以下、本発明を好ましい実施の形態に基づいて説明する。超音波治療装置には、超音波を集束して結石を破砕する結石破砕装置と、超音波を集束して癌等の患部を加熱し、壊死させる温熱治療装置とが含まれる。ここでは、温熱治療装置を例に説明するものとする。
(第1の実施の形態)図1は、第1の実施の形態による超音波治療装置の構成図である。超音波アプリケータ1は、治療用超音波を発生するための治療用超音波発生源2を有する。治療用超音波発生源2は、例えば複数のピエゾ素子を有する。その場合、複数のピエゾ素子は、円弧状に配列される。複数のピエゾ素子から発生された超音波は円弧の中心に集束する。この集束点を幾何学的な焦点と称する。治療用超音波発生源2の円弧の中心付近には穴が開けられ、そこにイメージング用超音波を発生するためのイメージング用プローブ16が挿入される。治療用超音波発生源2の前側には、カップリング液4を収容する袋5が設けられる。治療用超音波発生源2及びイメージング用プローブ16から発生された超音波は、カップリング液4を通過して患者3に伝搬する。
ここでは1つのピエゾ素子が1チャンネルを構成するものとして説明するが、近隣の複数のピエゾ素子が1チャンネルを構成するものであってもよい。
同期回路18は、第1の同期信号をパルス発生回路12に供給する。パルス発生回路12は、第1の基本周波数f1 の信号パルスを第1の同期信号にしたがって周期的に発生する。第1の基本周波数f1 は、治療用超音波発生源2のピエゾ素子の厚さに応じた共振周波数に一致する。第1の基本周波数f1 は、例えば1.7MHzである。信号パルスは、切替スイッチ13を介して、RFアンプ14に供給される。強度分布をイメージングするとき(動作モードBのとき)、切替スイッチ13はB側に接続される。
RFアンプ14は、信号パルスを増幅し、駆動パルスを発生する。駆動パルスは、マッチング回路15を介して治療用超音波発生源2のピエゾ素子に周期的に印加される。これにより強度分布用超音波が発生される。
強度分布用超音波は、第1の基本周波数f1 を中心とする帯域で、治療用超音波発生源2から周期的に発生される。強度分布用超音波のエコーはイメージング用プローブ16により受信される。
連続波発生回路11は、第1の基本周波数f1 の連続信号を連続的に発生する。連続信号は、切替スイッチ13を介して、RFアンプ14に供給される。実際に治療するとき(動作モードCのとき)、切替スイッチ13はC側に接続される。RFアンプ14は、信号パルスを増幅し、駆動信号を連続的に発生する。この駆動信号の振幅は、強度分布のための駆動パルスの振幅より大きい。駆動信号は、マッチング回路15を介して治療用超音波発生源2のピエゾ素子に連続的に印加される。治療用超音波は、第1の基本周波数f1 を中心とする帯域で、治療用超音波発生源2から連続的に発生され、焦点で集束し、癌等の異常組織を発熱させ、壊死させる。
イメージング用プローブ16は、複数の微小なピエゾ素子のアレイを有する。イメージング用プローブ16は、セクタスキャン用、リニアスキャン用、他のスキャン用のいずれのタイプであってもよい。ここでは、セクタスキャン用として説明する。
イメージング用プローブ16のピエゾ素子は、治療用及び強度分布用超音波の第1の基本周波数f1 を含む低周波帯域と、イメージング用超音波の第2の基本周波数f2 を含む高周波帯域との両方に感度ピークを有する。このために、イメージング用プローブ16のピエゾ素子は、特開平4−211599号公報に記載されたような2層構造、ハイブリッド構造が採用される。2層構造のピエゾ素子は、第1の基本周波数f1 に対応する厚さのピエゾ素子要素と、第2の基本周波数f2 に対応する厚さのピエゾ素子要素とが共通電極を挟んで積層されてなる。ハイブリッド構造のピエゾ素子は、第1の基本周波数f1 に対応する厚さのピエゾ素子要素と、第2の基本周波数f2 に対応する厚さのピエゾ素子要素とが並列されてなる。各ピエゾ素子要素の表裏面それぞれに電極が形成されている。
同期回路18は第2の同期信号を送信回路17に供給する。送信回路17は、パルス発生器、送信遅延回路、パルサを含む。パルス発生器は、第2の基本周波数f2 の信号パルスを第2の同期信号にしたがって周期的に発生する。第2の基本周波数f2 は、第1の基本周波数f1 と異なり、イメージング用プローブ16のピエゾ素子の厚さに応じた共振周波数に一致する。ここでは、第2の基本周波数f2 が第1の基本周波数f1 より高い場合について説明する。第2の基本周波数f2 は、例えば3.5MHzである。信号パルスは、チャンネル数分に分配され、送信遅延回路で超音波をビーム状に集束し、且つ超音波ビームを予定の方向に振るために必要な遅延時間がチャンネル毎に与えられ、パルサに送り込まれる。パルサは、信号パルスを増幅し、駆動パルスを発生する。駆動パルスは、イメージング用プローブ16のピエゾ素子に周期的に印加される。これによりイメージング用の超音波が発生される。この超音波のエコーはイメージング用プローブ16で受信される。受信信号は、プリアンプ19を介して、チャンネル毎に受信遅延回路20に供給される。受信遅延回路20は、遅延時間を各チャンネルの受信信号に与え、加算することにより、受信指向性を決定する。
受信遅延回路20からの受信信号は、エコーフィルタ21を介して、Bモード処理ユニット22に供給される。Bモード処理ユニット22は、受信信号に基づいてBモード画像データ(組織断層像データ)と、治療用超音波の強度の空間的な分布を表す強度分布データを生成する。Bモード画像データと強度分布データはディジタルスキャンコンバータ(DS−C)28を介してCRT29に表示される。
受信遅延回路20からの受信信号は、エコーフィルタ21を介して、パルスドップラ−ユニット27にも供給される。パルスドップラ−ユニット27は、直交位相検波回路、アナログディジタルコンバータ、MTIフィルタ、自己相関器、演算部から構成され、受信信号に基づいてカラードップラー画像データを生成する。カラードップラー画像データは、ディジタルスキャンコンバータ28を介してCRT29に表示される。
図2に示すように、エコーフィルタ21は、ハイパスフィルタ(HPF)30と、ローパスフィルタ(LPF)31とを有する。Bモード処理ユニット22は、高周波処理回路32H と、低周波処理回路32L とを有する。受信信号の高周波成分は、ハイパスフィルタ30を介して高周波処理回路32H に供給される。高周波処理回路32H は、高周波成分に基づいてBモード画像データを生成する。低周波処理回路32L は、低周波成分(第1の基本周波数f1 に対応する成分)に基づいて強度分布データを生成する。高周波処理回路32H と低周波処理回路32L はそれぞれ、深さに応じた減衰の変化を均一化するためのSensitive Time Control(STC)、ログアンプ、検波回路、アナログディジタルコンバータから構成される。
次に本実施の形態の動作を説明する。この動作には、3つの動作モードA,B,Cがある。動作モードAでは、治療用超音波発生源2は駆動されず、イメージング用プローブ16は駆動される。患者の被治療体7の付近の断面が、イメージング用プローブ16を介して超音波によりスキャンされる。この動作モードAにより、被治療体7がBモード画像上で確認され、初期的な治療計画が立案される。
次に、動作モードBが実行される。切替スイッチ13がB側に接続される。動作モードBでは、治療用超音波発生源2は駆動され、イメージング用プローブ16も駆動される。治療用超音波発生源2からは強度分布用超音波が、第1の同期信号にしたがって発生される。イメージング用プローブ16からはイメージング用超音波が、第2の同期信号の立上がりから、ある時間後に発生される。
図3に示すように、強度分布用超音波の伝搬経路と、イメージング用超音波の伝搬経路とは相違する。したがって、強度分布用超音波が焦点で反射したエコーと、イメージング用超音波が焦点で反射したエコーとが同時にイメージング用プローブ16に到達するように、それぞれの超音波の照射タイミングを調整する必要がある。そこで、図4に示すように第2の同期信号は、第1の同期信号に対して周波数は同じであるが、その位相がズレている。すなわち、両同期信号間の時間差ΔTは、強度分布用超音波の照射タイミングと、イメージング用超音波んお照射タイミングとのずれが、治療用超音波発生源2から焦点までの距離と、イメージング用プローブ16から焦点までの距離との差を超音波の音速で除した時間となるように、システムコントローラ9によって調整される。この時間差ΔTは、強度分布用超音波とイメージング用超音波とが同時に焦点に到達することを実現する。
強度分布用超音波のエコーとイメージング用超音波のエコーとは、イメージング用プローブ16で受信される。強度分布用超音波のエコーは第1の基本周波数f1 に応じた低周波成分を多く含む。イメージング用超音波のエコーは第2の基本周波数f2 に応じた高周波成分を多く含む。
上述したように、イメージング用プローブ16のピエゾ素子は、強度分布用超音波の第1の基本周波数f1 と、イメージング用超音波の第2の基本周波数f2との両方に対して感度が高い。従来のイメージング用プローブ16のピエゾ素子はイメージング用超音波の第2の基本周波数f2 に対して感度が高いが、強度分布用超音波の第1の基本周波数f1 に対して感度が低い。このため、従来では、強度分布用超音波のエコーに含まれる高調波成分が主に強度分布イメージングの対象とされており、低画質であった。高調波成分は、超音波の伝搬の非線形性により強調される。なお、強度分布の画質の向上は、強度分布用超音波の強度を高くすることにより実現される。しかし、強度分布用超音波の強度を高くすることは、焦点でのキャビテーションを発生を促進し、その崩壊の際に発生する衝撃波等により焦点領域の組織に少なからぬダメージを与えるおそれがあり好ましくない。これに対して、本実施の形態では、イメージング用プローブ16のピエゾ素子は、強度分布用超音波の第1の基本周波数f1 と、イメージング用超音波の第2の基本周波数f2 との両方に対して感度が高い。したがって、組織へのダメージを極力抑え、且つ時間分解能の劣化を起こすことなく、強度分布とBモード画像との両方の画質を向上することができる。また、強度分布の画質の向上は、ゲイン調整により受信感度を上げることによっても実現される。この場合、図2において、エコーフィルタ21と、Bモード処理ユニット22との間の経路中に少なくとも1つ、好ましくはそれぞれの経路中に1つずつのゲイン調整回路を挿入する。
受信遅延回路20でチャンネル毎に遅延時間を与えられて、加算されて生成される受信信号は、エコーフィルタ21に供給される。受信信号は、強度分布用超音波の基本周波数f1 に対応する低周波成分と、イメージング用超音波の第2の基本周波数f2 に対応する高周波成分とを主に有している。エコーフィルタ21のハイパスフィルタ30は受信信号から高周波成分を抽出する。エコーフィルタ21のローパスフィルタ31は受信信号から低周波成分を抽出する。高周波処理回路32H は、高周波成分に基づいてBモード画像を生成する。低周波処理回路32L は、低周波成分に基づいて強度分布を生成する。また、低周波処理回路32L は、強度分布において所定の閾値を越える画素群の領域を実際的な焦点として抽出し、この実際的な焦点だけを表示するようにしてもよい。
このように低周波成分と高周波成分とを別々に処理するので、低周波成分に対して第1のゲインを適用し、高周波成分に対しては第1のゲインと相違する第2のゲインを適用して、各々の成分に対して適当なSTCを実現できる。これは超音波減衰率が周波数に依存することを鑑みたものである。
次に、動作モードCでは、強度分布用超音波よりも強度の高い治療用超音波が連続的に治療用超音波発生源2から発生され、患部の治療が行われる。
