JP4050923B2 - 鋼矢板壁面の緑化構造および緑化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、河川・湖沼等の護岸構造あるいは道路・建築物等の土留壁または山止め壁などに用いられる鋼矢板壁の景観や環境保全に配慮した緑化構造に関し、特に植物の生育状況を改善し、鋼矢板壁面全面の植生を可能とするものである。
【0002】
【従来の技術】
連続的に鋼矢板を地盤に打設して構成された鋼矢板壁は建設費が安価であり、また作業性が高く施工工期が短いなどの利点を有している。このため鋼矢板壁は、従来より河川・湖沼等の護岸構造あるいは道路・建築物等の土留壁または山止め壁などに広く用いられている。しかし、人工構造物である鋼矢板壁は殺風景で周囲の景観にマッチしないばかりか、自然環境を分断してしまうという問題があり、景観や環境保全に配慮した鋼矢板壁が従来から待望されている。
【0003】
従来から景観や環境保全に配慮した鋼矢板壁の緑化方法については数多くの提案がされている。従来技術の鋼矢板壁の緑化方法としては、鋼矢板壁面に土壌、保水材、種子などを充填した袋状のマットなどを直接固定して植物を発芽・生育させるのが一般的である。
【0004】
しかし、鋼矢板壁は地盤に対して鉛直又は傾斜しており植物が生育しにくい環境にあるため、従来技術による鋼矢板壁の緑化方法で鋼矢板壁面全面を植物で緑化するには大きな困難を伴う。また、特に河川等の鋼矢板護岸では袋状のマットなどの植生基盤の固定作業を水域側から行うことになるため、施工が煩雑であって施工期間の長期化や高コスト化する点でも改善の余地がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来技術の欠点に鑑みてされたものであり、その目的は、植物の生育状況を改善し、鋼矢板壁面全面の植生を可能とする鋼矢板壁面の緑化構造および緑化方法を提供することである。
【0006】
また本発明の他の目的は、鋼矢板壁面への植生基盤の固定作業を簡略化することで、施工期間の短縮と施工コストを低下させることである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記従来技術における課題を解決するために、本発明の鋼矢板壁面の緑化構造は、地盤1に対して鉛直又は傾斜して打設された鋼矢板壁面2に植生パネル6を取り付けた鋼矢板壁面の緑化構造において、鋼矢板2aの土留側4と反対方向の露出面側ウエブに、鋼矢板長手方向に延長する1対の鉤状冶具3を設け、植生パネル6を1対の前記鉤状冶具の間に上方から挿入して鋼矢板壁面に取り付け、植生パネル6は金属製であり、かつ、少なくとも植物の成体または繁殖体を含む袋状のマットである植生基盤5が装着され、植生パネルおよび鋼矢板の地盤より上の部分には多数の開孔が形成され、鋼矢板と植生パネルとの間隙には少なくとも土壌または保水材のいずれか一方が充填されてなるものである。ここで露出面とは鋼矢板壁面の土留側面の背面を意味する。また、植物の繁殖体とは、種子、ランナー、挿木などの生育すれば植物体となるものをいう。
【0008】
また、植生パネルに装着される植生基盤5は、特に限定するものではないが土壌、保水材、種子などを充填した袋状のマットが好ましい。植生基盤5の他の例としては袋状のマット以外にも、例えば、合成繊維、綿、麻、ヤシ繊維などを集積または積層してマット状に形成した植生基盤に、種子、肥料などを装着してもよい。さらに、植生パネル6および鋼矢板の地盤より上の部分に多数の開孔2c、6aを形成し、かつ鋼矢板2と植生パネル6との間隙には少なくとも土壌7または保水材のいずれか一方を充填するようにしてもよい。
【0009】
また、本発明の鋼矢板壁面の緑化方法は、地盤1に対して鉛直又は傾斜して打設された鋼矢板壁面2に植生パネル6を取り付けた鋼矢板壁面の緑化方法において、鋼矢板の土留側4と反対方向の露出面側ウエブに、鋼矢板長手方向に延長する1対の鉤状冶具3を設け、植生パネル6を1対の前記鉤状冶具の間に上方から挿入して鋼矢板壁面に取り付け、前記植生パネル6は金属製であり、かつ、これに少なくとも植物の成体または繁殖体を含む袋状のマットである植生基盤を装着し、植生パネル6および鋼矢板の地盤より上の部分には多数の開孔を形成させ、鋼矢板と植生パネルとの間隙には少なくとも土壌または保水材のいずれか一方を充填するものである。また、あらかじめ植生基盤を水平な場所に設置して前記植物を発育させ、植物が発育した状態の植生基盤を装着した植生パネルを、1対の鉤状冶具の間に上方から挿入することが好ましい。この場合、発育させる植物を、水平な場所において種子から発育させることはさらに好ましい。
