本発明の強誘電性薄膜の形成方法は、前記のとおり、フッ化ビニリデン単独重合体からなる強誘電性薄膜の形成方法であって、つぎの(i)、(ii)および(iii)の工程を含む形成方法に関する。
(i)フッ化ビニリデンをラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合することにより、I型結晶構造を単独または主成分とするフッ化ビニリデン単独重合体原末を製造する工程。
(ii)前記I型結晶構造を単独または主成分とするフッ化ビニリデン単独重合体原末から得られるI型結晶構造を単独または主成分とするフッ化ビニリデン単独重合体を用いて基材表面に薄膜を形成する工程。
(iii)前記工程(ii)で形成したフッ化ビニリデン単独重合体の薄膜を分極処理する工程。
本発明の方法によれば、KBrやKClなどの特定の基材だけでなくあらゆる基材に対して適用できる点で、また極低温といった特殊な塗布条件を設定しなくとも通常利用されている条件下で容易に被覆できる点で好ましいものである。
その結果、本発明の工程(ii)で得られた薄膜はI型結晶構造のフッ化ビニリデン単独重合体からなるものであって、薄膜自体、分極処理等によって強誘電性を発現する能力を有するものである。
本発明の強誘電性薄膜形成に用いられるフッ化ビニリデン単独重合体はI型結晶構造を単独または主成分とするものであり、特に、I型、II型およびIII型結晶構造をそれぞれ有するフッ化ビニリデン単独重合体に着目したとき、I型結晶構造を有するフッ化ビニリデン単独重合体がII型結晶構造を有するフッ化ビニリデン単独重合体よりも高い比率で存在し、かつIII型結晶構造を有するフッ化ビニリデン単独重合体よりも高い比率で存在することが好ましい。
フッ化ビニリデン単独重合体のI型結晶構造は、重合体分子中の1つの主鎖炭素に隣り合う炭素原子に結合したフッ素原子と水素原子がそれぞれトランスの立体配位(TT型構造)、つまり隣り合う炭素原子に結合するフッ素原子と水素原子が炭素−炭素結合の方向から見て180度の位置に存在することを特徴とする。
本発明においてI型結晶構造を有するフッ化ビニリデン単独重合体は、1つの重合体分子全体がTT型構造を有していても良いし、また重合体分子の一部がTT型構造を有するものであっても良く、かつ少なくとも4つの連続するフッ化ビニリデン単量体単位のユニットにおいて上記TT型構造の分子鎖を有するものを示すものである。いずれの場合もTT型構造の部分がTT型の主鎖を構成する炭素炭素結合は平面ジグザグ構造をもち、C−F2、C−H2結合の双極子能率が分子鎖に対して垂直方向の成分を有している。I型結晶構造を有するフッ化ビニリデン単独重合体についてIR分析を行なうと、1274cm-1、1163cm-1および840cm-1付近に特徴的なピーク(特性吸収)を有し、粉末X線回折分析においては2θ=21度付近に特徴的なピークを有する。
なお、IR分析において、I型結晶構造の特性吸収は認められるが実質的にII型結晶構造およびIII型結晶構造の特性吸収が認められないものを「全I型結晶構造」という。
フッ化ビニリデン単独重合体のII型結晶構造は、重合体分子中のある1つの主鎖炭素に結合するフッ素原子(または水素原子)に対し、一方の隣接する炭素原子に結合した水素原子(またはフッ素原子)がトランスの位置にあり、なおかつもう一方(逆側)に隣接する炭素原子に結合する水素原子(またはフッ素原子)がゴーシュの位置(60度の位置)にあり、その立体構造の連鎖が2つ以上連続して有すること
[外1]
を特徴とするものであって、分子鎖が
[外2]
型でC−F
2、C−H
2結合の双極子能率が分子鎖に垂直方向と平行方向とにそれぞれ成分を有している。II型結晶構造を有するフッ化ビニリデン単独重合体についてIR分析を行なうと、1212cm
-1、1183cm
-1および762cm
-1付近に特徴的なピーク(特性吸収)を有し、粉末X線回折分析においては2θ=17.7度、18.3度および19.9度付近に特徴的なピークを有する。
なお、IR分析において、II型結晶構造の特性吸収は認められるが実質的にI型結晶構造およびIII型結晶構造の特性吸収が認められないものを「全II型結晶構造」という。
フッ化ビニリデン単独重合体のIII型結晶構造は、TT型構造とTG型構造が交互に連続して構成された立体構造
[外3]
を有することを特徴とし、分子鎖が
[外4]
型でC−F
2、C−H
2結合の双極子能率が分子鎖に垂直方向と平行方向とにそれぞれ成分を有している。III型結晶構造を有するフッ化ビニリデン単独重合体についてIR分析を行なうと、1235cm
-1および811cm
-1付近に特徴的なピーク(特性吸収)を有し、粉末X線回折分析においては2θ=18度付近に特徴的なピークを有する。
なお、通常、III型結晶構造はI型結晶構造および/またはII型結晶構造と混在する形でその存在が確認される。
本発明で「I型結晶構造を主成分とする」とは、好ましくは、I型結晶構造を有するフッ化ビニリデン単独重合体の存在比率が、つぎの(数式1)および(数式2)のいずれの関係をも満たすものをいう。
100≧I型/(I型+II型)>50重量% (数式1)
100≧I型/(I型+III型)>50重量% (数式2)
I型、II型およびIII型結晶構造のフッ化ビニリデン単独重合体の確認や存在比率については、X線解析やIR分析法など種々の方法で分析できるが、本発明において、フッ化ビニリデン単独重合体中のI型結晶構造の含有率F(I)は、IR分析により測定したチャートの各結晶構造の特性吸収のピーク高さ(吸光度A)から、以下の方法により算出する。
(1)I型とII型の混合物中のI型の含有率(重量%。F(I)×100)の算出
(1-1)計算式
Beerの法則:A=εbC
(式中、Aは吸光度、εはモル吸光係数、bは光路長、Cは濃度)から、I型結晶構造の特性吸収の吸光度をAI、II型結晶構造の特性吸収の吸光度をAII、I型結晶のモル吸光係数をεI、II型結晶のモル吸光係数をεII、I型結晶の濃度をCI、II型結晶の濃度をCIIとすると、
AI/AII=(εI/εII)×(CI/CII) (1a)
ここで、モル吸光係数の補正係数(εI/εII)をEI/IIとすると、I型結晶構造の含有率F(I)(=CI/(CI+CII))は、
となる。
したがって、補正係数EI/IIを決定すれば、実測したI型結晶構造の特性吸収の吸光度AIとII型結晶構造の特性吸収の吸光度AIIから、I型結晶構造の含有率F(I)を算出できる。
(1-2)補正係数EI/IIの決定方法
全I型結晶構造のサンプル(図1)と全II型結晶構造のサンプル(図2)とを混合してI型結晶構造の含有率F(I)が分かっているサンプルを調製し、IR分析する。得られたチャートから各特性吸収の吸光度(ピーク高さ)AIおよびAIIを読み取る(図3)。
ついで上記式(2a)をEI/IIについて解いた式(3a):
に代入して、補正係数EI/IIを求める。混合比を変えたサンプルについて繰り返し行なって補正係数EI/IIを求め、それらの平均値として1.681を得た。
I型結晶構造の特性吸収として840cm-1を用い(参照文献:バックマンら、ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス、50巻、10号(1979)(Bachmann et al., J. Appl. Phys., Vol.50, No.10(1979)))、同文献からII型結晶構造の特性吸収として763cm-1を用いた。
(2)I型とIII型の混合物中のI型の含有率F(I)
III型結晶構造のみからなる物質が得にくいので、II型とIII型の混合物を標準物質として使用する。
(2-1)まず、II型とIII型の標準混合物中のIII型結晶構造の含有率を上記式(2a)においてAIおよびAIIをそれぞれAIIおよびAIIIとし、II型とIII型の混合物における補正係数EII/IIIを文献(エス・オサキら、ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス:ポリマー フィジクス エディション、13巻、pp1071−1083(1975)(S.OSAKI et al., J. POLYMER SCIENCE: Polymer physics Edition, Vol.13, pp1071-1083(1975))から0.81とし、II型とIII型の標準混合物のIRチャート(図4)から読み取ったAIIおよびAIIIを代入して算出した(F(III)=0.573)。III型結晶構造の特性吸収として811cm-1を用いた(参照文献:バックマンら、ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス、50巻、10号(1979))。
(2-2)ついで、III型の含有率が判明したII型とIII型の標準混合物と全I型結晶構造の物質を所定の割合で混合し、I型の含有率F(I)が判っているI型とII型とIII型の混合物を調製し、この混合物をIR分析してチャート(図5)からAIおよびAIIIを読み取り、上記式(3a)(ただし、AIIをAIIIとする)から補正係数EI/III(εI/εIII)を算出する。II型とIII型の標準混合物とI型のみの物質混合比を変えたサンプルについて繰り返し行なって補正係数EI/IIIを求め、それらの平均値として6.758を得た。
(2-3)この補正係数EI/III=6.758を用い、上記式(2a)(ただし、AIIをAIIIとする)からI型とIII型の混合物中のI型の含有率F(I)を求める。
