JP4048073B2 - 蛍光部材及びこれを用いた発光装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、蛍光部材およびこれを用いた発光装置に関するものであり、より詳細には、発光ダイオードを被覆するのに好適な蛍光部材、および、これを用いた発光装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車のメータ類やオーディオのインジケータ等の表示器の照明、フットランプや室内照明、携帯電話の液晶バックライト照明等の用途において、発光ダイオード(LED)を用いた発光装置が使用され、これらの用途においては、多様な発光色の発光装置が求められている。
【0003】
LEDを使用した発光装置において、多様な発光色を得る方法として、例えば、赤色LED、青色LED、及び、緑色LEDを有機的に組合わせてセットし、それぞれのチップの組合わせを変えて発光する方法が提案されている。しかし、このようなLEDでは、赤色LEDチップ、青色LEDチップ、及び、緑色LEDチップのアノード端子とカソード端子の併せて4つの端子が必要であるため、構造的に複雑な設計となる。さらに1つの発光ダイオード中に3つの異なるチップがセットされているため、その内のいずれか1つのチップでも破損すると色調のバランスが崩れ、目的とする発光色が得られなくなる問題がある。
【0004】
多様な発光色を得る別な方法として、蛍光物質や色素等を高分子材料などに分散させた蛍光部材を、LEDに装着することによって、LED光源の色を所望の色に変化させる方法も提案されている。かかる方法は、光源から発せられた光を蛍光物質で波長変換し、波長変換された光と蛍光部材を透過した光源からの光とを混合して、所望の発光色を得ることを基本原理とする。当該方法によれば、光源の光の色を所望の色に容易に変更できるが、光源から発せられた光と蛍光物質で波長変換された光とが混合された光を見ることになるので、発光色(混合光)は蛍光部材の均一性の影響を大きく受けることになる。
【0005】
ところで、蛍光部材に分散させる蛍光物質としては、YAGや無機蛍光物質などが知られている。しかし、YAGや無機蛍光物質は粒子状で蛍光部材に分散されているため、蛍光部材中で光を散乱させてしまい、LEDの特徴である指向性を失うという問題がある。また、これらの蛍光物質は、紫外、青色LEDなどの短波長LED用の蛍光物質であり、緑色LED,黄色LEDなどを光源として使用できない。また、青色LEDを光源として使用する場合には、発光色が白色や黄色など限られた色になってしまうという問題がある。
【0006】
そこで、様々な色調の光を発することができるようにするために、蛍光部材に分散させる蛍光物質として、有機蛍光物質が着目され、これらの中でも有用なものとしてペリレン系蛍光物質やクマリン系蛍光物質などが知られている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
蛍光部材と発光ダイオードとからなる発光装置では、蛍光部材が均一でないと、蛍光部材から発する蛍光の波長や発光量が異なるので、発光色がばらつく原因となる。特に、多様な発光色を得るためにペリレン系蛍光物質を高分子材料などに分散させてなる蛍光部材においては、均一な蛍光部材を得ることが難しいので、初期の発光色のばらつきが大きくなる。
【0008】
また、ペリレン系蛍光物質を高分子材料などに分散させた蛍光部材では、その組合わせによっては、ペリレン系蛍光物質が高分子材料からブリードアウトしたり、あるいは、高分子材料の劣化にともなって、高分子材料中で偏在してしまう場合がある。その結果、発光色が経時変化したり、発光輝度の寿命が低下する(一定の発光輝度を維持できる時間が短くなる)。特に、蛍光部材を発光ダイオードに装着して発光装置として実用化するためには、輝度寿命が5,000時間以上であることが要求され、10,000時間以上であれば、実用レベルのなかでも優れた性能を有する発光装置と言うことができる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、多様な発光色の蛍光部材を提供するとともに、蛍光部材を均一かつ経時変化の少ないものとすることにより、初期の発光色のばらつきを抑制し、さらには、前記ペリレン系蛍光物質が、高分子材料からブリードアウト等するのを防止することにより、発光輝度寿命の長い蛍光部材およびこれを用いた発光装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ポリカーボネート樹脂とペリレン系蛍光物質とを溶融混練して得られる蛍光部材であって、前記蛍光部材は、下記一般式1〜7のいずれかによって表わされるペリレン系蛍光物質の少なくとも1種を含有していることを特徴とする蛍光部材である。
