JP3950759B2 - インピーダンス変換器 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子スピン共鳴装置に用いられるインピーダンス変換器に関し、より詳しくは、電子スピン共鳴装置の検出器と導波管の間の結合度を調節するために用いられるインピーダンス変換器に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子スピン共鳴装置は、静磁場中に置かれた試料内の不対電子にマイクロ波磁界を印加し、不対電子がマイクロ波を吸収するようすをスペクトルとして検出する分析装置である。
【0003】
図1に、電子スピン共鳴装置の概念図を示す。図中1はマイクロ波発振器である。マイクロ波発振器1は、観測したい所定の不対電子の共鳴周波数に合わせた所定の周波数のマイクロ波を発振する。マイクロ波発振器1から発振されたマイクロ波は、サーキュレータ2とインピーダンス変換器3を介して、測定試料(図示せず)の置かれた共振器(Resonator)または検出器(Probe)4に送られる。共振器または検出器4は、磁石5が作る静磁場中に置かれているので、測定試料には、常時、所定の強度の静磁場が印加されている。そこで、その磁場強度に応じた周波数のマイクロ波磁界が測定試料に印加されると、測定試料中の不対電子はマイクロ波磁界に対して共鳴を起こし、マイクロ波エネルギーを吸収する。電子スピン共鳴装置は、そのマイクロ波エネルギーの吸収に由来する微小なインピーダンスの変化を検出回路6で検出して、スペクトルとして記録する。
【0004】
電子スピン共鳴スペクトルの観測方法には、大きく分けて、2種類の方法がある。1つは、CW(Contenious Wave)法である。これは、磁場強度を一定に固定して、マイクロ波の周波数を連続的に変化させながら、測定試料によるマイクロ波の吸収スペクトルを観測するか、あるいは逆に、マイクロ波の周波数を一定に固定して、磁場強度を連続的に変化させながら、測定試料によるマイクロ波の吸収スペクトルを観測する方法である。一般的には、磁場掃引による後者の方法が採用されることが多い。もう1つは、パルス法である。これは、磁場強度を一定値に固定して、パルス状のマイクロ波を測定試料に照射し、測定試料から放射される応答信号を処理してスペクトルを獲得する方法である。
【0005】
いずれの方法を取るにせよ、最も効率良くスペクトルを取得するためには、マイクロ波発振器1から送信されるマイクロ波を、損失させることなく、共振器または検出器4に結合させることが必要である。共振器または検出器4の内部に測定試料を挿入すると、測定試料の持つ誘電率により、共振器または検出器4の負荷インピーダンスが変化してしまうので、測定試料ごとに負荷インピーダンスを整合する機構が必要であり、サーキュレータ2と共振器または検出器4との間に、インピーダンス変換器3が設けられている。これにより、常時整合が取れた状態で、マイクロ波吸収スペクトルの測定がなされる。
【0006】
また、パルス法においては、共振器または検出器4の負荷Q値を下げて測定しないと、リンギングの影響で、測定試料からの応答信号を取得することが困難になる。そこで、通常は、インピーダンス変換器3によって結合度を上げ、負荷Q値を下げて測定することが一般的になっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、結合度を上げて負荷Q値を下げる方法には、いくつかの方法が考えられるが、このとき、満たされるべき条件は、ジャスト・カップリングが取れ、かつ、結合度も可変でき、負荷Q値を下げられることである。とりわけ、Xバンド(9GHz帯)のマイクロ波を使用する場合、Q値は、100以下にまで下げられることが求められる。これを実現させるために、従来、大きく分けて3つの方法が取られてきた。
【0008】
第1の方法は、空胴共振器とカップリング・アジャスター・ポストを使用する方法である。通常、空胴共振器は、マイクロ波を送信する導波管と共振器とから構成されており、両者の接合面には、カップリング・ホール(結合孔)と呼ばれる穴が開けられている。この穴の直近に、金属製のポストを挿入し、その挿入長を変えることにより、ジャスト・カップリングからオーバー・カップリングまで、整合をさまざまに調整するものである。この方法の欠点は、負荷Q値を100以下にまで下げるのが非常に困難なことである。
【0009】
第2の方法は、ループギャップ共振器を使用する方法である。この方法は、例えば、特開平2−182001号公報に記載されているものである。この共振器は、無負荷のQ値は低い(1000程度)が、磁束の充填率が非常に高いので、結合を少し上げるだけで、容易に負荷Q値を100以下まで下げることができる。また、結合機構としても、くさび状のテフロン(登録商標)・プランジャーを用いたゴードン・カップラー(Gordon Coupler)と呼ばれるものが用いられ、結合度を敏感に可変させることが可能である。従って、この構成は、最も感度良く測定できる構成であるが、共振器の寸法がきわめて小さいため、測定可能な試料の量が非常に少なく、温度可変装置などの付属装置を取り付けることができないという欠点も有している。
