JP3995563B2 - 防食層形成方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、防食層形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、土壌に埋設されたダクタイル鋳鉄管の外面は腐食環境にある。このため、現在では腐食対策として、管体の表面に亜鉛溶射を施したり、ポリエチレンスリーブなどによって管体表面を被ったりして保護している。
【0003】
このように、土壌に埋設されたダクタイル鋳鉄管の外面には腐食対策が施されているが、亜鉛溶射膜の剥離やポリエチレンスリーブの破れなどが生じると、その内部、すなわち腐食対策が施されていない部分が土壌に対して露出し、この部分から徐々に管が腐食してしまうことがある。
【0004】
また、ダクタイル鋳鉄に限らず、一般に鉄系金属の場合、通常の自然状態での酸化により金属は腐食するが、高温状態または酸素濃度が高い環境での酸化では、マグネタイト(Fe34)、すなわち黒錆が形成される。このマグネタイト(Fe34)は腐食性の環境下にあっても極めて安定しており、それが表層全体を覆うことにより、鉄系金属の腐食を防止することができる。そこで、鉄系金属の表面をバーナー等により高温に加熱して酸化することにより、この金属の表面にマグネタイト被膜を形成して腐食を防止することが図られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、マグネタイト被膜は、鉄系金属のごく表面部分のみに形成されているので、このマグネタイト被膜に傷がつき、この被膜の内側部分が露出してしまうと、この部分から徐々に腐食してしまうことがある。
【0006】
そこで本発明はこのような問題を解決して、ダクタイル鋳鉄をはじめとする鉄系金属の表面に、ある程度の傷などが生じても防食機能を維持しうるような安定な酸化鉄層を形成することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために請求項1記載の発明は、酸素を作動ガスとして発生させたプラズマアークを鉄系金属の表面に照射し、前記金属の表面を溶融させて酸化させることによって、前記金属の表面にマグネタイト層を形成するものである。
【0008】
このような構成によれば、酸素を作動ガスとして発生させたプラズマアークを照射することで、鉄系金属の表面は、プラズマアークの熱による高温状態でかつ作動ガスとして酸素が用いられていることによって高酸素濃度の環境で酸化することができるので、この鉄系金属の表面に安定な酸化鉄層を形成することができる。これにより、この安定な酸化鉄層が鉄系金属の腐食を防止することができる。
【0009】
また、このようにして鉄系金属の表面を溶融させることで、鉄原子と反応する酸素を、鉄系金属のごく表面の部分のみでなく、この鉄系金属の表面からより深い位置まで供給することができ、結果として、酸素が供給された範囲において酸化反応が起こるので、鉄系金属の表面を溶融させないで酸化させた場合に比べて緻密で安定な酸化鉄層を厚く形成することができる。したがって、この安定な酸化鉄層にある程度の深さの傷が生じても、この安定な酸化鉄層は、従来形成されていたマグネタイト被膜よりも厚く形成されているので、傷が安定な酸化鉄層の内側にまで到達することを防ぎ、防食機能を維持することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態の防食層形成方法を図1及び図2を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態において、防食層形成装置12として、例えば、V字アークプラズマ装置を用いる。
【0011】
鉄系金属としての、例えばダクタイル鋳鉄管1は、図2に示すように、例えば、四ヶ所の位置においてローラ2で支持されており、これらのローラ2が回転駆動することで、このローラ2の回転方向と逆方向に従動回転可能とされている。
【0012】
本発明の実施の形態で用いられる防食層形成装置12は、図1及び図2に示すように、鋳鉄管1の外部に、陽極3を有する陽極側トーチ4と、陰極5を有する陰極側トーチ6とが、互いにV字をなす位置に配置された構成とされている。
【0013】
陽極側トーチ4の先端部にはノズル部7が形成されており、このノズル部7からは、装置作動中に電子が流れ込む陽極3の酸化消耗を抑制するための不活性ガスであるアルゴンガス11が、図1の破線にて示す方向に、すなわちガスが陽極3を覆うまで供給されている。なお、アルゴンガス11のほかに窒素ガスなどの酸化作用のないガスを用いることで、陽極3の消耗を抑制することができる。
【0014】
また、陰極側トーチ6の先端部にもノズル部10が形成されており、このノズル部10から作動ガスとしての酸素ガス8が図1の実線にて示す方向に、すなわちプラズマ処理を施そうとする鋳鉄管1の表面に向かって供給されている。これにより、陽極3と陰極5との間に高電圧を作用させることで、鋳鉄管1の外面を中継して陽極3と陰極5との間にV字状のプラズマアーク9を発生させることが可能である。
【0015】
このような構成において、鋳鉄管1の外表面に安定な酸化鉄層である、すなわちマグネタイトを多く含有することで化学的に安定なマグネタイト含有層13(以下、単にマグネタイト含有層13と記す)を形成するには、図2に示すように、鋳鉄管1を支持するローラ2を回転駆動させることにより、この鋳鉄管1を軸方向周りに回転させる。鋳鉄管1が所定の速さで回転し始めると、鋳鉄管1の外部に配置されている防食層形成装置12を作動させ、この防食層形成装置12を管軸方向に沿って、すなわち図中の矢印の方向に移動させ、鋳鉄管1の外表面の全長かつ全周にわたってのマグネタイト含有層13を形成していく。
