JP3994594B2 - 路面状況推定装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車の適切な走行制御を実現するために路面状況を推定する路面状況推定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車の走行制御を適切に実現するため、路面の状況を推定する装置がある。自動車の制動時に車輪のスリップが過大となることを防止するアンチスキッド制御、加速時に車輪のスリップが過大となることを防止するトラクション制御、車輪の横滑りが過大となることを防止する方向制御などを適切に行うためには、路面状況が分かっていることが望ましいからである。なお、本明細書で「路面状況」とは、例えば乾燥路、湿潤路、新雪路、圧雪路といった区分をいう。
【0003】
このような路面状況の推定は、交通事故や環境問題などの解決手段として位置づけられる、次世代の交通社会を担うITS(高度交通システム)の実現にも重要である。
従来の路面状況推定装置として、ファジィ推論を用い路面状況を推定する装置が特開平4−110261号公報に開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来の路面状況推定装置は、赤外線センサといった数種類のセンサを用いて路面状況を推定するものであった。例えば上述した公報に開示された実施例の装置は、2つのアクティブ赤外線センサ、パッシブ赤外線センサ、超音波センサ及びカラーセンサの計5つのセンサを備えている。
【0005】
そのため、必然的に装置内の信号線が多くなり、構造が複雑になっていた。また、センサの数が多くなれば、コスト面でのデメリットも大きくなる。さらに、各センサからの信号を総合的に判断して路面状況を適切に推定するためには、各センサを精度よく設置する必要があり、設置作業に手間がかかっていた。センサの設置精度によって路面状況の推定結果にばらつきが生じるためである。もちろん、センサの数が多くなると、信号処理を行うCPUの処理負荷が大きくなってしまうという問題もあった。
【0006】
しかも、赤外線センサなど光センサを用いているため、従来の構成では、視程の影響を受け易く、視程によって路面状況の推定結果がばらつくという問題があった。
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、極力少ない数のセンサで路面状況を推定し、しかも、視程の影響を考慮した路面状況の推定を行うことを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
本発明の路面状況推定装置は、路面上方の所定位置に取り付けられる距離反射強度測定手段を備えている。例えば道路側方の支柱から道路側へ突設されたアーム部に固定することが考えられる。この距離反射強度測定手段は、路面までの距離及び路面の反射強度を測定する。
【0008】
この距離反射強度測定手段としては、例えば従来より車間制御に用いられるレーザレーダセンサや、ミリ波レーダと呼ばれる電波センサを用いて構成することが考えられる。このときは、電磁波(レーザ光や電波)を路面へ出射し、その反射波に基づいて路面までの距離及び路面の反射強度を測定する。また例えば、超音波センサを用いて構成してもよい。超音波を路面へ出射し、この超音波の反射波に基づいて距離及び反射強度を測定するのである。これらの構成において距離は、電磁波(レーザ光や電波)又は超音波の出射から反射波の入射までの時間差である行程時間差として取得すればよい。この意味で、本明細書でいう「距離」には、距離に相当する物理量が含まれる。
【0009】
さらに、カメラなどの撮像手段を用いて構成することもできる。撮像手段によって路面を撮影し、その画像に基づいて距離及び反射強度を測定することも可能だからである。例えば、ステレオカメラで捉えた左右2枚の画像において、画像内の測定部位を抽出する。この2枚の画像をずらして重ね合わせ、推定した測定部位の画像信号差がゼロとなるずらし量を求める。このずらし量と測定部位までの距離は1対1の関係となり、ずらし量から距離を算出できる。
【0010】
このような距離反射強度測定手段にて測定される路面までの距離及び路面の反射強度は、路面の状況によって変わってくる。例えば積雪時には、路面までの距離が短くなり、路面の反射強度が大きくなる。
また、本装置では、視程情報取得手段が前記反射強度の測定結果に影響を及ぼす大気の混濁度を示す視程情報を取得し、取得された視程情報に基づき、反射強度補正手段が距離反射強度測定手段にて取得された反射強度を補正する。一例として、測定された反射強度から大気が澄んでいる環境下での反射強度へ換算する補正を行うことが考えられる。
【0011】
