JP4057717B2 - 固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はイオン伝導性を有する固体高分子膜を持つ燃料電池に係り、特に、燃料極の触媒に改良を加えた固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、高効率でクリーンなエネルギー変換装置として燃料電池が注目を集めている。中でも、固体高分子膜を電解質膜とする固体高分子膜電解質型燃料電池は、比較的低温(80〜100℃)で作動できる、出力密度が高い、構成がコンパクトであるといった利点がある。そのため、移動用電源や定置用電源等、様々な分野での使用が期待されている。
【0003】
固体高分子膜電解質型燃料電池の作動原理は、リン酸電解質型燃料電池と基本的には同じであるが、電解質膜である固体高分子膜が湿潤状態にて良好なイオン伝導性を発揮するため、膜の耐熱性から運転温度は100℃近辺となっている。また、電池本体の構造もリン酸電解質型燃料電池と同様である。すなわち、燃料極(以下、アノードと称する)と酸化剤極(以下、カソードと称する)から成る一対の多孔質電極の間に、固体高分子膜を挟持し、アノード及びカソードにそれぞれ燃料ガス及び酸化剤ガスを流通させている。また、アノード及びカソードは通常、炭素材からなり、固体高分子膜と接する面に各々、触媒層としてアノード触媒及びカソード触媒を形成している。なお、酸化剤ガスはコンプレッサーより送られる空気、燃料ガスは天然ガスを改質した水素リッチなガス、あるいはメタノール等を改質した水素リッチなガスである。
【0004】
以上のような燃料電池では、電解質膜と接する触媒表面で起きる電気化学反応によって電力を得ているので、燃料電池の出力・寿命は触媒の特性に大きく依存している。触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、銀(Ag)、金(Au)といった貴金属成分を、カーボンブラックのような導電性の粉末担体に担持させたものが用いられている。このような触媒によれば、シンタリングの抑制及び貴金属使用量の低減が可能であり、燃料電池の経済性が高める上で有利である。
【0005】
ところで、アノードに供給される燃料ガス中にはCO,H2 S,NH3 等の様々な不純物ガスが含まれる。これら不純物ガスがアノード触媒の表面に吸着すると、いわゆる触媒毒となり、触媒活性が大幅に低減することは周知の通りである。しかも、このガスの吸着は電極触媒表面で発熱反応を起こすため、低温で運転される固体高分子膜電解質型燃料電池においては影響が大きく、厳しい条件で除去しなくてはならない。そこで、これら不純物ガスのうち最も濃度が大きいCOについては改質器や変成器を燃料ガス供給系統に組込むことにより、アノードに入る前に50ppm程度にまで低減してから、アノードへの燃料ガス供給を行うようになっている。
【0006】
しかしながら、これら改質器触媒の経時的劣化や操作機構の突発的故障、あるいは、ガソリン等の多様化する燃料の出現により不純物ガスの入口濃度が上昇すると、アノード触媒の被毒が予想される。そこで従来より、不純物ガス(主にCO)に対する耐性の高いアノード触媒が多数開発されてきた。例えば、カーボン担持の白金−ルテニウム合金触媒、あるいはそこにSn等の第三の添加元素を加えて合金化した触媒をアノード触媒として用いることが提案されている。
【0007】
より具体的には次のような従来技術が知られている。特開平9−35723号公報記載の従来例は、電極面内のガス出口側にのみ白金−ルテニウム合金触媒を使うと共に、白金:ルテニウムの原子比率を85:15〜55:45に規定したもので、白金−ルテニウム合金触媒におけるコストダウンを目的としている。また、白金及びルテニウムを合金化するのではなく、白金及びルテニウムを持つ複合触媒成形体として特開平9−153366号公報記載の従来例がある。この例では、まず白金化合物を導電性の成形体に塗布し、これを還元して成形体上に白金を析出させ、次いでルテニウム化合物を上記成形体に塗布し、これを還元することによって、単に2つの金属を成形体上に担持させることができる。これらのアノード触媒を用いてCO被毒試験を行ってみると、確かにその耐性は高くなっていることが実証されている。さらに、アノード触媒の従来例としては、白金または白金合金に対し水素吸蔵合金を被着させるといった特徴を持つものも提案されている(特開平10−74523号公報)。このアノード触媒によれば、水素吸蔵合金の働きにより白金または白金合金での水素の酸化反応を促進させることができ、高活性及び長寿命に寄与することができる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来技術においては、燃料電池の負荷電流を高電流密度領域まで上げていくと、電圧が低下し、限界電流となる傾向が現れてくるという問題点があった。