JP3983341B2 - 炭化珪素、及び炭化珪素の製造方法 - Google Patents

炭化珪素、及び炭化珪素の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、結晶境界面が少なく、結晶性と電気的特性に優れる等の特性を有し、半導体及び結晶成長用基板等として利用可能な単結晶炭化珪素(膜)、及び単結晶炭化珪素(膜)等の製造方法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
炭化珪素は、広い禁制帯幅と優れた化学的安定性と耐環境性を有する半導体材料である。そのため、炭化珪素は、珪素を中心とした従来の半導体では適用が困難であった高電圧、高温、又は放射線照射下での使用に期待が持たれている。炭化珪素を製造するためには、昇華法、液相エピタキシャル成長法、スパッタリング法、気相化学堆積(CVD)法等のエピタキシャル成長法が用いられている。
【0003】
昇華法は、るつぼ内で原料である炭化珪素を2000〜2500℃の温度で昇華させ、原料の上方部に配置され原料より50〜200℃低い温度である炭化珪素単結晶からなる種結晶に向かって昇華ガスを生じさせ、この種結晶上に炭化珪素単結晶を成長させる方法である(例えば、特公平7-88274号公報、特公平7-91153号公報参照)。
【0004】
液相エピタキシャル成長法では、1650〜1800℃の温度の構成元素として炭素を含むるつぼ内で珪素を溶融させ、この溶融珪素とるつぼの構成元素である炭素との反応により生成した炭化珪素を珪素融液内に溶解させ、融液面に接触させた種結晶に炭化珪素を成長させることで単結晶炭化珪素を作製できる(例えば、特開平7-172998号公報参照)。
【0005】
スパッタリング法では、ターゲット材に立方晶炭化珪素を用いることにより、炭化珪素膜を成膜している。この際、基板を単結晶珪素、あるいは単結晶炭化珪素とし基板温度を1200℃以上にすると、単結晶の炭化珪素が作製できる。
【0006】
気相化学堆積(CVD)法では、珪素の原料ガスと炭素の原料ガスを基板上に供給することによって、珪素基板表面に炭化珪素を析出させている(例えば、J.A.Powell et al.,ジャーナル・オブ・エレクトロケミカル・ソサエティー(J.Electrochem.Soc.) 134,(1987) 1558)。さらに、これらの原料ガスを交互に反応炉内へ供給することにより、均一性の高い単結晶炭化珪素が作製できる(例えば、特開平5-1380号公報参照)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来の気相化学堆積法により珪素、炭化珪素、サファイヤなどの単結晶基板上に成膜された立方晶炭化珪素膜は、基板と膜との界面を端とする<100>方向に沿う多数の結晶境界面を有している。炭化珪素は、極性結晶であるため、{100}方位及び{111}方位へ1原子層毎に珪素原子層と炭素原子層が積層した構造を有する。鏡面研磨された珪素、炭化珪素、サファイヤなどの単結晶基板表面は、数原子層分に相当する段差(ステップ)と、この段差を境にして上下に存在する原子レベルで平坦な領域(テラス)とで構成されている。各テラスの幅は、数nmから数十nmである。基板表面に奇数原子層分に相当する段差が存在する場合、段差に対して上方テラスの珪素原子面の高さは、下方テラスの炭素原子面と一致し珪素原子面の高さと一致しない。同様に、上方テラスの炭素原子面の高さは、下方テラスの珪素原子面と一致し炭素原子面の高さと一致しない。上方テラスに成長した炭化珪素の結晶方位は、下方テラスに成長した炭化珪素の結晶方位を表面に対する法線を軸に90度回転しており、その間に境界面が存在する。この結晶境界面は、反位相境界(Anti Phase Boundary)面と呼ばれている。
【0008】
このような反位相境界は、種結晶上に昇華法、及び液相エピタキシャル成長法により成長させた立方晶炭化珪素内、並びにスパッタリング法により単結晶珪素上に成膜した立方晶炭化珪素内にも存在する。
