JP4030264B2 - 熱アシスト磁気記録装置、熱アシスト磁気再生装置、電子線記録装置 - Google Patents

熱アシスト磁気記録装置、熱アシスト磁気再生装置、電子線記録装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は熱アシスト磁気記録装置に関し、より詳細には、電子ビームにより磁気記録媒体を加熱昇温して磁気記録を行うことにより極めて高密度な磁気的記録を可能とした新規な熱アシスト磁気記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンピューター(PC)システム、音声画像(AV)システムを構築する上では、大容量で低価格の周辺記憶装置が必須である。現行の周辺記憶装置としては、磁気記録装置、光記録装置が主たるものであり、磁気記憶装置には、ディスク形態の固定型磁気ディスク装置(HDD)とテープ形態の磁気テープ装置がある。PCシステムでは、OSを含めた各種データのランダムアクセスはHDD主体に行われ、重要データの長期保管には光ディスク装置もしくは磁気テープ装置が使用される。大量の動画像情報を含むAVシステムにおいては、従来は磁気テープ装置が主たる記憶装置だったが、近年のHDD及び光記録装置の大容量化により、HDDと光記録装置も、それらのテープには無い高速アクセス性を武器に、AVシステムへの応用が期待される様になってきている。PCシステムにおいてもAVシステムにおいても、磁気記録装置、光記録装置にはさらなる大容量化、高速化、低価格化が強く求められているが、従来の周辺記憶装置は今後以下の課題が顕在化するものと言われている。
【0003】
まず磁気記録装置であるが、磁気的に情報の記録再生を行う磁気記録装置は、大容量、高速、安価な情報記憶手段として発展を続けている。特に、近年のハードディスクドライブ(HDD)の進展は著しく、製品レベルで記録密度は10Gbpsi(Giga bits per squre inch)を、内部データ転送速度は100Mbps(Mega bits per second)を超え、メガバイト単価は数円/MBに低価格化している。HDDの高密度化は、信号処理、メカ・サーボ、ヘッド、媒体、HDIなど複数の要素技術の集大成として進展してきているが、近年、媒体の熱擾乱問題がHDDの高密度化の阻害要因として顕在化しつつある。
【0004】
磁気記録の高密度化は、記録セル(記録ビット)サイズの微細化により実現するが、記録セルの微細化により媒体からの信号磁界強度が減少する為、所定の信号対雑音比(S/N)を確保する上では、媒体ノイズの低減化が必須となる。媒体ノイズの主因は、磁化転移部の乱れであり、乱れの大きさは媒体の磁化反転単位に比例する。磁気媒体には多結晶磁性粒子からなる薄膜(本願明細書においては、「多粒子系薄膜」あるいは「多粒子系媒体」と称する)が用いられているが、多粒子系薄膜の磁化反転単位は、粒子間に磁気的な交換相互作用が作用する場合は、交換結合された複数の磁性粒子から構成される。
【0005】
従来、例えば数100Mbpsiから数Gbpsiの記録密度においては、媒体の低ノイズ化は、主に磁性粒子間の交換相互作用を低減し磁化反転単位を小さくすることにより実現してきた。最新の10Gbpsi級の磁気媒体では、磁化反転単位は磁性粒子2−3個分にまで縮小されており、近い将来、磁化反転単位は磁性粒子一つに相当するまで縮小するものと予測される。
【0006】
従って今後さらに磁化反転単位を縮小して所定のS/Nを確保する為には、磁性粒子の大きさ自身を小さくする必要がある。磁性粒子の体積をVとおくと粒子の持つ磁気的エネルギーはKuVで表わされる。ここでKuは粒子の磁気異方性エネルギー密度である。低ノイズ化の為にVを小さくするとKuVが小さくなり室温付近の熱エネルギーによって記録情報が乱れる、という熱擾乱問題が顕在化する。
【0007】
Sharrockらの解析によれば、粒子の磁気的エネルギーと熱エネルギー(kT;k:ボルツマン定数、T:絶対温度)の比、KuV/kTは100程度の値でないと記録寿命の信頼性を損ねる。従来から媒体磁性膜に用いられてきたCoCr基合金のKu(2−3×10erg/cc)では、低ノイズ化の為に粒径微細化を進めると熱擾乱耐性の確保が困難な状況に至りつつある。
【0008】
具体的には、現行の磁気記録媒体に採用されているCo−Cr−Ta−Pt系多粒子膜のKuは2〜4×10erg/cc程度なので、粒子サイズが10nmφ−10nmt程度になると、粒子一つの持つ磁気エネルギーは室温の熱エネルギーの100倍を下回り、熱擾乱による情報の破壊が顕在化する。媒体材料を改良しKuを大きくするのが、一見一つの解決策にも見えるが、Kuを高くすると同時に保磁力が高くなるので、記録しにくくなるという問題がある。
【0009】
そこで近年、CoPt,FePdなど10erg/cc以上のKuを示す磁性膜材料が注目を浴びてきているが、粒径微細化と熱擾乱耐性を両立する為に、単純にKuを上げると別の問題が顕在化する。それは記録感度の問題である。すなわち、媒体磁性膜のKuを上げると媒体の記録保磁力Hc0(Hc0=Ku/Isbと定義され、ここでIsbは媒体磁性膜の正味の磁化を表す)が上昇し、Hc0に比例して飽和記録に必要な磁界が増加する。
【0010】
記録ヘッドから発生し媒体に印加される記録磁界は記録コイルへの通電電流の他に、記録磁極材料、磁極形状、スペーシング、媒体の種類、膜厚などに依存するが、高密度化に伴い記録磁極先端部のサイズが縮小することを考慮すると、発生磁界の大きさには限界がある。
【0011】
例えば、最も発生磁界の大きな単磁極ヘッドと軟磁性裏打ち垂直媒体の組合せでも、記録磁界の大きさは高々10kOe(Oe:エルステッド)程度が限界である。一方で将来の高密度・低ノイズ媒体に必要な5nm程度の粒径で、十分な熱擾乱耐性を得る上では、10erg/cc以上のKuを示す磁性膜材料を採用する必要があるが、その場合、室温付近における媒体の記録に必要な磁界は10kOeを軽く上回る為、記録が出来なくなる。従って単純に媒体のKuを増加させてしまうと、記録自体が出来ないという問題が顕在化するのである。
【0012】
以上説明したように、従来の多粒子系媒体を用いた磁気記録では、低ノイズ化、熱擾乱耐性の確保、記録感度の確保がトレードオフの関係にあり、これが記録密度の限界を決定する本質的な要因となっいた。
【0013】
一方、光記録装置に目を向けると、光記録の高密度化は基本的には、媒体面上でのレーザスポットサイズの縮小に依るものなので、レーザ光の短波長化もしくは対物レンズの高NA化が必須である。しかしながら、レーザ光の短波長化はレーザ素子材料上の制約を受ける他、光ディスク媒体の基板を筆頭に各種光学素子の分光透過率特性にも制限を受ける。近年、近接場光(エバネッセント波)を利用する超高密度光記録の提案がされているが、近接場光の場合、媒体上での光スポットサイズと光強度が原理的にトレードオフの関係にあるので、実用化には解決すべき課題も多い。
【0014】
従って、将来のTb(テラビット)/inchを超えるクラスの記録密度を有する周辺記憶装置を構築するに際しては、従来の磁気記録方式でも光記録方式でも多大なる困難を伴うと予測される。
【0015】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものである。すなわち、そのひとつの目的は、従来の磁気記録装置とは異なる原理に基づく新規な構成により、記録密度を飛躍的に改善することが可能な磁気記録装置を提供することにある。
【0016】
また、本発明のもうひとつの目的は、従来の周辺記憶装置が有する記録密度限界を打破するべく、磁気記録における熱擾乱問題の解決、光記録における近接場光の有するトレードオフ問題を解決する電子線記録装置を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する手段として、本発明者は、新規な着想に基づく熱アシスト磁気記録装置を提案する。熱アシスト磁気記録装置においては、十分にノイズが低くなる程度に微細な磁性粒子を用い、且つ熱擾乱耐性を確保する為に室温付近で高いKuを示す記録層を用いる。このような大きなKuを有する媒体は、室温付近では記録に必要な磁界が記録ヘッドの発生磁界を上回り記録不能である。これに対して、媒体を何らかの手段で局所的に加熱すると、加熱部のHc0を記録ヘッド磁界以下に低下させて記録することができる。
【0018】
媒体を加熱する手段としては、記録磁極の近傍に光ビームを照射する方法も考えられる。この光ビームによって記録時に局所的に媒体を加熱すれば、加熱部のHc0をヘッド磁界以下に低下させて記録することが可能となる。
【0019】
しかしながら、通常の光源から得られる光ビームを加熱源として用いると、光スポットのサイズが回折限界で規定される為に、加熱領域が数100nm以上と大きく、将来のトラック幅が100nm以下となる磁気記録には不適当である。回折限界以下に光を絞り込む方法としてニアフィールド光の利用も考えられるが、従来の光源から取り出されるニアフィールド光では光の利用効率が悪く、加熱領域の微細化と照射パワーがトレードオフの関係にある為、記録密度を高密度化すると十分な加熱ができなくなる。
【0020】
つまり、加熱源としてファーフィールド光を用いる形態では、光スポットサイズが回折限界で規定される為、微小領域の加熱が不可能であり、一方、ニアフィールド光を用いる形態では、光利用効率が低く、高密度化するほど十分な加熱が困難となる。
【0021】
これに対して、本発明においては、加熱源として電子ビームを利用する。
【0022】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の熱アシスト磁気記録装置は、電子放出源と、記録磁極と、前記電子放出源及び前記記録磁極に対して磁気記録媒体を相対的に走行させる走行機構を備え、前記走行機構により前記磁気記録媒体を走行させた際に、前記電子放出源が前記記録磁極よりも前記磁気記録媒体の走行方向に関してリーディング側に設けられており、前記走行方向を記録トラックの長手方向とした時に、前記電子放出源の記録トラック幅Teは、前記記録磁極の記録トラック幅Twに対して、Te/2≦Tw≦2Teなる関係を満足し、 前記磁気記録媒体に対して前記電子放出源から電子を放出することにより前記磁気記録媒体の記録部を加熱昇温した状態で前記記録磁極により磁気的に情報を記録可能とし、前記電子放出源は、非酸化性雰囲気もしくは減圧雰囲気にあり、前記電子放出源における酸素分圧密度をX( mols/cm 3 )、放出電子電流密度をJ( A/cm 2 )とした時に、X≦1.25×10 12 ×J、且つJ≧10 なる関係を満足し、前記記録部における前記記録磁極からの記録磁界よりも前記記録部の保磁力の方が小さくなるように前記磁気記録媒体を加熱昇温し、かつ前記記録部は、常温において前記記録磁極からの記録磁界よりも大きな保磁力を有することを特徴とする。電子ビームは、スポットサイズを極めて微小に絞ることが容易であり、記録密度を大幅に改善することができる。また、電子放出源は、非酸化性雰囲気もしくは減圧雰囲気にあり、前記電子放出源における酸素分圧密度をX( mols/cm 3 )、放出電子電流密度をJ( A/cm 2 )とした時に、X≦1.25×10 12 ×J、且つJ≧10 なる関係を満足する雰囲気におけば、信頼性や寿命をさらに改善することができる。
このような構成とすることにより、保磁力の大きな記録媒体に確実に記録することができる。また熱擾乱に強く、記録セルサイズを従来よりもはるかに微小化することが可能となる。さらに、記録する前に確実に記録部を昇温することができる。
【0026】
ここで、前記電子放出源は、前記磁気記録媒体の走行方向に沿って複数の電子放出部を有することとすれば、記録部を確実に昇温することができる。
【0028】
また、前記電子放出源は、電界放出によって前記電子を放出するものとすれば、微小な電子ビームを確実に形成することができ、信頼性や寿命も良好なものとなる。
【0045】
本発明の熱アシスト磁気記録の方式においては、加熱源として電子放出源を採用する。電子放出源としては、電界放出型や熱電子放出型、光電子放出型あるいはトンネル電子放出型などの各種のものを用いることが可能である。「電界放出型」とは、電子放出面において高い電位勾配(電界)を設けることにより直接電子を放出させる形式のものをいう。「熱電子放出型」とは、陰極を加熱することにより熱電子を放出させる形式のものをいう。本発明においては、特に電界放出型の電子放出源を採用した場合、電子放出領域は10nm程度なので、媒体の10nm程度の領域を選択的に加熱することが容易であり、従来提案されていた光ビームを用いる方式の分解能を遥かに超えることができる。しかし、熱電子放出型の電子放出源を用いた場合においても、電子線を所定のビームサイズに収束すれば同様の効果を得ることができる。
【0046】
従来より電子線の利用は真空中で為されるのが常識とされてきたが、磁気ヘッドと媒体間のスペーシングが数10nm以下であること、さらに今後このスペーシングはさらに狭くなる事、及び大気圧下における電子の平均自由行程は150nm程度とスペーシングに比較して十分に長いことを考慮すれば、媒体に近接して電子放出源を配置すれば、放出された電子ビームは無衝突で媒体に照射可能であると言え、通常の大気圧に置かれる磁気記録装置への電子放出源の搭載が可能である。
【0047】
ここで、電子の平均自由行程は、ガスの種類と電子のエネルギーに依存するが、空気の主要構成成分の一つである窒素場合、電子エネルギーが2eV程度で最も平均自由行程は短くなる。この2eVのエネルギーを有する電子の大気圧窒素中での平均自由行程が150nmである。また、空気のもう一つの主要構成元素である酸素の場合、電子エネルギーが20eV程度の時に最も平均自由行程が短いが、この時の平均自由行程は300nm程度と前記スペーシングに比較すると十分に長い。
【0048】
さらに、本発明に従って減圧雰囲気を用いれば、電子ビームが媒体に入射するまでの衝突確率はさらに低いと言える。又、本発明のもう一つのやり方である不活性ガス雰囲気を用いる形態では、ドライ窒素の場合は前記した通り、電子の平均自由行程は短くとも150nm程度であり、Ne,Ar,Kr,Xeなどの希ガスを用いる場合には、1気圧下での電子の平均自由行程の最小値は各々のガスに対して、1000nm,160nm,130nm,94nmといづれもスペーシングに比較して十分に長く、電子は殆ど無衝突で媒体に入射可能であることに変わりはない。
【0049】
また、記録装置の内部を大気圧付近の不活性ガス雰囲気とすると、電子源の寿命をさらに伸ばすために好ましいが、不活性ガスとしてドライ窒素を用いる場合には、前述のように電子の平均自由行程は短くとも150nm程度であり、Ne,Ar,Kr,Xeなどの希ガスを用いる場合にも、上述のように十分にながい平均自由行程が得られ、いずれの場合も、スペーシングを数10nmとすれば、本質的には真空中の動作と同等になる。このように、ドライ窒素や希ガス雰囲気を採用して安定した性能を得ることができる。
【0050】
また、雰囲気の圧力については、大気圧付近であっても良く、あるいは大気圧よりも高くても低くても良い。但し、実用の観点からは実質的な大気圧とすることが便利である。
【0051】
装置内の圧力をP(Torr)、1気圧における電子の平均自由行程の最小値をλmin(nm)、電子放出部と媒体の間隔をd(nm)としたときに、本発明は基本的に、次式を満たすことが望ましい。
【0052】
d<λmin×(760/P)
ここで、λminの定義は、電子がλminだけ走行した時に、1/e(eは自然対数)の確率で無衝突であるものとする。つまり、d=λmin×(760/P)の条件においては、電子が放出されてから媒体に流入するまでに約63%の確率で気体分子に衝突することになる。より好ましくは、次式を満たすことが望ましい。
【0053】
d<(1/3)×λmin×(760/P)
この条件においては、衝突確率を1/2未満とすることができる。上式の係数(1/3)の代わりに(1/5)を用いると、さらに望ましい。この程度の係数とすると、衝突確率は実用上差し支えない程度の小さい値に抑えることができるからである。
【0054】
圧力Pの範囲は実質的に大気圧であり、上式で表される条件を満足する範囲で、且つその下限は実用的な装置が可能であるか否かにより決定することができる。装置内部の圧力が大気圧と異なる場合、あるいは大気圧でも、大気とは異なるガスを充填する場合には、密閉型の筺体が必要とされる。
【0055】
