JP3993962B2 - エンジンの排気浄化装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、触媒を備えたエンジンの排気浄化装置に関する。
【0002】
【従来の技術と解決すべき課題】
三元触媒に吸収されている酸素量(以下、「酸素ストレージ量」)をエンジンの吸入空気量と触媒に流入する排気の空燃比に基づき推定演算し、触媒の酸素ストレージ量が一定となるようにエンジンの空燃比制御を行う技術が知られている(特開平9-228873号)。
【0003】
三元触媒のNOx、CO、HCの転換効率を最大に維持するためには理論空燃比での燃焼による排気を供給する必要があるが、触媒の酸素ストレージ量を一定に保っておくことで、触媒に流入する排気がリーン側にずれているときは排気中の酸素が触媒に吸収され、リッチ側にずれているときは触媒に吸収されている酸素が放出されるので、触媒雰囲気を実質的に理論空燃比に保つことができる。
【0004】
ところで、このような触媒の酸素ストレージ機能を有効利用するためには触媒の最大酸素ストレージ量に対して実際の酸素ストレージ量を常に適量に制御する必要がある。しかしながら、酸素ストレージ量は触媒の劣化にしたがい減少するので、触媒の初期の最大酸素トレージ量を基準として目標量への制御を行い続けると、使用時間の経過にしたがって制御のオーバーシュートが発生し、排気浄化性能が損なわれるおそれを生じる。
【0005】
本発明はこのような問題を解決し、触媒の劣化状態に応じて最大酸素ストレージ量を更新することにより触媒の転換効率を高く保てるようにしたエンジンの排気浄化装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、エンジン排気管に設けられ、排気中の酸素を高速成分と低速成分とに分けてストレージする触媒と、前記触媒に流入する排気の特性を検出する第1の排気特性検出手段と、前記触媒から流出する排気の特性を検出する第2の排気特性検出手段と、前記第1の排気特性検出手段からの排気特性に基づいて前記触媒の酸素ストレージ量を、前記第2の排気特性検出手段からの排気特性に基づいて前記触媒がストレージ可能な最大酸素ストレージ量をそれぞれ演算する酸素ストレージ量演算手段と、前記演算された酸素ストレージ量に基づき、前記触媒の酸素ストレージ量が前記最大酸素ストレージ量に応じて定めた目標量となるようにエンジンの空燃比を制御する空燃比制御手段とを備え、前記酸素ストレージ量演算手段は、前記触媒の酸素ストレージ量を吸収放出速度が速い高速成分と吸収放出速度が高速成分よりも遅い低速成分とに分けて演算すると共に、前記第2の排気特性検出手段からの排気特性が予め定めたリーン判定値とリッチ判定値との間を変化する間の前記触媒に流入した酸素量を演算し、これに基づいて最大酸素ストレージ量を演算するように構成した。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、触媒の下流側に第2の触媒を備えると共に第2の触媒から流出する排気の特性を検出する第3の排気特性検出手段を設け、リーン空燃比での運転後は前記第3の排気特性検出手段により検出した排気特性を用いて、空燃比を制御するように構成した。
【0009】
第3の発明は、第2の発明において、前記リーン空燃比での運転状態として、減速時等のフューエルカット制御が行われている運転状態を検出するものとした。
【0010】
第4の発明は、第2の発明において、前記リーン空燃比での運転を、前記第2の排気特性検出手段からの排気特性に基づいて判定するように構成した。
【0012】
第5の発明は、第2の発明において、第3の排気特性検出手段からの出力に基づき、前記第2の触媒からの排気特性が基準値よりもリーン側となったときに、該排気特性が基準値よりもリッチ側に変化するまで空燃比をリッチに制御するように構成した。
【0013】
第6の発明は、エンジンの排気管に設けられ、排気中の酸素を高速成分と低速成分とに分けてストレージする触媒と、前記触媒に流入する排気の特性を検出する第1の排気特性検出手段と、前記触媒から流出する排気の特性を検出する第2の排気特性検出手段と、前記第1の排気特性検出手段からの排気特性に基づいて前記触媒の酸素ストレージ量を演算する酸素ストレージ量演算手段と、前記第2の排気特性検出手段からの排気特性に基づいて前記触媒がストレージ可能な最大酸素ストレージ量を演算する最大酸素ストレージ量演算手段と、前記最大酸素ストレージ量に応じて触媒の酸素ストレージ量の目標量を演算する目標量演算手段と、前記触媒の酸素ストレージ量に基づいて前記触媒の酸素ストレージ量が前記目標量となるようにエンジンの空燃比を制御する空燃比制御手段とを備え、前記酸素ストレージ量演算手段は、前記触媒の酸素ストレージ量を吸収放出速度が速い高速成分と吸収放出速度が高速成分よりも遅い低速成分とに分けて演算し、前記最大酸素ストレージ量演算手段は、前記第2の排気特性検出手段からの排気特性が予め定めたリーン判定値とリッチ判定値との間を変化する間に、前記触媒に流入した酸素量に基づいて最大酸素ストレージ量を演算するように構成した。
【0017】
第7の発明は、第6の発明の前記酸素ストレージ量演算手段を、前記第2の排気特性検出手段からの排気特性がリッチ化した時点で、高速成分および低速成分をそれらの最小容量にリセットする用に構成した。
【0018】
第8の発明は、第6または第7の発明の前記酸素ストレージ量演算手段を、前記第2の排気特性検出手段からの排気特性がリーン化した時点で、高速成分をその最大容量にリセットするように構成した。
【0019】
【作用・効果】
