JP3999003B2 - 光記録媒体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は光記録媒体の製造方法に関し、詳しくは、光ビームを照射することにより記録層材料に相変化を生じさせ、情報の記録・再生を行い、かつ、書換えが可能である情報記録媒体(光記録媒体)の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電磁波、特にレーザービームの照射による情報の記録、再生および消去可能な光記録媒体の一つとして、結晶−非結晶相間あるいは結晶−結晶相間の転移を利用する、いわゆる相変化形光記録媒体がよく知られている。特に、光磁気メモリーでは困難な単一ビームによるオーバーライトが可能であり、ドライブ側の光学系よりも単純であることなどから、最近その研究開発が活発に行なわれるようになってきている。
【0003】
その代表的な例としては、USP3530441に開示されているように、GeTe、GeTeSe、GeTeS、GeSeS、GeSeSb、GeAsSe、InTe、SeTe、SeAsなどのいわゆるカルコゲン系合金材料があげられる。また、安定性、高速結晶化等の向上を目的に、Ge−Te系にAu(特開昭61−219692号)、SnおよびAu(特開昭61−270190号)、Pd(特開昭62−19490号)などを添加した材料の提案や、記録/消去の繰返し性能向上を目的に、GeTeSeSb、GeTeSbの組成比を特定した材料(特開昭62−73438号、特開昭63−228433号)の提案などもなされている。
【0004】
しかしながら、そのいずれもが書替え型相変化形光記録媒体として要求される諸特性のすべてを満足しうるものとはいえない。特に、記録感度、消去感度の向上、オーバーライト時の消しの残りによる消去比低下の防止が解決すべき最重要課題となっている。
【0005】
これらの課題を解決するために、Ag−In−Sb−Te系の混相記録材料が開発された(特開平3−240590号、特開平4−78031号、特開平4−232779号、特開平5−345478号など)。これらの混相記録材料は、ピークパワー12mW以下の記録感度、消去感度を有する。特に、消去比が大きく、マークエッジ記録用の記録層として優れている。しかし、現在提案されているAg−In−Sb−Te系混相材料を記録層とした光記録媒体の保存信頼性や繰返し信頼性については、満足できるものとはいえず、更になる改良が要求されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記の実情に鑑みてなされたもので、Ag−In−Sb−Te系混相材料を記録層とし、保存信頼性、繰返し信頼性に優れ、特に、初期劣化の抑制された情報記録媒体の製造方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは光記録媒体の製造方法、及びそれの作製に用いられるスパッタリング用ターゲット等について鋭意研究を重ねた結果、前記課題に合致する光記録媒体の製造方法を見出した。すなわち、本発明によれば、以下に示す光記録媒体の製造方法が提供される。
【0008】
(1)基本層構成が、ポリカーボネート基板/第1保護層/記録層/第2保護層/反射放熱層/紫外線硬化樹脂層であり、該記録層の厚さが8〜30nmであり、かつ該記録層の構成元素が、Ag、In、Te、Sbを含有し、それぞれの組成比α、β、γ、δ(原子%)が、
0<α≦30
0<β≦30
10<γ≦50
10<δ≦80
α−γ/2≦−8
α+β+γ+δ=100
である相変化型光記録媒体の製造方法であって、構成元素が主にAg、In、Te、Sbであり、それぞれの組成比α、β、γ、δ(原子%)が、2≦α≦30、3≦β≦30、10≦γ≦50、15≦δ≦83、α+β+γ+δ=100であるスパッタリング用ターゲットを使用し、アルゴンガスのみの存在下でスパッタリングして、該記録層を成膜することを特徴とする光記録媒体の製造方法。
【0009】
(2)基本層構成が、ポリカーボネート基板/第1保護層/記録層/第2保護層/反射放熱層/紫外線硬化樹脂層であり、該記録層の厚さが8〜30nmであり、かつ該記録層の構成元素が、AgとInとTeとSbと窒素及び/又は酸素を含有し、それぞれの組成比α、β、γ、δ、ε(εは窒素及び/又は酸素の総計)(原子%)が、
0<α≦30
0<β≦30
9<γ≦50
9<δ≦80
0<ε≦5
α−γ/2≦−8
α+β+γ+δ+ε=100
