JP4005938B2 - 荷電ビーム描画方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子ビームやイオンビームなどを用いた荷電ビーム描画方法に係わり、特に描画前の被描画基板を恒温真空チャンバ内で温度安定化する荷電ビーム描画方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、半導体製造装置を代表する半導体基板や露光用原版マスク基板、液晶基板パネル基板などに回路パターンを形成する荷電ビーム描画装置において、パターン精度、スループットの要求は厳しくなる一方である。
【0003】
パターン精度については、電気,制御,機械系システムの高精度化と安定化はもとより、温度変動という外的な精度劣化要因を排除し管理することが必要になっている。近年の描画位置精度は20nm程度の描画位置精度を要求されているために、各誤差要因に対するバジェットを達成する必要がある。基板の温度が描画前後で変化した場合には熱膨張により基板寸法が変化するために、描画したパターンの位置精度が劣化する。通常のフォトマスクは、母材が溶融石英ガラスであるので熱膨張係数は0.5×10-6/℃であり、1℃の温度変化により、例えば132mmエリアにおいて66nmの位置ずれが生じることになる。そこで、20nmの描画位置精度を達成するには、例えば温度要因に与えられる位置精度バジェットを4nmとすると、0.06℃程度の範囲で温度を一定にする必要がある。
【0004】
一方、スループットに関しては、基板搬送時間や描画を開始するまでのセットアップに要する時間など、所謂オーバヘッド時間の影響が大きくなってきている。特に、搬送においては真空予備室の真空排気の際に、断熱膨張による基板の温度低下が生じる。描画精度の観点からは、基板を恒温下で静定させることにより低下した温度を所定の温度に戻すことが行われるが、一般にこの静定時間は搬送自体の時間に比べて長い。真空中において基板温度を所定の温度に静定する際には、基板と周囲の物体(例えば恒温真空チャンバの壁)との輻射による熱交換が支配的になる。従って、例えば基板と周辺の温度に0.5℃程度の差があるとすると、静定の所要時間が5時間以上にも及ぶことになる。
【0005】
また、先の真空排気に伴う基板の温度低下は、種々の条件により値は異なるが、実験の結果では0.2〜1℃程度である。この値は、精度バジェット上必要な温度均一性の0.06℃に比べても大きく、温度変動要因としては最も対策が必要な要因の一つになっている。将来的に、位置精度には10nm程度が要求されるが、この場合の温度による精度バジェットを前述の半分と仮定すると、温度均一性は0.03℃以下の値が必要になると予測される。さらに、このような微小な温度を正確に計測して温度制御するには、一般的に対象とする温度の大きさの1/10程度の精度で計測を行うことが望まれるため、今の場合には0.003℃(0.001℃オーダー)での計測が要求されることになる。
【0006】
さらに、基板の温度を静定するプロセスにおいては、静定している間の基板温度の状態をモニタして、静定が完了したことを判断し、次のステップへと処理を移すことが必要になってくる。予め温度センサ付きの基板を用いて静定に要する時間を計測しておく方法では、異なる温度状態にある基板を静定させる場合には十分な静定管理ができないために、高精度に温度を安定化できないばかりか、静定温度にばらつきが生じていた。その結果、描画時の温度変動を招き精度が劣化する問題があった。また、積極的に温度制御手段を用い加熱して基板温度を一定にする方法や手段を用いる場合についても、基板温度の状態を高精度にモニタして、静定が完了したことを判断する必要があることには代わりはないが、これまでは十分な精度で管理ができていなかった。
【0007】
これらの問題に関して、特に真空排気に伴う基板の温度低下を補償する提案が各種なされている(例えば、特許文献1〜4参照)。しかし、これらの提案は、真空排気を行う真空予備室に温度加熱手段若しくは温調手段を設けて、基板の温度低下を補償するものである。真空予備室のように搬送経路の途中に位置し、頻繁に基板を大気から真空雰囲気でロード、逆にアンロードする機能を有する予備室において、比較的時間を要する基板温度の安定化を行うことは、搬送の妨げになり兼ねずスループットを十分に向上できない恐れがある。
【0008】
