JP4058518B2 - 電解作用を利用した切削工具及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、小型の機械部品及び電子部品等の導電性の金属材料からなる被加工物を電解作用を利用して精密に切削加工する切削工具及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
多様化、小型化が進んでいる機械部品や電子・電気部品金型の加工技術として放電加工があるが、放電加工は加工能率が悪い、電極作成が不可欠であるため微細形状の電極設計、製作が必要であることから多くの時間とコストを要するという問題があった。こうした問題を解決するために切削工具による直彫り加工があげられるが、金型材として用いられる高硬度材(HRC60以上)や硬脆材料(超硬合金材など)の加工は、その硬度から直彫り加工が難しい。また、放電加工及び直彫り加工後の表面には磨き工程が必要である。この工程は熟練作業者による技能に頼る部分が多く、様々な形状の金型を短納期で供給する要求に答えるためのトータルな生産性向上を目指すためには、金型の手仕上げレス化が求められている。このように、加工時間の短縮の要求に加え、加工形状精度の向上、加工面品位の向上を目指した新しい金型加工技術が要求されている。
微細切削方法および微細切削装置において、非加工物と電極との間に電解液を介在させ、電圧印加により不働態膜を生成し、電極とは別に設置された工具で切削することによって不働態膜を除去する技術が知られている(以下、従来技術1という。例えば、特許文献1参照。)。
また、微細切削方法および微細切削装置において、電極兼切削工具を用い、被加工物と電極兼切削工具との間に電解液を介在させるとともに被切削部と電極兼切削工具を絶縁することなく、電解電圧のオン・オフのみで電解、切削を切り替える加工技術が知られている(以下、従来技術2という。例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開2000−84746号公報
【特許文献2】
特開平10−156626号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来技術1においては、電極と切削工具とを別に設置する必要がある上に不働態膜の生成及び切削を別の部材で行うため作業効率が悪いものであった。
また、従来技術2においては、不働態膜の生成速度が十分に速い導体金属材料の被加工物の場合には、電極兼切削工具により不働態膜を生成させながら、電極兼切削工具により不働態膜の切削を行うことも可能であるが、この場合、短絡により過大な電流が流れて、電解溶出などにより切削部分に変形を生じるため、不働態膜が絶縁物である場合にしか適用できないという問題があった。さらに従来技術2においては、不働態膜の生成速度が遅い導体金属材料の被加工物の場合には、電極兼切削工具と被加工物との間に適当な距離を保った状態で電解電圧をONして不働態膜を生成し、その後電解電圧をOFF状態にして電極兼切削工具に切れ込みを与えて不働態膜を切削し、切削が終了したら、電極兼切削工具を被加工物に対して適当な距離分、後退させて電解電圧をONして不働態膜を生成するという工程を繰り返すものであり、電解と切削の電源切り換え及び電極兼切削工具の頻繁な移動を制御する必要があり、工具を兼用させた意義が薄れるという問題があった。
【0005】
本発明は、電解作用を利用した切削工具の切れ刃と電極とを絶縁するとともにこれら切れ刃及び電極の組合わせ構造を新規なものとすることにより、加工精度が高く、加工効率の良い、電解作用を利用した切削工具及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決得るための手段】
(1)本発明の電解作用を利用した切削工具は、工具の回転により導電性の被加工物を切削する電解作用を利用した切削工具において、絶縁性を有する切れ刃及び導電性を有する電極を一体的に備え、前記切れ刃及び電極を交互に配置するとともに、切れ刃及び電極との間に位置し、かつ、切れ刃の回転方向前方に位置して絶縁性を有する切削排出溝を介在させ、切削された切りくずが電極と接触しない状態で切削排出溝から外部に排出されることを特徴としている。
