JP4063132B2 - 塗装方法 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は、自動車ボディ等に適用して好ましい塗装方法に関し、特に下塗り塗料と中塗り塗料とをウェットオンウェットで塗装し、これを同時に焼き付ける2コート1ベーク系の塗装方法に関する。
【0002】
【背景技術】
自動車ボディの塗装系は、エポキシ系樹脂を主剤とする電着塗料などが適用される下塗り塗装と、ポリエステル系樹脂を主剤とする中塗り塗料と、同じくポリエステル系塗料を主剤とする上塗り塗料の3種の塗料を用い、下塗り塗装を施したのちこれを焼き付け、硬化した下塗り塗膜の上に中塗り塗装を施したのちこれを焼き付け、硬化した中塗り塗膜の上に上塗り塗装を施したのちこれを焼き付けることで完成する、いわゆる3コート3ベーク系の塗装方法が採用されている。
【0003】
ところが、こうした3コート3ベーク塗装系では、下塗り塗装工程、中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程のそれぞれに乾燥炉が必要とされるので、乾燥炉を設置するための広い工程スペースが必要となり、また乾燥炉で消費されるエネルギが自動車の生産コストに反映する。
【0004】
そこで、これら3つの工程に設けられた乾燥炉を2つ以下に減じて上記問題を解決するために、下塗り塗装と中塗り塗装又は中塗り塗装と上塗り塗装をウェットオンウェットで塗装することが検討されている。
【0005】
しかしながら、下塗り塗装と中塗り塗装とをウェットオンウェットで塗装し、これらを同時に焼き付ける塗装系では、以下の問題があった。
【0006】
すなわち、下塗り塗料の焼き付け温度は170℃×20分保持であるのに対し、中塗り塗料の焼き付け温度は140℃×20分保持であるため、これらを同時に焼き付けると、図5に示すように上層に塗装された中塗り塗膜が140℃近傍で先に硬化し始めたのちに下層に塗装された下塗り塗膜が170℃近傍で硬化し始める。
【0007】
このため、下層の下塗り塗膜が硬化する際に、その溶剤が、既に硬化が進行している中塗り塗膜を突き破って蒸発するワキ不具合や、中塗り塗膜が硬化したのちに下塗り塗膜が硬化して収縮することで中塗り塗膜が肌不良になるといった問題があった。
【0008】
【発明の開示】
本発明は、ワキ不具合や肌不良といった塗装不良を防止しつつ下塗り塗装と中塗り塗装とのウェットオンウェット塗装系が実現できる塗装方法を提供することを目的とする。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明によれば、少なくとも下塗り塗料、中塗り塗料及び上塗り塗料の3つの塗料を塗装する塗装方法において、中塗り塗料の硬化温度よりも硬化温度が低い下塗り塗料を用い、前記下塗り塗料を塗装し、ウェットオンウェットで前記中塗り塗料を塗装し、これらを同時に焼き付け硬化させ、前記上塗り塗料を塗装することを特徴とする塗装方法が提供される。
【0010】
本発明では、中塗り塗料の硬化温度T2よりも硬化温度T1が低い下塗り塗料を用いる(すなわち、T1<T2)。そして、これら下塗り塗料と中塗り塗料とをウェットオンウェットで塗装したのち同時に焼き付け硬化させるので、焼き付け硬化時において、下層に塗装された下塗り塗料が先に硬化を開始し、次いで上層に塗装された中塗り塗料が硬化を開始する。これにより、下層の下塗り塗料の溶剤は、未硬化状態である上層の中塗り塗膜を突き破ることなく適切に蒸発することができ、ワキ不具合の発生を防止することができる。また、上層の中塗り塗膜は下層の下塗り塗膜が略硬化したのち硬化するので、中塗り塗膜の肌不良を防止することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態に係る塗装方法を示す工程図である。
【0012】
本実施形態に係る塗装方法は、下塗り塗装、中塗り塗装及び上塗り塗装の3コート系の塗装系において、下塗り塗装と中塗り塗装とをウェットオンウェットで塗装し、これらを同時に焼き付けたのち上塗り塗装を施す、いわゆる3コート2ベークの塗装系である。下塗り塗装と中塗り塗装に関していえば2コート1ベークの塗装系である。
【0013】
すなわち、洗浄・前処理された被塗物である自動車ボディを電着槽に浸漬させることで電着塗装を施し、これを焼き付け硬化させることなく中塗りブースに搬送し、未硬化の電着塗膜上に中塗り塗料を塗装したのち、中塗り乾燥炉にてこれら未硬化の電着塗膜及び中塗り塗膜を同時に焼き付ける。
【0014】
