JP4012111B2 - 試料分離フィルタおよび電気泳動デバイス - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、シリコン基板上に多数の柱状突起が設けられた柱状構造体の製造方法と、この柱状構造体を有する電気泳動デバイスに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、バイオテクノロジーの一分野であるDNA、RNA等の解析技術や分離技術が注目されている。従来、DNA分離手段として、網目状のゲルやポリマーを用いた電気泳動法が知られている。
【0003】
最近では、シリコン基板上に微細な柱が林立している柱状構造体を設け、これをゲルやポリマーの代わりに用いる技術が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
このシリコンの柱状構造体は、熱酸化によってシリコンの柱の体積を膨張させ、柱と柱の間隙を狭めるという方法で製造される。熱酸化が施されることにより、柱全体がシリコン酸化物となっているか又はシリコン酸化物で覆われている。柱と柱の間隙は、ゲルやポリマーの網目と同様の働きをする。
また、上記の柱状構造体の上部にカバーガラスを配置して凹部流路を形成し、電気泳動法により凹部流路内のDNAを分離するデバイスが報告されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平4−211232号公報(第4、5頁、図7、8)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述したシリコンの柱状構造体の製造方法は、1回の熱酸化によってシリコンの柱と柱の間隙を狭めるので、微細な間隙の制御が難しいという問題がある。つまり、シリコンの柱を形成するためのエッチング条件やシリコンの柱を膨張させるための熱酸化条件を厳密にコントロールしなければ、所望の間隙を得ることはできない。
【0006】
本発明は、柱状突起の間隙を異ならせた柱状構造体を有する試料分離フィルタおよび電気泳動デバイスを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
(1)請求項1の発明による試料分離フィルタは、シリコン基板にエッチングを行い、上流から下流に分離すべき試料が移動する微小流路と微小流路内に立設する多数の柱状突起を形成する工程と、柱状突起を熱酸化する工程と、熱酸化された柱状突起に多結晶シリコン膜を付着する工程と、多結晶シリコン膜を熱酸化する工程と、熱酸化された多結晶シリコン膜に多結晶シリコン膜を付着する工程とを有する製造方法で製造された柱状構造体を有する試料分離フィルタにおいて、試料の移動方向と直交する方向における多数の柱状突起間の間隙を、上流側が広く、下流側が狭くなるように異ならせたことを特徴とする。
(2)多数の柱状突起間の間隙を連続的に変化させてもよい。また、柱状突起の径をその高さ方向で変化させてもよい。さらに、柱状突起を部分的に屈曲させてもよい。
(3)請求項5の発明による電気泳動デバイスは、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の試料分離フィルタと、シリコン基板に設けられ、分離前の試料が充填される第1リザーバと、シリコン基板に設けられ、分離された試料が回収される第2リザーバと、微小流路を移動する微小試料に電界を印加して試料を第2リザーバに回収する回収手段とをさらに備えることを特徴とする。
(4)請求項6の発明による電気泳動デバイスは、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の試料分離フィルタと、シリコン基板に設けられ、分離前の試料が充填される第1リザーバと、シリコン基板に設けられ、分離された試料が回収される第2リザーバと、微小流路を上流から下流に移動する試料に交流電界を印加する交流回路および磁場を発生させる電磁コイルのいずれか一方とを備えることを特徴とする。
【0008】
(2)請求項1の柱状構造体の製造方法において、熱酸化された柱状突起に多結晶シリコン膜を付着する工程と多結晶シリコン膜を熱酸化する工程を繰り返すことが好ましい。
(3)上記の柱状構造体の製造方法において、エッチング方法は、ICP−RIEであることが好ましく、また、多結晶シリコン膜の付着方法は、LPCVDであることが好ましい。