【0009】
炭化珪素やガリウム砒素に代表される極性半導体結晶中に反位相境界が存在すると、電気的中性条件が損なわれるために結晶中のキャリアは散乱される。その結果、易動度などの半導体の電気的特性は劣化する。すなわち、反位相境界の存在する炭化珪素膜を用いて作製した半導体ディバイスは、キャリア易動度が低いことによりディバイスとしての特性を達成できないという問題点を有する。
【0010】
本発明は上述した背景の下になされたものであり、炭化珪素膜の成長途中で反位相境界の消滅を促進させることで、反位相境界密度が低く結晶性や各種特性に優れた炭化珪素及びその製造方法の提供を目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明の炭化珪素は、基板上にエピタキシャル成長して得られた単結晶炭化珪素であって、前記炭化珪素は、結晶構造中に反位相境界を含み、該反位相境界を挟んで隣り合う領域のうち少なくともどちらか一方の領域上に形成された原子配列修正層を介して炭化珪素が成長していることを特徴とする構成としてある。
【0012】
また、本発明の炭化珪素は、上記本発明の炭化珪素において、上記原子配列修正層が、珪素単原子層領域上に形成された珪素単原子層、あるいは炭素単原子層領域上に形成された炭素単原子層であることを特徴とする構成としてある。
【0013】
さらに、本発明の炭化珪素の製造方法は、上記本発明の炭化珪素を製造する方法であって、結晶構造中に反位相境界を含む炭化珪素を成長させた後、該反位相境界を挟んで隣り合う領域のうち少なくともどちらか一方の領域上に、該領域の最表面原子と同種の原子を吸着させることにより原子配列修正層を形成する工程を介在させ、次いで炭化珪素をさらに成長させることを特徴とする構成としてある。
【0014】
また、本発明の炭化珪素の製造方法は、上記本発明の炭化珪素の製造方法において、
原子配列修正層を形成する工程は、珪素原料ガス又は炭素原料ガスを単独で供給する工程を含むことを特徴とする構成、
結晶構造中に反位相境界を含む炭化珪素は、炭原料ガスとしてシラン系化合物ガスと炭化水素ガスを用いる気相化学堆積(CVD)法で成長させた炭化珪素であり、かつ、前記原子配列修正層を形成した後、再び、気相化学堆積法を用いて炭化珪素を成長させることを特徴とする構成、
前記気相化学堆積(CVD)法は、シラン系化合物ガスと炭化水素ガスを交互に反応炉内へ供給して成長させる方法により行うことを特徴とする構成、
結晶構造中に反位相境界を含む炭化珪素は、昇華法で成長させた炭化珪素であり、かつ、前記原子配列修正層を形成した後、再び、昇華法を用いて炭化珪素を成長させることを特徴とする構成、
結晶構造中に反位相境界を含む炭化珪素は、液相エピタキシャル成長法で成長させた炭化珪素であり、かつ、前記原子配列修正層を形成した後、再び、液相エピタキシャル成長法を用いて炭化珪素を成長させることを特徴とする構成、あるいは、
結晶構造中に反位相境界を含む炭化珪素は、スパッタリング法で成長させた炭化珪素であり、かつ、前記原子配列修正層を形成した後、再び、スパッタリング法を用いて炭化珪素を成長させることを特徴とする構成としてある。
【0015】
さらに、本発明の炭化珪素の製造方法は、上記本発明の炭化珪素の製造方法を用いて得られた炭化珪素について、反位相境界が高密度で存在している欠陥層をエッチングにより除去する構成としてある。
【0016】
また、本発明の炭化珪素は、珪素原子層と炭素原子層とを交互に規則正しく積層した構造を有し、反位相境界を有しない構成としてある。
【0017】
【作用】
本発明では、炭化珪素内に存在する結晶粒界面が反位相境界であり、境界を挟んで原子の配列順序が逆になっていることに着目した。
