JP3956654B2 - N−[o−(p−ピバロイルオキシベンゼンスルホニルアミノ)ベンゾイル]グリシン・モノナトリウム塩・4水和物含有溶液および製剤 - Google Patents

N−[o−(p−ピバロイルオキシベンゼンスルホニルアミノ)ベンゾイル]グリシン・モノナトリウム塩・4水和物含有溶液および製剤 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定のpH調整剤を含有する、式(I)
【化3】
Figure 0003956654
で示されるN−[o−(p−ピバロイルオキシベンゼンスルホニルアミノ)ベンゾイル]グリシン・モノナトリウム塩・4水和物の溶液、およびその溶液を用いて製造される製剤に関する。
【0002】
【発明の背景および従来技術】
本発明で使用される化合物は、そのフリー体である下記の式(II)
【化4】
Figure 0003956654
で示される化合物が特開平3-20253号明細書の実施例2(63)に記載され、そのナトリウム塩・4水和物である式(I)
【0003】
【化5】
Figure 0003956654
で示される化合物(以下、化合物(I)と略記することがある。)が特開平5-194366号明細書の実施例3、および特開平9-40692号の参考例に記載されている。
【0004】
化合物(I)はエラスターゼ阻害活性を有し、急性肺障害等の治療剤としての用途が期待される極めて有用な化合物である。また、急性肺障害患者は重篤な状態にあるので、薬物は非経口、好ましくは注射剤として長時間(24時間〜数日間)連続的に投与する必要がある。従って、化合物(I)のふさわしい製剤形態としては、注射剤または用時溶解される固形組成物、好ましくは凍結乾燥製剤である。
しかしながら、化合物(I)の水への溶解度は0.4mg/ml以下、またエタノールへの溶解度は6mg/ml以下であり、通常の溶媒では注射剤とするための澄明な溶液を調製することは困難であった。
【0005】
一方、特開平9-40692号には、式(II)で示される化合物を水およびエタノールの混合溶媒中に懸濁させ、さらに水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱し、それを冷却することによって化合物(I)を製造する方法が開示されている。この操作は式(II)で示されるフリーのカルボン酸からのナトリウム塩・4水和物の製造方法を示すものであり、式(I)で示されるナトリウム塩・4水和物の溶解度の向上を検討しているものではない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、難溶性医薬品である化合物(I)の溶解度を向上させ、その溶液を提供するとともに、それを用いた各種製剤を提供すること、さらに、より高濃度な溶液、およびその溶液を用いた高含量製剤を提供することにある。
化合物(I)の有効投与量と適切な密閉容器(バイアル、アンプル瓶等)の容量を考慮すると、化合物(I)の溶解度は少なくとも15mg/ml程度必要であると考えられている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、化合物(I)の溶解性を向上させるべく鋭意検討を行なった結果、意外なことに溶液にリン酸三ナトリウム、その水和物、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種のpH調整剤を加えることにより、目的を達することを見出した。
さらに、化合物(I)のより高濃度な溶液を得べく検討を行った結果、pH調整剤を用いることに加え、水以外の溶媒としてある種の有機溶媒を用いることにより、目的が達成されることを見出した。
【0008】
【発明の実施の形態】
すなわち、本発明は、リン酸三ナトリウム、その水和物、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種のpH調整剤を含有する、式(I)
【化6】
Figure 0003956654
【0009】
で示されるN−[o−(p−ピバロイルオキシベンゼンスルホニルアミノ)ベンゾイル]グリシン・モノナトリウム塩・4水和物の溶液、およびその溶液を用いて製造される製剤に関する。
【0010】
より詳しくは、リン酸三ナトリウム、その水和物、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種のpH調整剤を含有する、式(I)で示されるN−[o−(p−ピバロイルオキシベンゼンスルホニルアミノ)ベンゾイル]グリシン・モノナトリウム塩・4水和物の溶媒として水のみを用いた溶液、あるいは溶媒として水および有機溶媒の混合溶液を用いた溶液、またはそれら溶液に必要により賦形剤を添加した溶液を用いて製造される新規な製剤に関する。
