JP4024553B2 - 音速計測方法および音速計測装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は超音波を用いて物質の音速を計測する方法およびそれに用いる音波計測装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
超音波を用いて試料の音速を計測する方法として、シングアラウンド法が従来より知られている。シングアラウンド法では、パルス発信器の出力を超音波送波器に加えて超音波パルスを試料中に伝播させ、試料の他端にある受波器で検出したパルス信号で再び発振器をトリガーする。こうして継続するパルス発振の繰り返しを多数回積算して伝播時間を求め、送波器と受波器と間の伝播距離と伝播時間とから音速を求めている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
シングアラウンド法では、信号を多数回積算して伝播時間を求めるため、高い精度で試料の音速を求めることができると言われている。しかし、このためには、測定中、試料の厚さとなる超音波の伝播距離は一定でなければならない。また、伝播距離も正確に求められることが必要である。
【0004】
試料が硬い固体である場合、試料が測定中に変形することはないため、伝播距離が測定中一定であるという条件は満たされる。また、試料の厚さを正確に求めることは、比較的簡単である。例えば、マイクロメータやノギス等を用いて試料の厚みを測定することが可能である。
【0005】
これに対して、試料がゲル状であったり、室温において変形し得るような不定形であったりする場合、これらの条件を満たすことは一般に難しい。なぜなら、シングアラウンド法では、上述したように何回も超音波の送受信を繰り返して測定が行われるため、その間にゲル状の試料等の外形が変化してしまい、伝播距離が変わってしまうおそれがあるからである。
【0006】
また、送波器や受波器を試料に接触させる場合、隙間ができやすいため、試料に対して一定の圧力を加えながら送波器や受波器を接触させる必要がある。このため、加えた圧力によって、試料の厚さが伝播距離を計測したときと比べて変わってしまうおそれがある。測定時間が長いとその間に試料の温度が変化して、音速が変わってしまうという問題も生じ得る。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、不定形状でその厚さを正確に測定しにくい試料や、厚さや外形が刻々と変化する試料の音速を計測することが可能な音速測定方法およびそれに用いる測定装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の音速測定方法は、媒質中に保持された試料へ向けて超音波を送信し、前記試料の厚さを変化させることによって生じる前記媒質と前記試料との界面で反射する前記超音波の第1の位相差と、前記媒質および前記試料を伝播する前記超音波の第2の位相差とを求め、前記媒質の音速と、前記第1および第2の位相差とから前記試料の音速を求める。
【0009】
ある実施形態では、前記試料の厚さをn回(nは2以上の自然数)変化させ、n組を前記第1の位相差および前記第2の位相差を求め、それぞれの平均値を用いて前記試料の音速を求める。
【0010】
また、本発明の別な音速測定方法は、媒質中に保持された試料が超音波の伝播路上において第1の厚さを有する場合において、前記試料に対して超音波を送信し、前記第1の厚さを規定する第1の面および第2の面において反射する第1および第2の反射波をそれぞれ検知する第1のステップと、前記試料が超音波の伝播路上において第2の厚さを有する場合において、前記試料に対して前記超音波を送信し、前記第2の厚さを規定する第1の面および第2の面において反射する第1および第2の反射波をそれぞれ検知する第2のステップと、前記第1のステップにおいて検知された第1の反射波と前記第2のステップにおいて検知された第1の反射波との第1の位相差および、前記第1のステップにおいて検知された第2の反射波と前記第2のステップにおいて検知された第2の反射波との第2の位相差を求め、前記第1および前記第2の位相差と前記媒質の音速とに基づいて前記試料の音速を求める第3のステップとを包含している。