また、基板を予め加熱して、中間室を真空排気する際に基板の温度低下分だけ露光室内の設定温度よりも高くなるようにしておく方法も提案されている(例えば、特許文献5参照)。この場合には、基板の真空排気による温度低下の値が、十分な精度で再現することが前提であり、再現性が不十分な場合には適用が困難になる。また、実際の基板温度が十分に安定化されているかどうかについては管理ができず、さらに材質が異なり熱伝導率などの温度特性が異なる基板については適用に問題がある。
【0009】
また、試料ホルダを発熱体として効果的に加熱し、僅かな温度差を速やかにかつ的確に補償する方法も提案されている(例えば、特許文献6参照)。この方法は、従来方法に比較して高精度で的確な温度制御を行い易く、試料ホルダの温度変化の収束曲線を考慮しているために、試料ホルダの温度が収束した時点を判定することも可能になる。しかしながら、試料ホルダの温度をモニタしているに過ぎず、搭載されている試料自身の温度が安定化しているかについては管理が不十分になる恐れがある。
【0010】
【特許文献1】
特開平10−233423号公報
【0011】
【特許文献2】
特開平10−284389号公報
【0012】
【特許文献3】
特開平10−312960号公報
【0013】
【特許文献4】
特開2001−222099号公報
【0014】
【特許文献5】
特開平10−284373号公報
【0015】
【特許文献6】
特開平08−97130号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
このように従来、被描画基板の温度を恒温化するために各種の方法が提案されており、これらの手法により、基本的には被処理体の温度を迅速に所望の温度に設定することは可能であるが、上述したように搬送時のオーバヘッド時間を短縮する上で問題があった。また、0.001℃オーダーの高精度な温度計測と基板の温度安定化について時間管理を行うことは、事実上困難であった。このため、搬送時のオーバヘッド時間を短縮してスループットを向上させ、且つ高精度な描画精度を両立させることは困難であった。
【0017】
本発明は、上記事情を考慮して成されたもので、その目的とするところは、搬送途中において、真空排気などによって変動の生じた基板の温度を安定化するための静定時間を短縮し、スループットと描画精度を両立して実現する荷電ビーム描画方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
(構成)
上記課題を解決するために本発明は、次のような構成を採用している。
【0019】
即ち本発明は、荷電ビーム描画に供される被描画基板を予め恒温真空チャンバ内で恒温化し、恒温化された基板を描画室内に搬送し、描画室内で基板に対して所望のパターンを描画する荷電ビーム描画方法であって、前記恒温真空チャンバ内に、前記基板を支持する支持機構と、この支持機構の上方若しくは下方又は両方に前記基板と対面して配置され、前記基板と同等以上の面積を有すると共に100W/mK以上の熱伝達率を有し、且つ表面に0.4以上の輻射率を有する導電性のカーボンを含む材料がコーティングされた構造体からなる温調プレートと、この温調プレートを温度制御するための温度調整機構と、前記温調プレートの表面又は内部に配置されて該プレートの温度を検出する温度センサとを設けておき、前記温度センサの検出出力を常時又は断続的にモニタすることにより、前記基板が前記恒温真空チャンバ内に搬送されるか又は前記支持機構に搭載されたことにより前記温調プレートに発生する温度変化を検出し、該温度変化が所定範囲に収束するまで前記基板を前記恒温真空チャンバ内に放置して基板温度を安定化させることを特徴とする。
【0020】
また本発明は、荷電ビーム描画に供される被描画基板を予め恒温真空チャンバ内で恒温化し、恒温化された基板を描画室内に搬送し、描画室内で基板に対して所望のパターンを描画する荷電ビーム描画方法であって、前記恒温真空チャンバ内に、前記基板を支持する支持機構と、この支持機構の上方若しくは下方又は両方に前記基板と対面して配置され、前記基板と同等以上の面積を有すると共に100W/mK以上の熱伝達率を有し、且つ表面に0.4以上の輻射率を有する導電性のカーボンを含む材料がコーティングされた構造体からなる温調プレートと、この温調プレートを温度制御するための温度調整機構と、前記支持機構の基板接触部位に配置されて前記基板の温度を検出する温度センサとを設けておき、前記温度センサの検出出力を常時又は断続的にモニタすることにより、前記基板が前記恒温真空チャンバ内に搬送されるか又は前記支持機構に搭載されたことにより発生する温度変化を検出し、該温度変化が所定範囲に収束するまで前記基板を前記恒温真空チャンバ内に放置して基板温度を安定化させることを特徴とする。
【0021】
