JP3949865B2 - 等速自在継手 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や各種産業機械等の動力伝達装置に使用される等速自在継手に関し、特にトリポード型等速自在継手に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、自動車のエンジンから車輪に回転動力を伝達する動力伝達装置の一要素として(ドライブシャフトやプロペラシャフトの連結用継手として)、トリポード型等速自在継手が用いられている。
【0003】
トリポード型等速自在継手は、一般に、内周部に軸方向の3本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した3本の脚軸を有し、各脚軸にそれぞれローラを回転可能に配設したトリポード部材とを主体として構成される。トリポード部材の脚軸と外側継手部材のローラ案内面とがローラを介して回転方向に係合することにより、駆動側から従動側に回転トルクが等速で伝達される。また、各ローラが脚軸に対して回転しながらローラ案内面上を転動することにより、外側継手部材とトリポード部材との間の相対的な軸方向変位や角度変位が吸収されると同時に、外側継手部材とトリポード部材とが作動角を取りつつ回転トルクを伝達する際の、回転方向位相の変化に伴う、各脚軸のローラ案内面に対する軸方向変位が吸収される。
【0004】
トリポード型等速自在継手としては、上記ローラを複数のニードルローラを介して脚軸の円筒状外周面に装着したものもあるが、外側継手部材とトリポード部材とが作動角をとりつつ回転トルクを伝達する際、脚軸の傾きに伴って各ローラとローラ案内面とが互いに斜交した関係になるので、両者の間に滑りが生じ、その際の摺動抵抗によって各ローラの円滑な転動が妨げられて誘起スラストが大きくなるという問題がある。また、各ローラとローラ案内面との間の摺動抵抗によって、外側継手部材とトリポード部材とが軸方向に相対変位する際のスライド抵抗が大きくなるという問題がある。
【0005】
そこで、ローラとローラ案内面との斜交状態を解消して、誘起スラストやスライド抵抗の低減を図るため、脚軸に対するローラの傾動及び軸方向移動を自在とする機構(ローラ機構)を備えたトリポード型等速自在継手が種々提案され、実用化されている。この種のトリポード型等速自在継手として、脚軸の外周面を凸球状に形成すると共に、ローラを複数のニードルローラを介して支持リングに回転可能に組み付けてローラ機構(ローラアッセンブリ)を構成し、支持リングの円筒状の内周面を脚軸の凸球状の外周面に外嵌した構成が知られている(特公平7−117108号、特許2623216号等)。この構成によれば、支持リングの円筒状の内周面と脚軸の凸球状の外周面との間の滑りによって、脚軸に対するローラ機構の傾動及び軸方向移動が自在となる。
【0006】
さらに、本出願人は、この種のトリポード型等速自在継手における誘起スラストやスライド抵抗を一層効果的に低減するため、支持リングの内周面が円弧状凸断面であり、脚軸の外周面は縦断面においてはストレート形状で、横断面においては継手の軸線と直交する方向で支持リングの内周面と接触し、かつ、継手の軸線方向で支持リングの内周面との間にすきまを形成するようになっている構成について既に出願している(特願平11−059040号)。この構成によれば、支持リングの円弧状凸断面の内周面と脚軸のストレート形状の外周面との間の滑りによって、脚軸に対するローラ機構の傾動及び軸方向移動が自在となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
この種の等速自在継手では、ローラと支持リングとがそれらの軸線方向に相対移動するのを係止手段で両側から規制することによって、ローラ機構のアッセンブリ体としての一体性を確保している。一方、この種の等速自在継手が作動角を取りつつ回転トルクを伝達する際、脚軸に対するローラ機構の傾動及び軸方向移動によって、支持リングの内周面と脚軸の外周面との間に滑りが生じ、その滑り摩擦力に起因して、係止手段に、ローラおよび支持リングの軸線方向に向いた軸方向繰り返し荷重(以下、単に「軸方向荷重」という。)が加わる。したがって、係止手段はこの軸方向荷重に耐えることができる強度(曲げ疲労や割れ疲労等に対する強度)を有することが必要とされる。また、係止手段は、ローラ又は支持リングの端面、さらにローラを支持リングに対してニードルローラで回転可能に支持する場合はニードルローラの端面とも滑り接触するので、その接触面の疲労寿命も問題となる。
【0008】
本発明は、上述したようなローラ機構を備えたトリポード型等速自在継手において、係止手段、特にローラ又は支持リングに装着される係止リングの軸方向荷重に対する疲労強度を高め、また接触面の疲労寿命を高めることにより、現状のサイズを維持したままより耐久性や強度に優れたトリポード型等速自在継手を提供し、また、現状品と同等以上の耐久性や強度を確保しつつよりコンパクトなトリポード型等速自在継手を提供しようとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成するため、本発明は、内周部に軸方向の3本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した3本の脚軸を有するトリポード部材と、トリポード部材の各脚軸にそれぞれ装着されたローラ機構とを備え、ローラ機構は、ローラ案内面に沿って外側継手部材の軸線と平行な方向に案内されるローラと、ローラを回転可能に支持する支持リングと、ローラと支持リングとがそれらの軸線方向に相対移動するのを両側からそれぞれ規制する係止手段とを含み、脚軸の軸線に対して傾動及び軸方向移動自在である等速自在継手において、支持リングの内周面は円弧状凸断面であり、脚軸の外周面は縦断面においてはストレート形状で、横断面においては継手の軸線と直交する方向で支持リングの内周面と接触し、かつ、継手の軸線方向で支持リングの内周面との間にすきまを形成するようになっており、少なくとも一方側の係止手段がローラ又は支持リングに装着された係止リングを有し、係止リングの厚さWが0.5mm≦W≦1.2mmであり、かつ、係止リングの表面硬さがHRC43以上、HRC53以下である構成を提供する。
