本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態を図1〜図6、図31、および図32に基づき説明する。この実施の形態に係る超音波診断装置は、組織としての心筋や血管壁のTDI(組織ドプライメージング:Tissue Doppler Imaging)による画像を得る装置である。
図1には、超音波診断装置のブロック構成を示す。図に示すように、この超音波診断装置10は、被検者との間で超音波信号の送受信を担う超音波プローブ11と、この超音波プローブ11を駆動し且つ超音波プローブ11の受信信号を処理する装置本体12と、この装置本体12に接続され且つ心電情報を検出するECG(心電計)13と、装置本体12に接続され且つオペレータからの指示情報を装置本体に出力可能な操作パネル14とを備える。
装置本体12は、その扱う信号経路の種別に拠り超音波プローブ系統、ECG系統及び操作パネル系統に大別することができる。超音波プローブ系統としては、超音波プローブ11に接続された超音波送受信部15を備え、この超音波送受信部15の出力側に配置されたBモード用DSC(デジタルスキャンコンバータ)部16、Bモード用フレームメモリ(FM)17、画像データ合成部18、D/A変換器18A及び表示器19を備える一方、同じく超音波プローブ11に接続された、パルスドプラ法による組織ドプライメージング(TDI)のための位相検波部20、フィルタ部21、周波数解析部22、ベクトル速度演算部23、TDI用DSC部24、TDI用フレームメモリ25、および速度解析部26を備えている。また、ECG系統としては、ECG13に接続されたECG用アンプ40を備え、このアンプ40の出力側に接続されたトリガ信号発生器41及び参照データメモリ42を備える。さらに、操作パネル系統としては、操作パネル14からの操作情報を入力するCPU(中央処理装置)43と、このCPU43の管理下に置かれるタイミング信号発生器44、ROI表示制御部45、グラフィックメモリ46とを備える。なお、CPU43は、オペレータが操作パネル14を介して指令したROI(関心領域)の設定信号を供給できるようになっている。
超音波プローブ11は、短冊状の複数の圧電振動子を配列させたフェーズドアレイ形のトランスデューサを内蔵している。各圧電振動子は、超音波送受信部15からの駆動信号によって励振される。各駆動信号の遅延時間を制御することにより、スキャン方向を変更してセクタ電子走査可能になっている。超音波送受信部15の遅延時間パターンは、後述するタイミング信号発生器44から送られてくる基準信号を基準時として、CPU43により制御される。超音波送受信部15は、スキャン方向に対応して遅延時間パターンが制御された駆動電圧信号を超音波プローブ11に出力する。この駆動電圧信号を受けた超音波プローブ11は、そのトランスデューサにおいて電圧信号を超音波信号に変換する。この変換された超音波信号は、被検者の心臓に向けて送波される。この送波された超音波信号は、心臓を含む各組織で反射され、再び超音波プローブ11に戻ってくる。そこで、プローブ11内のトランスデューサでは反射超音波信号が再び電圧信号(エコー信号)に変換され、そのエコー信号は超音波送受信部15に出力される。
上記超音波送受信部15の信号処理回路は、送信時と同様に、入力したエコー信号に遅延をかけて整相加算し、スキャン方向に超音波ビームを絞ったと等価なエコービーム信号を生成する。この整相加算されたエコービーム信号は、検波された後、Bモード用DSC部16に出力される。このDSC部16は超音波走査のエコーデータを標準テレビ走査のデータに変換し、画像データ合成部18に出力する。また、これと並行して、Bモード用DSC部16は、任意の心位相における複数枚の画像データをBモード用フレームメモリ17に記憶させる。
一方、超音波送受信部15で処理されたエコー信号は、位相検波部20にも出力される。位相検波部20はミキサとローパスフィルタを備える。心筋のような運動をしている部位で反射したエコー信号は、ドプラ効果によって、その周波数にドプラ偏移(ドプラ周波数)を受けている。位相検波部20はそのドプラ周波数について位相検波を行い、低周波数のドプラ信号のみをフィルタ部21に出力する。
フィルタ部21は、運動速度の大きさが「心筋<弁<血流」の関係にあることを利用して(図2参照)、位相検波されたドプラ信号から、心臓壁以外の弁運動、血流などの不要なドプラ成分を除去し、超音波ビーム方向の心筋のドプラ信号を効率良く検出する。この場合、フィルタ部21はローパスフィルタとして機能させる。
上記フィルタ部は既に実用化されている、血流情報を得るためのカラードプラ断層装置にも搭載されているものである。この血流情報を得るカラードプラ断層装置の場合には、血流と心臓壁、弁運動とのドプラ信号が混在したエコー信号に対してハイパスフィルタとして機能させ、血流以外のドプラ信号を除去している、このため、フィルタ部は装置の目的に応じてローパスフィルタとハスパスフィルタとを切換可能にすることで汎用性を高めることができる。
なお、心筋からの信号強度は非常に大きく、血流からの信号強度は無視できるくらい小さいため、組織ドプライメージングにあっては、上記フィルタ部21を設けない構成も可能であり、そのようにしても、実用上殆ど差し支え無い。
