JP4002973B2 - アレルゲンの腸管透過抑制剤、アレルゲンの腸管透過抑制剤複合体、アレルゲンの腸管透過抑制剤またはその複合体を含む食品素材および予防・治療方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アレルゲンの腸管透過抑制剤とその複合体、更にはこれらを含有した食品素材およびこれらを用いたアレルギーの予防・治療方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
過敏な免疫反応により下痢、皮膚炎、喘息などの症状が現れる食物アレルギーは、アレルゲン(アレルギー原因物質)の腸管からの体内への吸収(透過)によって惹起される。アレルゲンの原因食品としては、卵、牛乳、小麦、蕎麦、海老、ピーナッツなどが挙げられ、これら食材を通常の食生活から完全に排除することは困難である。
【0003】
また、食物アレルギーは3段階の過程を経て発症する。第1段階はアレルゲンの腸管吸収、第2段階は免疫細胞による情報伝達、第3段階は肥満細胞の脱顆粒である。
第1段階のアレルゲンの腸管吸収は、腸管の粘膜表層細胞同士を洩れなくシールし表層細胞の周囲を鉢巻状に取り囲んでいるタイト・ジャンクション間を透過して吸収されると言われており、このタイト・ジャンクション間の透過を阻止するアレルゲンの腸管透過抑制剤として、ホエー蛋白質(牛乳から脂肪とカゼインを除いた成分)が有効であるとの提案がなされている。(特許文献1)
【0004】
【特許文献1】
特開平8−73375号公報
【0005】
上記(特許文献1)に挙げられる物質以外に、本発明者らは芳香族アミノ酸を一部に含むペプチドやポリフェノール類縁化合物がアレルゲンの腸管透過抑制剤として有効であるとの知見を得た(特願2002−161695)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
芳香族アミノ酸を一部に含むペプチドやポリフェノール類縁化合物はアレルゲンの腸管透過抑制効果に優れることが分ったが、安全で安価に且つ効率よく製造する課題が残っている。
【0007】
また上記のペプチドは、アレルゲンの腸管透過抑制効果が高くても、腸で作用する前にプロテアーゼなどによってアミノ酸に分解されると腸管透過抑制効果は低下する。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、アレルゲンの腸管透過抑制効果が高いペプチドやポリフェノール類縁化合物を同定すること、また、このペプチドやポリフェノール類縁化合物を腸管の有効な部位まで、分解されることなく効率的に送り込むことが可能なアレルゲンの腸管透過抑制剤複合体を提供することを目的とする。
【0009】
本発明に係るアレルゲンの腸管透過抑制剤は、油糧種子由来の活性ポリフェノール類縁化合物及び/又は芳香族アミノ酸を少なくとも一部に有する油糧種子由来の活性ペプチドを有効成分とする。油糧種子としては、腸管透過抑制活性を基準とした場合には、黒ゴマ、大豆、トウモロコシが好ましく、この中では黒ゴマが最も好ましい。即ち、油糧種子は元来ポリフェノールを大量に含んでおり、特に黒ゴマは発芽の際に胚芽内に蛋白質を蓄えるため、材料として最適である。
【0010】
また、上記アレルゲンの腸管透過抑制剤を途中で分解されることなく腸管で作用させるため、本発明はアレルゲンの腸管透過抑制剤をキトサンとの複合体とした。この複合体は油糧種子抽出物中の酸性高分子量化合物とキトサンのアミノ基とが結合することで微細粒子を形成し、この微細粒子に活性ポリフェノール類縁化合物及び活性ペプチドが保持されている。この微細粒子は懸濁液または粉末状で存在し、プロテアーゼは複合体の中に入り込めず、活性ペプチドは分解されない。
【0011】
また、活性ペプチドやポリフェノール類縁化合物は、例えば、黒ゴマ、大豆、トウモロコシ等の油糧種子を粉砕して脱脂し、脱脂した油糧種子をトリプシン等の加水分解酵素によって加水分解し、熱水抽出することで得る。上記に挙げた油糧種子の中では、黒ゴマがアレルゲン腸管透過抑制効果が最も高く好ましい。また加水分解酵素としては、精製度の低いトリプシンが苦味低減の観点(食品素材)から好ましい。
【0012】
また、本発明には上記のアレルゲンの腸管透過抑制剤複合体を含有する食品素材およびこのアレルゲンの腸管透過抑制剤複合体を経口投与するアレルギーの予防・治療方法も含まれる。投与量は1回に体重1kg当たり130μg〜13gの範囲で、1〜数回/日とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1はアレルゲンの腸管透過抑制剤の抽出までの工程を示した図であり、出発原料としては黒ゴマを用いた。