【0011】
【化8】
【0012】
(式中、R1とR2はそれぞれ、水素原子、アルコキシ基、フェノキシ基、またはアルキルフェノキシ基のいずれかであり、X1とX2はそれぞれ、CN,F,ClまたはBrのいずれかであり、R3は、炭素数が5以上のアルキル基である。)
【0013】
【化9】
【0014】
(式中、R1とR2はそれぞれ、アルコキシ基、フェノキシ基、またはアルキルフェノキシ基のいずれかであり、R4は、アルキルフェニル基である。)
【0015】
【化10】
【0016】
(式中、R1とR2はそれぞれ、アルコキシ基、フェノキシ基、またはアルキルフェノキシ基のいずれかであり、R5とR6はそれぞれ、アルキル基、フェニル基、またはアルキルフェニル基のいずれかである。)
【0017】
【化11】
【0018】
(式中、R7とR8はそれぞれ、炭素数が4以上の分岐アルキル基、炭素数が5以上の直鎖アルキル基、フェニル基、またはアルキルフェニル基のいずれかである。)
【0019】
【化12】
【0020】
(式中、R1とR2はそれぞれ、アルコキシ基、フェノキシ基、またはアルキルフェノキシ基のいずれかであり、R9は、アルキル基、フェニル基、またはアルキルフェニル基のいずれかである。)
【0021】
【化13】
【0022】
(式中、R10は、炭素数が6以上のアルキル基、フェニル基、またはアルキルフェニル基のいずれかである。)
【0023】
【化14】
【0024】
(式中、R1とR2はそれぞれ、水素原子、アルコキシ基、フェノキシ基、またはアルキルフェノキシ基のいずれかであり、R11は、炭素数が2以上のアルキル基、フェニル基、またはアルキルフェニル基のいずれかであり、Aは、シクロアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基、またはピリジレン基のいずれかである。)
【0025】
前記ペリレン系蛍光物質は、前記一般式1で表わされるものであって、X1とX2とがCNであり、R1とR2は水素原子であり、R3は、炭素数が5以上の分岐アルキル基であることが好ましい。また、前記ペリレン系蛍光物質は、前記一般式3で表わされるものであって、R1とR2は、フェノキシ基であり、R5とR6は、アルキルフェニル基であること、または、前記一般式7で表わされるものであって、Aがフェニレン基であり、R1とR2はそれぞれ、フェノキシ基またはエトキシ基であり、R11がアルキルフェニル基であることが好ましい。また、前記蛍光部材は、キャップ状またはシート状であることが好ましい。本発明は、さらに前記蛍光部材と発光ダイオードとを含む発光装置であり、前記発光装置は、ランプ状または面状であることが好ましい。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の蛍光部材は、ポリカーボネート樹脂とペリレン系蛍光物質とを溶融混練して得られる蛍光部材である。本発明において、ポリカーボネート樹脂を使用するのは、ポリカーボネート樹脂は、透明性(透光性)が高く、光学材料として好適に使用できるからである。さらに、ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、耐候性に優れているので、樹脂自身が劣化・分解し難く、蛍光物質のブリードアウトや偏在を抑制できる。その結果、輝度寿命が長く、経時により発光色のばらつきが生じない蛍光部材が得られる。一方、ゴムのようなガラス転移温度が低く、室温で分子運動が大きい高分子材料では、蛍光物質がブリードアウトや偏在しやすくなる。その結果、輝度寿命が短くなり、発光色がばらつく原因となる。また、蛍光部材を使用したLEDは、自動車メータ類のバックランプのように比較的高温の使用雰囲気で使用される場合が多いので、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)やポリスチレン(PS)なども、ポリカーボネート樹脂ほどの耐熱性を有していないために、輝度寿命が短くなる傾向がある。
【0027】
前記ポリカーボネート樹脂としては、市販されているものを使用すればよく、例えば、住友ダウ(株)製カリバーや、帝人化成(株)製パンライトなどを好適に使用できる。前記ポリカーボネート樹脂の分子量は、特に限定されないが、好ましくは5,000〜100,000であり、より好ましくは10,000〜30,000であればよい。
