JP4059579B2 - 外科手術用器具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば、心臓等を手術する外科手術用器具に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、心臓へ血液を送る冠状動脈が閉塞した患者等に対して冠状動脈の閉塞部を迂回させる心臓バイパス手術が行なわれている。
本心臓バイパス手術は心臓への血流を遮断し、人工心肺装置を用いて体外循環させた拍動停止状態で行われていた。近年は、患者への侵襲をより小さくするため、心臓が拍動状態で心臓バイパス手術も行われるようになってきている。
【0003】
しかし、心臓バイパス手術では冠状動脈に別の血管を縫合するため、心臓が拍動していると術者が縫合操作を行なうのは非常に困難であり、心臓の拍動を押さえる必要があった。
【0004】
この従来技術としては特開平10−5230号公報が知られている。同公報には心臓の目的部位の拍動を押さえる手段が記載されている。例えば、図1には心臓と接触する一対の接触部材が開閉可能に設けられており、該接触部材を心臓の目的部位に押し当てて固定するものである。更に、図7では心臓と接触する接触部材が略矩形状で中に開口を有しており、該接触部材を心臓の目的部位に押し当てて固定するものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平10−5230号公報のものは、次のような問題がある。
a.心臓を接触部材によって機械的に押さえ付けることにより拍動を押さえていたため、心臓全体に負担がかかり患者への侵襲が大きかった。
【0006】
b.心臓を押さえ付ける接触部材は、C字型、U字型のような形状をしており、その一部に接触部材の外側へ通じるスリット等の開口部を有している。従って、その開口部を通じて目的部位以外の部分から拍動が伝わり、縫合操作の妨げをする可能性があった。
【0007】
c.心臓を押さえ付ける接触部材が、閉じた開口部を有するものの場合、縫合操作完了後、接触部材の一部を切除して器具を取り除かねばならず、どうしても使い捨てとなりコストが高くなる。また、接触部材の一部を切除するのは煩雑であり手術時間が長くかかる。さらに、切除する際に欠陥を損傷する虞れもあった。
【0008】
この発明は、前記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、患者への侵襲をできるだけ小さくし、簡便な操作で拍動する心臓の目的の冠状動脈が極力動かないようにより安定させる外科手術用器具を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この発明は、前記目的を達成するために、請求項1は、支持部材と、この支持部材の遠位端に設けられ生体組織を固定する先端部と、前記支持部材の近位端に設けられ前記先端部を操作する操作手段を有する外科手術用器具において、前記先端部は、前記操作手段により開閉可能で、閉方向側に設けられている挟持部と開閉方向に対する一方向側に設けられている当接部とを有する複数の把持部材からなり、前記把持部材を閉じて前記当接部を生体組織に当接させつつ前記挟持部によって生体組織を挟持することによって生体組織を把持固定したとき、前記挟持部によって生体組織の手術部位を取り囲む開口部が形成されることを特徴とする。
請求項2は、請求項1の前記把持部材の前記挟持部と前記当接部とから形成されている把持面には生体組織との滑り止め用の複数の凸部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
前記構成によれば、前記先端部を開いた状態で外科手術用器具を心臓の目的部位へアプローチさせた後、先端部を閉じて先端部が接触することにより作られる開口部内に目的部位を保持固定することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の各実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図5は第1の実施形態を示し、図1は手術器具1全体の斜視図、図2は図1のA矢視図、図3は先端部の斜視図、図4及び図5は作用説明図である。手術器具1は先端に略L字状の一対の把持部材としての第1の先端部2と第2の先端部3が互いに対向して設けられている。両先端部2,3には上方へ伸びる第1の支持部材4、第2の支持部材5を各々接続固定している。第1の支持部材4と第2の支持部材5は近接して上方へ伸びており、途中で両者は交差し、その交差部分においてピン6に回動可能に接続されている。
