JP3984557B2 - 電気泳動デバイス - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、多数の柱状突起が設けられた柱状構造体と、この柱状構造体を有する電気泳動デバイスに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、バイオテクノロジーの一分野であるDNA、RNA等の解析技術や分離技術が注目されている。従来、DNA分離手段として、網目状のゲルやポリマーを用いた電気泳動法が知られている。
最近では、半導体製造プロセスを利用して、シリコン基板上に微細な柱が林立している柱状構造体を設け、これをゲルやポリマーの代わりに用いる技術が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開平4−211232号公報(第4、5頁、図7、8)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
柱状構造体を特に電気泳動デバイスのフィルタとして用いる場合は、試料の目詰まりや柱の欠損が生じると、新品に交換する必要がある。すなわち、消耗品という観点からは、多量生産でき、安価であることが要求される。
従来のシリコン製の柱状構造体は、レジストのパターニング、エッチング、酸化等の多数の工程を用いて製作されるために、製造コストが高いという問題がある。
【0005】
本発明は、安価な柱状構造体および電気泳動デバイスを提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
(1)請求項1の電気泳動デバイスは、多数の柱状突起を有する樹脂製柱状構造体と、樹脂製柱状構造体と一体的に形成された樹脂製基板と、樹脂製基板に設けられ、樹脂製柱状構造体を含んで形成された微小流路と、樹脂製基板に設けられ、分離前の試料が充填される第1リザーバと、樹脂製基板に設けられ、分離された試料が回収される第2リザーバと、微小流路を上流から下流に移動する試料に電界を印加して試料を第2リザーバに回収する回収手段とを備え、試料の移動方向と直交する方向における多数の柱状突起間の間隙を、上流側が広く、下流側が狭くなるように異ならせたことを特徴とする。
【0007】
(2)請求項2の電気泳動デバイスは、多数の柱状突起を有する樹脂製柱状構造体と、樹脂製柱状構造体と一体的に形成された樹脂製基板と、樹脂製基板に設けられ、樹脂製柱状構造体を含んで形成された微小流路と、樹脂製基板に設けられ、分離前の試料が充填される第1リザーバと、樹脂製基板に設けられ、分離された試料が回収される第2リザーバと、微小流路を上流から下流に移動する試料に電界を印加して試料を第2リザーバに回収する回収手段とを備え、柱状突起の径がその高さ方向で変化していることを特徴とする。
【0008】
(3)請求項3の発明は、請求項1または2に記載の電気泳動デバイスにおいて、樹脂製柱状構造体は、フォトリソグラフィによりシリコン基板に多数の柱状突起を形成し、その柱状突起の表面を熱酸化させ、酸化された柱状突起の表面に多結晶シリコンを成膜して成る柱状構造体を母型として製作し、母型に電気メッキまたは無電解メッキにより金属を堆積させ、堆積後に母型を溶解除去して製作した金型を用いて射出成形により形成することを特徴とする。
(4)請求項4の発明は、請求項1または2に記載の電気泳動デバイスにおいて、樹脂製柱状構造体は、フォトリソグラフィによりシリコン基板に多数の柱状突起を形成し、その柱状突起の表面を熱酸化させ、酸化された柱状突起の表面に多結晶シリコンを成膜し、その多結晶シリコン膜を熱酸化させ、酸化された多結晶シリコン膜上に多結晶シリコンを成膜して成る柱状構造体を母型として製作し、母型に電気メッキまたは無電解メッキにより金属を堆積させ、堆積後に母型を溶解除去して製作した金型を用いて射出成形により形成することを特徴とする。
(5)請求項5の発明は、請求項1または2に記載の電気泳動デバイスにおいて、樹脂製柱状構造体は、フォトリソグラフィによりシリコン基板に多数の柱状突起を形成し、その柱状突起の表面に多結晶シリコンを成膜して成る柱状構造体を母型として製作し、母型に電気メッキまたは無電解メッキにより金属を堆積させ、堆積後に母型を溶解除去して製作した金型を用いて射出成形により形成することを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による柱状構造体および電気泳動デバイスについて、図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)−柱状構造体−
