JP4035037B2 - 伸縮性布帛 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、伸縮性布帛に関し、詳しくは、弾性糸と非弾性糸とを用いて編まれた弾力的な伸縮性のある編物や同様の織物などの伸縮性布帛を対象にしている。
【0002】
【従来の技術】
弾性糸を用いた伸縮性布帛は、スポーツウェアや下着などに広く利用されている。
伸縮性布帛に利用される弾性糸として、弾性に優れたポリウレタン弾性繊維などが知られている。
衣料品などに用いられる伸縮性布帛では、カラフルな色彩や色模様を与えて、意匠性あるいは商品性を高めることが考えられている。
伸縮性布帛に色彩や色模様を与えるには、製造後の伸縮性布帛を染色する方法がある。伸縮性布帛を構成する糸に着色糸を使用する方法もある。着色糸を使用する方法は、布帛の染色工程が不要で生産性が良いことや色彩の耐久性に優れていることなど、多くの利点があるとされている。
【0003】
通常の伸縮性布帛では、弾性糸を布帛の内部側に配置して、表面には非弾性糸が配置されるようになっていた。これは、弾性糸を非弾性糸で保護するとともに、質感や着色性に優れた非弾性糸を表面側に配置することで、布帛の意匠性や肌触りを良好にすることを意図するものである。このような伸縮性布帛では、布帛の内部側に配置される弾性糸は、製造が比較的容易でコストも安い無着色すなわち白色の糸や透明なクリアー糸が使用されることが多かった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記した従来の伸縮性布帛では、衣料品などを製造したときに、着用状態での色彩感や意匠性に劣るという問題があった。
伸縮性布帛に色彩や色彩模様を付与するために、非弾性糸に着色糸を使用していると、伸縮性布帛が大きく引き伸ばされたときに、着色非弾性糸よりも内部側の着色されていない弾性糸が、着色非弾性糸の間を通して外部から見えてしまい、その部分の色彩が色あせて見えたり、布帛が色落ちしたように見えてしまったりするという欠点がある。なお、弾性糸がクリアー糸であっても、完全な透明性を有しているわけではないので、光の反射や屈折、干渉などの作用で、乳白色やギラツキを呈したりすることになり、布帛の色彩性を損なうことになる。
【0005】
また、衣料品を長期間にわたって使用していると、表面の着色弾性糸が擦り切れたり退色したりして、新品のときに比べて色が変わってしまうという問題もある。
そこで、本発明の課題は、前記した従来における伸縮性布帛の問題点を解消し、色彩意匠性に優れ、色彩の耐久性にも優れた伸縮性布帛を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかる伸縮性布帛は、組物または編物からなる、弾性部と非弾性部とで構成された伸縮性布帛であって、前記非弾性部が、透明な非弾性糸で形成されており、前記弾性部の少なくとも一部がクリアータイプの着色弾性糸であり、前記着色弾性糸の少なくとも一部が、前記非弾性部よりも布帛の内部側に、ループを形成せずに挿入されて配置されている。
〔伸縮性布帛〕
基本的な構造、使用材料および製造方法は、通常の伸縮性布帛の技術が適用できる。
伸縮性布帛には、平織やうね織などの織物、たて編やよこ編、丸編などの編物、平打や丸打などの組物、トーションレース、不織布などが含まれる。シート状の生地材料であってもよいし、紐やベルト状であってもよい。
【0007】
伸縮性布帛は、弾性材料のみで構成することもできるが、通常は、弾性材料からなる弾性部と非弾性材料からなる非弾性部とを組み合わせて構成される。
〔弾性部〕
弾性部は、弾性糸や弾性繊維で構成される。
原料および紡糸方法、紡糸後の処理方法、加工方法などの基本的な技術事項は、通常の弾性糸や弾性繊維と同様の技術が適用される。
弾性糸は、短繊維からなる紡績糸および長繊維からなるフィラメント糸の何れもが使用される。
【0008】
弾性糸を構成する弾性繊維として、ポリウレタン弾性繊維、ポリエーテル・エステル弾性糸、ポリアミド弾性糸などが挙げられる。天然ゴム、合成ゴム、半合成ゴムからなる糸状物すなわちゴム糸も使用される。これらの糸を主体として、他の有機合成樹脂と複合させたり、混合したりしたものも、好ましく使用できる。糸自体にゴム状弾性を有するものが好ましい。
