JP4056264B2 - 物質の分離方法、および物質分離装置 - Google Patents

物質の分離方法、および物質分離装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はフィルム製造、塗装、印刷、石油化学工場などにおいて発生する溶剤蒸気等の吸着成分を、排ガス等の流体中から分離するための物質の分離方法およびそのための装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
昨今の環境浄化に関する規制強化に伴い、工場などから排出される溶剤等の排出量の削減や、回収再利用を図る気運が高まっている。
【0003】
吸着法による溶剤等の回収は古くから行われており、一例としては「最新吸着技術便覧」(発行元:株式会社エス・ディー・エス)に記載の塩化メチレンの回収やシクロヘキサノンの回収などが挙げられる。これらは共に吸着材として活性炭もしくは活性炭素繊維を使用し、固定床の吸着塔を用いた方法である。
【0004】
上記方法における溶剤等の混入物質の吸着、脱着および回収の原理は、例えば常温程度で吸着塔へ被処理ガスを流通させる吸着工程と、吸着塔へスチームを直接吹き込み、加熱して溶剤等を脱離させる脱着工程を交互に行うものであり、溶剤等はスチームと共に凝縮して回収される。この方式では脱着工程における加熱源としてスチームが、また、冷却源として溶剤等を含まない吸着塔出口ガスや空気などが用いられる。
【0005】
しかし、「最新吸着技術便覧」の記載によると、例えば前記塩化メチレンの回収では、スチーム吹き込みによる吸着の際、塩化メチレンの一部が下記反応式(1)のように分解して塩化水素が生成し、装置材料の腐食を招くといった問題が生じる。
CHCl+HO → HCHO+2HCl 反応式(1)
また、吸着した溶剤を脱着回収する際にスチームを直接吹き込む方法では、回収液が溶剤と水の混合物であるため、その処理が問題となる。すなわち、溶剤が非水溶性の場合は分離槽内で比重差による分離を行う必要がある上、比重差で分離した水相には微量の溶剤が溶存しているため、排出水規制によってさらなる排水処理設備が必要となる。一方、水溶性溶剤の場合は蒸留設備により溶剤の分離を行う必要がある。このように、従来の方法では、回収溶剤等と水との分離のための付帯設備が大掛かりなものになってしまうという問題がある。
【0006】
また、上記吸着方法で使用される加熱源は、スチームに限定されてしまい、他の加熱源(例えば高温オイル)を使用することができない。このため、溶剤回収装置の設置場所に自ずと制約ができてしまうのである。
【0007】
ところで、吸着分離装置における混入物質の吸着・脱着の方式には、低温下で混入物質を吸着させ、高温下で混入物質を脱着させるTSA(温度スイング吸着:Thermal Swing Adsorption)方式や、加圧下で混入物質を吸着させ、減圧下で吸着物質を脱着させるPSA(圧力スイング吸着:Pressure Swing Adsorption)方式のほか、低温および/または加圧下で混入物質を吸着させ、高温、減圧下で吸着物質を脱着させるPTSA(圧力温度スイング吸着:Pressure and Temperature Swing Adsorption)方式が知られている(ここで、「低温」−「高温」、「加圧」−「減圧」の表現は、それぞれ相対的な意味で用いられており、例えば常温程度でも「高温」状態との比較においては「低温」となる)。上記TSA方式やPTSA方式は、排ガス等に含まれる溶剤の分離回収にも利用できる方法であるが、一般的な吸着分離装置でTSA方式やPTSA方式を実施する場合には、前記と同様の問題点(腐食、排水処理や付帯設備等の問題)が生じる。
【0008】
一方、特公平6−85848号公報では、プレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置が提案されている。このプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置は、物質の吸着分離を行う上で優れた装置であるが、TSA方式やPTSA方式による吸着分離に応用する上では、吸着材の加熱/冷却操作を行う分離部以外の部位にも伝熱して熱の損失を生むため、改良の余地が残されていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記したような問題がなく、溶剤蒸気等の吸着成分を排ガス等の流体中から効率良く分離することが可能な物質の分離方法、および該分離方法の実施に適した装置を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の物質の分離方法の発明は、伝熱フィンを備えた隔壁プレートによって形成される流体流路を重ね合わせてなり、吸着材を充填した吸着成分の分離用流路と、熱媒体を流通させる熱交換用流路と、を交互に配置した分離部を備え、前記分離用流路に連なるガス導入・導出配管と前記分離部との接合部および/または前記熱交換用流路に連なる熱媒体導入・導出配管と前記分離部との接合部に、該分離部から当該ガス導入・導出配管および/または熱媒体導入・導出配管への伝熱を防止する断熱部を設けたプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置を用いる物質の分離方法であって、熱交換用流路に冷却用熱媒体を流すとともに、該冷却用熱媒体の冷たい熱が前記分離部との接合部に前記断熱部を設けた配管に伝わるのを当該断熱部で断熱しつつ吸着材を冷却しながら、分離用流路に被処理ガスを流し、吸着成分を吸着させる吸着工程と、冷却用熱媒体を加熱用熱媒体に代え、吸着材を、加熱用熱媒体の温かい熱が前記分離部との接合部に前記断熱部を設けた配管に伝わるのを当該断熱部で断熱しつつ間接的に加熱するとともに、分離用流路を減圧した状態でパージ用ガスを流通させる減圧回収工程と、を含むことを特徴とする。
この特徴によれば、PTSA方式を利用して吸着成分の分離を行うことができるため、吸着工程では冷却用熱媒体により吸着熱を除去することで吸着性能の低下を防止でき、一方、減圧回収工程では加熱しながら減圧パージを行うことで高い脱着・回収効率を実現できる。また、使用するプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置は間接加熱方式であるため、前記した塩化メチレンの分解や回収溶剤中への多量の水分混入の問題は生じない。さらに、プレ−トフィン熱交換器の伝熱特性は良好であるため、加熱/冷却の切替えが短時間で行え、吸着−回収のサイクル時間が短縮できる。
また、プレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置に断熱部を設けたことにより、吸着材充填層以外の部位への伝熱を防止することができるので、無駄なエネルギー消費を抑制できる一方で迅速な加熱/冷却が可能になる。したがって、熱の損失を最小限に抑えながら短時間でサイクルを実行できる。
【0011】
請求項2に記載の物質の分離方法の発明は、請求項1において、吸着工程を加圧下で行うとともに、吸着工程と減圧回収工程との間に、分離用流路内のガスを抜出して圧力を常圧に戻すブローダウン工程を含むことを特徴とする。
この特徴によれば、吸着工程を加圧下で行うとともにブローダウン工程を設けたため、排ガスなどの被処理ガスが加圧状態で供給される場合に、そのまま吸着処理することが可能になる。つまり、加圧された状態の方が吸着材への吸着効率が良いため、被処理ガスの状態に応じて無駄のない効率的な処理が可能になる。
【0012】
請求項3に記載の物質の分離方法の発明は、請求項1または請求項2において、減圧回収工程の後に、加熱用熱媒体を冷却用熱媒体に代えて吸着材を間接的に冷却する操作と、分離用流路内を昇圧する操作とを行う回復工程を含み、吸着工程以降の各工程を順次繰り返し行うことを特徴とする。
この特徴によれば、減圧回収工程の後に回復工程を設け、各工程を順次繰り返し行うことにより、吸着成分の吸着−回収サイクルを効果的に実施できる。
【0013】
請求項4に記載の物質の分離方法の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、さらに、減圧回収工程および/またはブローダウン工程で分離用流路から排出されるガスから、吸着成分を粗分離した残りのガスを吸着工程へ戻す循環処理を行うことを特徴とする。
この特徴によれば減圧回収工程および/またはブローダウン工程での排出ガスを吸着工程へ戻す循環処理を行うことによって、より完全に吸着成分を分離・回収することが可能になる。
【0014】
