JP3997931B2 - 高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 - Google Patents

高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車,建材,家電等の分野で使用するのに好適な、めっき密着性に優れた高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、 自動車,建材,家電等の分野において、高張力鋼板の用途が広がっている。特に自動車業界においては、車体を軽量化して燃費を向上するとともに、衝突安全性を高めるという観点から、高張力鋼板の使用量が急増している。このような高張力鋼板は、たとえば特公平3-51778 号公報に開示されているように、強度延性バランス等の機械的性質を改善するために、Si,Mn,Ti,Al,P等の元素を添加したものが多い。
【0003】
しかしSi含有量を増加すると、焼鈍によって鋼板表面にSi酸化物が形成され、化成処理に支障をきたすのみならず、電気亜鉛めっきの密着性,溶融亜鉛めっきの密着性が劣化することが知られている。特にSiを含有する高張力鋼の溶融亜鉛めっきでは、部分的に溶融亜鉛が付着せず不均一なめっき層が形成(いわゆる不めっき)されたり、あるいはプレス加工でめっき層が剥離する等が大きな問題となっている。
【0004】
Si含有量が 0.1質量%を超えると、オールラジアントチューブ型(以下、Radiant Tube Furnaceを略してRTF型という)の焼鈍炉あるいは無酸化型(以下、Non Oxidized Furnaceを略してNOF型という)の焼鈍炉を有する連続式溶融亜鉛めっきラインで操業が著しく不安定になる。また素材となるスラブの熱間圧延工程で、Si−Fe系スケールに由来する凹凸が発生し、最終製品である高張力溶融亜鉛めっき鋼板の品質が損なわれる。
【0005】
SiやMnを多量に含有する鋼板のめっき密着性を向上させる方法として、連続式溶融亜鉛めっきライン(以下、Continuous Galvanizing Line を略してCGLという)に鋼板を導入する前に電気めっきを行なう方法(たとえば特開平2-194156号公報)や、クラッド法でSi,Mn含有量の少ない鋼板を表層に配置することによってめっき濡れ性を改善する方法(たとえば特開平3-199363号公報)が知られている。
【0006】
一方、 めっき層を十分に合金化させるためには、合金化処理の時間を延長したり、あるいは合金化温度を上昇させる必要がある。合金化時間を延長するためには、CGLの搬送速度を低下させなければならないので、生産性が低下し、製造コストの上昇を招く。一方、合金化温度を上昇させると、めっき層中のFe含有量の制御が困難となり、合金化が過剰に進行しやすい。しかも、めっき密着性が劣化し、製品歩留りが低下する。
【0007】
そこで、このような問題を回避しながら合金化を促進する技術として、特開昭58-120771 号公報には、還元焼鈍の前にNi,Cu等をめっきすることによって、Fe−Znの合金化を促進する技術が開示されている。しかし、この技術では、Ni,Cu等をめっきする新たな設備を設置する必要がある。
また特公昭64-11111号公報には、Zn浴のAl濃度および温度を変更して合金化処理の条件を一定にする技術が開示されている。しかし、Zn浴のAl濃度や温度を変化させるのに長時間を要する。その間、CGLの操業を停止しなければならないので、生産性の低下を招く。しかも、Si,Mn,Alを多量に含有する鋼板にこの技術を適用すると、めっき層の剥離や不めっき等の問題が生じる。
【0008】
特開平3-243751号公報には、P添加鋼を焼鈍した後、P濃化層を除去して合金化を促進する技術が開示されている。しかし、この技術を適用するP添加鋼は35kgf /mm2 級と呼ばれている強度の低い鋼種であり、高張力鋼板に適用するのは困難である。つまり特開平3-243751号公報に開示された技術を、45kgf /mm2 級と呼ばれる高張力鋼板や、さらに強度を高めた高張力鋼板に適用すると不めっき等の問題が生じる。しかも特開平3-243751号公報では連続焼鈍ライン(以下、 Continuous Annealing Line を略してCALという)の連続焼鈍炉の型式には言及しておらず、無酸化炉型,直火炉型あるいはRTF型の連続焼鈍炉の特性に応じた操業条件を設定できない。