である相変化型光記録媒体の製造方法であって、構成元素が主にAg、In、Te、Sbであり、それぞれの組成比α、β、γ、δ(原子%)が、2≦α≦30、3≦β≦30、10≦γ≦50、15≦δ≦83、α+β+γ+δ=100であるスパッタリング用ターゲットを使用し、アルゴンガスに0mol%以上15mol%以下の窒素ガスを混合したガスの存在下でスパッタリングして、該記録層を成膜することを特徴とする光記録媒体の製造方法。
【0010】
(3)前記(1)又は(2)において、記録層に構成元素であるAg、In、Te、Sbのいずれかと合金化あるいは化合物化できる元素がさらに添加されている光記録媒体の製造方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかにおいて、ターゲット中に含まれる化合物ないし混合物が、Sbとカルコパイライト構造を有する化学量論組成及び/又はそれに近い組成のAgInTe 2 とを主成分とする光記録媒体の製造方法。
(5)前記(4)において、カルコパイライト構造を有する化学量論組成及び/又はそれに近い組成のAgInTe 2 が形成する結晶子の粒径dが、d≦450Åである光記録媒体の製造方法。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかにおいて、スパッタリング前の背圧pを、
3×10 -7 ≦p≦5×10 -6 torr
に設定する光記録媒体の製造方法。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかにおいて、スパッタリング後に、スパッタリング時よりも高濃度の窒素ガスを含むガスをスパッタチャンバー内に流入させる光記録媒体の製造方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の光記録媒体を得るには、記録層を形成するのに有用なスパッタリング用ターゲットが必要である。このため、本発明におけるスパッタリング用ターゲットでは(i)ターゲット中に含まれる化合物がSbと、カルコパイライト構造を有する化学量論組成及び/又はそれに近い組成のAgInTe2とが存在するものの使用が望ましい。ここで(ii)前記のカルコパイライト構造を有する化学量論組成及び/又はそれに近い組成のAgInTe2はそれを形成する結晶子の粒径dが
d≦450Å
であることが好ましい。
【0013】
スパッタリング用ターゲットの製造方法では(iii)焼結以前の工程として、融点以下での熱処理工程(適当な熱処理としては200〜450℃好ましくはおよそ300〜400℃、特に混合物の焼結温度以下である350℃程度で行なう)を含むこと、また、スパッタリング時は(iv)スパッタリング用ターゲットを使用してスパッタリングを行なう際に、アルゴンガスに0mol%以上15mol%以下の窒素ガスを混合したガスを用いて記録層を成膜すること、(iv)スパッタリング前の背圧pを3×10-7≦p≦5×10-6Torrに設定すること、及び/又は(v)スパッタリング後に、スパッタリング時よりも高濃度の窒素ガスを含むガスをスパッタチャンバー内に流出させることが有利である。
【0014】
本発明の光記録媒体での記録層は、(vi)その主な構成元素Ag、In、Te、Sbのうち少なくとも一つの元素の窒化物及び/又は酸化物あるいは窒素単体を含有させておくこと(窒化物、酸化物もしくは窒素単体が記録層の粒界又は界面を形成することを含む)が望ましい。
【0015】
良好なディスク特性が得られるターゲット組成は2≦α≦30、3≦β≦30、10≦γ≦50、15≦δ≦83、α+β+γ+δ=100であるが、より良好なディスク特性を得るには、2≦α≦27、5≦β≦28、13≦γ≦45、20≦δ≦75、α+β+γ+δ=100であり、最も良好なディスク特性を得るには、2≦α≦25、8≦β≦25、15≦γ≦40、25≦δ≦65である。保護層や反射層など記録層以外のディスク構成材料、及びその膜厚等により、所望の線速、マーク長等の記録条件に最も適したターゲット組成を選ぶことができる。
【0016】
既述のとおり、本発明のスパッタリング用ターゲット中には、記述のとおり、主にSbとカルコパイライト構造を有する化学量論組成及び/又はそれに近い組成のAgInTe2とが存在することが好ましい。この場合、薄膜の記録層を設置した後、適切な熱処理(初期化)を行うことにより、主に微結晶AgSbTe2とアモルファスIn−Sbからなる混相状態を得ることができる。この混相状態を記録層に存在させることにより消去比が高く、低パワーで記録−消去の多数回繰り返しが可能な光記録媒体を得ることが可能となる。