請求項5に記載の物質の分離方法の発明は、伝熱フィンを備えた隔壁プレートによって形成される流体流路を重ね合わせてなり、吸着材を充填した吸着成分の分離用流路と、熱媒体を流通させる熱交換用流路と、を交互に配置した分離部を備え、前記分離用流路に連なるガス導入・導出配管と前記分離部との接合部および/または前記熱交換用流路に連なる熱媒体導入・導出配管と前記分離部との接合部に、該分離部から当該ガス導入・導出配管および/または熱媒体導入・導出配管への伝熱を防止する断熱部を設けたプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置を用いる物質の分離方法であって、熱交換用流路に冷却用熱媒体を流すとともに、該冷却用熱媒体の冷たい熱が前記分離部との接合部に前記断熱部を設けた配管に伝わるのを当該断熱部で断熱しつつ吸着材を冷却しながら分離用流路に被処理ガスを流し、吸着成分を吸着させる吸着工程と、冷却用熱媒体を加熱用熱媒体に代え、吸着材を、加熱用熱媒体の温かい熱が前記分離部との接合部に前記断熱部を設けた配管に伝わるのを当該断熱部で断熱しつつ間接的に加熱するとともに、分離用流路にパージ用ガスを流通させる常圧回収工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
この特徴によれば、TSA方式を利用して効率よく吸着成分の分離を行うことができ、また、使用するプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置は間接加熱方式であるため、前記した塩化メチレンの分解や回収溶剤中への多量の水分混入の問題は生じない。さらに、プレートフィン熱交換器の伝熱特性は良好であるため、加熱/冷却の切替えが短時間で行え、吸着−回収のサイクル時間が短縮できる。
また、プレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置に断熱部を設けたことにより、吸着材充填層以外の部位への伝熱を防止することができるので、無駄なエネルギー消費を抑制できる一方で迅速な加熱/冷却が可能になる。したがって、熱の損失を最小限に抑えながら短時間でサイクルを実行できる
【0016】
請求項6に記載の物質の分離方法の発明は、請求項5において、常圧回収工程の後に、加熱用熱媒体を冷却用熱媒体に代えて吸着材を間接的に冷却する操作を行う回復工程を含み、吸着工程以降の各工程を順次繰り返し行うことを特徴とする。この特徴によれば、常圧回収工程の後に回復工程を設け、各工程を順次繰り返し行うことにより、吸着成分の吸着−回収サイクルを効果的に実施できる。
【0017】
請求項7に記載の物質の分離方法の発明は、請求項5または請求項6においてさらに、常圧回収工程で分離用流路から排出されるガスから、吸着成分を粗分離した残りのガスを吸着工程へ戻す循環処理を行うことを特徴とする。
この特徴によれば、常圧回収工程での排出ガスを吸着工程へ戻す循環処理を行うことによって、より完全に吸着成分を分離・回収することが可能になる。
【0018】
請求項8に記載のプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置の発明は、伝熱フィンを備えた隔壁プレートによって形成される流体流路を重ね合わせてなり、吸着材を充填した吸着成分の分離用流路と、熱媒体を流通させる熱交換用流路と、を交互に配置した分離部を備えたプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置において、前記分離用流路に連なるガス導入・導出配管と前記分離部との接合部および/または前記熱交換用流路に連なる熱媒体導入・導出配管と前記分離部との接合部に、該分離部から当該ガス導入・導出配管および/または熱媒体導入・導出配管への伝熱を防止する断熱部を設けたことを特徴とする。
【0019】
この特徴によれば、プレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置に断熱部を設けたことにより、吸着材充填層以外の部位への伝熱を防止することができるので、無駄なエネルギー消費を抑制できる一方で迅速な加熱/冷却が可能になる。したがって、PTSA方式やTSA方式を利用して吸着−回収のサイクルを繰り返し行うような場合でも、熱の損失を最小限に抑えながら短時間でサイクルを実行できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明における物質の分離方法は、上記プレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置を用い、PTSA方式またはTSA方式を利用して物質の分離を行うものである。被処理ガスとしては、特に制限はないが、例えばフィルム製造、塗装、印刷、石油化学工場などにおいて発生する溶剤蒸気などを含む排ガスなどを挙げることができる。また、被処理ガス中の混入物質(分離・除去される成分)としては、例えば、塩化メチレン、シクロヘキサノン等の溶剤のほか、ガソリン、水分等を挙げることができる。