【0011】
前記超音波を送信する送信器と前記試料の第2の面との間距離および前記反射波を検知する受信器と前記試料の第2の面との間距離は、好ましくは、少なくとも前記第1および第2のステップにおいて等しい。また、前記試料の前記第2の面を固定した面に接触させて、前記試料を保持する。
【0012】
ある実施形態において、前記試料は前記第1の厚さを有する第1の部分および第2の厚さを有する第2の部分を含んでいる。
【0013】
また、ある実施形態では、前記試料は、前記第1の厚さを有する第1の断片および前記第2の厚さを有する第2の断片を含んでいる。
また、ある実施形態では、前記試料は、前記第1の厚さを有する第1の状態から前記第2の厚さを有する第2の状態に変化する。前記試料は、前記第1の状態から前記第2の状態へ自重によって変形してもよい。また、前記試料が前記第1の状態から前記第2の状態へ変形するように外部から前記試料に力を加えてもよい。
【0014】
前記第1および前記第2の位相差が360度以内となるよう、前記第1の厚さおよび前記第2の厚さを選択することが好ましい。また、前記第1および前記第2の位相差がそれぞれ360度以内となるよう、前記第1のステップおよび前記第2のステップの間隔を決定することが好ましい。
【0015】
本発明の音速測定装置は、媒質中に保持された試料へ少なくとも第1および第2の超音波を送信する送信器と、前記第1および第2の超音波のそれぞれについて、前記超音波の伝播路上において前記試料の厚さを規定する第1および第2の面からそれぞれ反射される第1および第2の反射波を受信する受信器と、前記受信器に接続されており、前記受信器おいて受信された前記第1の超音波に基づく前記第1および第2の反射波と前記第2の超音波に基づく前記第1および第2の反射波との第1の位相差および第2の位相差をそれぞれ求める演算回路とを備えている。
【0016】
前記演算回路において、前記媒質の音速と前記第1および第2の位相差とからさらに前記試料の音速が求められる。
【0017】
ある実施形態では、前記試料を前記超音波の伝播路上において支持する試料台を更に有する。また、前記超音波の伝播路上において、前記試料の厚さが変化するよう、前記試料を変形させる機構を更に有する。前記機構は押さえ板を含み、前記試料を前記試料台および前記押さえ板で挟むことによって前記試料を変形させる。前記押さえ板が自重によって前記試料を変形させてもよい。
【0018】
ある実施形態では、前記機構は、前記押さえ板の位置を変化させる制御装置を更に含んでいる。また、前記位置制御装置に連動して前記送信器が前記第1および第2の超音波を送信する。
【0019】
ある実施形態において、前記送信器は、n回(nは3以上の自然数)の超音波を送信し、前記第m回目(mは2からnまでの自然数)の超音波に基づく前記第1および第2の反射波と前記m−1回目の超音波に基づく前記第1および第2の反射波との第1の位相差および第2の位相差を求める。前記超音波が送信されるたびに、前記試料は異なる厚さを有していてもよい。前記第1の位相差および第2の位相差のすべてのmに対する平均値を求め、前記媒質の音速と前記第1および第2の位相差の平均値とから前記試料の音速を求めてもよい。
【0020】
ある実施形態において、前記押さえ板は、前記押さえ板と前記試料台との間に生じる多重反射と射前記第1および第2の反射波とが干渉しないような厚みを有している。
【0021】
また、ある実施形態において、前記送信器は、前記第1および第2の位相差がそれぞれ360度以内となるような間隔で前記第1および第2の超音波を送信する。
【0022】
また、ある実施形態では、前記送信器および前記受信器をひとつの超音波トランスデューサが兼ねている。
【0023】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
以下、本発明の音速測定装置30およびそれを用いた音速測定方法の第1の実施形態を説明する。図1において概略的に示すように、音速測定装置30は、超音波トランスデューサ1と、駆動回路35と、演算回路36と、タイミング回路12とを有する。
【0024】