着色弾性糸としては、非着色の弾性繊維から製造された弾性糸を、染色などの着色手段で着色したものが使用できる。予め着色された弾性繊維から製造されたものでもよい。予め着色された弾性繊維を用いて製造された着色弾性糸は、原着糸とも呼ばれる。
【0009】
着色弾性繊維の製造は、通常の着色弾性繊維の製造技術が適用できる。例えば、ポリウレタン弾性繊維を酸性染料で染色して着色弾性繊維を得ることができる。この場合、ポリウレタン弾性繊維として染料が結合する反応基を備えているものを用いる。染料としてカチオン染料も使用できる。弾性繊維の原料樹脂に顔料や染料などの着色剤を配合しておくことでも製造できる。この場合、複数色の着色剤を併用することで、単一の着色剤では得られない複雑な色の着色弾性繊維を製造することもできる。弾性糸を染色して、着色弾性糸とすることもできる。
着色弾性糸の色は自由に設定でき、例えば、ブルー、ピンク、グリーン、パープル、ブラックなどが採用できる。
【0010】
弾性部は、着色材料だけで構成されていてもよいし、非着色材料が含まれていてもよい。非着色の弾性糸または繊維は、透明であったり、乳白色であったりする。
弾性糸の太さによって伸縮性能が変わる。伸縮性布帛の構造や製造条件によっても異なるが、通常、弾性糸の太さを、11〜3730dtexの範囲に設定できる。弾性糸の伸縮性として、伸び率100〜1000%の範囲のものが使用できる。好ましくは、伸び率300〜800%の範囲である。
〔非弾性部〕
非弾性糸あるいは非弾性繊維で構成される。
【0011】
弾性糸と同様に、原料および紡糸方法、紡糸後の処理方法、加工方法などの基本的な技術事項は、通常の非弾性糸や非弾性繊維と同様の技術が適用される。
非弾性糸についても、短繊維および長繊維からなる糸が使用できる。
非弾性糸を構成する非弾性繊維として、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、レーヨンやアセテートなどのセルロース系繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリフルオロエチレン系繊維、綿や絹,羊毛などの天然繊維が挙げられる。
【0012】
非弾性糸は、非透明な着色糸であってもよいし、透明糸であってもよい。
透明糸を使用した場合、布帛を製造したときに非弾性糸の内部側に配置される着色弾性糸の色彩が、透明な非弾性糸を通して外部から良く見えることによって、透明感や深みのある色彩感を有する布帛が得られる。透明糸としては、透明性に優れたポリアミド繊維、ポリエステル繊維が好ましい。透明性を高める手段として、繊維材料の選択のほか、単糸本数を少なくすること、断面形状を円形や楕円形にすること、光沢感を減らすこと、長繊維を使用することなどが採用できる。これらの手段を複数適用することもできる。
【0013】
非弾性糸に、いくらかの透光性があり適度に薄い色を有する半透明着色糸を使用すれば、布帛において、半透明着色糸の色と、内側の着色弾性糸の色とが混色された複雑な色彩を呈することができる。
半透明着色糸は、糸原料に配合する着色材の量や種類を調整したり、透明な非弾性糸を染色したりして得ることができる。非弾性糸に透明糸を用いて布帛を製造したあと、透明糸からなる非弾性糸が染色される条件で染色すると、透明糸を半透明着色糸に変えることができる。この場合、染色条件を適切に設定すれば、布帛を構成する他の着色糸の色を変えることなく、特定の非弾性糸だけを染色することもできる。
【0014】
非弾性糸が不透明な着色糸の場合、非弾性糸同士の隙間から内部の着色弾性糸の色が見えることで、着色非弾性糸の色と着色弾性糸の色とが混色された色彩効果を発揮する。
不透明着色糸は、非弾性糸の原料を着色しておくことで得られるほか、透明糸を黒色や紺色などの濃色で染色することによっても得られる。非弾性糸に透明糸を用いて布帛を製造したあとで、透明糸からなる非弾性糸を前記濃色で染色して、透明糸を不透明着色糸に変えることもできる。
前記した半透明着色糸あるいは不透明着色糸からなる非弾性糸で非弾性部を構成した場合、内側の着色弾性糸との色彩の組み合わせによって、布帛に対する光の当たり方や布帛の伸縮などで、場所により微妙に異なる複雑な色彩が表れる、いわゆる玉虫効果を発揮させることができる。
