JP4001321B2 - 逆相間移動酸触媒 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水中で安定でかつ水溶性であり、水相−有機相二相系における水相で有機合成反応を行うことのできる逆相間移動触媒、及びこれを用いた環境重視型化学合成法に関する。
【0002】
【従来の技術】
1991年、米国環境保護庁の有機化学者P.T.アナスタスがグリーンケミストリーの概念を提唱して以来、これまでのように低コスト・高収率だけを追究する“ものづくり”からより環境に対する負荷の少ない“ものづくり”へと社会の関心は変化した。これに伴い現在、産学を問わず環境重視型化学に関する研究が盛んに行われている。
【0003】
具体的に化学反応の観点からは、物質利用の面で無駄の多い化学量論反応からより効率的な触媒反応への転換、反応媒体の観点からは、環境や人体に有害な有機溶剤からグリーン反応媒体への変換が求められている。グリーン媒体はイオン性液体、フッ素系有機溶剤、超臨界流体、そして水などに分類される。なかでも水は、最も安価で毒性や発火の危険性もなく、クリーンかつ経済性、安全性を併せ持つ溶媒である。
【0004】
水中での触媒的有機合成反応は、その反応が触媒的である点、また反応媒体が水である点から、環境調和型反応の理想とされている。しかしながら、依然として水が溶媒として用いられない理由として、多くの試薬や触媒が水中で不安定であること(安定性の問題)、及び多くの有機化合物が水に溶解しないこと(溶解性の問題)の二点が挙げられる。水を溶媒として用いる触媒的有機合成反応を実現するためには、これら2つの課題を克服する必要があり、さまざまな研究が行われている。
【0005】
1991年に小林らにより、ランタノイドトリフラート(Ln(OTf)3)が水中で安定なルイス酸であることが見出された(Chem. Lett. 1991,2087)。これ以来、アルドール反応、アリル化反応、Diels-Alder反応、Micheal反応などが含水溶媒中で行えるようになった。
しかしながら、これらの触媒が水中で安定であっても原料が水にほとんど溶解しないため、反応は水と有機溶媒との混合溶媒でなければ進行が著しく低下するという問題がある。
【0006】
この溶解性の問題を解決するため、界面活性剤を利用する方法が考えられる。一般に、油(有機化合物)と水とは混合しないが、界面活性剤を加えると、界面活性剤の疎水性部位が油と、親水性部位が水とそれぞれ作用し、水中にミクロレベルのコロイド粒子を形成する。その結果、水と油は見かけ上、混合したコロイド溶液となり、反応が進行する。
1998年、小林らは一分子中に界面活性能とルイス酸触媒能を有する化合物(LASC)を開発した(Tetrahedron Letters 1998, 39, 5389)。この化合物は、水と反応して分解しやすい不安定な試薬を用いた場合においても、反応を円滑に進めることができる。例えば、シリルエノラートを用いた水中でのアルドール反応を実現している。この触媒の開発によって安定性の問題と溶解性の問題の両方を克服し、アルドール反応のみならず、アリル化反応、マイケル付加反応など主要な有機合成反応を水中で行えるようになった(J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 7202)。
このような研究は他の研究者によっても行われている。例えば、秋山らはブレンステッド酸であるHBF4の水溶液に界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加することにより、アルデヒド、アミン、シリルエノラートを用いたマンニッヒ型反応を水中で行うことに成功した。これは酸触媒と界面活性剤を組み合わせて用いた反応例である(Synlett 1999, 1426)。
Liらも別のアプローチでこの課題に取り組んでいる。彼らはアッパーリム(upper rim)にスルホナト基、ローワーリム(lower rim)に長鎖アルキル基を有するカリックス[6]アレーンを界面活性剤として用いることにより、水中で安定なルイス酸触媒存在下でアルドール反応が進行することを報告した(Tetrahedron Lett. 2000, 41, 2529)。これは酸触媒と包接能を有する界面活性剤とを組み合わせて用いたものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これら界面活性剤を用いた場合、後処理の抽出時にエマルションの問題を引き起こし、生成物の分離や触媒の回収の妨げとなる。工業的に水中での触媒的有機合成を実現するためには、触媒の回収・再利用が必要不可欠である。
従って、本発明は、エマルションを形成せず、安定に水中で触媒的有機合成反応の可能な触媒を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者は、エマルションを形成することなく、水に溶けない有機化合物を水相で反応させる手段として逆相間移動触媒反応に着目し、水溶性で逆相間移動触媒となり得る化合物を探索したところ、後記一般式(1)で表されるカリックスアレーン類が、水溶性で界面活性能を有さず、水に溶けない有機基質を有機相から水相へ移動させることにより、二つの溶け合わない反応物間の反応を促進するという逆相間移動ブレンステッド酸触媒として機能し、水溶性触媒であることから、反応終了後に液液分離又は水に不溶な生成物を抽出することにより、反応混合物から容易に分離回収し、再利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は一般式(1)