【0010】
第3の方法は、誘電体共振器とカップリング・ループを使用する方法である。これは、充填率の高い誘電体を励振用のループと組み合わせた構成で、誘電体とループの位置を調整することで、整合を可変させることができる。この構成の欠点は、誘電体内に含まれている常磁性不純物のために、測定領域に不要な信号が現れてしまい、測定試料の信号と混同してしまう危険性があることである。また、温度に依存した誘電率の変化などの影響で、試料の温度特性などの測定に支障を来たす場合があることである。
【0011】
これらのことから明らかなように、従来の方法では、
▲1▼ 負荷Q値を100以下まで落とせ、かつジャスト・カップリングが取れる結合機構であること、
▲2▼ 大量の試料の測定ができ、同時に、温度可変装置などの付属装置を取り付け可能であること、
▲3▼ 常磁性不純物による偽信号が出ないこと、
という3つの要求を同時に満たすことはできなかった。
【0012】
また、ループギャップ共振器の系に適用された実績を持つゴードン・カップラーをそのまま空胴共振器の系に応用しようとしても、この方式は、結合度の上限が結合孔の径に大きく依存するので、十分に大きな結合度が得られないという問題があった。
【0013】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、負荷Q値を容易に下げることができ、かつ、ジャスト・カップリングが取れるインピーダンス変換器であって、大量の試料の測定ができ、同時に、温度可変装置などの付属装置を取り付け可能で、しかも、常磁性不純物による偽信号が出ないような検出器に適用できるインピーダンス変換器、すなわち、パルス法に適したインピーダンス変換器を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するため、本発明にかかるインピーダンス変換器は、
検出器と導波管の結合部近傍の導波管側に、テーパ部を介して設けられた導波管の内孔よりも細い筒部と、
該筒部の内側に同軸状かつ移動可能に挿入されたくさび状の誘電体プランジャーと、
一端が該誘電体プランジャーの内部に挿入され、該誘電体プランジャー内部への挿入長が可変できるように構成された金属製のロッドと
を備えたことを特徴としている。
【0015】
また、前記金属製のロッドは、誘電体プランジャーの軸と交差する向きに、誘電体プランジャーの内部に挿入されていることを特徴としている。
【0016】
また、前記金属製のロッドをハンドルにして、前記結合孔と誘電体プランジャーとの間の距離を可変させるようにしたことを特徴としている。
【0017】
また、前記金属製のロッドは、前記導波管壁に設けられた、導波管の軸方向に延びるスリットに沿って摺動可能であることを特徴としている。
【0018】
【課題を解決するための手段】
前記誘電体は、テフロン(登録商標)、デルリン(登録商標)、マイカ、アルミナ、セラミックス、プラスチックスなどの単体、または、それらが組み合わされてできた誘電体であることを特徴としている。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図2は、本発明にかかるインピーダンス変換器の一実施例を示したものである。図中7は、空胴共振器である。空胴共振器7と導波管8の結合部には、スリット状またはホール状の結合孔9が設けられていて、この結合孔9を介して、導波管8側のマイクロ波が空胴共振器7内に導入される。
【0020】
この結合孔9の近傍の導波管8側に、テーパ部10を介して、導波管8の内孔よりも細い筒部11が設けられている。この筒部11の内側には、筒部11の内壁に沿って摺動可能な形で、同軸状に、くさび状のプランジャー12(図2の斜線部)が挿入されている。このプランジャー12は、例えば、テフロン(登録商標)、デルリン(登録商標)、マイカ、アルミナ、セラミックス、プラスチックスなどの単体でできた誘電体、または、それらが組み合わされてできた誘電体で作られていて、空胴共振器7と導波管8の結合部に設けられた結合孔9からの距離を自由に変化させることにより、空胴共振器7と導波管8の結合度を任意に可変させることができるようになっている。
【0021】
尚、結合孔9の近傍の導波管8側に、テーパ部10を介して、導波管8の内孔よりも細い筒部11が設けられている理由は、誘電体のプランジャー12によって、マイクロ波の実効波長が短くなることに対応させるための措置である。
【0022】