密閉型の筐体を用いる場合、筐体の機械的強度が圧力Pの下限を決定する場合がある。従来の真空中の電子線記録装置の場合には、筐体に1kg/cm2もの圧力がかかるため、その機械的強度を十分にすることが容易でなく、また、真空状態を維持することも容易でない。
【0056】
これに対して、本発明によれば、圧力Pの下限は、実用的に許容される加重と真空封じ方式により決定することができる。これは筐体の設計事項であるので一概に数値を固定できないが、常識的な下限値としては、0.5気圧程度を挙げることができる。この圧力以上であれば、筐体にかかる圧力は0.5kg/cm2程度であり、密閉度も例えば、アルミサッシの窓材と同程度の簡便なものでよい。
【0057】
圧力Pの上限値は、基本的には、上述の式で規定されるが、下限値と同様の考え方から、実用的な上限値は2気圧程度である。本発明における「実質的に大気圧」の意義は、上述の通りである。
【0058】
一方、電界放出型電子源の電子放出領域のサイズは、印加電界と放出源の形状に依存するが、10−10V/cmの電界、選択エッチングもしくは先端曲率が数10nm以下の先鋭な形状においては、10nm程度である。光ビームでは実現が困難なサイズであり、将来の記録セルサイズが数10nmクラスの磁気記録装置へ電子放出源を適用することが好適である。放出電流は印加電界に依存するが、10−10V/cmの電界では直径10nmの領域から10−6−10−4A程度の放出電流を得ることが可能である。
【0059】
ここで、放出電流はファウラーノルトハイムの式に従い印加電界強度の二乗にほぼ比例する。従って例えば3.3×10V/cmの電界強度であれば、10−3Aの放出電流を得ることも可能である。10−10V/cmは一見極めて高い値にも見えるが、スペーシングが数10nmであることを考慮すれば、電子放出源と媒体の間に印加すべき電圧の値としては、高々数から数10Vであり、磁気記録装置への適用が十分に可能な値であることが判る。
【0060】
次に、電子ビームによる媒体加熱のメカニズムについて説明する。10Vの印加電圧(10nmスペーシング、10V/cm)で10−4Aの放出電流は10−3W、33Vの印加電圧(10nmスペーシング、3.3×10V/cm)で10−3Aの場合には3.3×10−2Wのパワーになる。このパワーが例えば媒体の10nm四方の領域に投入される場合、パワー密度は、10W/cmあるいは3.3×1010W/cmとなる。又、磁気ディスク装置における実用的な線速度(トラック方向への媒体の移動速度)として10m/sを用いると、10nmの加熱領域を媒体が通過する時間は、1nsであるから、媒体の10nm四方の領域に投入されるエネルギー密度は、1J/cmあるいは33J/cmとなる。この値が媒体を加熱する上で十分かどうか検討する。
【0061】
電子線による加熱機構としては、電子線がドブロイ波として振る舞い、媒体を加熱する機構を挙げることができる。ドブロイ波の波長は、電子のエネルギーが10Vの場合に0.4nm程度、33Vの場合に0.2nm程度であり、原子のサイズと同等であるので、格子振動(加熱)を起させることができるる。または、このようなエネルギを有する電子線が媒体に入射してプラズモンを振動励起し、プラズモン振動した電子・正孔対が再結合する際に放出するエネルギーをフォノン即ち格子に与え、格子振動即ち熱を誘起するメカニズムも推定される。
【0062】
加熱に必要なパワー密度、エネルギー密度は、光ディスクのそれらと同等に捉えることができるので、光ディスクで用いられているパワー密度もしくは投入エネルギー密度と比較して前記の10W/cmあるいは3.3×1010W/cmもしくは1J/cmあるいは33 J/cmが同等以上であれば、媒体を十分に加熱できると言える。例えば通常の相変化ディスクにおいては、線速度6m/s、光スポットの全半値幅0.6μm、記録パワー10mWで媒体をその融点(600℃)以上に加熱出来ている。媒体が光スポットの全半値幅を通過する時間は100ns、スポット面積は0.28×10−8cm2であるから、パワー密度としては、3.5×10W/cm、エネルギー密度としては0.35J/cmである。従って、1J/cmのプラズモン励起による媒体加熱は十分に可能と判断できる。
【0063】
プラズモン振動に重畳する加熱機構は電子ビームが媒体中を通電してジュール加熱する機構である。この場合はジュール熱を前記の光ディスクのパワー密度と比較すれば良い。媒体の10nm四方の領域に膜厚方向に10−4Aあるいは10−3A通電した場合の加熱パワーはR×10−8WあるいはR×10−6Wである。ここでRは媒体の抵抗である。磁気媒体もしくは光磁気記録媒体に用いられる磁性膜の比抵抗は、5−6×10−6Ωcm、電流パスの面積は10−12cm(10nm四方)、電流パスの長さ即ち磁性膜厚を2×10−6cm(20nm)とすると、Rは10Ω程度となる。従って加熱パワーは10−7Wあるいは10−5W、これを加熱面積(10−12cm)で割ると10W/cmあるいは10W/cmが得られる。通電時間は電子ビームの照射時間とは異なるので、ジュール加熱の機構で考える場合には、エネルギー密度ではなくパワー密度で比較すれば良い。従って10−4Aでは若干不足するが、10−3Aでは十分なジュール加熱が起こるものと判断できる。
【0064】
実際には、プラズモン振動励起を介して媒体が加熱する過程と、通電によるジュール加熱が共存するが、上記したようにいづれの過程でもパワー密度、エネルギー密度的に十分なので、加熱のメカニズムはどちらでも良い。
【0065】
本発明の熱アシスト磁気記録ヘッドの好ましい態様は、媒体進行方向の上流(リーディング)側から、電子放出源、記録磁極の順番に配されている熱アシスト磁気記録ヘッドである。このように配置することで、媒体が電子ビーム加熱された直後のHc0が十分に低下している位置で、記録磁界を印加することが可能となる。電子ビーム照射位置と記録磁界印加位置との距離は、媒体の熱応答にも依存するが、好ましくは100nm以下より好ましくは数10nm以下とするのが良い。
【0066】
加熱の効率をより高める上では、電子放出源の電子放出部が記録トラック方向に複数配されているのが好ましい。加熱領域のサイズは記録トラック幅と略一致しているのが、トラック幅全体に亘り一様な磁化転移を形成する上で好ましく、電子放出源のトラック幅をTe、記録ヘッドのトラック幅をTwとする時、Te/2≦Tw≦2Teなる関係を満足するのが良い。
【0067】
通常の磁気ディスク装置は、内部雰囲気が大気であるが、酸素や水が存在する雰囲気中で電子ビームを用いようとする場合、電子の平均自由行程以外にもう一つ考慮しなければならないのは、電子放出源の寿命である。大気圧下では電子放出源に空気分子あるいは空気中の水分子が吸着して電子放出源の寿命を損ねる可能性がある。近年、開発が活発に進められている電界放出型電子ビーム源は、従来の熱放出型電子ビーム源、光電子放出型電子ビーム源とは異なり、吸着分子に対する耐久性が格段に高く、特に炭素(C)を電子放出源とする場合、酸化の影響は少ないが、実用的な寿命を確保する上では、エミッター近傍のガス雰囲気、特に酸素、水及びそれらの解離種の密度と、それらのエミッターへの入射頻度を低く抑える必要がある。
【0068】
本発明者は、主にSTM(scanning tunneling microscopy)のエミッターを用いた実験結果から、安定して電界放出電流を得る為に必要なエミッター周辺雰囲気を見出した。エミッター周辺雰囲気がどうあるべきかは、後述の実施例に記載するように、エミッター材料に依存するが、表面酸化膜が容易に形成されるシリコン(Si)を用いた場合においても、エミッター周辺雰囲気中の酸素分子密度をX(mols/cm3)、エミッターからの放出電子電流密度をJ(A/cm2)とおく時、J≧10においてX≦1.25×1012×Jを満足していれば、安定して電子を放出することが可能な事を発明者等は見出した。Jの範囲限定の意味は、媒体を有意に加熱するに必要なJの範囲を示しているもので、有意な加熱が起こらない程度の放出電流、もしくはエミッター動作停止時には、XとJの関係を規定しても全く意味をなさない。
【0069】
エミッター停止時は、エミッター表面に自然酸化層が形成されるか、物理吸着層が形成されるが、本発明の条件式を満たせば、これらの層は次のエミッター動作によって容易に脱離する。本発明のX,Jの関係規定は、あくまで媒体を有意に加熱し得る放出電流動作をしている際に、エミッター先端が酸素にアタックされて劣化しない為の条件を提供するものである。X,Jの関係式は物理的には、エミッターから100個の電子が放出される間に一個の酸素分子がエミッター表面に流入することを意味しており、この程度の流入量であれば、電子放出によるエミッター表面の加熱などによって、流入酸素は再脱離し、エミッター表面を劣化することが無いことを実験的に見出した結果である。
【0070】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
【0071】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の熱アシスト磁気記録ヘッドの一実施例の構成を示す図であり、同図(a)は媒体も含めたヘッド記録素子部の側断面主要構成を示す図、同図(b)は媒体面側からヘッドの記録素子部主要構成を見込む図である。図1(b)のA−A’は記録トラックの中心線に対応し、この線に垂直にヘッド、媒体を切断した面から見た図が同図(a)に相当する。
【0072】
図1において、Sはヘッド基板、Xは媒体進行方向(トレーリング方向)、10は記録磁極部全体、11は主磁極部、12はリターンパス磁極部、13は主磁極先端部、14は主磁極とリターンパス磁極の接続部、15は記録磁極リーディング部、16は記録磁極トレーリング部、17は記録磁束、21は記録コイル、22は記録コイル埋め込み部、30は電子放出源電極、40は電子放出源、41は電子ビーム、50は保護膜、60は媒体主要部、61は記録層、62は軟磁性裏打ち層、63は媒体の電子ビーム照射部、64は媒体の磁化固定部、65は媒体の磁化である。上記構成の中で、記録磁極リーディング部15、記録磁極トレーリング部16、保護膜50は必ずしも必要ではない。
【0073】
上記構成の熱アシスト磁気記録ヘッドは、例えば以下の手順で作成することが可能である。
【0074】
まず、基板Sとしては、例えばスライダー加工し易い通常の磁気ヘッドに用いられるアルチック基板が好適である。基板上に直接、もしくは必要に応じて設けられる絶縁膜上にフレームメッキ法を用いて、記録磁極部10を形成する。その材料としては、CoNiFe,NiFeなど通常の磁気記録素子に使用される軟磁性・高飽和磁束密度のものが用いられる。記録磁極部全体を高飽和磁束密度の材料で形成する必要は無く、主磁極先端部13のみを高飽和磁束密度の材料で形成しても良い。
【0075】
磁極部10を形成した後に、レジストフレームを除去して、コイル形成部22をエッチングオフしても良いし、記録磁極部の中で、リーディング部15、主磁極とリターンパスの接続部14、トレーリング部16を先ず平面上に形成した後にフレームパターンを変えて、主磁極11とリターンパス磁極12を形成する。主磁極の高さとリターンパス磁極の高さは同一でも、リターンパス磁極の高さが低く調整されていても良い。主磁極先端部13の加工はトラック幅が比較的広くPEP工程で作成可能な場合には、レジストフレームを用いて行っても良く、その場合には、主磁極11のトラック方向の幅と線端部13のトラック幅を一致させて、一括フレームメッキ形成しても良い。トラック幅が100nm以下の場合にはPEP工程の採用は困難であるので、先ず主磁極部11と先端部13のトラック方向の幅を一致させてメッキ形成した後に、後工程でFIB加工により、先端部13のトラック幅を決めるのが良い。
【0076】
次に、記録磁極パターンのリーディング部15、接続部14、トレーリング部16の上部に、記録コイル埋め込み部22を形成する。22の状面に記録コイル21のパターンと、電極30のパターニングを行い、メッキ法で例えばCuコイル21とCu電極30を一括形成する。必要に応じてCuコイル部21周辺及びCu電極30周辺のレジストが露出している部分の上に後プロセス用の保護コーティングを行う。ここでは保護膜として50を形成した。ここで電極30と電子放出源40の電気的な接続を行う為、電極30上には、絶縁性の膜は設けない。
【0077】
次に、電子放出部を形成する。
図2は、図1の電子放出部近傍の拡大図であり、電子放出部作成工程を示す工程断面図である。同図2を参照しつつ電子放出源部の形成プロセスを説明すると以下の如くである。なお、図2において図1と同等の機能を有する要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0078】
前記工程に引き続き、記録磁極の最上面即ち先端部13の上面(工程の途中では主磁極部11の上面と一致)までレジスト23を埋め込み、必要に応じて平坦化した後に、レジスト面上に誘電体膜もしくは金属膜24を形成し図2(a)の形状を得る。誘電体膜もしくは金属膜24はレジストとの選択エッチングが可能な材料であれば何でも良い。
【0079】
次に、誘電体膜もしくは金属膜の電子放出源部に孔25をパターニングして図2(b)の形状を得る。孔の形状は円形でも正方形でも長方形でも構わないが、作成すべき電子放出源40の先端幅が記録トラック幅と略一致するようにトラック幅方向の孔の長さを規定するのが良い。トラック方向の孔の長さは、以下に説明する電子放出源の先鋭な形状が作成可能な長さに規定するのが良い。
【0080】
例えば、トラック幅をTwとし、作成する電子放出源40の高さをHeとおく時、孔のトラック幅方向の長さはTw+2nHe程度、孔のトラック方向の長さは2nHe程度するのが、効率的な電界放出が起こる先鋭な先端形状を得る上で好ましい。nは、電子放出源材料を形成する際の孔25への入射角度分布に依存するパラメータで、垂直入射に近い場合には、nは小さく、等方入射に近いほどnは大きい。n=1の時、電子放出源のテーパ角が45°となる。即ち孔の大きさは、トラック幅Twの他に、電子放出源の形成手法で決まるnと、電子放出源40の高さの両方に依存する。
【0081】
具体例としては例えば記録トラック幅Tw(記録主磁極先端部13のトラック幅)を0.75μmとし、Heを0.25μmとし、孔サイズをトラック幅方向に1.25μm、トラック方向に0.5μmとした(n=1)。孔加工はPEP工程で行ってもFIB加工で行っても良い。
【0082】
次に、この孔を介してレジスト23のウエットエッチングを行い、電子放出源40の設けられるべき位置に空洞部26を形成して図2(c)の形状を得る。次に電子放出源材料を蒸着もしくはスパッタ法などを利用して孔25の上面から入射する。電子放出源材料としては、Mo,W,Taなどの高融点金属、Si,Ge等の半導体、C等を用いる事が可能であるが、大気中で安定した電子放出寿命を得る上ではCを用いるのが好適である。
【0083】
電子放出源材料を孔25の上面から孔中に形成していくと、最初は電極膜30の上に孔25のサイズとほぼ等しいサイズで電子放出源材料の島が形成される。電子放出材料は電極膜30上に形成されると同時に膜24上にも42として形成される。膜42の孔25へのつきまわりは、電子放出材料の孔方向への入射角度分布で規定され、これは制御可能である。
【0084】
例えばスパッタ法を採用する場合には、スパッタリングターゲットと孔25間の距離、スパッタガスの圧力によって、あるいはスパッタリングターゲットと孔25の間にスルーホールを設け、スルーホールのアスペクト比によって入射角度分布を制御する事ができる。入射角度分布が孔25に対して垂直に近い程、電子放出源40のテーパ角度(電極膜30からの立上り角度)は大きく形状が急峻になり、入射角度分布が等方に近い程、電子放出源40のテーパ角度は小さく形状がなだらかになる。
【0085】
重要なのは、先端部の曲率半径を10nm程度に先鋭化することと、先端部の高さが記録磁極先端部の上面と略一致するようにすることである。これらは、レジスト23の厚み、膜24の厚み、孔25のサイズ、電子放出源材料の形成方法により制御可能である。このようにして電子放出部40を成長させると、電極膜30に近接する部分では孔25と同一サイズだったものが、孔25に電子放出材料が逆テーパ状に形成されて実効孔サイズが縮小されるのに伴って、徐々に先細りの形状を呈しながら成長していく。
【0086】
図2(d)は、電子放出源40の形成途中の形状を示す図である。
【0087】