フィルタ部21でフィルタリングされたドプラ信号は、次段の周波数解析部22に出力される。周波数解析部22は、超音波ドプラ血流計測で用いられている周波数分析法である、FFT法及び自己相関法を応用するものであり、個々のサンプル点における観測時間(時間窓)内での平均速度や最大速度を速度データとして演算する。具体的には、例えば、FFT法又は自己相関法を用いてスキャン各点の平均ドプラ周波数(即ち、その点での観測対象の運動の平均速度)や分散値(ドプラスペクトラムの乱れ度)を、さらにはFFT法を用いてドプラ周波数の最大値(即ち、その点での観測対象の運動の最大速度)などをリアルタイムで演算する。このドプラ周波数の解析結果は運動速度のカラードプラ情報として次段のベクトル速度演算部23に出力される。
ベクトル速度演算部23は、心筋などの組織の運動の絶対速度(ここでは、図3に示すように、物体Pの運動方向の速度Vそれ自体を言うベクトル量(大きさ及び方向を有する))を例えば特開平6−114059号公報に示す手法を用いて推定する。
この絶対速度Vの推定(演算)例を以下に例示する。超音波ドプラ法により直接検出される移動物体の速度は、図3に示す如く、超音波ビーム方向の速度成分「V・cos θ」であるが、実際に得たい速度は絶対速度Vである。この絶対速度Vの推定方式には各種のものが提案されている。その中で、「移動物体の目標位置(サンプル点位置)に向けて、開口位置及び入射角の異なる2方向から超音波ビームを個別に照射し、各々のビーム照射で得られるドプラ偏移周波数に基づいて推定する方式」があり、これを図31、32を参照して説明する。
図31において、開口1及び開口2で得られるドプラ偏移周波数から推定可能な各超音波ビーム方向の速度成分Vd1,Vd2は、移動物体の絶対速度Vに対して、
[数1]
Vd1=V・cosθ1
Vd2=V・cosθ2
の関係が成り立つ。
これらの関係は図32のように表される。図32において、
[数2]
線分AB=V
線分AC=Vd1=V・cosθ1
線分AD=Vd2=V・cosθ2
である。
また、三角形ΔADEとΔBCEは相似形であるから、
[数3]
線分BC:線分CE=線分AD:線分DE
角CBE=角DAE=φ
であり、
[数4]
線分AD=Vd2
線分DE=Vd2・tanφ
線分CE=Vd1−Vd2/cosφ
であるから、
[数5]
線分BC=線分CE/tanφ
=(Vd1−Vd2/cosφ)/tanφ
=Vd1・cosφ−Vd2/sinφ
となる。
したがって、線分AB、即ち絶対速度Vは、
[数6]
V={(線分AC)2+(線分BC)2}1/2
={(Vd12+(Vd1・cosφ−Vd2/sinφ)2)1/2
=Vd1・{1+(cosφ−(Vd2/Vd1)/sinφ)2}1/2
……(1)
により求められる。即ち、2つの開口からの超音波ビームの成す角度φが既知であれば、2つのドプラ出力Vd1,Vd2から絶対速度Vを入射角に無関係に決定することができる。
そして、上記(1)式から絶対速度Vが求められると、
[数7]
Vd1=V・cosθ1
の式から
[数8]
θ1=cos−1(Vd1/V) ……(2)
が得られ、絶対速度Vの方向が決定される。
以上のようにして絶対速度Vの大きさ及び方向を演算できるので、超音波送受信部15は、上述した2方向からの超音波ビームの送受信に対応すべく遅延及び開口制御を行えばよい。これに呼応して、周波数解析部22からは、上記片方ずつの超音波ビームの送受信に対応したドプラ出力Vd1,Vd2が交互にベクトル演算部23に出力され、ベクトル演算部23では上記(1)式及び(2)式の演算が行われる。スキャン断層面の各サンプル点毎に演算される絶対速度Vのデータ(大きさ、方向)は、次段のTDI用DSC部24に出力される。
TDI用DSC部24は、走査方式変換用のDSC24aと速度データをカラー化するためにルックアップ用テーブルを備えたカラー回路24bとを備えている。このため、ベクトル速度演算部23から送られてきた速度データは、DSC24aで超音波走査信号が標準テレビ走査信号に変換されると共に、カラー回路24bでカラー表示用データに変換され、その変換信号が前記画像データ合成部18に出力される。カラー回路24bにおいては、例えば、従来知られている超音波ビームに近づく運動を赤、超音波ビームから遠ざかる運動を青で示す方法に対応させて、心筋の収縮運動を赤(黄)、心筋の拡張運動を青(水色)で示し、且つ、その絶対値が大きくなるにしたがって黄色または水色にグラデーションを変化させるようにカラー表示用データが生成される。
また、TDI用DSC部24のDSC24aはさらに、任意の心時相における複数枚の組織ドプラ像を、フリーズのためにTDI用フレームメモリ25に記憶させる。
さらに、速度解析部26は、TDI用DSC部24と並列の状態で、ベクトル速度演算部23及び画像データ合成部18との間に設けられており、ベクトル速度演算部23がサンプル点毎に演算した絶対速度データ、すなわち2次元の速度マッピング(分布)データを入力する。この速度解析部26は本発明の要旨に係る、関心部位の速度データの解析の中心を成すもので、本実施の形態ではCPUを有し、後述する図5記載の処理を行うようになっている。
一方、前述したECG13は被検者の各心時相の心電図情報を検出するように及び参照データメモリ42に各々出力される。この内、参照データメモリ42は各心時相における心電図情報を記憶しておき、必要に応じて必要な情報を画像データ合成部18に供給する。トリガ信号発生器41は、各心時相のタイミング情報を前記タイミング信号発生器44に知らせるようになっている。タイミング信号発生器44は、通常、操作パネル14からの指示に応じて超音波送受信部15における遅延時間パターンを制御するCPU43のコントロール下にあるが、トリガ信号発生器41から各心時相のタイミングが告知されると、超音波送受信部15に対して超音波送受のための基準信号を発振する。
