JP3995772B2 - 酸化物超電導導体の製造装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーザ蒸着、スパッタリングなどの物理蒸着(PVD)法、化学的気相成長(CVD)法などの方法のように成膜室内で基材上に結晶化薄膜を順次堆積させ、この結晶化薄膜を熱処理して酸化物超電導層を形成するための酸化物超電導導体の製造装置の改良に係わるもので、加熱領域内の基材の温度を成膜に適切な温度範囲に制御でき、基材の長さ方向および幅方向に沿って均一で、かつ優れた超電導特性を有する酸化物超電導体の製造が可能な酸化物超電導導体の製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年になって発見されたY系の酸化物超電導体は、ピン止め力が高温まで持続し、液体窒素温度(77K)での磁場中での応用に有効であることが知られているが、現在、この種の酸化物超電導体を実用的な超電導体として使用するためには、種々の解決するべき問題点が存在している。その問題点の1つが、強磁場中で酸化物超電導体の臨界電流密度が減少するという問題である。
【0003】
上記強磁場中で酸化物超電導体の臨界電流密度が減少するという問題は、酸化物超電導体の結晶自体に電気的な異方性が存在することが大きな原因となっており、特に酸化物超電導体はその結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流し易いが、c軸方向には電気を流しにくいことが知られている。このような観点から酸化物超電導体を基材上に形成してこれを超電導体として使用するためには、基材上に結晶配向性の良好な状態の酸化物超電導体を形成し、しかも、電気を流そうとする方向に酸化物超電導体の結晶のa軸あるいはb軸を配向させ、その他の方向に酸化物超電導体のc軸を配向させる必要がある。
【0004】
ところで、酸化物超電導体を導電体として使用するためには、テープ状などの長尺の基材上に結晶配向性の良好な酸化物超電導層を形成する必要がある。ところが、金属テープなどの基材上に酸化物超電導層を直接形成すると、金属テープ自体が多結晶体でその結晶構造も酸化物超電導体と大きく異なるために、結晶配向性の良好な酸化物超電導層の形成は困難であった。しかも、酸化物超電導層を形成する際に行なう熱処理によって金属テープと酸化物超電導層との間で拡散反応が生じるために、酸化物超電導層の結晶構造が崩れ、超電導特性が劣化する問題があった。
【0005】
そこで本発明者らは、Ni基耐熱合金ハステロイテープなどの金属テープからなる長尺のテープ状の基材の上にイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)などの多結晶中間薄膜を形成し、この多結晶中間薄膜上に、酸化物超電導体の中でも臨界温度が約90Kであり、液体窒素(77K)中で用いることができる安定性に優れたYBaCuO系の超電導層(酸化物超電導層)を形成することで超電導特性の優れた酸化物超電導導体を製造する試みを種々行なっている。
このような試みの中から本発明者らは先に、結晶配向性に優れた中間薄膜を形成するために、あるいは、超電導特性の優れた超電導テープを得るために、特願平3ー126836号、特願平3ー126837号、特願平3ー205551号特願平4ー13443号、特願平4ー293464号などにおいて特許出願を行なっている。
【0006】
これらの特許出願に記載された技術によれば、ハステロイテープなどの金属テープの基材上にスパッタ装置により多結晶中間薄膜を形成する際に、スパッタリングと同時に基材成膜面の斜め方向からイオンビームを照射しながら多結晶中間薄膜を成膜すること(イオンビームアシストスパッタリング法)により、結晶配向性に優れた多結晶中間薄膜を形成することができるものである。この方法によれば、多結晶中間薄膜を形成する多数の結晶粒のそれぞれの結晶格子のa軸あるいはb軸で形成する粒界傾角を30度以下に揃えることができ、結晶配向性に優れた多結晶中間薄膜を形成することができる。そして更に、この配向性に優れた中間薄膜上にYBaCuO系の超電導層をスパッタリング法、あるいはレーザ蒸着法などの物理蒸着法などの成膜法により成膜するならば、酸化物超電導層の結晶配向性も良好なものになり、これにより、臨界電流密度が高い酸化物超電導導体を形成することができる。