【0015】
非弾性糸の太さは、伸縮性布帛の構造や製造条件によっても異なるが、通常、11〜3730dtexの範囲に設定できる。非弾性糸は、伸び率100%未満の糸である。
伸縮性布帛が、不織布のように、非弾性糸を使用しない布帛の場合は、糸にしない非弾性繊維のままで使用される。この場合も、前記した透明性を向上させるための各手段を適用することができる。
〔弾性部と非弾性部〕
伸縮性布帛は、弾性糸や弾性繊維で構成された弾性部と、非弾性糸や非弾性繊維で構成された非弾性部とで構成される。但し、伸縮性布帛が織物や編物などの場合、弾性糸と非弾性糸とが互いに絡んでいることがあり、この場合には、弾性部と非弾性部との境界部分などでは、弾性糸と非弾性糸とが混在していたり、非弾性部の一部に弾性糸が存在していたりすることもある。
【0016】
弾性部は、少なくとも一部が着色弾性糸で構成される。着色弾性糸以外の部分は透明な弾性糸や非着色弾性糸で構成できる。弾性部においても、弾性糸に非弾性糸を絡ませたり交錯させたりすることで、弾性糸を位置決めしたり非弾性部と一体化させたりするので、弾性部に部分的に非弾性糸や非弾性繊維が含まれる場合もある。
非弾性部は、基本的には非弾性糸や非弾性繊維で構成されるが、一部に弾性糸や弾性繊維が混在していても構わない。
弾性部を構成する着色弾性糸は、少なくとも一部が、布帛において非弾性部よりも内部側に配置される。弾性部の全てが非弾性部よりも内部側に存在していてもよいし、弾性部の一部が布帛の表面に露出していても構わない。但し、非弾性部で弾性部を覆って保護する機能を発揮させる個所では、弾性部が内部側に配置されている必要がある。布帛の使用状態で、外面に露出する表面には非弾性部が配置され、外面に対して内部側すなわち裏側になる表面には弾性部が露出していてもよい。
【0017】
非弾性部よりも内部側に配置された着色弾性糸は、非弾性部を構成する非弾性糸や非弾性繊維の隙間を通して、外部から視認される。この場合、人間の視覚による色彩の認識では、非弾性部の色と着色弾性糸の色とが混色された一様な色として認識され得る。特に、衣料品として着用している状態で、比較的に離れた位置から観察された場合には、前記混色の効果が発揮され易い。非弾性部が透明である場合も、透明な非弾性部を通過する光が拡散や偏光などの作用を受けるので、着色弾性糸の色が少し薄くなったり変化したりした色として認識される。
非弾性部において、非弾性糸や非弾性繊維が密に配置されている場合、伸縮性布帛の製造状態では着色弾性糸は外部から見え難いが、伸縮性布帛が引き伸ばされると、非弾性糸や非弾性繊維の間に隙間が生じることになり、着色弾性糸が外部から見え易くなる。その結果、伸縮性布帛の伸び方によって、外部から認識される布帛の色彩を微妙に変化させることができる。
【0018】
さらに、例えば、透明な非弾性糸からなる非弾性部と着色弾性糸からなる弾性部とで構成された布帛を、後加工で染色して、透明な非弾性糸を選択的に染色した場合、染色により着色された非弾性糸と着色弾性糸との組み合わせによって、前記した玉虫効果が発揮させ易い。玉虫効果を発揮させ易い条件として、上記以外に、着色弾性糸の色彩と、非弾性糸を染色する色彩との組み合わせを適切に選択することがある。例えば、ピンクとグリーンのような色相が大きく違う組み合わせ、あるいは、補色関係になる色の組み合わせが考えられる。同系色では玉虫効果が出難い。クリアー色の組み合わせも玉虫効果が出やすい。着色弾性糸はクリアータイプが望ましい。
【0019】
着色弾性糸は、比較的に太いものであれば、単独でも弾性部を構成することができ、布帛の外部から明瞭に色彩を認識させることができる。
同じ色の着色弾性糸を複数本まとめて配置しておけば、面状の色彩領域を構成することができる。このような色彩領域で弾性部の全体を構成することができる。布帛中での色彩領域の配置形状および配置パターンによって、布帛に色彩模様や柄を構成できる。色の異なる着色弾性糸で構成された色彩領域を、伸縮性布帛の複数個所に配置すれば、複雑な色彩模様や色彩柄を構成することもできる。色彩模様あるいは色彩柄としては、比較的に単純な直線状の縞のほか、縦横の格子縞など、通常の布帛において知られている各種の模様や柄が構成できる。