上述したように画像データ合成部18には、Bモード用DSC部16から出力されたBモードの画像信号、TDI用DSC部24から出力された組織ドプラ法によるカラーマッピングの画像信号、速度解析部26から出力された速度データ、さらには必要に応じて前記参照データメモリ42からの心電図情報が入力するようになっている。画像データ合成部18では、それらの入力信号データが重畳または分割表示の態様で合成され、その重畳データが表示器19に出力される。表示器19はここではCRTで成る。
この実施の形態にあっては、超音波プローブ11、超音波送受信部15、位相検波部20、フィルタ部21、周波数解析部22、及びベクトル演算部23が本発明の速度検出手段を形成している。また、CFM用DSC部24及びTDI用フレームメモリ25が本発明の速度分布作成手段を成す。さらに、画像データ合成部18、D/A変換器18A、及び表示器19が本発明の表示手段を形成している。また、操作パネル14、CPU43、ROI表示制御部45、グラフィックメモリ46、および速度解析部26が本発明の解析手段を形成している。
本実施の形態の動作を説明する。
いま心筋を診断しているとすると、血流や弁のドプラ信号はすでにフィルタ部21でカットされている(または信号強度が小さいため無視できる)から、表示器19には心臓のBモード断層像(白黒階調)に、心筋の動きを色分けしたカラー画像(左室短軸像)を重畳させた断層像が、例えば図4に示すようにリアルタイムに表示される(同図においてハッチング部分が心筋HMを示す)。つまり、図4に示す心筋HMのカラーは収縮運動時には赤(黄)、拡張運動時には青(水色)となり、その赤、青が周期的に且つリアルタイムに繰り返される。しかも収縮、拡張運動の最中における運動速度の変化は、赤もしくは黄または青もしくは水色の色合い変化によってリアルタイムに表現される。よって、心筋HMの運動速度をカラーでほぼリアルタイム且つ精度良く表示させることができ、心臓の機能定価を定量的且つ高精度に評価するための基礎画像を取得できる。
このように心筋の組織ドプラ法によるカラードプラ像を得ている状態で、操作パネル14から本発明に係る速度解析の指令C1を行うと、以下の処理が開始される。
Bモード用DSC部16及びTDI用DSC部24は、速度解析指令C1に応じて表示器19の表示画像をフリーズする。
これに並行して、速度解析部26は図5の処理を開始する。すなわち、まず同図ステップS1で、速度解析指令C1の読込みを試み、速度データの加工処理を開始するか否か判断する。この処理で速度解析指令C1を入力できたときは「YES」と判断し、ステップS2に移行してDSC24aからフリーズに係る1フレーム分の2次元の速度マッピングデータ(スキャン断層面上に2次元に分布した絶対速度データ)を入力し、表示する。
次いでステップS3に移行し、速度解析部26は、オペレータが表示器19にフリーズ表示されている画像上の所望位置に複数(例えば2つ)のROI(関心領域)を設定したか否かを判断する。オペレータが操作パネル14から表示器19のフリーズ像を観察して、例えば心疾患などの診断に有効である心内膜と心外膜の所望位置に2つの矩形状ROIを手動設定したい旨を指令すると、CPU43からROI表示制御部45にそれに対応したROI設定信号C2が出力される。ROI表示制御部45はROI設定信号C2を解読して、ROI形状、数、表示位置などの必要情報を得るとともに、指定されたROI形状のグラフィックデータをグラフィックメモリ46から読み出して、それらのROI情報C3を画像データ合成部18に送る。この結果、フリーズされている画像上の心内膜と心外膜の指定位置に指定形状及び指定数のROIが重畳表示される。これにより、本実施の形態では図6に示す如く、心内膜及び心外膜の所望位置に矩形状ROI:ROIa、ROIbが重畳表示される。そこで、図5のステップS3で、速度解析部26は上記ROI情報C2の読込みを試みつつ、ROI設定したか否かを判断し、YES(ROI設定)の判断が下せるまで同判断を繰り返し、待機する。
このステップS3の判断でYES(ROIが設定された)になると、ステップS4に移行して2つのROI(ROIa、ROIb)が囲む面積(画素の集合)の位置を演算する。これが済むと、速度解析部26はステップS5に移行し、ROI(ROIa、ROIb)によって指定された面積の各画素の位置に対応した速度データをDSC24aから入力する。
この入力した速度データは、ROI(ROIa、ROIb)の各々において速度分布にばらつきのあることが考えられるため、次いでステップS6にて、ROI毎に速度データを平均処理し、代表値を求める。この結果、心内膜上に設定したROI:ROIaからは代表速度値Vendが決まり、心内膜上に設定したROI:ROIbからは代表速度値Vepiが決まる。
そこで速度解析部26はその処理をステップS7に移行させ、代表速度値Vend、Vepi同士の比較解析を行う。この比較解析は、具体的には、心内外膜速度差VDIFF=Vend−Vepi及び心内外膜速度比VRATIO=Vend/Vepiを演算することにより行われる。なお、ここでの解析データとして、代表速度値Vend、Vepi間の勾配を求めてもよい。
この後、ステップS8に移行し、ステップS7で求めた心内外膜速度VDIFF及び心内外膜速度比VRATIOのデータを画像データ合成部18に出力する。この結果、これらの解析データが図6に示した組織ドプラ断層像の一部に数値として重畳表示される。