触媒の酸素ストレージ機能を有効利用するためには、例えば空燃比の制御特性が理論空燃比を中心としてリーン側とリッチ側とに均しく偏りを生じうるものとすれば、目標酸素ストレージ量は触媒の最大酸素ストレージ量の2分の1に設定して制御することが適当である。しかしながら、目標量を固定しておくと触媒の劣化による最大酸素ストレージ量の減少に伴い、実酸素ストレージ量は過剰側にずれてゆき、この結果として触媒内がリーン傾向となってNOxの排出量が増大するおそれを生じる。
【0020】
これに対して本発明によれば、触媒の最大酸素ストレージ量を演算し、その結果に基づいて酸素ストレージ量の目標量を設定するようにしたので、触媒の劣化により最大酸素ストレージ量が減少したとしても、常にこれに対応して適正な目標酸素ストレージ量を設定することができ、すなわち排気浄化性能を触媒の劣化状態にかかわらず最大限に発揮させることができる。
【0021】
最大酸素ストレージ量は、触媒からの排気空燃比が予め定めたリーン判定値とリッチ判定値との間を変化する間の触媒に流入した酸素量基づいて算出することができる。
【0022】
一方、触媒の劣化やより厳しい排気処理性能の要求に対応するために上記触媒の下流に第2の触媒を設けた場合、通常は第1の触媒について排気特性に応じた空燃比制御による触媒の酸素ストレージ量を制御することにより第2の触媒についてもその酸素ストレージ量を適量に維持させることが可能である。しかしながら、理論空燃比よりも大きいリーン空燃比もしくは減速時のフューエルカット制御等により燃料供給が遮断された状態での運転が継続すると、排気管には多量の酸素が供給されることから各触媒の酸素ストレージ量は速やかに最大量に達する。その状態から第1の触媒については空燃比制御により速やかに目標酸素ストレージ量へと復帰させることができるものの、第2の触媒はリーン状態のままとなってしまう。特に、劣化した触媒では最大酸素ストレージ量が減少していることから触媒内がリーン状態となりやすく、NOx浄化性能が低下する。
【0023】
これに対して第3の発明では、第2の触媒の出口側に第3の排気特性検出手段を設け、リーン運転後にはこの第3の排気特性検出手段により検出した排気特性を用いてその上流側にある各触媒の酸素ストレージ量が所要量となるように空燃比制御するので、各触媒の酸素ストレージ量を適正範囲内に維持して良好な排気浄化性能を維持させることができる。このときの空燃比制御としては、例えば第7の発明として示したように、第2の触媒からの排気特性が基準値よりもリーンとなったことを検出したときに、これが基準値よりもリッチ側に変化するまで空燃比をリッチに制御するようにする。
【0024】
リーン空燃比での運転状態としては第4の発明に示されるように減速時等のフューエルカット制御状態が典型的であり、この開始と終了はエンジンコントローラの信号から検出できるので、このフューエルカットの終了に伴いリーン空燃比後の上記制御を開始させることができる。なおフューエルカット制御は減速時に限られず、例えば高負荷または高速運転が継続されたときにエンジン保護のために全部または一部気筒に対して実行されることがあり、このようなときにも当然に触媒に流入する排気は酸素過多のリーン状態となる。触媒の酸素ストレージ量過多をもたらすリーン運転状態は、第5の発明として示したように、第3の排気特性検出手段の検出結果から直接に検出するようにしてもよい。
【0025】
また、触媒の酸素ストレージ量を吸収放出速度が速い高速成分と吸収放出速度が高速成分よりも遅い低速成分とに分けて演算するように構成することにより、触媒の特性に応じた実際の酸素ストレージ量をより正確に演算でき、したがって実酸素ストレージ量をより精度よく制御することができる。
【0026】
さらに、第7、第8の発明によれば、触媒下流がリッチあるいはリーンになった時点で高速成分あるいは低速成分のリセットが行われ、それまでに蓄積された演算誤差を解消できるので、酸素ストレージ量の演算精度を一層高めることができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明が適用される排気浄化装置の概略構成を示し、火花点火式エンジン1の排気浄化装置は、排気管2に設けられた3つの触媒3a〜3cと、第1の触媒3aの入口側に位置するフロントA/Fセンサ4と、同じく出口側に位置する第1のリアO2センサ5aと、第2の触媒3bの出口側に位置する第2のリアO2センサ5bと、コントローラ6とを備える。前記触媒3a、3b、3cがそれぞれ本発明の第1の触媒、第2の触媒、第3の触媒に相当する。また、フロントA/Fセンサ4、第1のリアO2センサ5a、第2のリアO2センサ5bがそれぞれ本発明の第1の排気特性検出手段、第2の排気特性検出手段、第3の排気特性検出手段に相当する。
【0028】
エンジン1の吸気管7には、運転者のアクセル操作と独立して制御可能な電子制御式スロットル弁8と、スロットル弁8によって調整された吸入空気量を検出するエアフローメータ9とが設けられている。また、エンジン1にはその回転速度を検出するクランク角センサ12が設けられている。なお、スロットル弁8は、アクセル操作に直接連動して開閉するものであってもよい。
【0029】
各触媒3a〜3cは三元触媒機能を有し、流入する排気が理論空燃比での燃焼排気であるときにNOx、HC及びCOを最大効率で浄化する。それぞれ触媒担体がセリア等の酸素ストレージ材で被覆されており、流入する排気の酸素濃度に応じて酸素の吸収あるいは放出を行う機能(以下、「酸素ストレージ機能」)を有している。第1の触媒3aとしては単機能の三元触媒を、第2または第3の触媒3b、3cとしては三元触媒機能付きのHCトラップ触媒をそれぞれ用いるなど、特性が互いに異なる触媒を組み合わせて適用することもできる。
【0030】
ここで触媒3a〜3cの酸素ストレージ量は、それぞれの貴金属(Pt、Rh、Pd等)に吸収/放出される高速成分HO2と、酸素ストレージ材に吸収/放出される低速成分LO2とに分けることができる。低速成分LO2は高速成分HO2に比べて多くの酸素を吸収/放出することができるが、その吸収/放出速度は高速成分HO2に比べて遅いという特性を有している。
