JP3984752B2 - マスタシリンダ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、マスタシリンダに関し、特に、ポンプアップによりホイールシリンダの作動液を加圧しブレーキ制御を行う装置(トラクションコントロール装置や車両安定性制御装置など)を備えた車両のブレーキ制御解除時に、マスタシリンダの作動液通路を介してホイールシリンダからリザーバに作動液戻しを行う車両に適し、通常作動時にマスタシリンダのピストン無効ストロークを減少させるマスタシリンダに関する。
【0002】
【従来の技術】
図20は、従来のマスタシリンダの一例を示す断面図であって特開平10−53120号公報に開示されている。このマスタシリンダ1は、シリンダボディ2に形成したシリンダ穴2aに摺動自在に嵌合するピストン3を有し、該ピストン3によって画成した圧力発生室4と補給通路5を備えている。ピストン3には、軸線の延長上に弁機構6と浮動絞り弁機構7とが取付けられている。弁機構6は、ピストン3が圧力発生室4内に設置されたリターンスプリング8により復帰位置に後退するのに応動して、ロッド9と一体のフランジ10が環状部材11から離れて軸方向穴12を開放し、かつピストン3が復帰位置から前進するのに応動してフランジ10が環状部材11に当接して軸方向穴12を閉鎖する。
【0003】
また、浮動絞り弁機構7は、絞り穴13aを有する浮動部材13を備え、圧力発生室4から軸方向穴12を通って、図示しないリザーバへ向かう作動液の流れがあるときに、該作動液の流れに対し絞り効果を発揮する絞り作用位置へ該浮動部材13を移動させ、かつリザーバから軸方向孔12を通って圧力発生室4へ向かう作動液の流れがあるときに、該作動液の流れに対する絞り効果を発揮しない非絞り作用位置へ該浮動部材13を移動させる。
【0004】
そして、弁機構6が開の状態からピストン3が作動し、図において左方向に前進して該弁機構6が閉になり、圧力発生室4と補給通路5との連通が断たれる。その後、さらにピストン3が左動することにより、圧力発生室4に圧力が発生し、出力ポート14から作動液が吐出される。ピストン3が前進を開始してから弁機構6が閉じるまでの間、ピストン3の前進により圧力発生室4の作動液が浮動絞り弁機構7と弁機構6を通って補給通路5へ逃げる。その際の作動液の流れにより、浮動絞り弁機構6の浮動部材13がケース15の連通穴15aを閉じる。これにより圧力発生室4の作動液は、浮動部材13の絞り穴13aを通って補給通路5へ逃げることになり、圧力発生室4から補給通路5へ逃げる作動液の量が、圧力発生室4から補給通路5へ逃げる作動液の流れを絞らない場合に比べて低減される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、トラクションコントロール装置や車両安定性制御装置を備える車両に使用されているマスタシリンダに、作動開始時(ピストン前進時)に、圧力発生室4からリザーバに逃げる作動液の量を少なくするための絞り弁機構(例えば、オリフィス)を設けた際、前記トラクションコントロール装置や車両安定性制御装置などの解除時に、ホイールシリンダから前記マスタシリンダの補充液通路を介して、作動液を前記リザーバに戻す際、その経路上に絞り弁機構が介在するため、該リザーバへの液戻り遅れ、圧力発生室4の液圧降下遅れなどが発生するという問題点があった。
【0006】
また、前記マスタシリンダと前記リザーバとの接続部分に、前記絞り弁機構を設けた場合、前記圧力発生室から前記リザーバへの液戻しの際、該リザーバと該マスタシリンダとの接続部分に高圧が発生し、該リザーバタンクの抜け方向に力が働くため、該タンク保持構造の強度アップによりコスト高になるという問題点があった。
これらのため、前記絞り弁機構は、前記トラクションコントロール装置や車両安定性制御装置などの解除時の、液圧戻しの作動液流量の増減(すなわち、圧力変化)に素早く対応できる構造を有するマスタシリンダが待望されていた。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みなされたもので、その目的は前記問題点を解消し、トラクションコントロール装置や車両安定性制御装置を備えた車両であって、マスタシリンダの作動開始時に、リザーバに逃げる作動液の量を少なくするとともに、前記トラクションコントロール装置や車両安定性制御装置の解除時の液圧変動に素早く対応できる、簡単で、かつ大型化しない弁構造を備えるとともに、ピストンの無効ストロークを減少させるマスタシリンダを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための本発明の構成は、シリンダボディに形成されたシリンダ穴にピストンが摺動自在に配設され、前記ピストンとシリンダボディにより、圧力発生室を区画し、前記圧力発生室とリザーバとを連通し作動液を前記圧力発生室へ補充するための液通路を備え、前記ピストンの作動時に前記圧力発生室で昇圧された作動液を出力ポートに吐出するマスタシリンダにおいて、次のとおりである。