さらに、本発明には少なくとも化合物(I)と、リン酸三ナトリウム、その水和物、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種のpH調整剤を含有する新規な凍結乾燥製剤が含まれる。
【0011】
本発明者らは、まず化合物(I)の溶解性が溶液のpH値に大きく左右されると考え、それらの関係を検討した。
一方、化合物(I)は、その構造中にエステル結合を含んでおり、塩基性の水溶液中では不安定であると考えられるので、化合物(I)の安定性に対するpH値の影響も同時に検討した。
【0012】
(1)溶解性および安定性の測定
リン酸水素二ナトリウムおよびリン酸三ナトリウムの水溶液を種々の割合で混合し、種々のpH値を有する緩衝液を調整した。調整した各緩衝液に塩化ナトリウムを添加し、イオン強度を0.2とした。25℃の恒温槽内で、化合物(I)を各緩衝液に加え、日本薬局方の溶解性試験の方法に従い、5分毎に30秒間撹拌する操作を30分間行なって飽和溶液とした。各溶液を遠心分離して、上清をろ過した。液体クロマトグラフィーで、ろ液の濃度を求めて溶解度(mg/ml)とし、この時の定量値を安定性試験の開始時の値とした。溶解度の測定結果を図1(図中の○)に示す。
各ろ液を25℃の恒温槽中に8時間放置した後、液体クロマトグラフィーで化合物(I)の残存量を測定した。開始時の定量値を100%としたときの8時間後の残存率を安定性評価のパラメーターとした。その結果を図1(図中の△)に示す。
【0013】
図1より、pH値を上げるにつれて化合物(I)の溶解度が向上することがわかる。一方、pH値を上げるにつれて化合物が分解していることがわかる。従って、化合物(I)を医薬品として用いるためには、溶解性と安定性の2つの点を考慮した至適なpH域に保つ必要がある。
すなわち、溶解性の面からは化合物(I)が析出せず、澄明な溶液状態を保つことが必要であり、他方、安定性の面からは、医薬品として許容される最低限98%以上の安定性を確保する必要がある。そのような条件を満足する至適pH域は図1から7.0〜8.5であることが判明した。
【0014】
一方、特開平5-194366号明細書には、N−[o−(p−ピバロイルオキシベンゼンスルホニルアミノ)ベンゾイル]グリシン・モノナトリウム塩・4水和物(10g)、蒸留水(500ml)、塩化ナトリウム(7g)および炭酸ナトリウム(無水)(1.5g)を混合し、5mlずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥して得られる凍結乾燥製剤が記載されている。
しかし、この製剤例に従って製造した凍結乾燥製剤は、経時的にpH値が上昇し、分解物が大量に生成することが判明した。以下にその結果を示す。
【0015】
(2)炭酸ナトリウムを含む、化合物(I)の凍結乾燥製剤のpHの経時的変化上記の特開平5-194366号明細書に記載の割合で各成分を混合して調製した水溶液についてpH値を以下の3時点で測定した。
(a)水溶液調製時、
(b)調製した水溶液をバイアルに充填(5ml)し、凍結乾燥した後、すぐに水(10ml)に溶解した時、
(c)調製した水溶液をバイアルに充填(5ml)し、凍結乾燥して製造した製剤を、60℃で2週間放置した後、水(10ml)に溶解した時。
その結果、pH値は(a)が7.80、(b)が8.11、(c)が8.44であった。
さらに、凍結乾燥製剤を60℃で2週間放置した後の化合物(I)の残存率は、91.4%であった。
【0016】
これらの結果から、炭酸ナトリウムの添加は経時的にpH値を上昇させること、そのpH値は前述の至適な7.0〜8.5の範囲内にあるが長期間の保存により化合物(I)の分解を促進させることが明らかになった。
さらに、炭酸ナトリウムに代えて、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸カリウムを用いて実験を行なったところ、同様に経時的なpH値の上昇と分解の促進が見られた。
【0017】
このように至適pH値に調整して製造した一定以上の溶解度を有する化合物(I)の溶液であっても、それを用いて製造した製剤として保存中にpH値が上昇して有効成分の分解が起こることは問題である。
従って、本発明者らは、一定以上の溶解度を有する溶液を至適pH域に調整することができ、さらに製剤として保存期間中にも、溶液を調製した時のpH値をほぼ一定に保つことのできるpH調整剤を見つけるべく鋭意検討した。
【0018】
(3)pH調整剤の検討
リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムの各添加量とpH値の変化について検討した。
(I)リン酸水素二ナトリウム
マンニトール(8g)を水(50ml)に溶解し、化合物(I)(4g)を添加して懸濁した。リン酸水素二ナトリウム・12水和物(80g)を水(200ml)に加え、加熱して溶解した。懸濁液をスターラーで撹拌しながら、リン酸水素二ナトリウム・12水和物の水溶液を5mlずつ添加し、pHを測定した。その結果を表1に示す。
化合物(I)の懸濁液は、リン酸水素二ナトリウム・12水和物の水溶液を200ml(すなわち、リン酸水素二ナトリウム・12水和物として80g)を加えて、pH値を8.18に調整しても澄明な水溶液にはならなかった。
【0019】
(ii)リン酸三ナトリウム
マンニトール(8g)を水(140ml)に溶解し、化合物(I)(4g)を添加して懸濁した。懸濁液をスターラーで撹拌しながら、リン酸三ナトリウム・12水和物(4g/100ml)の水溶液を5mlずつ添加しながら、pHを測定した。その結果を表1に示す。
懸濁液はリン酸三ナトリウム・12水和物水溶液を45ml加えた時点で、pHは7.19であり、澄明な水溶液になった。
【0020】
(iii)水酸化カリウム
マンニトール(8g)を水(180ml)に溶解し、化合物(I)(4g)を添加して懸濁した。懸濁液をスターラーで撹拌しながら、1N水酸化カリウム水溶液を0.5mlずつ添加しながら、pHを測定した。結果を表2に示す。
懸濁液は水酸化カリウム水溶液を5ml加えた時点で、pHは7.20であり、澄明な水溶液になった。
【0021】
(iv)水酸化ナトリウム
化合物(I)(7.5g)を水(400ml)に懸濁した。懸濁液をスターラーで撹拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を1mlずつ添加しながら、pHを測定した。結果を表2に示す。
懸濁液は水酸化ナトリウム水溶液を7ml加えた時点で、pHは7.44であり、澄明な水溶液になった。
【0022】
【表1】
Figure 0003956654
【0023】
【表2】
Figure 0003956654
【0024】
以上の結果から、リン酸水素二ナトリウムでは、至適pHを得ることはできるが、大量に添加しても澄明な水溶液は得られなかった。従って、リン酸水素二ナトリウムは、本発明の目的を達成することができるpH調整剤でないと判断した。
一方、リン酸三ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムでは、至適pHをすみやかに得ることができ、一定以上の溶解度を有する澄明な水溶液を製造することができた。
【0025】
上記の実験によって目的を達成することができた3種類のpH調整剤について、下記(4)〜(9)の実験を行なった。
(4)製剤の安定性
マンニトール(8g)を水(150ml)に溶解し、化合物(I)(4g)を添加して懸濁した。懸濁液をスターラーで撹拌しながら、以下(i)〜(iii)のpH調整剤1種を加え、水で全量200mlとして澄明な水溶液を得た。
(i)リン酸三ナトリウム・12水和物水溶液(36.4mg/ml;50ml)、
(ii)水酸化カリウム水溶液(56mg/ml;6ml)、
(iii)水酸化ナトリウム水溶液(40mg/ml;5.6ml)。
【0026】
調製した澄明な水溶液についてpH値を以下の3時点で測定した。
(a)水溶液調製時、
(b)調製した水溶液をバイアルに充填(5ml)し、凍結乾燥した後、すぐに水(10ml)に溶解した時、
(c)調製した水溶液をバイアルに充填(5ml)し、凍結乾燥して製造した製剤を、60℃で2週間(水酸化ナトリウムの場合は1カ月間)放置した後、水(10ml)に溶解した時。
測定結果を表3に示す。
【0027】
【表3】
Figure 0003956654
【0028】
さらに、水酸化ナトリウムを添加して製造した凍結乾燥製剤を、60℃で1ヶ月間放置した後の化合物(I)の残存率を測定したところ98.3%であった。
以上の結果から、リン酸三ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムを添加して製造した化合物(I)の製剤は、経時的にpH値が上昇することなく、一定期間放置後も溶液調製時のpH値をほぼ一定に保つことができた。しかも、化合物(I)の保存安定性にも優れていることが判明した。
【0029】
さらに、pH調整剤と同様の目的で用いられる化合物として知られているアミノ酸系化合物、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよびメグルミンについても検討した。
