JP4060154B2 - 建築物の温度上昇抑制方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築物の屋根、屋上、外壁などの外装面被膜表面に水を供給することにより、建築物の温度上昇を抑制する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、都市部において、コンクリート建造物や冷房等から排出される人工放射熱などにより、都市気候が作り出されている。特に夏期において都市部における屋外の温度上昇は著しく、ヒートアイランド現象と呼ばれる問題を引き起こしている。これに対し、建築物内部においては、冷房の使用によって屋内温度を下げることが頻繁に行われるが、冷房の多用は消費電力エネルギーを増加させるだけでなく、室外機からの排気によって屋外の温度上昇を助長している。
【0003】
建築物の温度上昇を抑制する方法としては、例えば、特開平6−100796号に開示された塗材等を塗付する方法がある。しかしながら、このような方法では、必ずしも十分な温度上昇抑制効果が得られない場合があった。
建築物の温度上昇を抑制する別の方法としては、例えば、特開平4−186030号に開示されているように、屋根に散水を行うことにより、その気化潜熱で屋根を冷却する方法がある。しかしながら、該公報に記載されたような散水構造を設けるだけでは、水が短時間に流下してしまうため、効率的な冷却効果を得ることができず、また、屋根表面に供給された水は、筋状に流れ落ちるため、屋根全体を均一に冷却することができないという問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、建築物の温度上昇を十分に抑制することができる方法を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は鋭意検討の結果、建築物外装面に形成された特定被膜の表面に水を供給する方法に想到し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は下記の特徴を有するものである。
1.建築物外装面の被膜表面に水を供給することにより、建築物の温度上昇を抑制する方法であって、該被膜が下塗層及び上塗層を有し、上塗層の被膜表面の水に対する接触角が70°以下であり、上塗層が、(a)テトラアルコキシシラン化合物、(b)触媒、(c)水、及び(d)溶剤を含有する上塗材組成物により形成されたものであり、下塗層が、(p)合成樹脂及び、(q)アルコキシシラン化合物、(r)ポリエーテル変性ポリシロキサン化合物を含有し、(q)アルコキシシラン化合物が、(q−1)炭素数1〜2のアルコキシル基と炭素数3以上のアルコキシル基を含有するアルコキシシランの縮合物である下塗材組成物により形成されたものであることを特徴とする建築物の温度上昇抑制方法。
2.(q)アルコキシシラン化合物が(q−2)繰り返し単位の炭素数が1〜4のポリオキシアルキレン基と炭素数が1〜4のアルコキシル基を含有するアルコキシシランの縮合物であることを特徴とする1.に記載の建築物の温度上昇抑制方法。
3.建築物外装面の被膜表面に水を供給することにより、建築物の温度上昇を抑制する方法であって、該被膜が下塗層及び上塗層を有し、上塗層の被膜表面の水に対する接触角が70°以下であり、上塗層が、(a)テトラアルコキシシラン化合物、(b)触媒、(c)水、及び(d)溶剤を含有する上塗材組成物により形成されたものであり、下塗層が、(p)合成樹脂及び、(q)アルコキシシラン化合物を含有し、(q)アルコキシシラン化合物が(q−2)繰り返し単位の炭素数が1〜4のポリオキシアルキレン基と炭素数が1〜4のアルコキシル基を含有するアルコキシシランの縮合物である下塗材組成物により形成されたものであることを特徴とする建築物の温度上昇抑制方法。
4.(p)合成樹脂が合成樹脂エマルションであることを特徴とする2.または3.に記載の建築物の温度上昇抑制方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をその実施の形態とともに詳細に説明する。
【0008】
[上塗層]
本発明における建築物外装面の最表面には、被膜表面の水に対する接触角が70°以下である上塗層が形成される。このような上塗層は、親水性が高く保水性能にも優れることから、上塗層に水を供給すると、その供給量が少量であっても水が上塗層の表面に十分に濡れ広がる。そして、水が蒸発する際の気化潜熱によって建築物の温度上昇を抑制することができる。上塗層の水に対する接触角は、70°以下であることが必要であるが、望ましくは50°以下、さらに望ましくは30°以下である。
