JP3956841B2 - 電気接点材料およびそれを用いた操作スイッチ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電気接点材料およびそれを用いた操作スイッチに関し、さらに詳しくは、耐硫化性に優れた電気接点材料、およびこの電気接点材料から構成され、硫化環境下ではんだ付け性および接触抵抗の劣化が抑制された操作スイッチに関する。
【0002】
【従来の技術】
スライドスイッチ、レバースイッチ、プッシュスイッチ、タクティルプッシュスイッチ、および、ディップスイッチなどの各種操作スイッチは、一般に、例えば銅合金条などの導電性基体の表面をAgまたはAg合金で被覆してなる接点材料により形成されている。このような被覆層を設けることにより、基体が具備する機械的、電気的特性に加えて、AgまたはAg合金特有の耐食性、はんだ付け性、および電気接続性が付与されるという利点がある。
【0003】
ところで、上記の各種操作スイッチは、その機能から一次回路切替え用(電源の切替え)と二次回路切替え用(信号の切替え)とに分類される。大電流が流れる一次回路切替えスイッチの接点材料としては、耐アーク性や耐摩耗性に優れたAg−Ni系合金、Ag−CdO系合金、あるいは、Cu合金などにAg合金を高い被覆率で被覆した接点材料が使用されている。一方、二次回路切替えスイッチの接点材料としては、微少電流が流れるため、導電性基体を被覆するAgまたはAg合金層を薄く形成したものが使用される。
【0004】
さらに、上記の操作スイッチは、固定接点部と可動接点部とを組み合わせて構成されているものが多く、その場合、固定接点部ははんだ付け端子と一体化されたものとなっており、例えば、黄銅などよりなる基体にAgまたはAg合金が被覆されたものが使用される。そして、可動接点部は高い弾性を有するりん青銅などよりなる基体にAgまたはAg合金が被覆されたものが使用される。
【0005】
ところで、かかる操作スイッチにおいて固定接点部のはんだ付け端子部は外気に晒される場合が多く、とくに硫化環境下では、表面層のAgが硫化してはんだ付け性が低下するという問題が生じる。この問題を解消するために、はんだ付け端子部に防錆剤を塗布する、あるいは、はんだめっきする等の対策が講じられている。
【0006】
しかし、防錆剤を塗布する方法は、極端な硫化環境下ではその効果が十分ではなく、はんだめっきする方法は、コストの上昇を招来するためいずれも満足すべき対策であるとはいえない。
この接点材料の耐食性を改善するために、導電性基体上にNi、Co、またはこれらの合金を主成分とする下地層が形成され、中間層にAgまたはAg合金層、さらに最外層にPdまたはPd合金層が、それぞれ電気めっき法によって形成されたものが提案されている(特許文献1を参照)。
【0007】
しかしながら、上記のAgまたはAg合金層上へのPdめっきは、硫化環境に長期間晒された場合に、Pdめっき層に存在するピンホールにおいて電食が発生するために硫化変色が生じ、結果として、十分な耐食効果を得ることができないという問題がある。この問題を解消するためには、Pdめっき層の厚さを比較的厚くする必要があるため、コストが上昇するなどの新たな問題が生じる。
【0008】
【特許文献1】
特開平9−330629号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の問題を解消するためになされ、硫化環境下に長期間晒された場合の耐食性に優れ、はんだ付け性や接触抵抗の劣化の抑制された電気接点材料、および、その接点材料により形成された操作スイッチを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、導電性基体上に、AgまたはAg合金よりなる第1層、Ni,Coまたはこれらの合金を主体とし、厚さが0.001〜0.20μmである第2層、ならびに、PdまたはPd合金を主体とし、厚さが0.001〜0.4μmである表面層がこの順に、電気めっき法により形成され、積層されてなる電気接点材料が提供される。
【0011】
上記の構成において、前記導電性基体と前記第1層との間に、さらに、Ni,Coまたはこれらの合金を主体とする拡散防止層が形成されていることが好ましい。
また、本発明によれば、接点部およびはんだ付け端子が一体形成された固定端子を具備する操作スイッチであって、前記固定端子が上記のいずれかの構成の電気接点材料により形成されている操作スイッチが提供される。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図1,2を参照しながら本発明の電気接点材料について詳述する。
