JP3991691B2 - 固定化担体及び固定化担体を用いた環境浄化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、廃水中や大気中の無機および/又は有機化合物などを生物学的に効率良く処理するための固定化担体及び固定化担体を用いた環境浄化法に関する。
【0002】
【従来技術】
廃水や下水を微生物で処理する生物学的処理は、 比較的低コストであることから広く採用されている。 しかし、 微生物の種類によっては、 増殖速度が遅いものや、 被毒し易いもの、 又はその環境中において増殖し難いものがあり、 必ずしも効率的な方法とはいえない場合がある。そこで、 微生物が繁殖しやすい環境を積極的に形成するために、活性汚泥や特定の微生物を予め内部に包括固定した固定化微生物担体を用いて生物処理する処理方法がすでに実用化されている。
【0003】
微生物を内部に担持(保持)する固定化材料としてはゲル材料が通常用いられ、 自然環境に村して無害であること、 微生物によって変質又は分解されないこと、 機械的強度が高いこと、 微生物を多量に担持できること等が要求される。これまでに実用化されているゲル材料としては、 特願昭60−44131号公報に記載のポリエチレングリコール系のポリマ、 ポリビニルアルコール系の樹脂等がある。一方、ゲル材料に包括固定化する微生物としては活性汚泥や純粋培養した微生物が用いられている。
【0004】
近年、 微生物として、枯草菌群細菌であるBacillusや放線菌が注目されている。Bacillusも放線菌も堆肥の発酵過程で増殖する菌で、油分の分解、高濃度BOD成分の分解、悪臭成分の分解除去、生物処理で発生する余剰汚泥の凝集性の向上、COD成分の分解等のいわゆる環境汚染物質の浄化に優れており、純粋菌利用技術が検討されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、Bacillusや放線菌を用いて環境汚染物質を生物学的処理するためには、Bacillusや放線菌を優占させBacillusや放線菌を高濃度に担持した固定化微生物担体を製造しなくてはならないが、従来は、図11に示すように、純粋培養したBacillusや放線菌をゲル材料に固定化する必要があった。
【0006】
しかしながら、純粋培養には培養タンクや大量の培地が必要であり、 更には培養時間も長くかかり当然人件費もかさむことから製造コストがかかりすぎるという欠点がある。
【0007】
また、放線菌の場合には、単に菌数濃度を上げただけでは環境汚染物質、特にアオコを効率的に分解除去することができないという欠点がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、微生物の純粋培養を行うことなく特定の微生物、特に放線菌を固定化材料に高濃度に担持することができる固定化担体及び固定化担体を用いた環境浄化方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、放線菌によって環境汚染物質、特にアオコを効率的に分解除去できる固定化担体を得ることを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、放線菌を含む湖沼や河川や海の底泥、又は放線菌を含む地表の土壌を、固定化材料に包括固定化した担体であって、該担体には、担体1mL当たり、前記底泥又は前記土壌が2mg以上固定化されると共に放線菌の菌濃度が10 4 以上担持されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項1は、湖沼や河川や海の底泥、又は地表の土壌、特に農地の土壌に、放線菌が高濃度で含有されているという知見をもとに、これらの汚泥や土壌を包括固定化することにより、放線菌が繁殖しやすい環境を積極的に形成したものである。
【0012】
また、本発明の請求項1は、固定化担体が環境汚染物質、特にアオコを効率的に分解除去できるための好ましい条件を規定したもので、担体1mL当たり、底泥又は土壌が2mg以上固定化されると共に放線菌の菌濃度が104 以上担持されるようにした。ここで、担体内に固定化される汚泥又は土壌は、放線菌の供給源として固定化されるのではなく、放線菌が働き易い担体内環境を形成するためのものである。また、放線菌の更に好ましい菌濃度は、105 以上である。