【0009】
すなわち、これらの技術では高張力溶融亜鉛めっき鋼板のめっき密着性を改善するのは困難であった。高張力鋼板には、通常、Si,Mn,Alが複合添加されており、これらの元素を含有する高張力鋼板のめっき密着性を向上する技術が種々検討されている。
たとえば、特許第3110238 号公報や特許第3162901 号公報には、高張力鋼板を再結晶焼鈍し、次いで酸洗し、さらに再度焼鈍することによって、高張力鋼板のめっき密着性を改善する技術が開示されている。しかし、これらの技術では内部酸化層が生成されないので、自動車用鋼板等で要求される厳格なめっき密着性の仕様を満足するには不十分である。
【0010】
特許第3130470 号公報には、内部酸化層を形成することによって、SiやMnの表面濃化を抑制する技術が開示されている。しかし、この技術では巻取り温度を上げることが重要とされているが、巻取り温度の上昇によって高張力鋼板の延性の劣化を招くという問題がある。
特開2000-290730 号公報には、連続焼鈍炉の露点を高くすることによって、熱間圧延の条件に関わらず、連続焼鈍炉で内部酸化層を生成する技術が開示されている。しかし、この技術では炉内に多量の水分を導入して、 800〜1000℃の高温で加熱する際の雰囲気を加湿する必要がある。その結果、炉内に設置されるバーナー類,計測機器あるいは耐火物の耐用性が劣化するという問題がある。
【0011】
以上に説明したように、Si,Mn,Alを添加した高張力鋼板に溶融亜鉛めっきを施すにあたって、従来の技術では、表面凹凸や不めっき等の表面欠陥が発生したり、十分なめっき密着性が得られないという問題が生じるばかりでなく、生産性の低下や歩留りの低下を招くという問題がある。
【0012】
【特許文献1】
特公平3-51778 号公報
【特許文献2】
特開平2-194156号公報
【特許文献3】
特開平3-199363号公報
【特許文献4】
特開昭58-120771 号公報
【特許文献5】
特公昭64-11111号公報
【特許文献6】
特開平3-243751号公報
【特許文献7】
特許第3110238 号公報
【特許文献8】
特許第3162901 号公報
【特許文献9】
特許第3130470 号公報
【特許文献10】
特開2000-290730 号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記のような問題を解消し、高強度化元素としてSi,Mn,Alのうちの1種または2種以上を含有する高張力鋼板であっても、溶融亜鉛めっきを施すにあたって、優れた表面性状を有し、かつ優れためっき密着性を有する高張力溶融亜鉛めっき鋼板を効率良く製造する方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、高強度化元素としてSi,Mn,Alを含有する高張力鋼板に溶融亜鉛めっきを施す前に、直火炉型あるいは無酸化炉型の加熱帯を有する連続焼鈍炉を用いて再結晶焼鈍を施すことによって、高張力鋼板に高強度化元素の鋼板表面での濃化を防止することができ、その結果、高張力溶融亜鉛めっき鋼板のめっき密着性や表面性状を大幅に改善できることを見出した。
【0016】
すなわち本発明は、Si: 0.1〜2.0 質量%,Mn: 1.0〜3.5 質量%およびAl: 0.1〜2.5 質量%のうちの1種または2種以上を含有する高張力鋼板を、加熱帯温度を 400〜800 ℃、加熱帯雰囲気をH2 O:2〜30体積%、O2 :5体積%以下、CO+CO2 :20体積%以下、残部をN2 および不可避的不純物とし、さらに均熱帯温度を 750〜950 ℃、均熱帯雰囲気をH2 :1〜10体積%、残部をN2 および不可避的不純物とした連続焼鈍炉を用いて焼鈍を施した後、Si,MnおよびAlのうち高張力鋼板に含有される元素の表面濃化層の70%以上を酸洗によって除去し、しかる後に再加熱し、その後、高張力鋼板に溶融亜鉛めっきを施す高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0017】