さらに電子放出源材料の成長を続けると、次第に放出源40の先端が細り、膜24上の電子放出源材料層42が孔25を塞ぐまで成長すると先鋭な放出源40の形成が完了し、図2(e)の形状を呈する。電子放出源の形状を電子顕微鏡観察した所、側壁テーパ角がほぼ45°のトラック幅方向に長くトラック方向に短いリッジ形状を呈し、先端部のトラック幅はほぼ0.75μm、先端部曲率はほぼ10nmである事が確認された。
【0088】
最後に、膜24及びレジスト23を除去すれば、図1の形状の熱アシスト磁気記録ヘッドを得ることができる。図1には再生素子部は描いていないが、通常のプラナータイプの磁気ヘッドと同ように例えば、記録素子部のリーディング側もしくはトレーリング側に形成すれば良い。
【0089】
図3は、図1のリーディング側もしくはトレーリング側に配置することのできる再生素子部の一実施例を示す図である。図3において、Sは基板、Xは媒体進行方向(トレーリング側)、7は調整層、8は電極、9はヨーク、91はヨーク先端部、10はGMR(giant magnetoresistive)素子、11は絶縁部、60は媒体、61は記録層、62は裏打ち層である。上記構成中、調整層7は必ずしも必要では無い。図3においても、図1あるいは図2と同等の機能を有する要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0090】
図3に例示した再生素子部は、前記した記録素子部と平行して以下のようにして作成することが可能である。例えば、アルチック基板上にヨーク先端91の上面を、記録磁極先端部13の上面と略一致させる為の調整層7を形成する。次に、調整層7の上にレジストフレームを形成して例えばCu電極8を形成する。レジストを除去後、例えばSiO2絶縁部11をGMR素子部10の下面位置まで埋め込み形成した後、テーパエッチングして電極8を露呈する。ここに、ヨーク部9をGMR素子部10の下面までフレームメッキ法で形成し、必要に応じて平坦化した後、GMR素子部を形成してパターニングする。GMR素子部としては例えば、Co/Cu/Co/FeMn積層膜を用いることが可能である。
【0091】
次に、絶縁部11のGMR上部の部分を形成してテーパエッチングして、ヨーク下部を露呈した後、ヨーク上部をフレームメッキ形成する。ヨーク先端部91及び、再生ギャップ(二つの先端部の間)は微細加工が必要であり、必要に応じてFIB加工をして数10nmのパターンを形成する。ヨーク先端部91で媒体60の記録層61の磁化の向きで決まる信号磁界を掬い上げ、埋設されたGMR素子で再生する。
【0092】
上記のように作成した電子放出源40を具備する図1の磁気記録素子部、図1のトレーリング側に配された図3の再生素子部を搭載する基板を、列切断、チップ切断、スライダー加工を行ってサスペンションに取付け本発明の熱アシスト磁気記録ヘッドを得ることができる。ここで、アルチック基板以外の適当な基板上に薄膜素子を作成して保護部材を比較的厚くコートした後、基板から薄膜素子部を剥離して、スライダーに貼付け、面出し加工を行っても本発明の熱アシスト磁気記録ヘッドを得ることが可能である。
【0093】
本発明の実施に際しては、電子放出源先端の電界強度が重要なので、ヘッドを浮上動作すると浮上量変動が電界強度の変動となって好ましくない。その為、スライダー形状を接触パッド型にして接触動作を可能とすると良い。接触動作の場合には、浮上量変動は無く、ヘッドと媒体の間に作用する荷重変動となる。ヘッドの媒体摺動面にはヘッドの保護を目的として5nm程度の厚みのDLC(diamond-like carbon)膜をコートした。
【0094】
次に、本発明の熱アシスト磁気記録装置に搭載可能な媒体の実施例について説明する。媒体の基本的な構成は、図1に示した通りである。図1では、簡単のために媒体保護膜、潤滑層は示していないが、これらは通常は設けることが望ましい。本具体例においては、媒体として軟磁性下地層付垂直磁化・多粒子系膜を用いることができる。すなわち、ガラス基板上に、軟磁性下地膜62としてNiFe膜を100nm、その上に膜厚20nmのCoPt−SiO2垂直磁化・多粒子系薄膜61、さらにC保護膜3nmを連続してスパッタ形成し、潤滑剤をコーティングした後、テープバニッシュにより表面突起を除去する。本具体例では記録層としてSiO母材中にCoPt磁性粒子が分散する構造の所謂グラニュラー膜を採用したが、これは磁性粒子の粒径制御、含有率制御などがやり易い為である。CoPt−SiO記録層形成時は、CoPtターゲットとSiOターゲットの2元同時スパッタとし、各ターゲットへのスパッタ入力を変えて粒径とCoPt含有比を制御する。また、スパッタ中に基板にバイアスを印加し、バイアスパワーによって粒径のみを独立制御することも可能である。
【0095】
記録再生実験を行う前に、別途、本発明に関わる媒体の組成、微細構造、磁気特性を調べた。典型的な条件で成膜したCoPt−SiO膜中のCoPt含有比は60vol%であった。また、微細構造分析の結果、CoPtとSiOは分離しており、SiO母材中にCoPt粒子が点在する構造を為す事が判った。CoPt粒子の平均粒径は約7nmであった。磁気特性の測定はトルクメータとVSMを用い、各々液体窒素温度から500℃の間で温度特性を調べた。室温における典型的な磁気特性は、Ku:4.5×10erg/cc、Hc:5kOe、Ms:400emu/ccであった。平均粒径を有する粒子の室温(300K)におけるKuV/kTは約125なので、本実施例で用いた媒体は室温付近では十分な熱擾乱耐性を示すものと言える。磁気特性は温度の関数として変化し、低温から高温に向けて単調に低下した。
【0096】
図4は、VSMで実測したHcと、シャロックの式を用いて推定したHc0の温度依存性を表すグラフ図である。VSMはループ測定に10分程度の時間を要するので、VSMループから得られたHcはその温度で10分程度の熱擾乱を受けた後の保磁力である。一方で、記録の関わる保磁力Hc0は、実際にヘッドで記録する際の10ns以下程度の高速磁化反転に要する磁界であり、これは熱擾乱の影響を殆ど受けない時間内で磁化反転するのに必要な磁界を意味する。10分程度の時間内では熱擾乱の影響を殆ど受けない温度領域ではHcとHc0はほぼ一致するが(0Kでは完全に一致する)、高温域ではHcはHc0を大幅に下回る。熱アシスト記録で重要なのはHcでは無くHc0なので、VSM測定とシャロックの式を組合せてHc0を求めた。
【0097】
その結果、室温付近のHc0は5.2kOeとHcとほぼ一致したが、熱アシスト記録の記録温度に相当する100℃以上の温度域ではHcはHc0を大幅に下回った。記録に必要な媒体飽和磁界は好ましくはHcoの2倍程度であるが、飽和磁界とHc0はほぼ比例関係にあるので、本願では記録に必要な磁界として以下Hc0を用いて説明する。ちなみに0Kでの異方性エネルギーKu0は8×10erg/cc、0Kでの飽和磁化Ms0は600emu/ccであった。膜中のCoPt含有比は前記したように60vol%なので、正味の磁化量Isbは1000emu/ccである。高温側のHc0を外挿するとキューリー点は500数10℃と推定され、Hc0が2kOeに低下する温度は約300℃と推定された。
【0098】
以上の磁気特性を有する媒体を、本発明の熱アシスト磁気ヘッドと共にスピンスタンド磁気記録再生評価機にセットし、媒体を10m/sでヘッドに対して移動させ、100kfciの孤立波出力相当の比較的低い線密度で記録再生試験を行い、再生出力電圧を調べた。ヘッドは接触動作とし、スペーシングは8nmから10nm、即ち、ヘッド保護膜厚と媒体保護膜厚の和(8nm)からこれらに潤滑層厚を加えた値(10nm)の間に制御した。録再動作の変数としては、電子放出源への印加電圧により放出電子電流を、記録コイルへの通電電流により記録磁界強度を、各々変えた。電子放出源の電極30に設置電位に対して負の電圧を印加し、媒体は設置電位とした。電子放出源に印加する電圧は直流でもパルスでも構わない。
【0099】
図5は、電子放出源への印加電圧Veとトラック幅1μm当りのGMR再生出力電圧Vsの関係を、記録コイルへの通電電流Iwをパラメータとして示すグラフ図である。図5においては、Iwが20mAと40mAの2例のみを表したが、Veが7.5V未満の条件では、Iwを幾ら大きくしても全く再生出力は得られなかった。これに対して、磁気ディスク装置として実用的なIw=40mAにおいては、Ve>15V、さらに好ましいIw=20mAではVe>25V程度の範囲で、高い飽和再生出力が得られ、本発明の効果が明確となった。
【0100】
ここで、図1の電子放出源40の先端部と記録磁極先端部13のリーディングエッジ間のトラック方向の距離(D)を変えて、幾つかの熱アシスト磁気記録ヘッドを試作して同様の評価を行った所、距離Dが大きすぎると電子ビーム加熱された媒体が記録磁界印加部に至るまでに冷めてしまって有意な記録が出来ない事が判った。有意な記録が可能なDの範囲は、単一の電子放出源を備えたヘッドの場合、500nm以下、好ましくは250nm以下、最も好ましくは100nm以下であった。図5の結果は、距離Dが250nmの場合に相当する。図5で距離Dが短い程、飽和記録に必要なVe,Iwの値は低下した。但し距離Dを幾ら短く設定した場合でも、Veが5V以下では有意な記録は出来なかった。ここで後述するように、トラック方向に複数の電子放出源を備えたヘッドの場合もしくは、リッジの稜線がトラック方向に設定されているヘッドの場合には、距離Dは上記よりも長くとも有意な記録をすることが可能となる。
【0101】
次に、本発明の熱アシスト磁気記録装置の記録メカニズムを図面を参照に説明する。
【0102】
図6は、本願の熱アシスト磁気記録ヘツドを用いた記録過程を模式的に示す図である。図6(a)は図1(b)の中で記録過程に関わる部分を抽出した断面図、図6(b)は媒体面での電子ビームプロファイルと媒体の温度分布を示すグラフ図、図6(c)は媒体保磁力の空間分布と記録磁界の空間分布を示すグラフ図である。図6(a)において、11は主磁極部、13主磁極先端部、17は主磁極が発生する磁束、30は電子放出源電極、40は電子放出源、41は電子ビーム、60は媒体、61は記録層、62は軟磁性裏打ち層、63は媒体加熱部、64は磁化固定部、65は磁化を各々示している。図6(a)においては、図1(b)と同等の機能を有する要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0103】
また図中、Veは電子放出源への印加電圧、Dは電子放出源先端と記録磁極先端部のリーディングエッジ間のトラック方向の距離、Xは媒体進行方向、Beは媒体面上での電子ビームプロファイル、Tmは媒体温度、Hc0は媒体の保磁力、Hwは記録磁界をそれぞれ表す。
【0104】
媒体をヘッドに対して移動させ(図6では紙面左から右;即ち左側がリーディング側、右側がトレーリング側)、電子放出源40にVeを印加して放出源先端部から電子ビーム41を記録層61に照射する。媒体に照射される電子ビームの空間分布は図6(b)中のBeに示される様な分布を呈する。このBeの分布を有する電子ビームにより記録層が加熱される。媒体は高速で移動しているので、記録層の温度は電子ビームプロファイルに対して、トレーリング側にピークシフトして伸びる形状、即ち図6(b)のTmの形状を呈する。記録層のHc0の分布は温度分布Tmと図4に示したHc0の温特で決定され、図6(c)のHc0で示される分布を呈する。このHc0の分布と記録磁極から発生して媒体を鎖交する磁束17の分布Hwの交線が、媒体の磁化の向きが決定される位置64になる。
【0105】
図6から判るように、Hc0の谷の深さは、照射する電子ビームのパワーもしくはエネルギーが高い程深く、Hwの山の高さは記録コイルへの通電電流Iwが大きい程高い。又、Hc0,Hwの交わる位置は電子ビーム源40先端位置と記録磁極先端部13のリーディングエッジ間の距離Dに依存して変化する。
【0106】
ここで、図6から本発明の熱アシスト磁気記録における磁化転移点は、従来の磁気記録における磁化転移点と異なり、記録磁極先端部のトレーリングエッジ以外の点にも位置することが判る。
【0107】
熱アシストを用いない従来の磁気記録では、媒体のHc0は空間的に一様であり、Hc0よりも大きな記録磁界が印加して磁化転移を形成したいた為に、磁化転移部は必ず記録磁極先端部のトレーリングエッジに位置していた。これに対して、本発明の熱アシスト磁気記録においては、磁化の向きが記録磁界の向きに揃うのはHc0とHwの二つの交線の間のみである。媒体がHc0とHwの間を通過するタイミングで記録磁界の向きが逆転した場合は、その位置において磁化転移が形成される。従って、磁化転移は必ずしも記録磁極のトレーリングエッジに形成されるのでは無く、リーディングエッジからトレーリングエッジ間のHc0とHwの交線間の任意の領域で形成される。
【0108】
また、図6には記録素子主要部と媒体の側断面のみが描いてあるが、媒体面上の電子ビームの強度分布がトラック幅方向に湾曲している時には、Hc0とHwの交わる線も湾曲する。従って、本発明の熱アシスト磁気記録によって形成される磁化転移もトラック幅方向に湾曲する場合が有る。磁化転移が必ずしも記録磁極先端部のトレーリングエッジでは無くHc0とHwの交線間の任意点で形成される点、磁化転移がトラック幅方向に湾曲する場合がある(基本的に媒体の等温度線の形状に従う)点が、従来の磁気記録と本発明の熱アシスト磁気記録の相違点として挙げることができる。
【0109】
以上説明した本発明の基本的な実施形態においては、信号出力の挙動を明確に調べる目的で低い記録周波数を選んだが、高い線密度で記録した時も同様であることは説明するまでもない。
【0110】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
前述した第1実施形態では媒体として多粒子系を用いたが、本発明は連続磁性膜すなわち非晶質状の磁性体膜を媒体として用いる場合にも効果的である。本実施形態においては、光磁気記録媒体として用いられている、非晶質希土類・遷移金属フェリ磁性合金膜(R−T膜)を搭載する媒体を試作して第1実施形態と同様の評価を行った。
【0111】
作成した媒体は、ガラス基板上に、Al合金系ヒートシンク層、TbFeCo記録層、C保護層、潤滑層を順次積層した構成である。ヒートシンク層は記録層の熱応答特性を調整する為に設けた。
【0112】
図7は、試作した媒体の熱磁気特性を表すグラフ図であり、同図において、Hcは保磁力、Msは再生信号に関わる飽和磁化である。光磁気膜の様な連続磁性体においては熱擾乱が無いので、HcとHc0は基本的に全温度領域で一致する。記録層の組成を調整して、室温(再生温度)付近でのMsを200emu/cc程度として、十分な磁気信号が得られるようにした。また、補償点を100℃程度、記録点は200数10℃、キューリー点は300℃とした。この媒体を第1実施形態の場合と同ように、本発明の熱アシスト磁気記録ヘッドと共にスピンスタンド評価機にセットして第1実施形態と同様の評価を行った。その結果、第1実施形態とほぼ同等の効果が得られた。
【0113】
図8は、図7の媒体を用いて本発明を実施する場合の記録過程の概念を表す説明図である。熱アシスト磁気ヘッドの構成、電子ビーム強度分布、媒体の温度分布は図6(b)と一致する。図6と異なるのは媒体のHc分布であり、100℃付近に補償点を設定したので、図6(b)と同様の温度分布Tmに対応して、図8のHc分布が形成される。このHc分布と記録磁極から供給される磁界Hwの分布の交線が磁化の向きが決定される位置である。
【0114】
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。
本実施形態は、図1もしくは図6(a)において、電子放出源先端部のトラック幅Teと記録磁極先端部のトラック幅Twを幾通りかに変えて本発明の熱アシスト磁気記録ヘッドを作成し、第1実施形態の媒体と組合せて、第1実施形態と同様の評価、並びにクロスイレーズ(隣接トラックの記録信号の消去)の評価を行った。
【0115】
本実施形態においては、記録磁極先端部のトラック幅を第1実施形態と同ように0.75μmに固定し、電子放出源作成時の孔(図2の25)のトラック幅方向の長さを変えて、電子放出源先端部のトラック幅Teを変えた。また、トラックピッチを1μmに設定して隣接する5トラックに記録周波数を変えて記録を行った後、真中のトラックに10回記録を行って隣接トラックの記録信号が劣化するかどうかを調べた。
【0116】