【0007】
図8に、従来のレーザ蒸着装置の一例を示した。
このレーザ蒸着装置は、内部を真空排気自在に構成された処理容器10を有し、この処理容器10の内部の成膜室10aの下部側に長尺のテープ状の基材1が設けられ、該基材1の上方側には酸化物超電導体または酸化物超電導体と近似組成のターゲット12が設けられる一方、処理容器10の外部には上記ターゲット12表面にレーザ光を照射して粒子の噴流(プルーム)13を発生させるためのレーザ発光装置14が設けられている。
【0008】
上記処理容器10は排気孔10bを介して図示略の真空排気装置に接続されて内部を真空排気できるようになっている。
上記ターゲット12は、板状のものであり、その下面が基材1上面と平行に向き合うようにターゲットホルダ12aによって支持されている。
上記基材1の下方側には、送出装置18と、巻取装置19がそれぞれ離間して設けられ、送出装置18からテープ状の基材1を送り出し、巻取装置19で巻き取ることができるとともに、基材1をターゲット12の下方で水平移動できるようになっている。
これら送出装置18と巻取装置19との間には、基材1を輻射熱により加熱するためのPt線などからなる加熱ヒータ20が設けられている。
上記レーザ発光装置14と処理容器10との間には、第1反射鏡21と集光レンズ22と第2反射鏡23が設けられ、レーザ発光装置14が発生させたレーザビームを処理容器10の側壁に取り付けられた透明窓24を介してターゲット12に集光照射できるようになっている。
【0009】
また、従来のレーザ蒸着装置においては、基材1上に粒子を堆積させる際、基材1の温度を一定に保ち、さらに基材1の温度分布のバラツキを少なくして、良好な超電導特性を有する超電導テープが得られるようにするために、上記加熱ヒータ20に一定出力が投入されるようになっているか、あるいは基材1の温度を測定するためのパイロメーター(図示略)が成膜室10a内で基材1の上方に配設され、さらにパイロメーターで測定された測定値に基づいて基材1の温度が一定となるように上記加熱ヒータ20に投入する出力を変更する制御部(図示略)が備えられている。
【0010】
上記構成のレーザ蒸着装置を用いて基材1上に酸化物超電導層を形成するには、レーザ発光装置14からレーザビームを射出し、第1反射鏡21と集光レンズ22と第2反射鏡23と透明窓24を介してレーザビームをターゲット12に照射する。一方、多結晶中間薄膜が形成された基材1を多結晶中間薄膜側の面を上にして送出装置18から所定速度で順次送り出しながら巻取装置19に巻取り、基材1をターゲット12の下方を水平移動させるとともに加熱ヒータ20を作動させて基材1を加熱する。ここでの加熱の際、加熱ヒータ20に一定出力を投入する(この方法では温度調整は行わない。)か、あるいは上記パイロメーターで結晶中間薄膜が形成された基材1の温度を測定し、この測定値に基づいて上記制御部で加熱ヒータ20の出力を変更して温度調整を行う。このようにすると、レーザビームが照射されたターゲット12は表面部分がえぐり取られるか蒸発されて構成粒子が叩き出され、基材1の中間薄膜2上に堆積し結晶化薄膜となる。このとき、基材1は加熱ヒータ20により加熱されているので結晶化薄膜は堆積と同時に熱処理されて酸化物超電導層が形成される。以上の操作によって基材1の上面に順次粒子を堆積させ、テープ状の基材1の多結晶中間薄膜上に酸化物超電導層を形成することで、酸化物超電導導体を得ることができる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