【0013】
このように、放線菌が働き易い担体内環境を形成してやることで、菌濃度が104 以上の比較的低い菌濃度でも環境汚染物質、特にアオコを効率的に分解除去でき、これにより従来のような純粋培養が必要なくなる。放線菌の菌濃度が比較的小さくても、環境汚染物質、特にアオコを効率的に分解除去できる理由としては、固定化担体中には放線菌の住みかとなる棲息空間が必要であり、底泥や土壌がその棲息空間を形成する役割を担うものと考察される。ここで、本発明の請求項1における湖沼や河川や海の底泥とは湖沼や河川や海の底に堆積している汚泥や岸辺の汚泥をいい、地表の土壌とは農地、山林、工場、住宅地等の地表に存在する土壌をいう。
【0020】
本発明の請求項2は前記目的を達成するために、請求項1の固定化担体を、油成分、BOD成分、COD成分、悪臭成分を構成する無機及び有機の環境汚染物質のうちの少なくとも1つの環境汚染物質と接触させて生物学的処理を行うことを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項2は、放線菌を高濃度に担持した固定化担体を、油成分、BOD成分、COD成分、悪臭成分を構成する無機及び有機の環境汚染物質のうちの少なくとも1つの環境汚染物質と接触させて生物学的処理を行うものであり、環境汚染物質を効率的に分解除去できる。
【0022】
本発明の請求項3は前記目的を達成するために、請求項1の固定化担体を、生物処理で発生する余剰汚泥と接触させて生物学的処理を行うことを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項3は、放線菌を高濃度に担持した固定化担体を、生物処理で発生する余剰汚泥と接触させて生物学的処理を行うものであり、余剰汚泥の凝集性を効果的に向上させることができる。
【0024】
本発明の請求項4は、前記目的を達成するために、請求項1の固定化担体を、アオコを含有する水、又はアオコが発生するおそれのある水と接触させて生物学的処理を行うことを特徴とする。
【0025】
本発明の請求項4は、放線菌を高濃度に担持した固定化担体を、アオコを含有する水、又はアオコが発生するおそれのある水と接触させて生物学的処理を行うものであり、アオコを効果的に分解除去できるだけでなく、アオコが発生するおそれのある水に対してアオコの発生を未然に防止できる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下添付図面に従って、本発明に係る固定化担体、加熱担体及びその製造方法、並びに固定化担体及び加熱担体を用いた環境浄化方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0027】
図1は、湖沼や河川や海の底泥、又は地表の土壌を固定化材料に包括固定化した固定化担体について、担体内に包括固定化した汚泥濃度及び放線菌の菌濃度と、アオコの分解率との関係を示したものである。汚泥濃度の担体サンプルとしては、500mg/L、1000mg/L、2000mg/L、20000mg/Lの4水準のものを調製した。
【0028】
図1から分かるように、担体中の放線菌の菌濃度を大きくしていくとアオコの分解率が増加するが、汚泥濃度が2000mg/L(2mg/mL)以上のサンプルにおいて、放線菌の菌数が104 (cells/ml) 以上、好ましくは105 (cells/ml) 以上になったときにアオコの分解率が急激に向上する。このことは、アオコの分解率を顕著に向上させるためには、固定化担体中に、単に、放線菌を高濃度に担持するだけでなく、担体1mL当たり底泥や土壌が2mg以上固定化されていることが重要であることを意味する。底泥や土壌の濃度が重要な理由は、固定化担体中には放線菌の住みかとなる棲息空間が必要であり、固定化された底泥や土壌がその棲息空間を形成するためであると考えられ、好適な棲息空間を形成するには底泥や土壌の濃度が2mg/mL−担体以上必要であると考察される。ちなみに、放線菌の計測は松井三郎らの方法(松井三郎:環境微生物工学研究法、技報堂、頁55〜58(1993年))で行った。
