JP4056072B2 - 鉄筋コンクリート造外断熱建物に於ける片持ち支持バルコニー、及び片持ちバルコニー構築方法 - Google Patents
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即ち、従来例は、図11(B)に示す如く、バルコニー先端中央に補助壁を配置し、バルコニー床スラブの長辺基端及び両側端とコンクリート躯体の耐力壁とを支持棒群で支持し、バルコニー長辺先端中央を補助壁で支持するものである。
しかも、外壁の通気構造は、バルコニー間での寸断形態となるため、風力換気は奏するものの、温度差換気(ドラフト換気)は、外壁の最下端から最上端まで連通した構造よりも低下したものであった。
本発明は、従来例のこれら問題点を解決、又は改善するものであって、従来例同様の画期的な熱橋遮断機能を奏しながら、片持ち床スラブ形式にも適用出来、且つ、外壁の通気構造も合理的に施工出来るバルコニー構造を提供するものである。
この場合、バルコニー床スラブSBを片持ち形態で支持するZ筋1は、Z上端筋1Uが曲げモーメントに起因する引張り力に対抗し、Z下端筋1Dが曲げモーメントに起因する圧縮力に対抗するものであり、Zトラス筋1Mは、Z上端筋1UとZ下端筋1D間に曲げモーメントの応力中心距離を付与し、且つ、居住部床スラブSAとバルコニー床スラブSB間に存在する複合パネル2のパネル幅T1(標準:100mm)内で剛構造を提供するものであるから、Zトラス筋1Mは、実施形態(図2)の如く、傾斜部1Sがバルコニー側のZ上端筋1Uから居住部側のZ下端筋1Dに斜行する引張り力対抗形態としても、或いは、傾斜部1Sがバルコニー側のZ下端筋1Dから居住部側のZ上端筋1Uに斜行する圧縮応力対抗形態としても、バルコニー床スラブSBの曲げモーメント対抗の機能を奏する。
また、Z筋1の複合パネル2に対する貫通形態は、複合パネル2がZ筋1に構造力学的に何ら寄与しないため、複合パネル2の通気機能及び断熱機能への支障に配慮して実施すれば良く、成形セメント板2Aの通気用条溝G,G´の位置を外してZ筋を貫通し、断熱層2BにはZ筋1貫通後にZ筋1の周囲を断熱補修すれば良い。
そのため、通気性の複合パネル2で、下端の水切りから上端の笠木まで通気性外断熱構造を備え、且つ、外壁Wの外側の適所にバルコニーBを備えた、高品質で、外観の優れた鉄筋コンクリート外断熱建物の合理的構築が可能となる。
複合パネル2にあって、成形セメント板2Aは、複合パネル2自体の強度及び通気性を保証するものであり、断熱層2Bはコンクリート壁Wを外断熱被覆するものであるため、Z筋1を貫通する挿通用孔H1,H1´,H2,H3は、機能面からは、共に小さい程好ましく、断熱層2BにあってはZ筋1のZトラス筋1Mを配置するため、挿通用孔H3は、上下方向の長孔とすれば良い。
また、複合パネル2は、図5(A)に示す如く、成形セメント板2Aは中央に広幅a4(標準:40mm)の肉厚部2Dを有しているため、複合パネル2の1枚当りに1本のZ筋1を配置するようにZ筋の径を選定すれば、Z筋挿通用孔H1,H1´,H2の穿設は、成形セメント板2Aの強度損失を最小に抑えて実施出来、断熱層2Bの挿通用孔H3は、Z筋1の貫通作業の容易なサイズであっても、Z筋1挿通後に、別途断熱材を充填補修すれば良い。
この場合、各挿通用の円孔H1,H1´,H2の径は、各挿通筋径より略3mm大とすれば良く、断熱層2Bの挿通用孔H3に対する断熱機能修復施工で、現場発泡ウレタン充填すれば、各円孔H1,H1´,H2と各挿通筋1U,1M,1Dとの隙間にもウレタンフォームの流入充填が生じ、バルコニー床スラブSBは、基端部BbでのZ筋1の変位量(撓み量)が0.3mm以下に設定施工するが、地震時の成形セメント板2Aの揺れや、Z筋1の動きでも、該各円孔の隙間に充填介在するウレタンフォームが、成形セメント板2Aにクッション材としての機能を奏し、成形セメント板2Aのひび割れ損傷が抑制出来る。
本発明にあっては、バルコニー床スラブSBに働く曲げ応力により、Z上端筋1Uには引張り応力が、Z下端筋1Dには圧縮応力が作用し、曲げ応力と圧縮応力の界面の中立軸に生ずる剪断応力は理論上45°となるため、45°傾斜配置のZトラス筋1Mが剪断応力に有効に対抗出来、Z筋1の合理的な選定実施が可能となる。