本発明の薄膜形成に用いるフッ化ビニリデン単独重合体の好ましいものとしては、つぎの数式:
100≧I型/(I型+II型)>60重量%
および
100≧I型/(I型+III型)>60重量%
のいずれの関係をも満たすものであり、より好ましくは、下式(数式3)および(数式4)のいずれの関係をもみたすものである。
100≧I型/(I型+II型)>70重量% (数式3)
100≧I型/(I型+III型)>70重量% (数式4)
さらには、つぎの数式:
100≧I型/(I型+II型)>80重量%
および
100≧I型/(I型+III型)>80重量%
のいずれの関係をも満たすものが好ましく、これらは分極処理によって高い強誘電特性を発現できる点で好ましい。
またさらに、I型結晶の存在比率は、式:
100≧I型/(I型+II型+III型)>50重量%
の関係にあるのが好ましく、より好ましくは、式:
100≧I型/(I型+II型+III型)>70重量%
特に好ましくは、式:
100≧I型/(I型+II型+III型)>80重量%
の関係を有するものである。
本発明の大きな特徴は、重合方法を鋭意検討することにより、I型結晶構造を単独または上記の関係式を満たす形で主成分として有するフッ化ビニリデン単独重合体を、特殊な後処理等を行なわなくとも重合後の原末の形態で得ることができたことにある。
そこでまず、工程(i)の説明をする。
本発明の強誘電性薄膜の形成法における工程(i)は、フッ化ビニリデンを、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合することによってI型結晶構造を単独または主成分として有するフッ化ビニリデン単独重合体を重合体原末の形で得る工程である。
本発明における工程(i)でのフッ化ビニリデン単独重合体の製造は、フッ化ビニリデンをラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合反応させることにより行われる。
ラジカル発生源としては、本発明で用いるラジカル重合開始剤のほか、光、熱などが利用可能であるが、ラジカル重合開始剤の存在下で製造するときは、重合度を制御でき、反応をスムーズに進行させることができ、また高収量で重合体が得られる。
ラジカル重合開始剤としては、パーオキサイド類、アゾ系開始剤などが利用できる。
パーオキサイド類としては、たとえばn−プロピルパーオキシジカーボネート、i−プロピルパーオキシジカーボネート、n−ブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類;α、α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノネイト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノネイト、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノネイト、t−ヘキシルパーオキシネオデカノネイト、t−ブチルパーオキシネオデカノネイト、t−ヘキシルパーオキシピバレイト、t−ブチルパーオキシピバレイト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノネート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノネイト、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノネイト、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノネイト、t−ブチルパーオキシラウレイト、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネイト、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネイト、t−ヘキシルパーオキシベンゾネート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイル)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−m−トルレートとパーオキシベンゾエート混合物、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジt−ブチルパーオキシイソフタレートなどのオキシパーエステル類;イソブチルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、サクシニックアシッドパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類;1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパンなどのパーオキシケタール類;α、α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド類;P−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩類;その他、過塩素酸類、過酸化水素などがあげられる。
また、フッ素原子を有するパーオキサイド類も利用可能であり、含フッ素ジアシルパーオキサイド類、含フッ素パーオキシジカーボネート類、含フッ素パーオキシジエステル類、含フッ素ジアルキルパーオキサイド類から選ばれる1種または2種以上が好ましい。なかでも例えば、ペンタフルオロプロピオノイルパーオキサイド(CF3CF2COO)2、ヘプタフルオロブチリルパーオキサイド(CF3CF2CF2COO)2、7H−ドデカフルオロヘプタノイルパーオキサイド(CHF2CF2CF2CF2CF2CF2COO)2などのジフルオロアシルパーオキサイド類が好ましくあげられる。
アゾ系ラジカル重合開始剤としては、たとえば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]、4,4’−アゾビス(4−シアノペンテン酸)などがあげられる。
ラジカル重合開始剤としては、なかでも、パーオキシジカーボネート類、ジフルオロアシルパーオキサイド類、オキシパーエステル類、過硫酸塩類などが好ましい。
ラジカル重合開始剤の使用量は、使用するフッ化ビニリデン単量体1モルに対して、下限は0.0001モル、好ましくは0.01モル、より好ましくは0.03モル、特に好ましくは0.05モルであり、上限は0.9モル、好ましくは0.5モル、より好ましくは0.1モル、特に好ましくは0.08モルである。ラジカル重合開始剤の使用量が少なすぎると、重合反応が進行しにくくなり、また使用量が多すぎると結晶性の重合体が得られにくくなるため好ましくない。
ラジカル重合の際、好ましくは連鎖移動剤(テローゲン)を共存させておくことが、I型結晶構造の存在比率を高くすることから好ましい。連鎖移動剤としては、従来公知のものが使用でき、たとえば各種の塩素化合物、臭素化合物、ヨウ素化合物、アルコール類の連鎖移動剤を使用すればよい。特に、式(1):
(式中、X1はヨウ素原子または臭素原子;Rf1、Rf2は同じかまたは異なってなるフッ素原子または炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基から選ばれるもの)で示される部位を少なくとも1個含む炭素数1〜20のヨウ素化合物または臭素化合物などが好ましく使用できる。なかでも、式(1)で示される部位を有するヨウ素化合物または臭素化合物がより好ましい。
式(1)の部位を有するヨウ素化合物または臭素化合物を連鎖移動剤(テローゲン)として重合時に用いるときは、分子量分布が狭い重合体や分岐の比率の少ない重合体鎖が合成でき、I型結晶構造の含有比率の高いフッ化ビニリデン単独重合体が得られるのである。
式(1)の部位の具体例は、
などがあげられる。なかでも、分子量分布をより狭くすることができ、結果的にI型結晶構造の含有比率の高いフッ化ビニリデン単独重合体原末がえられる点で、ヨウ素化合物であることが好ましい。
また、式(1)の部位において、I型結晶構造の含有比率の高いフッ化ビニリデン単独重合体が得られる点で、Rf1およびRf2はなかでもFであることが好ましい。
式(1)の部位を有するヨウ素化合物または臭素化合物は、より重合反応が収率よく進行し、かつ分子量分布や分岐鎖の少ない重合体が得られる点で、式(1)の部位を有するポリフルオロ化合物であることが好ましく、式(1)の部位を有するパーフルオロ化合物であることがより好ましい。
特に、式(2):
X2−(CF2)n−I (2)
(式中、X2はフッ素原子またはヨウ素原子、nは1〜20の整数)で示される少なくとも1種のパーフルオロアイオダイド、またはヨウ素原子が臭素原子に置き換えられたパーフルオロブロマイドが好ましい。