【0010】
ここで、「少なくとも一方側の係止手段がローラ又は支持リングに装着された係止リングを有する」構成には、一方側の係止手段を係止リングとし、他方側の係止手段をローラ又は支持リングに一体に設けられた係止鍔とした構成、両側の係止手段を双方とも係止リングとした構成が含まれる。さらに、少なくとも一方側の係止手段を係止リングと他の係止要素とで構成したもの、例えば係止リングと係止鍔とで構成したものも含まれる。また、「係止リング」には、完全なリング形状の一体リングの他、一部をスリットによって分割した分割リングも含まれる。
【0011】
係止リングの厚さWを0.5mm≦W≦1.2mmとした理由は次にある。上述したように、係止リングはローラ(又は支持リング)やニードルローラを介して軸方向繰り返し荷重を受けるが、この軸方向荷重に対する対応性を高め、疲労強度を高める観点から、係止リングに適度の靭性を持たせることが重要である。すなわち、係止リングに適度の靭性を持たせることにより、係止リングに加わる軸方向荷重が分散され、その結果、係止リングの疲労強度が向上する。また、この種の等速自在継手では、係止リングを縮拡径させながらローラ又は支持リングに装着する場合が多く、組付け性の点からも、係止リングに適度の靭性をもたせることが望ましい。さらに、製造工程の簡略化を図る観点から、係止リングの成形加工性にも配慮することが望ましい。係止リングの厚さWを0.5mm≦W≦1.2mmの範囲内の値とすることにより、係止リングに適度の靭性を付与して、軸方向荷重に対する疲労強度を向上させ、同時にローラ又は支持リングに対する組付け性を高めることができる。また、係止リングの成形加工性も良好になる。
【0012】
一方、係止リングの表面は、軸方向荷重に対する疲労強度を高め、また接触面の疲労寿命を高める観点から、適度の硬さを与えて、良好な耐摩耗性を確保することが望ましい。係止リングの表面硬さをHRC43〜HRC53の範囲内としたのはかかる理由による。ここで、「HRC」はロックウェル硬さのCスケールを表している。表面硬さがHRC43未満であると、接触面の疲労寿命を十分に確保することができず、表面硬さがHRC53を超えると靭性が低下して軸方向荷重に対する疲労強度、組付け性の点で不利になる。
【0013】
以上の構成において、係止リングの少なくとも表層部がマルテンサイトの基地中に球状炭化物を含む組織を有する構成とすることができる。ここで、「少なくとも表層部がマルテンサイトの基地中に球状炭化物を含む組織を有する」には、表層部のみが上記組織を有するもの、表面から内部にわたって上記組織を有するものが含まれる。
【0014】
この構成によれば、係止リングの少なくとも表層部の組織をマルテンサイトの基地(マトリックス)中に球状炭化物を含むものとしたので、一般構構造用鋼に比べて高い耐摩耗性が得られ、接触面の疲労寿命が向上する。
【0015】
上記の球状炭化物はFe3Cを主体とする炭化物であり、このような球状炭化物をマルテンサイト基地中に含む組織は、少なくとも表層部に共析点以上(0.8wt%以上)の炭素Cを含有させ、焼入れ焼戻しを行うことにより形成することができる。
【0016】
より具体的には、係止リングを炭素工具鋼で形成し、かつ、マルテンサイトの基地中の球状炭化物量を0.3〜0.6wt%にすることができる。この構成によれば、マルテンサイトの基地中に細かく球状化された適正量の炭化物が含まれるため、高い耐摩耗性が得られると同時に、基地は著しく硬くならず適度の靭性をもった組織となる。そのため、係止リングの接触面の疲労寿命が向上すると共に、軸方向荷重に対する疲労強度も向上する。また、係止リングに適度の靭性が確保されることにより、ローラ又は支持リングに対する組付け性も良好になる。ここで、マルテンサイトの基地中の球状炭化物量は0.3〜0.6wt%の範囲内に規制するのが好ましい。球状炭化物量が0.3wt%未満であると耐摩耗性向上効果が十分得られず、逆に球状炭化物量が0.6wt%を越えると基地の靭性が低くなり過ぎ、軸方向荷重に対する疲労強度や組付け性が不十分になる可能性がある。工具炭素鋼としては、SK3、SK4、SK5、SK6等を用いることができる。
【0017】
あるいは、係止リングをばね鋼で形成することができる。この構成によれば、高い表面硬さを維持しながら高い弾性限が得られるので、係止リングの接触面の疲労寿命が向上すると共に、軸方向荷重に対する疲労強度も向上する。また、高い弾性限が得られることにより、係止リングの組付け性が一層向上し、組付け作業の自動化、それによる製造コストの低減にも有効である。ばね鋼の種類は特に問わず、熱間成形ばね鋼、冷間成形ばね鋼の中から使用条件や継手サイズ等に応じて最適なものを選択して用いることができ、例えば熱間成形ばね鋼SUP4等を用いることができる。
【0018】
また、係止リングを高硬線材で形成することができる。以上の構成に比べて耐摩耗性は若干劣るものの、高い弾性限が得られることにより、係止リングに加わる軸方向荷重が分散され、その結果、軸方向荷重に対する高い疲労強度が得られる。また、高硬線材は比較的安価であると共に、組付け性の改善にも有効である。高硬線材として、例えばSWRH等を用いることができる。