また、燃料電池を長期にわたって運転していると、アノードの分極が増大し、電池特性が徐々に劣化するという不具合を招いた。さらに、様々な用途が期待される燃料電池に対してはコスト面も重要視されている。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、不純物ガスに対する耐性をいっそう高め、高電流密度領域まで負荷をとった場合でも電圧低下を抑え、長期運転時の電池特性の劣化を防止できる、経済性及び信頼性に優れた固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、電解質膜としてイオン伝導性を有する固体高分子膜を備え、この固体高分子膜を挟むように燃料極及び酸化剤極を配置し、これら燃料極及び酸化剤極にはカーボン上に白金及びルテニウムが担持された触媒を設け、前記燃料極の触媒が、白金及びルテニウムを合金化した合金部分と、白金及びルテニウムを非合金化したままの非合金部分とからなり、前記燃料極側には燃料ガスを、前記酸化剤側には酸化剤ガスをそれぞれ流通させた固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法であって、カーボン担持の白金触媒またはルテニウム触媒を出発物質とし、出発物質がカーボン担持の白金触媒であるとき、ここにルテニウム化合物を添加し、出発物質がカーボン担持のルテニウム触媒であるとき、ここに白金化合物を添加し、その後、還元性ガスあるいは不活性ガス雰囲気中にて熱処理した触媒を、前記燃料極の触媒として用いたことを特徴とする。
【0011】
以上の請求項1の発明では、燃料極の触媒中に、白金及びルテニウムの合金化部分と、白金及びルテニウムの非合金化部分とが混在している。そのため、カーボン上に担持された金属同士すなわち白金及びルテニウムの凝集に関しては、両者が完全に合金化した白金−ルテニウム合金触媒に比べて小さくなる。したがって、燃料極の触媒における電気化学的な金属表面積は、白金−ルテニウム合金触媒のそれよりもかなり大きな値をとることができる。
【0012】
このような触媒を燃料極に用いることにより、合金としての電子的性質を発揮すると同時に、高濃度のCOをはじめとする各種の不純物ガスが燃料極に混入した場合でも、被毒しない白金の割合が従来よりも多くなる。すなわち、触媒の表面積を増大させることにより高濃度の不純物ガスに対する耐性を高めることができる。これにより、負荷電流が増大しても電圧低下を抑制することができる。さらに、初期の金属表面積が大きいので、長期にわたって電池を運転した場合も、金属表面積の減少率を抑えることができる。したがって、燃料極の分極が急激に増大することがなく、電池特性の低下を防ぐことができる。
【0014】
請求項2の発明は、電解質膜としてイオン伝導性を有する固体高分子膜を備え、この固体高分子膜を挟むように燃料極及び酸化剤極を配置し、これら燃料極及び酸化剤極にはカーボン上に白金及びルテニウムが担持された触媒を設け、前記燃料極の触媒が、白金及びルテニウムを合金化した合金部分と、白金及びルテニウムを非合金化したままの非合金部分とからなり、前記燃料極側には燃料ガスを、前記酸化剤側には酸化剤ガスをそれぞれ流通させた固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法であって、カーボンに白金化合物及びルテニウム化合物を同時に混合後、還元性ガスあるいは不活性ガス雰囲気中にて熱処理した触媒を、前記燃料極の触媒として用いたことを特徴とする。
【0015】
請求項3の発明は、電解質膜としてイオン伝導性を有する固体高分子膜を備え、この固体高分子膜を挟むように燃料極及び酸化剤極を配置し、これら燃料極及び酸化剤極にはカーボン上に白金及びルテニウムが担持された触媒を設け、前記燃料極の触媒が、白金及びルテニウムを合金化した合金部分と、白金及びルテニウムを非合金化したままの非合金部分とからなり、前記燃料極側には燃料ガスを、前記酸化剤側には酸化剤ガスをそれぞれ流通させた固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法であって、カーボン担持の白金触媒とカーボン担持のルテニウム触媒とを混合後、還元性ガスあるいは不活性ガス雰囲気中にて熱処理した触媒を、前記燃料極の触媒として用いたことを特徴とする。
【0016】