【0010】
【化2】
Figure 0004001321
【0011】
(式中、R1及びR2は同一又は異なって水素原子又は低級アルキル基を示し、X1及びX2はいずれか一方が-(CH2)mSO3H(ここで、mは1〜3の数を示す)を示し、他方が水素原子、水酸基又はメチル基を示す)
で表されるカリックスアレーン類からなる水溶性逆相間移動酸触媒を提供するものである。
また、本発明は、水相−有機相二相系において疎水性原料化合物から疎水性目的化合物を製造する方法であって、請求項1記載の水溶性逆相間移動酸触媒の存在下に反応を行うことを特徴とする疎水性目的化合物の製造法を提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
一般式(1)中、R1及びR2で示される低級アルキル基としては、炭素数1〜4の直鎖又は分枝鎖アルキル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基などが挙げられるが、特にメチル基が好ましい。R1及びR2としては水素原子が特に好ましい。X1及びX2は、いずれか一方がスルホアルキル基(-(CH2)mSO3H)であり、他方が水素原子、水酸基又はメチル基である。スルホアルキル基のmとしては1又は2がより好ましい。また、X1がスルホアルキル基(-(CH2)mSO3H)であり、X2が水酸基又はメチル基である場合が特に好ましい。より具体的には、R1=R2=H、X1=-CH2SO3H、X2=CH3である化合物;R1=R2=H、X1=H、X2=-CH2CH2SO3Hである化合物;R1=R2=H、X1=CH3、X2=-CH2CH2SO3Hである化合物;R1=R2=H、X1=OH、X2=-CH2CH2SO3Hである化合物が挙げられる。
【0013】
一般式(1)のカリックスアレーン類は、例えばKazalcovaらの方法(Tetrahedron Lett. 41(2000), 10111-10115)又はKobayashiらの方法(J. Am. Chem. Soc. 1992, 114, 10307-10313)に従って製造することができる。すなわち、例えばレゾルシノール類を出発原料として、アセトアルデヒドとの環化縮合、スルホナトアルキル化、酸型イオン交換樹脂によるイオン交換によって製造することができる。
【0014】
一般式(1)のカリックスアレーン類は、(1)水溶性である、(2)ブレンステッド酸触媒として機能する、(3)カリックスアレーンが本来有する包接能により、有機基質を取り込む作用を有する、(4)当該有機基質が反応して分子量が大きくなると放出する能力を有する等の作用を有することから、逆相間移動触媒として有用である。
【0015】
当該カリックスアレーン類(1)を用いた有機合成は、水相−有機相二相系において疎水性原料化合物から疎水性目的化合物を製造する方法であって、当該カリックスアレーン類(1)を逆相間移動触媒として行う方法である。この反応は、反応系が水相−有機相二相系である点、触媒としてカリックスアレーン類(1)を用いる点以外は通常の反応と同様に行われる。適用できる反応としては、マンニッヒ反応、Pictet-Spengler反応、Prins反応、Pinacol転位などのブレンステッド酸触媒反応が挙げられる。
【0016】
この反応を、マンニッヒ反応の場合を例にとって説明すれば、カリックスアレーン類(1)を水に溶解し、これに原料化合物を加え、必要により有機溶媒を加えて反応を行えばよい。反応終了後、目的物は有機相から通常の手段、抽出、洗浄、再結晶などにより単離すればよい。また触媒は水相から抽出でき、再利用が可能である。
【0017】
【実施例】
次に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
参考例1
Tetrahedron Letters. 41(2000), 10111-10115に記載の方法によりNa型で得られた生成物をイオン交換樹脂により酸型に変換して、2,8,14,20−テトラメチル−5,11,17,23−テトラスルホメチルカリックス[4]レゾルシンアレーン(式(1)中、R1=R2=H、X1=-CH2SO3H、X2=CH3)を収率29%で得た。
1H-NMR (400 MHz, D2O)δ6.72 (ArH, s, 4H), 5.00 (OH, s, 24H), 4.67-4.61 (ArCHC, q, J=6.79Hz, 4H), 4.41 (ArCH2S,s,8H), 1.55-1.53 (CH3, d, J=6.87Hz, 12H); 13C NMR (100 MHz, D2O)δ153.3, 130.5, 127.9, 112.9, 50.1, 34.3, 22.5; IR(KBr)3394, 2971, 1560, 1475, 1458, 1218, 1144, 762.