そして、路面状況推定手段が、補正された路面の反射強度と測定された路面までの距離とに基づき、路面状況推定処理を実行して路面状況を推定する。この路面状況推定処理としては、種々の手法が考えられるが、請求項2に示すようにファジィ推論を行うことが有効である。ファジィ推論は、路面までの距離と路面の反射強度とを各状況の路面で測定し、メンバシップ関数及びファジィルールを予め作成しておくことで可能となる。路面状況は、例えば「乾燥路」、「湿潤路」、「新雪路」、「圧雪路」、「ジャム雪路」のいずれかという具合に推定される。「ジャム雪路」とは、雪がとけかけた霙状の雪路をいう。
【0012】
従来のように反射強度を路面状況推定の主情報とした装置では、上述したような路面状況を推定するために、例えば5つというように数多くのセンサが必要になっていた。
これに対して、本発明では、距離反射強度測定手段を用いることによって路面の反射強度と共に路面までの距離が測定することを特徴としている。路面までの距離を測れば、積雪の状況を簡単に判定することができるため、距離反射強度測定手段のみを用いて従来と同様のレベルで路面状況を推定できるのである。
【0013】
しかも、本発明では、視程情報取得手段にて視程情報を取得し、この視程情報に基づいて反射強度を補正する。これによって、視程の影響がなくなるため、視程の影響で路面状況の推定結果がばらつくという問題も解消される。なお、視程の影響は、距離反射強度測定手段として、レーザレーダやカメラを用いたときが最も大きくなり、超音波センサ、電波センサ(例えばミリ波レーダ)の順に小さくなる。したがって、レーザレーダやカメラを用いた構成には、この視程情報による補正が特に有効となる。
【0014】
この視程情報取得手段は、視程計を用いて構成することが考えられる。このように視程計を備える構成としても、本発明の路面状況推定装置は、従来の装置に比べてセンサの数が少なくなる。つまり、距離反射強度測定手段と視程計の計2つのセンサで構成されるのである。
【0015】
結果として、装置内の信号線が少なくなり、構造の複雑化を招くことがない。また、センサの数が少なくて済むため、コスト面でのデメリットが小さくなる。このとき、従来と同様にセンサを精度よく配置する必要はあるが、センサの数が少ないため、設置に手間がかからない。さらに、センサの数が少ないため、信号処理を行うCPUの処理負荷が大きくならない。
【0016】
なお、視程情報取得手段は、上述したように視程計を用いて構成することも考えられるが、視程を測定する視程計を備える外部装置があれば、その外部装置にて計測された視程情報を通信にて取得するようにしてもよい。測定エリアの周辺であれば、視程がそれほど大きく異なることはないからである。また、上述した距離反射強度測定手段が、レーザレーダセンサ、電波センサ又は超音波センサを用いて構成され、電磁波又は超音波を路面へ出射し、その反射波に基づき路面までの距離及び路面の反射強度を測定する場合には、請求項3に示すように、視程情報取得手段が距離反射強度測定手段の測定結果に基づき、視程情報を算出して取得するようにしてもよい。
【0017】
この場合、距離反射強度測定手段からの電磁波又は超音波を反射するリフレクタを所定位置に配置しておく。例えば、レーザ光を反射する光学的なリフレクタとしては、キャッツアイ、デリニエータと呼ばれる正反射物体(レトロ・リフレックス・リフレクタ)が挙げられる。電波や超音波を用いる場合には、それに応じたリフレクタを用いればよい。
【0018】
そして、視程情報取得手段は、リフレクタで反射された反射波の反射強度と、基準となる反射強度とを比較し、視程情報を算出して取得する。基準となる反射強度としては、例えば大気が澄んでいるときの反射強度を予め測定して記憶しておけばよい。また、リフレクタを配置する所定位置は、距離反射強度測定手段の測定エリアとすることが考えられる。この場合、視程が正確に算出できる点で有利である。ただし、積雪時にはリフレクタが雪に隠れてしまうことが考えられるため、距離反射強度測定手段からの電磁波又は超音波が照射可能な測定エリア周辺にリフレクタを設置するのが現実的である。例えば距離反射強度測定手段の取り付けられた支柱にリフレクタを配置するという具合である。
【0019】
上述のように視程情報を外部から得るようにしても、また、リフレクタを用いて算出するようにしても、本路面状況推定装置には視程計が必要なくなるため、一つのセンサ、すなわち距離反射強度測定手段のみで構成することができ、センサの数をさらに減少させることができる。
【0020】
ところで、上述した距離反射強度測定手段は路面の一点を測定するような構成であってもよいが、路面の一点の情報で路面状況を推定する場合、外乱の影響を受け易く、適切な路面状況が推定できない可能性が高くなる。