ところが従来の酸化物超電導導体の製造装置を用いて製造を行うと、加熱ヒータ20に投入する出力を一定にしても、加熱領域内の基材1の温度分布のばらつきが大きくなってしまい、また、結晶化薄膜の成膜中に熱の収支が変化した時に該結晶化薄膜表面の温度を一定にすることが困難であった。また、パイロメーターの測定値に基づいて温度調整を行っても、パイロメーターは膜厚によって干渉を受けるため、正確な温度調整を行うのが困難であった。また、片面にイオンビームアシストスパッタリング法により多結晶中間薄膜が形成された基材1は、多結晶中間薄膜の成膜時の圧縮応力に起因する反りが生じているため、結晶化薄膜を成膜する際に、基材1の幅方向での温度分布のばらつきが大きくなってしまう。従って、従来の酸化物超電導導体の製造装置を用いて製造された酸化物超電導導体の臨界電流(Ic)を測定すると、テープ状の基材の長さ方向および幅方向に沿った臨界電流のバラツキが大きく、しかも臨界電流値も低い傾向を示し、超電導特性において不満があった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、加熱領域内の基材の温度を成膜に適切な温度範囲に制御でき、基材の長さ方向及び幅方向に沿って均一で、かつ優れた超電導特性を有する酸化物超電導体の製造が可能な酸化物超電導導体の製造装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、真空排気可能な成膜室の内部を移動中の可撓性を有するテープ状の基材上に結晶化薄膜を順次堆積させ、この結晶化薄膜を熱処理して酸化物超電導層を形成する酸化物超電導導体の製造装置において、
上記テープ状の基材の裏面に接触させるための湾曲面を有するサセプタと、該サセプタを加熱するための加熱手段を少なくとも具備する加熱治具が備えられ、該加熱治具はテープ状の基材上に結晶化薄膜を堆積する領域の近傍で上記サセプタの湾曲面がテープ状の基材の裏面に接触するように配設されてなり、上記サセプタの湾曲面は上記テープ状の基材の長さ方向に沿った方向と該テープ状の基材の幅方向に沿った方向に湾曲していることを特徴とする酸化物超電導導体の製造装置を上記課題の解決手段とした。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、上記加熱治具に、上記サセプタとは別個に設けられたサセプタホルダが備えられ、上記サセプタはその湾曲面が上記サセプタホルダの上面から突出するようにサセプタホルダに着脱自在に取り付けられてなることを特徴とする請求項1記載の酸化物超電導導体の製造装置を上記課題の解決手段とした。
また、請求項3記載の発明は、上記サセプタの湾曲面のテープ状の基材の長さ方向に沿った方向の曲率半径が300〜800mmであり、かつ上記湾曲面のテープ状の基材の幅方向に沿った方向の曲率半径が100〜800mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物超電導導体の製造装置を上記課題の解決手段とした。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の酸化物超電導導体の製造装置の一実施形態について説明する。
図1〜図2は、本発明の酸化物超電導導体の製造装置をレーザ蒸着装置に適用した第1の実施形態を示すものである。
図1の第1の実施形態のレーザ蒸着装置が、図8に示した従来のレーザ蒸着装置と異るところは、イオンビームアシストスパッタリング法により多結晶中間薄膜が形成されたテープ状の基材1上に結晶化薄膜を堆積する領域の近傍、すなわち送出装置18と巻取装置19との間の基材1の下方に加熱治具30が配設された点である。図2は、この加熱治具30を説明するための図であり、(A)はテープ状の基材1の上面側から見た図、(B)は(A)のA−A線断面図である。
【0016】
上記テープ状の基材1は、その片面にイオンビームアシストスパッタリング法により多結晶中間薄膜が形成されているため、圧縮応力により歪みが生じ、基材1に反りが生じており、すなわち該基材1を幅方向から見たとき多結晶中間薄膜が形成された側(表面側)が凸状で、多結晶中間薄膜が形成されていない側(裏面側)が凹状になっている。
【0017】
この加熱治具30は、サセプタ32と、該サセプタ32とは別個に設けられたサセプタホルダ34と、該サセプタ32を加熱するためのヒータ(加熱手段)36から概略構成されている。
上記サセプタ32は、基材1の長さ方向に沿った断面と、基材1の幅方向に沿った断面がそれぞれ略弓型である板状のものであり、その上面には図3に示すようにテープ状の基材1の裏面に接触させるための凸状の湾曲面32aを有している。
このサセプタ32をなす材料としては、Ni80%−Cr14%−Fe6%(商品名インコネル、インターナショナルニッケル社製)などの耐熱合金や、ハステロイなどが好適に用いられる。