超音波トランスデューサ1は、超音波を送信する送信器および、送信した超音波が音速測定装置30の外部において反射して戻ってくる反射波を検知するための受信器として機能する。超音波トランスデューサ1は、入手可能な公知のトランスデューサでよく、20kHz以上の中心周波数を備えていればよい。本実施形態では、例えば、中心周波数が7.5MHzの超音波トランスデューサを用いる。なお、超音波トランスデューサ1が送信器および受信器を兼ねている必要はなく、送信用超音波トランスデューサと受信用超音波トランスデューサとを別個の素子から形成してもよい。
【0025】
超音波トランスデューサ1に接続される駆動回路35は、送信アンプ8と関数発生器9とを含んでいる。関数発生器9は駆動波形を生成し、生成された駆動波形は送信アンプ8において増幅される。
【0026】
超音波トランスデューサ1から送信され、外部において反射して戻ってくる反射波は超音波トランスデューサ1で検知され、演算回路36へ送られる。演算回路36は、A/D変換回路10と信号処理回路11とを含む。A/D変換回路10は、例えばサンプリング周波数が50Ms/sのアナログ/デジタル変換ボードが用いられる。A/D変換回路10のサンプリング周波数は、超音波トランスデューサ1の中心周波数の2倍以上であることが好ましい。A/D変換回路10によって検知した反射波の情報はデジタル信号に変換され、後述するように、信号処理回路11によって位相情報に変換される。信号処理回路11として、例えばパーソナルコンピュータなどを用いてもよい。
【0027】
タイミング回路12は、駆動回路35の関数発生器9と演算回路13のA/D変換回路10とを制御し、超音波の送信のタイミングや反射波を検知するタイミングを調整する。
【0028】
音速測定装置30は測定対象となる試料3を支持する試料台4を更に備え、超音波トランスデューサ1は、支持構造31によって、試料台4の表面4aから所定の距離を隔てて保持されている。超音波トランスデューサ1と試料台4の表面4aとの間隔は、少なくとも超音波トランスデューサ1から超音波が送信され、送信された超音波の反射波が超音波トランスデューサ1へ戻ってくる間、一定に保たれる。
【0029】
試料台4上に支持される試料3は、その周りを媒質13によって囲まれている。媒質13は、音速を測定する間、少なくとも超音波トランスデューサ1と試料3との間を満たしている必要がある。本実施形態において、試料3はゴム状あるいはゲル状の固体であり、その厚さが自重によって刻々と変化するものが用いられる。
【0030】
媒質13は気体あるいは液体のいずれであってもよい。しかし、本実施形態では試料3が固体であるため、媒質13には液体を用いることが好ましい。この組み合わせによって、媒質13と試料3との音響インピーダンスの差が小さくなり、媒質13試料3との間の界面における超音波の反射は小さくなるが、試料3を透過する超音波の量が増える。その結果、試料台4の表面4aと試料3との界面で反射する超音波を捉えやすくなる。媒質13として液体を用いる場合には、媒質13を保持する適切な容器の底部に試料台4を設ければよい。また、媒質13の音速は、あらかじめ求められているか、公知であるものを用いる。本実施形態では媒質13として水を用いる。温度による音速の変化を校正するために、媒質13の温度は温度計14によって計測される。
【0031】
以下に、音速測定装置30を用いた音速の測定方法について説明する。
【0032】
まず、試料3を試料台4にのせ、試料3の周りを媒質13で満たす。本実施形態では、試料3としてシリコンゲルを用い、媒質13として水を用いる。図1に示すように、超音波トランスデューサ1から送信される超音波の伝播路33に沿って試料3は、第1の面3aおよび第2の面3bにより規定される厚みtを備えているものとする。
【0033】
次に超音波信号を発生させて測定を行う。タイミング回路12からの制御信号を受けて、制御駆動回路14が超音波トランスデューサ1を駆動する。超音波トランスデューサ1は、超音波の信号を試料3へ向けて媒質13中へ送信する。送信された超音波は、伝播路33に沿って媒質13中進行し、一部は試料3の第1の面3aにおいて反射する。進行を続ける超音波は試料3中を伝播し、試料3の第2の面3bにおいて反射する。
【0034】