【0012】
第1の支持部材4と第2の支持部材5は交差部分より上方で略水平方向に折り曲げられている。折り曲げられた端部には操作部としての輪状の指かけ部7が各々設けられている。第1の支持部材4の指かけ部7の先端側近傍には第1のラチェット8が、第2の支持部材5の指かけ部7の先端部近傍には第2のラチェット10が設けられている。第1のラチェット8と第2のラチェット10は係合可能で各々対向面に複数の凹凸部9が設けられている。
【0013】
第1のラチェット8と第2のラチェット10は任意の位置で凹凸部9同士の噛み合わせにより固定されるため、第1の支持部材4と第2の支持部材5も固定され、第1のラチェット8と第2のラチェット10の噛み合いを外さない限りは第1の支持部材4と第2の支持部材5は開くことができないようになっている。
【0014】
第1と第2のラチェット8,10より更に先端側近傍には板バネ11が第1の支持部材4と第2の支持部材5の間に取り付けられている。板バネ11は第1の支持部材4、第2の支持部材5がピン6を中心として開くように常に付勢力が働いている。
【0015】
さらに、第1の支持部材4と第2の支持部材5の交差部分を囲むように略円球状のボール12が接続固定されている。ボール12と第1の支持部材4を固定して第2の支持部材5の動きを妨げないようにするため、ボール12には切欠き13が設けられている。前記第1の先端部2と第2の先端部3のL字型の両端は球状の鈍部14となっている。また、第1の先端部2と第2の先端部3の底面と内側面には全体に渡って複数の凸部15が設けられている。
【0016】
図1のように第1の支持部材4と第2の支持部材5が閉じた状態では、第1の先端部2と第2の先端部3は矩形状をなして固定される。このとき、第1の先端部2と第2の先端部3の各々の鈍部14が接触するような寸法となっている。また、この閉状態では、ピン6と第1及び第2の先端部2,3との間の第1の支持部材4と第2の支持部材5は接触している。なお、第2の支持部材5の先端部分は第1の先端部2と第2の先端部3で作られる矩形状の開口部16を妨げないように曲げられて第2の先端部3に接続固定されている。
【0017】
図1の状態から第1のラチェット8と第2のラチェット10の係合を外し、第1の支持部材4に対して相対的にピン6を中心に第2の支持部材5を回動させると、図3のように第1の先端部2と第2の先端部3は開いた状態で固定される。これらの操作は通常、術者が指かけ部7の輪に親指と中指を入れて、握ったり開いたりすることにより可能である。
【0018】
図2のように、第1と第2の先端部2,3がなす平面に対して先端側の第1と第2の支持部材4,5は角度α:90度〜135度に取り付けられている。また、該平面に対して手元側の第1と第2の支持部材4,5は角度β:0度〜30度で曲げられている。
【0019】
次に、第1の実施形態の作用について説明する。
図4及び図5を参照して、心臓拍動下で行う心臓バイパス術に本器具を使用する場合について述べる。通常、本心臓バイパス術を行う際は、まず、目的の冠状動脈に縫合するグラフトを準備する。例えば、患者21の左内胸動脈を胸腔鏡下もしくは外科的に剥離しておく(図示しない)。
【0020】
その後、第4、5肋間を切開し、リトラクター22で該肋間を広げて心臓23を視野内に露出させる。心膜を切開し、目的の冠動脈24の上流と下流を閉塞する(図示しない)。
【0021】
手術台17の左右に取り付けているレール18に固定具19を設置し、固定具19に固定アーム20を着脱可能に取り付ける。固定アーム20の先端部を手術器具1のボール12に仮固定する。このとき、手術器具1の第1と第2の先端部2,3は開いた状態にしておく。
【0022】
手術器具1はボール12部を中心として回動可能である。固定アーム20の途中に複数の関節を設けており、各々の関節は任意の位置関係で固定可能である。
図5(a)に示すように、冠動脈24の目的部位が手術器具1の第1の先端部2と第2の先端部3で形成される開口部16の中に収まるように手術器具1を心臓23の表面にアプローチさせ、心臓23に第1の先端部2が軽く接触するように位置決めする。固定アーム20の関節を固定し、固定アーム20と手術器具1を固定する。
【0023】