ここで、本発明の望ましい実施態様としては次のものがあげられる。
【0022】
(1) 温度センサとして、0.001℃以下の温度計測分解能を有する白金抵抗体からなる温度センサを用いること。
【0023】
(2) 温度センサの検出出力に基づいて温調プレートをアクティブに温度制御することにより、基板の温度を、温調プレートを一定に温度制御する場合よりも速く安定化させること。
【0024】
(3) 温度センサとして、温調プレートの表面又は内部に配置されて該プレートの温度を検出する温度センサと、支持機構の基板接触部位に配置されて基板の温度を検出する温度センサとの両方を設けておき、両者の計測結果を基に基板の温度安定化を行うこと。
【0025】
また本発明は、感光性レジストを塗布した基板を搬送する搬送手段と、ロードロックチャンバと、基板を支持する支持機構を具備した恒温真空チャンバと、基板を搭載する移動ステージを内包し荷電ビームにより描画を行うための真空描画室とを少なくとも有した荷電ビーム描画装置において、前記恒温真空チャンバ内に、該支持機構の上方或いは下方若しくは両方に対面して配置されており、前記基板と同等以上の面積を有すると共に100W/mK以上の熱伝達率を有し、且つ表面には0.4以上の輻射率を有する導電性のカーボンを含む材料がコーティングされた構造体からなる温調プレートと、該プレートに接続した温度調整手段と、該プレートの表面或いは内部に設けられた1つ以上の白金抵抗体なる温度計測センサとが備えられており、該温度センサの温度を常時若しくは断続的に計測する計測手段によりモニタして、前記恒温真空チャンバ内部に基板が搬送されるか若しくは支持機構に搭載されたことにより発生する温度変化を検出し、該温度変化が前記荷電ビーム描画室の温度と同等である所定の温度範囲に収束するまでの時間応答を管理しながら前記基板を恒温真空チャンバ内に放置して基板温度を安定化する機能を備えたことを特徴とする。
【0026】
また本発明は、感光性レジストを塗布した基板を搬送する搬送手段と、ロードロックチャンバと、基板を支持する支持機構を具備した恒温真空チャンバと、基板を搭載する移動ステージを内包し荷電ビームにより描画を行うための真空描画室とを少なくとも有した荷電ビーム描画装置において、前記恒温真空チャンバ内に、該支持機構の上方或いは下方若しくは両方に対面して配置されており、前記基板と同等以上の面積を有すると共に100W/mK以上の熱伝達率を有し、且つ表面に0.4以上の輻射率を有する導電性のカーボンを含む材料がコーティングされた構造体からなる温調プレートと、該プレートに接続した温度調整手段と、前記チャンバ内部の支持機構の基板接触部位に内蔵して温度センサとが備えられており、該温度センサの温度を常時若しくは断続的に計測する計測手段によりモニタして、基板が前記支持機構に搭載されたことにより発生する温度変化を検出し、該温度変化が前記荷電ビーム描画室の温度と同等である所定の温度範囲に収束するまでの時間応答を管理しながら前記基板を恒温真空チャンバ内に放置して基板温度を安定化する機能を備えたことを特徴とする。
【0027】
(作用)
本発明によれば、基板に対面する温調プレートに、熱伝導率が大きく輻射率の高い温調プレートを用いることにより、基板の温度を迅速に所望の温度に設定することが可能となり、更に輻射率の高いプレートに温度センサを取り付けることにより、対面する基板からの輻射による温度変化の応答を感度良く高精度にモニタリングできるようになる。この高精度なモニタリングを実現することにより、静定に要する時間を高精度に管理でき、無駄な時間を排除してスループットの向上が可能になる。さらに、基板自身の温度を直接測定することがないので発塵の問題がなく、様々な温度の基板が搬送された場合においても、基板の安定化温度を一定にできる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細を図示の実施形態によって説明する。ここでは、露光用原版マスク基板の描画装置を例として説明する。
【0029】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係わる電子ビーム描画装置に用いる恒温真空チャンバを示す概略構成図である。
【0030】
恒温真空チャンバ11は、恒温に保たれており、内部に被描画基板を支持するための支持機構部12を有している。支持機構部12の上端において、被描画基板としてのガラスマスク基板17が支持され、本例では基板17の自重で搭載される。支持機構部12の下方、即ち基板17の裏面側に位置する部分に温調プレート13が配置され、この温調プレート13には温度調整部14が接続されている。