この場合、複合パネル2の断熱層幅T3(標準:75mm)全幅に亘ってZトラス筋1Mによるトラス構造が導入出来、それ自体は強度の小さな断熱層2Bが、力学上コンクリート体に置換した剛構造となるため、バルコニー床スラブSBは、力学上、コンクリート壁Wとの間に断熱層2Bの存在しない構造となり、Zトラス筋1MによるZ上端筋1UとZ下端筋1D間への十分な曲げモーメント中心距離の付与と相俟って、バルコニー床スラブ基端Bbの曲げモーメントによる撓み量(標準:0.3mm以下)が極端に低減出来、バルコニー床スラブSBの強固な片持ち支持が可能となる。
この場合は、図2(C)に示す如く、Zトラス筋1Mの傾斜部1Sは、バルコニー床スラブ側から居住部床スラブ側へと傾斜下降する形態となり、バルコニー床スラブSBの降下曲げ応力でバルコニー床スラブSBの上下厚さTBの上半部に生ずる引張り力には、Z上端筋1Uの抗引張力とZトラス筋1Mの抗引張力が協同作用し、Z筋1がバルコニー床スラブSBの降下変位を合理的に抑制出来る。
この場合、耐火被覆材2Eとしては、耐火性、断熱性に富み、鋏で切断出来る、例えばカオウール(イソライト工業(株)、商品名)やフイブロック(積水化学工業(株)、商品名)等を使用すれば良い。
そして、Z筋1は、バルコニー床スラブSBの降下撓みに対抗する強度を常時負担しているが、断熱層2B部位では耐火被覆材2Eによって保護されているため、火災時に断熱層2Bの燃焼に対しても、Z筋1の加熱劣下による支持力低下が阻止出来、バルコニーBの耐火性が保証出来ると共に、断熱層2Bの挿通用孔H3の断熱機能修復も出来る。
この場合、耐火塗料1Aとしては、SK耐火コート上塗材((株)エスケー化研、商品名)を用いれば良く、錆止め塗料1Bとしては、防食、断熱性のエポキシ樹脂塗料である耐火コート下塗材((株)エスケー化研、商品名)を用いれば良い。
従って、断熱層2BのZ筋挿通用孔H3を、耐火被覆材、又は現場発泡ウレタンの充填で断熱機能修復すれば、火災時の断熱層2Bの燃焼の際にも、Z筋1の火災劣下が好適に阻止出来、Z筋1のコンクリート内での腐蝕も抑制出来、高耐久性の外断熱鉄筋コンクリート建物にあって、バルコニーBの耐久性も向上する。
この場合、図3(A)に示す如く、コンクリート躯体CF側へ延出するZ上端筋1U及びZ下端筋1Dを、それぞれ間隔を保った形態で略90°屈曲してコンクリート壁W内に固定すれば良く、バルコニー床スラブSBと居住部床スラブSAに段差があっても、バルコニー床スラブSBはZ筋1で好適に配置出来る。
尚、図3(B)に示す如く、コンクリート躯体CF内での屈曲形態のZ上端筋1U及びZ下端筋1Dの端部に、定着板1Cを溶接一体化固定しておけば、コンクリート付着力が一層増加し、コンクリート躯体CF内側のZ上端筋1U及びZ下端筋1Dの更なる短尺化が可能となる。
従って、図3(A)、図3(B)に示すZ筋配置とすることにより、バルコニー床スラブSBの上下方向位置は自由に設定出来、窓の下側に花壇を形成する場合等、小規模バルコニーを配置するのにも有利である。
また、Z筋1を配筋した後、断熱層2Bの長孔形態の挿通用孔H3には、現場発泡ウレタンフォームを充填すれば、Z筋1は、挿通用孔H3で断熱性及び耐火性被覆となり、同時に、成形セメント板2Aがウレタンフォーム充填の型枠機能(ストッパー機能)を奏するので好都合であり、成形セメント板2Aの各挿通用円孔H1,H1´,H2と各挿通鉄筋との隙間もウレタンフォームで充填され、各挿通鉄筋(Z上端筋1U、Zトラス筋水平上辺部1U´、Z下端筋1D)がウレタンフォーム層を介した保持となり、成形セメント板2Aの地震時のひび割れ防止上有効である。
そして、バルコニー床スラブSBの型枠組み、配筋、コンクリート打設の各作業が、建物コンクリート躯体(コンクリート壁W及び居住部床スラブSA)構築作業と同時平行的に実施出来、従来周知の、内断熱で、居住部床スラブとバルコニー床スラブとが連続一体となった、バルコニーから床スラブへの熱橋作用の大なバルコニーと略同等の作業性で施工実施出来る。
