JP3993919B2 - 永久電流超電導磁石装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、核磁気共鳴分光分析(NMR)装置用超電導磁石などの永久電流モードで運転される永久電流超電導磁石装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、NMR装置用超電導磁石には、NbTi、Nb3Sn などの超電導線をコイル化したものが用いられている。通常、300 〜400MHz(9.4テスラ) までの低磁場NMR装置用には、比較的コストの安いNbTi超電導線が用いられ、500 乃至800MHz(18.8 テスラ) 以上の高磁場NMR装置用には、超電導性能が高く、また比較的コストの高いNb3Sn 超電導線が、前記NbTi超電導線と組み合わせて用いられている。
【0003】
このようなNMR装置用超電導磁石においては、超電導磁石により発生している磁場が、時間的にかつ磁場空間内で、極めて安定であることが要求される。より具体的には、NMR装置の運転中に、磁場の減衰度が0.01ppm/hr程度以下であることが要求される。このため、通常、超電導磁石装置は永久電流スイッチを具備し、永久電流モードで運転されている。しかし、超電導磁石の超電導線同士の接続部分の微小な接続抵抗が主な原因となって、永久電流が時間の経過とともに徐々に減衰するため、磁場の減衰が生じる。この接続抵抗値は、通常の半田付けでは10-9Ω程度以下にすることは困難であるが、超電導線のフィラメント同士を接続することにより10 -12Ω程度となる接続技術が開発されている。これにより磁場の減衰度が、前記0.01ppm/hr程度の永久電流超電導磁石が実現している。
【0004】
しかし、このような超電導線のフィラメント同士の接続部分の抵抗値は、接続部分の磁場により大きな影響を受け、1 テスラ(T) 程度以上になると、接続部分の抵抗値が急激に上昇し、使用出来なくなる。特に、NMR装置は、その性能の向上要求から、前記高磁場のものが使用されるようになっているため、特に、前記高磁場NMR装置などでは、磁場の安定のために、この接続部分に磁気シールドを施す等の特殊な対策が必要となり、このため構造が複雑となり、コストが高くなるという問題を有する。
【0005】
したがって、このような特殊な対策を施すことなく、極めて安定な磁場を得ようとする試みが従来からなされている。例えば、特開平4 −61103 号公報等では、主磁場減衰補償用の永久電流超電導磁石を設けたNMR装置乃至核磁気共鳴撮像(MRI)装置用永久電流超電導磁石装置が提案されている。この永久電流超電導磁石装置は、図6 に示す通り、Nb3Sn 超電導線が巻回された超電導コイル3 からなる、主磁場を発生する永久電流超電導磁石と、NbTi超電導線が巻回された超電導コイル13からなり、主磁場を発生するとともに主磁場の減衰も補償する永久電流超電導磁石とを具備している。また、主磁場減衰補償用のNbTi超電導線コイル13の外側には、主磁場を発生する永久電流超電導磁石の磁場発生の空間的な不均一性を補うため、NbTi超電導コイル13と直列に接続された、空間磁場の均一度補正用のNbTi超電導コイル11が配置されている。
【0006】
そして、前記主磁場を発生するNb3Sn 超電導線が巻回された超電導コイル3 は、これに並列に接続された永久電流スイッチ4 を有しており、前記磁場減衰補償用のNbTi超電導線が巻回された超電導コイル13および空間磁場の均一度補正用のNbTi超電導コイル11は、これに並列に接続された永久電流スイッチ6 を有している。主磁場を発生するNb3Sn 超電導線が巻回された超電導コイル3 と、主磁場減衰補償用のNbTi超電導線が巻回された超電導コイル13とは、各々超電導コイルの励磁用電源と、永久電流スイッチのヒータ用電源を有し、電気的に独立した関係となっている。その一方で、両コイルは、磁気的には結合した関係に配置され、前記主磁場を発生するNb3Sn 超電導線が巻回された超電導コイル3 の電流減衰により磁石磁場が減衰した際には、磁場減衰補償用のNbTi超電導線が巻回された超電導コイル13に電流が相互誘導される。そして、この相互誘導された電流による超電導コイル13の磁場の増加によって、前記磁石磁場の減衰を補償し、磁石装置の中心付近の磁場を極めて安定に保とうとしているものである。