【0031】
さらに、これら高速成分HO2及び低速成分LO2は、
− 酸素吸収時は、高速成分HO2に優先して酸素が吸収され、高速成分HO2が最大容量HO2MAXに達して酸素を吸収しきれない状態になったら低速成分LO2に酸素が吸収され始める。
【0032】
− 酸素放出時は、高速成分HO2に対する低速成分LO2の比(LO2/HO2)が所定値未満の場合、すなわち高速成分が比較的多い場合は高速成分HO2から優先して酸素が放出され、高速成分HO2に対する低速成分LO2の比が所定値以上の場合は高速成分HO2に対する低速成分LO2の比が変化しないよう高速成分HO2及び低速成分LO2の両方から酸素が放出される。
という特性を有している。
【0033】
触媒3aの上流に設けられたフロントA/Fセンサ4は触媒3aに流入する排気の空燃比をリニアに検出し、触媒3a、3bの下流に設けられたリアO2センサ5a,5bはそれぞれの出口から排出されてくる排気中の酸素濃度を理論空燃比に対して反転的に検出する。リアO2センサ5a,5bとしてフロントA/Fセンサ4と同様に空燃比をリニアに検出できるものを適用してもよい。
【0034】
また、エンジン1には冷却水の温度を検出する冷却水温センサ10が取り付けられており、検出された冷却水温はエンジン1の運転状態を判断するのに用いられる他、触媒3aの触媒温度を推定するのにも用いられる。
【0035】
コントローラ6はマイクロプロセッサ、RAM、ROM、I/Oインターフェース等で構成され、エアフローメータ9、フロントA/Fセンサ4及び冷却水温センサ10の出力に基づき、触媒3aの酸素ストレージ量(高速成分HO2及び低速成分LO2)を演算する。
【0036】
そして、コントローラ6は、演算した酸素ストレージ量の高速成分HO2が所定量(例えば高速成分の最大容量HO2MAXの半分)よりも多いときはエンジン1の空燃比をリッチ側にシフトさせて高速成分HO2を減少させ、逆に、所定量よりも少ないときは空燃比をリーン側にシフトさせて高速成分HO2を増大させ、酸素ストレージ量の高速成分HO2が一定に保たれるようにする。
【0037】
さらに、演算誤差により演算される酸素ストレージ量と実際の酸素ストレージ量との間にずれが生じるが、コントローラ6は触媒3a下流の酸素濃度に基づき所定のタイミングで酸素ストレージ量のリセットを行い、実際の酸素ストレージ量とのずれを修正する。
【0038】
具体的には、第1のリアO2センサ5aがリーン判定した場合は、少なくとも高速成分HO2は最大となっていると判断し、高速成分HO2を最大容量にリセットする。また、第1のリアO2センサ5aがリッチ判定した場合は、高速成分HO2のみならず低速成分LO2からの酸素放出も行われなくなっていることから、低速成分HO2及び高速成分LO2を最小容量にリセットする。
【0039】
次に、コントローラ6が第1の触媒3aの酸素ストレージ量を一定量に保つために行う基本的な空燃比制御について図2〜図10を参照しながら詳述する。ここではまず、酸素ストレージ量の演算について説明し、その後で、酸素ストレージ量のリセット、酸素ストレージ量に基づくエンジン1の空燃比制御について説明する。
【0040】
図2は触媒3aの酸素ストレージ量を演算するためのルーチンの内容を示し、コントローラ6において所定時間毎に実行される。
【0041】
これによると、まずエンジンの各種運転条件パラメータとして、代表的に冷却水温センサ10、クランク角センサ12、エアフローメータ9の出力が読み込まれ、触媒3aの温度TCATがそれらに基づき推定される(ステップS1、S2)。そして、推定された触媒温度TCATと触媒活性温度TACToとを比較することによって触媒3aが活性化したか否かが判断される(ステップS3)。
【0042】
その結果、触媒活性温度TACToに達していると判断された場合は触媒3aの酸素ストレージ量の演算を行うべくステップS4以降に進む。触媒活性温度TACToに達しないと判断された場合は、触媒3aは酸素の吸収/放出作用を行わないとして処理を終了する。
【0043】
ステップS4では酸素過不足量O2INを演算するためのサブルーチン(図3)が実行されて触媒3aに流入する排気中の酸素過不足量O2INが演算され、ステップS5では酸素ストレージ量の高速成分の酸素放出率Aを演算するためのサブルーチン(図4)が実行され、高速成分の酸素放出率Aが演算される。
【0044】
さらに、ステップS6では酸素ストレージ量の高速成分HO2を演算するためのサブルーチン(図5)が実行され、酸素過不足量O2INと高速成分の酸素放出率Aに基づき高速成分HO2及び高速成分HO2で吸収されずに低速成分LO2に溢れるオーバフロー分OVERFLOWが演算される。
【0045】
ステップS7では、ステップS6で演算されたオーバフロー分OVERFLOWに基づき触媒3aに流入する排気中の酸素過不足量O2INが全て高速成分HO2で吸収されたか否かを判断する。そして、酸素過不足量O2INが高速成分で完全に吸収された場合(OVERFLOW=0)は処理を終了するが、そうでない場合はステップS8へ進んで低速成分LO2を演算するためのサブルーチン(図6)が実行され、高速成分HO2から溢れ出たオーバフロー分OVERFLOWに基づき低速成分LO2が演算される。
【0046】
なお、ここでは触媒温度TCATをエンジン1の冷却水温、エンジン負荷、エンジン回転速度等から推定するようにしているが、図1に示すように触媒3aに温度センサ11を取り付け、触媒3aの温度を直接測定するようにしてもよい。
【0047】
また、ステップS3で触媒温度TCATが活性温度TACToよりも低いときは酸素ストレージ量を演算しないようにしているが、ステップS3を無くして、触媒温度TCATの影響を高速成分の酸素放出率Aや後述する低速成分の酸素吸収放出率Bに反映するようにしても良い。