【0021】
本発明の物質の分離方法において、伝熱フィンを備えた隔壁プレートによって形成される流体流路を重ね合わせてなり、吸着材を充填した分離用流路と、熱媒体を流通させる熱交換用流路と、を交互に配置したプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置(以下、「吸着分離装置」と記すことがある)としては、図1に例示するような基本構造を有するものが使用できる。
【0022】
図1において、吸着分離装置の分離部11は、熱交換用流路16と分離用流路17が、その流れ方向が直交するように交互に配置されており、両流路間は、隔壁プレート12で仕切られている。また、熱交換用流路16には、その流れ方向と同方向に伝熱フィン13が設けられ、分離用流路17にも、同様に伝熱フィン14が設けられ、さらに、分離用流路17には吸着材15が充填された構造となっている。吸着材15としては、例えば活性炭、シリカゲル、ハイシリカゼオライトなどを使用することが可能であり、その形状はペレット、球、粉、破砕形とすることができる。また、熱交換用流路16に流通させる熱源(熱媒体)としては、例えば冷却水、スチーム、高温オイルなどが使用できる。なお、図1では、熱交換用流路16と分離用流路17との流れ方向が直交するように形成されているが、例えば逆方向(向流式)にしてもよい。さらに伝熱フィン14としては、既知の波型構造や千鳥構造などのものを使用できる。
【0023】
次に、図2を用いて本発明における吸着および脱着の原理を説明する。ここで、図2は前記のとおり分離部11を直交型で構成した例である。
まず、図2(a)に示すように、熱交換用流路16に冷却水などの冷却用熱媒体52を流しながら、分離用流路17に被処理ガス50を通過させることで溶剤等の吸着成分が吸着材15に吸着され、捕捉される。したがって分離用流路17の出口からは精製ガス51が排出される。この際、吸着材15は冷却用熱媒体52によって間接的に冷却されるため、吸着による温度上昇が抑えられ、吸着能力が安定する。
【0024】
次に、図2(b)に示すように、分離部11の分離用流路17を真空ポンプ21等によって減圧する(PTSA方式の場合。TSA方式では常圧の状態で行う)と同時にスチーム等の加熱用熱媒体53を熱交換用流路16に流し、吸着材15を間接的に加熱しながら、パージ用ガス54を流すことにより、吸着された状態の吸着成分を吸着材15から脱離させ、高濃度化された吸着成分がパージ用ガス54とともに分離部11より排出される。ここでパージ用ガス54としては、酸素ガスを含まないガスが好ましい。これは、吸着成分が引火性の溶剤などである場合、パージ用ガス54とともに回収される高濃度の溶剤の爆発を防止するためである。酸素を含まないガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、二酸化炭素などが挙げられ、これらは吸着分離装置の外部から導入してパージ用ガス54として利用すればよい。なお、パージ用ガス54を吸引する真空ポンプ21を発火防止仕様にすることで爆発の危険性を回避できるため、パージ用ガス54として酸素を含むガス(例えば、吸着処理後の精製ガス51など)を用いることもできる。
【0025】
このように、本発明方法で用いる吸着分離装置は、被処理ガス50や吸着材15を間接加熱する方式であるため、塩化メチレンなどの吸着成分の分解や回収溶剤への水分の多量混入などの問題は生じない。また、プレートフィン方式の熱交換器を利用するため、伝熱特性も良好である。
【0026】
本発明の物質の分離方法に使用可能な吸着分離装置の具体例としては、例えば前掲の特公平6−85848号公報に記載されたプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置を挙げることができる。
【0027】