【0028】
本発明者らは、上述したポリカーボネート樹脂とペリレン系蛍光物質とを溶融混練することによって、得られる蛍光部材の発光色のばらつきを抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。溶融混練することによって、発光色のばらつきを抑制できる機構については不明であるが、ペリレン系蛍光物質のポリカーボネート樹脂への分散性や分散状態が影響しているものと推察される。例えば、蛍光物質をポリカーボネート樹脂へ分散させる方法としては、蛍光物質とポリカーボネート樹脂とを溶媒で混合して溶解した後、溶媒を蒸発させる方法(溶解分散法)もある。しかし、当該溶解分散法では、均一な蛍光部材が得られず、蛍光部材の発光色のばらつきを抑制できないのみならず、分散させるペリレン系蛍光物質の分子量が大きくなるにつれて、発光色のばらつきが大きくなるという問題がある。
【0029】
本発明において、ポリカーボネート樹脂とペリレン系蛍光物質とを溶融混練する方法は、特に制限されないが、例えば、ポリカーボネート樹脂のペレットとペリレン系蛍光物質とをあらかじめ簡単に混合したものを、ペレタイザー、射出成形機、または押出加工機などを用いて溶融混練すればよい。前記溶融混練の温度は、270℃以上、より好ましくは300℃以上で、340℃以下、より好ましくは320℃以下であることが望ましい。また、溶融混練する時間は、当該温度範囲で、数秒から1時間以内とすることが好ましい。
【0030】
本発明の蛍光部材は、溶融混練された後、一旦取出されたペレット状のものでもよく、或いは、射出成形や押出成形などの方法により成形した成形体であってもよいが、より好ましくは、溶融混練されたものを直接成形することにより得られる成形体である。特に、射出成形や押出成形などの成形方法を採用すれば、複雑な形状への成形が可能となるとともに、溶融混練と成形を連続的に行うことができ、生産効率を高めることができる。尚、本発明の蛍光部材は、液晶やメータ類などのバックライトや電球(ライト)等に使用するために、シート状、または、キャップ状などに成形することが好ましい。
【0031】
次に、前記ポリカーボネート樹脂と溶融混練されるペリレン系蛍光物質について説明する。本発明の蛍光部材は、下記一般式1〜7のいずれかによって表わされるペリレン系蛍光物質の少なくとも1種を含有している。これらのペリレン系蛍光物質を使用することによって、多様な発光色を実現でき、また、実用可能な発光輝度寿命を有する蛍光部材が得られるからである。前記ペリレン系蛍光物質は、紫外線、電子線や、発光ダイオードやライトなどの光源から発せられた光等を吸収して蛍光を発するものであればよいが、例えば、ポリカーボネート樹脂に対して、顔料や染料というような色素成分として同時に作用するものでもよい。
【0032】
まず、下記一般式1〜7で表わされるペリレン系蛍光物質の基本的な特徴(共通する特徴)について説明する。ペリレン骨格に直接結合している官能基R1とR2はそれぞれ、水素原子、アルコキシ基、フェノキシ基、またはアルキルフェノキシ基のいずれかであればよく、R1とR2とは、異なっていても同一であってもよい。尚、一般式4及び6で表わされる化学構造は、一般式3および5で表わされる化学構造のR1とR2とを水素原子とした場合である。
【0033】
R1とR2がアルコキシ基の場合、前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基などの直鎖アルコキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の分岐アルコキシ基などが挙げられ、特に好ましくは、分岐アルコキシ基である。前記アルコキシ基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは2〜6であり、より好ましくは4〜6である。炭素数が多いほど、輝度寿命が長くなるからである。
【0034】
R1とR2がアルキルフェノキシ基の場合は、前記アルキルフェノキシ基としては、メチルフェノキシ基、n−エチルフェノキシ基、n−プロピルフェノキシ基、n−ブチルフェノキシ基、n−ペンチルフェノキシ基、n−ヘキシルフェノキシ基、n−ヘプチルフェノキシ基等の直鎖アルキルフェノキシ基;イソプロピルフェノキシ基、イソブチルフェノキシ基、sec−ブチルフェノキシ基、tert−ブチルフェノキシ基、イソペンチルフェノキシ基、ネオペンチルフェノキシ基などの分岐アルキルフェノキシ基などが挙げられる。これらのアルキルフェノキシ基の炭素数は、特に限定されないが、炭素数が多くなるほど好ましい。