【0017】
カルコパライト構造を有する化学量論組成及び/又はそれに近い組成のAgInTe2の結晶子粒径は、例えばターゲットを粉砕しX線回析で得られるメインパーク(X線源Cu、λ≒1.54Åの場合、約24.1°)の線幅より計算することができる。計算に際しては充分に結晶子径の大きな基準サンプルで線幅の修正を行う必要がある。AgInTe2の結晶子粒径が450Å以上の場合には、薄膜の記録層を設置した後、適切な処理を施しても安定な記録・消去を行うことのできる混相状態を得ることが困難となる。
【0018】
本発明のスパッタリング用ターゲットを用いて記録層を製膜する場合、先に触れたとおり、スパッタリング前の背圧pは3×10-7≦p≦5×10-6Torrであることが望ましいが、背圧をこの範囲内の値に設定すると、膜中に適当な不連続相(バリア)ができ、AgInTe2とSbとのアモルファス相から、微結晶AgSbTe2とアモルファスIn−Sbとの混相状態を得やすくなる。また、スパッタリング時のガスとして、アルゴンガスに窒素ガスを0mol%以上15mol%以下混合したガスを用いることで窒素量に応じて製膜後の記録層の組成を調整し、線速、層構成、ディスクの使用条件に最も適した記録層を得ることができる。また、窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを用いることにより、繰り返し記録消去の耐久性も向上する。混合ガスは所望のモル比であらかじめ混合したガスを用いても、チャンバー導入時に所望のモル比になるよう流量をそれぞれ調整してもよい。
【0019】
本発明のスパッタリングターゲット及びその製法、製膜方法により製膜された記録層の処理(初期化)、記録、再生および消去に用いる電磁波としてはレーザー光、電子線、X線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波など種々のものが採用可能である。特に記録、再生および消去に用いる電磁波としては、ドライブに取付ける際小型でコンパクトな半導体レーザーが最適である。
【0020】
本発明の製法により作製されたスパッタリングターゲット及び製膜方法により製膜された記録層の膜厚としては80〜5000Å、好適には150〜1000Åとするのがよい。80Åより薄いと光吸収能が著しく低下し、記録層としての役割を果たさなくなる。また、5000Åより厚いと高速で均一な相変化がおこりにくくなる。
【0021】
ところで、本発明の意図するものの一つにAg−In−Sb−Te系相変化形光記録媒体の主要技術課題である、(1)保存信頼性、及び(2)オーバーライトの繰返し信頼性の向上を達成することがある。
【0022】
そこで先ず、Ag−In−Sb−Te系相変化形光記録媒体について、80℃85%RHでの保存劣化挙動を調べた。ここでの評価項目は、アーカイバル特性(保存した記録信号の特性)、シェルフ特性(保存した初期化部への記録特性)、およびオーバーライトシェルフ特性(保存した記録信号部へのオーバーライト記録特性)とした。評価条件は、線速1.2m/s、オーバーライト記録周波数は0.72MHz/0.20MHzとした。評価したサンプルは次の5種類である。
No. 構成(膜厚nm)
1(○) PC/ZnSSiO2(200)/Ag8In15Sb43Te34(35)/AIN(30)/Ag(70)
2(△) PC/ZnSSiO2(200)/Ag8In11Sb49Te32(30)/ZnSSiO2(20)/Al合金(100)
3(▲) PC/ZnSSiO2(200)/Ag8In11Sb49Te32(20)/ZnSSiO2(20)/Al合金(100)
4(□) PC/ZnSSiO2(200)/Ag11In14Sb43Te32(30)/ZnSSiO2(20)/Al合金(100)
5(■) PC/ZnSSiO2(200)/Ag11In14Sb43Te32(20)/ZnSSiO2(20)/Al合金(100)
PCはポリカーボネート基板を意味し、記録層の組成はICP分析により評価した。また、いずれのディスクも紫外線硬化樹脂4μmを設けた。
【0023】
これら5種類の保存劣化挙動を図1に示す。図1はAg−In−Sb−Te系相変化形光ディスクの保存特性を示すもので、(a)はアーカイバル特性、図1(b)はシェルフ特性、図1(c)はオーバーライトシェルフを表わしている。図1から明らかなように、劣化のモードとして、
