JP3968195B2 - 挟開先の溶接方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、MAG溶接による挟開先の溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
油圧ショベルなどの建設機械は大型化が進み、その建設機械のアーム、ブーム、バケットなどの構造物を構成する鋼材の板厚も厚くなり、その溶接作業に多大な時間を要するようになってきた。
【0003】
溶接時間を短縮する一つの方法としてV形あるいはレ形の開先を挟開先化して全体の溶着量を減らす方法があるが、挟開先化する場合、特に、初層の溶接欠陥の発生を防止することが大きな課題となる。
【0004】
たとえば、特開平8−108275号公報に開示されているように、被溶接物が管であれば、その端面を機械加工により高精度に加工して開先を形成し、自動溶接することも可能であるが、建設機械の構造物のように、直線と曲線が組み合わされた複雑な外形形状を持つ大型の被溶接物では、機械加工により開先を形成すると、その加工コストが高くなり、溶接施工の加工コストでは吸収しきれず、トータルコストが増大することになる。
【0005】
挟開先の溶接において、たとえば、初層の溶接時の溶接電流が小さい場合は、被溶接物に対する入熱量が小さいため、図6に示すように、一対の溶接母材1に形成された開先2の底部に、初層の溶接ビード3で埋められない空間4aが溶接欠陥として発生する。
【0006】
また、溶接電流を大きくすると、図7に示すように、溶接母材1に対する入熱量を十分確保することができる反面、溶加材の溶融量が増加するため、溶接ビード3の縦横比(溶接ビードの高さと幅の比率)が大きくなり、溶接ビード3に高温割れ4bの溶接欠陥が発生しやすくなる。
【0007】
溶接母材に対する溶け込みを十分に確保すると共に、溶接ビードの高温割れの発生を防止するためには、溶接電流を大きくすると共に溶接速度を早くして、溶接部に形成される溶接ビードの高さを低く押さえることが必要になる。
【0008】
また、図8に示すように、溶接ワイヤ6が開先2の中心位置よりずれて一方の側壁に近づくと、アーク7が近づいた方の側壁に流れ、溶接終了後、図9に示すように、より大きなアンダーカット4cが発生する。また、アークの中心が開先2の底部に向かない(指向性が低い)ため、開先2の底部の溶け込みが不足することがある。
【0009】
溶接時におけるアークの指向性は、アークに作用するピンチ力により得られる。アークに作用するピンチ力の一つとして溶接電流によって発生する電磁ピンチ力がある。この電磁ピンチ力の大きさは、溶接電流の2乗に比例する。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
このため、建設機械の構造物などの初層の溶接は、溶接ワイヤの蛇行により狙い位置のずれが避けられない半自動溶接などの溶接法を適用することが難しく、熟練者による手作業で行われているため、溶接コストの低減が困難であった。
【0011】
前記の事情に鑑み、本発明の目的は、溶接時に発生するアークの指向性を高め、溶接ワイヤの蛇行による狙い位置ずれに対する許容度を大きくして、挟開先溶接における初層溶接に自動溶接もしくは半自動溶接の適用を可能にした挟開先の溶接方法を提供することにある。
【0012】
前記の目的を達成するため、本出願の請求項1に記載の発明は、MAG溶接によるV形もしくはレ形の挟開先の溶接方法であって、溶接母材と溶加材の間に多層の溶接を施し、
スプレー移行の臨界電流値以下の直流ベース電流とパルス電流とを重畳させて、重畳電流の平均値がスプレー移行の臨界電流値以上となる溶接電流を印加して初層の溶接を行なった後、