【0019】
以上の構成において、係止リングはローラ又は支持リングにガタ付きなく装着されているのが好ましい。ここで、「ガタ付きなく」とは、係止リングがローラ又は支持リングに、少なくとも径方向ガタがない状態で組み込まれていることを言う。好ましくは、径方向ガタのみならず、軸方向ガタもなくすのが良い。この構成によれば、係止リングがローラ又は支持リングにガタ付きなく装着されていることにより、係止リングがローラ又は支持リングから受ける軸方向荷重の作用領域(荷重点)が安定し、その結果、軸方向荷重に対する疲労強度が向上する。また、荷重点の変動が抑制されることにより、係止リングとローラ又は支持リングの接触面の疲労寿命も向上する。
【0020】
さらに、他方側の係止手段をローラ又は支持リングに一体に設けられた係止鍔とすることにより、この部位に係止リングを装着する場合の組付け公差を排除できるので、両側の係止手段とローラ又は支持リングとの間の軸方向クリアランスを半減することができる。これにより、上記の効果を一層顕著なものとすることができる。
【0021】
以上の構成において、係止手段(係止リング及び/又は係止鍔)の少なくとも接触面には、微小な凹部を無数にランダムに形成しても良い。接触面に形成された微小凹部が油溜りの役割を果たし、接触面における油膜形成が促進されるので、潤滑性が改善され、接触面の疲労寿命が向上する。微小凹部は、例えば大きさ数10μm程度、深さ1μm程度のものである。接触面の研磨条件を変えることにより、任意の大きさ、深さ、数の微小凹部を形成することが可能である。接触面にのみ選択的に微小凹部を形成することが困難な場合は、接触面の周辺部を含めて、あるいは係止リングやローラ又は支持リングの全表面に微小凹部を形成しても良い。
【0022】
また、係止手段(係止リング及び/又は係止鍔)の少なくとも接触面には、化成処理被膜を下地層とする固体潤滑被膜を形成しても良い。固体潤滑被膜により、接触面の摩擦抵抗が軽減され、潤滑性が改善されるので、接触面の疲労寿命が向上する。下地層となる化成処理被膜は、固体潤滑被膜の接触面に対する密着性を高める目的で形成される。化成処理被膜としては、例えばりん酸マンガン処理被膜、りん酸鉄処理被膜、りん酸亜鉛処理被膜等を挙げることができる。また、固体潤滑被膜としては、二硫化モリブデン被膜、PTFE被膜等を挙げることができる。尚、処理前の接触面(母材表面)の表面粗さは処理後の効果に影響するので、適度な油溜りの作用が得られるように、接触面の表面粗さを、Ra0.2〜0.8に仕上げ加工しておくのが望ましい。接触面にのみ選択的に被膜処理を施すことが困難な場合は、接触面の周辺部を含めて、あるいは係止リングやローラ又は支持リングの全表面に被膜処理を施しても良い。
【0023】
また、係止手段(係止リング及び/又は係止鍔)の少なくとも接触面には、常温浸硫処理を施しても良い。浸硫処理は、鋼の表面に硫黄を浸透させ、硫化鉄を生成させる表面処理法である。浸硫処理を施すことにより、表面の摩擦抵抗が軽減されるので、初期なじみ性が改善され、接触疲労寿命の向上になる他、NVH特性も安定する。また、常温浸硫処理によれば、例えば30〜40°C×10〜30分の条件で処理を行うので、表面硬化層の硬さ低下も起こらない。処理前の接触面の表面粗さは処理後の効果に影響するので、適度な油溜りの作用が得られるように、接触面の表面粗さを、Ra0.2〜0.8に仕上げ加工しておくのが望ましい。接触面にのみ選択的に浸硫処理を施すことが困難な場合は、接触面の周辺部を含めて、あるいは係止リングやローラ又は支持リングの全表面に浸硫処理を施しても良い。
【0024】
また、係止手段(係止リング及び/又は係止鍔)の少なくとも接触面には、ショットピーニング処理を施しても良い。ショット粒の大きさ、投射速度、投射量等を適宜調整して、接触面に微小ディンプルを形成し、微小ディンプルに油溜りの役割を持たせることにより、潤滑性の改善を図ることができる。また、ショットピーニング処理により、表面組織が微細化されると共に、表面に残留圧縮応力が発生するので、軸方向荷重に対する疲労強度や接触面の疲労寿命の向上に効果的である。接触面にのみ選択的にショットピーニング処理を施すことが困難な場合は、接触面の周辺部を含めて、あるいは係止リングやローラ又は支持リングの全表面にショットピーニング処理を施しても良い。
【0025】
上述のように、本発明の等速自在継手のローラ機構において、支持リングの内周面は円弧状凸断面であり、脚軸の外周面は縦断面においてはストレート形状で、横断面においては継手の軸線と直交する方向で支持リングの内周面と接触し、かつ、継手の軸線方向で支持リングの内周面との間にすきまを形成するようになっている。
【0026】
脚軸の横断面形状について、継手の軸線と直交する方向で支持リングの内周面と接触するとともに継手の軸線方向で支持リングの内周面との間にすきまを形成するような形状とは、言い換えれば、トリポード部材の軸方向で互いに向き合った面部分が相互方向に、つまり、仮想円筒面よりも小径側に退避している形状を意味する。その一つの具体例として略楕円形が挙げられる。「略楕円形」には、字義どおりの楕円形の他、一般に卵形、小判形等と称される形状も含まれる。
【0027】
従来円形であった脚軸の断面形状を上記の形状としたことにより、継手が作動角をとったとき、ローラ機構(ローラアッセンブリ)の姿勢を変えることなく、脚軸が外側継手部材に対して傾くことができる。しかも、脚軸の外周面と支持リングとの接触楕円が従来の横長から点に近づくため(図1(C)参照)、ローラ機構を傾けようとする摩擦モーメントが低減する。したがって、ローラ機構の姿勢が常に安定し、ローラがローラ案内面と平行に保持されるため円滑に転動することができる。これにより、スライド抵抗の低減ひいては誘起スラストの低減に寄与する。
