上述の処理液を用いた従来のインクジェットプリント技術においては、プリント品位を向上させる上で、インクに用いる色剤毎にそれぞれ解決すべき課題があることが、本願発明者によって新たに認識された。
すなわち、色剤として染料を用いる場合にあっては、第1に、染料と処理液が反応してもそれ程高いOD値が得られないという問題がある。これは、染料それ自体プリントに用いられても比較的低いOD値しか発現できないためであり、前述のように処理液と反応してその大部分がプリント媒体の表層に固定されたとしても、色剤として顔料を用いた場合と比較してそれ程高いOD値を得ることができない。
染料を用いる場合の第2の問題として、いわゆる「あふれ」または「はき寄せ」と称する現象を生じ、特に、プリント画像のエッジ部を不鮮明にすることを本願発明者は見い出している。
図1は、この現象を推定的に説明する図である。同図(a)に示すように、染料を色剤とするインクIdがプリントヘッド(吐出部)から吐出されることにより、このインクが特に普通紙のような吸収性の遅いプリント媒体Pに付着すると、その一部が浸透する。また、その他の部分はプリント媒体Pの上面において液体の状態で存在する。次に、同様にプリントヘッドから吐出されることにより、同図(b)に示すように処理液SがインクIdに重ねて付着すると、処理液SとインクIdとの境界で反応を生ずる。そして、その反応物は、同図(c)に示すように、一部の反応物が、インクIdの周囲への流れ出しおよびインクIdの下側への流れ込みを生じる。そして、このような現象の進行とともにインクIdにおける染料と処理液Sとの反応が徐々に進行し、最終的に同図(d)に示すような、染料と処理液との反応物からなるインクドットが形成されることになる。すなわち、このインクドットは、その輪郭部が本来のドットの輪郭部を越えてインクが流れ出したようなものとなる。
以上の現象は、本願発明者の推定によれば、染料と処理液との反応速度が比較的小さいため、そのゲル状の高粘度反応物がインクと処理液の中で流動することによって生じるものと考えられる。
このような現象に起因した、図1(d)に示すインクドットにおけるインクの流れ出しは、画像のエッジ部において、その輪郭を不鮮明にする、いわゆる「あふれ」として現われ、プリント品位を劣化させることになる。また、上述した反応物の流動化は、プリント動作において、搬送されるプリント媒体と処理液用プリントヘッドとの間に生じる相対的な速度によって、その速度の方向に反応物が「はき寄せ」られることをも生じさせ得るものである。これによっても、同様にプリント画像のエッジ部が不鮮明になることもあると推察される。
以上説明した染料に関する第2の問題は、プリントにおいて処理液を用いず染料インクのみを用いる構成にあっては生じることはなく、従って、染料インクとこれを不溶化する処理液を用いてプリントを行う構成において、独自の技術課題である。
次に、色剤として顔料を含むインクと処理液とを用いてプリントを行う場合にあっても、処理液と反応することに起因した独自の問題が生じることを説明する。
顔料インクは、それ自体プリントに用いられたとき比較的高いOD値を示すものであり、処理液と反応することによっても処理液の前述した作用によりOD値をさらに向上させることができる。また、顔料は、上述した染料と比較して、処理液との反応速度は大きいものでもある。
しかし、顔料を用いる場合の第1の問題として、「ひび割れ」の問題が本願発明者によって見出されている。すなわち、特にOHP用などのフィルム系のプリント媒体上において顔料インクと処理液とが反応すると、上述したように顔料は反応速度が速いためプリント媒体に浸透する前にその表面上で多くが凝集し、しかもその特性上強く凝集する。このため、インク溶媒などがプリント媒体中に浸透して定着した後には、上述の凝集した反応物は、その凝集力によって比較的大きな個々の塊となり、これら個々の塊の間に反応物によって満たされない部分を生じさせる。この現象は肉眼で観察したとき、「ひび割れ」として認識され、プリント画像の品位を劣化させるものとなる。また、上述の反応物が満たされない部分は、プリント媒体の地の部分が現われることになり、プリント画像全体のOD値低下をもたらすこともある。
ところで、顔料インクには、樹脂,界面活性剤などの分散剤を用いるインク(以下、分散剤有り顔料インクともいう)と、分散剤を含まない自己分散型顔料を用いたインク(以下、分散剤無し顔料インクともいう)とがある。顔料インクに関する第2の問題は、後者の分散剤無し顔料インクと処理液を用いた場合に生じる問題である。
本願発明者によれば、分散剤無し顔料インクと処理液を用いてプリント媒体上に形成されたドットには、「しみ出し」もしくは「もや」と呼ばれる現象が現われることが観察されている。図2は、この現象を推定的に説明する図である。
分散剤無し顔料インクIpが特に普通紙などのプリント媒体Pに付与された後(図2(a)参照)、重ねて処理液Sが付与されると、まずそれらの境界から反応物の生成が始まる(図2(b)参照)。そして、この反応が進行するとともに、同図(c)に示すように反応物によるほぼ円状のドットから放射状の「しみ出し」を生じ、ドット全体ではその周囲に「もや」がかかったような状態となる。このような「しみ出し」もしくは「もや」は、外見上、周知のフェザリングと同様にみえ、従って、プリント品位を劣下させるものである。
上述した「しみ出し」もしくは「もや」は、化学的あるいはミクロ的には次のような現象であると推察している。分散剤無し顔料インクは、その処理液との反応において反応速度が比較的大きく、このため分散していた顔料は、瞬時に分散破壊を生じ、反応物のクラスターを生成するが、これとともに粒子状の反応物をも生じさせる。そして、この粒子状の反応物は処理液のプリント媒体への浸透に伴って流れ出すため、その結果として上述の「しみ出し」が現われるものと考えられる。
以上の通り、染料インクと処理液を用いてプリントを行う場合および顔料インクと処理液を用いてプリントを行う場合のいずれにおいても、それぞれプリント品位を向上させる上で解決すべき課題があることを本願発明者は新たに認識した。
以上の各問題に関連して、本願人は染料インクと分散剤を含む顔料インクとを混合したインクと処理液を用いることを特許文献1にて提案しているが、本発明とは異なるものである。
本発明の目的は、特に高品位のプリントを行うことができるインクジェットプリント装置およびプリント方法を提供することにある。これにより、染料インクまたは顔料インクそれぞれと処理液とを用いてプリントを行う場合に生ずるそれぞれの技術課題を解消もしくは緩和することができる。
本発明の他の目的は、インクと処理液を用いてプリントを行う場合のプリント速度の高速化を図ることができるインクジェットプリント装置およびプリント方法を提供することにある。
本発明の第1の形態は、第1のインクを付与するための第1インク付与手段と、前記第1のインクと同じ色相の第2のインクを付与するための第2インク付与手段と、これら第1および第2のインクと反応する処理液を付与するための処理液付与手段とを用い、これら第1および第2インク付与手段ならびに処理液付与手段から前記第1および第2のインクならびに前記処理液をプリント媒体に付与してプリントを行うインクジェットプリント装置であって、前記第1のインクと、前記第2のインクと、前記処理液とが前記プリント媒体上で混合するように、前記第1のインクと、前記第2のインクと、前記処理液とをこの順序で前記プリント媒体に付与する手段を具え、前記第1および第2のインクのうちの一方が自己分散型顔料を含む顔料インクであり、他方が染料を含む染料インクであることを特徴とする。
本発明の第2の形態は、第1のインクを付与するための第1インク付与手段と、第2のインクを付与するための第1インク付与手段と、これら第1および第2のインクと反応する処理液を付与するための処理液付与手段とを用い、これら第1および第2インク付与手段ならびに処理液付与手段から前記第1および第2のインクならびに前記処理液をプリント媒体に付与してプリントを行うインクジェットプリント装置であって、前記第1のインクと、前記処理液と、前記第2のインクとが前記プリント媒体上で混合するように、前記第1のインクと、前記処理液と、前記第2のインクとをこの順序で前記プリント媒体に付与する手段を具え、前記第1および第2のインクのうちの一方が自己分散型顔料を含む顔料インクであり、他方が染料を含む染料インクであることを特徴とする。
本発明においては、プリント媒体上で混合インクと処理液が混合されるので、顔料インクと処理液のみを用いてプリントする場合に生じる「ひび割れ」や「しみ出し」などが同時に混合する染料の存在によってその発生が緩和される。逆に、染料と処理液のみを用いてプリントする場合に生じるOD値の低下や「あふれ」の問題は、同時に混合する顔料の存在によって補われ、またはその発生が緩和される。
本発明の第1または第2の形態によるインクジェットプリント装置において、自己分散型顔料インクにおける顔料は、少なくとも1種のアニオン性基が直接または他の原子団を介して当該顔料表面に結合されているものであってよい。この場合、アニオン性基は、下記に示すアニオン性基の中から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
−COOM,−SO3M,−PO3HM,−PO3M2,−SO2NH2,−SO2NHCOR
ここで、Mは水素原子か、アルカリ金属か、アンモニウムか、あるいは有機アンモニオウムを表す。また、Rは炭素数が1から12のアルキル基か、置換基を有してもよいフェニル基か、あるいは置換基を有してもよいナフチル基を表す。
また、上述した原子団は、炭素数が1から12のアルキル基か、置換基を有してもよいフェニル基か、あるいは置換基を有してもよいナフチル基であることが好ましい。
顔料の粒子の80%以上が0.05から0.3μmの粒径であるか、あるいは0.1から0.25μmの粒径であることが好ましい。
顔料インクは、顔料を分散させる分散剤を含むものであってよい。
処理液は、その浸透速度が、ブリストウ法によるKa値で5.0(ml/m2・msec1/2)以上であることが好ましい。
染料インクおよび顔料インクの少なくとも一方は、その浸透速度がブリストウ法によるKaの値で1.0(ml/m2・msec1/2)未満であることが好ましい。
顔料インクおよび染料インクは、ブラックインクであってよいが、顔料ブラックインクおよび染料ブラックインクの他に、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクを付与可能である。