そこで、請求項4に示すように、距離反射強度測定手段が、路面上の複数の測定点を測定対象とし、当該各測定点までの距離及び各測定点からの反射強度を測定するようにすることが望ましい。このとき、路面状況推定手段は、各測定点毎に路面状況推定処理を実行して路面の状況を推定し、当該各測定点毎に推定した路面の状況を統計することによって路面状況を推定する。
【0021】
例えば200個の各測定点毎に路面の状況を推定した結果、「乾燥路」と推定された測定点が150個、「湿潤路」と推定された測定点が25個、「圧雪路」と推定された測定点が25個となったとする。このとき、統計処理を行い、150÷200=75%の確率で「乾燥路」、25÷200=12.5%の確率で「湿潤路」又は「圧雪路」と路面状況を推定することが考えられる。このようにすれば、路面の一点だけの情報に基づいて路面状況を推定する場合と比べ、適切な路面状況が推定される。
【0022】
また、適切に路面状況を推定することを考えると、上述した請求項4の構成を前提として、請求項5に示す構成を採用することが考えられる。
その構成は、さらに、平均値算出手段を備えるものである。この平均値算出手段は、各測定点に対応する距離及び反射強度を、複数の測定点のうちの所定数の測定点毎に平均した平均距離及び平均反射強度を算出する。例えば上述したように200個の測定点がある場合には、10個の測定点毎に距離及び反射強度を平均して平均距離及び平均反射強度を算出するという具合である。
【0023】
このとき、反射強度補正手段は、視程情報取得手段にて取得された視程情報に基づき、平均値算出手段にて算出された平均反射強度を補正する。そして、路面状況推定手段が、反射強度補正手段にて補正された平均反射強度及び平均値算出手段にて算出された平均距離に基づき、所定数の測定点毎に路面状況推定処理を実行して路面の状況を推定する。上述した例で言えば、10個の測定点の情報に基づき、路面状況推定処理を実行する。そしてさらに、当該所定数の測定点毎に推定した路面の状況を統計することによって路面状況を推定する。
【0024】
このようにすれば、距離反射強度測定手段による測定誤差による影響を抑えることができ、さらに適切な路面状況が推定される。
なお、本発明の路面状況推定装置では路面の反射強度だけでなく路面までの距離を測定している。その結果、雪路との推定結果は、例えば「乾燥路」、「湿潤路」といった推定結果と比べて信頼性が高くなる。なぜなら、路面までの距離が短くなっていれば、高い確率で雪路と推定できるからである。
【0025】
したがって、各測定点毎に又は所定数の測定点毎に推定された路面の状況を統計する場合、上述したように単純に平均してもよいが、請求項6に示すように、路面状況推定手段は、路面の状況を統計する際、所定の重み付けを行うようにしてもよい。例えば上述した例では、「乾燥路」又は「湿潤路」であると判断された測定点に対する「重み」を小さくし、「圧雪路」であると判断された測定点の「重み」を大きくして統計処理を行うことが考えられる。このようにすれば、距離反射強度測定手段の特性に基づく路面状況の適切な推定が可能となる。
【0026】
ところで、上述した距離反射強度測定手段は、複数の測定点を測定対象とする場合、1次元に配列した測定点を測定対象とすることが考えられる。一方、2次元に配列した測定点を測定対象とすることが考えられる。
後者のように測定点が2次元に配列する場合、実際に各状況の路面で距離反射強度測定手段を用いて測定を行うと、距離反射強度測定手段の鉛直下に位置する基準点からの距離が同一になる測定点、すなわち、距離反射強度測定手段の鉛直下を原点とする同心円上に分布する測定点は、距離反射強度測定手段に対して同様の位置関係を有するため、それら測定点に対応する距離及び反射強度は同様のデータとなる。
【0027】
そこで、請求項7に示すように、距離反射強度測定手段が2次元に配列した測定点を測定対象とする場合、距離反射強度測定手段の鉛直下に位置する基準点から各測定点までの距離を極座標距離として測定するようにし、路面状況推定手段は、この極座標距離を含めてファジィ推論を行い路面の状況を推定するようにすることが考えられる。このようにして複数の測定点のうちのいくつかの測定点に共通の極座標距離を導入すれば、ファジィ推論を行うためのファジィルールの作成が容易になり、処理設計が簡単になるという点で有利である。
【0028】
なお、上述したような距離反射強度測定手段による測定値のみからは、路面の凍結状況を判断することは困難である。そこで、請求項8に示すように、さらに、路面温度情報取得手段及び路面凍結状況推定手段を備える構成とすることが望ましい。
【0029】
路面温度情報取得手段は、路面の温度情報を取得する。この路面温度情報取得手段は、路面温度センサを用いて構成することが考えられる。この路面温度センサは、接触式のセンサであってもよいし、非接触式のセンサであってもよい。例えば非接触式であれば、放射温度計を用いることが考えられる。また、視程情報と同様に、外部装置にて測定された路面の温度情報を通信にて取得する手段として構成することも考えられる。
