JP4042345B2 - 固体電解コンデンサ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は固体電解コンデンサに係り、特に、等価直列抵抗(以下、ESRという)の低減を図り、コンデンサの小型化を可能とするために、容量出現率の向上を図るべく改良を施した固体電解コンデンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用を有する金属を利用した電解コンデンサは、陽極側対向電極としての弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にして誘電体を拡面化することにより、小型で大きな容量を得ることができることから、広く一般に用いられている。特に、電解質に固体電解質を用いた固体電解コンデンサは、小型、大容量、低等価直列抵抗であることに加えて、チップ化しやすく、表面実装に適している等の特質を備えていることから、電子機器の小型化、高機能化、低コスト化に欠かせないものとなっている。
【0003】
この種の固体電解コンデンサにおいて、小型、大容量用途としては、一般に、アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極箔と陰極箔をセパレータを介在させて巻回してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子に駆動用電解液を含浸し、アルミニウム等の金属製ケースや合成樹脂製のケースにコンデンサ素子を収納し、密閉した構造を有している。なお、陽極材料としては、アルミニウムを初めとしてタンタル、ニオブ、チタン等が使用され、陰極材料には、陽極材料と同種の金属が用いられる。
【0004】
ところで、電解コンデンサの静電容量を増大させるためには、陽極材料と共に陰極材料の静電容量を向上させることが重要である。電解コンデンサにおける各電極の静電容量は、電極表面に薄く形成される絶縁膜の種類、厚さ及び電極の表面積等に左右されるものであり、絶縁膜の誘電率をε、絶縁膜の厚さをt、電極の表面積をAとするとき、静電容量Cは次式で表される。
C=ε(A/t)
【0005】
この式から明らかなように、静電容量の増大を図るためには、電極表面積の拡大、高誘電率を有する絶縁膜材料の選択、絶縁膜の薄膜化が有効である。
これらのうち、電極表面積の拡大を図るべく単純に大きな電極を用いることは、電解コンデンサの大型化を招くだけなので好ましくない。そのため、従来から、電極材料の基材であるアルミニウム箔の表面にエッチング処理を施して凹凸を形成することにより、実質的な表面積を拡大することが行われている。
【0006】
また、特開昭59−167009号には、上記エッチング処理に変わるものとして、金属蒸着の技術を利用することにより、基材表面に金属皮膜を形成してなる陰極材料が開示されている。この技術によれば、皮膜形成条件を選択することにより、皮膜表面に微細な凹凸を形成して表面積を拡大し、大きな静電容量を得ることができるとされている。また、上記金属皮膜として、酸化物となった際に高い誘電率を示すTi等の金属を用いれば、陰極材料表面に形成される絶縁膜の誘電率を高めて、より大きな静電容量を得ることができることが示されている。
【0007】
さらに、本出願人が先に出願した特開平3−150825号には、電解コンデンサの静電容量が、陽極側の静電容量と陰極側の静電容量とが直列に接続された合成容量となることに鑑み、陰極側の静電容量値を高くするために、陰極用電極に用いられる高純度アルミニウム表面にチタンの窒化物からなる蒸着層を陰極アーク蒸着法によって形成する技術が示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したような従来の技術によって形成した陰極箔を用いた固体電解コンデンサには、以下に述べるような問題点があった。すなわち、従来の固体電解コンデンサにおいては、電解コンデンサの静電容量を高めるために、電極材料の基材であるアルミニウム箔の表面にエッチング処理を施しているが、エッチングが過大になるとアルミニウム箔表面の溶解が同時に進行し、却って拡面率の増大を妨げることなどの理由から、エッチング技術による電極材料の静電容量の増大化には限界があった。
【0009】