一般に、治療用超音波発生源2から発生される超音波は、高調波成分ほど焦点近傍に集束される。したがって、従来のように強度分布用超音波のエコーに含まれるに高調波成分に基づいて強度分布をイメージングするケースでは、焦点領域が実際よりも狭く表示されてしまうという不具合があった。これに対して本実施の形態では、強度分布用超音波のエコーに多く含まれる低調波成分(第1の基本周波数f1 に対応する成分)に基づいて強度分布をイメージングするので、実際の強度分布に忠実な強度分布を得ることができ、したがって定量的評価の信頼性が高くなり、強度分布に基づいて発熱領域等の推定等の判断を高精度で行うことを可能とする。
(第2の実施の形態)図5は第2の実施の形態による超音波治療装置の構成図である。なお、図5において、図1と同じ部分には同符号を付してその説明を省略する。治療用超音波発生源33は、治療用超音波に対応する第1の基本周波数f1 と、イメージング用超音波に対応する第2の基本周波数f2 との両方に感度ピークを有するピエゾ素子が採用されている。このピエゾ素子は上述した2層構造又はハイブリッド構造により実現される。
高周波パルス発生回路34は、第2の基本周波数f2 の信号パルスを周期的に発生する。この第2の基本周波数f2 の信号パルスは、スイッチ13、RFアンプ4、スイッチ36、高周波マッチング回路35を順に介して治療用超音波発生源33のピエゾ素子に印加される。これにより、強度分布用超音波が周期的に発生される。連続波発生回路11は、第1の基本周波数f1 の連続信号を連続的に発生する。この第1の基本周波数f1 の連続信号は、スイッチ13、RFアンプ4、スイッチ36、低周波マッチング回路37を順に介して治療用超音波発生源33のピエゾ素子に印加される。これにより、治療用超音波が連続的に発生される。
システムコントローラ9により同じ動作を行う。強度分布をイメージングする動作モードBのときには、スイッチ13とスイッチ36とは共にB側に接続される。実際に治療が行われる動作モードCのときには、スイッチ13とスイッチ36とは共にC側に接続される。
動作モードBのときには、治療用超音波発生源33は、第2の基本周波数f2で駆動される。治療用超音波発生源33からは強度分布用超音波が第2の基本周波数f2 を中心とした高周波帯域で発生される。強度分布用超音波のエコーは第2の基本周波数f2 に対応する高周波成分を多く有している。イメージング用プローブ16は、第2の基本周波数f2 に対して感度が高い。
したがって、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
(第3の実施の形態)図6は、第3の実施の形態による超音波治療装置の構成図である。なお、図6R>6において、図1と同じ部分には同符号を付してその説明を省略する。
超音波診断部40は、図1のBモード処理ユニット22と同様に、STC、ログアンプ、検波回路、アナログディジタルコンバータを有する。超音波診断部40は、周波数情報を取得するための周波数情報解析部41をさらに有している。
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、治療用超音波発生源2からの強度分布用超音波と、イメージング用プローブ16からのイメージング用超音波とが焦点に同時に到達するように、各々の発生タイミングが調整される。本実施の形態では、この同時性の精度を向上させる。
温度センサ42は、カップリング液4の温度を計測するために設けられている。計算部44は、温度センサ42により計測されたカップリング液4の温度に基づいて、カップリング液4内の超音波の音速を計算する。ロータリエンコーダ等により実現される位置センサ43は、治療用超音波発生源2のピエゾ素子の表面から焦点までの距離と、イメージング用プローブ16のピエゾ素子の表面から焦点までの距離との差を計測するために設けられている。
システムコントローラ9は、計算された音速と、計測された距離の差とに基づいて、第1の同期信号と第2の同期信号との位相差(時間差ΔT)を補正する。これにより、治療用超音波発生源2からの強度分布用超音波と、イメージング用プローブ16からのイメージング用超音波とが焦点に同時に到達する精度が向上する。
図7は、図6の周波数情報解析部41の構成を示す。イメージング用プローブ16のピエゾ素子は第2の基本周波数f2 に対して感度が高いという共振特性を有している。これは、強度分布用超音波のエコーに多く含まれている第1の基本周波数f1 に対応する低周波成分を減衰するハイパスフィルタと等価的である。周波数スペクトル分析部50の前段に、このフィルタ特性を補償するためのイコライザ51が設けられている。
図8は、イコライザ51の働きの説明図である。強度分布用超音波のエコーのスペクトルは、第1の基本周波数f1 を中心とする基本波帯域と、第1の基本周波数f1 の整数倍(n・f1 )に相当する高周波数を中心とする高調波帯域とにおいて高くなる。イメージング用プローブ16の感度特性は、第2の基本周波数f2 において高い。イメージング用プローブ16で受信された受信信号のスペクトルは、強度分布用超音波のエコーの周波数スペクトルと、イメージング用プローブ16の周波数特性との積として表される。イコライザ51は、受信信号のスペクトルを、強度分布用超音波のエコーのスペクトルに対して近似的に整形する。
周波数スペクトル分析部52は、イコライザ51からの受信信号を高速フーリエ変換処理を施し、スペクトルを生成し、特定帯域の面積を求める。これを多点に対して行うことにより、強度分布を生成する。なお、特定帯域は、基本波帯域、高調波帯域、又は両帯域である。画像化部53は、強度分布に対して各点の大きさに応じて、色相又は輝度を割り当てる。
エコーフィルタ54は、受信信号から第2の基本周波数f2 を中心とした高調波帯域に含まれる高調波成分を通過させるバンドパスフィルタである。画像情報処理部55は、エコーフィルタ54を通過した高調波成分に基づいて、Bモード画像(Bモード画像)を生成する。
加算回路56は、超音波エネルギーの空間的分布とBモード画像とを重畳する。なお、周波数スペクトル分析部52において、スペクトルの広がり具合(分散)を多点に対して算出し、このスペクトルの分散の空間的分布を得るようにしてもよい。治療用超音波の強度の高いところほど高周波成分が多く発生している。したがって、分散の空間的分布は、強度分布に近似的である。また、周波数スペクトル分析部52において、スペクトルの重心位置を多点に対して求めてもよい。
システムコントローラ9は、得られた強度分布に基づいて、温度分布を推定する。治療用超音波の焦点に存在する組織は発熱し、壊死される。温度は、組織の超音波吸収率、熱伝導率、治療用超音波の強度、照射時間等に依存して決まる。超音波吸収率及び熱伝導率は、コンソール10を介してオペレータにより入力される。超音波吸収率及び熱伝導率は、部位(臓器)毎に超音波吸収率及び熱伝導率が記憶されているメモリ45から選択的に読み出される。超音波吸収率は、受信信号に基づいて計算により求めるようにしてもよい。焦点より手前からのエコーと焦点からのエコーとの強度が比較され、この比較結果及び伝播距離に応じた超音波の拡散パラメータに基づいて、超音波減衰率が計算され、この超音波減衰率に基づいて超音波吸収率が計算される。治療用超音波の強度は、強度分布から得られる。照射時間はオペレータにより設定される。
システムコントローラ9は、超音波吸収率、熱伝導率、治療用超音波の強度、照射時間を熱輸送方程式に適用することにより、温度を定量的に推定する。この推定は焦点付近の多点に対して行われる。これにより推定温度の空間的分布(温度分布)が生成される。温度分布はBモード画像に重ねられてCRT29に表示される。温度分布から癌細胞の熱変性壊死温度以上の領域(およそ50〜60°以上の治療領域)を抽出して、この領域を実線や点線囲んだり、色づけしたり、網掛けして表示するようにしてもよい。オペレータは、温度分布に基づいて、熱による変性領域、ダメージを受ける領域等を予測することができる。
なお、オペレータによりBモード画像上に指定された被治療体の範囲を治療するための計画をシステムコントローラ9により立案することが可能である。システムコントローラ9は、被治療体の範囲を所定数の領域(分割領域)に分割して認識する。1回の治療で1つの分割領域の治療が完了されるように、焦点強度と照射時間とがシステムコントローラ9により決定される。焦点強度と照射時間を変えながら、超音波吸収率及び熱伝導率を考慮して、上記抽出された治療領域が拡大/縮小される。分割領域に一致するときの治療領域に対応する焦点強度と照射時間が選定される。
さらに、本実施の形態では、治療に必要とされる治療用超音波の焦点強度(第1の焦点強度)を得るために必要な駆動エネルギー(第1の駆動エネルギー)、つまり治療用超音波発生源2のピエゾ素子に投入すべき駆動信号の振幅を求めることができる。これは、本発明では、焦点強度が定量的に計測できることに起因している。まず、強度分布イメージングのときの駆動エネルギー(第2の駆動エネルギー)と、それにより得られた焦点強度(第2の焦点強度)とがメモリ45に記憶される。焦点強度と、駆動エネルギーとはほぼ比例関係にある。したがって、第1の焦点強度を第2の焦点強度で除した結果を、第2の駆動エネルギーに乗算することにより第1の駆動エネルギーが計算される。この計算は、システムコントローラ9によって行われる。得られた第1の駆動エネルギーにしたがって駆動信号を発生することにより、第1の焦点強度を得ることができる。
図9は、治療用超音波の伝播経路中に、超音波の強反射体がある場合の強度分布を示している。伝播経路中に超音波の強反射体がある場合は、焦点強度が低下したり、強反射体が骨等の発熱体である場合であるため、これを検出することは臨床上重要である。図9において、治療用超音波は、その焦点60に向かって、伝播経路61に沿って生体内を伝播する。この伝播経路61の中で、中心軸62から外れたところに強反射体63があると、強度分布64は歪んで、図9に示すように左右対称ではなくなる。超音波の吸収体がある場合も同様である。このように強度分布64が歪む一因として、一部の治療用超音波エネルギが強反射体63によって焦点まで到達することがあげられる。強反射体63が、2次元イメージング面上に存在する場合だけでなく、治療用超音波の円錐形の伝搬経路中に存在すれば、強度分布64は歪む。オペレータは強度分布64の形状に基づいて治療用超音波の伝播経路中に強反射体や強吸収体の存在の有無を判断できる。さらに、システムコントローラ9が、この存在の有無を、計測した強度分布の形状と予め指定された形状との比較結果、又は計測した強度分布の形状の左右対称性に基づいて判断するようにしてもよい。存在していると判断したとき、システムコントローラ9は、この存在していることをオペレータに提示するために、システム警告メッセージ65をCRT29に表示し、警告音を発生する。また、システムコントローラ9は、治療開始を強制的に不可能とする安全機能を作動する。
以上のような安全のための機能は、焦点領域の超音波強度を計測することによっても可能である。この方法では、2次元イメージング画面の中心軸を通り画面に垂直な面内に超音波の強反射体や強吸収体がある場合でも効果が得られる。前述のようにピエゾ素子群2の駆動エネルギから焦点領域のエネルギが予想できる。その際、生体内の超音波減衰率をも考慮すれば、より正確な焦点領域のエネルギが予想可能になる。このようにして、あらかじめ予想された焦点領域内の超音波強度に対し、実際に取得された焦点領域内の超音波強度を比較し、その強度差があらかじめ設定しておいた値よりも大きければ、超音波の強反射対(もしくは強吸収体)により超音波エネルギの一部が散乱されて焦点まで到達していない可能性が考えられるので、前述のように異常を繰作者に知らせるようにする。あるいは、この情報に基づいて治療開始をできなくするための安全装置を構成し、システムに組み込んでも良い。