【0030】
このとき、路面凍結状況推定手段は、取得された路面温度情報及び路面状況推定手段にて推定された路面状況に基づき、路面の凍結状況を推定する。例えば路面推定手段にて「圧雪路」と推定された場合、路面が凍結する温度であれば「圧雪氷板路」と判断し、そうでなければ「圧雪路」と推定するという具合である。
【0031】
このようにすれば、路面の凍結状況を推定することができ、より詳細に路面状況を推定することができる。
ただし、路面温度センサを備える構成とすれば当然ながらセンサの数が増えることになる。しかし、視程計を備える場合であっても、距離反射強度測定手段を含めて計3個のセンサで構成できる。つまり、従来の構成と比較すれば、路面温度センサを備える構成としても、センサの数は少なくなる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施例を図面を参照して説明する。
図1は、実施例の路面状況推定装置1の機能ブロック図である。路面状況推定装置1は、測定部10、信号処理部20及び通信部30とを備えている。
【0033】
測定部10は、レーザレーダセンサ11を備えており、信号処理部20に接続されている。また、信号処理部20は、CPU21を中心としたいわゆるコンピュータシステムとして構成されている。また、信号処理部20は、記憶装置22を備えている。そして、この信号処理部20には通信部30が接続されている。通信部30は、外部装置との間でデータのやり取りを行うためのインターフェースである。
【0034】
上述したレーザレーダセンサ11は、正方領域である測定エリア80の中心上方に固定される。本実施例では、図2に示す如く、道路側方の支柱91から道路側に突設されたアーム部92に固定されている。このレーザレーダセンサ11は、レーザ光を2次元に走査し、路面上の測定エリア80内の測定点へレーザ光を出射し、その反射光に基づき、測定点の情報を測定する。
【0035】
一方、通信部30は、レーザレーダセンサ11によるレーザ光の光路の視程情報及び測定エリア80の路面温度の情報を外部装置から取得する。
信号処理部20は、レーザレーダセンサ11にて測定された測定点の情報と、通信部30にて取得される情報とに基づいて、路面状況を推定する。路面状況の推定結果は、通信部30によって外部装置へ送信され、外部装置から各走行車両へ送信されて車両の走行制御に用いられる。
【0036】
以上説明した路面状況推定装置1の動作を示すのが、図3のフローチャートである。そこで次に、この図3のフローチャートに基づき、路面状況推定装置1の動作を詳しく説明する。
まずS100では、レーザレーダセンサ11がレーザ光を移動させる。これについて図4を用いて説明する。
【0037】
図4は、図2中の測定エリア80を上方から見た様子を示す説明図である。図4に示すように、測定エリア80は例えば4m四方の領域である。測定点は、測定エリア80に例えば0.25m間隔の格子線を想定した場合の格子点である(図4中には黒丸で示した)。
【0038】
最初にレーザ光は、図中左下の記号Aで示す測定点を照射するように設定される。そして、S100の処理が実行される毎に、レーザレーダセンサ11は、記号αの矢印で示すように、道路横断方向に配列された測定点へレーザ光を順次移動する。そして、レーザ光が図中右下の記号Bで示す測定点までくると、記号βの矢印で示すように測定点Aよりも0.25mだけ道路縦断方向に位置する記号Cで示す測定点へレーザ光を移動して、測定点AからBまでと同様に、道路横断方向に配列された測定点へレーザ光を順次移動する。これを繰り返して最終的に図中右上の記号Eで示す測定点までレーザ光を移動すると、図中左下の測定点Aへ戻る。したがって、図3に示す処理が繰り返し実行され、S100の処理が繰り返し実行されると、レーザレーダセンサ11は、測定エリア80を2次元に走査することになる。
【0039】
続くS200では、測定及び補正を行う。
レーザレーダセンサ11は、上述したように各測定点へレーザ光を出射し、その反射光から各測定点の情報を得る。測定点の情報は、測定点までの距離及び測定点の反射強度である。距離は、行程時間差として得られる。行程時間差とは、レーザ光の発光と受光との時間差であり、この時間差が距離に換算される。そして、この距離及び反射強度が信号処理部20へ送信される。同時に、レーザレーダセンサ11は、対象となっている測定点へのレーザ光の出射方向に基づき、レーザレーダセンサ11の鉛直下の基準点からその測定点までの距離である極座標距離を算定し、この極座標距離も信号処理部20へ送信する。
【0040】
一方、通信部30は、視程情報及び路面温度情報を外部装置から取得し、この視程情報及び路面温度情報を信号処理部20へ送信する。この処理は、S200の中で行うことも考えられるが、図3に示したフローチャートとは別に、外部装置からの送信タイミングで行ってもよい。