即ち、得られるバルコニーは、外断熱建物に熱橋を生じない形態の、片持ち支持バルコニーとなるが、従来例(図11)が提案される以前の、従来から慣用の、内断熱建物への熱橋作用を生ずる形態でのバルコニーの構築と、同等の作業性で構築出来る。
また、複合パネル2に対しては、単にZ筋1を貫通するだけであるので、複合パネル2の断熱機能及び通気機能を損なうことなくバルコニーBが突出形成出来、従来例の如く、バルコニーの上方及び下方に、バルコニーの突設のために必要であった空気の流出入設備を施工する必要が無くなる。
また、バルコニーの立上り防水層3´は、成形セメント板2Aに防水材を接着するだけとなるため、バルコニーの防水層3´付与作業も簡便、且つ容易となる。
この場合、Z筋1の全長に亘って、防食性、付着性、及び断熱性に優れたエポキシ樹脂塗料((株)エスケー化研、商品名:耐火コート下塗材)を2回塗布し、Z筋1の中央部の複合パネル2内に位置する部分には、さらに耐火塗料((株)エスケー化研、商品名:SK耐火コート)を塗布すれば、Z筋1への錆止め塗料1B及び耐火塗料1Aの処理となる。
また、挿通用孔H3へ充填する耐火被覆材としては、耐火性、断熱性に富み、鋏で切断出来るフイブロック(積水化学工業(株)、商品名)やカオウール(イソライト工業(株)、商品名)を用いれば良く、現場発泡ウレタンでも良い。
そして、耐火被覆材2Eの充填施工は、居住部床スラブ型枠FA側から成形セメント板2Aをストッパーとして実施すれば良い。
この場合、スペーサーとしては、Z上端筋1U用スペーサー12Aには、パテントスペーサー(丸井産業(株)、商品名)の型式35を、Z下端筋1D用スペーサー12Bにはパテントスペーサー(商品名)の型式130を採用すれば良い。
従って、片持ちスラブで、機能上重要な引張り鉄筋としてのZ上端筋1Uが、コンクリートの設計被り厚を保持する位置に確保出来、Z上端筋1UとZ下端筋1Dとの設計間隔を保った姿勢保持が出来、Z筋1が適正姿勢の下に、バルコニーBの長辺方向の上端筋11A及び下端筋11Bと一体化出来るため、バルコニーBの配筋組立に於ける結束不良、型枠作業、及びコンクリート打設作業に於けるZ筋及び引張り鉄筋の踏みつぶしや配筋の定着不良等、に起因するバルコニーBの落下事故が阻止出来る。
この場合、上下の複合パネル2の当接連結部では、図7(C)に示す如く、水平当接板9Mが成形セメント板2Aの内側の条溝G部間に、ゴム板15が成形セメント板2Aの外側の板状部2C間に、それぞれ上下複合パネル2間での挟着形態となるため、ゴム板15は、成形セメント板2Aの板状部2Cの幅(標準:12mm)と同幅寸法のブチルゴムで、厚さは水平当接板9Mの厚さと同厚か若干厚くすれば良く、また、十字ジョイント9の水平当接板9Mの、上下条溝G間からの側方突出長X3は、両側の通気用条溝G´に干渉しない寸法(標準:20mm)とすれば良い。
また、Z筋1は、外壁Wの外側を被覆した通気性と断熱性を備えた複合パネル2を貫通し、高い曲げ抗力を発揮してバルコニーBを支持するため、バルコニー床スラブ基端Bbは、複合パネルの外面の成形セメント板2Aと付設形態であっても、成形セメント板2Aにはひび割れを生ずることが無く、従って、複合パネル2は、Z筋貫通部のみの修復で良く、外壁Wの通気機能も断熱機能も損傷しないで、バルコニーBが鉄筋コンクリート外断熱建物の外壁に、きれいに突出付設出来る。
そして、Z筋1も、図3(A)に示す如く、コンクリート躯体CF内で屈曲形態で配置することにより、バルコニー床スラブSBは居住部床スラブSAと大段差形態に構築することも可能であり、片持ち支持バルコニーBの設計の自由度が大である。
また、曲げモーメントの応力中心距離を十分に保ったZ筋1の適用によって、従来例(図11)の如き、支持棒用補助筋も不要となり、バルコニー床スラブSBへの配筋作業も容易となる。
図1は、バルコニーの斜視説明図であって、バルコニーBは、図1に示す如く、コンクリート躯体CFの耐力壁としての、壁厚TWが180mmのコンクリートの外壁Wの外面を、厚さT1が100mmの複合パネル2で被覆張設し、複合パネル2の外面から片持ち支持形式で突設したものであり、バルコニー床スラブSBをコンクリート躯体CF側の居住部床スラブSAから延びるZ筋1のみで支持したものであり、Z筋1は、複合パネル2の左右幅方向中央に配置し、複合パネル2の1枚当り1本を配置したものである。