図9は、本実施形態における評価結果を表すグラフ図であり、横軸はTeとTwの比、縦軸は再生出力、Aは第1実施形態と同ように記録したトラックからの再生出力、Bは10回記録したトラックに隣接するトラックの(10回記録したトラックとは異なる周波数で予め記録した)再生出力である。AからTe/Twが1/2未満では急激に再生出力が低下することが判る。これはTe/Twが小さすぎるとトラック幅全体に亘り媒体を十分に加熱することが困難となり、トラックエッジ付近で有意な記録が出来なくなる為である。
【0117】
また、BからTe/Twが大きすぎると記録を繰り返した際に隣接するトラックに記録済みの信号を劣化させてしまうことが判る。これは、記録時に隣接するトラックには記録磁界は印加されないが、Te/Twが過大だと、隣接するトラックの端部を加熱し徐々に熱擾乱によるデータ破壊を発生させる為と考えられる。図9のデータから、本発明の実施においては、電子放出源のトラック幅Teと記録磁極先端部のトラック幅Twの間を、1/2Te≦Tw≦2Teなる関係に設定するのが好ましいことが判る。
【0118】
(第4の実施の形態)
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。
本実施形態においては、電子放出源先端部をトラック方向に複数有する熱アシスト磁気ヘッドを提案する。
【0119】
図10は、複数の電子放出源先端部を有する熱アシスト磁気記録ヘッドを例示する要部断面図である。図10において、11は主磁極部、13は主磁極先端部、30は電子放出源電極、401は第1の電子放出源、402は第2の電子放出源、403は第3の電子放出源である。図10においても、図1もしくは図6と同等機能を有する要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。図10には電子放出源を3個有する例を示したが、電子放出源は幾つ有っても構わない。但し本実施例の主たる効果はトラック方向に複数の電子放出源を設けることにより、媒体加熱効率を高める点にあるので、記録磁極から余り離れた位置に電子放出源を配置しても効果は薄い。好ましい電子放出源の数は、2−5個程度である。
【0120】
図10に例示した複数の電子放出源は、第1実施形態に関する図2に表したプロセスの若干の変更を加えることにより形成可能である。即ち、図2(b)に表した膜24に孔を開けるプロセスにおいて、トラック方向に所定のサイズの孔を複数個開ければ良い。複数の電子放出源を設ける形態では、電子放出源先端部間の距離は短い方が良いので、放出源401,402,403の作成時(図2(d)に対応)には放出源材料の形成を異方性の高い成膜法、例えばロングスロースパッタ、コリメーションスパッタ等を用いるのが良い。また、電子放出源の高さも低く設定するのが良い。
【0121】
このようにして形成した複数の電子放出源を有する熱アシスト磁気記録ヘッドを用いて、第1実施形態と同様の評価を行った結果、単一の電子放出源を有する第1実施形態の場合には有意な記録が可能な距離Dの範囲が500nm以下、好ましくは250nm以下、最も好ましくは100nm以下であったのに対して、本実施形態においては、第1実施形態の倍以上の距離Dでも十分な記録を行うことが可能であった。この場合の媒体温度は、個々の電子源が放出する電子ビームによる加熱がトラック方向に積算された形態を呈する。複数の電子放出源間の距離は、単一の電子放出源を有する場合の距離Dと同等の値とするのが良い。
【0122】
一方、複数の電子放出源を設ける代りに、電子放出源のリッジの向きを変えても同等の効果は得られる。具体的には、図1において、電子放出源をトラック方向に長い長方形にすれば良い(図1(b)で電子放出源を紙面内で90°回転させた形状とする)。この場合も媒体の電子照射範囲がトラック方向に長くなるので、媒体加熱効率は高い。この場合のトラック幅はトラック幅方向に複数の電子放出源を設けて規定しても良いし、単一の電子放出源で決定される数10nmとしても良い。ここで電子放出源の実効的な電子放出部は、前述もしたが、先端の10nm程度であるが、印加電界を高くすれば、20nm程度に拡張することが可能である。また、放出源先端部と媒体面との間の電界の分布が、媒体面側に多少広がる形状を呈する為に、媒体面での電子照射領域は、放出領域よりも広い。例えばスペーシングが10nm程度の場合には、放出領域に対して20−30%程度、照射領域は広い。スペーシングが狭いほど、放出領域と照射領域のサイズは等しくなる。
【0123】
(第5の実施の形態)
以上説明した実施形態ではプラナー型磁気記録ヘッドと電子放出源とを組合せた具体例を挙げたが、本発明は積層型薄膜磁気ヘッドにおいても実施することが可能である。
【0124】
図11は、積層型磁気ヘッドと電子放出源を組合せた本発明の熱アシスト磁気記録ヘッドの要部構成を示す断面図である。図11において、11は主磁極、12はリターンパス磁極、13は主磁極先端部、14は主磁極とリターンパスの接続部、21はコイル、22は埋め込み部材、30は電極、31は絶縁膜、32は再生ギャップ部、33は上部シールド、10はGMR再生素子部、60は媒体、61は記録層、62裏打ち層、Sは基板、Xは媒体進行方向である。図11においても、図1もしくは図3と同等の機能を有する要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0125】
図11に例示した熱アシスト磁気記録ヘッドは、例えば以下の手順で作成することが可能である。基板Sとしてはスライダー加工が容易なアルチック基板を用いるのが良い。基板上に絶縁膜を介するか又は直接、電子放出源用の電極30をストライプ状に形成し、その上にC膜をやはりストライプ状に形成する。平坦化後に、絶縁膜31を形成してフレームメッキ法により主磁極部11を形成する。主磁極先端部をエッチングして先端部13を加工する。
【0126】
次に、フレームメッキ法でCuコイル21を作成し連結部14の部分にスルーホールを形成した後、連結部14をフレームメッキ形成、続いてリターンパス磁極12をフレームメッキ形成し、表面を平坦化する。
【0127】
次に、再生ギャップ膜を半分ほど形成し、GMR素子部を形成、ハードバイアス膜とCuリードをGMR素子部の両端に設けた後、再生ギャップ部の残りの部分を形成し、上部シールド33を形成する。この状態では電子放出源の先端部はリッジ状では無く、四角柱状になっている。薄膜素子を形成した後に基板を列切断、チップ切断しABS面を露出する。この段階でABS面に保護膜をコーティングし、最後にC電子放出源先端部のテーパ加工をABS面側からFIBを用いて行う。この時、必要に応じて記録磁極先端部13のトリミング加工を同時に行っても良い。
【0128】
上記の手順に従って作成した本発明の熱アシスト磁気記録ヘッドを、前記実施例と同ように評価を行った結果、同ように本発明の効果を実証できた。
【0129】
(第6の実施の形態)
次に、本発明の第6の実施の形態について説明する。
本実施形態は、熱アシスト磁気記録装置のシステム構成に関する。
【0130】
図12は、本発明の熱アシスト磁気記録装置のシステム構成を例示するブロック図である。同図において、Ieは電子放出源駆動入力、Isは信号入力、Osは信号出力、101は電子放出源駆動回路系、102はヘッドに内蔵された電子放出素子、103はECC(誤り訂正コード)附加回路系、104は変調回路系、105は記録補正回路系、106はヘッドに内蔵された記録素子部、107は媒体、108はヘッドに内蔵された再生素子部、109は等価回路系、110は復号回路系、111は復調回路系、112はECC回路系である。
【0131】
熱アシスト方式ではない従来の磁気ディスク装置と比較すると、電子放出源駆動入力Ie、電子放出素子駆動回路系101、電子放出素子102が附加された点、前記実施形態に関して詳述したようにヘッドの構成が新規な点、前記実施形態に関して詳述したように媒体の熱磁気特性が特別に調整されている点、などが本実施形態の熱アシスト磁気記録装置を特徴付けている。
【0132】
電子放出素子駆動入力は、電子放出源へのDC電圧の供給で構わず、電子放出素子駆動回路系は特に設けずに電子放出素子をDC駆動しても構わない。また、変調回路の出力に同期させてパルス的に駆動しても良く、パルス駆動の方が回路構成は複雑化するが、電子放出源の寿命を長期化する上では好ましい。ECC附加回路系103とECC回路系112は特に設けなくても構わない。変復調の方式、記録補正の方式は自由に選定することが可能である。
【0133】
媒体への情報入力は、電子放出素子部102からの電子ビーム照射と、この電子ビーム照射でHc0が低下している媒体位置に、記録素子部106から記録信号変調された記録磁界を印加することにある。記録情報が媒体面上の磁化転移列として形成される点は従来の磁気記録装置と同等である。但し、媒体面上での電子ビームがトラック幅方向に湾曲している場合には、磁化転移もトラック幅方向に湾曲している点が特徴となる。磁化転移列から発生する媒体からの漏洩磁界を信号磁界として再生素子部108が検出する。
【0134】
再生素子部は、GMR型が典型的であるが、通常のAMR(anisotropic magnetoresistnace)型でも良く、将来的にはTMR(tunneling magnetoresistance)型を採用しても良い。
【0135】
上記構成を用いて本発明の熱アシスト磁気記録再生を実施した結果は、前記実施形態においてスピンスタンドタイプの実験評価系で得られた結果と同等である。
【0136】
(第7の実施の形態)
次に、本発明の第7の実施の形態について説明する。
本実施形態は、電子放出源付近の雰囲気を制御することにより、さらに信頼性を改善することができる熱アシスト磁気記録装置を提供する。
【0137】
まず、本実施形態にかかる熱アシスト磁気記録装置を説明する前に、本発明者が行った実験及びその結果について詳細に説明する。すなわち、本発明者は、本実施形態の構成に至る過程において、エミッター周辺の雰囲気がどうあるべきかを調べる実験を実施した。
【0138】
図13は、本発明者が行った実験に使用した装置の構成を示すブロック図である。すなわち、同図の装置は、STM(scanning tunneling microscopy)を改造したものであり、以下にその改造点を中心に説明する。
【0139】
まず、改造の1点目は、STMにおいて探針(本発明の電子放出源に相当する)として通常用いられているPt(白金)上にC(炭素),Ta(タンタル)、Si(シリコン)をコーティングし、一般的に電界放出エミッターに用いられている材料からなる探針を用意した点である。
【0140】
また、改造の2点目は、STM観察対象(本発明における記録媒体に相当する)として、ガラス基板上にC(炭素)膜をコートした擬似的媒体表面を有する試料を用いた。
【0141】
さらに、改造の3点目は、探針と試料の間の距離制御に関するものである。通常のSTMにおいては、トンネル電流が流れるように探針の先端と試料面とは数A(オングストローム)の距離に近接配置されるる。これに対して、本発明者は、10nm程度の距離を流れる電界放出電流を検出するために、インチワーム素子をサンプル保持回路で制御し4nm/STEPのパルス動作で試料を針に対して移動し、針と試料面の間の距離を10nm程度に固定できるようにした。
【0142】
改造の4点目は、測定電流範囲の増加である。通常のSTMでは、0.3−0.5nA程度のトンネル電流を用いているが、本発明の熱アシスト磁気記録装置においては、10−4Aにもなる電界放出電流を用いるのがポイントであることから、I−VアンプのIV変換抵抗を切換え可能として10−4Aオーダの電流もモニターできるようにした。さらには、10−4A程度の放出電流が得られた時点で、一定電流モード制御し、電流が安定に流れ続ける時間を計測可能とした。針への印加電圧は0−15V可変とした。又、針と試料は密閉容器中に配置し、内部雰囲気を自由に変える事ができるようにした。
【0143】
以上説明した構成を用いて、本実施形態の基礎となった実験を以下の手順で実施した。
【0144】
まず、針を設置電位に保持したまま、試料面に接近させてトンネル電流を検出した。この時点で針と試料面は数Aの距離にいると推定できる。この距離を基準にインチワーム素子を駆動し、2−3STEP試料を針から離す方向に移動し、サンプル保持回路で固定した。この状態で、針に電圧を徐々に印加し、I−Vアンプの変換抵抗を切換えながら広い電流範囲で、電界放出電流を調べた。
【0145】
ここで、針としては、前記したように、通常のSTMに使用されるPt上にC,Ta,Siを2−5nm程度スパッタコートしたものを使用した。針の置かれた密閉容器の雰囲気は、真空排気ポンプとガス導入系を用いて種々変えた。また、容器中のガスの成分分析は、四重極型質量分析系(QMS)を容器に取付けて行った。容器内の圧力がQMSの動作可能圧力よりも高い時は、オリフィスを介してガスをサンプリングして行った。オリフィスの直径は、容器内の圧力に応じて変え、常に感度良く測定可能とした。QMSの出力は、対象としたガス(ここでは主に酸素)を100%所定圧導入した際の出力で較正し、ガス分圧の絶対値を求めた。又、容器内のパーティクル数はクラス100未満になるように、実験はクリーンルーム内で行い、針や試料を交換した後は、容器内を数回、ドライ窒素でパージし清浄化した後、所定の雰囲気とした。
【0146】
図14は、探針材料としてTa,Cの二種を用い、10×10−4Paの真空減圧下で取得した、電界放出電流Iと探針への印加電圧Vの関係を示すグラフ図である。前述したように、探針先端と試料面の間は10nmに固定されているので、電圧1Vは電界強度換算で10V/cmに相当する。放出電流の電界強度に対する挙動は、ファウラーノルトハイムの式を反映した形状を成し、かつ仕事関数の低いTaの方が仕事関数の高いCよりも放出電流値が高く、納得のいくデータとなっている。Siについても同様の実験を行ったが、放出電流値はTaとCの間の値を示した。これも仕事関数を反映している。
【0147】
次に、放出電流を1×10−5〜1×10−4Aの間で何通りか一定になるように印加電圧を設定し、放出電流の時間変化を調べた。この実験では、上記した10−4Paの真空雰囲気も含め、針の設置されている容器内の雰囲気を各種変えた。真空排気後、高純度希ガスを1気圧置換した雰囲気(雰囲気1)、真空排気後、高純度ドライ窒素を1気圧置換した雰囲気(雰囲気2)、真空排気後、通常の大気(相対湿度:25%RH程度)を導入し、真空ポンプで圧力調整し幾つかの圧力に設定した雰囲気(雰囲気3)、さらに正味、酸素の影響を調べる為、真空排気後、高純度酸素を幾つかの設定圧力にて導入した雰囲気(雰囲気4)を各々用いた。雰囲気3,4ではQMSを用いて酸素の絶対量を確認しながら実験した。
【0148】
図15は、放出電流を5×10−5Aに設定し、C(炭素)探針を用いて行った実験結果の一例を示す図であり、aは雰囲気1,2と雰囲気3,4で酸素量が5×1017(mols/cm)以下の場合、b,c,dは図中に示した酸素量の場合を各々示している。C探針の先端曲率半径は約5nmで、この先端のほぼ半球状の領域から電界放出が起こるので、この場合、放出電流密度Jとしては、3.18×105(A/cm)であった。図14のデータは比較的短い時間でのエミッターの劣化を示したものだが、耐酸化性に優れたCエミッターを用いる場合においても、酸素分子密度が5×1017(mols/cm)を超えると劣化の状況が顕著になることが明らかになった。
【0149】
ここで、本発明のひとつの特徴であるX,Jの関係式に上記したJを代入すると、関係式右辺は、3.98×1017となり、実験的に得られた5×1017(mols/cm)は、規定式におけるXの上限よりもかなり高いことが判る。これは耐酸化性に優れるCの特質を示しており、次に説明する各種エミッターと、各種放出電流密度を用いた実験結果からは、Siの様な表面酸化層が容易に形成されるエミッターも含めて、実用的な放出寿命を得る上では、本発明において規定する関係式を満足するのが最も好ましい。
【0150】
図15に表した特性において、放出電流が初期値の90%(同図中に破線で示した)に劣化するまでの時間(td)を指標に、各種エミッター、各種放出電流密度で、雰囲気中の酸素量とtdの関係を調べた。
【0151】
図16は、その結果を表すグラフ図である。図15も含めて、電子放出は10Hの連続放出と12Hの休止を繰り返した積算時間で、トータル積算時間が300Hになるまで実験を継続し、tdが300Hを超えるラインを図16には示した。図16のSi,Taで示した実線が、Si,Taエミッターを用いた場合にtdが300Hをキープするラインであり、このラインより下側の領域ではtdは300Hを超えた。Cで示した破線はCエミッターで得られた結果である。
【0152】