【0035】
下記一般式1〜7中、R1とR2の好ましい官能基の種類や、その他の官能基(R3〜R11、A,X1、X2等)の種類は、これらの官能基の組合わせやペリレン系蛍光物質の骨格に基づいて適宜設定することができる。以下に、各式で表わされるペリレン系蛍光物質の詳細ついて説明する。
【0036】
下記一般式1表わされるペリレン系蛍光物質は、ペリレン骨格に直接官能基R1,R2,X1,X2及びCOOR3が結合したものである。
【0037】
【化15】
【0038】
式中、R1とR2はそれぞれ、水素原子、アルコキシ基、フェノキシ基、またはアルキルフェノキシ基のいずれかであればよい。R1とR2とが、同一であっても、異なっていても良いのは上述した通りである。式中、X1とX2はそれぞれ、CN,F,ClまたはBrのいずれかであり、好ましくはCNである。R3は、炭素数が5以上のアルキル基であり、好ましくは炭素数が6以上のアルキル基である。R3の炭素数が5未満であると蛍光部材の輝度寿命が短くなるからである。また、前記アルキル基は、さらに分岐アルキル基であることが好ましく、より好ましく2級分岐アルキル基である。一般式1で表わされる好ましいペリレン系蛍光物質としては、R1とR2とが水素原子であり、X1とX2とはCNであり、R3がシクロヘキシル基、トリデシル基、ヘキサデシル基、1−エチルブチル基、1,1−n−ジプロピルメチル基、または1,1−ジシクロヘキシルメチル基の場合である。かかる場合には、輝度寿命が5,000時間以上の蛍光部材が得られるからである。
【0039】
下記一般式2で表わされるペリレン系蛍光物質は、ペリレン骨格の片側にのみ、N−置換イミド構造を有するものである。
【0040】
【化16】
【0041】
式中、R1とR2のそれぞれは、アルコキシ基、フェノキシ基、またはアルキルフェノキシ基のいずれかであればよい。R1とR2が水素原子の場合は、蛍光部材の輝度寿命が短くなるので好ましくない。N−置換イミド構造における置換基R4は、アルキルフェニル基であり、より好ましくは、イソプロピルフェニル基である。また、一般式2で表わされる好ましいペリレン系蛍光物質としては、R4が、イソプロピルフェニル基であり、R1とR2とが、エトキシ基、フェノキシ基、またはイソプロピルフェノキシ基の場合が挙げられる。いずれも蛍光部材としての寿命が5,000時間以上と長くなるからである。
【0042】
下記一般式3で表わされるペリレン系蛍光物質は、ペリレン骨格の両側にN-置換イミド構造を有するものである。
【0043】
【化17】
【0044】
式中、R1とR2のそれぞれは、アルコキシ基、フェノキシ基、またはアルキルフェノキシ基のいずれかであり、N−置換基であるR5とR6はそれぞれ、アルキル基、フェニル基、またはアルキルフェニル基のいずれかであればよい。また、R5とR6とは、同一であっても異なっていてもよい。一般式3で表わされる好ましいペリレン系蛍光物質としては、R1とR2とがフェノキシ基であり、R5とR6とが、メチル基、またはイソプロピルフェニル基である場合が挙げられる。特に、R5とR6とがイソプロピルフェニル基である場合は、得られる蛍光部材の輝度寿命が10,000時間以上となるので極めて好ましい。
【0045】
下記一般式4で表わされるペリレン系蛍光物質は、ペリレン骨格の両側にN−置換イミド構造を有するものである。
【0046】
【化18】
【0047】
式中、R7とR8はそれぞれ、炭素数が4以上の分岐アルキル基、炭素数が5以上の直鎖アルキル基、フェニル基、またはアルキルフェニル基のいずれかであれば良い。N-置換基であるR7とR8のアルキル基の炭素数が一定値未満になると、蛍光部材の輝度寿命5,000時間を確保できないからである。また、前記アルキル基は、直鎖状であるか分岐状であるかによって、その炭素数の下限が変化するので、分岐アルキル基の場合は、炭素数を4以上とし、直鎖アルキル基の場合は、炭素数を5以上とする。さらに、前記分岐アルキル基は、好ましくは2級若しくは3級の分岐アルキル基であることが好ましい。尚、R7とR8とは、同一であっても異なっていてもよい。一般式4で表わされる好ましいペリレン系蛍光物質としては、R7とR8とが、sec−ブチル基、n−オクチル基、イソプロピルフェニル基の場合が挙げられる。いずれの場合も寿命が5,000時間以上と長い蛍光部材が得られるからである。