【0007】
前記した通り、高磁場NMR装置用の主磁場を発生する永久電流超電導磁石はNb3Sn 超電導線コイルとNbTi超電導線コイルとが直列に接続されて、各々同心円筒状に配置されている。したがって、この特公平4 −61103 号公報に記載の従来技術は、この高磁場永久電流超電導磁石のうち、既に配置されているNbTi超電導線コイルの方を、別の励磁用電源と接続して電気的に独立させ、かつ磁気的には結合して配置し、磁場減衰補償用の超電導コイルとして用いようとするものであると言える。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この従来のNMR装置乃至MRI装置用永久電流超電導磁石装置では、実際問題として装置の磁場空間全体での均一性を補償することは困難である。その理由の一つは、この装置では、磁場空間の均一度補正用の超電導コイル11が、主磁場減衰補償用のNbTi超電導線コイル13と直列に接続して設けられていることである。このため、前記主磁場を発生するNb3Sn 超電導線超電導コイル3 の電流減衰により磁石磁場が減衰し、磁場減衰補償用のNbTi超電導線超電導コイル13に電流が相互誘導され、相互誘導された電流による超電導コイル13の磁場が増加する際に、この超電導コイル13と直列に接続された空間磁場の均一度補正用の超電導コイル11も、磁場が増加する方向に働く。即ち、磁場減衰補償用の超電導コイル13の磁場の増加に対し、空間磁場の均一度補正用の超電導コイル11の磁場も増加しする。したがって、主磁場減衰補償用のNbTi超電導線コイル13の電流値のみでなく、空間磁場の均一度補正用の超電導コイル11の電流値も、主磁場を発生するNb3Sn 超電導線超電導コイル3 との相互誘導により、時間とともに複雑に変化するため、磁場中心の磁場の安定性は確保できても、NMR装置としての磁場空間全体での磁場の均一性を補償することができない。
【0009】
このため、NMR装置用永久電流超電導磁石を設計する場合、主磁場減衰補償用のNbTi超電導線コイルの設計では、空間磁場の均一度補正用の超電導コイルと、主磁場を発生するNb3Sn 超電導線コイルとの相互誘導も考慮しつつ、前記磁場の空間内での均一度を考慮して設計する必要があり、このような設計は非常に困難がある。更に、磁石装置自体が、主磁場用と主磁場減衰補償用との電気的に独立した2つの永久電流超電導磁石から構成され、各々の励磁用なりヒータ用なりの電源を設けているため、励磁作業が複雑となる。この結果、特開平4 −61103 号公報に記載のNMR装置乃至MRI装置用永久電流超電導磁石装置では、磁場空間全体での均一性や装置のコンパクト化がより要求される、500 〜800MHz(18.8T) までの高磁場NMR装置用には適用することができない
【0010】
したがって、本発明は、このような従来技術の問題に鑑み、磁場の減衰度が0.01ppm/hr程度以下にすることができ、磁場が時間的にかつ磁場空間内で極めて安定した、特に500 乃至800MHz(18.8T) 以上の高磁場NMR装置用に適した永久電流超電導磁石装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