さて、このプランジャー12には、一端がプランジャー12の内部に挿入された金属製のロッド13が設けられていて、その挿入長が可変できるように構成されている。このロッド13の挿入の向きは、プランジャー軸(=導波管軸)と交差する方向、より好ましくは、直交する方向である。ロッド13の挿入長については、ロッド13がプランジャー12に対して深く挿入されている場合ほど、空胴共振器7と導波管8との間に大きな結合度が得られ、逆に、ロッド13がプランジャー12に対して浅くしか挿入されていない場合には、空胴共振器7と導波管8との結合度は小さくなる。従って、誘電体のプランジャー12に金属製のロッド13を挿入し、その挿入長を任意に可変することによって、空胴共振器7と導波管8の結合度を制御している点が、従来のゴードン・カップラーとは異なる本発明の特徴である。
【0023】
このような、誘電体のプランジャー12に金属製のロッド13を挿入した新しいゴードン・カップラーを用いれば、従来のゴードン・カップラーを用いた場合よりも大きな結合を得ることができるので、空胴共振器7の負荷Q値を容易に下げることができ、空胴共振器7をパルス法のための検出器として使用することが可能になる。
【0024】
また、一端がプランジャー12の内部に挿入されたロッド13の他端は、プランジャー12から外部に向けて突き出している。そこで、この突出部を、プランジャー12を空胴共振器7と導波管8の結合孔9に接近させたり、あるいはプランジャー12を空胴共振器7と導波管8の結合孔9から遠ざけたりする際の移動用ハンドルとして利用すれば便利である。
【0025】
すなわち、ロッド13の他端を、導波管8の管壁に設けられた、導波管8の軸方向に延びるスリット14から、導波管8の外側に向けて突き出させ、そのロッド13の他端をプランジャー12の移動のためのハンドルに用いて、導波管8の外側からロッド13を移動用スリット14に沿って摺動させることにより、空胴共振器7と導波管8の結合孔9とプランジャー12との距離を任意に可変させるようにする。これにより、空胴共振器7と導波管8の結合度を、インピーダンス変換器の外部から、容易に制御することができる。
【0026】
以上、本発明のインピーダンス変換器について述べてきたが、本発明のインピーダンス変換器を用いれば、通常のCW法に用いられる空胴共振器をパルス法の検出器として用いることができるので、温度可変装置など大型の付属装置を取り付けることが可能であり、しかも、常磁性不純物による偽信号も出ないという優れた効果を得ることができる。
【0027】
【発明の効果】
以上述べたごとく、本発明のインピーダンス変換器によれば、検出器と導波管の結合部近傍の導波管側に、テーパ部を介して設けられた導波管の内孔よりも細い筒部と、該筒部の内側に同軸状かつ移動可能に挿入されたくさび状の誘電体プランジャーと、一端が該誘電体プランジャーの内部に挿入され、その挿入長が可変できるように構成された金属製のロッドとを備えたので、検出器と導波管の結合度を上げて検出器の負荷Q値を容易に下げることができ、しかも、ジャスト・カップリングが取れるような、パルス法に適したインピーダンス変換器を提供することが可能になった。
【0028】
その結果、大量の試料の測定ができ、温度可変装置などの付属装置を取り付け可能で、しかも、常磁性不純物による偽信号が出ないパルス用の検出器を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 電子スピン共鳴装置の基本構成を示す図である。
【図2】 本発明にかかるインピーダンス変換器の一実施例を示す図である。
【符号の説明】
1・・・マイクロ波発振器、2・・・サーキュレータ、3・・・インピーダンス変換器、4・・・共振器(検出器)、5・・・磁石、6・・・検出回路、7・・・空胴共振器、8・・・導波管、9・・・結合孔、10・・・テーパ部、11・・・筒部、12・・・プランジャー、13・・・ロッド、14・・・スリット。

Claims (5)

  1. 検出器と導波管の結合部近傍の導波管側に、テーパ部を介して設けられた導波管の内孔よりも細い筒部と、
    該筒部の内側に同軸状かつ移動可能に挿入されたくさび状の誘電体プランジャーと、
    一端が該誘電体プランジャーの内部に挿入され、該誘電体プランジャー内部への挿入長が可変できるように構成された金属製のロッドと
    を備えたことを特徴とするインピーダンス変換器。
  2. 前記金属製のロッドは、誘電体プランジャーの軸と交差する向きに、誘電体プランジャーの内部に挿入されていることを特徴とする請求項1記載のインピーダンス変換器。
  3. 前記金属製のロッドをハンドルにして、前記結合孔と誘電体プランジャーとの間の距離を可変させるようにしたことを特徴とする請求項1記載のインピーダンス変換器。
  4. 前記金属製のロッドは、前記導波管壁に設けられた、導波管の軸方向に延びるスリットに沿って摺動可能であることを特徴とする請求項1記載のインピーダンス変換器。
  5. 前記誘電体は、テフロン(登録商標)、デルリン(登録商標)、マイカ、アルミナ、セラミックス、プラスチックスなどの単体、または、それらが組み合わされてできた誘電体であることを特徴とする請求項1記載のインピーダンス変換器。
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