(5)pH調整剤に代わりうる化合物の検討
アミノ酸系化合物としての強力モリアミン輸液(商品名;森下ルセル製)と、化合物(I)(5mg/ml)と配合した場合、pH値の変化は調整時が6.36、24時間後が6.13であり、変化は見られなかったが、化合物(I)の分解が促進され、24時間後の残存率は54.1%であった。この結果から、化合物(I)にアミノ酸系化合物は配合できないと判断された。
また、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンは、凍結乾燥製剤にした後、化合物(I)の保存安定性を低下させ、メグルミンも保存安定性を低下させる上、変色を生じるという問題があった。
【0030】
以上の結果から、溶液の調製時だけでなく、製剤後も長期間にわたって優れた溶解性と安定性を維持するためのpH調整剤はいかなるものでもよいわけでなく、リン酸三ナトリウム、その水和物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのみで目的を達成できることが初めて確認された。
【0031】
さらに、本発明者らは前記で示したような溶解度20mg/ml程度の溶液よりも、さらに高濃度の化合物(I)の溶液およびそれを用いた高含量製剤を製造することを目指した。
(6)高濃度溶液の検討
(i)化合物(I)(400mg)およびマンニトール(100mg)を水(3ml)に懸濁させた。その混合物に撹拌下、1N水酸化ナトリウム水溶液(0.6ml;24mgに相当)を加えた。最終的に全溶液量が5mlになるように水を加えた。しかし、この混合物は澄明な溶液にならず、白濁した懸濁液であった。したがって、本液を凍結乾燥することは不可能であった。
このように、特定のpH調製剤を用いることのみによる溶解度の向上には、限界があることが分かったため、本発明者らは次に溶媒の種類に着目した。
【0032】
(ii)化合物(I)(400mg)およびマンニトール(100mg)を、エタノール(1.0ml)と水の混合溶液(約3ml)に懸濁させ、そこへ1N水酸化ナトリウム水溶液(0.6ml;24mgに相当)を撹拌下、少しずつ加えた。最終的に全溶液量が5mlになるように水を加え、澄明な溶液を得た。
上記のようにpH調整剤を用いることに加え、溶媒に水および有機溶媒の混合溶液を用いることにより、化合物(I)の溶解度が大幅に向上し、より高濃度の溶液を製造することができた。
【0033】
一方、本発明の化合物の溶液を注射剤、特に凍結乾燥製剤とする場合はその製剤化工程中、使用できる有機溶媒量に制限がある。つまり、通常用いられる凍結乾燥機の冷却能力は約−50℃までである。−50℃付近では水および有機溶媒等を含む溶液全体量に対して有機溶媒量が40%を超えると混合溶媒は凍らずに凍結乾燥時に突沸を生じるおそれがある。従って、添加する有機溶媒量は多くとも全溶液量の約40%に抑える必要がある。
【0034】
以上のこともふまえて、適した有機溶媒使用量を検討した。
(7)有機溶媒使用量の検討
化合物(I)(400mg)およびマンニトール(100mg)をエタノール(下表に示す量)および水の混合液(約3ml)に懸濁させ、そこへ1N水酸化ナトリウム水溶液(0.6ml;24mgに相当)を撹拌下、少しずつ加えた。最終的に全溶液量が5mlになるように水を加えた。本処方に従って製造した溶液の状態およびそのpH値の測定結果を表4に示す。
【0035】
【表4】
Figure 0003956654
【0036】
上記の結果、一定量の水酸化ナトリウムの存在下で、全溶液量に対してエタノールを1〜40v/v%用いることにより非常に高濃度の溶液が得られることが判明した。
一方、pH調整剤の使用量およびその時の化合物(I)の安定性を検討した。
(8)化合物(I)(400mg)およびマンニトール(100mg)をエタノール(1.25ml)および水の混合液(約3ml)に懸濁させ、そこへ1N水酸化ナトリウム水溶液(下表に示す量)を撹拌下、少しずつ加えた。最終的に全溶液量が5mlになるように水を加えた。本処方に従って製造した溶液の状態、pH値および各溶液を25℃の恒温槽中に8時間放置した後、液体クロマトグラフィーでの化合物(I)の残存率の測定結果を表5に示す。
【0037】
【表5】
Figure 0003956654
【0038】
上記の結果、一定量の有機溶媒存在下での上記検討量のpH調整剤の添加は、溶媒が水のみの化合物(I)の溶液時と同様すみやかに至適pH値を得ることができること、また、溶媒が水のみの化合物(I)の溶液時とは異なり、pH値8.5以上であっても、化合物(I)の残存率を98%以上に保てることが確認された。