(1)オーバーライトシェルフの初期劣化(約200時間)
(2)アーカイバル特性の中期劣化(約1000時間)
が認められた。中でも、オーバーライトシェルフの初期劣化が大きな問題であることがわかった。
【0024】
続いて、オーバーライトシェルフの初期劣化の対策を実施するために、その劣化の解析を行なった。その結果、80℃85%RHの高温高湿保存によって、アモルファス化不十分な部位の存在することがわかった。また、その劣化速度は、記録層の組成に依存することもわかった。その様子を図2に示す。図2から、Ag−Te/2(原子%)が−8以下のとき、オーバーライトシェルフの初期劣化が大きく改善されることがわかる。また、オーバーライトシェルフの初期劣化は、記録層の膜厚、第2保護層材料、反射放熱層材料等の層構成に顕著な依存性は認められないことがわかる。
【0025】
続いて、Ag−In−Sb−Te系相変化形光記録媒体の繰返し特性について検討した。オーバーライトの繰返し後の記録層の構造を透過型電子顕微鏡観察および電子線回折を行なったところ、(1)ボイドの生成、(2)組成の編析、が認められた。
ボイドの生成と組成の編析は、表裏一体の現象であり、物質の移動元がボイドとなり、移動先が組成の編析として観察されたことになる。つまり、物質移動がオーバーライトの繰返し特性の劣化となっている。この物質移動の駆動力は、記録層に生じる引っ張り応力勾配が原因と考えられている(C.Herring,J.Appl.Phys.,21,437(1950))。
【0026】
相変化形光記録媒体では、記録の際、レーザー照射によって記録層が溶融する。その際、溶融部分の引っ張り応力は、ほとんど無くなってしまい、大きな引っ張り応力勾配が生じていることになる(図3(b))。記録層に生じる引っ張り応力は、第1保護層および第2保護層の熱応力及び真性応力(特に、圧縮応力)の和によって決まる。従って、記録層の引っ張り応力の低減は、第1保護層及び第2保護層の熱応力及び圧縮応力の低減にほかならない。図3(a)は未記録時すなわち応力が生じない状態を表わしている。
【0027】
第1保護層の応力に対するオーバーライト繰返し回数の関係を図4に示す。繰返し回数を2000回以上とすると、保護層の応力としては、熱応力+真性応力で、−150MPa以上、繰返し回数10000回以上とすると、保護層の応力としては、熱応力+真性応力で、−100MPa以上が好適である。
【0028】
また、記録層に生じる引っ張り応力が、記録層の降伏応力を超えると、記録層は、やがてボイドを生じ断絶してしまう。したがって、記録層の降伏応力は、記録層に生じる引っ張り応力より大きくなければならない。Ag−In−Sb−Te系記録層の膜厚とその降伏応力の関係を図5に示す。Ag−In−Sb−Te系記録層に生じる引っ張り応力は150〜250MPaであり、記録層の降伏応力はそれ以上にする必要がある。つまり、記録その降伏応力は、好ましくは200MPa以上、さらに好ましくは250MPa以上が好適である。したがって、Ag−In−Sb−Te系記録層は500nm以下、好ましくは、30nm以下の膜厚が好適である。
【0029】
一方、繰返しオーバーライトによってできるボイドは、第1保護層および第2保護層に異なる材料を用いることで促進される。相変化形光記録媒体では、記録層をはさむ保護層材料が異なると、記録層の上下でぬれ性が異なるため記録消去の際の溶融時に、よりぬれ性の良好な界面に記録材料が移動してしまい、ぬれ性の良くない界面にボイドを形成してしまう。その結果、オーバーライトの繰返しによる劣化を生じてしまう。したがって、第1保護層と第2保護層を同一材料とすることで、オーバーライトの繰返し特性を向上することができる。
また、第1保護層と第2保護層の熱伝導率が異なると、熱応力分布を生じることとなり、やはり、物質移動の原因となる。したがって、この様な観点からも、第1保護層および第2保護層が同一の材料であることが望まれる。
【0030】
Ag−In−Sb−Te系相変化形記録材料は、特開平4−78031号に記載されているように、AgSbTe2とInSbの混相構造を形成していることがわかっている。光記録の際には、AgSbTe2が結晶−非結晶質間で相変化する。このときのAgSbTe2の大きさは、約10nmである。この様な混相構造において、物質移動量は混相界面が支配的と考えられる。その物質移動量は記録層に生じる引っ張り応力によって増大する。