【0009】
(4)請求項5の柱状構造体は、上記のいずれかに記載の製造方法で製造された柱状構造体であって、表面が多結晶シリコン膜を有することを特徴とする。
【0010】
(5)請求項6の電気泳動デバイスは、請求項5の柱状構造体の柱状突起の先端部に透明基板が接合されて形成される微小流路を有し、電気泳動により微小流路内に試料を通過させ分離することを特徴とする。
(6)上記の電気泳動デバイスにおいて、柱状構造体と透明基板とが陽極接合法により接合されるのが好ましい。
(7)上記の電気泳動デバイスは、微小流路に供給する試料およびマイクロ流路から回収する試料を貯蔵する貯蔵部をさらに備えることが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)−柱状構造体の製造方法−
以下、本発明による柱状構造体の製造方法について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態による柱状構造体の構造を模式的に示す部分斜視図である。図2は、図1の柱状構造体の製作工程を示す部分断面図である。
【0012】
図1において、柱状構造体1は、シリコン基板2と柱状突起(ピラー)3から構成され、シリコン基板2とピラー3とは一体構造である。多数のピラー3が配列されて成るピラーアレイ(pillar array)4は、シリコン基板2の凹部5に形成されている。ピラー3の高さは、通常、凹部5の深さに等しい。また、ピラー3の配列ピッチおよびピラー3同士の間隙は、いずれも一定である場合が多いが、後述するように、場所によって異なっていてもよい。
【0013】
材質上の観点からは、シリコン基板2は、内部から表面に向かって、シリコン母材2b、シリコン酸化物層11、多結晶シリコン膜12の順に構成されている。ピラー3は、内部がシリコン酸化物層11になっており、その外側に多結晶シリコン膜12が形成された材質構成である。しかし、ピラー3が太い場合には、シリコン基板2と同じように、中心部にシリコンが存在する材質構成になることもある。いずれにしろ、基板表面2a、凹部5の底面、凹部5の側面およびピラー3の表面3aは、いずれも多結晶シリコン膜12になっている。
【0014】
ここで、図2を参照しながら柱状構造体1の製作工程を説明する。図2は、柱状構造体の製作手順を説明するための部分断面図であり、各ピラーの中心軸を通る面で切断した図である。製作工程は、(a)から(f)まで順に進む。ピラー3は、工程が進むにつれて材質と体積が変化してゆくので、各工程でのピラーは、3b〜3fの符号で表す。
【0015】
図2(a)は、シリコン基板2上に塗布されたフォトレジスト膜100にピラーアレイ4となる形状をパターニングしたときの状態を示す。
図2(b)は、ICP−RIE(inductively coupled plasma - reactive ion etching)により、シリコン基板2をエッチングしたときのピラーの状態を示す。例えば、エッチング深さを10μmとした場合、各ピラー3bの径は2μmであり、各ピラー3bの高さは10μmであり、ピラー3b同士の間隔、すなわち配列ピッチは4μmである。
【0016】
ICP−RIEは、0.05〜1Paの比較的低い圧力下で、高密度プラズマ中のプロセスガスのイオンと試料表面との化学反応を利用して試料をエッチングするものであり、異方性の高いエッチング加工ができる。プロセスガスとしては、CCl2F2あるいはCF4等の酸化性ガスが用いられる。
【0017】
図2(c)は、熱酸化により、シリコン酸化物層11が形成されたピラー3cの状態を示す。熱酸化には、O2ガスを用いたドライ酸化、水蒸気またはH2O+O2混合ガスを用いたスチーム酸化等がある。1050℃で10時間の熱酸化を行うと、シリコン酸化物は2μmの厚さとなるので、ピラー3cはすべてシリコン酸化物となり,体積膨張が生ずる。なお、熱酸化以外の酸化法、例えばO2ガスをイオン化するプラズマ酸化やエチレングリコール液を用いた陽極酸化によりシリコン酸化物を形成してもよい。
【0018】
図2(d)は、LPCVD(low pressure chemical vapor deposition)により、多結晶シリコン膜12aを200nm堆積させたピラー3dの状態を示す。