このようにpH調整剤に加えて、有機溶媒を添加すること、つまり水および有機溶媒の混合溶液を用いることによって、飛躍的に化合物(I)の溶解度が向上し、かつ高いpH値でも安定性が向上することは全く予想外のことであり、今回初めて見出されたことである。
【0039】
また、本発明の高濃度の溶液を用いて製造した凍結乾燥製剤の安定性を検討した。
(9)(i)前記(7)中のエタノールを1ml用いて製造した澄明な溶液、および(ii)前記(8)中の水酸化ナトリウムを27mg用いて製造した澄明な溶液を、常法により滅菌し、バイアルに充填し、常法により凍結乾燥して1バイアル中400mgの化合物(I)を含有する凍結乾燥製剤を得た後、その経時的安定性を測定した。結果を表6に示す。
【0040】
【表6】
Figure 0003956654
【0041】
表6に示すように、本発明方法に従って製造した凍結乾燥品は1ヶ月後でも十分に安定であることが分かった。
このように本発明によって製造された化合物(I)の高濃度な溶液を凍結乾燥して製造した製剤は、調製時だけでなく、長期間後も優れた溶解性と安定性を維持する優れた凍結乾燥製剤であり、そのような事実はこれまで全く知られていなかったことである。
また、上記の水酸化ナトリウムだけでなく、水酸化カリウムおよびリン酸三ナトリウムをpH調整剤として用いる場合にも同様の結果が期待される。
【0042】
本発明の目的を達成するために用いられるpH調整剤は、リン酸三ナトリウム、その水和物、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種であり、好ましくは水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、それらの水和物、またはそれらの混合物であり、特に好ましいのは水酸化ナトリウムである。それらの使用量は、溶媒が水のみの溶液調製時は、pH値が7.0〜8.5になるような量である。より好ましくは、pH7.55〜8.10である。
また、水と有機溶媒の混合溶媒を用いて溶液を調整する時の使用量は、pH値が7.0〜9.0になるような量である。pH値は有機溶媒の使用量によっても変動する。好ましい使用量を質量で表わすと、例えば、水酸化ナトリウムの場合は、化合物(I)が100質量部に対し、4.0〜7.0質量部、より好ましくは4.5〜6.0質量部である。
また、これらは固体または水溶液として加えられる。
【0043】
本発明の目的である、より高濃度の溶液を得るために用いられる有機溶媒としてはアルコールが好ましく、具体的にはエタノール、イソプロパノール、t−ブタノールが好ましい。特に好ましいのはエタノールである。
その使用量は全体溶液量に対し、1〜40v/v%に相当する量が好ましい。より好ましくは、10〜40v/v%であり、特に好ましくは、20〜35v/v%である。
また、前記では使用量を容量で規定しているが、密度(d)を乗じることにより質量に変換して使用しても構わない。例えば、エタノールの場合、d=0.785g/mlとすると、1v/v%は0.785w/v%、40v/v%は31.4w/v%となる。
【0044】
化合物(I)は、公知の方法、例えば、特開平5-194366号または特開平9-40692号に記載の方法に基づいて製造することができる。
本発明には、少なくとも化合物(I)と、リン酸三ナトリウム、その水和物、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種のpH調整剤を含有する凍結乾燥製剤が含まれる。
一般に、凍結乾燥製剤の製造工程中、薬物は澄明な溶液の状態を保つ必要がある。なぜなら、懸濁や乳濁した状態であると含有薬物濃度が一定しないばかりでなく、充填機のノズルが詰まる等の問題を生じる可能性があるからである。本発明によると、化合物(I)の溶解度が向上した結果、澄明な溶液が得られ、凍結乾燥製剤を問題なく製造することができる。
【0045】
化合物(I)の投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常、成人一人あたり、100mgから1500mgの範囲で、1日1時間から24時間の範囲で静脈内に持続投与される。もちろん投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて必要な場合もある。
本発明化合物を投与する際には、非経口投与のための注射剤として用いられる。非経口投与のための注射剤としては、溶液、用時溶解される固形組成物、例えば凍結乾燥製剤を包含する。
【0046】