【0014】
先ず、黒ゴマを脱脂し、脱脂ゴマ(1kg)をトリプシン水溶液(トリプシン10g水10L)に浸漬して加水分解を行いペプチドを生成する。加水分解は40℃、3時間、pHを8〜8.5に調整して行う。
【0015】
ペプチドの生成が完了したならば、加熱(90℃加熱)してトリプシンを失活させると同時にポリフェノール類縁化合物およびペプチドを抽出した。トリプシン失活は品質を一定にするためと添加する細胞に悪影響を及ぼさないようにするためである。
加熱後、遠心分離(5,000xg 15分)及びろ過して残存油分と残渣を除去し、水溶性画分を凍結乾燥してゴマトリプシン分解抽出物(以下、TSEとも記載する)を得た。
【0016】
TSEから以下の逆相HPLC(クロマト)により活性成分を単離した。
ファーストラン
カラム :Shodex RS pak RP18−415
溶媒 :0〜90%(30分)メタノール/0.1%TFA水溶液リニアグラジエント
流速 :1ml/分
検出波長:220nm
クロマトグラムを図2に示す。
【0017】
セカンドラン
カラム :Shodex RS pak DE613
溶媒 :活性化合物1、3、4では、メタノール/0.1%TFA水溶液
活性化合物2では、アセトニトリル/0.1%TFA水溶液
活性化合物1では、40〜60%(15分)のメタノールのリニアグラジエント
(保持時間は10.3分)
活性化合物2では、20〜30%(15分)のアセトニトリルのリニアグラジエント
活性化合物3では、40〜90%(15分)のメタノールのリニアグラジエント
活性化合物4では、60〜100%(15分)のメタノールのリニアグラジエント
流速 :1ml/分
検出波長:220nm
活性化合物2、3および4のクロマトグラムを図3に示す。
【0018】
得られた脱脂ゴマ抽出物(TSE)中の活性成分であるポリフェノール類縁化合物とペプチドの構造をNMR(核磁気共鳴)、MS(質量分析)およびエドマン分解にて特定した。
【0019】
単離した活性物質3および4はポリフェノール類縁化合物であり、以下の構造式(化4)、(化5)で特定される化合物であった。
【化4】
sesamino1 2’- O -β-glucopyranosyl(1→2)- O -[β-glucopyranosyl(1→6)] - O -β-glucopyranoside
【化5】
sesamino1 2’- O -β-glucopyranosyl(1→2)- O -β-glucopyranoside
【0020】
単離した活性物質2は以下の構造式(化6)で表されるペプチドであった。また活性化合物1はトリプトファンであった。
【化6】
但し、Sはセリン、Nはアスパラギン、Aはアラニン、Lはロイシン、Vはバリン、Pはプロリン、Dはアスパラギン酸、Wはトリプトファン、Mはメチオニン、Tはスレオニン、Gはグリシン、Hはヒスチジン
【0021】
以上によって得たトリプシン分解抽出物(TSE)について、Caco−2を用いたモデル系とマウスを用いた動物実験でのOVA(卵白アルブミン)の吸収抑制試験を行った。モデル系では蛍光標識OVAを用いた。蛍光標識卵白アルブミンは、市販卵白アルブミンを常法(微アルカリ性・氷冷下)でフルオレッセンイソチオシアネートと反応させて結合後、流水透析、SephadexG−15カラムクロマトグラフィーで精製して調製した。
【0022】
Caco−2細胞の培養は以下の方法で行った。
Caco−2細胞をAmerican Type Culture Collection(U.S.A)から入手し、継代数30〜40のものを透過試験に用いた。培養液の組成はDulbecco’s modified Eagle’s medium(Gibco, Life Technologies,Inc., U.S.A.)にウシ胎子血清(20%、大日本製薬)、非必須アミノ酸溶液(1%、Gibco, Life Technologies,Inc., U.S.A.)、ペニシリン(100 IU/ml、和光純薬)、ストレプトマイシン(100μg/ml、和光純薬)、及びゲンタマイシン(50μg/ml、和光純薬)を加えたものとした。
細胞を37℃、5%CO2、加湿条件下で培養し、3,4日おきに継代を行った。透過試験に際しては、細胞を12穴トランズウェル内のメンブレンフィルター(No.3460、Corning, U.S.A.)で培養した。培養液を基底膜側には1.5ml、管腔側には0.5mlを加え約2週間培養した。Millicell−ESR(Millipore Co., U.S.A.)を用いて経上皮電気抵抗(TEER)を測定し、TEERが300Ω・cm-2となり単層が完成したものを透過試験に用いた。