以上の請求項1〜3の発明では、還元性ガスあるいは不活性ガス雰囲気中で熱処理することによって、白金及びルテニウムの合金部分及び非合金部分が混在した触媒を得ることができる。しかも、温度や時間といった熱処理の条件、あるいは混合する白金及びルテニウムの触媒あるいは化合物の添加量によって、触媒中の合金化度を調節することができる。このときの合金化度はX線回折パターンの白金の回折角2θ=39.7°から高角度側にどれだけシフトしたかを調べることにより推定できる。
【0017】
合金化度の調節は具体的には次のようにして行う。例えば、白金及びルテニウム同士が完全に合金化する化学量論量よりもルテニウム化合物の量を少なく(あるいは白金化合物の量を多く)して、白金の金属成分をルテニウムの金属成分よりも過剰に添加したとする。過剰に添加された白金成分は合金化せずにそのままカーボン上に析出する。その結果、合金及び非合金の混在した状態の触媒を得ることができる。また、添加金属量を量論組成以下に設定しても良い。この場合は不足分の金属が合金化しないままカーボンに担持された状態となり、過剰量を設定した場合と同じく、本発明の目的とする一部分を合金化し、他の部分を非合金化した状態の触媒を作製することができる。
【0018】
請求項4の発明は、請求項3記載の発明において、前記白金触媒及び前記ルテニウム触媒のカーボン担体の比表面積のうち、白金触媒のカーボン担体の比表面積の方を、ルテニウム触媒のカーボン担体の比表面積よりも大きくしたことを特徴とする。
【0019】
このような請求項4の発明では、混合前の白金触媒におけるカーボン担体の比表面積がルテニウム触媒におけるカーボン担体の比表面積よりも大きくしたことにより、カーボン担持の白金触媒の分散性が高く、その表面積がルテニウム触媒の表面積よりも大きくなる。このような触媒を燃料極の触媒として用いることにより、高濃度の不純物ガスが混入した場合でも優れた耐性を発揮でき、高負荷まで電池電圧の低下を防ぐことができる。さらに、長期にわたって電池を運転しても白金の初期表面積が大きいのでその減少率は小さくて済み、アノード分極の急激な増大による電池特性の低下を抑えることができる。
【0020】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、還元性ガスあるいは不活性ガス雰囲気中にて前記燃料極の触媒を熱処理する熱処理ステップを含み、前記熱処理ステップが、300〜600℃の還元性ガスによる第1段階と、600〜2000℃の不活性ガスによる第2段階と、300〜600℃の還元性ガスによる第3段階とを行うことを特徴とする。
【0021】
このような請求項5の発明では、触媒の熱処理ステップを行うに際して、まず300〜600℃の還元性ガス雰囲気中で表面金属及び担体カーボンとの間に化学結合的な相互作用を持った還元を行う。次いで600〜2000℃の不活性ガス中での加熱還元により合金化を行う。と同時に金属微粒子の周囲にCO等の還元生成物を形成することができる。したがって、還元生成物により金属微粒子の凝集を抑制することができる。その結果、触媒の電気化学的な金属表面積を大きくとることができ、高濃度の不純物ガスに対する耐性を高めることができる。しかし、担体カーボンの表面積があまり大きくない場合には上記のような3段階の熱処理を行うと合金化度が高くなりすぎる傾向があるので、この場合には第1段階のみを行うことにより所望の燃料極の触媒を得る。
【0026】
【発明の実施の形態】
(1)本実施の形態
[構成]
以下、本発明の実施の形態の一例について、図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
▲1▼燃料電池発電システムの構成
まず、図2を用いて本実施の形態が適用される燃料電池発電システムについて説明する。図2に示すように、燃料電池システムには原燃料である天然ガスを供給する配管2及び水供給配管3が設けられている。これらの配管2,3には水素に富んだ改質ガスを製造する改質器4が接続され、さらに改質器4には前記改質ガス中の一酸化炭素ガス等をさらに水素に変換して燃料ガスを製造する変成器5が接続されている。
【0028】
変成器5には燃料ガス供給管6が取付けられており、この燃料ガス供給管6を介して固体高分子膜電解質型の燃料電池スタック1が接続されている。燃料電池スタック1は単位電池が複数個積層されたもので、酸化剤ガスである空気を供給する空気供給管9が取付けられ、この供給管9を介してコンプレッサー8が接続されている。さらに、燃料電池スタック1には燃料ガス及び空気を外部に送る燃料ガス排出管7及び空気排出管10が取付けられている。
【0029】
▲2▼燃料電池スタックの構成