【0048】
下記一般式5で表わされるペリレン系蛍光物質は、ペリレン骨格の一方の側にN−置換イミド構造を有し、他方の側には、無水カルボン酸構造を有するものである。
【0049】
【化19】
【0050】
式中、R1とR2はそれぞれ、アルコキシ基、フェノキシ基、またはアルキルフェノキシ基のいずれかである。R1とR2とを、アルコキシ基、フェノキシ基、またはアルキルフェノキシ基のいずれかとすることにより、蛍光部材の寿命を5,000時間以上と長くできるからである。N−置換基であるR9は、アルキル基、フェニル基、またはアルキルフェニル基のいずれかであればよい。一般式5で表わされる好ましいペリレン系蛍光物質としては、R9がメチル基であり、R1とR2とが、エトキシ基またはフェノキシ基の場合である。いずれも輝度寿命が5,000時間以上の蛍光部材が得られる。
【0051】
下記一般式6で表わされるペリレン系蛍光物質は、ペリレン骨格の一方の側にN−置換イミド構造を有し、他方の側には、無水カルボン酸構造を有するものである。
【0052】
【化20】
【0053】
式中、N−置換基であるR10は、炭素数が6以上のアルキル基、より好ましくは炭素数が8以上のアルキル基、フェニル基またはアルキルフェニル基のいずれかである。一般式6で表わされる好ましいペリレン系蛍光物質としては、R10がイソプロピルフェニル基、n−オクチル基の場合である。いずれも蛍光寿命が5,000時間以上の蛍光部材が得られるからである。
【0054】
下記一般式7で表わされるペリレン系蛍光物質は、ペリレン骨格の一方の側にN−置換イミド構造を有し、他方の側にはN―置換イミド構造の一方の酸素原子を窒素原子に置換した構造を有し、さらに、2つの窒素原子には、置換基Aが結合している。
【0055】
【化21】
【0056】
式中、R1とR2とはそれぞれ、水素原子、アルコキシ基、フェノキシ基、アルキルフェノキシ基のいずれかであり、R1とR2とは、同一であっても異なっていてもよい。N−置換基であるR11は、炭素数が2以上のアルキル基、好ましくは炭素数が4以上のアルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基であり、また、Aはシクロアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基、またはピリジレン基のいずれかである。一般式7で表わされる好ましいペリレン系蛍光物質は、Aがフェニレン基であり、R1とR2とが、エトキシ基またはフェノキシ基であり、R11がイソプロピルフェニル基の場合が挙げられる。輝度寿命が10,000時間以上を超える蛍光部材が得られるからである。
【0057】
前記一般式1〜7で表わされるペリレン系蛍光物質は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、1質量部以下、好ましくは0.1質量部以下添加することが望ましい。
0.001質量部未満であると、蛍光物質の絶対量が少ないために、所望の発光色や輝度を得ることが難しくなり、1質量部を超えると、蛍光物質の量が多くなり過ぎるので、蛍光物質のブリードアウトなどを促進して、却って発光色のばらつきの原因となるからである。
【0058】
本発明の蛍光部材は、前記蛍光物質の他にも、例えば、有機修飾セラミックス、耐光性を向上させるための紫外線吸収剤や酸化防止剤、光を拡散させるための炭酸カルシウムなどの拡散剤、さらに、本発明の効果を妨げない範囲で、他の有機蛍光物質や無機系蛍光物質、および顔料などを含有してもよい。前記有機修飾セラミックスとは、ペリレン系蛍光物質とポリカーボネート樹脂との界面接着強度を高めるもので、ペリレン系蛍光物質のブリードアウト等を抑制することができるものであれば限定されず、例えば、テトラエトキシシラン、オルガノトリエトキシシラン、チタンテトライソプロポキシドなどの加水分解により得られるものなどが挙げられる。
【0059】
本発明はさらに、上述した本発明の蛍光部材と発光ダイオードとを含む発光装置である。本発明で使用する発光ダイオード(LED)とは、LED素子そのものの他、LED素子を樹脂などで封止成形したものをも意味するものとする。前記LEDとしては、例えばGa:ZnO赤色LED、GaP:N緑色LED、GaAsP系赤色LED、GaAsP系橙色・黄色LED、GaAlAs系LED、InGaAlP系橙・黄色LED、GaN系青色LED、SiC青色LED、II−VI族青色LED、青色LED等が挙げられる。特に、発光色を変化させるには、エネルギーの高い青色LEDが好ましく、これに続く緑色のLEDあるいはその他のエネルギーの高いLEDを使用することが好ましい。前記発光ダイオードの形態は、特に限定されず、例えばLEDランプやチップタイプLED、セグメントタイプLED等が挙げられ、もちろん1辺が1mm以下の小型LEDであってもよい。