図中の右側に「電界蒸発限界」として示した線は、これ以上の放出電流密度(φ10nmの半球からの放出電流値として5×10−4(A)に相当)では印加電界強度が10(V/cm)程度となり、電界蒸発が顕著になり電子エミッターとしての使用が困難となることを示している。Jの下限については前述した通り、媒体を有意な温度に加熱するに足るJの下限という意味である。ここで、雰囲気4の高純度酸素を導入した場合は、雰囲気3の湿度を有する大気を導入した場合に比べて、図16のラインよりもエミッターの寿命は伸びる傾向を示した。これは、雰囲気3が酸素の他に水を含む為、酸素及びその解離種に加えて、水及びその解離種が劣化を促進する為と考えられる。
【0153】
以上詳述した一連の実験により、本発明の熱アシスト磁気記録装置の電子放出源の周辺の雰囲気をどうすべきかが明確になった。本発明者は、この知見に基づき、以下に説明する本実施形態の熱アシスト磁気記録装置を発明した。
【0154】
すなわち、本実施形態において用いる熱アシスト磁気記録ヘッドの構成は、第1乃至第5実施形態と同様のものである。また、これらのヘッドとともに用いる高Ku(Hc0)の熱アシスト磁気記録媒体としては、例えば第1実施形態に関して前述したものを用いることができる。
【0155】
図17は、本実施形態にかかる磁気記録装置の一部を例示する概念図であり、その筐体内部雰囲気を調整する為の手段を特に表している。すなわち、同図(a)は筐体の斜視外観図、同図(b)は同図(a)のX−X’部を拡大した断面図である。この筐体の中には、上記の磁気特性を有する媒体を、本発明の熱アシスト磁気ヘッドと共に、装置筐体にセットし、内部雰囲気を調整して本実施形態の熱アシスト磁気記録装置を試作した。
【0156】
図17において、70は筐体、71はシーリング溝、72はネジ孔、73は蓋、74はOリングである。図17には示していないが、筐体70中には後記する磁気記録装置主要部が内蔵されている。筐体の板厚は、シーリング後の筐体内部の圧力に応じて適宜設定され、内圧が低い程、板厚は厚く設定され、外気圧による筐体の変形を防止する。外気圧による変形を防止する為には、単純に板厚を厚くする以外に、板内壁にハニカム状もしくは矩形セル状の補強部材を貼り付けるなどしても良いし、筐体の上下面、左右面間を幾つかのスタッドで連結しても良い。筐体内部を大気圧の不活性ガスで封入する場合は、特に板厚を厚くしたり補強部材を用いる必要は無い。
【0157】
筐体と蓋の間には、内部雰囲気を外気から遮断する為のシーリング溝71が設けられる。シーリング溝の設けられる部位は、筐体の設計に依存し、シャーシー(図18に示す)に磁気記録装置を構成する部品が取付けられた後に、直方体状で五面を一体成形された筐体を取付ける場合は、シーリング溝は一面のみに設ければ良い。シーリング溝中にはOリング、角型リング、甲丸リングなど、通常の気密シールに使用されるゴムなどからなる変形可能なリング74が埋設される。このリングの上に蓋73(シャーシーである場合もある)を乗せて、ネジ孔にネジを取付けて蓋を押さえつければ、気密シールが完成する。気密の度合いは、本発明に規定する酸素濃度を所定の時間維持すれば良い程度なので、真空装置並みにタイトにする必要は無い。特に筐体内部を減圧するのではなく、大気圧程度の不活性ガス雰囲気にする場合には、比較的簡易型の気密でも所定の時間、本発明の酸素量を維持することは可能である。
【0158】
図18は、図17に示した筐体内部に配置される磁気記録装置の主要部構成の一実施例を示す図である。図18において、80はシャーシー、81は本発明に関わる磁気記録媒体、82は本発明に関わる熱アシスト磁気記録ヘッド、83は高精度・高速位置決め系、84は信号処理系である。図18のシャーシー部の内面は略鏡面研磨されたシーリング面であり、図17に示したOリングの密着によって装置内部を外気から遮断する。
【0159】
また、このような気密手段の他にも、酸化性雰囲気を防ぐための方法としては、酸素をゲッタリングする材料を電子放出源や筐体内壁に設けたり、脱酸素剤を封入する方法などがある。ゲッタリング材料としては、例えば、チタンあるいはその合金などを挙げることができる。
【0160】
図17及び図18に例示した磁気記録装置は、例えば以下の手順で作成することが可能である。
【0161】
まず、通常の大気雰囲気(通常の製造工程に採用されているクリーンルーム内)下で、シャーシー80に、位置決め系83、磁気記録媒体81、磁気ヘッド82の取付けられたサスペンションアーム部、信号処理系などの制御部を通常の手順で順次取付ける。ヘッドの薄膜素子部には本発明に関わる電子ビーム源が形成され、制御部には電子ビームコントローラ(電圧源など)が附加されている。
【0162】
次に、不活性ガスを充填するグローブボックスもしくは密閉容器中に、各部材の取付けられたシャーシー部と筐体部を挿入し、グローブボックスもしくは密閉容器内の酸素濃度をモニターして、不活性ガス循環により、酸素濃度を所定値以下に下げる。酸素濃度が十分に低下した事を確認した後、ロボット又は人手(グローブボックスの場合)によって、筐体とシャーシーをネジ止めする。ネジ止め以外に接着、簡易型溶接などの手段も採用可能である。また、筐体もしくはシャーシーに脱気孔を設けておいて、通常の雰囲気において、筐体とシャーシーを取付けた後に、脱気孔を通じて筐体内部の雰囲気を不活性ガス置換するか、真空排気しても構わない。この場合、筐体内部が所定の酸素濃度に至った事を排気系で確認し、その後、脱気孔付近をシーリングすれば良い。この場合のシーリングのやり方としては、脱気孔と排気系間を延展性を有する金属配管としておき、所定の酸素濃度に至った後に、配管部を圧着するなどの手段を挙げることができる。
【0163】
このようにして作成した本発明の熱アシスト磁気記録装置は、本発明に関わる電子エミッターの安定性試験に供した。媒体(設置電位)を回転し、ヘッドを媒体上の所定のトラックに移動した後、エミッターに対して−10Vの電圧を印加し、記録磁極に高周波電流を通電して、例えば300kfciの記録を行い、GMR再生部で記録直後に信号再生し、数10トラックの記録動作をした後に、最初のトラックにヘッドをシークバックさせて、例えば200kfciの信号をオーバライト、GMRで記録直後の信号再生、数トラックの記録、シークバック、再度300kfciのオーバライトと繰り返し動作を行う。
【0164】
上記動作を1000時間の間連続で継続した結果、再生信号品質に特に変化は見られず、本発明の効果が確認された。ここで電子エミッターに電圧を印加せずに記録磁極に上記と同一の高周波電流を通電しただけでは全く記録は起こらず、電子ビームによる媒体加熱によって記録が実行出来ていることは事前に確認済みであり、記録信号品質に変化が無いということは、電子エミッターの放出特性に変化が無いことを意味する。
【0165】
(第8の実施の形態)
次に、本発明の第8の実施の形態について説明する。
本実施形態は、磁気記録ヘッドの磁気ヨークあるいは磁極を電子放出源とした磁気ヘッド及び熱アシスト磁気記録装置を提供する。この構成によれば、さらなる高密度記録が可能となる。
【0166】
図19は、本実施形態にかかる第1の磁気記録ヘッドの要部断面構成を例示する概念図である。すなわち、同図の記録ヘッドは、いわゆる単磁極型の磁気記録ヘッドであり、同図において、211はスライダー基部、212は記録磁極部、213は記録コイル、214は主磁極、215はリターン磁極、216は媒体対向面(Air Bearing Surface:ABS)の位置、217は磁極に接続されているリード線、218は記録コイルに接続されているリード線をそれぞれ示す。リード217に電圧が印加されることにより主磁極214やリターン磁極215の先端部から電子を放出することが可能になる。記録コイルへのリード線218には通常、所望の記録周波数の電気信号が印加され、この電気信号で変調された磁界が磁極から図示しない磁気記録媒体へと印加されることになる。リード217は、それ単独で接続用のパッドを持っていても良いし、他の信号線等のパッドと共用しても良い。
【0167】
本実施形態によれば、磁極が加熱用の電子放出源を兼ねるので、加熱源と磁束放出部とを極めて近接させることができる。その結果として、超高密度の熱アシスト磁気記録が可能となる。
【0168】
本実施形態の磁気記録ヘッドが満たすべき条件は、磁極212(または磁気ヨーク)に電圧印加のためのリード217が設置される以外は、従来用いられてきた磁気記録ヘッドのものと同じである。以下に、本発明の磁気ヘッドにおいて特徴的ないくつかの構成要素について補足する。
【0169】
(リード217及びパッド)
リード217が満たすべき要件は、例えば磁界発生コイルに電流を供給するために設置するリード218と同様である。すなわち、リード217は、Cu(銅)等の金属薄膜がパターニングされたものでよい。
【0170】
磁極212にリード17を設置する工程は、例えば磁界発生コイル213に電流を供給するために設置するリード18と同様の方法で作成することができ、場合によってはエッチングマスクの変更のみで同一工程で作成することができる。従って、レーザを用いて媒体を加熱する方式の熱アシスト磁気記録用の磁気記録ヘッドに比べてはるかに安価に作成することができるという利点を有する。
【0171】
一方、リード17に電圧を印加するために図示しないパッドを設けても良い。このようなパッドについても、従来の磁気記録ヘッドに用いられるパッドと同じものを同様の工程で簡便に形成することができる。
【0172】
(主磁極214の先端面)
高密度HDDにおいては、主磁極214(または磁気ヨーク)の媒体対向面216におけるサイズが十分に小さいので、電子放出は容易に起こりうる。しかしながら、さらに容易にかつ制御良く電子放出を起こさせるには、主磁極214(または磁気ヨーク)の媒体対向面を「荒らす」方法がある。表面が荒れていると多数の微小な突出部が形成され、これらの突起部に電界が集中するため、そこから優先的に電界放出が起こる。これに対して、表面が平滑であると電界放出点が時間とともに変動して制御性が悪くなる可能性がある。ただし、主磁極214(または磁気ヨーク)の媒体対向面216におけるサイズの範囲で媒体が加熱されればよいというシステムからの要請がある場合には、この問題は特に顕著にはならない。
【0173】
このような表面の「荒れ」は、AFM(atomic force microscope:原子間力顕微鏡)等の評価によって得られる一般的な指標である平均粗さRaにおいて、0.5nm以上10nm以下であれば良い。Raが0.5nm以下では電界放出点の移動が起こりやすくなり、また、10nm以上では加工に時間がかかってしまうからである。
【0174】
(リターン磁極215のリセス)
磁気記録ヘッドの磁極あるいは磁気ヨークにおいては、磁束の利用効率を上げるために、磁気記録媒体を通して磁束が戻ってくるリターン磁極215(またはトレーリング側ヨーク)が設置されるのが一般的である。本実施形態による磁気ヘッドの場合、記録を行いたいリーディング側の位置の加熱をすることが肝要であるので、このリターン磁極215(またはトレーリング側ヨーク)で主に電界放出が起こるのは好ましくない。
【0175】
これを防ぐためには、リターン磁極215(またはトレーリング側ヨーク)を主磁極214(またはリーディング側ヨーク)に比べて媒体面216からある程度引き離す(リセスする)方法が有効である。リセス量としては、0.5nm以上、1000nm以下であることが望ましい。0.5nm以下では電界放出を効果的に抑制できないので不適であり、1000nm以上は磁束の利用効率が悪く、製造工程にも時間がかかるといった問題が生ずるからである。
【0176】
図20は、単磁極ヘッドにおいてリターン磁極部215を媒体対向面216からリセスさせた構成を例示する概念図である。この例では、リターン磁極部215が、同図中に符号Rで示した距離だけリセスされている。このようにリセスさせるには、ヘッド作成時のパターニングで行う、ヘッド形成後FIB加工により削り取る、等の方法を挙げることができる。
【0177】
(主磁極とリターン磁極の表面粗さ)
一方、リターン磁極215からの電界放出を抑制する別の手法として、主磁極214(またはリーディング側ヨーク)の表面の粗さを、リターン磁極215(またはトレーリング側ヨーク)の表面粗さよりも大きくすることもできる。上記のように、表面が荒れている方が電界集中が起こり電界放出が起こりやすくなる。そうすると相対的に荒れていないリターン磁極215(またはトレーリング側ヨーク)での放電は起こりにくくなる。これらの表面を荒らす手法としては、収束イオンビーム(FIB)による加工、パターニングの際のエッチングの条件の最適化、エッチングパターンそのものによる形成、などがある。システムの要求やコストに応じて適宜選択すればよい。
【0178】
(主磁極214の突起)
また、リターン磁極215からの電界放出を抑制する別の手法として、主磁極214(またはリーディング側ヨーク)の表面に少なくともひとつの突起を形成することもできる。突起の部分に電界が集中するので、突起を設けた磁極しか電界放出しなくなる。
【0179】
図21は、本実施形態の記録ヘッドの主磁極あるいはリーディング側磁極の媒体対向面の付近を拡大した概念図である。同図において、214は磁極部分、241は突起部である。同図に表した例では突起部は2つであるが、本実施形態による磁気ヘッドの機能を果たすためには、突起の数は1つであっても3つ以上であっても良い。また、突起部241の形状は、電子を効率よく放出できるものであれば、円錐状、四角錐状、三角錐状、等の種々の形状を適宜採用することができる。突起部の形状は、ヘッド作成プロセスに応じて適切なものを選ぶことも可能である。また、2つ以上の突起部を設ける場合の突起部の配置も適宜決定することができる。
【0180】
前述した表面粗さに違いを設けるか突起を形成するかは、システム要求やコストに応じて選択すべきものである。また、突起の数はひとつであっても複数であっても構わない。複数であれば放電がより制御良く起こる利点があり、ひとつであれば加工コストが下がる利点がある。突起を形成する手法としても、収束イオンビーム(FIB)による加工、パターニングの際のエッチングの条件の最適化、パターンそのものによる形成、などを挙げることができる。システムの要求やコストに応じて適宜選択すればよい。
【0181】
(磁極の構成)
本実施形態の磁気ヘッドは、以下に詳述するように、従来、面内媒体で用いられてきたリング型ヘッドや垂直磁気記録に用いられてきた単磁極型ヘッドなどの各種の型式のものにも応用できる。どの磁極型にするかは、システムの要求やコストに応じて適宜選択すればよい。
【0182】
図22は、本実施形態にかかるリングヘッド型の磁気記録ヘッドの要部断面構成を例示する概念図である。同図において、211はスライダー基部、212は記録磁極部、213は記録コイル、221はリーディング側磁極、222はトレーリング側磁極をそれぞれ表す。その他の要素については、図19と同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0183】
本変形例においても、リーディング側磁極221の先端から磁気記録媒体に電子を放出させることにより、加熱しながら磁気記録を行うことができる。加熱源と磁束放出部とが極めて近接しているので、超高密度の熱アシスト磁気記録が可能となる。
【0184】
また、リングヘッドの場合には、トレーリング側の磁極222を図19のリターン磁極215の場合と同様に扱うことができる。
【0185】
(保護膜)
本実施形態の磁気ヘッドは、その媒体対向面216を保護の目的のためにC(炭素)やB(ボロン)、あるいは硬質の酸化物や窒化物、あるいはこれらの複合材料で覆うと耐久性が増して好ましい。Cを用いる場合、大気中で安定した電子放出寿命が得られるという利点がある。具体的には、磁極部分を含む媒体対向面216の表面に、保護膜として3〜10nmのC(炭素)を堆積することが望ましい。
【0186】
(記録装置)
本発明による磁気記録を行う記録装置としては、上述の磁気記録ヘッドとそのヘッドに電圧を印加する手段を設ける以外は従来の磁気記録装置と同様である。
【0187】
図23は、本実施形態の磁気記録装置の要部構成を例示する概念図である。従来の磁気記録装置と同様の部分は省略してある。同図中、251は記録コイル213に記録信号に応じた電流を供給する書き込み制御部であり、252は磁極部214に電子放出のための電圧を印加する電圧印加部であり、253は磁気記録媒体である。
【0188】