本発明の製剤には、必要により賦形剤が添加される。好ましい賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、マルトース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、塩化ナトリウム等が挙げられるが、凍結乾燥時の成形性の点で、マンニトールが好適に用いられる。
本発明の製剤は、さらに安定剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤等を含んでいてもよい。
本発明の製剤は最終工程において滅菌するか無菌操作法によって調製される。また、凍結乾燥製剤は、その使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶剤、例えば生理食塩水、5%グルコース溶液等に溶解して使用することができる。
【0047】
【発明の効果】
本発明は、リン酸三ナトリウム、その水和物、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種のpH調整剤を加えることによって難溶性医薬品である化合物(I)の溶解度を向上させるとにより、一定以上の溶解度を有する溶媒が水のみの溶液を提供し、またその溶液を用いた各種製剤の提供したものである。さらに、溶媒として水と有機溶媒の混合溶液を用いることによって、より高濃度な溶液を提供し、さらにその溶液を用いた高含量製剤を提供したものである。
さらに、本発明によって製造された化合物(I)の溶液を凍結乾燥して製造した製剤は、調製時だけでなく長期間保存後も優れた溶解性と安定性を維持する。
【0048】
高濃度の溶液を調製することができると、その溶液を例えば、凍結乾燥製剤としたときに、バイアル中の化合物(I)の含量を増加させることができる。その結果、薬品含量に対するバイアルサイズの小さな高含量製剤を低コストで製造することができる。
また、急性肺障害の患者に対して化合物(I)を投与、例えば点滴静注で投与する時、本発明の高含量製剤によれば数時間ごとに注射液を用時調製する必要や、同時に複数のバイアルを取り扱う手間が省ける等の医療従事者の負担が軽減される等の利点がある。また、本発明の方法によって製造される凍結乾燥製剤は水に溶けやすいため、容易に取り扱うことができる。
【0049】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1(a)
マンニトール(20g)を蒸留水に溶解し、化合物(I)(10g)を加えた。混合物をスターラーで撹拌しながら、1N水酸化ナトリウム(0.44g)を加え、蒸留水で全量500mlとして、pH値7.65の澄明な水溶液を得た。
実施例1(b)
実施例1(a)で製造した水溶液を常法により滅菌し、5mlずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥し、1バイアル中100mgの化合物(I)を含有する凍結乾燥製剤100バイアルを得た。
【0050】
実施例2(a)
化合物(I)(16g)およびマンニトール(14g)を、エタノール(50ml)および水の混合液(約120ml)に懸濁させ、そこへ1N水酸化ナトリウム水溶液(20ml;800mgに相当)を撹拌下、少しずつ加えた。最終的に全溶液量が200mlになるように水を加え、pH値8.05の澄明な溶液を得た。
実施例2(b)
実施例2(a)で製造した水溶液を常法により滅菌し、5mlずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥し、1バイアル中400mgの化合物(I)を含有する凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
【0051】
実施例3(a)
化合物(I)(20g)およびマンニトール(10g)を、エタノール(66ml)および水の混合液(約120ml)に懸濁させ、そこへ1N水酸化ナトリウム水溶液(25ml;1gに相当)を撹拌下、少しずつ加えた。最終的に全溶液量が220mlになるように水を加え、pH値8.09の澄明な溶液を得た。
実施例3(b)
実施例3(a)で製造した水溶液を常法により滅菌し、4.4mlずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥し、1バイアル中400mgの化合物(I)を含有する凍結乾燥製剤50バイアルを得た。
【0052】
実施例4(a)
化合物(I)(14.6g)およびマンニトール(14g)を、エタノール(50ml)および水の混合液(約120ml)に懸濁させ、そこへ1N水酸化ナトリウム水溶液(18ml;720mgに相当)を撹拌下、少しずつ加えた。最終的に全溶液量が200mlになるように水を加え、pH値8.04の澄明な溶液を得た。
実施例4(b)