【0041】
いずれにしても信号処理部20は、「反射強度」、「距離」、「極座標距離」、「視程情報」及び「路面温度情報」を取得する。
また、このS200では、信号処理部20が、通信部30からの視程情報に基づいて、レーザレーダセンサ11にて測定された測定点の反射強度を補正する。この補正処理は、通信部30にて取得された視程情報に基づき、測定された反射強度を大気が澄んでいる状態の時の反射強度、すなわち透過率が約100%の時の反射強度に換算するものである。この換算は、視程と光の透過率との関係式及びレーザレーダ方程式から導出される次の式1を用いて行う。
【0042】
【数1】
Figure 0003994594
【0043】
なお、ここでPr は測定された反射強度、Pr0は透過率が約100%の時の反射強度、Rはレーザレーダセンサと路面との距離、Vは視程、εはコントラスト限界値を示す。コントラスト限界値は0.02〜0.05くらいである。
つまり、S200では、上述した式1を用い、測定された反射強度Pr を透過率約100%の時の反射強度Pr0に換算するのである。なお、式1は、信号処理部20の記憶装置22に予め記憶しておく。
【0044】
そして、次のS300では、路面状況の推定を行う。このS300における路面状況推定処理を詳細に示したのが、図5のフローチャートである。したがって、S300については、図5のフローチャートに基づき説明する。
まず最初のステップS310では、ファジィ推論を行って対象となっている測定点における路面の状況を推定する。ここでは、補正後の反射強度、距離、及び極座標距離に基づいてファジィ推論を行う。
【0045】
ここでファジィ推論によって路面の状況を推定する方法について詳しく説明する。
ファジィ推論を行うためには、メンバシップ関数及びファジィルールを作成しておく必要がある。メンバシップ関数は、各状況にある路面のデータを実際に測定し、その度数分布から作成する。例えば様々な「圧雪路」の路面データを集計すると、積雪によって距離は比較的近い方に分布し、反射強度は比較的大きな方へ分布する。この分布状態を用いてメンバシップ関数として構成するのである。各路面状況に対応する「距離」、「反射強度」及び「極座標距離」のメンバシップ関数は、図6に示す如くである。例えば「圧雪路」では、距離が図6(a)に実線で示すように分布し、また、反射強度が図6(b)に一点鎖線で示すように分布する。
【0046】
そして、このメンバシップ関数の組み合わせをファジィルールとして作成する。図7に示す如くである。この図7によれば、例えば距離が「近い」ときで、かつ、反射強度が「強い」ときは、「圧雪路」と推定されることになる。図7に示すようなファジィルールを用いることによって、このS310では、路面状況を「乾燥路」、「湿潤路」、「新雪路」、「圧雪路」又は「ジャム雪路」のいずれかと推定する。
【0047】
なお、メンバシップ関数及びファジィルールは、信号処理部20の記憶装置22に記憶しておき、適宜読み出して用いる。
ここで再び図5のフローチャートの説明に戻る。
上述したようにして測定点における路面の状況がある程度推定されるのであるが、S320以降の処理では、さらに温度情報等に基づき、より詳細な路面状況の推定を行う。
【0048】
S320では、S310にて「圧雪路」と推定されたか否かを判断する。「圧雪路」と推定された場合(S320:YES)、S330へ移行する。一方、「圧雪路」と推定されなかった場合(S320:NO)、S330の処理を実行せず、S350へ移行する。
【0049】
S330では、路面温度情報に基づいて路面が凍結する温度であるか否かを判断する。ここで凍結する温度であると判断された場合(S330:YES)、S340にて測定点における路面の状況は「圧雪氷板路」と推定し、その後、本路面状況推定処理を終了する。一方、凍結する温度でないと判断された場合(S330:NO)、S350へ移行する。
【0050】
S350では、S310にて「湿潤路」と推定されたか否かを判断する。「湿潤路」と推定された場合(S350:YES)、S360へ移行する。一方、「湿潤路」と推定されなかった場合(S350:NO)、以降の処理を実行せず、本路面状況推定処理を終了する。
【0051】
S360では、路面温度情報に基づいて路面が凍結する温度であるか否かを判断する。ここで凍結する温度であると判断された場合(S360:YES)、S370にて測定点における路面の状況は「氷膜路」であると推定し、その後、本路面状況推定処理を終了する。一方、凍結する温度でないと判断された場合(S360:NO)、S380へ移行する。
【0052】