【0009】
このような上塗層は、(a)テトラアルコキシシラン化合物、(b)触媒、(c)水、及び(d)溶剤を含有する上塗材組成物により形成することができる。
【0010】
(a)テトラアルコキシシラン化合物(以下「(a)成分」という)としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等、あるいはこれらの縮合物が挙げられる。このうち、本発明における(a)成分としては、テトラメトキシシラン及び/またはその縮合物が好適に用いられる。
【0011】
本発明では、(a)成分以外のアルコキシシラン化合物を併用することもできる。このようなアルコキシシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン等、あるいはこれらの縮合物が挙げられる。また、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、オキシアルキレン基等を含有するアルコキシシラン化合物を使用することもできる。
【0012】
(b)触媒(以下「(b)成分」という)は、(a)成分の加水分解反応に作用する成分である。具体的には、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸;酢酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、アミン化合物などのアルカリ触媒;ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物;アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)等の有機アルミニウム化合物;チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)等の有機チタニウム化合物;ジルコニウムテトラキス(セチルアセトネート)等の有機ジルコニウム化合物;ホウ酸等のホウ素化合物などが挙げられる。
【0013】
(b)成分の混合量は、(a)成分のSiO2換算量100重量部に対して、0.1〜10重量部、望ましくは0.5〜5重量部である。(b)成分が0.1重量部より少ない場合は、上塗材組成物の貯蔵安定性が低下したり、形成被膜の親水性が十分に発現されないおそれがある。10重量部を超える量では、混合量に見合う効果発現が望めない。
【0014】
ここでSiO2換算とは、アルコキシシラン化合物等のSi−O結合をもつ化合物を、完全に加水分解した後に、900℃で焼成した際にシリカ(SiO2)となって残る重量分にて表したものである。
一般に、アルコキシシラン化合物等は、水と反応して加水分解反応が起こりシラノールとなり、さらにシラノール同士やシラノールとアルコキシにより縮合反応を起こす性質を持っている。この反応を究極まで行うと、シリカ(SiO2)となる。これらの反応は
RO(Si(OR)2O)nR+(n+1)H2O→nSiO2+(2n+2)ROH
(Rはアルキル基を示す。nは整数。)
という反応式で表されるが、この反応式をもとに残るシリカ成分の量を換算したものである。
【0015】
(c)水(以下「(c)成分」という)の混合量は、(a)成分のSiO2換算量100重量部に対して、100〜50000重量部、望ましくは500〜10000重量部である。このような混合量であることにより、(c)成分との反応より生成する(a)成分のシラノール基の縮合反応が抑制され、形成被膜が十分な親水性を発現することが可能となる。(c)成分の混合量が、100重量部より少ない場合は、上塗材組成物の貯蔵安定性が確保し難く、また形成被膜における親水性発現効果も低下する。50000重量部より多い場合は、形成被膜における親水性発現効果を得ることが困難となる。
【0016】
(d)溶剤(以下「(d)成分」という)としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体の他、炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類等が挙げられる。このうち、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルから選ばれる1種以上が、上塗材組成物の貯蔵安定性及び形成被膜の親水性発現性の点から好適に用いられる。