【0009】
絞り弁機構の弁体が、前記ピストンの摺動方向に平行に配置された浮動弁体であり、前記ピストンの作動時に、前記圧力発生室から前記リザーバへの作動液の流れを絞るための絞り穴で、該穴に複数のスリットが形成された前記絞り穴を有する前記弁体の弁座への当接による絞り機能と、前記ピストンの戻り時に、前記弁体が作動液の流れと自重とにより降下して前記弁座から離れて開弁し、該弁体の外周に沿って前記弁座と反対向きに形成された複数のリブで、該リブのそれぞれの間に形成された切欠き状の複数の液通路を介して、前記リザーバから前記圧力発生室への作動液の流れを許容するバルブ機能と、該圧力発生室から前記リザーバへの作動液の流れが大きいとき、前記弁体が該流れの押圧力により前記スリットを押し広げるように前記絞り穴を弾性変形させて液通路を拡大し、前記流れを許容するリリーフ弁機能とを有する、弾性材からなる前記絞り弁機構を、前記液通路に配設する。
【0010】
前記絞り弁機構が、前記リザーバの前記シリンダボディとの接続部先端に設けられた弁座と、該弁座に着座する弁座面を有するとともに、絞り穴と、ほぼ中央部に複数のスリットとが形成された弾性材からなる浮動弁体とから構成される浮動絞り弁機構である。
【0013】
または、前記絞り機構が、絞り穴が形成された弾性材からなる浮動弁体と、弁軸方向に浮動する前記浮動弁体を当接させる弁座を形成するとともに、前記リザーバの前記シリンダボディとの接続部の先端に貫通溝を有する先端部と、該接続部の前記シリンダボディ側との通路である弁室の内周面に、前記浮動弁体が前記リザーバ側に移動するとき閉弁し、前記シリンダボディ側に移動するとき開弁するような、前記弁軸に対し傾斜して形成されるシート面とから構成される浮動絞り機構である。
【0014】
本発明は以上のように構成されているので、マスタシリンダの前記ピストンの作動開始時、圧力発生室からリザーバへの作動液の流れがあるときは、該作動液は絞り機構のみを通じて流れるように作用して、リザーバに逃げる作動液の量を少なくする。
逆に、車両のトラクションコントロール装置(または、車両安定性制御装置)の作動時を含む前記ピストンの戻り時(圧力発生室に負圧が発生時)、リザーバから圧力室への作動液の流れがあるときは、該作動液の流れにより、逆止弁機構を開弁し、該作動液は、主として該逆止弁機構を通じて流れるように作用する。
【0015】
また、前記トラクションコントロール装置(または、車両安定性制御装置)の解除時、圧力発生室からリザーバへ多量の高圧作動液の流れがあるときは、その作動液の大きな流れにより、リリーフ弁機構を開弁し、該作動液は、該リリーフ弁機構を通じて流れるように作用して、マスタシリンダの液圧変動に素早く対応する。同時に、前記機構により、マスタシリンダのピストン無効ストロークを減少させることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。図1ないし図5は、本発明のマスタシリンダの第1の実施形態を示し、図1は、同マスタシリンダの縦断面図、図2は、シリンダボディとリザーバとの接続部に設けられる絞り弁機構の閉弁状態の拡大断面図、図3は、図2の絞り弁機構の浮動弁体を示す底面図、図4は絞り弁機構の開弁状態の断面図、図5は絞り弁機構の作動液による開弁状態の断面図である。なお、本実施形態に示す絞り弁機構は、センタバルブ型マスタシリンダ及びプランジャ型マスタシリンダのいずれにも適用できる。
【0017】
図1において、このマスタシリンダ20のシリンダボディ21は、シリンダ本体22と、これに組付けたキャップ23とからなっており、シリンダ本体22には、リザーバ19との2つの接続受部41,42があり、キャップ23の周壁には傾斜した液通路23aが設けられている。シリンダ本体22内にピストンガイド24が嵌着され、キャップ23内にはスリーブ26が嵌着されている。
【0018】
該マスタシリンダ20は、フランジ付きスリーブ26にプライマリピストン27が摺動自在に、ピストンガイド24及び該スリーブ26にセカンダリピストン28が摺動自在に嵌合し、これらの両ピストン27,28によってプライマリ圧力室29とセカンダリ圧力室30が画成されている。
【0019】