図1は、本発明の第1の実施の形態による柱状構造体の構造を模式的に示す部分斜視図である。図中、手前のA面は、柱状構造体1の切断面である。
【0010】
柱状構造体1は、プラスチック基板2と柱状突起(ピラー)3から構成され、A面にて示されるように、プラスチック基板2とピラー3とは一体構造である。多数のピラー3が配列されて成るピラーアレイ(pillar array)4は、プラスチック基板2の凹部5全体に林立している。但し、ピラーアレイ4の状態を見易くするために、凹部5の中間部分にあるピラーアレイについては、図示が省略されている。
【0011】
ピラー3の高さは、通常、凹部5の深さに等しい。また、ピラー3の配列ピッチおよびピラー3同士の間隙は、いずれも一定である場合が多いが、後述するように、場所によって異なっていてもよい。
【0012】
先ず、プラスチック製の柱状構造体1の製造工程について説明する。製造工程は、金型の製造工程との柱状構造体1の製造工程に大別される。
図2は、金型の製造工程を説明するための部分断面図である。但し、ピラーアレイ14の中間部分に存在するピラー13は、図示を省略されている。
【0013】
図2(a)は、柱状構造体1を製作するための母型11を示す。母型11は、例えば公知のマイクロマシーニングを用いてシリコン材料から製作されたものである。シリコン基板12上には、多数のピラー13からなるピラーアレイ14が形成されている。母型11の構造、製造工程については後に詳述する。
図2(b)は、母型11の表面に下地膜21が成膜された状態を示す。下地金属としてTiおよびPdを用い、下地膜21は、スパッタリング法により連続して成膜される。Ti、Pdの膜厚は、それぞれ100nm、20nmと非常に薄い。
【0014】
図2(c)は、下地膜21の導電性を利用して、電気メッキ法により、下地膜21の上にNi材22を厚く析出させて製作した金型20を示す。メッキ液の組成は、スルファミン酸ニッケル(Ni(NH2SO3)・4H2O)約1.4Mと臭化ニッケル(NiBr2)約0.014Mとホウ酸(H3BO3)約0.5Mの混合液に界面活性剤(ピット防止剤)等を適量加えたものである。処理条件は、液温50℃、電流密度0.1A/dm2であり、Niの析出速度約1.2μm/hrを考慮して処理時間が設定されている。
【0015】
また、Ni材22を析出させて金型20を製作する手法として、無電解メッキ法を用いることもできる。この方法は、電界をかけずに析出物を析出させるので、母型の形状に依存する電界集中とは無縁であり、ピラー3同士の間隙にも均一にNiが析出するという長所がある。
無電解メッキの場合、メッキ液の組成は、硫酸ニッケル(NiSO4)・6H2O約0.1Mと次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO2)・H2O)約0.2Mと有機酸塩等の混合液である。処理条件は、液温60℃からスタートし、約1時間で90℃まで昇温し、その後90℃を維持する。Niの析出速度約12μm/hrを考慮して処理時間が設定されている。
【0016】
図2(d)は、図2(c)に示されたシリコン製の母型11を溶解除去して、金型20のみが残された状態を示す。母型11を溶解するエッチング液としては、濃度15%のTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)水溶液が用いられる。処理条件は、液温80℃のTMAH水溶液に浸漬し、溶解速度(エッチング速度)30〜40μm/hrを考慮して処理時間が設定されている。
なお、エッチング液としては、KOH(水酸化カリウム)水溶液を用いることもできる。
【0017】
このようにして製作された金型20を用いて、柱状構造体1の成型を行う。
溶融または流動状態にあるプラスチック材料の成型加工法としては、射出成型、圧縮成型、押出成型、紫外線硬化等がある。特に射出成型は、他の成型法と比べて、複雑形状を有する高精度部品の加工に適しており、部品の寸法安定性にも優れている。また、現在の射出成型機は、生産の自動化がなされており、多量生産が可能である。