(d)成分の混合量は、(a)成分のSiO2換算量100重量部に対して、100〜50000重量部、望ましくは500〜10000重量部である。100重量部より少ない場合は、上述の(a)、(b)、(c)成分を均一に溶解させることが困難となる。50000重量部より多い場合は、形成被膜における親水性発現効果を得ることが困難となる。
【0017】
本発明の上塗材組成物においては、上述の成分の他、例えば、無機酸化物ゾル、樹脂、顔料、染料、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、界面活性剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を混合することもできる。
無機酸化物ゾルとしては、例えば、酸化ケイ素ゾル、酸化アルミニウムゾル、酸化アンチモンゾル、酸化ジルコニウムゾル等を挙げることができる。このような無機酸化物ゾルは、各種シランカップリング剤で処理したものでもよい。
樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ブチラール樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらを複合した樹脂等を挙げることができる。このうち、樹脂中の官能基として、例えば、水酸基、カルボキシル基、アルコキシル基等を有するものは(a)成分との反応性を付与することもできる。
顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化第二鉄、黄色酸化鉄、群青、コバルトグリーン等の無機系着色顔料、アゾ系、ナフトール系、ペリレン系、キナクリドン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系等の有機系着色顔料、重質炭酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、ホワイトカーボン、珪藻土等の体質顔料等を使用することができる。但し、光触媒機能を有する成分の使用は、経時的な密着性の低下、着色被膜の退色、金属基材の腐食、光触媒作用の低下等のおそれがあることから、避けることが望ましい。
【0018】
[下塗層]
本発明において下塗層を設ける場合は、(p)合成樹脂(以下「(p)成分」という)及び、(q)アルコキシシラン化合物(以下「(q)成分」という)を含有する下塗材組成物により下塗層を形成させる。このような下塗材組成物を用いることにより、上塗層との密着性を十分に確保し、長期にわたり安定した冷却効果を発現することができる。
【0019】
(p)成分としては、例えば、エチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等の水系、溶剤系の何れの樹脂も使用することができる。特に、アクリル系、ウレタン系、シリコン系、フッ素系から選ばれる1種または2種以上の樹脂を用いると耐候性を高めることができ好ましい。
【0020】
(q)成分は、下塗層被膜の形成途上において被膜の表面に局在化し、上塗層との密着性向上に寄与することができるものである。本発明では、被膜表面への局在化のしやすさ等の点から、特に、(q)成分として、
(q−1)炭素数が1〜2のアルコキシル基と、炭素数が3以上のアルコキシル基を含有するアルコキシシランの縮合物(以下、「(q−1)成分」という。)、または、
(q−2)繰り返し単位の炭素数が1〜4のポリオキシアルキレン基と、炭素数が1〜4のアルコキシル基を含有するアルコキシシランの縮合物(以下、「(q−2)成分」という。)、
を使用することが望ましい。
【0021】
(q−1)成分においては、アルコキシル基が、炭素数1〜2と炭素数3以上のものが混在していることにより、表面配向性に優れた被膜が形成できる。炭素数が1〜2のアルコキシル基のみの場合、あるいは炭素数が3以上のアルコキシル基のみの場合は、表面配向性が不十分となり、十分な密着性を確保することが困難となる。
(q−1)成分としては、該低縮合物全体のアルコキシル基のうち、約5〜50当量%が炭素数3以上のアルコキシル基となるようにしたものが好適に用いられる。
【0022】
(q−1)成分の平均縮合度は4〜20であることが望ましい。平均縮合度が20より大きいものは、粘度上昇等により取り扱いが不便となり、平均縮合度が4より小さいのものは、揮発性が高くなりやはり取り扱いが不便となる。
【0023】
このような(q−1)成分は、公知の方法により製造することができるが、例えば、炭素数1〜2のアルコキシル基を有するテトラアルコキシシラン縮合物を、炭素数3以上のアルコールでエステル交換反応により変性する方法等があげられる。