このようなパーフルオロ化合物としては、例えばモノアイオダイドパーフルオロメタン、モノアイオダイドパーフルオロエタン、モノアイオダイドパーフルオロプロパン、モノアイオダイドパーフルオロブタン(たとえば2−アイオダイドパーフルオロブタン、1−アイオダイドパーフルオロ(1,1−ジメチルエタン))、モノアイオダイドパーフルオロペンタン(たとえば1−アイオダイドパーフルオロ(4−メチルブタン))、1−アイオダイドパーフルオロ−n−ノナン、モノアイオダイドパーフルオロシクロブタン、2−アイオダイドパーフルオロ(1−シクロブチル)エタン、モノアイオダイドパーフルオロシクロヘキサンなどのパーフルオロモノアイオダイド化合物;ジアイオダイドパーフルオロメタン、1,2−ジアイオダイドパーフルオロエタン、1,3−ジアイオダイドパーフルオロ−n−プロパン、1,4−ジアイオダイドパーフルオロ−n−ブタン、1,7−ジアイオダイドパーフルオロ−n−オクタン、1,2−ジ(アイオダイドジフルオロメチル)パーフルオロシクロブタン、2−アイオダイド1,1,1−トリフルオロエタンなどのパーフルオロジアイオダイド化合物などのヨウ素化合物、およびこれらのヨウ素化合物のヨウ素原子を臭素原子に置換した臭素化合物があげられる。
より好ましくは、工程(i)におけるI型結晶構造を単独または主成分とするフッ化ビニリデン単独重合体原末の製造は、式(2):
X2−(CF2)n−I (2)
(式中、X2はフッ素原子またはヨウ素原子、nは1〜20の整数)で示される少なくとも1種のパーフルオロアイオダイドおよびラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合することを特徴とし、なおかつ、重合体におけるフッ化ビニリデン単位の数平均重合度を4〜20、好ましくは4〜15とすることで、より確実に達成される。
つまり直鎖状のフルオロアルキル基を有するヨウ素化合物を用いることが重要であり、(CF3)2CF−Iなどの分岐状のフルオロアルキル基を用いた場合に比べて、I型結晶構造が高純度のものをより一層製造しやすい。
式(2)のヨウ素化合物のなかでも、nが1または4m(ただしmは1〜5)であることがより好ましい。
式(2)のヨウ素化合物は具体的には、CF3I、F(CF2)4I、F(CF2)8Iのほか式I(CF2CF2)n1I(n1は1〜5の整数)で示されるパーフルオロジアイオダイド[たとえばI(CF2CF2)I、I(CF2CF2)2I、I(CF2CF2)3 I、I(CF2CF2)4Iなど]が好ましくあげられ、特には、CF3I、I(CF2CF2)n1I(n1は1〜5の整数)が好ましく、なかでもCF3I、I(CF2CF2)2Iが好ましい。
これらヨウ素化合物を連鎖移動剤(テローゲン)として用いるときは、I型結晶構造のフッ化ビニリデン単独重合体原末が高純度、高効率でえられる。
ヨウ素化合物の使用量は、使用するフッ化ビニリデン単量体1モルに対し、下限は0.01モル、好ましくは0.02モル、より好ましくは0.03モル、特に好ましくは0.08モルであり、上限は10モル、好ましくは6モル、より好ましくは2モル、特に好ましくは1モルである。
ヨウ素化合物の使用量が少なすぎると、重合度が大きくなりすぎ、それによってI型結晶構造の含有比率が低下する傾向がある。ヨウ素化合物の使用量が多すぎると、重合反応が進行しにくく、収量が低下したり、重合度が低くなりすぎる傾向がある。
ヨウ素化合物を用いる場合のラジカル重合開始剤の使用量は、使用するヨウ素化合物1モルに対し、下限は0.0001モル、好ましくは0.01モル、より好ましくは0.03モル、特に好ましくは0.04モルであり、上限は0.9モル、好ましくは、0.5モル、より好ましくは0.1モル、特に好ましくは0.08モルである。
フッ化ビニリデン単独重合体中のフッ化ビニリデンのみの繰返し単位に着目した数平均重合度は、下限は4、特に5であることが好ましく、上限は20、より好ましくは15、さらには12、とりわけ10であるのが好ましい。数平均重合度が大きすぎるとI型結晶構造の比率が低下するため好ましくない。
本発明のフッ化ビニリデン単独重合体の製造法において、重合方法としては、重合溶媒を使用しないバルク重合法、重合場におけるモノマーを溶解させる溶剤を使用した溶液重合法、重合場におけるモノマーを溶解または分散させる溶剤と必要に応じて水などの分散媒を加えた懸濁重合法、乳化剤を含む水性溶剤中で行なう乳化重合法などが採用できる。
なかでも、溶液重合法および懸濁重合法が、重合度を制御しやすい点で好ましい。
溶液重合法、懸濁重合法で製造する場合の重合溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、セロソルブアセテート、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、メチルセロソルブアセテート、酢酸カルビトールなどのエステル系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-アミルアルコール、3−ペンタノール、オクチルアルコール、3−メチル−3−メトキシブタノールなどのアルコール系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤などが利用可能であり、またさらに、CHF2CF2OCHF2、(CF3)2CFOCH3、CF3CF2CF2OCH3、CHF2CF2OCH3、CF3CF2CH2OCHF2、CF3CFHCF2OCH3、CHF2CF2OCH2CF3、CF3CF2CF2CF2OCH3、CF3CF2CH2OCF2CHF2、(CF3)2CHCF2OCH3、CF3CFHCF2OCH2CF3、CF3CF2CF2CF2OCH2CH3、CF3CHFCF2OCH2CF2CF3、CF3CHFCF2CH2OCHF2、CHF2CF2CH2OCF2CHF2、CF3CFHCF2OCH2CF2CF2H、CHF2CF2CF2CF2CH2OCH3、C6F12、C9F18、C6F14、CF3CH2CF2CH3、CHF2CF2CF2CHF2、(CF3)2CFCHFCHFCF3、CF3CHFCHFCF2CF3、(CF3)2CHCF2CF2CF3、C4H2F6、CF3CF2CHF2、CF2ClCF2CF2CHF2、CF3CFClCFClCF3、CF2ClCF2CF2CF2Cl、CF2ClCF2CF2CF2CF2CF2CHF2、CF2ClCFClCFClCF2Cl、HCFC−225,HCFC−141b、CF2ClCFClCFClCF2Cl、CF2ClCF2Cl、CF2ClCFCl2、H(CF2)nH(n:1〜20の整数)、CF3O(C2F4O)nCF2CF3(n:0または1〜10の整数)、N(C4F9)3などのフッ素系溶剤も利用できる。
なかでもフッ素系溶剤が、重合度を制御しやすい点で好ましく、特にHCFC−225、HCFC−141b、CF2ClCFClCFClCF2Cl、CF2ClCF2Cl、CF2ClCFCl2、H(CF2)nH(n:1〜20の整数)、CF3O(C2F4O)nCF2CF3(n:0または1〜10の整数)、N(C4F9)3などのフッ素系溶剤が好ましい。
重合温度は、使用するラジカル重合開始剤の種類によって適宜選択できるが、通常−10〜200℃であり、下限は好ましくは5℃、より好ましくは10℃であり、上限は好ましくは150℃、より好ましくは100℃である。
本発明における工程(i)で得られるフッ化ビニリデン単独重合体は、特に前述の特定の連鎖移動剤(例えば式(2)の連鎖移動剤)を用いることで、I型結晶構造の存在比率が特に高いフッ化ビニリデン単独重合体となるが、それらに限定されるものではない。
すなわち、工程(i)で得られるフッ化ビニリデン単独重合体は、たとえば式(4):
Y−(A1)−X3 (4)
(式中、A1は数平均重合度が5〜12のフッ化ビニリデン単独重合体の構造単位、X3はヨウ素原子または臭素原子、Yは連鎖移動剤の残基)で示されるフッ化ビニリデン単独重合体である。
このフッ化ビニリデン単独重合体は、1つの重合体分子において一方の末端に連鎖移動剤の残基(たとえばCF3基)を、もう一方の末端にヨウ素原子を有するフッ化ビニリデン単独重合体であり、構造単位A1は、数平均重合度で5〜12のフッ化ビニリデンの繰り返し単位を有する。
この式(4)の重合体は、連鎖移動剤として前記の式(2)のものを使用するときは、特にI型の結晶構造の純度が高いものである。
構造単位A1の数平均重合度が4以下になると室温で結晶を形成しにくくなる。また数平均重合度が13以上になるとI型結晶構造の純度が低くなる(例えばII型結晶の比率が増大する)。
また、一方の末端の構造はCF3基であることが、I型結晶構造の純度が高くなる点で特に好ましく、例えば、長鎖のパーフルオロアルキル基や分岐状のパーフルオロアルキル基が末端である場合はI型結晶構造の純度が低くなる(例えばII型結晶の比率が増大する)。
式(4)の重合体の分子量分布は、平均重合度によって異なるが、例えばGPC分析により求められるMw/Mnで1以上で3以下のもの、好ましくは2以下のもの、より好ましくは1.5以下のものであり、分子量分布が大きくなるとI型結晶構造の純度が低くなる傾向にある。
また、式(4)の重合体は、より詳しくは、フッ化ビニリデン単位が重合体1分子中に同じ方向を向いた式(4−1):
Y−(CH2CF2)n−X3 (4−1)
のみからなるものであっても良く、また重合体1分子中にフッ化ビニリデン単位の一部が逆向きに結合した式(4−2):
Y−(CH2CF2)n1(CF2CH2)n2−X3 (4−2)
の構造(YおよびX3は式(4)と同じ、n1+n2=n=1〜20)の重合体分子を含んでいても良い。
なかでも、式(4−1)のフッ化ビニリデン単位が同方向を向いた重合体分子のみからなるものが好ましい。
式(4−1)と(4−2)の混合物であっても、n2の比率(異常結合率と言う)が小さなほど好ましく、例えば、NMR分析などで算出できる