【0010】
従来の鋼矢板壁面の緑化構造では、鋼矢板壁面に直接植生基盤を取り付けて植物を生育していた。そのため従来例では、地盤に対して鉛直面またはこれに近い状態の傾斜面で最初から植物を生育しなければならず、鋼矢板壁面全面を植物で緑化するには大きな困難が伴った。しかし、本発明の緑化方法によれば、鋼矢板2a、2bの打設前から予め植生基盤5の植物8を平坦な条件下で発育させることができるので、植物8の生育が非常に容易となる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明に係る鋼矢板壁面の緑化構造の一形態を示した斜視図である。
【0012】
本発明では、地盤1に対して鉛直又は傾斜して打設された複数のU字状鋼矢板2a,2bが交互に連結されて鋼矢板壁面2が構成される。土留側4と反対方向に突出するU字形鋼矢板2aの露出面側ウエブには1対の鉤状冶具3が設けられている。そして、1対の鉤状冶具3を介して植生パネル6が取り付けられて、本発明の鋼矢板壁面の緑化構造が構成される。
【0013】
鋼矢板壁面2において、土留側4と反対方向に突出するU字状鋼矢板2aのウエブには、U字状鋼矢板2aのフランジ折り曲げ方向と逆側、すなわち鋼矢板壁面の土留側4の背面(露出面)側に、鋼矢板の長手方向に沿ってレール状に延長する鉤状冶具3が溶接固定されている。鉤状冶具3は、鉤の向きがそれぞれ対向するように取り付けられており、対向する1対の鉤状冶具3の間に植生パネル6が取り付けられる。本実施形態では断面T字状に形成された鉤状冶具3を鋼矢板2aのウエブ中央に取り付けているが、例えば断面L字状に形成された鉤状冶具を用いるようにしてもよい[図示を省略する]。
【0014】
なお、土留側4に突出するU字状鋼矢板2bには、必要に応じて地盤への打設前または打設後に、鋼矢板2bの地盤より上の部分に多数の開孔2cを形成してもよい。
【0015】
また鋼矢板壁面2の露出面には、植生基盤5が装着された長方形の植生パネル6が、鋼矢板壁面2に設けた一対の鉤状冶具3を介して取り付け可能となっている。本実施形態では植生パネル6の幅は、鋼矢板2aのウエブ中央から、鋼矢板2bを隔てた鋼矢板2aのウエブ中央までの間隔Wに設定されている。なお、植生パネル6には、必要に応じて多数の開孔6aを形成してもよい[図2b参照]。
【0016】
図2aに示すように植生パネル6の片面には、土壌、保水材、種子などを充填した袋状のマットからなる植生基盤5が装着されており、植物の発芽・生育が可能となっている。ここで袋状のマットは、特に限定するものではないが綿やポリエステル等の繊維からなり、布目の粗さは発芽を阻害せずかつ充填物の流出を防ぐことができる程度に設定されている。
【0017】
なお、植生基盤は、ネジ付丸棒などのアンカー部材やネットなどの手段によって植生パネルに固定される[図示を省略する]。
【0018】
一方、図2bに示すように植生パネル6における植生基盤5を取付けた面の裏側には、植生パネル6の長さ方向に延長するレール状の取付金具6bが、植生パネル6の幅方向の両端付近に2本溶接固定され、鋼矢板2aの鉤状冶具3と係合するようになっている。本実施形態の取付金具6bは、断面L字形の同一形状の部材を逆向きにして、立ち上がり部が背中合わせとなる状態で取り付けたものである。
【0019】
本発明の鋼矢板壁面の緑化構造は上記のように構成されており、以下この作用を説明する。
【0020】
本実施形態では、植生パネル6の取付金具6bと鋼矢板2aの鉤状冶具3とを係合させた状態で植生パネル6を上方から挿入して、先に地盤1に打設された鋼矢板壁面2に後から植生パネル6を取り付けることができる。すなわち本発明では、予め植物8が発育した状態の植生パネル6を、鋼矢板壁面2に後から取り付けることができる。
【0021】
従来の鋼矢板壁面の緑化構造では、鋼矢板壁面に直接植生基盤を取り付けて植物を生育していた。そのため従来例では、地盤に対して鉛直面またはこれに近い状態の傾斜面で最初から植物を生育しなければならず、鋼矢板壁面全面を植物で緑化するには大きな困難が伴った。本発明では、鋼矢板2a、2bの打設前から予め植生基盤5の植物8を平坦な条件下で発育させることができるので、植物8の生育が非常に容易となる。