そして、バルコニーBは、奥行きLBが1500mm、厚さTBが180mmであって、長辺先端縁には、高さT7が50mm、幅T6が150mmのパラペットPを立設し、パラペットPの上面には、慣用のアングル笠木5を配置し、底板6Aに立設した手摺柱6Bを介して手摺6を形成し、バルコニーBの表面(上面)Sfには防水層3を、バルコニー基端Bbからの立上り部にも腰水切4まで防水層3´を張設したものである。
図4は、複合パネル2の斜視図であって、図4(A)は、バルコニーBの存在しない平坦な一般壁部用複合パネル2を、図4(B)は、バルコニー床スラブSBと居住部床スラブSAとの接合部に配置する複合パネル2を、図4(C)は、上方、及び下方のアルミ製出入口戸7間に、図6(C)の如く、挟んで配置する上下方向短尺の複合パネルを示し、図4(D)は、各複合パネル2の断熱層2Bの斜視図である。
また、図5(A)は、複合パネル2の横断面図で、図5(B)は図5(A)の要部拡大図である。
複合パネル2は、図5(A)に示す如く、厚さT2が25mm、幅Awが480mmの成形セメント板2Aと、厚さT3が75mm、幅Bwが490mmの発泡プラスチック系断熱層2B(JIS9511の硬質ウレタンフォーム)とを層着した、厚さT1が100mmのものであり、標準サイズは、成形セメント板2Aの幅WAが480mm、高さAhが2680mmのものである。
また、複合パネル2は、並列接続して壁コンクリートの外側型枠として用いるため、壁型枠組み用のセパレータ挿入用孔hsを中央に、壁コンクリート(耐力壁W)に固着する皿ボルト挿入用孔hbを両端部に備えたものである。
尚、円孔H1と円孔H2とは孔径27mm、H1´の孔径は20mmとし、連接形態の円孔H1,H1´で、22mm径の異形棒鋼のZ上端筋1Uと、16mm径の異形棒鋼のZトラス筋1Mの水平上辺部1U´との溶接固着部ZU(図2(C))を挿通可能とし、円孔H2で、異形棒鋼22mm径のZ下端筋1Dの挿通を可能としている。
そして、複合パネル2の断熱層2Bには、図4(D)の如く、円孔H1,H1´,H2に亘る上下方向長孔形態のZ筋1挿通用孔H3を、幅40mm、高さ135mmの短形孔として穿設し、Z筋1の挿入を可能としている。
十字ジョイントは、外壁パネルの上下を接続する部材として、従来より慣用されているが、該慣用物は、パネルの上下端の嵌入孔を介してパネル相互を上下接続するだけであって、例え、通気用条溝を備えたパネルであっても、該通気用条溝を介して慣用の十字ジョイントで上下パネルを接続すれば、該通気用条溝は、十字ジョイントで閉止されて通気機能を喪失していた。
図8(A)、(B)に示すA十字ジョイント8、及びB十字ジョイント9は、本発明の開発過程で案出したものであり、本発明の複合パネル2の上下接続に採用すれば、複合パネル2の条溝Gの通気性を保証するものである。
即ち、図8(A)のA十字ジョイント8は、通気性及び断熱性を備えた図4(A)に示す、一般壁用複合パネル2の上下接続に用いるものであり、図8(B)は、図4(B)に示す、バルコニーB部の複合パネル2の上下連結に用いるものである。
そして、成形セメント板2Aの通気用条溝Gに挿入する上下垂直片8F、8F´は、断面形態が、成形セメント板2Aの条溝Gの底面に当接する側板8Sの開放側端縁から側板8Sが、条溝Gの拡開角60°に整合する傾斜角度で底板B8に傾斜する台形である。
また、上下垂直片8F,8F´の断面寸法は、側板8Sの両側開放側端縁間を37.6mmとし、底板B8側での幅を28mmとして、成形セメント板2Aの両側端及び中央肉厚部2Dの両側の条溝Gに、寸法的にゆとりを持たせて、複合パネル2の幅(横)方向調整の下に嵌入可能としたものである。
即ち、B十字ジョイント9は、底板B9と両側板9Sから成る箱形本体に当接板9Mを両側にX3(20mm)突出した十字形態であって、両側板9S間には、上下端を切欠9Cで開放した、空気流を貫流させるための切開部CAを形成している。