また、システムコントローラ9では、強度分布に基づいて、屈折等による治療用超音波の伝搬経路の歪みの有無を判断して、歪んでいるとき、その警告を発生する。ずれが2次元イメージング面内であれば、強度分布の歪みから視覚的にそのずれを確認できる。しかし、ずれの方向が2次元イメージング面から外れているとき、視覚的にそのずれを確認することはできない。システムコントローラ9は、実際の焦点強度を、駆動エネルギー等から計算上得られる予定強度と比較し、その差が所定範囲を逸脱しているとき、治療用超音波の伝搬経路の歪みが発生していることと判断して、これをオペレータに提示する。
また、システムコントローラ9は、実際の焦点強度と予定強度との差が所定の許容範囲内であれば、治療実行可というメッセージを出力する。
次に、強度分布イメージングによる生体への影響を抑制し、且つフレームレートを向上する方法について説明する。強度分布用超音波の音響的なエネルギは治療用超音波より低くされており、生体への影響度は比較的低いと考えられる。しかし、強度分布イメージングのスキャン範囲を幾何学的焦点付近を少なくとも含む程度に狭くしてラスタの本数を減少すれば、1フレームに対応する強度分布用超音波の照射回数は減少するため、生体への影響を抑制することができる。また、Bモード画像のためのスキャンと強度分布のためのスキャンとを交互に行う場合であっても、強度分布イメージングのスキャン範囲を狭くしてラスタの本数を減少することにより、各々の画像のフレームレートを向上させることができる。一方、強度分布画像の表示領域を狭くしても、通常の生体内イメージングの領域に対し、治療用超音波の伝播経路は狭いので、強度分布イメージングに重要な影響を与えることはない。このようなスキャン範囲の切り替えは、オペレータがこの切り替え指示をコンソール10を介してシステムコントローラ9に入力することを契機としてシステムコントローラ9の制御により行われる。さらに、治療開始前はフルスケール画面で強度分布イメージングを行い超音波の伝播経路中の安全性を確認した後は、強度分布イメージング領域を狭くしたり焦点領域のみに限定する等の、治療前と治療時とで表示の仕方を切り替える使い方も可能である。
(第4の実施の形態)図10は第4の3実施の形態による超音波治療装置の主要部の構成図である。図10において、図7と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略する。主に血流によるシフト成分を受信信号から除去するためのフィルタ70が、周波数スペクトル分析部52の前段にスイッチ71を介して設けられている。血流によるドップラー効果は、イメージング用超音波及び強度分布用超音波の周波数を数kHzほどシフトする。図11に模式的に示すように、このシフト帯域は、第1の基本周波数f0 に数kHzを加減した周波数を中心とした帯域、第2の基本周波数f2 に数kHzを加減した周波数を中心とした帯域として定義される。
フィルタ70は、これらシフト帯域内のシフト成分を十分減衰又は除去する。フィルタ70は、例えば複数のハイパスフィルタと複数のローパスフィルタとから構成される。フィルタ70は、シフト帯域内のシフト成分を十分減衰させる機能を実現するものであれば、この構成に限定されない。フィルタ70により、基本周波数から僅かに離れたシフト成分は除去されてしまうが、一般にイメージング用超音波と強度分布用超音波とは、それらの周波数差は1MHz以上であり、また高調波成分も含めると非常に広帯域であるため、シフト成分は除去しても、信号強度が極端に低下することはなく、したがって高い画質が維持される。フィルタ70の除去する帯域を調整することにより、血流以外の例えば心臓壁等の移動体によるシフト成分を除去することもできる。
スイッチ71はその切り替えにより、シフト成分を除去する/しないを選択することを可能とする。この切り替えは、オペレータがコンソール10を介してシステムコントローラ9に指示を入力することを契機として行われる。
(第5の実施の形態)図12は、第5の実施の形態に係る超音波治療装置の構成図である。図12において、図6と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略する。図13に示すように、治療用超音波発生源80は、円形平板状のピエゾ素子81が径方向及び周方向に分割されてなる。換言すると、治療用超音波発生源80は、複数のピエゾ素子81が円形平板状に配列されている。ここでは1つのピエゾ素子81が1チャンネルを構成するものとして説明するが、近隣の複数のピエゾ素子81が1チャンネルを構成するものであってもよい。
複数のピエゾ素子81がチャンネル毎に独立して駆動可能なように、超音波治療部46は1個のピエゾ素子81に対して1つずつ設けられる。超音波治療部46はそれぞれ、マッチング回路、RFアンプ、連続波発生回路、パルス発生回路、連続波発生回路とパルス発生回路との切り替え回路とから構成される。同期回路18は、複数のピエゾ素子81から発生された超音波が焦点で集束するように、複数の超音波治療部46に位相の異なる同期信号を個々に供給する。なお、複数のピエゾ素子81の円形平板の中心点からの垂線上であって、所定の深さの点を、基準焦点と称する。基準的な同期信号は、この基準焦点に対応している。
同期回路18は、システムコントローラ9の制御にしたがって、複数の超音波治療部46それぞれに供給する同期信号の位相を変化することが可能に構成されている。この位相の変化は、焦点を基準焦点の位置から他の位置に移動することを実現する。なお、焦点を基準焦点の位置から他の位置に移動するとき、焦点での音響的な圧力は基準焦点の音響的な圧力に対して変化する。システムコントローラ9は、この音響的な圧力の変化を補償するために、超音波治療部46のRFアンプを制御して、駆動信号の振幅を調整する。
ここで、屈折等により治療用超音波の焦点が設定位置からずれている場合を考える。強度分布用超音波パルスとイメージング用超音波パルスとは、伝播経路や生体に対する伝播の角度が異なるため、屈折量が異なる場合がある。但し、同じ超音波であるため、屈折の度合いの違いは、それほど大きくなく、焦点の深さにおいて横方向に数mm程度である。
そこで、システムコントローラ9は、以下のような作業を行う。強度分布用超音波の焦点位置が初期の位置から変更される。強度分布用超音波の焦点位置が被治療体の位置を中心とした半径数mmの球の範囲内でスパイラル状に変更される。その際、イメージ上の焦点位置からの強度分布がイメージング用超音波パルスの反射波強度が計測される。各焦点位置に対して最大の反射波強度が選択される。最大の反射波強度は、推定された焦点強度と比較され、その差が許容範囲を逸脱しているか否かが判定される。最大の反射波強度と推定された焦点強度との差が許容範囲内であるとき、最大の反射波強度に対応する遅延制御で治療開始状態が起動される。これにより強度分布イメージング用超音波パルスの屈折量はイメージング用超音波パルスの屈折量に補正され、両者の違いはなくなる。一方、最大の反射波強度と推定された焦点強度との差が許容範囲から逸脱しているとき、警告が出力され、また治療開始状態が起動されない。
周波数情報解析部41は、強度分布に基づいて治療領域を計測する。治療領域とは、治療用超音波による発熱が高い領域として定義される。治療領域は焦点に対して空間的に若干ずれる。強度分布用超音波のエコーには、基本波成分の他に高調波成分が含まれる。図1414に示すように、高調波成分は高調波帯域内の信号成分である。高調波帯域は、強度分布用超音波及び治療用超音波の第1の基本波周波数f1 の整数倍の周波数を中心とした帯域である。超音波の波形は音圧レベルが大きいほど歪む。この歪みは高調波成分を発生する。つまり、高調波成分を多く含む部分は音圧レベルが大きい領域に対応し、この領域は発熱危険度が高くなる部分と推定できる。周波数情報解析部41は、受信信号から高調波成分を抽出する。抽出された高調波成分に基づいて強度分布が生成される。この強度分布に基づいて所定の強度を越える領域が、治療領域として抽出される。抽出された治療領域の位置と被治療体の位置とが整合するように、遅延制御の状態が調整される。
ここで、図15に示すように、治療領域103が被治療体102に対してずれている場合を考える。ここでは、3次元超音波画像が生成される。3次元超音波画像の生成については、特開昭61−209643号公報、特開平5−300910号公報等で開示された周知技術であるので説明は省略する。CRT29には、3次元超音波画像100、3次元座標軸101、被治療体102、治療領域103を示す3次元座標104が表示される。例えば、この座標は、3次元画像上の一点105を原点(0,0,0)とされている。被治療体102の座標が(0,8,0)、治療領域103の座標が(−1,6,0)であると仮定する。治療領域103の座標と被治療体102の座標との空間的なずれに基づいて、システムコントローラ9は同期回路18を制御して遅延制御の状態を変化し、この状態で強度分布イメージングを実行する。この動作は、治療領域103の座標が被治療体102の座標に一致するまで繰り返される。両座標が一致したとき、その遅延制御の状態で治療が開始される。
図16(a)、図16(b)に示すように、抽出された治療領域103は、四角マーカ110aで表示し、焦点は円形マーカ110bとして区別可能に表示するようにしてもよい。区別は形状の相違に限らず、色相の相違によってもよい。さらに、図16(c)に示すように、高調波成分に基づいて生成された強度分布の強度変化を、色相変化、色の濃さの変化、輝度変化又は等高線等で表現したマーカ110cを表示してもよい。
(第6の実施の形態)図17は、第6の実施の形態に係る超音波治療装置の構成図である。図17において、図1、図12と同じ部分は同じ符号を付して説明を省略する。治療用超音波発生源2を構成する複数のピエゾ素子は、それぞれ対応する駆動回路120によって個別に駆動されることができる。駆動回路120はシステムコントローラ9及び駆動用電源121に接続されており、システムコントローラ9からの制御信号に基づいて、駆動信号を、対応するピエゾ素子に供給する。
ここでは結石治療に関して説明する。まず、結石に治療用超音波の焦点を一致させるために、イメージング用プローブ16により取得した受信信号に基づいて超音波画像診断部40により再構成されたBモード画像上で被治療体(結石)が確認される。被治療体の位置は、オペレータによるコンソール10の操作により入力される。被治療体の座標がシステムコントローラ9によって計算される。システムコントローラ9は、計算された被治療体の座標に基づいて、治療用超音波の焦点が被治療体に一致するように、遅延制御の状態、つまりピエゾ素子間の駆動タイミングの時間差、つまりピエゾ素子毎の遅延時間を計算する。被治療体の位置の入力は、例えば特願平4−261420号に開示されているような自動検出であってもよい。
従来では、ピエゾ素子各々の遅延時間の計算は、超音波の伝搬過程が線形性を有していることを前提として行われていた。結石を破砕する程度の非常に強い治療用超音波(衝撃波)は、超音波が伝搬する過程で生じる非線形効果が強い。したがって、従来の計算方法では、実際に形成される焦点は、計算上の焦点の位置からずれてしまう。このずれは、治療用超音波発生源2の中心点から垂直に下ろした基準線上においては大きくないが、この基準線から焦点が外れたときには大きくなる。このようにずれが生じる理由は、各ピエゾ素子から、基準線から外れた焦点までの距離がピエゾ素子間で相違することである。
図18は、基準線から計算上の焦点までの距離の変化に対するずれ量の変化を表している。なお、治療用超音波発生源2に近い側のずれは正で、遠い側のずれは負で表わされている。通常のイメージング用超音波のずれ量(□)の変化はない。一方、イメージング用超音波よりはるかに強度の強い治療用超音波のずれ量(×)は、基準位置から焦点が離れるほど増大していく。この理由は、先に述べた設定位置までの伝搬距離の相違が基準線から離れるほど大きくなるゆえに、超音波の伝搬過程で生じる非線形効果の影響が増大するからである。