図5(b)に示すように、手術器具1の第1と第2の先端部2,3を閉じていき、第1の先端部2と第2の先端部3の間で目的の冠状動脈24の周囲を把持していく。これにより、冠動脈24の目的部分は周囲より上方へ盛り上がったようになり、拍動の影響を受けないように固定できる。この状態で、冠動脈24の目的部位と左内胸動脈を端側縫合する。第1と第2の先端部2,3を開き、本手術器具1を取り去る。そして、心膜、胸壁の切開部を縫合し、手術操作を完了する。なお、固定アーム20は手術台17と手術器具1を固定できれば、どのようなものでもよい。
【0024】
第1の実施形態によれば、次のような効果がある。
(1)心臓の目的部位のみに力を加えて拍動を押さえられるため、心臓への負担をより軽減でき、患者への侵襲を少なくできる。
【0025】
(2)心臓と接触する開閉可能な接触部材は、拍動を押さえる際、目的部位を完全に取り囲むように閉じ、他の部位からの拍動が目的部位に伝わることがないため、スムースに縫合操作を行え、手術時間の短縮につながる。
【0026】
(3)心臓と接触する接触部材が開閉可能なため、縫合操作完了後は接触部材を開いて器具を取り除けばよく、操作が簡便である。また、再使用できるため、トータルでのコストを削減でき経済的である。
【0027】
(4)手術台に直接固定しているため、術中、手術器具が不用意に動くことがなく安全、確実に手術操作を行える。
(5)目的部位を周囲より盛り上がるように配置固定できるため、より縫合操作し易い。
【0028】
(6)先端部の端面は丸く球状となっているため、組織を損傷することなく安全である。
(7)心臓と接触する部分に設けた凸部により、心臓との滑りを防止できるため、より確実に目的部位を固定できる。
【0029】
図6及び図7は第2の実施形態を示し、図6は手術器具の先端部を示す斜視図、図7は図6のB−B線に沿う断面図である。第1の先端部30、第2の先端部31は略三日月状をしたプレートである。両先端部30,31を閉じた状態では、対角線33に沿って略楕円状の開口部32が作られる。
【0030】
図7に示すように第1の先端部30、第2の先端部31の底面34は生体の形状、ここでは特に心臓表面のカーブに合う曲率半径に形成されている。底面34には全体に渡り複数の凸部35が設けられている。その他は第1の実施形態と同様である。
【0031】
そして、本手術器具を心臓の目的部位ヘセットする際、冠状動脈の走行が対角線33、つまり、開口部32の長軸に合うようにする。その他は第1の実施形態と同様である。
【0032】
第2の実施形態によれば、次のような効果がある。
(1)手術器具の先端部が心臓の形状に合っており、心臓を必要以上に圧迫することがないため、より心臓への負担が軽減され、患者への侵襲を小さくできる。
【0033】
(2)手術器具の先端部の対角線上に冠状動脈がくるように配置するため、先端部を小型化でき、取り扱い易くなる。
その他は第1の実施形態と同様である。
【0034】
図8〜図10は第3の実施形態を示し、図8は手術器具41の全体斜視図、図9は図8のC−C断面図、図10は図8のD−D断面図であり、第1の実施形態と同一構成部分は同一番号を付している。
【0035】
第1の先端部2、第2の先端部3の近傍で第1の支持部材4と第2の支持部材5の手元端は各々細長の第1の延長部42、第2の延長部43と接続されている。第1の延長部42と第2の延長部43の手元端部は各々第2のハンドル45、第1のハンドル44と接続されている。
【0036】
第1の支持部材4と第2の支持部材5の手元端、第1の延長部42と第2の延長部43の両端、第1のハンドル44と第2のハンドル45の先端には長手方向に凸部49を有し、この凸部49は先端が丸く形成されている。各部の接続は各々の凸部49が重なり合うように固定ネジ46で接続固定している。
【0037】
図9に示すように、第1の延長部42、第2の延長部43の凸部49は各々第2のハンドル45、第1のハンドル44の凸部49を挟み込むように側方から固定ネジ46と螺合している。第1のハンドル44と第2のハンドル45の凸部49はネジ部47を挿通可能な孔48を有し、ネジ部47を中心に回動可能である。
【0038】
固定ネジ46を締め付けると、各延長部42,43と固定ネジ46の間で各ハンドル44,45が圧着固定される。これにより各延長部42,43と各ハンドル44,45は任意の角度αで固定可能である。
【0039】
図10に示すように、第1の延長部42、第2の延長部43の凸部49は各々第1の支持部材4と第2の支持部材5の凸部49を挟み込むように側方から固定ネジ46と螺合している。第1の支持部材4、第2の支持部材5の凸部49はネジ部44を挿通可能な孔48を有し、ネジ部47を中心に回動可能である。固定ネジ46を締め付けると各延長部42,43と固定ネジ46の間で第1と第2の支持部材4,5が圧着固定される。これにより延長部42,43と支持部材4,5の位置関係は任意の角度βで固定可能である。