また、本発明のプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置10は、上記特公平6−85848号公報記載の吸着分離装置に改良を施したものである。その一実施形態を図3に示す。図3において、符号11で示す分離部の構成(内部構造)は省略しているが、前記図1と同様である。図3から見て取れるように、このプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置10は、分離用流路17および熱交換用流路16に連なる部分、すなわち外部配管41、42との接合部に断熱部としてそれぞれ硬質ゴムからなる断熱層18a〜18dを設けている。
【0028】
すなわち、接合部において、吸着分離装置10と外部配管41、42とが、内部の分離用流路17および熱交換用流路16の気密性を保持しながら断熱層18a〜18dを挟み込むようにして例えばボルトとナットなど任意の固定手段19により連結されている。断熱層18a〜18dに使用できる材料としては、断熱作用を持つ材質であれば硬質ゴムに限るものではなく、例えば、板状のアスベストやフッ素系樹脂なども好ましく用いることができる。このように断熱層18a〜18dを設けたことにより、分離部11以外の部位への伝熱を最小限に留めることができるので、無駄なエネルギー消費を抑制できる一方で迅速な加熱/冷却が可能になる。例えば、図3において、符号41、42で示される配管や、符号43で示される吸着分離装置10のケーシングは、アルミニウム合金やステンレス鋼で形成されており、断熱層18a〜18dを設けない場合は、分離部11はケーシング43を介して配管41、42と自由に熱伝導が可能な状態になる。例えば、アルミニウム合金の場合、分離部11から配管41、42への熱伝導率は約830(KJ/m・hr・K)となるが、硬質ゴムの断熱層18a〜18dを設けた場合には同0.6(KJ/m・hr・K)と、著しく低下させることが可能になる。したがって、PTSA方式やTSA方式で冷却−加熱のサイクルを繰り返し行うような場合でも、熱の損失を最小限に抑え、かつ短時間でサイクルの切替えが可能になる。
【0029】
本発明の物質分離方法を実施する際の手順は、図4に示すような工程の組み合わせである。図4中、(A)および(B)はPTSA方式、(C)はTSA方式を示す。
【0030】
PTSA方式の場合、図2を参照しながら説明すると、分離用流路17に被処理ガス50を流し、吸着成分を吸着させる吸着工程と、加熱・減圧状態で分離用流路17にパージ用ガス54を流通させる減圧回収工程と、により実施される。
【0031】
吸着工程では、吸着分離装置の分離部11の熱交換用流路16に冷却用熱媒体52として例えば冷却水を流した状態で、分離用流路17に被処理ガスとして例えば溶剤含有ガスを流し、溶剤成分を吸着材15に吸着させる。ここで、吸着工程は加圧下で行うことも可能であり[図4(B)]、その場合には吸着工程と減圧回収工程との間に、ブローダウン工程を実施し、分離用流路17内のガスを抜出して圧力を常圧に戻す操作を行う。ブローダウン工程では、熱交換用流路16に冷却用熱媒体52を流した状態で分離用流路17を放圧すればよい。
【0032】
次に、減圧回収工程を行う。ここでは減圧回収工程として、冷却用熱媒体52を加熱用熱媒体53(例えばスチーム)に代え、吸着材15を間接的に加熱し、分離用流路17の被処理ガス50入口側から真空ポンプ21により吸引し、分離用流路17内を減圧する減圧操作と、この加熱・減圧状態で分離用流路17の被処理ガス出口端からパージ用ガス54を導入する減圧パージ操作を行う。上記減圧操作を行うのは、吸着材15が暖まらない段階でいきなりパージ用ガス54を流すと、分離効率が低く大量のパージ用ガス54が必要になるためである。また、減圧パージ操作では、パージ用ガス54は、被処理ガス50の流れ方向とは逆向きに流通させることが好ましい。パージ用ガス54とともに排出される高濃度の吸着成分は、任意の手段によりパージ用ガス54と分離して回収される。
【0033】
また、減圧回収工程の後に、吸着材15を間接的に冷却する操作と、分離用流路17内を昇圧する操作とを行う回復工程を行うことにより、吸着工程以降の各工程を順次繰り返し行うことが可能になる。回復工程では、例えば、熱交換用流路16の加熱用熱媒体53を冷却用熱媒体52に代え、吸着材15を間接的に冷却しながら分離用流路17出口側よりガス(例えば、精製ガス51)を導入し、分離用流路17内を吸着工程の圧力まで昇圧する。昇圧は、瞬時に実施できるため、昇圧操作の後に冷却操作を行うことも可能である。
【0034】