【0020】
一つの色彩領域を、複数色の着色弾性糸で構成することもできる。この場合、複数色が混色された色彩を呈する色彩領域が構成される。単色の着色弾性糸では表現できない複雑な色の色彩領域が構成できることになる。
非弾性部にも、色の異なる非弾性糸や非弾性繊維で色彩模様や色彩柄を構成しておけば、非弾性部と弾性部の色彩領域との両方によって複合的な色彩模様や色彩柄を布帛に与えることができる。
特に、透明な非弾性糸と、複数色の着色弾性糸とを組み合わせて布帛を構成し、後加工で透明な非弾性糸を染色した場合には、染色によって着色された非弾性糸の色と、着色弾性糸の複数の色とが、微妙な色彩の変化を作りだし、前記した玉虫効果と呼ばれるような、複合的に混色された色彩模様や色彩柄を発現させることができる。
【0021】
〔伸縮性布帛への弾性部および非弾性部の形成〕
基本的には、通常の伸縮性布帛における弾性糸と非弾性糸との配置技術が適用できる。
例えば、織物の場合、縦糸あるいは横糸の何れか一方あるいは両方に、弾性糸あるいは着色弾性糸を織り込んで弾性部を構成する。弾性部以外の部分では非弾性糸を織り込んで非弾性部にできる。織物のうち、表面側になる糸を非弾性糸、内部側になる糸を弾性糸にすれば、弾性部が非弾性部の内部側に配置される。織物の場合、縦糸と横糸とは互いに交錯し、布帛の表面側と内部側との間を出入りする。したがって、非弾性部の内部側に弾性部が配置される状態とは、弾性部を構成する弾性糸が、非弾性部を構成する非弾性部の内部側に配置されている割合が多いことを意味し、弾性糸の全てが常に非弾性部よりも内部側に存在することを意味するわけではない。
【0022】
非弾性糸による織成組織の内部に弾性糸を挿入するようにして弾性部を構成すれば、弾性部あるいは着色弾性糸による色彩領域の全体を、布帛を構成する非弾性部の内部側に配置することもできる。
編物の場合にも、非弾性糸による基本的な編成組織の一部に、弾性糸あるいは着色弾性糸を編み込んだり挿入したりすればよい。このとき、編目の表面側に非弾性糸が配置され、内部側に弾性糸が配置されるように編成組織を設計することで、非弾性部の内部側に弾性部を配置することができる。
組物の場合も、組紐の一部を、弾性糸や着色弾性糸で構成したり、非弾性糸で構成された組織の内部に弾性糸を挿入したりすればよい。
【0023】
不織布の場合、非弾性繊維の集積層に弾性糸あるいは着色弾性糸を埋め込むようにすれば、非弾性部の内部に弾性部が配置できる。
〔伸縮性布帛の用途〕
本発明の伸縮性布帛は、通常の伸縮性布帛が利用される各種用途に用いることができる。特に、優れた伸縮性などの機能に加えて、外観の意匠性や色彩効果が要求される分野に有用である。
具体的には、スポーツウェアやファンデーションなどの衣料品に使用できる。衣料品の部品となる組紐、細幅編物、細幅織物等の付属品にも使用できる。
【0024】
【発明の実施の形態】
〔シート状布帛〕
図1に示すシート状布帛Sは、シート状をなす織物または編物であり、衣料品などの生地素材として使用される。
図1(b)に断面構造を模式的に示している。シート状布帛Sは、弾性糸22、24、26と非弾性糸12とで編織されている。弾性糸22、24はそれぞれ別の色に着色された着色弾性糸である。弾性糸26は着色されていない通常の弾性糸である。非弾性糸12は、全体としては白く見えるが、ある程度の透明性を有する糸である。
【0025】
シート状布帛Sの編織組織として、弾性糸22〜26で構成される弾性部20を真中にして、その両面に、非弾性糸12で構成される非弾性部10が配置されている。弾性部20は、全体が非着色の白く見える弾性糸26で構成されるとともに、その一部に、同色の着色弾性糸22が複数本並んで構成される色彩領域C1と、別の同色の着色弾性糸24が複数本並んで構成される色彩領域C2とが配置される。
織物の場合は、経糸および緯糸の糸の配置と交錯のさせ方によって、上記のような構造が得られる。編物の場合も、針床への糸の配置やループ形成のさせ方によって、同様の構造が得られる。図1(b)では、説明を簡単にするために、糸同士の交錯や絡み、ループなどの形態は図示を省略している。また、弾性部20は弾性糸22〜26のみで構成されているように図示しているが、実際には、弾性部20でも、弾性糸22〜26と交錯したり絡んだりしている非弾性糸12が存在している。但し、弾性糸22〜26が、非弾性部10よりも表側まで飛び出してシート状布帛Sの表側に配置されることはない。