また、従来、固体電解コンデンサの固体電解質には、主に硝酸マンガンの熱分解により形成される二酸化マンガンが用いられていたが、この二酸化マンガンは導電率が比較的高いため、コンデンサとしてのESRの低減には限度があった。さらに、二酸化マンガンの形成工程で、200〜300℃の熱処理を数回行わなければならないため、陰極箔の表面に形成された金属窒化物からなる皮膜の表面に酸化皮膜が形成され、そのため陰極箔の静電容量が低下し、ひいては電解コンデンサの静電容量を低下させる原因となっていた。
【0010】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、ESRの低減を図り、容量出現率の向上を可能とした固体電解コンデンサを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく、ESRの低減を図り、容量出現率を向上させることができる固体電解コンデンサについて鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、電解質層として導電性ポリマーあるいは二酸化鉛を用いた巻回型の固体電解コンデンサにおいて、陰極箔の表面に化成皮膜を形成し、さらにその上の一部に金属窒化物からなる皮膜を形成することによって、ESRの低減と容量出現率の向上が可能となることが判明したものである。
【0012】
まず、本発明者は、電解質層として、近年着目されるようになった電導度が高く、誘電体皮膜との付着性の良い導電性ポリマーを用いた巻回型の固体電解コンデンサについて、種々の検討を行った。なお、この導電性ポリマーの代表例としては、ポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDTと記す)、ポリピロール、ポリアニリン、TCNQ(7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン)もしくはこれらの誘導体等が知られている。さらに、無機系の導電性化合物として知られている二酸化鉛を用いた巻回型の固体電解コンデンサについても、種々の検討を行った。
【0013】
また、本発明者は、種々の化成電圧の下、陰極箔に化成皮膜を形成し、さらにその上の一部にTiN等の金属窒化物を形成し、この陰極箔を用いて後述する条件下でコンデンサを作成し、陰極箔のみの容量を測定したところ、その容量は無限大となり、また、ESR及びtanδを低減できることが分かった。すなわち、化成皮膜の表面の一部に形成されたTiN等の金属窒化物が、陰極箔の表面に形成された化成皮膜の一部を除去し、TiN等の金属窒化物と陰極箔金属が導通していることが判明した。
【0014】
ところで、電解コンデンサの静電容量Cが、陽極側の静電容量Ca と陰極側の静電容量Cc とが直列に接続された合成容量となることは、次式により表される。
【数1】
上式より明らかなように、Cc が値を持つ(陰極箔が容量を持つ)限り、コンデンサの容量Cは陽極側の静電容量Ca より小さくなる。言い換えれば、本発明のように陰極箔表面に形成したTiN等の金属窒化物と陰極箔金属とが導通して陰極箔の容量Cc が無限大となった場合には、陰極箔の容量成分がなくなり、陽極箔と陰極箔の直列接続の合成容量であるコンデンサの容量Cは陽極側の静電容量Ca と等しくなって、最大となる。
【0015】
また、陰極箔に化成皮膜を形成し、さらにその表面の一部に金属窒化物からなる皮膜を形成しているため、金属窒化物からなる皮膜が形成されていない部分では、電解質層として用いられる導電性ポリマーあるいは二酸化鉛と陰極箔が直接接触することになる。この場合、陰極箔の表面には予め化成皮膜が形成されているので、陰極箔と導電性ポリマーあるいは二酸化鉛との密着性が向上して、ESR及びtanδが低減されたと考えられる。
【0016】
なお、金属窒化物としては、表面に酸化皮膜が形成されにくい、TiN、ZrN、TaN、NbN等を用いることができる。また、陰極の表面に形成する皮膜は金属窒化物に限らず、皮膜を形成することができ、且つ酸化することの少ない導電性材料であれば、他の材質でも良い。例えば、Ti、Zr、Ta、Nb等を用いることができる。
【0017】
また、弁金属からなる陰極に金属窒化物からなる皮膜を形成する方法としては、形成される皮膜の強度、陰極との密着性、成膜条件の制御等を考慮すると、蒸着法が好ましく、なかでも、陰極アークプラズマ蒸着法がより好ましい。