(2)また、本発明の電解作用を利用した切削工具の製造方法は、上記(1)に記載の切削工具の製造方法において、切削工具を導電性材料から形成し、該導電性材料製の切削工具全体を絶縁材料でコーティングし、このコーティング材をレーザ加工又は機械加工で除去して電極部分を形成することを特徴としている。
(3)また、本発明の電解作用を利用した切削工具の製造方法は、上記(1)に記載の切削工具の製造方法において、切削工具を絶縁材料で形成、又は絶縁材料をコーティングして形成し、該絶縁性の切削工具の上に導電性の電極材料をコーティングして電極部分を形成することを特徴としている。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、電解作用を利用した切削工具(以下、「電解切削工具」という。)を用いた加工装置を説明する概略図である。
図において、電解切削工具1と被加工物6との間は電解加工液7で満たされるように両者を電解加工液7中に設置または高圧の電解加工液を噴射手段8から噴射する。また、電解加工液7から切りくずを排除するため切りくずを含んだ電解加工液7を吸引手段9で吸引し、ポンプ10、切りくず除去装置11及び温度制御装置12を経て再び噴射手段8から噴射する。その際、電解切削工具1に電解加工液7を噴射すると電解切削工具1に付着した切りくずを除去することができる。
被加工物6は導電性のある金属、例えば、鉄、銅、ニッケル、チタン、アルミニウム、コバルトを主成分、又は含有する物、あるいは導電性のセラミックスとする。また、電解加工液7としては材料、加工条件などに応じNaCl、NaClO3又はNaNO3を用いる。
電解加工用電源13により、電解切削工具1は陰極に、被加工物6は陽極に保持されて両者間に電解電圧が与えられる。
電解切削工具1はNC移動機構14により、一定速度、または一定加工力で加工形状に合わせて移動される。高能率、高精度のために電解切削工具1及び被加工物6間の電流・電圧を加工電流・電圧モニター装置16でモニターし、移動速度及び移動力を変化させると良い。なお、15はパーソナルコンピュータである。
【0008】
図2は、本発明の実施の形態に係る電解切削工具の一例を示すものであり、上方の図が電解切削工具の先端部分の正面を、また、下方の図が先端部分の断面を示している。電解切削工具1は、電極2及び切れ刃3からなる。
【0009】
図3は、電解切削工具の断面を拡大した図であり、電解切削工具1は電極2と切れ刃3とが交互に配置された構造となっている。電極2は導電性を有し、切れ刃3は絶縁性を有する。導電性部2−1と絶縁性部3−1との境界を破線で示す。図に示すように絶縁性部3−1は切れ刃3を含み、切れ刃3の回転方向前方に形成された切削排出溝4の周囲にわたって形成される。このため、切れ刃によって切削された不働態膜の切りくずは切削排出溝4から外部に排出される際、導電性の電極2と接触することはない。
また、切れ刃3によって切削された材料表面と電極2表面が適度な間隙5を有するように電極2部分は切れ刃3の外径より小さく形成される。
間隙5の大きさは、加工条件、加工材料等により変化する。
【0010】
本実施の形態係る電解切削工具1は、導電性材料からなる工具の全体を絶縁セラミック材料でコーティングし、このコーティング材をレーザ加工又は機械加工で除去して電極部分を形成するか、又は、絶縁材料でコーティングされた工具あるいは絶縁材料製の工具上に導電性の電極材料をコーティングすることにより作成する。
図4は、電解切削工具の他の例を示したものである。
【0011】
図5は、加工工程を説明する図であり、電解切削工具1と被加工物6との間に電解加工液を介在させ、両者間に適当な電圧が印加されると、被加工物6の目的とする切削部分表面に適度な厚さの不働態膜17が生成される。この不働態膜17は、酸化膜または水酸化膜であるが、金属であったときとモル分子容積が異なるために、膨張して金属層との界面における応力が増大して剥離しやすくなり、また、適当な電解条件下においては多孔質となったり、機械的性質が脆くなったりして弱化し、極めて容易に切削が行われるものである。
【0012】
被加工物6に生成された不働態膜17の厚さに応じて電解切削工具1の切り込み量を調整して電解切削工具1を一定速度で移動させながら回転させ、不働態膜17を切れ刃3で切削する。切削された不働態膜17の切りくず18は、切削排出溝4内で例えば図示のように丸められながら除去される。この際、切りくず18が導電性の電極2と接触することはない。電解切削工具1の移動及び回転に伴い、不働態膜17の生成及び不働態膜17の除去の工程が繰り返し行われ、被加工物6の加工が進行する。