前記プライマリピストン27及びセカンダリピストン28は、有底の円筒状をなしており、それらの周壁には、小穴27a,28aが穿設されている。また、該両ピストン27,28は、これらの間に配置したリターンスプリング31及びシリンダ本体22の端壁22aとの間に配置したリターンスプリング32により、復動方向(図において右方向の非作動位置方向)へ付勢されている。
【0020】
前記プライマリ圧力室29は、プライマリピストン27に設けられた小穴27a、キャップ23に設けられた液通路23a、シリンダ本体22の液通路22bを経て、一方の接続受部41に連通可能である。また、前記セカンダリ圧力室30は、セカンダリピストン28に設けられた小穴28a、ピストンガイド24に開けた液通路24a、シリンダ本体22の液通路22cを経て、他方の接続受部42に連通可能である。また、前記両圧力室29,30は、シリンダ本体22に穿設された出力ポート33,34を介して、図示しない前、後輪のホイールシリンダに連通可能である。
【0021】
そして、前記2つの接続受部41,42には、前記リザーバ19の接続部19a,19bが、それぞれシール部材40を介して嵌着されており、その接続部分の液通路(前記圧力室29,30と前記リザーバ19とを連通するそれぞれの液通路)に、一種の絞り弁機構である、浮動絞り弁機構43,43がそれぞれ配設されている。
【0022】
前記接続部19a,19bの液通路に、それぞれ配設されている浮動絞り弁機構43,43は、図2及び図4に示すように、前記リザーバ19の接続部19a,19bの先端に形成された弁座44と、前記各接続受部41,42内に接続部19a,19bによって画成された弁室45とを備え、該弁室45内に浮動弁体46を収容して構成されている。
【0023】
該浮動弁体46は、前記弁座44に着座する弁座面を有する弾性材、例えば合成樹脂材からなり、図3に示すように、中心に絞り穴46bが開けられ、該絞り孔46bを中心に弾性変形部をとして、複数個の、例えば、2個を、十字状にしたスリット46cが形成されている円板形弁本体46aと、該円板形弁本体46aの外周に沿って等角度間隔にて下向きに形成した4つのリブ46dとを有し、隣合うリブ46d,46dの間に切欠き状の液通路(補充液通路)46e,46eが形成されている。なお、前記切欠き状の液通路46e,46eに代えて、前記シリンダボディ21側に複数個の溝を設けてもよい。
【0024】
通常、前記浮動絞り弁機構43は、前記リザーバ19の接続部19a,19bが嵌着された、前記マスタシリンダ20のシリンダボディ21の各接続受部41,42内の液通路に、それぞれ配設されているが、前記圧力発生室29,30から前記リザーバ19までの作動液補充通路上であれば、この限りではない。
【0025】
そして、前記マスタシリンダ20の作動開始時、図2で、下側から上側へ、すなわち前記圧力室29,30からリザーバ19への作動液の流れがある場合、浮動絞り弁機構43は、その作動液の流れにより浮動弁体46が浮上して弁座44に当接し、閉弁状態になり、作動液は絞り穴46bのみを通じて上方へ流れるように作用する。したがって、作動開始時、圧力室29,30からリザーバ19に逃げる作動液の量は小さくできる。
【0026】
逆に、図4のように、上側から下側へ、すなわち前記リザーバ19から圧力室29,30への作動液の流れがある場合、その作動液の流れと自重とにより浮動弁体46が降下して弁座44から離れ、開弁状態になり、リザーバ19の作動液は、弁座44と浮動弁体46との間、浮動弁体46の外周の液通路46eを通って下方の圧力室29,30へ流れるように作用する。したがって、前記マスタシリンダ20の戻り時、リザーバ19の作動液は、抵抗なく(少ない抵抗)圧力室29,30へ補充できる。
【0027】
また、図5のトラクションコントロール装置や車両安定性制御装置などの解除時などのように、下側から上側へ、すなわちマスタシリンダ20の前記圧力室29,30からリザーバ19へ戻される作動液の量が多いときは、その作動液の大きな流れにより、前述のように浮動絞り弁機構43は閉弁状態になるが、作動液の流れの押圧力により、前記浮動弁体46のスリット46cをリザーバ19側に押し広げるように弾性変形させて、通路を拡大しながら、上方へ流れるように作用する。したがって、作動液は抵抗なく(少ない抵抗)リザーバ19に戻される。
なお、浮動弁体46は、圧縮スプリングで上向きに小さな付勢力を付与するようにしたものでもよい。
【0028】
本第1の実施形態のおけるマスタシリンダ20の動作をプライマリ側を中心に説明し、これと同じ動作をするセカンダリ側については説明を省略する。