サセプタ32の基材1の長さ方向に沿った方向の長さL1としては、40〜100mm程度、好ましくは60〜80mm程度であり、また、基材1の幅方向に沿った方向の幅W1としては、5〜30mm程度、好ましくは10〜20mm程度であるが、必ずしもこの限りではなく、基材1上に形成する酸化物超電導層の種類や厚み等によっても異る。
【0018】
サセプタ32の湾曲面32aの基材1の長さ方向に沿った方向(長さ方向)の曲率半径R1としては300〜800mm程度が好ましく、より好ましくは500〜700mm程度であり、また、湾曲面32aの基材1の幅方向に沿った方向(幅方向)の曲率半径R2としては、基材1の反りに応じた曲率半径を有しており、100〜800mm程度が好ましく、より好ましくは200〜400mm程度であるが、必ずしもこの限りではなく、基材1上に形成する酸化物超電導層の種類や厚み等によっても異る。
【0019】
湾曲面32aの長さ方向の曲率半径R1が300mm未満であるとサセプタ32と接触する基材1の長さ方向の中央部の接地圧が大きくなり該中央部の温度が上がり、その結果、基材1の長さ方向の温度勾配が大きくなるからであり、一方、曲率半径Rが800mmを越えるとサセプタ32と接触する基材1の長さ方向の中央部の接地圧が小さくなり、長さ方向の接触状態が不安定になり温度分布が生じるからである。
また、湾曲面32aの曲率半径R2が100mm未満であるとサセプタ32と接触する基材1の幅方向の中央部の接地圧が大きくなり該中央部の温度が上がり基材1の幅方向の温度勾配が大きくなるからであり、一方、曲率半径Rが800mmを越えるとサセプタ32と接触する基材1の幅方向の中央部の接地圧が小さくなり、接触状態が不安定になり温度分布が生じるからである。
【0020】
上記サセプタ32内には、該サセプタ32の温度を測定するための熱電対(T.C.)35が配設されている。この熱電対35は、制御部(図示略)を介して後述するヒータ36と接続されており、この制御部は上記熱電対35で測定された測定値に基づいてサセプタ32の温度が所望温度勾配となるようにヒータ36に投入する出力を変更できるようになっている。
【0021】
上記サセプタホルダ34は、ステンレス鋼などからなる板状のもので、その中央部には上記サセプタ32を取り付けるための矩形状の取付孔34aが形成されている。このサセプタホルダ34の取付孔34aには、上記サセプタ32がその湾曲面32aがこのサセプタホルダ34の上面34bから突出するように嵌め入れられることにより、着脱自在に取り付けられている。
このサセプタホルダ34の取付孔34aの下方には、ヒータ36が配設されている。このヒータ36は、Pt線などからなるものであり、サセプタ32のみを加熱できるものであれば十分である。
【0022】
また、サセプタホルダ34の基材1の長さ方向に沿った両端部には、上記テープ状の基材1を支えるとともに該基材1を上記サセプタ32に案内するための基材支持体38がそれぞれ設けられている。
また、サセプタホルダ34の上面34bには、反射防止板42が2枚配設されている。この反射防止板42は、ステンレス鋼、インコネル、ハステロイなどの結晶化薄膜を構成する粒子とは不活性で、かつ熱伝導率が小さい材料からなるコ字状の板である。これら2枚の反射防止板42,42は、凹部43と凹部43を対向させてサセプタホルダ34の上面34bのサセプタ32の周辺に配置されている。このような反射防止板42が配設されていると、酸化物超電導層の形成時にサセプタホルダ34の上面34bからの照り返しを減らすことができるので、基材1が反射熱などの悪影響を受けることを防止でき、基材1の温度を成膜に最適な温度範囲に制御するのがより容易となるからである。
上述のような加熱治具30は、送出装置18から送り出されるとともに巻取装置19により巻き取られるテープ状の基材1の裏面に上記サセプタ32の湾曲面32aが接触するように配設されている。
【0023】