本発明では、反位相境界を境にして隣り合う領域の同じ原子面の高さにおける原子の種類を一致させることで、それ以降、原子の配列順序を同じとし、反位相境界を消滅させる。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の炭化珪素の製造方法は、炭化珪素の成長途中で、反位相境界を挟んで隣り合う領域のうち少なくともどちらか一方の領域上に、その領域の最表面原子と同種の原子を吸着させることにより原子配列修正層を形成することを特徴としている。
【0020】
炭化珪素は、極性結晶であり基板から表面に向かって異種原子が交互に積層した構造を有する。成長前の基板、あるいは種結晶表面に奇数原子層分に相当する段差が存在すると、反位相境界が形成され、反位相境界を挟んで隣り合う領域において、同じ原子面の高さにおける原子の種類は互いに異なったものとなってしまう。そこで、反位相境界を挟んで隣り合う領域のうち、どちらか一方の領域上に、その領域の最表面原子と同種の原子を吸着させることにより、それ以降反位相境界を挟んで隣り合う領域上に形成された原子層の同じ原子面の高さにおける原子の種類が一致する。前記領域に吸着された最表面原子と同種の原子層が原子配列修正層に相当する。
【0021】
一度隣り合う領域の同じ原子面の高さにおける原子の種類が一致すると、それ以降は隣り合っていた領域の表面上に原子が同じ積層順序で成長するため、反位相境界の消滅を促進させることが可能となる。
【0022】
どちらか一方の領域上にその領域の最表面原子と同種の原子を吸着させることにより原子配列修正層を形成するには、昇華法、液相エピタキシャル成長法、スパッタリング法、気相化学堆積(CVD)法などのエピタキシャル成長法による成長途中、あるいは、それらの方法で既に成長させた炭化珪素表面に、珪素あるいは炭素のどちらか一方の原料ガスのみを全面に供給することにより、反位相境界を挟んで隣り合う領域のうち、どちらか一方の領域上に、その領域の最表面原子と同種の原子層が形成され反位相境界が消滅することを、本発明者らは見い出した。
【0023】
例えば、原子配列修正層の形成に珪素原料ガス(例えばジクロルシラン)を用いた場合、次のような作用により原子配列修正層が形成されることが考えられる。すなわち、ジクロルシランは、反応管内で熱分解しSiCl2分子となり表面に吸着する。そのあと水素を供給すると、SiCl2分子から塩素原子が脱離して、表面はダングリングボンドを有する珪素原子で覆われる。最表面の珪素原子は、一方の領域では3つの炭素原子と結合して1つのダングリングボンドを有し、他方の領域では1つの炭素原子と結合して3つのダングリングボンドを有する。ダングリングボンド密度の違いから、各領域の表面エネルギーは異なる。原子あるいは分子は、なるべく表面エネルギーを低く保つように吸着する。そのため表面エネルギーの違いから各領域への原子あるいは分子の吸着には選択性が発現する。そして、SiCl2分子は、3つのダングリングボンドを有し表面エネルギーが高い方の領域へ選択的に吸着するため、この領域に珪素単原子層/珪素単原子層/炭素単原子層なる積層構造を挿入することが可能となる。このことは、原料ガスとしてSiHCl3を使用した場合も同様である。
【0024】
また、反位相境界を挟んで隣り合う領域のうち、どちらか一方の領域上に、その領域の最表面原子と同種の原子層を形成する際に、他方の領域上を例えば原料ガスの吸着を妨げる膜で被覆する等の手段により、選択的にどちらか一方の領域に最表面原子と同種の原子を選択的に吸着させるようにすれば、より確実に反位相境界を消滅させることができると考えられる。
【0025】
本発明では、成膜の途中でどちらか一方の原子層を成膜する必要があることから、成長装置は、少なくとも一種類のシラン系化合物ガス又は炭化水素ガスを単独に供給できるシステムにしなければならない。
【0026】
上述した成長法のうち、特に、シラン系化合物ガスと炭化水素ガスを減圧下の反応炉内へ交互に供給し珪素基板上にエピタキシャル成長させて得られる炭化珪素は、結晶性、面内均一性及び表面ホモロジーに優れる。しかし、交互供給法では、図1に示すように、基板1表面に珪素原子と炭素原子が交互に積層されるため、段差(ステップ)2に起因して炭化珪素3における領域4の最表面と領域5の最表面が同種原子になると予想される。このような表面にどちらか一方の原子層を成膜しても、反位相境界6は消滅しない。ここで、図2に示すように、炭化珪素3の表面に存在する領域5へ、その最表面原子と同種類の原子を吸着して、領域5上に原子配列修正層7を挿入することで、反位相境界6は消滅する。