本発明の第3の形態は、第1のインクと、この第1のインクと同じ色相の第2のインクと、これら第1および第2のインクと反応する処理液とをプリント媒体に付与してプリントを行うプリント方法であって、前記第1のインクを前記プリント媒体に付与するステップと、前記第1のインクが付与されたプリント媒体の領域に前記第2のインクを付与するステップと、前記第2のインクが付与されたプリント媒体の領域に前記処理液を付与するステップとを有し、前記第1および第2のインクのうちの一方が自己分散型顔料を含む顔料インクであり、他方が染料を含む染料インクであることを特徴とする。
本発明の第4の形態は、第1のインクと、この第1のインクと同じ色相の第2のインクと、これら第1および第2のインクと反応する処理液とをプリント媒体に付与してプリントを行うプリント方法であって、前記第1のインクを前記プリント媒体に付与するステップと、前記第1のインクが付与されたプリント媒体の領域に前記処理液を付与するステップと、前記処理液が付与されたプリント媒体の領域に前記第2のインクを付与するステップとを有し、前記第1および第2のインクのうちの一方が自己分散型顔料を含む顔料インクであり、他方が染料を含む染料インクであることを特徴とする。
図3は、染料と自己分散型顔料とを色剤として用いたインク(以下、混合インクともいう)をプリント媒体に付与し、これに処理液を付与することにより反応物のドット形成を説明する図である。同図(a)に示されるように、まず混合インクImをプリント媒体Pに付与し、次に同図(b)に示すように混合インクImに重ねて処理液Sを付与する。これにより、上記混合インクImと処理液Sとの反応により生成された反応物が、同図(c)に示すように、プリント媒体Pの表面およびその内部で定着し、ドットを形成する。
これによると、第1に、染料と自己分散型顔料とを含んだインクをプリントに用いるので、染料インクによって実現されるOD値の低さを顔料によって補い、これによりOD値を高めることができる。さらに処理液と混合されたインクの反応物はプリント媒体の上層部にその多くが留まることができるためさらにOD値を増すことが可能となる。
また、混合インクとして、浸透速度の遅いものを用いれば、次に処理液が付与されるまでの時間が長く浸透する時間があっても、プリント媒体表層部に留まる色剤の量を多くでき、さらにOD値を増すことができる。換言すれば、後述される、染料と自己分散型顔料との双方を混合したインクを用いることの効果によって、浸透速度が遅いインクを用いても前述のような染料インクおよび顔料インクを単独で用いる場合の問題が解消されるか、もしくは緩和されることとなる。このため、より浸透速度の遅い混合インクを用いることができ、これにより、さらにOD値の増加を望むことができる。さらに、浸透速度の遅いインクを用いること自体の効果として、いわゆるフェザリングを抑制することもできる。
次に、プリント媒体に混合インクを付与し、その後、これに対し処理液を付与する場合の最大の効果として、染料インクに関して生じる「あふれ」もしくは「はき寄せ」の問題を解消もしくは緩和できる点を挙げることができる。これと同時に、分散剤無し顔料インクに関して生じる「しみ出し」もしくは「もや」の問題も解消もしくは緩和できる。
本願発明者によれば、このような効果を生ずる原理は次のように推察されている。すなわち、プリント媒体において混合インクが付与された後、処理液が付与されると、染料は処理液と反応してゲル状の高粘度物質となる。一方、自己分散型顔料は、処理液との反応によって分散破壊を生じるが、これによって生じる顔料の細かい粒子は上記染料反応物の高粘度物質に取り込まれることとなる。この結果、浸透に伴って顔料粒子が流れ出す「しみ出し」または「もや」を抑制することができると考えられる。また、この顔料粒子を取り込んだ高粘度物質は前述した染料単独と処理液との反応物程の流動性はなく、従って、「あふれ」または「はき寄せ」の発生も同時に抑制されると考えられる。また、染料と自己分散型顔料とが混合したものに処理液が付与される構成にあっては、上述のように分散破壊によって生じた顔料の細かい粒子はゲル状の染料反応物によって取り込まれる。この結果、顔料の細かな粒子がプリント媒体に深く浸透せずに表層部でプリント媒体の繊維の間を埋める。そして、さらにゲル状の染料反応物は上記取り込まれた粒子間やプリント媒体表面の繊維による凹凸を埋め、これにより、光の乱反射なども防ぎ、顔料と処理液を用いたときよりもさらにOD値を増すことができる。
このように、図3(c)に模式的に示すように「もや」や「あふれ」などのプリント品位劣下の要因となる現象の発生を抑制できるとともに、上述の第1の効果として示したようにOD値の増大の効果も併せて得ることができる。
また、「もや」や「あふれ」の現象は、前述したように、顔料インクや染料インクがプリント媒体に浸透する前に処理液と反応することによって生じ易い。このため、これらの現象の発生を抑制するには染料インクなどの浸透を待って処理液を付与する必要があり、プリント速度の高速化を図れないという問題があった。しかし、本発明の場合、染料と自己分散型顔料とが混合したインク自体によって「もや」などの発生が抑制されるため、染料インクなどがプリント媒体に浸透するまで処理液を付与する時間を長くするなどの必要がない。従って、プリント速度の高速化に支障をきたすこともない。換言すれば、本発明の混合インクに比較的浸透性に劣るものを用い顔料などの色剤がプリント媒体の表層部にできるだけ留まるようにし、これによってOD値をさらに増すことも可能となる。
これに加え、フルマルチタイプのヘッドを用いたインクジェットプリント装置においては、上記高速化に関して、混合インクを付与してから処理液を付与するまでの時間を短くできる。このため、最初の一枚のプリント媒体のプリントを行ういわゆるファーストプリントの速度を増すことができ、また、上記時間を短くできることによりヘッド間隔をも短くでき、装置の小型化および低コスト化が可能となる。
本発明における混合インクおよび処理液のプリント媒体への付与順序は、基本的には、上述したようにプリント媒体に混合インクを付与した後処理液が付与されるような順序であれば、上述した所定の効果は得ることはできる。
この付与順序を定める具体的な構成に関し、例えばシリアルタイプのヘッドを用いる場合にあっては、紙送りを挟んだ同一領域に対する複数回の走査によって上述の順序がそれぞれ実現される場合も、本発明の範囲に含まれるものである。
以上のように、混合インクは処理液に先行して付与されるが、この混合インクの付与する数は上述してきたように1滴に限定する必要はない。
例えば、混合インクを処理液に先行して2滴付与するものとしてもよい。この場合、好ましくは、これら2滴のうち、先行して付与される混合インクは自己分散型顔料よりも染料の割合を多く、その後付与される混合インクは、逆に、自己分散型顔料の方の割合を多くする。これにより、その後付与される処理液と反応したとき、まず顔料が多く処理液と反応し、その分染料と処理液との反応物の流れ出しをさらに抑制できる。同様の効果を得ることができる例として、処理液に先行して付与する混合インクの数を例えば3滴とし、このうち後に付与される混合インク程、自己分散型顔料の割合を多くするものも好ましいものである。
以上のように混合インクを複数滴付与する場合には、その付与されるインクの総量は、1滴を付与する場合にほぼ等しくする。換言すれば、本発明によれば、複数に分割して混合インクを付与する場合、それぞれの滴の量が分割数に応じて少なくなっても、上述した所定の効果を得ることができる。
次に、混合インクと処理液とが付与される時間差は、上述した付与順序と同様、基本的に上述した各効果が現われる限り、どのような時間差であっても本発明の範囲内に含まれる。
すなわち、混合インクが付与されてから処理液が付与されるまでの時間によって、混合インクと処理液との反応は種々の態様で生じる。例えば上記時間が短い場合でも、それらが重ねられて形成されるドットの周囲部、すなわちエッジ部では、顔料などと処理液の十分な混合を生じ、上述した各効果、特に「もや」や「あふれ」を抑制する効果は少なくとも生じ得ることも観察されている。
このような点から、本明細書では混合インクと処理液との「混合」とは全体的な混合のみならずエッジ部など一部において混合することも意味するものとする。さらに、プリント媒体中に浸透してから混合する場合も含むものとする。また、これらの全ての混合の態様を「液状で混合する」と定義する。
インクの色相(種類)、濃度およびそれらの数は、上述した付与順序に従う限り任意に組合せることができる。例えばインクの種類としては、ブラック(Bk),イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C)を一般に用いることができ、また、それら各色について、濃,淡各インクを用いることができる。さらに具体的には、例えばイエローインク、マゼンタインクおよびシアンインクの少なくとも1つを混合インクとし、これに処理液を用い、この順序で付与する構成であってもよい。
本発明を適用可能なこのような組合せの中で、最も好ましい形態は、混合インクをブラックインクとしたものである。この形態によれば、OD値増大、「もや」、「あふれ」の抑制などに関する各効果が、文字などのキャラクタのプリント品位に対し最も有効に寄与できるからである。
また、これらの混合インクなどをプリント媒体に付与する方法は、塗布、インクなどを直接プリント媒体に接触させて付与する方法など、種々のものが考えられる。いずれの付与方法も本発明の範囲内のものであるが、最も好ましい形態はプリントヘッドを用いたインクジェット方式のものである。そして、この場合、吐出部としてのプリントヘッドの組合せおよびその配列は、上述した付与順序および処理液を含めたインクの種類の組合せに従って定めることができる。
具体的には、プリントヘッドがプリント媒体に対して相対的に移動する方向に、混合インクおよび処理液のヘッドを配列する構成によって上記付与順序などが可能となる。
さらに、このような構成のより具体的構成として、本発明に係る上述のインクおよび処理液の付与を可能とする次のものを提示することができる。すなわち、搬送されるプリント媒体におけるプリント領域の全幅に対応した範囲でインク吐出口を配列した、いわゆるフルマルチタイプのプリントヘッドや、プリント媒体に対して走査のための移動を行うシリアルタイプのプリントヘッドを採用可能である。
また、これらのプリントヘッドのインク吐出方式としては、ピエゾ方式など、周知のいずれの方式のものも採用できる。しかしながら、最も好ましい形態は、熱エネルギーを利用してインクまたは処理液中に気泡を生じさせ、この気泡の圧力によってインクまたは処理液を吐出する方式のものである。