【0031】
温調プレート13は、図2に示すように、内部に配管23が形成されており、温度調整部14との間で通水による温度制御が行われている。温度制御のために流す水の温度は、吐出温度で1/100℃の精度で一定に制御されている。また、同図にあるように、温調プレート13は、銅板からなるプレート母材21の表面に、コーティング膜22として導電性のダイヤモンドライクカーボンを5μmの厚さで成膜したものである。このように導電性を持たせることにより、電荷が溜まらないようにして、静電気によるパーティクルの付着を防いでいる。
【0032】
温調プレート13の上面側に、温度センサ15としての白金抵抗体(Pt100)が密着され、この温度センサ15は温度計測部16に接続されている。図1及び図2に示した構成により温調プレート13は、輻射率が0.8以上で、熱伝導率が400W/mK程度の温調プレートとしての機能を有すことになる。本実施形態では、恒温真空チャンバ11,支持機構部12,及び温調プレート13は、全て23℃になるように設定してある。
【0033】
このような構成において、恒温真空チャンバ11に、温度が23℃と異なる基板17が搬送されると、温調プレート13に取り付けられた温度センサ15は、対向する基板17との温度の違いに応じて輻射熱による温度変化を受けることになる。基板17は、通常のガラスマスクであるので輻射率は0.8程度であり、一方の温調プレート13の輻射率も同等以上に十分に大きいために、両者における輻射伝熱量が増大し、温度センサ15の温度応答の感度が極めて大きくなる。このため、僅かな温度差であっても、温度センサ15に十分な温度変化が発生することになる。この温度変化の計測を行うことにより、基板17の温度安定化に必要な静定を行うことになる。
【0034】
ここで、温調プレート13は基板17との対向表面で均一な温度分布を有する必要があり、その熱伝導率は十分高くしておかなければならない。本発明者らの実験によれば、温調プレート13の熱伝導率を100W/mK以上にすれば十分均一な温度分布が得られることが確認された。また、基板17との速やかな熱交換を行うためには、温調プレート13の基板対向面での輻射率は十分大きくしておかなければならない。本発明者らの実験によれば、温調プレート13の表面での輻射率を0.4以上にすれば、基板17と速やかな熱交換が実現できることが確認された。
【0035】
また、同構成において、温度センサ15の温度応答の出力結果に基づき、この出力結果が所定の温度範囲に一定になるように前記温調プレート13をアクティブに温度制御することにより、基板17の温度を安定化するための時間を短縮することが可能である。アクティブな温度制御の方法としては、例えば基板17の温度が設定温度よりも低いと見なされる場合には、温調プレート13を一時的に設定温度よりも高くすればよい。
【0036】
この場合には、温度調整部14と連結している温調プレート13の温度応答が、温度調整部14の指令通りに行われる必要がある。そこで、チャンバ外壁の材料として多用されるステンレスの熱伝達率に比べて十分に大きく、例えば一桁大きい100W/mK以上の熱伝達率を有した材料を用いて温調プレート13を構成することにより、チャンバ外壁の温度変動の周期に阻害されること無く、高精度にアクティブ温度制御をすることが可能になる。
【0037】
このように本実施形態によれば、温調プレート13として、基板17に対面して熱伝導率が大きく輻射率の高いものを用いることにより、基板17の温度を迅速に所望の温度に設定することができる。さらに、輻射率の温調高いプレート13に温度センサ15を取り付けることにより、対面する基板17からの輻射による温度変化の応答を感度良く高精度にモニタリングできるようになる。
【0038】
従って、静定に要する時間を高精度に管理でき、無駄な時間を排除してスループットの向上が可能になる。さらに、基板自身の温度を直接測定することがないので、発塵の問題がなく、様々な温度の基板が搬送された場合においても、基板の安定化温度を一定にできる。即ち、搬送途中において、真空排気などによって変動の生じた基板の温度を安定化するための静定時間を短縮し、スループットと描画精度を両立して実現することが可能となる。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態として、図3を用いて恒温真空チャンバの別の構成例を説明する。
【0040】
図3の恒温真空チャンバ構成は、温度センサの配置が図1の構成と異なり、支持機構部12の基板17と接触する近傍の支持部に温度センサ35が内蔵されているものである。その他、図1と同じである部分については同一の番号で示してある。