【0028】
なお、ローラ機構は脚軸と外側継手部材との間に介在してトルクを伝達する役割を果たすものであるが、この種の等速自在継手におけるトルクの伝達方向は常に継手の軸線に直交する方向であるため、当該トルクの伝達方向において脚軸と支持リングとが接していることでトルクの伝達は可能であり、継手の軸線方向において両者間にすきまがあってもトルク伝達に支障を来すことはない。
【0029】
上記構成において、支持リングの内周面の母線を、中央部の円弧部と両端部の逃げ部とで構成することができる。円弧部の曲率半径は、2〜3°程度の脚軸の傾きを許容できる大きさとするのが好ましい。また、支持リングとローラの間に複数の転動体を配置して支持リングとローラを相対回転自在とすることができ、その転動体として、ニードルローラやボール等を用いることができる。さらに、ローラの外周面を球状(曲率中心が脚軸の軸線上にある「真球面」、又は曲率中心が脚軸の軸線から外径側にオフセットされた、いわゆる「トーラス面」)に形成し、このローラの球状外周面を外側継手部材のローラ案内面とアンギュラコンタクトさせた構成とすることができる。ローラとローラ案内面とをアンギュラコンタクトさせることにより、ローラが振れにくくなってその姿勢が一層安定するため、ローラが外側継手部材の軸方向に移動する際にローラ案内面上をより少ない抵抗で円滑に転動する。かかるアンギュラコンタクトを実現するための具体的な構成として、ローラ案内面の断面形状をテーパ形状またはゴシックアーチ形状とすることが挙げられる。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0032】
図1および図2は、本発明の第一の実施形態を示している。図1(A)は継手の横断面を示し、図1(B)は脚軸に垂直な断面を示し、図1(C)は支持リングの断面を示し、図2は作動角(θ)をとった状態の継手の縦断面を示している。
【0033】
図1に示すように、等速自在継手は外側継手部材10とトリポード部材20とを主体として構成され、連結すべき2軸の一方が外側継手部材10と連結され、他方がトリポード部材20と連結される。
【0034】
外側継手部材10は内周部に軸方向に延びる3本のトラック溝12を有する。各トラック溝12の円周方向で向かい合った側壁にそれぞれローラ案内面14が形成されている。トリポード部材20は半径方向に突設した3本の脚軸22を有し、各脚軸22にはローラ34が取り付けてあり、このローラ34が外側継手部材10のトラック溝12内に収容される。ローラ34の外周面34aはローラ案内面14に適合する凸曲面である。
【0035】
ここでは、ローラ34の外周面34aは脚軸22の軸線から半径方向に離れた位置に曲率中心を有する円弧を母線とする凸曲面であり、ローラ案内面14の断面形状はゴシックアーチ形状であって、これにより、ローラ34の外周面34aとローラ案内面14とがアンギュラコンタクトをなす。図1(A)に、2つの当たり位置を一点鎖線で示してある。球状のローラ外周面に対してローラ案内面14の断面形状をテーパ形状としても両者のアンギュラコンタクトが実現する。このようにローラ34の外周面34aとローラ案内面14とがアンギュラコンタクトをなす構成を採用することによって、ローラが振れにくくなるため姿勢が安定する。なお、アンギュラコンタクトを採用しない場合には、たとえば、ローラ案内面14を軸線が外側継手部材10の軸線と平行な円筒面の一部で構成し、その断面形状をローラ34の外周面34aの母線に対応する円弧とすることもできる。
【0036】
脚軸22の外周面22aに支持リング32が外嵌している。この支持リング32とローラ34とは複数のニードルローラ36を介してアッセンブリ(ユニット化)され、相対回転可能なローラ機構(ローラアセンブリ)Aを構成している。すなわち、図5に拡大して示すように、支持リング32の円筒形外周面を内側軌道面とし、ローラ34の円筒形内周面を外側軌道面として、これらの内外軌道面間に複数のニードルローラ36が転動自在に介装されている。そして、支持リング32、ローラ34、及びニードルローラ36が、それらの軸線方向に相対移動するのを規制するために、ローラ機構Aの軸方向両側にそれぞれ係止手段が設けられている。この実施形態において、両側の係止手段は係止リング33、35で構成され、それぞれ、ローラ34の端部内周に設けられた円周溝34c、34dに嵌合される。係止リング33、35の幅Wは0.5mm≦W≦1.2mmの範囲内に設定され、また表面硬さはHRC47〜HRC57の範囲内に規定されている。これにより、支持リング32やニードルローラ36からの軸方向荷重に対する疲労強度を高め、また支持リング32やニードルローラ36との接触に伴う接触面の疲労寿命を向上させることができる。係止リング33、35を円周溝34c、34dに嵌合するに際しては、係止リング33、35を弾性的に縮径させ、ローラ34の端部内周に組み入れて、円周溝34c、34dの形成位置まで推し進める。そうすると、係止リング33、35は円周溝34c、34dの形成位置に達した時点で弾性的に拡径復元して、円周溝34c、34dに嵌まり込む。このようにして、ローラ34に装着された係止リング33、35は、支持リング32の端面、ニードルローラ36の端面と接触することによって、これらの部材がローラ34に対して軸方向に相対移動するのを規制する。尚、係止リング33、35は、例えば一部をスリットによって分割した分割リングである。また、図1(B)に示すように、ニードルローラ36は、できるだけ多くのころを入れた、保持器のない、いわゆる総ころ状態で組み込まれている。