【0018】
射出成型に用いられる樹脂材料には、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PS(ポリスチレン)、ABS樹脂、PC(ポリカーボネート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の熱可塑性樹脂、およびフェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂がある。
【0019】
本実施の形態の柱状構造体1は、市販の射出成型機を用いて、170〜270℃に加熱されたPMMAを5×107Paの射出圧力で50℃に保温されている金型20のキャビティに射出することによって製作される。柱状構造体1は、射出後に所定時間保温され、冷却された後に金型から取り出される。この簡単な操作で、柱状構造体1が製作される。柱状構造体1は、もちろん母型11と同一形状である。1個の金型20から成型できる柱状構造体1の個数(すなわち金型の寿命)は、主としてピラー3の径に依存するが、100〜1000個である。
【0020】
続いて、図3,4を参照して、母型11、すなわち柱状構造体11の構造と製作工程を説明する。
図3は、本発明の第1の実施の形態による柱状構造体を製作するための母型の構造を模式的に示す部分斜視図である。図4は、図3の母型の製作工程を示す部分断面図である。
【0021】
図3において、母型11、すなわち柱状構造体11は、シリコン基板12と柱状突起13から構成され、シリコン基板12とピラー13とは一体構造である。多数のピラー3が配列されて成るピラーアレイ14は、シリコン基板12の凹部15に形成されている。ピラー13の高さは、通常、凹部15の深さに等しい。また、ピラー13の配列ピッチおよびピラー13同士の間隙は、いずれも一定である場合が多いが、後述するように、場所によって異なっていてもよい。
【0022】
材質上の観点からは、シリコン基板12は、内部から表面に向かって、シリコン母材12b、シリコン酸化物層111、多結晶シリコン膜112の順に構成されている。ピラー13は、内部がシリコン酸化物層111になっており、その外側に多結晶シリコン膜112が形成された材質構成である。しかし、ピラー13が太い場合には、シリコン基板12と同じように、中心部にシリコンが存在する材質構成になることもある。いずれにしろ、基板表面12a、凹部15の底面、凹部15の側面およびピラー13の表面13aは、いずれも多結晶シリコン膜112になっている。
【0023】
ここで、図4を参照しながら柱状構造体11の製作工程を説明する。図4は、柱状構造体の製作手順を説明するための部分断面図であり、各ピラーの中心軸を通る面で切断した図である。製作工程は、(a)から(f)まで順に進む。ピラー13は、工程が進むにつれて材質と体積が変化してゆくので、各工程でのピラーは、13b〜13fの符号で表す。
【0024】
図4(a)は、シリコン基板12上に塗布されたフォトレジスト膜100にピラーアレイ14となる形状をパターニングしたときの状態を示す。
図4(b)は、ICP−RIE(inductively coupled plasma - reactive ion etching)により、シリコン基板12をエッチングしたときのピラーの状態を示す。例えば、エッチング深さを10μmとした場合、各ピラー13bの径は2μmであり、各ピラー13bの高さは10μmであり、ピラー13b同士の間隔、すなわち配列ピッチは4μmである。
【0025】
ICP−RIEは、0.05〜1Paの比較的低い圧力下で、高密度プラズマ中のプロセスガスのイオンと試料表面との化学反応を利用して試料をエッチングするものであり、異方性の高いエッチング加工ができる。プロセスガスとしては、CCl2F2あるいはCF4等の酸化性ガスが用いられる。
【0026】
図4(c)は、熱酸化により、シリコン酸化物層111が形成されたピラー13cの状態を示す。熱酸化には、O2ガスを用いたドライ酸化、水蒸気またはH2O+O2混合ガスを用いたスチーム酸化等がある。1050℃で10時間の熱酸化を行うと、シリコン酸化物は2μmの厚さとなるので、ピラー13cはすべてシリコン酸化物となり,体積膨張が生ずる。なお、熱酸化以外の酸化法、例えばO2ガスをイオン化するプラズマ酸化やエチレングリコール液を用いた陽極酸化によりシリコン酸化物を形成してもよい。また、例えば、酸化物のターゲットにArイオンを照射するスパッタリング法を用いて、ピラー13bに酸化物を堆積させてもよい。