S380では、反射強度が所定値以下か否かを判断する。ここで反射強度が所定値以下であると判断された場合(S380:YES)、S390にて測定点における路面の状況は「水膜路」であると推定し、その後、本路面状況推定処理を終了する。一方、反射強度が所定値よりも大きいと判断された場合(S380:NO)、本路面状況推定処理を終了する。
【0053】
以上のように、S320以降の処理では、S310にて「圧雪路」又は「湿潤路」と判断された路面の状況を、さらに路面温度情報によって凍結しているか否かを判断する。また、「湿潤路」で凍結していない場合には、路面が湿っている状態であるのかあるいは水膜が生じている状態であるのかを反射強度から判断する。
【0054】
これによって、各測定点における路面状況は、「乾燥路」、「湿潤路」、「水膜路」、「氷膜路」、「新雪路」、「圧雪路」、「圧雪氷板路」又は「ジャム雪路」の8区分に推定される。
ここで再び図3のフローチャートの説明に戻る。
【0055】
続くS400では、統計及び出力処理を実行する。図3に示したS100〜S300の処理が繰り返される毎に、測定点での路面の状況が順に推定されるため、S400では、この路面の状況を信号処理部20の記憶装置22に記憶しておく。そして、図4に示した測定エリア80の289(17×17)個の測定点のそれぞれについて推定された推定結果を統計し、測定エリア80における路面状況を推定する。
【0056】
具体的には、289個の測定点のそれぞれの推定結果から、上述した8区分の路面状況を確率で示す。例えば289個の測定点の内の200個の測定点で「乾燥路」と判断され、残り89個の測定点で「湿潤路」と判断された場合には、200÷289≒69%の確率で「乾燥路」、89÷289≒31%の確率で「湿潤路」と推定する。
【0057】
次に、本実施例の路面状況推定装置1の発揮する効果を説明する。
本実施例の路面状況推定装置1では、レーザレーダセンサ11を用いることによって路面の反射強度と共に路面までの距離を測定する(図3中のS200)。路面までの距離を測れば、積雪の状況を簡単に判定することができるため、レーザレーダセンサ11のみを用いて、従来と同様レベルで路面状況を推定できる。
【0058】
しかも、本実施例では、通信部30を介して外部装置から視程情報を取得し、この視程情報に基づき、上述した式1を用いて反射強度を補正する(図3中のS200)。これによって、視程の影響を考慮した路面状況の推定ができ、推定結果がばらつくという問題も解消される。
【0059】
また、本実施例では、路面温度情報も通信部30を介して外部装置から取得する。したがって、路面状況推定装置1は、その測定部10にレーザレーダセンサ11のみの1つのセンサを備える構成となる。
結果として、路面状況推定装置1内の信号線が少なくなり、構造の複雑化を招くことがない。また、センサの数が少なくて済むため、コスト面でのデメリットが小さくなる。このとき、従来と同様にレーザレーダセンサ11を精度よく配置する必要はあるが、センサの数が従来よりも少ないため、設置に手間がかからない。さらに信号処理部20の備えるCPU21の処理負荷が大きくならない。
【0060】
さらにまた、本実施例では、レーザレーダセンサ11が、レーザ光を測定エリア80内の測定点(図4参照)へ2次元に走査する(図3中のS100)。そして、各測定点毎に推定された路面の状況を統計して出力する(S400)。これによって、路面の一点だけの情報に基づいて路面状況を推定する場合と比べ、外乱を抑えて適切な路面状況が推定される。例えば走行する車両にレーザ光が照射される可能性もあるが、このように複数の測定点に基づき路面状況を推定するため、その場合にも推定結果のばらつきを極力抑えることができる。
【0061】
また、本実施例の路面状況推定装置1では、レーザレーダセンサ11がレーザ光の出射方向に基づき、レーザレーダセンサ11の鉛直下の基準点から対象の測定点までの距離である極座標距離を算定する(図3中のS200)。そして、この極座標距離を含めてファジィ推論を行い(図5中のS310)、路面の状況を推定する。このようにして測定エリア80の複数の測定点のうちのいくつかの測定点に共通の極座標距離を導入すれば、ファジィ推論を行うためのファジィルールの作成が容易になり、処理設計が簡単になるという点で有利である。レーザレーダセンサ11鉛直下を原点とする同心円上に分布する測定点は、レーザレーダセンサ11に対して同様の位置関係を有するため、それら測定点に対応する距離及び反射強度は同様のデータとなるためである。
【0062】
さらにまた、本実施例では、通信部30にて取得される路面温度情報に基づいて、路面の凍結状況を推定する(図5中のS320〜S370)。また、「湿潤路」で凍結していない場合には、さらに、反射強度が所定値よりも大きいか否かで水膜が生じているか否かを判断する(S380,S390)。これによって、路面状況は、「乾燥路」、「湿潤路」、「水膜路」、「氷膜路」、「新雪路」、「圧雪路」、「圧雪氷板路」又は「ジャム雪路」の8区分で推定でき、少ない数のセンサで細かな路面状況の推定が実現される。