【0037】
脚軸22の外周面22aは、縦断面{図1(A)}で見ると脚軸22の軸線と平行なストレート形状であり、横断面{図1(B)}で見ると、長軸が継手の軸線に直交する楕円形状である。脚軸の断面形状は、トリポード部材20の軸方向で見た肉厚を減少させて略楕円状としてある。言い換えれば、脚軸の断面形状は、トリポード部材の軸方向で互いに向き合った面が相互方向に、つまり、仮想円筒面よりも小径側に退避している。
【0038】
支持リング32の内周面32cは円弧状凸断面を有する。すなわち、内周面32cの母線が半径rの凸円弧である{図1(C)}。このことと、脚軸22の断面形状が上述のように略楕円形状であり、脚軸22と支持リング32との間には所定のすきまが設けてあることから、支持リング32は脚軸22の軸方向での移動が可能であるばかりでなく、脚軸22に対して傾動自在である。また、上述のとおり支持リング32とローラ34はニードルローラ36を介して相対回転自在にアッセンブリ(ユニット化)されているため、脚軸22に対し、支持リング32とローラ34がユニットとして傾動可能な関係にある。ここで、傾動とは、脚軸22の軸線を含む平面内で、脚軸22の軸線に対して支持リング32およびローラ34の軸線が傾くことをいう(図2参照)。
【0039】
この種の従来継手の場合、脚軸の外周面が全周にわたって支持リングの内周面と接するため、接触楕円が円周方向に延びた横長形状を呈する。そのため、外側継手部材に対して脚軸が傾くとき、脚軸の動きに伴って支持リングを、延いてはローラを傾かせるように作用する摩擦モーメントが発生する。これに対し、図1に示した実施の形態では、脚軸22の横断面が略楕円状で、支持リング32の内周面32cの横断面が円弧状凸断面であることから、図1(C)に破線で示すように、両者の接触楕円は点に近いものとなり、同時に面積も小さくなる。したがって、ローラ機構(32、33、34、35、36)を傾かせようとする力が従来のものに比べると非常に低減し、ローラ34の姿勢の安定性が一層向上する。
【0040】
上記構成において、係止リング33、35に、前述した種々の材質改善や表面改質を行うことにより、支持リング32やニードルローラ36からの軸方向荷重に対する疲労強度を一層高め、また支持リング32やニードルローラ36との接触に伴う接触面の疲労寿命を一層向上させることができる。さらに、係止リング33、35をローラ34の円周溝34c、34dにガタ付きなく装着することにより、この効果をより一層高めることができる。この実施形態では、係止リング33、35の外周を円周溝34c、34dの溝底に締め代をもって嵌合することにより、係止リング33、35とローラ34との間の径方向ガタをなくしている。
【0041】
図6〜図12は、ローラ機構Aの他の構成例を示している。
【0042】
図6に示す実施形態は、ローラ機構Aの一方側の係止手段を係止リング33で構成し、他方側の係止手段を係止鍔34eで構成したものである。係止リング33は、ローラ34の一方側の端部内周に設けられた円周溝34cに嵌着される。また、係止鍔34eはローラ34の他方側の端部に一体に設けられる。係止リング33は、例えば円周溝34cの溝底に締め代をもって嵌合することで、ローラ34との間の径方向ガタをなくすことができる。係止鍔34eはローラ34と一体に設けられているので、ローラ34との間に軸方向ガタ及び径方向ガタは存在しない。図5に示す実施形態に比べ、他方側の係止手段を係止リングで構成することによる組付け公差を排除して、支持リング32及びニードルローラ36との間の軸方向クリアランスを半減できるという利点がある。尚、係止鍔34eの形成部位は、ローラ34の脚軸基端側に向いた端部、脚軸先端側に向いた端部の何れでも良いが、この実施形態では、ローラ34の脚軸基端側に向いた端部に係止鍔34eを設けている。幅Wや表面硬さ等、その他の事項は、図5に示す実施形態に準じる。
【0043】
図7に示す実施形態は、図5に示す実施形態と同様に、ローラ機構Aの軸方向両側の係止手段を係止リング33、35で構成したものであるが、この実施形態では、係止リング33、35に、外向きに拡径する方向のテーパ(テーパ角β)をもった段部33a、35aを設け、段部33a、35aをローラ34の端部内周に締め代をもって嵌合している。これにより、係止リング33、35とローラ34との間の径方向ガタをなくすことができる。さらに、支持リング32やニードルローラ36からの軸方向荷重を、段部33a、35aとローラ34の端部内周との接触部S’で受けることができるので、係止リング33、35の曲げ疲労防止にも有効である。尚、係止リング33、35の外周と円周溝34c、34dの溝底との間には僅かな半径方向隙間がある。また、係止リング33、35は、例えば一部をスリットによって分割した分割リングである。幅Wや表面硬さ等、その他の事項は、図5に示す実施形態に準じる。
【0044】
図8に示す実施形態は、係止リング33、35の外周と円周溝34c、34dの側壁に、相互にテーパ嵌合するテーパ面33b、35b、34c1、34d1を設けたものである。係止リング33、35のテーパ面33b、35bを、円周溝34c、34dのテーパ面34c1、34d1に締め代をもってテーパ嵌合することにより、係止リング33、35とローラ34との間の径方向ガタ及び軸方向ガタをなくすことができる。係止リング33、35は分割リングとしても良いが、図9に示すような一体リングで構成することもできる。すなわち、係止リング33(35)の環状部33c(35c)を自然状態において傾斜状に形成しておき、ローラ34の円周溝34c(34d)の形成位置まで挿入した後、軸方向力Pを加えて環状部33c(35c)を弾性的に起立変形させる。そうすると、環状部33c(35c)の外周が拡径して円周溝34c(34d)に嵌まり込み、これにより係止リング33、35がローラ34の円周溝34c(34d)に嵌合固定される。幅Wや硬さ等、その他の事項は、図5に示す実施形態に準じる。