【0027】
図4(d)は、LPCVD(low pressure chemical vapor deposition)により、多結晶シリコン膜112aを200nm堆積させたピラー13dの状態を示す。
LPCVDは、10〜103Paの減圧下で試料を加熱し、熱エネルギーによる気相化学反応で試料表面に膜を生成させる成膜方法である。この方法は、膜の着き回りに優れ、均一な膜厚が得られるという長所がある。多結晶シリコンの成膜では、プロセスガスとしてSiCl4+H2あるいはSiH4が用いられる。
【0028】
図4(e)は、1050℃で2時間の再度の熱酸化により、多結晶シリコン膜112aが酸化されてシリコン酸化物層111が追加して形成されたピラー13eの状態を示す。
【0029】
図4(f)は、図4(e)のピラー13eの表面に多結晶シリコン膜112を50nm堆積させたピラー13fの状態を示す。この状態は、図3に示したものと同じ状態である。
【0030】
次に、ピラー13同士の間隙の調整について説明する。間隙は、ピラー13の熱酸化による体積膨張を制御することと多結晶シリコン膜112および112aの成膜時の膜厚を制御することで正確に調整される。
熱酸化の理論によると、シリコン酸化物の体積の44%が酸化前のシリコンの体積に相当する。従って、熱酸化後のピラー13cの半径をRc、熱酸化前のピラー13bの半径をRbとすると、式1の関係がある。
【数1】
Rc3=Rb3/0.44・・・(1)
しかし、熱酸化の実験によると、式2の関係が成り立つので、本実施の形態では、式2を用いる。
【数2】
Rc3=Rb3/0.55・・・(2)
【0031】
多結晶シリコン膜を熱酸化させた場合は、多結晶シリコン膜が極めて薄いので、式1に関して平面的な近似が成り立つ。すなわち、多結晶シリコン膜の熱酸化前の膜厚をt1、熱酸化後の膜厚をt2とすると、式3の関係が成り立つ。式3は、実験値に適合することが確認されている。
【数3】
t2=t1/0.44・・・(3)
【0032】
式2および式3を熱酸化条件の設定に適用すれば、ピラー3の体積膨張量を制御することができる。また、LPCVDを用いた多結晶シリコンの膜厚を制御することによっても、ピラー13の径の増加量を制御することができる。LPCVDを用いた多結晶シリコンの成膜においては、1nmの精度で膜厚を制御できるので、ピラー3同士の間隙も1nmの精度で制御できる。
【0033】
例えば、図4(b)、(c)において、ピラー3bの径は2μmであるから、完全に熱酸化を行えば、式2から、ピラー13cの径は2.44μmとなる。また、図4(d)、(e)において、多結晶シリコン膜112aを200nm堆積したピラー13dの径は2.84μmとなり、完全に熱酸化を行えば、式3から、ピラー13eの径は3.35μmとなる。200nm厚の多結晶シリコン膜112aは、1050℃×1.5時間の熱酸化条件で完全に酸化することができるが、実際には完全酸化を期するために、1050℃×2時間の熱酸化条件を選択している。
【0034】
しかし、多結晶シリコン膜を一度に厚く成膜すると、膜厚制御の精度が低下する。また、熱酸化の際に、膜の内部ほど酸化速度は低下する。従って、多結晶シリコン膜を比較的薄く成膜して熱酸化を行う方が、膜厚精度も向上し、酸化速度も大きくなる。多結晶シリコンの成膜と熱酸化を繰り返すことによって、ピラー13同士の間隙Gの精度も向上し、処理全体としての効率も上がる。
【0035】
図4(d)と(e)の工程を繰り返して行うことにより、例えば、2回目として、80nm厚の多結晶シリコン膜を形成した後に完全酸化を施せば、ピラー13eの径は3.35μmから3.71μmに増える。(b)の工程で、ピラー13bの配列ピッチは4μmであるから、ピラー13e同士の間隙は、0.29μmとなる。
【0036】
図4(f)の工程において、ピラー13fの最表面には多結晶シリコン膜112が成膜される。この多結晶シリコン膜112には熱酸化を施さない。例えば、多結晶シリコン膜112の厚さを50nmとすると、ピラー13fの径は3.81μmとなり、ピラー13f同士の間隙Gは、0.19μmとなる。