異常結合率:{n2/(n+n1+n2)}×100
が20%以下、さらには10%以下、特に5%以下のものが好ましい。
本発明における工程(i)で得られるフッ化ビニリデン単独重合体の他のものは、たとえば式(5):
X4−(A2)−(Rf3)m−(A3)−X5 (5)
(式中、mは1〜5の整数;A2、A3は同じかまたは異なるフッ化ビニリデン単独重合体の構造単位であって、構造単位A2とA3の合計の数平均重合度が2〜20、Rf3はたとえばCF2CF2などのパーフルオロアルキレン基、X4およびX5は同じかまたは異なりヨウ素原子または臭素原子)で示されるフッ化ビニリデン単独重合体であり、Rf3がCF2CF2でX4およびX5がいずれもヨウ素原子である重合体は、予想外にもI型結晶構造の純度の高いものである。
構造単位A2とA3の合計の数平均重合度は2〜20の範囲から選ばれるが、下限はより好ましくは4、さらに好ましくは5であり、上限は好ましくは15、さらに好ましくは12である。
つまり、数平均重合度が低すぎると室温で結晶を形成しにくくなり、また数平均重合度が高すぎるとI型結晶の純度が低くなる(例えばII型結晶の比率が増大する)。
式(5)の重合体において、mは1〜5の整数から選択できるが、より好ましくは2であり、このものはI型結晶構造の純度の特に高いものである。
式(5)の重合体は種々の方法で合成できるが、例えば、式(5−1):
X4−(Rf3)m−X5 (5−1)
(式中、mは1〜5の整数、Rf3、X4およびX5は前記と同じ)を連鎖移動剤として前述の製造法により合成できる。この連鎖移動剤を使用するときは、分子量分布の狭い重合体を合成できる点で好ましく、それによってI型結晶構造の純度を高められる点でも好ましい。
式(5)の重合体において構造単位A2およびA3の部分の分子量分布は、構造単位A2とA3の合計の数平均重合度によって異なるが、例えばGPC分析により求められるMw/Mnで1以上で3以下のもの、好ましくは2以下のもの、より好ましくは1.5以下のものであり、分子量分布が大きくなるとI型結晶の純度が低くなる傾向がある。
式(4)および式(5)で示したフッ化ビニリデン単独重合体は、それぞれ、前述と同様に、(数式1)および(数式2)で示した関係を満たすI型結晶構造を含有するものが好ましく、さらには(数式3)および(数式4)で示した関係を満たす高純度でI型結晶を含有するものが好ましく、それによって本発明の薄膜に強誘電特性を効果的に付与することができる。
本発明における工程(i)で得られるフッ化ビニリデン単独重合体である式(4)(式(4−1)、式(4−2)も含む)および式(5)の末端基X3、X4およびX5(いずれもヨウ素原子または臭素原子)を式(6):
−CnX6 2n+1 (6)
(式中、nは0〜4の整数;X6はHまたはF)で示されるHまたはF(n=0)、またはフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基(n=1〜4)に変性した末端変性フッ化ビニリデン単独重合体も、本発明の強誘電性薄膜の形成方法に使用できる。
末端基X3、X4およびX5(いずれもヨウ素原子または臭素原子)の式(6)の末端基への変性は、ヨウ素原子または臭素原子から直接、H、Fまたはアルキル基に変性してもよいし、他の官能基に一旦変性した後、式(6)の末端基に変性してもよい。
式(6)の末端基は、nが小さい方が強誘電性が高くなることから、n=0、すなわちHまたはFが特に好ましい。
本発明の強誘電性薄膜の形成方法では、ついで前述の工程(i)で得たI型結晶構造を単独または主成分とするフッ化ビニリデン単独重合体を用いて、基材上に薄膜を形成する工程(ii)を実施する。
工程(ii)では、工程(i)で製造したフッ化ビニリデン単独重合体の原末を直接基材に適用しても良いし、工程(i)で製造したフッ化ビニリデン単独重合体原末に対してI型結晶構造を損なわない範囲で、何らかの処理工程を加えて得られるI型結晶構造を単独または主成分とするフッ化ビニリデン単独重合体を基材に適用しても良い。
加える処理工程としては、例えば、工程(i)のすぐ後に行なう重合体原末中の低分子量不純物などを除去する洗浄処理工程のほか、I型結晶構造を単独または主成分とするフッ化ビニリデン単独重合体を特定の分子量のものに分離する分離工程、再沈および再結晶などの工程、乾燥を目的とする加熱工程、真空処理工程、結晶を成長させる目的の熱処理工程などがあげられる。
このうち分離工程により、特定の分子量のものに分離することで、I型結晶の純度が高まり、それによって本発明の強誘電性薄膜に強誘電特性をより効果的に付与することができる。分離工程は、たとえば再沈法、蒸留法、クロマトグラフィー法、蒸着法などにより好ましく実施できる。
再沈法によれば、フッ化ビニリデン単独重合体原末をできるだけ少量の溶媒(良溶媒)に溶解させておき、ついでフッ化ビニリデン単独重合体原末に対して溶解度の低い溶媒(貧溶媒)に投入してフッ化ビニリデン単独重合体を再沈させることにより、単一分子量のフッ化ビニリデン単独重合体を分離できる。
このときフッ化ビニリデン単独重合体原末は、良溶媒に対して通常1〜80重量%、好ましくは1〜70重量%、より好ましくは1〜50重量%溶解させておくのが好ましい。また、貧溶媒は良溶媒の10〜20倍量程度とすることが好ましい。再沈時の温度は、通常−30〜150℃、好ましくは0〜80℃、より好ましくは25〜50℃が採用される。
前記良溶媒や貧溶媒は、再沈させるフッ化ビニリデン単独重合体の溶解性に応じて適宜選択すればよい。例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセチルアセトンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、セロソルブアセテート、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、メチルセロソルブアセテート、酢酸カルビトール、ジブチルフタレートなどのエステル系溶剤;ベンズアルデヒドなどのアルデヒド系溶剤;ジメチルアミン、ジブチルアミン、ジメチルアニリン、メチルアミン、ベンジルアミンなどのアミン系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤;無水酢酸などのカルボン酸無水物系溶剤;酢酸などのカルボン酸系溶剤;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、塩化ベンジル、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤;ジメチルスルホキシドなどのスルホンアミド系溶剤;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテルなどの脂肪族炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、1−プロパノールなどのアルコール系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレンなどの芳香族炭化水素系溶剤;またはこれらの2種以上の混合溶剤などが好ましく利用できる。
蒸留法によれば、フッ化ビニリデン単独重合体原末を一定圧力(減圧)状態において一定温度下で蒸留することにより、単一分子量のフッ化ビニリデン単独重合体を効率よく分離できる。
蒸留時の圧力は、通常0.1Pa〜101KPa、好ましくは1Pa〜50KPa、より好ましくは100Pa〜1KPaである。蒸留時の温度は、通常0〜500℃、好ましくは0〜250℃、より好ましくは25〜200℃である。
洗浄法によれば、溶剤によりフッ化ビニリデン単独重合体原末を洗浄する操作を施すことにより、単一分子量のフッ化ビニリデン単独重合体を分離できる。
洗浄に用いる溶剤としては、目的とするフッ化ビニリデン単独重合体を溶解させることのできるものを任意に用いればよい。具体的には、再沈法で例示したものと同様のものが使用できる。
洗浄の際の溶剤の温度は、通常−30〜150℃、好ましくは0〜80℃、より好ましくは25〜50℃である。
また、洗浄操作は使用する洗浄用の溶剤により異なるが、原則として何回でもよく、通常100回以下、好ましくは50回以下、より好ましくは10回以下である。
クロマトグラフィー法によれば、効率よく単一分子量のフッ化ビニリデン単独重合体を単離できる。
移動相がフッ化ビニリデン単独重合体を溶解するものであれば、公知の方法のうちのどの方法を採用してもよく、例えば液相クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーが好ましく採用される。その際の温度は、通常−30〜150℃、好ましくは0〜100℃、より好ましくは25〜80℃である。
蒸着法によれば、フッ化ビニリデン単独重合体原末を一定圧力(減圧)の状態において一定温度下で蒸着することにより、効率よく単一分子量のフッ化ビニリデン単独重合体を単離できる。
蒸着の際、フッ化ビニリデン単独重合体原末を加熱または冷却するが、その温度は、通常−30〜1000℃、好ましくは0〜800℃、より好ましくは0〜500℃である。蒸着の際の系内の圧力は、通常1×10-6Pa〜100KPa、好ましくは1KPa以下、より好ましくは1Pa以下である。