電圧印加部252は、磁気記録媒体253と磁極214とに接続されている。電子を磁極から媒体へと放出させる必要があるので、磁極214(またはヨーク)には媒体電位に対して負の電圧を印加する必要がある。
【0189】
また。電圧印加部252に磁極214と磁気記録媒体253との電位差をモニタする装置をさらに設け、常に一定あるいは所望の電圧が印加されるようにフィードバックできるようにすると安定した記録ができ好ましい。
【0190】
電圧の印加方法は、連続的でも良いし、パルス的であっても良い。連続の場合には、記録磁極214(または磁気ヨーク)下の温度は常に一定であり、安定した熱アシスト記録が可能である。また電子放出のドライバー回路も簡単になり、また高周波によるロスや誘導加熱が起こりにくくて好ましい。
【0191】
一方、パルス的に印加する場合には、熱の冷却が早くなるので、クロスイレーズが起こりにくいという利点がある。また、パルス的に照射すると、温度の広がりが小さくなって、隣接トラックの記録情報の消去が起こりにくくなり好ましい。さらに、パルス幅が十分に短い場合には、加熱温度が線速度によらず一定となり、特に補償措置を取らなくても安定した記録が行えるようになって好ましい。また、必要であればパルス間隔や強度を変調して媒体温度や温度の広がりを任意に制御することができて好ましい。
【0192】
ところで、媒体の温度上昇は電子線放出タイミングに対してある程度の遅れが生じるのでその分を考慮するとより高密度の記録が行えるようになる。例えば、図21に関して前述した突起241を主磁極214のトレーリング側に設けるのも1つの方法である。この方法は簡便ではあるが、加熱部位と記録確定部位(磁化転移領域)との距離をあまり大きくは調整できない。そのような調整が必要な場合には、例えば、電子放出のタイミングを記録タイミングとずらすことも有効である。
【0193】
図24は、このように両者のタイミングをずらした例を表すタイミングチャートである。すなわち、同図において符号271で表したパターンは、記録コイル213に印加される記録信号を表し、簡単のために010101・・・・のパターンを例示している。この信号に対して、符号272に表したような信号を電子放出源に印加する。同図では下側がマイナスであり、信号がマイナスになったときのみ電子が記録媒体へ放出されるように設定している。この例では、タイミングの位相を逆転して与えているが、媒体加熱の状況や記録磁極における信号と発生磁界との時間ずれ等を考慮して、位相差は適宜設定すればよい。
【0194】
次に、本実施形態の磁気ヘッドについて実施例を参照しつつさらに詳細に説明する。
【0195】
(第1の実施例)
まず、本実施形態の第1の実施例として、図19の構成の磁気記録ヘッドを作成し、磁気記録媒体とともにスピンスタンドにセットし、磁気記録/再生実験を行った。磁気記録ヘッドとは別に、GMR(Giant-magnetoresistive effect)素子を用いた再生ヘッドも設置した。媒体は、直径2.5インチのガラス基板上に軟磁性下地膜としてNiFe膜を100nm、その上に膜厚20nmのCoPt−SiO磁気記録層を積層し、さらにC保護膜3nmを連続してスパッタ形成し、潤滑剤をコーティングした後、テープバニッシュにより表面突起を除去した。
【0196】
磁気記録層は垂直磁気異方性を有し、アモルファスのSiO母材中に約7nmの直径を持つCoPt磁性粒子が分散する構造である。CoPt−SiO膜中のCoPt含有比は60体積%であった。磁気特性の測定はトルクメータとVSMを用い、各々液体窒素温度から500℃の間で温度特性を調べた。室温における典型的な磁気特性は、Ku:4.5×10 erg/cc、Hc:5kOe、Ms:400emu/ccであった。平均粒径を記す粒子の室温(300K)におけるKuV/kTは約125なので、本実施例で用いた媒体は室温付近では十分な熱擾乱耐性を示すものと言える。磁気特性は温度の関数として変化し、低温から高温に向けて単調に低下した。熱揺らぎ劣化を考慮して、10ns程度の反転磁界下での保磁力Hc0の温度依存性を見積もった。その結果、室温付近のHc0は5.2 kOeであり、本発明による磁気記録装置を用いて行われる熱アシスト記録の想定記録温度に相当する250℃ではHc0が2kOeに低下することがわかった。高温側のHc0を外挿すると、キューリー点は500℃よりも数10℃高い温度と推定された。
【0197】
以上の磁気特性を有する媒体を10m/sでヘッドに対して移動させ、100kfciの孤立波出力相当の比較的低い線密度で記録再生試験を行い、再生出力電圧を調べた。ヘッドは接触動作とし、スペーシングは8nmから10nm、即ち、ヘッド保護膜厚と媒体保護膜厚の和(8nm)からこれらに潤滑層厚を加えた値(10nm)の間に制御した。録再動作の変数としては、電子放出源への印加電圧により放出電子電流を、記録コイルへの通電電流により記録磁界強度を、各々変えた。媒体は接地電位とした。
【0198】
図25は、評価結果を表すグラフ図である。すなわち、同図は、電子放出源への印加電圧Veとトラック幅1μm当りのGMR再生出力電圧Vsとの関係を、記録コイルへの通電電流Iwをパラメータとして表す図である。図25には、通電電流Iwが20mAと40mAの2例のみを表したが、Veが7.5V未満の領域では、Iwを幾ら大きくしても再生出力は全く得られなかった。磁気ディスク装置として実用的なIw=40mAにおいては、Ve>15V、さらに好ましいIw=20mAではVe>25V程度の範囲で、高い飽和再生出力が得られ、本発明の効果が明確となった。
【0199】
すなわち、Veが7.5V未満の場合には電子放出による媒体の加熱が不十分かあるいはまったくなされないために、媒体のHc0が記録磁極が発生する磁界強度よりも大きくて記録ができなかったのである。Veが10V程度を超え、電子放出による媒体加熱が進み、媒体温度が上昇するに連れてHc0は徐々に下がり始め、記録ができ再生信号が増加し始める。Iwが小さい場合には、磁極から発生する磁界強度が小さく、媒体温度がより高くなるVe〜20Vあたりから記録ができるようになる。
【0200】
上記した本発明の基本的な実施例では信号出力の挙動を明確に調べる目的で低い記録周波数を選んだが、高い線密度で記録した時も同様であることは説明するまでもない。
【0201】
(第2の実施例)
次に、本実施形態の第2の実施例として、保護膜の効果を調べた。すなわち、第1実施例と同様の構成の磁気ヘッドと、この磁気記録ヘッドにC(炭素)保護膜を設けない比較例の磁気ヘッドとを試作し、第1実施例と同様の記録再生実験を行った。その結果、書き込み特性に関しては、基本的には同様の結果が得られたが、実験開始後約1時間で、比較例の磁気ヘッドにおいてヘッドクラッシュが発生し、実験不可能となった。
【0202】
この比較例の磁気ヘッドの媒体対向面をSEM(scanning electron microsope:走査型電子顕微鏡)により観察したところ、磁極部周辺には多数の付着物があるとともに、ヘッド構造も一部が破壊されていた。C膜による保護機能がなかったための結果と考えられる。但し、この比較例の磁気ヘッドも、例えば浮上量が30nm程度の磁気記録装置、あるいはドライブ内が清浄な雰囲気が保たれており、かつ媒体が平滑であるような場合には用いることができる。つまり、C保護膜は、システムの要求に応じて設ければよい。
【0203】
(第3の実施例)
次に、本実施形態の第3の実施例として、図20に表したように、リターン磁極215をリセスした磁気ヘッドを作成し第1実施例と同様の記録再生実験を行った。この磁気ヘッドは、第1実施例と同様に形成した後に、FIB加工して作成した。リターン磁極部215のリセス量Rは、50nmとした。リセス処置によって、リターン磁極215側からの放電が起こらなくなり、安定した放電ができるようになった。その結果、図25に表した特性よりも媒体ノイズが約3dB減少した。このようなリセス処置が、リング型ヘッドに対しても同じ効果があることは明らかである。FIB加工のコストがヘッドにかかるので、リセスを行うかどうかはシステム要求によって適宜選択すればよい。また、FIB加工によらず最初からパターニングによってリセスしても良い。
【0204】
(第4の実施例)
次に、本実施形態の第4の実施例として、磁極の先端面に微細な凹凸を形成した磁気ヘッドを試作した。具体的には、第3実施例と同様のプロセスを採用し、前述したFIB加工の際に、イオンビームのパワーを落とし、かつスキャン中に間欠的に照射することによって、主磁極214およびリターン磁極215の媒体対向面に微細な凹凸を形成した。
【0205】
この磁気ヘッドを、第1実施例と同様の記録再生試験機に設置し、回転動作時の放電電流の変化を調べた。図26は、放電電流特性を表すグラフ図である。すなわち、同図の横軸は一般的な指標である平均表面粗さRa(nm)を表し、縦軸は電流変動量の指標として放電電流の時間微分を積分したもの(Ra=5nmのときの値で規格化)である。同図から分かるように、Ra<0.5 nmでは放電不安定性が急激に増加した。つまり、表面荒れが少なくなると、磁極部での放電位置の不安定性によると思われる放電電流の変化が観察された。一方、Ra>10nmではヘッドクラッシュが頻発し、安定した浮上ができなかった。
【0206】
また、FIB加工時のイオンビームの強度を変えて、主磁極側のRaを3nm、リターン磁極側のRaを0.5nm以下(FIB加工せず)としたヘッドを作成し、上記同様の記録再生実験を行った。主磁極側のRaを3nmとしたことで、リターン側での放電不安定性はほぼなくなった。その結果、図25に表した特性よりも媒体ノイズが約2dB減少した。この処置がリング型ヘッドに対しても同じ効果があることは明らかである。種々のRaについて調べたところ、同様な媒体ノイズ低減効果は主磁極側のRaがリターン磁極側のRaよりも大きければ得られることが判明した。FIB加工分のコストがヘッドにかかるので、表面荒れの形成を行うかどうかはシステム要求によって適宜選択すればよい。
【0207】
(第5の実施例)
次に、本実施形態の第5の実施例として、主磁極部の先端に突起を設けた磁気ヘッドを試作した。具体的には、第4実施例と同様のプロセスに基づき、FIB加工の際に、イオンビームの走査パターンを制御することにより、図21に表したような断面形状の突起241を主磁極214の表面に形成した。突起241の数は4つとした。この磁気ヘッドを第1実施例と同様に記録再生試験機に設置し、回転動作時の放電電流の変化を調べた。その結果、突起241を設けることにより、放電部位が安定し、放電電流の変化を図26における規格値1に相当するレベルに抑えられることが確認された。同時に、リターン磁極215側での放電がなくなり、図25に表した特性よりも媒体ノイズが約3dB減少した。このような突起がリング型ヘッドに対しても同じ効果を有することは明らかである。
【0208】
突起の形成方法は、FIB加工には限られず、ヘッドの形成時に例えばパターンニングで形成することも可能である。この手法は、FIBの手間が省ける利点があるが、プロセスによっては細かい突起が形成しにくいという欠点もある。どういうプロセスにするかはシステムの要求に応じて適宜選択すればよい。また、突起の数も、4つに限定されないことはいうまでもない。突起241が1つであれば加熱点が絞られて、より微小な加熱を行うことができて好ましいが、投入パワーを大きくしづらいという欠点がある。突起241の数を増やすと放電不安定をより確実に抑えることができるが、加工コストがかかる。
【0209】
(第6の実施例)
以上述べてきた、リセス、保護膜、表面粗さ、突起の形成といった本発明による記録ヘッドにかかわる技術は、図22に模式的に示すリングヘッドにもすべて適用できることは自明である。なぜならば、電子放出源を磁極に設ける(磁極を電子放出源とする)という基本概念およびその効果はヘッドの形態とは無関係であるからである。
【0210】
(第9の実施の形態)
次に、本発明の第9の実施の形態について説明する。
本実施形態は、磁気再生ヘッドの磁気ヨークあるいは磁極を電子放出源とした磁気ヘッド及び熱アシスト磁気再生装置を提供する。この構成によれば、さらなる高密度記録再生が可能となる。
【0211】
図27は、本実施形態にかかる磁気再生ヘッドの要部断面構成を例示する概念図である。すなわち、同図の記録ヘッドは、いわゆる「ヨークタイプ」と呼ばれる構造のGMRヘッドである。ヘッドは図中の矢印Aの向きに進行する。同図において、符号261はGMR素子、262はリーディング側の磁極、263はトレーリング側の磁極、264は補助リード、265はGMR素子に供給される電流リード、266は再生信号に相当する抵抗変化に基づく電圧を検出するリードである。ヨーク、すなわち磁極212によって記録媒体の磁区から発生する漏洩磁界はGMR素子261に伝達される。なお、同図の構成は一例にすぎず、GMR素子261の代わりにTMR(tunneling magnetoresistance effect)素子やその他の各種の磁気再生素子を用いることもできる。
【0212】
さて、図27の構成においては、ヨーク212に電圧リード217を取り付けることにより、媒体対向面のヨーク端より電子を放出して、図示しない記録媒体を加熱することができる。そして、第8実施形態と同様に、加熱源と磁気検出部とを極めて近接させることにより、超高密度の熱アシスト磁気再生が可能となる。
【0213】
熱アシスト磁気再生の詳細を開示した文献としては、例えば、H. Katayama et al. : Journal of Magnetic Society of Japan, vol.23, No. S1, p.233, 1999を挙げることができる。
【0214】
その概略を説明すると以下の如くである。例えば、光磁気記録媒体として用いられている非晶質希土類・遷移金属フェリ磁性合金膜は、図28に示すような磁気特性をもっている。すなわち、保磁力は温度と共に増加し、ある温度(補償温度:図中にTcompと記した)で無限大に発散し、磁化はTcompを境に極性が逆転する。ここで、Tcompは希土類と遷移金属の比により調整可能である。
【0215】
compを室温近傍になるように媒体を設計すると、記録後の磁壁の移動が起こりにくく(保磁力が極めて大きいため)情報保持特性が増して好ましい。しかし、この状態では媒体の磁化量がほとんどゼロであるために、磁気再生ヘッドで再生しても信号は得られない。そこで再生時に例えば図中にTrと記した温度まで媒体を加熱すればその温度の磁化に比例した強度で漏洩磁界が発生し、信号を再生することができる。
【0216】
上述のH.Katayamaらによる報告では、媒体の加熱を集光したレーザによっている。この方法では1μm前後のサイズの記録を行う場合には都合がよいが、光の回折限界があるために、本発明による磁気記録装置が想定している高い密度の磁気記録は行えない。そこで、電子線による加熱を行う。上述したように、電子線照射によれば非常に小さな領域の加熱が可能である。
【0217】
本実施形態による磁気再生ヘッドの場合にも、第8実施形態に関して前述したリセス、保護膜、表面粗さ、突起の形成などの記録ヘッドにかかわる技術をそのまま適用できる。
【0218】
なお、GMR素子261とヨーク212とが電気的に接触する場合もありうる。トレーリング側ヨーク263より電子放出が起こる場合には、放出された電子分の電流がGMR素子261を流れることになる。これが問題となる場合には、第8実施形態に関して前述したように、リセス、表面粗さ、突起の形成等の技術によりトレーリング側で電子放出が起こらないようにすればよい。または、補助リード264を設けると、電子放出の有無にかかわらずGMR素子261の両端には電位差が生じず、GMR素子261に電流が流れることはない。以上の構成は、加工が必要であったり、リードの数が増えるので、GMR素子261に流れる電流の程度に応じて適宜採用すれば良い。
【0219】
以下、実施例を参照しつつ、本実施形態の磁気再生ヘッドについてさらに詳細に説明する。
【0220】
(第7の実施例)
非晶質希土類・遷移金属フェリ磁性合金膜(R−T膜)を搭載する媒体を試作して第1実施例と同様の評価を行った。作成した媒体は、ガラス基板上に、Al合金系ヒートシンク層、TbFeCo記録層、C保護層、潤滑層を順次積層した構成である。ヒートシンク層は、記録層の熱応答特性を調整するために設けた。記録層の組成を調整して、室温(再生温度)付近での保磁力が最大印加磁界20kOeのVSM装置でも測定できない大きさとなるようにした。この媒体を、第1実施例と同様に本実施形態の熱アシスト再生ヘッドと共にスピンスタンド評価機にセットして再生評価を行った。この媒体には、第1実施例に用いた磁気記録ヘッドにより記録磁区が形成されているが、通常のGMR磁気再生ヘッドでは信号を検出できなかった。