【0037】
上述のような製造方法を用いて柱状構造体11を作製することにより、最終的なピラー13同士の間隙Gを1nmの精度で形成することができる。
【0038】
なお、上述の製作工程を簡略化して、図4(d)の工程で完了としてもよい。また、ピラー13同士の間隙Gの精度を厳しく問われない場合には、図4(c)の工程で完了としてもよい。また、図4(c)〜(e)の工程を省略して、図4(b)の無酸化のピラー13bに直接に多結晶シリコン膜112を成膜して完了としてもよい。これらの簡略化された製作プロセスでは、母型11の製作費は低下するが、反面、簡略化に応じて、金型20の寸法精度はラフになり、柱状構造体1のピラー3同士の間隙精度もラフになる。
【0039】
(第2の実施の形態)−電気泳動デバイス−
図5は、本発明の第2の実施の形態による電気泳動デバイスの全体構成を模式的に示す平面図である。以下、柱状構造体1Aの各構成要素の符号は、図1の柱状構造体1のものを用いる。
図6は、本発明の第2の実施の形態による電気泳動デバイスの微小流路を模式的に示す部分透視図である。図6においては、凹部5内に林立しているピラーアレイ4は図示を省略されている。
【0040】
図5に示されるように、柱状構造体1A、リザーバー31〜34、チャンネル35,36および電極37a,37b,38a,38bは、プラスチック基板2Aに設けられている。電気泳動デバイス30は、プラスチック基板2Aと透明基板40とが貼り合わされて構成される。柱状構造体1A、リザーバー31〜34およびチャンネル35,36は、同時に、第1実施の形態の柱状構造体1と同一の製造方法で、プラスチック基板2Aと一体に形成される。
図5は、透明基板40を透してプラスチック基板2Aを見た図に相当する。透明基板としては、厚さ50〜500μmのPMMA、PC、PET等のシートまたはフィルムが用いられる。
【0041】
4個のリザーバー31〜34は、外部から供給されたDNA分子、RNA分子等のサンプルを貯蔵したり、電気泳動により分離されたサンプルを回収するための窪みである。チャンネル35と36は、例えば50μmの幅を有し、交差部分Cで互いに連通している溝である。チャンネル35は、リザーバー32と34に接続され、チャンネル36は、リザーバー31と33に接続されている。
【0042】
柱状構造体1Aは、電気泳動デバイス30のチャンネル36の一部分を構成している。柱状構造体1Aは、交差部分Cからリザーバー33寄りに0.1〜0.3mm程度離れた箇所に配設される。柱状構造体1Aのチャンネルに沿った長さは、DNA分子等を分離できる泳動距離に基づいて設定され、例えば0.3〜50mmの範囲である。
【0043】
電極37a,37b,38a,38bは、プラスチック基板2A上にAu,Pt等の導電膜を蒸着あるいはスパッタリングを用いて形成される。プラスチック基板2Aは、絶縁体なので、直接に電極を形成し電界を印加しても、プラスチック基板2Aの表面を流れる電流による電圧降下やショート等の問題は生じない。
【0044】
電極37aはリザーバー32の近傍に、電極37bはリザーバー34の近傍に配置されている。また、電極38aはリザーバー31の近傍に、電極38bはリザーバー33の近傍に配置されている。
図5では、電極37a,37bは、それぞれ直流電源37cの負極、正極に接続される。また、電極38a,38bは、それぞれ直流電源38cの負極、正極に接続される。但し、後述するように、電気泳動処理を行うときには、負極は接地、正極も随時接地に切り替えられる。
【0045】
プラスチック基板2Aは、柱状構造体1A、リザーバー31〜34、チャンネル35,36および電極37a,37b,38a,38bが設けられた後に、シリコーンゴムを介して圧着によって透明基板40と貼り合わされる。
【0046】
プラスチック基板2Aの表面2aおよび各々のピラー3の頭部3aは、透明基板40と強固に接合される。図6に示されるように、柱状構造体1Aの凹部5は、透明基板40により上部が閉塞され、矢印方向に延在するトンネル状の微小流路10が形成される。
微小流路10にDNA分子、RNA分子等のサンプルを流したときに、これらが外部に漏れる恐れはない。同様に、図5に示されるリザーバー21〜24およびチャンネル25,26からサンプルが外部に漏れる恐れもない。
【0047】