この目的のための本発明の要旨は、超電導線を巻回した主磁場を発生する超電導コイルおよび該コイルに並列に接続された永久電流スイッチとからなる永久電流超電導磁石と、超電導線を巻回した主磁場減衰補償用の超電導コイルおよび該コイルに並列に接続された永久電流スイッチからなる永久電流超電導磁石とを具備した永久電流超電導磁石装置であって、前記主磁場減衰補償用の超電導コイルが、励磁用電源を持たず、かつ前記主磁場を発生する超電導コイルに対し、該コイルの電流減衰による磁場の減衰により電流が相互誘導されるよう、磁気的に結合して配置されており、前記主磁場を発生する超電導コイルの外側に、該コイルと直列に接続された空間磁場の均一度補正用の超電導コイルを配置し、前記主磁場を発生する超電導コイルが、Nb3Sn 超電導線を巻回した円筒状のコイルと、このコイルに直列に接続されるとともにこのコイルの外側に配置されたNbTi超電導線を巻回した円筒状のコイルとからなり、前記主磁場減衰補償用の超電導コイルを、前記主磁場を発生する超電導コイルのうち、Nb3Sn 超電導線を巻回した円筒状のコイルとNbTi超電導線を巻回した円筒状のコイルとの間に配置したことである。
【0012】
このように本発明では、主磁場減衰補償用の超電導コイルが、励磁用電源を持たず、かつ主磁場を発生する超電導コイルと前記磁気的に結合した関係とすることにより、主磁場を発生する永久電流超電導磁石の超電導コイルの電流減衰による磁石中心を含めた磁場全体の減衰を0.01ppm/hr程度以下の最小限度に止め、磁場が時間的にかつ磁場空間内で極めて安定した、特に500 乃至800MHz以上の高磁場NMR装置用に適した永久電流超電導磁石装置を提供することができる。
【0013】
本発明の基本的な概念を、図1 の本発明の永久電流超電導磁石装置の回路図を用いて説明する。図1 において、1 は主磁場を発生する永久電流超電導磁石、2 は主磁場減衰補償用の永久電流超電導磁石であり、各々超電導コイル3 、超電導コイル5 と、これに並列に接続された永久電流スイッチ4 、6 からなる。主磁場を発生する超電導コイル3 には、励磁用電源7 が配線9 により接続されているが、磁場減衰補償用の超電導コイル5 には励磁用電源は接続されておらず、主磁場を発生する超電導コイルに対し、該コイルの電流減衰による磁場の減衰のみにより電流が相互誘導されるよう、磁気的に結合して配置されている。更に、永久電流スイッチ4 、6 にはヒータ用電源8 が共有されて配線10により接続されている。なお、図中のL p は主磁場を発生する超電導コイル3 の自己インダクタンス、L s は磁場減衰補償用の超電導コイル5 の自己インダクタンス、M はこれらコイルの相互インダクタンスであり、R は超電導線の接続部などに起因する微小抵抗である。
【0014】
本発明における永久電流超電導磁石の超電導コイルの励磁は、主磁場を発生する超電導コイル3 に並列に接続している永久電流スイッチ4 と、主磁場減衰補償用の超電導コイル5 に並列に接続している永久電流スイッチ6 のそれぞれのヒータに外部のヒータ用電源8 より通電し、それぞれの永久電流を開状態として行う。この状態で励磁用の外部電源7 により、主磁場を発生する超電導コイル3 に電流を流す。この時、永久電流スイッチ4 、6 は開状態であるため、主磁場減衰補償用の超電導コイル5 には電流が誘起されず、電流は零のままである。主磁場を発生する超電導コイル3 の電流 I pは、初期状態である設定電流I0であるが、微小抵抗R があるため時間とともに減衰する。一方、磁場減衰補償用コイル5 の電流 Is は、励磁用電源が無いため、初期状態では零であるが、主磁場発生用超電導コイル3 との相互誘導により誘起され時間とともに増大する。
【0015】
ここにおいて、主磁場を発生する永久電流超電導磁石の超電導コイルの電流減衰による磁石中心を含めた磁場減衰を0.01ppm/hr程度以下の最小限度に止め、磁場が時間的にかつ磁場空間内で極めて安定させるためには、主磁場を発生する超電導コイル3 による磁場の減衰分を、磁場減衰補償用の超電導コイル5 による磁場の増加分で補うよう各々を設計する必要がある。
【0016】
この点をより詳細に説明すると、前記超電導コイル3 の電流 I pと磁場減衰補償用コイル5 の電流 Is の電流変化は以下の回路方程式により求められる。
L p (dI p /dt)+M(dIs /dt)+RI p=0 : 式1 、
M(dI p /dt) +L s (dI s /dt)+RI p=0 : 式2 、