【0019】
実施例1
10mlの丸底フラスコに参考例1で得た触媒10mol%を秤取り、これを水2mlで溶解した。これにベンズアルデヒド、o−アニシジン、アセトフェノン等価体である1−フェニル−1−(トリメチルシロキシ)エチレンを所定量加え、25℃、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い攪拌速度800rpmで液−液二相系マンニッヒ反応を行った。以下に、各反応の詳細を示す。
【0020】
[反応1]
10mlの丸底フラスコに水2mlを秤取り、これにベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加え10分間撹拌した。次に飽和食塩水10mlを加え、これを酢酸エチル10mlで4回抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。
【0021】
3−(2−メトキシフェニル)アミノ−1,3−ジフェニル−1−プロパノン
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ7.92-7.90 (2H, m), 7.57-7.53 (1H, m), 7.45-7.42 (4H, m), 7.33-7.29 (2H, m), 7.23-7.20 (1H, m), 6.77-6.68 (2H, m), 6.64-6.60 (2H, m), 6.46-6.43 (1H, m), 5.01-5.03 (1H, t, J=6.5Hz), 4.97 (1H, br), 3.83 (3H, s), 3.51-3.50 (2H, d, J=6.5Hz);
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ 197.90, 146.98, 143.14, 136.82, 133.27, 128.75, 128.63, 127.27, 126.42, 121.10, 116.86, 111.29, 109.43, 55.50, 54.34, 46.70;
IR (KBr, cm-1) 3414, 1674, 1272, 1233, 1026, 737.
【0022】
[反応2]
10mlの丸底フラスコにp−トルエンスルホン酸(TsOH)(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加え10分間撹拌した。次に飽和食塩水10mlを加え、これを酢酸エチル10mlで4回抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。
【0023】
[反応3]
10mlの丸底フラスコにドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)、テトラフルオロホウ酸(HBF4)(0.1mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加え10分間撹拌した。次に飽和食塩水10mlを加え、これを酢酸エチル10mlで4回抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。
【0024】
[反応4]
10mlの丸底フラスコにベンゼンスルホン酸(DBSA)(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加え10分間撹拌した。次に飽和食塩水10mlを加え、これを酢酸エチル10mlで4回抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。
【0025】
[反応5]
10mlの丸底フラスコに触媒(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加え10分間撹拌した。次に飽和食塩水10mlを加え、これを酢酸エチル10mlで4回抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。
【0026】
[反応6−8]
10mlの丸底フラスコにドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)、テトラフルオロホウ酸(HBF4)(0.1mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、酢酸エチル3mlを加え、300rpmで5分間撹拌した。その後2時間静置し、上澄みをシリンジで抜き取った。この操作をもう一度、繰り返した。合わせた有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水後、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。リサイクル実験は、フラスコ内に残った触媒相をシリンジで抜き取り、別のフラスコに移しかえ、これにベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を繰り返した。
【0027】
[反応9−12]
10mlの丸底フラスコにドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、酢酸エチル3mlを加え、300rpmで5分間撹拌した。その後2時間静置し、上澄みをシリンジで抜き取った。この操作をもう一度、繰り返した。合わせた有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水後、濃縮した.この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。リサイクル実験は、フラスコ内に残った触媒相をシリンジで抜き取り、別のフラスコに移しかえ、これにベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を繰り返した。
【0028】
[反応13−17]