続いて、燃料電池スタック1を構成する単位電池について図3を用いて説明する。燃料電池スタック1の単位電池には、電解質膜である固体高分子膜11が設けられている。固体高分子膜11は高分子材料及びフッソ系樹脂から形成されたイオン交換膜であり、湿潤状態において良好なイオン伝導性を示すようになっている。この電解質膜11を上下から挟むようにしてガス拡散電極であるアノード12及びカソード13が配置されている。アノード12及びカソード13の背面には燃料ガス、酸化剤ガスの流路を形成するセパレータ14,15が配置され、さらにその外側にはアノード12,カソード13の集電極となる集電板16,17が配置されている。
【0030】
▲3▼アノードの構成
次にアノード12について図1を参照して説明する。すなわち、アノード12はガス拡散部18、アノード触媒19及びカーボン部20が積層されて構成されている。ガス拡散部18は多孔質でガス透過性及び電子伝導性を有するカーボンペーパーから形成される。このガス拡散部18の固体高分子膜11側表面にアノード触媒19が塗布される。また、カーボン部20はガス拡散層18と触媒層19との中間に位置し、両者間の接合を良くするためのものである。
【0031】
▲4▼アノード触媒の構成
本実施の形態の特徴はアノード触媒19にある。すなわち、アノード触媒19はカーボン上に白金及びルテニウム金属が担持された触媒であって、図1に示すように、白金及びルテニウムが合金化した合金部19aと、白金及びルテニウムが非合金化している非合金部19bとが混在している。
【0032】
▲5▼本実施の形態の製造工程
このような状態のアノード触媒19は次の方法で作製される。まず、カーボン担持の白金触媒に塩化ルテニウム及びイオン交換水を添加し、ここに蟻酸ナトリウム等の還元剤を添加してカーボン上にルテニウムを析出させる。この場合、液相の還元剤は必ずしも添加しなくとも良い。なお、カーボンに担持させる白金及びルテニウムの出発物質としては上述の塩化物に限らず、水酸化物、硫化物、あるいはそれらの金属の錯体を用いても良い。また、液相の還元剤としてはチオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒド、メタノール、ヒドラジン等、液相にて使用可能な還元剤ならいずれを用いても良い。
【0033】
次に、この溶液を吸引ろ過後、イオン交換水にて繰り返し洗浄して塩素イオン、あるいはその他の陰イオンを除去してから60℃にて乾燥させる。次いで、この触媒を水素気流中800℃にて30分間加熱還元してアノード用の触媒を得る。このような触媒の熱処理が本発明の熱処理ステップである。このカーボンが熱処理された状態で触媒は80m2 /gの比表面積を有するようになっている。
【0034】
ここまでの本実施の形態のアノード触媒19作製時の熱処理温度及び時間、物性並びに製造コストについて、従来品のそれと比較した結果をまとめたものが下記の表1である。
【0035】
【表1】
このようにして得られた触媒をイオン交換水に分散させ、ここに所定量のテフロン(ポリテトラフルオロエチレン)の分散液を混合し、この合剤をスプレーにて基板であるガス拡散層18上に塗布し、固体高分子膜11とガス拡散層18とをホットプレスで一体化することにより、固体高分子膜11とアノード12とを接合しつつ、触媒層19を形成する。なお、ホットプレスに換えて、水素イオン伝導性の固体高分子溶液を用いて固体高分子膜11とアノード12とを接合する構成としても良い。以上の本実施の形態では、金属触媒の担持量はアノード1cm2 当り0.5mgとする。また、白金とルテニウムの組成比率はルテニウム含有量として10〜70wt%であれば良い。
【0036】
[作用及び効果]
以上のような構成を有する本実施の形態の作用及び効果は次の通りである。すなわち、アノード触媒19中に、白金及びルテニウムの合金化部分と、白金及びルテニウムの非合金化部分とが混在するため、両者が完全に合金化した触媒層に比べてカーボン上に担持された白金及びルテニウムの凝集は小さくなる。したがって、触媒の電気化学的な金属表面積(特に白金)は白金−ルテニウム合金触媒のそれよりもかなり大きな値をとることができる。つまり、アノード触媒19は合金としての電子的性質を持つと同時に、被毒しない白金の割合が多くなり、高濃度のCOをはじめとする各種の不純物ガスに対する耐性を高めることができる。
【0037】
図4のグラフはアノード触媒19を有する固体高分子電解質型燃料電池及び従来のアノード触媒を有する固体高分子電解質型燃料電池におけるI−V特性を示している。実線が本実施の形態、破線が従来例である。なお、燃料ガスには天然ガス改質ガスに50ppm のCOが含まれているとする。このグラフから明らかなように、これにより、本実施の形態によれば、高負荷電流密度においても限界電流が現れることのない高性能の電池を得ることができる。
【0038】