【0026】
図1(a)に示すように、シート状布帛Sの平面形態では、全面にわたって、表面側に非弾性部10が存在している。弾性部20のうち、着色弾性糸22で構成された色彩領域C1が、透明性のある非弾性糸12からなる非弾性部10を通して、外部から見える。このとき認識される色は、着色弾性糸22の色が、非弾性糸12の介在によって少し白っぽく薄くなったような柔らかな色になる。別の着色弾性糸22で構成された色彩領域C1も同様にして外部から見えている。
弾性部20は、着色弾性糸22、24で構成される色彩領域C1、C2だけでなく非着色の弾性糸26により、シート状布帛Sの全面に存在しているので、シート状布帛Sの全面が良好な伸縮性を発揮する。
【0027】
シート状布帛Sの表面には、弾性部20あるいは弾性糸22〜26が露出していないので、シート状布帛Sを衣料品などに使用したときに、弾性糸22〜26が擦り切れたり、着色弾性糸22、24の色が摩擦や日焼けなどで退色したりすることが防止される。
〔伸縮による色彩変化〕
図2は、シート状布帛Sの色彩領域C1が、縮んだ状態(a)と伸ばされた状態(b)とを対比して模式的に示している。
図2(a)に示すように、糸が縦横に交錯する織物の組織を例示する。縦糸側に着色弾性糸22が配置されて弾性部20を構成し、その上に緯糸側の非弾性糸12が配置されて非弾性部10を構成している状態である。なお、糸同士の絡みなどは省略して図示している。
【0028】
弾性部20は非弾性部10の内側に隠れることになるが、非弾性部10における非弾性糸12同士の間には、ある程度の隙間があいている。したがって、非弾性糸12が非透明な糸であっても、着色弾性糸22の一部は、シート状布帛Sの外部から見えている状態である。勿論、非弾性糸12に透明性があれば、非弾性糸12に覆われた部分でも、着色弾性糸22の色が非弾性糸12を通して、外部から見える。
色彩領域C1に占める、非弾性糸12の面積と、非弾性糸12の隙間に存在する着色弾性糸22の面積との比率によって、色彩領域C1の全体から認識される色彩は変わってくる。図2(a)のように、非弾性糸12の隙間が狭ければ、着色弾性糸22の色が大きく薄められた淡い色彩になる。
【0029】
図2(b)は、シート状布帛Sを図の上下方向に引き伸ばした状態であり、緯糸側の非弾性糸12の間隔が拡がっている。その結果、非弾性糸12同士の隙間も大きくなり、着色弾性糸22の露出面積が増える。色彩領域C1の全体から認識される色は、着色弾性糸22の色合いが強くなり、図2(a)の縮んだ状態よりも、濃く明瞭な色を呈することになる。
したがって、シート状布帛Sで製造された衣料品を着用したときに、シート状布帛Sが伸ばされた個所と縮んだ個所では、色彩に微妙な違いが生じ、意匠性が高まることになる。また、着用者の動作などで、同じ場所が伸びたり縮んだりしたときにも色彩の変化が生じるので、通常の布帛では得られない動的な意匠効果を与えることができる。
【0030】
〔組紐〕
図3に示す実施形態は、細い平坦な帯状をなす組紐Rに、本発明の伸縮性布帛の技術を適用した場合である。
図3(b)に組紐Rの模式的な断面構造を示している。組紐Rは、複数本の紐すなわち比較的に太い糸を、互いに絡ませながら組み上げたものである。但し、図3(b)では、糸同士の絡み組織などの詳しい構造は省略して、糸の配置のみを模式的に示している。
組紐Rの中央に、着色弾性糸22、24がそれぞれ複数本づつ配置されて、色彩領域C1、C2を構成し、全体が弾性部20となっている。弾性部20の外周全体に、非弾性糸12が配置されて非弾性部10を構成している。非弾性糸12は、全体が白色に見えるが、ある程度の透明性を有する糸が使用されている。
【0031】
図3(a)に示すように、組紐Rの外観は、全周にわたって表面に非弾性部10が現れ、弾性部20は内部に埋めこまれた状態である。色彩領域C1、C2の色は、非弾性部10を通して、外部から視認できる。この場合も、着色弾性糸22、24の色が、非弾性糸12を透過したり非弾性糸12の隙間から露出したりすることで、着色弾性糸22、24そのものの色が少し薄くなった淡い色を呈することになる。