本実施の形態では、被治療体の座標をズレ量に基づいて補正し、補正された座標に焦点が形成されるように従来通りピエゾ素子それぞれの遅延時間を計算する。これにより、被治療体に焦点を高精度で一致させることができる。メモリ45には、基準線からの距離、超音波強度(駆動信号の振幅)の多くの組み合わせにそれぞれに、ズレ量が記憶されている。システムコントローラ9は、指定された被治療体の位置と基準線との距離を求め、これと超音波強度(駆動信号の振幅)とに対応するズレ量をメモリ45から読み出し、このズレ量に基づいて被治療体の位置を補正し、補正された位置に焦点が形成されるように、ピエゾ素子ぞれぞれの遅延時間を計算する。また、メモリ45に、基準線からの距離と超音波強度(駆動信号の振幅)との多くの組み合わせそれぞれに、ズレ量に応じた遅延時間の補正値を記憶しておき、この補正値により、被治療体の位置に焦点が形成されるように従来通りピエゾ素子それぞれに対して計算された遅延時間を補正するようにしてもよい。
なお、焦点は、ピンポイントではなく、ある広さをもつ範囲に形成されるので、設定可能な焦点位置を焦点サイズに基づいた離散的なものにしてもよい。
なお、メモリ45にズレ量や補正値を記憶しておくかわりに、基準線からの距離と超音波強度とに基づいてシステムコントローラ9でズレ量や補正値を計算するようにしてもよい。
(第7の実施の形態)図19は、第7の実施の形態による追尾型の超音波治療装置の構成図である。図19において、図17と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略する。例えば、腎臓結石のような呼吸運動により移動する被治療体に対して、フェーズドアレイ技術を利用して治療用超音波の焦点を追尾させる技術は、特公平6−26549号公報に見られるように周知である。治療対象位置検出部140は、被治療体の位置をほぼリアルタイムで検出する。この検出技術も、特願平4−261420号公報等で開示されているように、周知である。例えば、超音波やCT等によるBモード画像の連続する2フレーム間で差分をとり、その結果に基づいて被治療体位置を検出する方法や、超音波エコーのピーク位置を結石として検出する方法等がある。
治療対象位置検出手段140からシステムコントローラ9に常時または周期的に被治療体の位置情報が供給される。この被治療体の位置に焦点が形成されるようにピエゾ素子それぞれの遅延時間が計算されるのであるが、このときに第6の実施の形態で説明した補正を適用することにより、高精度で焦点を被治療体に追尾することができる。
なお、上述したように遅延制御により治療用超音波の焦点位置を移動する代わりに、音響レンズの屈折率を局所的に調整して、焦点位置を移動する方法が採用されてもよい。
(第8の実施の形態)第8の実施の形態は、治療中にBモード画像を構成する場合にBモード画像に混入するノイズを削除すること関する。ノイズ低減は、上述した実施の形態における超音波診断部40により図られる。
図20(a)に示すように、治療用超音波はバースト波として第1の周期で周期的に発生される。イメージング用超音波パルスは第1の周期より著しく短い第2の周期で周期的に発生され、次のイメージング用超音波パルスの送信前にそのエコーが受信される。N本のラスタそれぞれに対してイメージング用超音波の送受信が繰り返される。以下、スキャンとは、イメージング用超音波の送受信をラスタを順次変えながらN回繰り返す1フレームのための送受信動作として定義するものとする。イメージング用超音波のエコーに対して治療用超音波パルスのエコーは著しく強い。受信ゲインはイメージング用超音波のエコーに基づいて設定されている。したがって、図20(b)に示すように、スキャンと治療用超音波バーストの照射とが同時に行われているとき、治療用超音波パルスが発生されている期間に対応するBモード画像150上の一部分153は、極めて高輝度の領域として表示されてしまう。本実施の形態は、このノイズを削除するための複数の方法を提供する。複数の方法のいずれかを採用してもよいし、複数の方法全てを実施可能にしておきオペレータが選択可能としても良い。
(第1の方法)図21は治療用超音波の照射タイミングとスキャンのタイミングとの関係を示すタイムチャートである。治療用超音波パルスはバースト波として第1の周期で周期的に発生される。患者の断面はイメージング用超音波で第1の周期とは無関係の固有の周期(フレーム周期)で周期的にスキャンされる。
図22(a)〜図22(d)は連続的なスキャンにより生成される3フレームのBモード画像を模式的に示している。1フレームのBモード画像には、少なくとも1つの治療用超音波によるノイズ縞161が混入される。超音波診断部40には、治療用超音波パルスの照射タイミングを決定するための同期信号がシステムコントローラ9から供給される。超音波診断部40は、フレーム周期と同期信号とに基づいて、Bモード画像上でノイズ縞161が発生する範囲を求める。超音波診断部40は、最新の1フレームのBモード画像160cからノイズ縞161の範囲を除去し、その範囲を当該Bモード画像160cに対して直前に生成した複数枚のBモード画像160a,160bから補完することにより、ノイズ縞161のない1フレームのBモード画像160dを作成する。
(第2の方法)図23は第2の方法の説明図である。171は、治療用超音波バーストの照射タイミングを示している。超音波診断装置40は、治療用超音波バーストが照射されている期間、イメージング用超音波によるスキャンを中断する。超音波診断装置40は、治療用超音波バーストの照射が停止されたとき、中断時のラスタの次のラスタからスキャンを再開する。
(第3の方法)図24は第3の方法の説明図である。181は、治療用超音波バーストの照射タイミングを示している。超音波診断装置40は、治療用超音波バーストが照射されている期間、エコーを受信しない、受信した受信信号を画像メモリに書き込まない、又は書き込んでもCRTには表示しない。これにより、Bモード画像上ではノイズ部分は黒く抜けてしまうが、白いノイズ部分は解消される。
(第4の方法)図25(a)〜図25(f)、図26(a)〜図26(d)は、第4の方法の説明図である。治療用超音波バーストの照射タイミングとスキャンのタイミングとの時間的な関係を示すタイムチャートを示す図25(b),図25(d),図25(f),図26(b),図26(d)はそれぞれ図25(a),図25(c),図25(e),図26(a),図26(c)に対応する。図25(a)、図25(b)に示すように超音波診断装置40は、Bモード画像190aの両端にノイズ縞191が生じるように、治療用超音波バーストの照射タイミングに対してスキャンタイミングを図る。図25(c)、図25(d)に示すように超音波診断装置40は、Bモード画像190bの中央部分にノイズ縞191が生じるように、治療用超音波バーストの照射タイミングに対してスキャンタイミングを図る。図25(e)、図25(f)に示すように超音波診断装置40は、Bモード画像190cの両端部分及び中央部分以外の部分にノイズ縞191が生じるように、治療用超音波バーストの照射タイミングに対してスキャンタイミングを図る。図26(a)、図26(b)に示すように超音波診断装置40は、注目部分(例えば焦点)201がノイズ縞202に隠れないで、Bモード画像200の右半分にノイズ縞202が生じるように、治療用超音波バーストの照射タイミングに対してスキャンタイミングを図る。図26(c)、図26(d)に示すように超音波診断装置40は、注目部分(例えば焦点)201がノイズ縞202に隠れないで、Bモード画像200の左半分にノイズ縞202が生じるように、治療用超音波バーストの照射タイミングに対してスキャンタイミングを図る。
(第9の実施の形態)図27は第9の実施の形態による超音波治療装置の構成を示す。第9の実施の形態では、超音波治療装置は、磁気共鳴診断装置と併用される。超音波の温熱治療において、治療開始前に患部と発熱領域との位置整合性を高精度で確認することが重要である。
磁気共鳴診断装置は、化学シフトや緩和時間T1の温度依存性を利用して、温度分布を計測することが可能である((Y.Ishihara et al,:Proc. 11th Ann. SMRM Meeting, 4803, 1992)、(H.Kato et al.:'Possible application of noninvasive thermometry for hyperthemia using NMR',International Conference on Cancer Therapy by Hyperthemia, Radiation andDrugs, Kyoto, Japan(Sept.1981 )))。
また、磁気共鳴診断装置は、選択励起技術により局所領域や任意形状の領域を計測ことが可能である((C.J.Hardy, and H.E.Cline, Journal of Magnetic Resonance, vol.82, pp.647-654,1989)、(J.Pauly et al.:'Three-Dimensional πPulse',Proc. 10th Ann.SMRM Meeting, 493, 1991) )。
ところで、生体は呼吸移動、体動などの動きがあるので、超音波の温熱治療中に正常組織への誤照射、患部の現在温度をリアルタイムでモニタリングすることも重要であり、磁気共鳴診断装置により2次元の温度分布を計測し、これを上記モニタリングに利用しようとする試みがなされている。温熱治療では、患部は瞬間的に高温にされるので、このモニタリングにはかなり高い時間追従性(リアルタイム性)が要求される。また、温度のほかに治療効果を示すデータを高い時間分解能で得る必要もあり、時間分解能を最優先する計測法が必要である。
しかし、磁気共鳴診断装置は、1フレームの温度分布を計測するために、例えばスピンエコー法では一回の励起にかかる時間(繰り返し時間)にエンコード回数をかけた時間必要であり、例えば繰り返し時間TRが2秒でエンコード回数128回であれば5分程度かかってしまう。スピンエコー法より高速な例えばフィールドエコー法やエコープラナー法でも、1フレームの温度分布を計測するために、数秒かかってしまう。さらに、撮像から温度分布が出力されるまでに、画像再構成処理に要する数秒程度のタイムラグが必要である。したがって、温度分布によるリアルタイムモニタリングは、困難であった。
時間分解能をを高くするために、2次元ではなく、1次元の温度分布を計測することが考えられる。しかし、この方法は、1次元の温度分布を計測する計測ラインから発熱領域が外れてしまうという問題があり、好ましくない。また、スライス厚の厚さは、パーシャルボリューム効果を生じさせ、ピーク温度が低めに測定されてしまうという問題もある。さらに、1次元の温度分布では、計測ライン以外の部分で過熱が発生していることをチェックできないという問題もある。
第9の実施の形態の目的は、高い時間分解能で温度モニタリングを可能とすることにある。図27において、静磁場磁石211は励磁用電源212により駆動され、患者213にz方向の一様な静磁場を印加する。勾配磁場コイル214は静磁場磁石211内に配置され、駆動回路216により駆動され、寝台217上の患者213に対して、直交するx,y,zの3方向にそれぞれ磁場強度が直線的に変化する勾配磁場Gx,Gy,Gzを印加する。高周波コイル218は勾配磁場コイル214内に配置される。高周波コイル218は、デュプレクサ220を介して送信部219から高周波信号の供給を受け、高周波磁場を発生する。受信部221は、高周波コイル218、デュプレクサ220を介して患者213からの磁気共鳴信号を受信する。高周波コイル218には、鞍型コイル、分布定数型コイル、クォードラチャコイル、表面コイルが採用される。デュプレクサ220は、高周波コイル218に対して送信部219と受信部221とを切り替えるものであり、送信時には送信部219からの高周波信号を高周波コイル218に伝達し、受信時には高周波コイル218からの受信信号を受信部221に導く。