【0048】
次に、ステップS4から6及びステップS8で実行されるサブルーチンについて説明する。
【0049】
図3は、触媒3aに流入する排気の酸素過不足量O2INを演算するためのサブルーチンの内容を示す。このサブルーチンでは触媒3a上流の空燃比とエンジン1の吸入空気量に基づき触媒3aに流入する排気の酸素過不足量O2INが演算される。
【0050】
これによると、まず、フロントA/Fセンサ出力とエアフローメータ出力が読み込まれる(ステップS11)。
【0051】
ステップS12では読み込まれたフロントA/Fセンサ出力を所定の変換テーブルを用いて空燃比に変換し、触媒3aに流入する排気の過不足酸素濃度を演算する。ここで過不足酸素濃度とは理論空燃比時の酸素濃度を基準とした相対的な濃度で、排気が理論空燃比でゼロ、リッチで負、リーンで正の値をとる。
【0052】
ステップS13ではエアフローメータ出力を所定の変換テーブルを用いて吸入空気量に変換し、ステップS14ではステップS13で演算した吸入空気量にステップS12で演算した過不足酸素濃度を乗じて触媒3aに流入する排気の過不足酸素量O2INを演算する。
【0053】
過不足酸素濃度が上記特性を有することから、過不足酸素量O2INは、触媒3aに流入する排気が理論空燃比のときゼロ、リッチのとき負、リーンのとき正の値をとる。
【0054】
また、図4は、酸素ストレージ量の高速成分の酸素放出率Aを演算するためのサブルーチンの内容を示す。このサブルーチンでは高速成分HO2からの酸素放出速度が低速成分LO2の影響を受けることから、低速成分LO2に応じて高速成分の酸素放出率Aが演算される。
【0055】
これによると、まず、ステップS21で低速成分の高速成分に対する比LO2/HO2が所定値ARより大きいか否かが判断される。
【0056】
判断の結果、比LO2/HO2が所定値ARより小さいと判断された場合、すなわち、高速成分HO2が低速成分LO2に対して比較的多い場合はステップS22へ進み、高速成分HO2から酸素が優先して放出されるとして高速成分の酸素放出率Aに1.0がセットされる。
【0057】
これに対し、比LO2/HO2が所定値ARよりも大きいと判断された場合は、高速成分HO2に対する低速成分LO2の比が変化しないよう高速成分HO2及び低速成分LO2から酸素が放出されるので、ステップS23へ進んで高速成分の酸素放出率Aとして比LO2/HO2が変化しないような値が演算される。
【0058】
また、図5は、酸素ストレージ量の高速成分HO2を演算するためのサブルーチンの内容を示す。このサブルーチンでは触媒3aに流入する排気の酸素酸素過不足量O2INと高速成分の酸素放出率Aに基づき高速成分HO2の演算が行われる。
【0059】
これによると、まず、ステップS31では酸素過不足量O2INの値に基づき高速成分HO2が酸素を吸収する状態にあるか、あるいは酸素を放出する状態にあるかが判断される。
【0060】
その結果、触媒3aに流入する排気の空燃比がリーンであって、酸素過不足量O2INがゼロより大きい場合、高速成分HO2が酸素を吸収する状態にあると判断して、ステップS32に進み、次式(1)、
HO2 = HO2z + O2IN … (1)
HO2z:高速成分HO2の前回値
により高速成分HO2が演算される。
【0061】
一方、酸素過不足量O2INがゼロ以下の値で、高速成分が酸素を放出する状態にあると判断された場合はステップS33に進み、次式(2)、
HO2 = HO2z + O2IN × A … (2)
A:高速成分HO2の酸素放出率
により高速成分HO2が演算される。
【0062】
このようにして高速成分HO2が演算されたら、ステップS34、S35でその値が高速成分の最大容量HO2MAXを超えていないか、あるいは最小容量HO2MIN(=0)以下になっていないかが判断される。
【0063】
そして、高速成分HO2が最大容量HO2MAX以上になっている場合はステップS36に進み、高速成分HO2に吸収されずに溢れ出るオーバフロー分(過剰量)OVERFLOWが次式(3)、
OVERFLOW = HO2 - HO2MAX … (3)
により演算され、さらに、高速成分HO2が最大容量HO2MAXに制限される。
【0064】
また、高速成分HO2が最小容量HO2MIN以下になっている場合はステップS37に進み、高速成分HO2に吸収されずに溢れ出るオーバフロー分(不足量)OVERFLOWが次式(4)、
OVERFLOW = HO2 − HO2MIN … (4)
により演算され、さらに、高速成分HO2が最小容量HO2MINに制限される。なお、ここでは最小容量HO2MINとして0を与えているから、高速成分HO2をすべて放出した状態で不足する酸素量が負のオーバフロー分として算出されることになる。
【0065】
また、高速成分HO2が最大容量HO2MAXと最小容量HO2MINの間にあるときは、触媒3に流入した排気の酸素過不足量O2INは全て高速成分HO2に吸収されるので、オーバフロー分OVERFLOWにはゼロが設定される。
【0066】
ここで、高速成分HO2が最大容量HO2MAX以上あるいは最小容量HO2MIN以下となって高速成分HO2から溢れ出たオーバフロー分OVERFLOWは、低速成分LO2で吸収あるいは放出される。
【0067】
また、図6は酸素ストレージ量の低速成分LO2を演算するためのサブルーチンの内容を示す。このサブルーチンでは高速成分HO2から溢れ出たオーバフロー分OVERFLOWに基づき低速成分LO2が演算される。
【0068】
これによると、ステップS41では低速成分LO2が次式(5)、
LO2 = LO2z + OVERFLOW × B … (5)
LO2z:低速成分LO2の前回値
B:低速成分の酸素吸収放出率