この陰極アークプラズマ蒸着法の適用条件は以下の通りである。すなわち、電流値は80〜300A、電圧値は15〜20Vである。なお、金属窒化物の場合は、弁金属からなる陰極を200〜450℃に加熱し、窒素を含む全圧が1×10-1〜1×10-4Torrの雰囲気で行う。
【0018】
また、陰極箔の表面に化成皮膜を形成するために印加する化成電圧は、10V以下であることが望ましい。その理由は、化成電圧が10V以上であると、陰極箔の表面に形成される化成皮膜の厚みが増して陰極箔の静電容量が減少し、陽極箔と陰極箔の合成容量であるコンデンサの容量が減少するからである。
【0019】
さらに、陰極箔の化成液としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液等を用いることができるが、なかでもリン酸二水素アンモニウムを用いることが望ましい。なお、リン酸二水素アンモニウムの水溶液の濃度は、0.005〜3%が適している。
【0020】
また、上述したように、導電性ポリマーとしては、コンデンサの作成過程において高温処理を必要としないPEDT、ポリピロール、ポリアニリン、TCNQもしくはこれらの誘導体等を用いることができるが、なかでも、小型大容量の巻回型のコンデンサにおいては、100℃前後で重合を行うことができ、コンデンサの製造過程において温度管理等が容易で、耐熱性に優れ、単位容積当たりの静電容量が最も大きいPEDTを用いることが望ましい。
【0021】
続いて、電解質層として導電性ポリマーを用いた巻回型の固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
すなわち、陰極箔としては、エッチングしたアルミニウム箔を、10V以下で、0.005〜3%のリン酸二水素アンモニウムの水溶液で化成し、さらにその表面の一部にTiN膜を陰極アークプラズマ蒸着法により形成したものを用いる。なお、陰極箔の表面にTiN膜を形成する方法として蒸着法を用いた場合には、エッチングを施した陰極箔表面の凹部の側面などにはTiN膜が形成されないため、陰極箔の表面の一部にTiN膜を形成することができる。また、陰極アークプラズマ蒸着法の条件は、窒素雰囲気中でTiターゲットを用い、弁金属からなる陰極を200〜450℃に加熱し、窒素を含む全圧が1×10-1〜1×10-4Torr、80〜300A、15〜20Vで行う。
【0022】
また、陽極箔としては、エッチングしたアルミニウム箔の表面に、従来から用いられている方法で化成処理を施して誘電体皮膜を形成したものを用いる。この陽極箔を陰極箔及びセパレータと共に巻回してコンデンサ素子を形成し、エチレンジオキシチオフェン(以下、EDTと記す)をコンデンサ素子に含浸し、さらに40〜60%のパラトルエンスルホン酸第二鉄のブタノール溶液を含浸して、20〜180℃、30分以上加熱する。その後、コンデンサ素子の表面を樹脂で被覆し、エージングを行う。
【0023】
ここで、コンデンサ素子に含浸するEDTとしてはEDTモノマーを用いることができるが、EDTと揮発性溶媒とを1:1〜1:3の体積比で混合したモノマー溶液を用いることもできる。
また、揮発性溶媒としては、ペンタン等の炭化水素類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ギ酸エチル等のエステル類、アセトン等のケトン類、メタノール等のアルコール類、アセトニトリル等の窒素化合物等を用いることができるが、なかでも、メタノール、エタノール、アセトン等が好ましい。
酸化剤としては、ブタノールに溶解したパラトルエンスルホン酸第二鉄を用いる。この場合、ブタノールとパラトルエンスルホン酸第二鉄の比率は任意で良いが、本発明においては40〜60%溶液を用いている。なお、EDTと酸化剤の配合比は1:3〜1:6の範囲が好適である。
【0024】
また、上述した導電性ポリマーと同様に、低温で半導体層を形成することができる二酸化鉛を用いた巻回型の固体電解コンデンサについても種々の検討を行ったところ、導電性ポリマーからなる電解質層を備えた固体電解コンデンサと同様に、耐電圧特性、漏れ電流特性等が良好で、ESRの低減が可能で、高い容量出現率が得られることが判明した。
この二酸化鉛は、高電導性の半導体層を形成するので、低ESR特性を有する固体電解コンデンサを形成することができる。また、二酸化鉛を用いた半導体層は、酢酸鉛を過硫酸アンモニウム等の酸化剤で常温で酸化して形成することができるので、高温で形成する二酸化マンガンに比べて陽極酸化皮膜の損傷が少ないため、耐電圧特性、漏れ電流特性等が良好で、導電性ポリマーと同等の特性を得ることができると考えられる。