【0024】
(q−2)成分は、特に(p)成分が合成樹脂エマルションである場合に好適に用いることができる。
(q−2)成分のアルコキシル基の炭素数は1〜4である。炭素数が4を超えると、表面配向性が低下する傾向となる。
ポリオキシアルキレン基の平均分子量は、150〜2000であることが望ましい。平均分子量が150未満の場合は、(p)成分との相溶性が低下し被膜が白濁しやすく、2000を超えると被膜の耐水性、強度等が低下する傾向となる。
また、(q−2)の平均縮合度は1〜20であることが望ましい。平均縮合度が20を超えると、取り扱いが不便になる。
【0025】
(q−2)成分は、公知の方法により製造することが可能であるが、例えば、アルコキシシラン縮合物の1種または2種以上の混合物を、ポリオキシアルキレン基含有化合物1種または2種以上でエステル交換反応させる方法、カップリング剤を用いて付加反応させる方法等があげられる。
【0026】
このような(q)成分は、(p)成分の固形分100重量部に対して、SiO2換算で1.0〜50.0重量部、好適には2.0〜30.0重量部配合することが望ましい。1.0重量部未満では密着性向上効果が得られ難く、50.0重量部を超えると、硬化被膜の外観が悪化したり、クラックが生じるといった問題が発生しやすくなる。
【0027】
さらに下塗層には、(r)ポリエーテル変性ポリシロキサン化合物(以下「(r)成分」という)を含有することが好ましい。(r)成分は、主に濡れ性を向上させる成分であり、建築外装面に下塗材組成物を塗装する場合、下塗材組成物の垂れやはじき等を抑えることができ、優れた塗装作業性を付与することができるため、均一で平滑な下塗層を容易に形成することができる。また、下塗材組成物により形成される下塗層の上に上塗材組成物を塗装する場合も、上塗材組成物の垂れやはじき等を抑え、優れた塗装作業性を付与することができるため、均一で平滑な上塗層を容易に形成することができる。このような(r)成分としては、特に限定されないが、例えば、化1に示されるものが挙げられる。
【0028】
【化1】
【0029】
式中のR1は、メチル基、エチル基、R2、R3は、メチル基、エチル基またはR4で示される基、R4は−R5(CH2CH2O)a(CH2CH(CH3)O)bR6(R5は、例えば、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜3)等が挙げられる。R6は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜12のアルキル基、シクロヘキシル基などの炭素数6〜12のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基などの炭素数2〜8のアルケニル基、フェニル基、トリル基などの炭素数6〜12のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基などの炭素数7〜12のアラルキル基、及びこれらの基の水素原子の少なくとも一部をハロゲン原子、シアノ基などで置換した基、例えばクロロメチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられる。a及びbはそれぞれ0〜20の整数であり、a+b≧1である。)、n及びmはそれぞれ0〜100の整数であり、但しn=0の時は、R2及び/又はR3はR4とする。
【0030】
(r)成分は、(p)成分の固形分100重量部に対して、0.05〜15重量部、好適には0.3〜5重量部配合することが望ましい。0.05重量部未満では濡れ性向上効果が得られ難く、塗装作業性に劣る場合があり、15重量部を超えると、建築外装面、上塗層との密着性に劣る場合がある。
【0031】
下塗材組成物においては、本発明の効果を損わない限り、上記成分以外の各種の添加剤、例えば、顔料、骨材、増粘剤、レベリング剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を含むこともできる。
【0032】
[被膜形成方法]
本発明では、屋根、屋上、外壁などの建築物外装面に対し被膜を設ける。外装面の基材としては、特に限定されず、例えば、コンクリート、モルタル、金属、プラスチック、あるいはスレート板、押出成形板、サイディングボード等の各種ボード類等が挙げられる。本発明では、このような基材を有する既存の建築物に対して塗装を行うことで被膜を形成してもよいし、各種ボード類については、予め工場等でプレコートすることもできる。