また、B十字ジョイント9は、全高Y5が、高さY3が50mmの上方垂直片9Fと、高さY4が30mmの下方垂直片9F´と厚さY2が3mmとの、計83mmであり、A十字ジョイント8より小寸である。
図2(B)は、Z筋1の全体側面図であり、図2(C)は図2(B)の要部拡大図である。
即ち、Z筋1は、引張り応力負担用のZ上端筋1Uと、圧縮応力を負担するZ下端筋1Dとを、水平上辺部1U´、中間傾斜部1S及び水平下辺部1D´を備えた屈曲形態のZトラス筋1Mで一体化したものである。
Z筋1は、片持ち支持形式のコンクリートバルコニー床スラブSBを支持する部材であり、バルコニーBが負担する固定荷重+積載荷重によって生ずる曲げ応力(圧縮応力、引張応力)に対する抵抗は、バルコニーBから居住部床スラブSAに定着する棒鋼の径と間隔によって決まり、曲げモーメントMは、M=at×ft×jで表示される。
ここで、atは、引張鉄筋の断面積、ftは、鉄筋棒鋼の許容引張応力度、jは、曲げ材の応力中心距離である。
そして、同一の鉄筋棒鋼を採用しても、鉄筋棒鋼の応力中心距離を保持するのが重要であるため、本発明にあっては、図2(B)、(C)の如く、Z上端筋1UとZ下端筋1Dとを、水平上辺部1U´と中間傾斜部1Sと水平下辺部1D´とから成るZトラス筋1Mで溶接固定し、曲げ材(Z上端筋1U+Z下端筋1D)の応力中心距離L15(Z上端筋1UとZ下端筋1Dとの軸心間距離)を確保する。
勿論、25mm径の棒鋼は、強度的に64%の余裕(径22mmは55%)が生じ、バルコニーB基端部の変位では径22mmと同じ0.3mmであるが、バルコニー先端部の変位量は2.1mm(径22mmは2.7mm)、変位は1/580(径22mmは1/450)となり、強度、変位性能は向上する。
以下、使用鉄筋棒鋼の径19mm、径22mm、径25mmで図1のバルコニーBに適用する場合を試算比較すれば次のとおりである。
Z上端筋1Uの全長(mm) 1300 1200 1150
Z下端筋1Dの全長(mm) 820 760 730
重量(kg/個所) 4.8 6.0 7.5
出願時価格(円/個所) 305 381 477
強度の余裕 38% 54% 64%
バルコニー先端の変位量(mm) 3.7 2.7 2.1
居住部床スラブSAと断熱層2B
との当接部の変位量(mm) 0.3 0.3 0.2
変位 1/348 1/458 1/580
尚、Zトラス筋1Mは、全て径16mmの異形棒鋼を、且つ、同一形態で採用する。
従って、本発明の実施例(図1)のZ筋1は、奥行きLBが1500mmで、床スラブSBの厚さTBが180mmの床スラブSB内に、各複合パネル1枚の1本配置、即ち、490mm間隔で配置するため、図2(B)に示す如く、Z上端筋1Uとして、長さL10が1200mmで、径22mmの異形棒鋼を、Z下端筋1Dとして、長さL12が760mmで、径22mmの異形棒鋼を、Zトラス筋1Mとして、径16mmの異形棒鋼で、中間傾斜部1Sが45°傾斜で、Z字形状の高さL14が70mm、水平上辺部1U´及び水平下辺部1D´が80mmのものを用い、Z上端筋1U及びZ下端筋1Dの長さ方向中間部に、それぞれ、水平上辺部1U´をZ上端筋1Uの下面に当接して両側から溶接して固着部ZUとし、水平下辺部1D´をZ下端筋1Dの上面に当接して両側から溶接して固着部ZDとし、Z上端筋1UとZ下端筋1Dとの応力中心距離L15を92mmとしたものである。
そして、図2(B)の如く、Z筋1の全長に亘って防食性、付着性、断熱性に優れたエポキシ樹脂塗料((株)エスケー化研、商品名:耐火コート下塗材)を錆止め塗料1Bとして2回塗布し、複合パネル2内に位置する部分には、更に、耐火塗料1A((株)エスケー化研、商品名:SK耐火コート)を塗布したものである。
図9は、固化した下階のバルコニー床スラブSB及び居住部床スラブSA上に、耐力壁用の外壁型枠FW、居住部床スラブ型枠FA及びバルコニー床スラブ型枠FBを構築した状態の縦断面図である。
外壁型枠FWは、外側の型枠兼用の複合パネル2と内側の型枠板(型枠合板10A)とを、慣用のセパレータ10Hで間隔規定して横端太(パイプ)10F及びリブ座金10Kで型締めする。