【0025】
ただし、二酸化鉛は、上記PEDTに比較すると、陽極箔の化成電圧に対して定格電圧が低いという欠点がある。したがって、PEDTと同じ定格電圧にするためには、陽極箔の化成電圧を高くしなければならず、その分、陽極箔の化成皮膜の厚みが大きくなり、陽極箔の静電容量が小さくなるため、陽極箔の静電容量と陰極箔の静電容量の合成容量であるコンデンサの静電容量は小さくなる。
【0026】
続いて、電解質層として二酸化鉛を用いた巻回型の固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
すなわち、陰極箔としては、エッチングしたアルミニウム箔を、10V以下で、0.005〜3%のリン酸二水素アンモニウムの水溶液で化成し、さらにその表面の一部にTiN膜を陰極アークプラズマ蒸着法により形成したものを用いる。なお、陰極箔の表面にTiN膜を形成する方法として蒸着法を用いた場合には、エッチングを施した陰極箔表面の凹部の側面などにはTiN膜が形成されないため、陰極箔の表面の一部にTiN膜を形成することができる。また、陰極アークプラズマ蒸着法の条件は、窒素雰囲気中でTiターゲットを用い、弁金属からなる陰極を200〜450℃に加熱し、窒素を含む全圧が1×10-1〜1×10-4Torr、80〜300A、15〜20Vで行う。
【0027】
また、陽極箔としては、エッチングしたアルミニウム箔の表面に、従来から用いられている方法で化成処理を施して誘電体皮膜を形成したものを用いる。この陽極箔を陰極箔及びセパレータと共に巻回してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子を、0.05モル/リットル〜飽和溶解度を与える濃度までの範囲の酢酸鉛水溶液に浸漬し、ここに、酢酸鉛1モルに対して0.1〜5モルまでの範囲の過硫酸アンモニウム水溶液を加え、室温で30分〜2時間放置して、誘電体層上に二酸化鉛層を形成する。次いで、コンデンサ素子を水洗、乾燥した後、樹脂封止して、固体電解コンデンサを形成する。
【0028】
なお、通常の電解液を用いる電解コンデンサに本発明に係る陰極箔を用いても、電解液と陰極箔の界面に電気二重層コンデンサが形成されて容量成分となるので、陰極箔の容量がゼロになることはなく、本発明のような最大の容量を得ることはできない。
【0029】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
[1.第1実施形態]
本実施形態は、電解質層として導電性ポリマーを用いた巻回型の固体電解コンデンサに関するものである。なお、本発明に係る表面に化成皮膜を形成し、さらにその上の一部に金属窒化物からなる皮膜を形成した陰極箔は、以下の実施例1のように作成した。また、比較例1として、陰極表面に実施例1と同じ化成電圧で化成皮膜のみを形成した陰極箔を用い、従来例1として通常の陰極箔を用いた。
【0030】
(実施例1)
高純度のアルミニウム箔(純度99%、厚さ50μm)を4mm×30mmに切断したものを被処理材として使用し、エッチング処理後、化成電圧2Vで0.15%のリン酸二水素アンモニウムの水溶液で化成し、さらにその表面にTiN膜を陰極アークプラズマ蒸着法により形成した。なお、本実施例においては、陰極箔の表面にTiN膜を形成する方法として蒸着法を用いたため、エッチングを施した陰極箔表面の凹部の側面などにはTiN膜が形成されず、陰極箔の表面の一部にTiN膜が形成されている。なお、陰極アークプラズマ蒸着法の条件は、窒素雰囲気中でTiターゲットを用い、高純度のアルミニウム箔を200℃に加熱し、5×10-3Torr、300A、20Vで行った。
【0031】
そして、この陰極箔を陽極箔及びセパレータと共に巻回して、素子形状が4φ×7Lのコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子にEDTモノマーを含浸し、さらに酸化剤溶液として45%のパラトルエンスルホン酸第二鉄のブタノール溶液を含浸して、100℃、1時間加熱した。その後、コンデンサ素子の表面を樹脂で被覆し、エージングを行って、固体電解コンデンサを形成した。なお、この固体電解コンデンサの定格電圧は6.3WV、定格容量は33μFである。
【0032】
(比較例1)