【0027】
上記本発明方法によって基板上に形成された炭化珪素膜は、この炭化珪素膜表面を絶縁体と接合し、基板を除去した後、炭化珪素膜の欠陥層を除去することで、絶縁体上に半導体薄膜を形成した構造のSOI(semiconductor-on-ansulator)構造とすることができる。
【0028】
ここで、炭化珪素膜と絶縁体との接合は、例えば、陽極接合、低融点ガラスによる接着、直接接合、又は、接着剤による接合などの方法によって行うことができる。陽極接合は、電荷移動可能なイオンを含むガラス(例えば、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、フッリン酸塩ガラスなど)と炭化珪素膜とを接触させた後、電界を印加することで接合する方法である。この場合、接合温度は200〜300℃、印加電圧は500〜1000V、荷重は500〜1000g/cm2程度である。低融点ガラスによる接着は、炭化珪素膜表面上にスパッタリング法などにより低融点ガラスを堆積させ、荷重及び熱を加えて、ガラス同士を接着する方法である。直接接合は、炭化珪素膜を直接ガラスに静電気力により接触、結合させ、その後、荷重及び熱を加えて界面における結合を強化する方法である。
【0029】
基板の除去は、例えば、ウエットエッチングなどにより行うことができる。例えば、珪素基板の除去は、HFとHNO3の混酸(HF:HNO3=7:1)に浸漬することで行うことができる。
【0030】
欠陥層の除去は、炭化珪素膜の基板界面近傍に反位相境界が高密度で存在している欠陥層を除去する目的で行う。欠陥層の除去は、例えば、ドライエッチングなどにより行うことができる。例えば、CF4(40sccm)、O2(10sccm)をエチングガスとし、RFパワー300Wで反応性イオンエッチングを行うことで欠陥層を除去できる。
【0031】
SOI構造体(基板)の用途としては、例えば、半導体用基板、TFT液晶用基板などにおける透明導電膜、光磁気記録媒体におけるカー効果用の誘電層、マイクロマシン、各種センサー(応力センサーなど)、X線透過膜などが挙げられる。
【0032】
【実施例】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。
【0033】
実施例1
図3及び図4は、本発明の一実施例に係る炭化珪素の製造方法における各工程を示す縦断面図である。
【0034】
6インチの直径を有する単結晶珪素(111)基板を反応炉内に設置し、アセチレンと水素の雰囲気中で1020℃まで加熱する。ここで、珪素を基板として炭化珪素を成長させる場合、炭化珪素と珪素基板との界面に生じる結晶格子の不整合により、成長した炭化珪素の結晶性や、結晶表面のホモロジーが悪化するという問題がある。そのため、珪素基板上に炭化珪素を成長させる場合には、珪素基板の表面を炭素雰囲気中で炭化し、極薄の炭化珪素層を形成する必要がある(小野他、電気通信学会信学技報、SSD80,(1980)125)。本実施例では、図3に示すように、あらかじめアセチレンと水素を供給したうえで珪素基板を1020℃で60分間保つことで珪素基板表面を炭化する。このときの炭化条件を表1に示した。エリプソメトリを用いて珪素基板表面の炭化層の膜厚を測定したところ200オングストロームであることが確認された。
【0035】
炭化層を形成した後、図4に示すように、引き続き基板温度1100℃の状態で珪素の原料ガスと炭素の原料ガスを反応炉内へ供給することで、炭化珪素の成長を実施する。このときの成長条件の詳細を表2に示す。珪素の原料ガスとしては、ジクロルシラン(SiH2Cl2)を使用したが、SiH4、SiCl4、SiHCl3などを用いても差し支えない。また、炭素の原料ガスとしては、アセチレン(C22)を使用したが、CH4、C26、C38などを用いることもできる。