10mlの丸底フラスコに参考例1で得た触媒(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)、テトラフルオロホウ酸(HBF4)(0.1mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、酢酸エチル3mlを加え、300rpmで5分間撹拌した。その後15分間静置し、上澄みをシリンジで抜き取った。この操作をもう一度、繰り返した。合わせた有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水後、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。リサイクル実験は、フラスコ内に残った触媒相をシリンジで抜き取り、別のフラスコに移しかえ、これにベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を繰り返した。
【0029】
結果を表1にまとめて示す。
【0030】
【表1】
Figure 0004001321
【0031】
表1から、触媒を用いない場合、及び界面活性能のないブレンステッド酸であるp−トルエンスルホン酸(TsOH)を用いた場合は、共に反応はほとんど進行しなかった(反応1,2)。ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)とテトラフルオロホウ酸(HBF4)の組み合わせたものを触媒として用いた場合、ほぼ同程度の高い収率で目的生成物が得られた(反応3,4)。参考例1の化合物を触媒とした場合、反応時間はのびるものの81%の高収率で目的生成物が得られた(反応5)。
【0032】
更に、リサイクル実験により触媒の再利用が可能かどうかを検討した。DBSAを用いた場合、及びSDSとHBF4を組み合わせて触媒として用いた場合には、共に触媒の回収・再利用を重ねる度に目的生成物の収率が著しく低下した。DBSAの場合、三回目の反応で収率は5%に、SDSとHBF4を組み合わせて触媒として用いた場合、四回目の反応で収率は11%まで低下した。これらの結果から、触媒の回収・再利用は通常の抽出・分液操作では難しいことが明らかになった(反応6−12)。一方、参考例1の化合物を触媒として用いた場合には、触媒の回収・再利用を繰り返しても触媒活性の低下はまったく見られなかった(反応13−17)。
【0033】
実施例2
アミンをo−アニシジンに固定し、各種アルデヒドを用いシリルエノラートとのマンニッヒ型反応を行った。以下に、各反応の詳細を示す。
【0034】
[反応1]
10ml、の丸底フラスコに参考例1で得た触媒(0.1mmol)を秤取り、水2ml、で溶解した.これにシクロヘキサンカルバルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10ml、を加え10分間撹拌した。次に飽和食塩水10ml、を加え、これを酢酸エチル10ml、で4回抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。
【0035】
3−シクロヘキシル−3−(2−メトキシメチル)アミノ−1−フェニル−1−プロパノン
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ7.92-7.91 (2H, d, J=7.7Hz), 7.55-7.41 (3H, m), 6.83-6.58 (4H, m), 4.36 (1H, br), 4.00-3.98 (1H, m), 3.81 (3H, s), 3.26-3.08 (2H, m), 1.94-1.91 (1H, m), 1.78-1.67 (5H, m), 1.27-1.06 (5H, m);
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ199.40, 146.76, 137.50, 137.22, 132.97, 128.54, 128.07, 122.35, 115.90, 110.15, 109.58, 55.46, 54.07, 41.19, 40.90, 29.82, 29.10, 26.49, 26.37, 26.34;
IR (KBr, cm-1) 3436, 1676, 1451, 1223, 1027, 742.
【0036】
[反応2]
10mlの丸底フラスコに参考例1で得た触媒(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにp−トリフルオロメチルベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った、反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加え10分間撹拌した。次に飽和食塩水10mlを加え、これを酢酸エチル10mlで4回抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。
【0037】
3−(2−メトキシフェニル)アミノ−1−フェニル−3−(4−トリフルオロメチルフェニル)−1−プロパノン
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ7.92-7.90 (2H, m), 7.58-7.54 (5H, m), 7.46-7.42 (2H, m), 6.77-6.62 (3H, m), 6.39-6.36 (1H, m), 5.13-5.10 (1H, t, J=6.3Hz), 5.03 (1H, br), 3.85 (3H, s), 3.58-3.45 (2H, m);
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ197.25, 147.40, 147.02, 136.58, 136.40, 133.51, 128.73, 128.15, 126.90, 125.75, 125.71, 125.70, 121.09, 117.34, 111.25, 109,54, 55.49, 53.91, 46.42;
IR (KBr, cm-1) 3418, 1688, 1326, 1226, 1123, 1066, 732.