【0029】
放線菌と同様に環境汚染物質の浄化に優れているとされているBacillusは、単に、湖沼や河川や海の底泥、又は地表の土壌、或いは下水処理場の活性汚泥を固定化材料に包括固定化しただけでは、環境汚染物質を十分に分解除去するまでの菌数濃度に高めることができない。このことから、Bacillusのような耐熱性の微生物については本発明の加熱担体を製造することで菌数濃度を高めるようにした。
【0030】
図2は、本発明の加熱担体の製造方法を示した概念図であり、微生物として、湖沼や河川や海の底泥、又は地表の土壌、或いは下水処理場の活性汚泥(以下、底泥、土壌、活性汚泥を総称して単に「汚泥」という)の中のBacillusを固定化材料に優占的に集積して高濃度に担持する例で説明する。
【0031】
図2に示すように、本発明の加熱担体の製造方法は、汚泥を固定化材料に包括固定化して固定化微生物担体を製造し、この固定化微生物担体を加熱処理する。また、本発明の加熱担体の別の製造方法では、図示しないが、固定化材料であるモノマ又はプレポリマの何れかを、汚泥の存在下で加熱処理しながら重合する。これにより、本発明の加熱担体を得ることができる。この場合、Bacillusを固定化材料内に優占的に集積させるための加熱処理温度としては、40℃以上、130℃以下で、更に好ましくは60℃以上、110℃以下であることが好ましい。また、加熱処理時間としては1分以上、30分以下が好ましい。
【0032】
即ち、本発明は、汚泥を裸のまま加熱処理するのではなく、汚泥が固定化材料に包括された状態で加熱処理、又は汚泥が固定化材料に包括されるゲル化反応での重合時に加熱処理されることが重要である。これにより、汚泥中に混在する複数種類の微生物のうち、固定化材料内に耐熱性菌であるBacillusが選択的に残存し、その後、急速な増殖を行う。この結果、固定化材料内の総菌数のうちBacillusの占める割合を顕著に大きくすることができるので、Bacillusを優占状態で担持した加熱担体を製造することができる。この場合、汚泥を裸のまま加熱処理すると、汚泥中の微生物が可溶化され易くなり、固定化後の微生物の棲息空間が形成されにくくなるが、固定化材料に包括固定化した後で加熱処理することにより微生物の棲息空間が形成され易くなる。更には、包括固定化した後で加熱処理した方が、コンタミネーションを受けにくい。また、その後の加熱担体の培養においても優占状態のBacillusの効果的な増殖が可能となる。また、本発明の副次的な効果として、加熱処理することにより、常温での重合よりも重合速度が速められるので、担体製造速度を大幅に向上することが可能となる。
【0033】
図3は、下水処理場の活性汚泥を固定化材料に包括固定化した後で20〜130℃の加熱温度で加熱処理した本発明の加熱担体と、20〜130℃の加熱温度で裸のまま加熱処理した活性汚泥とについて、培養2週間後におけるBacillusの菌数を比較した結果である。図3の○は加熱担体、△は活性汚泥である。
【0034】
図3に示すように、加熱温度が30℃以下では加熱担体も活性汚泥もBacillusの菌数が107 (cells/ml) レベルで差はない。しかし、加熱担体のBacillusの菌数は、30℃を越えると急激に増加して100℃付近でピークとなり、この時のBacillusの菌数は1010(cells/ml) レベルであった。その後、低下して120℃でBacillus菌数は109 (cells/ml) レベルから130℃で108 (cells/ml) レベルまで低下した。一方、裸のまま加熱処理した活性汚泥のBacillusの菌数は、30℃を越えると低下しはじめて120℃のBacillusの菌数は105 (cells/ml) レベルまで低下した。図3では、裸のまま加熱処理した活性汚泥自体のBacillusの菌数を測定したが、裸のまま加熱処理した活性汚泥を本発明の加熱担体に使用したと同じ固定化材料に包括固定化した後のBacillusの菌数も同様の結果であった。尚、 図3の20〜30℃でBacillusが増殖しにくいのは、 加熱処理が不十分で他の雑菌が増殖し、 雑菌との相互作用によりBacillusの増殖が抑えられるものと考えられる。