前記した高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の発明においては、好適態様として、焼鈍によって高張力鋼板の表層部にSi,MnおよびAlのうち高張力鋼板に含有される元素を内部酸化させることが好ましい。
また、内部酸化によって高張力鋼板の表層部に生じる酸素増加量が片面あたり0.01g/m2 以上であることが好ましい。さらに、高張力鋼板に溶融亜鉛めっきを施した後、めっき層の合金化処理を施すことが好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明を適用する高張力鋼板は、Si: 0.1〜2.0 質量%,Mn: 1.0〜3.5 質量%およびAl: 0.1〜2.5 質量%のうちの1種または2種以上を含有する。
これらの3種の元素は、高張力鋼板としての強度を確保することを主な目的として添加するものであるから、ここでは高強度化元素と記す。なお高強度化元素には、高張力鋼板の強度を確保する他に、下記のような作用がある。本発明では高強度化元素のこれらの作用を考慮して、それぞれの含有量を設定した。
【0019】
Si含有量が 0.1質量%未満では、後述する本発明の連続焼鈍条件を適用しなくとも十分なめっき密着性が得られるから、本発明を適用する意義がない。一方、 2.0質量%を超えると、後述する本発明の焼鈍条件を適用してもSiの表面濃化層が過剰に生成され、めっき密着性が十分に改善されない。しかも合金化処理の進行が抑えられるので、合金化時間の延長あるいは合金化温度の上昇が必要となる。その結果、生産性の低下あるいはめっき密着性の劣化を招く。したがって、Siは 0.1〜2.0 質量%の範囲内とした。
【0020】
Mn含有量が 1.0質量%未満では、後述する本発明の連続焼鈍条件を適用しなくとも十分なめっき密着性が得られるから、本発明を適用する意義がない。一方、 3.5質量%を超えると、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の溶接性が劣化する。したがって、Mnは 1.0〜3.5 質量%の範囲内とした。
Al含有量が 0.1質量%未満では、後述する本発明の連続焼鈍条件を適用しなくとも十分なめっき密着性が得られるから、本発明を適用する意義がない。またAlは、鋼板組織を残留オーステナイト相を有する組織とし、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の強度延性バランスを改善するために有用であり、この意味でも 0.1質量%以上とすることが好ましい。一方、 2.5質量%を超えると、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の溶接性が劣化する。したがって、Alは 0.1〜2.5 質量%の範囲内とした。
【0021】
本発明を適用する高張力鋼板に添加する元素は、必ずしも上記した3種の高強度化元素に限定するものではない。高強度化元素に加えてCを添加し、さらにP,S,Ti,Nb,Cr,Mo,B,N,V等を必要に応じて添加しても良い。高強度化元素以外のこれらの元素の添加量は特定の範囲に限定せず、所定の強度が得られるように適宜添加する。これら元素の含有量は、C:0.25質量%以下,P:0.20質量%以下,S:0.01質量%以下,Ti: 0.3質量%以下,Nb: 0.3質量%以下,Cr:1質量%以下,Mo:1質量%以下,B: 0.005質量%以下,N:0.01質量%以下,V: 0.3質量%以下であれば特に問題はない。
【0022】
以上説明した元素以外の残部は、Feおよび不可避的不純物とすることが好ましい。また高張力鋼板の製造方法は、熱間圧延あるいは冷間圧延等、従来から知られている技術を使用する。
次に、本発明の最も重要な条件である連続焼鈍条件について説明する。
こうして所定の量の高強度化元素を含有する高張力鋼板を、無酸化炉型または直火炉型の加熱帯を有する連続焼鈍炉に装入して、焼鈍を施す。無酸化炉型または直火炉型の加熱帯は、炉内雰囲気の酸素分圧が比較的高いので、焼鈍の際の昇温過程で高強度化元素の内部酸化が促進される。こうして内部酸化を促進することによって、高強度化元素の酸化物からなる表面濃化層が表面に形成されるのを抑制する効果も得られる。このような表面濃化層の生成を抑制することによって、不めっき等の表面欠陥が防止でき、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の表面性状を改善できる。