【0041】
本実施形態の場合には、温度が異なる基板17が、支持機構部12に搭載された際に、両者の接触部を介して接触熱抵抗によって熱伝導により熱交換がされるために、近傍に内蔵した温度センサ35によって温度変化が計測されることになる。この温度変化の計測を行うことにより、基板17の温度安定化に必要な静定を行うことになる。また、本実施形態においても、温度センサ35の温度応答の出力結果に基づき、この出力結果が所定の温度範囲に一定になるように温調プレート13をアクティブに温度制御することにより、基板の温度を安定化するための時間を短縮することが可能である。
【0042】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態として、図4を用いて恒温真空チャンバの更に別の構成例を説明する。
【0043】
恒温真空チャンバ11内の構成は、図1と図2の構成を合わせたものであり、温調プレート13上の温度センサ45と支持機構部12の先端部に内蔵した温度センサ46を有す。これらセンサ45,46の受ける温度変化を計測することにより、基板17の温度安定化に必要な静定を行うことになる。また、本構成においても、温度センサ45,46の温度応答の出力結果に基づき、この出力結果が所定の温度範囲に一定になるように温調プレート13をアクティブに温度制御することにより、基板17の温度を安定化するための時間を短縮することが可能である。
【0044】
次に、第1及び第3の実施形態において、温度計測精度上必要となる温調プレートの輻射率に関して以下のように検討し、必要な輻射率を推定した結果を説明する。
【0045】
基板17を搬送し支持機構部12の支持ピン等に搭載した際に、温調プレート13上の温度センサ15,45の変化量が小さい場合には、この温度変化の時間応答をモニタすることが困難になり、十分な基板安定化と無駄のない静定時間の管理ができなくなる恐れがある。この問題を解決するためには、基板17と温調プレート13との温度差が極めて小さくない限りにおいて、例えば真空排気によって生じる温度変化よりも小さい場合に、温調プレート13上の温度センサ15,45に温度計測分解能(本実施形態では0.001℃である)の10倍大きい0.01℃の温度変化量が発生するような条件にすれば、十分な計測精度が確保できる。そこで、0.3℃の温度差がある場合に、十分な計測精度を確保するために必要な温調プレートの輻射率を規定することは有用である。
【0046】
そこで、ガラス基板17と温調プレート13の2面間の輻射を考慮して、プレート13の輻射率と輻射伝熱量、温度センサ15,45の受ける温度変化量の関係について調べた。ここでは、温度センサ15,45の温度変化量は、輻射伝熱量に比例すると仮定して計算し、得られた結果が図5のグラフである。このグラフから、基板17と温調プレート13に0.3℃の温度差がある場合に、0.01℃の温度変化量が温度センサ15,45に発生するために必要なプレート13の輻射率は、0.4程度と見積もることができる。
【0047】
但し、上述の検討にあるように、温度センサ15,45の検出分解能、計測再現性などの要求や条件によって、温調プレート13に必要な輻射率は変化することになる。しかし、従来技術で概説したように、10nmの位置精度を達成する上では温度要因に割り当てられた精度バジェットは、温度均一性として0.03℃が必要と考えられ、その1/10程度の0.001℃オーダーは最低でも温度センサの計測分解能として必要であることに変わりは無い。従って、0.4以上の輻射率を有する温調プレート13を適用することは好適である。
【0048】
次に、本発明の効果を検証するために、図4の恒温真空チャンバを用いて、温調プレート13の材料を変更して輻射率の大小による基板温度の安定化について実験を行った。具体的には、輻射率が小さいプレートAでは、表面洗浄を行い酸化膜などのコーティングがされていない銅板を使用し、輻射率が大きいプレートBでは、図2に示した銅板に導電性ダイヤモンドライクカーボンを成膜した構造体を使用した。それぞれのプレートA,Bの輻射率は、文献による数値から0.05以下と0.8以上であり、実際のプレートの値ではないために正確な値ではない。一般的に材料の輻射率を正確に求めることは難しく、文献値にもばらつきがあり、ここに示した数値は一つの目安になる。
【0049】
使用した装置は、図8に示した電子ビーム描画装置であり、図中86の第1の恒温真空チャンバに図3に示した構成の恒温真空チャンバを適用した。その他の実験条件として、装置全体は23±0.5℃のクリンルームに設置して恒温化され、さらに各チャンバの温度は、1/100℃で精密に温調されて、基準の23℃になるように設定されている。