さらに、各プリントヘッドによって、混合インクおよび処理液が吐出されて重なる範囲は、通常、プリント画像などを構成する画素単位で制御されるため、上記インクなどは同一位置に吐出されて重ねられる。しかし、本発明の適用は、このような構成には限られない。例えば、混合インクのドットの一部と処理液が重なり、所定の効果が生ずる構成や、各画素のデータに対して処理液を間引いて付与し、隣接画素から滲みなどによって流入する処理液と顔料などが反応する構成も本発明の範囲に含まれる。
ところで、高速定着は、プリント速度の高速化、すなわち、スループットの向上のための主要な構成である。プリントヘッドの駆動周波数やプリント媒体の搬送速度を増すことにより、直接的にはスループットの向上は可能である。しかし、プリントが完了し排紙されたプリント媒体上のインクなどが未定着の場合は、その後の取扱いが不便であり、また、排紙したプリント媒体を積層する構成にあっては、未定着のインクによって他のプリント媒体を汚すおそれもある。
すなわち、このプリント速度の高速化に寄与する種々の要因の中で、直接的に想起されるものは、上述のように、プリントが完了したプリント媒体が排紙される速度であり、これはプリント媒体の搬送速度もしくはプリントヘッドの走査速度に依っている。すなわち、いわゆるフルマルチタイプのプリントヘッドを用いる装置にあっては、プリント動作におけるプリント媒体の搬送速度がそのまま排紙速度を意味する。また、シリアルタイプのプリントヘッドを用いる装置にあっては、走査速度が結果としてプリントが完了したプリント媒体の排紙速度に結びつくことになる。そして、上記プリント媒体の搬送速度などは、プリントの解像度、すなわちドット密度を媒介として画素に対するインク吐出周期と相関するものである。すなわち、複数のプリントヘッドから吐出されるインクによって1つの画素のプリントを行う構成にあっては、上記解像度を固定して考えるとき、その画素に対する吐出周期と上記搬送速度などとが相関する。
一方、前述の染料インクおよび顔料インクと処理液との反応に関するそれぞれの技術課題を考慮するとき、インクを吐出してから処理液を吐出するまでの時間はできるだけ長くとることが望しい。何故なら、染料インクまたは顔料インクがプリント媒体中に浸透してから処理液と反応する場合には、前述したそれぞれの現象が生じ難くなるからである。換言すれば、染料インクおよび顔料インクそれぞれと処理液とを用いてプリントを行う場合の前述の課題は、プリント速度の高速化をも阻害しているといえる。特に、OD値向上を図るため浸透速度の小さな染料インクまたは顔料インクを用いる場合には、この高速化を損うという問題は特に顕著なものとなる。
従って、混合インクがプリント媒体に付与された後に、浸透速度の速い処理液を付与することにより、上述した各作用を生じさせるとともに、比較的浸透速度の遅い混合インクであってもこれらを伴って浸透速度を速めるものである。すなわち、混合インクおよび処理液のプリント媒体に対する浸透速度をそれぞれv1,v2とするとき、v1<v2を満たす。図4にこの場合の現象を推定的に示す。
図4は、混合インクIm,処理液Sの順序で、プリント媒体Pに付与された場合を示している。この場合、処理液Sとその境界で接する混合インクImとの間で反応物が生じ始めるが、処理液Sと混合インクとが混合したものの浸透速度は、混合インク単独の場合より速くなる。このように、全体として、混合インクが単独の場合の浸透速度よりもその速度を高めることによって、高速定着を可能とする。
このように、大きな浸透速度を有する処理液を用いることにより、特に、OD値向上などのため混合インクとして浸透速度の小さなものを採用した場合でも、比較的速い定着が可能となる。
混合インクを付与した後、処理液を付与し、さらに混合インクを付与した場合、上述した各効果のうち、特に、OD値の向上、「あふれ」、「もや」あるいはフェザリングの抑制において特に顕著となる。また、混合インクと混合インクの間で付与する処理液を高浸透性のものとすれば、比較的良好な定着性を得ることもできる。
上述した作用や効果は、最初に付与される混合インクと処理液との反応において、混合インクの量が相対的に少ないため、それらの反応による流動化が少なくなることによるものと考えられる。また、処理液の後に混合インクが付与されたときは、上記最初の処理液と混合インクとの反応により増粘がある程度進行し、また、インクなどの浸透も進んでいるため、流動化が少なくなることによるものと考えられる。
なお、処理液の後に付与されるインクは好ましくは上述のように混合インクであるが、自己分散型顔料のインクまたは染料インクであってもよい。
本発明によると、プリント媒体上で顔料インク、染料インクおよび処理液が混合されるので、顔料インクと処理液のみを用いてプリントする場合に生じる「ひび割れ」や「しみ出し」などが同時に混合する染料インクの存在によってその発生が緩和される。逆に、染料と処理液のみを用いてプリントする場合に生じるOD値の低下や「あふれ」の問題は、同時に混合する顔料の存在によって補われ、またはその発生が緩和される。
本発明において、処理液は、その浸透速度が、ブリストウ法によるKa値で5.0(ml/m2・msec1/2)以上であることが有効である。このように、染料インク、顔料インクおよび処理液を混合してプリントする場合の上述の作用に加え、処理液に比較的高い浸透性のものを用いるので、顔料インクなどと処理液との反応物も高い浸透性を示し、全体として浸透速度を速めることが可能となる。
図5は、染料インクと顔料インクをプリント媒体上で混合し、これに処理液を付与することにより反応物のドット形成を説明する図である。同図(a)に示されるように、まず染料インクIdをプリント媒体Pに付与し、次に同図(b)に示すように染料インクIdに重ねて顔料インクIpを付与する。さらに、同図(c)に示されるようにこれら染料インクIdと顔料インクIpとが混合した液に対し、処理液Sを付与する。これにより、上記インクの混合液と処理液Sとの反応により生成された反応物が、同図(d)に示すように、プリント媒体Pの表面およびその内部で定着し、ドットを形成する。
これによると、第1に、染料インクと顔料インクをプリント媒体上で混合しこの混合されたインクをプリントに用いるので、染料インクによって実現されるOD値の低さを顔料によって補い、これによりOD値を高めることができる。さらに処理液と混合されたインクの反応物はプリント媒体の上層部にその多くが留まることができるためさらにOD値を増すことが可能となる。
また、染料インクおよび顔料インクとして、浸透速度の遅いものを用いれば、次に処理液が付与されるまでの時間が長く浸透する時間があっても、プリント媒体表層部に留まる色剤の量を多くできさらにOD値を増すことができる。換言すれば、後述される、染料インクと顔料インクの双方を用いることの効果によって、浸透速度が遅いインクを用いても前述のような染料インクおよび顔料インクを単独で用いる場合の問題が解消されるかもしくは緩和される。このため、より浸透速度の遅い染料インクおよび顔料インクを用いることができ、これにより、さらにOD値の増加を望むことができる。さらに、浸透速度の遅いインクを用いること自体の効果として、いわゆるフェザリングを抑制することもできる。
第2に、以上のOD値向上の効果に加え、染料インクと顔料インクをプリント媒体上で混合してプリントを行うことの効果として、前述の「ひび割れ」の問題を解消するかもしくは緩和することが可能となる。
すなわち、普通紙などのプリント媒体を用いる場合において、染料インクと顔料インクがプリント媒体上で混合し、その後に処理液が付与されると、上述したように、顔料は処理液と反応して凝集し反応物の塊を生成する。このように生成される複数の塊相互の隙間には、同様に処理液と反応した染料の反応物がその流動によって入り込み上記隙間を埋めることができる。これにより、上述したいわゆる「ひび割れ」の発生を防止もしくは抑制することが可能となる。
次に、プリント媒体上で染料インクと顔料インクを混合し、これに対し処理液を付与することによる第3の効果として、染料インクに関して生じる「あふれ」もしくは「はき寄せ」の問題を解消もしくは緩和できる点を挙げることができる。これと同時に、特に分散剤無し顔料インクに関して生じる「しみ出し」もしくは「もや」の問題も解消もしくは緩和できる。
本願発明者によれば、このような効果を生ずる原理は次のように推察されている。すなわち、プリント媒体において染料インクと分散剤無し顔料インクが混合したものに処理液が付与されると、染料は処理液と反応してゲル状の高粘度物質となる。一方、分散剤無し顔料インクの顔料は、処理液との反応によって分散破壊を生ずる。これによって生ずる顔料の細かい粒子は上記染料反応物の高粘度物質に取り込まれるため、浸透に伴って顔料粒子が流れ出す「しみ出し」または「もや」を抑制することができると考えられる。また、この顔料粒子を取り込んだ高粘度物質は前述した染料単独と処理液との反応物程の流動性はなく、従って、「あふれ」または「はき寄せ」の発生も同時に抑制されると考えられる。また、染料インクと分散剤無し顔料インクが混合したものに処理液が付与される構成にあっては、上述のように分散破壊によって生じた顔料の細かい粒子はゲル状の染料反応物によって取り込まれる。このため、顔料の細かな粒子がプリント媒体に深く浸透せず、表層部でプリント媒体の繊維の間を埋めることとなる。そして、さらにゲル状の染料反応物は上記取り込まれた粒子間やプリント媒体表面の繊維による凹凸を埋め、これにより、光の乱反射なども防ぎ、顔料と処理液を用いたときよりもさらにOD値を増すことができる。
このように、図5(d)に模式的に示すように「もや」や「あふれ」などのプリント品位劣下の要因となる現象の発生を抑制できるとともに、上述の第1および第2の効果として示したようにOD値の増大および「ひび割れ」防止の効果も併せて得ることができる。
また、「もや」や「あふれ」の現象は、前述したように、顔料インクや染料インクがプリント媒体に浸透する前に処理液と反応することによって生じ易い。このため、これらの現象の発生を抑制するには染料インクなどの浸透を待って処理液を付与する必要があり、プリント速度の高速化を図れないという問題があった。しかしながら、上述したように染料インクと顔料インクとの混合系としたことにより、「もや」などの発生が抑制されるため、染料インクなどがプリント媒体に浸透するまで処理液を付与する時間を長くするなどの必要がなくなる。従って、プリント速度の高速化に支障をきたすことはない。換言すれば、染料インクや顔料インクに比較的浸透性に劣るものを用いこれらの色剤がプリント媒体の表層部にできるだけ留まるようにし、これによってOD値をさらに増すことも可能となる。