図1に示す非作動状態において、ピストン27はスプリング31の付勢力によって右端に位置され、前記浮動絞り弁機構43が開弁状態である。この状態から、ピストン27が作動し左方向へ前進すると、圧力室29の圧力が上昇し、出力ポート33から作動液が送出される。前記動作において、ピストン27の小穴27aが開から閉となるまでの間に、ピストン27の前進により、圧力室29の作動液が浮動絞り弁機構43の弁室45へ流れる。このときの作動液の流れにより、浮動絞り弁機構43の浮動弁体46が浮上して弁座44に当接する。この当接により、圧力室29の作動液が絞り穴46bのみを通ってリザーバ19へ戻されるが、この戻りの作動液の量は微量である。
【0029】
前記ピストン27の作動が解除されると、ピストン27はスプリング31の付勢力によって後退し、圧力室29の圧力が低下して負圧になるとともに、前記小穴27aが開となり、圧力室29がリザーバ19に連通する。このとき、浮動絞り弁機構43の浮動弁体46が弁座44から離れ、リザーバ19から圧力室29へ作動液が小さな抵抗のみで流れて補充される。
【0030】
次に、車両に装備されているトラクションコントロール装置や車両安定性制御装置が解除されると、前記圧力室29に作動液が急激に戻され、ブレーキペダルが踏まれている場合は、前記ピストン27は後退して、前記小穴27aが開となり、圧力室29がリザーバ19に連通する。このとき、圧力室29からリザーバ19への作動液の大きな流れがあり、その流れにより、前述のように前記浮動絞り弁機構43は閉弁状態になるが、作動液の流れの押圧力により、前記浮動弁体46のスリット46cを押し広げて、多量の作動液が早急にリザーバ19へ戻される。
【0031】
本発明の上記第1の実施の形態に係るマスタシリンダ20によれば、トラクションコントロール装置や車両安定性制御装置を備えた車両であって、簡単で、かつ小型の前記浮動絞り弁機構43により、前記マスタシリンダ20の作動開始時に、リザーバ19に逃げる作動液の量を少なくするとともに、前記トラクションコントロール装置や車両安定性制御装置の解除時の液圧変動に素早く対応するという機能を発揮させることができる。同時に、前記マスタシリンダ20のピストン無効ストロークを減少させることができる。
【0032】
図6ないし図9は、本発明のマスタシリンダの第2の実施形態を示し、前記第1の実施形態を示す絞り弁機構としての浮動絞り弁機構43に代えて、バルブシート付き絞り弁機構を使用する実施形態であり、図6は、同マスタシリンダのバルブシート付き絞り弁機構の閉弁状態の拡大断面図、図7は、図6の絞り弁機構の底面図、図8は、図6の絞り弁機構の開弁状態の断面図、図9は、図6の絞り弁機構の作動液による開弁状態の断面図である。なお、本実施形態に示す絞り弁機構は、センタバルブ型マスタシリンダ及びプランジャ型マスタシリンダのいずれにも適用できる。
【0033】
このバルブシート付き絞り弁機構53は、図6及び図7に示すように、弾性変形可能な弾性材、例えば合成樹脂材からなる薄い板または薄い膜状のバルブシート56と、前記リザーバ19の前記シリンダボディ21との接続部19a,19bの先端に形成され、該バルブシート56が前記圧力発生室29,30側から当接する弁座54を形成するリブ55と、該バルブシート56の中心部分を該リブ55の中心部55aに係止する係止部57とから構成される。該バルブシート56が変形しない通常の状態で、該バルブシート56の外周縁と前記リザーバ19の前記接続部19a,19bの先端の内周面との間に、絞り用のスリット58が形成されている。
【0034】
通常、前記バルブシート付き絞り弁機構53は、前記リザーバ19の接続部19a,19bが嵌着された、前記マスタシリンダ20のシリンダボディ21の各接続受部41,42内の液通路に、それぞれ配設されているが、前記圧力発生室29,30から前記リザーバ19までの作動液補充通路上であれば、この限りではない。
【0035】
前記マスタシリンダ20の作動開始時、図6で、下側から上側へ、すなわち前記圧力室29,30からリザーバ19への作動液の流れがある場合、その流れによりバルブシート56が弁座54に当接して、圧力室29,30からの作動液は、バルブシート56の外周縁と前記リザーバ19の接続部19a,19bの先端の内周面との間に形成されている絞り用のスリット58のみを通ってリザーバ19に流れる。したがって、作動開始時、圧力室29,30からリザーバ19に逃げる作動液の量は小さくできる。
【0036】
逆に、図8のように、上側から下側へ、すなわち前記リザーバ19から圧力室29,30への作動液の流れがある場合、その流れと自重とによりバルブシート56は、弁座54から離れ、圧力室29,30側に弾性変形し、バルブシート56の外側で、前記リザーバ19からの作動液は弁座54とバルブシート56との拡大された通路を通って、圧力室29,30に流れる。したがって、前記マスタシリンダ20の戻り時、リザーバ19の作動液は、抵抗なく(少ない抵抗)圧力室29,30へ補充できる。