【0060】
前記発光装置の形態は、特に限定されるものではないが、面状やランプ状であることが好ましい。面状の発光装置としては、例えば、LEDチップを備えた基板上に、上述したシート状の蛍光部材を積層して、液晶などの表示のバックライトとして使用することができる。また、ランプ状の発光装置としては、自動車メーター類などのバックライトなどとして使用することができる。
【0061】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0062】
(1)輝度寿命の測定方法について
キャップ状に成形した蛍光部材を青色LEDランプに装着し、20mAで点灯させて、85℃にて連続点灯試験を行い、輝度の寿命を測定した。輝度寿命は、初期輝度(点灯直後の輝度)が半減する時間とした。
【0063】
(2)発光色のばらつきの測定について
シート状に成形した蛍光部材で青色LEDランプを被覆し、20mAで点灯して、発光波長を分光放射輝度計にて測定した。
【0064】
(3)ペリレン系蛍光物質の種類と輝度寿命について
3−1)下記一般式1において、表1に示した置換基を有するペリレン系蛍光物質のそれぞれ0.1質量部とポリカーボネート樹脂(住友ダウ(株)製カリバー)100質量部とを300℃で溶融混練し、射出成形して、キャップ状の蛍光部材1〜11を得た。蛍光部材1〜11について、輝度寿命の測定をした結果を表1に示した。この結果より、発光色が緑色の実用可能な蛍光部材が得られていることが分かる
【0065】
【化22】
【0066】
【表1】
【0067】
表1より、X1とX2とがCNであり、R3が炭素数が5以上のアルキル基であれば、輝度寿命が5,000時間以上となることが分かる。この結果より、発光色が緑色の実用可能な蛍光部材が得られていることが分かる。
【0068】
3−2)下記一般式2において、表2に示した置換基を有するペリレン系蛍光物質を使用したこと以外は、蛍光部材1〜11と同様の方法にて、蛍光部材12〜18を得た。蛍光部材12〜18について、発光輝度寿命の測定をした結果を表2に示した。
【0069】
【化23】
【0070】
【表2】
【0071】
表2より、R1およびR2が、エトキシ基、フェノキシ基、イソプロピルフェノキシ基の場合であって、R4がイソプロピルフェニル基である場合には、蛍光部材の輝度寿命が5,000時間以上であることが分かる。この結果より、発光色が赤色の実用可能な蛍光部材が得られていることが分かる。
【0072】
3−3)下記一般式3において、表3に示した置換基を有するペリレン系蛍光物質を使用したこと以外は、蛍光部材1〜11と同様の方法にて、蛍光部材19及び20を得た。蛍光部材19及び20について、輝度寿命の測定をした結果を表3に示した。
【0073】
【化24】
【0074】
【表3】
【0075】
表3より、R1とR2とがフェノキシ基であり、R5とR6とがメチル基の場合は、発光輝度寿命が5,000時間以上となり、さらにR5とR6とがイソプロピルフェニル基である場合には、発光輝度寿命が10,000時間以上となり、極めて優れた蛍光部材20(発光色:赤色)が得られた。
【0076】
3−4)下記一般式4において、表4に示した置換基を有するペリレン系蛍光物質を使用したこと以外は、蛍光部材1〜11と同様の方法にて、蛍光部材21〜25を得た。蛍光部材21〜25について、発光輝度寿命の測定をした結果を表4に示した。
【0077】
【化25】
【0078】
【表4】
【0079】
表4より、R7とR8との炭素数が4であるアルキル基を有する場合であっても、n−ブチル基を有する蛍光部材22の寿命は、3,000時間であり、sec−ブチル基を有する蛍光部材23の寿命が5,000時間以上であることから、輝度寿命は、R7やR8の構造の影響を受け、炭素数が4以上の分岐アルキル基であれば輝度寿命が5,000時間以上となることが分かる。また、R7とR8とがn−オクチル基やイソプロピルフェニル基の場合には、輝度寿命が5,000時間以上となって、優れた蛍光部材24及び25が得られた。尚、蛍光部材23〜25の発光色は、いずれも橙色であった。