本発明の電気接点材料は、基本的に、図1に示すような層構成を有する。すなわち、導電性基体1上にAgまたはAg合金層(第1層)2、Ni、Coまたはこれらの合金層(第2層)3、PdまたはPd合金層(表面層)4がこの順に積層形成されている。
【0013】
図1の電気接点材料において、まず、導電性基体1としてはとくに限定されるものではないが、例えば、Cu、Ni、Feあるいはこれらの合金、または、鋼やAlにCuもしくはCu合金を被覆した複合素材などを使用することができる。これらの材料は電気接点材料の用途、使用環境等に応じて適宜選択されることが好ましい。
【0014】
この導電性基体1上に形成される第1層2はAgまたはAg合金層であり、この層は表面層であるPdまたはPd合金層4が接点の繰り返し開閉動作により機械的に摩耗した場合に、電気接続性を維持する目的で配置されている。Ag合金としては、例えば、Ag−Sb,Ag−Se,Ag−Cu,Ag−Pdなどをあげることができる。
【0015】
この第1層2の厚さは、とくに限定されるものではないが、例えば、0.1〜5.0μmの範囲であることが好ましい。
第2層3は、Ni、Co、またはこれらの合金よりなる層であり、この層は第1層2のAgと表面層4のPdとが局部電池を形成することにより生じるAgの腐食を防止するための、いわば、犠牲陽極として機能する層である。
【0016】
Ni合金としては、Ni−Co,Ni−P,Ni−B,Ni−Znなどが、また、Co合金としては、Co−Ni,Co−P,Co−Bなどがあげられる。
この第2層3の厚さは、0.001〜0.2μmとすることが必要である。この厚さが0.001μm未満である場合には、犠牲陽極として十分な機能を発揮することが困難となり、一方、0.2μmを超えると、表面層4のPdめっきが繰り返し開閉動作により機械的に摩耗した際に、第2層3のNi、Coまたはこれらの合金が酸化して接触抵抗が増加してしまう。
【0017】
表面層4は接点材料において、耐食性、はんだ付け性、電気接続性、耐熱性および耐酸化性を付与するための層であり、PdまたはPd合金により形成される。Pd合金の種類はとくに限定されるものではないが、例えば、Pd-Ni系合金、Pd-Co系合金、Pd-Ag系合金などを好適なものとしてあげることができる。
【0018】
このPd合金におけるPdの含有量は50質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは、70質量%以上である。Pdの含有量が50質量%未満である場合には、上記の各効果が十分に発揮されない可能性がある。
また、この表面層4の厚さは、0.001〜0.4μmでとすることが必要である。この厚さが0.001μm未満である場合には、表面層4を形成したことによる十分な効果が得られず、また、0.4μmを超えてもその効果は飽和に達し、経済的な不利益が生じるとともに、曲げ加工時に表面に割れが発生しやすくなる。表面層4のさらに好ましい厚さは、0.005〜0.1μmである。
【0019】
図2は本発明の電気接点材料の他の構成を示し、図中、図1と同一の構成要素には同一の符号を付して示してある。
この電気接点材料は、導電性基体1と第1層2との間に、さらに拡散防止層5が形成されているものである。拡散防止層5はNi、Coまたはこれらの合金より形成され、導電性基体1の構成元素がPdまたはPd合金よりなる表面層4に拡散して耐食性を低下させるのを防止するために有効である。拡散防止層5の好適な厚さは、0.05〜1.0μmである。
【0020】
上記の電気接点材料において、導電性基体1上の各層の形成方法はとくに限定されるものではないが、例えば、電気めっき法により形成すると、各層の厚さを精密に制御でき、また、量産性に優れるため経済的に有利である。
本発明の操作スイッチは上述した電気接点材料を用いて形成される。ここで、操作スイッチとしては、スライドスイッチ、レバースイッチ、プッシュスイッチ、タクティルプッシュスイッチ、ディップスイッチなどのような接点部とはんだ付け端子部とが一体に形成された固定端子を備えたスイッチ類をいう。
【0021】
すなわち、本発明の電気接点材料が固定端子に使用され、その表面に接点部とはんだ付け端子部とが形成されたものであり、接点部には可動接点部が接触・離隔してスイッチの開閉動作が行われる。
このような操作スイッチにおいて、固定端子を上記の層構成を有する本発明の電気接点材料により構成することにより、当該スイッチが硫化環境下で使用された場合も、長期間に亘ってはんだ付け性および接触抵抗の劣化が抑制され、信頼性の高い操作スイッチを得ることが可能となる。
【0022】
【実施例】
実施例1〜13、比較例1〜5、従来例
<電気接点材料の製造>