このような構成の加熱治具30においては、ヒータ36によりサセプタ32を加熱すると、サセプタ32の湾曲面32aの長さ方向の中央部33aはほぼ一定温度範囲に加熱され、この中央部33aの両側の端部33bは温度勾配が生じるようになっており、しかも湾曲面32aの幅方向はほぼ一定温度範囲に加熱されているので、サセプタ32の湾曲面32aの長さ方向および幅方向の温度分布は安定している。従って、基材1の裏面をサセプタ32の湾曲面32aの中央部33aのみに接触するようにすれば、基材1のサセプタ32への接触状態を安定させることができるとともに基材1を一定温度範囲で加熱することができ、あるいは基材1の裏面を中央部33aの両側の端部33bにまで接触するようにすれば、基材1のサセプタ32への接触状態を安定させることができるとともに基材1に温度勾配をつけながら加熱することができる。また、成膜に不適切な温度分布を生じるサセプタ32の湾曲面32aの部分(不要部分)には基材1を接触させないで、成膜条件に応じた温度分布を生じることができる湾曲面32aの部分(良好部分)のみに接触させれば、酸化物超電導層の形成時にこの良好部分のみを基材1の裏面に接触させながら成膜することができるので、基材1を成膜に最適な温度範囲で加熱することができる。
【0024】
また、この加熱治具30においては、サセプタ32がサセプタホルダ34に着脱自在に取り付けられるようになっているため、成膜条件等を変更したいときには、長さ方向の曲率半径R1が異るサセプタ32に交換することにより、サセプタ32の湾曲面32aの一定温度範囲の長さや端部33bの温度勾配を変更して、湾曲面32aの温度分布を変更することができる。
また、幅の異なるあるいは反り量が異なるテープ状の基材1上に結晶化薄膜を形成するときには、幅方向の曲率半径R2が異るサセプタ32に交換するだけで種々の幅あるいは反り量が異なるテープ状の基材1の加熱に対応することができる。
また、上記加熱治具30においては、サセプタ32がサセプタホルダ34とは別個に設けられたものであり、さらにサセプタ32のみを加熱するだけでよいので、ヒータ36の出力が小さくて済み、経済的である。
【0025】
ここでのターゲット12としては、形成しようとする酸化物超電導層と同等または近似した組成、あるいは、成膜中に逃避しやすい成分を多く含有させた複合酸化物の焼結体、または、酸化物超電導体のバルクなどから形成されている。現在知られている臨界温度の高い酸化物超電導体として具体的には、Y−Ba−
Cu−O系、Bi−Sr−Ca−Cu−O系、Tl−Ba−Ca−Cu−O系などがあるので、ターゲット12としてはこれらの系のものなどを用いることができる。なお、酸化物超電導体を構成する元素の中で蒸気圧が高く、蒸着の際に飛散しやすい元素もあるので、このような元素を含むターゲット12を使用する場合は、蒸気圧の高い元素を目的とする所定の割合よりも多く含むターゲットを用いればよい。
また、レーザ発光装置14としては、ターゲット12から構成粒子を叩きだすことができるものであれば、YAGレーザ、エキシマレーザなどのいずれのものを使用してもよい。
【0026】
次に、上述の実施形態のレーザ蒸着装置を用いて酸化物超電導導体の製造する方法について説明する。
まず、多結晶中間薄膜が形成されたテープ状の基材1を成膜室10a内の送出装置18にセットし、ターゲット12をその下面が上記基材1の多結晶中間薄膜側の面と平行に向き合うようにターゲットホルダ12aにセットする。一方、サセプタホルダ34の取付孔34aにサセプタ32を取り付け、さらにこのサセプタ32の湾曲面32aの中央部33aおよび端部33bが基材1の裏面に接触するようにセットする。このようにしたならば、成膜室10aを真空排気する。
ここで必要に応じて成膜室10aに酸素ガスを導入して成膜室10aを酸素雰囲気としても良い。また、ヒータ36に出力を投入してサセプタ32を加熱し、基材1を間接的に加熱できるようにする。このようにするとサセプタ32の湾曲面32aの長さ方向の中央部33aは一定温度範囲に加熱されており、両側の端部33bには温度勾配が生じ、また、湾曲面32aの幅方向は一定温度範囲に加熱されている。ここでヒータ36に投入される出力は、熱電対35で測定されたサセプタ32の温度の値に基づいてサセプタ32の湾曲面32aが成膜に適切な温度範囲となるように上記制御部により制御されている。
【0027】