LPCVDは、10〜103Paの減圧下で試料を加熱し、熱エネルギーによる気相化学反応で試料表面に膜を生成させる成膜方法である。この方法は、膜の着き回りに優れ、均一な膜厚が得られるという長所がある。多結晶シリコンの成膜では、プロセスガスとしてSiCl4+H2あるいはSiH4が用いられる。
【0019】
図2(e)は、1050℃で2時間の再度の熱酸化により、多結晶シリコン膜12aが酸化されてシリコン酸化物層11が追加して形成されたピラー3eの状態を示す。
【0020】
図2(f)は、図2(e)のピラー3eの表面に多結晶シリコン膜12を50nm堆積させたピラー3fの状態を示す。この状態は、図1に示したものと同じ状態である。
【0021】
次に、ピラー3同士の間隙の調整について説明する。間隙は、ピラー3の熱酸化による体積膨張を制御することと多結晶シリコン膜12および12aの成膜時の膜厚を制御することで正確に調整される。
熱酸化の理論によると、シリコン酸化物の体積の44%が酸化前のシリコンの体積に相当する。従って、熱酸化後のピラー3cの半径をRc、熱酸化前のピラー3bの半径をRbとすると、式1の関係がある。
【数1】
Rc3=Rb3/0.44・・・(1)
しかし、熱酸化の実験によると、式2の関係が成り立つので、本実施の形態では、式2を用いる。
【数2】
Rc3=Rb3/0.55・・・(2)
【0022】
多結晶シリコン膜を熱酸化させた場合は、多結晶シリコン膜が極めて薄いので、式1に関して平面的な近似が成り立つ。すなわち、多結晶シリコン膜の熱酸化前の膜厚をt1、熱酸化後の膜厚をt2とすると、式3の関係が成り立つ。式3は、実験値に適合することが確認されている。
【数3】
t2=t1/0.44・・・(3)
【0023】
式2および式3を熱酸化条件の設定に適用すれば、ピラー3の体積膨張量を制御することができる。また、LPCVDを用いた多結晶シリコンの膜厚を制御することによっても、ピラー3の径の増加量を制御することができる。LPCVDを用いた多結晶シリコンの成膜においては、1nmの精度で膜厚を制御できるので、ピラー3同士の間隙も1nmの精度で制御できる。
【0024】
例えば、図2(b)、(c)において、ピラー3bの径は2μmであるから、完全に熱酸化を行えば、式2から、ピラー3cの径は2.44μmとなる。また、図2(d)、(e)において、多結晶シリコン膜12aを200nm堆積したピラー3dの径は2.84μmとなり、完全に熱酸化を行えば、式3から、ピラー3eの径は3.35μmとなる。200nm厚の多結晶シリコン膜12aは、1050℃×1.5時間の熱酸化条件で完全に酸化することができるが、実際には完全酸化を期するために、1050℃×2時間の熱酸化条件を選択している。
【0025】
しかし、多結晶シリコン膜を一度に厚く成膜すると、膜厚制御の精度が低下する。また、熱酸化の際に、膜の内部ほど酸化速度は低下する。従って、多結晶シリコン膜を比較的薄く成膜して熱酸化を行う方が、膜厚精度も向上し、酸化速度も大きくなる。多結晶シリコンの成膜と熱酸化を繰り返すことによって、ピラー3同士の間隙Gの精度も向上し、処理全体としての効率も上がる。
【0026】
図2(d)と(e)の工程を繰り返して行うことにより、例えば、2回目として、80nm厚の多結晶シリコン膜を形成した後に完全酸化を施せば、ピラー3eの径は3.35μmから3.71μmに増える。(b)の工程で、ピラー3bの配列ピッチは4μmであるから、ピラー3e同士の間隙は、0.29μmとなる。
【0027】
図2(f)の工程において、ピラー3fの最表面には多結晶シリコン膜12が成膜される。この多結晶シリコン膜12には熱酸化を施さない。例えば、多結晶シリコン膜12の厚さを50nmとすると、ピラー3fの径は3.81μmとなり、ピラー3f同士の間隙Gは、0.19μmとなる。
【0028】
上述のような製造方法を用いて柱状構造体1を作製することにより、最終的なピラー3同士の間隙Gを1nmの精度で形成することができる。
【0029】
(第2の実施の形態)−電気泳動デバイス−
図3は、本発明の第2の実施の形態による電気泳動デバイスの全体構成を模式的に示す平面図である。この電気泳動デバイスのシリコン基板には、第1の実施の形態による柱状構造体が同一製造方法、同一寸法で形成されている。以下、柱状構造体1Aの各構成要素の符号は、図1の柱状構造体1のものを用いる。