【0080】
3−5)下記一般式5において、表5に示した置換基を有するペリレン系蛍光物質を使用したこと以外は、蛍光部材1〜11と同様の方法にて、蛍光部材26及び27を得た。蛍光部材26及び27について、発光輝度寿命の測定をした結果を表5に示した。
【0081】
【化26】
【0082】
【表5】
【0083】
表5より、R1とR2とがエトキシ基、フェノキシ基である場合には、R9がメチル基であっても、寿命が5,000時間以上の蛍光部材26及び27が得られることが明らかとなった。尚、蛍光部材26の発光色は黄色であり、蛍光部材27の発光色は赤色であった。
【0084】
3−6)下記一般式6において、表6に示した置換基を有するペリレン系蛍光物質を使用したこと以外は、蛍光部材1〜11と同様の方法にて、蛍光部材28〜31を得た。蛍光部材28〜31について、輝度寿命の測定をした結果を表6に示した。
【0085】
【化27】
【0086】
【表6】
【0087】
表6より、R10がn−オクチル基やイソプロピルフェニル基の場合には、蛍光部材30,31の発光色が緑色となり、輝度寿命が5,000時間以上となることが分かる。
【0088】
3−7)下記一般式8において、表7に示した置換基を有するペリレン系蛍光物質を使用したこと以外は、蛍光部材1〜11と同様の方法にて、蛍光部材32〜37を得た。蛍光部材32〜37について、輝度寿命の測定をした結果を表7に示した。
【0089】
【化28】
【0090】
【表7】
【0091】
表7より、R1とR2とが水素原子であり、R11が最も小さいアルキル基であるメチル基である場合には、輝度寿命が3,000時間と短いが、R11が炭素数が4のn−ブチル基、sec−ブチル基、またはイソプロピルフェニル基である場合には、輝度寿命が5,000時間以上となることが分かる。また、置換基R11の構造によって、発光色が橙色の蛍光部材33〜35と発光色が赤色の蛍光部材36及び37が得られた。さらに、R1とR2とがエトキシ基、フェノキシ基の場合には、輝度寿命が10,000時間以上となり、極めて優れた蛍光部材36及び37が得られることが分かった。
【0092】
尚、以下の説明において、上記蛍光部材1〜37で使用したペリレン系蛍光物質をそれぞれ、蛍光物質1〜37という場合がある。
【0093】
(4)マトリックス樹脂の種類の影響について
蛍光部材20で使用したポリカーボネート樹脂の代わりに、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルブタジエン共重合ゴム(NBR)、シリコーンゴム、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を使用した以外は、蛍光部材20と同様の方法により、キャップ状の蛍光部材38〜43を作製した。それぞれの蛍光部材について発光輝度の経時変化を測定した。結果を表8に示した。
【0094】
【表8】
【0095】
表8より、ペリレン系蛍光物質を分散するマトリックス樹脂として、EPDMやNBRなどのゴムを使用した場合には、72時間程度で発光輝度が著しく低下することが分かる。また、PMMAやPSを使用した場合も、ポリカーボネート樹脂を使用した場合に比べて、経時による発光輝度の低下が大きいことが明らかとなった。これらの結果より、ペリレン系蛍光物質を分散するマトリックス樹脂の種類によって、輝度寿命が影響を受け、耐熱性に優れるポリカーボネート樹脂を使用することが最も好ましいことが明らかとなった。
【0096】
(5)ペリレン系蛍光物質とポリカーボネート樹脂の混合方法の影響について
5−1)溶融混練法による蛍光部材の作製
ペリレン系蛍光物質21および25のそれぞれについて、ペリレン系蛍光物質1質量部とポリカーボネート樹脂100質量部とを300℃で溶融混練した後、シート状に成形して、厚さ200μmのシート状蛍光部材44及び45を作製した。
【0097】
5−2)溶解分散法による蛍光部材の作製
ペリレン系蛍光物質21及び25のそれぞれについて、ペリレン系蛍光物質1質量部とポリカーボネート樹脂100質量部とをテトラヒドロフラン(THF)500質量部に加えて溶解した。これらの溶液をシート状に塗布し、室温で風乾して、厚さが200μmのシート状蛍光部材46及び47を得た。
【0098】
5−3)溶融混練法と溶解分散法との対比
得られたシート状蛍光部材について、発光色のばらつきを観察した。各シートのCIExy色度図を図1〜図4に、また、色度座標x値の色度分布を図5〜図8に示した。