したがって、図4に示した組織ドプラ断層像の関心のある部位[ROI(ROba、ROIb)で指定した部位]間の速度差が定量的に画像表示されるため、画像全体から受ける心筋の運動状態の印象に加えて、局所的な心筋の運動状態を定量的に測定することができる。組織ドプラ断層像上で他にも関心のある部位が在る場合、オペレータは前述と同様にその部位にROI[ROIa、ROIb]を手動で移動させるだけでよく、その新たなROI位置同士を比較した解析結果が数値として直ちに表示される。このようにROI[ROIa、ROIb]を動かしながら、心筋の所望位置の運動状態を正確に把握できるので、単に図4のような組織ドプラ断層像を表示する場合には得られない機能、すなわち、同時に異なる部分(心内膜、心外膜)の速度差を比較して局所的な収縮能の低下を簡単に見つけることができるという機能が得られ、診断能が著しく高められる。また、ストレスエコー法のように心臓に負荷を与える必要も無いので、患者にとって不快感や苦痛もほとんど無く、受診し易い超音波診断装置を提供できる。
また、このような優れた機能を得るに際し、Bモード像に重ねて表示した組織ドプラ断層像を使って所望の位置にROIを設定するようにしているので、従来のようにBモード像を目視・観察して用手的に心筋の輪郭をトレースしなくても、かかる輪郭位置を容易に目視・判断できる。したがって、ROIの設定作業も短時間で簡単に行うことができ、作業能率の点でも優れており、熟練度には殆ど関係なく使いこなせる装置となる。
なお、上記第1の実施の形態ではパルスドプラ法を用いて心筋の運動速度を演算する構成としたが、この速度演算手段の構成については、このほかにも、例えばBモード像の画像データから速度を求めるようにすることもできる。すなわち、超音波パルス信号を送受信することにより得られるBモード像の画像データの組織部位の時系列方向へのパターンマッチングを、相互相関法などの手法を使って行い、組織の運動速度を得る。この場合にはその運動速度を使って速度解析部26が同様の処理を行うことになる。
また、上記第1の実施の形態では組織としての心筋の運動状態を診断する場合について述べたが、診断対象は例えば血管壁であってもよい。図7には第1の実施の形態の超音波診断装置によって表示器19に表示された血管壁BVの組織ドプラ像を示す。この組織ドプラ像上の血管内膜及び血管外膜の所望位置に、2つのROI[ROIa、ROIb]が設定され、このROI内の平均速度Vin、Voutが各々の代表値として演算される(図5ステップS1〜S6参照)。そこで、この速度Vin、Voutに基づいて
[数9]
血管内外膜速度差VDIFF=Vin−Vout
血管内外膜速度比VDRATIO=Vin/Vout
が演算され、表示される(図5ステップS7、S8参照)。このように、診断対象が血管壁であっても、同時に2ケ所の速度データについて比較解析でき、局所的な運動能力低下を容易に見つけることができる。
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態を図8及び図9に基づいて説明する。この第2の実施の形態に係る超音波診断装置は、放射状方向に運動する組織に適用可能な装置で、速度の比較解析に必要な2ケ所の部位を指定するROIを自動で設定できるようにしたものである。
図8に示す超音波診断装置は、図1で説明した構成に加えて、CPU43とROI表示制御部45との間にROI自動設定部48を設けたものである。ROI自動設定部48はCPU43から与えられるROI自動設定の指令C1′に応じて図9に示す一連の処理を開始する。
これを詳述すると、ROI自動設定部48は図9のステップS10でフリーズ画像に係るBモード画像データを入力し、表示する。ここで扱われる画像は、断層面においてほぼ同心円状に収縮拡張運動している組織の断層像であり、例えば、心疾患などの診断に最も良く使われる超音波断層面としての傍胸骨左室短軸像でもよいし、血管壁断層像でもよい。
次いでステップS11に移行し、ROI自動設定部48はBモード像上に手動または自動に係る収縮中心点を設定する。手動の場合はオペレータが表示器19のフリーズ像を見ながら操作パネル14を介して指令した点情報を収縮中心点として設定する。自動の場合は面積中心点又は心筋収縮方向のベクトルを求め、中心点を決定して設定する。
次いで、ステップS12では、収縮中心点を中心にして1つの予め決められた放射状方向にBモード像を走査し、内膜及び外膜の位置を同定する。この同定に使う輪郭抽出技術は周知のもの(例えば特開平6−114059号公報の記載参照)でよい。
次いで、ステップS13にて、同定した内膜及び外膜の位置情報C1をROI表示制御部45に出力する。この結果、ROI表示制御部45は前記第1の実施の形態の場合と同様に、位置情報C1に基づいて同定した内膜及び外膜の位置に例えば矩形ROI[ROIa、ROIb]を表示させる(前記図6参照)。そして、このROI[ROIa、ROIb]の位置の速度データの比較解析が速度解析部26によって前述と同様に行われる。
この後、ROI自動設定部48は放射状の走査(内膜/外膜位置の同定)が全部済んだか否か判断し(図9ステップS14)、NOの場合はオペレータからの指令に基づいてまだROI設定を続けるか否か判断する(同図ステップS15)。そしてROI設定を継続させる場合はステップS12に戻り、走査位置を収縮中心点の囲りの他の位置(例えば前回の走査に隣接する位置)にずらして同様に内幕及び外膜の位置を同定し、ROI位置を自動的に決める。
以上の繰返しによって収縮中心点を中心にして放射状にROI[ROIa、ROIb]が順次、自動設定され、操作が著しく省力化される一方、同一方向における内膜部位と外膜部位の速度差が比較解析されるので、心筋梗塞などにより壊死した心筋部位を簡単かつ定量的に評価可能になる。
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態を図10〜図13に基づいて説明する。この第3の実施の形態は、前述してきた複数の部位に対する速度の比較解析の処理を時系列かつリアルタイムに複数画像に対して実行し、組織運動の時間的な変化を解析・表示するようにしたものである。