【0037】
また、図9のトラクションコントロール装置や車両安定性制御装置などの解除時などのように、下側から上側へ、すなわちマスタシリンダ20の前記圧力室29,30からリザーバ19へ戻される作動液の量が多いときは、バルブシート56がリザーバ19側に弾性変形されて、その通路が拡大される。したがって、作動液は抵抗なく(少ない抵抗)リザーバ19に戻される。
【0038】
図10ないし図14は、本発明のマスタシリンダの第3の実施形態を示し、前記第1の実施形態を示す絞り弁機構としての浮動絞り弁機構43に代えて、2重バルブシート付き絞り弁機構を使用する実施形態であり、図10は、同マスタシリンダの2重バルブシート付き絞り弁機構の閉弁状態の拡大断面図、図11は、図10の絞り弁機構の底面図、図12は、図10のA部の拡大断面図、図13図は、図10の絞り弁機構の開弁状態の断面図、図14は、図10の絞り弁機構の作動液による開弁状態の断面図である。
なお、本実施形態に示す2重バルブシート付き絞り弁機構は、センタバルブ型マスタシリンダ及びプランジャ型マスタシリンダのいずれにも適用できる。
【0039】
この2重バルブシート付き絞り弁機構73は、図10ないし図12に示すように、それぞれ弾性変形可能な弾性材、例えば合成樹脂材からなる薄い板または薄い膜状の、大径バルブシート76と、小径バルブシート77と、前記リザーバ19の前記シリンダボディ21との接続部19a,19bの先端に形成され、該大、小径バルブシート76,77をその中心を重ねながら、前記小径バルブシート77を間に介在させて前記圧力発生室29,30側から、前記大径バルブシート76が当接される弁座74を有するリブ75と、該両バルブシート76,77のそれぞれの中心部分を該リブ75の中央部75aで係止する係止部78とから構成される。
【0040】
そして、前記大径バルブシート76面の、前記小径バルブシール77と重なる部分に、リリーフポートとしての複数個の貫通穴76aを形成するとともに、該大径バルブシート76が変形しない通常の状態で、該大径バルブシート76の外周縁と前記リザーバ19の前記接続部19a,19bの先端の内周面との間に、絞り用のスリット79が形成される。
【0041】
通常、前記2重バルブシート付き絞り弁機構73は、前記リザーバ19の接続部19a,19bが嵌着された、前記マスタシリンダ20のシリンダボディ21の各接続受部41,42内の液通路に、それぞれ配設されているが、前記圧力発生室29,30から前記リザーバ19までの作動液補充通路上であれば、この限りではない。
【0042】
前記マスタシリンダ20の作動開始時、図10で、下側から上側へ、すなわち前記圧力室29,30からリザーバ19への作動液の流れがある場合、その流れにより大径バルブシート76が弁座74に当接して、圧力室29,30からの作動液は、大径バルブシート76の外周縁と前記リザーバ19の接続部19a,19bの先端の内周面との間に形成されている絞り用のスリット79のみを通ってリザーバ19に流れる(このとき、リリーフポートとしての貫通穴76aは閉じている)。したがって、作動開始時、圧力室29,30からリザーバ19に逃げる作動液の量は小さくできる。
【0043】
逆に、図13のように、上側から下側へ、すなわち前記リザーバ19から圧力室29,30への作動液の流れがある場合、その流れにより大径バルブシート76は、弁座74から離れ、圧力室29,30側に弾性変形し、大径バルブシート76の外側で、前記リザーバ19からの作動液は弁座74と大径バルブシート76との拡大された通路を通って、圧力室29,30に流れる。したがって、前記マスタシリンダ20の戻り時、リザーバ19の作動液は、抵抗なく(少ない抵抗)圧力室29,30へ補充できる。
【0044】
また、図14のトラクションコントロール装置や車両安定性制御装置などの解除時などのように、下側から上側へ、すなわちマスタシリンダ20の前記圧力室29,30からリザーバ19へ戻される作動液の量が多いときは、小径バルブシート77がリザーバ19側に弾性変形されて、大径バルブシート76に形成されているリリーフポートとしての貫通穴76aが開く。その結果、通路が拡大されるようになっている。したがって、作動液は抵抗なく(少ない抵抗)リザーバ19に戻される。
【0045】
図15ないし図19は、本発明のマスタシリンダの第4の実施形態を示し、図15は、同マスタシリンダとリザーバの縦断面図、図16は、図15のマスタシリンダ内のセンタバルブの拡大断面図、図17は、図15のシリンダボディとリザーバとの接続部に設けられる絞り弁機構の閉弁状態の拡大断面図、図18は、図15の絞り弁機構の開弁状態の断面図、図19は、図15の絞り弁機構の作動液による開弁状態の断面図である。