【0035】
図4は滋賀県の底泥を固定化材料に包括固定化した後で20〜130℃の加熱温度で加熱処理した本発明の加熱担体と、20〜130℃の加熱温度で裸のまま加熱処理した湖の底泥とについて、培養2週間後におけるBacillusの菌数を比較した結果であるが、図3の活性汚泥の場合の試験結果と殆ど同一の結果となった。
【0036】
この結果から分かるように、Bacillusが耐熱性菌であるからといって、下水処理場の活性汚泥や湖沼の底泥等の汚泥を裸のまま加熱処理した後で図11で示した従来の製造方法により固定化微生物担体を製造しても、製造された固定化微生物担体内のBacillusを増殖させることはできない。即ち、上記したように、本発明の加熱担体の製造は、汚泥を裸のまま加熱処理するのではなく、汚泥が固定化材料に包括された状態、又は包括される過程である重合の過程で加熱処理することが重要である。また、Bacillusを高い濃度に集積した加熱担体を得るための加熱温度としては、Bacillusの菌数が108 (cells/ml) レベル以上を確保できることが好ましく、40℃以上、130℃以下、より好ましくはBacillusの菌数が109 (cells/ml) レベル以上を確保できる60℃以上、110℃以下であることが好ましい。
【0037】
本発明の加熱担体の製造において用いる固定化材料としては、モノメタクリレート類、モノアクリレート類、ジメタクリレート類、ジアクリレート類、トリメタクリレート類、トリアクリレート類、テトラアクリレート類、ウレタンアクリレート類、エポキシアクリレート類、その他、ポリビニルアルコール、アクリルアミド、光硬化性ポリビニルアルコール、光硬化性ポリエチレングリコール、光硬化性ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールプレポリマ等を使用することができる。
【0038】
また、上記の如く放線菌を担持した本発明の固定化担体やBacillusを高濃度に担持した本発明の加熱担体は、該固定化担体や加熱担体を以下に説明する環境汚染物質に接触させて生物学的に処理することにより、環境汚染物質の効果的な分解除去が可能である。
【0039】
本発明の固定化担体や加熱担体により効果的な生物学的処理が可能な環境汚染物質としては、アオコ、赤潮、緑藻含有水、油成分(ヘキサン抽出物)、BOD成分、COD成分や、大気中のメルカプタン、硫化水素、アンモニア等の悪臭成分が対象である。
【0040】
また、放線菌を担持した本発明の固定化担体やBacillusを高濃度に担持した本発明の加熱担体は、活性汚泥による生物学的処理より発生する余剰汚泥の凝集性を向上させることができる。
【0041】
更に、放線菌を担持した本発明の固定化担体やBacillusを高濃度に担持した本発明の加熱担体は、水中のアオコを効果的に分解除去できるだけでなく、アオコが発生するおそれのある水に対してアオコの発生を未然に防止できる。
【0042】
尚、本実施の加熱担体の形態では、Bacillusを固定化材料に高濃度で集積させる例で説明したが、本発明はBacillusに限定するものではなく、複数の微生物が混在する湖沼や河川や海の底泥、又は地表の土壌、或いは下水処理場の活性汚泥から耐熱性を有する特定の微生物を優占状態で固定化材料に集積させることができるようにすると共に、その後の加熱担体の培養においても優占状態の微生物を効果的に増殖できるようにしたものである。
【0043】
【実施例】
[1]本発明の固定化担体によるアオコ分解試験
(実施例1)
千葉県のA沼から採取した底泥をポリエチレングリコール系プレポリマで包括固定化し、図5のように、3mm角の多数のペレットとした。表1は、固定化担体の組成であり、担体中の汚泥濃度が2mg/ml−担体以上になるようにした。
【0044】
【表1】
この固定化担体における放線菌の菌数濃度は4×105 (cells/ml−担体)であった。この固定化担体200mlを用いて2Lの反応槽に投入し、アオコ含有の沼水(アオコ105 cells/ml含有)を滞留時間48時間で連続処理した。