以上を実行するため、図10に示す超音波診断装置は、速度解析部26にBモード断層像の画像データを入力するとともに、この速度解析部26で後述するROIの再設定処理も行い、その結果をROI表示制御部45に出力できるようになっている。
これを達成するため、本実施の形態に係る速度解析部26は図11に示す処理を行う。以下、これを説明する。
まず、速度解析部26は、ROI表示制御部45を介して入力する指令C3に基づいて解析開始を判断すると(図11ステップS20)、続いてステップS21〜S23の処理を順次行う。ステップ21ではその時点の2次元の速度マッピングデータが入力され、表示される。ステップ22では、オペレータが表示器19に表示されているBモードフリーズ像を見ながら操作パネル14を介して設定したROI[ROIa、ROIb]の初期位置をROI表示制御部45から入力する。さらに、ステップS23では、初期位置に在るROI[ROIa、ROIb]内の組織形状、すなわち心筋を診断している場合には、心内膜及び心外膜の形状を周知の技法で抽出する。
このように組織形状が得られると、今度はステップS24〜S26の処理を順次行う。つまり、その時点で得られている次フレームの2次元の速度マッピングデータを入力し、表示する。ステップS25では、このフレームの2次元速度分布像に対してパターンマッチングなどを行い、ROI[ROIa、ROIb]を再設定する。この再設定により、刻々変化する組織位置/形状にROI[ROIa、ROIb]が自動的に追従することになり(図12の仮想線の状態参照)、ステップS26でこの再設定位置情報がROI表示制御部45に戻される。これによって、表示器19に表示されるその後の速度の2次元分布像にもROI[ROIa、ROIb]がリアルタイムに自動追従しながら重畳される。
次いでステップS27〜S30の処理が順次行われる。これらの処理は図5で説明したステップS4〜S7と同じであり、これにより、2つのROI[ROIa、ROIb]の位置の速度データ同士が比較される。
次いでステップ31に移行し、オペレータからの指令に基づく信号C1を入力して処理を終了するか否か判断し、NOのときはステップS24に戻って上述した処理を繰り返す。この判断でYESになるときはステップ32に移行し、それまで複数のフレームについてステップS29及びS30で処理及び演算していた速度データの時間経過データを作成する。つまり、心筋を診断対象とする場合、例えば、時間(フレーム)の経過に伴う内膜速度、外膜速度及び内外膜速度差のデータを作成する。この作成データは、ステップS33にて画像データ合成部18に出力される。これにより、表示器19には、例えば図13に示す如く経過時間を横軸にとった、心内膜速度Vend、心外膜速度Vepi、および心内外膜速度差VDIFFの変化曲線が単独で又は他の画像に重畳して表示される。
このように、第3の実施の形態によれば、複数画像に対して時系列(リアルタイム)に2つのROI位置の速度データを比較解析でき、その組織の運動の経時変化曲線を表示できる。
なお、この実施の形態にて速度解析部が解析対象とする時系列のデータはBモードのフレーム画像データであってもよく、Bモード画像データからパターンマッチングにより2次元分布の速度データを求め、その速度データから上述した時系列の解析を行うようにしてもよい。
(第4の実施の形態)
さらに、第4の実施の形態を図14〜図17に基づいて説明する。この第4の実施の形態は、前述してきた速度データの比較解析を時系列かつリアルタイムに行うことは第3の実施の形態と同等であるが、第3の実施の形態で行っていたROIの追従(すなわち、輪郭抽出、パターンマッチング)を不要にしたものである。
これを達成するため、図14に示す超音波診断装置は解析時相決定部49を備える。この解析時相決定部49はECG用アンプ40の出力信号を受け、例えばしきい値弁別による手法を使って心内膜速度Vendが最大となる時相を決め、その時相情報を速度解析部26に出力するようになっている。そのほかの構成は図1と同じである。
速度解析部26は図15に示す処理を行う。すなわち、ステップS40で解析開始が判断されると、ステップS41に移行し、解析時相決定部49からの時相情報を読み込み、「内膜速度=最大値」となる時相か否かを判断する。この処理でかかる時相になったと判断されると、ステップS42〜S46を順次行う。
まず、「内膜速度=最大値」の時相における2次元の速度マッピングデータをTDI用DSC部24から入力・表示し(ステップS42)、ROI表示制御部45から指定ROI位置を入力する(ステップS43)。ここで指定されるROIは、例えば図16に示す如く、組織としての心筋の移動最大領域を含む、大きな単独の矩形状ROIであり、オペレータから操作パネル14を介して指令される。
次いで指定されたROI内の速度ヒストグラムを演算する(ステップS44)。これによって、例えば図17に示す如く、速度を横軸にとり、各速度成分の頻度を縦軸にとったときの分布曲線のデータが内蔵メモリに記憶される。
この速度ヒストグラムを求める理由は次のようである。一般に、1心周期における心内膜の変位(移動距離)は心外膜のそれよりも大きい。すなわち、速度に換算すると、心内膜速度Vend》心外膜速度Vepiとなる。このため、上述した如く心内外膜の移動範囲を含むROIを設定した場合、「内膜速度=最大値」となる時相を選択しているので、各断層面における速度ヒストグラムの最高速の一部が内膜速度領域Rendを成しかつ最低速の一部が外膜速度領域Repiを成す(図17参照)。そこで、この最高速度領域Rendと最低速度領域Repiの平均速度を求めることは、空間的に2つのROIを内外膜別々に設定し、その平均値を求めることに相当する。この目的のために本実施の形態では速度ヒストグラムが演算される。