図4は、シリコン基板とガラス基板が貼り合わされて成る微小流路を模式的に示す部分透視図である。図4においては、柱状構造体1Aの存在領域のみが示され、凹部5内に林立しているピラーアレイ4は図示を省略されている。
【0030】
図3に示されるように、電気泳動デバイス20は、柱状構造体1A、リザーバー(貯蔵部)21〜24、チャンネル25,26および電極27a,27b,28a,28bが設けられたシリコン基板2Aとガラス基板30とが貼り合わされて構成される。図3は、ガラス基板30を透してシリコン基板2Aを見た図に相当する。
ガラス基板としては、厚さ50〜500μmのパイレックスガラス(米国コーニング社の登録商標)が用いられる。また、Li,Na、K等のアルカリ金属を含むガラスも用いることができる。
【0031】
4個のリザーバー21〜24は、外部から供給されたDNA分子、RNA分子等のサンプルを貯蔵したり、電気泳動により分離されたサンプルを回収するための窪みである。チャンネル25と26は、例えば50μmの幅を有し、交差部分Cで互いに連通している溝である。チャンネル25は、リザーバー22と24に接続され、チャンネル26は、リザーバー21と23に接続されている。
【0032】
柱状構造体1Aは、電気泳動デバイス20のチャンネル26の一部分を構成している。柱状構造体1Aは、交差部分Cからリザーバー23寄りに0.1〜0.3mm程度離れた箇所に配設される。柱状構造体1Aのチャンネルに沿った長さは、DNA分子等を分離できる泳動距離に基づいて設定され、例えば0.3〜50mmの範囲である。
柱状構造体1A、リザーバー21〜24およびチャンネル25,26は、シリコンの微細加工技術、すなわちシリコンマイクロマシーニングによって、シリコン基板2Aと一体に形成される。
【0033】
電極27a,27b,28a,28bは、シリコン基板2A上にAu,Pt等の導電膜を蒸着あるいはスパッタリングを用いて形成される。電極27aはリザーバー22の近傍に、電極27bはリザーバー24の近傍に配置されている。また、電極28aはリザーバー21の近傍に、電極28bはリザーバー23の近傍に配置されている。
【0034】
図3では、電極27a,27bは、それぞれ直流電源27cの負極、正極に接続される。また、電極28a,28bは、それぞれ直流電源28cの負極、正極に接続される。但し、後述するように、電気泳動処理を行うときには、負極は接地、正極も随時接地に切り替えられる。
【0035】
シリコン基板2Aは、柱状構造体1A、リザーバー21〜24、チャンネル25,26および電極27a,27b,28a,28bが設けられた後に、陽極接合によってガラス基板と貼り合わされる。陽極接合の前に、ガラス基板には、リザーバー21〜24にそれぞれ連通するように位置決めされた4つの貫通孔(不図示)が形成される。貫通孔の径は、1〜3mmである。貫通孔の形成には、超音波加工、砥粒噴射加工等が用いられる。
【0036】
図4においては、柱状構造体1Aの存在領域のみが示され、凹部5内に林立しているピラーアレイ4は図示を省略されている。図示のように、柱状構造体1Aの凹部5は、ガラス基板30により上部が閉塞され、矢印方向に延在するトンネル状の微小流路10となる。
【0037】
シリコン基板2Aとガラス基板30とを貼り合わせる陽極接合について説明する。
シリコン基板2Aの表面2aおよびピラー3の表面3aは、いずれも多結晶シリコン膜12になっている。図示のように、柱状構造体1Aとガラス基板30を接触させ、500〜600℃に加熱した状態で、500〜800Vの高電界を印加する。このとき、柱状構造体1Aを陽極、ガラス基板30を陰極とすると、両者の界面において、柱状構造体1A側に正電荷、ガラス基板30側に負電荷が対向するように蓄積される。この正電荷と負電荷との間に働く静電引力によって、多結晶シリコン膜12中のSi原子とガラス基板30中の酸素イオンが化学結合する。つまり、柱状構造体1Aの最表面の多結晶シリコン膜12が接着剤の役割をして、シリコン基板2Aの表面2aおよび各々のピラー3の頭部は、ガラス基板30と強固に接合される。
【0038】
従って、微小流路10にDNA分子、RNA分子等のサンプルを流したときに、これらが外部に漏れる恐れはない。同様に、図3に示されるリザーバー21〜24およびチャンネル25,26からサンプルが外部に漏れる恐れもない。