【0040】
そして、症例毎に予め先端部4,5と延長部42,43、延長部42,43とハンドル44,45の角度を決め、固定ネジ46を締め付けて各々を圧着固定しておく。実際に心臓の目的部位に取り付けて手術操作を妨げないように各々の角度α、βを微調整する。その他は第1の実施形態と同様である。
【0041】
第3の実施形態によれば、先端部と延長部、延長部とハンドルの角度を任意に変えられ、症例毎に最適な位置関係に合わせることができるため、より術者の操作を邪魔することなく円滑に処置を行え、術者のストレス軽減と手術時間の短縮につながるという効果がある。その他は第1の実施形態と同様である。
【0042】
図11〜図17は第4の実施形態を示し、図11は第1の手術器具51の全体図を示す。第1の手術器具51は挿入部52と操作部53とから構成されている。挿入部52は断面がφ10mm程度の円形で長手方向に伸びている。挿入部52の外周には球面状のボール54を挿入部52に対してスライド可能に固定できるようになっている。
【0043】
挿入部52の先端には第1の受け部55と第2の受け部56を有している。操作部53の操作により挿入部52の先端のピン57を中心に第1の受け部55と第2の受け部56は開閉可能となっている。
【0044】
挿入部52の手元側にはリング58が設けられており、リング58を回転させると挿入部52も回転するようになっている。操作部53は第1のハンドル59と第2のハンドル60とから構成されている。
【0045】
第1のハンドル59と第2のハンドル60は手元側にリング状の指かけ部62を有し、第1のハンドル59は挿入部52の手元側と接続固定されている。第1のハンドル59と第2のハンドル60は第2のピン61を中心に回動可能であり、第1のハンドル59と第2のハンドル60を近付けると、第1の受け部55と第2の受け部56は閉じ、第1のハンドル59と第2のハンドル60を離していくと第1の受け部55と第2の受け部56は開くようになっている。
【0046】
第2のハンドル60の途中に略L字状のラチェット部材63を第3のピン64を中心に回動可能に設けられている。ラチェット部材63の長軸は第1のハンドル59に向かって、第1のハンドル59を貫いて伸びている。第2のハンドル60の第3のピン64より先端側には板バネ66が設けられている。
【0047】
板バネ66はラチェット部材63の方向に伸びてラチェット部材63の短軸と接触し、図11でラチェット部材63が右回りに回動するように常に付勢している。ラチェット部材63の長軸には複数の鋸歯65が長手方向に設けられている。
【0048】
鋸歯65と第1のハンドル59の内部に設けられた受け部(図示しない)は板バネ66の付勢力により噛み合うため、任意の位置で係合固定可能となっている。この係合固定は第1のハンドル59と第2のハンドル60を近付けること、つまり、第1の受け部55と第2の受け部56を閉じていくことはできるが、逆に開くことができないような固定である。
【0049】
ラチェット部材63の先端部67を図11中で左回りに回動させることにより、該係合固定を解除でき、第1のハンドル59と第2のハンドル60を離していく、つまり、第1の受け部55と第2の受け部56を開くことができる。
【0050】
図12は第1の手術器具51の先端部と第2の手術器具68の斜視図である。第2の手術器具68は第1の実施形態と同様に第1の先端部2と第2の先端部3を有し、第1の先端部2に第1の支持部材69、第2の先端部3に第2の支持部材70が接続固定されている。
【0051】
第1の支持部材69の手元端部には第1のガイド部71が第1の支持部材69の軸方向に突出して伸びている。第1の支持部材69の断面積より第1のガイド部71の断面積は小さくなっている。
【0052】
第1のガイド部71の手元端部には側方に突出する第1の突起部73が設けられている。側方から第1の突起部73に螺合する第1の固定ネジ75が設けられている。第2の支持部材70も同様に手元端部に第2のガイド部72を有し、第2のガイド部72の手元端部側方に突出する第2の突起部74が設けられている。側方から第2の突起部74に螺合する第2の固定ネジ76が設けられている。
【0053】
図13は第1の受け部55の斜視図であり、第1の受け部55は略半円柱状であり、先端から軸方向へ伸びる第1のスリット部77を中心に有している。第1のスリット部77の幅は固定ネジ75のネジ径より若干大きくなっている。