【0022】
また、本発明では鋼矢板2a、2bの打設等に平行して植生基盤5の植物8の生育を行うことで、あらかじめ植物8が発育した状態の植生基盤5を鋼矢板壁面2に取り付けることができる。したがって、工事完了と同時に鋼矢板壁面2の緑化を行うことができ、鋼矢板壁面2の緑化に要する時間を著しく短縮できる。
【0023】
本発明では、植生パネル6を鋼矢板壁面2の上方から挿入するだけで鋼矢板壁面2に植生パネル6を取り付けることができるので、作業が非常に容易である。特に本発明の鋼矢板壁面の緑化構造を河川等の鋼矢板護岸に用いる場合には、植生パネル6の取付が陸上側(土留側4)からの作業で足りるので非常に効率的である。つまり、植生基盤5の固定作業を水域側9から行う必要がないため、植生基盤取付の施工手数が著しく減少する。なお、植生パネルの取り付け高さは、植生パネルを上方からワイヤー等で吊り下げたり、植生パネルの下にストッパーを取り付けたりすることで調整することができる[図示を省略する]。
【0024】
また本発明では植生基盤5が植生パネル6毎に独立しており、かつ植生パネル6は鋼矢板壁面2の上方から挿入して取り付けられている。そのため、植生基盤5または植生パネル6が損傷した場合などにおいても、損傷した植生パネル6の交換で対応することができ、修復作業も非常に容易である。
【0025】
本発明では植生パネル6がパネル毎に独立しているため、パネル毎に特性の異なる植物を植生することも容易である。例えば、本発明の鋼矢板壁面の緑化構造を河川の護岸に適用する場合には、下側の水際に近い場所にはガマ、ミソハギなどの水に強い植物を生育させたパネルを装着し、上側にはバミューダグラスなどの乾燥に強い植物を生育させたパネルを装着することができる。また、草花なども入れて景観をさらに美しくすることも可能である。
【0026】
さらに、植生パネル6および鋼矢板2bの地盤より上の部分に多数の開孔2c、6aを形成し、かつ鋼矢板2bと植生パネル6との間隙に土壌7あるいは発泡系の保水材を充填する場合には、土留側4から開孔2c、6aを通して植生基盤5に水分や養分が供給されるため、植物8の生育がより容易となる。また植生基盤5で生育した植物8の根が開孔を通過して土壌7あるいは発泡系の保水材に定着することにより、植物8の長期的で安定した生育が可能となる。しかも、根の長い植物を植生基盤5で生育することも可能となるので植物8の選択の幅も広がる。
【0027】
これまで説明した実施形態の変形例として以下の事項が挙げられる。例えば図4aに示すように、植生パネル6に取付金具を設けることなく植生基盤5を取り付けた植生パネル6を鉤状冶具3の間に直接挿入してもよい。また図4bに示すように、土留側4と反対方向に突出するU字形鋼矢板2aについて、一つまたは複数毎に鉤状冶具3を設けるようにして、植生パネル6を大型化してもよい。
【0028】
なお、本発明の実施形態ではU字形鋼矢板を連結した鋼矢板壁面を例に説明してきたが、本発明の請求の範囲はU字形鋼矢板を連結した鋼矢板壁面の場合に限定されるものではない。例えば、図5に示すようなハット形鋼矢板2dの露出面側ウエブに1対の鉤状冶具3を設けて植生パネル6を取付けるようにしてもよい。その他にも、Z形鋼矢板、組み合わせ鋼矢板、直線状鋼矢板などの公知の鋼矢板壁面に適宜変更して適用してもよい[図示を省略する]。
【0029】
【発明の効果】
本発明では、鉤状冶具を介して鋼矢板壁面に植生パネルを上方から挿入して、先に地盤に打設された鋼矢板壁面に後から植生パネルを取り付けることができる。すなわち本発明では、予め植物が発育した状態の植生パネルを、鋼矢板壁面に後から取り付けることができるため、鋼矢板の打設前から予め植生基盤の植物を平坦な条件下で発育させることができ、植物の生育が非常に容易となる。
【0030】
また、本発明では鋼矢板の打設等に平行して植生基盤の植物の生育を行うことで、工事完了時には鋼矢板壁面の緑化を行うことができる。したがって、鋼矢板壁面の緑化に要する時間を著しく短縮できる。
【0031】
本発明では、植生パネルを鋼矢板壁面の上方から挿入するだけで鋼矢板壁面に植生パネルを取り付けることができるので、作業が非常に容易である。特に本発明の鋼矢板壁面の緑化構造を河川等の鋼矢板護岸に用いる場合には、植生基盤の固定作業を水域側から行う必要がないため、植生基盤取付の施工手数が著しく減少する。