被処理材には実施例1と同じものを用い、エッチング処理後、化成電圧2Vで0.15%のリン酸二水素アンモニウムの水溶液で化成して陰極箔を作成した。そして、この陰極箔を用い、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを形成した。
【0033】
(従来例1)
被処理材には実施例1と同じものを用い、表面に化成皮膜及び金属窒化物からなる皮膜を形成していないものを陰極箔として用いた。そして、この陰極箔を用い、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを形成した。
【0034】
[比較結果]
上記の方法により得られた実施例1、比較例1及び従来例1の固体電解コンデンサの電気的特性を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から明らかなように、陰極箔の表面に化成皮膜及び金属窒化物からなる皮膜のいずれも形成していない陰極箔を用いた従来例1においては、静電容量(Cap)は“30.2”と低く、等価直列抵抗(ESR)は“49”、tanδは“0.120”と高かった。
これに対して、実施例1においては、Capは“46.8”と従来例1の約1.55倍に上昇し、tanδは“0.020”と従来例1の約16.7%に低下した。また、ESRは“35”と従来例1の約71.4%に低下した。
【0037】
一方、陰極箔の表面に化成皮膜のみを形成した比較例1においては、Capは“32.1”と従来例1の約1.06倍に上昇し、tanδは“0.088”と従来例1の約73.3%に低下した。また、ESRは“35”と従来例1の約71.4%に低下した。
【0038】
このような結果が得られたのは、以下の理由によると考えられる。すなわち、実施例1においては、陰極箔表面に形成された化成皮膜の表面の一部に、蒸着法によって金属窒化物からなる皮膜が形成されており、この金属窒化物が陰極箔の表面に形成された化成皮膜の一部を除去して、金属窒化物と陰極箔金属とが導通する。さらに、本実施形態においては、電解質として導電性ポリマーを用いているため、コンデンサの作成過程で高温処理をする必要がないので、金属窒化物の表面に酸化皮膜が形成されることはない。
【0039】
このように実施例1によれば、陰極箔表面の一部に蒸着した金属窒化物と陰極箔金属とが導通して陰極箔の容量が無限大となり、陰極箔表面の容量成分がなくなり、結果として、陽極箔と陰極箔の合成容量であるコンデンサの静電容量が、陽極箔のみの静電容量と等しくなって増大する。また、陰極箔の容量成分がなくなることによって、その誘電損失分もなくなるので、tanδも低減する。
【0040】
さらに、陰極箔の表面に形成される金属窒化物は蒸着法によって形成されているので、エッチングを施した陰極箔表面の凹部の側面などには金属窒化物が形成されることがない。そのため、この部分では導電性ポリマーと陰極箔が直接接触することになるが、陰極箔の表面には予め化成皮膜が形成されているので、陰極箔と導電性ポリマーとの密着性が向上して、ESR及びtanδが低減したと考えられる。
【0041】
一方、陰極箔の表面に化成皮膜のみを形成した比較例1においては、実施例1に比べてCapの上昇率は大きくないが、tanδは従来例1の約73.3%に、また、ESRは従来例1の約71.4%に低下した。これは、陰極箔の表面に所定の化成電圧で化成皮膜を形成したことにより、陰極箔と導電性ポリマーとの密着性が向上して、ESR及びtanδが低減したと考えられる。
【0042】
このように、表面に化成皮膜を形成し、さらにその上の一部に金属窒化物からなる皮膜を形成した陰極箔を用いた固体電解コンデンサにおいては、ESR及びtanδを低減し、さらに容量出現率を大幅に向上することができることが明らかとなった。
【0043】
[2.第2実施形態]
本実施形態は、電解質層として二酸化鉛を用いた巻回型の固体電解コンデンサに関するものである。なお、本発明に係る表面に化成皮膜を形成し、さらにその上の一部に金属窒化物からなる皮膜を形成した陰極箔は、以下の実施例2のように作成した。また、比較例2として、陰極表面に実施例2と同じ化成電圧で化成皮膜のみを形成した陰極箔を用い、従来例2として通常の陰極箔を用いた。
【0044】
(実施例2)