他の貼り合わせ法としては、透明なシアノアクリレート系接着剤や紫外線硬化型接着剤を介して接着する方法がある。
なお、貼り合わせの前に、透明基板40には、リザーバー31〜34にそれぞれ連通するように位置決めされた4つの貫通孔(不図示)が形成される。貫通孔の径は、1〜3mmである。貫通孔の形成には、プレス抜き加工、超音波加工等が用いられる。
【0048】
このようにして、安価で多量生産可能なall plastic製の電気泳動デバイス30が完成する。
なお、透明基板40は、プラスチック製でなくともよい。例えば、透明基板40をガラス、石英等の透明な無機材料で作り、接着剤を介してプラスチック基板2Aと貼り合わせてもよい。
【0049】
次に、図5を参照しながら、本実施の形態の電気泳動デバイス30を用いてDNAを分離する手順を説明する。
分析用バッファー液が電気泳動デバイス30内に注入された後、蛍光試薬で染色されたDNAサンプルは、リザーバー32に供給される。DNAサンプルは、各種の分子サイズを有する混合サンプルである。電極37bを正極として電圧が印加される。このとき、電極37a,38a,38bは接地されている。DNA分子はマイナスに帯電しているので、チャンネル35内を紙面上で下から上に向って移動する。
【0050】
DNAサンプルが交差部分Cに移動してきたときに、電極38bを正極として電圧が印加される。このとき、電極37a,37b,38aが接地されている。DNAサンプルは、向きを変えてチャンネル36内を紙面上で右から左に向って移動し、微小流路10内を通過していき、リザーバー33で回収される。
【0051】
DNAサンプルが微小流路10内を通過する様子は、蛍光顕微鏡により、透明基板40を透して観察することができる。蛍光顕微鏡の対物レンズは、その光軸が透明基板40の表面と直交するように、微小流路10の真上にセットされる。透明基板40の厚さは、50〜500μmであるが、観察倍率が高いときには、焦点深度が短いので、薄い透明基板を用いるのが望ましい。
【0052】
微小流路10の長さを1mm、ピラー同士の間隙を300nm、電極28aと28b間の印加電圧を600Vとして、分子サイズ200bpと300bpのDNAサンプルを用いて、電気泳動処理を行った。蛍光顕微鏡による観察において、DNA分子が微小流路10内を移動している状態が観察できた。また、2種類のDNA分子の分離が確認できた。
【0053】
本実施の形態の電気泳動デバイス30では、微小流路10内に林立するピラー同士の間隙は300nmであったが、本発明はこれのみに限られず、DNAサンプルの分子サイズに応じて適宜選択することができる。分子サイズが大きい場合は、ピラー同士の間隙を広くし、分子サイズが小さい場合は、ピラー同士の間隙を狭くするのが、短時間で正確な分離を可能にする。ピラー同士の間隙は、母型11の形状に依存する。
ピラー同士の間隙は、5nm〜10μmの範囲が好適である。生体試料を分離する電気泳動デバイスに柱状構造体を用いる場合、DNA、細胞、タンパク質のサイズは、ほぼこの範囲にあるので、どのような生体試料の分離にも対応できる。
【0054】
また、ピラーアレイ4の配列ピッチは、一定でなくともよい。微小流路10の上流部分では配列ピッチを大きくし、下流部分では配列ピッチを小さくしてもよい。また、配列ピッチは、連続的に変化するようにしてもよい。分子サイズが広範囲にわたるDNAサンプルに対しては、大きな分子サイズのDNAの目詰まりを防止できるとともに、小さな分子サイズのDNAの分離も正確に行うことができる。ピラーアレイ4の配列ピッチも、母型11の形状に依存する。
【0055】
さらに、ピラー3の形状は、ストレートな円柱であったが、ピラーの径が高さ方向に変化するように形成してもよいし、ピラーの形状が部分的に屈曲していてもよい。ピラー同士の間隙が広い部分は、大きな分子サイズのDNAの目詰まりを防止する効果があり、ピラー同士の間隙が狭い部分は、小さな分子サイズのDNAの分離を正確に行うことができる。
ピラー3は、プラスチック製であり、弾性を有するので、射出成型の最終工程の離型作業で破損することはない。
【0056】
本発明の柱状構造体は、電気泳動デバイスのみならず、微小パーティクルフィルタ等の各種のフィルタにも適用できる。
