有する試料中のesRAGEの量と対比して少ないことを、被検体がアルツハイマー病に罹患している、あるいは対照検体と比較してより重度のアルツハイマー病患者であることの指標とする工程とを含む、請求項1記載の方法。
  3. 被検体から単離された前記試料が神経細胞とグリア細胞とを含有するものであり、
    前記試料中の神経細胞におけるesRAGEの量と、グリア細胞におけるesRAGEの量とを対比する工程と、
    神経細胞におけるesRAGEの量が、グリア細胞におけるesRAGEの量と対比して少ないことを、被検体がアルツハイマー病に罹患していることの指標とする工程とを含む、請求項1記載の方法。
  4. esRAGEの量の評価が、esRAGEに特異的に結合し得る抗体を用いて行われる、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  5. esRAGEに特異的に結合し得る抗体を用いた免疫染色法により、被検体から単離された前記試料中のesRAGEを染色する工程と、
    esRAGEに特異的に結合し得る抗体を用いた免疫染色法により、対照検体から単離された神経細胞を含有する試料中のesRAGEを染色する工程と、
    被検体から単離された前記試料中の神経細胞の染色強度と、対照検体から単離された前記試料中の神経細胞の染色強度とを対比する工程と、
    被検体から単離された前記試料中の神経細胞の染色強度が、対照検体から単離された前記試料中の神経細胞の染色強度と対比して弱いことを、被検体がアルツハイマー病に罹患している、あるいは対照検体と比較してより重度のアルツハイマー病患者であることの指標とする工程とを含む、請求項4記載の方法。
  6. 被検体から単離された前記試料が神経細胞とグリア細胞とを含有するものであり、
    esRAGEに特異的に結合し得る抗体を用いた免疫染色法により、前記試料中のesRAGEを染色する工程と、
    前記試料中の神経細胞の染色強度と、グリア細胞の染色強度とを対比する工程と、
    神経細胞の染色強度が、グリア細胞の染色強度と対比して弱いことを、被検体がアルツハイマー病に罹患していることの指標とする工程とを含む、請求項4記載の方法。
  7. 前記抗体が、配列表の配列番号1のC末端の16個のアミノ酸の配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体である、請求項46のいずれか1項記載の方法。
  8. esRAGEに特異的に結合し得る抗体を含有し、該抗体が請求項46のいずれか1項記載の方法に使用されるものであることを特徴とする、アルツハイマー病の診断薬。
  9. 前記抗体が、配列表の配列番号1のC末端の16個のアミノ酸の配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体である、請求項8記載の診断薬。
  10. esRAGEに特異的に結合し得る抗体を含有し、該抗体が請求項46のいずれか1項記載の方法に使用されるものであることを特徴とする、アルツハイマー病の診断用キット。
  11. 前記抗体が、配列表の配列番号1のC末端の16個のアミノ酸の配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体である、請求項10記載の診断用キット。
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