【0023】
ところが加熱帯がRTF型の連続焼鈍炉では、加熱帯における炉内雰囲気の酸素分圧が低いので、内部酸化が進行しにくい。したがって本発明では、無酸化炉型または直火炉型の加熱帯を有する連続焼鈍炉を用いて焼鈍を施す。そして本発明では、雰囲気温度が 800℃以下と低い加熱帯において、Si等の易酸化性元素の内部酸化を促進できるので、温度が高い均熱帯は必ずしも加湿する必要はなく、連続焼鈍炉の耐久性の観点からも有利である。
【0024】
連続焼鈍炉の加熱帯の雰囲気は、酸素供給源としてH2 O:2〜30体積%,O2 :5体積%以下,CO+CO2 :20体積%以下を含有し、残部はN2 および不可避的不純物とすることが好ましい。なお加熱帯として、この雰囲気を維持できるのであれば、加熱帯は無酸化炉型または直火炉型に限定されないが、加熱帯が無酸化炉型または直火炉型であれば、この雰囲気を満足する。
【0025】
加熱帯雰囲気のH2 Oが2体積%未満では、内部酸化が進行しない。一方、 30体積%を超えると、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の品質に悪影響は及ぼさないものの、炉内に設置されるバーナー類,計測機器あるいは耐火物の耐用性が劣化する。したがって、H2 Oは2〜30体積%の範囲内とする。
加熱帯雰囲気のO2 が5体積%を超えると、高張力鋼板の表面が酸化され、高強度化元素の表面濃化層が形成され、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の表面性状の劣化を招く。しかも連続焼鈍炉内の搬送ローラー等にピックアップが生じて、操業に支障をきたす。したがって、O2 は5体積%以下とする。ただし、O2 は大気から不可避的に混入する。そのため、0.01体積%未満まで削減するためには多大な設備負荷や労力を要するので、O2 は0.01体積%以上とするのが好ましい。
【0026】
さらに加熱帯雰囲気にはCOおよび/またはCO2 が含有されても良い。無酸化炉型あるいは直火炉型の連続焼鈍炉では、炉内のバーナーで燃料を燃焼させることによってCOやCO2 が発生する。ただし、これらのガスの含有量はCO+CO2 が20体積%を超えると、連続焼鈍後、高張力鋼板の表面にSi,Mn,Alの表面濃化層が形成され、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の表面性状の劣化を招く。しかも連続焼鈍炉内の搬送ローラー等にピックアップが生じて、操業に支障をきたす。したがって、CO+CO2 を20体積%以下とする。つまりCOおよびCO2 を含有する場合は合計20体積%以下とし、COまたはCO2 を含有する場合はそれぞれ20体積%以下とする。好ましくは15体積%以下である。
【0027】
さらに加熱帯雰囲気はH2 を含んでも良い。その場合のH2 濃度は、後述する均熱帯と同等のH2 濃度とするのが好ましい。
加熱帯雰囲気の残部はN2 と不可避的不純物である。燃焼ガスによる空燃比は0.75〜1.2 が好ましいが、加熱帯雰囲気中のH2 Oが内部酸化に最も影響を及ぼすので、本発明では特定の範囲に限定しない。
【0028】
連続焼鈍炉の加熱帯の温度は 400〜800 ℃の範囲内とする。加熱帯温度が 400℃未満では、内部酸化が十分に進行しないので、めっき密着性が改善されない。一方、 800℃を超えると、炉体の温度が上昇して耐用性が劣化する。
連続焼鈍炉に装入された高張力鋼板は、こうして加熱帯で加熱された後、均熱帯へ搬送される。
【0029】
連続焼鈍炉の均熱帯の雰囲気は、H2 :1〜10体積%,を含有し、残部はN2 および不可避的不純物とすることが好ましい。
均熱帯雰囲気のH2 が1体積%未満では、高張力鋼板が加熱帯を通過する際に高張力鋼板の表面に生成するFe酸化物が還元されず残存する。その結果、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の表面欠陥(不めっき,めっきの剥離等)が発生しやすくなる。一方、 10体積%を超えると、加熱帯で生成した内部酸化層が還元され、めっき密着性改善の効果が得られない。したがって、H2 Oは2〜5体積%の範囲内とする。