このような組紐Rは、衣料品のうち強い伸縮性を必要とされるベルト部分などに取り付けられて使用される。また、ブラジャー、キャミソール、水着等の肩紐(ストラップ)に使用でき、ショーツ、ガードル等のウェストバンドや裾部などにも使用される。
【0032】
着用時に組紐Rが伸ばされれば、前記したように、色彩領域C1、C2の色が変化することになり、意匠性を高めることができる。衣料品の着脱使用することで、組紐Rの表面は強く擦られることが繰り返されるが、色彩領域C1、C2を構成する着色弾性糸22、24は、表面側の非弾性糸12で保護されているので、着色弾性糸22、24が擦り切れたり色あせたりすることが少ない。長期間にわたって、美麗な色彩意匠と良好な伸縮性とを発揮することができる。
【0033】
【実施例】
〔実施例1〕
組紐(ブレード)を製造した。
<糸材料>
皮糸(非弾性糸):ポリプロピレン繊維糸〔三菱レイヨン社製、タイプN40、380dtex〕を用いた。この糸は透明である。
芯糸1(着色弾性糸):ポリウレタン弾性繊維糸〔東レ・デュポン社製、ライクラ(登録商標)T−127、940dtex、ピンク〕を用いた。この糸は、無機顔料により着色された原着糸である。
【0034】
芯糸2(弾性糸):ポリウレタン弾性繊維糸〔東レ・デュポン社製、ライクラ(登録商標)T−127、940dtex、グリーン〕を用いた。この糸は、無機顔料により着色された原着糸である。
<製造>
製紐機(国分リミテッド社製EE25)を用いて、平打ちで組紐を製造した。
全体を皮糸で組み上げていくととともに、中央部分の片側半分には、芯糸1(ピンク)を6本、隣り合うように並べて挿入し、残りの片側半分には、芯糸2(グリーン)を6本、隣り合うように並べて挿入した。
【0035】
その結果、図3に示すように、2色の色彩領域C1、C2が平行に並ぶような外観を有する組紐Rが得られた。
その後、以下の処理工程を行なった。
ソーピング処理:第1槽において27℃で2分の水洗を行ない、第2槽において70℃で2分の湯洗(家庭用先剤使用)を行ない、第3槽において30℃で2分を水洗(超音波洗浄)を行なった。
脱水処理:ポリウレタンロールを用いて圧縮脱水した。
収縮乾燥処理:遠赤外線ヒータを用いて10分間の乾燥を行なった後、温風ヒータを用いて収縮処理を行った。
【0036】
以上のようにして得られた組紐は、弾性部を構成する着色弾性糸による2色の色彩領域が、非弾性糸による非弾性部を通して、外観に現れており、優れた色彩意匠性を有するものであった。組紐を長さ方向に伸ばしたときに、伸び量によって、色彩が微妙に変化することも確認できた。
〔実施例2〕
実施例1と同様の組紐を、糸材料の一部を変えて製造した。
具体的には、皮糸として、ポリアミド繊維糸〔東レ社製、ミラコスモ(登録商標)、150dtex〕を2本、引き揃えて、トータル繊度が300dtexのポリアミド繊維糸にしたものを用いた。この糸は透明である。
【0037】
上記以外の材料および製造工程は、実施例1と共通している。
得られた組紐は、実施例1と同様に、色彩意匠性の優れたものであった。
〔実施例3〕
ラッシェル編地を製造した。
<糸材料>
非弾性糸:ナイロン糸〔東レ社製、タイプ304、44dtex〕を用いた。この糸は、透明性を有している。
弾性糸:ポリウレタン弾性繊維糸〔東レ・デュポン社製、ライクラ(登録商標)T−127、620dtex、ピンク〕を用いた。この糸は、無機顔料により着色された原着糸である。
【0038】
<製造>
ラッシェル編機〔カールマイヤー社製、RSE 4N 56GG〕を使用。
編組織(図4参照):
フロント(非弾性糸)=2-4/2-4/2-4/2-0/2-0/2-0//
バック(弾性糸)=4-4/2-2/6-6/2-2/4-4/0-0//
編成後、以下の工程を経て、伸縮性のある経編地を得た。
精錬工程:リラックス、80℃×5分。
中間セット工程:190℃、20m/分。
【0039】
染色工程:酢酸と酢酸ソーダでpH5.5に調整した染浴中で、蛍光増白剤 BLANKOPHORCLE(BAYER社製)を1%owfとなるように使用して、98℃×20分の条件で、オフホワイトに染色した。
仕上げセット工程:180℃、20m/分。