【0036】
本実施例における成膜工程では、まず、上記図4に示した工程で炭化珪素膜を100オングストローム成長させる。そのときの状態を図5(a)に示す。
その後、反応炉内へジクロルシランガスを単独で30秒間供給する(図5(b))。この一連の工程を10回繰り返す。そのときの状態を図5(c)に示す。
【0037】
さらに、再び、図4に示した工程で炭化珪素の成長を実施する。なお、成長させた炭化珪素は立方晶であり、その膜厚は1μmである。
【0038】
本実施例で成長させた炭化珪素表面をAFM観察した。炭化珪素表面に存在する反位相境界の密度は5×107cm-2であった。ただし、AFM表面観察は、炭化珪素の表面を処理し反位相境界を顕在化させたあとに行った。
【0039】
膜中に反位相境界などの結晶境界面が存在すると、局所的に結晶軸配向が単結晶の結晶軸配向からずれる。そのため、特定の格子間隔を有する結晶面の結晶軸配向の分散を表す指標であるX線ロッキングカーブの半値幅は、反位相境界などの結晶境界面が存在すると広がる。そこで、炭化珪素膜内に存在する反位相境界量を判断するために、X線ロッキングカーブの測定を実施した。測定は、立方晶炭化珪素(111)ピークに対して行った。この立方晶炭化珪素(111)ピークに対するX線ロッキングカーブの半値幅は0.56度であった。
【0040】
本実施例により得られた炭化珪素の不純物濃度は6×1016/cm3、易動度は170cm2/(V・sec)であった。
以上の結果を表4に示す。
【0041】
比較例1
従来の気相化学堆積法によって、単結晶珪素(111)基板上への炭化珪素の成膜を実施した。具体的には、図3に示した工程で珪素基板の表面に表面炭化層を形成した後、図4に示した工程だけで炭化珪素膜を厚さ1μmまで成長させた。このときの成長条件の詳細は表2と同じである。
【0042】
反位相境界の密度を求めるために、AFM表面観察を実施した。従来法に基づく製造方法を用いて成膜した炭化珪素膜表面に存在する反位相境界の密度は7×108cm-2であった。
【0043】
炭化珪素膜の結晶性を調べるために、X線ロッキングカーブの測定を実施した。測定は、立方晶炭化珪素(111)ピークに対して行った。この立方晶炭化珪素(111)ピークに対するX線ロッキングカーブの半値幅は1.05度であった。
従来法により得られた炭化珪素薄膜の不純物濃度は2×1018/cm3、易動度は29cm2/(V・sec)であった。
以上の結果を表4に示す。
【0044】
実施例2
図6に示すように、ジクロルシランとアセチレンを交互に反応路内へ供給する工程を20回繰り返す。この成長条件の詳細を表3に示す。
その後、図5(b)に示すように、炭化珪素表面にジクロルシランを30秒間供給する工程を10回繰り返す。なお、ジクロルシランを供給する工程の間でジクロルシランの供給を停止する間隔は28秒間とした。
その後、再び、図6に示した工程を表3に示す条件で1000回繰り返す。以上の方法で単結晶珪素(111)基板表面に炭化珪素を成長させる。なお、成長させた炭化珪素の全膜厚は1μmである。
【0045】
炭化珪素膜の結晶性を調べるために、X線ロッキングカーブの測定を実施した。測定は、立方晶炭化珪素(111)ピークに対して行った。本実施例で成長させた立方晶炭化珪素(111)ピークに対するX線ロッキングカーブの半値幅は0.50度であった。
反位相境界の密度を求めるために、AFM表面観察を実施した。本実施例に基づく製造方法を用いて成膜した炭化珪素膜表面に存在する反位相境界の密度は3×107cm-2であった。
図7に、エリプソメトリにより測定した膜厚分布を示す。6インチ面内での膜厚のばらつき(3σ/平均膜厚)は、4.4%であった。
本実施例により得られた炭化珪素薄膜の不純物濃度は5×1016/cm3、易動度は196cm2/(V・sec)であった。
以上の結果を表4に示す。