【0045】
その結果、処理水中のアオコは102 cells/ml以下で安定した。
(実施例2)
実施例1と同様の試験を東京湾の底泥、千葉県の農地の土壌、江戸川の河川敷の土壌、滋賀県の湖の底泥をそれぞれ採取してポリエチレングリコール系プレポリマで固定化し、図5のように、3mm角の多数のペレットとした。固定化担体の組成は表1と同じであり、担体中の汚泥濃度は2mg/ml−担体以上になるようにした。
【0046】
表2は、固定化担体中に担持される放線菌の菌数濃度とアオコ分解速度との関係を示したものである。
【0047】
【表2】
表2の結果から分かるように、固定化担体中の放線菌濃度が104 レベルでは、アオコ分解速度が1000(cells ・アオコ/ml・担体)レベルのオーダであるが、放線菌濃度が105 以上では104 のときの10倍の分解速度となる。
【0048】
このように、放線菌が高濃度で含有されている湖沼や河川や海の底泥、又は地表の土壌、特に農地の土壌を包括固定化して放線菌が繁殖しやすい環境を積極的に形成すると共に、担体中の汚泥濃度を2mg/ml−担体以上にすることで、アオコを効率的に分解除去することができる。特に、放線菌濃度が105 以上の場合には、アオコを極めて効率的に分解除去することができる。
【0049】
一方、固定化担体内に汚泥を固定化せずに、純粋培養した放線菌のみをポリエチレングリコール系プレポリマで固定化したサンプルである純粋培養の固定化担体は、アオコ分解速度が340(cells ・アオコ/ml・担体)と悪い結果になった。[2]本発明の加熱担体と、加熱処理をしていない従来の固定化微生物担体(以下「非加熱担体」と称す)について、Bacillusの優占状態、及び処理性能について比較試験を行った実施例について説明する。
【0050】
汚泥の種類としては、千葉県のA下水処理場から採取した活性汚泥と、千葉県の湖から採取した底泥と、についてそれぞれポリエチレングリコール系プレポリマで固定化して加熱前の固定化微生物担体を調製し、図5のように、3mm角の多数のペレットとした。
【0051】
そして、この加熱前の固定化微生物担体を非加熱担体Bのサンプルとした。この固定化微生物担体200mlと水道水300mlを1Lの三角フラスコに入れ、オートクレーブにより100℃で12分間加熱処理した。そして、この加熱後の固定化微生物担体を加熱担体Aのサンプルとした。
【0052】
表3は、固定化微生物担体の組成である。
【0053】
【表3】
図6は、Bacillusの優占状態、及び処理性能について比較試験を行った連続処理運転用の試験装置10の模式図である。
【0054】
試験装置10は、図6に示す容積2Lの2つの曝気槽12、12を並設し、1つの曝気槽12には加熱担体Aを200ml添加して加熱担体用の試験装置とし、別の曝気槽12には非加熱担体Bを200ml添加して非加熱担体用の試験装置とした。この場合、それぞの曝気槽12の担体充填率はどちらの試験装置10も同じ10%になるようにした。そして、合成廃水を、曝気槽12上部から連続的に流入させ、処理した処理水が曝気槽内側面に設けた担体流出防止網(スクリーン)14を経て流出するようにした。 合成廃水の供給流量を11ml/分とし、曝気槽12における滞留時間が3時間となるように連続処理運転を行った。担体流出防止網14は、 目開き2mmの塩化ビニール製のものを用いた。曝気槽12内への酸素の供給と加熱担体の撹絆のための空気供給管16を設け、この空気供給管16により曝気槽12内の合成廃水中に5L/分の通気量で曝気できるようにした。合成廃水の水温は20℃に調整した。
【0055】
表4は、Bacillusの優占状態の試験に使用した合成廃水の組成である。
【0056】
【表4】
表5は、加熱担体A及び非加熱担体Bの中の細菌数測定用に使用した標準寒天培地の組成である。
【0057】
【表5】
(実施例3)
先ず、千葉県のA下水処理場から採取した活性汚泥を使用した加熱担体Aと非加熱担体Bについて、図5の試験装置10を使用してBacillusの優先状態を試験した結果について説明する。
【0058】