次に、レーザ発光装置14から発生させたレーザビームを第1反射鏡21と集光レンズ22と第2反射鏡23と透明窓24を介して成膜室10a内に導き、ターゲット12の表面に集光照射する。この際に、集光レンズ22の位置調節を行ってターゲット12の表面にレーザビームの焦点を合せる。また、多結晶中間薄膜が形成された基材1を多結晶中間薄膜側の面を上にして送出装置18から所定速度で順次送り出して巻取装置19に巻取ることにより、基材1をターゲット12の下方を水平移動させるとともに基材1の裏面をサセプタ32の湾曲面32aの中央部33aおよび両側の端部33bに接触させながら加熱する。このようにすると、湾曲面32aの中央部33aは一定温度範囲に加熱されており、両側の端部33bには温度勾配が生じており、また、湾曲面32aの幅方向は一定温度範囲に加熱されているので、基材1のサセプタ32への接触状態を安定させることができるとともに基材1に温度勾配をつけながら加熱することができる。
【0028】
このようにすると、レーザビームが照射されたターゲット12は表面部分がえぐり取られるか蒸発されて構成粒子が叩き出され、この粒子は基材1の多結晶中間薄膜上に堆積して結晶化薄膜が形成される。このとき、基材1はサセプタ32の湾曲面32aにより加熱されているので結晶化薄膜は堆積と同時に熱処理されて酸化物超電導層が形成される。
以上の操作によって基材1上に順次粒子を堆積させ、テープ状の基材1の多結晶中間薄膜上に酸化物超電導層を形成することで、酸化物超電導導体を得ることができる。このようにして形成された酸化物超電導層は、基材1の長さ方向および幅方向の沿って均質に形成されており、しかも結晶配向性が優れている。
【0029】
なお、本実施形態のレーザ蒸着装置では、サセプタ32がサセプタホルダ34に着脱自在に取り付けられた例を説明したが、サセプタ32とサセプタホルダ34が一体のものでもよい。また、サセプタホルダ34の上面34bに反射防止板42を配設した例を説明したが、反射防止板42は必ずしも配設されていなくてもよい。
また、実施形態のレーザ蒸着装置を用いて酸化物超電導導体の製造する例においては、基材1の裏面をサセプタ32の湾曲面32aの中央部33aおよび端部33bに接触させながら成膜する場合について説明したが、基材1の裏面をサセプタ32の湾曲面32aの中央部33aのみに接触させながら成膜してもよく、その場合には基材1を一定温度範囲で加熱することができる。
また、上述の実施形態においては、本発明の酸化物超電導導体の製造装置をレーザ蒸着装置に適用した場合について説明したが、成膜室内に設けた酸化物超電導体または酸化物超電導体と近似組成のターゲットから発生させた粒子をターゲット近傍を移動中の基材上に順次堆積させて酸化物超電導層を形成する酸化物超電導導体の製造装置や、基材上にCVD法によって酸化物超電導層を成膜する薄膜形成装置においても同様に適用でき、例えば、スパッタ装置などの物理蒸着装置や、CVD装置において同様に適用できる。
【0030】
【実施例】
(実施例1)
図1に示すレーザ蒸着装置において、ターゲット蒸発用のレーザとして波長248nm、平均出力50W、繰返周波数100Hz、パルス幅10nsecのKrFエキシマレーザを用いた。また、基材として、ハステロイ製の幅10mm、厚さ0.2mmのテープの上面に、厚さ0.5μmのYSZからなる多結晶中間薄膜をイオンビームアシストスパッタリング法により成膜したものを用いるとともに、ターゲットとしてY1Ba2Cu3O7-xなる組成の焼結体からなる円板状のターゲットを用いた。また、サセプタとしてインコネル(商品名;インターナショナルニッケル社製)製の長さL1が80mm、幅W1が10mm、湾曲面の長さ方向の曲率半径R1が600mm、幅方向の曲率半径R2が200mmものを用い、これをサセプタホルダの取付孔に取り付け、さらにこのサセプタの湾曲面の中央部および両側の端部が基材の裏面に接触するようにセットした。さらに、成膜室の内部を10-6Torrに排気し、サセプタの下方のヒータ(加熱手段)に出力を投入して基材をサセプタの湾曲面の中央部及び両側の端部に接触させながら加熱し該基材上に上記ターゲットから移動してくる粒子を堆積しレーザ蒸着を行って酸化物超電導導体を得た。ここでヒータに投入する出力は、熱電対で測定したサセプタの温度の値に基づいてサセプタの湾曲面が成膜に適切な温度範囲となるように制御部により制御した。
【0031】