なお、本実施形態に示す絞り弁機構は、センタバルブ型マスタシリンダ及びプランジャ型マスタシリンダのいずれにも適用できる。
【0046】
図15ないし図17において、このマスタシリンダ100は、シリンダボディ101のシリンダ本体102に形成したシリンダ穴103に挿入され摺動自在なプライマリピストン104及びセカンダリピストン105を有し、該プライマリピストン104とセカンダリピストン105との間にプライマリ圧力室106を画成し、セカンダリピストン105の外端側にセカンダリ圧力室107を画成している。
【0047】
そして、該マスタシリンダ100は、ピストン104の作動時に着座して圧力室106からリザーバ119への作動液の流れを絞り、該ピストン104の非作動時に開く浮動弁体146をそれぞれ有する浮動絞り弁機構143,143を補充液通路108,109に配設置してある。該浮動絞り弁機構143,143には、その中心に絞り孔146b(図17を参照)を有する弾性材、例えば合成ゴム系材からなる浮動弁体146と、該浮動弁体146が接離する弁座144とを備えており、弁座144をリザーバ119のシリンダボディ101への接続部119a,119bの先端に形成してある。
【0048】
シリンダボディ101は、シリンダ本体102に上向きに突出した筒状の二つの接続受部141,142と、シリンダ穴103の端部を塞ぐ端壁102aとを一体に有し、各圧力室106,107に対応する出力ポート113,114を備え、シリンダ穴103の開口した一端側にプラグ115が液密的に嵌着されスナップリング116で抜け止めされており、各接続受部141,142にリザーバ119の接続部119a,119bが、それぞれシール部材140を介して嵌着されている。また、シリンダボディ101は、対応する圧力室106,107の周壁の内面に開口しリザーバ17の接続部119a,119bに連通する半径方向に沿った液通路110,111が設けられている。
【0049】
プライマリピストン104及びセカンダリピストン105は、軸線方向に沿ったスリット120,121を有し、シリンダボディ101に直径方向に沿って固設されたピン122,123がそれぞれのスリット120,121を通っており、スリット120,121よりも前方の先端部中心に液通路124,125が開けられている。また、プライマリピストン104及びセカンダリピストン105は、これらの間に配置したリターンスプリング126及びシリンダボディ101の端壁102aとの間に配置したリターンスプリング127によって非作動位置方向(図15において右方向)へ付勢されている。
【0050】
各ピストン104,105の先端にはセンタバルブ130が設けられている。このセンタバルブ130は、各ピストン104,105ともに同じものなので、一方のみについて説明する。センタバルブ130は、図16に示すように、ピストン105に嵌着された弾性材料からなる環状の弁座部材131と、ロッド132を一体に有するフランジ状弁体133と、ピストン105の先端に固着したリテーナ134とフランジ状弁体133との間に配置した円錐形スプリング135とを備え、円錐形スプリング135がフランジ状弁体133を弁座部材131に着座させる方向に付勢している。フランジ状弁体133は、ロッド132が弁座部材131及び液通路125を通り、該ロッド132の後端がピン123に対し接離する。
【0051】
プライマリ圧力室106は、ピストン104の先端の液通路124、シリンダボディ101に形成した液通路110、浮動絞り弁機構143、リザーバ119の接続部119aを介してリザーバ119に連通可能である。セカンダリ圧力室107は、ピストン105先端の液通路125、シリンダボディ101に形成した液通路111、浮動絞り弁機構143、接続部119bを介してリザーバ19に連通可能である。また、両圧力室106,107はシリンダ本体102に穿設されたそれぞれ対応する出力ポート113,114を介して図示しない前、後輪のホイールシリンダに連通している。
【0052】
浮動絞り弁機構143,143は、図17に示すように、接続部119a,119bの先端に形成した弁座144と、各接続受部141,142内に接続部119a,119bによって画成された弁室145とを備え、該弁室145内に浮動弁体146を収容して構成されている。
通常、前記浮動絞り弁機構143は、前記リザーバ119の接続部119a,19bが嵌着された、前記マスタシリンダ100のシリンダボディ101の各接続受部141,142内の液通路に、それぞれ配設されているが、前記圧力発生室106,107から前記リザーバ119までの作動液補充通路上であれば、この限りではない。
【0053】