以上の減圧回収工程やブローダウン工程で分離用流路17から排出されるガスには、溶剤などの吸着成分が高濃度に含まれるので、例えばコンデンサー22などの簡易な粗分離手段により混入物質を分離した後、残りのガスをリサイクルガス57として吸着工程の入口へ戻す循環処理を行うことにより、溶剤等の環境への放出をいっそう低減できる。
【0035】
TSA方式を利用する物質の分離は、圧力変動を伴わない点以外は前記PTSA方式に準じて実施できる。
すなわち、図2を参照しながら説明すると、熱交換用流路16に冷却用熱媒体52を流した状態で分離用流路17に被処理ガスを流し、吸着成分を吸着させる吸着工程と、冷却用熱媒体52を加熱用熱媒体53に代え、吸着材15を間接的に加熱するとともに、分離用流路17にパージ用ガス54を流通させる常圧回収工程と、さらに、吸着材15を間接的に冷却する回復工程と、を順次繰り返し行うことにより実施される。また、PTSA方式の場合と同様に、常圧回収工程で分離用流路17から排出されるガスには、溶剤などの吸着成分が含まれるので、簡易な分離手段により吸着成分を粗分離した後、残りのガスを吸着工程入口へ戻す循環処理を行うことにより、溶剤等の環境への放出をいっそう低減できる。なお、TSA方式では減圧操作は行わないので図2の真空ポンプは用いない。
【0036】
図5は、本発明の物質分離装置の一実施形態に係る溶剤回収装置100を示すフローである。溶剤回収装置100は、主要な構成として、2塔の吸着分離装置10a,10b、ブロア24、真空ポンプ21、コンデンサー22、回収タンク23、配管類31〜37、シーケンスバルブなどを備えている。吸着分離装置10a,10bとしては図3に挙げたものを使用している。
【0037】
図5では、PTSA方式を利用し、吸着分離装置10aでは減圧回収工程、吸着分離装置10bでは吸着工程が行われている状態を示している。
吸着工程が行われている吸着分離装置10bは、配管35中を循環する冷却用熱媒体52が熱交換用流路16に導入された状態にある。溶剤含有ガス50’は、ブロア24によって配管31内を流送されて吸着分離装置10bの分離用流路17に導入され、前記したように吸着材15によって吸着処理される。溶剤が吸着除去された精製ガス51’は、配管32を流れて装置外へ排出される。
【0038】
減圧回収工程が行われている吸着分離装置10aは、配管36中を循環する加熱用熱媒体53が熱交換用流路16に導入された状態にある。また、真空ポンプ21の吸引によって吸着分離装置10aの分離用流路17は減圧状態になっている。ここでは、吸着分離装置10bで処理された精製ガス51’を配管33に分岐させてパージ用ガス54として用いており、吸着分離装置10aの分離用流路17内に導入している。前記したように吸着材15から脱離した溶剤を含むパージ用ガス54は、真空ポンプ21により吸引され、配管34を通じてコンデンサー22に送られる。コンデンサー22では、溶剤が凝縮され回収タンク23に回収溶剤56’として貯留される。また、コンデンサー22で溶剤が粗分離された後の使用済みパージ用ガス54は、配管37を介してブロア24の上流側に循環されている。
【0039】
図6は、本発明の物質分離装置の別の実施形態に係る溶剤回収装置101を示すフローである。図6では、図5と同様にPTSA方式を利用し、吸着分離装置10aでは減圧回収工程、吸着分離装置10bでは吸着工程が行われている状態を示している。本実施形態では、パージ用ガス54として窒素ガス等の不燃性ガスを導入している。このパージ用ガス54は、装置外から配管33’を介して吸着分離装置10a内の分離用流路17に導入されている。吸着材15から脱離した溶剤を含むパージ用ガス54は、真空ポンプ21により吸引され、配管33を通じてコンデンサー22に流送される。コンデンサー22では溶剤が凝縮され回収タンク23に回収溶剤56’として貯留される。図6における他の構成は、図5と同様であるため、同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0040】
試験例1
図6の溶剤回収装置101を用いて窒素ガス中のトルエン回収運転を行い、分離用流路17内に充填された吸着材15の温度変化を測定した。その結果を図7(a)〜図7(c)に示す。この図から、本発明で使用するプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置10は、加熱、冷却工程での温度変化が速く、吸着材内部(上部、中央部、下部)における温度分布も少ないことが判明した。したがって、ショートサイクルで工程が変わるPTSA方式にも十分追従できる。