より簡易かつ効率的にフッ化ビニリデン単独重合体から単一分子量のフッ化ビニリデン単独重合体を単離できる点から、蒸留法またはクロマトグラフィー法を採用することが好ましい。
かかる分離工程により、分子量分布を狭くするほどI型結晶の純度が高まり、本発明の強誘電性薄膜に強誘電特性をより効果的に付与することができることから、単一分子量のフッ化ビニリデン単独重合体の純度を70重量%以上、さらには80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、特には95重量%以上にまで高めることが好ましい。
またさらに、I型結晶構造を単独または主成分とするフッ化ビニリデン単独重合体を溶剤や添加剤などとブレンドして塗料の形態とする工程を経由したのち、薄膜形成工程(ii)を行なっても良い。
本発明の工程(ii)において、薄膜の形成には種々の方法が利用できるが、例えば、フッ化ビニリデン単独重合体を液状媒体に溶解または分散させ、コーティング溶液(塗料)の形態で塗布する方法(コーティング溶液法);フッ化ビニリデン単独重合体を粉体の形態で直接基材に塗布する方法(粉体塗布法);フッ化ビニリデン単独重合体の粉体を真空下および/または加熱下において昇華させ、蒸着により被覆する方法(真空蒸着法)などが好ましく利用できる。
フッ化ビニリデン単独重合体を用いてコーティング溶液(塗料)の形態で塗布する方法において使用する液状媒体としては、フッ化ビニリデン単独重合体を溶解または均一に分散させることができるものが利用できる。なかでも、薄層被膜の膜厚をコントロールするためにはフッ化ビニリデン単独重合体を溶解させる液状媒体が好ましい。
そうした液状媒体としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセチルアセトンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、セロソルブアセテート、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、メチルセロソルブアセテート、酢酸カルビトール、ジブチルフタレートなどのエステル系溶剤;ベンズアルデヒドなどのアルデヒド系溶剤;ジメチルアミン、ジブチルアミン、ジメチルアニリン、メチルアミン、ベンジルアミンなどのアミン系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤;無水酢酸などのカルボン酸無水物系溶剤;酢酸などのカルボン酸系溶剤;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤;ジメチルスルホキシドなどのスルホンアミド系溶剤などが好ましい。
なかでも、ケトン系溶媒、アミド系溶媒がフッ化ビニリデン単独重合体を良好に溶解させる点で好ましい。
また、フッ化ビニリデン単独重合体が微粒子の形状で媒体中に安定に均一分散したものであれば液状溶媒に不溶であっても薄膜の形成が可能である。たとえばフッ化ビニリデン単独重合体の水性分散体などが利用可能である。
これらのコーティング溶液におけるフッ化ビニリデン単独重合体の濃度は、目的とする膜厚やコーティング溶液の粘度などによって異なるが、0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上であり、50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。
これらのコーティング溶液を用いて基材に塗布する方法としては、スピンコート、ディップコート、スプレーコート、ロールコート、グラビアコートなどの公知の塗装方法が採用可能であり、なかでも薄膜を効率よく形成する方法として、スピンコート法、グラビアコート法などが好ましく、特にスピンコートが好ましい。
上記の方法で塗布した後、溶媒を除去するための乾燥工程を行なっても良い。乾燥方法としては、例えば室温での風乾、加熱乾燥、真空乾燥などが採用できるが、過度に高温での乾燥はI型の結晶構造を変化させることがあるので注意を要する。
したがって、フッ化ビニリデン単独重合体の融点を下回る温度での加熱乾燥が好ましい。加熱による乾燥の温度は、使用する溶媒の沸点などによって異なるが、30℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下である。
このようにして、コーティング溶液の形態で塗布され基材に形成されたフッ化ビニリデン単独重合体薄膜はI型の結晶構造を維持しており、優れた強誘電性を発現する能力を有するものである。
また、真空蒸着装置を用い、真空蒸着法によって基材に薄膜を形成する方法も好ましい。
真空蒸着時における温度や真空度はフッ化ビニリデン単独重合体の重合度や昇華性などによって適宜選択されるが、蒸着温度は室温〜200℃、好ましくは100℃以下である。基材温度は0〜100℃、好ましくは室温以上、そして50℃以下である。真空度は10-2Pa以下、好ましくは10-4Pa以下である。
これら真空蒸着方法において、工程(i)を含む本発明の薄膜形成方法を利用することで、特に基材を極低温に設定しなくとも室温などの通常の条件下において、容易にI型結晶構造のフッ化ビニリデン単独重合体薄膜を形成できる。
本発明の強誘電性薄膜の形成方法においては、基材の種類が限定されず、種々の基材上にI型結晶構造のフッ化ビニリデン単独重合体薄膜を形成できる。
基材の種類は、強誘電性薄膜を製造するという目的からは、電極を形成できる導電性の基材であることが好ましい。したがって、金属系基材のほか、シリコン系基材、ガラス系基材、セラミックス系基材、樹脂系基材など絶縁性基材の上に導電性材料の薄膜を形成した基材も導電性の基材として好ましい。
導電性の基材または薄膜用の金属系材料としては、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル、亜鉛、ステンレス、金、銀、白金、タンタル、チタン、ニオブ、モリブデン、インジウム錫酸化物(ITO)などを用いることができる。なかでも、シリコンウェハ上にアルミニウム、金、銀、白金、タンタル、チタンなどの薄膜を形成したものが好ましい。また、金属系基材として、アルミニウム、銅、金、銀および白金なども好ましい。
なお、基材表面に設けられたこれら導電性薄膜は、必要に応じてフォトリソグラフィーやマスクデポなどの公知の方法で所定の回路にパターニングしていても良い。
こうした基材の上に、前述の方法(工程(ii))でI型結晶構造のフッ化ビニリデン単独重合体薄膜が形成される。
I型結晶構造のフッ化ビニリデン単独重合体薄膜の膜厚は、目的とする積層体の狙いと用途によって適宜選択されるが、通常、1nm以上、好ましくは5nm以上、特に好ましくは10nm以上であり、10μm以下、好ましくは1μm以下、特に好ましくは500nm以下程度である。
本発明の強誘電性薄膜の形成方法においては、工程(ii)に従って薄膜を形成した後、分極処理工程(iii)をさらに行なう。分極処理工程(iii)は本発明の薄膜に強誘電性を確実に発現させる目的で行なわれる。
分極処理としては従来から知られている方法が同様に利用できる。例えば、被膜に電極を蒸着するか電極を接触させてこれに直流または交流電界あるいは直流または交流電圧を印加する方法(ポーリング処理)、またはコロナ放電で分極処理する方法などが利用できる。
分極処理工程(iii)における印加電界は、薄膜の膜厚やI型結晶構造の存在比率などにより適宜選択できるが、通常、10MV/m以上、好ましくは50MV/m以上、より好ましくは80MV/m以上であり、絶縁破壊電界強度の電界以下、好ましくは250MV/m以下、より好ましくは200MV/mである。印加電界が低すぎるまたは印加時間が短すぎると、充分な分極処理が達成されず、また、印加電界が高すぎるまたは印加時間が長すぎると、部分的にでもポリマー分子の結合が解裂してしまうため好ましくない。
印加時間は、通常、20ナノ秒間以上、好ましくは1秒間以上、より好ましくは1分間以上であり、約48時間まで、好ましくは6時間まで、より好ましくは2時間までである。
分極処理工程(iii)における薄膜の温度は、通常、0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは25℃以上であり、フッ化ビニリデン単独重合体の結晶融点以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは85℃以下に維持する。
本発明の強誘電性薄膜の形成方法においては、工程(ii)に従って基材上にフッ化ビニリデン単独重合体の薄膜を形成した後で分極処理工程(iii)の前または分極処理工程(iii)と同時に、形成されたフッ化ビニリデン単独重合体薄膜の強誘電特性を高めるために、熱処理する工程(熱処理工程(iv)をさらに加えても良い。フッ化ビニリデン単独重合体薄膜の熱処理工程(iv)は通常、フッ化ビニリデン単独重合体薄膜中の結晶を成長させ、結晶サイズを大きくする目的で行なわれ、その結果、強誘電特性を向上させることができる。
熱処理工程(iv)は、具体的にはフッ化ビニリデン単独重合体の数平均重合度や結晶融点、基材の種類により適宜選択できるが、通常50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、特に好ましくは80℃以上であり、上限は通常結晶融点を下回る温度、好ましくは結晶融点より5℃低い温度、より好ましくは結晶融点より10℃低い温度である。