【0030】
均熱帯雰囲気の残部はN2 と不可避的不純物である。なお、均熱帯の雰囲気を上記した条件とするには、RTF型の均熱帯を用いることが好ましい。
連続焼鈍炉の均熱帯の温度は 700〜950 ℃の範囲内とする。均熱帯温度が 700℃未満では、内部酸化が十分に進行しないので、めっき密着性が改善されない。一方、 950℃を超えると、炉体の温度が上昇して耐用性が劣化する。
【0031】
このような条件を満たすように設定した連続焼鈍炉を用いて焼鈍を行なうことによって、高張力鋼板に含有される易酸化性元素であるSi,Mn,Alを鋼板の表層部において内部酸化させることができる。
ここで内部酸化は、酸化量が鋼板の片面あたり0.01〜1g/m2 となるように、上記した加熱帯および均熱帯の雰囲気,温度範囲内で操業条件を設定することが好ましい。酸化量は、上記の加熱帯および均熱帯の条件の連続焼鈍炉への通板前後での鋼板の単位面積あたりの酸素の増加量を指す。連続焼鈍における酸化量を片面あたりで0.01g/m2 以上とすることにより、めっき密着性の向上効果をより一層安定して得ることができる。
【0032】
酸化量が1g/m2 を超えると、鋼板表面に割れが生じ、めっき後の外観が悪くなることがあるので好ましくない。鋼種,連続焼鈍炉通板時のライン速度,加熱帯や均熱帯の詳細な温度設定および雰囲気設定と、酸化量との関係を予め実験的に求めておき、酸化量が上記の範囲となる操業条件を設定することが好ましい。なお、酸化性雰囲気である加熱帯での鋼板の滞在時間を長く、また加熱帯の温度を高くすることで、酸化量は増加することは言うまでもない。
【0033】
なお内部酸化量は、高張力鋼板の内部酸化層中の酸素量を、たとえば「インパルス炉溶融−赤外線級手法」と呼ばれる方法等で測定することによって得られる。ただし、高張力鋼板の内部酸化量を求めるためには、素材(すなわち焼鈍を施す前の高張力鋼板)に含まれる酸素量を差引く必要がある。そこで本発明では、連続焼鈍後の高張力鋼板の両面の表層部を 100μm以上研磨して鋼中酸素濃度を測定し、その測定値を素材に含まれる酸素量OH とし、また連続焼鈍後の高張力鋼板の板厚方向全体での鋼中酸素濃度を測定して、その測定値を内部酸化後の酸素量OI とする。
【0034】
こうして得られた高張力鋼板の内部酸化後の酸素量OI と、素材に含まれる酸素量OH とを用いて、OI とOH の差(=OI −OH )を算出し、さらに単位面積(すなわち1m2 )あたりの量に換算した値(g/m2 )が内部酸化量である。
このようにして連続焼鈍炉で再結晶焼鈍を施した高張力鋼板の表層部には、高強度化元素の内部酸化層が形成され、かつその表面には、高強度化元素の酸化物からなる表面濃化層が形成される。この表面濃化層には、高張力鋼板に添加される他の元素の酸化物も含まれる。内部酸化層はめっき密着性を改善する効果を有する。
【0035】
次に、連続焼鈍を施した鋼板に対して酸洗を施す。本発明では、上記した連続焼鈍の後には、鋼板表層のSi,Mn,Alといった易酸化性元素の多くは、鋼板表層の地鉄内部に酸化物として存在する。しかしながら、これら易酸化性元素の表面濃化を皆無にすることはできないので、これを酸洗により除去する必要がある。そこで、不めっきの防止に有効なこれらの元素の表面濃化層の除去率を定量化するために、上記した条件で連続焼鈍した後の鋼板、およびさらに酸洗した鋼板について、Si,Mn,Alをグロー放電発光分光分析(いわゆるGDS)で低スパッタリング測定(たとえばFe換算で約0.01μm/sec 程度)した濃度プロファイルを基に定量化した。
【0036】
その結果、Si,Mn,Alのうち鋼中に含有されている元素の表面濃化層を、酸洗により70%の除去率で除去しておけば、溶融亜鉛めっきを施した後のめっき密着性は良好となることが分かった。図1は、GDSにより深さ方向の濃度プロファイルを測定した場合のFeおよびSiの分布の例を示すものであり、(a) は連続焼鈍後の高張力鋼板についての測定結果を示し、(b) は酸洗後の高張力鋼板についての測定結果を模式的に示す。
【0037】