シーケンスコントローラ215は、所定のパルスシーケンスを実行するために駆動回路216、送信部219、受信部221を制御する。受信部221は、受信信号を検波し、帯域を制限する、この受信信号は、データ収集部222に送られる。データ収集部222は、受信信号をディジタル信号に変換し、電子計算機223に供給する。電子計算機223は、受信部221からのデータを2次元フーリエ変換処理を施すことにより、MR画像、温度分布を再構成する。MR画像、温度分布は画像ディスプレイ225に供給され、表示される。
超音波アプリケータ226は、治療用超音波を発生するための複数のピエゾ素子227を有する。治療用超音波は、水袋228に収容された脱気水等のカップリング液を介して患者213に照射される。
超音波アプリケータ226を駆動するための電源229は、電子計算機223により制御される。焦点を移動できるように、超音波アプリケータ226は、多間接のメカニカルアーム等で構成されている移動機構230により支持される。なお、焦点移動は、複数のピエゾ素子227に対する位相制御により実現してもよい。
超音波アプリケータ226の中央にはイメージング用プローブ231が装着される。イメージング用プローブ231は超音波診断部232により駆動され、患者の断面をスキャンし、得られた受信信号に基づいてBモード画像データ及び強度分布データを再構成し、表示する。このスキャンのタイミングは電子計算機223により制御される。Bモード画像データ及び強度分布データは、超音波診断部232から電子計算機223に送られる。電子計算機223は、Bモード画像又は強度分布をMR画像又は温度分布に合成する。
電子計算機223は、強度分布に基づいて最大強度点を求め、超音波の投入エネルギーを得るために連続的に得られる強度分布を累積し、磁気共鳴診断装置による1次元の温度分布と累積分布とに基づいて2次元又は3次元の温度分布を求める。
図28に、スライス面の決定処理の流れを示す。図29、図30、図32にその補足図を示す。焦点を含む第1の断面に関する強度分布(第1の強度分布)が生成される(S1,S2)。第1の強度分布に基づいて、第1の断面内の最大強度点(第1の最大強度点)の座標が求められる(S3)。第1の最大強度点を含み、第1の断面に直交する第2の断面に関する強度分布(第2の強度分布)が生成される(S4,S5)。第2の強度分布に基づいて、第2の断面内の最大強度点(第2の最大強度点)の座標が求められる(S6)。第2の最大強度点の座標と第2の断面の位置とに基づいて、真の最大強度点の座標が検出される(S7)。真の最大強度点を中心とする面が、磁気共鳴診断装置のスライス面として決定される(S8)。又は真の最大強度点を中心とするラインが、磁気共鳴診断装置の撮像ラインとして決定される。決定されたスライス面又はラインが磁気共鳴診断装置により撮像され、2次元又は1次元の温度分布が再構成される。撮像法は、エコープレナー法が採用される。温度分布は、治療前に得た位相画像と治療後に得た位相画像とを差分し、その位相変化を化学シフトの温度依存症に基づいて温度に換算することにより得られる。また温度分布は、緩和時間T1の温度変化に伴う画像信号の強度変化をあらかじめ取得しておいて、これにより画像信号の変化を温度に換算することにより得られる。
このようなスライス面又はラインの決定により、最大強度点が中心となる2次元又は1次元の温度分布が得られる。なお、換算された温度からパーシャルボリューム効果による影響を排除するために、あらかじめ取得しておいた予想分布形状により補正することが好ましい。図31に示すように、温度分布の中のピーク温度がMR画像(組織画像)上に表示される。また、空間的な温度変化が色相変化又は等高線で表示される。また、強度分布が1次元であれば、図33に示すようにMR画像に重ねてグラフで表示してもよい。
超音波の最大強度点は、最大発熱点にほぼ一致する。したがって最大発熱点の状態を確実にモニタすることができる。なお、温度又は温度分布の形状等が予定と異なる場合、イメージング用プローブ231と患者213とのカップリングが不十分である等の不具合が予想され、この場合、電子計算機223は治療を強制的に中止し、警報を鳴らし、警告メッセージを表示する。
図34に1次元の温度分布を得るためのパルスシーケンスの一例を示す。x方向にスライス選択がかけられ、続いてy方向にスライス選択がかけられる。これによりz方向に沿った柱状の局所からの磁気共鳴信号が検出される。z方向の位置情報は、周波数エンコードによりなされる。これにより、z方向に関する1次元の温度分布が取得される。勿論、オブリーク撮像法を用いて任意の向きの1次元の温度分布を取得してもよい。
なお、最大強度点を探索するための超音波のスキャン面は、直交する2面としていたが、2面の位置関係は直交に限定されない。例えば、2つの平行な超音波のスキャン面でもよい。2つの平行な超音波のスキャン面それぞれの最大強度点を比較し、大きい方の点の付近にもう1面の強度分布を取得し、同様に比較して最大強度点が小さくなる位置まで繰り返し、小さくなったらその2つの間の強度分布を取得し、同様に比較するという流れを繰り返し、順次最大強度点の位置を探していく方法もある。
図35に、磁気共鳴診断装置による1次元の温度分布と治療用超音波の照射時間とに基づいて2次元の温度分布を求める処理の流れを示す。始めに、複数のスキャン面に関する複数の強度分布が取得される(S11)。複数の強度分布に基づいて最大強度点の3次元座標が検出される(S12)。次に、S12で検出された最大強度点を含むラインに関する1次元の温度分布が磁気共鳴診断装置により計測される(S15)。1次元の温度分布の中の最大加熱温度が検出される(S16)。計測された強度分布と治療用超音波の照射時間とに基づいて、現在までに投入された超音波エネルギーを求める。さらに強度分布の形状に基づいて、他の点の温度を求めることにより、2次元の温度分布を推定することができる(S17)。投入された超音波エネルギーと温度との比例関係は比較的信頼性が高い。加えて、MRIによる1ライン温度計測による最大加熱温度を任意時間毎に測定して、照射中の最大温度ポイントを温度分布にフィードバックすることにより、より信頼性を高めることができる。治療中に患者が動いた場合でも、以上のように強度分布形状、治療用超音波の照射時間、MRIによる1ライン温度計測とを併用することにより、温度分布状況が2次元且つリアルタイムに把握できるので、より正確な治療が可能となる。
なお、リアルタイムで得られた2次元の温度分布を治療用超音波の照射条件のコントロールに用いてもよい。例えば、図36に示すように、照射条件より予想される温度分布の変化と、実際測定された温度分布との比較を行い、両者の差がある閾値を越えたとき、または予想外の部位が過熱しているとき、照射を中止するか、警報をならすか、警報を表示する。あるいは、これをなくすように超音波照射強度を制御する。例えば、設定温度より測定温度が低い場合は照射強度を上げるようコントロールする。
このように、第9の実施の形態によれば、MRIを用いた超音波治療装置において、治療照射中に治療対象の温度を正確に計測でき、また高速に温度分布の取得が可能となる。
(第10の実施の形態)図37に、第10の実施の形態による超音波照射装置の構成を示す。図37において、図1、図6と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する。超音波診断部40には、MTI(Moving Target Indicatoin)演算部400が設けられている。MTI演算部400は、被測定物の移動による受信信号の位相差に基づいて血流等の移動体の移動情報の2次元分布を取得するために、直交検波回路、A/D変換器、MTIフィルタ、自己相関器、演算部から構成される。移動情報の2次元分布は、超音波診断部40内の表示部にカラーで表示される。MTI演算部400は、一般的によく利用されているものであるので、ここではその動作の詳細は省略する。例えば医用超音波機器ハンドブック 日本電子機械工業会編 コロナ社 P172〜P175等を参照されたい。
超音波診断部40からタイミング信号発生回路180に同期信号101(第1の同期信号101)が供給される。同期信号101は、所定のパルス幅のパルスが一定の周期で繰り返し発生されるパルストレインとして定義される。超音波診断部40は、この同期信号101の立上がりからある時間後にイメージング用プローブ16からイメージング用超音波が照射される。
タイミング信号発生回路180は、第1の同期信号101に基づいて、第2の同期信号102を生成する。第2の同期信号102は、所定のパルス幅のパルスが第1の同期信号101と同じ周期で繰り返し発生されるパルストレインとして定義される。ここで、第2の同期信号102の立ち上がりと同時に強度分布用超音波が照射される。したがって第2の同期信号102は、第1の同期信号101に同期しない。第2の同期信号102と第1の同期信号101との時間差は、dtに設定される。この時間差dtは、イメージング用超音波と強度分布用超音波とが同時に焦点に到達するようにシステムコントローラ9により調整される。時間差dtの計算の基準は、第1、第2の実施の形態で説明した通りである。
第2の同期信号102は、切り替えスイッチ480を介して、タイミング信号発生回路180から移相部470に供給される。移相部470は、第2の同期信号102を移相して、第3の同期信号103を作成する。
図38に、移相部470の構成を示す。図39に第1の同期信号101と第3の同期信号103との時間的な関係を示す。移相部470は、制御回路203を制御中枢として、プログラマブルN進カウンタ回路201,202、入力バッファ回路204、カウンタ回路205、基準クロック発生回路206、基準クロック特性調整回路207、出力バッファ回路208とから構成される。第3の同期信号103は、所定のパルス幅のパルスが繰り返し発生されるパルストレインとして定義される。基準クロック発生回路206は、T2 の周期でクロックを発生する。T2 は、同期信号102より十分早い周期であり、オペレータが任意に設定できる。T2 は例えば同期信号102の1/100に設定される。プログラマブルN進カウンタ回路201は、基準クロック発生回路206からのクロックのカウント数がNに達する毎にパルスを発生する。このパルスは、出力バッファ回路208を介して第3の同期信号103として出力される。なお、プログラマブルN進カウンタ回路201に設定されるNは同期信号102が入力されるだびに順次増加していき、制御回路203からのリセット信号により、Nは1にリセットされる。
制御回路203が出力するリセット信号は、オペレータにより設定された周期で繰り返し発生される。オペレータは同期信号102のN2 回入力毎にリセット信号が出力されるように設定し、このN2 はプログラマブルN進カウンタ回路202にセットされる。そして同期信号102がN2 回入力されると、プログラマブルN進カウンタ回路202はリセットのための信号を制御回路203に出力する。このN2 の設定は随時変更可能である。
波形発生部460は、第3の同期信号103にしたがって、治療用超音波発生源2に駆動パルスを繰り返し供給し、強度分布用超音波パルスを繰り返し発生させる。
イメージング用超音波の送信は、第1の同期信号101の立ち上がりより一定時間後に行われる。
第2の同期信号102は、タイミング信号発生回路180により、第1の同期信号101と同じ一定の周期で発生される。第2の同期信号102は、タイミング信号発生回路180により、第1の同期信号101に対して、dtの時間だけずれている。