本発明において用いる上塗材組成物や下塗材組成物は、このような各種基材に対して直接塗付してもよいし、何らかの表面処理(シーラー、サーフェーサー、フィラー等による下地処理等)を施した後に塗付してもよい。既に被膜が形成された基材に適用することも可能である。
下塗材組成物を塗付する際には、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等を用いることができる。プレコートを行う場合は、ロールコーター、フローコーター等を用いることもできる。上塗材組成物においては、紙、布、不織布等に含浸して拭き塗りする方法の他、スプレー、ローラー、刷毛、ロールコーター、フローコーター等を用いて塗付することもできる。形成される層の膜厚は、通常、下塗層が5〜150μm程度、上塗層が0.01〜10μm程度である。
【0033】
[水の供給方法]
建築物外装面の被膜表面に水を供給する方法は、特に限定されず、各種の方法を用いることができる。
水の供給方法の一例としては、例えば、図1に示すように、給水源1からポンプ2にて水を汲み上げ、屋根の頂部に設けたノズル3から散水する方法等が挙げられる。
ここで、給水源としては、例えば、貯水槽、井戸、水道管等を使用することができる。環境への負荷低減、コスト等を考慮すると、雨水の収集構造を備えた貯水槽等が好適である。
給水源、ポンプ、及びノズルの連結には給水管4を用いればよい。また、給水管には水の供給量を調節するための流量調整弁を設けることもできる。
屋根から流下した水は、貯水槽等に回収することにより再利用することもできる。
水の供給量は適宜調整すればよいが、本発明では特定の上塗層を設けているため、水の量が少量であっても広範に濡れ広がり、屋根全体を均一に冷却することができる。また、上塗層が保水性能を有するため、効率的な冷却を行うことができる。
建築物の壁面に水を供給する場合は、壁面上部等にノズルを配置すればよい。その他の構成は、図1と同様のものを用いることができる。
【0034】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0035】
(上塗材組成物Aの製造)
メチルシリケートの部分加水分解縮合物100重量部(SiO2換算)に、有機アルミニウム化合物を0.15重量部、水を7500重量部、エタノールを5400重量部混合することにより、上塗材組成物Aを得た。
(上塗材組成物Bの製造)
アクリルポリオール樹脂200重量部に、ポリイソシアネート化合物を47重量部混合することにより、上塗材組成物Bを得た。なお、アクリルポリオール樹脂としてはNAD型アクリルポリオール(重量平均分子量50000、水酸基価50KOHmg/g、不揮発分50重量%)、ポリイソシアネート化合物としてはヘキサメチレンジイソシアネート(不揮発分40重量%、NCO含有量8重量%)を使用した。
(下塗材組成物の製造)
表1に示す混合比率にて、下塗材組成物A〜Iを製造した。
【0036】
【表1】
【0037】
(試験体作製)
150mm×70mmのアルミ板上に、各下塗材組成物を乾燥膜厚が60μmとなるようにスプレーで塗付し、室温にて24時間乾燥させた後、各上塗材組成物を乾燥膜厚が0.5μmとなるようにスプレーで塗付したものを試験体とした。
【0038】
(試験方法)
1.接触角測定
作製した試験体の被膜表面の水に対する接触角を、CA−A型接触角測定装置にて測定した。
2.赤外線ランプ照射試験
作製した試験体を、水平面に対する傾斜が30°となるように固定した後、出力250Wの赤外線ランプを照射距離20cmにて15分間照射した。次いで、試験体の上部から1ccの水を供給した。この際、水供給前及び水供給後の試験体裏面の温度を測定した。
3.密着性試験
作製した試験体を、50℃温水に24時間浸漬した後、JIS K5400 8.5.2碁盤目テープ法に準じ、密着性を評価した。評価は、○:欠損部面積が5%以内、△:欠損部面積が5〜35%、×:欠損部面積が35%以上、とした。
4.塗装作業性
各下塗材及び上塗材を塗付する際、塗材の垂れやはじきの有無、また、均一で平滑な塗膜を容易に形成できたか否かを評価した。
【0039】
(試験例1)
試験例1は、白色被膜について試験を行ったものである。ここでは、
上塗層として上塗材組成物A、下塗層として下塗材組成物Aを用いた試験体1−1と、
上塗層として上塗材組成物A、下塗層として下塗材組成物Iを用いた試験体1−2と、
上塗層として上塗材組成物A、下塗層として下塗材組成物Eを用いた試験体1−3と、
上塗層として上塗材組成物B、下塗層として下塗材組成物Eを用いた試験体1−4と、