さて、物質移動は、物質移動経路で移動物質を補足することでも軽減される。具体的には、炭素、窒素、酸素の各元素は4価、3価、2価の結合手をもっており、移動物質を補足することができる。また、Ag、In、Sb、Teのいずれかの構成元素と合金化或いは化合物化できるAl、Ga、Se、Ge、Pd、Pbなどの添加も効果的である。
【0031】
本発明で使用する記録層は、Ag、In、Sb、Teを主構成元素としている。 相変化形記録媒体として、好適な組成は、
0<α≦30
0<β≦30
10≦γ≦50
10≦δ≦80
α−γ/2≦−8
α+β+γ+δ=100
であり、本発明は、この組成範囲において、さらに保存信頼性を確保するために好適な組成範囲である。また、本発明の記録層は、C、N、O、Al、Ga、Se、Ge、Pd、Pbなどの添加元素が含むことができる。記録層は、スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着、プラズマCVD法等によって作製できる。C、N、Oの添加には、CH4、N2、NH3、NO2、N2Oなどがもちいられる。
【0032】
本発明で使用する基板の材料は、通常、ガラス、セラミックス、あるいは、樹脂であり、なかでも樹脂基板が成型性、コストの点で好適である。樹脂の代表例として、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリルニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂などが使用できるが、加工性、光学特性等から、ポリカーボネート樹脂が好ましい。また、基板の形状は、ディスク状、カード状あるいは、シート状であってもよい。基板の厚さは1.2mm、0.6mm、0.3mm等任意のものが使用できるが、クロストークの基板チルト依存性の観点から、より基板厚の小さいものが望まれる。しかし、製膜上の困難や、歩留まり等を考慮すると0.6mmが好ましい。
【0033】
本発明で使用する第1及び第2保護層は、SiO、SiO2、ZnO、SnO2、Al2O3、TiO2、In2O3、MgO、Zro2などの酸化物、Si3N4、AIN、TiN、BN、ZrNなどの窒化物、ZnS、In2S3、TaS4などの硫化物、SiC、TaC4、B4C、WC、TiC、ZrCなどの炭化物やダイヤモンド状炭素、あるいはその混合物が好ましい。これら第1および第2保護層は、スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着、プラズマCVD法等によって作製できる。第1保護層の膜厚は50nm〜500nm、好ましくは100nm〜300nm、更に好ましくは120nm〜250nmである。第2保護層の膜厚は5nm〜300nm好ましくは、10nm〜50nmである。
スパッタ製膜の場合、第1及び第2保護層の応力は、製膜圧力、製膜電力、基板−ターゲット間距離などで制御することができる。一般に、製膜圧力を高く、製膜プラズマ電力を小さく、基板−ターゲット間距離を大きくすることで応力は軽減される。また、2種以上の複合材料を使用することでも応力の軽減を図ることができる。
【0034】
反射放熱層としては、Al、Ag、Auなどの金属材料およびそれらとTi、Cr、Si、などの添加材料が使用できる。反射放熱層は、必ずしも必要ではないが、記録消去の際に生じる過剰な熱を放出し、記録媒体自身への熱ダメージを軽減するために設けるほうが望ましい。反射放熱層は、スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着、プラズマCVD法等によって作製できる。
【0035】
【実施例】
以下に、実施例によって、本発明を具体的に説明する。
【0036】
実施例1〜4、参考例1〜12、及び比較例1〜8