【0054】
第1の受け部55は第1のスリット部77の幅より大きい第1の凹部78を第1のスリット部77を囲むように軸方向に設けられている。第1の凹部78の幅と深さは第1のガイド部71が挿通可能な大きさとなっている。
【0055】
第1の凹部78の手元端部には第2の凹部79を設けている。第2の凹部79は第1の凹部78より窪んでおり、第1のガイド部71の第1の突起部73が丁度嵌まる形状となっている。第1の受け部55の手元端の一部から第1のリンク部80が手元側へ突出している。第1のリンク部80にはピン57を挿通可能な開孔81が設けられている。
【0056】
第2の受け部56も第1の受け部55と同様の形状となっている。第1の受け部55と第2の受け部56を開いた状態にて第1の受け部55の第2の凹部79に第1のガイド部71の第1の突起部73が嵌まるように取り付け、第1の固定ネジ75を締め付けて第1の受け部55と第1の支持部材69を圧着固定する。同様に第2の固定ネジ76を締め付けて第2の受け部56と第2の支持部材70を圧着固定する。そうすると、図14に示すように第1の手術器具51と第2の手術器具68を接続できる。
【0057】
図15は図11のE−E線に沿う断面図、図16は図11のF−F線に沿う断面図を示す。ボール54には中心に挿入部52が挿通可能な開孔が設けられている。更に、その開孔より径の大きな貫通孔82を開孔に対して垂直に設けている。
【0058】
貫通孔82の一端には円周状に中心に向かって突出する第3の受け部83を有している。貫通孔82内に略円柱状の押え部材84と弾性部材であるコイルバネ85を挿入し、蓋86で貫通孔82を塞いでいる。コイルバネ85により押え部材84は常時第3の受け部83へ付勢されている。
【0059】
押え部材84には挿入部52の断面積より大きな第2の開孔87が設けられている。ボール54の開孔及び押え部材84の第2の開孔87に挿入部52を挿通した状態では、コイルバネ85により押え部材84と共に挿入部52も第3の受け部83へ付勢され、挿入部52と押え部材84、ボール54との摩擦力により、ボール54と挿入部52は固定される。
【0060】
押え部材84の端部を押圧すると固定は解除され、ボール54は挿入部52に対して移動可能となる。押え部材84の押圧を解除するとボール54は挿入部52の任意の位置で固定される。
【0061】
図17を参照して第4の実施形態の作用について説明する。胸壁88を切開し、リトラクター22で広げて小開胸部89を作ると共に胸壁88の他の場所に胸腔用のポート90を置く。ポート90経由で第1の手術器具51を心臓23付近まで挿入する。このとき、ボール54を適当な位置にスライドさせて挿入部52と固定する。
【0062】
固定アーム20をボール54に仮固定する。そして、小開胸部89より第2の手術器具68を挿入し、第1の手術器具51に第2の手術器具68を組み付ける。縫合操作完了後、第1の手術器具51と第2の手術器具68を分離して取り去る。その他は第1の実施形態と同様である。
【0063】
第4の実施形態によれば、次のような効果がある。
(1)実際に手術操作を行う小開胸部とは別の場所から挿入部を導入しており、先端部と挿入部の角度を大きくできるため、より縫合操作を妨げることなくスムースに手術を行える。
【0064】
(2)固定アームと接続する接続部が手術器具の軸上を任意に移動可能であるため、どの症例においても最適な位置で固定でき汎用性が高い。
(3)先端部を着脱式としたため、心臓の各部位と様々な症例に対して先端部のみを各種ラインナップすることで対応できる。このためトータルで安価にでき、経済的である。
【0065】
その他は第1の実施形態と同様である。
図18は第5の実施形態を示す手術器具101の斜視図である。手術器具101は先端に第1の先端部102と第2の先端部103の1対の先端部が設けられている。第1の先端部102と第2の先端部103は同一の形状で略三日月型の透明材質、例えばポリカーボネイト、ガラス等からなるプレートによって形成されている。両先端部102,103の一部から概ね垂直方向に細長の各々第1の支持部材104、第2の支持部材105が接続固定されている。
【0066】
第1の支持部材104は手元側で概ね水平方向に曲げられて手元側に伸びる第1の延長部106を有し、第1の延長部106の手元端部には球面状のボール107が設けられている。
【0067】