該浮動弁体146は弾性材、例えば合成ゴム系材からなり、中心に絞り孔146bが開けられ、前記接続部119a,119bの先端部の外径より大きい外径を有する円板形弁本体で、その外周に沿って斜め上向きに形成された弁部146cを有する。該接続部119a,119bの先端部は、弁軸方向に浮動する前記浮動弁体146を当接させるとともに、その先端に半径方向に貫通溝119cを有する。そして、前記リザーバ119の前記シリンダボディ101との接続部119a,119b先端部と、該接続部の前記シリンダボディ101側との間の前記弁室145の内周面に、前記浮動弁体146が前記リザーバ119側に移動するとき前記弁部146cが当接して閉弁し、前記シリンダボディ101側に移動するとき開弁するような、前記弁軸に対し一部傾斜面を有するするシート面147が形成されている。
【0054】
そして、前記マスタシリンダ100の作動開始時、図17で、下側から上側へ、すなわち前記圧力室106,107からリザーバ119への作動液の流れがある場合、浮動絞り弁機構143は、その作動液の流れにより浮動弁体146が浮上して弁座144に当接し、閉弁状態になり、作動液が絞り穴146bのみを通じて上方へ流れるように作用する。したがって、作動開始時、圧力室106,107からリザーバ119に逃げる作動液の量は小さくできる。
【0055】
逆に、図18のように、上側から下側へ、すなわち前記リザーバ119から圧力室106,107への作動液の流れがある場合、その作動液の流れと自重とにより浮動弁体146が降下して弁座144から離れるとともに、シート面147に形成された傾斜角により、浮動弁体146の弁部146cが該シート面147から離れて、開弁状態になり、リザーバ119の作動液は、弁座144と浮動弁体146との間、該弁体146の外側を通って下方の圧力室106,107へ流れるように作用する。したがって、前記マスタシリンダ100の戻り時、リザーバ119の作動液は、抵抗なく(少ない抵抗)圧力室106,107へ補充できる。
【0056】
また、図19のトラクションコントロール装置や車両安定性制御装置などの解除時などのように、下側から上側へ、すなわちマスタシリンダ100の前記圧力室106,107からリザーバ119へ戻される作動液の量が多いときは、その作動液の大きな流れにより、前述のように閉弁状態になるが、作動液の流れの押圧力により、前記弁体146の弁部146cを押し曲げてシート面147から離し(弾性変形させる)、通路を拡大しながら、接続部119a,119bの先端部にある貫通溝119cを経て、上方へ流れるように作用する。したがって、作動液は抵抗なく(少ない抵抗)リザーバ19に戻される。
なお、浮動弁体146は、図17に示すように、圧縮スプリング148で上向きに小さな付勢力を付与するようにしてもよい。
【0057】
なお、本発明の技術は前記実施例における技術に限定されるものではなく、同様な機能を有する他の態様の手段によってもよく、また本発明の技術は前記構成の範囲内において種々の変更、付加が可能である。
【0058】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように本発明のマスタシリンダによれば、絞り弁機構の弁体が、前記ピストンの摺動方向に平行に配置された浮動弁体であり、前記ピストンの作動時に、前記圧力発生室から前記リザーバへの作動液の流れを絞るための絞り穴で、該穴に複数のスリットが形成された前記絞り穴を有する前記弁体の弁座への当接による絞り機能と、前記ピストンの戻り時に、前記弁体が作動液の流れと自重とにより降下して前記弁座から離れて開弁し、該弁体の外周に沿って前記弁座と反対向きに形成された複数のリブで、該リブのそれぞれの間に形成された切欠き状の複数の液通路を介して、前記リザーバから前記圧力発生室への作動液の流れを許容するバルブ機能と、該圧力発生室から前記リザーバへの作動液の流れが大きいとき、前記弁体が該流れの押圧力により前記スリットを押し広げるように前記絞り穴を弾性変形させて液通路を拡大し、前記流れを許容するリリーフ弁機能とを有する、弾性材からなる前記絞り弁機構を、前記液通路に配設するので、トラクションコントロール装置や車両安定性制御装置を備えた車両であって、マスタシリンダの作動開始時に、リザーバに逃げる作動液の量を少なくするとともに、前記トラクションコントロール装置や車両安定性制御装置の解除時の液圧変動に素早く対応できる、簡単で、かつ大型化しない弁構造を備える。同時に、前記マスタシリンダのピストン無効ストロークを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のマスタシリンダの第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のシリンダボディとリザーバとの接続部に設けられる絞り弁機構の閉弁状態の拡大断面図である。