【0050】
ここで、実験のための搬送手順を、図8を用いて概説する。初めに、大気雰囲気の23℃に温調されている予備室83に基板を設置した。これにより基板は、大気ガスによる熱伝達により略23℃に温調される。本状態にある基板を真空予備室(ロードロックチャンバ)84へ搬送手段(不示図)で搬送した後で、通常のシーケンスで真空排気を行い、次に搬送用ロボット(不示図)により基板を搬送ロボット用恒温真空チャンバ85へ移動して、第1の恒温真空チャンバ86へ搬送する。恒温真空チャンバ86は、上述の通り図4の構成であり、搬送された基板88は、支持機構部に搭載される。一連の搬送動作では、設定されたシーケンスにより、ゲートバルブ89,90の開閉により真空/大気が制御される。真空予備室84での真空排気により、その中にある基板は、断熱膨張により一旦冷やされるために温度が低下する。
【0051】
次に、この温度低下した状態で、恒温真空チャンバ86へ基板が搬送されるために、基板温度と恒温真空チャンバ86の設定温度23℃に温度差がある状態で、支持機構部に基板が搭載されることになる。本実験では、基板の温度を直接計測して、基板温度の緩和の様子を評価するために基板に別途温度センサを取り付けたガラス基板を用いている。この温度センサ付き基板が、恒温真空チャンバ86に搬送され支持機構部に搭載された時に、温度センサの端子とチャンバに設けた計測用端子が接触してマスク基板の温度を直接計測できる機構にしている。なお、マスク,プレート,支持機構部の3箇所で使用している温度センサは、全て較正済みの白金抵抗体(Pt100)であり、これらの機差はMean値で0.0009℃、3σ値で0.0016℃であった(N=2042、17時間分の計測結果)。
【0052】
本実験で得られた結果として、図6にプレートAの結果を示す。プレートAの表面に設けた温度センサには、温度変化が殆ど発生しておらず、温度応答性の感度がほぼゼロに近いことが分かる。支持機構部に内蔵した温度センサにおいては、−0.015℃程度の変化が生じていることが分かる。
【0053】
図7は、プレートBの結果であり、この場合には輻射率が大きくなったことから、プレート表面の温度センサの温度変化が−0.025℃程度発生しており、十分な精度で、この後の温度の緩和工程をモニタすることが可能である。支持機構部に内蔵した温度センサの温度変化量は−0.01℃程度である。
【0054】
両図の結果を比較すると、プレート表面の輻射率が小さい場合には、基板の温度差をプレート表面に設けた温度センサでは感知できず、輻射率が大きい場合には十分に感知できることが分かる。前記図5に示したように、輻射率が0.4以上ある場合に、温度センサの温度変化量が0.01℃以上に大きくなると予測されるので感知精度が向上することが推測される。
【0055】
ここで、基板温度の静定温度の目標値は23℃であるが、例えば収束温度の範囲を目標値±0.02℃とすると、プレートAでは初期温度23.773℃であり静定所要時間は3時間5分、プレートBでは初期温度23.782℃で2時間10分になっていることが分かる。従って、本例のように、図2の構成の温調プレートBを採用することにより、単体の銅板からなる温調プレートAに比べて静定所要時間が短縮されていることが確認できる。本例では、約30%の時間短縮が実現されている。
【0056】
また、プレート表面に設けた温度センサにより、この安定化の収束時間を判定する際には、まず、基板温度の変化量に対する温度センサの温度変化量の勾配を求め、基板温度の収束範囲の23±0.02℃に対応する温度センサの収束範囲を定める必要がある。温度センサの温度変化量/基板温度の変化量は、0.79であり、±0.02℃の0.79倍である±0.016℃が温度センサの収束範囲に相当する。従って、基板温度の収束範囲の23±0.02℃に対して温度センサの収束範囲を23±0.016℃としてモニタリングすることにより時間管理を正確に行うことができる。通常の基板を搬送した際に、温度安定化を行う場合には、プレート表面に設けた温度センサの温度変化量が、23±0.016℃に収束するまでの時間経緯をモニタリングすることによって、基板の温度安定化の完了時点を正確に把握することが可能になる。
【0057】
(第4の実施形態)
本実施形態では、図8において、第1の恒温真空チャンバ86と第2の恒温チャンバ87に前記図1の構成の恒温真空チャンバを適用した電子ビーム描画装置に関して、描画に至るまでの搬送並びに基板の温度安定化プロセスについて説明する。