により演算される。ここで低速成分の酸素吸収放出率Bは1以下の正の値に設定されるが、実際には吸収と放出とで異なる特性を有し、また実際の吸収放出率は触媒温度TCAT、低速成分LO2等の影響を受けるので、吸収率と放出率とをそれぞれ分離して設定するようにしても良い。その場合、オーバフロー分OVERFLOWが正であるとき、酸素が過剰であり、このときの酸素吸収Bは、例えば触媒温度TCATが高いほど、また低速成分LO2が小さいほど大きな値に設定される。また、オーバフロー分OVERFLOWが負であるとき、酸素が不足しており、このときの酸素放出率Bは、例えば触媒温度TCATが高いほど、また低速成分LO2が大きいほど大きな設定される。
【0069】
ステップS42、S43では、高速成分HO2の演算時と同様に、演算された低速成分LO2がその最大容量LO2MAXを超えていないか、あるいは最小容量LO2MIN(=0)以下になっていないかが判断される。
【0070】
その結果、最大容量LO2MAXを超えている場合はステップS44に進み、低速成分LO2から溢れる酸素過不足量O2OUTが次式(6)、
O2OUT = LO2 − LO2MAX … (6)
により演算されて低速成分LO2が最大容量LO2MAXに制限される。酸素過不足量O2OUTはそのまま触媒3aの下流に流出する。
【0071】
一方、最小容量以下になっている場合はステップS45へ進み、低速成分LO2が最小容量LO2MINに制限される。
【0072】
次に、コントローラ6が行う酸素ストレージ量のリセットについて説明する。酸素ストレージ量のリセットを実行することにより、それまでに蓄積された演算誤差が解消され、酸素ストレージ量の演算精度を高めることが可能となる。
【0073】
図7はリセット条件の判断ルーチンの内容を示す。このルーチンは、触媒3a下流の酸素濃度から酸素ストレージ量(高速成分HO2及び低速成分LO2)のリセット条件が成立したか否かを判定し、フラグFrich及びフラグFleanのセットを行うものである。
【0074】
これによると、まず、触媒3a下流の酸素濃度を検出するリアO2センサ5aの出力が読み込まれる(ステップS51)。そして、リアO2センサ出力とリーン判定しきい値、リッチ判定しきい値との比較が行われる(ステップS52、S53)。
【0075】
比較の結果、リアO2センサ出力がリーン判定しきい値を下回っていた場合はステップS54に進んでフラグFleanに酸素ストレージ量のリーンリセット条件が成立したことを示す「1」が設定される。また、リアO2センサ出力がリッチ判定しきい値を上回っていた場合はステップS55に進んでフラグFrichに酸素ストレージ量のリッチリセット条件が成立したことを示す「1」が設定される。
【0076】
リアO2センサ出力がリーン判定しきい値とリッチ判定しきい値の間にあるときはステップS56に進んで、フラグFlean及びFrichにリーンリセット条件、リッチリセット条件が不成立であることを示す「0」が設定される。
【0077】
なお、上記リアO2センサ出力としてはその加重平均値を用いるようにしてもよい。また、ここでは第1のリアO2センサ5aの出力を用いているが、後述するリーン条件後には第2のリアO2センサ5bの出力に基づいてリセット条件を判定する場合もある。
【0078】
図8は酸素ストレージ量のリセットを行うためのルーチンの内容を示す。
【0079】
これによると、ステップS61、S62でフラグFlean及びFrichの値の変化に基づきリーンリセット条件あるいはリッチリセット条件が成立したか否かが判断される。
【0080】
そして、フラグFleanが「0」から「1」に変化し、リーンリセット条件が成立したと判断された場合はステップS63に進み、酸素ストレージ量の高速成分HO2が最大容量HO2MAXにリセットされる。このとき、低速成分LO2のリセットは行わない。一方、フラグFrichが「0」から「1」に変化し、リッチリセット条件が成立したと判断された場合はステップS64に進み、酸素ストレージ量の高速成分HO2及び低速成分LO2がそれぞれ最小容量HO2MIN、LO2MINにリセットされる。
【0081】
このような条件でリセットを行うのは、低速成分LO2の酸素吸収速度が遅いため、高速成分HO2が最大容量に達すると低速成分LO2が最大容量に達していなくても酸素が触媒下流に溢れることから、触媒下流がリーンになった時点では少なくとも高速成分HO2は最大容量になっていると考えられるからである。
【0082】
また、触媒下流がリッチになる時点では、緩やかに酸素を放出する低速成分LO2からも酸素が放出されていないといえ、高速成分HO2、低速成分LO2共に酸素を殆ど保持しておらず最小容量になっていると考えられるからである。
【0083】
さらに、コントローラ6が行う空燃比制御(酸素ストレージ量一定制御)について説明する。
【0084】
図9は酸素ストレージ量から目標空燃比を演算するルーチンの内容を示す。
【0085】
これによると、まず、現在の酸素ストレージ量の高速成分HO2が読み込まれ(ステップS71)、現在の高速成分HO2と高速成分の目標値TGHO2の偏差DHO2(=触媒3aが必要としている酸素過不足量)が演算される(ステップS72)。高速成分の目標値TGHO2は、例えば高速成分の最大容量HO2MAXの2分の1に設定される。
【0086】
そしてステップS73では、演算された偏差DHO2が空燃比相当の値に換算され、エンジン1の目標空燃比が設定される。
【0087】
したがって、このルーチンによると、酸素ストレージ量の高速成分HO2が目標とする量に満たない場合はエンジン1の目標空燃比がリーン側に設定され、酸素ストレージ量(高速成分HO2)の増大が図られる。これに対し、高速成分HO2が目標とする量を超えている場合はエンジン1の目標空燃比がリッチ側に設定され、酸素ストレージ量(高速成分HO2)の減少が図られることになる。
【0088】