表1にカルコパイライト構造を有する化学量論組成及び/又はそれに近い組成のAgInTe2とが存在するスパッタリングターゲットの組成、及びそれらを用いた場合のディスク特性を示す。これは幅約0.6μm、深さ約600Åのグルーブが形成されているディスク基板(厚さ1.2mm)に、ZnS・SiO2からなる200nm厚の下部保護層、25nm厚の記録層、ZnS・SiO2からなる30nm厚の上部保護層、アルミニウム合金(厚さ100nm)からなる反射放熱層、紫外線硬化型樹脂(厚さ5μm)からなる保護層を設置してディスクを作成する。なお、記録層のスパッタリング方法は背圧を9×10-7torrで、アルゴンガスをいれ4×10-3torrにして、RFpower40ワットで行なった。このディスクで最もC/Nが高くなる線速で測定し、マーク長約1μmのマークの記録特性、約3μmのマークでオーバーライトしたときの消去特性について評価した。ここで、半導体レーザーの波長は780nm、対物レンズのNAは0.5である。ディスク特性の欄の評価値は、レベル3が最も良好な特性(C/N≧55dB、消去比(Ers)≦−35dB)を示すターゲットであることを表し、レベル2は良好な特性(55>C/N≧45dB、−35<消去比(Ers)≦−25dB)を示すターゲットであることを表し、レベル1は良好な特性を有するディスクが得られなかった(上記以外のもの)ターゲットであることを示す。Ag、In、Te、Sbそれぞれの組成比α、β、γ、δ(原子%)が2≦α≦30、3≦β≦30、10≦γ≦50、15≦δ≦83であるターゲットのとき、本発明で規定した組成比の記録層が得られ、良好なディスク特性が得られていることが判る。
【0037】
【表1】
【0038】
また、表2に参考例2のターゲットを用いて記録層をスパッタリングで製膜する際、アルゴンガス単独、アルゴンガスに0.6、15、20mol%の窒素ガスを混合したガスを用いた場合の記録膜の組成とオーバーライト繰り返し可能回数を示す。評価はそれぞれのディスクに適した記録条件で行った。またマーク長が約1μm、約3μmのオーバーライトとなる様に記録周波長を調節した。表2より窒素量が15mol%を越すと繰り返し回数が急激に低下することがわかる。
【0039】
【表2】
【0040】
参考例13
実施例4のターゲット原材料を溶融急冷し、粉砕した後熱処理を行ない、続いて焼結して製造した。これと対比するために熱処理を施さなかった以外は同様にしたターゲット(実施例4と同じもの)を用意した。これらを用いて実施例4と同様のディスクを作製した。ディスクの線速5m/s時のオーバーライト特性を図6(熱処理を行なったもの)、図7(熱処理を施さなかったもの)に示す。その結果、熱処理を行なったものの方がディスク特性、感度ともに優っているのが判った。
【0041】
比較例9
実施例1〜4及び参考例1〜12のターゲットに含まれるAgInTe2の結晶子径は450Å以下である。参考例7と同一組成のターゲットで結晶子径が約500Åのものを用意し、これらによって参考例7と同様にしてディスクを作製した。このディスクの線速2m/s時のオーバーライト特性を図8に示した。図8から明らかなように、結晶子径が500Åのものは450Å以下のものに比較して特性が劣ったものである。
【0042】
参考例14
参考例4と同一組成で原材料溶融温度を600℃以上、580℃とした以外は参考例4と同様にしてディスクを作製した。これらディスクを比較したところ、溶融温度600℃以上にしたものの方が記録消去は良好に行なえた。
【0043】
実施例5
ポリカーボネート(1.2mm)/ZnSSiO2(200nm)/Ag8In11Sb47Te34(20nm)/ZnSSiO2(20nm)/Al合金(100nm)/紫外線硬化樹脂(4μm)という構成の相変化形光ディスクをスパッタリングによって作製した。ただし、紫外線硬化樹脂は、スピンコートによって作製した。第1保護層および第2保護層は、反応圧0.008torr、プラズマ電力1.0kWで作製して、−130MPaの応力に制御した。記録層の組成は、Ag−Te/2=−9に制御した。また、この記録層の降伏応力は、270MPaであった。このディスクの保存特性および繰返しオーバーライト特性を評価した。評価条件は、線速1.2m/s、オーバーライト記録周波数0.72MHz/0.20MHzとした。寿命の判定は、ジッタ1σが15nsをこえる時間および繰返し回数とした。その結果、80℃85%RHの保存でアーカイバル特性、シェルフ特性、オーバーライトシェルフ特性ともに、2000時間以上の寿命であった。一方、オーバーライトの繰返し回数は、5000回程度であった。
【0044】
実施例6