第1の延長部106の途中には側面108から直角方向に伸びる第2の延長部109を有し、第2の延長部109の側面には複数の凸部110が設けられている。第2の支持部材105も第1の支持部材104と同様の位置で概ね水平方向に曲げられて手元側に伸びる第3の延長部111を有し、第3の延長部111の手元端部には受け部112が設けられている。
【0068】
受け部112は第2の延長部109を挿通可能な第1の開口部113が設けられている。受け部112には垂直方向に上方から操作ネジ114が取付けられている。操作ネジ114は凸部110と係合可能であり、操作ネジ114を回転させると受け部112が第2の延長部109に対してスライドでき、任意の位置関係で固定できるようになっている。これにより、図18中の2点鎖線で示すように第1の先端部102に対して第2の先端部103を接触させることができ、第2の開口部115が作られる。
【0069】
そして、第1の先端部102から第2の先端部103を離した状態にし、心臓の目的部位へ第1の先端部102を接触させ、手術器具101を第1の実施形態と同様に固定アーム20等で手術台17に固定する。
【0070】
操作ネジ114を回転させて、第2の先端部103を第1の先端部102へスライドさせる。これにより、目的の冠状動脈を両先端部102,103で挟み込み、拍動を押さえる。その他は第1の実施形態と同様である。
【0071】
第5の実施形態によれば、先端部を透明材質としたため、先端部と接触している心臓表面に損傷や出血があった場合に容易にわかり処置でき、より安全であるという効果がある。その他は第1の実施形態の(1)〜(5)と同様である。
【0072】
図19及び図20は第6の実施形態を示し、図19は手術器具120の斜視図、図20は作用を示す断面図である。手術器具120は、略矩形状のプレートである先端部121と該先端部121の辺縁の一部から上方向に伸びる細長の支持部材122を備えている。支持部材122の手元側途中には球形状のボール123が接続固定されている。
【0073】
支持部材122はボール123より手元側で先端部121とは逆方向に曲げられ、支持部材122の手元端部には把持部124を取り付けている。先端部121は対角線上に略楕円状の開口部125と開口部125まで通じる切欠き部126を有し、先端部121の底面には全体に渡り、膨張手段であるバルーン127が設けられている。
【0074】
バルーン127にはチューブ128が接続しており、支持部材122に沿って手元側に伸びている。チューブ128の手元側端部には口金129が設けられている。そして、口金129よりチューブ128を通ってバルーン127へ送気、脱気することにより、バルーン127を偏平状に膨張、収縮可能となっている。バルーン127が膨張状態では、切欠き部126はバルーン127により閉塞されるようになっている。
【0075】
次に、図20を参照して第6の実施形態の作用を説明する。図20(a)は初期状態を示し、図20(b)は作動状態を示す。
図20(a)に示すように、目的の冠状動脈24が開口部125の長軸方向にくるようにバルーン127を収縮状態で先端部121を心臓23に接触させた状態で、手術器具120を第1の実施形態と同様に固定アーム20等で固定する。目的部位へのアプローチは、術者が把持部を持ち、ボール123を中心に回動させて行なう。
【0076】
図20(b)に示すように、口金129よりエアーもしくは生理食塩水等をチューブ128を経由してバルーン127ヘ送り、バルーン127を適当な大きさに膨張させる。これにより、冠状動脈24を取り囲むようにバルーン127が心臓23と接触し、開口部125内の冠状動脈24の周囲を盛り上げ、目的部位の拍動を押さえる。縫合操作終了後、バルーン127を収縮させ、縫合部を切欠き部126に通して、手術器具120を取り去る。
【0077】
その他は第1の実施形態と同様である。
第6の実施形態によれば、目的部位の固定力をバルーンの膨張度合い、つまり、バルーンへの送気量により調整できるため、操作が簡便であるという効果がある。その他は第1の実施形態の(2)(4)(5)と同様である。
【0078】
図21は第7の実施形態を示し、手術器具131の斜視図である。手術器具131は略矩形状のプレートである先端部132と該先端部132の1部から略垂直方向に伸びる支持部材133を有している。支持部材133の手元端には球面状のボール134が接続固定されている。更に、ボール134から操作ロッド135が支持部材133の同軸上に接続固定している。
【0079】