得られた経編地は、全体が透明な非弾性糸で構成されるとともに、非弾性糸を通して弾性糸のピンク色が現出し、編成後の染色などでは得られない、透明感のある柔らかな色彩を呈するものとなった。経編地を伸ばすと、伸ばしたところの色彩が微妙に変化して、独特の意匠性を発揮するものであった。
【0040】
〔比較例1〕
実施例3と同様のラッシェル編地を、糸材料を変えて製造した。
<糸材料>
非弾性糸:ポリエステル糸〔東レ社製、タイプ2562、56dtex、ブラック〕を用いた。この糸は原着糸である。
弾性糸:ポリウレタン弾性繊維糸〔東レ・デュポン社製、ライクラ(登録商標)T−127、620dtex、ダル糸(白色)〕を用いた。この糸は、非着色糸である。
【0041】
<製造>
実施例3と同じ装置および編成組織を採用した。
編成後、精錬工程(リラックス、80℃×5分)、中間セット工程(195℃、20m/分)、仕上げセット工程(185℃、20m/分)を経て、伸縮性のある経編地を得た。
得られた経編地は、全体が非弾性糸の色(ブラック)をそのまま示しており、弾性糸の色は、ほとんど見えない。ところが、編地を引き伸ばすと、非弾性糸の隙間から、弾性糸の素材そのものの色である白色がそのまま見えてしまい、色彩的な意匠性に劣るものであった。
【0042】
〔実施例4〕
実施例3と同様のラッシェル編地を、2色の弾性糸を用いて、製造した。
<糸材料>
非弾性糸:実施例3と同じ。
弾性糸A:実施例3と同じポリウレタン弾性繊維糸(ピンク)。
弾性糸B:実施例3と同じポリウレタン弾性繊維糸(グリーン)。
<製造>
基本的には、実施例3と同じ装置および編成組織、製造工程を採用した。
【0043】
但し、編成の前におこなう整経工程で、図5に示すように、ビーム30に弾性糸A(22A)と弾性糸B(22B)とを交互に配列させた状態でクリーリングして整経を行なった。編成組織は、前記図4で、バックに弾性糸A、Bが配置される。
実施例3と同様にして、得られた経編地は、全体が透明な非弾性糸で構成されるとともに、非弾性糸を通して弾性糸Aのピンク色と弾性糸Bのグリーンとがストライプ状の色彩模様として現出した。
〔実施例5〕
実施例3、4とは編成組織の異なるラッシェル編地を、2色の弾性糸を用いて、製造した。
【0044】
<糸材料>
非弾性糸:実施例3と同じ。
弾性糸C:ポリウレタン弾性繊維糸〔東レ・デュポン社製、ライクラ(登録商標)T−127、470dtex、ピンク〕。
弾性糸D:ポリウレタン弾性繊維糸〔東レ・デュポン社製、ライクラ(登録商標)T−127、44dtex、グリーン〕。
<製造>
基本的には、実施例3と同じ装置、製造工程を採用した。
【0045】
編組織(図6参照):
フロント(非弾性糸)=4-2/2-4/2-0/2-4/4-2/4-6//
ミドル(弾性糸C)=2-2/0-0//
バック(弾性糸D)=2-2/0-0/6-6/4-4/6-6/0-0//
実施例3と同様の製造工程で得られた経編地は、全体が透明な非弾性糸で構成されるとともに、非弾性糸を通して弾性糸Cのピンク色と弾性糸Dのグリーン色とが現出した。特に、弾性糸Cのピンク色が経方向に配置されるのに対し、弾性糸Dのグリーン色が緯方向に配置された状態になり、複雑な色彩感を与えるものとなった。
【0046】
〔実施例6〕
実施例3と同様のラッシェル編地を製造したあと、染色工程を行なった。
<糸材料>
非弾性糸:実施例3と同じ。
弾性糸 :実施例3と同じポリウレタン弾性繊維糸(ピンク)。
<製造>
基本的には、実施例3と同じ装置および編成組織、製造工程を採用した。
但し、編成された編地に精錬工程を行なったあと、以下の染色工程を行なった。
【0047】
染色工程:酢酸と酢酸ソーダでpH5.5に調整した染浴中で、酸性染料 KAYALAX NAVY BLUE(日本化薬社製)を3%owf、均染剤ニューポンMG(日華化学社製)を1%owfとなるように使用して、98℃×60分の条件で、ネイビーブルーに染色した。
この染色処理では、実質的に、ナイロン糸からなる非弾性糸だけがネイビーブルー色に染色される。上記ネイビーブルーの染料で弾性糸も、わずかに汚染されるが、肉眼では、ほぼピンク色のままであると認識される。