第3の同期信号103は、移相部470により第2の同期信号102に基づいて発生される。第3の同期信号103は、第2の同期信号102に対して、T2以上、N2 ・T2 未満の範囲の遅延時間を与えられる。この遅延時間は、第2の同期信号102のパルス毎にT2 ずつインクリメントされ、第1の同期信号101の周期に対応する最大時間に達すると、次にT2 に戻る。遅延時間の変化は、このようなサイクルで繰り返される。
強度分布用超音波パルスは、第3の同期信号103にしたがって、繰り返し発生される。遅延時間が0のとき、強度分布用超音波パルスの焦点からのエコーは、イメージング用超音波の焦点からのエコーと同時に、イメージング用プローブ16で受信される。上記遅延時間が0でないとき、治療用超音波パルスの焦点からのエコーは、イメージング用超音波の焦点からのエコーより上記遅延時間だけ早く、イメージング用プローブ16で受信される。遅延時間は、治療用超音波パルスの発生毎にT2 ずつ増加される。
これにより、強度分布用超音波パルスのエコーに対応する受信信号の位相は、強度分布用超音波パルスの発生毎に変化する。
強度分布用超音波パルスのエコー成分は位相差をもつので、MTIフィルタを通過し、MTI演算部400による移動情報の2次元分布上で強度分布として画像化される。このようにMTI演算部400により、例えば血流画像と共に強度分布を画像化することができる。
なお、切り替えスイッチ480の接続切り替えによっては、第2の同期信号102を移相部470をパスして波形発生部460に供給し、通常のBモード処理によって強度分布を得ることも可能である。移相部470は、図38の構成には限定されない。また、上述では、遅延時間は単位時間T2 で規則的に変化するように説明したが、遅延時間の変化量はランダムにしてもよく、これは移相回路470の代わりにジッター回路を設けて、第2の同期信号102のパルス周期を不規則にすることにより実現される。また上述では、位相差を強度分布用超音波パルスの発生タイミングの調整により獲得したが、この位相差を受信信号に対して与えるようにしてもよい。また、第1の同期信号を基準として第3の同期信号を調整したが、第3の同期信号を一定の周期に固定し、第3の同期信号を基準として第1の同期信号の周期を変動するようにしてもよい。
(第11の実施の形態)図40に、第11の実施の形態による超音波照射装置の構成を示す。図40R>0において、図1、図6、図37と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する。
超音波診断部40は、送受信回路402、ディジタルスキャンコンバータ412、CRT413、Bモード処理系と、強度分布処理系とを有する。Bモード処理系と強度分布処理系とは、送受信回路402、ディジタルスキャンコンバータ412、CRT413を共有する。
Bモード処理系は、送受信回路402からの受信信号に基づいてBモード画像を生成するために、検波回路409、ゲイン調整部410、アナログディジタルコンバータ411から構成される。検波回路409は、送受信回路402からの受信信号を検波する。ゲイン調整部410は、検波回路409からの検波信号を増幅する。アナログディジタルコンバータ411は、増幅された検波信号をディジタル信号に変換する。
強度分布処理系は、送受信回路402からの受信信号に基づいて強度分布を生成するために、直交位相検波回路414、ゲイン調整部407、アナログディジタルコンバータ408から構成される。
直交位相検波回路414は、受信信号から、強度分布用超音波に関して最も高エネルギー帯域内の成分(高エネルギー帯域成分)を抽出するために、混合回路405とローパスフィルタ406とから構成される。高エネルギー帯域成分は、基本周波数f1 を中心とした帯域(基本波帯域)内の成分(基本波成分)、または基本周波数f1 の整数倍の高周波数を中心とした帯域(高調波帯域)の成分(高調波成分)である。混合回路405は、送受信回路402からの受信信号に、信号発生部502から供給される参照周波数の参照信号を掛け合わせる。参照周波数は、治療用超音波の基本周波数f1 または、その整数倍(n・f1 )である。
なお、直交検波回路414は、バンドパスフィルタに代替え可能である。
なお、イメージング用プローブ16で受信した受信信号を計算部44にてスペクトル解析し、このスペクトルから最も高いエネルギー密度の周波数成分を抽出し、その周波数またはその近傍の周波数を上記参照周波数として求めてもよい。この場合、システムコントローラ9は、求めた参照周波数で参照信号が信号発生部502から発生されるように、信号発生部502を制御する。このようにすれば、受信信号のうち最も高いエネルギー密度の周波数を検出可能となる。この最も高いエネルギー密度の周波数の検出は、治療中、受信信号を受信する毎に繰り返してもよいし、一定の周期で繰り返してもよいし、治療前に一度行い以後固定的に用いてもよいし、またオペレータが調整するようにしてもよい。
ゲイン調整部407は、直交位相検波回路414からの検波信号を増幅する。アナログディジタルコンバータ408は、増幅された検波信号をディジタル信号に変換する。
Bモード処理系により生成されたBモード画像と、強度分布処理系により生成された強度分布とは、ディジタルスキャンコンバータ(DSC)412により、1フレームに合成され、CRT413に表示される。
こうして得られたBモード画像データと強度分布データとは、ディジタルスキャンコンバータ412により、1フレームに合成され、CRT413に表示される。
このように受信信号から抽出した高エネルギー帯域成分から強度分布が生成され、焦点等の高強度領域が強調される。よって、焦点と被治療体との位置関係の確認、健常部への不要な高強度の超音波の照射の確認を高精度で実施することが可能となり、安全かつ確実な治療が実現される。
また、受信信号と、受信信号から抽出した高エネルギー帯域成分とを別々に処理するので、各々のゲインを個別に調整することができる。
(第12の実施の形態)図42に第12の実施の形態による超音波治療装置の構成を示す。図42において、図1、図6、図37、図40と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する。超音波診断部40は、アナログ部、FFT部、MTI演算部、表示部からなる一般的な超音波診断装置の構成を有している。アナログ部は、ミキサ405と、ローパスフィルタ406とからなる直交位相検波回路を有する。
切り替えスイッチ601は、システムコントローラ9の制御を受けて、発信器と信号発生手段502とのいずれか一方をミキサ405に接続する。発信器は、第1の参照信号を発生する。信号発生手段502は、第2の参照信号を発生する。第1の参照信号の周波数は、イメージング用超音波の周波数帯域内に設定される。第2の参照信号の周波数は、強度分布用超音波パルスの周波数帯域内に設定される。
第10の実施の形態と同様に、MTIフィルタの出力に基づいて強度分布が生成できるように、強度分布用超音波パルスの発生タイミングを決定する同期信号102にジッタを与えるためのジッタ付加部608が、タイミング信号発生回路180と波形発生部460との間に設けられている。なお、ジッタ付加部608を設ける代わりに、強度分布イメージング時にはMTI演算部を切り離すようにしてもよい。その場合は、ラスタ(超音波断層画像を構成する1ライン)当たりの送信回数を1回にすることができるので、フレームレートが向上しリアルタイム性が上がる、超音波による生体内温度上昇が抑制される等の効果がある。
2次元カラードップラーイメージング時には、発信器から出力される第1の参照信号が切り替えスイッチ601を介してミキサ405に供給され、強度分布イメージング時には信号発生手段502から出力される第2の参照信号が切り替えスイッチ601を介してミキサ405に供給される。
2次元カラードップラーイメージング時には、イメージング用超音波のエコーにおける高エネルギー密度の周波数成分に基づいてイメージングが行われ、強度分布イメージング時には、強度分布用超音波のエコーにおける高エネルギー密度の周波数成分に基づいてイメージングが行われる。
したがって、2次元カラードップラーイメージング及び強度分布イメージングを高精度で行い得る。
図43に強度分布イメージングに至る処理手順を示す。まず、超音波診断部40に装着されているイメージング用プローブ16の名称が、オペレータからコンソール10を介してシステムコントローラ9に入力される(S21)。メモリ45には、様々な種類のイメージング用プローブ16の名称それぞれに対応する周波数特性が記憶されている。装着されたイメージング用プローブ16の名称に対応する周波数特性が、メモリ45からシステムコントローラ9に読み出される(S22)。S21、S22の処理は、超音波診断部40に装着されているイメージング用プローブ16の周波数特性が、オペレータからコンソール10を介してシステムコントローラ9に直接的に入力される処理(S23)に代用可能である。
治療用超音波発生源2の周波数特性、具体的には治療用超音波発生源2に固有の共振周波数が、オペレータからコンソール10を介してシステムコントローラ9に入力される(S24)。治療用超音波発生源2の駆動周波数が、イメージング用プローブ16の周波数特性と、治療用超音波発生源2の共振周波数とに基づいてシステムコントローラ9により計算される(S25)。図44に示すように、駆動周波数fdrive は、治療用超音波発生源2の共振周波数、その帯域内又は治療用超音波発生源2の共振周波数の整数倍の周波数であって、且つ該周波数又はその高調波の周波数がイメージング用プローブ16の高感度帯域の範囲内である。
この駆動周波数fdrive に応じて超音波診断部40の特性が調整される(S26)。具体的には、超音波診断部40内におけるフィルタ特性は駆動周波数fdrive に応じてシステムコントローラ9によって調整される。次に、強度分布イメージングが開始される(S27)。
強度分布イメージング時に、治療用超音波発生源2を上記駆動周波数fdriveの駆動信号で駆動することにより、治療用超音波発生源2による送信効率と、イメージング用プローブ16による受信効率とに応じた総合的な効率が向上する。図45は、参照周波数の設定手順を示す。治療用超音波発生源2から強度分布イメージング用超音波パルスが照射され(S31)、そのエコーがイメージング用プローブ16で受信される(S32)。受信信号は、計算部440により、高速フーリエ変換等の処理を受ける。これにより周波数スペクトルが得られる(S33)。この周波数スペクトルの中で、最もエネルギー密度が高い周波数が計算部440により選択される(S34)。この周波数から少しずれた周波数に信号発生部502の発振周波数がロックされる(S35)。ロックされた周波数で参照信号が、信号発生部502からミキサ405に供給される(S36)。
なお、治療用超音波発生源とイメージング用プローブとが別々に設けられているが、イメージング用プローブから治療用超音波及び強度分布用超音波パルスを発生してもよい。この場合は強度分布用超音波パルス及びイメージング用超音波を重畳して発生すべく、ピエゾ素子の駆動電力は強度分布用の電気信号とイメージング用の電気信号とが重畳されたものとなる。
(第13の実施の形態)図46に、第13の実施の形態による超音波治療装置の構成を示す。図46R>6において、図1、図6、図37と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する。超音波診断部40は、イメージング用プローブ16を介して超音波を送受信するためのRF回路51と、イメージング用プローブ16で受信された受信信号に基づいて患者内のBモード画像を再構成するための再構成部52と、イメージング用プローブ16で受信された受信信号に基づいて治療用超音波の強度分布を再構成する超音波状況画像化部53と、Bモード画像と強度分布を表示する表示部54とを有する。