操作ロッド135は途中で略水平方向に先端部132と反対側へ曲げ、手元には操作部136が設けられている。先端部132には略楕円状の開口部137が設けられ、先端部132には開口部137と通じるスリット138を曲線的に設けられている。さらに、先端部132の上面に一対の突起部139が略左右対称に設けられている。突起部139の上端部にはフランジ部140が設けられている。
【0080】
そして、目的の冠状動脈24の縫合部位を予め心臓より剥離しておく。第1の実施形態と同様に、手術台17に接続している固定アーム20にボール134を仮固定した後、操作部136を把持し、手術器具131を回転させることにより先端部132を位置決めして固定する。
【0081】
冠状動脈24の剥離した部分にワイヤー141を通した後、左右の突起部139に結び付け固定する。これにより、冠状動脈24の目的部位を持ち上げる。尚、ワイヤー141は通常の縫合糸や伸縮可能なゴム状の糸でもよい。縫合を完了した後は、ワイヤー141を切断し、取り去る。その他は第6の実施形態と同様である。
【0082】
第7の実施形態によれば、目的の冠状動脈部位を心臓より持ち上げているため、心臓の拍動の影響を受けることが更に少なく、円滑、確実に手術を進めることができ手術時間の短縮と手術の質の向上につながるという効果がある。その他は第1の実施形態の(1)(4)と同様である。
【0083】
図22は第8の実施形態の手術器具145の先端部132の斜視図である。第7の実施形態と異なる部分のみ説明すると、手術器具145の先端部132の周縁近傍の上面に固定ネジ148が設けられている。固定ネジ148は弾性部材である板バネ146の長手方向に伸びるスロット147を通って先端部132に螺合している。
【0084】
固定ネジ148を締め付けることにより板バネ146を先端部132に対して圧着固定できるようになっている。固定ネジ148を締め付けていないとき、板バネ146はスロット147の範囲でスライド可能である。
【0085】
通常、開口部137を横断するように板バネ146が設けられており、冠状動脈24の走行に対して略直角方向になるように取り付け可能である。尚、板バネ146は先端部132との接続部から先端149へ向かって上斜め方向へ伸びるように先端部132に取り付けられている。
【0086】
そして、第7の実施形態の冠状動脈24の下にワイヤー141を通す代わりに、板バネ146をスライドさせて通す。板バネ146により冠状動脈24が上方へ付勢され、持ち上げられた状態で固定ネジ148を締め付けて板バネ146を保持固定する。縫合完了後は、固定ネジ148を緩めて板バネ146をスライドさせて冠状動脈24から外す。その他は第7の実施形態と同様である。
【0087】
第8の実施形態によれば、板バネを用いており、再使用できるためトータルでのコストが安価となり経済的であるという効果がある。第7の実施形態と同様である。
【0088】
前述した実施の形態によれば、次のような構成が得られる。
(付記1)目的部位を固定する先端部と、前記先端部を手指で遠隔操作する操作手段を有する外科手術用器具において、前記先端部は操作手段により開閉可能な複数の把持部材からなり、前記把持部材が閉じて目的部位を把持固定したとき、目的部位の中の手術部位を囲む開口部及び前記把持部材を保持する保持手段を有していることを特徴とする外科手術用器具。
【0089】
(付記2)付記1において、開口部は略楕円状であることを特徴とする外科手術用器具。
(付記3)付記1において、先端部は閉じると略矩形状となり、該先端部の対角線上に開口部を設けていることを特徴とする外科手術用器具。
【0090】
(付記4)付記1において、先端部の少なくとも1部に複数の突起を有することを特徴とする外科手術用器具。
(付記5)付記1において、先端部の端面は球形状であることを特徴とする外科手術用器具。
【0091】
(付記6)付記1において、先端部はポリカーボネイト、ガラス等からなる透明材質であることを特徴とする外科手術用器具。
(付記7)付記1において、先端部の底面は閉じた状態で外周から開口部に向かって高くなるような形状であることを特徴とする外科手術用器具。
【0092】
(付記8)付記1において、先端部は直線状にスライドすることを特徴とする外科手術用器具。
(付記9)付記1において、保持手段は各先端部と接続し、手元側へ伸びる細長の軸と各軸を回動可能に接続する接続手段からなることを特徴とする外科手術用器具。
【0093】
(付記10)付記9において、接続手段を覆うように球体を設けたことを特徴とする外科手術用器具。
(付記11)付記9において、軸上の任意の位置に固定可能に球体を設けたことを特徴とする外科手術用器具。
【0094】