【0046】
これらの結果から明らかなように、珪素と炭素の原料ガスを交互に供給して炭化珪素を成長させる方法を用いると、特に結晶性及び均一性の高い炭化珪素が得られる。
【0047】
比較例2
ジクロルシランとアセチレンを交互に反応路内へ供給する工程を1200回繰り返す。この成長条件の詳細を表3に示す。以上の方法で単結晶珪素(111)基板表面に炭化珪素を成長させる。なお、成長させた炭化珪素の全膜厚は1μmである。
【0048】
反位相境界の密度を求めるために、AFM表面観察を実施した。本比較例に基づく製造方法を用いて成膜した炭化珪素膜表面に存在する反位相境界の密度は5×108cm-2であった。
【0049】
実施例3
本実施例では、まず、原料である炭化珪素を昇華させて単結晶炭化珪素を成長させる。原料には研磨用高純度炭化珪素を用い、基板にはアチソン法によって作製した6H−SiCを用いた。原料温度は2200℃とし、基板温度は1700℃とした。成長時の炉内圧力は、1Torr とした。以上の昇華法で立方晶炭化珪素を0.05μm成長させた。
その後、図5(b)に示すように立方晶炭化珪素表面にジクロルシランを30秒間供給する。この一連の工程を10回繰り返す。なお、ジクロルシランを供給する工程の間でジクロルシランの供給を停止する間隔は28秒間とした。
その後、再び、上述した昇華法で原料である炭化珪素を昇華させて炭化珪素を成長させる。なお、成長させた炭化珪素の全膜厚は1μmである。
【0050】
反位相境界の密度を求めるために、AFM表面観察を実施した。本実施例に基づく製造方法を用いて成膜した炭化珪素膜表面に存在する反位相境界の密度は7×107cm-2であった。
【0051】
さらに、図5(b)に示すジクロルシランを供給する工程の回数をそれぞれ、2、4、6、8回としたときの反位相境界密度等を調べた。その結果を表4に示す。
【0052】
比較例3
昇華法だけを用いて、原料である炭化珪素を昇華させて単結晶炭化珪素を成長させた。原料には研磨用高純度炭化珪素を用い、基板にはアチソン法によって作製した6H−SiCを用いた。原料温度は2200℃とし、基板温度は1700℃とした。成長時の炉内圧力は、1Torr とした。以上の昇華法で立方晶炭化珪素を1μm成長させた。
【0053】
反位相境界の密度を求めるために、AFM表面観察を実施した。本比較例に基づく製造方法を用いて成膜した炭化珪素膜表面に存在する反位相境界の密度は5×108cm-2であった。
【0054】
実施例4
本実施例では、まず、温度1700℃の黒鉛るつぼ内で珪素を溶融させ、この珪素融液内にるつぼの構成元素である炭素と珪素との反応により生成した炭化珪素を溶解させ、融液面に接触させた種結晶に炭化珪素結晶を液相エピタキシャル成長させる。炭化珪素が0.05μm成長したところで、一旦、炭化珪素結晶を融液面から引き上げる。
その後、図5(b)に示すように上記炭化珪素表面にジクロルシランを30秒間供給する。この一連の工程を10回繰り返す。なお、ジクロルシランを供給する工程の間でジクロルシランの供給を停止する間隔は28秒間とした。
その後、再び、上述した融液に接触させて炭化珪素結晶を液相エピタキシャルさせる。なお、成長させた炭化珪素の全膜厚は1μmである。
【0055】
反位相境界の密度を求めるために、AFM表面観察を実施した。本実施例に基づく製造方法を用いて成膜した炭化珪素膜表面に存在する反位相境界の密度は9×107cm-2であった。
【0056】
比較例4
液相エピタキシャル成長法だけを用いて、温度1700℃の黒鉛るつぼ内で珪素を溶融させ、この珪素融液内にるつぼの構成元素である炭素と珪素との反応により生成した炭化珪素を溶解させ、融液面に接触させた種結晶に炭化珪素結晶を液相エピタキシャルさせる。なお、成長させた炭化珪素の全膜厚は1μmである。
【0057】
反位相境界の密度を求めるために、AFM表面観察を実施した。本比較例に基づく製造方法を用いて成膜した炭化珪素膜表面に存在する反位相境界の密度は7×108cm-2であった。