[ 但し、L p は主磁場を発生する超電導コイル1 の自己インダクタンス、L s は磁場減衰補償用の超電導コイル10の自己インダクタンス、M はこれらコイルの相互インダクタンス] 。
【0017】
また、それぞれの電流は時定数τで変化するので、このτにより、超電導コイル3 の電流 I pと磁場減衰補償用コイル5 の電流 Is は以下の式により求められる。
I p =I0 ea [但し、a=−t/τ] :式3 、
I s =I0(M/L s )(1 −ea ) [ 但し、a=−t/τ] : 式4 、
そしてτ自体は、τ=[1 −M2/(L p L s )](L p/R) :式5 、と定義される。
【0018】
永久電流超電導磁石装置の中心磁場を含む磁場空間全体は、主磁場を発生する超電導コイル3 による磁場と磁場減衰補償用の超電導コイル5 による磁場との合成磁場であるので、中心磁場を含む磁場空間全体の減衰が生じないためには、主磁場を発生する超電導コイル3 による磁場の減衰分を、磁場減衰補償用の超電導コイル5 による磁場の増加分で補えばよい。即ち、それぞれのコイルの磁場定数をK p 、K s とすれば、次式が成立するようにする。
K p (dI p /dt)+K s (dI s /dt)=0 : 式6 、
ここにおいて、式6 に式3 、式4 を代入することにより、次式が得られる。
[K s (M/L s) −K p ] ×[1−M2/(L p L s )]-1=0 : 式7 、
したがって、式7 を満足する主磁場を発生する超電導コイル3 と磁場減衰補償用の超電導コイル5 を用いることにより、中心磁場を含む磁場の減衰が全く生じない、極めて安定な永久電流超電導磁石装置を提供することができる。
【0019】
因みに、前記特開平4 −61103 号公報でも、コイルの中心磁場の減衰が生じないような、Nb3Sn 超電導線が巻回された主磁場を発生する超電導コイル3 と、NbTi超電導線が巻回された主磁場減衰補償用の超電導コイル13との関係について、L1×ΔB2=M×ΔB1( 但し、L1は主磁場減衰補償用の超電導コイル13の自己インダクタンス、B2は主磁場を発生する超電導コイル3 の励磁率、M はこれらコイルの相互インダクタンス、B1は主磁場減衰補償用の超電導コイル13の励磁率) と規定している。しかし、同公報の発明で考慮しているのはコイルの中心磁場の減衰のみであり、本発明のような磁場空間全体ではない。しかも、特開平4 −61103 号公報では、前記した通り、磁場減衰補償用の超電導コイル5 に励磁用電源が接続されているため、主磁場を発生する超電導コイル3 と磁場均一度補正用の超電導コイル11の電流に格差乃至アンバランスが生じて、空間磁場の均一度を補償することができなくなる。また、同公報の式を満足するように各パラメータを設定しても、主磁場を発生する超電導コイル3 の電流減衰による中心磁界の減少分は、主磁場減衰補償用の超電導コイル13の誘導による中心磁界の上昇分とは等しくならず、主磁場を発生する超電導コイル3 の磁界減衰を、主磁場減衰補償用の超電導コイル13で補うことはできない。
【0020】
また、本発明において、磁場均一度補正用の超電導コイルを設ける場合、主磁場を発生する超電導コイルと磁場均一度補正用の超電導コイルとを直列に接続する。したがって、両者の電流は常に一定に保たれているため、両者と独立した別のコイルである主磁場減衰補償用の超電導コイルに電流が誘起され、磁場減衰を補償した場合でも、磁場均一度が乱されることは無い。これに対して同公報の発明では、前記した通り、磁場空間の均一度補正用の超電導コイル11が、主磁場減衰補償用のNbTi超電導線コイル13のみと直列に接続して設けられている。このため、▲1▼主磁場を発生するNb3Sn 超電導線超電導コイル3 の電流減衰による磁場減衰を、直列に接続された▲2▼主磁場を発生するNbTi超電導線超電導コイル13と、▲3▼磁場空間の均一度補正用の超電導コイル11とに誘起された電流により補償している。