実施例で得られた酸化物超電導導体をこの酸化物超電導導体の中央部分側に対し、スパッタ装置によりAgコーティングを施し、更に両端部側にそれぞれAgの電極を形成し、Agコーティング後に純酸素雰囲気中にて500℃で2時間熱処理を施して測定試料とした。そして、この試料を液体窒素で77Kに冷却し、外部磁場0T(テスラ)の条件で試料における長さ方向の位置ごとと幅方向の位置ごとの臨界電流(Ic)をそれぞれ測定した結果を図4〜図5に示す。図4中、実線▲1▼は実施例で得られた酸化物超電導導体の長さ方向の位置ごとの臨界電流を示すものである。図5中、実線▲2▼は実施例で得られた酸化物超電導導体の幅方向の位置ごとの臨界電流を示すものである。
【0032】
(比較例1)
図8に示すレーザ蒸着装置を用い、輻射型の加熱ヒータに一定出力3KWを投入し、このヒータにより基材を直接加熱しながら該基材上にターゲットから移動してくる粒子を堆積した以外は上述の実施例と同様にして酸化物超電導導体を得た。
比較例1で得られた酸化物超電導導体の長さ方向の位置ごとと幅方向の位置ごとの臨界電流を上記実施例と同様にして測定した。その結果を図6〜図7に示す。図6中、破線▲3▼は比較例1で得られた酸化物超電導導体の長さ方向の位置ごとの臨界電流を示すものである。図7中、破線▲4▼は比較例1で得られた酸化物超電導導体の幅方向の位置ごとの臨界電流を示すものである。
【0033】
(比較例2)
輻射型の加熱ヒータに一定出力を投入し、このヒータにより基材を直接加熱しながら該基材上にターゲットから移動してくる粒子を堆積することに代えて、パイロメータにより基材の温度を測定し、この測定値に基づいて加熱ヒータに投入する出力を変更しながら該基材上にターゲットから移動してくる粒子を堆積した以外は上述の比較例1と同様にして酸化物超電導導体を得た。
比較例2で得られた酸化物超電導導体の長さ方向の位置ごとと幅方向の位置ごとの臨界電流を上記実施例と同様にして測定した。その結果を図6〜図7に示す。図6中、実線▲5▼は比較例2で得られた酸化物超電導導体の長さ方向の位置ごとの臨界電流を示すものである。図7中、実線▲6▼は比較例2で得られた酸化物超電導導体の幅方向の位置ごとの臨界電流を示すものである。
【0034】
図4〜図7に示した結果から明らかなように、比較例1,2で得られた酸化物超電導導体は、実施例で得られた酸化物超電導導体に比べて臨界電流値が低く、また、比較例1,2の酸化物超電導導体は、実施例で得られた酸化物超電導導体に比べて長さ方向および幅方向に沿った臨界電流値のばらつきが大きく、超電導特性が劣ることが確認できた。以上のことから、実施例で得られた酸化物超電導導体は、基材の長さ方向および幅方向に沿って均一で、優れた超電導特性を有することが分る。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように請求項1記載の酸化物超電導導体の製造装置は、テープ状の基材の裏面に接触させるための湾曲面を有するサセプタと、該サセプタを加熱するための加熱手段を少なくとも具備する加熱治具が備えられ、該加熱治具はテープ状の基材上に結晶化薄膜を堆積する領域の近傍で上記サセプタの湾曲面がテープ状の基材の裏面に接触するように配設されてなり、上記サセプタの湾曲面は上記テープ状の基材の長さ方向に沿った方向と該テープ状の基材の幅方向に沿った方向に湾曲しているものであるので、加熱手段によりサセプタを加熱することによって基材を間接的に加熱でき、このときサセプタの湾曲面の長さ方向および幅方向の温度分布は安定しており、しかも基材のサセプタへの接触状態が安定しているので、輻射型のヒータにより基材を直接加熱する従来のレーザ蒸着装置のように基材の温度が不安定となることがなく、結晶化薄膜を堆積させる部分(成膜範囲)の基材の温度を成膜に最適な温度範囲に制御することができるので、成膜条件が良好となり、基材の長さ方向および幅方向に沿って均質で、かつ結晶配向性が優れた酸化物超電導層を形成することができ、従って、基材の長さ方向および幅方向に沿って均一で、臨界電流値などの超電導特性が優れた酸化物超電導導体を製造できる。
また、上記加熱治具においては、加熱手段によりサセプタを加熱すると、サセプタの湾曲面の中央部はほぼ一定温度範囲に加熱され、この中央部の両側の端部は温度勾配が生じるようになっているので、基材の裏面をサセプタの湾曲面の中央部の一定温度範囲の部分のみに接触するようにすれば、基材のサセプタへの接触状態を安定させることができるとともに基材を一定温度範囲で加熱することができ、あるいは基材の裏面を中央部の両側の端部にまで接触するようにすれば、基材のサセプタへの接触状態を安定させることができるとともに基材に温度勾配をつけながら加熱することができる。