【0058】
初めに大気雰囲気の23℃に温調されている予備室83に複数の基板を設置した。本実施形態では、基板キャリアに搭載して局所的にクリーン化されたポッドに設置することにより、大気ガスによる熱伝達により略23℃に基板が温調される。このような状態にある1枚目の基板を真空予備室(ロードロックチャンバ)84へ搬送手段(不示図)で搬送した後に、通常のシーケンスで真空排気を行った。次いで、搬送用ロボット(不示図)により基板を搬送ロボット用恒温真空チャンバ85へ移動して、第1の恒温真空チャンバ86へ搬送する。恒温真空チャンバ86は、上述の通り図1の構成であり、搬送された基板88は、支持機構部に搭載される。
【0059】
また、2枚目の基板が同様に、予備室83から真空予備室(ロードロックチャンバ)84を通じて搬送され、第2の恒温チャンバ87に搬送される。一連の搬送動作では、設定されたシーケンスにより、ゲートバルブ89,90の開閉により真空/大気が制御され、基板の描画順も規定されている。途中、真空予備室84での真空排気により、温度が低下した基板は、それぞれ第1の恒温真空チャンバ86と第2の恒温真空チャンバ87において、描画室81の環境温度である23℃になるように、所定の収束温度範囲で温度安定化が行われる。
【0060】
次に、第1の恒温真空チャンバ86から、1枚目の基板が取り出され、ゲートバルブ91を開いて描画室81の描画ステージ82に搬送し搭載される。搭載された時点で、既に基板温度は、描画位置精度に必要な温度に安定化されているので、描画ステージ82で温度を安定にするために待機の必要がなくなり、直ぐに電子ビームによる描画に関する動作が開始される。このため、スループットの低下が起きない。
【0061】
次に、描画が終了した1枚目の基板がアンロードされ、2枚目の基板を描画する際には、既に1枚目の描画時間中に2枚目の基板の温度も安定化されているので、直ぐに描画室へ搬送され描画動作が開始されることになる。本実施形態のように、複数の恒温真空チャンバにて、基板温度の安定化を行うことにより、さらにスループットを向上でき、且つ高精度な描画が実現することになる。
【0062】
(変形例)
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。実施形態で用いた温調プレート上の温度センサは1つであるが、面内に複数個を配置することも可能である。この場合には、温度均一性も含めて温度安定化を実施できる。温調プレートの母材に銅板を用いたが、アルミニウムやニッケル等の金属或いは合金類を適用することができる。また、実施形態においては、温調プレート上のコーティング材料は、導電性ダイヤモンドライクカーボンを用いているが、組成としてカーボンが含まれており導電性を有していれば良く、グラファイトやC60、カーボンフィルムの積層構造や、カーボン含有の混合材料であっても条件を満たす限りにおいて適用可能である。コーティング面も必ずしもプレートの両面でなくて良く、基板と対向する表面側にコーティングがされているだけでも良く、さらに、全面でなく一部分が成膜された構造体であっても構わない。
【0063】
また、温調プレートの温度調整機構として、通水配管を内蔵しているが、配管類をひとまとめにした別の構造体をプレート裏面側から接続して恒温化する構造も適用できる。全ての実施形態において温調プレートは、基板の下方に設定しているが、基板に対向していればよく、上方や両面に設置されていても構わない。さらに、真空排気に伴う基板の温度低下に対して、この温度を補償する実施形態を示したが、真空排気以外の要因により温度変動が生じた場合に、例えば搬送途中の発熱体による温度変動の影響や搬送前の設置環境の温度変化が原因となって、基板温度が所望の温度と違いがある場合には、本発明を適用して温度補償し、スループットを向上させ且つ高精度な描画を実現可能であることは言うまでも無い。
【0064】
また、温度計測部による温度センサの検出出力のモニタは基本的には常時行うのが望ましいが、基板や温調プレートの温度変化がさほど速いものではないため、断続的に行っても実質的な影響はないと考えられる。また、実施形態では電子ビーム描画装置に適用した例を説明したが、本発明は真空中でパターンを描画する場合に有効となる方法であり、イオンビーム描画装置に適用することも可能である。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することができる。