図2に示すように、第1の面3aおよび第2の面3bにおいてそれぞれ第1の反射波15および第2の反射波16がそれぞれ超音波トランスデューサ1へ戻ってくるものとする。図2の下方には超音波トランスデューサ1で受信される信号の様子を模式的に表している。図2に示すように、第2の面3bは、第1の面3aに比べて超音波トランスデューサ1から遠くに位置しているため、第2の面3bから反射する第2の反射波16は、第1の反射波15に比べて遅れて超音波トランスデューサ1へ到達する。
【0035】
本発明では、試料3の厚さを変化させることによって生じる第1の反射波15の位相差および第2の反射波16の位相差をそれぞれ求め、試料3の音速を決定する。このために、超音波トランスデューサ1へ到達した反射波は、超音波トランスデューサ1によって検知され、タイミング回路12の制御に従って、演算回路13のA/D変換回路10へ入力される。A/D変換回路10においてデジタル信号に変換されたあと、信号処理回路11へ送られて、受信した信号が処理される。
【0036】
信号処理回路11では、受信した信号に対してフーリエ変換を施し、中心周波数を求める。そして、受信した信号全体を、求まった中心周波数付近のみを通すバンドパスフィルタにかけ、受信した反射波による信号の中心周波数付近の1波長に対応する時間を求める。本実施形態の場合、例えば1波長に対応する時間は0.133μsecである。
【0037】
その後、試料3の厚みtが自重により減少してゆく間、所定の繰返し周期で信号を超音波トランスデューサ1から送信して、試料の第1の面3aおよび第2の面3bでそれぞれ反射される第1の反射波15および第2の反射波16を超音波トランスデューサ1で検知する。A/D変換回路10は検知したデータを順次取得し、デジタル信号に変換した後、A/D変換回路10内のメモリに保存してゆく。制御回路12は、所定の繰返し周期、この動作を繰り返すために、関数発生回路9およびA/D変換回路10に制御信号を与える。
【0038】
n回目(nは1以上の自然数)に送信される信号とn+1回目に送信される信号との中心周波数における位相差が、360度(2π)を超えてしまうと、位相差が分からなくなってしまうため、n回目およびn+1回目に送信される信号に基づく第1の反射波15の伝播時間差が、上述の手順により求めた受信信号の中心周波数付近の1波長に対応する時間よりも十分短くなるよう繰り返し周期は設定される。本実施形態の場合、例えば、繰り返し周期を1msecに設定する。
【0039】
上述の繰り返し周期で少なくとも2回信号を送信し、対応する第1の反射波15および第2の反射波16をそれぞれ2回取得して、測定を終了する。その後、A/D変換回路10のメモリから取得したデータを信号処理回路11へ転送する。位相差の算出には直交検波法を用いる。
【0040】
図3(a)から(c)を用いて位相差の算出について説明する。図3(a)に示すように、試料3が第1の厚みtを有する場合において、試料3の第1の面3aおよび第2の面から第1の反射波15および第2の反射波16がそれぞれ反射され、試料3が第2の厚みt’を有する場合において、試料3の第1の面3aおよび第2の面から第1の反射波15’および第2の反射波16’がそれぞれ反射されものとする。
【0041】
図3(b)に示すように、超音波トランスデューサ1において直接検知される第1の反射波15と第1の反射波15’との伝達時間の差は非常に僅かであり、第1の反射波15および第1の反射波15’から直接伝達時間差を求めようとすれば、誤差が大きくなり、正確な値を求めることが困難である。
【0042】
したがって、本発明では、まず、第1の厚さtにおける第1の反射波15と第2の厚さt’における第1の反射波15’との位相差を直交検波法により求める。直交検波法では、まず、第1の反射波15に90°位相の異なる2つの搬送波を掛け合わせる。搬送波としては第1の反射波15の中心周波数である7.5MHzの基準波を用いる。掛け合わせて得られた信号を低域通過フィルタにかけ、不要な高周波成分を除くことによって、I成分およびQ成分の信号を得る。この2つの信号の比の正接を計算することによって、位相を求めることができる。第1の反射波15’についても同様の方法によって位相を求める。
【0043】