ここで、本実施形態で用いられる電着塗料と中塗り塗料は、電着塗料の硬化温度T1が中塗り塗料の硬化温度T2よりも低い。従来の電着塗料の硬化条件は170℃×20分保持が一般的であり、また中塗り塗料の硬化条件は140℃×20分保持が一般的であるが、本実施形態では、たとえば電着塗料の硬化温度T1を140℃とし、中塗り塗料の硬化温度T2を170℃とする。それぞれの硬化温度保持時間については特に限定されないが、たとえば何れも20分以上である。
【0015】
電着塗料の硬化温度T1を既存の電着塗料の硬化温度に比べて低温化させる手法としては、たとえば、電着塗料が基体樹脂としてのエポキシ系樹脂と、架橋剤としてのブロックポリイソシアネートとを含む材質である場合には、ブロックポリイソシアネートをブロックするアルコール系ブロック剤に、既存のアルコール系ブロック剤より短いアルキル基のアルコール系ブロック剤を採用する。短いアルキル基のアルコール系ブロック剤を用いることでブロック剤の解離温度が低下し、これにより電着塗料の反応温度を低温化させることができる。
【0016】
また、中塗り塗料の硬化温度T2を既存の中塗り塗料の硬化温度に比べて高温化させる手法としては、たとえば、中塗り塗料が水酸基とカルボキシル基とを有する基体樹脂と、架橋剤としてのブロックポリイソシアネートとを含む材質である場合には、ブロックポリイソシアネートをブロックするアルコール系ブロック剤に、既存のアルコール系ブロック剤より長いアルキル基のアルコール系ブロック剤を採用する。長いアルキル基のアルコール系ブロック剤を用いることでブロック剤の解離温度が上昇し、これにより中塗り塗料の反応温度を高温化させることができる。
【0017】
また、中塗り塗料の硬化温度を高温化させる他の手法として、中塗り塗料が水酸基とカルボキシル基とを有する基体樹脂と、架橋剤としてのブロックポリイソシアネートとを含む材質である場合には、中塗り塗料中に中和しているアミンについて既存のアミンよりも高沸点のアミンを採用する。これによりアミンと水との結合力が低下し、極力長い時間カルボキシル基をブロックすることができるので、中塗り塗料の反応温度を高温化させることができる。
【0018】
なお、本実施形態では、電着塗料の硬化温度を140℃、中塗り塗料の硬化温度を170℃としたが、この具体的数値は特に限定されるものではなく、本発明の塗装方法では任意の数値にすることもできる。
【0019】
次に本実施形態の塗装方法を適用した塗装ラインの一例を説明する。図2は本発明の実施形態に係る塗装方法を適用した塗装ラインを示す図、図3は本発明の実施形態に係る塗装方法の中塗り乾燥炉における時間と温度との関係及び時間と粘度との関係を示すグラフ、図4は中塗り乾燥炉の設定温度を示す図である。
【0020】
ホワイトボディとして組み立てられた自動車ボディは、車体組立工程から塗装工場に搬入され、最初の前処理ブース1にて、ボディに付着した油や塵埃が除去されるとともに、ボディを構成する鋼板表面に防錆用化成被膜が形成される。
【0021】
前処理ブース1を通過することで清浄及び化成被膜が形成されたボディは、電着塗料が満たされた電着塗装槽2に搬送され、電着塗料に浸漬される。電着塗装槽2では電着塗料に高電圧が印加されることにより電着塗料が電気泳動し、これによりボディに電着塗膜が形成される。電着塗装槽2を出槽したボディは、電着水洗ブース3に搬入され、ここでボディに付着した余分な電着塗料が洗い流される。ここで、硬化条件を140℃×20分保持とした電着塗料を電着塗装槽2に満たしておく。
【0022】
従来の塗装方法では、電着水洗を終了したボディを電着乾燥炉に搬入し、電着塗膜を焼き付け硬化させるが、本実施形態では電着乾燥炉を設けずに、電着塗膜が未硬化の状態でボディを中塗りブース4へ搬入する。なお、既存の塗装ラインをそのまま使用する場合には、電着乾燥炉の運転を停止して未硬化の電着塗膜が形成されたボディをそのまま通過させる。
【0023】
中塗りブース4では、硬化条件を170℃×20分保持にした中塗り塗料をボディに塗装する。塗装方法は特に限定されず、ベル式塗装ガンやスプレー式塗装ガンなどを用いて塗装する。また、中塗り塗料の材質も特に限定されず、水系塗料及び有機溶剤系塗料の何れも使用することができるが、電着塗料が水系塗料である場合には中塗り塗料も水系塗料を用いることがより好ましい。
【0024】
未硬化の電着塗膜の上に中塗り塗料が塗布されたボディは中塗り乾燥炉5に搬入され、ここで電着塗膜及び中塗り塗膜が同時に焼き付け硬化される。
【0025】
ここで、本実施形態の中塗り乾燥炉5の設定温度は、図4に示すように入口側の第1ゾーンを電着塗料の硬化温度以上かつ中塗り塗料の硬化温度未満である、たとえば140℃に設定し、出口側の第2ゾーンを中塗り塗料の硬化温度以上である170℃に設定している。ただし、これら140℃及び170℃という数値は本発明を限定するものではない。
【0026】