RF回路51は、予め決定されたタイミングでイメージング用プローブ16に駆動信号を供給し、イメージング用プローブ16で受信した受信信号を増幅する。また、RF回路51は、強度分布用の信号成分を受信信号から抽出して超音波分布状況画像化部53に出力する。この抽出は、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、又は直交検波回路によって実現される。
表示部54には、治療影響見積部61と、分布補正部62とが接続される。キャビテーションの影響、熱変性による組織の音響的特性の変化等を原因として、焦点8に対して、実際に熱変性及び壊死が起こる治療領域がアプリケータ1側にシフトする。また、治療領域の大きさは音響エネルギーの投入期間に依存し、焦点8の大きさとは一致しない。
治療影響見積部61は、治療領域の大きさ及び位置を決定する。治療影響見積部61は、治療領域のマーカを、決定された大きさで、決定された位置に表示するために必要な処理を表示部54に対して行う。
分布補正部62は、Bモード画像に対する強度分布の空間的なズレを補正するために必要とされる処理を表示部54に対して実施する。強度分布の空間的なズレを補正するための補正量は、スキャン面の位置毎に異なる。この補正量は、次のように事前に計算され、分布補正部62の内部メモリに記憶される。治療用超音波発生源2を微細な音源の集合体と見做し、各音源から放射された超音波を重ね合わせることにより、均質媒体中の波の様子が位置毎に求められる。この波の様子に基づいて補正量が計算される。図46では、表示部54から強度分布の位置情報を受けているが、システムコントローラ9から強度分布の位置情報を受け取るようにしてもよい。
次に、本実施の形態の動作を説明する。まず、イメージング用プローブ16を介して被治療体7を含む断面が超音波でスキャンされ、被治療体7がBモード画像上に描出される。このとき、あらかじめCTやMRI等を用いて被治療体7の形状を計測し、治療計画を策定してその内容に基づいた治療を行うことができる。その場合、治療計画を再現するCRTを別個に用意して治療計画をそこに提示し、オペレータがその指示に基づいて装置を操作するか、治療計画内容をあらかじめメモリ45等に記憶しておき、システムコントローラ9がその内容を順次呼び出して治療を実行するようにしても良い。また、治療計画用装置と実際の治療室をオンラインで接続し、治療計画に則った治療を実行可能にすると共に、治療中の不測の事態に対応した治療計画の修正にも迅速に対応可能にすることも可能である。
イメージング用プローブ16の位置や角度が変更され、スキャン面が移動される。複数のBモード画像、又は複数のBモード画像から構築された3次元画像により、被治療体7の3次元的な形状、及び超音波伝播経路中の重要臓器や骨等の存在が確認される。全てのBモード画像データはメモリ45に保管される。
次に、受信信号に含まれる被治療体7からの治療用超音波のエコー成分の振幅と所定帯域のエネルギーとの少なくとも一方に基づいて、治療用超音波の照射条件がシステムコントローラ9により調整される。照射条件には、照射強度、つまり治療用超音波発生源2へ投入される駆動信号の振幅(ピーク電圧)と、照射時間、つまり駆動信号の継続時間とが含まれる。被治療体7からのエコー成分は受信信号から計算部440により抽出される。このエコー成分は、受信信号に対して、被治療体7の深さに応じたタイミングで時間ゲートをかけることにより抽出される。この目的のためのみなら、超音波診断部40ではBモードでなくても、Mモードであってもよい。
被治療体7からのエコー成分の強度、被治療体7の超音波吸収率、被治療体7までの超音波の減衰率、伝播経路中の重要臓器や骨等の存在等に基づいて、照射強度及び照射時間がシステムコントローラ9により決定される。
被治療体7からのエコー成分の強度、被治療体7の超音波吸収率、熱伝導率、被治療体7までの超音波の減衰率、伝播経路中の重要臓器や骨等の存在、照射強度、照射時間の複数のパラメータに基づいて、治療領域の大きさが治療影響見積部61により計算される。この計算は、上記複数のパラメータの様々な組み合わせそれぞれに対応する治療領域の大きさを表すデータが、メモリ45に記憶され、対応する治療領域の大きさがシステムコントローラ9を介して読み出されることに代用されてもよい。
また被治療体7からのエコー成分の強度、被治療体7の超音波吸収率、熱伝導率、被治療体7までの超音波の減衰率、伝播経路中の重要臓器や骨等の存在、照射強度、照射時間の複数のパラメータに基づいて、焦点領域に対して治療領域がアプリケータ1側にシフトするズレ量が治療影響見積部61により計算される。この計算は、上記複数のパラメータの様々な組み合わせそれぞれに対応するズレ量を表すデータが、メモリ45に記憶され、対応するズレ量データがシステムコントローラ9を介して治療影響見積部61に読み出されることに代用されてもよい。
治療影響見積部61は、治療領域のマーカを、決定された大きさで、決定された位置に表示するために必要な処理を表示部54に対して行う。図47に表示部54内のCRTの表示画面の一例を示す。
治療用超音波の焦点8をそのまま表示するよりも、強度分布に基づいて治療領域を推定し、表示する確実な治療達成の補助になることは明白である。一例ではあるが、開口径110[mm]、内径42[mm]、曲率半径100[mm]、共振周波数1.65MHzのピエゾ素子1個から成る治療用超音波源を用い、該超音波源への電気的な投入エネルギを400[W]、10[s]とすると、焦点8に対し約2[mm]治療領域が超音波源側にシフトすることが実験により明らかになっている。よって、このようなパラメータの場合は、治療領域を示すマーカを強度分布イメージングで得られた焦点8に対してアプリケータ1側に2[mm]シフトして表示する。
なお、マーカーは、特定の色で塗りつぶしても良いし、基のBモード画像が消えない程度の薄い色もしくは網掛けなどにより表示しても良い。あるいは、得られるであろう治療領域の輪郭のみの表示にしたり、強度分布に合わせて等高線表示にしても良い。もっと簡単な幾何学的な形状、例えば十字や長方形にして、その図形の大きさを治療予定領域の大きさに対応させるようにしてもよい。また、この時、併せて実際の治療用超音波焦点も同時に表示したり、超音波照射予定強度や照射予定時間を表示してもよい。さらに、強度分布イメージングで得られる反射強度のうち焦点8からのピーク強度をリアルタイムに表示(数値表示、カラーバー表示、Aモード表示など)すれば、カップリング状態、アプリケータの傾き角、アプローチ方向を操作者が調整しながら、最もピーク強度が大きくなる状態(焦点8へのエネルギ投入効率が最も高い状態=最も効率的な超音波照射条件)を容易に見つけだすことが可能となる。
次に治療用超音波の焦点8を少しずつシフトさせながら、焦点8よりも大きい被治療体7をくまなく治療できるか否かが確認される。焦点8の移動は、機械的、電子的もしくは両者の組み合わせにより実現される。また、シフトのピッチはオペレータがコンソール10を介して指定するか、決定された照射条件に基づいて計算部440により計算される。また、シフトの順序は、順次隣の領域に移動しても良いし、キャビテーションの影響を抑えるために対角線上に移動したり、最初に最も治療用超音波発生源2から遠方から手前に向かって順番にシフトしてもよい。
以上いずれの場合も、最終的には個々の治療用超音波の焦点8に対応する治療領域が互いに一部重なるように隣接する焦点ポイントを設定することにより、全腫瘍細胞を確実に壊死させることが可能になる。但し、他の治療法と組み合わせて本強力超音波治療を行う場合はこの限りではない。例えば、腫瘍の辺縁を本法で焼灼し、中心部は他の方法で治療を行う手法などが考えられている。
また、全投入エネルギー、熱の拡散、及び血流による冷却効果などに基づいて、治療対象領域内の温度上昇量を計算し、焦点ポイントをある程度の間隔をあけて設定することも可能である。
いずれの場合でも、実際の治療を行う前に、治療の手順に沿って強度分布イメージングを被治療体7内で実行し、予想される個々の治療領域を集合表示すれば、最終的な治療領域を簡単に確認できる。図47は、その結果を網掛け表示したものである。これにより、未治療領域の発生がないかどうかの判断が容易になる。また、アプリケータ1と生体とのカップリング状態、治療用超音波の伝播経路中における強反射体や強吸収体の障害物の存在の有無、及び焦点8に十分な超音波エネルギが投入されるか否かを各焦点位置の強度分布イメージングにより予想できるので、治療の安全性且つ確実性が向上する。このような治療領域の表示は、図47に示すように、断面が異なる複数の画像それぞれに対して行われる。これにより、オペレータは、予想される治療領域を立体的に理解できる。これら画像を順次切り替えて表示したり、3次元的画像に構築して表示するようにしても良い。
以上の結果、治療状況として不適切であると認められる場合は、その旨を表示するか警告音によりオペレータに報知したり、さらに進んで装置が治療モードに移行しないようにロックするようにもできる。
なお、治療前に被治療体7内をくまなく焦点スキャンして強度分布イメージングを各スキャン毎に行い、得られた照射パラメータ等のデータを記録し、実際の治療の際に読み出して治療を実行するとしたが、例えば簡易法として、被治療体7の中心に焦点8の中心を一致させた場合の強度分布イメージングによるデータで代表させて照射パラメータを決定しても良い。また、実際の治療中に、すなわち個々の焦点位置における治療用超音波の照射直前に強度分布イメージングを行い、それらのデータから治療用超音波の照射条件を決定しても良い。
次に、分布補正部62による強度分布イメージングで描出された強度分布の空間的な歪みの補正について説明する。治療用超音波発生源2とイメージング用プローブ16の両方から超音波パルスを照射し、被検体内からのエコーをイメージング用プローブ16にて受信することにより、Bモード画像と治療用超音波の強度分布が同時に取得される。両超音波パルスは、焦点8の中心に両パルスが同時に到達するタイミングで発生される。
図48に模式的に示すように、イメージング用プローブ16から反射点Pを経由してイメージング用プローブ16に戻るイメージング用超音波の伝播距離(A)と、治療用超音波発生源2から反射点Pを経由してイメージング用プローブ16に至る治療用用超音波の伝播距離(B)との差は、反射点Pが焦点8から離れるほど大きくなる。超音波診断では、受信信号の時間軸に深さ方向の軸を対応させることにより、深さが認識されるので、強度分布が歪んでくる。例えば、図48上で点Pの位置は、強度分布上では、真の位置よりも手前の点P’に認識される。このズレ量は、音速と伝播経路とに基づいてシステムコントローラ9又は計算部440により計算される。
このズレ量に応じた補正量だけ強度分布の位置をずらしてBモード画像に合成する。なお、上記のズレ量は空間位置の関数になっているので、この関数に位置と音速を代入すれば直ちに歪み量を算出するようにすることもできる。また、通常の超音波診断装置のように、生体内における音速を一定(例えば1530[m/s])として、空間的位置に対応した補正量をメモリ45等に記録しておき、位置毎に順次メモリ内容を読み出して補正すれば、補正のスピードアップが期待できる。また、2種の画像を合成する際に補正を行う方法の他に、時間ゲートで信号を分割し、深さ方向の位置データを取得する際にあらかじめズレ量を見込んで位置データを取得する方法がある。いずれにしても、焦点中心からのエコーを取得する場合をのぞき、被検体内のBモード画像を再構成するエコーと、強度分布イメージング像を再構成するエコーとでは、同じ時間ゲート内で得られたエコーであっても異なる深さのデータを表していることになる。