図3(c)は、第1の反射波15および第1の反射波15’の位相18および18’をそれぞれ示している。第1の反射波15および第1の反射波15’の初期成分が現れる期間21には、ノイズが含まれていたり、位相の乱れが生じていたりしているが、期間20では、位相が安定しており、第1の反射波15および第1の反射波15’の位相を正しく示している。したがって、期間20の範囲の位相差の平均を求めることによって、第1の反射波15と第1の反射波15’との位相差を求めることができる。この位相差を第1の位相差とする。図3(c)に示すように、取得した反射波の信号の位相を求めることによって、正確な位相差を求めることが可能となる。このように、繰り返し周期ごとに2つの波形を比較するため、精度良く位相差を求められる。
【0044】
位相差と伝播時間差との関係は以下の式(1)で表される。
【0045】
【数1】
Figure 0004024553
【0046】
ここで伝播時間差とは、反射面から超音波トランスデューサ1までの片道の距離を伝播する時間の差を指している。第1の位相差を式(1)に代入することによって、試料3の第1の面3aである上面からの反射波の伝播時間差を求めることができる。第1の位相差に基づく伝播時間差を第1の伝播時間差とする。
【0047】
同様にして、試料3の第2の面3bから反射する第2の反射波16と第2の反射波16’との位相差を求める。この値を第2の位相差とする。上記式(1)に第2の位相差を代入することによって、試料3の第2の面3bである底面からの反射波の伝播時間差を求めることができる。これを第2の伝播時間差とする。
【0048】
試料3の厚さの変化Δtは、試料3の第1の面3aである上面からの反射波に対しては、超音波の伝播路の増大となり、Δtを媒質3の音速で除した値が試料3の第1の面3aである上面からの反射波の伝播時間差となる。一方、試料3の第2の面3bから反射する第2の反射波16、16’に対しては、Δt分の伝播路が試料3から媒質3に変わることとなり、Δtを媒質の音速で除した値からΔtを試料の音速で除した値を引いた値が試料3の第2の面3bである底面からの反射波の伝播時間差となる。つまり、試料3の厚さの変化Δtおよびそれにともなう媒質13が占める空間の変化Δtが、第1の位相差および第2の位相差を引き起こしている。それぞれのΔtが等しいとしてこれらの関係を整理すると、下記式(2)が得られる。
【0049】
【数2】
Figure 0004024553
【0050】
したがって式(2)に式(1)によって求められる第1の位相差および第2の位相差から求められる第1および第2の伝播時間差をそれぞれ代入すれば、媒質13と試料3との音速の比が求まる。媒質3の音速は公知であるので、温度計14を用いて媒質の温度を測定し、温度による校正がなされた媒質3の音速を用いることによって、試料3の音速を求めることができる。
【0051】
式(1)および(2)を用いて、第1の位相差および第2の位相差から試料3の音速を求める計算は、音速測定装置30を操作する者等が行ってもよいし、媒質3の音速を与えることによって、信号処理回路11が自動的に計算を行うようにしてもよい。
【0052】
本実施形態では、例えば第1の位相差が3.5度であり、第2の位相差が−1.69度である。これらの数値を式(1)に代入することによって、第1および第2の伝播時間差が1.29nsecおよび−0.63nsecとそれぞれ求まる。したがって、媒質13の温度による校正後の音速を1492m/secとすると、第2の式から、試料3の音速は1004m/secと求まる。
【0053】
このように、本発明によれば、試料が不定形であって、その厚さを正確に求めるのが困難な場合でも、試料の音速を容易に求めることができる。また、試料の厚さを求めるにあたって、超音波を何回も送信して測定を行う必要はなく、試料の厚さが異なる場合においてそれぞれ1回ずつ超音波を送信し、反射波を検知すれば音速を測定することができる。したがって、測定時間を短くすることができる。また、このような特徴によって、試料の厚さが刻々と変化する場合であっても、好適に音速を測定することができる。試料3の厚さが小さい場合でも、好適に音速を測定できる。
【0054】