ただし、重度の異常壁運動等の患者は必ずしも、「心内膜速度》心外膜速度」という関係が成立しない。従って、そのような場合は、かかる解析対象から外す手立ても以下のように必要である。
そこでステップS45では、ステップS44で演算した速度ヒストグラムの分布曲線の特徴量が演算される。その特徴量としては、例えば、最高速度および最低速度の各頻度数並びにそれらの差、全平均頻度数、全平均頻度数と最高速度および最低速度の各頻度数との差などであり、重度の心患者とそうでない患者とを見分けるために与えられた指標である。
次いでステップ46にて、求めた分布曲線の特徴量のデータを予め記憶している特徴量の基準値と比較することにより、重度の心患者か否かを判断する。この判断で重度と認識された場合、この第4の実施の形態の解析には不適であるとして、SステップS47でその異常(重度)の旨を表示器19に表示させて、処理を終わる。
これに対し、ステップS46で「重度ではない」と判定された場合、ステップS48〜S50の処理に順次移る。この内、ステップS48では、最高速度および最低速度から所定の速度範囲のデータが各々、内膜速度領域Rend、外膜速度領域Repiのデータとして抽出される。ステップS49では、各速度領域Rend、Repi毎に平均値Vend、Vepiが代表値として演算される。さらにステップS50では、演算された平均値Vend、Vepiを用いて前記各実施の形態と同様に比較解析を行う。
この後、ステップS51で解析を終了するか否か判断し、続ける場合は前記ステップS41まで戻り、上記の処理を繰り返す。解析を終わる場合、ステップS52、S53(図11のステップS32、S33と同じ処理)を行う。
従って、この第4の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様の解析結果を得るとともに、大きな単独のROIを設定し、速度ヒストグラムを駆使しているため、ROIの追従処理、すなわち心内外膜の輪郭抽出、パターンマッチングなどの処理を行わなくても、実質的に内外膜を分離できるので、一連の処理の演算負荷が軽くなる。
(第5の実施の形態)
続いて第5の実施の形態を図18および図19に基づいて説明する。この実施の形態は組織の運動速度の補正演算に関する。
前述したように、本発明に係るドプラ法により直接に検出できる運動速度は、従来の血流ドプライメージングと同様に、超音波ビームの走査線方向の運動速度成分である。このため、ベクトル速度演算部が設けられておらず、かつ組織の運動方向と超音波走査方向とが異なる場合、両方向が成す角度差に応じた補正を施すことが望まれる。
本実施の形態では、図18に示す如く、周波数解析部22の解析結果が直接、DSC部24に出力される一方、輪郭抽出部50および補正演算部51が設けられている。この内、輪郭抽出部50は、TDI用DSC部24から供給される2次元の速度マッピングデータに基づいて、対象組織としての心筋の心内膜、心外膜の輪郭を例えば相互相関法により求め、それらの輪郭情報を補正演算部51に送る。補正演算部51は、心内外膜の輪郭に沿って、輪郭を形成する部位ごとに周波数解析部22から出力された検出速度vを以下のように補正する。
心内膜の例を図19に示す。検出速度成分vとその方向(すなわち、超音波ビームの方向)はDSC部24から出力されるので、心内膜のある部位Pにおける運動方向と検出速度成分vとが成す角度をθとすると、部位Pでの運動速度(絶対速度)Vは、
[数10]
V=v/cosθ
により補正演算される。ここで、角度θは、心筋の各部位が収縮中心Oと結ぶ線上を運動すると仮定して補正演算部51で求める。
補正演算部51では上式に基づく補正演算が心内膜および心外膜の全周にわたって行われるから、2次元的に検出速度vに対する角度補正が成され、絶対速度Vが求められる。従って、補正された絶対速度Vの2次元分布データに基づいて、速度解析部26では前述と同様の解析が行われる。
(第6の実施の形態)
さらに、第6の実施の形態を図1、図20〜図24に基づいて説明する。この実施の形態は速度解析として速度勾配を求め、これを適宜な態様で表示するものである。
第6の実施の形態に係る超音波診断装置は図1に示したものと同等に構成されているが、その中の速度解析部26は図20に示す一連の処理を実行するようになっている。
速度解析部26は具体的には、ステップS60で解析が開始されると、ステップS61に移行してDSC部24から断層面の速度データを入力・表示するとともに、その速度データを2次元分布像として表示器19に表示させる。
次いでステップS62にて、対象組織である例えば心筋の収縮中心、心内膜輪郭、心外膜輪郭などの位置情報を周知の手法を使って自動的に得る。なお、これらの情報はオペレータが表示器19にフリーズ表示された画像(2次元の速度マッピング像(組織ドプラ像))を見ながら、マニュアルで指定するようにしてもよい。これにより、心内外膜で囲まれたリング状の領域が本実施の形態の速度勾配の対象部位として設定される。
次いで、ステップS63に移行して、速度解析部26はステップS62で設定した部位内の速度を収集する。この収集は、例えば心筋の収縮中心から放射状に速度データをスキャンし、ステップS62で設定した対象部位内の速度データをその放射状位置データと伴に記憶することで行われる。ここで、データ収集を無駄無く行うために、対象部位の範囲外では、例えばしきい値弁別などによってスキャンを行わないようにする。