【0016】
マグネタイト含有層13を形成する方法をより詳細に説明すると、鋳鉄管1が回転し始めると、陽極3と陰極5との間に高電圧を作用させ、図1に示すように、陰極側トーチ6におけるノズル部10から作動ガスとしての酸素ガス8を、プラズマ処理を施そうとする鋳鉄管1の表面に向かって供給して酸素濃度が高い環境を形成し、陽極3と陰極5との間に鋳鉄管1の外表面を中継してV字状のプラズマアーク9を発生させる。これにより、プラズマアーク9中では酸素ガス8が酸素イオンと電子に乖離する。これと同時に、陽極側トーチ4におけるノズル部7からアルゴンガス11を図1の破線にて示す方向にガスが陽極3を覆うまで供給する。これにより、アルゴンガス雰囲気14が形成されて陽極3が保護される。
【0017】
このとき、鋳鉄管1の表面の鉄原子は、プラズマアーク9の熱による高温状態で、かつ作動ガスとして酸素8が用いられていることによる高酸素濃度の環境で、すなわち通常の自然状態よりも優先的にマグネタイトが形成されやすい条件の下で、酸化することができるので、図1〜図3に示すように、鋳鉄管1の外表面において、優先的に耐食性に優れたマグネタイト含有層13を形成することができる。これにより、鋳鉄管1の外表面は安定なマグネタイト含有層13により被覆されることになるので、鋳鉄管1の腐食を防止することができる。
【0018】
また、このようにして鋳鉄管1の表面にマグネタイト含有層13を形成する際に、上記の実施の形態のようにプラズマアーク9により鋳鉄管1の表面を溶融させることで、例えば従来のように鉄系金属の表面をバーナー等により高温に加熱して酸化させた場合、すなわち鋳鉄管1の表面を溶融させないで酸化させた場合に得られるマグネタイト被膜に比べて緻密なマグネタイト含有層13を厚く形成することができる。したがって、従来のマグネタイト被膜を貫通する程度の深さの傷がマグネタイト含有層に生じても、この傷がマグネタイト含有層13の内側にまで到達することすなわち防食処理が施されていない部分が露出することを防ぎ、防食機能を維持することができる。
【0019】
また、本発明の実施の形態においては、ダクタイル鋳鉄管の表面に防食層を形成する場合を示しているが、これに限らず、一般に、鉄系金属の表面に、酸素を作動ガスとして発生したプラズマアークを照射することによってマグネタイト含有層を形成し、腐食対策とすることに用いることができる。
【0020】
また、本発明の実施例として、プラズマ照射処理が施された鋳鉄管の表面をEPMAにより面分析した。その結果、鋳鉄管の表面側に、鋳鉄が有する通常の酸素の濃度よりも高酸素濃度の層、すなわち多くのマグネタイトを含有することで酸素濃度が高くなっているものであると推察される層が、従来形成されていたマグネタイト被膜よりも厚く形成されていることが確認できた。
【0021】
また、この鋳鉄管の組成をX線回折により解析した。その結果、プラズマ照射処理後の鋳鉄管の表面には、プラズマ照射処理を施す前よりも多くのマグネタイト(Fe34)が形成されていることが確認できた。
【0022】
また、プラズマ照射処理を施した鋳鉄管に一ヶ月間の大気暴露試験を行った結果、腐食の発生は認められなかった。また、プラズマ照射処理を施した鋳鉄管に一ヶ月間の3%食塩水浸漬試験を行った結果、腐食の発生は認められなかった。
【0023】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、酸素を作動ガスとして発生させたプラズマアークを照射することで、鉄系金属の表面は、プラズマアークの熱による高温状態でかつ作動ガスとして酸素が用いられていることによって高酸素濃度の環境で酸化することができるので、この鉄系金属の表面に安定な酸化鉄層を形成することができる。これにより、この安定な酸化鉄層が鉄系金属の腐食を防止することができる。
【0024】
また、このようにして鉄系金属の表面を溶融させることで、鉄原子と反応する酸素を、鉄系金属のごく表面の部分のみでなく、この鉄系金属の表面からより深い位置まで供給することができ、結果として、酸素が供給された範囲において酸化反応が起こるので、鉄系金属の表面を溶融させないで酸化させた場合に比べて緻密で安定な酸化鉄層を厚く形成することができる。したがって、この安定な酸化鉄層にある程度の深さの傷が生じても、この安定な酸化鉄層は、従来形成されていたマグネタイト被膜よりも厚く形成されているので、傷が安定な酸化鉄層の内側にまで到達することを防ぎ、防食機能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の防食層形成方法を示す図である。
【図2】鋳鉄管の表面において全長かつ全周にわたってマグネタイト含有層を形成しようとしている状態を示す図である。
【符号の説明】
1 鋳鉄管
8 酸素
9 プラズマアーク
13 マグネタイト含有層

Claims (1)

  1. 酸素を作動ガスとして発生させたプラズマアークを鉄系金属の表面に照射し、前記金属の表面を溶融させて酸化させることによって、前記金属の表面にマグネタイト層を形成することを特徴とする防食層形成方法。
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