本発明では、たとえばSiについて言えば、連続焼鈍後と酸洗後の鋼板について、図1に示すようなSiの濃度プロファイルを測定し、これら濃度プロファイルにおいて、表面近傍に存在するSiのピークについての測定強度の積算値(図1中の斜線部の面積に相当)をSiの表面濃化量として求め、下記の (1)式により表面濃化層の除去率を求めるものとする。
【0038】
Figure 0003997931
Si,Mn,Alのうち、上記した含有量範囲で鋼中に含有される元素全てについて、このようにして求められる除去率が70%以上となるように酸洗を行なうことで、不めっきを防止することができる。なお、濃度プロファイルの測定にあたっては、測定時間は、表面濃化層を貫通し、鋼板内部(地鉄部分)が含まれるまでスパッタリングを行なうものとし、表面濃化量を求めるにあたっては、測定対象の元素の含有量の違いによってデプスプロファイルのベースラインが異なることを考慮する。
【0039】
この除去率が90%以上となるように表面濃化層を除去すると、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の表面性状が著しく改善される。したがって、除去率を90%以上とするのが一層好ましく、除去率を 100%とする(すなわち表面濃化層を完全に除去する)のが最も好ましい。
実際の酸洗条件については、上記の除去率が70%以上となる条件を、鋼板の成分組成,連続焼鈍条件を勘案して、酸洗液の温度,濃度や浸漬時間を実験的に求めておけば良い。
【0040】
好適な酸洗条件は、酸濃度 0.1〜20%,温度40〜90℃の酸洗液に1〜100sec浸漬すれば良い。酸洗液の温度が40℃未満もしくは浸漬時間が1sec 未満では、表面濃化層が十分に除去されないので、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の表面性状が劣化する。一方、酸洗液の温度が90℃を超えるもしくは浸漬時間が100secを超えると、高張力鋼板の表面が粗くなり、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の表面性状が劣化する。しかも高張力鋼板の内部酸化層も除去されるので、めっき密着性改善の効果が得られない。
【0041】
酸洗液の酸濃度が 0.1%未満では、表面濃化層を除去するのに長時間を要するので、生産性が低下する。一方、 20%を超えると、高張力鋼板の表面が粗くなり、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の表面性状が劣化する。しかも高張力鋼板の内部酸化層も除去されるので、めっき密着性改善の効果が得られない。また酸洗減量は、Fe換算で片面あたり0.05〜5g/m2 が好ましい。
【0042】
酸洗液として使用する酸の種類は、塩酸,硫酸,硝酸,リン酸等の一般に使用される酸を使用する。ただし安価に入手できる塩酸や硫酸を使用するのが好ましい。
酸洗が終了した後、高張力鋼板を通常溶融亜鉛めっき処理に使用されるCGLに送給して溶融亜鉛めっきを施し、高張力溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。CGLでは通常焼鈍炉にて再加熱をした後に溶融亜鉛めっきが施される。
【0043】
CGL焼鈍炉の加熱帯は、無酸化炉型,直火炉型,RTF型のいずれを使用しても良い。CGL焼鈍炉の均熱帯は、通常RTF型であり、本発明においてもこれが好適である。CGL焼鈍炉の焼鈍雰囲気(均熱帯の雰囲気)は、Feにとって還元性であれば良く、H2 を数体積%〜25体積%程度含むN2 雰囲気が好ましい。
【0044】
CGL焼鈍炉の焼鈍温度は、高張力鋼板の成分や要求される強度に応じて適宜設定する。ただしCGL焼鈍炉の焼鈍温度が 650℃未満では、酸洗後も残存する表面濃化層が十分に還元されず、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の表面性状が劣化する。一方、CGL焼鈍炉の焼鈍温度が、連続焼鈍炉の均熱帯温度を上回ると、内部酸化層が過剰に生成され、めっき密着性が十分に改善されない。したがって、CGL焼鈍炉の焼鈍温度は 650℃以上〜連続焼鈍炉の均熱帯温度以下の範囲内とするのが好ましい。
【0045】