【0036】
また、請求項2記載の酸化物超電導導体の製造装置にあっては、特に、上記加熱治具のサセプタがサセプタホルダに着脱自在に取り付けられたものであるため、長さ方向の曲率半径が異る湾曲面を有するサセプタに交換することにより、サセプタの湾曲面の中央部の一定温度範囲の長さや端部の温度勾配を変更して湾曲面の温度分布を変更することができるので、形成する酸化物超電導層の種類や厚み等を変更するときは、成膜条件に応じた温度分布を生じることができる長さ方向の曲率半径を有する湾曲面を備えたサセプタを取り付けることにより、成膜に最適な温度範囲で基材を加熱することができる。また、幅の異なるあるいは反り量が異なるテープ状の基材上に結晶化薄膜を形成するときには、幅方向の曲率半径が異るサセプタに交換するだけで種々の幅あるいは反り量が異なるのテープ状の基材の加熱に対応することができる。さらに、上記加熱治具においては、サセプタがサセプタホルダとは別個に設けられたものであり、そのうえサセプタのみを加熱するだけでよいので、加熱手段の出力が小さくて済み、経済的である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の酸化物超電導導体の製造装置をレーザ蒸着装置に適用した一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】 図1のレーザ蒸着装置に備えられた加熱治具を説明するための図であり、(A)はテープ状の基材側から見たときの図、(B)は(A)のA−A線断面図ある。
【図3】 図1のレーザ蒸着装置に備えられた加熱治具のサセプタを示す斜視図である。
【図4】 実施例で得られた酸化物超電導導体の長さ方向の位置ごとの臨界電流を示すグラフである。
【図5】 実施例で得られた酸化物超電導導体の幅方向の位置ごとの臨界電流を示すグラフである。
【図6】 比較例1、比較例2で得られた酸化物超電導導体の長さ方向の位置ごとの臨界電流を示すグラフである。
【図7】 比較例1、比較例2で得られた酸化物超電導導体の幅方向の位置ごとの臨界電流を示すグラフである。
【図8】 従来のレーザ蒸着装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1・・・基材、10a・・・成膜室、30・・・加熱治具、32・・・サセプタ、
32a・・・湾曲面、34・・・サセプタホルダ、34b・・・上面、36・・・ヒータ(加熱手段)、R1・・・曲率半径、R2・・・曲率半径。
Claims (3)
- 真空排気可能な成膜室の内部を移動中の可撓性を有するテープ状の基材上に結晶化薄膜を順次堆積させ、この結晶化薄膜を熱処理して酸化物超電導層を形成する酸化物超電導導体の製造装置において、
前記テープ状の基材の裏面に接触させるための湾曲面を有するサセプタと、該サセプタを加熱するための加熱手段を少なくとも具備する加熱治具が備えられ、該加熱治具はテープ状の基材上に結晶化薄膜を堆積する領域の近傍で前記サセプタの湾曲面がテープ状の基材の裏面に接触するように配設されてなり、前記サセプタの湾曲面は前記テープ状の基材の長さ方向に沿った方向と該テープ状の基材の幅方向に沿った方向に湾曲していることを特徴とする酸化物超電導導体の製造装置。 - 前記加熱治具に、前記サセプタとは別個に設けられたサセプタホルダが備えられ、前記サセプタはその湾曲面が前記サセプタホルダの上面から突出するようにサセプタホルダに着脱自在に取り付けられてなることを特徴とする請求項1記載の酸化物超電導導体の製造装置。
- 前記サセプタの湾曲面のテープ状の基材の長さ方向に沿った方向の曲率半径が300〜800mmであり、かつ前記湾曲面のテープ状の基材の幅方向に沿った方向の曲率半径が100〜800mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物超電導導体の製造装置。
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