図7は、連続運転を行う前の加熱担体Aと非加熱担体Bのそれぞれについて、ホモジナイズし、表5の標準寒天培地にそれぞれ希釈平板して培養した後の生育したコロニーの状態を示した図である。図7に示すように、加熱担体Aの場合には白色の単一コロニーが生育したのに対し、非加熱担体Bの場合には白色、 黄色等、 様々なコロニーが生育した。加熱担体Aで生育した白色コロニーをbioMerieux社製同定キットで簡易同定した結果、 Bacillusであると推定できた。このことは、加熱処理を行うことにより、担体A中にBacillusを優占状態で集積させることができることを意味している。
【0059】
次に、加熱担体Aと非加熱担体Bについて、表4のペプトンと肉エキスを主体とした合成廃水を使用して図6の試験装置10で6カ月の連続処理運転を行うことにより、連続運転前のBacillusの優占状態がどのようになるか、即ちBacillusの優占状態の安定性を評価した。
【0060】
図8は、連続処理運転終了後の加熱担体Aと非加熱担体Bについて、担体A,B中の総菌数とBacillusの菌数を調べたものである。尚、連続運転前(初期担体)の総菌数は5×108 (cells/ml) 、Bacillus菌数は2×106 (cells/ml) であった。
【0061】
図8から分かるように、連続処理運転終了後の加熱担体Aは、総菌数が1×1010(cells/ml) でBacillus菌数が8.5×109 (cells/ml) となった。即ち、加熱担体Aの場合には、連続処理運転により増加した総菌数の殆どがBacillusの増殖であった。一方、非加熱担体Bは、総菌数が2×109 (cells/ml) に増加したものの、Bacillus菌数は6×107 となり、総菌数に対するBacillusの占有率が加熱担体Aに比べて顕著に小さかった。
【0062】
図9は、連続処理運転終了後の加熱担体Aと非加熱担体Bについて、稀釈平板培養した時のコロニー形態を示す図である。
【0063】
図9(a)に示すように、非加熱担体Bの場合には白色や黄色の多様な小型コロニーが生育し、一方、加熱担体Aはほぼ均一な大型コロニーが生育していた。また、図9(b)は3%過酸化水素をコロニーにかけた写真であり、非加熱担体Bでは局部的に発泡したが、加熱担体Aでは全面的に激しく発泡し、 大型コロニーがBacillusである証拠となる強いカタラーゼ活性が認められた。また、加熱担体Aの大型コロニーをbioMerieux社製同定キットで同定した結果、 Bacillusであると推定できた。
【0064】
図7、図8及び図9の結果から、加熱担体Aは、連続処理運転前、連続処理運転終了後にかかわらず、Bacillusが常に優占して存在しており、Bacillusの優占状態の安定性が良いことが分かる。このことは、加熱担体Aは連続処理運転によりBacillusの集積培養が可能であることを意味する。
【0065】
次に、加熱担体Aと非加熱担体Bについて、図6の試験装置10を使用してBacillusの処理性能を試験した結果について説明する。
【0066】
処理性能試験は、上記の連続処理運転に使用したと同じ加熱担体Aと非加熱担体Bを用い、高濃度処理の可能性を明らかにするために、加熱担体用の試験装置10と非加熱担体用の試験装置10の各曝気槽12の合成廃水を、TOC(Total Organic Carbon、総有機系炭素量)170mg/Lの合成廃水に入れ換えて回分処理を行った。回分処理ではTOC濃度の低減推移を経時的に測定した。 また、得られた処理水のTOC測定は、処理水を5A濾紙で濾過した濾過液について行い、加熱担体Aと非加熱担体BについてのTOCの除去速度を調べた。
【0067】
TOCの除去速度は次式(1)により計算される。
【0068】
【数1】
ds/dt=K×s…(1)
但し、s : 廃水TOC 濃度(mg/l)
t : 時間(h)
K : 除去速度恒数(1/h)
結果を図10に示す。
【0069】
図10から分かるように、加熱担体A(Bacillus優占担体)のTOC除去速度は0.532h-1で、非加熱担体B(活性汚泥担体)のTOC除去速度は0.280h-1であり、加熱担体AのTOC除去速度は非加熱担体Bの約2倍であった。このことは、TOC濃度が170mg/L程度の中程度の濃度(負荷)の廃水の場合、加熱担体Aは非加熱担体Bの約2倍の処理性能があることを意味する。