このようにしてCGL焼鈍炉で焼鈍を施した高張力鋼板は、従来の溶融亜鉛めっき処理と同様に、 500℃程度に降温した後、 440〜500 ℃の溶融亜鉛めっき浴にて溶融亜鉛めっきを施される。溶融亜鉛めっき浴のAl濃度は、GAの場合は0.12〜0.18質量%,GIの場合は0.14〜0.24質量%が好ましい。こうして高張力鋼板は溶融亜鉛めっきを施され、高張力溶融亜鉛めっき鋼板となる。
【0046】
溶融亜鉛めっき浴から高張力溶融亜鉛めっき鋼板が搬出されると、ガスワイピングでめっきの付着量(いわゆる目付量)を調整し、その後、必要に応じて合金化処理を施す。目付量は、製品の仕様として要求される特性に応じて設定されるので、本発明では特定の範囲に限定しない。ただし、耐食性を確保するためには20〜90g/m2 程度で十分である。
【0047】
合金化処理を施す場合には、合金化処理の温度が 460℃未満では、合金化処理に長時間を要するので生産性が低下する。一方、 540℃を超えると、めっき密着性が劣化する。したがって、合金化処理の温度は 460〜540 ℃の範囲内が好ましい。ただし、内部酸化層が十分に生成されている場合は 500〜520 ℃で合金化処理を施しても、めっき密着性改善の効化は損なわれない。
【0048】
また合金化処理を施す場合は、溶融亜鉛めっき層中のFe含有量は8〜13質量%の範囲内が好ましい。溶融亜鉛めっき層中のFe含有量は8質量%未満では、摺動性が劣るζ相が多量に生成するので、高張力溶融亜鉛めっき鋼板の耐フレーキング性が劣化する。一方、 13質量%を超えると、硬くて脆いΓ相が多量に生成するので、内部酸化層が形成されていてもプレス成形におけるめっきの剥離を防止できなくなる。
【0049】
【実施例】
高張力鋼板の素材として、表1に示す組成のスラブを加熱炉で加熱(1250℃,40分)し、引き続き熱間圧延で2.8mm の熱延鋼板として 500℃で巻取った。次いで、酸洗で表面のスケール(いわゆる黒皮)を除去し、冷間圧延で1.6mm の冷延鋼板(すなわち高張力鋼板)とした。
【0050】
【表1】
Figure 0003997931
【0051】
これらの高張力鋼板の表面を清浄化した後、無酸化炉型,直火炉型の加熱帯およびRTF型の均熱帯を有する連続焼鈍炉で焼鈍を施した。これを発明例とする。
一方、比較例として加熱帯および均熱帯がRTF型の連続焼鈍炉で焼鈍を施した。
【0052】
なお発明例および比較例は、いずれもCALに設置されている連続焼鈍炉を使用した。焼鈍後の鋼板について、内部酸化量を求めた。すなわち内部酸化量は、前記した「インパルス炉溶融−赤外線級手法」を用いてOI とOH を測定し、その測定値からOI −OH を算出して1m2 あたりの量に換算して求めた。連続焼鈍炉の設定と、内部酸化量は表2に示す通りである。
【0053】
【表2】
Figure 0003997931
【0054】
こうして焼鈍が終了した後、発明例と比較例の高張力鋼板を一旦冷却して酸洗を行ない、高張力鋼板の表面濃化層を除去した。酸洗液は5%塩酸を使用し、その温度は60℃,浸漬時間は6sec とした。
表面濃化層の除去率は、グロー放電発光分光分析装置(島津製作所製GDLS5017型)を使用し、試料電流20mA,Arガス流量8.3cm3/sec の条件で、高張力鋼板の表面から深さ方向に30sec スパッタリングしたプロファイルを基に、上記した方法で定量化した。スパッタリング速度は、Fe換算で約0.01μm/sec であった。
【0055】
ただし各元素の含有量の違いによってデプスプロファイルのベースラインが異なることを考慮し、表面近傍の各元素の測定強度の積算値(図1中の斜線部の面積に相当)を求めるにあたっては、Si,Mn,Alのピークがいずれもスパッタリング時間0〜15sec までに存在していることから、スパッタリング時間が15〜30sec までの積分値を、スパッタリング時間0〜15sec までの積分値から差し引くことで、焼鈍後および酸洗後の表面濃化量を求めた。酸洗前後の試料について、その積算値を相対比較することによって、表面濃化層の除去率を求めた。
【0056】