実施例4(a)で製造した水溶液を常法により滅菌し、5mlずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥し、1バイアル中366mgの化合物(I)を含有する凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
【0053】
実施例5(a)
化合物(I)(14.6g)およびマンニトール(14g)を、エタノール(60ml)および水の混合液(約120ml)に懸濁させ、そこへ1N水酸化ナトリウム水溶液(18ml;720mgに相当)を撹拌下、少しずつ加えた。最終的に全溶液量が200mlになるように水を加え、pH値8.08の澄明な溶液を得た。
実施例5(b)
実施例5(a)で製造した水溶液を常法により滅菌し、5mlずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥し、1バイアル中366mgの化合物(I)を含有する凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
【0054】
実施例6(a)
化合物(I)(18.3g)およびマンニトール(10g)を、エタノール(66ml)および水の混合液(約120ml)に懸濁させ、そこへ1N水酸化ナトリウム水溶液(22.5ml;900mgに相当)を撹拌下、少しずつ加えた。最終的に全溶液量が220mlになるように水を加え、pH値8.08の澄明な溶液を得た。
実施例6(b)
実施例6(a)で製造した水溶液を常法により滅菌し、4.4mlずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥し、1バイアル中366mgの化合物(I)を含有する凍結乾燥製剤50バイアルを得た。
【0055】
【図面の簡単な説明】
【図1】 pH値と化合物(I)の溶解性と安定性の関係を示すグラフである。図中、○は溶解度、△は残存率を表わす。

Claims (16)

  1. リン酸三ナトリウムおよびその水和物、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種のpH調整剤を含有する、式(I)
    Figure 0003956654
    で示されるN−[o−(p−ピバロイルオキシベンゼンスルホニルアミノ)ベンゾイル]グリシン・モノナトリウム塩・4水和物の溶液を用いて製造された凍結乾燥製剤。
  2. 溶媒が水のみである請求項1の凍結乾燥製剤。
  3. pH値が7.0〜8.5である請求項2の凍結乾燥製剤。
  4. 溶媒が水および有機溶媒の混合溶液である請求項1の凍結乾燥製剤。
  5. pH値が7.0〜9.0である請求項4の凍結乾燥製剤。
  6. 有機溶媒の量が、全溶液量の1〜40v/v%である請求項4または5に記載の凍結乾燥製剤。
  7. 有機溶媒の量が、全溶液量の10〜40v/v%である請求項6に記載の凍結乾燥製剤。
  8. 有機溶媒の量が、全溶液量の20〜35v/v%である請求項7に記載の凍結乾燥製剤。
  9. 有機溶媒がアルコールである請求項4及至8のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
  10. アルコールがエタノールである請求項9の凍結乾燥製剤。
  11. pH調整剤が水酸化ナトリウムである請求項1及至10のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
  12. pH調整剤が水酸化ナトリウムであり、水酸化ナトリウムを式(I)で示される化合物100質量部に対し、4.0〜7.0質量部用いる請求項4及至10のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
  13. 式(I)で示される化合物の濃度が6mg/mlを越える請求項1及至12のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
  14. 式(I)で示される化合物の濃度が15mg/ml以上である請求項1及至12のいずれかに記載の凍結乾燥製剤。
  15. 式(I)
    Figure 0003956654
    で示される化合物と、リン酸三ナトリウム、その水和物、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種のpH調整剤とを含有する凍結乾燥製剤。
  16. pH調整剤が水酸化ナトリウムである請求項15に記載の凍結乾燥製剤。
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