【0221】
図29は、再生実験の結果を表すグラフ図である。すなわち、同図の横軸はヨークに印加した電圧、縦軸はトラック幅1μm当りのGMR再生出力電圧Vs(ピーク値で規格化)をそれぞれ表す。Veが7.5V未満の場合には電子放出による媒体の加熱が不十分かあるいはまったくなされないために、媒体の磁化がGMR素子が検出可能な漏洩磁界を発生するほどには大きくならず信号がまったく得られていない。Veが10V程度を超え、電子放出による媒体加熱が進み、媒体温度が上昇するにつれて磁化がは徐々に増加し始め、再生信号が増加してくる。媒体温度がより高くなるVe〜25Vあたりからは、図28におけるTrよりも媒体温度が高くなったために再生信号強度が下がってくる。このように、本実施形態によれば、熱アシスト磁気再生により従来の磁気ヘッドでは読み取り困難な微小磁区からの磁気的情報を高い感度で検出できることが確認できた。
【0222】
(第10の実施の形態)
次に、本発明の第10の実施の形態について説明する。
本実施形態は、大気中あるいはそれに近いような雰囲気においても、超高密度の記録が可能な電子線記録装置を提供する。この構成によれば、磁気記録媒体のみならず光記録媒体などの各種の媒体に対して、さらなる高密度記録再生が可能となる。
【0223】
(電界放出実験)
まず、本実施形態にかかる電子線記録装置を説明する前に、本発明者が行った実験及びその結果について詳細に説明する。すなわち、本発明者は、本実施形態の構成に至る過程において、エミッターの構成とその周辺の雰囲気がどうあるべきかを調べる実験を実施した。
【0224】
本発明者が行った実験に使用した装置は、図13に関して前述したものと同様である。すなわち、第7実施形態に関して前述したように、STM(scanning tunneling microscopy)を改造した装置を用い、同図に関して前述した4点の改造も同様に施した。従って、ここでは、この実験装置及び実験手順の詳細な説明は省略する。
【0225】
まず、本発明者は、探針材料としてC(炭素)を用い、大気雰囲気下で取得したI−V特性をファウラー・ノルトハイム(F−N)プロットした。
【0226】
図30は、この結果を表すグラフ図である。この実験では、探針先端と試料面との間隔は8nmに固定した。針先端の電界集中効果を無視して平等電界と仮定すると、電圧1Vは電界強度換算で1.25×10V/cmに相当する。
【0227】
図30から明らかなように、印加電圧が3.17V以上の範囲でI−V特性はF−Nの式に従っており、大気中でも確かに電界放出電子流が得られたことが証明された。10V印加時の放出電流は61μAにも達しており、これは実際の記録装置において媒体を記録温度まで加熱する上で十分な値である。図30の直線部の傾斜から、実効的な仕事関数(DLC(diamond-like carbon)膜の仕事関数を形状エンハンス係数で割った値である)を求めると、平等電界として0.235eVとなり、この値と報告されているDLC膜の仕事関数(1.51eV)を用いると、形状エンハンス係数αは6.42と導出される。この値は用いたC針先端曲率半径が5nm(Ptチップ上のコーティングしたC膜厚)であることと、針と試料面の間が8nmであることを考慮すれば妥当な値と言える。
【0228】
ちなみに針を離して同様の実験を行った結果、距離が長い程、形状エンハンス係数は増加した。これは距離が長い場合、電界集中が顕著になるためと考えられ、妥当な結果である。C以外にTa,Siについても同様の実験を行った結果、電界放出のターンオン電圧(F−Nプロットで直線に乗り始める電圧)がCよりも高く、また放出電流も低かったが、いづれの場合もF−Nプロットで直線部が得られ、電界放出していることが証明できた。低い電圧で高い電界放出電流を得るためには、Cを用いるのが好ましい。
【0229】
次に、放出電流を5μA〜60μAの間で何通りか一定になるように印加電圧を設定し、放出電流の時間変化を調べた。この実験では、上記した大気雰囲気(「雰囲気1」とする)も含め、針の設置されている容器内の雰囲気を各種変えた。すなわち、真空排気後、通常の大気を0.5〜1気圧導入した雰囲気(「雰囲気2」とする)、高純度希ガスを1気圧置換した雰囲気(「雰囲気3」とする)、真空排気後、高純度ドライ窒素を1気圧置換した雰囲気(「雰囲気4」とする)を用いた。
【0230】
雰囲気3と雰囲気4下では、C,Ta,Siいづれの針の場合も電界放出電流は数10時間の連続動作でも安定であった。雰囲気1と雰囲気2では、C針では安定した電界放出電流が得られたが、Ta,Siでは10時間未満から電流低下が起こった。不活性ガス雰囲気であれば、特に針材料に制約は無いが、大気中での動作ではCを用いるのが好ましいと言える。
【0231】
以下、大気圧に近い雰囲気中における電子の平均自由行程について補足的に説明する。従来のTEM(transmission electron microscopy:透過型電子顕微鏡)やSEM(scanning electron microscopy:走査電子顕微鏡)などのシステムにおいて電子線が真空中で扱われる理由は、電子がガス分子と衝突すると、散乱(弾性衝突)されたり、エネルギーを失う(非弾性衝突)からである。これに対して、本発明者は、電子線放出源と媒体との間隔が十分に小さい場合には、大気中でも電子線がガス分子と殆ど衝突せず、媒体に照射され得ることを知得するに至った。
【0232】
図31及び図32は、それぞれ、N(窒素)、O(酸素)中の電子の衝突断面積を電子エネルギ(Ee)の関数として表したグラフ図である。
【0233】
また、図33は、HO(水)中の運動量変換衝突頻度(Pc)を表すグラフ図である。
【0234】
ここで、Qm、Qv、Qex、Qd、Qi、Qaは、それぞれ、運動量変換(弾性)、振動励起、電子励起、解離、電離、付着の各衝突断面積である。Pcは、ガス圧1(Torr)下で電子が1cm走行する間の衝突頻度で、Qmとの間に次式の関係を有する。
【0235】
Pc=3.54×1016×Qm(cm−1
図31及び図32における各衝突断面積をみると、Qmが最も大きいので、先ず、Qmに着目する。Qmは、運動量変換衝突であり、電子と分子との衝突では、電子はエネルギは殆ど失わず運動の方向を変える。
【0236】
Qmのままでは衝突確率が掴みにくいので、平均自由行程(λ)に変換する。Qmとλとの関係は、次式により与えられる。
【0237】
λ=(n×Qm)−1(cm)
ここで、nは分子密度であり、室温(25℃)の大気圧では、次式により与えられる。
【0238】
n=2.46×1019(cm−3
図31、図33からわかるように、Qmは、N中においてはEeが約2.5(eV)付近、HO中においてはEeが約1(eV)付近で最も大きな値を示す。この時のQm値(約2×10−15(cm))を用いると、平均自由行程λは、約200nmになる。例えば、電子エミッターと媒体との距離が10nmの場合、エミッターから放出した電子が媒体に流入する前にガス分子と衝突する確率は5%程度(1−e−0.05)と試算される。この値は、λが最も短い場合のものである。図31から分かるように、N2中における1〜4(eV)の電子を除き、平均自由行程λは400nm以上ある。このλを用いると電子の衝突確率は2.5%程度となる。完全に無衝突とは言えないが、弾性衝突散乱損失は極めて少ないと言える。
【0239】
次に、非弾性衝突について説明する。先ず、N、Oについて説明すると、図31、図32から分かるように、Ee:〜10(eV)の範囲では、衝突断面積は、大きい順にQv、Qex、Qd、Qaである。これらに対して、Qmと同様に衝突確率を見積もる。ここでの見積もりは、各々の断面積の大きいガスに対して行うことにする。エミッターから放出した電子が10nm離れた媒体面に到達する間に、電子が各衝突を起す最大確率は、振動励起衝突が1.2%(N2中)、電子励起衝突が0.1%(O中)、解離衝突(O→O+O)が0・07%、解離付着衝突(O+e→O+O)が0.004%と見積もられる。各衝突による電子のエネルギ損失量は、図31、図32の横軸の値に相当し、振動励起で1〜4(eV)、電子励起・解離で5〜10(eV)程度である。一回の非弾性衝突によるエネルギ損失量は無視できないが、非弾性衝突の確率自体が非常に低いので、全体としてのエネルギ損失は無視し得る程度に小さいと見て良い。
【0240】
Oについての非弾性衝突の断面積は不明であるが、振動励起は起こると考えられる。また、H2O→H+OH、OH→O+Hの解離エネルギは、それぞれ、0.2eV、4.8eVであるから、解離衝突も考慮する必要がある。解離種と電子との衝突はステップワイズなので、無視し得る程低いと考えられる。また、HOの解離種であるH、Oの電離閾値は、各々13.5eV、13.6eVであるから、H、Oの電離を考慮する必要は無い。HOの非弾性衝突の断面積が、N、Oと同程度であるに推定すれば、エネルギ損失はやはり極めて少ないと判断できる。
【0241】
上述した議論は、エミッターと媒体との間隔が数100nmよりも小さい場合に、エミッターから放出した電子は、媒体面に入射するまでに散乱損失やエネルギ損失を殆ど受けないことを示している。但し、頻度は低いものの、励起衝突、解離衝突が起こることも事実である。実用的には、解離種、励起種の中、再結合もしくは脱励起せずに、エミッターもしくは媒体側に拡散してきたものが、劣化要因になるかどうかが、ひとつのポイントである。主に考慮すべきものは、OHラジカルやOラジカルなどの活性なガス種である。従って、これらのガス種に関しては、エミッター表面や媒体最表面の潤滑層への影響の有無を考慮して適宜分圧を決定することが望ましい。
【0242】
(スタティックな状態でのデータ書き込み)
上述の実験により、媒体加熱に十分な電界放出電流が安定して得られることが判った。そこで、実際に光磁気媒体、相変化媒体、色素媒体などを試料として準備し、先ずはSTMを用いて大気中において、スタティックすなわち相対的に静止した状態での記録実験を行った。
【0243】
試料は、Siウェーハ基板上に各媒体に用いられる記録膜を50nm程度成膜したものとし、光磁気膜は遷移金属リッチの膜(補償点が室温未満)を用いて膜面下向きに一様に磁化し、相変化膜は一様に初期結晶化を行った。記録再生実験に用いた装置は、図13と同じ装置である。
【0244】
記録実験は、Cコートした針を試料面から10nm程度離し、電圧をパルス的に印加して電子流を電界放出させて媒体を加熱して行った。針に印加する電圧(即ち放出電流値)、電圧パルス時間をパラメータとした。一つ記録する毎に試料を100nm程度スキャンし、記録マークをマトリクス状に形成した。これは次のマーク観察実験(スタティック再生)において記録マークを形成した場所を見つけ易くするためである。
【0245】
光磁気膜を用いた記録実験では、試料に上向きの記録磁界200 Oeを一様に印加し、針に印加する電圧と電圧パルス時間をパラメータに反転磁区列を形成した後、MFM(磁気力顕微鏡)でマーク列の観察を行った。
【0246】
相変化膜を用いた実験では、針に印加する電圧と電圧パルス時間をパラメータに非晶質マークの記録を行った後に、SPOM(表面電位顕微鏡)でマークの観察を行った。
【0247】
また、色素膜を用いた実験では、針に印加する電圧と電圧パルス時間をパラメータに色素の変形記録を行った後に同一のSTMでSTMモードに切換えてマークの観察を行った。
【0248】
図34は、スタティックな記録再生実験の結果を纏めたものであり、その縦軸は電界放出電流I、横軸は電圧パルス時間tをそれぞれ表す。ここで、Aは光磁気記録膜に対する結果、Bは相変化記録膜に対する結果、Cは色素膜に対する結果をそれぞれ表す。図34中の各曲線は、同図においてこの曲線よりも上側の領域で記録マークの観察ができた境界を表している。観察の分解能は、観察の手段にも依るが、大体10nm程度なので、10nm未満のマークについては明確な観察は不能だった。つまり、図34の曲線A、B及びCは、この曲線よりも上側の条件でほぼ10nmのマークが形成されたことを意味している。電流Iが大きいかパルス時間tが長い条件ではマークは大きくなり、そのサイズは20nm程度で飽和した。これは、電子線の媒体面でのスポットサイズが20nm程度であることを意味している。針の先端直径が10nm程度で電界放出電子はその先端部分から放出されることと、針と媒体膜の間が10nm程度と近接していることから考えると、この結果は妥当なものと言える。以上説明したように、スタティックな書き込み実験では電圧印加時間が比較的長いために、1〜10μA以上程度の比較的低い電流でも記録マークの形成が可能であった。
【0249】
(ダイナミックな記録再生)
スタティックな記録再生に成功したので、次に記録装置を試作して記録動作を試みた。
【0250】
図35は、本発明の電子線記録装置に用いることができる記録ヘッドの要部構成を例示する概念図である。同図において、301はヘッド基板、302はエミッター電極膜、303は絶縁部材、304はゲート電極、305はエミッター、306は電圧源である。図35のゲート電極膜304の表面が媒体対向面、所謂、磁気記録における媒体対向面である。
【0251】
図35に表した構成は、磁気ヘッドにおける構造としては所謂「シルマグタイプ」のプラナーヘッドに類似するものである。基板301としては、磁気ヘッドのスライダーに用いられるアルチック基板、もしくはアルチック基板上にSiウェーハを接合したものを用いるのが好ましい。Siを接合した場合にはエミッターをSiの面方位選択エッチングで作成することができる。エミッター電極302は導電性材料で有れば何でも良いが、高伝導率のCu(銅)、Al(アルミニウム)、Au(金)、Ag(銀)あるいはそれらを主体とする合金を用いるのが好ましい。
【0252】
絶縁部材303は、誘電体、レジストなどを用いることができ、例えばSiOを用いることができる。ゲート電極304は必ずしも無くても構わない。ゲート電極が無い構成では、電圧はエミッターと媒体の間に直接印加する。ゲート電極が無い構成においてもエミッター先端の摩耗を防止する上では、エミッター先端は図35に表したように媒体対向面からリセスするのが好ましい。接触記録を行う場合には、このリセス量がエミッターと媒体間の距離を規定する。浮上記録を行う場合は特にリセスさせる必要は無い。
【0253】
ゲート電極304には、エミッター電極302と同様な材料を用いることができる。エミッター材料は電界電子放出可能なものなら何でも良いが、好ましくはTa、Si、C、さらに好ましくはC(DLC)を用いるのが良い。適当な金属材料をコーン状に加工した後にDLCを薄くコーティングして用いても構わない。電圧源306はDCでもパルスでも構わないし、変調されていても良い。変調されている場合には、浮上量変動による放出電流変動を防止する様に変調するか、記録マークサイズを多値化しより高密度な記録を行うように変調するのが良い。
【0254】
図35の構成の電子線記録ヘッドは、例えば以下の様に作成することが可能である。まず、アルチック基板301上にスパッタ法もしくは蒸着法によりエミッター電極膜302を形成し、所定のパターンにエッチング加工する。所定のパターンとは、エミッター電極とエミッターが電気的に接続する事と、エミッターが電圧源306と接続する様にパッド部に導かれていることを意味する。
【0255】
次に、絶縁部303をスパッタ法、蒸着法、CVD法などで形成する。絶縁部303をレジストで形成する場合はスピンコート法が採用される。続いて、ゲート電極膜をスパッタ法、蒸着法などを用いて形成した後、PEP工程に供してエミッターが設けられるべき部分のゲート電極とその下の絶縁部をエッチング加工して取り除く。絶縁部のエッチングは異方性エッチングでも等方性エッチングでも構わない。等方性エッチングの場合はゲート電極の加工孔付近には空洞が形成される。ゲート電極を用いない形態では、ゲート電極部は導電性材料以外のものを用いることが可能で、絶縁部材303と同一の材料でも構わない。
【0256】
次に、エミッター材料を例えばスパッタ法で形成する。例えば、ゲート上から適当な異方性でスパッタリングすると、スパッタ特有の「シャドーイング効果」で、自然にコーン状のエミッターを作成することができる。「シャドーイング効果」とは、ゲート304の上面にスパッタされた膜がゲート孔周囲から中心に向けてデブリ状に成長し、このデブリが陰になってエミッター電極上にエミッターが成長していくプロセスを意味する。
【0257】