【0039】
なお、従来のDNA分離デバイスは、カバーガラスを柱の上に配置しているが、柱がシリコン酸化物となっているので、柱とカバーガラスとの間で十分な結合を得るのは困難であった。十分な結合性が保証されないと、分離作業中に流路内のDNA等のサンプルが溢れ出る可能性があり、正確なデータの取得や分離過程の観察に支障をきたす恐れがあった。
【0040】
多結晶シリコン膜12は、第1の実施の形態で述べたように、厚さ50nmと極めて薄いので、高抵抗である。微小流路10の内面は全面が多結晶シリコン膜12に覆われている。従って、多結晶シリコン膜12に直接に電極27a,27b,28a,28bを形成し電界を印加しても、多結晶シリコン膜12中を流れる電流による電圧降下やショート等の問題は生じない。
【0041】
次に、図3を参照しながら、本実施の形態の電気泳動デバイス20を用いてDNAを分離する手順を説明する。
分析用バッファー液が電気泳動デバイス20内に注入された後、蛍光試薬で染色されたDNAサンプルは、リザーバー22に供給される。DNAサンプルは、各種の分子サイズを有する混合サンプルである。電極27bを正極として電圧が印加される。このとき、電極27a,28a,28bは接地されている。DNA分子はマイナスに帯電しているので、チャンネル25内を紙面上で下から上に向って移動する。
【0042】
DNAサンプルが交差部分Cに移動してきたときに、電極28bを正極として電圧が印加される。このとき、電極27a,27b,28aが接地されている。DNAサンプルは、向きを変えてチャンネル26内を紙面上で右から左に向って移動し、微小流路10内を通過していき、リザーバー23で回収される。
【0043】
電気泳動デバイスの改良例として、図3の電気泳動デバイスに交流回路あるいは電磁コイルを追加した構成がある。図3において、不図示の交流回路により、柱状構造体1Aの幅方向(紙面上で上下方向)に交流電界が印加される。この作用により、DNA分子は、幅方向に伸長されながら泳動する。DNA分子にはモーメントがかかるので、分子長に応じて泳動速度に差が生じる。各DNA分子にはこの速度差があるために、より精密な分離がなされる。交流電圧は、数V〜1000Vの範囲である。
また、図3において、不図示の電磁コイルにより、柱状構造体1Aの上下方向(紙面に垂直な方向)に磁場を発生させた場合も同様の作用により、各DNA分子について、より精密な分離がなされる。磁場の強さは、0.1〜10テスラの範囲である。
【0044】
DNAサンプルが微小流路10内を通過する様子は、蛍光顕微鏡により、ガラス基板30を透して観察することができる。蛍光顕微鏡の対物レンズは、その光軸がガラス基板30の表面と直交するように、微小流路10の真上にセットされる。ガラス基板30の厚さは、50〜500μmであるが、観察倍率が高いときには、焦点深度が短いので、薄いガラス基板を用いるのが望ましい。
【0045】
なお、本発明では、ガラス基板以外の透明基板として、シリコーンゴムシート、合成ゴムシート等も用いることができる。これらのゴムシートは、シリコン基板2Aの表面2aおよびピラー3の表面3aに押し付けられることで接合される。
【0046】
微小流路10の長さを1mm、ピラー同士の間隙を300nm、電極28aと28b間の印加電圧を600Vとして、分子サイズ200bpと300bpのDNAサンプルを用いて、電気泳動処理を行った。蛍光顕微鏡による観察において、DNA分子が微小流路10内を移動している状態が観察できた。また、2種類のDNA分子の分離が確認できた。
【0047】
本実施の形態の電気泳動デバイス20では、微小流路10内に林立するピラー同士の間隙は300nmであったが、本発明はこれのみに限られず、DNAサンプルの分子サイズに応じて適宜選択することができる。分子サイズが大きい場合は、ピラー同士の間隙を広くし、分子サイズが小さい場合は、ピラー同士の間隙を狭くするのが、短時間で正確な分離を可能にする。ピラー同士の間隙を調整するには、第1の実施の形態で説明したように、多結晶シリコン膜12,12aの膜厚を制御すればよい。
【0048】
また、ピラーアレイ4の配列ピッチは4μmと一定であったが、微小流路10の上流部分では配列ピッチを大きくし、下流部分では配列ピッチを小さくしてもよい。配列ピッチは、連続的に変化するようにしてもよい。これは、図2(a)のパターニングにより実現できる。これにより、ピラー同士の間隙も変化する。分子サイズが広範囲にわたるDNAサンプルに対しては、大きな分子サイズのDNAの目詰まりを防止できるとともに、小さな分子サイズのDNAの分離も正確に行うことができる。