【0032】
また本発明では植生基盤が植生パネル毎に独立しており、かつ植生パネルは鋼矢板壁面の上方から挿入して取り付けられている。そのため、植生基盤または植生パネルが損傷した場合などにおいても、損傷した植生パネルの交換で対応することができ、修復作業も非常に容易である。
【0033】
本発明では植生パネルがパネル毎に独立しているため、パネル毎に特性の異なる植物を植生することも容易である。例えば、本発明の鋼矢板壁面の緑化構造を河川の護岸に適用する場合には、下側の水際に近い場所には水に強い植物を生育させたパネルを装着し、上側には乾燥に強い植物を生育させたパネルを装着することができる。また、草花なども入れて景観をさらに美しくすることも可能である。
【0034】
さらに、植生パネルおよび鋼矢板の地盤より上の部分に多数の開孔を形成し、かつ鋼矢板と植生パネルとの間隙に土壌あるいは保水材を充填する場合には、土留側から開孔を通して植生基盤に水分や養分が供給されるため、植物の生育がより容易となる。また植生基盤で生育した植物の根が開孔を通過して土壌に定着することにより、植物の長期的で安定した生育が可能となる。しかも、根の長い植物を植生基盤で生育することも可能となるので植物の選択の幅も広がる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の鋼矢板壁面の緑化構造の概略斜視図である。
【図2】(a)は植生パネルを植生基盤の取付面からみた斜視図であり、(b)は植生パネルを鋼矢板壁面と対向する面からみた斜視図である。
【図3】(a)は本発明における鋼矢板壁面の緑化構造を鋼矢板護岸に用いた場合の縦断図であり、(b)は本発明における鋼矢板壁面の緑化構造の要部平面図である。
【図4】(a)は植生パネルを直接鉤状冶具間に挿入した例を示す平面図であり、(b)はU字形鋼矢板の一定間隔毎に鉤状冶具を設けて、植生パネルを大型化した例を示す平面図である。
【図5】本発明における鋼矢板壁面の緑化構造をハット形鋼矢板で構成された鋼矢板壁面に適用した例を示す平面図である。
【符号の説明】
1 地盤
2 鋼矢板壁面
2a、2b U字状鋼矢板
2c 開孔
2d ハット形鋼矢板
3 鉤状冶具
4 土留側
5 植生基盤
6 植生パネル
6a 開孔
6b 取付金具
7 土壌
8 植物
9 水域側
10 水面
Claims (4)
- 地盤に対して鉛直又は傾斜して打設された鋼矢板壁面に植生パネルを取り付けた鋼矢板壁面の緑化構造において、
前記鋼矢板の土留側と反対方向の露出面側ウエブに、前記鋼矢板長手方向に延長する1対の鉤状冶具を設け、
前記植生パネルを1対の前記鉤状冶具の間に上方から挿入して前記鋼矢板壁面に取り付け、
前記植生パネルは金属製であり、かつ、これに少なくとも植物の成体または繁殖体を含む袋状のマットである植生基盤が装着され、
前記植生パネルおよび前記鋼矢板の地盤より上の部分には多数の開孔が形成され、
前記鋼矢板と前記植生パネルとの間隙には少なくとも土壌または保水材のいずれか一方が充填されてなること
を特徴とする鋼矢板壁面の緑化構造。 - 地盤に対して鉛直又は傾斜して打設された鋼矢板壁面に植生パネルを取り付けた鋼矢板壁面の緑化方法において、
前記鋼矢板の土留側と反対方向の露出面側ウエブに、前記鋼矢板長手方向に延長する1対の鉤状冶具を設け、
前記植生パネルを1対の前記鉤状冶具の間に上方から挿入して前記鋼矢板壁面に取り付け、
前記植生パネルは金属製であり、かつ、これに少なくとも植物の成体または繁殖体を含む袋状のマットである植生基盤を装着し、
前記植生パネルおよび前記鋼矢板の地盤より上の部分には多数の開孔を形成させ、
前記鋼矢板と前記植生パネルとの間隙には少なくとも土壌または保水材のいずれか一方を充填すること
を特徴とする鋼矢板壁面の緑化方法。 - あらかじめ前記植生基盤を水平な場所に設置して植物を発育させ、前記植物が発育した状態の前記植生基盤を装着した前記植生パネルを、1対の前記鉤状冶具の間に上方から挿入することで前記鋼矢板壁面に取り付けてなること
を特徴とする請求項2に記載の鋼矢板壁面の緑化方法。 - 前記発育させる植物は、前記水平な場所において種子から発育させること
を特徴とする請求項3に記載の鋼矢板壁面の緑化方法。
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