図3は、このように設定された中塗り乾燥炉5におけるボディの昇温曲線と塗膜の粘度曲線を示すグラフであり、本実施形態では電着塗料の硬化温度T1が中塗り塗料の硬化温度T2よりも低いので、同図上に示すようにボディ温度が140℃近傍に達したときに、電着塗膜のみが硬化反応を開始する。この状態では中塗り塗膜の硬化反応は開始されていない。
【0027】
そして、同図下の粘度曲線に示すように、中塗り乾燥炉5の第1ゾーンでは、電着塗膜及び中塗り塗膜ともに、それぞれに含まれた溶剤成分が温度上昇にともなって蒸発し、これによる粘度上昇が観察されるが、ボディ温度が電着塗料のガラス転移点を超えると電着塗膜の粘度が一旦低下する。
【0028】
さらにボディ温度が170℃近傍まで達すると、電着塗膜の硬化は終期を迎えるとともに中塗り塗料のガラス転移点を超えたところで中塗り塗膜の粘度が一旦低下し、ここで中塗り塗膜の塗肌が平滑になる。このとき、下層にある電着塗膜は硬化をほぼ終了しているので、中塗り塗膜の平滑性はそのまま維持されることになる。そして、さらにボディ温度が上昇すると中塗り塗膜は硬化反応を開始し、これにより中塗り塗膜の粘度が再び上昇する。
【0029】
中塗り乾燥炉5を通過したボディには、硬化した電着塗膜及び中塗り塗膜が形成され、次にこれを上塗りブース6に搬入する。上塗りブース6では従来公知の方法により上塗り塗料が塗装され、次の上塗り乾燥炉7にて上塗り塗膜が焼き付け硬化される。
【0030】
以上のように、本実施形態の塗装方法によれば、従来必要とされた電着乾燥炉が不要となるので、塗装ラインの工程スペースが格段に縮小される。また、電着乾燥炉にて使用されていた熱エネルギーも不要となるので生産コストを低減させることができる。
【0031】
これに加えて、電着塗膜と中塗り塗膜とが同一の硬化条件で焼き付け硬化するので、ワキ不具合や肌不良といった塗装不具合を防止することができる。
【0032】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る塗装方法を示す工程図である。
【図2】本発明の実施形態に係る塗装方法を適用した塗装ラインを示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る塗装方法の中塗り乾燥炉における時間と温度との関係及び時間と粘度との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態に係る塗装方法の中塗り乾燥炉における設定温度を示す図である。
【図5】従来の塗装方法の中塗り乾燥炉における時間と温度との関係及び時間と粘度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1…前処理ブース
2…電着塗装槽
3…電着水洗ブース
4…中塗り塗装ブース
5…中塗り乾燥炉
6…上塗り塗装ブース
7…上塗り乾燥炉
Claims (7)
- 少なくとも下塗り塗料、中塗り塗料及び上塗り塗料の3つの塗料を塗装する塗装方法において、
溶剤を含み、中塗り塗料の硬化温度よりも硬化温度が低い下塗り塗料を用い、
前記下塗り塗料を塗装し、ウェットオンウェットで前記中塗り塗料を塗装し、これらを同時に焼き付け硬化させ、前記上塗り塗料を塗装する塗装方法であって、
前記下塗り塗料と中塗り塗料とを同時に焼き付けるに際し、
第1の焼き付け工程は、前記下塗り塗料の硬化温度以上かつ前記中塗り塗料の硬化温度未満の温度で焼き付け、
第2の焼き付け工程は、前記中塗り塗料の硬化温度以上の温度で焼き付けることを特徴とする塗装方法。 - 前記下塗り塗料の硬化温度は、前記中塗り塗料の硬化温度より20℃〜40℃低いことを特徴とする請求項1記載の塗装方法。
- 前記中塗り塗料の硬化温度が170℃±5℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装方法。
- 前記中塗り塗料が水系塗料であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の塗装方法。
- 前記下塗り塗料は、基体樹脂としてのエポキシ系樹脂と、架橋剤としてのブロックポリイソシアネートとを含み、前記ブロックポリイソシアネートは、アルキル基を有するアルコール系ブロック剤でブロックされた請求項1〜4の何れかに記載の塗装方法。
- 前記中塗り塗料は、水酸基とカルボキシル基とを有する基体樹脂と、架橋剤としてのブロックポリイソシアネートとを含み、前記ブロックポリイソシアネートは、アルキル基を有するアルコール系ブロック剤でブロックされた請求項1〜5の何れかに記載の塗装方法。
- 前記中塗り塗料は、水酸基とカルボキシル基とを有する基体樹脂と、架橋剤としてのブロックポリイソシアネートと、アミンとを含む請求項1〜6の何れかに記載の塗装方法。
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