したがって、本来、前記▲1▼、▲2▼、▲3▼の電流が全て等しい場合に、磁場均一度が最良となるにも拘らず、同公報の発明により磁場を補償しようとすれば、時間とともに前記▲1▼と▲3▼の電流が異なり、アンバランスとなるため、磁場均一度が乱されることになる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明永久電流超電導磁石装置の1実施態様を図2に示す。図2において、主磁場を発生する永久電流超電導磁石は、Nb3Sn 超電導線が巻回された円筒状の超電導コイル3 と、これに並列に接続された永久電流スイッチ4 、およびNbTi超電導線が巻回された円筒状のコイル13からなる。NbTi超電導線が巻回された円筒状のコイル13は、前記Nb3Sn 超電導線コイル3 と直列に接続されるとともに、Nb3Sn 超電導線コイル3 の外周に配置され、共に主磁場を発生する超電導コイルを構成している。また、主磁場減衰補償用の永久電流超電導磁石は、超電導コイルを構成するNbTi超電導線が巻回された円筒状のコイル5 と、これに並列に接続された永久電流スイッチ6 からなる。そして、超電導コイル5 は、Nb3Sn 超電導線が巻回された円筒状のコイル3 と、NbTi超電導線が巻回された円筒状のコイル13との間に配置されている。一方、主磁場を発生する超電導コイル3 には、励磁用電源7 が配線9 により接続されているが、磁場減衰補償用の超電導コイル5 には励磁用電源は接続されておらず、主磁場を発生する超電導コイルに対し、該コイルの電流減衰による磁場の減衰のみにより電流が相互誘導されるよう、磁気的に結合して配置されている。更に、主磁場を発生する超電導コイル3 の永久電流スイッチ4 および磁場減衰補償用の超電導コイル5 の永久電流スイッチ6 にはヒータ用電源8 が共有されて配線10により接続されている。
【0022】
また、主磁場発生用のNbTi超電導線コイル13の外周には、主磁場を発生する永久電流超電導磁石の磁場発生の空間的な不均一性を補うため、空間磁場の均一度補正用の超電導コイル11が、主磁場を発生するNb3Sn 超電導コイル3 およびNbTi超電導コイル13と直列に接続されている。そして、これらの装置は、前記電源を除いて、極低温に保持されたクライオスタット12内に収容されている。このように本発明では、前記特開平4 −61103 号公報と違い、空間磁場の均一度補正用の超電導コイル11が、磁場減衰補償用の超電導コイル5 と直列に接続されるのではなく、主磁場を発生するNb3Sn 超電導コイル3 およびNbTi超電導コイル13と直列に接続されているため、磁場の均一度を乱すことなく、磁場の減衰を補償することができる。
【0023】
このような装置構成において、主磁場を発生する永久電流超電導磁石の自己インダクタンスL p を158H、主磁場減衰補償用の永久電流超電導磁石の自己インダクタンスL s を0.466H、主磁場を発生する永久電流超電導磁石と主磁場減衰補償用の永久電流超電導磁石との相互インダクタンスM を5.5Hとすると、それぞれの磁石の磁場定数K p 、K s は、0.069T/A、0.0046T/A であるので、前記式7 をほぼ満足することができる。
【0024】
【実施例】
この図2 の装置を動作させ、磁場の安定性を測定した実施例について以下説明する。なお、比較のために、主磁場減衰補償用の永久電流超電導磁石が無い従来の永久電流超電導磁石装置例、および図6 の従来の永久電流超電導磁石装置例の磁場安定性についても合わせて調査した。用いた超電導コイルの詳細な仕様は以下の通りである。
主磁場を発生する超電導コイル( 磁場の均一度補正用の超電導コイルを含む);永久電流超電導磁石全体のインダクタンス;158H、定格磁場;17.6T 、定格電流;250A、外径;550mm 、ボア内径;80mm、巻長さ;850mm 、使用線材;マルチフィラメントNb3Sn およびNbTi。
主磁場減衰補償用超電導コイル; インダクタンス;0.466H、外径;285mm 、ボア内径;280mm 、巻長さ;600mm 、使用線材;マルチフィラメントNbTi。