なお、このステップS63の収集処理の別の例としては、図21に示す如く、傍胸骨左室短軸像での心内膜Bendと心外膜Bepiとの間の距離が最短となる線分を対象心筋部位の周囲方向について全て(複数)求め、その線分上の速度データを各々収集するようにしてもよい。
続いてステップS64に移行し、ステップS63の前処理で収集した各線分上の速度データに基づき、その速度勾配(平均傾き)が演算される。ステップS63で収集された心内外膜間の距離とその速度との間は、例えば図22のような速度勾配プロファイルとして表される。つまり、その速度勾配のプロファイルによると、内膜側から外膜側に傾斜する傾きが得られ、しかも一般に速度のばらつきが生じる。そこでステップS64では、そのような速度ばらつきが存在した場合でも、観察が容易になるように最小2乗法を用いて平均の傾き(図23の回帰直線LN参照)を演算する。この平均傾きは、対象部位の全周にわたって各線分について行われる。ここでは、最小2乗法の代わりにカーブフィッティング法を使うようにしてもよい。
次いでステップS65に移行して、ステップS64で求めた各線分の平均傾きを輝度データに変換する。この輝度変換は、平均傾きが大きくなるにつれて内膜から外膜にかけての輝度差が大きくなるように、予め記憶している輝度テーブルを参照するなどの手法で行われる。
そして、この輝度変換データがステップS66でその位置情報などと伴に画像データ合成部18に出力される。
この結果、表示器19には例えば図24に示す輝度画像が表示される。いまの場合、心内外膜間の線分の平均傾きが小さくなると、その輝度差も小さくなるので、図24の輝度画像によれば、右下部分に輝度差が殆ど無い部分が観察される。つまり、この部分の平均傾きは殆ど零であり、心筋梗塞などに因り、心筋の運動機能が部分的に低下した異常運動部位と判断できる。このように、本実施の形態によれば、輝度差によって運動機能の異常部位と正常部位とを一見で識別でき、診断能に優れた装置となる。
なお、この実施の形態について種々の変形が可能である。
第1に、前述したステップS64の変形例として、平均傾きの代わりに、各線分の速度プロファイル(図22参照)において、速度vを距離Lで微分することで微小区間での傾きαを求める。
[数11]
α=dv/dL
そして、ステップS65では、この微小区間毎の傾きに対して輝度変換し、図24と同様の速度勾配に対応した2次元の輝度表示を行うようにしてもよい。この微小区間毎の速度勾配表示により、局所的な心筋異常もさらに容易に識別可能となる。
さらに第2に、図20のステップS64で求めた心内外膜間の各線分毎の平均傾きの表示に対する変形例を図25および図26に示す。図25の変形例によれば、かかるステップS64に引き続くステップS65の処理の中で、平均傾きの値を所定のしきい値で弁別し、しきい値以下の場合、「暗い赤」に対応するカラーデータを割り当て、しきい値を越える場合、「明るい赤」に対応するカラーデータを割り当てる。これにより、表示された心筋画像は図25に示す如く、異常運動部位に相当する部分が「暗い赤」で表される。
同様に、図26の変形例では、平均傾きがしきい値以下の線分については赤の色相を、しきい値を越える線分については青の色相を各々割り当てる。これにより心筋画像は図26のように異常運動部位が「赤」く表される。
このように図25および図26に係る異常部位/正常部位の2値的表示も可能で、異常部位が一目瞭然となるという利点がある。なお、この図25および図26の2値表示の手法を各線分の微小区間ΔLごとの微小傾きα(=dv/dL)に適用することもできる。
(第7の実施の形態)
第7の実施の形態を図1、24、27及び図28に基づき説明する。この実施の形態も第6の実施の形態及びその変形例と同様に速度勾配の解析・表示を行うもので、対象組織の輪郭の抽出処理を格別必要とせず、より高精度に運動能力を評価することができる超音波診断装置を提供することを、目的としている。
この第7の実施の形態を実施する超音波診断装置は図1と同様に構成され、速度解析部26が図27に示す一連の処理を実行するようになっている。
速度解析部26は、解析処理が指令されると(ステップS70でYES)、ステップS71にてDSC部24から例えば心筋のスキャン断層面の速度マッピングデータを入力するとともに、その速度データを2次元分布像として表示器19に表示させる。
次いでステップS72に移行し、心筋の収縮拡張(運動)の中心位置Oを従来周知の手法で図28に示す如く自動的に設定させる。なお、この中心位置設定はマニュアルで設定させるようにしてもよい。
さらにステップS73に移行し、収縮拡張の中心位置Oから放射状に延びる運動方向(断層面内の2次元ベクトル)を表す線分MD1〜MDnを、図28に示す如く、その全周にわたって且つ心筋をカバーする長さ範囲で設定する。同図において、仮想線Mend及びMepiは画面上での心内膜及び心外膜の想定される輪郭線である。オペレータは画面上で心内膜Mend及び心外膜Mepiの輪郭位置を想定し、この位置を越える放射状の線分MD1〜MDnを設定すればよい。
これが済むと、ステップS74で、線分MD1〜MDnの夫々の上に、各線分MD1(〜MDn)を等距離かつ複数の微小区間Δsに分割する複数個の位置d1,…,dnが設定される。この位置d1,…,dnは、それらが線分MD1(〜MDn)を微小な等区間Δs(=dn−1−dn)に分割できる座標であればよく、間隔自体は任意である。この微小区間Δsの長さは、対象組織(ここでは心筋)の微小部分毎の適度な表示能を維持できれば本実施の形態の目的は達成でき、例えば隣接画素間に相当する距離であってもよいし、所定複数画素分に相当する距離であってもよい。