【0045】
図10に示す実施形態は、ローラ機構Aの両側の係止手段を係止リング33’、35’で構成すると共に、係止リング33’、35’を、支持リング32の端部外周に設けた円周溝32d、32eにそれぞれ嵌合したものである。係止リング33’、35’を円周溝32d、34eに嵌合するに際しては、係止リング33’、35’を弾性的に拡径させて、支持リング32の端部外周に組み入れ、円周溝32d、34eの形成位置まで推し進める。そうすると、係止リング33’、35’が円周溝32d、34eの形成位置に達した時点で弾性的に縮径復元して、円周溝32d、34eに嵌まり込む。このようにして、支持リング32に装着された係止リング33’、35’は、ローラ34の端面、ニードルローラ36の端面と接触することにより、これらの部材が支持リング32に対して軸方向に相対移動するのを規制する。この実施形態では、係止リング33’、35’の内周を円周溝32d、34eの溝底に締め代をもって嵌合することで、係止リング33’、35’と支持リング32との間の径方向ガタをなくしている。尚、係止リング33’、35’は、例えば一部をスリットによって分割した分割リングである。幅W表面硬さ等、その他の事項は、図5に示す実施形態に準じる。
【0046】
図11に示す実施形態は、ローラ機構Aの一方側の係止手段を係止リング33’で構成し、他方側の係止手段を係止鍔32fで構成したものである。係止リング33’は、支持リング32の一方側の端部外周に設けられた円周溝32dに嵌合される。また、係止鍔32fは支持リング32の他方側の端部に一体に設けられる。係止リング33’は、例えば円周溝32dの溝底に締め代をもって嵌合することで、支持リング32との間の径方向ガタをなくすことができる。係止鍔32fは支持リング32と一体に設けられているので、支持リング32との間に軸方向ガタ及び径方向ガタは存在しない。図10に示す実施形態に比べ、他方側の係止手段を係止リングで構成することによる組付け公差を排除して、ローラ34及びニードルローラ36との間の軸方向クリアランスを半減できるという利点がある。尚、係止鍔32fの形成部位は、支持リング32の脚軸基端側に向いた端部、脚軸先端側に向いた端部の何れでも良いが、この実施形態では、支持リング32の脚軸基端側に向いた端部に係止鍔32fを設けている。幅Wや表面硬さ等、その他の事項は、図5に示す実施形態に準じる。
【0047】
図12に示す実施形態は、ローラ機構Aの一方側の係止手段を係止リング33及び係止鍔32gで構成し、他方側の係止手段を係止鍔34eで構成したものである。係止リング33は、ローラ34の一方側の端部内周に設けられた円周溝34cに嵌合される。また、係止鍔32gは支持リング32の一方側の端部に一体に設けられる。係止鍔34eは、ローラ34の他方側の端部に一体に設けられる。係止リング33は、例えば円周溝34cの溝底に締め代をもって嵌合することで、ローラ34との間の径方向ガタをなくすことができる。係止鍔32gは支持リング32と一体に設けられているので、支持リング32との間に軸方向ガタ及び径方向ガタは存在しない。また、係止鍔34eはローラ34と一体に設けられているので、ローラ34との間に軸方向ガタ及び径方向ガタは存在しない。幅Wや表面硬さ等、その他の事項は、図5に示す実施形態に準じる。
【0048】
以上の実施形態において、ニードルローラ36の端面形状として、図13に示す種々の形状を採用することができる。同図(A)はニードルローラ36の端面を曲率半径R’1の半球面としたもの、同図(B)はニードルローラ36の端面を曲率半径R’2の一部球面としたもの、同図(C)はニードルローラ36の端面を平坦面とし、角部にチャンファcfを施したもの、同図(D)はニードルローラ36の端面を曲率半径R’3とr’(R’3>r’)の複合球面としたものである。
【0049】
図3および図4は、本発明の他の実施形態を示している。この実施形態は、支持リング32の内周面32cの母線が、上述の実施形態では単一の円弧で形成されているのに対して、中央の円弧部32aとその両側の逃げ部32bとの組合せで形成されている点で相違する。逃げ部32bは、図3(C)のように作動角(θ)をとったときの脚軸22との干渉を避けるための部分であり、円弧部32aの端から支持リング32の端部に向かって徐々に拡径した直線または曲線で構成する。ここでは、逃げ部32bを円錐角α=50°の円錐面の一部とした場合を例示してある。円弧部32aは、支持リング32に対する脚軸22の2〜3°程度の傾きを許容するため、たとえば30mm程度の大きな曲率半径(r)とする。トリポード型等速自在継手では、機構上、外側継手部材10が1回転するときトリポード部材20は外側継手部材10の中心に対して3回振れ回る。このとき符号e{図2(A)}で表わされる偏心量は作動角(θ)に比例して増加する。そして、3本の脚軸22は120°ずつ離間しているが、作動角(θ)をとると、図2(B)に示すように、図の上側に表われている垂直な脚軸22を基本として考えると、他の2本の脚軸22は、一点鎖線で示す作動角0のときのそれらの軸線からわずかに傾く。その傾きは作動角(θ)がたとえば約23°のとき2〜3°程度となる。この傾きが支持リング32の内周面32cの円弧部32aの曲率によって無理なく許容されるため、脚軸22と支持リング32との接触部における面圧が過度に高くなるのを防止することができる。なお、図2(B)は、図2(A)の左側面から見たトリポード部材20の3本の脚軸22を模式的に図示したもので、実線が脚軸を表わしている。尚、ローラ機構Aの係止手段に関する構成および効果は、図1、図2および図5に示す実施形態と同様である。また、ローラ機構Aの係止手段として図6〜図12に示す種々の構成を採用することができ、さらにニードルローラ36の端面形状として図13に示す種々の形状を採用することができる。