【0025】
まず、図2 の装置において、主磁場を発生する永久電流超電導コイル3 、13の励磁は、主磁場を発生する超電導コイル3 に並列に接続している永久電流スイッチ4 と、主磁場減衰補償用の超電導コイル5 に並列に接続している永久電流スイッチ6 のそれぞれのヒータに外部のヒータ用電源8 より通電し、それぞれの永久電流スイッチを開状態として行う。この状態で励磁用の外部電源7 により、主磁場を発生する超電導コイル3 に電流を流した。この時、永久電流スイッチ4 、6 は開状態であるため、主磁場減衰補償用の超電導コイル5 には電流が誘起されず、電流は零のままである。主磁場を発生する超電導コイル3 に設定電流I0を通電後、外部のヒータ用電源8 をOFF とし、永久電流スイッチ4 、6 ともに閉状態とした。
【0026】
この状態にて、磁石中心の磁場を一ヵ月以上の長期にわたり測定するとともに、磁場空間内の磁場の均一度についても調査した。これらの結果を図4 、5 に示す。まず、図4 から明らかな通り、本発明永久電流超電導磁石装置の場合 (図中の○印) には、時間の経過によっても磁場減衰率は小さく、磁場の減衰度が0.01ppm/hr以下( 減衰度0.01ppm/hrを示す点線以下) にとどまっている。これに対して、主磁場減衰補償用の永久電流超電導磁石の無い従来の永久電流超電導磁石装置例 (図中の△印) 、および図6 の従来の永久電流超電導磁石装置例 (図中の□印) の磁石中心の磁場安定性は本発明に比して著しく劣っている。
【0027】
また、図5 に、前記発明例および図6 の従来の永久電流超電導磁石装置例の、装置稼働後35日経過後の、磁場空間内の磁場中心からの距離に応じた磁場の変動割合[B(z) ×B(0)/B(0)]を示す。この図5 から明らかな通り、本発明永久電流超電導磁石装置( 図中の○印) は、磁場中心からの距離をとった場合にも、磁場の変動割合が小さく、磁場空間内の磁場の均一性について優れていることが分かる。これに対し、図6 の従来の永久電流超電導磁石装置例 (図中の□印) では、磁場中心からの距離をとった場合に、磁場の変動割合が大きい。
【0028】
本発明永久電流超電導磁石装置の別の実施態様を図3 に示す。図3 において、NbTi超電導線が巻回された円筒状の主磁場減衰補償用の第2の超電導コイル5 が、NbTi超電導線が巻回された円筒状のコイル13と空間磁場の均一度補正用の超電導コイル11の間に、複数個配置されている以外は、図2 の実施態様と同じ構成である。
【0029】
なお、本発明の主磁場減衰補償用の永久電流超電導磁石を配置する場所は、主磁場発生用のNbTi超電導線コイル13に対して、より外側に配置する方が、磁場乃至磁束を補償しやすい。したがって、これらの例以外に、主磁場減衰補償用の永久電流超電導磁石を、空間磁場の均一度補正用の超電導コイル11の外側に配置しても良い。この主磁場減衰補償用の永久電流超電導磁石の配置は、要は磁場の補償と実用化のための装置全体のコンパクト化との兼ね合いから、適宜選択される。本発明の実施例では、主磁場減衰補償用の永久電流超電導磁石の配置を、主磁場を発生する永久電流超電導磁石の元々有する空間、即ち、▲1▼Nb3Sn 超電導線の円筒状のコイル3 と、NbTi超電導線の円筒状のコイル13との間、あるいは、▲2▼NbTi超電導線の円筒状のコイル13と空間磁場の均一度補正用の超電導コイル11との間に配置しており、本発明を適用しても、装置自体の径が大きくならず、装置自体がコンパクトなままとなる利点がある。
【0030】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明によれば、磁場の減衰度が0.01ppm/hr程度以下にすることができ、磁場が時間的にかつ磁場空間内で極めて安定した、特に500 乃至800Hz(18.8T)以上の高磁場NMR装置用に適した永久電流超電導磁石装置を提供することができる。しかも、永久電流超電導磁石装置を大型化したり複雑化したりすることなく、これらの特性を達成しているので工業的な意義が大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基本的な概念を示す、永久電流超電導磁石装置の回路図である。