次に、上記制御を行うことによる全体的な作用について説明する。
【0089】
本発明に係る排気浄化装置にあっては、エンジン1が始動されると触媒3aの酸素ストレージ量の演算が開始され、触媒3aの転換効率を最大に保つべく、触媒3aの酸素ストレージ量が一定となるようにエンジン1の空燃比制御が行われる。
【0090】
コントローラ6は触媒3aに流入する排気の空燃比、エンジン1の吸入空気量に基づき触媒3aの酸素ストレージ量を推定演算するが、このとき酸素ストレージ量の演算を高速成分HO2と低速成分LO2とで分けて行う。
【0091】
具体的には、コントローラ6は、酸素吸収時は、高速成分HO2が優先して吸収し、高速成分HO2が吸収しきれない状態となったら低速成分LO2が吸収し始めるとして演算を行い、また、酸素放出時は、低速成分LO2と高速成分HO2の比(LO2/HO2)が一定割合AR以下の場合は高速成分HO2から優先して酸素が放出されるとし、比LO2/HO2が一定割合になったらその比LO2/HO2を保つように低速成分LO2と高速成分HO2の両方から酸素が放出されるとして酸素ストレージ量の演算を行う。
【0092】
そして、演算された酸素ストレージ量の高速成分HO2が目標値よりも多いときは、コントローラ6はエンジン1の空燃比をリッチ側に制御して高速成分HO2を減少させ、目標値よりも少ないときは空燃比をリーン側に制御して高速成分HO2を増大させる。
【0093】
この結果、酸素ストレージ量の高速成分HO2が目標とする値に保たれるので、触媒3に流入する排気の空燃比が理論空燃比からずれたとしても、応答性の高い高速成分HO2から直ちに酸素が吸収あるいは放出されて触媒雰囲気が理論空燃比方向に修正され、触媒3の転換効率が最大に保たれる。
【0094】
さらに、演算誤差が累積すると演算される酸素ストレージ量が実際の酸素ストレージ量とずれてくるが、触媒3下流がリッチあるいはリーンになったタイミングで酸素ストレージ量(高速成分HO2及び低速成分LO2)のリセットが行われ、演算値と実際の酸素ストレージ量とのずれが修正される。
【0095】
図10は上記酸素ストレージ量一定制御を行ったときの高速成分HO2の変化の様子を示したものである。この場合、時刻t2、t3では、リアO2センサ5aの出力がリッチ判定しきい値以上となってリッチリセット条件が成立するので、酸素ストレージ量の高速成分HO2が最小容量(=0)にリセットされる。このとき低速成分LO2も最小容量にリセットされる(図示せず)。
【0096】
また、時刻t1では、リアO2センサ5aの出力がリーン判定しきい値以下となりリーンリセット条件が成立するので、高速成分HO2が最大容量HO2MAXにリセットされる。ただし、このとき低速成分LO2は最大になっているとは限らないので低速成分LO2のリセットは行われない。
【0097】
このように、触媒3aの下流の排気がリッチあるいはリーンになったタイミングで酸素ストレージ量のリセットが行われ、実際の酸素ストレージ量とのずれが修正される結果、触媒の酸素ストレージ量の演算精度がさらに向上し、酸素ストレージ量を一定に保つための空燃比制御の精度も高められて触媒の転換効率を高く維持することができる。
【0098】
以上は本発明が前提とする空燃比制御の一例を示したもので、本発明ではさらに触媒3aないし3bの最大酸素ストレージ量HO2MAX,2HO2MAXを学習補正して各触媒の酸素ストレージ量を触媒劣化状態に応じて最適に制御する。以下、この点につき図11以下の図面を用いて説明する。
【0099】
図11と図13は第1、第2の触媒3a,3bの酸素ストレージ量を制御する実施形態の制御内容を示すフローチャート、図12はこの制御による空燃比変化等の様子を示すタイムチャートである。この処理は上述した空燃比制御と同期して周期的に実行されるもので、図7のリセット条件判断ルーチンで用いるリアO2センサ出力の選択と、図9の空燃比制御ルーチンで用いる目標酸素ストレージ量(TGHO2)の設定とを行う機能を持っている。
【0100】
この処理では、まず減速時等におけるフューエルカット制御が行われたか否かを判定する(ステップS81)。フューエルカット制御の有無は上述したように燃料制御系の信号を監視するか、またはフューエルカット条件を独立して検出することで判定する。減速時フューエルカット制御についての制御条件を一例として挙げると、開始条件としては車速、エンジン回転速度が基準値以上であり、かつアクセルペダルが解放されており、かつ変速機がニュートラルでないことであり、これにより開始されたフューエルカットはエンジン回転速度が下限基準値以下となったこと、またはアクセルペダルが踏み込まれたこと等により終了してリカバリーが行われる。よって、このような条件を監視していることで、減速時フューエルカットおよびリカバリーを判定できる。
【0101】
このステップではフューエルカット後のリカバリーが開始されたか否かを判定し、リカバリー開始検出時点でフラグFFCRを1にセットする(ステップS81,S84)。フラグFFCRはリカバリー後の過渡的なリッチ空燃比制御が実行されていることを示しており、この制御が終了するときに0にリセットされる(ステップS87)。フラグFFCRが0のときは、リセット判定(図7)に用いるリアO2センサ出力として第1のリアO2センサ5aの出力を採用すると共に、目標酸素ストレージ量TGHO2として第1の触媒3aの最大酸素ストレージ量HO2MAXの2分の1を設定する(ステップS82,83)。これにより、上述した空燃比制御により第1の触媒3aの酸素ストレージ量がその最大量の2分の1程度に維持され、安定した排気浄化性能を発揮する。この間、下流側の触媒3b、3cは、上流からの排気の空燃比が理論空燃比付近に安定していることからその酸素ストレージ量が大きな過不足を生じるようなことはない。なお、前記最大酸素ストレージ量HO2MAXは、後述する学習処理により触媒の劣化状態に応じて更新される。