上記実施形態では、超音波を2回送信して試料3の音速を求めたが、2回以上超音波を送信してもよい。例えば、n回(nは3以上の自然数)の超音波を超音波トランスデューサ1から送信し、第m回目(mは2からnまでの自然数)の超音波に基づく第1および第2の反射波と、第m−1回目の超音波に基づく第1および第2の反射波との第1の位相差および第2の位相差をそれぞれ求める。そして、すべてのmについて、あるいは少なくとも2つ以上のmについて求められた第1の位相差および第2の位相差をそれぞれ平均する。得られた値を式(1)および(2)に代入すれば、より正確な試料3の音速を求めることができる。
【0055】
n回の超音波を送信するたびに、試料3の厚さが異なっていることが好ましいが、厚さが異なっていない場合があってもよい。厚さが異なっていない場合には、第1の位相差および第2の位相差は理論的にはゼロとなるので、そのようなデータの平均を計算するときに除外すればよい。
【0056】
更に、2回以上超音波を送信する場合において、はじめに2つ以上のmについて求められた第1の位相差および第2の位相差から試料3の音速を計算し、以降、得られた試料3の音速および媒質13の音速と、第1および第2の反射波とから試料3の厚さtを求めてもよい。このようにすることによって、逐次変化してゆく試料3の厚さをリアルタイムで計測することも可能である。
【0057】
また、上記実施形態において試料3は自重によってその厚さが逐次変化していた。しかし、厚さの差が所定の条件を満たす試料を用意できれば、厚さは経時変化しなくてもよい。具体的には、図4(a)に示すように、第1の厚さを有する第1の部分3dおよび第2の厚さを有する第2の部分3eを含む試料3を用いてもよい。この場合、第1の厚さと第2の厚さとの差Δtは、第1の反射波および第2の反射波による受信信号の中心周波数付近の1波長よりも短くなっている必要がある。あるいは、図4(b)に示すように、試料3が第1の厚さを有する第1の断片3fおよび第2の厚さを有する第2の断片3gを含んでおり、第1の断片3fおよび第2の断片3gの厚さの差Δtが上述の条件を満たしていてもよい。
【0058】
このような場合において、まず、第1の部分3dあるいは第1の断片3fに対して超音波を送信して、第1の厚さに基づく第1の反射波および第2の反射波を検知する。次に、超音波トランスデューサ1を移動させるか、試料3を移動させて、第2の部分3eあるいは第2の断片3gに対して超音波を送信して、第2の厚さに基づく第1の反射波および第2の反射波を検知する。以降、上述と同様にして試料3の音速を求めることができる。
【0059】
(第2の実施形態)
以下、本発明による音速測定装置40およびそれを用いた音速測定方法の第2の実施形態を説明する。
【0060】
図5に示すように、第2の実施形態による音速測定装置40は、試料3の厚さを変化させるための機構41を備えている点で、第1の実施形態の音速測定装置40とは異なっている。このため、試料3は自重によって変形するものでなくてもよく、機構41によって加えられる力により変形し得る種々の物質を試料3として用い、音速を測定し得る。
【0061】
機構41は、押さえ板2と、ステージ6と、ステッピングモータ5と、コントローラ7とを備えている。押さえ板2は、試料台4との間に形成される間隙を規定し、試料3を試料台4に押さえつけることによって試料3の厚さを変化させる。押さえ板2は、例えばポリスチレンなどから形成され、ステージ6に固定されている。押さえ板2は、押さえ板2と前記試料台との間に生じる多重反射と第1および第2の反射波とが干渉しないような厚みを有している。ステッピングモータ5はコントローラ7からの指令を受けて、ステージ6を6Aあるいは6B方向へ移動させる。コントローラ7は、タイミング回路12に制御される。
【0062】
以下に、音速測定装置40を用いて試料3の音速を測定する手順を説明する。
【0063】
まず、押さえ板2が試料3に接するように試料台4の上に試料3を配置する。試料3が第1の厚さを有している場合において、第1の実施形態で説明したように、超音波を送信し、反射波を超音波トランスデューサ1で検知する。検知した信号を処理して、受信した信号の中心周波数付近の1波長を求める。
【0064】