また、図5のグラフはアノード触媒19を有する固体高分子電解質型燃料電池及び従来のアノード触媒を有する固体高分子電解質型燃料電池一定負荷電流において運転した場合の電池電圧の経時変化を示す。このグラフでも上記図4のグラフと同様、実線が本実施の形態、破線が従来例であり、燃料ガスには天然ガス改質ガスに50ppm のCOが含まれているとする。このグラフから分かるように、本実施の形態では長期にわたって電池を運転した場合でも、アノード12の分極が急激に進むことがなく、電池特性の低下を抑制できる。これは金属表面積の初期値が大きく、金属表面積の減少率が小さいためである。
【0039】
しかも、本実施の形態では、カーボンが熱処理された状態で80m2 /gの比表面積を持つため、電池運転初期より高負荷の運転に耐え得る触媒表面積を確保できる。さらに、本実施の形態においては、アノード触媒19の一部のみを合金化すれば良いので、上記の表1に示したように、触媒19の熱処理温度は従来の1100℃から800℃まで下げることができ、熱処理時間は従来の1時間から30分に短縮することができる。これにより、製造コストを従来の3/4にまで低減することができる。
【0040】
また、本実施の形態においては、カーボン担持の白金触媒の量とルテニウム化合物である塩化ルテニウムの量とから調節することができる。つまり、添加金属量を目的とする組成の過剰量あるいは量論組成以下に設定しておけば、過剰分あるいは不足分の金属は合金化しないままカーボンに担持された状態となり、本発明の目的とする一部分を合金化し、他の部分を非合金化した状態の触媒を作製することができる。なお、合金の組成はここでは規定していないが、白金表面積を増大させるといった観点からすると、白金及びルテニウム同士が完全に合金化する化学量論量よりもルテニウム化合物の量を少なく(あるいは白金化合物の量を多く)した方が望ましい。
【0041】
(2)他の実施の形態
なお、本発明は、以上のような実施の形態に限定されるものではなく、次のような他の実施の形態も包含するものである。すなわち、触媒合成における出発物質としてカーボン担持のルテニウム触媒を出発物質としてここに白金化合物を添加後還元性ガス或は不活性ガス雰囲気中において熱処理することにより合成されたものでも良い。また、カーボンに白金化合物及びルテニウム化合物を同時に混合後、還元性ガスあるいは不活性ガス雰囲気中において熱処理することにより合成された触媒でも良い。
【0042】
さらに、あらかじめ合成されたカーボン担持の白金触媒とカーボン担持のルテニウム触媒を混合後、熱処理還元により一部合金化したものでも良い。この際、混合するカーボン担持の白金触媒の担体表面積をカーボン担持のルテニウム触媒の担体表面積よりも大きなものを用いてあると白金の分散性が高く維持され、ここにルテニウムが担持され、合金化されると白金表面積の大きな触媒が合成されるので望ましい。
【0043】
また、本発明に係る製造方法において、熱処理、還元を行う還元性ガス、不活性ガスとしては上記の水素だけではなく、一酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウムもしくはそれらの混合ガスを用いると良い。なお、熱処理温度としては、カーボン担体の熱処理前の表面積の値が1000m2 /g以上であれば1000〜2000℃、1000m2 /g以下であれば300〜1000℃の処理温度が好適である。
【0044】
さらに、還元性ガスと不活性ガスの混合、あるいは、還元性ガスと不活性ガスを組み合わせた多段の還元を行うことも可能である。すなわち、300〜600℃の還元性ガス雰囲気中で表面金属及び担体カーボンとの間に化学結合的な相互作用を持った還元を行う。次いで600〜2000℃の不活性ガス中での加熱還元により合金化を行う。このとき金属微粒子の周囲にCO等の還元生成物を形成することができる。したがって、還元生成物により金属微粒子の凝集を抑制することができる。その結果、触媒の電気化学的な金属表面積を大きくとることができ、高濃度の不純物ガスに対する耐性を高めることができる。ただし、担体カーボンの表面積があまり大きくない場合には3段階の熱処理を行うと合金化度が高くなりすぎて本発明の意図する合金部分及び非合金部分が混在する状態が達成できなくなる。このような場合には第1段階のみを行うことにより所望の燃料極の触媒を得ることができる。
【0045】
【発明の効果】
上記の説明で明らかな如く、本発明によれば、白金及びルテニウム金属が担持された燃料極の触媒中、一部を合金化され、他の部分を非合金化するといった極めて簡単な構成により、大きな金属表面積を確保できるので、不純物ガスに対する耐性が高まると同時に、高負荷においても電圧低下が小さく、且つ経時的にも特性の安定した固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る固体高分子膜電解質型燃料電池におけるアノードの構造を示す模式図