これに加え、フルマルチタイプのヘッドを用いたインクジェットプリント装置においては、上記高速化に関して顔料インクや染料インクを付与してから処理液を付与するまでの時間を短くすることができる。この結果、最初の一枚のプリント媒体のプリントを行ういわゆるファーストプリントの速度を増すことができ、また、上記時間を短くできることによりヘッド間隔をも短くでき、装置の小型化および低コスト化が可能となる。
染料インク、顔料インクおよび処理液のプリント媒体への付与順序は、基本的には、プリント媒体上で染料インクと顔料インクが混合しその後処理液が付与されるような順序であれば、上述した所定の効果は得ることはできる。
本願発明者の検討によれば、以上の付与順序のうち、顔料インク、染料インク、処理液の順序、または、染料インク、顔料インク、処理液の順序が好ましいものであることが解っている。これは、上述の如き混合によるそれぞれの効果は、染料インクと顔料インクがある程度混合し、その後処理液と反応させた場合が最も顕著となるからである。
また、上記2通りの順序のうち、顔料インク、染料インク、処理液の順序で付与する場合にあっては、上述した効果に加え、いわゆる裏抜けが少ないという効果を得ることができる。すなわち、プリント媒体に対する染料などの色剤の浸透が深い程、プリント媒体の裏側からもこの色剤によるドットが顕著に観察できる、いわゆる裏抜けが発生するが、上記付与順序の場合は、この裏抜けがほとんど観察されない。これは先に浸透する顔料は、その処理液との反応物である粒子が比較的大きなものであるためプリント媒体の繊維などにつまりそれ以上の進行が不可能となるからであると推察されている。
一方、染料インク、顔料インク、処理液を付与する順序にあっては、染料インクと処理液を用いる場合に生じていた前述の「あふれ」などがより発生し難いことが観察されている。
次に、顔料インク、染料インクおよび処理液が付与される時間差は、上述した付与順序と同様、基本的に上述した各効果が現われる限り、どのような時間差であっても本発明の範囲内に含まれる。
例えば、顔料インクと染料インクの時間差についてはゼロ、すなわち、プリント媒体に対して顔料インクと染料インクが同時に付与されてもよい。また、この顔料インクなどが付与されてから処理液が付与されるまでの時間は、上述した各効果を得るため、顔料インクと染料インクが混合するための時間を含むことが望しい。しかし、この時間より短い時間であっても、顔料インクなどが重ねられて形成されるドットの周囲部、すなわちエッジ部では、顔料などの十分な混合を生じて各効果、特に「もや」や「あふれ」を抑制する効果が少なくとも生じ得ることも観察されている。
本発明において付与されるインクの色相(種類)、濃度およびそれらの数は、上述した付与順序に従う限り任意に組合せることができる。例えばインクの種類としては、ブラック(Bk),イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C)を一般に用いることができ、また、それら各色について、濃,淡各インクを用いることができる。さらに具体的には、例えば染料のイエローインク、顔料のマゼンタインク、顔料のシアンインクおよび処理液を用い、この順序で付与する構成であってもよい。
本発明を適用可能なこのような組合せの中で、最も好ましい形態は、顔料インクおよび染料インクをブラックインクとしたものである。この形態によれば、OD値増大、「もや」、「あふれ」の抑制などの各効果が、文字などのキャラクタのプリント品位に対し最も有効に寄与できるからである。
なお、以上の説明では顔料インクおよび染料インクは、それぞれ各々の色剤成分として顔料のみまたは染料のみを含むものとして説明した。しかしながら、上述してきた種々の効果は、このようなインクのみならず、顔料インクについて染料が一部含まれているインク、また、染料インクについて顔料が一部含まれているインクを用いた場合にも得ることは可能であり、以下の説明でも同様である。この点から、本明細書では、色剤として、顔料のみ、またはこれに一部染料を含むインクを「主として顔料を有する顔料インク」と定義し、染料のみ、またはこれに一部顔料を含むインクを「主として染料を有する染料インク」と定義する。
また、これらの顔料インクなどをプリント媒体に付与する方法は、塗布、インクなどを直接プリント媒体に接触させて付与する方法など、種々のものが考えられ、いずれの付与方法も本発明の範囲内のものである。しかしながら、最も好ましい形態はプリントヘッドを用いたインクジェット方式のものである。そして、この場合、吐出部としてのプリントヘッドの組合せおよびその配列は、上述した付与順序および処理液を含めたインクの種類の組合せに従って定めることができる。
具体的には、プリントヘッドがプリント媒体に対して相対的に移動する方向に、顔料インク、染料インクおよび処理液のヘッドを配列する構成によって上記付与順序などが可能となる。
さらに、各プリントヘッドによって、顔料インク、染料インクおよび処理液が吐出されて重なる範囲は、通常、プリント画像などを構成する画素単位で制御されるため、上記インクなどは同一位置に吐出されて重ねられる。しかし、本発明の適用は、このような構成には限られない。例えば、顔料インクと染料インクが重ねられたドットの一部と処理液が重なり、所定の効果が生ずる構成や、各画素のデータに対して処理液を間引いて付与し、隣接画素から滲みなどによって流入する処理液と顔料などが反応する構成も本発明の範囲に含まれる。
染料インクおよび顔料インクがプリント媒体に付与された後に、浸透速度の速い処理液を付与することにより、上述した各作用を生じさせるとともに、比較的浸透速度の遅い染料インクおよび顔料インクであってもこれらを伴って浸透速度を速めるものである。すなわち、顔料インク、染料インクおよび処理液のプリント媒体に対する浸透速度をそれぞれv1,v2およびv3とするとき、v1<v3かつv2<v3を満たす。図6にこの場合の現象を推定的に示す。
図6は、顔料インクIp,染料インクId,処理液Sの順序で、プリント媒体Pに付与された場合を示しており、顔料インクIpと染料インクIdが充分に混合しない時点で処理液Sが付与された状態を示している。この場合、処理液Sとその境界で接する染料インクIdとの間で反応物が生ずるが、まずこの反応物は、処理液Sの浸透速度が大であることから染料インク単独の場合よりも速く浸透する。また、この染料と処理液との反応自体は比較的遅いため、この反応の間に処理液Sはさらに浸透し顔料インクIpとも反応を生じ、同様にその反応物の浸透速度を速める。このように、全体として、顔料インクおよび染料インクそれぞれが単独の場合の浸透速度よりもその速度を高めることによって、高速定着を可能とする。
この場合、大きな浸透速度を有する処理液を用いることにより、特に、OD値向上などのため顔料インクおよび染料インクとして浸透速度の小さなものを採用した場合でも、比較的速い定着が可能となる。
染料インクまたは顔料インクを付与した後、処理液を付与し、さらにそれぞれ顔料インクまたは染料インクを付与するように、処理液を染料インクと顔料インクの間で付与することも可能である。より具体的には、染料インク、処理液、顔料インクの順、あるいは顔料インク、処理液、染料インクの順で付与することができる。
この場合、顔料インクおよび染料インクの双方を付与してから処理液を付与する場合に比べ、さらにインクと処理液との反応による反応物の流動化が少なく、「あふれ」や「はき寄せ」を防止する上で有利となる。
本発明によれば、プリント媒体上で顔料インク、染料インクおよび処理液が混合されるので、顔料インクと処理液のみを用いてプリントする場合に生じる「ひび割れ」や「しみ出し」などが同時に混合する染料インクの存在によってその発生が緩和される。逆に、染料と処理液のみを用いてプリントする場合に生じるOD値の低下や「あふれ」の問題は、同時に混合する顔料の存在によって補われ、また発生が緩和される。
この結果、OD値が高く、また「ひび割れ」、「しみ出し」、「あふれ」などの無い高品位のプリントを行うことができる。
また、染料インク、顔料インクおよび処理液を混合してプリントする場合の上述の作用に加え、処理液に比較的高い浸透性のものを用いるので、顔料インクなどと処理液との反応物も高い浸透性を示し、全体として浸透速度を速めることが可能となる。
この結果、定着速度を増すことができ高速プリントを実現することが可能となる。
本発明によると、染料と自己分散型顔料とを色剤として用いたインクをプリント媒体に付与し、これに処理液を付与することにより反応物のドットを形成するようにした。この結果、第1に、染料と自己分散型顔料とを含んだインクをプリントに用いるので、染料インクによって実現されるOD値の低さを顔料によって補い、これによりOD値を高めることができる。さらに処理液と混合されたインクの反応物はプリント媒体の上層部にその多くが留まることができるためさらにOD値を増すことが可能となる。
また、混合インクとして、浸透速度の遅いものを用いれば、次に処理液が付与されるまでの時間が長く浸透する時間があっても、プリント媒体表層部に留まる色剤の量を多くでき、さらにOD値を増すことができる。換言すれば、後述される、染料と自己分散型顔料との双方を混合したインクを用いることの効果によって、浸透速度が遅いインクを用いても前述のような染料インクおよび顔料インクを単独で用いる場合の問題を解消または緩和することができる。このため、より浸透速度の遅い混合インクを用いることができ、これにより、さらにOD値の増加を望むことができる。さらに、浸透速度の遅いインクを用いること自体の効果として、いわゆるフェザリングを抑制することもできる。
次に、プリント媒体に混合インクを付与し、その後、これに対し処理液を付与した場合最大の効果として、染料インクに関して生じる「あふれ」もしくは「はき寄せ」の問題を解消または緩和できる点を挙げることができる。これと同時に、分散剤無し顔料インクに関して生じる「しみ出し」もしくは「もや」の問題も解消または緩和することができる。
混合インクを付与した後、処理液を付与し、さらに混合インクを付与した場合には、特にOD値の向上、「あふれ」、「もや」あるいはフェザリングの抑制において特に顕著となる。また、混合インクと混合インクの間で付与する処理液を高浸透性のものとすれば、比較的良好な定着性を得ることもできる。
処理液の浸透速度が、ブリストウ法によるKa値で5.0(ml/m2・msec1/2)以上にした場合には、処理液に比較的高い浸透性のものを用いるので、顔料インクなどと処理液との反応物も高い浸透性を示すこととなる。この結果、全体として浸透速度を速めることが可能となる。