図4に吸収抑制試験に供したモデル系の断面図、図5に要部拡大図を示す。
【0023】
TSEを0.1%含む試料を管腔側および基底膜側に添加して、30分後基底膜側の透過液を回収し、透過したOVA量を蛍光強度により測定した。
蛍光強度測定は、島津製作所社製の分光蛍光光度計を用いて励起波長495nm、蛍光波長520nmで行った。
【0024】
図6は抽出した活性ポリフェノール類縁化合物と活性ペプチドの透過抑制活性(%)の実験結果を示すグラフであり、グラフ中、
(1)は、SNALVSPDWSMTGH
但し、Sはセリン、Nはアスパラギン、Aはアラニン、Lはロイシン、Vはバリン、Pはプロリン、Dはアスパラギン酸、Wはトリプトファン、Mはメチオニン、Tはスレオニン、Gはグリシン、Hはヒスチジン
(2)は、sesamino1 2’- O -β-glucopyranosyl(1→2)- O -[β-glucopyranosyl(1→6)] - O -β-glucopyranoside
(3)は、sesamino1 2’- O -β-glucopyranosyl(1→2)- O -β-glucopyranoside
を表す。
このグラフから、本発明に係る活性ポリフェノール類縁化合物および活性ペプチドは極めて低い濃度で高い透過抑制活性を発揮することが分る。
【0025】
マウスを用いた動物実験
キトサンの1%酢酸溶液(1mg/ml)にTSE(2mg/ml pH9.5)を1:1の割合で滴下し、pH9.0に調整して攪拌した。その結果、微細粒子が形成され、懸濁液が得られた。微粒子はゴマ中の酸性多糖が有するカルボキシル基とキトサンが有するアミノ基とが結合することによって形成されたと考えられる。そして、この微粒子に活性ポリフェノール類縁化合物および活性ペプチドが保持されていると推定される。このようにして得られた微細粒子の粒径と形状を60°、90°、120°の散乱光強度から求めたところ、粒径は約210nmで形状は球形であることが分った。
【0026】
BALB/cマウス(♂、6週齢)にTSE(0,0.1,1mg/マウス)とキトサンからなる微細粒子懸濁液を5日間投与した後に、OVA(2mg/マウス)を投与し、0分、15分、30分、60分後に尾静脈から採血し、血清中のOVA濃度を測定した。結果を図7のグラフに示す。
尚、図7においてTSEが0mg/マウスとなっているものは、キトサンのみを投与したことを意味する。
【0027】
図7から血清中のOVA濃度はTSEを添加したものが少なくなっており、有意な差異が認められる。
【0028】
【発明の効果】
以上に説明したように本発明によれば、安全で低コストのアレルゲンの腸管透過抑制剤が得られる。
また本発明に係るアレルゲンの腸管透過抑制剤複合体は、腸管で作用する前にプロテアーゼなどによる分解が抑制され、且つ腸管の有効な部位に到達することが可能となる。
更に、本発明に係るアレルゲンの腸管透過抑制剤およびその複合体は食材としてまた予防・治療剤としも有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】脱脂ゴマから脱脂ゴマ抽出物(TSE)を得るまでの工程を説明した図
【図2】脱脂ゴマ抽出物(TSE)のHPLCファーストランのクロマトグラム
【図3】脱脂ゴマ抽出物(TSE)のHPLCセカンドランのクロマトグラム
【図4】吸収抑制試験に供したモデル系の断面図
【図5】図2の要部拡大図
【図6】脱脂ゴマ抽出物(TSE)の透過抑制活性の実験結果を示すグラフ
【図7】OVA投与後の経過時間と血清中のOVA濃度との関係を示すグラフ
Claims (5)
- 前記油糧種子は黒ゴマ、大豆またはトウモロコシである請求項1に記載のアレルゲンの腸管透過抑制剤。
- 油糧種子抽出物とキトサンとが結合して形成される微細粒子に、請求項1または請求項2に記載のアレルゲンの腸管透過抑制剤が保持されていることを特徴とするアレルゲンの腸管透過抑制剤複合体。
- 前記微細粒子は油糧種子抽出物中の酸性高分子量化合物とキトサンのアミノ基とが結合することで形成されることを特徴とする請求項3に記載のアレルゲンの腸管透過抑制剤複合体。
- 前記微細粒子は懸濁液または粉体の状態で存在することを特徴とする請求項4に記載のアレルゲンの腸管透過抑制剤複合体。
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