(付記12)付記9において、先端部と軸を任意の角度で固定する固定手段を有することを特徴とする外科手術用器具。
(付記13)付記9において、軸の手元側は先端部を開閉させる操作部を有し、軸と操作部を任意の角度で固定する固定手段を有することを特徴とする外科手術用器具。
【0095】
(付記14)付記1において、先端部と保持手段を着脱可能とする着脱手段を有することを特徴とする外科手術用器具。
(付記15)中心に開口を設けた略矩形状のプレートである先端部と該先端部を保持固定する固定手段を有する外科手術用器具において、先端部の裏面に膨張手段を設けたことを特徴とする外科手術用器具。
【0096】
(付記16)付記15において、膨張手段はバルーンであることを特徴とする外科手術用器具。
(付記17)中心に開口を設けた略矩形状のプレートである先端部と該先端部を保持固定する固定手段を有する外科手術用器具において、先端部の上面に上方向に付勢する付勢手段を設けたことを特徴とする外科手術用器具。
(付記18)付記17において、付勢手段は先端部から開口に向かって伸びる弾性部材であることを特徴とする外科手術用器具。
【0097】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、心臓の目的部位のみに力を加えて拍動を押さえられるため、心臓への負担をより軽減でき、患者への侵襲を少なくできる。さらに、心臓と接触する開閉可能な把持部材は、拍動を押さえる際目的部位を完全に取り囲むように閉じ、他の部位からの拍動が目的部位に伝わることがないため、スムースに縫合操作を行え、手術時問の短縮につながる。
【0098】
また、心臓と接触する把持部材が開開可能なため、縫合操作完了後は把持部材を開いて器具を取り除けばよく、操作が簡便である。また、再使用できるため、トータルでのコストを削減でき経済的である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1の実施形態を示す手術器具の全体の斜視図。
【図2】同実施形態を示し、図1の矢印A方向から見た側面図。
【図3】同実施形態を示し、先端部の斜視図。
【図4】同実施形態の作用を示す斜視図。
【図5】(a)(b)は同実施形態の作用を示す断面図。
【図6】この発明の第2の実施形態を示す先端部の斜視図。
【図7】同実施形態を示し、図6のB−B線に沿う断面図。
【図8】この発明の第3の実施形態を示す手術器具の全体の斜視図。
【図9】同実施形態を示し、図8のC−C線に沿う断面図。
【図10】同実施形態を示し、図8のD−D線に沿う断面図。
【図11】この発明の第4の実施形態を示す手術器具の全体の側面図。
【図12】同実施形態を示す先端部の斜視図。
【図13】同実施形態を示す第1の受け部の斜視図。
【図14】同実施形態の第1と第2の手術器具の接続構造を示す正面図。
【図15】同実施形態を示し、図11のE−E線に沿う断面図。
【図16】同実施形態を示し、図11のF−F線に沿う断面図。
【図17】同実施形態を示す作用説明図。
【図18】この発明の第5の実施形態を示す手術器具の全体の斜視図。
【図19】この発明の第6の実施形態を示す手術器具の全体の斜視図。
【図20】(a)(b)は同実施形態の作用を示す断面図。
【図21】この発明の第7の実施形態を示す手術器具の全体の斜視図。
【図22】この発明の第8の実施形態を示す手術器具の先端部の斜視図。
【符号の説明】
1…手術器具
2…第1の先端部
3…第2の先端部
7…指かけ部(操作部)
16…開口部
Claims (2)
- 支持部材と、この支持部材の遠位端に設けられ生体組織を固定する先端部と、前記支持部材の近位端に設けられ前記先端部を操作する操作手段を有する外科手術用器具において、
前記先端部は、前記操作手段により開閉可能で、閉方向側に設けられている挟持部と開閉方向に対する一方向側に設けられている当接部とを有する複数の把持部材からなり、前記把持部材を閉じて前記当接部を生体組織に当接させつつ前記挟持部によって生体組織を挟持することによって生体組織を把持固定したとき、前記挟持部によって生体組織の手術部位を取り囲む開口部が形成されることを特徴とする外科手術用器具。 - 前記把持部材の前記挟持部と前記当接部とから形成されている把持面には生体組織との滑り止め用の複数の凸部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の外科手術用器具。
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