染料インクと顔料インクをプリント媒体上で混合し、これに処理液を付与することにより反応物のドットを形成する場合、第1に、染料インクと顔料インクをプリント媒体上で混合し、この混合されたインクをプリントに用いることとなる。この結果、染料インクによって実現されるOD値の低さを顔料によって補い、これによりOD値を高めることができる。さらに処理液と混合されたインクの反応物はプリント媒体の上層部にその多くが留まることができるためさらにOD値を増すことが可能となる。
また、染料インクおよび顔料インクとして、浸透速度の遅いものを用いれば、次に処理液が付与されるまでの時間が長く浸透する時間があっても、プリント媒体表層部に留まる色剤の量を多くできさらにOD値を増すことができる。換言すれば、後述される、染料インクと顔料インクの双方を用いることの効果によって、浸透速度が遅いインクを用いても前述のような染料インクおよび顔料インクを単独で用いる場合の問題が解消されるかもしくは緩和される。このため、より浸透速度の遅い染料インクおよび顔料インクを用いることができ、これにより、さらにOD値の増加を望むことができる。さらに、浸透速度の遅いインクを用いること自体の効果として、いわゆるフェザリングを抑制することもできる。
第2に、以上のOD値向上の効果に加え、染料インクと顔料インクをプリント媒体上で混合してプリントを行うことの効果として、前述の「ひび割れ」の問題を解消するかもしくは緩和することが可能となる。
さらに、染料インクに関して生じる「あふれ」もしくは「はき寄せ」の問題と、特に分散剤無し顔料インクに関して生じる「しみ出し」もしくは「もや」の問題を同時に解消もしくは緩和できる。
特に、フルマルチタイプのヘッドを用いたインクジェットプリント装置においては、上記高速化に関して顔料インクや染料インクを付与してから処理液を付与するまでの時間を短くすることができる。この結果、最初の一枚のプリント媒体のプリントを行ういわゆるファーストプリントの速度を増すことができ、また、上記時間を短くできることによりヘッド間隔をも短くでき、装置の小型化および低コスト化が可能となる。
顔料インク、染料インク、処理液の順序で付与する場合、裏抜けが少ないという効果を得ることができる。
一方、染料インク、顔料インク、処理液を付与する順序にあっては、染料インクと処理液を用いる場合に生じていた前述の「あふれ」などがより発生し難い。
染料インクおよび顔料インクがプリント媒体に付与された後に、浸透速度の速い処理液を付与した場合には、特にOD値向上などのため顔料インクおよび染料インクとして浸透速度の小さなものを採用したとしても、比較的速い定着が可能となる。
染料インクまたは顔料インクを付与した後、処理液を付与し、さらにそれぞれ顔料インクまたは染料インクを付与するように、処理液を染料インクと顔料インクの間で付与した場合、プリント媒体上で顔料インク、染料インクおよび処理液が混合されることとなる。この結果、顔料インクと処理液のみを用いてプリントする場合に生じる「ひび割れ」や「しみ出し」などが同時に混合する染料インクの存在によってその発生が緩和される。逆に、染料と処理液のみを用いてプリントする場合に生じるOD値の低下や「あふれ」の問題は、同時に混合する顔料の存在によって補われ、また発生が緩和される。この結果、OD値が高く、また「ひび割れ」、「しみ出し」、「あふれ」などの無い高品位のプリントを行うことができる。
また、染料インク、顔料インクおよび処理液を混合してプリントする場合の上述の作用に加え、処理液に比較的高い浸透性のものを用いるので、顔料インクなどと処理液との反応物も高い浸透性を示し、全体として浸透速度を速めることが可能となる。この結果、定着速度を増すことができ高速プリントを実現することが可能となる。
本発明の実施形態について、図7〜図18を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこのような実施形態に限らず、これらをさらに組み合わせたり、同様な課題を内包する他の分野の技術にも応用することができる。
(実施形態1)
図7は第1実施形態に係るフルラインタイプのプリント装置の概略構成を示す側面図である。
このプリント装置1は、インクジェットプリント方式が採用され、後述する図8の制御回路に制御されて動作する。このインクジェットプリント方式は、プリント媒体としての記録媒体の搬送方向(同図中、矢印A方向)に沿って所定位置に配置された複数のフルラインタイプのプリントヘッド(吐出部)よりインクまたは処理液を吐出してプリントを行うものである。
ヘッド群101gの各プリントヘッド101Bk1,101Bk2,101S,101C,101Mおよび101Yのそれぞれは、図中A方向に搬送される記録紙の幅方向(図の紙面に垂直な方向)に配列する約7200個のインク吐出口を有する。そして、最大A3サイズの記録紙に対しプリントを行うことができる。
記録紙103は、搬送用モータにより駆動される一対のレジストローラ114の回転によってA方向に搬送され、一対のガイド板115により案内されてその先端のレジ合わせが行われた後、搬送ベルト111によって搬送される。エンドレスベルトである搬送ベルト111は2個のローラ112,113により保持されており、その上側部分の上下方向の偏位はプラテン104によって規制されている。ローラ113が回転駆動されることで、記録紙103が搬送される。なお、搬送ベルト111に対する記録紙113の吸着は静電吸着によって行われる。ローラ113は不図示のモータなどの駆動源により記録紙103を矢印A方向に搬送する方向に回転駆動される。搬送ベルト111上を搬送されこの間に記録ヘッド群101gによって記録が行われた記録紙103は、ストッカ116上へ排出される。
記録ヘッド群101gの各プリントヘッドは、2つのヘッド101Bk1,101Bk2と、処理液を吐出する処理液用ヘッド101S,カラーインク用各ヘッドが、記録紙103の搬送方向Aに沿って図示の通りに配置されている。2つのヘッド101Bk1,101Bk2は、上記実施形態で説明したブラックの混合インクを吐出する。カラーインク用各ヘッドは、シアンヘッド101C,マゼンタヘッド101M,イエローヘッド101Yを含む。そして、各プリントヘッドにより各色のインクと処理液を吐出することでブラックの文字やカラー画像のプリントが可能になる。
図8は、図7に示したフルラインタイプのプリント装置1の制御構成を示すブロック図である。
システムコントローラ201は、マイクロプロセッサをはじめ、本装置で実行される制御プログラムを格納するROM、マイクロプロセッサが処理を行う際にワークエリアとして使用されるRAMなどを有し、装置全体の制御を実行する。モータ204はドライバ202を介してその駆動が制御され、図7に示すローラ113を回転させ、記録紙の搬送を行う。
ホストコンピュータ206は、本実施形態のプリント装置1に対してプリントすべき情報を転送し、そのプリント動作を制御する。受信バッファ207は、ホストコンピュータ206からのデータを一時的に格納し、システムコントローラ201によってデータ読み込みが行われるまでデータを蓄積しておく。フレームメモリ208は、プリントすべきデータをイメージデータに展開するためのメモリであり、プリントに必要な分のメモリサイズを有している。本実施形態では、フレームメモリ208は記録紙1枚分を記憶可能なものとして説明するが、本発明はフレームメモリの容量によって限定されるものではない。
バッファ209S,209Pは、プリントすべきデータを一時的に記憶するものであり、プリントヘッドの吐出口数によりその記憶容量は変化する。プリント制御部210は、プリントヘッドの駆動をシステムコントローラ201からの指令により適切に制御するためのものであり、駆動周波数、プリントデータ数などを制御するとともに、さらには処理液を吐出させるためのデータも作成する。ドライバ211は、処理液を吐出させるためのプリントヘッド101Sと、それぞれのインクを吐出させるためのプリントヘッド101Bk1,101Bk2,101C,101M,101Yの吐出駆動を行うものである。このドライバ211は、プリント制御部210からの信号により制御される。
以上の構成において、ホストコンピュータ206からプリントデータが受信バッファ207に転送されて一時的に格納される。次に、格納されているプリントデータはシステムコントローラ201によって読み出されてバッファ209S,209Pに展開される。また、紙詰まり、インク切れ、用紙切れなどを異常センサ222からの各種検知信号により検知することができる。
プリント制御部210は、バッファ209S,209Pに展開された画像データを基にして処理液を吐出させるための処理液用データの作成を行う。そして、各バッファ209S,209P内のプリントデータおよび処理液用データに基づいて各プリントヘッドの吐出動作を制御する。
本実施形態では、ヘッド101Bk1および101Bk2から吐出されるブラックの混合インクについては、浸透速度の遅いインク(以下、本実施形態では上乗せ系インクという)を用いている。また、ヘッド101S,101C,101M,101Yからそれぞれ吐出される処理液およびシアン,マゼンタ,イエローの各インクは浸透速度の速いそれぞれ処理液およびインク(以下、本実施形態では高浸透性インクという)を用いる。
ここで、浸透速度について簡単に説明する。
インクの浸透性を、例えば1m2当たりのインク量Vで表すと、インク滴を吐出してからの時間tにおけるインク浸透量V(単位:ml/m2=μm)は、次に示すようなブリストウ式により表されることが知られている。
V=Vr+Ka(t−tw)1/2
ただしLt>tw
インク滴が記録紙表面に滴下した直後は、インク滴は表面の凹凸部分、すなわち記録紙の表面の粗さの部分において吸収されるのが殆どで、記録紙内部へは殆ど浸透していない。その間の時間がtw(ウェットタイム)、その間の凹凸部への吸収量がVrである。インク滴の滴下後の経過時間がtwを超えると、超えた時間(t−tw)の2分の1乗に比例した分だけ浸透量Vが増加する。Kaはこの増加分の比例係数であり、浸透速度に応じた値を示す。
図9は実験により求めたインク中の ethylene oxide-2,4,7,9-tetramethyl-5-decyne-4,7-diol の含有割合に対する比例係数Kaの値を示す図である。ethylene oxide-2,4,7,9-tetramethyl-5-decyne-4,7-diol (以下、アセチレノールという;商品名、川研ファインケミカル)は、インク中に含まれている。