熱処理時間は、通常、約10分間以上、好ましくは20分間以上、より好ましくは30分間以上であり、約10時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下、特には2時間以下程度である。加熱後は、室温などで放置しゆっくり放冷するのが好ましい。
ただし、本発明のI型結晶構造を単独または主成分として有するフッ化ビニリデン単独重合体の好ましいものを用いる場合は、上記熱処理工程(iv)をはぶいても充分な強誘電性を発現できる点で好ましい。
またさらに、このようにして得られた積層体におけるフッ化ビニリデン単独重合体薄膜層は、必要に応じてフォトリソグラフィーやマスクデポなどの公知の方法で所定の回路にパターニングしていても良い。
このようにして得られた積層体において、必要に応じてフッ化ビニリデン単独重合体薄膜層の上に、さらに他の材料の層を設けても良い。
例えば、前述と同様の電極になりうる導電性材料の層、シリコン、セラミックス、樹脂などの絶縁体層などを、フッ化ビニリデン単独重合体薄膜を挟む形でサンドイッチ状に設けて多層化することも可能である。
このようにして得られた積層体は、強誘電性を有している。
本発明において強誘電性とは、物質内部の永久双極子が何らかの力の作用によって同じ向きに配向しており、電場を加えていないときでも分極をもっている性質をいい(電場がなくても生じている分極を自発分極という)、また、自発分極を外部からの電場によって反転することができる性質のことである。物質が強誘電体であるかどうかは、電界Eと電気変位Dの関係を調べれば、強誘電体であればある程度振幅の大きい交流電場を加えたとき強磁性体のようなヒステリシス(履歴)曲線を示すことでわかる。
例えばフッ化ビニリデン単独重合体の層の両側にAl薄膜などの電極を施した積層体について、両電極間に周波数15mHz、振幅120Vの三角波電圧を印加した場合、矩形状のヒステリシスカーブが得られるとともに、そこから算出される残留分極値で75mC/m2以上のものが可能であり、好ましくは90mC/m2以上、より好ましくは110mC/m2以上、特には120mC/m2以上、とりわけ135mC/m2以上のものが好ましく、本発明の方法により可能となる。
強誘電性をもつ物質は、圧電性、焦電性、電気光学効果あるいは非線形光学効果といった電気的あるいは光学的な機能に結びつく性質を併せもっている。
これらの性質により、本発明で得られた薄膜または積層体は、FE−RAM、赤外線センサー、マイクロホン、スピーカー、音声付ポスター、ヘッドホン、電子楽器、人工触覚、脈拍計、補聴器、血圧計、心音計、超音波診断装置、超音波顕微鏡、超音波ハイパーサーミア、サーモグラフィー、微小地震計、土砂崩予知計、近接警報(距離計)侵入者検出装置、キーボードスイッチ、水中通信バイモルフ型表示器、ソナー、光シャッター、光ファイバー電圧計、ハイドロホン、超音波光変調偏向装置、超音波遅延線、超音波カメラ、POSFET、加速度計、工具異常センサ、AE検出、ロボット用センサ、衝撃センサ、流量計、振動計、超音波探傷、超音波厚み計、火災報知器、侵入者検出、焦電ビジコン、複写機、タッチパネル、吸発熱反応検出装置、光強度変調素子、光位相変調素子、光回路切換素子などの圧電性、焦電性、電気光学効果あるいは非線形光学効果を利用したデバイスに利用可能である。
つぎに本発明を合成例、実施例などをあげて説明するが、本発明はかかる例のみに限定されるものではない。
まず、本発明の説明で使用するパラメーターの測定法について説明する。
[1]フッ化ビニリデン(VdF)重合体の重合度の測定法
(1)CF3(VdF)nIの重合度(n)
19F−NMRより求める。具体的には、−61ppm付近のピーク面積(CF3−由来)と、−90〜−96ppm付近のピーク面積(−CF2−CH2−由来)からつぎの計算式で算出する。
(重合度)=((−90〜−96ppm付近のピーク面積)/2)/((−61ppm付近のピーク面積)/3)
(2)CF3CF2(VdF)nIの重合度(n)
19F−NMRより求める。具体的には、−86ppm付近のピーク面積(CF3−由来)と、−90〜−96ppm付近のピーク面積(−CF2−CH2−由来)からつぎの計算式で算出する。
(重合度)=((−90〜−96ppm付近のピーク面積)/2)/((−86ppm付近のピーク面積)/3)
(3)I(VdF)nCF2CF2CF2CF2(VdF)mIの重合度(n+m)
19F−NMRより求める。具体的には、−112ppm付近のピーク面積と−124ppm付近のピーク面積(いずれも−CF2CF2CF2CF2−由来)の合計と、−90〜−96ppm付近のピーク面積(−CF2−CH2−由来)からつぎの計算式で算出する。
(重合度)=((−90〜−96ppm付近のピーク面積)/2)/((−112ppm付近のピーク面積と−124ppm付近のピーク面積の合計)/8)
[2]各種の測定(分析)方法および装置
(1)IR分析
(1-1)測定条件
KBr法。1〜5mgのフッ化ビニリデン重合体粉末を100〜500mgのKBr粉末に混合し、加圧してペレット化した後、測定装置にペレットを固定し、25℃にて測定する。
(1-2)測定装置
PERKIN ELMER社製のFT−IR spectrometer 1760X
(2)1H−NMRおよび19F−NMR分析
(2-1)測定条件
フッ化ビニリデン重合体粉末10〜20mgをd6−アセトン中に溶解し、得られたサンプルをプローブにセットして測定する。
(2-2)測定装置
Bruker社製のAC−300P
(3)粉末X線回折分析
(3-1)測定条件
専用のガラスプレート上にフッ化ビニリデン重合体粉末を塗布し、ガラスプレートを測定装置にセットして測定する。
(3-2)測定装置
Rigaku社製のRotaflex
(4)強誘電性の確認(D−Eヒステリシス曲線)
ある材料が強誘電性である場合、その材料のD−Eヒステリシス曲線は矩形状を示す。そこで、本発明においては、つぎの条件で電流電圧特性を調べ、D−Eヒステリシス曲線を描き、強誘電性の有無を判断する。
(4-1)測定条件
周波数15mHz、振幅120Vの三角波電圧をVdF薄膜の両側に形成したアルミニウム電極に加える。
(4-2)測定装置
アジレント社製の誘電薄膜電気特性評価装置。
(5)分子量分布分析
(5-1)測定条件
フッ化ビニリデン重合体を、THF中に0.1〜0.2重量%溶解し、測定装置にセットして35℃で測定を行なう。
(5-2)測定装置
東ソー(株)製のHLC−8020(本体)、昭和電工(株)製のShodex GPC−KF−801、GPC−KF−802、GPC−KF−806MX2×二本(カラム)使用。
(6)異常結合率の測定
異常結合率(%)={n2/(n+n1+n2)}×100
19F−NMR分析より求める。具体的には、−112ppm付近のピーク面積と−124ppm付近のピーク面積(いずれも異常結合由来)の合計(=n2)と、−90〜−96ppm付近のピーク面積(−CF2−CH2−由来)(=n+n1)から上記の計算式で算出する。
合成例1(CF3(VdF)nIの合成)
(1-1)CF3(VdF)8.1I(n=8.1)の合成
バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた300ml容のステンレススチール製オートクレーブに、HCFC−225を50g入れ、ドライアイス/メタノール溶液で冷却しながら、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネイト(50重量%メタノール溶液)0.78gを加え、系内をチッ素ガスで充分置換した。系内を減圧にした後、バルブからCF3Iを5.2g仕込み、系を45℃まで昇温の後、VdFを系内圧が0.8MPaGになるまで仕込み、系内圧0.8MPaG、系内温度を45℃に維持しながらVdFを連続供給し、9時間反応を行なった。
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、未反応物(VdFとCF3I)を放出した後、析出した反応固形物(以下、「VdF重合体」という)を取り出し、デシケーター内で恒量になるまで真空乾燥し、VdF重合体13.2gを得た。
このVdF重合体を19F−NMRにより分析し、VdFの重合度(n)を求めたところ、重合度(n)は8.1であった。また、異常結合率は4.0%、Mw/Mnは1.06であった。
このVdF重合体についてIR分析および粉末X線回折分析を行なったところ、I型結晶構造に特徴的なピークのみが観測され、全I型結晶構造であることを確認した(図6参照)。
(1-2)CF3(VdF)5.2I(n=5.2)の合成
バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた300ml容のステンレススチール製オートクレーブに、HCFC−225を50g入れ、ドライアイス/メタノール溶液で冷却しながら、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネイト(50重量%メタノール溶液)0.53gを加え、系内をチッ素ガスで充分置換した。系内を減圧にした後、バルブからCF3Iを5.4g仕込み、系を45℃まで昇温の後、VdFを系内圧が0.8MPaGになるまで仕込み、系内圧0.8MPaG、系内温度を45℃に維持しながらVdFを連続供給し、7.5時間反応を行なった。