(実施例4)
実施例3と同様に、千葉県の湖から採取した底泥を使用した加熱担体Aと非加熱担体Bについて、図6の試験装置10を使用してBacillusの優先状態を試験した結果について説明する。
【0070】
その結果、千葉県の湖から採取した底泥を使用した加熱担体Aについても常にBacillusコロニーが優占していた。また、表4のペプトンと肉エキスを主体とした合成廃水を使用して図6の試験装置10で6カ月の連続処理運転の結果では、連続運転前(初期担体)の加熱担体のBacillus菌数が4×105 (cells/ml) であったものが、連続運転終了後には8×109 (cells/ml) になっており、連続運転により集積培養が可能であることが見いだされた。一方、非加熱担体Bの場合には、連続運転終了後の総菌数は増加したものの、連続運転によるBacillusの集積培養が殆ど認められなかった。そして、連続運転後の加熱担体Aの希釈平板培養したときのコロニー形態としては、非加熱担体には白色や黄色の多様な小型コロニーが生育したのに対し、加熱担体では略均一な大型コロニーが生育した。そして、3%過酸化水素をコロニーにかけると、非加熱担体では局部的に発泡したのに対し、加熱担体では全面的に激しく発泡し、 強いカタラーゼ活性が認められた。また、加熱担体Aの大型コロニーをbioMerieux社製同定キットで同定した結果、 Bacillusであると推定できた。
【0071】
このように、汚泥の種類を実施例3の下水処理場の活性汚泥から湖から採取した底泥に変えた場合も同様の結果を得ることができた。
【0072】
また、加熱担体Aと非加熱担体Bについて、図6の試験装置10を使用してBacillusの処理性能を試験した結果では、加熱担体A(Bacillus優占担体)のTOC除去速度は0.432h-1で、非加熱担体BのTOC除去速度は0.200h-1であり、加熱担体AのTOC除去速度は非加熱担体Bの2倍以上であった。
(実施例5)
実施例5は、加熱担体Aと非加熱担体Bのそれぞれについて、食品工場でのBOD成分、COD成分、SS(懸濁物質)、油分(n-ヘキサン抽出物)の除去性能について試験したものである。
【0073】
実施例3又は4の試験終了後、 曝気槽12の合成廃水を食品工場廃水に交換して、滞留時間4時間で連続処理した。
【0074】
表6は、千葉県のA下水処理場から採取した活性汚泥を使用した場合であり、表7は千葉県の湖から採取した底泥を使用した場合である。
【0075】
【表6】
【0076】
【表7】
表6及び表7の結果から分かるように、加熱担体Aを用いた本発明の処理水は、非加熱担体Bを用いた従来法の処理水に比べて、BOD、COD、n-ヘキサン抽出物について良い結果となった。特に、CODとn-ヘキサン抽出物である油分の分解性能がよかった。CODの分解性能が良い理由としては、Bacillusのカタラーゼがラジカル的にCOD成分を酸化していることが考えられる。
(実施例6)
実施例6は、加熱担体Aと非加熱担体Bについて、アオコの分解性能を調べたものであり、千葉県のA下水処理場から採取した活性汚泥を使用した場合と、千葉県の湖から採取した底泥を使用した場合との両方について行った。
【0077】
実施例6で使用した加熱担体Aは、加熱処理前の固定化微生物担体200mlと水道水300mlを1Lの三角フラスコに入れ、オートクレーブで60℃15分間加熱した。 このように製造した加熱担体200mlを、4Lの加熱担体用の曝気槽12に投入し、 まず表4に示す合成廃水で1週間培養した。1週間培養した後、 曝気槽12内の合成廃水を、アオコ含有湖沼水[アオコ105 (cells/ml)含有]に交換して滞留時間24時間で連続処理した。
【0078】
従来法として、非加熱担体Bを非加熱担体用の曝気槽12に投入し、実施例6と同様に、表4の合成廃水で培養した後、アオコ含有湖沼水[アオコ105 (cells/ml)含有]に交換して滞留時間24時間で連続処理した。
【0079】