【0049】
さらに、ピラー3の形状は、ストレートな円柱であったが、ピラーの径が高さ方向に変化するように形成してもよいし、ピラーの形状が部分的に屈曲していてもよい。ピラー同士の間隙が広い部分は、大きな分子サイズのDNAの目詰まりを防止する効果があり、ピラー同士の間隙が狭い部分は、小さな分子サイズのDNAの分離を正確に行うことができる。
【0050】
本発明の製造方法による柱状構造体は、電気泳動デバイスのみならず、タンパク質の分離フィルタ、微小パーティクルフィルタ等の各種のフィルタにも適用できる。
【0051】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の製造方法で柱状構造体を製作すれば、所望の微細間隙を得ることができる。この柱状構造体を有する電気泳動デバイスは、DNA等の正確な分離が可能とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る製造法で製作された柱状構造体の構造を模式的に示す部分斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る柱状構造体の製作工程を示す部分断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る電気泳動デバイスの全体構成を模式的に示す平面図である。
【図4】本発明の第2実施の形態に係る電気泳動デバイスの構成要素である微小流路を模式的に示す部分透視図である。
【符号の説明】
1,1A:柱状構造体
2,2A:シリコン基板
3:ピラー(柱状突起)
4:ピラーアレイ
5:凹部
10:微小流路
11:シリコン酸化物層
12,12a:多結晶シリコン膜
20:電気泳動デバイス
21〜24:リザーバー
25,26:チャンネル
27a,27b,28a,28b:電極
30:ガラス基板
Claims (6)
- シリコン基板にエッチングを行い、上流から下流に分離すべき試料が移動する微小流路と前記微小流路内に立設する多数の柱状突起を形成する工程と、前記柱状突起を熱酸化する工程と、前記熱酸化された柱状突起に多結晶シリコン膜を付着する工程と、前記多結晶シリコン膜を熱酸化する工程と、前記熱酸化された多結晶シリコン膜に多結晶シリコン膜を付着する工程とを有する製造方法で製造された柱状構造体を有する試料分離フィルタにおいて、
前記試料の移動方向と直交する方向における前記多数の柱状突起間の間隙を、前記上流側が広く、下流側が狭くなるように異ならせたことを特徴とする試料分離フィルタ。 - 請求項1の試料分離フィルタにおいて、
前記多数の柱状突起間の間隙が連続的に変化していることを特徴とする試料分離フィルタ。 - 請求項1または2の試料分離フィルタにおいて、
前記柱状突起の径がその高さ方向で変化していることを特徴とする試料分離フィルタ。 - 請求項1または2の試料分離フィルタにおいて、
前記柱状突起が部分的に屈曲していることを特徴とする試料分離フィルタ。 - 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の試料分離フィルタと、
前記シリコン基板に設けられ、分離前の試料が充填される第1リザーバと、
前記シリコン基板に設けられ、分離された試料が回収される第2リザーバと、
前記微小流路を移動する前記微小試料に電界を印加して前記試料を前記第2リザーバに回収する回収手段とをさらに備えることを特徴とする電気泳動デバイス。 - 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の試料分離フィルタと、
前記シリコン基板に設けられ、分離前の試料が充填される第1リザーバと、
前記シリコン基板に設けられ、分離された試料が回収される第2リザーバと、
前記微小流路を前記上流から下流に移動する前記試料に交流電界を印加する交流回路および磁場を発生させる電磁コイルのいずれか一方とを備えることを特徴とする電気泳動デバイス。
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