Ka値は、ブリストウ法による液体の動的浸透性試験装置S(東洋精機製作所製)を用いて測定した。本実験では、本願人であるキヤノン株式会社の普通紙であるPB用紙(商品名)を記録紙として用いた。このPB用紙は、電子写真方式を用いた複写機やレーザービームプリンタ(LBP)と、インクジェット記録方式を用いたプリンタの双方に使用できる記録紙である。
また、キヤノン株式会社の電子写真用紙であるPPC用紙に対しても、同様の結果を得ることができた。
図9に示す曲線はアセチレノール含有割合(横軸)の増加にしたがってKa値(縦軸)が増加する曲線となっており、比例係数Kaはアセチレノールの含有割合によって決まる。このため、インクの浸透速度は実質的にアセチレノールの含有割合によって決まることになる。なお、曲線と交わる縦軸に平行な線分は、測定結果のばらつきの範囲を示している。
図10はインクの浸透量と経過時間との関係を示す特性図であり、64g/m2、厚さ約80μm、空隙率約50%の記録紙を用いて行った実験結果を示すものである。
図10(a)において、横軸は経過時間tの2分の1乗(msec1/2)であり、図10(b)において、横軸は経過時間t(msec)である。また、両図において縦軸は浸透量V(μm)であり、アセチレノール含有割合が0%、0.35%、1%の場合の曲線をそれぞれ示している。
両図から明らかなように、アセチレノールの含有割合が多いほど、経過時間に対するインクの浸透量が多く、浸透性が高いといえる。図10に示すグラフには、ウェットタイムtwはアセチレノールの含有量が多いほど短くなり、また、twに達しない時間においてもアセチレノールの含有割合が多いほど浸透性が高いという傾向が表れている。
また、アセチレノールが混合されていない、すなわち含有割合が0%のインクの場合は浸透性が低く、後に規定する上乗せ系インクとしての性質を持つ。また、アセチレノールが1%の含有割合で混合されている場合は短時間で記録紙103内部に浸透する性質を持ち、後に規定する高浸透性インクとしての性質を持つ。そして、アセチレノールが0.35%の含有割合で混合されているインクは、両者の中間の半浸透性インクとしての性質を持つ。
上述した上乗せ系インクおよび高浸透性インクと、これらの中間に位置する半浸透性インクそれぞれの特性を表1に示す。
上記の表1は、上乗せ系インク、半浸透性インク、高浸透性インクのそれぞれについて、ka値、アセチレノール含有量(%)、表面張力(dyne/cm)を示している。プリント媒体である記録紙に対する各インクの浸透性は、Ka値が大きいものほど高くなる。つまり、表面張力が小さいものほど高くなる。
表1におけるKa値は、前述のブリストウ法による液体の動的浸透性試験装置S(東洋精機製作所製)を用いて測定したものである。実験には、本願人であるキヤノン株式会社のPB用紙を記録紙として用いた。また、同キヤノン株式会社のPPC用紙に対しても、同様の結果を得ることができた。
ここで、界面活性剤をある液体に含有させる場合の条件として、その液体における界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)があることが知られている。この臨界ミセル濃度とは、界面活性剤の溶液の濃度が上昇して行き急激に数十分子が会合してミセルを形成するようになるときの濃度である。上述したインクに浸透性調製のため含有されるアセチレノールは界面活性剤の一種であり、このアセチレノールにおいても同様に液体に応じて臨界ミセル濃度が存在する。
アセチレノールの含有割合を調整した場合の表面張力との関係として、ミセルを形成するようになると表面張力が低下しなくなる関係を有しており、このことから、水に対するアセチレノールのCMCは約0.7%であることが確認されている。
同図が示す臨界ミセル濃度と前述の表1を対応させると、例えば表1に規定される高浸透性インクは、水におけるアセチレノールのCMCよりも多い割合でアセチレノールを含有するインクであることがわかる。
本実施形態で使用する処理液および各インクの組成は次の通りである。なお、各成分の割合は重量部で示したものである。
[処理液]
グリセリン 7部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 0.7部
(川研ファインケミカル製)
ポリアリルアミン 4部
(分子量:1500以下,平均値約1000)
酢酸 4部
塩化ベンザルコニウム 0.5部
トリエチレングリココールモノブチルエーテル 3部
水 残部
[イエロー(Y)インク]
C.I.ダイレクトイエロー86 3部
グリセリン 5部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 1部
(川研ファインケミカル製)
水 残部
[マゼンタ(M)インク]
C.I.アシッドレッド289 3部
グリセリン 5部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 1部
(川研ファインケミカル製)
水 残部
[シアン(C)インク]
C.I.ダイレクトブルー199 3部
グリセリン 5部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 1部
(川研ファインケミカル製)
水 残部
[ブラック(Bk)の混合インク]
顔料分散液 25部
フードブラック2 2部
グリセリン 6部
トリエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 0.1部
(川研ファインケミカル製)
水 残部
なお、このブラックの混合インクのKa値は0.33であった。また、上記顔料分散液は次のものである。
[顔料分散液]
水5.3gに濃塩酸5gを溶かした溶液に、5℃においてアントラニル酸1.58gを加えた。この溶液を、アイスバスで攪拌することにより常に10℃以下に保ち、5℃の水8.7gに亜硝酸ナトリウム1.78gを加えた溶液を加えた。さらに、15分攪拌した後、表面積が320m2/gでDBP吸油量が120ml/100gのカーボンブラック20gを混合した状態のまま加えた。その後、さらに15分攪拌した。得られたスラリーを東洋濾紙No.2(アドバンティス社製)で濾過し、顔料粒子を充分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させた後、この顔料に水をたして顔料濃度10重量%の顔料水溶液を作製した。以上の方法により、下記式で表したように、表面に、フェニル基を介して親水性基が結合したアニオン性に帯電した自己分散型カーボンブラックが分散した顔料分散液を得た。
以上の各組成からも明らかなように、アセチレノールの含有量により、ブラックのそれぞれ顔料および染料インクは上乗せ系インクに、処理液およびC,M,Yの各インクは高浸透性インクにそれぞれ設定されている。
また、ブラックの顔料インクについては、前述の実施形態で説明したように、分散剤を用いていない、いわゆる分散剤無し顔料インクを用いる。このインクでは、アニオン性のカーボンブラック分散体として、少なくとも一種の親水性基がカーボンブラックの表面に直接もしくは他の原子団を介して結合している自己分散型のカーボンブラック分散体が好適に使用される。また、この自己分散型カーボンブラックとしては、イオン性を有するものが好ましく、アニオン性に帯電したものが好適である。
アニオン性に帯電したカーボンブラックの場合、表面に結合されている親水性基が、例えば、−COOMか、−SO3Mか、−PO3HMか、−PO3M2か、−SO2NH2か、あるいは−SO2NHCORなどである場合が挙げられる。ただし、式中のMは水素原子か、アルカリ金属か、アンモニウムか、あるいは有機アンモニウムを表し、Rは炭素原子数1〜12のアルキル基か、置換基を有してもよいフェニル基か、あるいは置換基を有してもよいナフチル基を表す。本実施形態においては、これらの中で、特に、−COOMか、あるいは−SO3Mがカーボンブラック表面に結合してアニオン性に帯電しているものを用いることが好ましい。
また、上記親水性基中の「M」は、アルカリ金属としては、例えば、リチウムか、ナトリウムか、あるいはカリウムなどを挙げることができる。また、有機アンモニウムとしては、モノないしトリメチルアンモニウムか、モノないしトリエチルアンモニウムか、あるいはモノないしトリメタノールアンモニウムを挙げることができる。アニオン性に帯電したカーボンブラックを得る方法としては、カーボンブラック表面に−COONaを導入する方法として、例えば、カーボンブラックを次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法が挙げられるが、勿論、本発明はこれらに限定されるわけではない。
本実施形態においては、親水性基が他の原子団を介してカーボンブラックの表面に結合したものを用いることが好ましい。他の原子団としては、例えば、炭素原子数1〜12のアルキル基か、置換基を有してもよいフェニル基か、あるいは置換基を有してもよいナフチル基が挙げられる。他の原子団を介してカーボンブラックの表面に結合した親水性基の具体例としては、上記に挙げたものの他、例えば、−C2H4COOMか、−PhSO3Mか、あるいは−PhCOOMなど(ただし、Phはフェニル基を表す)を挙げることができる。勿論、本発明はこれらに限定されない。
上記したようなアニオン性基を直接もしくは他の原子団を介して表面に結合させたカーボンブラックは、例えば以下の方法によって製造することができる。
すなわち、カーボンブラック表面に−COONa基を導入する方法として、例えば、市販のカーボンブラックを次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法が挙げられる。また、例えばカーボンブラック表面に−Ar−COONa基(ただし、Arはアリール基を表す)を結合させる方法として、NH2−Ar−COONa基に亜硝酸を作用させたジアゾニウム塩とし、カーボンブラック表面に結合させる方法を挙げることができる。もちろん、本発明はこれに限定されるわけではない。
ところで、本実施形態に係るインクに含有させる自己分散型顔料は、その80%以上が0.05〜0.3μm、特に0.1〜0.25μmとすることが好ましい。このようなインクの調整方法は、上述した実施形態中に記載した通りである。
この分散剤無し顔料インクにおけるカーボンブラックは、それ自体、従来のカーボンブラックに比べ水分散性に優れるため顔料分散樹脂や界面活性剤などを添加しなくてもよい。このため、従来の顔料インクと比較して、固着性が良い、濡れ性が良い、などの利点を有し、プリントヘッドに用いる場合の信頼性に優れている。