求めた波長に基づいて、ステージ6の移動量および超音波を送信し、反射波を取り込む繰り返し周期を決定する。ステージ6を段階的に移動させ、一回の超音波の送受信の間、試料3の厚さを一定に保つ場合には、ステージ6の一回の移動量が求めた波長より小さくなるようにする。この場合には、繰り返し周期は、ステージ6が移動する周期に一致させる。
【0065】
一方、ステージ6を連続的に移動させる場合には、第1の実施形態で説明したように、超音波の送受信の繰り返し周期を決定する。第1の実施形態と異なり、試料3の厚さが変化する速度もステージ6の移動速度を調節することによって変化させることができる。したがって、繰り返し周期を決定するにあたって、ステージ3の移動速度も考慮する必要がある。
【0066】
このようにして決定したステージの移動量と繰り返し周期を用いて第1の実施形態で説明した方法と同様の方法により試料3の音速を求めることができる。
【0067】
また、試料3が例えばゲル状物質であり、押さえ板2と試料3との密着性がよい場合、押さえ板2を矢印6Aの方向に移動させることによって、試料3の厚さを最初の状態よりも大きくすることができる。つまり、試料の第2の厚さは第1の厚さよりも大きくなってもよい。
【0068】
【発明の効果】
本発明によれば、試料が不定形であって、その厚さを正確に求めるのが困難な場合でも、試料の音速を高い精度で求めることができる。また、厚さが刻々と変化する試料の音速を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態による音速測定装置の概略を示す図である。
【図2】超音波を試料に向けて送信し、反射波を受信する様子を模式的に示す図である。
【図3】(a)は試料の厚さが変化した場合の反射波の様子を模式的に示す図である。(b)は受信した反射波の波形を示している。(c)は受信した反射波の位相を示すグラフである。
【図4】(a)および(b)は、本発明において用いることのできる試料の別な形態をそれぞれ示している。
【図5】本発明の第2の実施形態による音速測定装置の概略を示す図である。
【符号の説明】
1 超音波トランスデューサ
2 押さえ板
3 試料
4 試料台
5 ステッピングモータ
6 ステージ
7 コントローラ
8 送信アンプ
9 関数発生器
10 A/D変換回路
11 信号処理回路
12 タイミング回路
13 媒質
15 第1の反射波
16 第2の反射波
30、40 音速測定装置
31 支持構造
35 駆動回路
36 演算回路
41 機構

Claims (26)

  1. 媒質中に保持された試料へ向けて超音波を送信し、前記試料の厚さを変化させることによって生じる前記媒質と前記試料との界面で反射する前記超音波の第1の位相差と、前記媒質および前記試料を伝播する前記超音波の第2の位相差とを求め、前記媒質の音速と、前記第1および第2の位相差とから前記試料の音速を求める音速計測方法。
  2. 前記試料の厚さをn回(nは2以上の自然数)変化させ、n組の前記第1の位相差および前記第2の位相差を求め、それぞれの平均値を用いて前記試料の音速を求める請求項1に記載の音速計測方法。
  3. 媒質中に保持された試料が超音波の伝播路上において第1の厚さを有する場合において、前記試料に対して超音波を送信し、前記第1の厚さを規定する第1の面および第2の面において反射する第1および第2の反射波をそれぞれ検知する第1のステップと、
    前記試料が超音波の伝播路上において第2の厚さを有する場合において、前記試料に対して前記超音波を送信し、前記第2の厚さを規定する第1の面および第2の面において反射する第1および第2の反射波をそれぞれ検知する第2のステップと、
    前記第1のステップにおいて検知された第1の反射波と前記第2のステップにおいて検知された第1の反射波との第1の位相差および、前記第1のステップにおいて検知された第2の反射波と前記第2のステップにおいて検知された第2の反射波との第2の位相差を求め、前記第1および前記第2の位相差と前記媒質の音速とに基づいて前記試料の音速を求める第3のステップと、
    を包含する音速計測方法。
  4. 前記超音波を送信する送信器と前記試料の第2の面との間距離および前記反射波を検知する受信器と前記試料の第2の面との間距離は少なくとも前記第1および第2のステップにおいて等しい請求項3に記載の音速測定方法。