【図3】図2の絞り弁機構の浮動弁体を示す底面図図である。
【図4】図2の絞り弁機構の開弁状態の断面図である。
【図5】図2の絞り弁機構の作動液による開弁状態の断面図である。
【図6】本発明のマスタシリンダの第2の実施形態を示す絞り弁機構の閉弁状態の拡大断面図である。
【図7】図6の絞り弁機構の底面図である。
【図8】図6の絞り弁機構の開弁状態の断面図である。
【図9】図6の絞り弁機構の作動液による開弁状態の断面図である。
【図10】本発明のマスタシリンダの第3の実施形態を示す絞り弁機構の閉弁状態の拡大断面図である。
【図11】図10の絞り弁機構の底面図である。
【図12】図10のA部の拡大断面図である。
【図13】図10の絞り弁機構の開弁状態の断面図である。
【図14】図10の絞り弁機構の作動液による開弁状態の断面図である。
【図15】本発明のマスタシリンダの第4の実施形態を示す、マスタシリンダとリザーバの縦断面図である。
【図16】図15のマスタシリンダ内のセンタバルブの拡大断面図である。
【図17】図15のシリンダボディとリザーバとの接続部に設けられる絞り弁機構の閉弁状態の拡大断面図である。
【図18】図15の絞り弁機構の開弁状態の断面図である。
【図19】図15の絞り弁機構の作動液による開弁状態の断面図である。
【図20】従来のマスタシリンダの縦断面図である。
【符号の説明】
19,119 リザーバ
19a,19b,119a,119b 接続部
20,100 マスタシリンダ
21,101 シリンダボディ
22,102 シリンダ本体
22b,24a,108,109 液通路
27,104 プライマリピストン
28,105 セカンダリピストン
29,106 プライマリ圧力室
30,107 セカンダリ圧力室
31,32,126,127 リターンスプリング
33,34,113,114 出力ポート
41,42,141,142 接続受部
43、143 浮動絞り弁機構
44,54,74,144 弁座
46,146 浮動弁体
46b,146b,161a 絞り穴
46c,58,79 スリット
53 バルブシート付き絞り弁機構
55,75 リブ
56,76,77 バルブシート
73 2重バルブシート付き絞り弁機構
76a 貫通穴(リリーフポート)
119c 貫通溝
146c 弁部
147 シート面
Claims (3)
- シリンダボディに形成されたシリンダ穴にピストンが摺動自在に配設され、前記ピストンとシリンダボディにより、圧力発生室を区画し、前記圧力発生室とリザーバとを連通し作動液を前記圧力発生室へ補充するための液通路を備え、前記ピストンの作動時に前記圧力発生室で昇圧された作動液を出力ポートに吐出するマスタシリンダにおいて、
絞り弁機構の弁体が、前記ピストンの摺動方向に平行に配置された浮動弁体であり、前記ピストンの作動時に、前記圧力発生室から前記リザーバへの作動液の流れを絞るための絞り穴で、該穴に複数のスリットが形成された前記絞り穴を有する前記弁体の弁座への当接による絞り機能と、前記ピストンの戻り時に、前記弁体が作動液の流れと自重とにより降下して前記弁座から離れて開弁し、該弁体の外周に沿って前記弁座と反対向きに形成された複数のリブで、該リブのそれぞれの間に形成された切欠き状の複数の液通路を介して、前記リザーバから前記圧力発生室への作動液の流れを許容するバルブ機能と、該圧力発生室から前記リザーバへの作動液の流れが大きいとき、前記弁体が該流れの押圧力により前記スリットを押し広げるように前記絞り穴を弾性変形させて液通路を拡大し、前記流れを許容するリリーフ弁機能とを有する、弾性材からなる前記絞り弁機構を、前記液通路に配設することを特徴とするマスタシリンダ。 - 前記絞り弁機構が、前記リザーバの前記シリンダボディとの接続部先端に設けられた弁座と、該弁座に着座する弁座面を有するとともに、絞り穴と、ほぼ中央部に複数のスリットとが形成された弾性材からなる浮動弁体とから構成される浮動絞り弁機構であることを特徴とする請求項1に記載のマスタシリンダ。
- 前記絞り機構が、絞り穴が形成された弾性材からなる浮動弁体と、弁軸方向に浮動する前記浮動弁体を当接させる弁座を形成するとともに、前記リザーバの前記シリンダボディとの接続部の先端に貫通溝を有する先端部と、該接続部の前記シリンダボディ側との通路である弁室の内周面に、前記浮動弁体が前記リザーバ側に移動するとき閉弁し、前記シリンダボディ側に移動するとき開弁するような、前記弁軸に対し傾斜して形成されるシート面とから構成される浮動絞り機構であることを特徴とする請求項1に記載のマスタシリンダ。
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