以上示した本実施形態によるブラックの混合インクを用いることにより、同極性を帯びたカーボン粒子とブラック染料が混合され、かつ分散している液体の状態に対して、異極性の高分子を含んだ処理液とが反応することになる。
本実施形態では、各プリントヘッドのインク吐出口は600dpi(25.4mm当たり600個)の密度で配列され、また、記録紙の搬送方向において600dpiのドット密度でプリントを行う。これにより、本実施形態でプリントされる画像などのドット密度はロー方向およびカラム方向のいずれも600dpiとなる。また、各ヘッドの吐出周波数は4KHzであり、従って、記録紙の搬送速度は毎秒約170mmとなる。さらに、混合インクのヘッド101Bk1および101Bk2と処理液のヘッド101Sとの間の距離Di(図7参照)は、80mmであり、従って、ブラックの顔料インクが吐出されてから、処理液が吐出されるまでの時間は約0.48秒となる。
なお、各プリントヘッドの吐出量は、1吐出当り15plである。また、ブラックインクBkを吐出してから処理液Sを吐出するまでの時間が0.1秒までの追試を行った場合に関しても、同様な結果を得ることができた。
次に、本実施形態によりブラックの所定画像についてプリントを行なったときのプリント品位などに関する効果およびその比較について、表2および表3を用いて説明する。
表2において、両比較例をとも本実施形態と同様、解像度600dpiの同一の所定画像をプリントした場合のものである。比較例1は、顔料ブラックインクについて1吐出当り30plのヘッドのみを用いた処理液を用いないシステムである。また、比較例2は、染料のブラックインクについて1吐出当り30plのヘッドと比較的浸透性の遅い処理液について1吐出当り15plのヘッドを用いたシステムである。同表の実施形態および比較例のプリントは、種類の異なる6種類の記録紙に所定の画像をプリントし、OD値などを測定したものである。なお、表2における評価項目のうち、OD値はマクベス濃度測定機を用いて測定したものである。また、耐水性発現時間は、プリント後に水をたらしたときの画像くずれがほとんど認識できない時間であり、さらに、定着性はプリント物が排紙されたときの裏写りがなくなる時間である。
表2からも明らかなように、本実施形態のシステムの場合、特に、OD値および定着性に優れていることが理解される。
表3は、図7に示した本実施形態の装置において、ブラックインク用のヘッド101Bk1および101Bk2から吐出するブラックインクを、比較例3では、いずれも顔料インクとした場合、また、比較例4ではいずれも染料インクとした場合を示している。
この表からも、本実施形態の場合、OD値において特に優れていることが理解できる。すなわち、このOD値については、分散剤を必要としない顔料と染料が混合したインクに処理液が付与される本実施形態の場合、それらの混合による前述した効果を生じ、顔料のみあるいは染料のみに処理液が付与される場合より高いOD値を得ることができる。
また、フェザリング(「もや」や「しみ出し」)の抑制やエッジ部のシャープネス(「あふれ」の抑制)について、ヘッド101Bkの吐出からヘッド101Sの吐出までの時間によって比較した場合についても、比較例に比べて優れていることが理解できる。
なお、表3中のブラックインクBkが吐出されてから処理液Sが吐出されるまでの時間を0.1秒とした場合においても、ほぼ同様な評価結果を得られた。
以上説明したフルマルチタイプのプリント装置は、プリントヘッドがプリント動作において固定された状態で用いられ、記録紙の搬送に要する時間がほぼプリントに要する時間であるため、特に高速プリントに適したものである。従って、このような高速プリント機器に本発明を適用することによって、さらにその高速プリント機能を向上でき、しかもOD値や「しみ出し」、「あふれ」などの抑制の点で高品位のプリントを可能とするものである。
なお、本実施形態のプリント装置は、最も一般的にはプリンタとして用いられるものであるが、これに限られず複写装置、ファクシミリなどのプリント部として構成可能であることは勿論である。
なお、以上の表2および表3を参照して説明した本実施形態の効果は、本例のようにブラック混合インクについて2つのヘッドを用いた構成に限らず、1ヘッドとし、吐出量を30plとした場合も同様の効果を得ることができる。
(実施形態2)
図11は本発明の第2の実施形態に係るシリアルタイプのプリント装置5の構成を示す概略斜視図である。すなわち、混合インクをプリント媒体に付与した後、処理液を吐出して反応させるプリント装置は、上述のフルラインタイプのものに限らず、シリアルタイプの装置にも適用できることは明らかである。なお、図7に示した要素と同様の要素には同一の符号を付しその説明の詳細は省略する。
プリント媒体である記録紙103は、給紙部105から挿入されプリント部126を経て排紙される。本実施形態では、一般に広く用いられる安価な普通紙を記録紙103として用いている。プリント部126において、キャリッジ107は、プリントヘッド101Bk,101S,101C,101Mおよび101Yを搭載し、不図示のモータの駆動力によってガイドレール109に沿って往復移動可能に構成されている。プリントヘッド101Bkは、前述の実施形態で説明したブラックの混合インクを吐出する。また、プリントヘッド101S,101C,101M,101Yはそれぞれ処理液、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクをそれぞれ吐出するものであり、この順序で記録紙103にインクまたは処理液を吐出するよう駆動される。
各ヘッドにはそれぞれ対応するインクタンク108Bk,108S,108C,108M,108Yからインクまたは処理液が供給される。インク吐出時には各ヘッドの吐出口毎に設けられている電気熱変換体、すなわちヒータに駆動信号が供給される。これにより、インクまたは処理液に熱エネルギを作用させて気泡を発生させ、この発泡時の圧力を利用してインクまたは処理液の吐出が行われる。各ヘッドには、それぞれ360dpiの密度で64個の吐出口が設けられ、これらは、記録紙103の搬送方向Yとほぼ同方向、つまり、各ヘッドによる走査方向とほぼ垂直方向に配列されている。そして、各吐出口毎の吐出量は23plである。
以上の構成において、各ヘッド間距離は12.7mm(1/2インチ)であり、従って、ヘッド101Bkと101Sとの距離は25.4mm(1インチ)となる。また、走査方向のプリント密度が720dpi、各ヘッドの吐出周波数は7.2KHzであることから、ヘッド101Bkの顔料インクが吐出されてから、ヘッド101Sの処理液が吐出されるまでの時間は0.05秒となる。
図12(a)〜(c)は、図11に示したようなシリアルプリント装置におけるヘッド構成のそれぞれ他の例を示し、吐出口配列を模式的に示す図である。
同図(a)に示すように、混合インクによるブラックインクを吐出する吐出部を2つ有し(吐出部101Bk1,101Bk2)、これらの間に処理液を吐出する吐出部101Sが配設される構成であってもよい。この場合、ブラックの混合インクが付与された後、処理液が付与され、その後さらにブラックの混合インクが付与されることになる。
同図(a)を始め図12に示されるヘッド構成は、いくつかのインクまたは処理液についてのヘッド構造を一体にしたものである。勿論、これら一体構造のヘッドユニットにあっては、インクや処理液毎に吐出口やこれに連通する液室などは相互に隔てられている。従って、各吐出部は各インクや処理液のヘッドと同様なものである。
図12(b)は、同(a)に示す例と同様、混合インクによるブラックインクを吐出する吐出部を2つ有する例を示すが、これら吐出部101Bk1,101Bk2は処理液に先行して吐出できるよう配列されたものである。この構成によれば、混合インクのブラックインクが2滴付与された後処理液が付与されることになる。
図12(c)は、混合インクのブラックインクを吐出する吐出部101Bkと処理液を吐出する吐出部101Sの配列および数については、図11に示した実施形態と同様の配列および数であるが、C,M,Yの各インクの吐出部の構成を異ならせたものである。C,M,Y各インクの吐出部はそれぞれ2つ設けられ(吐出部101C1,101C2、吐出部101M1,101M2、吐出部101Y1,101Y2)ている。走査方向とは垂直方向に各インク毎の吐出部101C1,101M1,101Y1と吐出部101C2,101M2,101Y2とをそれぞれ配列している。このヘッド構成の場合、記録紙の搬送を挟んだ複数回の走査でC,M,Yの各インクは重ねられる。また、各インクの2つの吐出部について相互に濃,淡インクを吐出するためのものである。
なお、図12(a)および(b)に示すように、混合インクによるブラックインクの吐出部が例えば2つある場合、それぞれから吐出される混合インクにおける自己分散型顔料と染料との含有比は、いずれの吐出部も同一であるが、これを変えてもよい。例えば、顔料と染料の比が、吐出部101Bk1が3:7で、吐出部101Bk2が7:3であってもよい。これとは逆に吐出部101Bk1が7:3で、吐出部101Bk2が3:7であってもよい。
(実施形態3)
本発明のさらに他の実施形態では、例えば図12(a)に示すように、プリントヘッドもしくは吐出部が配列したものである。すなわち、図12(a)において、吐出部101Bk1および101Bk2からブラックの混合インクを吐出し、吐出部101Sから処理液を吐出するものである。すなわち、混合インク、処理液、混合インクの順で吐出が行われる。
本実施形態では、各吐出部は600dpiの密度で吐出口を配列し、その吐出量は、それぞれ15plであり、各吐出部間隔は上記実施形態2と同様、12.7mmである。また、吐出周波数は10KHz、プリント解像度は、副走査方向および走査方向いずれも600dpiである。これにより、混合インクと処理液の吐出間隔は30ミリ秒となる。また、処理液は、アセチレノール0.7%の高浸透性を有するものである。
以上の実施形態の構成によれば、黒文字などのプリントのOD値は約1.5以上の高いOD値を得ることができ、また、処理液による反応物の流動化がほとんどないため、「あふれ」やフェザリングの発生を防止できる。また、処理液について上述のように高浸透性のものを用いるので、比較的良好な定着性を実現できる。
(実施形態4)
図7および図8に示した実施形態を混合インクではなく、顔料インクおよび染料インクを個々に吐出する形態のものに応用した場合、記録ヘッド群101gの各プリントヘッドは、記録紙103の搬送方向Aに沿って図示の通りに配置される。各プリントヘッドは、ブラックの顔料インク用ヘッド101Bk1,ブラックの染料インク用ヘッド101Bk2,処理液を吐出する処理液用ヘッド101S,カラーインク用各ヘッドを含む。カラーインク用各ヘッドは、シアンヘッド101C,マゼンタヘッド101M,イエローヘッド101Yである。そして、各プリントヘッドにより各色のインクと処理液を吐出することでブラックの文字やカラー画像のプリントが可能になる。