【0102】
これに対して、上記リカバリー後の空燃比制御中(FFCR=1)には、まず演算した酸素ストレージ量が目標量であるか否かを判定し、目標量に復帰している場合にはフラグFFCRを0にリセットして通常の処理に戻る(ステップS85,S87)。ここで酸素ストレージ量が目標量となっていない場合には、リセット判定に用いるリアO2センサ出力として第2のリアO2センサ5bの出力を採用すると共に、第1の触媒3aと第2の触媒3bのそれぞれの最大酸素ストレージ量HO2MAXと2HO2MAXの和の2分の1を目標酸素ストレージ量TGHO2として設定する(ステップS86)。これにより各触媒3a,3bの酸素ストレージ量がそれぞれの約2分の1となるように空燃比制御が行われることになるので、フューエルカットによるリーン雰囲気中で酸素ストレージ量過大となっていた各触媒3a,3bは酸素ストレージ量が適正量に速やかに復帰して所期の排気浄化性能を回復する。
【0103】
次に、触媒劣化に対応して目標酸素ストレージ量を適切に設定するために、上記最大酸素ストレージ量HO2MAX、2HO2MAXを更新する処理につき、図13に示したフローチャートを用いて説明する。この処理では、第1の触媒3aからの排気酸素濃度を第1のリアO2センサ5aの出力OSVから検出し、この出力OSVが予め定めたリーン判定値THLとリッチ判定値THRとの間で変化するとき(図14参照)の触媒3aへの酸素流入量を積算することで最大酸素ストレージ量を算出している。
【0104】
詳細には、まずリアO2センサ出力OSVを検出し、これがリッチ判定値THRをリーン方向に横切ったか否か、またはリーン判定値THLをリッチ方向に横切ったか否かをそれぞれフラグFr-l、Fl-rを参照して判断する(ステップS901、S902)。前記フラグFr-l、Fl-rはそれぞれ初期状態では0に設定されており、リアO2センサ出力OSVがリッチ判定値THRをリーン方向に横切ったとき(図14の(a)参照)にはFr-l=1に、リーン判定値THLをリッチ方向に横切ったとき(図14の(b)参照)にはFl-r=1に、それぞれ設定されると共に、最大酸素ストレージ量の学習値HO2LRNが初期化される(ステップS903、S904、S905、S906)。各フラグFr-l、Fl-rが共に0の状態でかつリアO2センサ出力OSVが各判定値THR、THLを横切るような変化をしていないときには、それまで記憶していた最大酸素ストレージ量HO2MAXを維持する(ステップS907)。なお、前記リッチ判定値THRとリーン判定値THLとの間の空燃比変化は、図11に示したリーン運転後の空燃比制御により発生する空燃比変化を利用するか、またはこれを最大酸素ストレージ量の演算のために意図的に発生させるようにしても良い。
【0105】
上記ステップS902でのフラグ判定により、フラグFr-lまたはFl-rが1であった場合には、次に触媒3aへの流入酸素量を積算する処理(ステップS908)に入る。ここでは、まずリアO2センサ出力OSVがリッチ判定値THRをリーン方向に横切った場合(Fr-l=1)は、次に該出力OSVがリーン判定値THLを横切るまでの間の単位時間(例えば制御ループ1周期)あたりの酸素流入量ΔHO2を学習値HO2LRNに積算し、これを新たな最大酸素ストレージ量HO2MAXとして設定する。またはリアO2センサ出力OSVがリーン判定値THLをリッチ方向に横切った場合(Fl-r=1)は、次に該出力がリッチ判定値THRを横切るまでの間の単位時間あたりの酸素流入量ΔHO2を学習値HO2LRNに積算し、これを新たな最大酸素ストレージ量HO2MAXとして設定する(ステップS908、S910)。前記触媒3aへの流入酸素量は、例えばフロントA/Fセンサ4により検出した酸素濃度とエアフロメータ9により検出した吸入空気量の積により求めることができる。
【0106】
上記最大酸素ストレージ量HO2MAXの積算終了後は、この学習結果により更新した最大酸素ストレージ量HO2MAXに基づき、第2の触媒3bの最大酸素ストレージ量2HO2MAXを推定すると共に、各フラグFr-l、Fl-rを0にリセットして今回の学習処理を終了する(ステップS911、S912)。前記第2の触媒3bの最大酸素ストレージ量2HO2MAXは、例えば図15に示したように、第1の触媒3aの最大酸素ストレージ量HO2MAXをパラメータとして付与されるように予め用意された特性ないしテーブルに基づいて設定する。なお図15に示した特性は、各触媒3a,3bが同時に使用開始されたものとすれば、それぞれの劣化状態が大幅に異なることはないので、第2の触媒3bの最大酸素ストレージ量は、第1の触媒の最大酸素ストレージ量と同程度の割合で減少するものとみなせることに基づいている。
【0107】
一方、運転状態の急変等により、もしリアO2センサ出力OSVがリッチ判定値THRをリーン方向に横切ったのち、リーン判定値THLに達することなくリッチ判定値THRまで戻ってしまった場合、または該出力OSVがリーン判定値THLをリッチ方向に横切ったのち、リッチ判定値THRに達することなくリーン判定値THLまで戻ってしまった場合には、最大酸素ストレージ量を適切に算出することができないので、それまでの学習値HO2LRNの積算結果にかかわらず、フラグFr-l、Fl-rを0にリセットして今回の処理を終了する(ステップS909−S912)。
【0108】
上述のようにして、触媒劣化状態に応じて実際の最大酸素ストレージ量HO2MAXまたは2HO2MAXを更新してゆくことにより、これを基準として触媒の酸素ストレージ量を最適制御することができ、すなわち触媒劣化に伴う酸素ストレージ量のオーバーシュートを回避してエンジンの排気エミッション性能を常に良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る排気浄化装置の概略構成図である。