得られた経編地は、全体がネイビーブルー色の非弾性糸で構成されるとともに、非弾性糸同士の隙間を通して弾性糸のピンク色が現出する。経編地は伸縮性に優れるとともに、伸ばし方によって、非弾性糸の隙間の拡がりが変わり、弾性糸のピンク色による色彩感が大きく際立って変化することになった。
〔実施例7〕
実施例6と同様に、布帛の染色工程を行った。
【0048】
<糸材料>
非弾性糸:ナイロン糸〔東レ社製、ミラコスモ(登録商標)、44dtex〕。この糸は、透明性を有している。
弾性糸:ポリウレタン弾性繊維糸〔東レ・デュポン社製、ライクラ(登録商標)T−127C、235dtex、ピンク〕を用いた。この糸は、無機顔料により着色された原着糸であり、透明性を有するクリアー糸である。
<製造>
基本的には、実施例3と同じ装置および編成組織、製造工程を採用した。
【0049】
但し、編成された編地に精錬工程を行なったあと、以下の染色工程を行なった。
染色工程:酢酸と酢酸ソーダでpH4に調整した染浴中で、グリーンの酸性染料(ミーリングタイプ)と均染剤とを併用して、85℃×60分の条件で、グリーンに染色した。
この染色処理では、実質的に、ナイロン糸からなる非弾性糸だけがグリーン色に染色される。上記グリーンの染料によって、弾性糸も、わずかに汚染されるが、肉眼では、ほぼピンク色のままであると認識される。
【0050】
得られた経編地は、生地表面に配置されグリーンに染まったナイロン糸の色と、生地の内部に配置された原着糸である弾性糸のピンクの色とが、互いに干渉し合って、良好な玉虫効果が発現されていることが、肉眼によって確認された。
【0051】
【発明の効果】
本発明の伸縮性布帛は、伸縮性を与える弾性部に使用された着色弾性糸が、表面側に配置された非弾性糸による非弾性部を通して、外部から視認されることで、色彩的な意匠性が高まる。着色弾性糸の色がそのまま外部に現出するのではなく、非弾性部を通して、色彩に変化が付けられることで、従来の伸縮性布帛では得られなかった、新規かつ美麗な色彩意匠を発現することができる。例えば、玉虫効果と呼ばれるような複雑な色彩効果を発揮させることも可能になる。
特に、布帛が伸びたり縮んだりしたときに、着色弾性糸の露出面積が変化することで、布帛の一部あるいは全体の複雑な色彩変化が得られ、動的な意匠効果を発揮することもできる。
【0052】
しかも、着色弾性糸が非弾性部の非弾性糸で覆われ保護された状態になるので、着色弾性糸が擦り切れたり色あせしたりすることが防止でき、長期間にわたって使用したり洗濯を繰り返したりしても、優れた色彩意匠が損なわれることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態を表す伸縮性布帛の平面図(a)および模式的断面図(b)
【図2】 布帛の伸縮による形態の変化を示す模式的平面図
【図3】 別の実施形態を表す組紐の平面図(a)および模式的断面図(b)
【図4】 別の実施形態となる編地の編成組織図
【図5】 別の実施形態となる編地の整経状態を示す模式図
【図6】 別の実施形態となる編地の編成組織図
【符号の説明】
10 非弾性部
12 非弾性糸
20 弾性部
22、24 着色弾性糸
26 非着色弾性糸
C1、C2 色彩領域
R 組紐
S シート状布帛
Claims (5)
- 組物または編物からなる、弾性部と非弾性部とで構成された伸縮性布帛であって、
前記非弾性部が、透明な非弾性糸で形成されており、
前記弾性部の少なくとも一部がクリアータイプの着色弾性糸であり、
前記着色弾性糸の少なくとも一部が、前記非弾性部よりも布帛の内部側に、ループを形成せずに挿入されて配置されている、
伸縮性布帛。 - 前記着色弾性糸が、ポリウレタン弾性繊維からなる原着糸である、請求項1に記載の伸縮性布帛。
- 前記着色弾性糸が、異なる色を有する複数種類の着色弾性糸を含み、特定の色の着色弾性糸で構成された面状をなす色彩領域を、布帛の複数個所に備える、請求項1または2に記載の伸縮性布帛。
- 前記非弾性部が、透明繊維からなる、請求項1から3までのいずれかに記載の伸縮性布帛。
- 前記非弾性部が、染色により着色されてなる、請求項1から4までのいずれかに記載の伸縮性布帛。
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