【0099】
図1は、溶融混練法により作製したシート状蛍光部材44の発光色のばらつきであり、発光色のばらつきは、(x,y)=(0.283,0.268)〜(0.302,0.283)の範囲であった。一方、図2は、溶解分散法により作製したシート状蛍光部材46の発色光のばらつきであり、(x,y)=(0.261,0.244)〜(0.309,0.289)の範囲であった。これらの結果より、溶融混練法により作製したシート状蛍光部材44の発光色のばらつきは、溶解分散法により作製したシート状蛍光部材46のものよりも小さくなることが明らかとなった。尚、シート状蛍光部材45(図3)と47(図4)の対比においても同様の結果である。
【0100】
5−4)ペリレン系蛍光物質の分子量についての検討
シート状蛍光部材44及び46は、置換基R5とR6が小さなメチル基であるペリレン系蛍光物質21を使用した場合であり、シート状蛍光部材45及び47は、置換基R5とR6とが大きなイソプロピルフェニル基であるペリレン系蛍光物質25を使用した場合である。これらのペリレン系蛍光物質の分子量の違いが、溶融混練法と溶解分散法とに与える影響について検討した結果を図5〜図8に示した。図5および図6は、溶融混練法により作製したシート状蛍光部材44(メチル基の場合)および45(イソプロピルフェニル基の場合)の色度座標x値のばらつきを示したものであり、x値のばらつきはそれぞれ、0.275〜0.300、0.280〜0.300であった。これらの結果より、溶融混練法では、置換基の大きさによらず、発光色のばらつきが抑制されていることが分かる。一方、図7及び図8は、溶解分散法により作製したシート状蛍光部材46及び47の色度座標x値のばらつきを示したものである。置換基R5とR6とがイソプロピルフェニル基である場合(図8)の発光色のばらつきの範囲は、置換基がメチル基の場合(図7)と比べて、大きくなっていることがわかる。これらの結果より、溶解分散法では、ペリレン系蛍光物質の分子量が大きくなるにつれて、発光色がばらつく傾向があるが、溶融混練法によれば、ペリレン系蛍光物質の分子量によらず、均一な蛍光部材を提供できることが明らかとなった。
【0101】
【発明の効果】
本発明によれば、ペリレン系蛍光物質とポリカーボネート樹脂とを溶融混練することにより、均一で経時変化の少ない蛍光部材が得られる。その結果、初期の発光色のばらつきが小さく、発光輝度の寿命も長い蛍光部材が得られる。さらに、溶融混練法によれば、ペリレン系蛍光物質の分子量によらず、発光色のばらつきが小さい蛍光部材を得ることができるという特徴がある。
【0102】
本発明によれば、有機蛍光物質であるペリレン系蛍光物質を使用し、該ペリレン系蛍光物質が蛍光部材中に分子レベルで分散するので、無機蛍光物質のように、蛍光部材中に分散された無機蛍光物質粒子が光を散乱するという問題がなく、指向性に優れた蛍光部材が得られる。また、異なる構造を有するペリレン系蛍光物質を使用することにより、多様な発光色の蛍光部材を得ることができる。
【0103】
また、本発明の蛍光部材を用いた発光装置も、同様の特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 溶融混練法による蛍光部材44のxy色度図である。
【図2】 溶解分散法による蛍光部材46のxy色度図である。
【図3】 溶融混練法による蛍光部材45のxy色度図である。
【図4】 溶解分散法による蛍光部材47のxy色度図である。
【図5】 溶融混練法による蛍光部材44の色度分布図である。
【図6】 溶融混練法による蛍光部材45の色度分布図である。
【図7】 溶解分散法による蛍光部材46の色度分布図である。
【図8】 溶解分散法による蛍光部材47の色度分布図である。
Claims (5)
- ポリカーボネート樹脂と下記一般式のいずれかによって表わされるペリレン系蛍光物質の少なくとも1種とを溶融混練して得られた樹脂組成物の成形体からなることを特徴とする青色LEDカバー用蛍光部材。
- キャップ状またはシート状である請求項1または2に記載の青色LEDカバー用蛍光部材。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の青色LEDカバー用蛍光部材で青色LEDを被覆してなる発光装置。
- 前記発光装置は、ランプ状または面状である請求項4に記載の発光装置。
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