【0063】
なお、本実施例における路面状況推定装置1の測定部10のレーザレーダセンサ11が「距離反射強度測定手段」に相当し、信号処理部20のCPU21が「反射強度補正手段」、「路面状況推定手段」及び「路面凍結状況推定手段」に相当し、通信部30が「視程情報取得手段」及び「路面温度情報取得手段」に相当する。
【0064】
そして、図3中のS200の補正処理が反射強度補正手段としての処理に相当し、S300の処理の中のS320〜S370の処理(図5参照)が路面凍結状況推定手段としての処理に相当し、S300の処理の中のS310の処理(図5参照)及びS400の統計処理が路面状況推定手段としての処理に相当する。
【0065】
以上、本発明はこのような実施例に何等限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得る。
(1)上記実施例では、ファジィ推論を行って路面状況を推定するものであった。ファジィ推論を行えば確率的な判断ができるため外乱の影響に強くなるが、特にファジィ推論を行わなくとも、他の演算手法を用いて路面状況を推定してもよい。
(2)また、上記実施例では、路面温度情報をファジィ推論には用いていないが、路面温度情報を含めたファジィ推論を行うことも当然考えられる。
(3)上記実施例では測定エリア80の中の測定点毎にファジィ推論を行って路面の状況を推定していたが(図5中のS310)、例えば10個というような所定数の測定点に対応する距離及び反射強度を平均し、この平均距離及び平均反射強度に基づき、所定数の測定点毎にファジィ推論を行って路面の状況を推定するようにしてもよい。このようにすれば、さらに各測定点における測定誤差による推定結果のばらつきを抑えることができる。なお、この場合、信号処理部20のCPU21が「平均値算出手段」に相当することになる。
(4)また、上記実施例では、視程情報を通信部30を介して外部装置から取得していたが、測定部10に視程計を備える構成としてもよい。このときは、視程計が「視程情報取得手段」に相当する。また、例えば図2に示す支柱91の所定位置にリフレクタを設置しておき、レーザレーダセンサ11が、このリフレクタへもレーザ光を照射し、リフレクタからの反射強度を測定するようにしておく。そして、信号処理部20がリフレクタからの反射強度と、予め記憶している透過率約100%の時のリフレクタからの反射強度とを比較し、視程情報を算出して取得するようにしてもよい。このときは、信号処理部20が「視程情報取得手段」に相当する。なお、光学的なリフレクタとしては、キャッツアイ、デリニエータと呼ばれる正反射物体(レトロ・リフレックス・リフレクタ)を用いることが考えられる。
【0066】
上記実施例では、視程情報だけでなく路面温度情報も通信部30を介して外部装置から取得していたが、路面の温度を測定する路面温度センサを備える構成としてもよい。例えば非接触式の温度センサであれば、レーザレーダセンサ11と共に道路側方の支柱91から道路側に突設されたアーム部92に設置することが考えられる。また、接触式の温度センサであっても、もちろん差し支えない。この場合、路面温度センサが「路面温度取得手段」に相当することになる。
【0067】
このように視程計や路面温度センサを備える構成としても、レーザレーダセンサ11を含めて計3つのセンサで構成できることになり、従来の装置に比べてセンサの数は少なくなることに変わりない。
(5)さらにまた、上記実施例では、複数の測定点毎に推定した路面の状況を単純に集計して路面状況を推定していた。
【0068】
ところで、上記実施例の路面状況推定装置1では反射強度だけでなく距離を測定しているため、雪路であるとの推定結果、つまり上記実施例では「新雪路」、「圧雪路」、「圧雪氷板路」、「ジャム雪路」という推定結果は、例えば「乾燥路」、「湿潤路」といった雪路以外の推定結果と比べて信頼性が高くなる。なぜなら、路面までの距離が短くなっていれば、高い確率で雪路と推定できるからである。
【0069】
したがって、各測定点毎の推定結果に基づき、又は上記(1)に示したように所定数の測定点毎の推定結果に基づき路面状況を推定する際、雪路と雪路以外とで異なる重み付けをして統計処理を行うようにしてもよい。例えば雪路と推定された測定点の個数については、1.5倍というように定数倍して統計処理をするという具合である。このようにすれば、レーザレーダセンサ11の特性に基づく路面状況の適切な推定が実現される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の路面状況推定装置の機能ブロック図である。
【図2】レーザレーダセンサの設置された様子を示す説明図である。