ポリカーボネート(1.2mm)/ZnSSiO2(200nm)/Ag8In11Sb47Te34:N(20nm)/ZnSSiO2(20nm)/Al合金(100nm)/紫外線硬化樹脂(4μm)という構成の相変化形光ディスクをスパッタリングによって作製した。記録層は、スパッタリングの際、N2をArに3%添加して作製した。ただし、紫外線硬化樹脂は、スピンコートによって作製した。第1保護層及び第2保護層は、反応圧0.008torr、プラズマ電力1.0kWで作製して、−130MPaの応力に制御した。記録層の組成は、Ag−Te/2=−9に制御した。また、この記録層の降伏応力は、270MPaであった。このディスクの保存特性及び繰返しオーバーライト特性を評価した。評価条件は、線速1.2m/s、オーバーライト記録周波数0.72MHz/0.20MHzとした。寿命の判定は、ジッタ1σが15nsをこえる時間および繰返し回数とした。その結果、80℃85%RHの保存でアーカイバル特性、シェルフ特性、オーバーライトシェルフ特性ともに、2000時間以上の寿命であった。一方、オーバーライトの繰返し回数は、7000回程度であった。Nの添加によって、繰返し特性が向上することが確認された。
【0045】
実施例7
ポリカーボネート(1.2mm)/ZnSSiO2(200nm)/Ag8In11Sb47Te34:Pd(20nm)/ZnSSiO2(20nm)/Al合金(100nm)/紫外線硬化樹脂(4μm)という構成の相変化形光ディスクをスパッタリングによって作製した。記録層は、スパッタリングの際、記録層のターゲットにPdを0.3wt%添加して作製した。ただし、紫外線硬化樹脂は、スピンコートによって作製した。第1保護層及び第2保護層は、反応圧0.008torr、プラズマ電力1.0kWで作製して、−130MPaの応力に制御した。記録層の組成は、Ag−Te/2=−9に制御した。また、この記録層の降伏応力は、270MPaであった。このディスクの保存特性及び繰返しオーバーライト特性を評価した。評価条件は、線速1.2m/s、オーバーライト記録周波数0.72MHz/0.20MHzとした。寿命の判定は、ジッタ1σが15nsをこえる時間および繰返し回数とした。その結果、80℃85%RHの保存でアーカイバル特性、シェルフ特性、オーバーライトシェルフ特性ともに、2000時間以上の寿命であった。一方、オーバーライトの繰返し回数は、7000回程度であった。Pdの添加によって、繰返し特性が向上することが確認された。
【0046】
実施例8
ポリカーボネート(1.2mm)/ZnSSiO2(200nm)/Ag8In11Sb47Te34(17nm)/ZnSSiO2(20nm)/Al合金(100nm)/紫外線硬化樹脂(4μm)という構成の相変化形光ディスクをスパッタリングによって作製した。ただし、紫外線硬化樹脂は、スピンコートによって作製した。第1保護層及び第2保護層は、反応圧0.008torr、プラズマ電力1.0kWで作製して、−130MPaの応力に制御した。記録層の組成は、Ag−Te/2=−9に制御した。また、この記録層の降伏応力は、290MPaであった。このディスクの保存特性及び繰返しオーバーライト特性を評価した。評価条件は、線速1.2m/s、オーバーライト記録周波数0.72MHz/0.20MHzとした。寿命の判定は、ジッタ1σが15nsをこえる時間および繰返し回数とした。その結果、80℃85%RHの保存はアーカイバル特性、シェルフ特性、オーバーライトシェルフ特性ともに、2000時間以上の寿命であった。一方、オーバーライトの繰返し回数は、8000回程度であった。
【0047】
実施例9
ポリカーボネート(1.2mm)/ZnSSiO2(200nm)/Ag8In11Sb47Te34(17nm)/ZnSSiO2(20nm)/Al合金(100nm)/紫外線硬化樹脂(4μm)という構成の相変化形光ディスクをスパッタリングによって作製した。ただし、紫外線硬化樹脂は、スピンコートによって作製した。第1保護層及び第2保護層は、反応圧0.008torr、プラズマ電力0.8kWで作製して、−100MPaの応力に制御した。記録層の組成は、Ag−Te/2=−9に制御した。また、この記録層の降伏応力は、290MPaであった。このディスクの保存特性及び繰返しオーバーライト特性を評価した。評価条件は、線速1.2m/s、オーバーライト記録周波数0.72MHz/0.20MHzとした。寿命の判定は、ジッタ1σが15nsをこえる時間および繰返し回数とした。その結果、80℃85%RHの保存でアーカイバル特性、シェルフ特性、オーバーライトシェルフ特性は、ともに2000時間以上の寿命であった。また、オーバーライトの繰返し回数は、10000回程度であった。
【0048】
実施例10
実施例3において、ターゲットを用いてスパッタリングを行なう際の背圧と得られた記録層のC/Nの関係を図9に示す。なお、背圧以外のスパッタリングの条件、記録媒体の層構成、評価条件等は実施例3と同様に行なった。その結果、図9に示したように3×10-7≦P≦5×10-8torrの範囲の背圧でスパッタした時、良好なC/Nを示す記録層を得ることができた。