  5. 前記試料の前記第2の面を固定した面に接触させて、前記試料を保持する請求項4に記載の音速測定方法。
  6. 前記試料は前記第1の厚さを有する第1の部分および第2の厚さを有する第2の部分を含んでいる請求項3に記載の音速測定方法。
  7. 前記試料は、前記第1の厚さを有する第1の断片および前記第2の厚さを有する第2の断片を含んでいる請求項3に記載の音速測定方法。
  8. 前記試料は、前記第1の厚さを有する第1の状態から前記第2の厚さを有する第2の状態に変化する請求項3に記載の音速測定方法。
  9. 前記試料は、前記第1の状態から前記第2の状態へ自重によって変形する請求項8に記載の音速測定方法。
  10. 前記試料が前記第1の状態から前記第2の状態へ変形するように外部から前記試料に力を加える請求項8に記載の音速測定方法。
  11. 前記第1および前記第2の位相差が360度以内となるよう、前記第1の厚さおよび前記第2の厚さを選択する請求項6または7に記載の音速測定方法。
  12. 前記第1および前記第2の位相差がそれぞれ360度以内となるよう、前記第1のステップおよび前記第2のステップの間隔を決定する請求項8から10のいずれかに記載の音速測定方法。
  13. 媒質中に保持された試料へ少なくとも第1および第2の超音波を送信する送信器と、
    前記第1および第2の超音波のそれぞれについて、前記超音波の伝播路上において前記試料の厚さを規定する第1および第2の面からそれぞれ反射される第1および第2の反射波を受信する受信器と、
    前記受信器に接続されており、前記受信器おいて受信された前記第1の超音波に基づく前記第1および第2の反射波と前記第2の超音波に基づく前記第1および第2の反射波との第1の位相差および第2の位相差をそれぞれ求める演算回路と、
    を備えた音速計測装置。
  14. 前記演算回路において、前記媒質の音速と前記第1および第2の位相差とから前記試料の音速を求める請求項13に記載の音速計測装置。
  15. 前記試料を前記超音波の伝播路上において支持する試料台を更に有する請求項13または14に記載の音速計測装置。
  16. 前記超音波の伝播路上において、前記試料の厚さが変化するよう、前記試料を変形させる機構を更に有する請求項13から14のいずれかに記載の音速計測装置。
  17. 前記機構は押さえ板を含み、前記試料を前記試料台および前記押さえ板で挟むことによって前記試料を変形させる請求項16に記載の音速測定装置。
  18. 前記押さえ板が自重によって前記試料を変形させる請求項17に記載の音速測定装置。
  19. 前記機構は、前記押さえ板の位置を変化させる制御装置を更に含む請求項17に記載の音速測定装置。
  20. 前記位置制御装置に連動して前記送信器が前記第1および第2の超音波を送信する請求項19に記載の音速測定装置。
  21. 前記送信器は、n回(nは3以上の自然数)の超音波を送信し、前記第m回目(mは2からnまでの自然数)の超音波に基づく前記第1および第2の反射波と前記m−1回目の超音波に基づく前記第1および第2の反射波との第1の位相差および第2の位相差を求める請求項13に記載の音速測定装置。
  22. 前記超音波が送信されるたびに、前記試料は異なる厚さを有する請求項21に記載の音速測定装置。
  23. 前記第1の位相差および第2の位相差のすべてのmに対する平均値を求め、前記媒質の音速と前記第1および第2の位相差の平均値とから前記試料の音速を求める請求項22に記載の音速計測装置。
  24. 前記押さえ板は、前記押さえ板と前記試料台との間に生じる多重反射と射前記第1および第2の反射波とが干渉しないような厚みを有している請求項17から20のいずれかに記載の音速測定装置。
  25. 前記送信器は、前記第1および第2の位相差がそれぞれ360度以内となるような間隔で前記第1および第2の超音波を送信する請求項13または21に記載の音速計測装置。
  26. 前記送信器および前記受信器をひとつの超音波トランスデューサが兼ねている請求項13から25のいずれかに記載の音速計測装置。
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