【0050】
図14および図15は、参考例を示している。尚、図15は、継手の作動角が0°で、かつ、継手に回転トルクが負荷されていない時の状態を示している。
【0051】
この参考例のトリポード型等速自在継手は、連結すべき二軸の一方に結合される外側継手部材1と、他方に結合されるトリポード部材2とを備えている。
【0052】
外側継手部材1は概ねカップ状の外観をなし、軸方向に延びる3本のトラック溝1aが内周部の円周等配位置に形成されている。各トラック溝1aの両側には、それぞれローラ案内面1a1が設けられている。
【0053】
トリポード部材2は半径方向に突出した3本の脚軸2aを円周等配位置に有する。各脚軸2aの外周面2a1は凸球状に形成され、その外周面2a1に、支持リング3、複数のニードルローラ4、およびローラ5をアッセンブリしたローラ機構A’が装着されている。
【0054】
図14(B)に拡大して示すように、ローラ機構A’は、支持リング3の円筒状の外周面3aとローラ5の円筒状の内周面5aとの間に複数のニードルローラ4を転動自在に介装し、ローラ5の内周面5aに嵌着した一対の係止リング6によって、支持リング3およびニードルローラ4の両端を係止して、ローラ5に対する支持リング3およびニードルローラ4の軸方向移動(それらの軸線方向への移動)を規制したものである。尚、ローラ機構A’の係止手段に関する構成および効果は、図1、図2および図5に示す実施形態と同様である。また、ローラ機構A’の係止手段として図6〜図12に示す種々の構成を採用することができ、さらにニードルローラ4の端面形状として図13に示す種々の形状を採用することができる。
【0055】
支持リング3の内周面3bは、脚軸2aの球状の外周面2a1に嵌合される。この参考例において、支持リング3の内周面3bは脚軸2aの先端側に向かって漸次縮径した円錐状で、脚軸2aの外周面2a1と線接触する。これにより、ローラ機構A’の脚軸2aに対する首振り揺動が許容される。支持リング3の内周面3bの傾斜角αは、例えば0.1°〜3°、好ましくは0.1°〜1°と僅かなものであり、この参考例ではα=0.5°に設定している。図面では、内周面3bの傾斜の度合をかなり誇張して示している。
【0056】
ローラ5の外周面5bの母線は、脚軸2aの中心から外側にオフセットされた点を中心とする円弧である。
【0057】
この参考例において、外側継手部材1のローラ案内面1a1の断面形状は、2円弧状(ゴシックアーチ状)になっている。そのため、ローラ案内面1a1とローラ5の外周面5bとは2点p、qでアンギュラコンタクトする。アンギュラコンタクト点p、qは、ローラ5の外周面5bの中心を含み、脚軸2aの軸線Zと直交する中心線に対して、軸線Z方向に等距離だけ反対側に離れた位置にある。尚、ローラ案内面1a1の断面形状は、V字状または放物線状等でも良い。また、この参考例において、トラック溝1aに、ローラ案内面1a1と近接して肩面1a2が設けられ、この肩面1a2によってローラ5の脚軸先端側の端面5cが案内される。
【0058】
支持リング3の内周面3bが脚軸先端側に向かって漸次縮径した円錐状になっているため、この継手に回転トルクが負荷されると、図15に示すように(内周面3bの傾斜の度合いを図14よりもさらに誇張して示している。)、支持リング3の内周面3bと脚軸2aの外周面2a1との接触位置Sに脚軸先端側に向いた負荷分力Fが発生する。この負荷分力Fは、支持リング3およびニードルローラ4を脚軸先端側に押し上げるように作用して、支持リング3およびニードルローラ4を、脚軸先端側の係止リング6に押し付けた状態にする。そのため、支持リング3の内周面3bと脚軸2aの外周面2a1との接触位置Sが安定する。また、この負荷分力Fは、支持リング3およびニードルローラ4を介して、ローラ5を脚軸先端側に押し上げるように作用して、ローラ案内面1a1に対するローラ5の姿勢を安定させる。このような接触位置Sの安定化とローラ5の姿勢安定化とが相俟って、誘起スラストが効果的に低減され、また安定化される。尚、支持リング3の内周面3bは円筒状にしても良い。
【0059】
【実施例】
係止リングの幅Wを所定範囲内に設定したことによる効果、表面硬さを所定範囲内に規定したことによる効果を確認するため、以下の試験を行った。
【0060】
[幅Wの設定に関する試験]
図1、図2及び図5に示す構成において、係止リングの幅Wを0.5mm未満、0.8mm、1.0mm、1.2mm超に設定して、下記の試験条件で試験を行い、軸方向荷重に対する疲労強度、ローラに対する組付け性、成形加工性について評価した。その結果を表1に示す。評価項目の○は目標特性を満足できたもの、△は目標特性を満足できなかったものを示している。
【0061】
(試験条件)
トルク:686Nm、回転数:250rpm、作動角θ:10deg
試験時間:300h
係止リングの表面硬さ:HRC50
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示す試験結果より、係止リングの厚さWを0.5mm≦W≦1.2mmの範囲内に設定することにより、軸方向荷重に対する疲労強度、ローラに対する組付け性、成形加工性ともに、良好な結果が得られることが確認できた。
【0064】
[表面硬さの規定に関する試験]