【0049】
【発明の効果】
本発明によって、C/N、消去比、感度、ジッター、保存信頼性、繰返し信頼性に優れる情報記録媒体を提供することができた。とくに、保存信頼性、繰返し信頼性の大幅な向上ができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】Ag−In−Sb−Te系相変化形光ディスクの保存特性を示したもので、(a)はアーカイバル特性、(b)はシェルフ特性、(c)はオーバーライトシェル特性、をそれぞれ表わした図。
【図2】オーバーライトシェルフの初期劣化速度の記録層組成依存性を表わした図。
【図3】(a)は未記録時で記録層に応力が生じない状態を表わした図、(b)はレーザービーム照射(記録時)に記録層に大きな引っ張り応力が生じることを表わした図。
【図4】保護層の応力と光記録媒の繰り返し回数との関係を表わした図。
【図5】Ag−In−Sb−Te膜の膜厚と降伏応力との関係を表わした図。
【図6】ターゲット材料を製造する際、焼結前に熱処理を行ったターゲットを用いてつくった光記録媒体の性能を表した図。
【図7】ターゲット材料を製造する際、熱処理を行わなかったターゲットを用いてつくった光記録媒体の性能を表した図。
【図8】同一組織のターゲットで結晶子径を500Åとして光記録媒体をつくり、その性能を表した図。
【図9】ターゲットを用いてスパッタリングを行なう際の背圧と得られた記録層のC/Nの関係を示す図。
Claims (7)
- 基本層構成が、ポリカーボネート基板/第1保護層/記録層/第2保護層/反射放熱層/紫外線硬化樹脂層であり、該記録層の厚さが8〜30nmであり、かつ該記録層の構成元素が、Ag、In、Te、Sbを含有し、それぞれの組成比α、β、γ、δ(原子%)が、
0<α≦30
0<β≦30
10<γ≦50
10<δ≦80
α−γ/2≦−8
α+β+γ+δ=100
である相変化型光記録媒体の製造方法であって、構成元素が主にAg、In、Te、Sbであり、それぞれの組成比α、β、γ、δ(原子%)が、2≦α≦30、3≦β≦30、10≦γ≦50、15≦δ≦83、α+β+γ+δ=100であるスパッタリング用ターゲットを使用し、アルゴンガスのみの存在下でスパッタリングして、該記録層を成膜することを特徴とする光記録媒体の製造方法。 - 基本層構成が、ポリカーボネート基板/第1保護層/記録層/第2保護層/反射放熱層/紫外線硬化樹脂層であり、該記録層の厚さが8〜30nmであり、かつ該記録層の構成元素が、AgとInとTeとSbと窒素及び/又は酸素を含有し、それぞれの組成比α、β、γ、δ、ε(εは窒素及び/又は酸素の総計)(原子%)が、
0<α≦30
0<β≦30
9<γ≦50
9<δ≦80
0<ε≦5
α−γ/2≦−8
α+β+γ+δ+ε=100
である相変化型光記録媒体の製造方法であって、構成元素が主にAg、In、Te、Sbであり、それぞれの組成比α、β、γ、δ(原子%)が、2≦α≦30、3≦β≦30、10≦γ≦50、15≦δ≦83、α+β+γ+δ=100であるスパッタリング用ターゲットを使用し、アルゴンガスに0mol%以上15mol%以下の窒素ガスを混合したガスの存在下でスパッタリングして、該記録層を成膜することを特徴とする光記録媒体の製造方法。 - 前記記録層に構成元素であるAg、In、Te、Sbのいずれかと合金化あるいは化合物化できる元素がさらに添加されている請求項1又は2に記載の光記録媒体の製造方法。
- 前記ターゲット中に含まれる化合物ないし混合物が、Sbとカルコパイライト構造を有する化学量論組成及び/又はそれに近い組成のAgInTe2とを主成分とする請求項1〜3のいずれかに記載の光記録媒体の製造方法。
- 前記カルコパイライト構造を有する化学量論組成及び/又はそれに近い組成のAgInTe2が形成する結晶子の粒径dが、d≦450Åである請求項4に記載の光記録媒体の製造方法。
- スパッタリング前の背圧pを、
3×10-7≦p≦5×10-6torr
に設定する請求項1〜5のいずれかに記載の光記録媒体の製造方法。 - スパッタリング後に、スパッタリング時よりも高濃度の窒素ガスを含むガスをスパッタチャンバー内に流入させる請求項1〜6のいずれかに記載の光記録媒体の製造方法。
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