【図3】路面状況推定装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】測定エリア内の測定点とレーザ光の移動順序を示す説明図である。
【図5】路面状況推定処理を示すフローチャートである。
【図6】ファジィ推論におけるメンバシップ関数を例示する説明図である。
【図7】ファジィ推論におけるファジィルールを例示する説明図である。
【符号の説明】
1…路面状況推定装置 10…測定部
11…レーザレーダセンサ 20…信号処理部
21…CPU 22…記憶装置
30…通信部 80…測定エリア
91…支柱 92…アーム部

Claims (8)

  1. 路面上方の所定位置に取り付けられ、前記路面までの距離及び前記路面の反射強度を測定する距離反射強度測定手段と、
    該距離反射強度測定手段による前記反射強度の測定結果に影響を及ぼす大気の混濁度を示す視程情報を取得する視程情報取得手段と、
    前記視程情報取得手段にて取得された視程情報に基づき、前記距離反射強度測定手段にて測定された反射強度を補正する反射強度補正手段と、
    該反射強度補正手段にて補正された反射強度及び前記距離反射強度測定手段にて測定された前記路面までの距離に基づき、路面状況推定処理を実行して路面状況を推定する路面状況推定手段とを備えていること
    を特徴とする路面状況推定装置。
  2. 請求項1に記載の路面状況推定装置において、
    前記路面状況推定手段は、前記路面状況推定処理にてファジィ推論を行うこと
    を特徴とする路面状況推定装置。
  3. 請求項1又は2に記載の路面状況推定装置において、
    前記距離反射強度測定手段は、電磁波又は超音波を前記路面へ出射し、その反射波に基づき、前記路面までの距離及び前記路面の反射強度を測定するよう構成されており、
    前記距離反射強度測定手段からの電磁波又は超音波を反射するリフレクタを所定位置に配置しておき、
    前記視程情報取得手段は、前記リフレクタで反射された反射波の反射強度と、基準となる反射強度とを比較し、前記視程情報を算出して取得すること
    を特徴とする路面状況推定装置。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の路面状況推定装置において、
    前記距離反射強度測定手段は、前記路面上の複数の測定点を測定対象とし、当該各測定点までの距離及び各測定点からの反射強度を測定し、
    前記路面状況推定手段は、前記各測定点毎に前記路面状況推定処理を実行して路面の状況を推定し、当該各測定点毎に推定した路面の状況を統計することによって前記路面状況を推定すること
    を特徴とする路面状況推定装置。
  5. 請求項4に記載の路面状況推定装置において、
    さらに、前記各測定点に対応する前記距離及び前記反射強度を、前記複数の測定点のうちの所定数の測定点毎に平均した平均距離及び平均反射強度を算出する平均値算出手段を備え、
    前記反射強度補正手段は、前記視程情報取得手段にて取得された視程情報に基づき、前記平均値算出手段にて算出された平均反射強度を補正し、
    前記路面状況推定手段は、前記反射強度補正手段にて補正された平均反射強度及び前記平均値算出手段にて算出された前記平均距離に基づき、前記所定数の測定点毎に前記路面状況推定処理を実行して路面の状況を推定し、当該所定数の測定点毎に推定した路面の状況を統計することによって前記路面状況を推定すること
    を特徴とする路面状況推定装置。
  6. 請求項4又は5に記載の路面状況推定装置において、
    前記路面状況推定手段は、前記路面の状況を統計する際、所定の重み付けを行うこと
    を特徴とする路面状況推定装置。
  7. 請求項4〜6のいずれかに記載の路面状況推定装置において、
    前記距離反射強度測定手段は、前記路面上に2次元に配列した測定点を測定対象とし、前記距離反射強度測定手段の鉛直下に位置する基準点から前記各測定点までの距離を極座標距離として測定し、
    前記路面状況推定手段は、前記極座標距離を含めて前記ファジィ推論を行い路面の状況を推定すること
    を特徴とする路面状況推定装置。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の路面状況推定装置において、
    さらに、
    前記路面の温度情報を取得する路面温度情報取得手段と、
    前記路面温度情報取得手段にて取得された路面温度及び前記路面状況推定手段にて推定された路面状況に基づいて、前記路面の凍結状況を推定する路面凍結状況推定手段とを備えていること
    を特徴とする路面状況推定装置。
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