また、居住部床スラブ型枠FA及びバルコニー床スラブ型枠FBは、慣用の、パイプサポート10Dで大引パイプ10C及び根太パイプ10Bを介して型板合板10A´を支持する。
この場合、一般壁部の複合パネル2の上下連結は、図8(A)に示すA十字ジョイント8を用い、バルコニー部分の複合パネル、即ち、図4(B)のパネルの上下接続は、図8(B)に示すB十字ジョイント9を用いて、1枚の複合パネル2当り、両側の条溝G、及び中央肉厚部2D両側の条溝Gの計4個所に十字ジョイント8,9を嵌入実施する。
そして、居住部床スラブ型枠FA内、及びバルコニー床スラブ型枠内に、長辺方向下端筋11B、短辺方向下端筋11D、短辺方向上端筋11C、及び長辺方向上端筋11Aを慣用の手段で配筋結束し、各複合パネル2の幅方向中央の成形セメント板の挿通用円孔H1,H1´,H2及び断熱層2Bの挿通用孔H3を介し、居住部床スラブ型枠FA側からZ筋1を、各複合パネルの1枚当り1本貫通し、Z筋1のZ上端筋1U及びZ下端筋1Dが、居住部床スラブSA側とバルコニー床スラブSB側に等長の定着長となるように、且つZトラス筋1Mの傾斜部1Sが複合パネル断熱層2B内に位置するように配筋する。
そして、複合パネル2の挿通用孔H3内に、耐火被覆材2Eとして、カオウール(イソライト工業(株)、商品名)か、フイブロック(積水化学工業(株)、商品名)を充填して、Z筋1を断熱層2B内で耐火被覆する。
この場合、現場発泡ウレタンを挿通用孔H3内に充填して耐火被覆材2Eとしても良い。
次いで、外壁型枠FW、居住部床スラブ型枠FA及びバルコニー床スラブ型枠FB内にコンクリート打設して、コンクリート固化後に型枠を解体すれば、コンクリート外壁Wが複合パネル2で一体化被覆され、且つ、複合パネル2の外側にバルコニー床スラブSBの突設された建物が得られる。
そして、各複合パネル2の上下連結部は、一般壁部では、図6(A)、図7(A)の如く、A十字ジョイント8の挟着片8Mによる20mm幅の横目地dxが存在し、バルコニーB部では、図6(B)、図7(B)の如く、B十字ジョイント9の挟着板9Mの3mm厚の継目となる。
構築したバルコニーBの床スラブコンクリート表面Sfには、慣用の合成高分子ルーフィングを載置して歩行用シート防水層3を張設し、複合パネル2の成形セメント板2Aのバルコニー立上り部にも、図2(A)に示す如く、d7(250mm)の立上り防水層3´を張着立設し、笠木と同様の役目の慣用の腰水切4(タイセイ商工(株)、商品番号TA−206)を配置する。
この場合、複合パネル2の上下連結部は、3mmの継目幅であるため、継目部には、立ち上り防水層3´の貼着が、支障無くきれいに実施出来る。
また、幅T6が150mm、高さT7が50mmのパラペットPにも、慣用の手段で、前端上部にはアングル笠木5を、上面には底板6Aに手摺柱6Bを立設し、手摺6を形成する。
尚、図6(C)に示す如く、アルミ製出入口戸7の下方に於いては、予めコンクリート壁Wのコンクリート表面Wfを、居住部床スラブSAの表面Sf´よりd4´(50mm)上方に形成し、バルコニー床スラブSBの表面Sfより上方d4(60mm)の位置となるアルミ製出入口戸7の水切り7A下端、まで防水層3´を立上げ、防水層3´と水切り7Aとの接合部にシーリングを施せば、水切り7A下端は、高さT7(図1)が50mmのパラペットPの上端より上方に位置するため、万一、バルコニーBに排水が詰まって雨水が溢れても、雨水による影響は無く、且つ、下方の複合パネル2上端に開口する条溝Gは、出入口戸7の水切り7Aに穿設する空気排出孔から支障無く排気出来る。
しかも、一般壁部もバルコニーB付設壁部も、共に通気性を損なうことの無い、新規な、A十字ジョイント8及びB十字ジョイント9で上下連結したため、片持ち支持タイプのバルコニーBを備え、熱橋作用が抑制出来、且つ、外壁が通気性、断熱性を備えた、高品質の通気性外断熱鉄筋コンクリート造建物の提供が可能となる。
Z筋1は、図3(A)、図3(B)の如く、居住部床スラブSA側では、コンクリート内定着部を折曲げて、コンクリート壁W内で定着保持することも有利である。
この場合は、居住部床スラブSAと段差のあるバルコニー床スラブSBの形成が可能となって、バルコニーBの設計の自由度が向上する。