【0041】
試験例2
図6の溶剤回収装置101を用い、表1に示す条件でトルエン回収運転を行った。ここでは、運転方式を圧力スイング吸着(PSA)方式、PTSA方式およびTSA方式の3種類で行い、それぞれの性能を比較した。その結果を表1に併記した。
【0042】
【表1】
Figure 0004056264
【0043】
表1から、▲1▼処理ガス量は、PTSA方式が最も高く次いでTSA方式、PSA方式の順であること、▲2▼凝縮する前の回収溶剤の濃度は、PTSA方式が最も高く次いでTSA方式、PSA方式の順であること、が判る。即ち、運転効率はPTSA方式が最も良いことが判る。
【0044】
以上、本発明を種々の実施形態に関して述べたが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、他の実施形態についても適用されるものであることは勿論である。
【0045】
例えば、図3の吸着分離装置10では、外部配管41、42との接合部に断熱層18a〜18dを設けているが、断熱層18を設ける部位はこれに限るものではなく、分離部11の縁部に接するように断熱層18を配置することも可能である。また、必要な耐熱性、耐圧性が確保できる場合は、断熱層18の替わりに断熱部としてケーシング43等の一部または全部や、分離部11の熱交換用流路16、分離用流路17の端部を断熱性材料(合成樹脂など)で形成することも可能である。
【0046】
【発明の効果】
プレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置を利用する本発明の物質分離方法では、吸着材の加熱、冷却を間接的に行うため、スチームの接触に起因する溶剤の分解は起こらない。また、分離された溶剤等の吸着成分は、水の混入がなく高純度であり、そのため、特に水溶性の溶剤の場合には、蒸留設備が不要であるか、もしくは簡易なもので足りる。さらに、高温オイルなど、冷却水やスチーム以外の熱媒体も利用できるため、多様な設備環境に適用できる点でも有利である。
【0047】
また、本発明のプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置は、外部配管との接合部に断熱部を設けたことにより、吸着分離装置以外の部位への伝熱を防止することができるので、無駄なエネルギー消費を抑制できる一方で迅速な加熱/冷却が可能になる。したがって、PTSA方式やTSA方式を利用して吸着−回収のサイクルを繰り返し行うような場合でも、熱の損失を最小限に抑えながら短時間でサイクルを実行できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】プレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置の説明に供する要部斜視図。
【図2】プレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置の原理図であり(a)は吸着工程、(b)はパージ工程を示す。
【図3】本発明のプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置の概要を示す平面図。
【図4】本発明の物質の分離方法の工程図。
【図5】本発明の一実施形態に係る溶剤回収装置の概略フロー図。
【図6】本発明の別の実施形態に係る溶剤回収装置の概略フロー図。
【図7】トルエン回収試験における吸着材の温度変化を示すグラフ図面であり、(a)は吸着材上部、(b)は吸着材中央部、(c)は吸着材下部の温度変化をそれぞれ示す。
【符号の説明】
10 吸着分離装置
11 分離部
12 隔壁プレート
13、14 伝熱フィン
15 吸着材
16 熱交換用流路
17 分離用流路
18 断熱層
19 固定手段
21 真空ポンプ
22 コンデンサー
23 回収タンク
31〜37 配管
41、42 配管
43 ケーシング
50 被処理ガス
50’ 溶剤含有ガス
51 精製ガス
52 冷却用熱媒体
53 加熱用熱媒体
54 パージ用ガス
56 回収混入物質
56’ 回収溶剤
57 リサイクルガス

Claims (8)