(第14の実施の形態)図49に、第43の実施の形態による超音波治療装置の構成を示す。図49R>9において、図1、図6、図37、図46と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する。本実施の形態では、強度分布用超音波パルスの発生タイミングを調整することにより、強度分布の歪みを補正する。分布補正部62はタイミング信号発生回路180に接続される。
アプリケータ1は、中心孔を有する凹面上に配置された治療用超音波発生源2及びイメージング用プローブ16より構成されている。このような形状であれば、焦点領域は、“X”を中心線のまわりに回転させた3次元形状で形成される。この場合、超音波強度が低い箇所における空間的歪みを犠牲にしても、超音波強度が大きい箇所に注目して位置の補正を行えば実用上問題のない分布形状が得られる。すなわち、“X”字上の各点に注目して歪みを補正する。これを実現するために、図50(a)、図50(b)に示すように、補正量を距離の次元から時間の次元に変換し、治療用超音波発生源2から照射する強度分布用超音波パルスの照射タイミングをΔTだけ変化させる。さらに詳細にいえば、スキャンのラスタ毎に“X”字上の最高強度点に注目し、そこの位置における位置ずれ量を音速で除する。この除算結果ΔTだけ、強度分布超音波パルスの照射タイミングが焦点位置に対するタイミングからずらされる。その際、ある1本のラスタに対し“X”上の点が複数個ある場合は、最も焦点に近い点を基準にするようにする。
このようにして、本法を利用し治療直前のシミュレーション(焦点シフトと強度分布イメージング)が実行された後、実際に温熱治療が開始される。治療の際には1秒以下で組織を確実に熱変性壊死に導くような高エネルギ超音波バーストを治療用超音波として照射する。その際、前述の治療のシミュレーションに則って治療を実行することにより、安全且つ確実な治療が実現される。
すなわち、焦点シフトのピッチ、照射強度、照射時間等の各パラメータを前述の治療のシミュレーションの通りとする。治療モードでの超音波照射のシーケンスは、焦点シフト、強度分布イメージング、治療用超音波照射、強度分布イメージング、以下順次繰り返し、とする。この他にも治療用超音波の照射後のみに強度分布イメージングを行う、任意に設定した治療用超音波の照射回数毎に強度分布イメージングを行う等、強度分布イメージングと治療用超音波との照射の組み合わせパターンは多種多様であり、状況に応じて操作者が設定できるようになっている。ここでは、治療用超音波の照射の前後に強度分布イメージングを行う場合を説明する。
まず焦点シフトにより、目的とする位置に治療領域を合わせる。次に、シミュレーションで決定した照射条件を参考にして強度分布イメージングを行う。焦点に十分なエネルギが投入されていること、かつ治療用超音波の伝播経路中に超音波の強反射体や重要臓器が存在しないことを再度確認した後、治療用超音波の照射に移る。この際は、特願平6−248480公報で記載されている如くにキャビテーション抑圧照射法で治療用超音波を照射すれば、確実な治療結果(熱変性領域)が得られる。治療用超音波照射後、再び強度分布イメージングを行えば、確実に熱変性領域が得られているか否かを確認できる。
すなわち、熱変性領域は周囲の未変性細胞領域に対して音響的な特性も大きく変化しているため、熱変性領域と未変性細胞領域との境界面で大きなエコーが得られ、これを受信し解析することで治療済み領域を検出できる。このための手法としては、同一の位置におけるエコーを治療の前後で比較し、大きな違いがあった箇所が治療済み領域ということになる。もっと大雑把に、超音波のAモードを用いて治療が確実に行われたか否かを確認してもよい。また、Bモード画像から治療前後の輝度情報を比較して治療済み領域を検出してもよい。
以上のように、照射直前に超音波伝播経路中の安全性及び焦点8へのエネルギ投入の状況が一点毎に再確認でき、また、治療用超音波の照射後に治療が確実に達成されたか否かを強度分布イメージングを用いて確認可能であるので、安全性及び治療の確実性を向上できる。また、この作業は個々の焦点位置毎に行われる強度分布イメージングで得られたエコーデータを解析するのみであるため短時間で実行できる。次に、あらかじめ設定された焦点スキャン順序に基づいて次の治療領域へ焦点8を移動し、上述と同様な操作を繰り返して次の治療を行う。治療済みの領域を記憶し表示の際に色を変えて表示する等視覚的に直ちに判別可能にしておけば、被治療体7が全て治療完了したか否かが一目で判るようになる。
なお、治療の際に患者の動き等が大きな問題になることがある。治療が途中のときに患者が動いてしまった場合、被治療体7、治療済み領域、及び焦点8との位置関係が不明になり、治療計画通りに治療が進まなくなる恐れがある。その場合に、治療計画を変更して治療を初めから再開するか、治療計画は変更するものの残りの部位に対する治療計画を新たに立て直して治療を再開するか、元の状態に復帰するかのいずれかである。一番目の手法は最も簡便であるが、治療時間の長時間化という点が短所である。2または3番目の手法は治療済み領域の特定が必要である。その方法としては、前述のように、治療済み領域の境界面からの反射超音波を検出することが考えられ、これの実現に強度分布イメージングを利用できる。その際、基準点として体表などを利用すれば、患者が動いてしまったとしても容易に治療済み部位を特定できる。
具体的には、治療用超音波照射直後の強度分布イメージングにおいて、患者6の体表または水袋4からのエコーが得られるタイミングと治療済み領域からのエコーが得られるタイミングを計測しておく。体表または水袋4の手前は伝播媒質5であるので、体表又は水袋4の検出は極めて容易である。また、治療直後においては治療済み領域の境界面からのエコーは治療直前のそれと比較して極めて変化量が大きく、大きなエコーが得られるため判別容易である。これらより、患者6が移動してしまっても体表または水袋4と治療済み領域の境界面との時間関係により、再度治療済み領域を検出することが容易となる。なお、この治療済み領域の特定に関してもBモードの輝度情報や、それ以前のデータ(RFデータを含む)を利用してもよい。また、患者が動いたか否かは、動きの検出器を付加すればよいが、そのための装置としては、光学的な監視カメラ、患者に巻き付けた弾性抵抗体の抵抗量の変化計測法、光ファイバによる光電脈波法などを用いることができる。
次に、表示する方法について、図51を参照して説明する。図51は表示画面の一例を示す。特願平6−246843号公報に記載されているが如く、強力な治療用超音波による治療では治療用超音波発生源2に対してできるだけ遠方から、すなわち治療容積の底面に相当する面から順に焼灼を行っていくことが望ましい。この理由は、熱変性により組織の音響的な特性が変化し、その境界面で超音波の反射及び熱変性領域によるエネルギーの吸収が起こり、熱変性領域よりも後方に存在する部位には超音波エネルギーが届きにくいためである。このような照射法の場合、2次元のBモード断層像に対して、治療を実行する面が交差しているため、治療イメージとしてとらえにくいとの問題点があった。
この問題点を解決するために、実際の治療実行面に対応するBモード画像を、断面の異なる複数のBモード画像から再構成して表示する。イメージング用プローブ16と、表示画像との位置関係が表示される。治療前のシュミレーションで焦点8をシフトしながら取得したBモード画像をもとにして再構成したものである。
図52に複数のスキャン面を示す。スキャン面それぞれに対してBモード画像データが取得されている。こられのデータは2次元の画像の集合体であり、1枚の画像は一定の深さに関する1次元の画像情報を有する。この1次元の画像情報を複数枚の画像データから取り出して再構成すれば、注目している深さに対応するBモード画像を再構成できる(Cモード)。このCモード像をもとにして治療を行う際は、焦点8と治療予定領域を示すマーカとが、該画像上に表示される。この場合、焦点マークは円、丸、十字等で表示される。
なお、ここでは、セクタ型のイメージング用プローブ16を用いているが、コンベックス型のプローブを用いてもよい。さらにプローブ16に近い位置であるほど画像化される領域が狭くなってしまうので、深さに依存しない等領域の超音波像を得るために、リニア型(機械走査型、電子走査型)のイメージング用プローブを用いるのが好ましい。あるいは、3次元超音波画像を再構成し、擬似的な半透明画像を再構成し、1回の照射で治療される面または容積に一致した面または容積に淡い色をつけたり、線で囲ったりすることにより、注目している面を強調するようにしても良い。
次に、一例として、Bモード画像を参照して治療領域を指定する場合について述べる。予定されている被治療体7の領域を全て含むように複数枚のBモード画像を取得する。その際、操作者はコンソール10、または図示しないライトペン、マウス、ジョイスティック及びトラックボールなどを用いて治療予定領域をそれぞれのBモード画像上に指定する。この指定された治療予定領域に基づいて、治療用超音波を照射することにより、照射領域の境界面の細部にまで確実な治療が達成できる。ここで、上記複数のBモード画像から、3次元画像が構築されてもよい。また、ここでは超音波画像を参照して治療領域を指定する方法について記述したが、X線CTやMRI等を用いてもよい。
次に、実際の焦点位置に対して正確に焦点を描出する方法について述べる。前述したように、強度分布イメージング時には、治療用超音波源から照射された強度分布用超音波パルスのピーク強度を示す波面がイメージング用プローブ16を通過したその瞬間に、イメージング用プローブ16からイメージング用超音波パルスが放射されるように、イメージング用超音波パルスは強度分布用超音波パルスに対して同期がとられている。この同期の正確さによって、強度分布イメージングで描出される焦点位置の正確さが決定される。ここでは、イメージング用プローブ16上のピエゾ素子が整列している面の延長面上に、強度分布用超音波パルスをピックアップするための超音波探触子を付加するか、等価的に同一面上と見做せるように計算で補正するか、あるいはイメージング用プローブ16をピックアップ用探触子として使用する。このようにして、強度分布イメージング用超音波パルスを実際に取得してフィードバック制御を行うことにより、治療用超音波源からの強度分布イメージング用超音波パルスの照射タイミングを決定すれば、極めて高精度な焦点位置の描出が可能となる。
次に、超音波強度分布イメージングで受信したエコー強度を定量化する手法について述べる。患者6内の深部に伝播するほど超音波は減衰していくが、同様に生体深部からのエコーほど、減衰する。よって、イメージング用プローブ16で受信されたエコー強度に体表からの深さに応じて重み付けし強度分布を表示することが好ましい。例えば、超音波Bモード画像を再構築する際には、深さに応じて増幅率を増加させることが一般的に行われている。
また、患者情報をCRT上に表示することも可能である。その場合、本法によるこれまでの治療部位、治療領域の位置情報、サイズ、照射超音波パワー及び時間の履歴、等を表示すると便利である。また、新たに治療を行うと、これらの情報が更新されるようにしてもよい。なお、これらの情報はオンラインもしくは記録媒体を介して治療計画装置とも接続可能で、治療計画の策定を補助する。
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
1…アプリケータ、2…治療用超音波発生源、3…患者、4…カップリング液、5…水袋、6…体表、7…被治療体、8…焦点、9…システムコントローラ、10…コンソール、11…連続は発生回路、12…パルス発生回路、13…切替スイッチ、14…RFアンプ、15…マッチング回路、16…イメージング用超音波プローブ、17…送信回路、18…同期回路、19…プリアンプ、20…受信遅延回路、21…エコーフィルタ、22…Bモード処理ユニット、27…パルスドップラーユニット、28…ディジタルスキャンコンババータ、29…CRT。