しかも、Z筋1の屈曲形態は、真直形態よりコンクリート内定着抵抗力が大となるため、Z筋1のコンクリート壁W内での長さL11,L13も短寸化(L11´,L13´)で合理化出来、図3(B)の如く、コンクリート躯体内でのZ筋1の先端に定着板1Cを溶接固定すれば、Z筋1のコンクリート躯体CF内での定着抵抗力(抗引抜力)の一層の強化が可能である。
この場合、アングル鋼板16としては、長さL16が120mm、一辺40mm、且つ、6mm厚のものを用い、Z上端筋1Uから左右等長状態で、上面ウエブ16Fに付着したアンカー16Aにより床スラブSB内に埋設固定すれば浮上りも阻止出来る。
尚、アングル鋼板16は、バルコニー床スラブSBの基端表面の剪断力割裂に対抗して保護する機能を奏するものであるから、断面コ字形板でも良く、或いは平鋼板でも相応の機能が期待出来る。
1A 耐火塗料
1B 錆止め塗料
1C 定着板
1D Z下端筋(挿通筋)
1D´ 水平下辺部
1M Zトラス筋(挿通筋)
1S 中間傾斜部(傾斜部)
1U Z上端筋(挿通筋)
1U´ 水平上辺部
2 複合パネル(パネル)
2A 成形セメント板(セメント板)
2B 断熱層
2C 板状部
2D 肉厚部
2E 耐火被覆材(充填材)
3,3´ 防水層
4 腰水切
5 アングル笠木
6 手摺
6A 底板
6B 支柱(手摺柱)
7 アルミ製出入口戸(出入口戸、戸口)
7A 水切り
7B 雨切り
8 A十字ジョイント(十字ジョイント)
9 B十字ジョイント(十字ジョイント)
8C,9C 切欠き
8F,9F 上方垂直片(嵌入用垂直片)
8F´,9F´ 下方垂直片(嵌入用垂直片)
8M 水平当接部(挟着片)
9M 水平当接板(当接板、挟着板)
8S,9S 側板
8S´,9S´ テーパー
10B 根太(パイプ)
10C 大引き(パイプ)
10D パイプサポート
10E 縦端太(パイプ)
10F 横端太(パイプ)
10G,10g 桟木
11 床スラブ筋
11A 長辺方向上端筋(上端筋)
11B 長辺方向下端筋(下端筋)
11C 短辺方向上端筋(上端筋)
11D 短辺方向下端筋(下端筋)
11E 壁縦筋
11F 壁横筋
12A,12B スペーサー
14 タイル
15 ゴム板(ブチルゴム板)
16 アングル鋼板(鋼板)
16A アンカー
16F,16W ウエブ
A 居住部
B バルコニー
Bb 基端
B8,B9 底板
CA 切開部
CF コンクリート躯体
F0 外壁外側型枠
F1 外壁内側型枠
FA 居住部床スラブ型枠(型枠)
FB バルコニー床スラブ型枠(型枠)
FW 外壁型枠(型枠)
G,G´ 通気用条溝(条溝)
hb 皿ボルト挿入用孔
hs セパレータ挿入用孔
H1,H1´,H2 挿通用円孔(挿通用孔,円孔)
H3 挿通用孔
SA 居住部床スラブ(床スラブ)
SB バルコニー床スラブ(床スラブ)
Sf,Sf´ 床スラブ表面
W 外壁(コンクリート壁、コンクリート外壁)
ZD,ZU 固着部
Claims (13)
- 成形セメント板(2A)と断熱層(2B)とから成る複合パネル(2)で外面を熱的に被覆したコンクリート躯体(CF)の外壁(W)に、鉄筋コンクリート造のバルコニー床スラブ(SB)を突出付設して支持用のZ筋(1)群のみによって片持ちスラブ形式で支持したバルコニー(B)であって、複合パネル(2)は、成形セメント板(2A)の内面に通気用の条溝(G,G´)群を備えて断熱層(2B)と層着した通気性断熱パネルであり、Z筋(1)は、Z上端筋(1U)とZ下端筋(1D)とを、水平上辺部(1U´)、中間傾斜部(1S)及び水平下辺部(1D´)から成るZトラス筋(1M)で固着一体化したものであり、バルコニー(B)は、複合パネル(2)を貫通して基端側をコンクリート躯体(CF)内に一体化固着し、先端側をバルコニー床スラブ(SB)内に一体化固着したZ筋(1)群により、且つ、バルコニー床スラブ(SB)の基端(Bb)を複合パネル(2)の成形セメント板(2A)表面と一体化状態で、固定支持した、鉄筋コンクリート造外断熱建物に於ける片持ち支持バルコニー。
- Z筋(1)が、複合パネル(2)の断熱層(2B)では、上下方向に長孔形態の挿通用孔(H3)を、成形セメント板(2A)では、Z筋挿通用の円孔(H1,H1´,H2)を介して複合パネル(2)を貫通した、請求項1のバルコニー。