所要の溶着量、ビート幅、及び脚長に基づいて設定される電流値の直流電流のみを印加して2層目以降の溶接を行うようにした。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記直流電流を200A〜300Aとし、この直流電流に重畳されたパルス電流のピーク値を400A〜500Aとした。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1もしくは請求項2のいずれかに記載の発明において、前記パルス電流の周波数を50Hz以上とした。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1ないし図3は、本発明の実施の形態を示すもので、図1は、本発明方法を実施するために構成した溶接装置の構成図、図2は、本発明による挟開先の溶接における初層の溶接電流波形を示す特性図、図3は、本発明による溶接状態を示す開先の断面図である。
【0017】
同図において、1は溶接母材で、V形の開先2が形成されている。5は溶接トーチ。6は溶接ワイヤで、送給装置8から送り出され、トーチ5の先端から開先2内へ供給される。
【0018】
9は溶接電源で、その出力端子に溶接母材1と溶接ワイヤ6が接続されている。10は電流検出器で、溶接電源9から溶接ワイヤ6に供給される溶接電流を検出する。11は電圧検出器で、溶接電源9から溶接ワイヤ6に供給される溶接電流の電圧を検出する。
【0019】
12は電流設定器で、溶接ワイヤ6に供給すべき電流値を設定する。13は電流制御器で、電流設定器12に設定された電流値と電流検出器10で検出された電流値とを比較して、電流制御信号を発信する。
【0020】
14は電圧設定器で、溶接ワイヤ6に供給する電流の電圧値を設定する。15は電圧制御器で、電圧設定器14に設定された電圧値と電圧検出器11で検出された電圧値とを比較して、電圧制御信号を出力する。
【0021】
16はピーク電圧設定器。17はベース電圧設定器。18は時間設定器で、パルス時間とベース時間を設定する。19はパルス波形制御器で、ピーク電圧設定器16とベース電圧設定器17およびパルス時間設定器18に接続され、それらから印可されるピーク電圧、ベース電圧およびパルス時間とベース時間に基づいて所望のパルス波形を生成する。
【0022】
20は開閉器で、パルス波形制御器19の出力側に介装されている。21は切換器で、開閉器20の開閉を行う。
【0023】
22は出力制御器で、電流制御器13、電圧制御器14および開閉器20を介してパルス波形制御器19に接続され、それぞれから印可される信号に基づいて溶接電源9を制御する。
【0024】
このような構成の溶接機によって初層の溶接を行う際、一対の溶接母材1の間に形成された挟開先2内に溶接ワイヤ6を開先中心を狙い位置として挿入すると共に、切換器21により開閉器20を閉成させ、パルス波形制御器19で生成されたパルス波形を出力制御器22に印加した状態で溶接を開始する。
【0025】
このとき、溶接電源9は、パルス波形制御器19からの指令に基づいて、溶接母材1と溶接ワイヤ6の間に、平均電流値が300A以上の溶滴移行形態がスプレー移行となる電流値で、ピーク電流値を平均電流値より100〜300A高くなるように設定され、図2に示すように、電流値がA2のベース電流に電流値がA1のパルス状のピーク電流を重畳した特性の電流を印可する。なお、ピーク電流の周波数は、50Hz以上に設定されている。
【0026】
ピーク電流の周波数を50Hz以上とすると、アークに作用する電磁ピンチ力として、ピーク電流値の2乗に比例した電磁ピンチ力を得ることができる。したがって、平均電流が同じであれば、ピーク電流の周波数が50Hz以上パルス電流を用いることにより、アークに作用する電磁ピンチ力を大きくしてアークの指向性を向上させることができる。
【0027】
図3に示すように、溶接ワイヤ6の狙い位置が開先2の中心位置から開先2の一方の側壁に近づくようにずれても、アークの指向性が大きいため、アークの中心は開先2の底部(ルート部)付近に向かう。すなわち、溶接ワイヤ6の蛇行などにより、溶接ワイヤ6(図1参照)の先端位置が振れても、大きな電磁ピンチ力によりアークの中心は溶接ワイヤ6の進行方向(開先2の底部)に向くため、底部の溶け込みを確保することができる。
【0028】