高純度のアルミニウム箔(純度99%、厚さ50μm)を4mm×30mmに切断したものを被処理材として使用し、エッチング処理後、化成電圧2Vで0.15%のリン酸二水素アンモニウムの水溶液で化成し、さらにその表面にTiN膜を陰極アークプラズマ蒸着法により形成した。なお、本実施例においても、陰極箔の表面にTiN膜を形成する方法として蒸着法を用いたため、エッチングを施した陰極箔表面の凹部の側面などにはTiN膜が形成されず、陰極箔の表面の一部にTiN膜が形成されている。また、陰極アークプラズマ蒸着法の条件は、窒素雰囲気中でTiターゲットを用い、高純度のアルミニウム箔を200℃に加熱し、5×10-3Torr、300A、20Vで行った。
【0045】
そして、この陰極箔を陽極箔及びセパレータと共に巻回して、素子形状が4φ×7Lのコンデンサ素子を形成した。このコンデンサ素子を、3モル/リットルの酢酸鉛水溶液に浸漬し、ここに、同量の3モル/リットルの過硫酸アンモニウム水溶液を加え、室温で1時間放置した。次いで、このコンデンサ素子を水洗、乾燥した後、実施例1と同様にして、定格電圧6.3WV、定格容量22μFの固体電解コンデンサを形成した。
【0046】
なお、実施例2では、PEDTを用いた実施例1に比べて、定格容量が22μFと小さくなっているが、その理由は以下の通りである。すなわち、二酸化鉛はPEDTに比べて、陽極箔の化成電圧に対してコンデンサの定格電圧が低くなる。したがって、同じ定格電圧であると、二酸化鉛の場合は陽極箔の化成電圧を高くしなければならない。そのため、陽極箔の厚みが大きくなって、陽極箔の静電容量が小さくなり、陽極箔の静電容量と陰極箔の静電容量の合成容量であるコンデンサの静電容量は小さくなる。
【0047】
(比較例2)
被処理材には実施例2と同じものを用い、エッチング処理後、化成電圧2Vで0.15%のリン酸二水素アンモニウムの水溶液で化成して陰極箔を作成した。そして、この陰極箔を用い、実施例2と同様にして固体電解コンデンサを形成した。
【0048】
(従来例2)
被処理材には実施例2と同じものを用い、表面に化成皮膜及び金属窒化物からなる皮膜を形成していないものを陰極箔として用いた。そして、この陰極箔を用い、実施例2と同様にして固体電解コンデンサを形成した。
【0049】
[比較結果]
上記の方法により得られた実施例2、比較例2及び従来例2の固体電解コンデンサの電気的特性を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2から明らかなように、陰極箔の表面に化成皮膜及び金属窒化物からなる皮膜のいずれも形成していない陰極箔を用いた従来例2においては、静電容量(Cap)は“22.0”と低く、等価直列抵抗(ESR)は“157”、tanδは“0.129”と高かった。
これに対して、実施例2においては、Capは“24.9”と従来例2より約13%上昇し、tanδは“0.033”と従来例2の約26%に低下した。また、ESRは“136”と従来例2の約87%に低下した。
【0052】
一方、陰極箔の表面に化成皮膜のみを形成した比較例2においては、Capは“23.1”と従来例2より約5%上昇し、tanδは“0.092”と従来例2の約71%に低下した。また、ESRは“138”と従来例2の約88%に低下した。
【0053】
このような結果が得られたのは、以下の理由によると考えられる。すなわち、実施例2においては、陰極箔表面に形成された化成皮膜の表面の一部に、蒸着法によって金属窒化物からなる皮膜が形成されており、この金属窒化物が陰極箔の表面に形成された化成皮膜の一部を除去して、金属窒化物と陰極箔金属とが導通する。さらに、本実施形態においては、電解質として二酸化鉛を用いているため、コンデンサの作成過程で高温処理をする必要がないので、金属窒化物の表面に酸化皮膜が形成されることはない。
【0054】
このように実施例2によれば、陰極箔表面の一部に蒸着した金属窒化物と陰極箔金属とが導通して陰極箔の容量が無限大となり、陰極箔表面の容量成分がなくなり、結果として、陽極箔と陰極箔の合成容量であるコンデンサの静電容量が、陽極箔のみの静電容量と等しくなって増大する。また、陰極箔の容量成分がなくなることによって、その誘電損失分もなくなるので、tanδも低減する。
【0055】
さらに、陰極箔の表面に形成される金属窒化物は蒸着法によって形成されているので、エッチングを施した陰極箔表面の凹部の側面などには金属窒化物が形成されることがない。そのため、この部分では二酸化鉛と陰極箔が直接接触することになるが、陰極箔の表面には予め化成皮膜が形成されているので、陰極箔と二酸化鉛との密着性が向上して、ESR及びtanδが低減したと考えられる。