【0058】
実施例5
本実施例では、まず、スパッタリング法により基板表面に単結晶炭化珪素を成長させる。基板は珪素(111)単結晶とし、ターゲットは多結晶である立方晶炭化珪素とした。チャンバー内の温度は1100℃とし、基板温度は1250℃とした。RF電位は2kVとし、RFパワーは4W/cm2とした。スパッタガスはArとし、スパッタ時のチャンバー内の圧力は4×10-2Torrとした。炭化珪素が0.05μm成長したところで、一旦、スパッタリングを中止する。
その後、図5(b)に示すように炭化珪素表面にジクロルシランを30秒間供給する。この一連の工程を10回繰り返す。なお、ジクロルシランを供給する工程の間でジクロルシランの供給を停止する間隔は28秒間とした。
その後、再び、上述したスパッタリング法により単結晶炭化珪素を成長させる。なお、成長させた炭化珪素の全膜厚は1μmである。
【0059】
反位相境界の密度を求めるために、AFM表面観察を実施した。本実施例に基づく製造方法を用いて成膜した炭化珪素表面に存在する反位相境界の密度は1×108cm-2であった。
【0060】
比較例5
スパッタリング法だけを用いて、基板表面に単結晶炭化珪素を1μm成長させる。基板は珪素(111)単結晶とし、ターゲットは多結晶である立方晶炭化珪素とした。チャンバー内の温度は1100℃とし、基板温度は1250℃とした。RF電位は2kVとし、RFパワーは4W/cm2とした。スパッタガスはArとし、スパッタ時のチャンバー内の圧力は4×10-2Torrとした。
【0061】
反位相境界の密度を求めるために、AFM表面観察を実施した。本比較例に基づく製造方法を用いて成膜した炭化珪素表面に存在する反位相境界の密度は9×108cm-2であった。
【0062】
実施例1〜5及び比較例1〜5における反位相境界密度の測定結果を表5にまとめて示す。
表5から、本発明方法で作製した炭化珪素は、従来法で作製した炭化珪素に比べ、反位相境界が少なく、膜の電気的特性に優れていることがわかる。
【0063】
実施例6
単結晶珪素(111)基板上に、図5(b)に示した本発明の成膜工程の繰り返し回数を変化させて炭化珪素を成長させた。
図8に、図5(b)に示した本発明の成膜工程の繰り返し回数に対する炭化珪素膜表面における反位相境界密度の変化を示す。
図9に、図5(b)に示した本発明の成膜工程の繰り返し回数に対する炭化珪素膜のX線ロッキングカーブ半値幅の変化を示す。
図10に、図5(b)に示した本発明の成膜工程の繰り返し回数に対する炭化珪素膜の電気的特性の変化を示す。
また、表4に、図5(b)に示した本発明の成膜工程の繰り返し回数を変化させたときの炭化珪素膜の膜特性の変化を示す。
図8〜10及び表4から、図5(b)に示した本発明の成膜工程の繰り返し回数が増加すると、反位相境界密度が減少し、膜の結晶性、及び膜の電気的特性が向上することがわかる。
このように本発明で作製した炭化珪素は、結晶境界密度が小さいため非常に優れた電気的特性を有するので、半導体基板や結晶成長用基板(種結晶を含む)として極めて好適に用いることができる。
【0064】
【表1】
Figure 0003983341
【表2】
Figure 0003983341
【表3】
Figure 0003983341
【表4】
Figure 0003983341
【表5】
Figure 0003983341
【0065】
以上好ましい実施例をあげて本発明を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。
【0066】
例えば、炭化珪素膜の成膜条件や膜厚、使用する基板などは実施例のものに限定されない。
【0067】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の炭化珪素及びその製造方法によれば、炭化珪素膜の成長途中で反位相境界の消滅を促進させることで、反位相境界密度が低く結晶性や各種特性に優れた炭化珪素を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】炭化珪素の成長を説明するための図である。