この微小区間Δsの設定が済むと、速度解析部26はその処理をステップS75に進め、運動方向を表す線分MD1〜MDnの夫々に対し、微小区間Δs毎の位置d1,…,dnにおける絶対速度をV1,…,Vnを速度データの中から選択する。次いでステップS76にて、差分値Siを、
[数12]
Si=Vi−Vi+1(i=1〜n−1)
を演算する。これにより、線分MD1〜MDn夫々に沿って、隣接する微小区間ΔS同士での絶対速度の差分値(微分値に相当する)が順次演算される。
次いで、線分MD1〜MDn夫々の差分値Siの大きさに対応して輝度変換が行われる(ステップ77)。この輝度変換は、例えば、予め記憶している輝度テーブルを参照することで行われる。この輝度テーブルには、差分値Siが小さいほど低輝度に、大きいほど高輝度になる輝度データを内蔵させている。変換された輝度データはその後、その位置データなどと伴に画像データ合成部18に出力される(ステップ78)。
以上の処理により、表示器19には、図24と同様に、心筋の運動速度の2次元分布像が輝度表示される。心筋梗塞などが生じると、組織の壊死に因り、ある空間的な範囲でその運動量が低下する。本実施の形態では同一運動方向と見られる隣接する部位間の差分が検出され、その差分値に応じて輝度表示される。つまり、運動能力が低下していると、微小部位毎にその低下に応じた低輝度又は無色で、逆に運動が活発であれば、微小部位毎にその程度に応じた高輝度で表示される。したがって、心筋組織の微小部位毎の運動能力を前述した第6の実施の形態よりもさらに精細に表示し、評価することができる。
また本実施の形態では、線分MD1〜MDnが心筋領域を越えるようにマニュアル又は自動で設定されるが、それらの線分MD1〜MDnが心筋領域を越えた部分は速度=0となり、心筋速度の2次元分布像上では無色で表示される。このため、心筋領域にあまり気をとられないで、通常の心筋サイズよりも大きい所定長さの線分を設定すればよいから、前述した第6の実施の形態のように心筋の輪郭を抽出しなくても済むから、輪郭抽出のための演算を省略でき、演算負荷を軽減させることができる。
(第8の実施の形態)
第8の実施の形態を図1、24、29及び図30に基づいて説明する。この実施の形態は第7の実施の形態と同様に精細な速度勾配の解析・表示を行うものであり、対象組織の輪郭の抽出処理を格別必要としない超音波診断装置を提供することを、目的としている。
この第8の実施の形態を実施する超音波診断装置は図1と同様に構成され、速度解析部26が図29に示す一連の処理を実行するようになっている。
速度解析部26は解析処理が指令されると(ステップS80でYES)、図27のステップS71〜S74と同様の処理が実行され(ステップS81〜84)、画像上の線分MD1〜MDnの夫々の上に、各線分MD1〜MDnを複数の微小区間ΔLに分割する複数個の位置d1,…,dnが設定される(図30(a)参照)。この位置d1,…,dnは適度な微小区間ΔLを設定できる座標位置であればよく、間隔自体は任意であり、必ずしも等距離でなくてもよい。
この微小区間ΔLの設定が済むと、速度解析部26はその処理をステップS85に進め、運動方向を表す線分MD1〜MDnの夫々に対し、微小区間ΔL毎に速度プロファイルPL1〜PLnが図30(b)に示す如く演算される。さらにステップS86において、速度プロファイルPL1〜PLnnの夫々に対し、最小二乗法により平均傾きを示す回帰直線LN1〜LNnが同図に示す如く演算される。
次いで、速度プロファイルPL1〜PLnの平均傾き(回帰直線LN1〜LNnの傾き)に応じて輝度変換が行われる(ステップ87)。この輝度変換は、例えば、予め記憶している輝度テーブルを参照することで行われ、傾きが小さいほど低輝度に、大きいほど高輝度に輝度変調される。変換された輝度データはその後、その位置データなどと伴に画像データ合成部18に出力される(ステップ88)。
以上の処理により、表示器19には図24と同様に、心筋の運動速度の2次元分布像が輝度表示され、同一運動方向と見られる方向に沿って微小区間毎の速度の平均傾きを反映した輝度像が得られる。心筋梗塞などが生じて運動能力が低下していると、微小区間毎にその低下に応じた低輝度又は無色で、逆に運動が活発であれば、微小区間毎にその程度に応じた高輝度で表示される。したがって、心筋組織の運動能力を微小区間毎に前述した第7の実施の形態と同様に精細に表示し、評価することができる。
また、微小区間毎の速度プロファイルPL1〜PLnに対して最小二乗法を適用して速度の平均傾きを求めているので、速度のばらつきに因る誤差の影響を排除できる。さらに本実施の形態でも、適度な長さの線分MD1〜MDnを収縮拡張中心Oに向かって設定するだけでよいから、前述した第7の実施の形態のように心筋の輪郭を抽出しなくても済み、輪郭抽出のための演算を省略でき、演算負荷を軽減させることができる。
なお、上記第7及び第8の実施の形態において、Bモード断層像から組織の運動速度の2次元分布データを作成するようにしてもよい。前述した図25又は図26の画像表示法を第7及び第8の実施の形態の装置に適用してもよい。
またなお、上記実施の形態では心筋のTDI画像を重畳させる画像がBモード断層像であり、また診断対象が心臓である構成について説明してきたが、この発明は必ずしもそのような構成に限定されるものではない。例えば、Bモード像の代わりに、Mモード像であってもよいし(この場合には、Bモード像取得のための各構成要素をMモード像のそれに置換すればよい)、心筋の代わりに血管壁を診断してもよい(この場合には、フィルタ部21のカットオフ周波数を血管壁用に合わせる)。また、それらBモード像やMモード像を重畳しないで、TDI像のみを単独で表示させてもよい。