【0038】
[反応3]
10mlの丸底フラスコに参考例1で得た触媒(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにp−ブロモベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加え10分間撹拌した。次に飽和食塩水10mlを加え、これを酢酸エチル10mlで4回抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。
【0039】
3−(4−ブロモフェニル)−3−(2−メトキシフェニル)アミノ−1−フェニル−1−プロパン
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ7.91-7.89 (2H, m), 7.58-7.54 (1H, m), 7.46-7.40 (4H, m), 7.34-7.31 (2H, m), 6.76-6.69 (2H, m), 6.66-6.62 (1H, m), 6.40-6.38 (1H, m), 5.03-4.99 (1H, t, J=6.4Hz), 4.96 (1H, br), 3.84 (3H, s), 3.54-3.43 (2H, m);
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ197.47, 146.98, 142.25, 136.66, 136.48, 133.43, 131.83, 128.70, 128.27, 128.16, 121.07, 120.97, 117.19, 111.31, 109.47, 55.49, 53.78, 46.49;
IR (KBr, cm-1) 3418, 1685, 1306, 1222, 1021, 735, 688.
【0040】
[反応4]
10mlの丸底フラスコに参考例1で得た触媒(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにo−ブロモベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加え10分間撹拌した。次に飽和食塩水10mlを加え、これを酢酸エチル10mlで4回抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。
【0041】
3−(2−ブロモフェニル)−3−(2−メトキシフェニル)アミノ−1−フェニル−1−プロパノン
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ8.00-7.97 (2H, m), 7.57-7.42 (5H, m), 7.22-7.18 (1H, m), 7.10-7.07 (1H, m), 6.22-6.20 (1H, m), 5.32-5.29 (2H, m br), 3.86 (3H, s), 3.59-3.55 (1H, m), 3.39-3.32 (1H, m);
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ197.90, 147.01, 141.23, 136.60, 136.35, 133.38, 133.02, 128.82, 128.64, 128.36, 128.16, 128.03, 122.70, 122.09, 117.00, 111.19, 109.42, 55.55, 53.79, 44.28;
IR (KBr, cm-1) 3424, 1677, 1350, 1232, 1022, 736, 689.
【0042】
[反応5]
10mlの丸底フラスコに参考例1で得た触媒(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにp−アニスアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加え10分間撹拌した。次に飽和食塩水10mlを加え、これを酢酸エチル10mlで4回抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。
【0043】
3−(4−メトキシフェニル)−3−(2−メトキシフェニル)アミノ−1−フェニル−1−プロパノン
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ7.91-7.89 (2H, m), 7.55-7.7.51 (1H, m), 7.44-7.40 (2H, m), 7.36-7.34 (2H, m), 6.84-6.82 (2H, m), 6.74-6.69 (2H, m), 6.63-6.59 (1H, m), 6.47-6.45 (1H, m), 5.02-4.99 (1H, t, J=6.4Hz), 4.93 (1H, br), 3.38 (3H, s), 3.74 (3H, s), 3.49-3.47 (2H, d, J=4.6Hz);
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ198.05, 158.70, 146.96, 136.86, 135.10, 133.22, 128.61, 128.17, 127.50, 122.10, 116.79, 114.08, 111.27, 109.40, 55.50, 55.20, 53.74, 46.68;
IR (neat, cm-1) 3380, 1685, 1341, 1249, 1030, 740.
【0044】
[反応6]
10mlの丸底フラスコに参考例1で得た触媒(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにp−アニスアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、1−フェニル−1−(トリメチルシリルオキシ)エチレン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間15時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加え10分間撹拌した。次に飽和食塩水10mlを加え、これを酢酸エチル10mlで4回抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。
【0045】
[反応7]
10mlの丸底フラスコに参考例1で得た触媒(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、2−(トリメチルシリルオキシ)プロパン(1.5mmol)を順に加え、反応温度25℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加え10分間撹拌した。次に飽和食塩水10mlを加え、これを酢酸エチル10mlで4回抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。
【0046】
4−(2−メトキシフェニル)アミノ−4−フェニル−1−ブタリン
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ7.29-7.18 (5H, m), 6.73-6.53 (3H, m), 6.33-6.31 (1H, m), 5.33-5.31 (1H, d, J=7.5Hz), 4.57-4.53 (1H, d, J=7.5Hz), 3.88 (3H, s), 3.66 (3H, s), 1.25 (3H, s), 1.20 (3H, s);
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ176.94, 146.88, 139.36, 136.94, 128.73, 127.92, 127.35, 121.05, 116.28, 110.86, 109.37, 64.01, 55.62, 52.02, 47.19, 24.14, 20.62;
IR (KBr, cm-1) 3425, 1730, 1341, 1253, 1026, 743.