【図2】本発明の永久電流超電導磁石装置の一実施態様を示す、断面概略図である。
【図3】本発明の永久電流超電導磁石装置の他の実施態様を示す、断面概略図である。
【図4】本発明の永久電流超電導磁石装置の、磁場減衰の経時変化を示す説明図である。
【図5】本発明の永久電流超電導磁石装置の、磁場空間における磁場減衰度を示す説明図である。
【図6】従来の永久電流超電導磁石装置を示す、断面概略図である。
【符号の説明】
1:主磁場を発生する永久電流超電導磁石、
2:主磁場減衰補償用の永久電流超電導磁石、
3 、13: 主磁場を発生する超電導コイル、
4 、6:永久電流スイッチ、
5:主磁場減衰補償用の超電導コイル、
7:励磁用電源、
8:ヒータ用電源、
9 、10: 配線、
11: 主磁場均一度補正用超電導コイル、
12: クライオスタット、
Claims (4)
- 超電導線を巻回した主磁場を発生する超電導コイルおよび該コイルに並列に接続された永久電流スイッチとからなる永久電流超電導磁石と、超電導線を巻回した主磁場減衰補償用の超電導コイルおよび該コイルに並列に接続された永久電流スイッチからなる永久電流超電導磁石とを具備した永久電流超電導磁石装置であって、前記主磁場減衰補償用の超電導コイルが、励磁用電源を持たず、かつ前記主磁場を発生する超電導コイルに対し、該コイルの電流減衰による磁場の減衰により電流が相互誘導されるよう、磁気的に結合して配置されており、前記主磁場を発生する超電導コイルの外側に、該コイルと直列に接続された空間磁場の均一度補正用の超電導コイルを配置し、前記主磁場を発生する超電導コイルが、Nb3Sn 超電導線を巻回した円筒状のコイルと、このコイルに直列に接続されるとともにこのコイルの外側に配置されたNbTi超電導線を巻回した円筒状のコイルとからなり、前記主磁場減衰補償用の超電導コイルを、前記主磁場を発生する超電導コイルのうち、Nb3Sn 超電導線を巻回した円筒状のコイルとNbTi超電導線を巻回した円筒状のコイルとの間に配置したことを特徴とする永久電流超電導磁石装置。
- 前記主磁場減衰補償用の超電導コイルがNbTi超電導線を巻回した円筒状のコイルからなる請求項1に記載の永久電流超電導磁石装置。
- 前記永久電流超電導磁石装置が500MHz以上の高磁場NMR装置用である請求項1または2に記載の永久電流超電導磁石装置。
- 前記主磁場減衰補償用の超電導コイルを、前記主磁場を発生する超電導コイルのうち、前記 NbTi 超電導線を巻回した円筒状のコイルと前記空間磁場の均一度補正用の超電導コイルとの間にも配置した請求項1乃至3のいずれか1項に記載の永久電流超電導磁石装置。
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JP24852197A JP3993919B2 (ja) | 1997-09-12 | 1997-09-12 | 永久電流超電導磁石装置 |
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JP24852197A JP3993919B2 (ja) | 1997-09-12 | 1997-09-12 | 永久電流超電導磁石装置 |
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-
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- 1997-09-12 JP JP24852197A patent/JP3993919B2/ja not_active Expired - Lifetime
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