【0057】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、プラスチック製とすることにより、安価な柱状構造体および電気泳動デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る柱状構造体の構造を模式的に示す部分斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る柱状構造体の製作工程を示す部分断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る柱状構造体の母型を模式的に示す部分斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る柱状構造体の母型の製作工程を示す部分断面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る電気泳動デバイスの全体構成を模式的に示す平面図である。
【図6】本発明の第2実施の形態に係る電気泳動デバイスの構成要素である微小流路を模式的に示す部分透視図である。
【符号の説明】
1,1A:柱状構造体
2,2A:プラスチック基板
3:ピラー(柱状突起)
4:ピラーアレイ
5:凹部
10:微小流路
11:母型(柱状構造体)
20:金型
30:電気泳動デバイス
31〜34:リザーバー
35,36:チャンネル
37a,37b,38a,38b:電極
40:透明基板
Claims (5)
- 多数の柱状突起を有する樹脂製柱状構造体と、
前記樹脂製柱状構造体と一体的に形成された樹脂製基板と、
前記樹脂製基板に設けられ、前記樹脂製柱状構造体を含んで形成された微小流路と、
前記樹脂製基板に設けられ、分離前の試料が充填される第1リザーバと、
前記樹脂製基板に設けられ、分離された試料が回収される第2リザーバと、
前記微小流路を上流から下流に移動する前記試料に電界を印加して前記試料を前記第2リザーバに回収する回収手段とを備え、
前記試料の移動方向と直交する方向における前記多数の柱状突起間の間隙を、前記上流側が広く、下流側が狭くなるように異ならせたことを特徴とする電気泳動デバイス。 - 多数の柱状突起を有する樹脂製柱状構造体と、
前記樹脂製柱状構造体と一体的に形成された樹脂製基板と、
前記樹脂製基板に設けられ、前記樹脂製柱状構造体を含んで形成された微小流路と、
前記樹脂製基板に設けられ、分離前の試料が充填される第1リザーバと、
前記樹脂製基板に設けられ、分離された試料が回収される第2リザーバと、
前記微小流路を上流から下流に移動する前記試料に電界を印加して前記試料を前記第2リザーバに回収する回収手段とを備え、
前記柱状突起の径がその高さ方向で変化していることを特徴とする電気泳動デバイス。 - 請求項1または2に記載の電気泳動デバイスにおいて、
前記樹脂製柱状構造体は、
フォトリソグラフィによりシリコン基板に多数の柱状突起を形成し、その柱状突起の表面を熱酸化させ、酸化された柱状突起の表面に多結晶シリコンを成膜して成る柱状構造体を母型として製作し、前記母型に電気メッキまたは無電解メッキにより金属を堆積させ、堆積後に前記母型を溶解除去して製作した金型を用いて射出成形により形成することを特徴とする電気泳動デバイス。 - 請求項1または2に記載の電気泳動デバイスにおいて、
前記樹脂製柱状構造体は、
フォトリソグラフィによりシリコン基板に多数の柱状突起を形成し、その柱状突起の表面を熱酸化させ、酸化された柱状突起の表面に多結晶シリコンを成膜し、その多結晶シリコン膜を熱酸化させ、酸化された多結晶シリコン膜上に多結晶シリコンを成膜して成る柱状構造体を母型として製作し、前記母型に電気メッキまたは無電解メッキにより金属を堆積させ、堆積後に前記母型を溶解除去して製作した金型を用いて射出成形により形成することを特徴とする電気泳動デバイス。 - 請求項1または2に記載の電気泳動デバイスにおいて、
前記樹脂製柱状構造体は、
フォトリソグラフィによりシリコン基板に多数の柱状突起を形成し、その柱状突起の表面に多結晶シリコンを成膜して成る柱状構造体を母型として製作し、前記母型に電気メッキまたは無電解メッキにより金属を堆積させ、堆積後に前記母型を溶解除去して製作した金型を用いて射出成形により形成することを特徴とする電気泳動デバイス。
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