  1. 伝熱フィンを備えた隔壁プレートによって形成される流体流路を重ね合わせてなり、吸着材を充填した吸着成分の分離用流路と、熱媒体を流通させる熱交換用流路と、を交互に配置した分離部を備え、前記分離用流路に連なるガス導入・導出配管と前記分離部との接合部および/または前記熱交換用流路に連なる熱媒体導入・導出配管と前記分離部との接合部に、該分離部から当該ガス導入・導出配管および/または熱媒体導入・導出配管への伝熱を防止する断熱部を設けたプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置を用いる物質の分離方法であって、
    熱交換用流路に冷却用熱媒体を流すとともに、該冷却用熱媒体の冷たい熱が前記分離部との接合部に前記断熱部を設けた配管に伝わるのを当該断熱部で断熱しつつ吸着材を冷却しながら、分離用流路に被処理ガスを流し、吸着成分を吸着させる吸着工程と、
    冷却用熱媒体を加熱用熱媒体に代え、吸着材を、加熱用熱媒体の温かい熱が前記分離部との接合部に前記断熱部を設けた配管に伝わるのを当該断熱部で断熱しつつ間接的に加熱するとともに、分離用流路を減圧した状態でパージ用ガスを流通させる減圧回収工程と、を含むことを特徴とする、物質の分離方法。
  2. 請求項1において、吸着工程を加圧下で行うとともに、吸着工程と減圧回収工程との間に、分離用流路内のガスを抜出して圧力を常圧に戻すブローダウン工程を含むことを特徴とする、物質の分離方法。
  3. 請求項1または請求項2において、減圧回収工程の後に、
    加熱用熱媒体を冷却用熱媒体に代えて吸着材を間接的に冷却する操作と、分離用流路内を昇圧する操作とを行う回復工程を含み、吸着工程以降の各工程を順次繰り返し行うことを特徴とする、物質の分離方法。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、さらに、減圧回収工程および/またはブローダウン工程で分離用流路から排出されるガスから、吸着成分を粗分離した残りのガスを吸着工程へ戻す循環処理を行うことを特徴とする、物質の分離方法。
  5. 伝熱フィンを備えた隔壁プレートによって形成される流体流路を重ね合わせてなり、吸着材を充填した吸着成分の分離用流路と、熱媒体を流通させる熱交換用流路と、を交互に配置した分離部を備え、前記分離用流路に連なるガス導入・導出配管と前記分離部との接合部および/または前記熱交換用流路に連なる熱媒体導入・導出配管と前記分離部との接合部に、該分離部から当該ガス導入・導出配管および/または熱媒体導入・導出配管への伝熱を防止する断熱部を設けたプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置を用いる物質の分離方法であって、
    熱交換用流路に冷却用熱媒体を流すとともに、該冷却用熱媒体の冷たい熱が前記分離部との接合部に前記断熱部を設けた配管に伝わるのを当該断熱部で断熱しつつ吸着材を冷却しながら分離用流路に被処理ガスを流し、吸着成分を吸着させる吸着工程と、
    冷却用熱媒体を加熱用熱媒体に代え、吸着材を、加熱用熱媒体の温かい熱が前記分離部との接合部に前記断熱部を設けた配管に伝わるのを当該断熱部で断熱しつつ間接的に加熱するとともに、分離用流路にパージ用ガスを流通させる常圧回収工程と、を含むことを特徴とする、物質の分離方法。
  6. 請求項5において、常圧回収工程の後に、加熱用熱媒体を冷却用熱媒体に代えて吸着材を間接的に冷却する操作を行う回復工程を含み、吸着工程以降の各工程を順次繰り返し行うことを特徴とする、物質の分離方法。
  7. 請求項5または請求項6において、さらに、常圧回収工程で分離用流路から排出されるガスから、吸着成分を粗分離した残りのガスを吸着工程へ戻す循環処理を行うことを特徴とする、物質の分離方法。
  8. 伝熱フィンを備えた隔壁プレートによって形成される流体流路を重ね合わせてなり、吸着材を充填した吸着成分の分離用流路と、熱媒体を流通させる熱交換用流路と、を交互に配置した分離部を備えたプレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置において、
    前記分離用流路に連なるガス導入・導出配管と前記分離部との接合部および/または前記熱交換用流路に連なる熱媒体導入・導出配管と前記分離部との接合部に、該分離部から当該ガス導入・導出配管および/または熱媒体導入・導出配管への伝熱を防止する断熱部を設けたことを特徴とする、プレートフィン熱交換器一体型吸着分離装置。
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