【図2】固体高分子膜電解質型燃料電池システムの説明図
【図3】固体高分子膜電解質型燃料電池における単位電池の構造図
【図4】本実施の形態及び従来例に係る固体高分子膜電解質型燃料電池のI−V特性を示すグラフ
【図5】本実施の形態及び従来例に係る固体高分子膜電解質型燃料電池を一定負荷電流で運転した場合の電池電圧の経時変化を示すグラフ
【図6】担体表面積と触媒表面積(金属表面積)の関係を示すグラフ
【符号の説明】
1…燃料電池スタック
2…天然ガス供給管
3…水供給管
4…改質器
5…変成器
6…燃料ガス供給管
7…燃料ガス排出管
8…コンプレッサ
9…空気供給管
10…空気排出管
11…固体高分子膜
12…アノード
13…カソード
14,15…セパレータ
16,17…集電板
18…ガス拡散部
19…アノード触媒
19a…合金部
19b…非合金部
20…カーボン部
Claims (5)
- 電解質膜としてイオン伝導性を有する固体高分子膜を備え、この固体高分子膜を挟むように燃料極及び酸化剤極を配置し、これら燃料極及び酸化剤極にはカーボン上に白金及びルテニウムが担持された触媒を設け、前記燃料極の触媒が、白金及びルテニウムを合金化した合金部分と、白金及びルテニウムを非合金化したままの非合金部分とからなり、前記燃料極側には燃料ガスを、前記酸化剤側には酸化剤ガスをそれぞれ流通させた固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法であって、
カーボン担持の白金触媒またはルテニウム触媒を出発物質とし、
出発物質がカーボン担持の白金触媒であるとき、ここにルテニウム化合物を添加し、
出発物質がカーボン担持のルテニウム触媒であるとき、ここに白金化合物を添加し、
その後、還元性ガスあるいは不活性ガス雰囲気中にて熱処理した触媒を、前記燃料極の触媒として用いたことを特徴とする固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法。 - 電解質膜としてイオン伝導性を有する固体高分子膜を備え、この固体高分子膜を挟むように燃料極及び酸化剤極を配置し、これら燃料極及び酸化剤極にはカーボン上に白金及びルテニウムが担持された触媒を設け、前記燃料極の触媒が、白金及びルテニウムを合金化した合金部分と、白金及びルテニウムを非合金化したままの非合金部分とからなり、前記燃料極側には燃料ガスを、前記酸化剤側には酸化剤ガスをそれぞれ流通させた固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法であって、
カーボンに白金化合物及びルテニウム化合物を同時に混合後、還元性ガスあるいは不活性ガス雰囲気中にて熱処理した触媒を、前記燃料極の触媒として用いたことを特徴とする固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法。 - 電解質膜としてイオン伝導性を有する固体高分子膜を備え、この固体高分子膜を挟むように燃料極及び酸化剤極を配置し、これら燃料極及び酸化剤極にはカーボン上に白金及びルテニウムが担持された触媒を設け、前記燃料極の触媒が、白金及びルテニウムを合金化した合金部分と、白金及びルテニウムを非合金化したままの非合金部分とからなり、前記燃料極側には燃料ガスを、前記酸化剤側には酸化剤ガスをそれぞれ流通させた固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法であって、
カーボン担持の白金触媒とカーボン担持のルテニウム触媒とを混合後、還元性ガスあるいは不活性ガス雰囲気中にて熱処理した触媒を、前記燃料極の触媒として用いたことを特徴とする固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法。 - 前記白金触媒及び前記ルテニウム触媒のカーボン担体の比表面積のうち、白金触媒のカーボン担体の比表面積の方を、ルテニウム触媒のカーボン担体の比表面積よりも大きくしたことを特徴とする請求項3記載の固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法。
- 還元性ガスあるいは不活性ガス雰囲気中にて前記燃料極の触媒を熱処理する熱処理ステップを含み、
前記熱処理ステップが、300〜600℃の還元性ガスによる第1段階と、600〜2000℃の不活性ガスによる第2段階と、300〜600℃の還元性ガスによる第3段階とを行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体高分子膜電解質型燃料電池の製造方法。
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