図1、図2及び図5に示す構成において、係止リングの表面硬さをHRC43未満、HRC47、HRC50、HRC53超として、下記の試験条件で試験を行い、軸方向荷重に対する疲労強度、接触面の疲労寿命について評価した。その結果を表2に示す。評価項目の○は目標特性を満足できたもの、△は目標特性を満足できなかったものを示している。
【0065】
(試験条件)
トルク:686Nm、回転数:250rpm、作動角θ:10deg
試験時間:300h
係止リングの厚さW:0.8mm
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示す試験結果より、係止リングのHRC43〜HRC53の範囲内に規定することにより、軸方向荷重に対する疲労強度、接触面の疲労寿命ともに、良好な結果が得られることが確認できた。
【0068】
【発明の効果】
本発明によれば、係止手段、特にローラ又は支持リングに装着される係止リングの軸方向荷重に対する疲労強度や接触面の疲労寿命が向上するので、現状のサイズを維持したままより耐久性や強度に優れたトリポード型等速自在継手を提供し、また、現状品と同等以上の耐久性や強度を確保しつつよりコンパクトなトリポード型等速自在継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態を示し、図1(A)は一部を断面にした端面図、図1(B)は図1(A)における脚軸に垂直な断面図、図1(C)は接触楕円を説明するための支持リングの断面図である。
【図2】 図2(A)は図1の等速自在継手の縦断面図であって作動角をとった状態を示し、図2(B)は図2(A)におけるトリポード部材の模式的側面図である。
【図3】 本発明の他の実施形態を示し、図3(A)は一部を断面にした端面図、図3(B)は図3(A)における脚軸に垂直な断面図、図3(C)は作動角をとった状態を示す縦断面図である。
【図4】 図3における支持リングの拡大断面図である。
【図5】 図1および図2におけるローラ機構の部分拡大断面図である。
【図6】 他の実施形態のローラ機構の部分拡大断面図である。
【図7】 図7(A)は他の実施形態のローラ機構の部分拡大断面図、図7(B)は図7(A)におけるX部の拡大図である。
【図8】 図8(A)は他の実施形態のローラ機構の部分拡大断面図、図8(B)は図8(A)におけるY部の拡大図である。
【図9】 係止リングを示す部分断面図である。
【図10】 他の実施形態のローラ機構の部分拡大断面図である。
【図11】 他の実施形態のローラ機構の部分拡大断面図である。
【図12】 他の実施形態のローラ機構の部分拡大断面図である。
【図13】 ニードルローラの端面を示す部分側面図である。
【図14】 参考例を示し、図14(A)は一部を断面にした端面図、図14(B)は図14(A)の部分拡大断面図である。
【図15】 図14における支持リングと脚軸との接触位置に発生する負荷分力Fを説明するための図である。
Claims (12)
- 内周部に軸方向の3本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した3本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸にそれぞれ装着されたローラ機構とを備え、前記ローラ機構は、前記ローラ案内面に沿って外側継手部材の軸線と平行な方向に案内されるローラと、前記ローラを回転可能に支持する支持リングと、前記ローラと支持リングとがそれらの軸線方向に相対移動するのを両側からそれぞれ規制する係止手段とを含み、前記脚軸の軸線に対して傾動及び軸方向移動自在である等速自在継手において、
前記支持リングの内周面は円弧状凸断面であり、前記脚軸の外周面は縦断面においてはストレート形状で、横断面においては継手の軸線と直交する方向で前記支持リングの内周面と接触し、かつ、継手の軸線方向で前記支持リングの内周面との間にすきまを形成するようになっており、
少なくとも一方側の前記係止手段が前記ローラ又は支持リングに装着された係止リングを有し、前記係止リングの厚さWが0.5mm≦W≦1.2mmであり、かつ、前記係止リングの表面硬さがHRC43以上、HRC53以下であることを特徴とする等速自在継手。 - 前記係止リングの少なくとも表層部がマルテンサイトの基地中に球状炭化物を含む組織を有する請求項1記載の等速自在継手。
- 前記係止リングが炭素工具鋼で形成され、前記マルテンサイトの基地中の球状炭化物量が0.3〜0.6wt%である請求項2記載の等速自在継手。
- 前記係止リングがばね鋼で形成されている請求項1記載の等速自在継手。
- 前記係止リングが硬鋼線材で形成されている請求項1記載の等速自在継手。
- 前記係止リングが前記ローラ又は支持リングにガタ付きなく装着されている請求項1〜5の何れかに記載の等速自在継手。
- 他方側の前記係止手段が前記ローラ又は支持リングに一体に設けられた係止鍔である請求項1〜6の何れかに記載の等速自在継手。
- 前記係止手段の少なくとも接触面に微小な凹部が無数にランダムに形成されている請求項1〜7の何れかに記載の等速自在継手。
- 前記係止手段の少なくとも接触面に化成処理被膜を下地層とする固体潤滑被膜が形成されている請求項1〜8の何れかに記載の等速自在継手。
- 前記係止手段の少なくとも接触面に常温浸硫処理が施されている請求項1〜7の何れかに記載の等速自在継手。
- 前記係止手段の少なくとも接触面にショットピーニング処理が施されている請求項1〜7の何れかに記載の等速自在継手。
- 前記脚軸の横断面が、継手の軸線と直交する長軸をもった略楕円形である請求項1記載の等速自在継手。
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