本実施形態では、ヘッド101Bk1および101Bk2からそれぞれ吐出されるブラックの顔料インクおよび染料インクについては、浸透速度の遅い上乗せ系インクを用いる。また、ヘッド101S,101C,101M,101Yからそれぞれ吐出される処理液およびシアン,マゼンタ,イエローの各インクは浸透速度の速いそれぞれ処理液および高浸透性インクを用いる。
本実施形態で使用するインクの組成中、先の実施形態と相違するインクは次の通りである。
[ブラック(Bk)の染料インク]
フードブラック2 4部
グリセリン 7.5部
ジエチレングリコール 7.5部
尿素 7.5部
水 残部
[ブラック(Bk)の顔料インク]
顔料分散液 50部
グリセリン 7部
トリエチレングリコール 7部
アセチレノール EH 0.2部
(川研ファインケミカル製)
水 残部
また、本実施形態では、ブラックの顔料インクについては分散剤を用いていない、いわゆる分散剤無し顔料インクを用いる。このインクでは、アニオン性のカーボンブラック分散体として、少なくとも一種の親水性基がカーボンブラックの表面に直接もしくは他の原子団を介して結合している自己分散型のカーボンブラック分散体が好適に使用される。また、この自己分散型カーボンブラックとしては、イオン性を有するものが好ましく、アニオン性に帯電したものが好適である。
以上示した本実施形態によるブラックの顔料および染料インクを用いることにより、同極性を帯びたカーボン粒子とブラック染料が混合され、かつ分散している液体の状態に対して、異極性の高分子を含んだ処理液とが反応することになる。
本実施形態では、顔料インクのヘッド101Bk1と処理液のヘッド101Sとの間の距離Di(図7参照)は、80mmであり、従って、ブラックの顔料インクが吐出されてから、処理液が吐出されるまでの時間は約0.48秒となる。なお、各プリントヘッドの吐出量は、1吐出当り15plである。
次に、本実施形態によりブラックの所定画像についてプリントを行なったときのプリント品位などに関する効果およびその比較について、表4および表5を用いて説明する。
表4からも明らかなように、本実施形態のシステムの場合、特に、OD値および定着性に優れていることが理解される。
この表からも、本実施形態の場合、OD値において特に優れていることが理解できる。すなわち、このOD値については、顔料インクと染料インクが混合したものに処理液が付与される本実施形態の場合、それらの混合による前述した効果を生じ、顔料のみあるいは染料のみに処理液が付与される場合より高いOD値を得ることができる。
(実施形態5)
図13は、本発明の第5の実施形態に係るシリアルタイプのプリント装置5の構成を示す概略斜視図である。すなわち、染料インクと顔料インクとをプリント媒体上で混合させた後、処理液と反応させるプリント装置は、上述のフルラインタイプのものに限らず、シリアルタイプの装置にも適用できることは明らかである。なお、図7に示した要素と同様の要素には、同一の符号を記してその説明の詳細は省略する。
プリント媒体である記録紙103は、給紙部105から挿入されプリント部126を経て排紙される。本実施形態では、一般に広く用いられる安価な普通紙を記録紙103として用いている。プリント部126において、キャリッジ107は、プリントヘッド101Bk1,101Bk2,101S,101C,101Mおよび101Yを搭載し、不図示のモータの駆動力によってガイドレール109に沿って往復移動可能に構成されている。プリントヘッド101Bk1は、ブラックの顔料インクを吐出し、プリントヘッド101Bk2はブラックの染料インクを吐出する。また、プリントヘッド101S,101C,101M,101Yはそれぞれ処理液、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクをそれぞれ吐出するものであり、この順序で記録紙103にインクまたは処理液を吐出するよう駆動される。また、ブラックの顔料インクは、本実施形態においても分散剤無しのインクである。
各ヘッドにはそれぞれ対応するインクタンク108Bk1,108Bk2,108S,108C,108M,108Yからインクまたは処理液が供給される。インク吐出時には各ヘッドの吐出口毎に設けられている電気熱変換体(ヒータ)に駆動信号が供給される。これにより、インクまたは処理液に熱エネルギを作用させて気泡を発生させ、この発泡時の圧力を利用してインクまたは処理液の吐出が行われる。各ヘッドには、それぞれ360dpiの密度で64個の吐出口が設けられ、これらは、記録紙103の搬送方向Yとほぼ同方向、つまり、各ヘッドによる走査方向とほぼ垂直方向に配列されている。そして、各吐出口毎の吐出量は23plである。
以上の構成において、各ヘッド間距離は12.7mmであり、従って、ヘッド101Bk1と101Sとの距離は25.4mmとなる。また、走査方向のプリント密度が720dpi、各ヘッドの吐出周波数は7.2kHzであることから、ヘッド101Bk1の顔料インクが吐出されてから、ヘッド101Sの処理液が吐出されるまでの時間は0.1秒となる。
(実施形態6)
本発明のさらに他の実施形態では、図13に示すシリアルタイプのインクジェットプリント装置において、プリントヘッドの配列順序を変え、それに応じてブラックの染料インクおよび顔料インクと処理液との付与順序とを異ならせたものである。
すなわち、図13において、プリントヘッドの配列順序をヘッド101Bk1,ヘッド101Bk2とする(他のヘッドについては上記実施形態5と同一)。これにより、ブラックの顔料インク、処理液、ブラックの染料インクの順でそれぞれをプリント媒体に吐出する。各ヘッド間距離、各ヘッドの吐出周波数などは上記実施形態2と同様である。
この実施形態によれば、インクと処理液との反応物の流動化を顔料インク、染料インクが付与された後に処理液を付与する場合に比べ、より少なくでき、これにより、「あふれ」、「はき寄せ」の発生をさらに抑制することができる。
なお、本実施形態においても顔料インクは自己分散型顔料インクを用いた。また、上記説明では、ヘッド101Bk1からブラックの顔料インクを吐出し、ヘッド101Bk2からブラックの染料インクを吐出するようにしている。しかしながら、これとは逆にヘッド101Bk1からブラックの染料インクを吐出し、ヘッド101Bk2からブラックの顔料インクを吐出するようにしてもよく、この構成によっても上述と同様の効果を得ることができる。
ここで、さらに本件についての詳細の現象の説明とメカニズムについての推察を行った。まずインク中の(自己分散型)顔料および染料の割合と、処理液中のカチオン高分子であるポリアリルアミン(以下、PAAと記述する)およびカチオン界面活性材である塩化ベンザルコニウム(以下、EBKと記述する)の割合との間には、好ましい関係がある。
すなわち、本実施形態中での処理液としてPAAが4%、EBKが0.5%(PAAの比率は約90%)としたが、この場合、図14(a)〜(c)のようにインク中の顔料と染料との割合を変えることも可能である。この場合、顔料の比率が50%近辺でOD値,裏抜け性、エッジシャープネスが最高レベルとなる結果が得られる。しかし、処理液中のEBKの比率が多くなってゆくと、顔料の比率が多い方に品位の最適値(ピーク)がシフトする。逆に、PAAの比率を100%に近づけると、このピークは染料の比率が多い方にシフトする。しかしながら、OD値のピークはあまりシフトしない。
これら上記の現象は、以下の理由(推定メカニズム)により説明される。
自己分散型顔料は、モデルとして図15(a)に示したような形態をしている。すなわち、顔料の周囲にたくさんのヒゲ状の極性基(アニオン基)を有したイガ栗のような形態である。一方、カチオン高分子であるPAAは、図15(d)のように1分子中に複数のカチオン基を有したひも状の物質であり、自己分散型顔料とPAAとが混合すると、図16のように自己分散型顔料の周囲にPAAの高分子が絡み付く。しかしながら、PAAのカチオン基は、幾何学的にすべての顔料のアニオン基と結合することが不可能であるため、図16のように結合したものが全体的にカチオン性を有した状態の形態になっていると考えられる。
よって、粒径の小さい顔料粒子とPAAとが反応したものは、分子間力も弱く、電気的に反発しやすく、より大きな形態へと凝集しにくくなっていると考えられる。この結果、染料が入っていない場合、これらの微小物がドットの周囲にもや状のにじみとなって現れると考えられる。
しかしなから、インク中に染料(図15(b)参照)と顔料とが混在していれば、PAAと染料とが結合してゲル状となるため、顔料同志を結合させる一種の接着剤の機能を果たしていると考えられる(図17参照)。ところが、インク中の顔料の割合が染料に対して多くなると、細かい顔料は一部でもや状になってエッジのシャープネスを失う傾向にある。ここで、PAA以外にカチオン界面活性剤であるEBK(図15(c)参照)がインク中に含有していると、細かな顔料粒子がEBKによって凝集する。これと同時に、染料とPAAとの反応のバッファ的役割を果たし、よりゲル状になって細かい顔料粒子を捕捉していると考えられる(図18参照)。
なお、図16〜図18は、主として顔料相互の境界部における反応形態を模式的に表しており、それ以外の領域については複雑になるので省略した。
このように、染料に対してPAAが結合した場合、エネルギー的に安定する一方、自己分散型顔料に対してEBKが結合した場合、エネルギー的に安定していると考えられる。すなわち、反応の形態には一種の選択性がある。
よって、処理液中のEBKの比率が多くなると、顔料の比率が多い方に品位の最適値がシフトし、逆にPAAの比率が多くなると、染料の比率が多い方に品位の最適値がシフトする。
ここで、PAAの比率が多い場合、裏抜け性やエッジシャープネスを良化させるためには、染料を多くすることによって、細かい顔料粒子の流動性を抑制させれば良い。しかしながら、PAAおよび染料だけで反応したものは、サイズが小さいため、定着性を良化させようとして処理液の浸透性を挙げると、紙の深さ方向に流れてしまい、高いOD値が得られないため、顔料の存在が必要である。また、処理液の浸透性を挙げなくても、基本的に顔料の存在なしにはインク中における色剤としての自己分散型顔料と染料との存在およびそのインクに付与する処理液中の色剤を不溶化させる高分子不溶化剤の存在が好ましいことが理解されよう。