【図2】触媒の酸素ストレージ量を演算するためのルーチンの内容を示したフローチャートである。
【図3】触媒に流入する排気の酸素過不足量を演算するためのサブルーチンの内容を示したフローチャートである。
【図4】高速成分の酸素放出率を演算するためのサブルーチンの内容を示したフローチャートである。
【図5】酸素ストレージ量の高速成分を演算するためのサブルーチンの内容を示したフローチャートである。
【図6】酸素ストレージ量の低速成分を演算するためのサブルーチンの内容を示したフローチャートである。
【図7】リセット条件の判断ルーチンの内容を示したフローチャートである。
【図8】酸素ストレージ量のリセットを行うためのルーチンの内容を示したフローチャートである。
【図9】酸素ストレージ量から目標空燃比を演算するルーチンの内容を示したフローチャートである。
【図10】酸素ストレージ量一定制御を行ったときの様子を示したタイムチャートである。
【図11】リーン運転後の空燃比制御に関する処理ルーチンの内容を示したフローチャートである。
【図12】上記空燃比制御を行ったときの様子を示したタイムチャートである。
【図13】最大酸素ストレージ量を演算する処理ルーチンの内容を示したフローチャートである。
【図14】最大酸素ストレージ量を算出するときの空燃比条件を示した説明図である。
【図15】劣化状態に応じて第1の触媒の最大酸素ストレージ量から第2の触媒の酸素ストレージ量を付与する特性の説明図である。
【符号の説明】
1 エンジン
2 排気管
3a 第1の触媒
3b 第2の触媒
3c 第3の触媒
4 フロントA/Fセンサ(第1の排気特性検出手段)
5a 第1のリアO2センサ(第2の排気特性検出手段)
5b 第2のリアO2センサ(第3の排気特性検出手段)
6 コントローラ
7 吸気管
8 スロットル弁
9 エアフローメータ
10 冷却水温センサ
11 温度センサ
12 クランク角センサ
Claims (8)
- エンジン排気管に設けられ、排気中の酸素を高速成分と低速成分とに分けてストレージする触媒と、
前記触媒に流入する排気の特性を検出する第1の排気特性検出手段と、
前記触媒から流出する排気の特性を検出する第2の排気特性検出手段と、
前記第1の排気特性検出手段からの排気特性に基づいて前記触媒の酸素ストレージ量を、前記第2の排気特性検出手段からの排気特性に基づいて前記触媒がストレージ可能な最大酸素ストレージ量をそれぞれ演算する酸素ストレージ量演算手段と、
前記演算された酸素ストレージ量に基づき、前記触媒の酸素ストレージ量が前記最大酸素ストレージ量に応じて定めた目標量となるようにエンジンの空燃比を制御する空燃比制御手段とを備え、
前記酸素ストレージ量演算手段は、前記触媒の酸素ストレージ量を吸収放出速度が速い高速成分と吸収放出速度が高速成分よりも遅い低速成分とに分けて演算すると共に、前記第2の排気特性検出手段からの排気特性が予め定めたリーン判定値とリッチ判定値との間を変化する間の前記触媒に流入した酸素量を演算し、これに基づいて最大酸素ストレージ量を演算するように構成したことを特徴とするエンジンの排気浄化装置。 - 前記触媒の下流側に第2の触媒を備えると共に第2の触媒から流出する排気の特性を検出する第3の排気特性検出手段を設け、リーン空燃比での運転後は前記第3の排気特性検出手段により検出した排気特性を用いて、空燃比を制御するようにした請求項1に記載のエンジンの排気浄化装置。
- 前記リーン空燃比での運転状態として、減速時等のフューエルカット制御が行われている運転状態を検出する請求項2に記載のエンジンの排気浄化装置。
- 前記リーン空燃比での運転を、前記第2の排気特性検出手段からの排気特性に基づいて判定する請求項2に記載のエンジンの排気浄化装置。
- 前記第3の排気特性検出手段からの出力に基づき、前記第2の触媒からの排気特性が基準値よりもリーン側となったときに、該排気特性が基準値よりもリッチ側に変化するまで空燃比をリッチに制御する請求項2に記載のエンジンの排気浄化装置。
- エンジンの排気管に設けられ、排気中の酸素を高速成分と低速成分とに分けてストレージする触媒と、
前記触媒に流入する排気の特性を検出する第1の排気特性検出手段と、
前記触媒から流出する排気の特性を検出する第2の排気特性検出手段と、
前記第1の排気特性検出手段からの排気特性に基づいて前記触媒の酸素ストレージ量を演算する酸素ストレージ量演算手段と、
前記第2の排気特性検出手段からの排気特性に基づいて前記触媒がストレージ可能な最大酸素ストレージ量を演算する最大酸素ストレージ量演算手段と、
前記最大酸素ストレージ量に応じて触媒の酸素ストレージ量の目標量を演算する目標量演算手段と、
前記触媒の酸素ストレージ量に基づいて前記触媒の酸素ストレージ量が前記目標量となるようにエンジンの空燃比を制御する空燃比制御手段とを備え、
前記酸素ストレージ量演算手段は、前記触媒の酸素ストレージ量を吸収放出速度が速い高速成分と吸収放出速度が高速成分よりも遅い低速成分とに分けて演算し、
前記最大酸素ストレージ量演算手段は、前記第2の排気特性検出手段からの排気特性が予め定めたリーン判定値とリッチ判定値との間を変化する間に、前記触媒に流入した酸素量に基づいて最大酸素ストレージ量を演算する
ように構成したことを特徴とするエンジンの排気浄化装置。 - 前記酸素ストレージ量演算手段は、前記第2の排気特性検出手段からの排気特性がリッチ化した時点で、前記高速成分および前記低速成分をそれらの最小容量にリセットする請求項6に記載のエンジンの排気浄化装置。
- 前記酸素ストレージ量演算手段は、前記第2の排気特性検出手段からの排気特性がリーン化した時点で、前記高速成分をその最大容量にリセットする請求項6または請求項7に記載のエンジンの排気浄化装置。
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