次に、CGLに設置されている焼鈍炉で焼鈍を施し、さらに溶融亜鉛めっき浴に浸漬して、高張力溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。なお、CGLの焼鈍炉の加熱帯は、RTF型,直火炉型,無酸化炉型のいずれかであり、均熱帯は全てRTF型である。また、溶融亜鉛めっき浴の出側でガスワイピングを行ない、目付量を片面あたり50g/m2 に調整した。溶融亜鉛めっき浴のAl濃度は、GA用として0.13質量%,GI用として0.16質量%とした。溶融亜鉛めっき浴の温度は 460℃とし、高張力鋼板の温度も 460℃に調整して浸漬した。
【0057】
めっき層に合金化処理を施す場合は、 460〜580 ℃の温度に 15sec保持して処理した。また、めっき層中のFe含有量を原子吸光法で測定した。すなわち、20質量%NaOH−10質量%トリエタノールアミン水溶液195cm3+35質量%H2 2 水溶液7cm3 を用いてめっき層を除去して、原子吸光法でめっき層中のFe含有量を定量した。
【0058】
酸洗による表面濃化層の除去率,CGL焼鈍炉の加熱帯種類と均熱帯雰囲気は表3に示す通りである。
【0059】
【表3】
Figure 0003997931
【0060】
こうして得られた高張力溶融亜鉛めっき鋼板を目視で観察し、その外観および不めっきの有無を評価した。
さらにGIについては、ボールインパクト試験を行ない、加工部を粘着テープで剥離し、めっきの剥離の有無を観察し、剥離が認められないものを良好,剥離が生じたものを不良として評価した。
【0061】
GAについては、高張力溶融亜鉛めっき鋼板に粘着テープを貼り、次いで粘着面を90°曲げ−戻しを行ない、そのときの剥離量を蛍光X線によってZnカウント数を測定し、めっき密着性を耐パウダリング性として評価した。
これらの評価の結果を表4に示す。
【0062】
【表4】
Figure 0003997931
【0063】
表4から明らかなように、発明例1〜14は、いずれも外観が良好で、しかもめっき密着性も優れている。しかも既存の設備を利用できるので、新たな設備投資は必要ない。
【0064】
【発明の効果】
本発明によれば、高強度化元素としてSi,Mn,Alを含有する高張力鋼板に溶融亜鉛めっきを施すにあたって、優れた表面性状を有し、かつ優れためっき密着性を有する高張力溶融亜鉛めっき鋼板を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】GDSにより深さ方向の濃度プロファイルを測定した場合のFeおよびSiの分布の例を示すグラフであり、(a) は連続焼鈍後の高張力鋼板についての測定結果を示し、(b) は酸洗後の高張力鋼板についての測定結果を模式的に示す。

Claims (4)

  1. Si: 0.1〜2.0 質量%、Mn: 1.0〜3.5 質量%およびAl: 0.1〜2.5 質量%のうちの1種または2種以上を含有する高張力鋼板を、加熱帯温度を 400〜800 ℃、加熱帯雰囲気をH2 O:2〜30体積%、O2 :5体積%以下、CO+CO2 :20体積%以下、残部をN2 および不可避的不純物とし、さらに均熱帯温度を 750〜950 ℃、均熱帯雰囲気をH2 :1〜10体積%、残部をN2 および不可避的不純物とした連続焼鈍炉を用いて焼鈍を施した後、前記Si、MnおよびAlのうち前記高張力鋼板に含有される元素の表面濃化層の70%以上を酸洗によって除去し、しかる後に再加熱し、その後、前記高張力鋼板に溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  2. 前記焼鈍によって前記高張力鋼板の表層部に前記Si、MnおよびAlのうち前記高張力鋼板に含有される元素を内部酸化させることを特徴とする請求項1に記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  3. 前記内部酸化によって前記高張力鋼板の表層部に生じる酸素増加量が片面あたり0.01g/m2 以上であることを特徴とする請求項に記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  4. 前記高張力鋼板に前記溶融亜鉛めっきを施した後、めっき層の合金化処理を施すことを特徴とする請求項1、 2またはに記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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