【0047】
[反応8]
10mlの丸底フラスコに参考例1で得た触媒(0.1mmol)を秤取り、水2mlで溶解した。これにベンズアルデヒド(1mmol)、o−アニシジン(1mmol)、メチルトリメチルシリルジメチルケテンアセタール(3mmol)を順に加え、反応温度0℃、反応時間8時間、撹拌子(φ4.5mm×12mm)を用い回転速度800rpmで液液二相系マンニッヒ反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加え10分間撹拌した。次に飽和食塩水10mlを加え、これを酢酸エチル10mlで4回抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水、濃縮した。この粗生成物をクロロホルムに溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィーによって単離・精製を行い、収率を算出した。
【0048】
メチル[3−(2−メトキシフェニル)アミノ−2,2−ジメチル−3−フェニル]プロパノン
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ7.36-7.34 (2H, m), 7.31-7.28 (2H, m), 7.22-7.19 (1H, m), 6.75-66.68 (2H, m), 6.64-6.59 (2H, m), 6.43-6.41 (1H, m), 4.88-4.85 (2H, m br), 3.84 (3H, s), 2.99-2.88 (2H, m), 2.09 (3H, s);
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ206.73, 146.92, 142.71, 136.60, 128.73, 127.27, 126.26, 121.08, 116.93, 111.22, 109.41, 55.46, 54.01, 51.68, 30.61;
IR (neat, cm-1) 3418, 1718, 1232, 1027, 739.
【0049】
結果を表2にまとめて示す。
【0050】
【表2】
Figure 0004001321
【0051】
脂肪族環式アルデヒドであるシクロヘキサンカルバルデヒドを用いた場合でも82%の高収率で目的生成物が得られた(反応1)。このシクロヘキサンカルバルデヒドを用いる反応は、DBSAを触媒とした場合、反応は進行しないことが知られている。ベンズアルデヒドにおける置換基効果を検討したところ(反応2,3,5,6)。電子吸引性基であるトリフルオロメチル基及び臭素が置換したベンズアルデヒドは、電子供与性基であるメトキシ基が置換したベンズアルデヒドにくらべ収率良く目的生成物を与えた。なお、本反応系において立体因子が影響を及ぼすことも確かめられた(反応4)。アセトン由来のシリルエノールエーテル、また分解しやすく不安定なシリルエノールエステルを用いた場合にも円滑な反応の進行が認められた(反応7,8)。
【0052】
【発明の効果】
本発明のカリックスアレーン類(1)は、その疎水性空孔による逆相間移動触媒としての作用とブレンステッド酸触媒としての作用により、液−液二相系反応において高い触媒活性を示す。本反応系は、界面活性剤を用いずに水中でのマンニッヒ型反応に成功した初めての例である。また触媒の回収・再利用の点で極めて優れていることから真に実用的な環境調和型有機合成反応用触媒として期待できる。

Claims (2)

  1. 一般式(1)
    Figure 0004001321
    (式中、R1及びR2 は水素原子を示し、 1 -(CH2)mSO3H(ここで、mは1又は2の数を示す)を示し、 2 メチル基を示す)
    で表されるカリックスアレーン類からなる水相−有機相二相系のマンニッヒ反応用水溶性逆相間移動ブレンステッド酸触媒。
  2. 水相−有機相二相系においてマンニッヒ反応により疎水性原料化合物から疎水性目的化合物を製造する方法であって、請求項1記載の水溶性逆相間移動ブレンステッド酸触媒の存在下に反応を行うことを特徴とする疎水性目的化合物の製造法。
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