【0013】
図6は、加工工程における加工点の拡大図であり、切れ刃3で切削された面に電極2を近づけることにより新たな不働態膜17が生成され、この不働態膜17を切れ刃3で切削し、切りくず18が電解加工液の噴射等により切削面から除去される様子が良く分かる。
【0014】
電解加工において通電時間が長すぎると電極と被加工物との間の不働態膜の影響で加工効率が悪くなることが知られている。切削除去された被加工物の新生面は次の切れ刃によって除去されるまでに電極で電解加工が行われため、電解切削工具の径、切れ刃の数、電極面の長さ及び回転数を適度に設定する必要がある。
【0015】
〔実験例〕
5mmφ、2枚刃、切れ刃間の30°の角度部分を電極部分とした本実施の形態に係る電解切削工具を用いて、鉄系材料に5mmの切り込み、電解加工液25%wtNaNO3、電解電流6.5A、工具回転数2500rpmの設定で加工を行った。
実験的に求められた良好な電解が行われる定電流領域条件である電流密度100A/cm2、通電時間2msに当てはまり、効率良く電解切削が行われることが確認できた。
【0016】
【発明の効果】
本発明は、次のような優れた効果を奏する・
(1)電解作用によって発生した不働態膜を切削によって除去する切削工具において、切れ刃と電極とを絶縁された構造とすることにより、不働態膜が導電性を有するような場合でも、切れ刃と電極とが一体化された1つの切削工具でもって電解加工電源のON−OFFをすることなく連続的に電解切削作業を効率良く行うことができる。
(2)切れ刃及び電極との間に絶縁性を有する切削排出溝を介在させることにより、電極部分に切りくずが入り込みにくく、切りくずによる電極の短絡を確実に防止できる。
(3)切れ刃と電極とが一体化された1つの切削工具により電解切削作業を行うため、加工物と電極の距離を縮めることができ、電解作用を起こさせたい部位に集中して作用させることが可能であり、作業の高精度化及び電解作用速度の増大が図れ加工の高効率化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る電解作用を利用した切削工具を用いた加工装置を説明する概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電解切削工具の一例を示すもので上方の図が電解切削工具の先端部分の正面を、また、下方の図が先端部分の断面を示している。
【図3】本発明の実施の形態に係る電解切削工具の断面を拡大した図である。
【図4】電解切削工具の他の例を示した図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る電解切削工具による加工工程を説明する図である。
【図6】加工工程における加工点の拡大図である。
【符号の説明】
1 電解切削工具
2 電極
3 切れ刃
4 切削排出溝
5 間隙
6 被加工物
7 電解加工液
8 噴射手段
9 吸引手段
10 ポンプ
11 切りくず除去装置
12 温度制御装置
13 電解加工用電源
14 NC移動機構
15 パーソナルコンピュータ
16 加工電流・電圧モニター装置
17 不働態膜
18 切りくず

Claims (3)

  1. 工具の回転により導電性の被加工物を切削する電解作用を利用した切削工具において、絶縁性を有する切れ刃及び導電性を有する電極を一体的に備え、前記切れ刃及び電極を交互に配置するとともに、切れ刃及び電極との間に位置し、かつ、切れ刃の回転方向前方に位置して絶縁性を有する切削排出溝を介在させ、切削された切りくずが電極と接触しない状態で切削排出溝から外部に排出されることを特徴とする電解作用を利用した切削工具。
  2. 請求項1記載の切削工具の製造方法において、切削工具を導電性材料から形成し、該導電性材料製の切削工具全体を絶縁材料でコーティングし、このコーティング材をレーザ加工又は機械加工で除去して電極部分を形成することを特徴とする電解作用を利用した切削工具の製造方法。
  3. 請求項1記載の切削工具の製造方法において、切削工具を絶縁材料で形成、又は絶縁材料をコーティングして形成し、該絶縁性の切削工具の上に導電性の電極材料をコーティングして電極部分を形成することを特徴とする電解作用を利用した切削工具の製造方法。
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