その結果、 加熱担体Aを用いた処理水中のアオコは102 (cells/ml)以下まで安定して低減されたのに対し、非加熱担体Bを用いた処理水中のアオコは104 〜105 (cells/ml)で原水のアオコ含量とほとんど変わらなかった。
【0080】
尚、実施例6で使用した千葉県のA下水処理場の活性汚泥や千葉県の湖から採取した底泥には放線菌が比較的少なかったので、このような場合には、実施例6のように加熱処理してBacillusを集積させることによってアオコを効果的に分解除去できる。
(実施例7)
実施例7は、大気中のメルカプタン、硫化水素、アンモニア等の悪臭成分の除去を行ったものであり、千葉県のA下水処理場から採取した活性汚泥を使用した場合と、千葉県の湖から採取した底泥を使用した場合との両方について行った。
【0081】
試験は、直径5cm、高さ100cmの約2Lのカラム内に、加熱担体Aの充填率が70%になるようにした固定床式濾過層を設け、メルカプタンを含有する空気をカラムの下端から流入させ、固定床式濾過層を通過させてからカラム上端から排気した。そして、流入ガスと排気ガスのメルカプタン濃度を測定して除去率を求めた。カラム内でのガスの滞留時間を2分とした。
【0082】
同様に、硫化水素を含有する空気、アンモニアガスを含有する空気についても実施した。
【0083】
その結果、メルカプタン、硫化水素、アンモニアのいずれの場合にも、99%の除去率を得ることができた。
【0084】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る固定化担体、加熱担体及びその製造方法によれば、微生物の純粋培養を行うことなく特定の微生物を固定化材料に高濃度に担持することができる。また、放線菌によって環境汚染物質、特にアオコを効率的に分解除去できる固定化担体を得ることができる。
【0085】
従って、本発明の固定化担体又は加熱担体を用いれば、従来に比べて環境汚染物質を効果的に分解除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の固定化担体について、担体内に包括固定化した汚泥濃度及び放線菌の菌濃度と、アオコの分解率との関係を説明する説明図
【図2】本発明の加熱担体の製造方法を示した概念図
【図3】下水処理場の活性汚泥について加熱処理温度とBacillus菌数の関係を示した図
【図4】湖の底泥について加熱処理温度とBacillus菌数の関係を示した図
【図5】3mm角のペレット状にした加熱処理前の多数の固定化微生物担体を示した図
【図6】加熱担体と非加熱担体について連続処理運転を行った試験装置の模式図
【図7】連続処理運転前の加熱担体と非加熱担体を標準寒天培地で培養した後の生育コロニーの図
【図8】連続処理運転終了後の加熱担体と非加熱担体の中の総菌数とBacillus菌数を調べた図
【図9】連続処理運転終了後の加熱担体と非加熱担体を標準寒天培地で培養した後の生育コロニーの図
【図10】加熱担体と非加熱担体のTOC除去性能を示した図
【図11】 Bacillusを純粋培養してから固定化する従来の固定化方法を示した概念図
【符号の説明】
10…試験装置、12…曝気槽、14…担体流出防止網、16…空気供給管、A…加熱担体、B…非加熱担体
Claims (4)
- 放線菌を含む湖沼や河川や海の底泥、又は放線菌を含む地表の土壌を、固定化材料に包括固定化した担体であって、該担体には、担体1mL当たり、前記底泥又は前記土壌が2mg以上固定化されると共に放線菌の菌濃度が104以上担持されていることを特徴とする固定化担体。
- 請求項1の固定化担体を、油成分、BOD成分、COD成分、悪臭成分を構成する無機及び有機の環境汚染物質のうちの少なくとも1つの環境汚染物質と接触させて生物学的処理を行うことを特徴とする環境浄化方法。
- 請求項1の固定化担体を、生物処理で発生する余剰汚泥と接触させて生物学的処理を行うことを特徴とする環境浄化方法。
- 請求項1の固定化担体を、アオコを含有する水、又はアオコが発生するおそれのある水と接触させて生物学的処理を行うことを特徴とする環境浄化方法。
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