【0056】
なお、実施例2において、静電容量の上昇率(約13%)が、PEDTを用いた実施例1における上昇率(約55%)に比べて小さいものとなっているのは、以下の理由によると考えられる。すなわち、上述したように、実施例2においては、実施例1と同じ定格電圧にすると、陽極箔の化成電圧を高くしなければならないため、陽極箔の厚みが大きくなって陽極箔の静電容量が小さくなる。そのため、TiNを蒸着することによって陰極箔の静電容量が無限大になっても、陽極箔の静電容量と陰極箔の静電容量の合成容量であるコンデンサの静電容量に対する寄与が、PEDTを用いた実施例1より小さくなるためであると考えられる。
【0057】
一方、陰極箔の表面に化成皮膜のみを形成した比較例2においては、実施例2に比べてCapの上昇率は大きくないが、tanδは従来例2の約71.3%に、また、ESRは従来例2の約87.9%に低下した。これは、陰極箔の表面に所定の化成電圧で化成皮膜を形成したことにより、陰極箔と二酸化鉛との密着性が向上して、ESR及びtanδが低減したと考えられる。
【0058】
このように、表面に化成皮膜を形成し、さらにその上の一部に金属窒化物からなる皮膜を形成した陰極箔を用いた固体電解コンデンサにおいては、電解質として二酸化鉛を用いた場合にも、導電性ポリマーからなる電解質層を備えた固体電解コンデンサと同様に、ESR及びtanδを低減し、さらに容量出現率を大幅に向上することができることが明らかとなった。
【0059】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、陰極箔の表面に化成皮膜を形成し、さらにその上の一部に金属窒化物からなる皮膜を形成することにより、この金属窒化物が陰極箔の表面に形成された化成皮膜の一部を除去して、金属窒化物と陰極箔金属とが導通する。その結果、陰極箔の容量が無限大となり、陰極箔表面の容量成分がなくなり、結果として、陽極箔と陰極箔の合成容量であるコンデンサの静電容量が、陽極箔のみの静電容量と等しくなって最大となる。また、陰極箔の容量成分がなくなることによって、その誘電損失分もなくなるので、tanδも低減する。
【0060】
また、陰極箔に化成皮膜を形成し、さらにその表面の一部に金属窒化物からなる皮膜を形成しているため、金属窒化物からなる皮膜が形成されていない部分では、導電性ポリマーあるいは二酸化鉛と陰極箔が直接接触することになり、陰極箔の表面に予め形成されている化成皮膜により陰極箔と導電性ポリマーあるいは二酸化鉛との密着性が向上して、さらにESR及びtanδが低減する。従って、本発明によれば、ESRの低減を図り、容量出現率の向上を可能とした固体電解コンデンサを提供することができる。
Claims (5)
- 弁金属からなる陰極箔と表面に酸化皮膜を形成した弁金属からなる陽極箔とを、セパレータを介して巻回してコンデンサ素子を形成し、前記陰極箔と陽極箔の間に導電性ポリマーからなる電解質層を形成した固体電解コンデンサにおいて、
前記陰極箔の表面に化成皮膜を形成し、さらにその上の一部に金属窒化物からなる皮膜を形成し、前記導電性ポリマーが前記化成皮膜と金属窒化物に接していることを特徴とする固体電解コンデンサ。 - 弁金属からなる陰極箔と表面に酸化皮膜を形成した弁金属からなる陽極箔とを、セパレータを介して巻回してコンデンサ素子を形成し、前記陰極箔と陽極箔の間に二酸化鉛からなる電解質層を形成した固体電解コンデンサにおいて、
前記陰極箔の表面に化成皮膜を形成し、さらにその上の一部に金属窒化物からなる皮膜を形成し、前記二酸化鉛が前記化成皮膜と金属窒化物に接していることを特徴とする固体電解コンデンサ。 - 前記導電性ポリマーが、ポリエチレンジオキシチオフェンであることを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
- 前記弁金属がアルミニウムであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の固体電解コンデンサ。
- 前記金属窒化物が、TiN、ZrN、TaN、NbNのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一に記載の固体電解コンデンサ。
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