【0065】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、基板に対面する温調プレートに熱伝導率が大きく輻射率の高いものを用いることにより基板の温度制御を迅速に行うと共に、温調プレートに温度センサを取り付けることにより基板からの輻射による温度変化の応答を感度良く高精度にモニタリングできるようになる。そして、この高精度なモニタリングを実現することにより、真空排気などによって変動の生じた基板の温度を安定化するための静定時間を短縮することができ、スループットと描画精度の両方を両立して実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態に係わる荷電ビーム描画装置に用いた恒温真空チャンバを示す概略構成図。
【図2】図1の恒温真空チャンバ内に設置した温調プレートの構成を示す断面図。
【図3】第2の実施形態に係わる荷電ビーム描画装置に用いた恒温真空チャンバを示す概略構成図。
【図4】第3の実施形態に係わる荷電ビーム描画装置に用いた恒温真空チャンバを示す概略構成図。
【図5】第3の実施形態における解析データを示す図。
【図6】第3の実施形態における実験データを示す図。
【図7】第3の実施形態における実験データを示す図。
【図8】電子ビーム描画装置における全体構成を示す図。
【符号の説明】
11…恒温真空チャンバ
12…支持機構部
13…温調プレート
14…温度調整機構
15,35,45,46…温度センサ
16…温度計測手段
17…被描画基板
21…プレート母材
22…コーティング膜
23…配管
81…描画室
82…描画ステージ
83…予備室
84…真空予備室(ロードロックチャンバ)
85…搬送ロボット用恒温真空チャンバ
86…第1の恒温真空チャンバ
87…第2の恒温真空チャンバ
88…被描画基板
89,90,91…ゲートバルブ
Claims (4)
- 荷電ビーム描画に供される被描画基板を予め恒温真空チャンバ内で恒温化し、恒温化された基板を描画室内に搬送し、描画室内で基板に対して所望のパターンを描画する荷電ビーム描画方法であって、
前記恒温真空チャンバ内に、前記基板を支持する支持機構と、この支持機構の上方若しくは下方又は両方に前記基板と対面して配置され、前記基板と同等以上の面積を有すると共に100W/mK以上の熱伝達率を有し、且つ表面に0.4以上の輻射率を有する導電性のカーボンを含む材料がコーティングされた構造体からなる温調プレートと、この温調プレートを温度制御するために温度調整機構と、前記温調プレートの表面又は内部に配置されて該プレートの温度を検出する温度センサとを設けておき、
前記温度センサの検出出力を常時又は断続的にモニタすることにより、前記基板が前記恒温真空チャンバ内に搬送されるか又は前記支持機構に搭載されたことにより前記温調プレートに発生する温度変化を検出し、該温度変化が所定範囲に収束するまで前記基板を前記恒温真空チャンバ内に放置して基板温度を安定化させることを特徴とする荷電ビーム描画方法。 - 前記温度センサとして、0.001℃以下の温度計測分解能を有する白金抵抗体からなる温度センサを用いることを特徴とする請求項1記載の荷電ビーム描画方法。
- 荷電ビーム描画に供される被描画基板を予め恒温真空チャンバ内で恒温化し、恒温化された基板を描画室内に搬送し、描画室内で基板に対して所望のパターンを描画する荷電ビーム描画方法であって、
前記恒温真空チャンバ内に、前記基板を支持する支持機構と、この支持機構の上方若しくは下方又は両方に前記基板と対面して配置され、前記基板と同等以上の面積を有すると共に100W/mK以上の熱伝達率を有し、且つ表面に0.4以上の輻射率を有する導電性のカーボンを含む材料がコーティングされた構造体からなる温調プレートと、この温調プレートを温度制御するための温度調整機構と、前記支持機構の基板接触部位に配置されて前記基板の温度を検出する温度センサとを設けておき、
前記温度センサの検出出力を常時又は断続的にモニタすることにより、前記基板が前記恒温真空チャンバ内に搬送されるか又は前記支持機構に搭載されたことにより発生する温度変化を検出し、該温度変化が所定範囲に収束するまで前記基板を前記恒温真空チャンバ内に放置して基板温度を安定化させることを特徴とする荷電ビーム描画方法。 - 前記温度センサの検出出力に基づいて前記温調プレートをアクティブに温度制御することにより、前記基板の温度を、前記温調プレートを一定に温度制御する場合よりも速く安定化させることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の荷電ビーム描画方法。
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