厚さ0.3mm、幅30mmの黄銅条を導電性基体とし、これを電解脱脂、酸洗の前処理後に、連続めっきラインに通板して表1に示した各めっき層を形成し、電気接点材料(a)〜(s)を製造した。なお、各めっき層は以下に示す条件により形成した。
【0023】
Figure 0003956841
Figure 0003956841
【0024】
【表1】
Figure 0003956841
【0025】
<評価試験>
上記により得られた各電気接点材料について、以下の各条件で、硫化環境下に保持前後のはんだ付け性と接触抵抗の変化、および、10万回の接点開閉試験後の接触抵抗を測定し、結果を表2に示した。
1)硫化環境保持前後のはんだ付け性
硫化水素(H2S)濃度3ppm、温度40℃の硫化環境下に各接点材料を24時間保持し、その前後のはんだ付け性を、メニスコグラフにより、濡れ時間(ゼロクロスタイム)として求めた。なお、はんだとしては、共晶SnPbはんだを用い、フラックスとして25%ロジン/IPAを用い、サンプル幅は5mmとした。
2)硫化環境保持前後の接触抵抗
上記と同様の硫化環境下で保持前後の接触抵抗を測定した。頭部5Rの純Ag製プローブを使用し、荷重196mN(20gf)、電流10mAの各条件で測定した。
3)10万回開閉接点試験
Agめっき厚2.0μmのAgめっきりん青銅条にダボ加工(先端2R)を施したものをプローブとして用い、荷重0.98N(100gf)、電流10mA、開閉速度5Hzの条件で10万回の開閉試験を行い、10万回終了時の接触抵抗を測定した。
【0026】
【表2】
Figure 0003956841
【0027】
表2の結果からも明らかなように、本発明の電気接点材料(実施例1〜13)は、表面層がAgにより形成されている従来の電気接点材料(従来例)に比べて、硫化試験後のはんだ付け性に優れ、さらに接触抵抗の劣化も小さく、耐食性に優れたものであることが確認された。
【0028】
それに対して、第2層が形成されていないもの(比較例1)は硫化試験時間24時間で硫化腐食が進行してはんだ付け性および接触抵抗が著しく劣化した。また、第2層の厚さが本発明の範囲を下回るもの(比較例2)はAgの硫化によりはんだ付け性が低下し、逆に第2層の厚さが本発明の範囲を超えるもの(比較例3)は、はんだ付け性と接触抵抗の劣化の程度は小さいものの、開閉接点試験において接触抵抗の著しい増加が見られた。
【0029】
さらに、表面層の厚さが本発明の範囲を下回るもの(比較例4)は、硫化試験後のはんだ付け性および接触抵抗の劣化が顕著であり、逆に、表面層の厚さが本発明の範囲を超えるもの(比較例5)は、はんだ付けと接触抵抗はいずれも劣化しないとはいえ、コストが大幅に上昇し、また曲げ割れが発生しやすいという問題がある。
【0030】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の電気接点材料は硫化環境下での腐食が防止されているため、これらの電気接点材料より形成された操作スイッチは、硫化環境下でのはんだ付け性および接触抵抗の劣化が抑制され、耐久性および信頼性に優れたものである。したがって、スライドスイッチ、レバースイッチ、プッシュスイッチ、タクティルプッシュスイッチ、および、ディップスイッチなどの各種操作スイッチに適用した際に極めて有用であり、その工業的価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電気接点材料の層構成を示す概念的縦断面図である。
【図2】本発明の電気接点材料の層構成の好ましい態様を示す概念的縦断面図である。
【符号の説明】
1 導電性基体
2 第1層(AgまたはAg合金層)
3 第2層(Ni,Coまたはこれらの合金層)
4 表面層(PdまたはPd合金層)
5 拡散防止層(Ni,Coまたはこれらの合金層)

Claims (3)

  1. 導電性基体上に、AgまたはAg合金よりなる第1層、Ni,Coまたはこれらの合金を主体とし、厚さが0.001〜0.20μmである第2層、ならびに、PdまたはPd合金を主体とし、厚さが0.001〜0.4μmである表面層がこの順に、電気めっき法により形成され、積層されてなる電気接点材料。
  2. 前記導電性基体と前記第1層との間に、さらに、Ni,Coまたはこれらの合金を主体とする拡散防止層が形成されている請求項1記載の電気接点材料。
  3. 接点部およびはんだ付け端子が一体形成された固定端子を具備する操作スイッチであって、前記固定端子が請求項1または2のいずれかに記載の接点材料により形成されていることを特徴とする操作スイッチ。
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