したがって、単に直流電流を用いて溶接する場合に比べ、より高速での溶接が可能となり、溶接ビードの高さを低く押さえることができるので、溶接ビードの高温割れの発生を防止することができる。
【0029】
図4に示すように、テストピース1Aに開先角度30度のレ形の開先を形成し、溶接トーチ5から送り出される溶接ワイヤ6の狙い位置を変えて、上記の溶接方法で溶接を行ない、その結果を目視で確認した結果を図5に示す。
【0030】
図5に示すように、パルスの周波数が50Hzの場合、狙い位置のずれ量Yが1mmであれば、欠陥のない溶接が可能である。また、狙い位置のずれ量Yが2mm以上になると、若干の溶け込み不足や軽度のアンダーカットなど、通常では品質上に問題のない軽度の欠陥が発生した。
【0031】
また、パルスの周波数が100Hz以上になると、狙い位置のずれ量が3mmであっても欠陥のない溶接を行うことができた。しかし、パルスの周波数が35Hzでは狙い位置のずれ量が0mmであっても、軽度の欠陥が発生した。
【0032】
したがって、パルスの周波数が50Hz以上であれば、溶接品質上問題のない溶接を行うことができる。また、好ましくは、パルスの周波数を100Hz以上とすることにより、挟開先の溶接に狙い位置が変化する半自動溶接を適用しても欠陥のない溶接を行うことができる。
【0033】
2層目以降は、開先の側壁への溶け込みを促進させるため、アークが開先の側壁に流れやすい直流電流で溶接を行う。このとき、電流、電圧、速度の設定は、各層で必要な溶着量、ビード幅、脚長などにより設定する。
【0034】
【発明の効果】
以上述べたごとく、本発明によれば、挟開先の初層溶接において、狙い位置のずれ量に対する許容度を大幅に広げることができるので、溶接ワイヤなどの蛇行により狙い位置がずれやすい自動溶接あるいは半自動溶接により挟開先溶接を行うことができる。また、開先の幅を狭くすることにより溶着量を減らし溶接時間を短縮することができる。
さらに、スプレー移行技術を適正に採り入れて、スプレー領域における溶接の長所であるところの、外観が良く、溶け込みが深く、高能率であるという効果を発揮させることができる。
【0035】
また、機械加工に比べ加工精度の劣るガス切断で加工された開先の溶接も可能にし、溶接構造物の加工コストを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明方法を実施するために構成した溶接装置の構成図。
【図2】本発明による挟開先の溶接における初層の溶接電流波形を示す特性図。
【図3】本発明による溶接状態を示す断面図。
【図4】本発明によるパルスの周波数を確認するための実験状態を示す断面図。
【図5】実験結果を示す特性図。
【図6】挟開先溶接の初層の溶接結果を示す断面図。
【図7】挟開先溶接の初層の溶接結果を示す断面図。
【図8】挟開先溶接の初層の溶接状態を示す断面図。
【図9】挟開先溶接の初層の溶接結果を示す断面図。
【符号の説明】
1…溶接母材、2…開先、6…溶接ワイヤ、9…溶接電源、13…電流制御器、15…電圧制御器、19…パルス波形制御器、22…出力制御器。
Claims (3)
- MAG溶接によるV形もしくはレ形の挟開先の溶接方法であって、溶接母材と溶加材の間に多層の溶接を施し、
スプレー移行の臨界電流値以下の直流ベース電流とパルス電流とを重畳させ、重畳電流の平均値がスプレー移行の臨界電流値以上となる溶接電流を印加して初層の溶接を行なった後、
所要の溶着量、ビート幅、及び脚長に基づいて設定される電流値の直流電流のみを印加して2層目以降の溶接を行うことを特徴とする挟開先の溶接方法。 - 前記ベース電流である直流電流が200A〜300Aであり、この直流電流に重畳されたパルス電流のピーク値が400A〜500Aであることを特徴とする請求項1に記載の挟開先の溶接方法。
- 前記パルス電流の周波数が50Hz以上であることを特徴とする請求項1もしくは請求項2のいずれかに記載の挟開先の溶接方法。
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