上塗層として上塗材組成物A、下塗層として下塗材組成物Kを用いた試験体1−5について比較試験を行った。試験結果を表2に示す。
試験体1−1、試験体1−2、試験体1−3及び試験体1−5では、試験体1−4に比べ水供給後の温度が大きく低下した。また、試験体1−1、試験体1−2及び試験体1−5は密着性も良好であった。さらに試験体1−5は、より塗装作業性に優れており、均一で平滑な塗膜を容易に形成することができた。
【0040】
(試験例2)
試験例2は、緑色被膜について試験を行ったものである。ここでは、
上塗層として上塗材組成物A、下塗層として下塗材組成物Bを用いた試験体2−1と、
上塗層として上塗材組成物B、下塗層として下塗材組成物Fを用いた試験体2−2について比較試験を行った。試験結果を表2に示す。
試験体2−1では、試験体2−2に比べ水供給後の温度が大きく低下した。
【0041】
(試験例3)
試験例3は、青色被膜について試験を行ったものである。ここでは、
上塗層として上塗材組成物A、下塗層として下塗材組成物Cを用いた試験体3−1と、
上塗層として上塗材組成物B、下塗層として下塗材組成物Gを用いた試験体3−2について比較試験を行った。試験結果を表2に示す。
試験体3−1では、試験体3−2に比べ水供給後の温度が大きく低下した。
【0042】
(試験例4)
試験例4は、黒色被膜について試験を行ったものである。ここでは、
上塗層として上塗材組成物A、下塗層として下塗材組成物Dを用いた試験体4−1と、
上塗層として上塗材組成物B、下塗層として下塗材組成物Hを用いた試験体4−2について比較試験を行った。試験結果を表2に示す。
試験体4−1では、試験体4−2に比べ水供給後の温度が大きく低下した。
【0043】
【表2】
【0044】
【発明の効果】
本発明では、建築物の外装面に特定の上塗層を設けているため、水の量が少量であっても広範に濡れ広がり、効率的な冷却を行うことができる。これにより、建築物内部の温度上昇を抑制し、夏季における冷房使用を減らすことができる。また、近年問題となっているヒートアイランド現象を抑制することもできる。
さらに、外装面被膜の下塗層として、アルコキシシラン化合物、ポリエーテル変性ポリシロキサン化合物を含有する下塗材組成物を用いることにより、塗装作業性に優れ、上塗層の密着性を十分に確保し、長期にわたり安定した冷却効果を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】水の供給方法の一例を示す図。
【符号の説明】
1:給水源
2:ポンプ
3:ノズル
4:給水管
5:屋根
6:建築物
Claims (4)
- 建築物外装面の被膜表面に水を供給することにより、建築物の温度上昇を抑制する方法であって、該被膜が下塗層及び上塗層を有し、上塗層の被膜表面の水に対する接触角が70°以下であり、上塗層が、(a)テトラアルコキシシラン化合物、(b)触媒、(c)水、及び(d)溶剤を含有する上塗材組成物により形成されたものであり、下塗層が、(p)合成樹脂及び、(q)アルコキシシラン化合物、(r)ポリエーテル変性ポリシロキサン化合物を含有し、(q)アルコキシシラン化合物が、(q−1)炭素数1〜2のアルコキシル基と炭素数3以上のアルコキシル基を含有するアルコキシシランの縮合物である下塗材組成物により形成されたものであることを特徴とする建築物の温度上昇抑制方法。
- (q)アルコキシシラン化合物が(q−2)繰り返し単位の炭素数が1〜4のポリオキシアルキレン基と炭素数が1〜4のアルコキシル基を含有するアルコキシシランの縮合物であることを特徴とする請求項1に記載の建築物の温度上昇抑制方法。
- 建築物外装面の被膜表面に水を供給することにより、建築物の温度上昇を抑制する方法であって、該被膜が下塗層及び上塗層を有し、上塗層の被膜表面の水に対する接触角が70°以下であり、上塗層が、(a)テトラアルコキシシラン化合物、(b)触媒、(c)水、及び(d)溶剤を含有する上塗材組成物により形成されたものであり、下塗層が、(p)合成樹脂及び、(q)アルコキシシラン化合物を含有し、(q)アルコキシシラン化合物が(q−2)繰り返し単位の炭素数が1〜4のポリオキシアルキレン基と炭素数が1〜4のアルコキシル基を含有するアルコキシシランの縮合物である下塗材組成物により形成されたものであることを特徴とする建築物の温度上昇抑制方法。
- (p)合成樹脂が合成樹脂エマルションであることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の建築物の温度上昇抑制方法。
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