【図2】本発明による選択的吸着を説明するための図である。
【図3】本発明の一実施例における一工程を説明するための縦断面図である。
【図4】本発明の一実施例における他の工程を説明するための縦断面図である。
【図5】本発明の実施例における特徴的工程を説明するための図である。
【図6】本発明の他の実施例における一工程を説明するための縦断面図である。
【図7】測定位置と膜厚との関係(膜厚分布)を示す図である。
【図8】図5(b)に示す工程の繰り返し回数と反位相境界密度との関係を示す図である。
【図9】図5(b)に示す工程の繰り返し回数とX線ロッキングカーブ半値幅との関係を示す図である。
【図10】図5(b)に示す工程の繰り返し回数と易動度及び不純物密度との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 基板
2 段差(ステップ)
3 炭化珪素
4 領域
5 領域
6 反位相境界
7 原子配列修正層

Claims (10)

  1. 基板上にエピタキシャル成長して得られた単結晶炭化珪素であって、前記炭化珪素は、結晶構造中に反位相境界を含み、該反位相境界を挟んで隣り合う領域のうち少なくともどちらか一方の領域上に形成された原子配列修正層であって、該領域の最表面原子と同種の原子の層である原子配列修正層を介して炭化珪素が成長していることを特徴とする炭化珪素。
  2. 前記原子配列修正層が、珪素単原子層領域上に形成された珪素単原子層、あるいは炭素単原子層領域上に形成された炭素単原子層であることを特徴とする請求項1記載の炭化珪素。
  3. 請求項1記載の炭化珪素を製造する方法であって、結晶構造中に反位相境界を含む炭化珪素を成長させた後、該反位相境界を挟んで隣り合う領域のうち少なくともどちらか一方の領域上に、該領域の最表面原子と同種の原子を吸着させることにより原子配列修正層を形成する工程を介在させ、次いで炭化珪素をさらに成長させることを特徴とする炭化珪素の製造方法。
  4. 原子配列修正層を形成する工程は、珪素原料ガス又は炭素原料ガスを単独で供給する工程を含むことを特徴とする請求項3記載の炭化珪素の製造方法。
  5. 結晶構造中に反位相境界を含む炭化珪素は、原料ガスとしてシラン系化合物ガスと炭化水素ガスを用いる気相化学堆積(CVD)法で成長させた炭化珪素であり、かつ、前記原子配列修正層を形成した後、再び、気相化学堆積法を用いて炭化珪素を成長させることを特徴とする請求項3又は4記載の炭化珪素の製造方法。
  6. 前記気相化学堆積(CVD)法は、シラン系化合物ガスと炭化水素ガスを交互に反応炉内へ供給して成長させる方法により行うことを特徴とする請求項5記載の炭化珪素の製造方法。
  7. 結晶構造中に反位相境界を含む炭化珪素は、昇華法で成長させた炭化珪素であり、かつ、前記原子配列修正層を形成した後、再び、昇華法を用いて炭化珪素を成長させることを特徴とする請求項3又は4記載の炭化珪素の製造方法。
  8. 結晶構造中に反位相境界を含む炭化珪素は、液相エピタキシャル成長法で成長させた炭化珪素であり、かつ、前記原子配列修正層を形成した後、再び、液相エピタキシャル成長法を用いて炭化珪素を成長させることを特徴とする請求項3又は4記載の炭化珪素の製造方法。
  9. 結晶構造中に反位相境界を含む炭化珪素は、スパッタリング法で成長させた炭化珪素であり、かつ、前記原子配列修正層を形成した後、再び、スパッタリング法を用いて炭化珪素を成長させることを特徴とする請求項3又は4記載の炭化珪素の製造方法。
  10. 請求項3〜9から選ばれるいずれか一項に記載の炭化珪素の製造方法を用いて得られた炭化珪素について、反位相境界が高密度で存在している欠陥層をエッチングにより除去することを特徴とする炭化珪素の製造方法。
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