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、未反応物(VdFとCF3I)を放出した後、析出した反応固形物(VdF重合体)を取り出し、デシケーター内で反応固形物を恒量になるまで真空乾燥し、VdF重合体10.0gを得た。
このVdF重合体を19F−NMRにより分析し、VdFの重合度(n)を求めたところ、5.2であった。また、異常結合率は4.3%、Mw/Mnは1.08であった。
このVdF重合体についてIR分析および粉末X線回折分析を行なったところ、I型結晶構造に特徴的なピークのみが観測され、全I型結晶構造であることを確認した。
(1-3)CF3(VdF)10.1I(n=10.1)の合成
バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた300ml容のステンレススチール製オートクレーブに、HCFC−225を50g入れ、ドライアイス/メタノール溶液で冷却しながら、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネイト(50重量%メタノール溶液)0.53gを加え、系内をチッ素ガスで充分置換した。系内を減圧にした後、バルブからCF3Iを5.2g仕込み、系を45℃まで昇温の後、VdFを系内圧が0.8MPaGになるまで仕込み、系内圧0.8MPaG、系内温度を45℃に維持しながらVdFを連続供給し、12時間反応を行なった。
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、未反応物(VdFとCF3I)を放出した後、析出した反応固形物(VdF重合体)を取り出し、デシケーター内で反応固形物を恒量になるまで真空乾燥し、VdF重合体13.4gを得た。
このVdF重合体を19F−NMRにより分析し、VdFの重合度(n)を求めたところ、10.1であった。また、異常結合率は3.9%、Mw/Mnは1.08であった。
このVdF重合体についてIR分析および粉末X線回折分析を行なったところ、I型結晶構造に特徴的なピークのみが観測され、全I型結晶構造であることを確認した。
(1-4)CF3(VdF)11.0I(n=11.0)の合成
バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた300ml容のステンレススチール製オートクレーブに、HCFC−225を50g入れ、ドライアイス/メタノール溶液で冷却しながら、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネイト(50重量%メタノール溶液)0.38gを加え、系内をチッ素ガスで充分置換した。系内を減圧にした後、バルブからCF3Iを3.5g仕込み、系を45℃まで昇温の後、VdFを系内圧が0.8MPaGになるまで仕込み、系内圧0.8MPaG、系内温度を45℃に維持しながらVdFを連続供給し、9時間反応を行なった。
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、未反応物(VdFとCF3I)を放出した後、析出した反応固形物(VdF重合体)を取り出し、デシケーター内で反応固形物を恒量になるまで真空乾燥し、VdF重合体11.2gを得た。
このVdF重合体を19F−NMRにより分析し、VdFの重合度(n)を求めたところ、11.0であった。また、異常結合率は4.4%、Mw/Mnは1.13であった。
このVdF重合体についてIR分析を行なったところ、I型結晶構造に特徴的なピークとII型結晶構造に特徴的なピークの両方が観測され、I型結晶構造とII型結晶構造のものが混在していることを確認した。さらに、I型結晶構造の含有率(F(I))を算出したところ、85重量%であった。
(1-5)CF3(VdF)18.4I(n=18.4)の合成
バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた300ml容のステンレススチール製オートクレーブに、HCFC−225を50g入れ、ドライアイス/メタノール溶液で冷却しながら、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネイト(50重量%メタノール溶液)0.16gを加え、系内をチッ素ガスで充分置換した。系内を減圧にした後、バルブからCF3Iを1.5g仕込み、系を45℃まで昇温の後、VdFを系内圧が0.8MPaGになるまで仕込み、系内圧0.8MPaG、系内温度を45℃に維持しながらVdFを連続供給し、9時間反応を行なった。
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、未反応物(VdFとCF3I)を放出した後、析出した反応固形物(VdF重合体)を取り出し、デシケーター内で反応固形物を恒量になるまで真空乾燥し、VdF重合体7.9gを得た。
このVdF重合体を19F−NMRにより分析し、VdFの重合度(n)を求めたところ、18.4であった。また、異常結合率は3.8%、Mw/Mnは1.17であった。
このVdF重合体についてIR分析を行なったところ、I型結晶構造に特徴的なピークとII型結晶構造に特徴的なピークの両方が観測され、I型結晶構造とII型結晶構造のものが混在していることを確認した。さらに、I型結晶構造の含有率(F(I))を算出したところ、18重量%であった。
(1-6)CF3(VdF)14.6I(n=14.6)の合成
バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた300ml容のステンレススチール製オートクレーブに、HCFC−225を50g入れ、ドライアイス/メタノール溶液で冷却しながら、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネイト(50重量%メタノール溶液)0.27gを加え、系内をチッ素ガスで充分置換した。系内を減圧にした後、バルブからCF3Iを2.5g仕込み、系を45℃まで昇温の後、VdFを系内圧が0.8MPaGになるまで仕込み、系内圧0.8MPaG、系内温度を45℃に維持しながらVdFを連続供給し、9時間反応を行なった。
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、未反応物(VdFとCF3I)を放出した後、析出した反応固形物(VdF重合体)を取り出し、デシケーター内で反応固形物を恒量になるまで真空乾燥し、VdF重合体12.2gを得た。
このVdF重合体を19F−NMRにより分析し、VdFの重合度(n)を求めたところ、14.6であった。また、異常結合率は4.1%、Mw/Mnは1.14であった。
このVdF重合体についてIR分析を行なったところ、I型結晶構造に特徴的なピークとII型結晶構造に特徴的なピークの両方が観測され、I型結晶構造とII型結晶構造のものが混在していることを確認した。さらに、I型結晶構造の含有率(F(I))を算出したところ、60重量%であった。
(1-7)CF3(VdF)3I(n=3)の合成と分離
バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた3リットル容のステンレススチール製オートクレーブに、HCFC−225を500g入れ、ドライアイス/メタノール溶液で冷却しながら、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネイト(50重量%メタノール溶液)21gを加え、系内をチッ素ガスで充分置換した。系内を減圧にした後、バルブからCF3Iを200g仕込み、系を45℃まで昇温の後、VdFを系内圧が0.8MPaGになるまで仕込み、系内圧0.8MPaG、系内温度を45℃に維持しながらVdFを連続供給し、3.5時間反応を行なった。
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、未反応物(VdFとCF3I)を放出した後、析出した反応固形物を濾去し、濾液を減圧下(5mmHg)に分留し、55℃の留分を19F−NMRにより分析し、55℃留分の重合度(n)を求めたところ、3であった。n=3の重合体は25℃で液状であった。
(1-8)CF3(VdF)8.1I(n=8.1)のI型結晶構造とIII型結晶構造の混合物の合成
上記(1-1)で合成したCF3(VdF)8.1I(n=8.1)の全I型結晶構造のVdF重合体の粉末をシャーレに3g入れ、乾燥機内に静置し、200℃で1時間加熱して粉末を完全に溶融した。その後乾燥機内から取り出し、25℃で放置することによって25℃まで急冷した。
得られたVdF重合体についてIR分析を行なったところ、I型結晶構造に特徴的なピークとIII型結晶構造に特徴的なピークの両方が観測され、I型結晶構造とIII型結晶構造のものが混在していることを確認した。さらに、I型結晶構造の含有率(F(I))を算出したところ、67重量%であった(図7参照)。
合成例2(CF3CF2(VdF)nIの合成)
(2-1)CF3CF2(VdF)10.9I(n=10.9)の合成
バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた300ml容のステンレススチール製オートクレーブに、HCFC−225を50g入れ、ドライアイス/メタノール溶液で冷却しながら、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネイト(50重量%メタノール溶液)0.08gを加え、系内をチッ素ガスで充分置換した。系内を減圧にした後、バルブからCF3CF2Iを1.96g仕込み、系を45℃まで昇温の後、VdFを系内圧が0.8MPaGになるまで仕込み、系内圧0.8MPaG、系内温度を45℃に維持しながらVdFを連続供給し、9時間反応を行なった。
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、未反応物(VdFとCF3CF2I)を放出した後、析出した反応固形物(VdF重合体)を取り出し、デシケーター内で反応固形物を恒量になるまで真空乾燥し、VdF重合体7.3gを得た。
このVdF重合体を19F−NMRにより分析し、VdFの重合度(n)を求めたところ、10.9であった。また、Mw/Mnは1.10であった。
このVdF重合体についてIR分析を行なったところ、II型結晶構造に特徴的なピークとIII型結晶構造に特徴的なピークの両方が観測され、II型結晶構造とIII型結晶構造のものが混在していることを確認した。さらに、III型結晶構造の含有率(F(III))を算出したところ、57重量%であった(図8参照)。
合成例3(I(VdF)nC4F8(VdF)mIの合成)
(3-1)I(VdF)n(CF2CF2)2(VdF)mI(n+m=8.7)の合成
バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた300ml容のステンレススチール製オートクレーブに、HCFC−225を50g入れ、ドライアイス/メタノール溶液で冷却しながら、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネイト(50重量%メタノール溶液)0.27gを加え、系内をチッ素ガスで充分置換した。系内を減圧にした後、バルブからI(CF2CF2)2Iを1.96g仕込み、系を45℃まで昇温の後、VdFを系内圧が0.8MPaGになるまで仕込み、系内圧0.8MPaG、系内温度を45℃に維持しながらVdFを連続供給し、9時間反応を行なった。
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、未反応物(VdFとI(CF2CF2)2I)を放出した後、析出した反応固形物(VdF重合体)を濾取し、HCFC−225で洗浄した後、デシケーター内で反応固形物を恒量になるまで真空乾燥し、VdF重合体8.8gを得た。
このVdF重合体を19F−NMRにより分析し、VdFの重合度(n+m)を求めたところ、8.7であった。また、Mw/Mnは1.03であった。
このVdF重合体についてIR分析を行なったところ、I型結晶構造に特徴的なピークとII型結晶構造に特徴的なピークの両方が観測され、I型結晶構造とII型結晶構造のものが混在していることを確認した。さらに、I型結晶構造の含有率(F(I))を算出したところ、79重量%であった(図9参照)。
(3-2)I(VdF)n(CF2CF2)2(VdF)mI(n+m=10.4)の合成
バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた300ml容のステンレススチール製オートクレーブに、HCFC−225を50g入れ、ドライアイス/メタノール溶液で冷却しながら、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネイト(50重量%メタノール溶液)0.162gを加え、系内をチッ素ガスで充分置換した。系内を減圧にした後、バルブからI(CF2CF2)2Iを3.5g仕込み、系を45℃まで昇温の後、VdFを系内圧が0.8MPaGになるまで仕込み、系内圧0.8MPaG、系内温度を45℃に維持しながらVdFを連続供給し、9時間反応を行なった。
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、未反応物(VdFとI(CF2CF2)2I)を放出した後、析出した反応固形物(VdF重合体)を濾取し、HCFC−225で洗浄した後、デシケーター内で反応固形物を恒量になるまで真空乾燥し、VdF重合体7.2gを得た。
このVdF重合体を19F−NMRにより分析し、VdFの重合度(n+m)を求めたところ、10.4であった。また、Mw/Mnは1.04であった。
このVdF重合体についてIR分析を行なったところ、I型結晶構造に特徴的なピークとII型結晶構造に特徴的なピークの両方が観測され、I型結晶構造とII型結晶構造のものが混在していることを確認した。さらに、I型結晶構造の含有率(F(I))を算出したところ、70重量%であった。
合成例4
(4-1)CF3(VdF)nC2H4I(n=8.1)の合成
バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた300ml容のステンレススチール製オートクレーブに、系内温度は25℃のまま、合成例(1-1)で合成したフッ化ビニリデンオリゴマー(n=8.1)を3g、酢酸エチルを30g、AIBNを0.034g加え、系内をチッ素ガスで充分置換した。系内を減圧にし、65℃まで昇温の後、エチレンガスを系内圧が0.7MPaGになるまで仕込み、系内圧0.7MPaG、系内温度65℃を維持しながら、エチレンガスを連続供給し5時間反応を行った。
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、未反応物のエチレンガスを放出した後、系中の酢酸エチル溶液をヘキサン中に投入し、析出した反応固形物(以下、「フッ化ビニリデンオリゴマーエチレン付加体」という)をろ過により取り出した。デシケーター内でフッ化ビニリデンオリゴマーエチレン付加体を恒量になるまで真空乾燥し、2.7gを得た。
このフッ化ビニリデンオリゴマーエチレン付加体は、1H−NMRおよび19F−NMRにより分析したところ、−CF2I末端由来の−38ppm付近のピークの消失が確認され、付加したエチレン由来のピークが3.4〜3.2ppmと2.8〜2.6ppmに1H−NMRより観測された。このとき1H−NMRより求められた末端変性率は95%であった。
また、IR分析および粉末X線回折分析を行なったところ、I型結晶構造に特徴的なピークのみが観測され、全I型結晶構造であることが確認された。
(4-2)CF3(VdF)nC2H5(n=8.1)の合成
環流冷却器、温度計、撹拌装置、滴下漏斗を備えた50ml四ツ口フラスコに、酢酸30ml、合成例(4-1)で合成されたフッ化ビニリデンオリゴマーエチレン付加体:CF3(VdF)nC2H4I(n=8.1)を0.5g、亜鉛粉末を0.53g仕込み加熱還流を4時間行った。
反応終了後、系内温度を25℃まで冷却し、亜鉛粉末をろ過により除いた後、反応物の酢酸溶液を純水中に投入し、反応固形物を再沈殿することにより取り出した。デシケーター内で反応固形物を恒量になるまで真空乾燥し、0.32gを得た。
反応固形物は、1H−NMRにより分析したところ、付加したエチレン由来の3.4〜3.2ppmと2.8〜2.6ppmのピークが消失し、末端メチル基由来のピークが1.1〜0.8ppmに観測され、フッ化ビニリデンオリゴマーエチレン付加体の末端ヨウ素がプロトン化されていることが確認された。このとき1H−NMRより求められた末端変性率は96%であった。
また、IR分析および粉末X線回折分析を行なったところ、I型結晶構造に特徴的なピークのみが観測され、全I型結晶構造であることが確認された。
実施例1(全I型結晶構造のVdF重合体の強誘電性薄膜のスピンコート法での製造)
アルミニウム電極上に合成例1の(1-3)で合成した全I型結晶構造のCF3(VdF)10.1I重合体をアセトンに溶解させて3重量%のアセトン溶液とし、スピンコート法により回転速度2000rpmで薄膜を形成し、ついでデシケーター内で溶媒を留去して膜厚200nmの全I型結晶構造のVdF重合体薄膜を形成した。
スピンコートは、つぎの条件と装置で行なった。
塗布条件
回転数:2000rpm
装置
ミカサ(株)製のMIKASA SPINCOATER 1H−D7。
かくしてアルミニウム電極上に形成された全I型結晶構造のVdF重合体薄膜に、第2電極としてアルミニウムを常法により真空蒸着した。
得られた積層体につぎの条件で分極処理を施した。
薄膜温度:25℃
印加電圧:200MV/m
処理時間:30分間
分極処理された全I型結晶構造のVdF重合体薄膜について電気特性を調べたところ、得られたD−Eヒステリシス曲線は強誘電材料に典型的な矩形状であった。
実施例2(全I型結晶構造のVdF重合体の強誘電性薄膜の真空蒸着法での製造)
合成例1の(1-3)で合成した全I型結晶構造のCF3(VdF)10.1I重合体の粉末を用い、アルミニウム電極上に真空蒸着法により膜厚200nmの全I型結晶構造のVdF重合体薄膜を形成した。
真空蒸着は、つぎの条件と装置で行なった。
蒸着条件
基板温度:25℃
装置
城南工業(株)製の有機薄膜形成装置。
かくしてアルミニウム電極上に形成された全I型結晶構造のVdF重合体薄膜に、第2電極としてアルミニウムを常法により真空蒸着した。得られた積層体に実施例1と同じ条件で分極処理を施した。
分極処理された全I型結晶構造のVdF重合体薄膜について電気特性を調べたところ、得られたD−Eヒステリシス曲線は強誘電材料に典型的な矩形状であった。