- 成形セメント板(2A)のZ筋挿通用の各円孔(H1,H1´,H2)径が、各挿通筋(1U,1M,1D)の最大径より若干大である、請求項2のバルコニー。
- Z筋(1)は、Z上端筋(1U)とZ下端筋(1D)とを固着一体化したZトラス筋(1M)の中間傾斜部(1S)が、Z上下端筋(1U,1D)に対して、実質上45°傾斜である、請求項1又は2又は3のバルコニー。
- Z筋(1)のZトラス筋中間傾斜部(1S)を、複合パネル(2)の断熱層(2B)の幅(T3)の全幅に亘って傾斜配置し、断熱層(2B)に剛構造機能を付与した、請求項1乃至4のいずれか1項のバルコニー。
- Z筋(1)は、Z上端筋(1U)とZトラス筋(1M)との固着部(ZU)がバルコニー床スラブ(SB)内で、Z下端筋(1D)とZトラス筋(1M)との固着部(ZD)がコンクリート躯体(CF)内で、打設コンクリートと一体化している、請求項1乃至5のいずれか1項のバルコニー。
- Z筋(1)は、複合パネル(2)の断熱層(2B)内では耐火被覆した、請求項1乃至6のいずれか1項のバルコニー。
- Z筋(1)は、複合パネル(2)内に位置する中間部には耐火塗料(1A)を塗布し、打設コンクリート内に位置する両側部には錆止め塗料(1B)を施した、請求項1乃至7のいずれか1項のバルコニー。
- Z筋(1)が、コンクリート躯体(CF)側では、コンクリート壁(W)内で屈曲定着している、請求項1乃至8のいずれか1項のバルコニー。
- 内面に通気用の条溝(G,G´)群を縦設した成形セメント板(2A)の内面側に断熱層(2B)を層着し、成形セメント板(2A)の幅中央上部には、上側に挿通用円孔(H1,H1´)を、下側に挿通用円孔(H2)を穿設すると共に、断熱層(2B)には、成形セメント板(2A)の上下の挿通用孔に亘る長孔形態の挿通用孔(H3)を穿設した複合パネル(2)を、成形セメント板(2A)を外面にして外壁外側型枠(F0)として立設して外壁内側型枠(F1)と共に外壁型枠(FW)を構成し、外壁型枠(FW)上の複合パネル(2)の内側には居住部床スラブ型枠(FA)を、複合パネル(2)の外側にはバルコニー床スラブ型枠(FB)を構成し、Z上端筋(1U)とZ下端筋(1D)とを、水平上辺部(1U´)、中間傾斜部(1S)及び水平下辺部(1D´)から成るZトラス筋(1M)で固着一体化したZ筋(1)を、コンクリート躯体側型枠(FW,FA)側からバルコニー床スラブ型枠(FB)内へ、複合パネル(2)の各挿通用孔(H1,H1´,H2,H3)を介して、且つ、Zトラス筋(1M)の中間傾斜部(1S)が断熱層(2B)内に位置するように、複合パネル(2)に貫通配置し、各型枠(FW,FA,FB)にコンクリート打設する片持ち支持バルコニーの構築方法。
- Z筋(1)は、予め、複合パネル(2)内に位置する部分には耐火塗料(1A)を塗布し、打設コンクリート内に位置する部分には錆止め塗料(1B)を施して型枠(FW,FA,FB)内に配置し、複合パネル断熱層(2B)の長孔形態の挿通用孔(H3)には断熱性に富む耐火被覆材(2E)を充填した後、コンクリート打設する、請求項10の構築方法。
- Z筋(1)は、バルコニー床スラブ型枠(FB)内及び居住部床スラブ型枠(FA)内では、スペーサー(12A,12B)で位置保持し、且つ、バルコニー床スラブ型枠(FB)内では、Z上端筋(1U)は長辺方向上端筋(11A)に、Z下端筋(1D)は長辺方向下端筋(11B)に針金で結束する、請求項10又は11の構築方法。
- 複合パネル(2)の上下連結は、両側に水平当接板(9M)を突設し、上下に嵌入用垂直片(9F,9F´)を備え、且つ、上下の嵌入用垂直片(9F,9F´)の内側には空気連通用の切開部(CA)を備えた十字ジョイント(9)を、成形セメント板(2A)の上下端の条溝(G)への嵌入で実施し、且つ、上下の成形セメント板(2A)の板状部(2C)間には、ゴム板(15)を介在させる、請求項10乃至12のいずれか1項の構築方法。
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