次に、例えばCMP(chemical mechanical polishing)法によりゲート上のエミッター膜を除去する。次に、エミッター電極、ゲート電極のパッド部を露出してAuをパッド上にフレームメッキ成長させて端子を作成後、素子切断しスライダー加工を行い、ヘッドジンバルアセンブリーを行って、端子と電圧源からのリード線を接続すれば、本発明の電子線記録装置に搭載可能な記録ヘッドが完成する。
【0258】
上記の電子線記録ヘッドは、所謂磁気記録分野におけるシルマグタイプのヘッドに電子線を作り込んだ具体例であるが、本発明は、特にヘッドタイプには限定されず、スライダー側面に薄膜素子を作り込む所謂プラナータイプのヘッド、もしくは現行の磁気記録ヘッドの主流を為すスライダー後端面に薄膜素子を作り込んだヘッド、もしくはスライダーに電子線源をPEP精度で貼り付けたものでも構わない。スライダー側面もしくは後端面に電子エミッターを形成する手法の一例としては、楔状マスクを用いて、斜めスパッタしマスク上に形成するDLC膜によるシャドーイング効果によって先鋭な先端を有するエミッターを作る態様、後行程で例えばFIB加工によってエミッター先端部を先鋭化する態様などを挙げることができる。
【0259】
また、スライダー上薄膜行程で直接エミッターを形成する以外に、貼り合わせる方法では、スライダー基板上に例えば凸パターンをスライダーサイズのピッチで形成し、エミッター形成基板にスライダー基板の凸パターンに対応する凹パターンを設けておいて、接合しチッピングする方法を例示することが可能である。
【0260】
上記した方法で作成した記録ヘッドを、例えばスピンスタンドタイプの磁気記録評価装置のヘッド部に取付ければ、本発明の電子線記録を以下の手順で実施する事ができる。
【0261】
図36は、本発明の実施に使用可能な記録媒体の一実施例の構成を示す図である。同図において、307は媒体基板、308はシード層、309は記録層、310は保護層である。媒体の構造は、再生方式によって異なり、図36の構成は、前記したスタティックな記録再生実験に用いたと同様に、プローブ型再生に適した構成となっている。近接場光を用いて光学的に再生を行う場合には、通常の光ディスクに用いられているのと同様に、光学干渉構造とするのが良い。
【0262】
いづれの場合にも、記録においては電子エミッターと媒体を、動作雰囲気下での電子の平均自由行程以下に近接させることが重要であり、また、再生時もプローブもしくは近接場光源と媒体は記録時同様に近接配置させることが、高分解能の再生を行う上で重要である。
【0263】
媒体基板307としては、ガラス、Si、ポリカーボネイトなどを用いることが可能で、アドレス情報、サーボ情報などのフォーマッティングは、プリフォーマットでもソフトフォーマットでも構わない。
【0264】
プリフォーマットの形態では、例えば2Pプロセスでプリピット、プリグルーブを形成するか、ポリカーボネイト基板の場合には直接射出成形しても良い。
【0265】
シード層308は特には必要無いが、記録層309として相変化膜を用いる場合には、結晶化速度を促進させる、結晶粒径を制御するなどの目的で、金属膜、窒化物膜、酸化物膜、金属微粒子分散膜などを使用するのが好ましく、記録層309として光磁気膜を用いる場合には、磁壁のピンニングサイト制御などの目的で、金属膜、金属化合物膜などを使用するのが好ましく、記録層309として色素系膜を用いる場合は、色素の変形を助長する為の光吸収性金属層、色素以外の有機層を用いるのが良く、記録層309として磁気記録膜を用いる場合には、結晶磁気異方性制御の為に、Cr系、V系の多結晶膜、垂直磁化記録層の場合には軟磁性膜を用いるのが好ましい。
【0266】
記録層309としては、上記した様に、相変化膜、光磁気膜、色素膜、磁気記録膜などが代表的であるが、この他、電子ビーム照射により昇温し、何らかの物理的変化を起すものであれば何でも良い。
【0267】
保護膜310としては、酸化物、窒化物、炭化物、硼化物などのセラミクスやDLCを用いるのが良い。保護膜上には、磁気記録に用いられている潤滑層をコーティングするのが好ましい。
【0268】
図36の媒体は、プリフォーマットプロセスとスパッタリングプロセスの併用、ソフトフォーマットの場合には、スパッタリングプロセスとソフトフォーマツトプロセス(例えば磁気記録におけるサーボライトプロセス)の併用で作成することができる。
【0269】
前記した本発明に関わる電子線記録ヘッドと上記した媒体をスピンスタンドタイプの記録再生機にセットし本発明を以下の手順で実施した。
【0270】
図37は、本発明の電子線記録再生装置の一実施例の構成図である。同図において、511はディスク状の記録媒体、512はスピンドルモータ、513は記録用の電子エミッターと再生用のプローブもしくは近接光源を具備する記録再生ヘッド、514はヘッドを駆動するサーボモータ系、515は再生信号を増幅するプリアンプ、516は可変利得増幅器、517は増幅後の再生信号をディジタル信号に変換するA/D変換回路、518はビタビデコーダなどの線形等価器、520は再生信号を原信号に復元するデータ検出回路、521はデコーダ、522は記録再生データの転送制御を行うドライブコントローラ、523はインターフェース、524はスピンドルモータとヘッド駆動用サーボモータを駆動制御する回路、525は電子エミッタードライバ、526は変調回路である。
【0271】
なお、本発明の実施に必要なのは、インターフェース523、ドライブコントローラ522、電子エミッタードライバ525、駆動制御回路524、ヘッド駆動用サーボモータ514、電子エミッターを具備する記録ヘッド513、媒体駆動用スピンドルモータ512、及び記録媒体511の記録系であり、他の再生に関わる部位は必須では無い。
【0272】
図37の構成において、スピンドルモータ512により媒体511を回転し、電子エミッターを搭載するヘッド513を所定の記録トラックに導き、電子エミッタードライバ525により、エミッターから媒体へ向けて電子ビームを照射して記録すれば、基本的に本発明を実施する事が可能である。電子線源がゲート電極を有する場合は、ドライバ525はエミッターとゲート間の電圧、ゲートと媒体間の電圧の両方を制御するものであれば良い。
【0273】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0274】
例えば、電子放出源や磁気ヘッドを構成する各要素の構造や材料については、前述したもの他にも当業者が公知技術の範囲から適宜選択して同様の効果を得ることができる。
【0275】
また、記録媒体として用いるものも、磁気的な記録が可能なものであれば良く、いわゆる「面内記録」でも「垂直記録」でも可能であり、例えば、磁気的記録層と軟磁性層とを有する「キーパードメディア」などの各種の記録媒体を用いることができる。
【0276】
さらに、記録媒体は、いわゆるハードディスクには限定されず、その他フレキシブルディスクや磁気カードなどの磁気的記録が可能なあらゆる媒体を用いることができる。
【0277】
同様に、磁気記録装置に関しても、磁気記録のみを実施するものでも良く、記録・再生を実施するものでも良い。磁気ヘッドと媒体との位置関係についても、いわゆる「浮上走行型」でも「接触走行型」でも良い。さらに、記録媒体を磁気記録装置から取り外し可能とした、いわゆる「リムーバブル」の形式の磁気記録装置であっても良い。
【0278】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、高密度磁気記録再生に必要な極めて微細な粒径からなる低ノイズの多粒子系媒体に対して、室温付近で十分に高い熱擾乱耐性を付与できると共に、記録磁界印加部では電子ビーム照射により媒体の保磁力すなわち磁化反転に必要な磁界を低減化させて、実用的な記録ヘッドで高速記録を実現することが可能となる。
【0279】
また、電子放出源と記録再生素子の一体化により、小型軽量の熱アシスト磁気記録ヘッドが提供できるので、高速シーク動作が可能になると共に低価格にヘッドとドライブを構成することができる。
【0280】
さらに、本発明によれば、高分解能・高効率の電子放出源を用いて媒体を加熱し、加熱部の媒体保磁力を低下して、保磁力低下部に記録磁界を印加して記録を行う、熱アシスト磁気記録装置における電子放出源の寿命を実用レベルに改善することができる。
【0281】
一方、本発明によれば、磁極あるいは磁気ヨークを電子放出源として兼用することにより、さらに高密度の磁気記録再生を実現することができる。
【0282】
また、本発明によれば、従来の記録装置に用いられていた、光ビームもしくは磁気記録ヘッドと比較して格段に記録分解能に優れた電子エミッターを用いて記録することができるので、記録密度を大幅に向上することができると共に、従来の電子ビーム記録では実現不可能だった大気雰囲気での動作を可能足らしめるために、実用的な記録装置を提供することも可能となる。
【0283】
すなわち、本発明によれば、新規な着想に基づき記録密度を従来のものから飛躍的に向上させることができる熱アシスト磁気記録装置を提供することができ産業上のメリットは多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の熱アシスト磁気記録ヘッドの一実施例の構成を示す図であり、同図(a)は媒体も含めたヘッド記録素子部の側断面主要構成を示す図、同図(b)は媒体面側からヘッドの記録素子部主要構成を見込む図である。
【図2】図1の電子放出部近傍の拡大図であり、電子放出部作成工程を示す工程断面図である。
【図3】図1のリーディング側もしくはトレーリング側に配置することのできる再生素子部の一実施例を示す図である。
【図4】VSMで実測したHcの温特と、シャロックの式を用いて推定したHc0の温特を示す図である。
【図5】電子放出源への印加電圧Veとトラック幅1μm当りのGMR再生出力電圧Vsの関係を、記録コイルへの通電電流Iwをパラメータとして示すグラフ図である。
【図6】本発明の熱アシスト磁気記録ヘツドを用いた記録過程を模式的に示す図であり、図6(a)は図1(b)の中で記録過程に関わる部分を抽出した断面図、図6(b)は媒体面での電子ビームプロファイルと媒体の温度分布を示すグラフ図、図6(c)は媒体保磁力の空間分布と記録磁界の空間分布を示すグラフ図である。
【図7】本発明において試作した媒体の熱磁気特性を表すグラフ図であり、同図において、Hcは保磁力、Msは再生信号に関わる飽和磁化である。
【図8】図7の媒体を用いて本発明を実施する場合の記録過程の概念を表す説明図である。
【図9】本発明の第3実施形態における評価結果を表すグラフ図であ
【図10】複数の電子放出源先端部を有する熱アシスト磁気記録ヘッドを例示する要部断面図である。
【図11】積層型磁気ヘッドと電子放出源を組合せた本発明の熱アシスト磁気記録ヘッドの要部構成を示す断面図である。
【図12】本発明の熱アシスト磁気記録装置のシステム構成を例示するブロック図である。
【図13】本発明者が行った実験に使用した装置の構成を示すブロック図である。
【図14】探針材料としてTa、Cの二種を用い、10×10−4Paの真空減圧下で取得した、電界放出電流Iと探針への印加電圧Vの関係を示すグラフ図である。
【図15】放出電流を5×10−5Aに設定し、C(炭素)探針を用いて行った実験結果の一例を示す図であり
【図16】図15に表した特性において、放出電流が初期値の90%(同図中に破線で示した)に劣化するまでの時間(td)を指標に、各種エミッター、各種放出電流密度で、雰囲気中の酸素量とtdの関係を調べた結果を表すグラフ図である。
【図17】本発明の第7実施形態にかかる磁気記録装置の一部を例示する概念図であり、その筐体内部雰囲気を調整する為の手段を特に表している。すなわち、同図(a)は筐体の斜視外観図、同図(b)は同図(a)のX−X’部を拡大した断面図である。
【図18】図17に示した筐体内部に配置される磁気記録装置の主要部構成の一実施例を示す図である。
【図19】本発明の第8実施形態にかかる第1の磁気記録ヘッドの要部断面構成を例示する概念図である。
【図20】単磁極ヘッドにおいてリターン磁極部215を媒体対向面216からリセスさせた構成を例示する概念図である。
【図21】本発明の第8実施形態の記録ヘッドの主磁極あるいはリーディング側磁極の媒体対向面の付近を拡大した概念図である。
【図22】本発明の第8実施形態にかかるリングヘッド型の磁気記録ヘッドの要部断面構成を例示する概念図である。
【図23】本発明の第8実施形態の磁気記録装置の要部構成を例示する概念図である。
【図24】本発明の第8実施形態の磁気記録装置におけるタイミングチャートである。
【図25】評価結果を表すグラフ図である。
【図26】放電電流特性を表すグラフ図である。
【図27】本発明の第9実施形態にかかる磁気再生ヘッドの要部断面構成を例示する概念図である。
【図28】非晶質希土類・遷移金属フェリ磁性合金膜の磁気特性を表すグラフ図である。
【図29】再生実験の結果を表すグラフ図である。す
【図30】探針材料としてC(炭素)を用い、大気雰囲気下で取得したI−V特性をファウラー・ノルトハイム(F−N)プロットした結果を表すグラフ図である。
【図31】N(窒素)中の電子の衝突断面積を電子エネルギ(Ee)の関数として表したグラフ図である。
【図32】O(酸素)中の電子の衝突断面積を電子エネルギ(Ee)の関数として表したグラフ図である。
【図33】HO(水)中の運動量変換衝突頻度(Pc)を表すグラフ図である。
【図34】スタティックな記録再生実験の結果を纏めたものであり、その縦軸は電界放出電流I、横軸は電圧パルス時間tをそれぞれ表す。
【図35】本発明の電子線記録装置に用いることができる記録ヘッドの要部構成を例示する概念図である。
【図36】本発明の実施に使用可能な記録媒体の一実施例の構成を示す図である。
【図37】本発明の電子線記録再生装置の一実施例の構成図である。
【符号の説明】
S ヘッド基板
X 媒体進行方向(トレーリング方向)
10 記録磁極部全体
11 主磁極部
12 リターンパス磁極部
13 主磁極先端部
14 主磁極とリターンパス磁極の接続部
15 記録磁極リーディング部
16 記録磁極トレーリング部
17 記録磁束
21 記録コイル
22 記録コイル埋め込み部
30 電子放出源電極
40 電子放出源
41 電子ビーム
50 保護膜
60 媒体主要部
61 記録層
62 軟磁性裏打ち層
63 媒体の電子ビーム照射部
64 媒体の磁化固定部
65 媒体の磁化
80 シャーシー
81 磁気記録媒体
82 熱アシスト磁気記録ヘッド
83 高精度・高速位置決め系
84 信号処理系
Ie 電子放出源駆動入力
Is 信号入力
Os 信号出力
101 電子放出源駆動回路系
102 電子放出素子
103 ECC(誤り訂正コード)附加回路系
104 変調回路系
105 記録補正回路系
106 記録素子部
107 媒体
108 再生素子部
109 等価回路系
110 復号回路系
111 復調回路系
112 ECC回路系

Claims (3)

  1. 電子放出源と、
    記録磁極と、
    前記電子放出源及び前記記録磁極に対して磁気記録媒体を相対的に走行させる走行機構を備え、
    前記走行機構により前記磁気記録媒体を走行させた際に、前記電子放出源が前記記録磁極よりも前記磁気記録媒体の走行方向に関してリーディング側に設けられており、
    前記走行方向を記録トラックの長手方向とした時に、前記電子放出源の記録トラック幅Teは、前記記録磁極の記録トラック幅Twに対して、Te/2≦Tw≦2Teなる関係を満足し、
    前記磁気記録媒体に対して前記電子放出源から電子を放出することにより前記磁気記録媒体の記録部を加熱昇温した状態で前記記録磁極により磁気的に情報を記録可能とし、
    前記電子放出源は、非酸化性雰囲気もしくは減圧雰囲気にあり、前記電子放出源における酸素分圧密度をX( mols/cm 3 )、放出電子電流密度をJ( A/cm 2 )とした時に、X≦1.25×10 12 ×J、且つJ≧10 なる関係を満足し、前記記録部における前記記録磁極からの記録磁界よりも前記記録部の保磁力の方が小さくなるように前記磁気記録媒体を加熱昇温し、
    かつ前記記録部は、常温において前記記録磁極からの記録磁界よりも大きな保磁力を有することを特徴とする熱アシスト磁気記録装置。
  2. 前記電子放出源は、前記磁気記録媒体の走行方向に沿って複数の電子放出部を有することを特徴とする請求項1記載の熱アシスト磁気記録装置。
  3. 前記電子放出源は、電界放出によって前記電子を放出することを特徴とする請求項1または2に記載の熱アシスト磁気記録装置。
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